説明

流量センサおよび内燃機関のパティキュレートフィルタ診断装置

【課題】排気による汚損に耐性を有する排気流量センサ41,42を用いて、パティキュレートフィルタ14の異常を診断する。
【解決手段】内燃機関の排気系に設けられたパティキュレートフィルタの上流側および下流側に、排気流量センサ41,42が設けられ、両者が検出する排気流量の比較から、パティキュレートフィルタ14の破損や溶損などの異常を判定する。排気流量センサ41,42は、排気通路13を横切る梁状の感知部材52と、この感知部材52の歪みを検出する半導体型歪みセンサ53と、からなる。感知部材52は、細い平帯状の板バネなどからなり、排気流によって弓状に湾曲するように微小変形し、歪みセンサ53によって排気流量に応じた出力が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、歪みセンサを利用した新規な方式の流量センサに関し、さらには、この流量センサを用いた内燃機関のパティキュレートフィルタ診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体の流量を検出する流量センサとしては、種々の形式のものが知られており、その一つとして、テーパ状の垂直方向流路内にフロートを収容し、下方から上方へ向かう流れと釣り合ったフロートの位置から流量を求める面積式流量センサが知られている(特許文献1)。
【0003】
また自動車用内燃機関の吸気流量を検出するいわゆるエアフロメータとしては、流路中の熱線からの放熱量に基づいて流量を求める熱線式流量センサが広く実用されている。
【0004】
一方、ディーゼルエンジン等の内燃機関においては、排気浄化装置の一部として、排気中の微粒子を捕集するパティキュレートフィルタが知られており、このパティキュレートフィルタの破損や目詰まりといった異常を検出するために、種々の異常診断装置が提案されている。その多くは、特許文献2に開示されているように、パティキュレートフィルタの上下の圧力差を検出する方式のものである。
【0005】
なお、近年、従前の抵抗線式歪みゲージに代えて、半導体基板に複数の拡散抵抗からなるホイートストンブリッジ回路を形成するとともに、増幅回路を同じ基板上に形成した半導体型歪みセンサが本出願人らによって種々提案されている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−281431号公報
【特許文献2】特開2010−13959号公報
【特許文献3】特開2005−114443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の面積式流量センサは、実験室的な用途には向いているものの、例えば内燃機関のように常に振動が加わる環境では到底用いることができず、また、内燃機関の吸気通路や排気通路のように通路外形寸法が限られている中では、センサを設けることによる通路抵抗の増加が大きい。
【0008】
また熱線式流量センサにあっては、熱線の汚損による検出精度の低下の問題があり、例えば、内燃機関の排気流量の検出には適していない。
【0009】
従って、例えばパティキュレートフィルタの異常診断を、仮に、その前後の排気流量の変化から診断しようとしても、排気の熱的影響や排気による汚損などに対して耐性を有する流量センサが存在せず、実現するに至っていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る流量センサは、ばね性を有する材料から形成され、流路を横切るように配置された細長い感知部材と、この感知部材に取り付けられ、流体の流れに伴う該感知部材の歪みを検出する歪みセンサと、から構成される。
【0011】
一つの好ましい態様では、上記感知部材は、一端が流路壁部に支持され、他端が自由端として流路内に突出した片持ち梁状をなす。
【0012】
また他の一つの好ましい態様では、上記感知部材は、両端が流路壁部にそれぞれ支持された両持ち梁状をなす。
【0013】
すなわち、本発明の流量センサは、広義には面積式流量計に類するものであり、ばね性を有する細長い感知部材が流体の流れに晒されており、流体の流れに応じてこの感知部材が下流側へ力を受ける。感知部材は、端部が支持されているため、極微小量ではあるが撓み変形する。この撓み変形は、感知部材に取り付けられた歪みセンサによって検出される。なお、感知部材の両端を支持した両持ち梁状の構成では、感知部材は弓状に撓み変形する。近年の歪みセンサ、特に、半導体基板に拡散抵抗を形成した半導体型歪みセンサにあっては、極めて感度の高い歪み検出が可能であり、例えば大気のような比重の小さな流体であっても、その流れに伴う感知部材の極僅かな撓みを十分に検出することが可能である。
