説明

浮上体のセンシング方法

【課題】センサ不使用による低コスト化と省スペース化が図れると共に、浮上体位置の検知精度を向上できる浮上体のセンシング方法を提供する。
【解決手段】磁気浮上している浮上体10の周囲に配置され、それぞれコア11、12とコア11、12に巻回されたコイル13、14とを有する複数の電磁石15、16を用いて浮上体10をセンシングする方法であって、各コイル13、14に共振回路17、18を形成するコンデンサ19、20をそれぞれ直列又は並列に設け、各コイル13、14間の電圧から浮上体10の位置を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気浮上している浮上体の周囲に配置された複数の電磁石を形成するコイル又は別に設けられたコイル(センシングコイル)を用いて浮上体をセンシングする方法に関する。なお、ここで浮上体には、磁気軸受によって磁気浮上し、別に設けられたモータ等によって回転駆動されるロータを含む。
【背景技術】
【0002】
電磁石を用いた磁気浮上制御は、非接触や潤滑油不要などという利点から、様々な分野に応用されている。特に、完全に非接触で回転体(ロータ)を支持できる磁気軸受には、様々な方式が提案されており、実用化されている。
また、近年、水素自動車や宇宙空間などの極低温状態におけるアクチュエータの研究が盛んに行われている。このような極低温下においては、対象物を非接触で駆動させるアクチュエータがあれば、メンテナンスフリーで、半永久的に使用できるという大きな利点がある。
【0003】
このような極低温下において、上記した磁気軸受を駆動させるに際しては、この磁気軸受を制御することが必要不可欠であり、フィードバック制御によってのみ、磁気軸受を安定に駆動させることができる。
この制御方法には、制御自由度に見合った数のセンサを必要とするが、低温中では、センサ感度の変化や、コイル抵抗値の変化のため、誤差が生じてしまう。また、信頼性の高いセンサは高価であり、装置全体に占めるセンサのコストが大きくなってしまうことや、センサを使用するとしても装置が大きく複雑になり、限られたスペースでの使用が困難になるという欠点があった。
【0004】
また、センサ使用時のその他の重要な問題として、センサとアクチュエータの配置の問題もある。剛性ロータの場合は、一般にあまり問題にならないが、弾性ロータの場合は、極めて重要な問題となる。
最も理想とされるのは、センサとアクチュエータを同じ場所に配置することである。これをコロケーションというが、このような場合、閉ループ伝達関数の極とゼロ点が対となって虚軸上に並び、制御系が安定し易い。
しかし、センサとアクチュエータ間の干渉の問題や構造的な制約により、これらを同じ場所に配置できないことが多い。これをノンコロケーションという。この場合は、極とゼロ点が対とならず、制御系が不安定化し易くなる。
【0005】
これらの問題を解決する方法として、セルフセンシング法がある。この方法は、アクチュエータにセンサの機能も兼ね備えさせる方法である。
この方法で、磁気軸受に変位センサを組み込むことが可能であれば、コロケーションの実現や、センサ不使用による低コスト化、更には省スペース化と、以上に示した問題全てを解決できる。
このようなセンシング方法には、これまでにいくつかの方法が提案されてきた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−177919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のセルフセンシング方法は、一対の電磁石の電流信号からその加算信号と減算信号を生成し、位置検出のための高周波電流と位置制御のための制御電流を分離しているのみであるので、この方法によるロータ位置の検知感度の向上には限界があり、ロータ位置の検知精度を向上できなかった。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、センサ不使用による低コスト化と省スペース化が図れると共に、浮上体(ロータも含む)位置の検知精度を向上できる浮上体のセンシング方法(場合によっては、セルフセンシング方法となる)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的に沿う本発明に係る浮上体のセンシング方法は、磁気浮上している浮上体の周囲に配置され、それぞれコアと該コアに巻回されたコイルとを有する複数の電磁石を用いて前記浮上体の位置をセンシングする方法であって、
前記各コイルに共振回路を形成するコンデンサを直列又は並列に設け、前記各コイルに交流又は交流分を含む電流を流して、前記各コイル間の電圧から前記浮上体の位置を検出する。
