説明

浮体と船の相対位置制御方法及び同システム

【課題】洋上プラットフォームの運動に応じてシャトルタンカーを安全領域の中で稼動できるように制御すること等が可能な浮体と船の相対位置制御方法及び同システムを提供すること。
【解決手段】シャトルタンカー1000周りの環境状況を検出する各種センサ200と、環境状況とこの環境状況により船体に働く環境外力の関係を予め算出して蓄えた外力データベース10と、各種センサ200の検出結果と外力データベース10のデータに基づいて船体に働く外力を評価する外力評価手段20と、外力が最少になるように船首方位を最適化する船首方位最適化手段30と、この出力に基づいて少なくとも目標とする浮体構造物2000に対する船首方位を制御するダイナミックポジショニング制御装置500とを備えて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対位置制御方法及び同システムに係り、特に、例えばシャトルタンカー等の船とその目標とする洋上プラットフォーム等に対する船首方位や位置保持等の制御を行う浮体と船の相対位置制御方法及びそのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
海底から石油を生産するシステムにおいては、浮体として洋上プラットフォームがよく使用されている。この洋上プラットフォームとしては、FPSO(Floating Production, Storage and Offloading:浮体式海洋石油生産・貯蔵・積出設備)が一般的であるが、近年、FPSOに比べて運動性能の優れたMPSO(Monocolumn Hull Floating Production Storage and Offloading:モノコラムハル型浮遊式生産システム)などのコンセプトが提案されている。MPSOは具体的には円柱もしくは多角形型の浮体であり、その中に生産した石油を貯蔵しておくとものである。
【0003】
MPSOから石油を出荷する際には、様々な環境下においても、安全領域の中で船(シャトルタンカー)を位置保持する必要がある。しかしながら、MPSOは係留により位置保持されているものの、環境外乱に起因する長周期運動、及び流れによる渦励振運動(VIM)により大きく周期的運動をすることが実験などを通して明らかになってきた。したがって、シャトルタンカーはMPSOの運動に応じて安全領域の中で稼動できるようにMPSOの運動に応じた相対運動をするように制御する必要がある。
【0004】
すなわち、MPSOの場合、VIMの現象を呈し始め横運動が起こると、MPSOの係留ライン(或いは、チェーン・合成繊維索からなる複合係留ライン)が動くため、シャトルタンカーがこの近傍にいる場合、それに応じて船体が動かなければ係留ラインにシャトルタンカーがぶつかってしまう。一方、シャトルタンカーがあまり遠くに行ったり、近づき過ぎると、ホースが切れ石油が漏れたり、シャトルタンカーがMPSOにぶつかる危険性もある。そのため、適正な船首方位と、ある程度一定の距離を保ちながら、相対的な位置保持をする必要がある。
【0005】
このような事情は実のところ、MPSOに限られるものではない。すなわち、洋上プラットフォームはたとえ最大級の台風が到来しても、損壊したりせずに、限られた範囲にとどまる必要がある。さらに、利用目的(石油掘削・生産、ガスの探索・生産、熱水鉱床の発見、魚介類の増産等)に限らず、各利用目的に応じた機能が長期間に亘って発揮し続けることが保証される必要がある。
【0006】
しかしながら、これまでは洋上プラットフォームにおける上述のような必要性自体が認識されていなかったために、これに対処する技術が厳密には存在しなかった。また、一般的な洋上プラットフォームに関するこれまでのシャトルタンカーの位置保持技術としては、絶対位置保持技術の高度化を図るものばかりであった。つまり、オペレータが指示する位置(Xd、Yd)及び方位(ψd)に船体が移動するように、PID(Proportional Integral Derivative :比例、積分、微分)制御や他の高度な最適制御理論を用いた制御系設計を行うものばかりであった。
【0007】
たとえば特許文献1では、洋上プラットフォームとシャトルタンカーとの目標相対角と実相対角の偏差に基づいてスラスタを制御する技術的思想が開示されているが、フィードフォワードではなく、偏差が生じてしまってからファジイ制御を使用し制御を行っている点、及び現実を反映するデータベースに基づく制御値を割り出すものではない点から、上述した新たな課題に対する精密な解決手段を与えるのは困難であった。
【0008】
また、たとえば特許文献2では、実際の船のパラメータを推定演算し、最適参照針路に基づきフィードフォワード制御及びフィードバック制御を行う技術的思想が開示されているが、船首方位の偏差に基づいてフィードフォワード制御のパラメータを補正する方法であったため誤差や応答性に限界があった。船では誤差がたとえ少々の程度であっても、係留索の切断等、安全上の大きな脅威となるために、上述した新たな課題に対する精密な解決手段としては現実的に困難であった。
【0009】
さらに特許文献3では、軌道演算部の演算結果による参照針路に基づきフィードフォワード制御を行い、フィードバック制御で補正を行う技術的思想が開示されているが、設定針路と設定値のインプットによる軌道演算により参照針路を求めているため理論値による限界が大きいことから、上述した新たな課題に対する精密な解決手段としては現実的に困難であった。
【特許文献1】特開2002−173091号公報
【特許文献2】特開平09−207889号公報
【特許文献3】特開平08−207894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
こうした状況の中、本願発明者らはDPS(Dynamic Positioning System:船体位置保持装置)制御技術を応用・発展させることにより課題解決が実現可能かどうかの検討を続けてきたが、本願は上述の課題に向かいあいながら研究を行うことで生み出されたものである。
【0011】
