説明

浮遊微粒子捕集装置

【課題】捕集された浮遊微粒子の形状や粒度の分析を正確に行うことができ、またフィルタの圧力損失が小さく、かつ、目詰まりし難いので、風路の内径を小さくすることで吸引手段を小型化することができるため、装置構成を単純化して小型・軽量化でき、屋内や屋外に携帯することもできる携帯性に優れ、さらに浮遊微粒子を捕集した後フィルタを直ちに取り出して迅速な機器分析が可能な浮遊微粒子捕集装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、同一の形状及び0.1〜20μmの同一の孔径で形成された孔部11aを有し厚さが0.1〜20μmの多孔膜11と、多孔膜11を保持したホルダ9と、を有するフィルタ8と、一端に吸気口5が形成され他端に排気口13が形成された風路3と、風路3にフィルタ8を着脱可能に装着し多孔膜11を風路3内に配置するフィルタ装着部7と、風路3に配設された吸引手段12と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中等に浮遊する花粉、黄砂、アスベスト等の浮遊微粒子を捕集する浮遊微粒子捕集装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、炭酸ガスやNOx,SOx等の大気汚染の原因となるガス状化学物質,シックハウス症候群の原因となるホルムアルデヒド等の揮発性化学物質等を含む微量な液体の浮遊微粒子、海塩粒子,黄砂,金属系酸化物,花粉,煤塵,ディーゼル排気微粒子,アスベスト等の固体や繊維状の浮遊微粒子が、人体へ健康被害を及ぼし生態に影響を与える物質として重要視されており、大気中を浮遊する浮遊微粒子の大きさや形状、或いは含まれる化学物質を分析する技術の開発が進められている。
浮遊微粒子を対象とする分析方法として、大気等の雰囲気中の浮遊微粒子を一旦フィルタ等に捕集し、捕集された個々の微粒子を分析する方法が開発されている。
このような技術としては、例えば、本発明者らが開発した(特許文献1)に記載の技術がある。(特許文献1)には、「開口部を有する筐体内に配設された帯状の微粒子捕集体の所定領域を、浮遊微粒子を含む気体内に所定時間暴露させて浮遊微粒子を捕集し、その所定領域を撮像し、撮像画像を画像処理して浮遊微粒子の形状、大きさ、性質、又は浮遊微粒子間の相対的な位置又は距離を測定する浮遊微粒子分析方法及びそれに用いる微粒子捕集装置」が開示されている。なお、(特許文献1)には、微粒子を捕集する微粒子捕集体としては、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリエチレン等の合成樹脂製のフィルムや、ガラス繊維フィルタや石英繊維フィルタ、フッ素樹脂フィルタ等の繊維状フィルタを用いることが記載されている。
【0003】
しかしながら、(特許文献1)に開示された技術では、以下のような問題があった。
(1)微粒子を捕集した際に、捕集された浮遊微粒子の種類によっては微粒子同士が反応してしまい大気中での浮遊状態とは異なる化合物になる可能性があり、正確な分析を行うことができないという問題があった。
(2)大型で高価な分析装置を用いる必要があり、このため浮遊微粒子を捕集する現場において、簡便かつ迅速に大気中の浮遊微粒子の分析を行うことが困難であり、局所的な大気中での浮遊微粒子に関わる環境データを得ることが困難であるという問題があった。
(3)ガラス繊維フィルタや石英繊維フィルタ、フッ素樹脂フィルタ等の繊維状フィルタで微粒子を捕集した場合、フィルタ繊維の隙間に微粒子が入り込むため、微粒子を捕集したままの状態で撮像して画像解析する際にフィルタ繊維と微粒子を分離して解析することが困難であり、またフィルタ繊維の狭い隙間で微粒子の凝集が促進されるため、解析時に微粒子同士の分離解析が困難になるという問題があった。
【0004】
そこで、本発明者らは、上記の問題を解決するために(特許文献2)に記載の技術を完成させた。(特許文献2)には「孔径が20μm以下の多数の孔部を有し厚みが0.1〜20μmで開孔率が45〜75%の浮遊微粒子捕集用フィルタと、前記浮遊微粒子捕集用フィルタの所定領域が開口部から露出するように内部に前記浮遊微粒子捕集用フィルタが配設された筐体と、前記筐体内部に対向して各々回動自在に配設され前記浮遊微粒子捕集用フィルタの両端部が各々巻着される一対の支持軸を有し、前記支持軸を回動させることにより前記開口部に前記浮遊微粒子捕集用フィルタの新しい所定領域を送り出すフィルタ送り部と、を備えた浮遊微粒子捕集装置」が開示されている。
(特許文献2)に開示の技術では、屋内や屋外の現場において浮遊微粒子を簡便かつ迅速に連続して捕集することができ、また浮遊微粒子捕集用フィルタの各々の孔部で浮遊微粒子を個別に捕捉し各々分離した状態で捕集できるので、捕集された微粒子同士が反応し難く正確な分析を行うことができ、さらに浮遊微粒子を多孔膜の表面で捕集することができるので、微粒子を捕集したままの状態で撮像して画像解析を容易に行うことができ、迅速な分析を可能にすることができた。
【特許文献1】特開2004−301768号公報
【特許文献2】特開2005−152849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、(特許文献2)に記載の発明は、以下のような点に改善の余地が残されていた。