【0014】
上記感知部材としては、好ましい一つの例では、ばね性を有する帯状の金属板からなり、相対的に幅の広い面が、流れに対向するように配置されている。このような帯状の感知部材では、流れを受ける受圧面積に比較して流れ方向の板厚が小さくなり、流れによる撓み変形が生じやすい。つまり流量センサとしての感度の点で有利となる。
【0015】
本発明の流量センサは、気体であっても液体であっても、その流量の検出が可能であり、例えば、内燃機関の吸気流量の検出、排気流量の検出、などに広く適用できる。本発明の流量センサでは、流体に晒される感知部材の機械的な歪みを歪みセンサが検出するので、汚損による誤差発生の要素はほとんどなく、また耐熱性などの確保も容易である。
【0016】
歪みセンサは、細長い感知部材の任意の場所に取り付けることができるが、好ましい一つの態様では、流体の主流が流れる通路壁面から窪んだ凹部内で上記感知部材の端部が支持されているとともに、上記主流が衝突しないように上記凹部内に上記歪みセンサが配置されている。このように構成することで、歪みセンサは流体の流れを直接には受けない。従って、流体の熱による影響や流体に含まれる成分による歪みセンサの汚損・劣化などが抑制される。
【0017】
本発明の流量センサを内燃機関の排気流量の検出に用いる場合、歪みセンサの熱的損傷を抑制するために、外気を冷却用空気として積極的に導入することもできる。一つの例では、上記流量センサに隣接して、排気通路の通路面積を可変的に変化させる排気絞弁を備えるとともに、排気通路の外部から上記歪みセンサの周囲を通って排気通路に至る冷却用空気流路を形成し、上記排気絞弁による減圧作用により上記冷却用空気流路を通して外気が導入されるように構成される。
【0018】
また、上記排気絞弁により減圧した排気絞弁近傍の排気圧を検出する排気圧検出手段と、外部の大気圧を検出する大気圧検出手段と、両者の圧力差が所望の値となるように上記排気絞弁の開度を制御する排気絞弁開度制御手段と、を設け、上記冷却用空気流路を通した排気の漏洩が生じないようにすることも可能である。
【0019】
本発明の流量センサは、さらに、内燃機関の排気系におけるパティキュレートフィルタの異常診断を行う診断装置に利用することができる。本発明のパティキュレートフィルタ診断装置は、上記のような流量センサを、パティキュレートフィルタの上流側および下流側に備えており、両者が検出する排気流量に基づいてパティキュレートフィルタの異常を検出する。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、汚損による検出精度の低下が少なく、かつ通路抵抗の増加も少なく、種々の流体に広く適用し得る新規な形式の流量センサが提供される。そして、この流量センサを用いた本発明のパティキュレートフィルタ診断装置によれば、排気による汚損に影響されずに、パティキュレートフィルタの破損や目詰まりなどの異常の検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明に係る流量センサを用いたパティキュレートフィルタ診断装置の一実施例を示す構成説明図。
【図2】流量センサの一実施例を示す構成説明図。
【図3】その通路中心軸に沿った断面の説明図。
【図4】パティキュレートフィルタ診断のフローチャート。
【図5】片持ち梁形式とした流量センサの構成説明図。
【図6】その通路中心軸に沿った断面の説明図。
【図7】排気絞弁を備えた流量センサの一実施例を示す構成説明図。
【図8】その通路中心軸に沿った断面の説明図。
【図9】片持ち梁形式とした流量センサの構成説明図。
【図10】その通路中心軸に沿った断面の説明図。
【図11】パティキュレートフィルタ診断のフローチャート。
【図12】排気絞弁の開度制御のフローチャート。
【図13】排気絞弁の開度と歪みセンサの温度との関係を示した特性図。
【図14】ゲージ圧に対する排気絞弁の開度補正の特性を示した特性図。
【図15】排気絞弁の開度と圧力損失との関係を示した特性図。
【図16】排気絞弁の開度制御の他の実施例を示すフローチャート。
【図17】歪みセンサの温度に対する排気絞弁の開度補正の特性を示した特性図。
【図18】排気絞弁の開度制御のさらに他の実施例を示すフローチャート。
【図19】排気絞弁の開度変化の一例を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明の流量センサを排気流量の検出に用い、パティキュレートフィルタの診断を行うようにした一実施例について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
