説明

流量調節装置

【課題】 開閉弁の異常が生じても、装置を停止することなく、できるだけ目標の設定流量に近い流量で運転すること。
【解決手段】 複数の異なる設定流量(または設定関連指標)に対応して開閉弁9A〜9Cを異なる開閉パターンに制御する流量調節装置であって、開閉異常が生じている開閉弁9A〜9Cを特定する異常特定制御と、開閉異常が生じている開閉弁9A〜9Cの開閉状態を含み、かつ正常時の開閉パターンに対応する設定流量(または設定関連指標)に近いバックアップ設定流量(またはバックアップ設定関連指標)の開閉パターンにより、開閉弁9A〜9Cを制御するバックアップ制御とを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、互いの通水抵抗が異なる複数の開閉弁を並列に接続した流路調節装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流路に並列に接続されて設けられ、互いの通水抵抗が異なる複数の開閉弁と、複数の異なる設定流量に対応して前記開閉弁を異なる開閉パターンに制御する制御器とを備える流量調節装置は、特許文献1や特許文献2などで知られている。
【0003】
特許文献1や特許文献2のような流量調節装置では、設定流量を変更すべく開閉パターンを変更すると、開閉弁に開閉異常,すなわち、開信号を与えても開かない、または閉信号を与えても閉じないという異常を生ずることがある。また、設定流量を変更しない場合でも開閉弁に開閉異常を生ずることがある。
【0004】
開閉異常が生ずると、正常時の設定流量(目標の設定流量)と異なる流量で装置が運転されてしまうという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−167744号公報
【特許文献2】特開平1−189707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明の解決しようとする主課題は、開閉弁の異常が生じても、装置を停止することなく、できるだけ目標の設定流量に近い流量で運転することである。また、副課題は、装置の運転中に異常が生じた開閉弁を簡易に特定することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、前記課題を解決するためになされたものであって、請求項1に記載の発明は、流路に互いに並列に接続されて設けられ、互いの通水抵抗が異なる複数の開閉弁と、複数の異なる設定流量(または設定関連指標)に対応して前記開閉弁を異なる開閉パターンに制御する制御器とを備える流量調節装置であって、前記制御器は、開閉異常が生じている前記開閉弁を特定する異常特定制御手順と、開閉異常が生じている前記開閉弁の開閉状態を含み、かつ正常時の開閉パターンに対応する設定流量(または設定関連指標)に近いバックアップ設定流量(またはバックアップ設定関連指標)の開閉パターンにより、前記開閉弁を制御するバックアップ制御手順とを行うことを特徴としている。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、前記開閉弁の異常発生時に正常時の設定流量(または設定関連指標)に近い流量(または関連指標)で運転することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記流路の流量を直接的または間接的に検出する流量計を備え、前記制御器による異常特定制御手順は、生ずる可能性のある前記開閉弁の開閉異常パターンとこの開閉異常パターンが生じたときの前記流量計による検出流量(または検出関連指標)との対応テーブルに基づき、開閉異常時の前記流量計による検出流量(または検出関連指標)から開閉異常が生じている前記開閉弁を特定する手順であることを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明による効果に加えて、前記各開閉弁に異常検出センサを設けることなく、前記検出流量(または検出関連指標)に基づき、装置の運転中に異常が生じた前記開閉弁を特定することができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0011】
