説明

流量を推定するためのPAP装置でのモータ速度の使用

【課題】PAP治療中に、PAP装置を通じた空気流量を決定するための方法及び装置を提供する。
【解決手段】ブロワ6の実際の速度が測定される。所望の速度に近づくため或いは所望の速度を維持するために実際の速度において必要とされる所望のモータ電流I_DESが実際のモータ速度RPM_ACTとともに流量推定アルゴリズムで使用されて、PAP装置を通じた流量が決定される。流量推定アルゴリズムは2次元ルックアップテーブルから成り、この場合、入力は所望のモータ電流及び実際のモータ速度であり、出力はPAP装置を通じた流量とする構成とする。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[関連出願]
[0001]この出願は、2004年11月4日に提出された米国仮特許出願第60/624,951号及び2004年11月8日に提出された米国仮特許出願第60/625,878号の優先権を主張する。
【発明の分野】
【0002】
[0002]本発明は、センサの使用を伴わない陽性気道圧(PAP)装置内の流量の推定に関する。
【発明の背景】
【0003】
[0003]陽性気道圧(PAP)装置は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)などの睡眠関連の呼吸障害の治療で使用される。典型的な装置は、フェースマスクに接続された空気供給ホースによって加圧空気を患者に対して供給するフロー発生器から成る。その最も簡単なレベルにおいて、フロー発生器は、臨床医によって設定される所定の圧力(最大30cmHO)を患者に対して供給できるブロワから成る。
【0004】
[0004]高性能PAP装置は、患者に対して供給される空気流量を監視でき且つ治療圧力の有効性の指標を得ることができるため、OSAの治療において更に有効であるという。この情報を使用すると、治療の質を高めて、検討のために臨床医に治療の質の報告を返すことができる。自動滴定装置(APAP)では、効果的な治療のため、供給される圧力を最小所要圧力に連続的に調整することができる。
【0005】
[0005]PAP装置における流量を測定するために使用される従来の技術は、空気経路中に流量センサを挿入することを伴う。センサは、ベンチュリ型のものであってもよい。ベンチュリ型センサは、空気経路の部分間の圧力降下、通常は幾つかの既知の空気圧抵抗両端の圧力降下を測定する。別の検出技術は、サーマルマスフローセンサである。このサーマルマスフローセンサによれば、加熱要素を空気が通り過ぎ、温度を加熱要素の下流側で測定することができるようにする。これらの技術は、正確ではあるが、検出ハードウェアに起因してPAP装置に余計なコストを付加する。
【0006】
[0006]従来の流量センサを用いた動作が可能な呼吸障害を治療するための装置に関しては、幾つかの特許が許可されてきた。1つの例は、“Apparatus for providinga breathinggas withan overpressureand processof controllingsuch apparatusinstallation”と題されたChampainらに対して付与された米国特許第5,443,061号である。Champainは、タービンとマスクとの間の空気流量変動を検出するために圧電圧力センサを使用する。センサの出力はタービンコントローラに供給され、タービンコントローラはそれに応じてタービンを調整する。
【0007】
[0007]関連する従来特許の他の例としては米国特許第5,740,795号及び第6,237,593号が挙げられる。これらの特許はいずれも、Brydonに対して付与され、本発明と同じ譲受人を有しているとともに、“Estimation of flowand detectionof breathingin CPAPtreatment”(まとめて“Brydon”)を教示している。Brydonは、実際のモータ速度を測定し且つエラー信号を生成してモータ又は他の調整装置の駆動を増大又は減少させることにより一定のモータ速度を維持するフィードバックループによって、ブロワモータの速度が制御されることについて記載している(‘795特許、第2欄、55〜65行)。速度制御を行うための構造は、モータ速度を制御するための制御信号を発するモータコントローラを含んでいる。速度フィードバック信号は、速度調整の基本となる信号を供給するモータコントローラへ入力される。
【0008】