したがって、本発明は、上述の従来技術では認識していなかった新たな課題に対して、従来技術ではなし得なかった解決手段を与えるためになされたもので、洋上プラットフォームの運動に応じてシャトルタンカーを安全領域の中で稼動できるように制御すること等が可能な浮体と船の相対位置制御方法及び同システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するために、本発明に係る浮体と船の相対位置制御方法は、船体周りの環境状況を検出するセンサからの情報と、環境状況により船体に働く環境外力のデータベース情報に基づいて船体に働く外力を評価し、外力が最少になるように船首方位を最適化し、この最適化した結果に基づいて少なくとも目標とする浮体に対する船首方位を制御することを特徴として構成される。
【0013】
かかる構成を備えることにより、船体周りの環境状況をセンサにより検出し、この情報と環境外力のデータベース情報に基づいて船体に働く外力について推定、計算等の評価が行われる。このデータベースは詳細な実験或いは/及び数値計算に基づいて作成されるものであることから、より実船に近い状態を反映するために、かかる評価は理論式によって導き出したものよりもより正確かつ現実に近いものとなる。このより正確性を増した情報に基づいて船の位置と方位の制御を行うことによって、浮体と船との相対位置保持制御が正確に行える。
【0014】
本願に係る技術的思想は、船の従来のDPS制御技術を相対位置保持技術に発展させるものである。これは上述の開発のニーズからターゲットとする浮体の運動に応じて相対的な位置関係を保ちながら追従制御するものである。従来の船体位置保持装置を発展させたダイナミックポジショニング制御装置へ、船体周りの環境状況を検出するセンサからの情報と、環境状況により船体に働く外力データベース情報に基づいて船首方位を最適化計算し、外力が最小となるような方位を指令値としてダイナミックポジショニング制御装置に入力する仕組みになっている。なお、外力データベースとは、船に働く環境外力を数値計算や実験結果によりデータベースとして整理し、オンライン推定を実現したものを意味する。最適化計算プログラムへの入力としては、センサ等を用いた船体周りの風・波・流れなどの環境情報から得られた外力評価結果と、相対位置保持しようとしているターゲット(他の船や洋上プラットフォーム等の浮体を想定)の位置情報等を想定している。
【0015】
この場合、船の位置と船首方位を制御するフィードバック制御に加えて、外力評価した結果に基づいてフィードフォワード制御を行って船の位置と方位を制御するように構成することもできる。
【0016】
このように構成することにより、環境状況の変化による瞬時の外力を推定し、この推定をもとにフィードバックだけでなくフィードフォワード的に制御する、すなわち強い外力がかかり船が動き出す前の段階でこれを回避できる方向に補正するので、より確実かつ効率的に制御が可能となる。
【0017】
換言すれば、外力を推定して先にフィードフォワードをかけるという概念に則り、事前に瞬時に外力を推定して、これを最少化するような操作をアクチュエータに返すことにより、原理的に、浮体の運動に応じて船を安全領域の中で稼動させることが実現できる。本願はこの際に、大掛かりな実験施設による実験により得た実験結果や計算結果に基づいたデータベースを構築し、これに対してプログラムを使ってかかるデータベースとの照合から、その瞬時の外力の推定、計算等を行っているため、精密な評価が可能となる。したがってこの得られた精密な評価に基づき、例えば特定の方向に特定の大きさの外力をかければ、現実もしくは近い将来の外力を打ち消せるはずだということがデータベースを用いて評定できることとなる。
【0018】
また、上記の場合、センサは、環境状況として波と、風と、潮流の状況を検出するように構成することもできる。
【0019】
このように構成することにより、環境情報として風(風速、方向等)、潮流(潮速、方向等)、波(周期、高さ、方向等)の情報をセンサにより取得して、これとデータベースとの照合により正確・精密な外力の評価が可能となる。この考え方は、MPSOのように円柱型もしくは多角柱型をしている浮体の場合であっても適用ができ、これらの相対位置保持を適正に行うことができる。
【0020】
すなわち、MPSOの場合、外形はちょうど円柱型もしくは多角柱型をしており、流れなどがあると横にゆれるVIM運動の現象を呈し始める。したがって、風(風速、方向等)、潮流(潮速、方向等)、波(周期、高さ、方向等)の状況をセンサによって情報として取得することで、この取得情報と、予め実験や数値計算によって得られたデータベースとを照合することにより、より高い外力の評価が可能となる。
【0021】
また、上記の場合、データベース情報は、船体周りの環境状況に応じた船体外力の数値計算結果および/または実験データに基づくように構成することもできる。このように構成することにより、より現実を反映した外力の評価が可能となる。すなわち、海象は単一の変数を用いた仮定式・理論式で説明しきれないほど現実的には複雑極まりない現象であることから、現状では、いかなる理論式でも誤差が大きく、いわばこの海象を正確に数字的に求める式は存在しない。逆にいえば、どのような現状の理論式を用いてもそれにより生ずる誤差は極めて大きい。一方、海難はこれにより生ずる被害が時として非常に甚大なものとなる危険性を孕んでいる。換言すれば、想定外の外力が加わることによる係留索の破断、オイル漏れ等の事故の影響の大きさに鑑みれば、理論式では現実的には許容しきれない誤差を生んでしまう可能性が大きい。したがって、海難を発生させる恐れのある誤差を生む理論式よりも、現実値により近接したデータベースによる方が、海上安全上は極めて意義が大きいものといえる。本願はこの考え方に立脚してなされたものともいえる。
【0022】
つまり、潮流、風、波のそれぞれの間の関係についてのデータベースを、実験或いは/及び数値計算により作成する。この上で潮流、風、波の現実の値をセンシングし、このセンシングのデータをキー(条件)にして、プログラムにて、当該データベースから該当する外力評価値を引っ張り出してきて、外力評価を行う。もしこのデータベースに該当値がない場合には、別個の補正プログラムによって補正計算させるようにする。そして外力評価の結果、船首をどういう方向に向けたら外力が最少になるかということを最適化する。このように、外力評価にデータベースを用い、かつこのデータベースには実験や実験に裏付けされた数値計算結果が反映されるように担保されることで、正確な外力評価とこれに基づく位置、方位修正等が可能となる。