(1)(特許文献2)に開示の浮遊微粒子捕集装置は、浮遊微粒子捕集用フィルタの両端部が各々巻着される一対の支持軸を有し、支持軸を回動させることにより開口部に浮遊微粒子捕集用フィルタの新しい所定領域を送り出して測定を行うものなので、浮遊微粒子捕集用フィルタを送り出す際に多孔膜が送り出し方向に伸びて孔部が変形することがある。孔部が変形すると孔径が変化して、浮遊微粒子の分級効果が低下し、浮遊微粒子の形状や粒度の分析の正確性を欠くため、浮遊微粒子捕集用フィルタを送り出さなくても浮遊微粒子を連続的に捕集できるような装置が要求されていた。
(2)浮遊微粒子捕集用フィルタを送り出す際に多孔膜が送り出し方向に伸びて孔部が変形すると浮遊微粒子の形状や粒度の分析に正確性を欠くため、浮遊微粒子捕集用フィルタには多孔膜が伸びないような強度が要求される。このため、多孔膜を補強する等、浮遊微粒子捕集用フィルタの構成や製造工程が煩雑になり生産性が低下するため、簡易な浮遊微粒子捕集用フィルタが使用できるような装置が要求されていた。
(3)浮遊微粒子捕集用フィルタの両端部が各々巻着される一対の支持軸を有しているので、構成が複雑になるとともに装置が大型化する傾向があった。そこで、構成が単純で小型化が可能な装置が要求されていた。
(4)浮遊微粒子捕集用フィルタを送り出すことで浮遊微粒子を時系列に捕集でき、また同時に画像解析による簡易分析は可能ではあるものの、光学顕微鏡や電子顕微鏡等による精密な分析を行うためには、巻き取った浮遊微粒子捕集用フィルタを巻き戻して該当部分を切り取り加工する必要があり、捕集後の迅速な分析作業の障害となっていた。そこで、捕集後直ちに取り出してそのまま機器分析可能な装置が要求されていた。
【0006】
本発明は上記要求を充たすもので、フィルタの多孔膜の孔部が変形し難いため捕集された浮遊微粒子の形状や粒度の分析を正確に行うことができ分析の正確性に優れ、またフィルタの構成や製造工程を単純化することができフィルタの生産性に優れ、またフィルタの圧力損失が小さいのに加えて目詰まりし難いため、風路の内径を小さくすることで吸引手段を小型化することができるため、装置構成を単純化して装置を小型・軽量化でき、屋内や屋外に携帯することもできる携帯性に優れ、さらに浮遊微粒子を捕集した後フィルタを直ちに取り出して迅速な機器分析が可能な浮遊微粒子捕集装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記従来の課題を解決するために本発明の浮遊微粒子捕集装置は、以下の構成を有している。
本発明の請求項1に記載の浮遊微粒子捕集装置は、同一の形状及び0.1〜20μmの同一の孔径で形成された孔部を有し厚さが0.1〜20μmの多孔膜と、前記多孔膜を保持したホルダと、を有するフィルタと、一端に吸気口が形成され他端に排気口が形成された風路と、前記風路に前記フィルタを着脱可能に装着し前記多孔膜を前記風路内に配置するフィルタ装着部と、前記風路に配設された吸引手段と、を備えた構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)同一の形状及び0.1〜20μmの同一の孔径で形成された孔部を有し厚さが0.1〜20μmの多孔膜と、多孔膜を保持したホルダと、を有するフィルタと、風路にフィルタを着脱可能に装着し多孔膜を風路内に配置するフィルタ装着部と、を備えているので、浮遊微粒子を捕集したフィルタをフィルタ装着部から取り外して、新しいフィルタを装着することで、フィルタの多孔膜に引張力等の外力を与えずにフィルタを交換することができるので、多孔膜の孔部が変形し難く浮遊微粒子の形状や粒度の分析を正確に行うことができる。
(2)多孔膜がホルダに保持されたフィルタを用いているので、フィルタの構成や製造工程を単純化することができフィルタの生産性に優れる。
(3)フィルタの圧力損失が小さく、また浮遊微粒子の捕集効率が高く、加えて多孔膜の孔径以下のほとんどの粒子は透過するため目詰まりし難いことにより、風路の内径を小さくすることが可能になり吸引手段を小型化することができるため、装置構成を単純化することができ装置を小型・軽量化でき、屋内や屋外に携帯することもでき携帯性に優れる。
(4)フィルタを小型にでき、フィルタを多段に重ねても簡便に脱着できるので、浮遊微粒子を捕集後直ちに取り出してそのまま分析機器の試料に用いることができ、捕集場所での迅速な分析を可能にする。
【0008】
ここで、多孔膜としては、例えば、高分子化合物で形成されたものが用いられる。このような高分子化合物としては、ポリフッ化ビニリデン,トリフルオロエチレン等のフッ素系重合体、ポリスルホン,ポリエーテルスルホン,ポリカーボネート,ポリエーテルイミド,ポリエチレンテレフタレート,ポリメチルメタクリレート,ポリブチル(メタ)アクリレート等のポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリアクリルニトリル,酢酸セルロース,硝酸セルロース等のセルロースエステル類、ポリエチレン,ポリ−4−メチル−1−ペンテン,ポリブタジエン等のポリオレフィン、ポリ乳酸,ポリヒドロキシ酪酸,グリコール酸−乳酸共重合体等の生分解性高分子、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリ−4−ビニルピリジン、ポリビニルピロリドン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、シリコン系ポリマー、ポリフェニレンオキサイド等の重合体、或いはこれらの共重合体を挙げることができる。