[0008]また、Brydonは、モータ速度測定値及びモータ出力測定値から信号を得ることができ、これらの信号が実際の容積流量に対する非線形関係を生み出すことができると述べている。これらの信号は、患者呼吸の容積測定指標(流量)を与えるため、経験的に決定されたタービンシステムの圧力/流量/速度特性を使用して線形化されてもよい(‘795特許、第3欄、5〜15行)。出力測定値に関して、Brydonは、電流のみが一般にモータ出力の十分な指標であると述べている。電流を測定するため、Brydonは、電流検出抵抗器及び抵抗器両端間の電圧降下の測定を教示している。電圧は検出されて差動増幅器に対して供給され、差動増幅器の出力はモータ電流(及びモータ出力)を表わす信号である。その後、信号は、高周波電気ノイズを除去するローパスフィルタ回路に対して供給され、これにより平均成分又は定常状態成分が供給される。その後、信号は、非呼吸成分を除去するために高域フィルタによって拡張された後、その機能がタービン、チューブ、マスクシステムの経験的に決定された圧力/流量/速度特性から得られる一次元線形化要素に対して印加される。線形化要素の出力は線形化された流量信号である。
【0009】
[0009]Brydon手法に伴う問題は、モータ電流が非常にノイズをもっているということである。図1において、上側のトレース2はマスク圧であり、一方、下側のトレース4はモータ電流である。大きな圧力ステップにおいて、電流トレースは、一般に使用されるモータドライブMOSFETを通じて流れるスイッチング電流の和により十分なノイズを示している。小さな圧力の流量摂動においては信号ノイズが更に大きくなることは言うまでもない。
【0010】
[0010]自動滴定(APAP)装置及び高性能定圧(CPAP)PAP装置から読み取られる流量情報はハードウェア流量センサによって与えられる精度を必ずしも必要としない。したがって、流量推定によって、流量データを供給する低コストな他の方法が可能である。この方法は、コスト要件がセンサの使用を妨げる場合に使用できる。
【発明の目的及び概要】
【0011】
[0011]本発明の目的は、従来の流量測定センサの代わりにPAP装置で使用できる改良されたアルゴリズム型流量推定器を開発することである。アルゴリズム型流量推定器は、物理センサ及び関連するエレクトロニクスと比べてコストが低いという利点を有している。アルゴリズム型流量推定器は、一般に高い挿入損失を有する物理センサとは異なり、空気供給回路に対して圧力損失をもたらさない。
【0012】
[0012]上記目的を満たすため、PAP治療中に、PAP装置を通じた空気流量を決定するための方法及び装置が開示される。方法は、ブロワモータの実際のモータ速度に基づく速度次元を有するパラメータを生成するステップと、上記ブロワモータの動作特性に基づく電流次元を有するパラメータを生成するステップと、速度次元パラメータ及び電流次元パラメータを流量推定アルゴリズムにおいて使用してPAP装置を通じた流量を決定するステップとを備えている。本発明の好ましい実施形態は、ブロワモータの実際のモータ速度を測定するステップと、所望のモータ速度を得るために所望のモータ電流を決定するステップと、ブロワモータの実際のモータ速度及び所望のモータ電流を多項式流量推定アルゴリズムにおいて使用してPAP装置を通じた流量を決定するステップとを備えている。
本発明の好ましい実施形態における推定アルゴリズムは、入力が所望の電流及び実際のモータ速度であり且つ出力がPAP装置を通じた流量である2次元ルックアップテーブルを使用する。第2の関連する実施形態において、テーブルルックアップ演算における電流入力は、実際のモータ電流−加速又は減速に起因する成分であり、この場合の電流はモータ速度を維持するために「望ましい」電流である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
[0013]前記目的を更に満たすため、本発明の範囲を限定しようとするものではない添付図面を参照して本発明の典型的な実施形態の詳細な説明を行う。
【図1】モータ巻線電流が実際にどの程度のノイズであるかを示す実モータ電流と圧力との間の関係のトレースである。
【図2】本発明に係るPAP装置の概略図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るアルゴリズムプロセスを示している。
【図4】図2の装置により実行される代替の好ましいアルゴリズムプロセスを示している。