【0023】
また、上記の場合、船体周りの環境状況に係る情報に加えて、もしくはこれに代替させて、浮体の周囲の環境情報を制御に利用するように構成することもできる。
【0024】
このように構成することにより、船体周りの環境状況に加えて、もしくはこれに代えて、浮体の周囲の環境状況をセンサにより検出し、この情報と環境外力のデータベース情報に基づいて船体に働く外力についての評価を行い、先に述べた船体周りの環境状況に基づく外力評価の補助もしくは代替として用いることもできる。船体周りの環境状況とともに浮体周りの環境状況も考慮に入れた上で、或いは船体周りの環境状況に代替させて浮体周りの環境状況を考慮に入れ、データベース照合を行うことから、浮体と船との相対的な関係によってはより精密な、またより早い外力評価が可能となる。
【0025】
しかもこのデータベースは詳細な実験或いは/及び数値計算に基づいて作成されるものであることから、単なる理論値でなくより現実値に近い状態を反映するために、かかる外力評価は理論式によって導き出したものよりもより正確かつ現実に近いものとなる。
【0026】
さらに、本願に係る浮体と船の相対位置制御システムは、船体周りの環境状況を検出するセンサと、環境状況とこの環境状況により船体に働く環境外力の関係を予め算出および/または実験して蓄えたデータベースと、センサの検出結果とデータベースのデータに基づいて船体に働く外力を評価する外力評価手段と、外力が最少になるように船首方位を最適化する最適化手段と、この最適化手段の出力に基づいて少なくとも目標とする浮体に対する船首方位を制御するダイナミックポジショニング制御装置とを備えて構成される。
【0027】
このとき、センサは、たとえば環境情報として風(風速、方向等)、潮流(潮速、方向等)、波(周期、高さ、方向等)等といった情報をセンシングし取得する機能を有する装置・器具をいう。
【0028】
また、データベースは、環境情報と外力評価値情報とを対応させてデータ化させた機能を有するものをいう。
【0029】
また、外力評価手段とは、たとえば上記センサによって取得したデータを検索キーにして上記データベースのデータを取得して、(場合により一定の係数をかけるなどの操作を施して、)外力を推定、計算等評価する機能を有するアルゴリズム、プログラム、或いはこれを組み込んだROM(Read Only Memory)、チップ等(以下、これらを総称して「プログラム等」ともいう。)によって実現される。
【0030】
また、最適化手段とは、外力が最少になるように船首方位を最適化する機能を有するものをいい、たとえば外力評価手段により得られた(出力された)外力に対して、これが最小化できる方位を演算するという機能(アルゴリズム)をコンピュータに実行させるプログラム等によって実現される。
【0031】
また、ダイナミックポジショニング制御装置とは、設定値と船の船首方位、位置等の値を比較しアクチュエータとしてのポッドプロペラやスラスタ等を制御して偏差をなくすように制御するとともに、外力評価手段や船首方位の最適化手段からの信号も取り込み、目標とする浮体に対する船首方位を制御する機能を有する装置をいう。
【0032】
かかる構成を備えることにより、船体周りの環境状況をセンサにより検出し、環境状況とこの環境状況により船体に働く環境外力の関係を予め算出、実験して蓄えたデータベースのデータとセンサにより検出した情報とに基づいて外力評価手段が船体に働く外力についての評価を行う。このデータベースは詳細な実験あるいは実験に裏付けられた数値計算に基づいて作成されるものであることから、単なる理論値でなくより現実値に近い状態を反映するために、かかる評価は理論式によって導き出したものよりもより正確かつ現実に近いものとなる。次に最適化手段により外力が最少になるように船首方位が最適化される。この上で、ダイナミックポジショニング制御装置が、この最適化手段の出力に基づいて少なくとも目標とする浮体に対する船首方位を制御する。この船首方位の制御は上記のより正確性を増した情報に基づいているために、浮体と船との相対位置保持制御が可能となる。
【0033】
また、上記の場合、ダイナミックポジショニング制御装置は、船の位置と船首方位を制御するフィードバック制御部を有し、このフィードバック制御部の信号に外力評価手段の出力をフィードフォワード制御信号として付加し船首方位を制御するように構成することもできる。
【0034】
このフィードバック制御部とは、現在の状態変数量と目標値を比較して、それの偏差を返すことにより、この偏差を少なくする方向に制御する機能を有するものをいい、具体的には、最適化手段の出力に基づいて目標とする浮体に対する船の位置、船首方位と現在の位置、方位とを比較して偏差を求め、この偏差を修正する方向にアクチュエータを作動させる機能を有する装置、或いはかかる機能をコンピュータによって実現するためのプログラム等をいう。
【0035】
このように構成することにより、このフィードバック制御部の信号に上記外力評価手段の出力がフィードフォワード制御信号として付加されて船の位置や船首方位が制御されるので、強い外力がかかり船が動き出す前の段階でこれを回避できる。
【0036】
この場合、船の位置や船首方位の制御すなわち方位を変えるということは、前後方向や横方向運動、回転や回動運動をするということである。フィードバックとは上述のとおり、現在の状態量と目標値を比較して、それの偏差を返すものである。通常の産業機材においては概ねフィードバック制御が適用されるが、船のように外力が加わってから船体が動き、またそれに伴う船首方位を修正することに時間を要する上、安全上の脅威が大惨事に繋がりかねない用途においては、フィードフォワード制御を併用することが望ましいと考える。
【0037】
また、本願によれば、従来の船体位置保持装置にアルゴリズム(プログラム)の追加、つまりソフト面での改造のみでことが足りることから、現状の制御システム全体の大幅な変更が不必要となる。
【0038】
さらに本願によれば、相対位置保持しながら外力最小化するように船体の方位を制御するため、大きなスラスト力及び時定数の小さなアクチュエータ(ポッド・アジマススラスタなど)を必要としない設計であり、不必要に高性能なスラスタを要求しない。
【発明の効果】
【0039】
