説明

海水淡水化装置

【課題】海水から効率よく水蒸気を発生させる手段を備えた海水淡水化装置を提供する。
【解決手段】貯留した海水S1を熱媒体により加熱することにより水蒸気を発生させる余熱海水返送室6と、余熱海水返送室6で発生した水蒸気を冷却室7で冷却して真水を生成する冷却室とを備えている。余熱海水返送室6の上部には、空間部Kを介して余熱海水流下室29a、29bが配置されている。この余熱海水流下室は、海水余熱装置3で余熱した余熱海水S2を貯留するとともに、この貯留した余熱海水S2を余熱海水返送室6内に流下させるために、空間部Kを介して余熱海水返送室6の海水S1まで碁盤の目状に吊り下げられた複数の透水性部材31を備えている。余熱海水S2が余熱海水流下室29a、29bから透水性部材31の表面部に沿って空間部K内を流下するときに、透水性部材31の表面部から多量の水蒸気が発生するようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水を加熱することにより発生させた水蒸気を、冷却することにより真水を生成する海水淡水化装置、特に、太陽エネルギーという自然エネルギーを利用して海水から水蒸気を効率よく発生させる手段を備えた海水淡水化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から海水淡水化装置としては、主として多段フラッシュ方式、または逆浸透膜方式を採用した大規模な各種の装置が開発、提案され、実用化もされている。また、最近の太陽光発電パネル(太陽光電池パネル)に関する技術の進歩と普及に伴って、太陽光発電パネルにより発電した電力を利用した海水淡水化装置、あるいは太陽光の熱エネルギーを利用して海水から水蒸気を蒸発させる手段を備えた海水淡水化装置に関する技術ついても多数提案されている。
【0003】
上記した多段フラッシュ方式による海水淡水化装置は、海水を加熱して水蒸気を発生させ、この水蒸気を冷却して淡水(真水)を得る装置である。実用化されている多段フラッシュ式海水淡水化装置は、海水から熱効率良く水蒸発を発生させるために、減圧した減圧室を多数組み合わせた装置構成になっているため、装置が大規模、かつ高額になるとともに、稼働させるためには電力等の多量のエネルギーを必要とするという欠点がある。
【0004】
逆浸透膜方式による海水淡水化装置は、海水に圧力を付加して逆浸透膜を通過させることにより淡水を得る装置である。この逆浸透膜方式による海水淡水化装置は、多段フラッシュ方式と比較するとエネルギー効率は優れているが、海水中に含まれている微細な微生物やバクテリアを含む異物が逆浸透膜に目詰まりするため、定期的に逆浸透膜の目詰まりを解消するためにこの逆浸透膜の再生処理が必要になる。このために、装置の安定した稼働を維持するための維持管理コストが大きくなるという欠点がある。
【0005】
太陽エネルギーを利用した海水淡水化装置は、自然エネルギーを利用するために、装置を稼働させるための日々のエネルギーコストを削減することができる。このため、太陽エネルギーを利用した海水淡水化装置については、従来から種々の構想を備えた装置が提案されている。例えば、下記の特許文献に記載の発明が提案されている。
【0006】
特許文献1(特許第3698730号公報)には、太陽エネルギーにより水からなる熱媒を加熱する太陽熱集熱器と、蒸発缶内の原水に浸漬された伝熱管を有し、熱媒と蒸発缶内の原水との間で熱交換を行わせて蒸発缶内に水蒸気を発生させる熱交換器と、原水タンク内の原水(海水)に浸漬された伝熱管を有し、蒸発缶内の水蒸気を受け入れて原水タンク内の原水と熱交換させて冷却して蒸留水を得る凝縮器と、蒸留水を貯蔵する蒸留水タンクと、蒸発缶内の水蒸気の発生を促進するように蒸発缶内を排気して減圧する真空手段と、これら装置を太陽光発電設備から供給される電力により駆動させるようにした淡水化装置が提案されている。
【0007】
特許文献2(特開2006−181516号公報)には、太陽電池で発電した電力を利用して圧縮機を作動させ、冷凍サイクルを介して温熱エネルギーと冷熱エネルギーとを発生させる。そして、温熱エネルギーは加熱タンク内に設けられた加熱手段に送り込んで、加熱タンクに収納されている海水を加熱して水蒸気を発生させる。加熱タンク内で発生した水蒸気は、冷却タンク内に導く。冷凍サイクルで発生した冷熱エネルギーを冷却タンクに送り込むことにより、冷却タンク内に導いた水蒸気を冷却して水滴を発生させる手段を備えた真水生成装置が提案されている。
【0008】
特許文献3(特開2008−212881号公報)には、海水を貯留して太陽光により水蒸気を含む湿潤気体を生成する蒸発ユニットと、この湿潤気体を冷却して凝縮水を生成する冷却ユニットと、凝縮水を貯留する貯水タンクと、凝縮水が分離された気体を太陽光で加熱する気体加熱ユニットと、冷却ユニットで湿潤気体を冷却するために用いた冷却用海水を太陽光で加熱して蒸発ユニットに送給する海水加熱ユニットを備えた淡水化装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3698730号公報
【特許文献2】特開2006−181516号公報
【特許文献3】特開2008−212881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の発明においては、太陽エネルギーの集熱により水からなる熱媒を加熱し、この加熱した熱媒により蒸発缶内の原水(海水)から水蒸気を発生させることが記載されているが、太陽エネルギーの集熱のみで海水から十分な量の水蒸気を発生させることは不可能であると考えられる。
【0011】
特許文献2に記載の発明においては、太陽電池で発電した電力を利用して圧縮機を作動させ、冷凍サイクルを介して温熱エネルギーと冷熱エネルギーとを発生させ、この温熱エネルギーを利用して海水を加熱して水蒸気を発生させることが提案されているが、圧縮機による冷凍サイクルのみで、海水から水蒸気を効率良く発生させるための高温度の温熱エネルギーを得ることは不可能であると考えられる。また、特許文献2には熱エネルギーを効率良く利用して海水を加熱し、海水から多量の水蒸気を発生させるための手段については開示されていない。
【0012】
特許文献3に記載の発明においては、貯留した海水を太陽光により加熱して水蒸気を含む湿潤気体を生成する蒸発ユニットが示されているが、太陽光のみでは大量の海水を加熱して多量の水蒸気を発生させることは不十分であり、さらに、海水から多量の水蒸気を発生させるための手段が必要であると考えられる。
【0013】
そこで、本発明の目的は、主として太陽エネルギーを利用して、海水を余熱するとともに、この余熱した海水から水蒸気を熱効率よく、かつ多量に発生させる手段と、この多量に発生した水蒸気を冷却することにより真水を得る手段、すなわち、極力太陽光である自然エネルギーを利用することにより、海水から効率良く真水を得ることを可能とした海水淡水化装置を提供することにある。なお、上記した太陽エネルギーの利用とは、半導体の光起電力作用を利用して太陽光から直接電気エネルギーを得ることと、太陽光が有している熱エネルギーを利用して熱源を得ることを示す。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記した課題を解決するために、請求項1に記載の発明に係る海水淡水化装置は、太陽エネルギーを利用して、余熱された余熱海水を得る海水余熱装置を備えた海水淡水化装置において、
前記余熱海水を貯留するとともに、貯留した前記余熱海水を下方に空間部を介して流下させるために、少なくとも表面部を透水性を有する部材で構成した透水性部材を垂直方向に多数本配列した前記透水性部材を備えた余熱海水流下室と、
前記透水性部材から流下した前記余熱海水を貯留する余熱海水返送室と、
前記空間部に熱風を供給する熱風発生供給装置と、
前記空間部において、前記透水性部材の前記表面部を伝わって流下する前記余熱海水から発生した水蒸気を収集し、前記収集した水蒸気を冷却して真水を生成する冷却室と、
を備えていることを特徴としている。
【0015】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の海水淡水化装置に係り、前記余熱海水流下室は、前記透水性部材の上端部を係止するとともに、貯留した前記余熱海水を前記透水性部材に導くための海水案内部材を備えていることを特徴としている。
【0016】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の海水淡水化装置に係り、前記透水性部材は、前記余熱海水流下室から前記余熱海水返送室に貯留された前記余熱海水まで、碁盤の目状に配列して吊り下げられていることを特徴としている。
【0017】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の海水淡水化装置に係り、前記透水性部材は、前記余熱海水流下室から前記余熱海水返送室に貯留された前記余熱海水まで、碁盤の目状に配列して吊り下げられているとともに、前記透水性部材の太さは、前記空間部の中央部は該空間部の外側部と比較して小さくなされていることを特徴としている。
【0018】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の海水淡水化装置に係り、前記透水性部材は、綿糸、絹糸、麻糸のいずれか、またはこれら2種以上の糸から構成された組紐状または縄状の部材からなることを特徴としている。
【0019】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の海水淡水化装置に係り、前記透水性部材は、中空で炭素繊維を含む複合材料からなる中空線状部材と、前記中空線状部材の外周面に嵌装された透水性を有する繊維部材から構成されていることを特徴としている。
【0020】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の海水淡水化装置に係り、前記透水性部材は、中空で炭素繊維を含む複合材料からなる中空線状部材と、前記中空線状部材の外周面の上端部から下端部に向けて巻回された透水性を有する紐部材から構成されていることを特徴としている。
【0021】
また、請求項8に記載の発明は、請求項1に記載の海水淡水化装置に係り、前記余熱海水返送室は、貯留する前記余熱海水を加熱して水蒸気を発生させるための加熱手段を備えていることを特徴としている。
【0022】
また、請求項9に記載の発明は、請求項1又は請求項8に記載の海水淡水化装置に係り、前記余熱海水返送室に貯留する前記余熱海水を、前記余熱海水流下室に返送する余熱海水返送手段を備えていることを特徴としている。
【0023】
また、請求項10に記載の発明は、請求項1に記載の海水淡水化装置に係り、前記熱風発生供給装置は、太陽エネルギーを利用して空気を加熱して得た熱風を前記空間部に供給する装置であることを特徴としている。
【0024】
また、請求項11に記載の発明は、請求項8に記載の海水淡水化装置に係り、前記前記加熱手段は、太陽エネルギーを利用して熱媒体を加熱する熱媒体加熱装置から循環供給される加熱された前記熱媒体を熱源としていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0025】
本発明の海水淡水化装置は、次の効果を発揮することができる。
(1)貯留する海水を加熱する手段を設けた余熱海水返送室の上方であって、この貯留する海水の水面上から空間部を介して配置した余熱海水流下室を備え、この余熱海水流下室には、碁盤の目状に、多数本の透水性部材の一端部側を固定するとともに、これら多数本の透水性部材の他端部側(下端側)を、高温度に維持されている空間部を介して余熱海水返送室に貯留する海水内まで吊り下げている。そして、余熱海水流下室に貯留されている余熱海水を、透水性部材、特に透水性部材の表面部に沿って余熱海水返送室に貯留する海水内まで流下させるようにしている。
これにより、余熱海水返送室内において、余熱海水返送室に貯留している海水からは、太陽熱を利用して加熱した熱媒体による加熱手段により水蒸気が多量に発生するとともに、高温度の空間部に配列された多数本の透水性部材の表面部に沿って流下する余熱海水からも、多量の水蒸気が発生する。これら多量の水蒸気は、空間部に連通した水蒸気上昇通路部を上昇させて冷却室に導いて冷却して結露(凝縮)させて真水を得ることができる。このように、本発明は、海水から水蒸気を発生させるために消費する電力や熱エネルギーを少なくし、太陽光という自然エネルギーを有効に利用した省エネルギー型の海水淡水化装置を提供することが可能になる。
【0026】