【図5】本発明の好ましい実施形態においてハードウェア及びファームウェアによりそれぞれ実行される機能を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[0019]図2には、流量を計算するためのシステムが開示されている。ブロワ6はファン8を有している。ファン8は、吸気口10から空気を取り込んでトルクを加えることにより空気をボリュート12内で加圧するとともに、排気口14を通じて空気を供給する。典型的な動作中、ファン8は約20000RPMで回転する。供給される圧力は4〜20cmHOの範囲をとることができ、容積流量は0〜150L/分である。図示のブロワ6は、動作範囲がこれらのパラメータを包含する限り、軸流ファンなどの他のブロワ/渦巻き構造と置き換えられてもよい。
【0015】
[0020]典型的なモータ16がファン8に動力を与える。この場合、モータは24V巻回ブラシレスDCモータである。他の電動機も同様の有用な態様で応答する。
【0016】
[0021]システムブロワ6は、ファンボリュート12内で空気に圧力ヘッドを与えることができる。モータ16により供給されるトルクによって、空気がブロワ6を通過するときに空気により仕事がなされる。理論的には、形成されるトルクは、空気の密度、容積流量、ファンのインペラの内径及び外径、空気がブロワ6内に入って出るときの空気流速の接線方向成分に関与している。この関係は以下によって与えられる。
τ=ρQ(r−r
ここで、τ=トルク
ρ=密度
Q=容積流量
r=半径
V=接線方向流速
τ=KI
ここで、τ=トルク
K=モータ定数
I=巻線電流
【0017】
[0022]モータ16によって生み出される全トルクは、主に、3つの領域、すなわち、摩擦及び粘りの影響に対して速度を維持する領域、速度を変化させる領域、ブロワ6を介して圧力ヘッド及び流量を与える領域で使用される。速度とは、モータロータとブロワとのアセンブリの回転速度を意味する。モータ16によって生み出されるトルクは、理想的には、モータ定数Kなどに比例するモータ巻線を通じて流れる電流Iに関与し得る。
【0018】
[0023]これらの関係から、ファン8の速度が知られている場合には、モータ巻線の電流Iをブロワ6を通じた容積流量Qに関連付けることができる。
【0019】
[0024]モータ16、ファン8、及び、ブロワ6と空気供給チューブとマスク(図示せず)とから成る空気圧装置は、モータ16によって必要とされるエネルギが供給される空気の質量に比例する(この場合、空気は、関連する圧力で圧縮できないと見なされる)一次システムとして数学的にモデリングできる。一次方程式から導かれる伝達関数はG=1/(as+k)である。ここで、エネルギ損失成分は、ファンチャンバ内での空気再循環及び漏れやCOフラッシュによる空気損失を含むシステムの電子損失及び空気圧損失に起因する。減衰成分(空気に与えられるエネルギを更に減少させる)は、圧縮、温度増加、空気の圧送にかかわるエネルギ供給機構に起因している。
【0020】
[0025]これらの関係から排除されるアーチファクトとしては、例えば、モータ中の銅損、容積内で生み出される乱気流、インペラ先端での圧縮に起因するフロー分離、空気の圧縮性、空気とブロワとの間の摩擦、高度又は温度の変化に起因する空気密度の変化、動作温度に起因するモータパラメータKの変動、ベアリンググリース変化に起因するモータ摩擦などが挙げられる。アーチファクトは、殆どのシステムで無視することができるが、流量データの精度を低下させる場合があるため、システム性能の悪化に鑑みて考慮されるべきである。最も重大なアーチファクトは空気密度の変化である。しかしながら、これは、電流を容積流量の代わりに質量流量に関連付けることにより克服できる。これは、装置を異なる高さで動作させなければならない場合に考慮されるべきである。
【0021】
[0026]前記方程式は、Qを測定するための理想的な状況を表わしている。しかしながら、実際のモデルは、非常に複雑であり、正確にモデリングすることが難しい。この問題を克服するため、システムは、システムの実際の力学の物理的な理解に基づいて後述するように経験的にモデリングされる。
【0022】
[0027]本発明の流量推定アルゴリズムは、少なくとも2つの入力を必要とする多項式計算である。2つの入力パラメータはモータの運転パラメータである。本発明の流量推定アルゴリズムへの第1の入力パラメータはモータ速度に関与している。入力パラメータは実際のモータ速度(以下、実モータ速度)RPM_ACTであることが好ましい。この実モータ速度RPM_ACTは、好ましくはマイクロコントローラと通信する通常のホール効果速度センサのうちの1つを使用することにより決定される。流量推定アルゴリズムへの第2の入力パラメータは、モータ速度を維持するために必要とされるモータ電流に関与している。この第2の入力パラメータは、所期モータ電流I_DESと称される。モータ速度の制御に応じてI_DESを決定できる多くの異なる方法がある。