図1は、この発明が適用される内燃機関1の吸排気系を含むシステム構成を示している。内燃機関1は、高圧燃料ポンプ2で加圧された燃料が燃料噴射弁3を介して筒内に噴射されることで圧縮着火を行ういわゆるディーゼルエンジンとして構成されており、特にこの実施例では、同軸状のコンプレッサ4aおよびタービン4bからなるターボ過給機4を備えた過給機付ディーゼルエンジンである。
【0024】
この内燃機関1の吸気通路5は、コンプレッサ4aの上流側に、空気流量を検出するエアフローセンサ8を有するとともに、その上流にエアクリーナ9を有し、かつコンプレッサ4aの下流側に、インタークーラ10および吸気絞弁11を備えている。また排気通路13には、タービン4bの下流側に、排気微粒子を捕集するための例えばセラミックスからなるパティキュレートフィルタ(DPF)14が配置されている。このパティキュレートフィルタ14は、公知の連続再生式の構成であり、触媒の作用により捕集した微粒子の燃焼が自然に行われる。なお、本発明の診断の対象は必ずしも連続再生式のパティキュレートフィルタに限定されず、強制的な燃焼再生の際に診断を行うことも可能である。
【0025】
この実施例の内燃機関1は、広範な運転条件下で排気還流を行うために、ターボ過給機4の上流側で排気還流を行う低圧EGR機構と、ターボ過給機4の下流側で排気還流を行う高圧EGR機構と、の双方を備えている。低圧EGR機構は、排気通路13のパティキュレートフィルタ14下流側と吸気通路5のコンプレッサ4a上流側との間を接続した低圧EGR通路21と、この低圧EGR通路21に設けられたEGRガスクーラ24と、このEGRガスクーラ24の下流に位置するEGR制御弁25と、を主体として構成されている。排気通路13には、排圧を制御するために排気絞弁22が設けられており、吸気通路5には、さらに吸気絞弁23が設けられている。高圧EGR機構は、排気通路13のタービン4b上流側と吸気通路5の吸気絞弁11下流側との間を接続した高圧EGR通路28と、この高圧EGR通路28に介装されたEGRガスクーラ29と、このEGRガスクーラ29の下流に位置するEGR制御弁30と、を主体として構成されている。
【0026】
また、基本的なセンサ類として、上記のエアフローセンサ8のほか、運転者によるアクセルペダルの踏込量つまりアクセル開度を検出するアクセル開度センサ31、吸気絞弁11下流の吸気コレクタ部において吸気圧力および吸気温度を検出する吸気圧力/温度センサ32、タービン4b上流側において排気圧力および排気温度を検出する排気圧力/温度センサ33、高圧EGR通路28のEGRガスクーラ29下流側においてEGRガスの圧力および温度を検出するEGRガス圧力/温度センサ34、インタークーラ10の入口側および出口側の各々において吸気の圧力および温度を検出するインタークーラ入口圧力/温度センサ35およびインタークーラ出口圧力/温度センサ36、などを備えており、エンジンコントロールユニット37は、これらの検出信号に基づいて、燃料噴射弁3からの燃料噴射量ならびに噴射時期、低圧EGR機構ないし高圧EGR機構による排気還流率、空気過剰率、パティキュレートフィルタ14の再生状態、などを機関運転条件に応じて制御している。なお、これらの構成ならびに制御は、本発明の要部ではないので、その詳細な説明は省略する。
【0027】
一方、パティキュレートフィルタ診断装置として、パティキュレートフィルタ14の上流側(入口側)および下流側(出口側)に、それぞれ、上流側排気流量センサ41および下流側排気流量センサ42が配置されている。これらの排気流量センサ41,42は、パティキュレートフィルタ14に流入する排気の流量およびパティキュレートフィルタ14から流出する排気の流量を検出している。パティキュレートフィルタ14が正常に作動している状態、詳しくは捕集した微粒子の燃焼による再生がなされている状態では、パティキュレートフィルタ14における燃焼によって流量の増加が見られ、パティキュレートフィルタ14に流入する排気の流量に比較してパティキュレートフィルタ14から流出する排気の流量の方が大となる。パティキュレートフィルタ14が破損や溶損によって一部ないし全部が失われていたり、微粒子の過度の堆積により目詰まりしていたりすると、両者の流量の関係(例えば流量差あるいは流量増加割合など)が異常となる。従って、これによって、パティキュレートフィルタ14が異常であると診断することができる。
【0028】