(2)余熱海水流下室には、海水余熱装置で余熱した余熱海水を流入させ、この余熱海水を透水性部材に沿って高温度の空間部を介して余熱海水返送室に流下させるようにしている。これにより、空間部の温度を低下させることなく、透水性部材の表面部に沿って流下する余熱海水から多量の水蒸気を発生させることが可能になる。また、余熱海水返送室に貯留している海水には余熱海水が補充されるので、余熱海水返送室に貯留している海水の温度の低下を極めて小さくすることができるので、水蒸気の発生の減少を防止できるとともに、余熱海水返送室に貯留している海水の加熱に要する熱エネルギーの消費を低減することも可能になる。
【0027】
(3)透水性部材を、炭素繊維を含む複合材料で構成することにより、透水性部材を長期間にわたって使用することが可能になり、装置の保守等のコストも低減させることが可能になる。
【0028】
(4)上記(1)〜(3)により、本発明の海水淡水化装置は、特に、雨量の少ない砂漠地帯や乾燥地帯の海岸に設置して、主として太陽エネルギーを駆動源として稼働させることにより、低コストで、かつ効率良く、飲料水、農業や緑化のための真水を生成する装置として極めて有効なものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の海水淡水化装置について、海水を淡水化するための処理工程の概要を説明するための図である。
【図2】図1に示す海水淡水化装置本体について、その構成例を説明するための縦断面図である。
【図3】図2に示す余熱海水流下室の構成例を説明するための図であって、(a)はその部分平面図、(b)は(a)に示すA−A線の断面図である。
【図4】図1に示す海水淡水化装置本体について、他の構成例を説明するための縦断面図である。
【図5】図4に示す透水性部材を、余熱海水流下室に固定したときの固定構造の一例を説明するための部分断面図である。
【図6】図2又は図4に示す透水性部材について、多数本の透水性部材の配列例を説明するための図であって、透水性部材を碁盤の目状に配置した例を示す。
【図7】同じく、図2又は図4に示す透水性部材について、多数本の透水性部材の配列例を説明するための図であって、多数本の透水性部材を碁盤の目状に配置するとともに、空間部の中央部近傍の透水性部材の太さを周辺部より小さくした場合の例を示す。
【図8】図2に示す冷却室について、他の実施形態を説明するための海水淡水化装置本体の縦断面図である。
【図9】海水淡水化装置本体の建屋の構造例を説明するための斜視図である。
【図10】海水余熱装置及び空気(熱風)加熱装置の構成例を説明するための図である。
【図11】図10に示すD−D線における断面図である。
【図12】透水性部材を、炭素繊維を含む複合材料で構成したときに、この透水性部材を余熱海水流下室に固定するための構成例を説明するための部分断面図である。
【図13】図12に示す海水案内部材の構成を示す平面図であって、(a)は海水案内部材の貫通孔に線状部材を挿入していないときの状態を示し、(b)は海水案内部材の貫通孔に線状部材を挿入したときの状態を示す図である。
【図14】図12に示す透水性部材の構成例を説明するための図であって、(a)は透水性部材の縦方向の断面を示す図、(b)は(a)に示すE−E線における断面を示す図である。
【図15】図12に示す割りリング部材の一例を説明するための平面図である。
【図16】図12に示す透水性部材について、他の実施形態を示す部分断面図である。
【図17】図16に示すF−F線における断面を示す図である。
【図18】図12に示す透水性部材について、さらに他の実施形態を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。最初に、本発明の海水淡水化装置により、海水を淡水化する処理工程を図1に基づいて説明する。
【0031】
(海水淡水化の処理工程)
図1において、1は海中から海水を取水するための取水装置であって海中に配設した配管と、海水を汲み上げるためのポンプ等(図示せず)を備えている。取水装置1で取水した海水は、一旦、タンク等から構成された海水貯留装置2に貯留する。海水貯留装置2に貯留された海水は、後述する海水淡水化装置本体5の稼働に追従させて、後述する制御装置12の制御に基づいて海水余熱装置3に供給される。なお、海水を海水貯留装置2から海水余熱装置3に供給するときには、例えば、海水貯留装置2の海水流出口に濾過膜等の濾過手段を配置して、海水に含まれているプランクトンを含む異物を除去した海水を海水余熱装置3に供給する。
【0032】
海水余熱装置3は、太陽光の熱エネルギーを利用して海水を余熱するための装置である。海水余熱装置3で余熱された余熱海水は、一旦、余熱海水貯留装置3aに貯留した後、後述する本発明に係る海水淡水化装置の本体となる海水淡水化装置本体5の余熱海水返送室6の上方に設けた余熱海水流下室29a、29bに供給される。余熱海水流下室29a、29bに供給された余熱海水は、後述する多数本の紐状の透水性部材31を伝わって高温雰囲気の空間部K内を垂直方向に流下させる。これにより、透水性部材31を伝わって流下する余熱海水から多量の水蒸気を発生させるようにしている。
【0033】
なお、海水淡水化装置を夜間にも稼働させるために、海水余熱装置3と余熱海水貯留装置3aとは複数台設置して、太陽光が注ぐ昼間に余熱海水を多量に生成して余熱海水貯留装置3aに貯留する方式を採用することが望ましい。
【0034】
4は、太陽光発電パネル4aを多数枚備えた太陽光発電装置である。太陽光発電装置4は、太陽光発電パネル4aで発電した直流電力を、図示していないインバータにより交流電力に変換する装置を備えている。そして、この交流電力は、本発明の海水淡水化装置が備えている各種のポンプや電動バルブ、熱媒体加熱装置8、熱風発生装置9、冷風発生装置10、等を駆動させるための電力源として供給される。
【0035】
4bは蓄電装置であって、太陽光発電装置4で発電した直流電力の一部を蓄電するための装置である。蓄電装置4bで蓄電した直流電力は、主として夜間において上記した海水淡水化装置が備えている各種の機器や装置を稼働させるときに、交流電力に変換して電力源として供給される。
【0036】
海水余熱装置3は、次の手段1〜手段3のいずれか、あるいは2つ以上の手段を同時に採用して、太陽光の熱エネルギーを利用して海水を余熱する。
【0037】
(手段1)
海水余熱装置3の付近に太陽光を集光する太陽光集光装置3bを設ける。そして、太陽光集光装置3bで集光した太陽光を、例えば、海水を貯留している金属製タンクから構成される海水余熱装置3に向けて照射することにより、太陽光の熱エネルギーを利用してタンク内に充填した液体からなる熱媒体を加熱し、この加熱した熱媒体との熱交換により海水を、例えば、90〜100℃程度に余熱する。この余熱した海水(以下、「余熱海水」という)を、余熱海水貯留装置3aに供給して一旦貯蔵する。なお、上記した熱媒体としては、シリコンオイル等を使用することができる。
【0038】
この(手段1)を実施するための海水余熱装置3としては、例えば、耐食性、かつ熱伝導率の高い金属板、例えば、ステンレス鋼板等から構成させるタンクの側面に太陽光集光装置3bで集光した太陽光を入射させる凹面(球面)部を一つ又は複数設けておく。また、予め、タンク内には熱媒体を充填しておくとともに、外部から海水を供給して取り出すことができる螺旋状の熱交換用配管を配置しておく。
【0039】
そして、太陽光集光装置3bで集光した太陽光をタンクの側面の設けた球面部に入射させると、球面部は太陽光により高温度に加熱され、この熱はタンク内の熱媒体に伝達される。これにより、タンク内の熱媒体は100〜120℃程度の温度に加熱することが可能になる。なお、タンク内の熱媒体を短時間で高温度にするために、タンクの側面に設ける球面部は複数設置し、各球面部に対応させて1台の太陽光集光装置3bを設けるようにする。
【0040】
熱媒体の温度が所定の温度に達すると、海水貯留装置2から熱交換用配管に海水を緩やかに供給して、熱媒体との熱交換により熱交換用配管内の海水を余熱する。所定の温度に余熱された海水は、余熱海水貯留装置3aに供給する。上記した海水余熱装置3による海水の余熱制御を制御装置12で実施することにより、少なくとも海水を60℃以上の温度に余熱することが可能になる。
【0041】
(手段2)
上記(手段1)と同様に、側面に太陽光集光装置3bで集光した太陽光を入射させる球面部を設けたタンク内に海水を充填し、この球面部に太陽光を入射させて球面部を高温度に加熱する。そして、高温度に加熱された球面部とタンク内の海水との熱交換によりこの海水を余熱する。この熱交換の制御、例えば、熱交換時間と余熱海水の温度の制御は、制御装置12で実施する。そして、タンク内の海水の温度が所定の温度以上(例えば、60℃以上)に加熱されると、この余熱海水を余熱海水貯留装置3aに供給して一旦貯蔵する。
【0042】
(手段3)
太陽光発電装置4が備えている太陽光発電パネル4aは、太陽光があたるとその表面の温度は、例えば夏場においては70℃近くまで上昇する。結晶シリコン等を用いた太陽光発電パネル4aは、温度が上昇するとその光電変換効率が低下するので、その表面及び周辺部の温度は30℃以下に保持することが望ましいとされている。そこで、太陽光が注いでいる昼間において、海水貯留装置2に貯留している海水の一部を、太陽光発電パネル4aを冷却するための手段として使用する。そして、太陽光発電パネルを冷却するために使用してその温度が上昇した余熱海水は、例えば、他の余熱海水貯留装置3aに供給して、さらに高温度に余熱するようにする。
なお、上記した太陽光発電パネル4aを海水により冷却する方法としては、次の(方法a)又は(方法b)のいずれか、あるいは双方を採用することができる。
【0043】
(方法a)
太陽光発電パネル4aの表面を冷却するために、太陽光発電パネル4aの表面に、所定の時間間隔、例えば5分ごとに、所定時間(例えば2分間)ほど海水貯留装置2に貯留している海水を散水する。これにより、太陽光発電パネルの表面を冷却するために使用した海水の温度は、使用前と比較して少なくとも10℃は高くなった海水を得ることが可能になると考えられる。
【0044】
(方法b)
例えば、淡水化装置本体5の屋根に太陽方向を向く傾斜面を設け、この傾斜面に太陽光発電パネル4aを配置した場合に、太陽光発電パネル4aをこの傾斜面と若干の間隔(例えば、3〜5cmm程度の空間部)を介して取り付ける。そして、太陽光が射している昼間は、常時又は間欠的に、この傾斜面の上側から下方に向けてこの空間部を通して、海水貯留装置2に貯留している海水の所定量を流すことにより、太陽光発電パネル4aの下側を海水により冷却する。これにより、太陽光発電パネル4aを下側から冷却するために使用した海水は、少なくとも10℃は高くなった海水を得ることが可能になると考えられる。
【0045】
なお、上記(方法a)、(方法b)は、太陽光により太陽光発電パネル4aの温度が上昇してその光電変換効率が低下する昼間のみ実施し、当然夜間は実施しない。また、上記(方法a)、(方法b)のいずれの方法を採用する場合において、太陽光発電パネル4aは防水型のパネルを使用する。また、上記(方法a)、(方法b)は昼間のみ実施するが、この方法を実施してその実施を中止すると、太陽光発電パネル4aの表面部等に付着した海水はその水分が蒸発すると、残留する塩分がこの表面部等に析出するので、上記(方法a)、(方法b)の稼働を止めた後の所定時間は、例えば、太陽光発電パネル4aに所定時間ほど真水を散水するようにする。なお、散水した真水には塩分が含まれるので回収して海水貯留装置2へ回収するようにする。
【0046】
上記(手段1)〜(手段3)により余熱した余熱海水には異物が含まれている可能性があるので、濾過膜(フィルター)等を用いた濾過手段により異物を除去した余熱海水を、余熱海水貯留装置3a、又は海水余熱装置3に供給する。余熱海水貯留装置3aに一旦貯留した余熱海水は、制御装置12の制御に基づいて、海水淡水化装置本体5の上方に設けた余熱海水流下室29a、29bに供給される。
【0047】
8は熱媒体加熱装置である。熱媒体加熱装置8は、その内部に液体からなる熱媒体を備え、太陽光発電装置4から供給される電力によりこの熱媒体を加熱する加熱手段を備えている。この加熱手段としては、例えば、電気ヒータ等を用いることができる。熱媒体加熱装置8内で加熱された熱媒体は、熱媒体供給ポンプにより、海水淡水化装置本体5の余熱海水返送室6に貯留している海水内に配設した熱交換用配管8aに循環供給される。余熱海水返送室6内に貯留している海水は、この海水の加熱手段となる熱交換用配管8aとの熱交換により100℃程度に加熱されて、多量の水蒸気を発生する。余熱海水返送室6内の海水から発生した水蒸気は余熱海水返送室6内を上昇して冷却室7に導かれる。