この発明よれば、開閉弁の異常が生じても、装置を停止することなく、できるだけ目標の設定流量に近い流量で運転することできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施例1を備えた濾過システムの概略構成を説明する説明図である。
【図2】同実施例1を備えた濾過システムの制御手順を説明するフローチャート図である。
【図3】同実施例1を備えた濾過システムの回収率と開閉弁の開閉パターンとの関係を説明する図表である。
【図4】同実施例1を備えた濾過システムの回収率変更,すなわち開閉弁の開閉パターンの変更(変更パターンNO.1〜6)によって生ずる可能性のある開閉弁の開閉異常パターンと、この開閉異常パターンが生じたときの回収率と、バックアップ設定回収率との対応関係を説明する図表である。
【図5】同実施例1を備えた濾過システムの回収率変更,すなわち開閉弁の開閉パターンの変更(変更パターンNO.7〜12)によって生ずる可能性のある開閉弁の開閉異常パターンと、この開閉異常パターンが生じたときの回収率と、バックアップ設定回収率との対応関係を説明する図表である。
【図6】同実施例1を備えた濾過システムの他の制御手順を説明するフローチャート図である。
【図7】同実施例1を備えた濾過システムの回収率70%時に生ずる可能性のある開閉弁の開閉異常パターンと、この開閉異常パターンが生じたときの回収率と、バックアップ設定回収率との対応関係を説明する図表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、この発明の流量調節装置の実施の形態について説明する。この発明の実施の形態は、濾過膜部からの濃縮水の一部を系外へ排水する排水ラインの排水量を調節する濾過システムに好適に実施される。
【0014】
つぎに、この発明の実施の形態について説明する。この発明の実施の形態に係る流量調節装置は、流路に互いに並列に接続されて設けられ、互いの通水抵抗が異なる複数の開閉弁と、複数の異なる設定流量に対応して前記開閉弁を異なる開閉パターンに制御する制御器とを備えている。
【0015】
この発明の実施の形態の特徴部分は、前記制御器が、開閉異常が生じている前記開閉弁の開閉状態を含み、かつ正常時の開閉パターンに対応する設定流量(または設定関連指標)に近いバックアップ設定流量(またはバックアップ設定関連指標)の開閉パターンにより、前記開閉弁を制御する構成にある。
【0016】
ここで、前記開閉異常は、設定流量の変更時に生ずる場合(前者)と、設定流量を変更しない一定流量制御時に生ずる場合(後者)がある。前記正常持の開閉パターンとは、前者の場合は、設定流量変更後の開閉パターンであり、後者の場合は、開閉異常が生ずる前の開閉パターンを意味する。
【0017】
また、「前記流路の流量を直接的または間接的に検出する」とは、前記流路の流量が他の流路の流量から間接的に演算できる場合、他の流路の流量を検出することを意味する。例えば、給水中の不純物を除去する濾過膜部と、前記濾過膜部へ被処理水を供給する被処理水ラインと、前記濾過膜部を透過した処理水を使用機器へ供給する処理水ラインと、前記濾過膜部からの濃縮水の一部を系外へ排水する排水ラインと、濃縮水の残部を前記濾過膜部の上流側へ還流させる還流ラインとを備えた膜濾過システムにおいて、前記排水ラインの流量をこの実施の形態の流量調節装置で制御する場合、前記排水ラインに設けた流量計で検出するのが「直接的に検出」である。また、前記排水ラインの流量は、前記被処理水ラインの流量と前記処理水ラインの流量とで求めることができるので、前記被処理水ラインに設けた流量計と前記処理水ラインに設けた流量計とで検出するのを「間接的に検出する」と称する。
【0018】
また、「流量の関連指標」とは流量ではなくこの流量に関連して、この流量から導き出せる数値を意味し、関連数値と称することができる。例えば、前記濾過システムでは、前記排水ラインの流量の関連指標は、回収率である。回収率とは、前記濾過膜部からの透過水量(前記処理水ラインの流量)と系外への排水量(前記排水ラインの流量)との和に対する透過水量の割合で定義される。
【0019】
前記各開閉弁は、特定の構成のものに限定されないが、互いの通水抵抗が異なるように構成される。前記各開閉弁の通水抵抗を異ならせるのは、前記各開閉弁の弁座の口径を異ならせることで実現することができる。しかしながら、これに限定されるものではなく、特開2006−292035号公報に記載のように、開閉弁と定流量弁機構との組合せにより実現することができる。具体的には、各開閉弁は同じ開閉弁として各開閉弁の上流側または下流側に互いに通水抵抗の異なるオリフィスなどの定流量弁機構を設けることによって通水抵抗を異ならせている。そして、前記開閉弁の異なる開閉パターンにおける流量が、互いに異なることが必要である。