本発明に係る方法によれば、船体周りの環境状況をセンサにより検出し、この情報と環境外力のデータベース情報に基づいて船体に働く外力についての評価が行われるところ、このデータベースは詳細な実験或いは/及び数値計算に基づいて作成されるものであることから、単なる理論値より現実値に近い状態を反映するために、かかる評価は理論式によって導き出したものよりもより正確かつ現実に近いものとなる。このより正確性を増した情報に基づいて船首方位の制御を行うことによって、浮体と船との相対位置保持制御が可能となる。したがって、係留索の切断等の事故を、事故が起こり得る危険領域に至る手前で効果的かつ確実に回避することが可能となる。
【0040】
また、外力が最少になるように船首方位が制御されるところから、アクチュエータも小さくて済み、位置保持に要するエネルギーも少なくて済む。従って、保守的な設計を回避することが可能であり、経済的な意味においても効果が高い。
【0041】
また、本発明に係る方法によれば、瞬時の外力を推定し、この推定をもとにフィードバックだけでなくフィードフォワード的に制御する、すなわち強い外力がかかり船が動き出す前の段階でこれを回避できる方向に補正するので、より確実かつ効率的に、浮体の運動に応じて船を安全領域の中で稼動させることができる。すなわち、相対位置保持制御とこれによる少なくとも外形的な意味での安全的係留を達成することができる。
【0042】
さらに、本発明に係る方法によれば、環境情報として風(風速、方向等)、潮流(潮速、方向等)、波(周期、高さ、方向等)の情報をセンサにより取得して、これとデータベースとの照合により、船体に働く外力を正確・精密に評価し、最少になるような最適方位の決定が可能となる。このため海象として船に働く外力要素が網羅でき、正しい外力推定が可能となる。
【0043】
この考え方は、船以外にも、MPSOのように円柱型もしくは多角柱型をしている浮体の場合であっても、相対位置保持制御を適正に行うことに利用できる。
【0044】
また、風、潮流、波のデータはいわゆる海象データとして、船や浮体の用途のみならず広く海事活動一般に活用できるものとなる。
【0045】
さらに、本発明に係る方法によれば、船体周りの環境状況に加えて、もしくはこれに代えて、浮体の周囲の環境状況をセンサにより検出し、この情報と環境外力のデータベース情報に基づいて船体に働く外力についての評価を行っているため、浮体の周囲の環境状況を船体周りの環境状況に基づく外力評価の補助もしくは代替として用いることができる。更に、浮体と船との相対的な関係によってはより精密な、またはより早い外力評価が可能となる。すなわち、浮体の方が船よりも波の前方、風や潮流の上流側に位置する場合は、船で検出する環境状況の変化をいち早く検出でき、より速い外力評価と制御が可能となる。また、長年に亘り、稼働している浮体にあっては、長期間のこれら海象データの蓄積結果からより精密な、相対位置制御に結び付けることができる。
【0046】
さらに、本発明に係る浮体と船の相対位置制御システムによれば、船体周りの環境状況をセンサにより検出し、環境状況とこの環境状況により船体に働く環境外力の関係を予め算出して蓄えたデータベースのデータとセンサにより検出した情報とに基づいて外力評価手段が船体に働く外力についての評価を行う。このデータベースは詳細な実験、実験に裏付けされた計算結果に基づいて作成されるものであることから、単なる理論値でなくより現実値に近い状態を反映するために、かかる評価は理論式によって導き出したものよりもより正確かつ現実に近いものとなる。次に最適化手段により外力が最少になるように船首方位が最適化される。この上で、ダイナミックポジショニング制御装置が、この最適化手段の出力に基づいて少なくとも目標とする浮体に対する船首方位を制御する。この船首方位の制御は上記のより正確性を増した情報に基づいているために、浮体と船との相対位置保持制御が正確に行え、所定の範囲内に留めることが可能となる。したがって、係留索の切断等の事故を、事故が起こり得る危険領域に至る手前で効果的かつ確実に回避することが可能となる。
【0047】
ダイナミックポジショニング制御装置は、従来の船体位置保持装置にアルゴリズム(プログラム)の追加、つまりソフト面での改造のみでことが足りることから、現状の制御装置全体の大幅な変更が不必要となり、既存船への適用を含めて低価格で新しい制御技術を提供できる。
【0048】
また、本発明に係る浮体と船の相対位置制御システムによれば、このフィードバック制御部の信号に、外力評価手段の出力がフィードフォワード制御信号として付加されて船首方位が制御されるので、即応的に危険防止を図ることが可能となる。つまり、外力評価手段の出力を、フィードフォワード制御信号としても採用し、フィードバック制御部の信号と併せて船首方位を制御する。換言すれば、瞬時の外力を推定し、この推定をもとにフィードバックだけでなくフィードフォワード的に制御する、すなわち強い外力がかかる前の段階でこれを回避できる方向に補正するので、より確実かつ効率的に、浮体の運動に応じて船を安全領域の中で稼動させることができる。すなわち、相対位置保持制御とこれによる安全的係留及び浮体からの石油等の円滑な出荷を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。なお、以下では、本発明の目的の達成のために説明に必要な範囲を模式的に示し、本発明の該当部分の説明に必要な範囲を主に説明することとし、説明を省略する箇所については公知技術によるものとする。
【0050】
図1は、本発明の一実施形態に係る浮体構造物と船との位置関係を概略的に示した図である。同図に示されるように、本願に係るシステムの環境として、船としてのシャトルタンカー1000と浮体としての浮体構造物2000とがホース3000によって連携され石油を汲み出すように構成される。
【0051】
図2は、図1をさらに詳細にした図であり、(a)はシャトルタンカー1000の立面図を、(b)はシャトルタンカー1000の平面図を、(c)は浮体構造物2000の平面図を、それぞれ表す。同図(b)に示されるように、シャトルタンカー1000にはたとえばその甲板に、かかるシャトルタンカー1000周りの環境状況をセンシングするための、潮流センサ210(A:左舷、B:右舷)、風センサ220、波センサ230(A:左舷、B:右舷)がある。さらにシャトルタンカー1000には、GPS(Global Positioning System:衛星利用測位システム)240、ジャイロ250、ポッド/スラスタ300(A:左舷、B:右舷)が配置されて構成される。潮流センサ210(A、B)と波センサ230(A、B)は、それぞれ左右舷に設けているため、潮流、波の方位によるシャトルタンカー1000自身による影響を補うことができる。