上記の上流側排気流量センサ41と下流側排気流量センサ42は、基本的に同一の構成を有しており、以下では、両者を排気流量センサ41,42と総称して、その構成を説明する。図2および図3は、排気流量センサ41,42の一実施例を示しており、図示するように、排気通路13を横切る梁状の感知部材52と、この感知部材52の歪みを検出する歪みセンサ53と、によって排気流量センサ41,42が構成されている。この実施例では、上記感知部材52は、排気通路13を構成する例えば断面円形をなす排気管51を直径方向に横切るように直線状に延びており、両端部54,55がそれぞれ排気管51の壁部に固定支持されているとともに、一方の端部54近傍の位置に歪みセンサ53が取り付けられている。上記感知部材52は、排気流に感応し得る適宜なばね性を有する材料、例えばばね鋼からなり、図3に明らかなように、いわゆる板バネとして幅の狭い平帯状に形成されているとともに、その相対的に幅の広い面52aが流れに対向するように配置されている。この感知部材52としては、排気流に感応して微小な撓みが生じる程度のばね性が必要である一方、内燃機関1の振動ないし走行振動によって振動しない程度に軽量でかつ剛性を有することが望ましい。
【0029】
上記感知部材52の端部54,55が取り付けられる排気管51の壁部には、感知部材52の長手方向に沿ってそれぞれ半径方向外側へ突出した円筒部58,59が形成されており、これら円筒部58,59によって排気通路13から窪んだ形に生じる凹部60,61内において、上記感知部材52の端部54,55が固定支持されている。そして、上記歪みセンサ53は、排気通路13を流れる排気の主流が衝突することがないように、上記凹部60内に位置している。なお、排気通路13の内壁面には、感知部材52が通過する孔が設けられているが、この孔に対し感知部材52は拘束されておらず、感知部材52の変位が阻害されることはない。
【0030】
上記のように排気通路13を横切る弦のように配置された感知部材52は、排気流を受けると、これに押されて弓状に湾曲するように変形する。この撓み変形は、極微小なものであるが、この撓みによって生じる感知部材52の歪みが、歪みセンサ53によって検出され、これに基づいて排気流量が体積流量として検出される。
【0031】
上記歪みセンサ53は、例えば特許文献3に開示されているように半導体基板に複数の拡散抵抗からなるホイートストンブリッジ回路を形成するとともに、増幅回路を同じ基板上に形成した半導体型歪みセンサから構成されており、平帯状をなす感知部材52の表面に接着や溶接などによって取り付けられている。このような半導体型歪みセンサ53は、特定の方向(一般には互いに直交する2方向)に沿った歪みに対し高い感度を有しているが、この歪み検出方向が上記感知部材52の撓みに対応するように歪みセンサ53が配置されている。半導体型歪みセンサの感度は非常に高く、感知部材52の極僅かな変位を十分に検出することができる。また、1〜2mm角程度の小型の構成であり、幅の狭い帯状をなす感知部材52の上に直接に取り付けることが可能である。ワイヤレスで給電ならびに出力信号の送信が可能な半導体型歪みセンサも近年開発されており、この種の歪みセンサを用いることも可能である。また、上記のように排気流量に応じた感知部材52の機械的な変形に伴う歪みセンサ53の出力は、必ずしも流量に対し線形の特性とならないが、感知部材52に応じた特性でもって歪みセンサ53に内蔵される回路により予め線形化し、排気流量センサ41,42として線形出力が得られるようにすることも可能である。なお、本発明は、歪みセンサとして上記のような半導体型歪みセンサに必ずしも限定されるものではない。
【0032】
上記のような形式の排気流量センサ41,42は、広義には面積式流量計に類するものであり、安定した流量検出が可能であるとともに、排気が衝突する感知部材52は例えば板バネなどから形成でき、その機械的な変位を歪みセンサ53が検出するので、排気の汚損に対する耐性が高く、汚損による精度低下が実質的にない。また、排気流を受ける感知部材52を細く形成できることから、通路抵抗が小さくなる。
【0033】
ここで、上記のような原理により検出される体積流量を質量流量として評価するためには、流体(排気)の圧力、温度、および密度に基づく補正が必要である。そのため、図2,図3に示すように、排気流量センサ41,42の近傍における排気圧力を検出する排気圧力センサ65と、排気の密度に応じて出力が変化するいわゆる広帯域型の空燃比センサ66と、が各排気流量センサ41,42に隣接して設けられている。これらの排気圧力センサ65および空燃比センサ66は、図1では、図示省略してある。なお、空燃比センサ66の出力は、内燃機関1の空気過剰率の制御にも用いることができる。また、本実施例で用いられる歪みセンサ53は、上記のように半導体型歪みセンサであり、実質的に温度センサを内蔵しており、歪みセンサ53自体によって同時に排気温度の検出が可能である。なお、別個独立した排気温度センサを排気流量センサ41,42の近傍に備えるようにしてもよい。