【0020】
前記の「バックアップ設定流量(またはバックアップ設定関連指標)の開閉パターン」は、開閉異常が生じている前記開閉弁の開閉状態によって選択可能な開閉パターンに制限を受ける。よって、この選択可能な開閉パターンの中から、正常時の設定流量(または設定関連指標)に近いバックアップ設定流量(またはバックアップ設定関連指標)の開閉パターンを選択することになる。
【0021】
また、「設定流量(または設定関連指標)に近い」は、設定流量より大きい場合と、小さい場合が含まれる。「設定流量(または設定関連指標)に近い」という条件以外に何らかの条件があれば、設定流量(または設定関連指標)より大きい範囲で近いバックアップ設定流量(またはバックアップ設定関連指標)が選択される場合と、設定流量より小さい範囲で近い設定流量が選択される場合とが考えられる。前記何らかの条件は、たとえば、前記濾過システムにおいて、設定関連指標を設定回収率とした場合、設定回収率が小さい範囲とするという条件である。正常時の設定流量は、目標設定流量と称することができ、正常時の設定関連指標は、目標設定関連指標と称することができる。
【0022】
この実施の形態の流量調節装置によれば、前記開閉弁の開閉異常が生じたとき、前記開閉弁の開閉異常を前提として、前記設定流量(または設定関連指標)に近いバックアップ設定流量(またはバックアップ設定関連指標)にて流量を制御することができる。
【0023】
この実施の形態においては、好ましくは、前記流路の流量を直接的または間接的に検出する流量計を備え、前記制御器による異常特定制御手順は、前記開閉パターンの変更などによって生ずる可能性のある前記開閉弁の開閉異常パターンとこの開閉異常パターンが生じたときの前記流量計による検出流量(または検出関連指標)との対応テーブル(開閉異
常パターンテーブル)に基づき、前記流量計による検出流量(または検出関連指標)から開閉異常が生じている前記開閉弁を特定する手順である。
【0024】
この好ましい実施の形態の流量調節装置によれば、前記開閉弁の開閉異常が生じると、前記開閉異常パターンテーブルに基づいて、開閉異常が生じている開閉弁を容易に特定することができる。
【0025】
なお、開閉異常が生じている開閉弁を特定する開閉異常特定手段としては、各開閉弁の開閉異常を検出するセンサを設けて、開閉異常の開閉弁を特定するものが考えられる。しかしながら、この開閉異常特定手段では、装置構成が複雑となるとともに、開閉弁のコストが高くなる。これに対して、この好ましい実施の形態によれば、開閉異常の開閉弁を特定するために、前記各開閉弁に開閉異常検出センサを設けないので、装置構成を簡素化できる。
【0026】
以上の実施の形態の流量調節装置は、前述のように、給水中の不純物を除去する濾過膜部と、前記濾過膜部へ被処理水を供給する被処理水ラインと、前記濾過膜部を透過した処理水を使用機器へ供給する処理水ラインと、前記濾過膜部からの濃縮水の一部を系外へ排水する排水ラインと、濃縮水の残部を前記濾過膜部の上流側へ還流させる還流ラインとを備えた膜濾過システムにおいて、前記排水ラインに設けることができる。
【0027】
この膜濾過システムの流量調節装置は、好ましくは、前記排水ラインに設けた流量計を第一流量計とし、前記被処理水ラインまたは処理水ラインに第二流量計を設け、前記制御器は、開閉異常が生じている前記開閉弁を特定する異常特定制御手順と、開閉異常が生じている前記開閉弁の開閉状態を含み、かつ正常時の開閉パターンに対応する前記排水ラインの設定流量(または設定回収率)に近いバックアップ設定流量(またはバックアップ設定回収率)の開閉パターンにより、前記開閉弁を制御するバックアップ制御手順とを行うように構成する。
【0028】
この濾過システムにおいては、設定回収率の変更は、被処理水または処理水の温度や前記濾過膜部の上流に設けた軟水装置から硬度が洩れたときなどに行うことができる。被処理水または処理水の温度による設定回収率の変更は、異なる温度帯ごとに、温度が高くなるに連れて、設定回収率を大きくするように構成できる。硬度洩れによる設定回収率の変更は、硬度洩れが発生すると、それまでの設定回収率から低い設定回収率へ変更するように構成できる。また、設定回収率の変更は、特許文献1に記載のように、前記濾過膜部からの処理水水質が目標水質になるように、または目標水質に近づくように、前記排水ラインの排水流量を調節する(電気伝導度が高くなるほど、排水流量を段階的に増やす)ことで行うことができる。