多孔膜は、湿式凝固法や、湿式凝固法と荷電粒子照射法の併用等によって製造することができる。また、特開昭63−267406号公報に記載された水蒸気凝固法によって製造することもできる。
また、特開2005−152849号公報に記載されているように、前述の高分子化合物を疎水性有機溶媒に溶解した溶液を基板上に流延し、高湿度空気を吹き付け、疎水性有機溶媒を蒸発させて製造することもできる。このような疎水性有機溶媒としては、ベンゼン,トルエン,p−キシレン等の芳香族炭化水素、モノクロロベンゼン,o−ジクロロベンゼン,トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素、クロロホルム,四塩化炭素,塩化メチレン,トリクロロエチレン,パークロロエチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素、ペンタン,へキサン,ヘプタン,オクタン等の脂肪族炭化水素等が挙げられる。なお、疎水性有機溶媒に、高分子化合物とともに両親媒性高分子化合物を溶解したものを用いることもできる。高分子化合物と両親媒性高分子化合物との混合比としては、重量比で5:1〜20:1が用いられる。両親媒性高分子化合物としては、両親媒性ポリアクリルアミド等が用いられる。
このようにして高分子化合物で形成された多孔膜は網目状の高分子部分が極めて細くて開口部が非常に大きい特徴を有し、かつ高分子も透明に近いものが得られるので、捕集された浮遊微粒子を光学顕微鏡で前処理を施すことなく透過光でも観察することができ簡便性に優れる。従来、白色のメンブレンフィルタに捕集された浮遊微粒子の計数分析を行う場合、浮遊微粒子がアスベスト等の透明な微粒子である場合には、アセトン等を用いてメンブレンフィルタの透明化処理を行う必要があり煩雑であった。
【0009】
多孔膜の孔部の形状としては、円形,楕円形が用いられる。なかでも円形に形成された孔部が好適に用いられる。分級効果に優れるからである。
多孔膜の孔部の孔径としては、0.1〜20μm好ましくは0.1〜10μmの範囲内で適宜設定することができる。捕集対象となるのは、海塩粒子,黄砂,金属系酸化物,花粉等のアレルゲン物質、煤塵,ディーゼル排気微粒子,アスベスト,トナー等の人工物質、細菌等の固体や繊維状の浮遊微粒子であり、これらの粒径分布(繊維状の浮遊微粒子の場合は短径の分布)は7μm付近、3μm以下にピークがあるため、これらの捕集に好適に用いることができる。
多孔膜の厚さとしては、0.1〜20μmが好適である。厚さが0.1μmより薄くなるにつれ多孔膜の強度が低下し耐久性が低下し、20μmより厚くなるにつれ同一の形状かつ孔径の孔部を形成するのが困難になり多孔膜の生産性が低下するため、いずれも好ましくない。
多孔膜の開孔率としては、45〜75%が用いられる。多孔膜の開孔率が45%より小さくなるにつれ孔径より小さい粒径の浮遊微粒子が多孔膜に引っ掛かったり目詰まりが生じたりする傾向がみられ、75%より大きくなるにつれ多孔膜の強度が低下し耐久性が低下する傾向がみられるため、いずれも好ましくない。
【0010】
ホルダとしては、金属製、合成樹脂製、ゴム製、ガラス製、セラミック製等で形成されたものを用いることができる。
【0011】
フィルタ装着部としては、多孔膜を風路内に配設することができ、さらにフィルタを着脱自在に装着できるものであれば、特に制限なく用いることができる。なお、風路の端面若しくは断面がフィルタのホルダと密接され、吸気口若しくは排気口に多孔膜が配置され、又は吸気口と排気口との間に多孔膜が介装されて配置されるものが用いられる。吸引手段で吸引された気体を漏れなく多孔膜に通過させるためである。
フィルタ装着部には、1乃至複数枚のフィルタを装着させることができる。多孔膜を備えたフィルタの下流側に、ガラス繊維フィルタや石英繊維フィルタ、メンブレンフィルタを装着することもできる。これにより、多孔膜を通過した微細な浮遊微粒子を捕集することができる。
【0012】
吸引手段としては、吸引ポンプが用いられる。また、ヒータ等で対流を生じさせ、気体を吸気口から吸引させるものも用いることができる。吸引手段は、配置された多孔膜の風路の上流側又は下流側のいずれに配設してもよい。
なお、吸引手段による単位時間あたりの気体の吸引流量及び吸引時間を適宜設定することにより、吸引した気体量、即ち多孔膜を通過した気体量を算出でき、この気体量と捕集された浮遊微粒子の個数や種類から、捕集場所における浮遊微粒子による汚染の程度を測定することができる。
【0013】
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の浮遊微粒子捕集装置であって、前記孔部の標準偏差が0.5μm以下、又は、前記孔部の変動係数が0.2以下である構成を有している。
この構成により、請求項1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)孔部の標準偏差が0.5μm以下、又は、孔部の変動係数が0.2以下であって孔径分布が著しく狭いので、多孔膜での分級効果を高めることができるとともに、アスベスト等の繊維状の浮遊微粒子を捕集する場合の捕集効率を高めることができる。
(2)孔径分布が著しく狭いので、粒子径の揃った微粒子の捕集、例えばスギ花粉や黄砂のみの選別捕集ができる。
【0014】