【0023】
[0028]図2を参照すると、実際のモータ電流(以下、実モータ電流)I_ACTは、モータエレクトロニクス内の増幅器及びフィルタネットワーク32を使用して測定される。モータ電流は低インダクタンス抵抗器34を通じて地面へと流れる。この抵抗器の両端間に形成される電圧は、モータ巻線を流れる電流にほぼ比例している。実モータ電流I_ACTは、アナログ−デジタル変換器を使用してマイクロコントローラ18により読み取られる。実モータ電流I_ACTを測定するこの方法は流量推定アルゴリズムの演算に固有のものではなく、ホール効果検出を使用するなどの他の方法も本発明の範囲内に包含される。
【0024】
[0029]本発明の第1の実施形態(図3参照)では、実モータ速度RPM_ACTが測定されて微分され、それにより、ロータ加速度ACLの概算が与えられる。この加速度ACLには定数値Cが乗じられる。定数値Cは、ファンアセンブリの慣性Jをモータ定数Kで割った値に等しい(C=J/K)ことが好ましい。Cの実際の値は、モータ構造中の未知のアーチファクト及び計算ミスの影響を最小限に抑えるための較正処理により実験的に得られる。結果は、モータの加速又は減速のために必要な全電流の成分の概算値I_ACL(ACLX C=I_ACL)である。
【0025】
[0030]この実施形態において、所期モータ電流I_DESは、測定された実モータ電流I_ACTからI_ACLを差し引くことにより決定される。所期モータ電流I_DESは、モータ速度を維持し且つ空気流を形成するために使用される電流と等しい。空気流は、較正プロセス中に実験的に得られる既知の動作パラメータを使用して計算される。モータの運転パラメータ及びファン特性は、モータ速度(RPM_ACT)及び所期電流(I_DES)の既知の動作パラメータに基づいて多項式係数に圧縮される。したがって、RPM_ACT及びI_DESは、概算空気流量Qを決定するために多項式計算により与えられる。
【0026】
[0031]好ましい実施形態において、多項式は補間2次元ルックアップテーブルを使用して計算される。この場合、テーブルへの入力は、RPM_ACT及びI_DESであり、出力は、較正中にその動作点に存在する空気流量Qである。RPM_ACT及びI_DESを空気流量Qに関連付ける他の構造及び方法がルックアップテーブルの代わりに使用されてもよい。
【0027】
[0032]本発明の第2の好ましい実施形態では、モータ16の速度を維持するための制御構造が存在する(図2及び図4参照)。異なる圧力において異なる速度が必要とされるため、速度を変えることができることは言うまでもない。しかしながら、与えられた所定の速度(又は速度設定点)において、図4及び図5の制御構造は、速度がほぼ一定となるように負荷及び外乱トルクからの摂動をフィルタによって除去する。したがって、意図的ではないロータ加速が最小となり、それにより、加速がほぼゼロに等しくなる。その結果、流量推定計算で考慮される必要がある加速に起因する付加的な電流I_ACLがなくなる。そのため、実電流I_ACTが所期モータ電流I_DESにほぼ等しいと見なされてもよい。
【0028】
[0033]本発明の最も好ましい実施形態において、モータ速度は、図4に示されるモータ制御構造及び所期モータ電流I_DESを使用してほぼ一定に維持される。入力パラメータは、モータを一定の速度に維持するために必要な決定されたモータ電流である。この場合、サーボコントローラは、実モータ電流I_ACTをほぼ所期モータ電流I_DESに維持する。この実施形態は、ノイズのある測定された実モータ電流値I_ACTではなく、モータ電流すなわち所期モータ電流I_DESを制御するクリーンなサーボ入力を使用することにより更なる利点を有利に与える。
【0029】
[0034]制御構造(図4及び図5)は、フィードバックループに2つのセクション18,20を含むクローズドループの2段階速度コントローラである。セクション1は、流量推定アルゴリズムを含むHitachiSH1マイクロコントローラのファームウェアに存在している。所期モータ速度RPM_DESは、PAP装置を起源とする処理アルゴリズムによって特定される。速度エラーRPM_ERRは、所期速度RPM_DESから実モータ速度RPM_ACT(マイクロコントローラと通信する通常のホール効果速度センサのうちの1つを使用して前述したように決定される)を差し引くことにより計算される。所期設定点は、蓄えられた所望の処理圧力を所期モータ速度RPM_DESへ変換する内部ルックアップテーブルによってもたらされる〔ルックアップテーブルは海水位では有効であるが更に高い高度ではエラー(所要モータ速度を過小評価する)である〕。