【0029】
また、この濾過システムにおける「排水ラインの設定流量(または設定回収率)に近いバックアップ設定流量(またはバックアップ設定回収率)の開閉パターン」は、好ましくは、前記濾過部の詰まりを防止する観点から設定流量が多い(設定回収率が小さい)範囲でバックアップ設定流量(またはバックアップ設定回収率)を選択する。しかしながら、開閉異常が生じている前記開閉弁の開閉状態によって選択可能な開閉パターンに制限を受けることにより、回収率が小さい範囲でバックアップ設定流量(またはバックアップ設定回収率)を選択できない場合は、回収率が大きい範囲で選択するように構成することができる。
【0030】
さらに、好ましくは、前記異常特定制御手順は、前記開閉パターンの変更する場合および前記開閉パターンを変更しない場合に、生ずる可能性のある前記開閉弁の開閉異常パターンとこの開閉異常パターンが生じたときの前記第一流量計の検出流量(または前記第一
流量計および前記第二流量計の検出流量)に基づき演算される回収率との対応テーブル(開閉異常パターンテーブル)に基づき、前記開閉パターンを変更した際の前記第一流量計の検出流量(または前記第一流量計および前記第二流量計の検出流量)に基づき演算される回収率から開閉異常が生じている前記開閉弁を特定するように構成する。
【実施例1】
【0031】
ついで、この発明の流量調節装置1の実施例1を備えた濾過システム2を図面に従い説明する。図1は、この発明の実施例1を備えた濾過システム2の概略構成を説明する説明図である。図2は、同実施例1を備えた濾過システム2の制御手順(回収率変更制御時)を説明するフローチャート図である。図3は、同実施例1を備えた濾過システム2の回収率と開閉弁の開閉パターンとの関係を説明する図表である。図4および図5は、同実施例1を備えた濾過システム2の開閉弁の開閉パターンの変更によって生ずる可能性のある開閉弁の開閉異常パターンと、この開閉異常パターンが生じたときの回収率と、バックアップ設定回収率との対応関係を説明する図表であり、図6は、同実施例1を備えた濾過システムの他の制御手順(回収率一定制御時)を説明するフローチャート図であり、図7は、同実施例1を備えた濾過システム2の回収率70%時に生ずる可能性のある開閉弁の開閉異常パターンと、この開閉異常パターンが生じたときの回収率と、バックアップ設定回収率との対応関係を説明する図表である。
【0032】
(実施例1を備えた濾過システムの構成)
以下、この発明の実施例1の流量調節装置1を備えた濾過システム2について図面に基づき詳細に説明する。
【0033】
図1において、濾過システム2は、給水中の不純物を除去する濾過膜部3と、濾過膜部3へ被処理水を供給する被処理水ライン4と、濾過膜部3を透過した処理水を使用機器(図示省略)へ供給する処理水ライン5と、濾過膜部3からの濃縮水の一部を系外へ排水する排水ライン6と、濃縮水の残部を濾過膜部3の上流側へ還流させる還流ライン7と、排水ライン6に設けた流量調節装置1と、流量調節装置1などを制御する制御器8を主要部として備える。
【0034】
濾過膜部3は、濾過膜により、被処理水ライン4の被処理水中に含まれる不純物を濾過するものである。濾過膜としては、逆浸透膜(RO膜)やナノ濾過膜(NF膜)などとすることができる。
【0035】
流量調節装置1は、流路に互いに並列に接続されて設けられ、互いの通水抵抗が異なる複数の第一開閉弁9A,第二開閉弁9B,第三開閉弁9Cと、複数の異なる設定回収率%に対応して開閉弁9A,9B,9Cを異なる開閉パターンに制御する制御器8とを含んで構成されている。なお、この実施例1では、各開閉弁9A〜9Cの下流側に互いに通水抵抗の異なる定流量弁機構(図示省略)を設けることによって通水抵抗を異ならせている。
【0036】
流量調節装置1による設定回収率と開閉パターンの関係を示す設定回収率テーブルを図3に示す。設定回収率が決まれば、図3から開閉弁9A,9B,9Cの開閉パターンが決まる。この実施例1の回収率は、50%から80%まで、5%毎に段階的に調節することができるようになっている。なお、図3において、「○」と「×」は、「開」と「閉」を分かりやすくするために、「開」に「○」を、「閉」に「×」を付したもので、特別な意味は無い。