【0048】
なお、熱媒体加熱装置8としては、太陽光が注いでいる昼間は、前記した海水余熱装置3を実現する(手段1)とほぼ同様な装置を用いて、太陽光の熱エネルギーで120℃程度に加熱された液体からなる熱媒体を余熱海水返送室6に配設した熱交換用配管8aに供給する手段を採用してもよい。このような手段を採用すると、昼間は太陽熱を利用して熱媒体を加熱し、夜間は蓄電装置4bで蓄電された電力を利用して熱媒体を加熱することが可能になるので、電力の消費量を低減することが可能になるとともに、昼間に蓄電装置4bに蓄電する電力量を増加させることができるようになる。
【0049】
上記した熱媒体としては、例えば、真水、あるいは従来から実用化されている各種の液体からなる熱媒体用のオイル、例えば、シリコンオイルを使用することができる。熱媒体として真水を使用する場合には、熱媒体加熱装置8内で120℃程度の過熱水蒸気を発生させて、熱媒体供給ポンプを用いて熱交換用配管8a内を循環させるようにする。また、熱媒体として真水を使用する場合、この真水は本発明の海水淡水化装置で生成した真水を使用する。
【0050】
図1に示す9は、太陽光発電装置4から供給される電力により90〜100℃程度の高温の空気(熱風)を発生させて空間部Kに供給するための熱風発生装置(熱風発生供給装置)である。熱風発生供給装置9で発生した熱風は、送風ポンプにより余熱海水返送室6に設けられた空間部K内に供給して、空間部K内の温度を90℃近くに維持するために使用される。なお、熱風発生装置(熱風発生供給装置)9についても、昼間は太陽熱を利用して空気を所定時間ほど高温度になるように加熱し、この加熱された空気を空間部K内に供給するようにしてもよい。
また、図1に示す10は、太陽光発電装置4から供給される電力を利用して−10℃〜5℃程度の冷風を冷却室7に供給するための装置である。余熱海水返送室6内で海水から発生した水蒸気は冷却室7に導かれて冷却されて凝縮し、真水が生成される。生成された真水は真水貯留装置11に収集される。
【0051】
図1に示す制御装置12は、図示していない温度検出手段、圧力検出手段を含む各種のセンサーや操作スイッチから入力される入力信号等に基づいて、図1に示す本発明の海水淡水化装置を構成する各種のポンプ、制御弁(電動バルブ)、および各装置の稼働をプログラムに従って制御するためのCPUを備えた装置である。なお、制御装置12を稼動させるための電源は、例えば、蓄電装置4bで蓄電した電力を利用するようにする。
【0052】
図1に示す1点鎖線内の各装置、例えば、海水淡水化装置本体5、熱媒体加熱装置8、熱風発生装置(熱風発生供給装置)9、冷風発生装置10、真水貯留装置11と、制御装置12とを、本発明に係る海水淡水化装置を構成する一つのユニットとすることができる。本発明においては、この一つのユニットを、例えば、図9に示すユニット装置U内に収容、又はその一部をユニット装置U近辺に設置する。そして、このユニット装置Uの一つ又は複数と、海水取水装置1、海水貯留装置2、海水余熱装置3、余熱海水貯留装置3a、太陽光発電装置4、蓄電装置4b等を備え、太陽エネルギーを有効に活用した海水淡水化プラントシステムとして構築することができる。
【0053】
(海水淡水化装置本体の構成)
続いて、本発明の海水淡水化装置において、特徴的な構成を備えている海水淡水化装置本体(以下、「装置本体」という)5の構成について詳細に説明する。図2は、装置本体5の構成についてその一実施形態を示す縦断面図(図9に示すC−C線の断面図)である。
【0054】
図2に示すように、装置本体5の基本構成は、基台となる枠体20内に設けた余熱海水返送室6と、余熱海水返送室6の上方に配設された冷却室7と、余熱海水返送室6と冷却室7との間に設けた余熱海水流下室29a(29b)から構成されている。また、余熱海水返送室6に貯留する海水S1の水面と余熱海水流下室29a(29b)との間には、所定の高さを有する空間部Kを設けている。
【0055】
なお、装置本体5の形状は、例えば、図9に示すように横長形状をなすようにする。また、装置本体5を構成する枠体20(前後、側面、天井)等は、例えば、石膏からなる板材の両面にFRP(Fiber Reinforced Plastics)を密着させた、強度と断熱効果を備えた部材から構成するとよい。また、枠体20の適所には、装置本体5を構成する各種の装置類や部品等の交換を行うための出入り口や点検用窓を複数設けるようにする。
【0056】
図2に示す海水淡水化装置本体5において、海水から効率良く水蒸気を発生させて多量の真水を生成するためには、枠体20(図9に示すユニットU)の横幅は2m〜5m程度、奥行の長さは5m〜10m程度、余熱海水返送室6の余熱海水流下室29a(29b)までの高さは少なくとも1.5〜2m程度、大型の装置では5m〜10m程度、冷却室7の高さは少なくとも2m〜3m程度、大型の装置では5m〜10m程度は確保することが望ましい。
【0057】
[余熱海水返送室の構成]
図2に示すように、余熱海水返送室6を構成する枠体20の底部には、海水S1を貯留するための空間部が形成されており、さらに、この空間部には貯留した海水S1を加熱するための熱交換用配管8aが配設されている。熱交換用配管8aには、前記したように、熱媒体加熱装置8から加熱された熱媒体が循環して供給される。これにより、余熱海水返送室6に貯留している海水S1は、熱交換用配管8a内を流れる熱媒体によって100℃程度に加熱されて、海水S1から多量の水蒸気が発生することになる。
【0058】
余熱海水返送室6の上方部には、空間部Kを介して余熱海水流下室29a(29b)を設けている。余熱海水流下室29a(29b)は、余熱海水を一時的に貯留するための装置であって、余熱海水貯留装置3aから供給ポンプ(P)により供給される余熱海水を、余熱海水流下室29a(29b)内に取り入れるための余熱海水取入口21を複数箇所に設けている。また、枠体20の下方部には、余熱海水返送室6の底部に貯留している海水S1の一部を取り出して余熱海水流下室29a(29b)に循環供給するための海水取出口21aを設けている。
【0059】
なお、余熱海水返送室6に仕切り板46を設けて、図2に示すように、左右2つの余熱海水返送室6に分割した構成としてもよい。余熱海水返送室6を左右2つの余熱海水返送室6に分割した構成にすると、装置本体5をユニット化した構成とすることが可能になるので、現地における装置本体5の建設工事が容易になるというメリットが生じる。
【0060】
余熱海水返送室6の底部には、余熱海水返送室6内に貯留している海水S1を、制御装置12の制御に従って余熱海水返送室6の外部に排出するための排出配管22を設けている。なお、排出配管22から排出した海水S1は、濾過手段を通過させて海水S1に含まれている異物を除去した後、例えば、この高温度の排出海水S1を、海水余熱装置3に供給して海水を余熱するための熱源として再利用する。そして、再利用した排出海水S1は海に戻す処理等を行う。
【0061】
また、余熱海水返送室6の枠体20の下方部には、余熱海水返送室6に海水または余熱海水を取り入れるための海水取入口21bを設けている。この海水取入口21bは、本発明に係る海水淡水化装置を初期稼働、あるいはメンテナンスした後に再稼働させるときに、海水貯留装置2から海水、あるいは余熱海水貯留装置3aから余熱海水を余熱海水返送室6内に所定量取り入れるために用いる海水取入口である。
【0062】
余熱海水返送室6の底部近傍には、前記したように、貯留した海水S1を加熱して水蒸気を発生させるための熱交換用配管8aを設置している。海水淡水化装置の稼働中において、制御装置12は余熱海水返送室6内に貯留する海水S1の水面高さが所定のレベルになるように制御して、熱交換用配管8aが余熱海水返送室6内に貯留する海水S1内に埋没されるようにする。熱交換用配管8a内には、熱媒体加熱装置8で120℃程度に加熱された熱媒体が循環供給されるので、余熱海水返送室6に貯留している海水S1は100℃近くに加熱され、海水S1から水蒸気が発生することになる。
なお、余熱海水返送室6内に設置する熱交換用配管8aは、1本の熱交換用配管8aを平面視で略コイル形状に配設するか、あるいはジグザグ状に配設して高温の熱媒体が流れる熱交換用配管8aと海水S1との熱交換効率を向上させるようにする。
【0063】
また、余熱海水返送室6に貯留する海水S1の水面上に設けた空間部K内の温度を、安定して90〜100℃程度に維持するために、空間部K内であって海水S1の水面近く、かつ枠体20の近くに、熱風発生装置9で発生させた90〜100℃程度の熱風を噴出させるための熱風噴出手段32を、所定の間隔をおいて複数設置するとよい。熱風噴出手段32としては、熱風を供給する配管に噴出ノズルを取付ける手段等を採用し、また、熱風を噴出させる方向は、空間部Kの中央方向であって、若干海水S1の水面上に傾斜させた向き(45°程度)にすることが望ましい。
【0064】
なお、余熱海水流下室29a(29b)に水蒸気上昇通路部25に通じる開口を設けて、余熱海水流下室29a(29b)内の余熱海水S2から発生した水蒸気を水蒸気上昇通路部25に導いて冷却室7に供給させて、冷却室7に供給する水蒸気量をさらに増加させるようにしてもよい。
【0065】
図2に示すように、余熱海水返送室6と冷却室7との間には、枠体20の側部側から中央部に向けて、仕切部材(仕切壁)23aと23bを設けるとともに、対向する仕切部材23aと23bの端部の間には所定の幅を有する空洞(空間)部24を設けている。仕切部材23aと23bは、余熱海水返送室6と冷却室7とを空洞部24を介在させて横方向に仕切るための部材であって、その材質は、前記した石膏からなる板材の両面にFRPを密着させた板材から構成するとよい。また、空洞部24は、図2に示すように、空間部Kの中央部の上方部付近に設け、かつ、図2の紙面の奥行き方向に延びるように設ける。
【0066】
空洞部24の上方には、この空洞部24と連通させた水蒸気上昇通路部25を設けている。水蒸気上昇通路部25は、例えば、それぞれ仕切部材23a、仕切部材23b上に、その下端部を取付けた側壁部材26、27により形成し、上部に向かうにつれて水蒸気上昇通路部25の横幅が小さくなるようにしている。そして、図2に示すように、仕切部材23a、仕切部材23bの上方であって側壁部材26の左側と、側壁部材27の右側を冷却室7としている。なお、水蒸気上昇通路部25を構成する側壁部材26と27は、ステンレス鋼製の板材を使用し、側壁部材26、27の上端側の数か所は冷却室7の天井壁部等に固定して、冷却室7の上部には空間部が形成されるようにしている。
【0067】
図2に示すように、平面状をなす仕切部材23aと23bの上面部は、空洞部24側から枠体20方向に向かって下り傾斜する傾斜面としている。さらに、それぞれの仕切部材23aと23bの傾斜面の下端部と枠体20との間には、断面形状がU字状等をなすステンレス鋼製等の集水樋28a、28bを配置している。集水樋28a、28bは、冷却室7内に流入した水蒸気が冷却されて結露して水滴となった真水を集めるための樋である。なお、集水樋28a、28bは、例えば、図2に示す淡水化装置本体5において、紙面の手前側から奥行き方向に緩やかな傾斜角度をもって下るように配置して、集水樋28a、28bに集めた真水が真水貯留装置11に重力による自然流を利用して集められるようにする。
【0068】
[余熱海水流下室の構成]
仕切部材23a、23bの下方であって余熱海水返送室6の上部の空洞部24の左右側には、海水S1の水面から空間部Kを介して所定の高さの位置に、箱型の形状をなす余熱海水流下室29a、29bを配置している。余熱海水流下室29a、29bは、余熱海水返送室6に貯留している海水S1の水面から空間部Kを介して設置されているとともに、その底部は仕切部材23a(23b)と枠体20に固定した支持部材により、水平になるように支持されている。
【0069】
余熱海水流下室29a、29bは、海水取入口21から流入した余熱海水S2を一次貯留しながらこの余熱海水S2を、余熱海水返送室6の下方に向かって透水性部材31を介して流下させる手段と、この透水性部材31の表面部に沿って流下する余熱海水S2から水蒸気を発生させるための手段として用いるものであって、本発明において特徴的な構成となる。なお、この余熱海水流下室29a、29bにより、余熱海水返送室6に貯留する海水S1には、余熱海水S2が連続して補充されることになる。
【0070】