【0052】
また、同図(c)に示されるように、浮体構造物2000にはたとえばその(に該当する場所)上に、かかる浮体構造物2000周りの環境状況をセンシングするための、潮流センサ2210(A〜C)、風センサ2220、波センサ2230(A〜C)、GPS2240、ジャイロ2250が配置されている。潮流センサ2210(A〜C)と波センサ2230(A〜C)は、それぞれ約120°ごとに各3個づつ設けているため、潮流、波の方位による浮体構造物2000自身の影響を補うことができる。
【0053】
潮流センサ210、2210は、環境情報として潮流(潮速、方向等)に係る情報をセンシングし取得する機能を有する装置・器具をいう。
【0054】
風センサ220、2220は、環境情報として風(風速、方向等)に係る情報をセンシングし取得する機能を有する装置・器具をいう。
【0055】
波センサ230,2230は、環境情報として波(周期、高さ、方向等)に係る情報をセンシングし取得する機能を有する装置・器具をいう。
【0056】
ポッドプロペラ/スラスタ300は、船の推進装置(アクチュエータ)の一部の機能をいい、たとえば、プロペラが水平方向に約360度回転するポッドプロペラや船を横方向に動かすサイドスラスタによって実現される。
【0057】
図3は、本発明の一実施形態に係る浮体と船の相対位置制御方法を実現するためのシステムとして本発明に係る技術思想を見た場合のブロック構成の概略及び全体的な考え方を概念的に表した全体構成ブロック図である。
【0058】
同図に示すように、本発明に係るシステムは、主に、外力データベース10、外力評価部20、船首方位最適化部30、潮流センサ210、風センサ220、波センサ230、ポッド/スラスタ300、DP(Dynamic Positioning:自動船位保持)コントローラ400と、これらを搭載するシャトルタンカー1000、さらにこのシャトルタンカーと連携される浮体構造物2000とを備えて構成される。同図に示されるように、外力データベース10、外力評価部20、船首方位最適化部30は評価推定部100の中に配置されているが、このように一つに纏められている代わりに別個に存在・配置していてもよい。また、潮流センサ210、風センサ220、波センサ230はセンサ部200に纏めて配置されている。
【0059】
外力データベース10は、たとえば風(風速、方向等)、潮流(潮速、方向等)、波(周期、高さ、方向等)等といった環境情報とこの際の外力として評価される値を、たとえば実験施設内での実験を何回も行って実験データベースの形で形成されるもの、或いは/及び数値計算による計算結果をデータベース化したものをいう。
【0060】
外力評価部20は、この外力データベース10から後述するプログラムを使って、その瞬時の外力を推定する機能を有する。かかる機能を実現するようにプログラムされたアルゴリズム、プログラム、或いはこれを組み込んだROM(Read Only Memory)、チップ等(以降、これらを総称して「プログラム等」ともいう。)によって実現される。また、単なる推定にとどまらず、例えばこのような外力があれば、或いはこのような方向に向けばもっと外力が落ちるというはずだということを、上記データベース10を使用した計算によって得る機能を持たせることもできる。
【0061】
船首方位最適化部30は、外力が最少になるように船首方位を最適化する機能を有するものをいい、外力評価部20により推定された外力を、これが最小化する方向に演算するようにプログラム等によって実現される。
【0062】
潮流センサ210、風センサ220、波センサ230、ポッド/スラスタ300については、上記で説明したので、ここでは説明を省略する。
【0063】
DPコントローラ400は、船首方位最適化部30の出力に基づいて少なくとも目標とする浮体に対する船首方位を制御する機能を有する装置をいう。これはたとえばポッドプロペラ/スラスタ300を駆動させて船を所望の位置に移動制御させる機能を実現する装置でもよいし、或いはこのように駆動されるポッド/スラスタ300を含めた概念として実現してもよい。
【0064】
シャトルタンカー1000は、浮体構造物2000から石油を出荷する際に用いることのできる船をいい、先に述べたような各種センサ(210〜230)やGPS240、ジャイロ250を備えている。
【0065】
浮体構造物2000は、洋上プラットフォームとしてのFPSOやMPSOであるがその用途に限定はなく、たとえば石油掘削・生産、ガスの探索・生産、熱水鉱床の発見、魚介類の増産等といった利用目的を持つものであってよい。また、浮体構造物2000周りの環境状況をセンシングするために配置される各センサは、シャトルタンカー1000に係る各センサと相俟って作動させてもよいし、或いはこれとは別個に単独で作動させることによっても、一定の効果を得ることは可能である。
【0066】
次に、上記のように主に構成される本願の一実施形態に係る浮体と船の相対位置制御方法及び同システムの動作を説明する。
【0067】
図3に示されるように、まず、外部環境のうちの状況を情報として、各センサがシャトルタンカー1000周りの環境情報をセンシングし取得する。具体的には、シャトルタンカー1000周りの環境状況のうち潮流情報(潮流に係る潮速、方向等)を潮流センサ210(A:左舷、B:右舷)が、風情報(風に係る速度、方向等)を風センサ220が、波情報(波に係る周期、高さ、方向等)を波センサ230(A:左舷、B:右舷)が、それぞれ取得する。複数あるセンサについては、正しい値を求める処理が行われる。
【0068】
こうして取得された外部環境情報は、評価推定部100に渡されるが、この評価推定部100内では、外力評価部20が、この渡された情報に対応する外力情報を外力データベース10から検索し、取得する。こうして取得された情報、或いは場合によってはかかる情報に(図示しない)一定の係数乗算などの操作を施した情報を外力の評価(推定)値とする。もしこのデータベース検索時に該当データが存在しない場合には、別途(図示しない)補完処理して導き出すようにしてもよい。