ここで、孔部の標準偏差は0〜0.5μm、変動係数は0〜0.2が好適である。変動係数は、標準偏差を平均で除した数値である。標準偏差が0.5μmより大きくなるか、変動係数が0.2より大きくなるにつれ、孔部の孔径分布が広がるため分級効果が低下するとともに、アスベスト等の繊維状の浮遊微粒子の内、繊維長の短いものが孔部を通過して捕集され難くなる傾向がみられるため、いずれも好ましくない。
【0015】
孔部の標準偏差や変動係数を小さくするための多孔膜の製造方法としては、整列させた粒径の等しいポリスチレン球を鋳型として成膜し、最後にポリスチレン球を熱分解もしくは溶媒で取り除く方法(Chem. Mater. 2005, 17(24), p5880-5883)や、半導体微細加工技術により金属、半導体もしくはセラミックの薄膜に貫通孔を形成する等の方法を用いることができる。また、高分子化合物で多孔膜を製膜する場合、温度等の製造条件を最適化することによっても孔部の標準偏差や変動係数を小さくすることができる。
【0016】
本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の浮遊微粒子捕集装置であって、前記ホルダの厚さ方向に貫設された貫通孔を備え、前記多孔膜が、前記貫通孔に配設された構成を有している。
この構成により、請求項1又は2で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)フィルタがホルダの厚さ方向に貫設された貫通孔を備え、多孔膜が貫通孔に配設されているので、貫通孔の内径を小さくすることで、多孔膜を気体が通過する際の多孔膜の変形を小さくすることができ、孔部が変形したり広がったりするのを防止して、多孔膜での浮遊微粒子の分級効果を高めることができるとともに、アスベスト等の繊維状の浮遊微粒子を捕集する場合の捕集効率を高めることができる。
(2)貫通孔に配設された多孔膜の強度を確保できるので、多孔膜が大流速の気体の通過にも耐え得るため、気体の吸引速度を高めることができ単位体積当たりの気体の吸引時間を短縮させることができる。
【0017】
ここで、貫通孔の内径としては、5〜10mmが好適に用いられる。貫通孔の内径が5mmより小さくなるにつれ、多孔膜の捕集面積が縮小することより捕集された浮遊微粒子が重なり目詰まりが生じ易くなる傾向がみられ、10mmより大きくなるにつれ多孔膜を気体が通過したときに多孔膜の変形が大きくなり、孔部が変形したり広がったりして、多孔膜での分級効果が低下する傾向がみられ、またアスベスト等の繊維状の浮遊微粒子の内、繊維長の短いものが孔部を通過して捕集され難くなる傾向がみられ、さらに貫通孔の面積が増加し通気量が増えるため大容量の吸気手段が必要になり装置が大型化する傾向がみられるため、いずれも好ましくない。
【0018】
多孔膜は、ホルダの片面に貫通孔を覆うように配設することができる。また、ホルダ間に挟着することができる。なかでも、ホルダ間に挟着して多孔膜を貫通孔に配設するものが好適に用いられる。多孔膜をホルダ内に保持して保護できるからである。
【0019】
本発明の請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の内いずれか1に記載の浮遊微粒子捕集装置であって、前記フィルタ装着部が、前記フィルタの前記ホルダと前記風路の端面若しくは断面とを密接させる押止手段を備えた構成を有している。
この構成により、請求項1乃至3の内いずれか1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)フィルタ装着部が、フィルタのホルダと風路の端面若しくは断面とを密接させる押止手段を備えているので、吸引された気体がホルダと風路との間から漏洩するのを防止することができ、気体の流量と浮遊微粒子の捕集量との定量性が向上する。このため、単位時間あたりの気体の吸引流量及び吸引時間に基いて多孔膜を通過した気体量を算出でき、この気体量と捕集された浮遊微粒子の個数や種類から捕集場所における浮遊微粒子による汚染の程度を測定することができる。
【0020】
ここで、押止手段としては、バネ等の弾性体で付勢して、又は、螺子,クランプ等で圧接して、フィルタのホルダに風路の端面若しくは断面とを押止して密接させるものが用いられる。なお、押止手段は、フィルタ装着部に装着されたフィルタの枚数に応じて、伸縮可能や移動可能に形成されていると、フィルタ装着部に複数枚のフィルタを重ね合わせて装着することができ好ましい。
【0021】
本発明の請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の内いずれか1に記載の浮遊微粒子捕集装置であって、前記フィルタ装着部に、前記孔部の孔径の異なる前記フィルタが複数枚重ね合わせて装着された構成を有している。
この構成により、請求項1乃至4の内いずれか1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)孔部の孔径の異なるフィルタを複数枚重ね合わせ、風路の下流側に装着されたフィルタの多孔膜の孔径を、風路の上流側に装着されたフィルタの多孔膜の孔径よりも小さくすることによって、各々の多孔膜に粒径の異なる浮遊微粒子を捕集することができるため、多段階の分級ができ、粒度分布を測定することができるとともに、特定の大きさの浮遊微粒子を選別捕集することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明の浮遊微粒子捕集装置によれば、以下のような有利な効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、