なお、余熱海水流下室29aと29bは、それぞれ一つの箱型形状からなる部材としてもよいが、設置工事やメンテナンスの容易さを考慮して、図2に示す図面の紙面から奥行き方向に、枠体20に沿って複数の余熱海水流下室29aと29bをそれぞれ水平方向に順次配列した状態で設置し、余熱海水貯留装置3aから各余熱海水流下室29a(29b)に余熱海水を、海水取入口21を介して流入させるようにするが望ましい。また、各余熱海水流下室29aと29bは同一の構成とするとともに、メンテナンスを考慮して枠体20の外に取り外し自在な構成にする。
【0071】
続いて、余熱海水流下室29a、29bの構成の詳細について説明する。図3は、余熱海水流下室29a(29b)の第1の実施形態を示しており、図3(a)は余熱海水流下室29a(29b)の底部の一部を示す平面部、図3(b)は図3(a)に示すA−A線の断面図である。なお、余熱海水流下室29aと29bは同一の構成をなしているので、以下の説明において、余熱海水流下室の構成の説明は余熱海水流下室29aを例にして説明する。
【0072】
余熱海水流下室29aは、所定の深さを有する箱型形状をなし、平面視では図3(a)に示すように長方形状をなし、箱型形状の底部となる底板29a1と、底板29a1の4つの縁部から垂直方向に所定の高さほど立設する側板29a2を備えている。また、底部29a1の上面には、縦横方向に所定の間隔をおいて碁盤の目状に設けた段差部29a3(図3(b)参照)を設けている。段差部29a3の上面の形状は、平面視で、例えば、円形又は正方形等の多角形状をなしている。各段差部29a3の中央部には、図3(b)に示すように貫通孔29a4を設けている。
【0073】
底板29a1の貫通孔部29a4には、海水案内部材30を嵌め込んでいる。海水案内部材30には、凹状の段差部29a3に嵌装させるための平坦な上面部30aを設けている。また、所定の厚さを有する上面部30aは、その上面の中央部から垂直方向に貫通孔30bが形成されており、上面部30aの下方は上面部30aの幅より縮径した円筒状の紐挿入用突出部30dを設けている。
【0074】
海水案内部材30の上面部30aの形状は、段差部29a3に嵌り込むように平面視で円形又は正方形等の多角形状にし、その厚さは段差部29a3の深さと略同一にする。底板29a1の孔部29a4に海水案内部材30を嵌め込むと、海水案内部材30の上面部30aは底板29a1の段差部29a3内に嵌め込まれるとともに、紐挿入用突出部30dの外周面が底板29a1の貫通孔部29a4の内周面に密着し、紐挿入用突出部30dの下端部が底板29a1の下面から距離L1ほど突出させるようにする。距離L1は、5cm〜20cm程度設ける。
【0075】
また、海水案内部材30には、上面部30aから所定の高さほど突出する複数の紐係止用突出部30cを、さらに、紐挿入用突出部30dには外周面から内周面に貫通する孔30eを複数個設けている。
余熱海水流下室29aを構成する底板29a1、側板29a2、及び海水案内部材部30の材質は、例えば、ステンレス鋼等の耐食性のある部材から構成する。そして、図3(b)に示すように、紐挿入用突出部30dが底板29a1の下面から距離L1ほど突出する部分の外周面には、紐状の部材である透水性部材31の一端部側の中央部分(断面の中央部分)が挿入される。
【0076】
なお、上記した透水性部材31とは、透水性(通水性又は吸湿性)を有する綿糸、絹糸、あるいは麻糸(例えば、マニラ麻)、又はこれら材質からなる糸の数本を束ねた糸部材(以下、この糸の数本を束ねた糸部材を「単位糸部材31a」という)の複数本(例えば、3本、または4本の単位糸部材31a)を組紐状、又は縄(綱)状に組み合わせた(または撚り合わせた)所定の太さ(例えば、直径が略10mm〜50mm程度)を有する紐状、あるいは縄状の部材(以下、「紐部材」という場合がある)を示し、本発明の海水淡水化装置に用いる透水性部材の一実施形態となるものである。
【0077】
また、上記した「組紐状」とは、例えば、従来から実施されているように、3本以上の単位糸部材を、所定の組み合わせ手順に従って斜めに交差させて組み上げた組紐を示し、その断面形状を円形にした組紐を示す。さらに、上記した「縄(綱)状」とは、例えば、2〜3本以上の単位糸部材を撚った縄(綱)を示す。
【0078】
そして、図3(b)に示すように、透水性部材31の一端部側を解いた状態にして各単位糸部材31aを、貫通孔30eを通して紐係止用突出部30cに結んでいる。これにより、透水性部材31の一端部側を海水案内部材30に強固に係止、すなわち、余熱海水流下室29aに強固に固定することができる。また、この強固に固定した状態においては、図3(b)に示すように、透水性部材31の上端部側の中央部には、海水案内部材部30の紐挿入用突出部30dが挿入された状態になっている。
【0079】
なお、図3(b)に示す31cは、透水性部材(紐部材)31の上端部とその上端部から所定の長さの下方の表面部に装着(固着)したシリコンゴム等からなる外周カバー部材である。外周カバー部材31cは、透水性部材31の上端部とこの上端部から下方の所定距離の間の表面部に、余熱海水S2に含まれている塩分が付着することを防止するために設けたカバー部材である。この外周カバー部材31cを設けることにより、余熱海水S2が透水性部材31に沿って流下するときに、透水性部材の上端部の表面部、及び糸部材31aの表面部に滲み出して塩分が析出して付着することを防止することができるようになる。外周カバー部材31cを装着していない透水性部材31の表面部には、余熱海水S2が流下するので析出した塩分が付着、あるいは付着し続けることはない。
【0080】
透水性部材31の材質は、天然の植物繊維からなる綿糸、絹糸、麻糸、あるいはこれらの組み合わせからなる紐部材を使用することが好ましい。また、これら綿糸、絹糸、麻糸は、海水を含む100℃近くの水中で使用しても、その材質が変化せず、長時間使用可能であるというメリットもある。なお、透水性部材31は、多孔質の合成繊維からなる糸を使用してもよいが、この場合には、合成繊維に含まれている化学成分が海水に溶け出さない繊維を使用するようにする。
【0081】
上端部側を余熱海水流下室29aの底部に固定した多数本の透水性部材31の他端部側は、図2に示すように、余熱海水流下室29aから垂直状に空間部Kを介して吊り下げて、海水S1内に所定の長さほど浸漬させる。透水性部材31が余熱海水流下室29aから空間部Kを介して海水S1内まで吊り下げられる長さは、装置本体5の大きさにもよるが、少なくとも1m以上の長さにすることが望ましい。
【0082】
余熱海水流下室29a、29bは上記した構成を備えているので、余熱海水取入口21から海余熱水流下部29a、29bに流入し余熱海水S2は、海水案内部材30の貫通孔30bを通って、貫通孔30bの下端部から透水性部材31の中心部に流れ込むことになる。透水性部材31は、上記したように吸湿性、すなわち透水性を有する綿糸、絹糸、あるいは麻糸からなる単位糸部材31aを組紐(縄)状に組(撚り)合わされているので、長手及び上下方向に微小な空間が存在している。これにより、海水案内部材30の貫通孔30bの下端部から透水性部材31の上端部近傍の中心部に流れ込んだ余熱海水S2は、直ちに透水性部材31の中心部と、表面部あるいは表面部に近い表層部に滲み出しながら、余熱海水返送室6内に貯留する海水S1に向けて流下することになる。すなわち、余熱海水S2は、透水性部材31の中心部と、表面部と、表層部に滲み出しながら流下するので、流下している余熱海水S2が透水性部材31から分離して余熱海水返送室6の海水S1上に直接落下するという現象を無くすることができる。
なお、以下の説明において、透水性部材31の表面部と表面部に近い表層部のことを単に「表面部」と記載する。従って、「表面部」とは、透水性部材31の「表面部」と「表面部」近傍の表層部を含むものである。
【0083】
余熱海水返送室6に貯留される海水S1の水面上に設けた空間部K内は、余熱海水返送室6内に貯留している海水S1が熱交換用配管8aにより加熱されることにより発生する水蒸気と、熱風噴出手段32から噴出する熱風により90〜100℃程度の高温に保持されている。これにより、空間部K内に配置されている多数本の透水性部材31の表面部に滲み出して流下する余熱海水S2はこの高温雰囲気に曝されるので、多数本の透水性部材31の表面部に沿って流下する余熱海水S2からは多量の水蒸気が発生することになる。
【0084】
このように、装置本体5内においては、海水から水蒸気を発生させる手段として、余熱海水返送室6に貯留している海水S1を、熱交換用配管8a内を流れる熱媒体との熱交換により加熱して水蒸気を発生させる手段と、多数本の透水性部材31の表面部に滲み出して空間部Kを流下する余熱海水S2から水蒸気を発生させる手段の、2つの手段を備えていることに特徴がある。
【0085】
上記したように、本発明においては、多数本の透水性部材31の一端部側(上端部)を余熱海水流下室29a、29bに固定して、垂直方向に吊り下げて空間部Kを介してその他端部側(下端部)を余熱海水返送室6の海水S1中に浸漬させている。そして、高温に保持されている空間部Kにおいて、多数本の透水性部材31の表面部から多量の水蒸気を発生させるようにしていることに特徴がある。そして、余熱海水流下室29a、29bに多数本の透水性部材31を碁盤の目状に配置(配列)して吊り下げることにより、多数本の透水性部材31の表面積の総計を極めて大きくすることが可能になり、それだけ、透水性部材31の表面部から蒸発する水蒸気量を多くすることが可能になる。
【0086】
例えば、余熱海水流下室29a、29bから碁盤の目状に密に数100本の透水性部材31を配列することにより、高温度の空間部K内に曝される透水性部材31の総表面積を、余熱海水返送室6の海水S1の水面の面積の数十倍以上にすることが可能になる。これにより、余熱海水返送室6において、海水から真水を生成するための水蒸気を、太陽エネルギーを利用して極めて多量に発生させることが可能になり、かつ、水蒸気を発生させるための熱エネルギーの消費を少なくすることも可能になる。なお、多数本の透水性部材31を余熱海水流下室29a、29bに碁盤の目状に配列する配列例については、後述する。
【0087】
透水性部材31の下端部、すなわち、余熱海水返送室6内の海水S1に浸漬している透水性部材31の下端部側には、透水性部材31の揺れを防止するための部材を取付けて、熱風噴出手段32から噴出する熱風の噴出圧力、あるいは、海水S1の沸騰による水面の泡立ちにより、透水性部材31の揺れを防止することが望ましい。この透水性部材31の揺れ防止を行う理由は、余熱海水流下室29a、29bから吊り下げられた透水性部材31が揺れると、透水性部材31どうしの接触や絡み、あるいは透水性部材31の表面部に沿って流下している海水が流下途中において空間部Kに飛散し、この飛散した塩分を含む海水の一部が上昇気流に乗って冷却室7に入り込み、生成した真水に塩分が含まれるという不具合の発生を防止するためである。
【0088】
上記した透水性部材31の揺れを防止する手段としては、全ての透水性部材31の下端部側に、適度の重量を有するステンレス鋼製の錘を接続するか、適度の重量を有するステンレス鋼製の棒又は網部材45を接続するようにする。また、この揺れ防止手段は、透水性部材31の揺れを確実に防止するために枠体20に固定することが望ましい。この揺れ防止手段を設けることにより、余熱海水流下室29a、29bから多数本の透水性部材31を碁盤の目状に密に配列して吊り下げることも可能になる。
【0089】
[冷却室の構成]
続いて、冷却室7の構成例を図2に基づいて説明する。冷却室7は、仕切部材23a、23bの上方であって、空洞部24と連通している水蒸気上昇通路部25の左右に設けられている。
【0090】
図2に示すように、水蒸気上昇通路部25と冷却室7の側壁との間には、冷風(冷媒)を供給するためのステンレス鋼製の上部熱交換用配管33aと下部熱交換用配管33bを配置している。また、上部熱交換用配管33aと下部熱交換用配管33bとは、複数のステンレス鋼製の配管34a、34bを介して連結している。そして、冷風発生手段10で発生した冷風(−10℃〜5℃程度の温度)が上部熱交換用配管33a内に循環供給されるようにしている。上部熱交換用配管33aに供給された冷風は、配管34a、34bを介し下部熱交換用配管33bに流れ、下部配管33bに流れた冷風は冷風発生手段10に回収される。このように、冷風発生手段10で発生した冷風は、「上部熱交換用配管33a→配管34a(34b)→下部熱交換用配管33b→冷風発生手段10」へと循環供給される。
【0091】