【0034】
図4は、上記の上流側排気流量センサ41と下流側排気流量センサ42とを用いてエンジンコントロールユニット37において実行されるパティキュレートフィルタ14の診断処理の流れを示すフローチャートである。ステップ1では、各排気流量センサ41,42の歪みセンサ53によって各々の感知部材52の歪みを検出し、ステップ2で、これらを体積流量に換算する。この歪みの検出と並行して、上記の排気圧力センサ65および歪みセンサ53が具備する温度センサを用いて、別のルーチンによって各排気流量センサ41,42近傍の排気圧力および排気温度を検出し(ステップ7)、同じく空燃比センサ66によって各排気流量センサ41,42近傍の空燃比(排気空燃比)を検出する(ステップ8)。
【0035】
ステップ3では、これらの排気圧力、排気温度および空燃比を用いて、上流側および下流側の体積流量を質量流量に変換する。つまり、体積流量に対し気体の温度および圧力に基づく補正を加えるとともに、空燃比センサ66が検出する空燃比に基づき、気体の密度に関連した補正を加える。なお、これらの排気圧力、排気温度および空燃比は、パティキュレートフィルタ14の上流側と下流側とで異なる値となる。
【0036】
ステップ4では、質量流量に変換された上流側排気流量と下流側排気流量との流量差を求める。前述したように、パティキュレートフィルタ14が正常に作動していれば、排気微粒子の燃焼に伴う排気流量の増加が生じる。並行して行われる別のルーチンによって内燃機関1の運転状態(例えば機関回転数、トルクなど)が検出されており、ステップ5では、各運転状態毎に予めマップ等として設定されている閾値と上記の流量差を比較し、ステップ6において、両者の比較に基づいてパティキュレートフィルタ14の故障診断を行う。例えば、流量差が閾値以下となった回数や頻度などに基づいて故障と診断する。
【0037】
上記のような感知部材52の歪みから排気流量を検出する排気流量センサ41,42においては、板バネからなる感知部材52の排気の流れによる機械的な撓みを利用するので、排気成分により経時的に汚損しても原理的に精度低下の問題がない。また、排気流に直接に晒される感知部材52としては、板バネのような耐熱性を有する材料のものを利用できるので、耐熱性の確保の上で有利となる。従って、上記排気流量センサ41,42を用いたパティキュレートフィルタ診断装置においては、汚損に対して耐性を有し、耐久性に優れたものとなる。なお、歪みセンサ53に対し、さらに何らかの断熱構造や冷却構造を付加するようにしてもよい。
【0038】
次に、図5および図6は、排気流量センサ41,42の異なる実施例を示している。この実施例では、例えば板バネからなる感知部材52の一端部54のみが排気管51の壁部に支持されており、他端部55は自由端となっている。つまり感知部材52は片持ち梁のように構成されており、排気管51の中心を越えて壁部近傍まで延びている。その他の構成は前述した図2,図3の実施例と同様であり、円筒部58による凹部60内において、歪みセンサ53が感知部材52に取り付けられている。このような構成においても、排気流量に応じて感知部材52が撓み、歪みセンサ53から排気流量に応じた検出出力が得られる。
【0039】
ところで、上記のように感知部材52と歪みセンサ53とを用いた排気流量センサ41,42においては、板バネからなる感知部材52に比べて半導体型歪みセンサなどからなる歪みセンサ53の方が相対的に耐熱性が低い。図7〜図8は、このような耐熱性を考慮して歪みセンサ53に対し強制的な冷却手段を備えた実施例を示している。
【0040】
この実施例では、排気流量センサ41,42に隣接して、排気通路13の通路面積を可変的に変化させるバタフライバルブ型の排気絞弁71が設けられている。この排気絞弁71は、その開度を変化させるアクチュエータとして例えば電動モータ75を備えている。感知部材52は、この排気絞弁71の開度がある程度小さくなったときにも排気流を受け得るように、円形をなす排気通路13の断面の一方に片寄って配置されており、かつ排気絞弁71の中心軸と平行に支持されている。感知部材52は、図2,図3の例と同様に、両端が支持された両持ち梁型の構成となっており、排気管51の壁部に、感知部材52の長手方向に沿ってそれぞれ外側へ突出した円筒部58,59が形成され、これら円筒部58,59内に、上記感知部材52の端部54,55が固定支持されている。ここで、各円筒部58,59の先端は外部に開放されており、これらの開放端から感知部材52の端部54,55に沿って排気通路13内に至る冷却用空気流路72,73が各々の円筒部58,59内に構成されている。そして、歪みセンサ53は、円筒部58内において感知部材52の一端部54に取り付けられている。