(1)同一の形状及び0.1〜20μmの同一の孔径で形成された孔部を有し厚さが0.1〜20μmの多孔膜と、多孔膜を保持したホルダと、を有するフィルタと、風路にフィルタを着脱可能に装着し多孔膜を風路内に配置するフィルタ装着部と、を備えているので、浮遊微粒子を捕集したフィルタをフィルタ装着部から取り外して、新しいフィルタを装着することで、フィルタの多孔膜に引張力等の外力を与えずにフィルタを交換することができるので、多孔膜の孔部が変形し難く浮遊微粒子の形状や粒度の分析を正確に行うことができ分析の正確性に優れた浮遊微粒子捕集装置を提供できる。
(2)多孔膜がホルダに保持されたフィルタを用いているので、フィルタの構成や製造工程を単純化することができフィルタの生産性に優れた浮遊微粒子捕集装置を提供できる。
(3)フィルタの圧力損失が小さく、また浮遊微粒子の捕集効率が高く、加えて多孔膜の孔径以下のほとんどの粒子は透過するため目詰まりし難いことにより、風路の内径を小さくすることが可能になり吸引手段を小型化することができるため、装置構成を単純化することができ装置を小型・軽量化でき、屋内や屋外に携帯することもでき携帯性に優れた浮遊微粒子捕集装置を提供できる。
(4)フィルタを小型にでき、フィルタを多段に重ねても簡便に脱着できるので、浮遊微粒子を捕集後直ちに取り出してそのまま分析機器の試料に用いることができ、捕集場所での迅速な分析を可能にする浮遊微粒子捕集装置を提供できる。
【0023】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、
(1)孔部の標準偏差が0.5μm以下、又は、孔部の変動係数が0.2以下であって孔径分布が著しく狭いので、多孔膜での分級効果を高めることができるとともに、アスベスト等の繊維状の浮遊微粒子の捕集効率の高い浮遊微粒子捕集装置を提供できる。
(2)孔径分布が著しく狭いので、粒子径の揃った微粒子の捕集、例えばスギ花粉や黄砂のみの選別捕集ができる浮遊微粒子捕集装置を提供できる。
【0024】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加え、
(1)フィルタがホルダの厚さ方向に貫設された貫通孔を備え、多孔膜が貫通孔に配設されているので、貫通孔の内径を小さくすることで、多孔膜を気体が通過する際の多孔膜の変形を小さくすることができ、孔部が変形したり広がったりするのを防止して、多孔膜での浮遊微粒子の分級効果を高めることができるとともに、アスベスト等の繊維状の浮遊微粒子の捕集効率の高い浮遊微粒子捕集装置を提供できる。
(2)貫通孔に配設された多孔膜の強度を確保できるので、多孔膜が大流速の気体の通過にも耐え得るため、気体の吸引速度を高めることができ単位体積当たりの気体の吸引時間を短縮させることができ、小型ながら迅速に浮遊微粒子の捕集ができる浮遊微粒子捕集装置を提供できる。
【0025】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1乃至3の内いずれか1の効果に加え、
(1)フィルタ装着部が、フィルタのホルダと風路の端面若しくは断面とを密接させる押止手段を備えているので、吸引された気体がホルダと風路との間から漏洩するのを防止することができ、気体の流量と浮遊微粒子の捕集量との定量性が高い浮遊微粒子捕集装置を提供できる。このため、単位時間あたりの気体の吸引流量及び吸引時間に基いて多孔膜を通過した気体量を算出でき、この気体量と捕集された浮遊微粒子の個数や種類から捕集場所における浮遊微粒子による汚染の程度を測定することができる。
【0026】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1乃至4の内いずれか1の効果に加え、
(1)孔部の孔径の異なるフィルタを複数枚重ね合わせ、風路の下流側に装着されたフィルタの多孔膜の孔径を、風路の上流側に装着されたフィルタの多孔膜の孔径よりも小さくすることによって、各々の多孔膜に粒径の異なる浮遊微粒子を捕集することができるため、多段階の分級ができ、粒度分布を測定することができるとともに、特定の大きさの浮遊微粒子を選別捕集することができる浮遊微粒子捕集装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における浮遊微粒子捕集装置の垂直方向の要部断面図であり、図2はフィルタの分解斜視図であり、図3(a)はフィルタの多孔膜の平面図であり、(b)はフィルタの多孔膜の斜視図であり、図4はフィルタ装着部の水平方向の要部断面図である。
図1において、1は本発明の実施の形態1における浮遊微粒子捕集装置、2は直方体等の箱状に形成された浮遊微粒子捕集装置1の筐体、2aは筐体2の上面に形成され後述するフィルタ8が装入される上面開口部、3は筐体2内に貫設された風路、4は上流側の風路3としての上流側風路、4aは筐体2の側面に形成され上流側風路4が貫通された側面開口部、5は上流側風路4の一端に形成された吸気口、6は下流側の風路3としての下流側風路、7は上流側風路4と下流側風路6との間に形成され後述するフィルタ8を風路3に着脱可能に装着するフィルタ装着部、8は上面開口部2aから筐体2内に装入されフィルタ装着部7に装着されたフィルタ、9はポリオレフィン等の合成樹脂製等で板状に形成されたフィルタ8のホルダ、10はホルダ9の厚さ方向に貫設された内径5〜10mmの略円形の貫通孔、11は貫通孔10の内側に配設され高分子化合物等で厚さが0.1〜20μmに形成された多孔膜、12は下流側流路6に配設された吸引ポンプ等の吸引手段、13は下流側風路6の端部に形成された排気口である。本実施の形態においては、フィルタ装着部7にフィルタ8を2枚重ねて装着した場合を示している。