また、図2に示すように、縦方向に配設された配管34a、34bの左右には、所定の間隔をおいて多数枚のステンレス鋼製の冷却板35を所定の間隔をおいて上下方向に順次接続するとともに、各冷却板35は、冷却室7の下方に向けて下り傾斜になるように配置している。なお、冷却板35を配管34a、34bに取り付け易くするために、配管34a、34bの断面形状は、扁平な矩形形状にするとよい。また、配管34a、34bに直接冷却板35を取り付けるのではなく、熱伝導率の高い金属(ステンレス鋼等)製の縦長の板状の固定部材に予め冷却板35を取付けておき、この固定部材を配管34a、34bに密着固定する手段を採用してもよい。さらに、冷却板35は、図2に示すように、その長さが長い冷却板35と短い冷却板35とを配管34a、34b、または固定部材に交互に取付けるようにすることが望ましい。
【0092】
多数枚の冷却板35は、配管34a、34b内を流れる冷風の熱伝導により冷却されるので、冷却板35も冷却される。上記したように、長さが長い冷却板35と短い冷却板35を交互に取付けた構成にすると、冷却室7内を流れる水蒸気を含む気流の流れに乱れが生じるので、水蒸気を含む気流が冷却板35の表面に接触し易くなって、水蒸気が冷却されて生成された水滴が冷却板35に付着する量を増加させる作用を促進させることができる。
【0093】
なお、余熱海水返送室6内で発生した水蒸気により、余熱海水返送室6と冷却室7内の圧力は上昇する。このため、余熱海水返送室6内で多量の水蒸気を効率良く発生させて、この水蒸気を、水蒸気上昇通路部25を介して冷却室7内に導くためには、冷却室7内を減圧する必要がある。この対策として、図2に示すように、例えば、冷却室7の側壁の下部に吸引口(排出口)38を設け、吸引口38は減圧ポンプに接続し、海水淡水化装置の稼働時にはこの減圧ポンプを常時作動させて冷却室7内を減圧するようにする。また、冷却室7に圧力センサーを設置し、制御装置12はこの圧力センサーの検出値が予め設定した所定の圧力値内に維持されるように制御する。このように、冷却室7の空気を吸引口38から減圧ポンプにより吸引することにより、余熱海水返送室6内で発生した多量の水蒸気を空間部Kから水蒸気上昇通路25を介して冷却室7内への流入を促進させることが可能になる。
【0094】
また、吸引口38から減圧ポンプにより吸引される空気には微細な水蒸気の粒子が含まれているので、例えば、この吸引される空気を、例えば、中空糸膜を通過させて水蒸気の粒子を捕捉して、この吸引される空気からも真水を得る手段を設けるようにしてもよい。
【0095】
なお、水蒸気上昇通路部25の上方部には、海水貯留装置2から海水が供給される配管37を例えば螺旋状に設置し、この配管37内を流れる海水を、水蒸気上昇通路部25を上昇する高温度の水蒸気を含む気流との熱交換により余熱する手段を設けてもよい。そして、配管37内で余熱された海水は、例えば、余熱海水貯留装置3a、余熱海水流下室29a、29b、余熱海水返送室6のいずれかに供給するようにする。
また、水蒸気上昇通路部25の上部に配管37を設置することにより、水蒸気上昇通路部25内を上昇する水蒸気は、配管37と接触してその温度が低下するという効果が生じ、配管37の表面には水滴が付着するので、図2には示していないが、配管37の表面から落下する水滴を真水として回収する手段を設けてもよい。
【0096】
また、冷却室7の上部の天井壁部近傍には、冷風発生装置10から配管を介して供給される冷風を噴出するためのノズルを備えた複数の冷風噴出手段36を設けて、冷風を冷却室7の側壁方向に向けて噴出させるようにしている。冷却室7の下部の側壁には、前記したように、減圧ポンプに接続した吸引口(排出口)38を設けているので、冷却室7の上部に流入した水蒸気を含む気流は、冷却室7の上部に配置した冷風噴出手段36により冷却されながら、冷却室7内の冷却板35と接触しながら冷却室7内を下降することになる。
【0097】
続いて、上記した構成を備えた冷却室7において、余熱海水返送室6内で発生した水蒸気を導いて冷却し、真水を生成する作用を説明すると、次のようになる。
【0098】
(1)余熱海水返送室6内に貯留している海水S1は、熱交換用配管8aにより加熱されるので海水S1から水蒸気が発生する。
【0099】
(2)海水余熱装置3で余熱された余熱海水は、ポンプ等の供給手段により海水取水口21を介して余熱海水流下室29a、29bに供給される。余熱海水流下室29a、29bに流入して一時的に貯留した余熱海水S2は、海水案内部材30の貫通孔30bを通って透水性部材31の中心部に流れ込んで、透水性部材31に沿って余熱海水返送室6の海水S1内に流下する。このとき、透水性部材31の表面部に沿って流下する余熱海水S2は、空間部K内を流下するときに、90〜100℃程度の高温に維持されている雰囲気に曝される。これにより、前記したように、多数本の透水性部材31の表面部を流下する余熱海水S2からは多量の水蒸気が発生することになる。
【0100】
(3)冷却室7の側壁の下部には減圧ポンプに接続した吸引口(排出口)38を設けているので、上記(1)、(2)により発生した水蒸気は、空間部Kの中央部から空洞部24を通り、さらに水蒸気上昇通路部25内を上昇して冷却室7内の上部に流入する。このとき、高温の水蒸気は、比較的温度が低い海水が供給されている複数の配管37の表面と接触して10〜20℃程度は温度が下がることになる。
【0101】
(4)冷却室7内に流入した水蒸気を含む気流の流れは、水蒸気上昇通路部25の上端部から冷却室7の天井壁部方向に進む。そして、図2に示す点線の矢印で示すように、冷却室7の天井壁部により湾曲した2つの流れになって、冷却室7内を下降する流れに変化する。このとき、天井壁部の下方に配置した冷風噴出手段36から冷風が噴出しているので、この冷風により水蒸気はさらに冷却されるとともに、冷却室7内に流入した水蒸気は冷却室7内を下降する流れが加速されることになる。
【0102】
(5)冷却室7内を下降する水蒸気を含む気流は、冷却室7内に多数配置された冷却板35に接触して冷却されて結露して水滴となって冷却板35の表面に付着する。冷却板35の表面に付着した水滴は次第に成長して大きくなる。冷却板35は冷却室7の下部方向に傾斜させた状態で設置されているので、冷却板35の表面に付着した水滴は、重力により冷却板35の傾斜した下端側の端部から落下する。
【0103】
(6)冷却板35から落下した水滴は、仕切部材23a、23b上に落下する。仕切部材23a、23bは、それぞれ集水樋28a、28b方向に下り傾斜になるように配置されているので、仕切部材23a、23b上に落下した真水は集水樋28a、28bに向かって流れることになる。
【0104】
(7)前記したように、集水樋28a、28bを、例えば、図2の紙面の手前側から奥行き方向に緩やかに下り傾斜するように配置することにより、集水樋28a、28bに集められた真水は、重力を利用して真水貯留装置11に収容されることになる。
【0105】
なお、本発明の海水淡水化装置を長時間使用し続けると、透水性部材31の表面部には、塩分等の異物が付着する可能性がある。従って、海水淡水化装置を数週間稼動させると、熱風噴出手段32からの熱風の噴出の中止と、余熱海水返送室6内に貯留している海水S1を余熱海水流下室29a又は29bに返送する制御を中止して、海水余熱装置3で余熱された余熱海水を余熱海水流下室29a又は29bに供給する。これにより、余熱海水流下室29a又は29bに供給された余熱海水は、透水性部材31に沿って余熱海水返送室6内に流下するので、透水性部材31の表面部に析出した塩分は溶けて余熱海水返送室6内に海水S1として貯留されることになる。また、この制御を所定時間継続して行うことにより余熱海水返送室6の海水S1の水位も上昇してくるので、透水性部材31の表面部に付着した塩分を除去する作用が促進されることになる。
また、上記したメンテナンス作業は、図2に仕切り板46を設けたことにより2分割した余熱海水返送室6ごとに行うことも可能になる。これにより、海水淡水化の効率は低下
【0106】
(余熱海水流下室の第2の実施形態)
続いて、図2に示した余熱海水流下室29a(29b)について、第2の実施形態の構成を図4及び図5に基づいて説明する。
第2の実施形態となる余熱海水流下室40a(40b)は、図4に示すように、底部となる底板40a1(40b1)と側板40a2(40b2)を備えた箱型形状をなし、その側板40a2(40b2)の上部に蓋部材40a4(40b4)を固定した構成にしている。そして、図5に示すように、この蓋部材40a4(40b4)に、紐状の透水性部材31の一端部側(上端部)に、結び目31aを作って固着し、透水性部材31の他端部側(下端部)は、底板40a1に設けた孔40a3を通して余熱海水返送室6の海水S1に浸漬した構成としたものである。
【0107】
さらに、この第2の実施形態においては、図5に示すように、透水性部材31の上端部側の内部の中心部に、中空部41aを有する海水案内部材41を挿入する。海水案内部材41は所定の長さを有する円筒形状をなしている。そして、透水性部材31の上端部を蓋部材40a4(40b4)に固定したときに、透水性部材31の内部に挿入した海水案内部材41の上端開口部は、図5に示すように、底板40a1(40b1)の上面部とほぼ同じ高さにするか、又は上面部から若干突出させた位置になるようする。一方、海水案内部材41の下端開口部は、底板40a1(40b1)の下面部から所定の距離L2ほど離れた位置になるように、海水案内部材41を透水性部材31の中央部に固定する。なお、海水案内部材41は、耐食性を有するステンレス鋼製とすることが望ましい。
【0108】
また、透水性部材31の上端部から下方に向かって所定の長さL3にわたって、紐部材からなる透水性部材31をほどいた状態(撚りをほどいた撚り戻し部)31dとする。このように撚り戻し部31dを設けることにより、透水性部材31内に海水案内部材41を挿入し易くするとともに、余熱海水流下室40a(40b)に貯留している余熱海水S2が海水案内部材41の上端開口部から中空部41a内に流入し易くすることが可能になる。
【0109】
なお、撚り戻し部31dの外周面には、所定の間隔をおいて、撚り戻し部31dを適度に締め付けるためのバンド部材42を設けて、撚り戻し部31dのばらつきを防止するとともに、海水案内部材41の撚り戻し部31d内における挿入位置も固定する。
【0110】
また、図5に示すように、透水性部材31の撚り戻し部31dの外周面であって、底板40a1(40b1)の孔40a3を貫通している近傍には、外周カバー部材31cを固着している。外周カバー部材31cは、前記した図3(b)に示す外周カバー部材31cと同一の機能を発揮させるとともに、透水性部材31の表面部と底板40a1(40b1)の孔40a3との隙間を密封して余熱海水S2の漏れを防止するために設けたシリコンゴム等から構成される部材である。
【0111】
上記した構成からなる余熱海水流下室40a(40b)を備えた装置本体5においては、余熱海水流下室40a(40b)内に余熱海水取入口21から流入して貯留した余熱海水S2は、透水性部材31の撚り戻し部31dから海水案内部材41の上端開口部に導かれて、中空部41aを流下する。海水案内部材41の中空部41aを流下した余熱海水S2は透水性部材31の中心部に導かれるが、透水性部材31は透水性を有する複数の糸部材どうしを、撚り合せて組紐状または縄状とした部材から構成されているので、透水性部材31の中心部に導かれたこの余熱海水S2は透水性部材31の表面部に滲み出しながら、余熱海水返送室6の海水S1に向かって流下することになる。このとき、透水性部材31の表面部に沿って空間部Kを流下する海水からは、前記したように多量の水蒸気が発生することになる。
なお、余熱海水返送室6内には、図2に示すように、仕切り板46を設けて、余熱海水返送室6を2つに分割した構成にしてもよい。
【0112】
透水性部材31の上端部を余熱海水流下室29a(29b)、または40a(40b)に固着する方法は、上記した図3(b)及び図5に示す方法の他に、他の方法も任意に採用することができる。重要なことは、余熱海水S2が滲み込んで重量が重くなった透水性部材31の上端部を余熱海水流下室29a等に強固に固定すること、及び余熱海水流下室29a等に貯留している余熱海水S2を、海水案内部材30または41を用いて透水性部材31の上端部近傍からこの透水性部材31の中央部に向けて誘導する流れを作ることである。これにより、透水性部材31の上端部の中央部に流入した余熱海水S2の一部は、透水性が高い透水性部材31の表面部に沿って余熱海水返送室6の海水S1まで流下する。
【0113】
なお、透水性部材31の表面部を介して流下する余熱海水S2の流下量を適切に設定する必要があるが、この流下量は海水案内部材30または41に設けた貫通孔30bや中空部41aの直径の大きさにより決定することができる。例えば、径が大きい透水性部材31を用いた場合には、径が小さい透水性部材31よりも、貫通孔30bや中空部41aの直径も大きくする。