【0037】
そして、排水ライン6に第一流量計10を、処理水ライン5に第二流量計11を、被処理水ライン4に給水ポンプ12および温度センサ13をそれぞれ設けている。給水ポンプ12は、濾過膜部3へ被処理水を供給するためのものである。
【0038】
制御器8は、第一流量計10,第二流量計11,温度センサ12などからの信号を入力して、予め記憶した制御手順により、流量調節装置1,給水ポンプ12,どの開閉弁に開閉異常を生じているのかを表示する表示器14などを制御する。制御手順には、回収率変更手順と、異常特定制御手順と、バックアップ制御手順とが含まれる。
【0039】
回収率変更手順は、設定回収率の変更を行う手順である。設定回収率の変更は、温度センサ13による検出温度と設定回収率とを対応させた回収率変更テーブル(図示省略)を記憶しておき、温度センサ13の検出値に対応する設定回収率を回収率変更テーブルから求めることで行われる。回収率変更テーブルの一例として、温度センサ13による検出温度を15℃から35℃の範囲で複数の温度帯に設定し、各温度帯毎に設定回収率を、検出温度が上昇するにつれて設定回収率が大きい値となるように設定したものとする。
【0040】
異常特定制御手順は、どの開閉弁9A,9B,9Cに開閉異常が生じているかを特定する手順である。具体的には、異常特定制御手順は、設定回収率変更の場合には、設定回収率の変更(開閉弁の開閉パターンの変更)によって生ずる可能性のある開閉弁9A,9B,9Cの開閉異常パターンと、この開閉異常パターンが生じたときの検出回収率との対応を示す開閉異常パターンテーブル(図4および図5)に基づき、開閉パターンを変更した際の検出回収率から開閉異常が生じている開閉弁を特定するように構成する。
【0041】
また、設定回収率一定制御の場合には、生ずる可能性のある開閉弁9A,9B,9Cの開閉異常パターンと、この開閉異常パターンが生じたときの検出回収率との対応を示す開閉異常パターンテーブル(図7にその一部を示す)に基づき、開閉異常発生時の検出回収率から開閉異常が生じている開閉弁を特定するように構成する。なお、検出回収率は、第一流量計10の検出流量R1および第二流量計11の検出流量R2に基づき、R2/(R1+R2)で演算される。
【0042】
まず、設定回収率変更時の開閉異常パターンテーブルについて説明する。設定回収率の変更パターンは、この実施例1では、図4に示すNO.1〜NO.6の6パターンと図5に示すNO.7〜NO.12の6パターンとの合計12パターンが存在する。そして、各設定回収率の変更パターンにおける開閉異常パターンは、開閉パターンの変更に伴い、一つの開閉弁でのみ開閉の変更(開→閉または閉→開)を生ずる場合は、NO.1,2のパターンのように1種類の開閉異常パターンが存在する。また、二つの開閉弁で開閉の変更(開→閉または閉→開)を生ずる場合は、NO.3〜6,9〜12のパターンのように3種類の開閉異常パターン(異常1〜異常3)が存在する。また、三つの開閉弁で開閉の変更(開→閉または閉→開)を生ずる場合は、NO.7,8のパターンのように7種類の開閉異常パターン(異常1〜異常7)が存在する。なお、図4および図5において、「開のまま」は、開から閉への信号が与えられたにもかかわらす、閉に変化しなかった開異常を意味し、「閉のまま」は、閉から開への信号が与えられたにもかかわらず、開に変化しなかった閉異常を意味している。また、「−」は、正常な開閉が行われたことを意味している。
【0043】
つぎに、設定回収率一定制御時の開閉異常パターンテーブルについて説明する。設定回収率%は、図3に示すように、50〜80の7パターンが存在する。そして、各設定回収率における開閉異常パターンは、一つの開閉弁でのみ開閉異常(開→閉または閉→開)を生ずる場合は、3種類の開閉異常パターン(異常1〜異常3)が存在し、二つの開閉弁で開閉異常(開→閉または閉→開)を生ずる場合は、3種類の開閉異常パターン(異常4〜異常6)が存在し、三つの開閉弁で開閉異常(開→閉または閉→開)を生ずる場合は、1種類の開閉異常パターン(異常7)が存在する。結局、各設定回収率において、7パターンの開閉異常パターンが存在するので、合計7×7=49種類の開閉異常パターンが存在することになる。図7は、代表的に設定回収率70%の場合の開閉異常パターンを示して