【0041】
このような構成においては、排気絞弁71が通路面積を縮小することによる減圧作用によって外気との間に圧力差が生成され、円筒部58,59内の冷却用空気流路72,73を通して少量の外気が導入される。この外気は、排気通路13側へ向かって歪みセンサ53周囲を流れるため、低温な外気により歪みセンサ53が直接に冷却されるとともに、排気通路13から円筒部58,59内への高温排気の侵入が抑制される。従って、歪みセンサ53の温度上昇が効果的に抑制される。上記排気絞弁71の開度は、後述するように、冷却用空気流路72,73を通して外気が適度に導入されるように、可変的に制御される。ここで、冷却用空気流路72,73を介して導入される外気の流量は、排気通路13を流れる排気流量に比べれば、無視できる程度に小さいものである。
【0042】
なお、円筒部59側は、歪みセンサ53を具備しないので、必ずしも冷却用空気流路73による冷却機構は必要ではないが、この実施例では、同様に外気を導くことで、感知部材52の支持部の温度低下を図っている。
【0043】
また、図9,図10の実施例は、図5,図6の実施例と同様に片持ち梁形式としたものであり、やはり、排気絞弁71に対応して感知部材52が排気通路13断面の一方に片寄って配置され、かつ歪みセンサ53を収容した円筒部58内に冷却用空気流路72が設けられている。
【0044】
図11は、上記のように上流側排気流量センサ41および下流側排気流量センサ42が排気絞弁71を具備している場合のパティキュレートフィルタ14の診断処理の流れを示すフローチャートである。このフローチャートは、基本的には図4に示した前述のフローチャートと同様であり、特に変わりがないステップには同じ番号を付してある。ステップ1では、各排気流量センサ41,42の歪みセンサ53によって各々の感知部材52の歪みを検出し、ステップ2で、これらを体積流量に換算する。この歪みの検出と並行して、別のルーチンにより、ステップ10として示すように排気絞弁71の開度を検出する。そして、ステップ2Aにおいて、この排気絞弁71による絞りの補正を加える。つまり排気絞弁71の開度に応じて排気流が通過する通路面積が変化するので、これに対する補正を加える。
【0045】
以後の処理は、図4のフローチャートと変わりがなく、ステップ3で、各排気流量センサ41,42近傍の排気圧力、排気温度(ステップ7)および空燃比(ステップ8)を用いて、上流側および下流側の体積流量を質量流量に変換する。つまり、体積流量に対し気体の温度および圧力に基づく補正を加えるとともに、空燃比に基づき、気体の密度に関連した補正を加える。次いで、ステップ4で、質量流量に変換された上流側排気流量と下流側排気流量との流量差を求め、ステップ5で、各運転状態(ステップ9)毎に予めマップ等として設定されている閾値と上記の流量差を比較し、ステップ6において、両者の比較に基づいてパティキュレートフィルタ14の故障診断を行う。
【0046】
なお、前述したように、半導体型歪みセンサとして歪みセンサ53を構成する場合には温度センサを内蔵したものとすることができ、この温度センサ機能によって排気温度を検出することが可能であるが、本実施例では、歪みセンサ53が外気による冷却作用を受け、該歪みセンサ53で検出される温度が排気通路13内の排気主流の温度から乖離するので、ステップ7の排気温度としては、歪みセンサ53の温度センサ機能による検出温度に適当な補正を加えるか、あるいは歪みセンサ53とは別に排気温度センサを設けることが好ましい。
【0047】
上記の排気絞弁71の開度は、冷却用空気流路72,73を通して外気が適当に導入されるように制御される。図12は、エンジンコントロールユニット37において実行される排気絞弁71の開度制御の処理の流れを示すフローチャートである。このフローチャートで示される実施例は、運転条件等に拘わらずに冷却用空気流路72,73の内外で適宜な圧力差を確保し、冷却用空気流路72,73を通した排気の逆流(外部への排気の漏洩)を阻止すると同時に、冷却用空気流路72,73に確実に外気が導入されるようにしたものである。ステップ21で排気圧力センサ65によって感知部材52近傍の圧力を検出し、別のルーチンで検出した大気圧(ステップ27)に基づき、ステップ22で排気圧力をゲージ圧として求める。なお、大気圧は、例えば図示せぬ大気圧センサによって検出されるが、排気圧力センサ65そのものが排気圧力と大気圧との差圧つまりゲージ圧を出力するように構成することも可能である。ステップ23では、このゲージ圧を所定の基準圧力と比較し、これに基づいて、ステップ24において、別のルーチンで検出した排気絞弁71の開度(ステップ26)に対し補正を加えたものとして、排気絞弁71の目標開度を決定する。そして、最終的にステップ25で電動モータ75を駆動して排気絞弁71の開度を変更する。