【0030】
[0035]調整された(tuned)PID制御システム22に対して供給されるエラー信号RPM_ERRを与えるために、実モータ速度RPM_ACTが所期速度RPM_DES(必要とされる瞬間圧力により定められる)から差し引かれ、その出力は所期モータ電流I_DESに相当する値である。積分フォワード項はゼロ静誤差を確保し、一方、微分フィードバック項は、過度な複雑度を伴うことなく最適な減衰及び安定性を許容する。使用される具体的なPID実装は、技術的に知られるようにフォワード経路での積分後に比例項を投入することにより微分項の実際の計算を回避する擬似微分フィードバックシステムである。積分フォワード経路を有する常微分フィードバックシステムにおいて、微分情報を含むエラー項を生成するために設定点との微分項の相違が計算される。その後、エラー項が積分されて、比例フォワード項が生成され、それにより、あたかもノイズ傾向の微分が計算されたかのように同じエネルギ伝達関数が与えられる[RichardM. Phelanによる“Automatic Control Systems”(コーネル大学プレス)参照]。
【0031】
[0036]積分フォワード項を使用するシステムにおいて、大きな信号の一時的な回復及び安定性は、例えば起動中などの非線形動作中に積分器を制限することにより得られる。積分された出力を制限することにより、最終的な制御出力がその線形範囲内に入る。
【0032】
[0037]所期信号I_DESは、一定の速度を維持するためにトルクの変化がモータによって必要とされるときに変化する。所期信号I_DESは、モータ出力に比例する信号を与え、安定した線形の伝達関数マッピングを有するとともに、電源23(図2)の容量の最適な使用を可能にする。最終的な制御変数としてのモータ電圧のより伝統的な使用(又は、実モータ電流の使用)は、極めて不安定な非線形伝達関数(システムの伝達関数と比べて)を有しており、モータによって供給されるエネルギと患者に供給される空気質量との間の適切な調整のための更なる電流制限保護を必要とする。
【0033】
[0038]セクション2は、マイクロコントローラ18とのフィードバック構成でモータドライブMOSFET26を有するMC33033ブラシレスDCモータ制御IC24の形態でハードウェアにおいて実装される(図4)。ハードウェア20の一部としての制御システムの内側ループ28は、外側ループ30とフィードバック関係を成しており、外側ループ30(セクション1及びブロワを含む)から所期モータ電流値I_DESを受け入れる。モータ16への電力は、パワーMOSFET26を駆動させるパルス幅変調された信号I_PWMにより制御される。
【0034】
[0039]より具体的には、ソフトウェア制御ループによってもたらされる信号は、マイクロコントローラ18からPWM制御回路24へと拡張される。制御回路への入力I_DESがローパスフィルタ処理されてスケールダウンされることにより、正しいモータ速度を与える電流のための設定点すなわちI_SETが与えられ、モータ電流を制御するようにする。このモータ速度は、モータ制御ハードウェア20により処理される。モータ制御ハードウェアはトランスコンダクタンス増幅器として構成される。それにより、マイクロコントローラからの信号を電流設定点I_SETとして処理してモータ駆動電流へ変換することができる。
【0035】
[0040]I_SET信号は、増幅器32(図5)のプラス入力に対して供給されるとともに、基準入力として使用される。実モータ電流I_ACTは、低インダクタンス抵抗器34に沿う電圧降下によって検出される。低インダクタンス抵抗器34には、更に低いインダクタンスのMOSFET26が直列に接続されている。この検出されたモータ電流I_ACTは、フィードバック信号として増幅器32のマイナス入力に対して供給される。増幅器32は、コンパレータとして機能することにより内側ループを維持し、実電流I_ACTが電流設定点I_SETに達するときに各PWMサイクルでモータ駆動を中断するようにする。したがって、コントローラは、各PWMサイクルにおいてピークモータ駆動電流を制御する。
【0036】
[0041]全体で、モータを駆動するMOSFETは6個存在する(すなわち、MOSFET Hブリッジ)。MOSFETのうちの3つは各相の整流された上側区間のためのものであり、3つは各相の下側区間のためのものである。
【0037】