【0010】
ここで、コイルとコンデンサによって形成される共振回路の共振周波数は、コイルに流す交流(交流分を含む電流を含む)の周波数の0.8〜1.2倍(更に好ましくは、0.9〜1.1倍)の範囲で、コンデンサ(又はリアクタンス)の値を選定するのがよい。なお、コイルのリアクタンスは浮上体が複数のコイルの中心にある場合の値を使用するのがよい。
【0011】
また、本発明に係る浮上体のセンシング方法において、前記コイルは電磁石を形成するコイルと位置検出を行うコイル(センシングコイル)とを同一のコイルで兼用する場合と、別々のコイルを用いる場合とがある。また、浮上体には、回転駆動されるロータを含む他、非回転駆動の物も含む。
【0012】
本発明に係る浮上体のセンシング方法において、前記複数の電磁石は、前記浮上体を挟んで対向配置されていることが好ましく、更に、浮上体の周囲を当角度(360/n;nは3以上)で囲んで配置されるのがよい。なお、実質的には、対向配置された前記電磁石は、前記浮上体の上下及び左右にそれぞれ配置されている(即ち、n=4)場合が最も好ましい。
【0013】
本発明に係る浮上体のセンシング方法において、前記コイル間の電圧から前記浮上体の位置を検知すると共に、それぞれの前記電磁石に別に巻回した第2のコイルに流れる電流(通常、一方向電流、直流)を変えて、前記浮上体の位置を制御することもできる。
【0014】
本発明に係る浮上体のセンシング方法において、前記コアに巻かれているコイルには、前記浮上体の位置を検知して前記共振回路を流れる交流電流が流れていると共に、前記浮上体の位置を制御する電流(直流電流)が流れている場合もあり、この場合は、コイルの数を減少する。
【0015】
本発明に係る浮上体のセンシング方法において、前記電磁石の他に前記浮上体を浮上させる又は前記浮上体の浮上を助ける第2の電磁石が前記浮上体の周りに設けられている場合もある。
【0016】
本発明に係る浮上体のセンシング方法において、前記電磁石のコアを移動させて共振インピーダンスを変化させることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る浮上体のセンシング方法は、各コイルに共振回路を形成するコンデンサを設け、各コイル間の電圧から浮上体の位置を検出するので、浮上体位置の変位量に伴って変化する電圧を、従来よりも大きくできる。これにより、センシング精度の向上が図れ、例えば、センシング機能を備えた磁気軸受装置の実用化が可能となる。従って、高価な変位センサ等を用いる必要がなくなり、装置構成のコンパクト化、また製造コストの低減が図れる。
【0018】
また、複数の電磁石を、浮上体を挟んで対向配置する場合は、浮上体に対する電磁石の位置決めを簡単にできると共に、浮上体の位置調整も容易にできる。
【0019】
そして、コイル間の電圧から浮上体の位置を検知すると共に、電磁石に別に巻回した第2のコイルに流れる電流を変えて、浮上体の位置を制御する場合は、装置構成のコンパクト化が図れる。
なお、コアに巻かれている(電磁石の)コイルに、浮上体の位置を検知して共振回路を流れる交流電流が流れていると共に、浮上体の位置を制御する電流が流れている場合は、装置構成の更なるコンパクト化が図れる。
【0020】
また、電磁石の他に浮上体を浮上させる又は浮上体の浮上を助ける第2の電磁石が浮上体の周りに設けられている場合は、浮上体位置の制御精度を、更に高めることができる。
【0021】
更に、電磁石のコアを移動させて共振インピーダンスを変化させる場合は、簡単な操作で、浮上体の位置の検出精度を、更に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る浮上体のセンシング方法を使用する磁気軸受装置の説明図である。
【図2】(A)は同浮上体のセンシング方法に用いる共振回路方式の原理の説明図、(B)はインダクタンス方式の原理の説明図である。
【図3】共振回路方式を使用した場合の電圧−周波数特性を示す説明図である。
【図4】電磁石の接続方法の説明図である。
【図5】インダクタンスの測定結果の説明図である。
【図6】(A)はインダクタンス方式による中点電圧と変位の関係を示す説明図、(B)は共振回路方式による中点電圧と変位の関係を示す説明図である。
【図7】(A)はインダクタンス方式の実験装置の説明図、(B)は共振回路方式の実験装置の説明図である。
【図8】(A)、(B)はそれぞれインダクタンス方式による空気中でのインパルス応答の説明図、液体窒素中でのインパルス応答の説明図である。
【図9】(A)、(B)はそれぞれ共振回路方式による空気中でのインパルス応答の説明図、液体窒素中でのインパルス応答の説明図である。