図2において、9a,9bは外形が矩形状で2枚に分割された分割ホルダであり、多孔膜11を挟着してフィルタ8のホルダ9を形成する。10a,10bは分割ホルダ9a、9bの各々に貫設された貫通孔、11aは多孔膜11に同一の形状及び0.1〜20μmの同一の孔径で形成された孔部である。
図3において、Xは海塩粒子,黄砂,金属系酸化物,花粉,煤塵,ディーゼル排気微粒子,アスベスト等の固体や繊維状の浮遊微粒子である。
図4において、7は上面開口部2aの下部の筐体2内に配設されたフィルタ装着部、20は板状等に形成され所定部が筐体2に固着されたフィルタ装着部7の第1支持部、21は第1支持部20の両側にフィルタ8の幅よりやや広い間隔をあけて対向して配設された側板、22は板状等に形成され第1支持部20と側板21,21を挟んで適当な間隔をあけて配設されたフィルタ装着部7の第2支持部、23は第1支持部20に貫設され内周面に螺子部が螺刻され側面開口部4aと連通した第1支持部貫通孔、24は上流側風路4の外周面に形成され第1支持部貫通孔23の内周面の螺子部と螺合する押止手段としての螺子部、25は上流側風路4の端面に円環状に形成された窪み部、26は窪み部25に装着されたOリング等のシール部、27は第2支持部22に貫設され下流側風路6が接続され第1支持部貫通孔23と連通する第2支持部貫通孔、28は下流側風路6が接続された第2支持部貫通孔27の周囲の第2支持部22に円環状に形成された窪み部、29は窪み部28に装着されたOリング等のシール部である。
【0028】
以上のように構成された本発明の実施の形態1における浮遊微粒子捕集装置のフィルタについて、以下その作製方法の一例を説明する。
ベンゼン,トルエン等の疎水性有機溶媒に可溶のポリスチレン等の高分子化合物と両親媒性ポリアクリルアミド等の両親媒性高分子化合物とを所定の割合で混合した疎水性有機溶媒の溶液(ポリマー濃度としては0.1〜2wt%)を、ガラス基板やセラミック基板等の基板上に流延した後、空気や不活性ガス等の高湿度ガス(相対湿度30〜80%)を吹きつけ、疎水性有機溶媒を蒸発させる。疎水性有機溶媒は蒸発する際に流延された溶液の潜熱を奪うため、溶液表面の温度が下がり、水蒸気が凝集し微量な水の液滴が溶液表面に付着する。この水の液滴は溶液表面に細密に整列された状態で付着し、流延された溶液中に上下に貫通した空洞部を形成する。疎水性有機溶媒が全て蒸発し高分子化合物が固化した後、水の液滴を蒸発させることにより、液滴が付着していた部分に孔部11aが形成された多孔膜11が形成される。流延する溶液の濃度、流延する溶液の量、疎水性有機溶媒の種類、高湿度ガスの相対湿度や温度,流量等を調整することによって、同一の形状及び0.1〜20μmの同一の孔径で形成された孔部11aを有する厚さ0.1〜20μm、開孔率45〜75%の多孔膜11が得られる。
この多孔膜11を、分割ホルダ9a,9b間に介挿し挟着することによってフィルタ8が得られる。
【0029】
次に、以上のように構成された本発明の実施の形態1における浮遊微粒子捕集装置について、以下その使用方法を説明する。
まず、上流側風路4を回転させて、第1支持部貫通孔23から上流側風路4を後退させる。次いで、上面開口部2aからフィルタ装着部7の側板21,21間にフィルタ8を1枚若しくは重ねて複数枚挿入した後、上流側風路4を回転させて螺子部24によって上流側風路4を前進させ、シール部26をフィルタ8のホルダ9に螺子部24の働きによって押止し、シール部26,29にフィルタ8のホルダ9を密接させるとともに、フィルタ8,8のホルダ9,9同士を密接させて、フィルタ8,8の多孔膜11,11を風路3内に配置する。
次に、吸引手段12を稼動させて大気等を吸気口5から吸い込み、多孔膜11を通過させて排気口13から排気する。これにより、大気等に含まれる浮遊微粒子Xは、孔部11aの孔径よりも大きなものが多孔膜11に捕集され、孔径より小さな浮遊微粒子Xは、多孔膜11の孔部11aを通貨して排気口13から排気される。
【0030】
以上のように、本発明の実施の形態1における浮遊微粒子捕集装置は構成されているので、以下のような作用が得られる。
(1)同一の形状及び0.1〜20μmの同一の孔径で形成された孔部11aを有し厚さが0.1〜20μmの多孔膜11と、多孔膜11を保持したホルダ9と、を有するフィルタ8と、風路3にフィルタ8を着脱可能に装着し多孔膜11を風路3内に配置するフィルタ装着部7と、を備えているので、浮遊微粒子を捕集したフィルタ8をフィルタ装着部7から取り外して、新しいフィルタ8を装着することで、フィルタ8の多孔膜11に引張力等の外力を与えずにフィルタ8を交換することができるので、多孔膜11の孔部11aが変形し難く浮遊微粒子の形状や粒度の分析を正確に行うことができる。
(2)フィルタ8は多孔膜11がホルダ9に保持されているので、多孔膜11の強度を確保することができ、さらに面積の小さな多孔膜11が使用できるので、フィルタ8の構成や多孔膜11の製造工程を単純化することができフィルタ8の生産性に優れる。