【0069】
次に、こうして得られた外力の評価(推定)値が船首方位最適化部30に渡されるが、船首方位最適化部30においては、外力評価の結果、また浮体構造物2000の方位や位置等を基に、船首をどういう方向に向けたらいいかということを最適化する。これはたとえば、一定の演算処理を行うアルゴリズム、すなわち、外力評価部20により得られた(出力された)外力を、これが最小化する方向に演算するようにプログラム等によって実現される。
【0070】
次に、このようにして得られた最適値を用いて船首の方位/位置等を補正する指令が出され、外力を最小化するように、いわゆるフィードバック制御がなされる。具体的には、外力評価部20により得られた外力により船首方位最適化部30が最適化情報を生成し、この情報を基にして、外力を最小化するべく船首の方位を決定し、この指令情報をDPコントローラ400のフィードバック信号の出力側に送り、補正動作を行う。こうしたフィードバック制御は、制御系を乱すような外的な作用、たとえば急激な波、風、潮流が発生したとしても、フィードバックされて適切に修正するように動作することができる。こうしたフィードバック制御を頻繁に行うことで、頑強な相対位置保持制御の制御が可能となる。この場合、制御の頻度としては、1/10秒間隔くらいが最も好ましいが、数秒〜数十μ秒間隔で行うものであってもよい。
【0071】
こうしたフィードバック制御と並行して、外力評価部20により得られた外力により船首方位最適化部30が最適化情報を生成し、この情報を基にして、評価推定部100からポッドプロペラ/スラスタ300に対して、フィードフォワード制御をかける。すなわち、これは、たとえ突然に制御を乱す様々な外的要因が発生し、原理的に外的要因の影響が現れてからでなければ修正を行えないフィードバック制御では対処しきれずに安全が脅かされる可能性がある事態が想定される場合であっても、制御を乱す外的要因、たとえば急激な波、風、潮流が発生した場合であっても、それによる影響が外力として現れる前に、前もってその影響を極力なくすように必要な修正動作を行うものである。
【0072】
この場合、船首方位の制御すなわち方位を変えるということは、回転、あるいは回動運動をするということである。また、位置の制御はこれらの方位制御に加え、ポッド/スラスタ300A、Bを駆動して前後方向、更にポッド/スラスタ300Cを使用しての横方向の制御によって達成される。動作フィードバックとは上述のとおり、現在の状態量と目標値とを比較して、それの偏差を返すものである。通常の産業機材においては概ねフィードバック制御が適用されるが、船のように外力が加わってから船体が動き、またそれに伴う船首方位を修正することに時間を要する上、安全上の脅威が大惨事に繋がりかねない用途においては、フィードフォワード制御を併用することが望ましい。そこで、外力評価部20の出力をフィードフォワード制御信号としても採用し、フィードバック制御部の信号と併せて制御する。すなわち、外力評価部20の出力に応じた動作信号を、DPコントローラ400の入力側に加えポッド/スラスタ300に対して送ることにより、船首方位及び位置を予め制御するようにする。
【0073】
なお、浮体構造物2000とシャトルタンカー1000の相対位置、すなわち相対距離の維持についても、設定された相対距離が維持できるように、環境状況に変化が合った場合に、フィードバックに加えフィードフォワード制御がなされる。
【0074】
換言すれば、瞬時の外力を推定し、この推定をもとにフィードバックだけでなくフィードフォワード的に制御する、すなわち強い外力がかかる前の段階でこれを回避できる方向に補正するので、より確実かつ効率的に、浮体構造物2000の運動に応じてシャトルタンカー1000を安全領域の中で稼動させることができる。すなわち、相対位置保持制御とこれによる安全的係留及び浮体からの石油等の円滑な出荷を達成することができる。
【0075】
この実施形態においては、DPコントローラ400と船首方位/位置等のフィードバック信号部、外力評価部20の信号結節部、船首方位最適化の信号結節部をもってダイナミッポジショニング装置500が構成される。
【0076】
なお、上記ではフィードバック制御とフィードフォワード制御とを併用する思想を説明したが、必ずしも本願に係る思想はこれに限定されるものではなく、フィードバック制御のみを行うものであってもよい。かかる場合であっても、数値計算による実証的データベースに基づく推定・評価を行うため、外力に対して相対位置保持、補正操作を適切に行うことができる。
【0077】
また、上記では、各センサがシャトルタンカー1000周りの環境情報を取得し、この取得された外部環境情報が評価推定部100に渡される旨を説明したが、この情報に加えて、或いはこの情報に代えて、浮体構造物2000周りの環境情報を浮体構造物2000に搭載されるセンサ類によって取得し、この取得された外部環境情報が評価推定部100に渡されるように設計することも可能である。かかるデータを(図示しない)浮体に係るデータベースのデータと照合して外力判定を行い浮体の位置を制御するものであってもよい。
【0078】
このようにすることにより、浮体構造物2000の外部環境情報をシャトルタンカー1000の外力評価の補助として用いることができる。更に、浮体構造物2000とシャトルタンカー1000との相対的な関係によってはより精密な、またはより早い外力評価が可能となる。すなわち、浮体構造物2000の方がシャトルタンカー1000よりも波の前方、風や潮流の上流側にいる場合は、シャトルタンカー1000で検出する環境状況の変化をいち早く検出でき、より速い外力評価と制御が可能となる。また、長年に亘り、稼働している浮体構造物2000にあっては、長期間のこれら外部環境情報が海象データとして蓄積でき、これらを基により精密な、相対位置制御に結び付けることができる。
【0079】
図4は、上記の説明のように制御を行った結果シャトルタンカー1000が目標浮体構造物2000に対して、動作のための安全区域内に保持・係留され、もしくは相対位置保持される様子、或いはそのようにする目的状態を概念的に表した概念図である。
【0080】