いる。その他の設定回収率も同様であるので、図示省略している。
【0044】
設定回収率変更時、図4および図5から明らかなように、各設定回収率の変更パターンにおいて、開閉異常パターンに対する検出回収率が異なるので、異常が生じている状態での検出回収率を求めれば、どの開閉異常パターンとなっているのかを特定でき、かつどの開閉弁9A,9B,9Cに異常が生じているのかを特定することができる。この特定は、制御器8において、開閉異常パターンテーブルを予め記憶しておき、第一流量計10の検出流量R1および第二流量計11の検出流量R2に基づき検出回収率を演算することで行うように構成している。
【0045】
また、設定回収率一定制御時、図7から明らかなように、各設定回収率において、開閉異常パターンに対する検出回収率が異なるので、異常が生じている状態での検出回収率を求めれば、どの開閉異常パターンとなっているのかを特定でき、かつどの開閉弁9A,9B,9Cに異常が生じているのかを特定することができる。
【0046】
バックアップ制御手順は、開閉異常が生じている開閉弁9A,9B,9Cの開閉状態を含み、かつ正常時の開閉パターンに対応する設定回収率に近いバックアップ設定回収率の開閉パターンにより、開閉弁9A,9B,9Cを制御するように構成されている。バックアップ制御手順の一例を図2に示す。
【0047】
バックアップ設定回収率は、つぎのようにして求めることができる。すなわち、設定回収率変更時、図4、5の各開閉異常パターンについて、開閉異常が生じている開閉弁9A,9B,9Cの開閉状態を含む開閉パターンを図3の設定回収率テーブルから選択する。ついで、選択された開閉パターンの中から変更後の設定回収率より小さい範囲で、変更後の設定回収率に近い設定回収率を求め、これをバックアップ設定回収率に定める。そして、設定回収率が小さい範囲でバックアップ設定流量を選択できない場合は、回収率が大きい範囲で変更後の設定回収率に近い回収率を求め、これをバックアップ設定回収率に定める。
【0048】
また、設定回収率一定制御時も設定回収率変更時と同様に、バックアップ設定回収率を定めることができる。
【0049】
以上説明したバックアップ設定回収率を求める手順は、異常が発生した都度実行することもできるが、この実施例1では、予め開閉異常パターンに対応するバックアップ設定回収率を計算しておき、図4,図5,図7に示すように、開閉異常パターンテーブルに記憶させている。
【0050】
なお、バックアップ設定回収率は、つぎの手順によって求めるように構成できる。すなわち、まず正常時の設定回収率より5%低い仮設定回収率を設定し、この仮設定回収率が、開閉異常が生じている開閉弁9A,9B,9Cの開閉状態を含むかどうかを判定し、含む場合はこの仮設定回収率をバックアップ設定回収率とする。含まない場合は、仮設定回収率よりさらに5%低い仮設定回収率を設定し、この仮設定回収率が、開閉異常が生じている開閉弁9A,9B,9Cの開閉状態を含むかどうかを判定し、含む場合はこの仮設定回収率をバックアップ設定回収率とする。以下、この処理を正常時の設定回収率より小さい範囲で繰り返す。この処理でバックアップ設定回収率が設定できない場合は、正常時の設定回収率より高い側で5%ずつ仮設定回収率を設定し、この仮設定回収率が、開閉異常が生じている開閉弁9A,9B,9Cの開閉状態を含むかどうかを判定し、含む場合はこの仮設定回収率をバックアップ設定回収率とする。含まない場合は、5%ずつ仮設定回収率を上げてバックアップ設定回収率を求める。
【0051】
(実施例1を備えた濾過システム2の動作)
以上の構成を備える実施例1を備える濾過システム2の動作を説明する。濾過システム2では、これを設置する場所における被処理水(原水)の水質を予め測定しておき、その測定結果に応じた回収率が設定回収率として初期設定される。そして、制御器8は、濾過システム2の運転時に、設定回収率になるよう、開閉弁9A,9B,9Cを図3に示す開閉パターンにて開閉させる。
【0052】
まず、設定回収率変更時の動作を説明する。温度センサ13による検出温度が変化すると、前述のように、設定回収率の変更が行われる。今、図5の変更パターンNO.8が行われたとする。第一開閉弁9Aおよび第二開閉弁9Bを閉→開へ、第三開閉弁9Cを開→閉へと切り替える信号を各開閉弁9A,9B,9Cへ与える。図2を参照して、制御器8は、処理ステップS1(以下、処理ステップSNは、単にSNと称する。)において、検出回収率の変化がありと判断して、S2へ移行する。S2では、検出回収率が正常範囲外かどうかを判定する。なお、例えば目標回収率の5%を超えると正常範囲外と判定する。今、正常範囲外と判定して、処理がS3へ移行するものとする。