(3)多孔膜11は同一の形状及び0.1〜20μmの同一の孔径で形成された孔部11aを有しているので、多孔膜11の孔径以下のほとんどの粒子は透過し、孔径より大きな粒子だけが多孔膜11に捕集されるため目詰まりし難いことにより、風路3の内径を小さくすることで吸引手段12を小型化することができるため、装置構成を単純化することができ装置を小型・軽量化でき、屋内や屋外に携帯することもでき携帯性に優れる。
(4)フィルタ8がホルダ9の厚さ方向に貫設された貫通孔10を備え、多孔膜11が貫通孔10に配設されているので、貫通孔10の内径を小さくすることで、多孔膜11を気体が通過する際の多孔膜11の変形を小さくすることができ、孔部11aが変形したり広がったりするのを防止して、多孔膜11での浮遊微粒子の分級効果を高めることができるとともに、アスベスト等の繊維状の浮遊微粒子を捕集する場合の捕集効率を高めることができる。
(5)フィルタ装着部7が、フィルタ8のホルダ9と上流側風路4及び下流側風路6の端面とを密接させる押止手段としての螺子部24を備えているので、ホルダ9と上流側風路4,下流側風路6との間から吸引された気体が漏洩するのを防止することができ、気体の流量と浮遊微粒子の捕集量との定量性が高くなり、吸引手段12で吸引された気体を漏れなく多孔膜11に通過させることができ、単位時間あたりの気体の吸引流量及び吸引時間に基いて多孔膜11を通過した気体量を算出でき、この気体量と捕集された浮遊微粒子の個数や種類から捕集場所における浮遊微粒子による汚染の程度を測定することができる。
(6)押止手段としての螺子部24によって上流側風路4を前進又は後退させられるので、フィルタ装着部7にフィルタ8を所望する枚数だけ装着することができ自在性に優れる。
(7)孔部11aの孔径の異なるフィルタ8を複数枚重ね合わせ、風路3の下流側に装着されたフィルタ8の多孔膜11の孔径を、風路3の上流側に装着されたフィルタ8の多孔膜11の孔径よりも小さくすることによって、各々の多孔膜11に粒径の異なる浮遊微粒子を捕集することができるため、多段階の分級ができ、各々を計数分析することにより粒度分布を測定することができる。
(8)多孔膜11が分割ホルダ9a,9b間に挟着されて多孔膜11が貫通孔10に配設されたフィルタ8を用いているので、フィルタ8を複数枚重ね合わせてフィルタ装着部7に装着した場合でも、多孔膜11同士が接触しないので、多孔膜11に捕集された浮遊微粒子が別の多孔膜と擦れ合って形状が崩れてしまうのを防止でき、捕集した浮遊微粒子の形状分析を正確に行うことができる。また、重ねて装着された多孔膜11,11がホルダ9厚さ分だけ離れているので、上流側の多孔膜11を通過した気流は、下流側の多孔膜11を通過する前に乱れて気流中の浮遊微粒子が分散されるため、下流側の多孔膜11にも上流側の多孔膜11と同様に分散された状態の浮遊微粒子を捕集させることができ、フィルタ8を複数枚重ねた影響を受けることなく、各々のフィルタ8(特に、下流側のフィルタ8)に浮遊微粒子を捕集させることができる。
【0031】
ここで、本実施の形態においては、押止手段として螺子部24で圧接するものについて説明したが、これに限定するものではなく、バネ等の弾性体で付勢して、又は、クランプ等でフィルタ8のホルダ9に圧接して、貫通孔10、上流側風路4、下流側風路6を連通させることができるものであればよい。この場合も、前述の作用と同様の作用が得られる。
また、フィルタ8を上流側風路4と下流側風路6の間に装着する場合について説明したが、フィルタ8を吸気口5や排気口13に装着する場合もある。この場合も、前述の作用と同様の作用が得られる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
平均分子量70000〜100000のポリ−ε−カプロラクトンと両親媒性ポリアクリルアミドを重量比で10:1の割合で混合したクロロホルム溶液(ポリマー濃度としては0.1〜2wt%)の8mLを、温度を最適化した製膜チャンバ内でガラス基板上に流延し、相対湿度30〜80%の高湿度空気を毎分1〜20Lの流量で吹きつけ、クロロホルムを蒸発させることによって、厚さ1.5〜2.0μm、孔径の平均2.63μm、標準偏差0.331μm、変動係数0.12、最大3.23μm、最小2.12μmの孔部が形成された多孔膜を得た。
この多孔膜を分割ホルダに挟着して実施例1のフィルタを得た。
実施例1のフィルタの下流側に、メンブレンフィルタ(ADVANTEC社製、Mixed Cellulose Ester, Pore size 0.8μm)を装着したフィルタを1枚重ね合わせてフィルタ装着部に装着した後、この浮遊微粒子捕集装置を、アスベストが混入したガラス系繊維状粒子を壁に吹き付け処理した室内に持ち込み、吸引手段としての吸引ポンプを稼動して3.5L/分の吸引速度で1時間、室内の大気を吸引した。
浮遊微粒子捕集装置からフィルタを取り出した後、実施例1のフィルタ及びメンブレンフィルタに捕集された浮遊微粒子を、湿式走査型電子顕微鏡(日立製)及びデジタルマイクロスコープ(キーエンス製)を用いて形状観察した。なお、メンブレンフィルタに捕集された浮遊微粒子を観察する場合には、前処理として、アセトン等を用いてメンブレンフィルタの透明化処理を行った。
観察された浮遊微粒子の内、アスペクト比が3以上のものを繊維状粒子として、個数及び長さを計測した。
【0033】
(比較例1)