【図10】(A)、(B)はそれぞれ2軸制御の実験装置の部分側断面図、電磁石部分での正断面図である。
【図11】(A)、(B)はそれぞれ2軸制御によるインパルス応答結果の説明図、ステップ応答結果の説明図である。
【図12】(A)、(B)はそれぞれ本発明の第2の実施の形態に係る浮上体のセンシング方法を適用した回転装置の正断面図、及び側断面図である。
【図13】本発明の第3の実施の形態に係る浮上体のセンシング方法を使用した極低温ポンプの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1、図2(A)に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る浮上体のセンシング方法は、磁気浮上している磁性体からなる浮上体(例えば、ロータ)10の周囲に配置され、それぞれ磁性材料からなるコア11、12とコア11、12に巻回されたコイル(以下、センシング用コイルともいう)13、14とを有する複数(ここでは、2個)の電磁石15、16を用いて浮上体10をセンシングする方法であり、各コイル(センシングコイル)13、14に共振回路17、18を形成するコンデンサ19、20をそれぞれ並列に設け、各コイル13、14間の電圧(以下、中点電圧ともいう)から浮上体10の位置を検出する方法(共振回路方式を用いた方法)である。以下、この共振回路方式を用いた浮上体のセンシング方法を、インダクタンス型誘導方式(以下、単にインダクタンス方式ともいう)を用いた浮上体のセンシング方法と比較しながら、詳しく説明する。
【0024】
まず、浮上体のセンシング方法による浮上体の変位推定の原理について説明する。
図2(B)に、インダクタンス方式を用いた浮上体のセンシング方法の変位推定の原理図を示す。
図2(B)に示すように、インダクタンス方式では、上下に向かい合うセンシングに用いる上側コイル21と下側コイル22を、直列に接続する。ここで、直列に接続した上側コイル21と下側コイル22の中点電圧が、浮上体の変位に比例して表れる。これを式で表す。
【0025】
上側コイル21と下側コイル22の自己インダクタンスを、それぞれL、Lとすると、それぞれの自己インダクタンス値は、浮上体の変位dによって変化するので、定数項をLcon、浮上体の変位dに対する偏微分値をL´とすると、次の式(1)と式(2)で表される。
=Lcon/2+L´d ・・・(1)
=Lcon/2−L´d ・・・(2)
【0026】
このときの中点電圧vは、上側コイル21と下側コイル22の自己インダクタンスによる電圧降下であり、式(3)で表される。
=L・di/dt=(1−L´d/Lcon)vin/2 ・・・(3)
式(3)中のiは、上側コイル21と下側コイル22を流れるバイアス電流である。従って、式(3)より、中点電圧vには、変位dが振幅変調されたセンシング電圧vin成分が現れることが分かる。
よって、中点電圧vを検出し、センシング電圧vin成分を復調することにより、浮上体の変位推定が、原理的には可能であるといえる。
【0027】
次に、図2(A)に、共振回路を用いた浮上体のセンシング方法の変位推定の原理図を示す。
図2(A)に示すように、共振回路方式では、上下に配置されたコイル13、14と、この各コイル13、14にそれぞれ並列に接続されたコンデンサ19、20により、2つのLC共振回路17、18を作り、それを直列に接続している。
このとき、各コイル13、14の中点電圧V2は、周波数に対して、図3に示すように変化する。
【0028】
図3から、浮上体の変位に応じて、電圧値が変化する2つの周波数帯があることが分かる。
1つは7kHz以下の範囲であり、このとき浮上体が下側(◆)から上側(▲)へ動くと、電圧は下がっていく。もう1つは15kHz以上の範囲であり、このとき浮上体が下側(◆)から上側(▲)へ動くと、電圧は上がっていく。
この2つの範囲を利用して、中点電圧vから浮上体の変位を推定することができると考えられる。
【0029】
続いて、上記したインダクタンス方式と共振回路方式の各浮上体のセンシング方法を使用する磁気軸受装置23とその制御方法について、図1を参照しながら説明する。
図1に示すように、浮上体のセンシング方法を使用する磁気軸受装置23は、2個の電磁石15、16が、浮上体10を挟んで上下方向に対向配置されている。この各電磁石15、16のコア11、12には、各電磁石15、16に対する浮上体10の変位を検知するセンシング用コイル13、14が巻回されている。また、この電磁石15、16には、浮上体10を磁気浮上させると共に、検知した浮上体10の変位に基づいて浮上体10の位置を制御する制御コイル(第2のコイルの一例)24、25が、それぞれ別に巻回されている。なお、共振回路方式の場合、各コイル13、14には、図2(A)に示すように、前記した共振回路17、18を形成するコンデンサ19、20が並列に設けられている。また、センシング用コイル13、14と制御コイル24、25は、それぞれ1つのコア11、12に2つに分かれて巻かれ、それらが直列に接続されて1つのコイルを形成している。