以上、詳細に説明したように、本発明の一実施形態に係る方法によれば、シャトルタンカー1000周りの環境状況を潮流センサ210、風センサ220、波センサ230により検出し、これらの情報と外力データベース10の情報に基づいてシャトルタンカー1000体に働く外力についての評価が外力評価部20で行われるところ、この外力データベース10は詳細な実験或いは/及び数値計算に基づいて作成されるものであることから、単なる理論値より現実値に近い状態を反映するために、かかる評価は理論式によって導き出したものよりもより正確かつ現実に近いものとなる。このより正確性を増した情報に基づいて船首方位及び位置の制御を行うことによって、浮体構造物2000とシャトルタンカー1000との相対位置制御が正確に行え、相対位置保持が可能となる。したがって、係留索の切断の事故を、事故が起こり得る危険領域に至る手前で効果的かつ確実に回避することや、ホース3000に過大に力が加わることによるホース3000の切断に伴う石油の海上流出事故が防止することが可能となる。
【0081】
また、外力が最少になるように船首方位が制御されるところから、アクチュエータとしてのポッドプロペラ/スラスタ300も小さくて済み、相対位置保持に要するエネルギーも少なくて済む。
【0082】
また、本発明の一実施形態に係る方法によれば、瞬時の外力を推定し、この推定をもとにフィードバックだけでなくフィードフォワード的に制御する、すなわち強い外力がかかりシャトルタンカー1000体が動き出す前の段階でこれを回避できる方向に補正するので、より確実かつ効率的に、浮体構造物2000の運動に応じてシャトルタンカー1000を安全領域の中で稼動させることができる。すなわち、限られた範囲内への保持と、これによる安全的係留を達成することができる。
【0083】
さらに、本発明の一実施形態に係る方法によれば、環境情報として風(風速、方向等)、潮流(潮速、方向等)、波(周期、高さ、方向等)の情報を潮流センサ210、風センサ220、波センサ230により取得して、これと外力データベース10との照合により、シャトルタンカー1000体に働く外力を正確・精密に評価し、最少になるように外力の推定が可能となる。また、潮流センサ210、波センサ230をシャトルタンカー1000や浮体構造物2000との関係において、複数個設けることにより、潮流、波の方位による浮体構造物2000自身の影響を補うことができる。なお、風、潮流、波の情報は、シャトルタンカー近傍の総合的海象データとしても蓄積利用ができる。
【0084】
また、本発明の一実施形態に係る方法によれば、潮流、風、波のそれぞれの間の関係についての外力データベース10を、実験或いは/及び数値計算により作成する。この上で潮流、風、波の現実の値をセンシングし、このセンシングのデータをキー(条件)にして、プログラム側にて、当該データベースから該当する外力評価値を引っ張り出してきて、外力評価部20で外力評価を行う。もしこの外力データベース10に該当値がない場合には、別個の補正プログラムによって補正計算させるようにする。そして外力評価の結果、船首をどういう方向に向けたら外力が最少になるかということを最適化する。このように、外力推定に外力データベース10を用い、かつこの外力データベース10には実験値や実験に裏付けられた計算値が反映されるように担保されることで、正確な外力評価とこれに基づく方位修正等が可能となる。
【0085】
さらに、本発明の一実施形態に係る方法によれば、シャトルタンカー1000周りの環境状況に加えて、もしくはこれに代えて、浮体構造物2000の周囲の環境状況をセンサにより検出し、これを用いてDPコントローラ400により制御する。或いは、この情報と環境外力のデータベース情報に基づいてシャトルタンカー1000に働く外力についての評価を行い、先に述べたシャトルタンカー1000体周りの環境状況に基づく外力評価の補助として用いることもできる。シャトルタンカー1000周りの環境状況とともに浮体周りの環境状況も考慮に入れた上で、或いはシャトルタンカー1000周りの環境状況に代替させて浮体周りの環境状況を考慮に入れた上で、データベース照合を行うことから、浮体構造物2000とシャトルタンカー1000との相対的な関係によってはより精密な、またはより早い外力評価が可能となる。また、浮体周囲の環境センサによって検出される風、潮流、波等の情報は、浮体近傍の総合的海象データとしても蓄積利用ができる。
【0086】
さらに、本発明の一実施形態に係る浮体と船の相対位置制御システムによれば、シャトルタンカー1000周りの環境状況をセンサにより検出し、環境状況とこの環境状況により船体に働く環境外力の関係を予め算出したり実験して蓄えた外力データベース10のデータとセンサにより検出した情報とに基づいて外力評価部20がシャトルタンカー1000に働く外力についての評価・推定を行う。この外力データベース10は、詳細な実験や実験に裏付けられた数値計算に基づいて作成されるものであることから、単なる理論値でなくより現実値に近い状態を反映するために、かかる評価は理論式によって導き出したものよりもより正確かつ現実に近いものとなる。次に最適化手段により外力が最少になるように船首方位が最適化される。この上で、ダイナミックポジショニング制御装置500が、この最適化手段の出力に基づいて少なくとも目標とする浮体に対する船首方位を制御する。この船首方位の制御は上記のより正確性を増した情報に基づいているために、洋上プラットフォームとシャトルタンカーとの相対位置制御が正確に行え、相対位置保持が可能となる。したがって、係留索の切断等の事故を、事故可能な危険領域に至る手前で効果的かつ確実に回避することが可能となる。
【0087】
また、本発明の一実施形態に係る浮体と船の相対位置制御システムによれば、ここのフィードバック制御部の信号に上記外力評価部20の出力がフィードフォワード制御信号として付加されて船首方位が制御されるので、即応的に危険防止を図ることが可能となる。つまり、外力評価部20の出力を、フィードフォワード制御信号としても採用し、フィードバック制御部の信号と併せて船首方位及び位置を制御する。換言すれば、瞬時の外力を推定し、この推定をもとにフィードバックだけでなくフィードフォワード的に制御する、すなわち強い外力がかかる前の段階でこれを回避できる方向に補正するので、より確実かつ効率的に、浮体構造物2000の運動に応じてシャトルタンカー1000を安全領域の中で稼動させることができる。すなわち、相対位置保持とこれによる安全的係留及び浮体からの石油等の円滑な出荷を達成することができる。