【0114】
上記した余熱海水流下室の第2の実施形態となる余熱海水流下室40a、40bにおいては、ステンレス鋼製の板からなる蓋部材40a4、あるいはステンレス鋼製の棒を格子状に組み合わせた蓋部材40a4に、透水性部材31の一端部側を容易に結び付けることが可能になるので、透水性部材31の交換等のメンテナンス作業が簡単になるという効果が生じる。
【0115】
(透水性部材の配置例)
本発明の海水淡水化装置は、前記したように、一時的に余熱海水S2を貯留する余熱海水流下室29a(29b)、40a(40b)等から、この余熱海水S2を多数の透水性部材31に沿って余熱海水返送室6に向かって90〜100℃程度に維持されている空間部K内を流下させるときに、これら透水性部材31の表面部に滲み出しながら流下する余熱海水S2から、多量の水蒸気を発生させる手段を備えていることに特徴がある。
図2および図4に示す余熱海水流下室29a等の実施形態においては、透水性部材31の配置は碁盤の目状に配置し、かつ透水性部材31の太さも同一とした例について説明したが、さらに、透水性部材31の表面部から多量の水蒸気を発生させるためには、空間部K内における透水性部材31の配置、および透水性部材31の太さについても考慮することが重要であると考えられる。この多数本の透水性部材31を余熱海水流下室29a(40a)等から余熱海水返送室6に向けて吊り下げるときの配置、すなわち、空間部K内における配置(配列)は下記のようにすることが望ましいと考えられる。
【0116】
図6は、透水性部材31の配列について望ましい形態の一例を説明するための図であって、図2に示す空間部KにおけるB−B線の断面図を示している。
図6に示す透水性部材31の配列例は、ほぼ同一の太さを有する透水性部材31を碁盤目状に、かつ、空間部KのX及びY方向に、互い違いに所定の間隔をおいて配列した例を示している。透水性部材31の太さ(直径)は、10mm〜50mmの範囲でほぼ同一の値とし、Y方向に配列した透水性部材31の間隔は透水性部材31の太さの略1〜2倍程度、Y方向の配列は、一列おきに透水性部材31の同じ配列が繰り返されるようにしている。
【0117】
図6に示す配列例では、熱風噴出手段32から噴出した90〜100℃程度の熱風は、透水性部材31の表面部に接触しながら空間部Kの中央部方向に向かって進む。このとき、熱風噴出手段32から噴出した熱風は透水性部材31の表面部に接触しながら空間部Kの中央部方向に進むので、透水性部材31の表面部を流下している余熱海水S2は水蒸気の発生が促進されることになる。このようにして、余熱海水返送室6内の海水S1から発生した水蒸気と、透水性部材31の表面部から発生した水蒸気は、熱風噴出手段32から噴出する熱風の流れとともに透水性部材31の間を流れ、また、透水性部材31の表面部と接触しながら、空洞部24の下部、すなわち、空間部Kの中央部に達する。このときの水蒸気の温度は90〜100℃程度になっている。空間部Kの中央部に達した水蒸気は、空洞部24を通って水蒸気上昇通路部25を上昇して冷却室7内に流入することになる。
【0118】
このように、多数本の同じ太さの透水性部材31を碁盤の目状に配列することにより、熱風噴出手段32から噴出した熱風は透水性部材31の表面部と接触する面積が多くなるので、透水性部材31の表面部から発生する水蒸気の量を多くすることができるという効果が生じる。なお、透水性部材31の太さが比較的大きい透水性部材31を使用する場合には、太さが小さい透水性部材31を使用する場合と比較して、空間部Kの高さを高くして、多数本配列した透水性部材31の表面積の総和が大きくなるようにすることが望ましい。
【0119】
図7は、透水性部材31の配列について他の配列例を示している。図7に示す配列例では、太さの異なる透水性部材61a、61b、61cを碁盤目状に、かつ、X及びY方向に互い違いに所定の間隔をおいて、かつ、X方向(余熱海水返送室の外側部となる枠体20から空間部Kの中央部方向)に向けて、漸次その太さを小さくした透水性部材を配列した例を示している。
【0120】
図7に示す例では、X方向に3つのゾーン(Z1、Z2、Z3)を設定し、このゾーンごとに太さの異なる透水性部材を配列した例を示している。この配列では、枠体20側の領域Z1では最も太い径(例えば、50mm)を有する透水性部材61aを複数列、続いて領域Z2では中間の太さの径(例えば、20mm〜40mm)を有する透水性部材61bを複数列、空間部Kの中央部に近い領域Z3では、最も小さい径(例えば、10mm〜20mm)を有する透水性部材61cを複数列ほど、かつ、1列の透水性部材61cの本数が他のゾーンより多く配列する。
【0121】
この図7に示す配列例では、熱風噴出手段32に近い側に最も太い透水性部材61a、すなわち、表面積が最も大きい透水性部材を配置しているので、この太い透水性部材61aの表面部から多量の水蒸気の発生を促進することが可能になる。また、領域Z3では、最も小さい径を有する透水性部材61cを密に配列しているので高温度の気流が透水性部材61cの表面と接触し易くなるので、透水性部材61cの表面からの水蒸気の発生が促進されることになる。さらに、各領域において、X及びY方向の透水性部材の間隔は、各領域に配列されている透水性部材の太さの1〜4倍程度と密になるように配列する。
【0122】
なお、図7に示す透水性部材61a、61b、61cの配列例では、3つのゾーンZ1、Z2、Z3ごとに、枠体20から空間部Kの中央部に行くほど透水性部材の太さを小さくしたが、枠体20から空間部Kの中央部に近づくに従って、Y方向の列単位で、透水性部材の太さを順次小さくしてもよい。
【0123】
(冷却室の他の実施例)
続いて、水蒸気を冷却する冷却室7について、他の実施形態の構成を図8に基づいて説明する。図8に示す冷却室7は、図2に示す冷却室7の縦方向に配設した配管34a、34bの左右の側面に配置した冷却板の構成を、ジグザク状に折り曲げたステンレス鋼製の冷却板50とし、さらに、この冷却板50を配管34a、34bに取り付けたときに、ジグザク状に折り曲げた形状をなす冷却板50は、冷却室の下方に向かって傾斜する傾斜面を有するようにしたものである。そして、隣り合う2つの配管34aと34a(34bと34b)間においては、隣り合うジグザク状の冷却板50どうしは互いにその取り付け位置を縦方向に若干の距離ほどずらして、隣り合う冷却板50間には幅が狭いジグザグ状の空間部51が形成されるようにしている。
【0124】
このように冷却室7内にジグザク状の冷却板50を配置すると、冷却室7内に流入した水蒸気を含む気流が冷却室7内を下降するときに、その一部の気流は、幅が狭いジグザグ状の空間部51内を上方部から下方に向けて流れるようになる。そして、水蒸気がジグザグ状の空間部51を通過するときに、水蒸気はジグザグ状の冷却板50とより広い面積にわたって接触することになるので、水蒸気は冷却されて結露して水滴になり、効率良く真水を生成することが可能になる。なお、図8には、ジグザグ状の空間部51を2つ形成した例を示しているが、冷却室内に配管34a(34b)を3本以上設置してジグザグ状の空間部51を多数形成することにより、より多量の真水を生成することが可能になる。
【0125】
[海水余熱装置の構成例]
続いて、前記した本発明に採用することができる海水余熱装置の構成例を、図10及び図11に基づいて説明する。なお、図10はこの海水余熱装置の構成の概要を説明するための図、図11は図10に示すD−D線の断面図である。
【0126】
図10に示す海水余熱装置70は、装置の外枠がステンレス鋼、あるいはFRP等から構成され、密閉されている内部には、長手方向に2本の熱交換用配管71と72をジグザグ状に配置している。また、海水余熱装置70の一方の側壁の下部には、横方向に球形(球面)状の空間部を設けた複数の太陽光受光部73、73、73、・・を設け、さらに、各太陽光受光部73には太陽光を入射させるための開口部73aを装置の外側に向けて設けている。太陽光受光部73の球形状をなす空間部の表面には、入射した太陽光の熱エネルギーを吸収するための黒色の被膜、例えば、黒色クロメートの被膜層を設けている。また、海水余熱装置70の内部には、液体からなる熱媒体、例えば、シリコンオイルが充填されている。
【0127】
この海水余熱装置70は、図11に示すように、凹面鏡3cを有する太陽光集光装置3bを備えるようにする。なお、太陽光集光装置3bは、海水余熱装置70に設けている太陽光受光部73の数に対応した台数ほど設置する。そして、太陽光集光装置3bで集光した太陽光は、対応する太陽光受光部73に入射されるようにする。また、凹面鏡3cの向きは制御装置12又は他の制御装置の制御により、太陽の移動に対して自動的に追従できるようにする。
【0128】
上記した構成を備えた海水余熱装置70においては、太陽光集光装置3bの凹面鏡3cで集光した太陽光は、開口部73aを介して太陽光受光部73の球形面内に入射する。太陽光受光部73の球形面内に入射した太陽光は、黒色をなすクロメート被膜層に照射されるので、この部分は太陽光の熱エネルギーにより高温度、例えば、100℃以上に加熱される。これにより、海水余熱装置70内に充填されている熱媒体は、太陽光受光部73からの熱伝導により温度が上昇して、太陽光集光装置3b内には熱媒体の対流が発生し、所定時間経過すると熱媒体の温度も100℃近くの高温度に達することが可能になる。また、開口部73a近傍には凸レンズ73bを配置して、凹面鏡3cで集光した太陽光をクロメート被膜層上に焦点を収束させることにより、クロメート被膜層を含む太陽光受光部73の温度をさらに高温度にすることが可能になり、熱媒体の温度を100℃以上にすることも可能になる。
【0129】
そして、海水余熱装置70内の熱媒体の温度が所定の高温度に達すると、海水貯留装置2から熱交換用配管71に所定の量の海水を、所定の時間間隔で供給する。これにより、海水余熱装置70内に配設されている熱交換用配管71内の海水は、少なくとも80℃以上の温度に余熱することが可能になる。熱交換用配管71内で所定の温度に余熱された海水は、制御装置12等の制御に基づいて、余熱海水貯留装置3aに供給する処理を行う。
【0130】
また、例えば、海水余熱装置70内に配置した他の熱交換用配管72には、空気を供給するようにしてもよい。熱交換用配管72に空気を供給すると、上記した海水から余熱海水を得る作用と同様にして、熱交換用配管72内の空気を100℃近くの高温に加熱することが可能になる。そして、昼間は、この加熱された空気を、空気圧送ポンプを利用して余熱海水返送室6に配設した熱風噴出手段32から熱風として噴出させるようにする。
【0131】
なお、図10に示す海水余熱装置70では、海水と空気とを加熱する機能を備えている例について説明したが、海水のみを余熱する海水余熱装置として、この海水余熱装置を複数台設置して、昼間は太陽熱を利用して余熱海水が連続的に多量に得ることができるようにすることが望ましい。同様に、海水のみを加熱する空気加熱装置を1台又は複数台設置してもよい。
【0132】
(海水淡水化装置の稼働制御)
続いて、本発明の海水淡水化装置、特に装置本体5を稼働させるための制御について説明する。この稼働制御は、制御装置12により実施される。なお、制御装置12はCPU,制御プログラムを予め記憶させたROM等を搭載した制御基板を備えており、稼働制御はこの制御プログラムに従って実行される。
【0133】
図1に示す各装置には必要に応じて、海水淡水化装置の稼働を制御するために必要とする各種のセンサー、例えば装置内に貯留する海水量のレベル(液面)を検出するレベルセンサー、海水や熱媒体等の温度を検出する温度検出センサー、装置内の圧力を検出する圧力検出センサー、海水の塩分濃度を測定する塩分濃度測定センサー、等が設置されている。これらのセンサーは、既に公知の各種のセンサーを使用することができる。
【0134】
例えば、海水貯留装置2には取水装置1により海中から取水した海水を貯留している貯留レベルを検出するためのレベルセンサーが、海水余熱装置3には太陽光を利用して海水を余熱したときにその余熱温度を測定する温度検出センサーが、余熱海水貯留装置3aには貯留している余熱海水の貯留レベルを検出するためのレベルセンサーが、余熱海水返送室6には貯留している海水S1の貯留レベルを検出するためのレベルセンサー、海水S1の温度を検出する温度検出センサー、海水S1の塩分濃度を測定する塩分濃度測定センサー、空間部K内の温度を検出する温度検出センサー、等が設置されている。
【0135】