[0042]この好ましい実施形態において、流量推定は2次元ルックアップテーブルに基づいている。この場合、入力は所期電流I_DES及び実速度RPM_ACTであり、出力は流量Qである。2次元テーブルの値は、モータ速度RPM_ACT及び所期モータ電流I_DESの既知の動作パラメータに基づいて多項式係数へ圧縮されるモータ特性及びファン特性を表わしている。したがって、補間プロセスは、空気流量Qを決定するための正確な多項方程式によりI_DES及びRPMを供給することに相当する。
【0038】
[0043]速度RPM_ACT及び所期電流I_DESから計算される流量Qの値は、較正中にその動作点に存在した値である。この場合、実験的に得られた値がアーチファクトに起因するエラーを最小にした。ここで、所期速度I_DESは、実際の巻線電流I_ACTを表わしているが、実際の電流のように信号ノイズの影響を受けない。したがって、実際の巻線電流I_ACTのあまり正確ではない値を用いて流量を測定する必要がない。フィードバック構成によれば、前述した所期電流を代わりに使用できる。
【0039】
[0044]使用時、患者はPAP装置によってサポートされて夜間に呼吸し、ブロワアセンブリ6を通じた空気流量変動が、ファン8によって必要とされるトルクを変化させる。トルクのこの変化により、電源23からモータ16へ供給される電流が変化する。この場合、モータ電流は図4及び図5の制御システムによって維持される。その後、制御システムを監視することにより所期モータ電流(I_DES)の値を決定することができ、また、ロータ速度を維持するために制御システムによってモータ電流が調整される。モータ速度は、モータ速度(RPM_ACT)が元のマイクロコントローラ18へ報告され得るようにモータとモータコントローラ20との間を通信するホール効果センサ(モータステータに組み込まれる)を使用して測定される。
【0040】
[0045]アルゴリズムプロセスは、モータ制御ハードウェア28及びマイクロコントローラ18を使用してモータ速度(RPM_ACT)を許容できる一定の値に保ち、それにより、意図的でないロータ加速値が最小になる。実モータ電流I_ACTは、モータ速度を摩擦に対して維持し且つ空気流量を生み出すために使用される所期電流I_DESに相当する(前述した実電流における非線形効果を除く)。最終的に、所期電流I_DESの値及びブロワの実際の速度RPM_ACTは、その瞬間の流量を与える流量推定アルゴリズムに対して供給される。
【0041】
[0046]RPM_ACT及びI_DESを空気流量Qに対して関連付ける他の構造及び方法も、同様に有効である。これらの構造及び方法は、流量推定器の動作を全体的に損なうことなくルックアップテーブル方法の代わりに容易に実施できる。また、流量推定アルゴリズムは、モータ制御及び処理アルゴリズムと同じマイクロコントローラ(HitachiSH1)で実行される。しかしながら、流量を推定するために任意の論理装置を恐らく使用でき、また、それは他の制御装置と別個の装置であってもよい。流量推定によって使用される装置に課される要件は、アルゴリズムによって必要とされるメモリ及び処理速度である。したがって、流量推定に影響を与えることなく異なるマイクロコントローラ又は論理装置を使用できる。また、コントローラに内在する流量Qに比例する他の値、例えばPIDの積分項が、流量Qを決定するためにI_DESの代わりに用いられてもよい。
【0042】
[0047]制御システムの構造は任意であり、また、要件は、所期モータ電流が制御構造のソフトウェア部分に存在して流量推定アルゴリズムに利用できることである。巻線電流を調整する制御構造は、モータ電流の仮定を有効にすることができるように十分に小さいエラー許容範囲にモータ電流を調整できる。また、制御システムは全体として、速度性能の仮定を許容できるようにする十分小さいエラー許容範囲にモータ速度を維持するように十分うまく機能するとともに、流量推定性能を許容できないレベルを超えて低下させない。
【0043】
[0048]以上、PAP治療中に、PAP装置を通じた空気流量を決定するための方法及び装置を開示してきた。方法は、ブロワモータの実際の速度を決定してそれを所望の速度と比較するステップと、モータ速度が所望の速度に近づくように所望のモータ電流を決定するステップと、実際のブロワモータ速度及び所望のモータ電流を流量推定アルゴリズムにおいて使用してPAP装置を通じた流量を決定するステップとを備えている。推定アルゴリズムは、入力が所望の電流及び実際のモータ速度であり且つ出力がPAP装置を通じた流量である2次元ルックアップテーブルを使用する。
【0044】