【0088】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。
【0089】
たとえば、上記では環境情報として風(風速、方向等)、潮流(潮速、方向等)、波(周期、高さ、方向等)の情報を用いる場合を主に例示して説明したが、本発明の技術思想はこれらに限定されずに、その他の情報を加えた場合であっても適用可能である。
【0090】
また、上記の説明では主に浮体構造物2000としてMPSOの場合を例示して本願発明に係る技術思想を実施する一つの形態を説明したが、本願はこれに限定されることなく、各種浮体に対しても、或いはその目的も石油掘削・生産に限らず各種のものに適用することが可能である。
【0091】
因みに、PID制御などの制御コントローラの制御係数などは、浮体の運動に応じて船を制御する本願の目的においては、従来の経験に基づく決定方法は適用できないと思われるため、スラスタ等の性能を考慮した新しい方法(最適設計方法)などを提案・確立させる必要が出てくると思われる。
【0092】
また、ターゲットの運動が規則性を持つような場合には、学習制御へ発展させてもよい。これらの点については、今後継続される研究を通して、実験及び数値シミュレーションから様々な知見を得ることで、方法論を確立させることができる。
【0093】
また、上述したものは本発明に係る技術思想を具現化するための実施形態の一例を示したにすぎないものであり、他の実施形態でも本発明に係る技術思想を適用することが可能である。
【0094】
さらにまた、本発明を用いて生産される装置、方法、システムが、その2次的生産品に登載されて商品化された場合であっても、本発明の価値は何ら減ずるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、今後、市場に出てくると思われる大水深海域での海洋石油生産システムのニーズに明確に応えるものであり、海洋石油生産の現場でのみならず、様々な海洋工学分野で十分に利用されていくものと考えられる。したがって、広く社会全般、各種産業全般に対して大きな有益性をもたらすものである。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の一実施形態に係る浮体と船との位置関係を概略的に示した図である。
【図2】図1をさらに詳細にした図であり、その(a)はシャトルタンカー1000の立面図、(b)はシャトルタンカー1000の平面図、(c)は浮体構造物2000の平面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る浮体と船の相対位置制御方法を実現するためのシステムとして本発明に係る技術思想を見た場合のブロック構成の概略及び全体的な考え方を概念的に表した全体構成ブロック図である。
【図4】上記の説明のように制御を行った結果シャトルタンカー1000が目標プラットフォームに対して、動作のための安全区域内に保持・係留され、もしくは相対位置保持される様子、或いはそのようにする目的状態を概念的に表した概念図である。
【符号の説明】
【0097】
10 外力データベース、20 外力評価部、30 船首方位最適化部、100 評価推定部、200 センサ部、210 潮流センサ、220 風センサ、230 波センサ、300 ポッド/スラスタ、400 DPコントローラ、500 ダイナミックポジショニング制御装置 1000 シャトルタンカー、2000 浮体構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体周りの環境状況を検出するセンサからの情報と、環境状況により船体に働く環境外力のデータベース情報に基づいて船体に働く外力を評価し、外力が最少になるように船首方位を最適化し、この最適化した結果に基づいて少なくとも目標とする浮体に対する船首方位を制御することを特徴とする浮体と船の相対位置制御方法。
【請求項2】
船の位置と船首方位を制御するフィードバック制御に加えて、前記外力評価した結果に基づいてフィードフォワード制御を行って船の位置と方位を制御することを特徴とする請求項1記載の浮体と船の相対位置制御方法。
【請求項3】
前記センサは、前記環境状況として波と、風と、潮流の状況を検出することを特徴とする請求項1あるいは2記載の浮体と船の相対位置制御方法。
【請求項4】
前記データベース情報は、船体周りの環境状況に応じた船体外力の数値計算結果および/または実験データに基づいたものであることを特徴とする請求項1あるいは2記載の浮体と船の相対位置制御方法。
【請求項5】
前記船体周りの環境状況に係る情報に加えて、もしくはこれに代替させて、前記浮体の周囲の環境情報を制御に利用したことを特徴とする請求項1あるいは2記載の浮体と船の相対位置制御方法。
【請求項6】
船体周りの環境状況を検出するセンサと、環境状況とこの環境状況により船体に働く環境外力の関係を予め数値計算および/または実験して蓄えたデータベースと、前記センサの検出結果と前記データベースのデータに基づいて船体に働く外力を評価する外力評価手段と、外力が最少になるように船首方位を最適化する最適化手段と、この最適化手段の出力に基づいて少なくとも目標とする浮体に対する船首方位を制御するダイナミックポジショニング制御装置とを備えたことを特徴とする浮体と船の相対位置制御システム。
【請求項7】
前記ダイナミックポジショニング制御装置は、船の位置と船首方位を制御するフィードバック制御部を有し、このフィードバック制御部の信号に前記外力評価手段の出力をフィードフォワード制御信号として付加し、船の位置と方位を制御することを特徴とする請求項6記載の浮体と船の相対位置制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−227035(P2009−227035A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73432(P2008−73432)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(504117958)独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (101)
【出願人】(501204525)独立行政法人海上技術安全研究所 (185)
【Fターム(参考)】