また、冷却室7には、温度検出センサー、圧力検出センサー等が、真水貯留装置11には貯留する真水の貯留レベルを検出するためのレベルセンサーが、余熱海水流下室29a、29b(又は40a、40b)には、一時的に貯留する余熱海水S2の貯留レベルを検出するためのレベルセンサーが設置されている。
さらに、熱媒体加熱装置8には熱媒体の温度を検出するための温度検出センサー、熱風発生装置9には発生させた熱風の温度を検出するための温度検出センサーと圧力を検出するための圧力センサーが設置されている。
【0136】
図1に示す本発明に係る海水淡水化装置を建設したときの立上げ時(メンテナンス後の立上げ時も含む)の稼動制御、及び通常の稼働制御を行うときに、制御装置12により、主要な装置となる図2に示す海水淡水化装置本体5について、その稼働制御の手順例を説明すると次のようになる。
【0137】
(1)余熱海水貯留装置3aに貯留している余熱海水を、余熱海水流下室29a(29b)に供給するたに、ポンプやバルブを備えた海水供給手段を制御して、余熱海水を余熱海水流下室29a(29b)に供給する制御を行う。また、冷風発生手段10を稼働させて冷風を「上部熱交換用配管33a→配管34a(34b)→下部熱交換用配管33b→冷風発生手段10」へと循環供給するとともに、冷風噴出手段36から冷風を噴出させる制御を開始する。
【0138】
(2)余熱海水流下室29a(29b)に設置されているレベルセンサーは、余熱海水流下室29a(29b)内に貯留される余熱海水S2のレベルを検出する。制御装置12はこの検出値が所定のレベル以下の場合には、余熱海水貯留装置3aから余熱海水流下室29a(29b)に供給する余熱海水の供給量を増加させる、等の制御を行う。また、余熱海水流下室29a(29b)に貯留される余熱海水S2の貯留レベルが一定になるように、余熱海水流下室29a(29b)への余熱海水の供給を制御する。
【0139】
(3)前記したように、余熱海水流下室29a(29b)等に貯留される余熱海水S2は、透水性部材31に沿って余熱海水返送室6の方向に流下して余熱海水返送室6内に海水S1として貯留される。余熱海水返送室6に設置されているレベルセンサーは、この海水S1の貯留レベルを検出する。制御装置12は、余熱海水返送室6に貯留された海水S1が所定の貯留レベルに達すると、熱媒体加熱装置8を制御して加熱された熱媒体を熱交換用配管8aに循環供給する制御を開始する。これにより海水S1は100℃近くに加熱され、水蒸気が発生することになる。さらに、熱風発生装置9を制御して熱風を熱風噴出手段32から噴出させる制御を開始する。
【0140】
また、制御装置12は、余熱海水返送室6に貯留されている海水S1の貯留レベルが所定の基準レベルになるように制御する。そして、海水S1の一部を、海水取出口21aを介して余熱海水流下室29a(29b)等に循環供給する制御を行って、海水S1の貯留レベルが基準レベルに達するようにする。このように、海水S1の一部を、余熱海水流下室29a(29b)等に循環供給する制御を行うことにより、余熱海水貯留装置3aから余熱海水流下室29a(29b)に供給する余熱海水量を減少させることが可能になる。なお、この制御装置12が海水S1の一部を、海水取出口21aを介して余熱海水流下室29a(29b)等に循環供給する制御は、余熱海水返送手段になる。
【0141】
(4)余熱海水返送室6に貯留されている海水S1の塩分濃度を塩分濃度測定センサーにより検出し、この測定値が所定の濃度に達すると、排出配管22から所定量の海水S1を余熱海水返送室6の外に排出する制御を行うとともに、海水供給手段により余熱海水貯留装置3aから余熱海水を海水取入口21bから余熱海水返送室6内に供給する制御を行う。この余熱海水の供給は、余熱海水返送室6内の海水S1の貯留レベルが所定のレベルに達するまで行う。この制御により、余熱海水返送室6内の海水S1の塩分濃度が高くなって水蒸気発生量の減少を防ぐことができるようになる。
なお、排出配管22から排出された海水S1は100℃近くの高温なので、例えば、余熱海水貯留装置3a内の余熱海水の温度を維持するための熱源として再使用し、使用後は海に戻す等の処理を行うようにする。
【0142】
(5)冷却室内の圧力を圧力検出センサーで検出し、この検出値が所定の値を超えたときには、吸引口38に接続された減圧ポンプの吸引力を増加させて冷却室内の圧力を所定の基準値になるように制御する。
【0143】
(6)太陽光発電装置4で発電した電力は、図1に示す装置の電力源として使用されるが、制御装置12は電力使用量を監視して、電力に余剰が生じた場合には、この余剰電力を蓄電装置4bで蓄電するための制御を行う。蓄電装置4bに蓄電した電力は、主として、海水淡水化装置を構成する各装置を、夜間等において稼働させるときの電力源として使用する。
【0144】
制御装置12は、本発明に係る海水淡水化装置の稼働を上記した制御を行うことにより、装置本体5は、余熱海水返送室6内において海水から多量の水蒸気を発生させるために消費するエネルギー等を、主として、太陽光が有するエネルギーを利用して、効率よく海水から真水を得ることが可能になる。
【0145】
なお、上記した本発明の実施形態において、余熱海水流下室29a(29b)から余熱海水返送室6まで吊り下げた多数本の透水性部材31は、垂直方向に吊り下げた例について説明したが、この多数本の透水性部材31の吊り下げ向きは、垂直方向の他に、余熱海水流下室29a(29b)から余熱海水返送室6まで所定の角度ほど緩やかに傾斜させてもよい。透水性部材31を傾斜させた状態で吊り下げると、空間部K内における各透水性部材31の表面積の総計が増加するので、水蒸気の発生量をより増加させることが可能になる。また、透水性部材31を吊り下げる向きは、垂直方向と上記した傾斜させた向きを組み合わせてもよい。この場合には、例えば、枠体20の近傍に配置される数列の透水性部材31は垂直方向に吊り下げ、空間部Kの中央部近傍に配置される数列の透水性部材31は傾斜させた向きとする。
【0146】
なお、透水性部材31を所定の角度ほど緩やかに傾斜させて配置する場合、この傾斜角度は、透水性部材31の表面部に沿って流下する余熱海水S2が透水性部材31の途中から分離して落下しない角度にすることが必要である。この理由は、透水性部材31の途中から落下した塩分を含む余熱海水S2の微小な粒が、空間部K内の上昇気流に乗って冷却室7に流入することが考えられるからである。
【0147】
また、透水性部材31は、前記したように、天然の植物繊維からなる綿糸、絹糸、麻糸、あるいはこれらの組み合わせからなる紐部材を使用することが好ましいが、さらに、これら綿、絹、麻、あるいは多孔質の合成繊維に、稲藁や畳表を混ぜて撚り合わせた紐部材としてもよい。このようにすると、紐部材の内部がより多孔質になり、表面部も凹凸部をより多く形成することが可能になるので紐部材の表面部を流下する余熱海水から水蒸気の発生を促進させる効果がさらに向上する。
本発明において、透水性部材31の強度を増加させるためにこの透水性部材31を、炭素繊維を含む部材から構成してもよい。
【0148】
(透水性部材の他の実施例)
続いて、透水性部材を、炭素繊維を含む部材から構成した場合に、余熱海水流下室の構成例について説明する。図12は、透水性部材80を、炭素繊維を含む部材から構成したときに、この透水性部材80を余熱海水流下室81の底板81aに取付けるための構成例を示している。
【0149】
図12に示すように、余熱海水流下室81の底板81aには、その上面から下面に向けて段差部81cを形成するとともに、この段差部81cには上面から下面に貫通する貫通孔81bを形成している。そして、底板81aにはこの段差部81cを備えた貫通孔81bを碁盤の目状に多数配列した状態で設け、ステンレス鋼製の海水案内部材82を各貫通孔81bに挿入して、この挿入部から余熱海水が漏れないように密に固定している。海水案内部材82は、後述するように、透水性部材80を係止して、この透水性部材80を余熱海水返送室6内に向かって吊り下げるための手段になる。
【0150】
海水案内部材82の形状は、図13(a)に示すように、その上面は、上面視で、例えば円形の上面部82aと、上面部82aに続く下円筒部82b(図12参照)と、上面部82aの上面の中心部から下円筒部82bの下端まで貫通する貫通孔82cを形成した円筒形状をなしている。また、図12及び図13(a)に示すように、上面部82aの上面近傍には、貫通孔82cの内周面から中心部方向に所定の長さほど突出する複数の突出部82dを設けている。図13(a)に示す例では、4つの突出部82dを90°間隔で対向させて設けている。さらに、下円筒部82bには、貫通孔82cの中心線と直交する方向であって貫通孔82cの直径方向に形成された貫通孔82eを設けている。貫通孔82eは、ボルト83を挿通すための孔である。
【0151】
続いて、炭素繊維を含む部材からなる透水性部材80の構成を、図14(a)、(b)を参照して説明する。透水性部材80は、縦方向に貫通孔H1を備えた中空の直線状の部材であって、外径d1、長さL4を有し、その横断面の形状は図14(b)に示すように円形をなしている。透水性部材80は、炭素繊維を含む複合材料、例えば、炭素繊維強化炭素複合材料(C/Cコンポジット)からなる中空線状部材84と、中空線状部材84の外周面に嵌装された透水性を有する繊維部材(以下、「透水性繊維部材」という)85から構成されている。
【0152】
長さL4、外径d1を有する中空線状部材84は、炭素粉末と炭素繊維からなる複合材料、あるいは熱硬化性樹脂中に炭素繊維を分散させた複合材料、あるいはFRPに炭素繊維を分散させた複合材料等から構成されている。また、中空線状部材84の上端部近傍は小径に縮径された長さL5の小径部84aを備え、さらに、この小径部84aには貫通孔H1の中心線と直交し、貫通孔H1の直径方向に形成された2つの孔84bが形成されている。これら2つの孔84bはボルト83を挿通するための孔である。なお、中空線状部材84は、例えば、押し出し成型により長さが1m〜1.5m程度に製造し、小径部84aは切削加工により形成する。なお、中空線状部材84の径d1は、10mm〜20mm程度、貫通孔H1の径は、5mm〜10mm程度とすればよい
【0153】
中空線状部材84の外周面に嵌装された透水性繊維部材85は、所定の厚さd2を備え、透水性が極めて高い布、織物、組み紐状に編んだ布(織物)からなる筒状の部材であって、例えば、合成繊維、炭素繊維を含む合成繊維から構成されている。なお、透水性部材85の厚さd2は、3〜10mm程度に設定する。
【0154】
図12は、上記構成を備えた透水性部材80を海水案内部材82に係止して、透水性部材80を余熱海水流下室81の底板81aから下方に吊り下げた状態を示す部分図である。透水性部材80を海水案内部材82に係止する方法は、例えば、次の手順で実施することができる。
【0155】
(1)まず、図14に示すように、中空線状部材84の外周面に、透水性繊維部材85を嵌装する。このとき、中空線状部材84の下端面と透水性繊維部材85の下端面とが一致させるようにするとよい。なお、予め、透水性繊維部材85の上端部から所定の下方の位置には、小径の貫通孔85cを穿孔しておく。
(2)続いて、図12に示すように、外周面に透水性繊維部材85を嵌装した中空線状部材85の小径部85aを、海水案内部材82の貫通孔82c内に挿入し、さらに小径部85aのみを複数の突出部82eを通過させて、小径部85aの上端部を海水案内部材82の上面部と一致させる。
【0156】
(3)上記(2)の状態にした後、図15に示す2つ割り型の割リング部材86、86を海水案内部材82の下円筒部82bの外周面に、透水性繊維部材85を挟んだ状態で装着する。続いて、ボルト83を、割リング部材86の孔86a、透水性繊維部材85の孔85c、海水案内部材82の孔82e、及び中空線状部材84の孔84bを挿通してナット83aで締付ける。これにより、透水性繊維部材85の上端部近傍は2つの割リング部材86、86の押圧力により圧縮されて、図12に示すように圧縮された状態85aに変形するとともに、中空線状部材84はボルト83により強固に海水案内部材82に支持され、さらに、透水性繊維部材85は2つの割リング部材86、86の押圧力により強固に支持されるので、中空線状部材84の外周面からの抜け落ちを防止することが可能になる。
【0157】
(4)上記(2)、(3)の操作を、余熱海水流下室81の底板81aから中空線状部材84を吊り下げる本数分ほど繰り返して行う。
(5)余熱海水流下室81の底板81aから海水案内部材82を介して多数本の透水性部材80を吊り下げた余熱海水流下室81を、余熱海水返送室6の上方に設置する。これにより、余熱海水流下室81から多数本の透水性部材80が空間部Kを介して余熱海水返送室6の海水中まで吊り下げられることになる。