[0049]本発明は、その思想及び本質的特徴から逸脱することなく他の特定の形態で具現化されてもよい。前述した実施形態はあらゆる点で単なる例示であり限定的ではないと見なされるべきである。したがって、本発明の範囲は、前述した説明によってではなく、添付の請求項及び請求項の全体的又は部分的な組み合わせによって示される。請求項の等価物の意味及び範囲内に入る全ての変更は本発明の範囲内に包含されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PAP治療中に、PAP装置を通じた空気流量を決定するための装置が実行する方法であって、
ブロワモータの実際のモータ速度を測定するステップと、
モータ速度が所望の速度に近づくように所望のモータ電流を決定するステップと、
前記実際のモータ速度及び前記所望のモータ電流を流量推定アルゴリズムにおいて使用して、前記PAP装置を通じた流量を決定するステップと、
を備える方法。
【請求項2】
入力が前記所望の電流及び実際のモータ速度であり且つ出力が前記PAP装置を通じた前記空気流量である2次元ルックアップテーブルを前記流量推定アルゴリズムが使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
実際のモータ電流が測定され、前記モータ速度を制御するために前記実際のモータ電流が前記所望の電流とともにサーボループで使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
2セクションコントローラにより実行され、
第1のセクションが、前記所望のモータ電流を得るために前記実際のモータ速度及び所望のモータ速度に基づいて作用するフィードバックループを含み、
第2のセクションが、実際のモータ電流が前記所望のモータ電流に近づくように前記所望のモータ電流及び前記実際のモータ電流に基づいて作用するフィードバックループを含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1のセクションが、調整されたPIDを備えており、
前記PIDへの入力が、前記実際のモータ速度と前記所望のモータ速度との間の差によって規定される速度エラー信号であり、
前記PIDの出力が前記所望のモータ電流を示す信号である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
PAP治療中に、PAP装置を通じた空気流量を決定するための装置であって、
ブロワモータの実際のモータ速度を測定し、
モータ速度が所望の速度に近づくように所望のモータ電流を決定し、
前記実際のモータ速度及び前記所望のモータ電流を流量推定アルゴリズムにおいて使用して前記PAP装置を通じた流量を決定する、装置。
【請求項7】
入力が前記所望の電流及び実際のモータ速度であり且つ出力が前記PAP装置を通じた前記空気流量である2次元ルックアップテーブルを前記流量推定アルゴリズムが使用する、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
実際のモータ電流が測定され、前記モータ速度を制御するために前記実際のモータ電流が前記所望の電流とともに使用される、請求項6に記載の装置。
【請求項9】
2セクションコントローラにより実行され、
第1のセクションが、前記所望のモータ電流を得るために前記実際のモータ速度及び所望のモータ速度に基づいて作用するフィードバックループを含み、
第2のセクションが、実際のモータ電流が前記所望のモータ電流に近づくように前記所望のモータ電流及び前記実際のモータ電流に基づいて作用するフィードバックループを含んでいる、請求項6に記載の装置。
【請求項10】
前記第1のセクションが、調整されたPIDを備えており、
前記PIDへの入力が、前記実際のモータ速度と前記所望のモータ速度との間の差によって規定される速度エラー信号であり、
前記PIDの出力が前記所望のモータ電流を示す信号である、請求項9に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−86024(P2012−86024A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−237761(P2011−237761)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【分割の表示】特願2007−538221(P2007−538221)の分割
【原出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(500046450)レスメド・リミテッド (192)
【氏名又は名称原語表記】RESMED LTD
【Fターム(参考)】