【0048】
ステップ24では、例えば図14の特性図に示すように、基準圧力よりもゲージ圧が高ければ、これに応じて排気絞弁71の開度を閉方向に補正し、逆に基準圧力よりもゲージ圧が低ければ、これに応じて排気絞弁71の開度を開方向に補正する。基準圧力は、0(大気圧)よりも低い値に設定される。従って、感知部材52近傍の圧力が常に大気圧よりも低い状態に維持され、確実に外気が導入されるとともに、排気の逆流(外部への漏洩)を抑制することができる。なお、基準圧力としては、固定値であってもよく、機関運転条件等に応じて可変的に設定される値であってもよい。
【0049】
図13に例示したように、上流側から流れてくる排気の温度が一定であると仮定すると、歪みセンサ53の温度は、排気絞弁71の開度を小さくするほど低くなる。つまり、外気が積極的に導入されて強い冷却作用が得られる。
【0050】
他方、排気絞弁71に伴う圧力損失に着目すると、図15に示すように、排気絞弁71の開度を小さくするほど圧力損失が大となる。特に、この圧力損失は、内燃機関1の排気流量が大であるほど増大するので、仮に排気絞弁71に代えて、最小排気流量の下でも所望の圧力低下が生じるように設定した固定絞り(その開口面積を線aで示す)を用いたとすると、排気流量の増加に伴って圧力損失が不必要に増大してしまう。これに対し、上記実施例では、可変的な排気絞弁71を用い、所望の圧力低下が生じるようにその開度を制御するので、排気流量の大小に拘わらず線bで示すように一定の圧力損失となり、内燃機関1の性能に与える悪影響が少ない。
【0051】
次に、図16は、排気絞弁71の開度制御の異なる実施例を示すフローチャートである。この実施例は、外気の導入により冷却される歪みセンサ53の温度状態に着目したものであって、ステップ31で歪みセンサ53の温度を検出する。これは、例えば、前述した半導体型歪みセンサが一体に具備する温度センサを用いて検出する。この検出温度をステップ32で所定の基準温度と比較し、これに基づいて、ステップ33において、別のルーチンで検出した排気絞弁71の開度(ステップ35)に対し補正を加えたものとして、排気絞弁71の目標開度を決定する。そして、最終的にステップ34で電動モータ75を駆動して排気絞弁71の開度を変更する。
【0052】
ステップ33では、例えば図17の特性図に示すように、基準温度よりも歪みセンサ53の温度が高ければ、これに応じて排気絞弁71の開度を閉方向に補正し、逆に基準温度よりも低ければ、これに応じて排気絞弁71の開度を開方向に補正する。基準温度は、0℃よりは高い適当な値であり、固定値であってもよく、機関運転条件等に応じて可変的に設定される値であってもよい。従って、歪みセンサ53の温度が常に基準温度付近となるように排気絞弁71の開度ひいては冷却用空気流路72,73を通した外気の導入量が制御される。
【0053】
図18のフローチャートは、排気絞弁71の開度制御のさらに異なる実施例を示している。これは、図12に示した開度制御と図16に示した開度制御とを組み合わせたものであり、ステップ51で歪みセンサ53の温度を検出する。これは、例えば、前述した半導体型歪みセンサが一体に具備する温度センサを用いて検出する。この検出温度をステップ52で所定の基準温度と比較し、これに基づいて、ステップ53において、別のルーチンで検出した排気絞弁71の開度(ステップ54)に対し補正を加えたものとして、排気絞弁71の第1目標開度を決定する。ステップ53では、上述したように、例えば図17の特性に沿って検出温度と基準温度との関係から排気絞弁71の開度の補正量が求められる。
【0054】
他方、ステップ55において、排気圧力センサ65によって感知部材52近傍の圧力を検出し、別のルーチンで検出した大気圧(ステップ59)に基づき、ステップ56で排気圧力をゲージ圧として求める。ステップ57では、このゲージ圧を所定の基準圧力と比較し、これに基づいて、ステップ58において、別のルーチンで検出した排気絞弁71の開度(ステップ54)に対し補正を加えたものとして、排気絞弁71の第2目標開度を決定する。
【0055】
以上のようにして第1目標開度と第2目標開度とを求めた後、ステップ60において、両者を比較して相対的に開度が小さい方を最終的な目標開度として選択する。そして、ステップ61で電動モータ75を駆動して排気絞弁71の開度を変更する。
【0056】
このような実施例によれば、冷却用空気流路72,73を通した排気の逆流(外部への漏洩)が生じないように常に最小限の圧力差を確保すると同時に、歪みセンサ53の温度上昇を抑制するように必要な外気の導入が行われることとなり、歪みセンサ53の熱的損傷をより確実に抑制することができる。