【0030】
まず、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調、交流分を含む電流の一例)回路26より、デューティ比50%の矩形波にDC電圧を加算させた電圧信号を、センシング用コイル13、14に印加する。このようにして、センシング用コイル13、14にバイアス電流を持たせることができる。
このとき、浮上体10が変位すると、同方向に直列接続した上下のインダクタンスが変化することにより、中点電圧が変化する。なお、この中点電圧は、浮上体10の変位に比例することが分かっているため、センシング用コイル13とセンシング用コイル14との間の電圧から、浮上体10の位置を検知できる。
【0031】
そこで、この中点電圧を、BPF(バンドパスフィルタ)27に通して搬送波成分のみを抽出し、整流器28で整流して、LPF(ローパスフィルタ)29に通す。その信号を、A/Dコンバータ30を介してコンピュータ31内のデジタルコントローラに取り込むことで、制御信号とする。この制御信号は、D/Aコンバータ32を介してパワーアンプ33で増幅され、制御コイル24、25を駆動して、上下の電磁石15、16の吸引力の差を利用し、浮上体10の位置制御を行っている。
このように、制御コイル24、25に流れる直流電流を変えて、浮上体10の位置を制御できる。なお、共振回路方式では、電磁石15、16のセンシング用コイル13、14に、浮上体10の位置を検知して共振回路を流れる交流電流を流すと共に、浮上体10の位置を制御する直流電流を流してもよい。
【0032】
次に、電磁石15、16の吸引力の線形化について説明する。
図4に、電磁石15、16の接続方法と磁束の方向を示す。
図4に示すように、上下に配置されたセンシング用コイル13、14同士と、制御コイル24、25同士を、それぞれ直列に接続する。このとき、センシング用コイル13、14は、上下同じ向きに、また制御コイル24、25は、上下逆向きになるように接続する。
これにより、上下の電磁石15、16の吸引力に、差を生じさせることができる。
また、図4中の実線の矢印は、センシング用コイル13、14による磁束を示しており、上下同じ向きとなる。一方、破線の矢印は、制御コイル24、25による磁束を示しており、上下逆向きとなる。
【0033】
このように結線することにより、吸引力の線形化が可能となる。
上下の電磁石15、16を一つの集中磁気回路として考えると、上下のそれぞれの磁束は、次の式(4)と式(5)のように表される。ただし、上の電磁石15の磁束をB、下の電磁石16の磁束をBとする。
=B+B ・・・(4)
=B−B ・・・(5)
ここで、Bはバイアス電流によって形成される磁束密度であり、Bは制御電流によって形成される磁束密度である。
【0034】
従って、制御電流の大きさと向きを変えることにより、制御磁束の向きを変え、浮上体10に加わる力を制御することができる。
一般に、電磁石の吸引力fは、式(6)のように表せる。
f=SB/μ ・・・(6)
ここで、Sは面積、μは真空の透磁率、Bは磁束密度である。
従って、電磁石全体の吸引力Fは、式(7)となる。
F=(B−B)S/μ ・・・(7)
【0035】
この式(7)に、式(4)と式(5)を代入すると、式(8)となる。
F=4SB/μ ・・・(8)
ここで、バイアス磁束密度Bは一定であるので、式(8)は、式(9)及び式(10)と表すことができる。
F=αB ・・・(9)
α=4SB/μ ・・・(10)
これにより、電磁石15、16の吸引力を、制御磁束に対して線形化して考えることができる。
【0036】
続いて、センシングの検証実験について説明する。
浮上体10の浮上実験を行う前に、センシングの機能を検証するため、インダクタンスの測定を行っている。
まず、上下に配置された各コイル13、14の位置を固定し、このコイル13、14に、それぞれインダクタンス検出器を接続する。ここで、浮上体10がないときの上下のインダクタンスが等しいことを確認する。このとき、上下のインダクタンスが異なるようであれば、正確な測定ができないので、各コイル13、14の巻数を調節する必要がある。
【0037】
そして、上下のインダクタンスが等しいことを確認できたら、浮上体10が上下のコイル13、14の中心位置になるように配置する。
なお、上下のインダクタンスは、ギャップを±0.2mm変位させたときに測定している。このインダクタンスの測定結果を、図5に示す。