平均分子量70000〜100000のポリ−ε−カプロラクトンと両親媒性ポリアクリルアミドを重量比で10:1の割合で混合したクロロホルム溶液(ポリマー濃度としては0.1〜2wt%)の8mLを、ガラス基板上に流延し、相対湿度30〜80%の高湿度空気を毎分1〜20Lの流量で吹きつけ、クロロホルムを蒸発させることによって、厚さ1.3〜2.3μm、孔径の平均3.07μm、標準偏差0.837μm、変動係数0.27、最大4.73μm、最小1.99μmの孔部が形成された多孔膜を得た。
この多孔膜を分割ホルダに挟着して比較例1のフィルタを得た。
メンブレンフィルタの上流側に、比較例1のフィルタを実施例1のフィルタに代えて装着した以外は、実施例1と同様にして、繊維状粒子の個数、長さ及び太さを計測した。
【0034】
繊維状粒子の個数及び長さを計測した結果を、図5及び図6に示す。
図5は実施例1のフィルタ及びメンブレンフィルタに捕集された繊維状粒子の長さと頻度を示す図であり、図6は比較例1のフィルタ及びメンブレンフィルタに捕集された繊維状粒子の長さと頻度を示す図である。なお、図中、黒塗りの点は実施例1又は比較例1のフィルタに捕集された繊維状粒子の計測値であり、白抜きの点はメンブレンフィルタに捕集された繊維状粒子の計測値である。
図5及び図6から明らかなように、比較例1のフィルタでは、長さ5μm以下の繊維状粒子が多数孔部を通過しメンブレンフィルタに捕集されているのに対し、実施例1のフィルタでは、90%以上の高い捕集率でフィルタに捕集できることが確認された。なお、比較例1のフィルタを通過した繊維状粒子の80%は太さ2μm以下(最大4μm、平均1.71μm)、平均長さは8.41μmであった。
以上のように本実施例によれば、多孔膜は孔部の標準偏差が0.5μm以下、又は、孔部の変動係数が0.2以下であって孔径分布が著しく狭いので、アスベスト等の繊維状の浮遊微粒子を捕集する場合の捕集効率を高めることができることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、大気中等に浮遊する花粉、黄砂、アスベスト等の浮遊微粒子を捕集する浮遊微粒子捕集装置に関し、フィルタの多孔膜の孔部が変形し難いため捕集された浮遊微粒子の形状や粒度の分析を正確に行うことができ分析の正確性に優れ、またフィルタの構成や製造工程を単純化することができフィルタの生産性に優れ、またフィルタの圧力損失が小さいのに加えて目詰まりし難いため、風路の内径を小さくすることで吸引手段を小型化することができるため、装置構成を単純化して装置を小型・軽量化でき、屋内や屋外に携帯することもできる携帯性に優れ、さらに浮遊微粒子を捕集した後フィルタを直ちに取り出して迅速な機器分析が可能な浮遊微粒子捕集装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施の形態1における浮遊微粒子捕集装置の垂直方向の要部断面図
【図2】フィルタの分解斜視図
【図3】(a)フィルタの多孔膜の平面図 (b)フィルタの多孔膜の斜視図
【図4】フィルタ装着部の水平方向の要部断面図
【図5】実施例1のフィルタ及びメンブレンフィルタに捕集された繊維状粒子の長さと頻度
【図6】比較例1のフィルタ及びメンブレンフィルタに捕集された繊維状粒子の長さと頻度
【符号の説明】
【0037】
1 浮遊微粒子捕集装置
2 筐体
2a 上面開口部
3 風路
4 上流側風路
4a 側面開口部
5 吸気口
6 下流側風路
7 フィルタ装着部
8 フィルタ
9 ホルダ
9a,9b 分割ホルダ
10,10a,10b 貫通孔
11 多孔膜
11a 孔部
12 吸引手段
13 排気口
20 第1支持部
21 側板
22 第2支持部
23 第1支持部貫通孔
24 螺子部(押止手段)
25,28 窪み部
26,29 シール部
27 第2支持部貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の形状及び0.1〜20μmの同一の孔径で形成された孔部を有し厚さが0.1〜20μmの多孔膜と、前記多孔膜を保持したホルダと、を有するフィルタと、一端に吸気口が形成され他端に排気口が形成された風路と、前記風路に前記フィルタを着脱可能に装着し前記多孔膜を前記風路内に配置するフィルタ装着部と、前記風路に配設された吸引手段と、を備えていることを特徴とする浮遊微粒子捕集装置。
【請求項2】
前記孔部の標準偏差が0.5μm以下、又は、前記孔部の変動係数が0.2以下であることを特徴とする請求項1に記載の浮遊微粒子捕集装置。
【請求項3】
前記ホルダの厚さ方向に貫設された貫通孔を備え、前記多孔膜が、前記貫通孔に配設されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の浮遊微粒子捕集装置。
【請求項4】
前記フィルタ装着部が、前記フィルタの前記ホルダと前記風路の端面若しくは断面とを密接させる押止手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至3の内いずれか1に記載の浮遊微粒子捕集装置。
【請求項5】
前記フィルタ装着部に、前記孔部の孔径の異なる前記フィルタが複数枚重ね合わせて装着されることを特徴とする請求項1乃至4の内いずれか1に記載の浮遊微粒子捕集装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−23469(P2008−23469A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−200068(P2006−200068)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】