【0057】
ところで、上記の排気絞弁71は、上記のような冷却用空気流路72,73を通した外気の導入のための減圧作用を果たすほか、排気系における触媒(例えば図1のパティキュレートフィルタ14と一体あるいは別体に設けられる触媒)の昇温、排気系から排出される排気騒音の低減、など他の目的に使用される場合もある。このような場合は、上記図18の実施例と同様に、各々の制御の要求から定まる排気絞弁71の複数の目標開度の中から、最も開度の小さい値を最終的な目標開度として選択し、これに沿って排気絞弁71の開度を制御することが可能である。図19は、その一例を示しており、破線101で示す特性は、上記の歪みセンサ53の冷却(外気導入)のために要求される開度特性、一点鎖線102で示す特性は、例えば触媒の早期暖機のために要求される開度特性、であって、両者の相対的に小さい方の値に従って、実線103のように排気絞弁71の開度が制御される。
【0058】
以上、本発明の流量センサを、排気流量センサとしてパティキュレートフィルタ14の上流側および下流側に用いた実施例を説明したが、本発明の流量センサは、排気での汚損に対し耐性を有する利点を有するものの、このような排気に限らず、種々の気体あるいは液体の流量の検出に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1…内燃機関
13…排気通路
14…パティキュレートフィルタ
41,42…排気流量センサ
52…感知部材
53…歪みセンサ
58,59…円筒部
65…排気圧力センサ
66…空燃比センサ
71…排気絞弁
72,73…冷却用空気流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ばね性を有する材料から形成され、流路を横切るように配置された細長い感知部材と、この感知部材に取り付けられ、流体の流れに伴う該感知部材の歪みを検出する歪みセンサと、からなる流量センサ。
【請求項2】
上記感知部材は、一端が流路壁部に支持され、他端が自由端として流路内に突出した片持ち梁状をなすことを特徴とする請求項1に記載の流量センサ。
【請求項3】
上記感知部材は、両端が流路壁部にそれぞれ支持された両持ち梁状をなすことを特徴とする請求項1に記載の流量センサ。
【請求項4】
上記感知部材は、ばね性を有する帯状の金属板からなり、相対的に幅の広い面が、流れに対向するように配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の流量センサ。
【請求項5】
流体の主流が流れる通路壁面から窪んだ凹部内で上記感知部材の端部が支持されているとともに、上記主流が衝突しないように上記凹部内に上記歪みセンサが配置されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の流量センサ。
【請求項6】
内燃機関に用いられることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の流量センサ。
【請求項7】
内燃機関の排気流量の検出に用いられることを特徴とする請求項6に記載の流量センサ。
【請求項8】
上記流量センサに隣接して、排気通路の通路面積を可変的に変化させる排気絞弁を備えるとともに、排気通路の外部から上記歪みセンサの周囲を通って排気通路に至る冷却用空気流路を形成し、上記排気絞弁による減圧作用により上記冷却用空気流路を通して外気が導入されるように構成されていることを特徴とする請求項7に記載の流量センサ。
【請求項9】
上記排気絞弁により減圧した排気絞弁近傍の排気圧を検出する排気圧検出手段と、外部の大気圧を検出する大気圧検出手段と、両者の圧力差が所望の値となるように上記排気絞弁の開度を制御する排気絞弁開度制御手段と、を備えたことを特徴とする請求項8に記載の流量センサ。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の流量センサを、内燃機関の排気通路におけるパティキュレートフィルタの上流側および下流側に備え、両者が検出する排気流量に基づいてパティキュレートフィルタの異常を検出する内燃機関のパティキュレートフィルタ診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−76626(P2013−76626A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216405(P2011−216405)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】