図5から明らかなように、上下の電磁石15、16はともに、浮上体10の変位に比例してインダクタンスが変化していることを確認できた。
【0038】
次に、中点電圧の測定を行った。
まず、浮上体10が、上下のコイル13、14の中心位置になるようにセッティングする。次に、バイアス電流を0.7A流し、制御電流を−0.5Aから0.5A流した状態において、中心を0mmとして、浮上体10の変位を−0.3mmから0.3mmに変化させたとき、LPF(ローパスフィルタ)29を通過した直後の中点電圧を測定した。
この測定は、インダクタンス方式と共振回路方式の2つについて行った。
【0039】
図6(A)にインダクタンス方式による中点電圧の測定結果を示す。
図6(A)から分かるように、浮上体の変位に比例して、中点電圧が変化していることを確認できる。このときの電圧の変化幅は約2V(=3.6V−1.6V)であった。
また、図6(B)に共振回路方式による中点電圧の測定結果を示す。
図6(B)から分かるように、この方式でも、浮上体の変位に比例して、中点電圧が変化していることが分かる。このときの電圧の変化幅は約4V(=9V−5V)であった。
このように、2つの方式の結果を比較すると、共振回路方式の電圧変化幅の方が大きいことが分かった。
従って、共振回路方式の方が、センシング精度が高いと言える。
【0040】
次に、浮上体の浮上実験について説明する。
ここでは、図7(A)、(B)に示す1軸制御の実験装置40、41を使用した。この図7(A)にはインダクタンス方式で用いた実験装置40を、また(B)には共振回路方式で用いた実験装置41を、それぞれ示している。
なお、各実験装置40、41は、同じ実験装置であり、固定台42、43の向きを変えただけである。このため、インダクタンス方式では、浮上体44が左右方向のみに、また共振回路方式では、浮上体44が上下方向のみに、移動可能となっている。このようにした理由は、共振回路方式でのみ、浮上体44を横向きで浮上できたからである。なお、電磁石45、46のコア(鉄心部分)47、48と浮上体44は、それぞれ積層した電磁鋼板で構成し、各コア47、48には、センシング用コイルと制御コイルをそれぞれ巻いた。
【0041】
まず、図7(A)の実験装置40を用いて、インダクタンス方式による浮上実験を行った結果について説明する。
図8(A)に、空気中でのインパルス応答を示す。この図8(A)から、インパルスを与えて約0.5秒で、浮上体44の変位が収束していることが分かる。
また、図8(B)に、液体窒素中でのインパルス応答を示す。この図8(B)から、液体窒素中では、浮上体44の変位が約0.2秒で収束していることが分かる。これは、液体窒素の粘性の影響と考えられる。
【0042】
次に、図7(B)の実験装置41を用いて、共振回路方式による浮上実験を行った結果について説明する。
図9(A)に、空気中でのインパルス応答を示す。この図9(A)から、インパルスを与えて約0.2秒で、浮上体44の変位が収束していることが分かる。
また、図9(B)に、液体窒素中でのインパルス応答を示す。この図9(B)から、液体窒素中では、浮上体44の変位が約0.2秒で収束していることが分かる。
以上の結果から、インダクタンス方式と共振回路方式を比較すると、共振回路では浮上体44を横向きで浮上させたにも関わらず、浮上体44の変位の収束が速いことから、剛性が強化されたことが分かる。
【0043】
続いて、浮上体の2軸浮上実験について説明する。
ここでは、図10(A)、(B)に示す2軸制御の実験装置50を使用した。
この実験装置50は、浮上体51の上下方向に電磁石52、53が、左右方向に電磁石54、55が、それぞれ対向配置されている(合計4個の電磁石52〜55)。この浮上体51は、固定台56にゴムチューブ57で接続されており、浮上体51が上下方向及び左右方向に、自由に動く構成となっている。なお、各電磁石52〜55と浮上体51は、前記した実験装置41で使用した電磁石と浮上体の構成と同様である。そして、電磁石52〜55には図示しない共振回路を形成するコンデンサが並列に接続されている。
【0044】
図11(A)に2軸制御によるインパルス応答結果を、図11(B)にステップ応答結果を、それぞれ示す。
図11(A)、(B)から明らかなように、浮上体51の変位は、いずれも約0.2秒で収束していることが確認できる。
この結果より、共振回路を用いることにより、2軸制御を行うことが可能であり、安定した浮上を行えることが分かった。
なお、隣り合う電磁石の干渉等を防止できれば、浮上体の多軸浮上(例えば、4軸以上の浮上)も可能になるものと考えられる。
【0045】