【0053】
S3では、変化した検出回収率の値から異常開閉弁の特定が可能かどうかを判定する。すなわち、開閉弁9A,9B,9Cに異常が発生したかどうかの判定を行うとともに、異常判定時にどの開閉弁9A,9B,9Cが開閉異常であるかを特定する。
【0054】
今、第一流量計10および第二流量計11の検出流量に基づき演算した検出回収率が 50%になったとする。制御器8は、検出回収率50%に基づき、開閉異常パターンは、図5の開閉異常パターンテーブルの異常2であり、かつ第三開閉弁9Cが異常であると判定する。この場合は、異常開閉弁の特定が可能であることになり、S3でYESが判定され、S4へ移行する。
【0055】
S4では、表示器14に異常2である旨を報知するとともに、図5から異常2に対応する予め求めているバックアップ設定回収率60%をバックアップ設定回収率として設定する。
【0056】
ついで、S5において、設定されたバックアップ設定回収率60%に対応する開閉パターンにて開閉弁9A,9B,9Cを開閉する。回収率60%の開閉パターンは、図3に示すように、第一開閉弁9A:開,第二開閉弁9B:閉,第三開閉弁9C:開である。第二開閉弁9Bが開から閉に変更される。
【0057】
こうして、第三開閉弁9Cが開閉異常の状態では、何もしなければ検出回収率が50%となるのに対して、バックアップ設定回収率とすることにより、60%の回収率となる。よって、変更後の設定回収率65%に近い回収率で運転することができるとともに、排水量を低減できる。また、バックアップ設定回収率が変更後の設定回収率65%よりも小さい範囲で設定されるので、大きい範囲で設定する場合と比較して、濾過膜部3の詰まりを低減できる。
【0058】
なお、図5の開閉異常パターンの異常2において、バックアップ設定回収率:60(又は70)の(又は70)は、変更後の設定回収率65%に近いバックアップ設定回収率として70%を選択可能であることを意味している。図4および図5の他の開閉異常パターンのバックアップ設定回収率:△△(又は□□)も同様である。しかし、この実施例1のシステムでは、バックアップ設定回収率70%は、変更後の目標とする設定回収率65%よりも小さい範囲ではないので、バックアップ設定回収率として設定しない。また、図4および図5の異常時のバックアップ設定回収率の欄で、網掛けを施している部分は、変更後の設定回収率に近く、かつ変更後の設定回収率よりも小さい範囲で設定されるバックア
ップ設定回収率を示している。
【0059】
つぎに、設定回収率一定時の動作を図6および図7に基づき説明する。なお、図6において、図2と同じSNは、同じ処理を行う。今、設定回収率が70%であり、開閉弁の開閉異常が発生したとする。すると、図6を参照して、S2において、検出回収率が正常範囲外かどうかを判定する。今、正常範囲外として、YESが判定されたとすると、処理がS3へ移行する。
【0060】
S3では、変化した検出回収率の値から異常開閉弁の特定が可能かどうかを判定する。今、第一流量計10および第二流量計11の検出流量に基づき演算した検出回収率が50%になったとする。制御器8は、検出回収率50%に基づき、開閉異常パターンは、図7の開閉異常パターンテーブルの異常4であり、かつ第一開閉弁9Aおよび第二開閉弁9Bが異常であると判定する。この場合は、異常開閉弁の特定が可能であることになり、S3でYESが判定され、S4へ移行する。
【0061】
S4では、表示器14に異常4である旨を報知するとともに、図7から異常4に対応する予め求めているバックアップ設定回収率65%をバックアップ設定回収率として設定する。
【0062】
ついで、S5において、設定されたバックアップ設定回収率65%に対応する開閉パターンにて開閉弁9A,9B,9Cを開閉する。回収率65%の開閉パターンは、図3に示すように、第一開閉弁9A:開,第二開閉弁9B:開,第三開閉弁9C:閉である。第三開閉弁9Cが開から閉に変更される。
【0063】