次に、図12(A)、(B)に示す本発明の第2の実施の形態に係る浮上体のセンシング方法を適用した回転装置60について説明する。61は磁気浮上している浮上体の一例であるロータであり、左右の磁気軸受装置62、63によって支持されている。磁気軸受装置62、63は、図12(B)に示すように、上下、左右に電磁石64〜67をそれぞれ有している。対となる電磁石64、65及び電磁石66、67の構造は、図1に示す電磁石15、16と同一である。従って、電磁石64、65のコイル(センシングコイル)68、69には図示しない共振回路を構成するコンデンサがそれぞれ並列に接続され、別に制御コイル70、71を備えている。また、電磁石66、67のコイル(センシングコイル)72、73には図示しない共振回路を構成するコンデンサがそれぞれ並列に接続され、別に制御コイル74、75を備えている。
【0046】
なお、77、78は電磁石64、65のコアであり、79、80は電磁石66、67のコアを示す。ロータ61の中央には、周知の誘導電動機81が設けられ、ロータ61を回転駆動している。この実施の形態ではモータは誘導電動機であったが、その他の原理で回転するモータであっても本発明は適用される。
また、この実施の形態においては、ロータ61はラジアル方向に磁気軸受装置62、63で支持されていたが、更に、ロータ61をスラスト方向に支持する磁気軸受装置(以下に説明する実施の形態を参照)を設けることが好ましい。
【0047】
続いて、図13に示す本発明の第3の実施の形態に係る浮上体のセンシング方法を適用した極低温中でも駆動可能なポンプ84について説明する。
図13に示すように、ポンプ84は、中央に浮上体の一例であるロータ85を有し、このロータ85はその左右を磁気軸受装置86、87によって、この浮上体のセンシング方法を用いて非接触状態で支持されている。ロータ85の一端部にはインペラ88を、他端部にはスラスト磁気軸受装置89が設けられている。
【0048】
スラスト磁気軸受装置89は、円板状のコア90とその両側に設けられた電磁石91、92を有し、対となる電磁石91、92との間にコア90が軸方向に浮上、即ち隙間を有して配置されている。電磁石91、92にはそれぞれコアとコイルを有し、コイルには共振用のコンデンサが並列に接続されている。コイルに流す電流によってコア90を浮上させ、それぞれのコイルに流す交流電圧によってコア90の位置を検知し、コア90が所定の位置に配置されるようコイルに電流を流して制御している。なお、それぞれの電磁石91、92のコイルはセンシング用のコイルと制御用のコイルとを分けてもよいし、一つで共用してもよい。
【0049】
磁気軸受装置86、87の間には周知の誘導電動機93が設けられ、ロータ85に回転力を与えている。94は誘導電動機93のステータを示す。このロータ85を回転することによって、インペラ88が回転し、液体窒素が矢印で示す方向に流れていく仕組みとなっている。
【0050】
なお、ロータ85は、磁気軸受装置86、87、スラスト磁気軸受装置89に対して非接触であり、この隙間に液体窒素が流れ込むため、極低温下の振動制御を行う必要がある。このため、振動制御は、垂直方向と水平方向についてそれぞれ行う。
本発明の浮上体のセンシング方法を使用した磁気軸受装置を、このような構造のポンプ84に適用することにより、センシング方式による磁気軸受装置をフルに活かすことができるようになると考えられる。
【0051】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の浮上体のセンシング方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
また、前記実施の形態においては、複数の電磁石を、ロータを挟んで対向配置した場合について説明したが、ロータの周囲に奇数個(例えば、3個又は5個)の電磁石を配置してもよい。この場合、各電磁石は、ロータを中心として等角度に配置するのが、計算を簡略化できて好ましいが、異なる角度で配置してもよい。
そして、前記実施の形態においては、各電磁石(コイル)に共振回路を形成するコンデンサを並列に設けた場合について説明したが、直列に設けてもよい。
【0052】
更に、前記実施の形態においては、ロータを挟んで対向配置された複数の電磁石により、ロータの位置の検知と、ロータの位置の制御を行った場合について説明したが、この電磁石の他に、ロータを浮上させる又はロータの浮上を助ける他の電磁石(第2の電磁石)を、ロータの周りに設けてもよい。例えば、ロータの周方向に隣り合うロータの位置検知及び位置制御を行う電磁石の間に、他の電磁石をそれぞれ配置してもよい。
なお、電磁石のコアを移動させて、共振インピーダンスを変化させてもよい。