こうして、第一開閉弁9Aおよび第二開閉弁9Bが開閉異常の状態では、何もしなければ検出回収率が50%となるのに対して、バックアップ設定回収率とすることにより、65%の回収率となる。よって、正常時の設定回収率70%に近い回収率で運転することができるとともに、排水量を低減できる。また、バックアップ設定回収率が正常時の設定回収率70%よりも小さい範囲で設定されるので、大きい範囲で設定する場合と比較して、濾過膜部3の詰まりを低減できる。
【0064】
図2または図6において、S3でNOが判定される,すなわち異常開閉弁の特定ができない場合は、流量計10,11の故障などにより検出回収率の変化が生じたと判定し、S6へ移行して、異常開閉弁の特定不可の開閉パターン(この実施例では、濾過膜部3の上流側で硬度洩れが生じたときの回収率:回収率50%に相当する開閉パターン)に制御する。S2でNOが判定されると、S7へ移行して、判定時の開閉パターンを継続する。
【0065】
以上の実施例1を備える濾過システム2によれば、開閉弁9A,9B,9Cに開閉異常が生ずると、正常時の設定回収率に近いバックアップ設定回収率で運転することができる。また、開閉弁9A,9B,9Cの開閉異常が生じたとき、図4,5または図7などに示す開閉異常パターンテーブルに基づいて、開閉異常が生じている開閉弁9A,9B,9Cを各開閉弁に異常を検出するセンサを設けることなく容易に特定することができる。
【0066】
この発明は、前記実施例1に限定されるものではなく、種々変更可能である。例えば、実施例1の濾過システム2では、第一流量計10と第二流量計11とにより回収率を求めているが、被処理水ライン4に設けた第三流量計(図示省略)と第一流量計10の検出流量から回収率を求めることができる。また、回収率は、第二流流量計11と前記第三流量計の検出流量から求めることができる。
【0067】
さらに、回収率は、排水ライン6の流量から導き出せる関連指標であるが、回収率の代
わりに排水ライン6の流量を用いて、制御器8は、開閉異常が生じている開閉弁9A,9B,9Cの開閉状態を含み、かつ正常時の開閉パターンに対応する設定流量に近いバックアップ設定流量の開閉パターンにより、開閉弁9A,9B,9Cを制御するように構成できる。この場合、排水ライン6の流量は、第一流量計10により直接的に検出するように構成する。しかしながら、排水ライン6の流量は、第二流量計11による検出流量と前記第三流量計による検出流量とから間接的に求めるように構成することもできる。また、本発明の流量調節装置1は、濾過システム2以外のシステム,装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 流量調節装置
2 濾過システム
6 排水ライン(流路)
8 制御器
9A 第一開閉弁(開閉弁)
9B 第二開閉弁(開閉弁)
9C 第三開閉弁(開閉弁)
10 第一流量計(流量計)
11 第二流量計(流量計)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路に互いに並列に接続されて設けられ、互いの通水抵抗が異なる複数の開閉弁と、複数の異なる設定流量(または設定関連指標)に対応して前記開閉弁を異なる開閉パターンに制御する制御器とを備える流量調節装置であって、
前記制御器は、開閉異常が生じている前記開閉弁を特定する異常特定制御手順と、開閉異常が生じている前記開閉弁の開閉状態を含み、かつ正常時の開閉パターンに対応する設定流量(または設定関連指標)に近いバックアップ設定流量(またはバックアップ設定関連指標)の開閉パターンにより、前記開閉弁を制御するバックアップ制御手順とを行うことを特徴とする流量調節装置。
【請求項2】
前記流路の流量を直接的または間接的に検出する流量計を備え、
前記制御器による異常特定制御手順は、生ずる可能性のある前記開閉弁の開閉異常パターンとこの開閉異常パターンが生じたときの前記流量計による検出流量(または検出関連指標)との対応テーブルに基づき、開閉異常時の前記流量計による検出流量(または検出関連指標)から開閉異常が生じている前記開閉弁を特定する手順であることを特徴とする請求項1に記載の流量調節装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−54419(P2013−54419A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190357(P2011−190357)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【Fターム(参考)】