以上に示した本発明の浮上体のセンシング方法を使用する磁気軸受装置の規模は、かかる負荷の大きさに応じて適宜選択できる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係る浮上体のセンシング方法は、通常使用されている軸受や案内(例えば、ブッシュなど)を適用できないところ、例えば、高速回転するモータのロータの支持や案内、宇宙機器の回転部の支持や案内、化学薬品工業などのポンプ等にも適用できる。
【符号の説明】
【0054】
10:浮上体、11、12:コア、13、14:コイル、15、16:電磁石、17、18:共振回路、19、20:コンデンサ、21:上側コイル、22:下側コイル、23:磁気軸受装置、24、25:制御コイル、26:PWM回路、27:BPF、28:整流器、29:LPF、30:A/Dコンバータ、31:コンピュータ、32:D/Aコンバータ、33:パワーアンプ、40、41:実験装置、42、43:固定台、44:浮上体、45、46:電磁石、47、48:コア、50:実験装置、51:浮上体、52〜55:電磁石、56:固定台、57:ゴムチューブ、60:回転装置、61:ロータ、62、63:磁気軸受装置、64〜67電磁石、68、69:コイル、70、71:制御コイル、72、73:コイル、74、75:制御コイル、77〜80:コア、81:誘導電動機、84:ポンプ、85:ロータ、86、87:磁気軸受装置、88:インペラ、89:スラスト磁気軸受装置、90:コア、91、92:電磁石、93:誘導電動機、94:ステータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気浮上している浮上体の周囲に配置され、それぞれコアと該コアに巻回されたコイルとを有する複数の電磁石を用いて前記浮上体の位置をセンシングする方法であって、
前記各コイルに共振回路を形成するコンデンサを直列又は並列に設け、前記各コイルに交流又は交流分を含む電流を流して、前記各コイル間の電圧から前記浮上体の位置を検出することを特徴とする浮上体のセンシング方法。
【請求項2】
請求項1記載の浮上体のセンシング方法において、前記複数の電磁石は、前記浮上体を挟んで対向配置されていることを特徴とする浮上体のセンシング方法。
【請求項3】
請求項2記載の浮上体のセンシング方法において、対向配置された前記電磁石は、前記浮上体の上下及び左右にそれぞれ配置されていることを特徴とする浮上体のセンシング方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の浮上体のセンシング方法において、前記コイル間の電圧から前記浮上体の位置を検知すると共に、それぞれの前記電磁石に別に巻回した第2のコイルに流れる電流を変えて、前記浮上体の位置を制御することを特徴とする浮上体のセンシング方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の浮上体のセンシング方法において、前記コアに巻かれているコイルには、前記浮上体の位置を検知して前記共振回路を流れる交流電流が流れていると共に、前記浮上体の位置を制御する電流が流れていることを特徴とする浮上体のセンシング方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の浮上体のセンシング方法において、前記電磁石の他に前記浮上体を浮上させる又は前記浮上体の浮上を助ける第2の電磁石が前記浮上体の周りに設けられていることを特徴とする浮上体のセンシング方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の浮上体のセンシング方法において、前記電磁石のコアを移動させて共振インピーダンスを変化させることを特徴とする浮上体のセンシング方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の浮上体のセンシング方法において、前記浮上体は回転駆動されているロータであることを特徴とする浮上体のセンシング方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−185788(P2010−185788A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30248(P2009−30248)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年8月26日 野波健蔵、水野毅、小森望充発行の「ISMB 11 The Eleventh International Symposium on Magnetic Bearings」(CD)に発表
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【Fターム(参考)】