なお、透水性部材80を海水案内部材82に係止するための構成は、作業性を考慮して上記した以外の構成を適宜採用すればよい。
【0158】
上記した炭素繊維を含む部材から構成した透水性部材80を吊り下げた余熱海水流下室81について、余熱海水流下室81から透水性部材80を介して、余熱海水S2が余熱海水返送室6の海水中に流下するときの作用を図12、図13に基づいて説明すると次のようになる。
【0159】
(1)余熱海水流下室81に貯留されている余熱海水S2の一部は、各透水性部材80が備えている貫通孔H1内を通って余熱海水返送室6の海水中に流下する。これにより、余熱海水返送室6には余熱した海水が補充される。余熱海水返送室6に貯留されている海水(余熱海水)S1は熱交換用配管8aとの熱交換により加熱されるので、海水S1からは多量の水蒸気が発生することになる。
【0160】
(2)余熱海水流下室81に貯留されている余熱海水S2の一部は、中空線状部材84の小径部84aの外周面と海水案内部材82の貫通孔82cの内周面との間に形成されている空間部H2内を流下して、圧縮されていない透水性繊維部材85の上方部85bに達する。透水性繊維部材85は透水性が高い繊維部材から構成されているので、透水性繊維部材85の上方部85bに達した余熱海水は、透水性繊維部材85内、あるいは透水性繊維部材85の外周面を伝わりながら余熱海水返送室6の海水S1に向かって流下する。透水性部材80は、90〜100°近くの高温雰囲気中の空間部Kに配設されているので、透水性繊維部材85を伝わって流下する余熱海水、特に、透水性繊維部材85の表面部に沿って流下する余熱海水は加熱されるので、透水性繊維部材85の表面部から多量の水蒸気が発生することになる。
このようにして、余熱海水返送室6に貯留している海水から発生した水蒸気と、透水性繊維部材85を流下する余熱海水から発生した水蒸気は、水蒸気上昇通路25を上昇して冷却室7内に流入して冷却されて結露する。これにより、冷却室7内に流入した水蒸気から真水を生成することが可能になる。
【0161】
上記した実施例においては、透水性部材を、炭素繊維を含む複合材料からなる中空線状部材84と、この中空線状部材84の外周面に嵌装した透水性繊維部材85から構成することにより、次の効果を奏することが可能になる。
【0162】
(1)中空線状部材84は、軽量、高強度、耐食性に優れた炭素繊維を含む複合材料から構成しているので、余熱海水流下室81から多数本の透水性部材を吊り下げることが可能になり、海水からの真水を生成する効率を向上させることが可能になるとともに、中空線状部材84を長期間に亘って使用することができるようになる。
【0163】
(2)中空線状部材84の外周面に、所定の厚さd2を有する透水性繊維部材85を嵌装しているので、余熱海水流下室81に貯留している余熱海水S2を確実にこの透水性繊維部材85を介して流下させることができる。これにより、空間部K内において透水性繊維部材85を流下する余熱海水から多量の水蒸気を発生させることが可能になる。
【0164】
(3)中空線状部材84は、長手方向に貫通孔H1を有する中空形状からなる構成にしているので、余熱海水流下室81に貯留している余熱海水S2の一部を確実に余熱海水返送室6に供給することが可能になる。また、余熱海水返送室6に貯留している海水S1は、熱交換用配管8aとの熱交換により加熱され、この加熱された余熱海水S1が循環して余熱海水流下室81に返送される。これにより、余熱海水返送室6に貯留している海水を加熱するためのエネルギーの消費を少なくするとともに、余熱海水流下室81には余熱海水返送室6で加熱した海水も返送されるので、昼間に海水余熱装置3で余熱して得た余熱海水を有効に利用、例えば、夜間においても真水を生成するために使用することが可能になる。
【0165】
なお、上記した実施形態において、図14に示す長さL4の炭素繊維を含む1本の中空線状部材84は、一つの連続した部材から構成された例について説明したが、所定の長さ、例えば、30cm程度の長さを有する中空線状部材の一方の端部に内ネジを、他方の端部に外ネジを切削加工により刻設して、これらネジを刻設した3〜4本の分割型の中空線状部材をネジ結合により繋ぎ合せて、長さ1m〜1.5m程度の一本の中空線状部材としてもよい。
【0166】
図16は、上記した分割型の中空線状部材を、ネジ結合により1本とした中空線状部材90を備えた多数本の透水性部材80を、余熱海水流下室81から吊り下げたときの実施形態の一例を示している。分割型の中空線状部材90は、上部線状部材90aと下部線状部材90bから構成している。なお、図16において、隣りどうしの透水性部材80は、間隔L6を設けて垂直方向に配列されていることを示している。
【0167】
図16に示すように、上部線状部材90aは、上方部を縮径した小径部90cを備え、下端部には内ネジ91aを刻設している。また、下部線状部材90bは、一方の端部(上端部)には外ネジ91bを刻設し、他方の端部(下端部)には内ネジ91a(図16には図示せず)を刻設している。そして、この分割型の中空線状部材90は、上部線状部材90aの下端部の内ネジ91aに、下部線状部材90bの上端部に設けた外ネジ91bをネジ接続し、さらに、下部線状部材90bの下端部に設けた内ネジ91aに、他の下部線状部材90bの上端部に設けた外ネジ91bをネジ接続する。これにより、上部線状部材90aの下端部に、順次、下部線状部材90bの数本を連続してネジ締結で接続することにより、所定の長さを有する1本の中空線状部材90を得ることができる。
【0168】
上記したように、中空線状部材90を、一本の上部線状部材90aに、順次、複数本の下部線状部材90bを接続した構成にすることにより、上部線状部材90aと下部線状部材90bを押し出し成型、あるいは金型成形により所定の形状に成形した後、焼成工程を経て容易に、かつ多量に製造することができるという効果が生じる。
なお、上記した上部線状部材90aと下部線状部材90bをネジ締結により一本の中空線状部材90にする例について説明したが、接着剤を用いて一本の中空線状部材90にする手段を採用してもよい。
【0169】
分割型の中空線状部材90を備えた透水性部材80を、余熱海水流下室81から吊り下げたときには、ネジ接合部あるいは接着による接合部の強度が低下する可能性があるので、図17に示すように、接合部に対応する透水性部材80の外周面の近傍を支持部材92で覆うようにするとよい。透水性部材80の外周面を、支持部材92で覆うことにより、例えば、分割型の中空線状部材90の全長が1.5mあるいはこれ以上と長くしても、これら接合部を起点とした中空線状部材90の揺れを防止することができるので、接合部に不具合が発生するときにも、流下する余熱海水をこの不具合が発生した箇所から空間部K内に直接飛散することを防止できる。支持部材92の材質は、ステンレス鋼製あるいはFRP等から構成する。
【0170】
なお、図17に示すように、支持部材92は、縦方向(透水性部材80の長手方向)に所定の長さを有し、例えば、円筒部92aは透水性部材80の配列に対応させて碁盤の目状に配列した形状をなし、この円筒部92aは直線部93により縦横に連結された構成にしている。支持部材92の左右の端部は、それぞれ枠体20と仕切り板46に固定する。なお、図17は、円筒部92aは縦横に等間隔に配列した例を示しているが、前記した図6又は図7に示す透水性部材31の配列では、これら透水性部材31の配列に対応させて円筒部92aを配列するようにする。
【0171】
そして、円筒部92aの内周面には、透水性部材80を嵌装して、透水性部材80の外周面、すなわち、透水性繊維部材85に当接させるようにしている。なお、透水性部材80の外周面を透水性繊維部材85に当接させる位置は、図16に示すように、上部線状部材90aと下部線状部材90bをネジ締結等により接合した接合部を含む上下方向の所定の長さとする。
また、この円筒部92aの内周面を透水性繊維部材85に当接させる程度は、円筒部92aの内周面が透水性繊維部材85の外周面を強く圧縮させることなく、円筒部92aの内周面の全体が透水性繊維部材85の外周面に密接する程度にする。これにより、円筒部92aの内周面に軽く密着した透水性繊維部材85の部分には、余熱海水が下方に流下させることが可能になり、さらに、円筒部92aの内周面に軽く密着した透水性繊維部材85部分を流下した余熱海水は、透水性繊維部材85の表面部および内部を伝わって余熱海水返送室6に向かって流下することになる。
【0172】
図18は、分割型の中空線状部材90について他の実施形態を示している。図18に示す中空線状部材90は、上部線状部材90aの下端部に形成した内ネジ91aの上端部より若干上側に、上部線状部材90aの貫通孔H1の中心線と直交する方向であってこの貫通孔H1を貫くように形成した貫通孔94を設けている。この貫通孔94は、上部線状部材90aの貫通孔H1の中心線に対して90°間隔で4個設けてもよい。
また、下部線状部材90bの上端部の外ネジ91bを形成した突出部であって、この突出部の貫通孔H1内に、例えばステンレス鋼製のプラグ95を挿入して、貫通孔H1を閉鎖している。
【0173】
中空線状部材90を図18に示すように構成すると、上部線状部材90aの貫通孔H1を流下した余熱海水は、プラグ95に貫通孔H1の流下は止められるが、貫通孔94を通って透水性繊維部材85内に流れ込む。この余熱海水が貫通孔94を通って透水性繊維部材85内に流れ込んだ箇所であって水性繊維部材85の外周面は、支持部材92の円筒部92aの内周面と軽く密着しているので、透水性繊維部材85内に流れ込んだ余熱海水は水性繊維部材85の外周面から分離して、余熱海水返送室6に直接落下することを防止できる。これにより、上部線状部材90aの下端部に接続された下部線状部材90b、・・・の外周面に装着されている透水性繊維部材85内には、上部線状部材90aの外周面に装着されている透水性繊維部材85を流下した余熱海水に、上部線状部材90aの貫通孔H1を流下した余熱海水が付加されるので、空間部K内に配置されている下部線状部材90b、・・・の透水性繊維部材85から多量の水蒸気を発生させることが可能になる。
【0174】
上記した透水性部材を、炭素繊維を含む部材から構成した実施形態については、中空線状部材の外周面に筒状をなす透水性繊維部材を装着した例について説明したが、中空線状部材の外周面の上端部から下端部に向けて透水性を有する紐部材を螺旋状に巻回した構成としてもよい。この透水性を有する紐部材としては、例えば、図3(b)又は図5に示す透水性部材(紐部材)を用いることができる。
このように、中空線状部材の外周面の上端部から下端部に向けて透水性を有する紐部材を螺旋状に巻回した構成にすると、余熱海水流下室81に貯留した余熱海水S2は、螺旋状に巻回された透水性を有する紐部材を伝わって流下するので、透水性を有する紐部材から多量の水蒸気を発生させることが可能になる。
【0175】
上記した本発明に係る海水淡水化装置において、余熱海水返送室6内に貯留している海水S1内に微細な気泡を発生させるための微細気泡発生装置を設置し、この微細気泡発生装置に熱風発生装置9で発生させた熱風を供給して、海水S1内に熱風を含む微細な気泡を発生させる手段を設けてもよい。このような手段を設けると、海水S1の水面上に熱風を含む気泡が噴出すると、海水S1の水面上は直ちに高温度に曝されるので、海水S1の水面上からの水蒸気の発生が促進されることになる。
【0176】
また、本発明に係る海水淡水化装置において、海水の取水装置1に使用するポンプ等はその消費電力量が大となるので、通常の既存の火力発電装置等で発電した電力を使用することが望ましい。また、熱媒体加熱装置8、熱風発生装置9、冷風発生装置10、及び各種のポンプを作動させるための電力源や熱源を発生させる電力源は、太陽光発電装置4で発電した電力と、上記した火力発電装置等の既存の発電装置で発電した電力を、制御装置12の制御に基づいて使用可能にすることが望ましい。
【0177】
以上に説明したように、本発明の海水淡水化装置は、主として太陽エネルギーを利用して、海水から効率良く大量の水蒸気を発生させ、この水蒸気を冷却することにより真水を生成することができるので、従来の多段フラッシュ方式、または逆浸透膜方式の海水淡水化装置と比較して真水の生成コストを大幅に低減させることが可能になる。
また、海水淡水化装置を構成する各装置(単体装置)をユニット化することも可能になるので、海水淡水化装置自体の製造コストの低減、及び設置現場における組立作業も簡素化することが可能になる。また、海水淡水化装置の規模に応じて、例えば、海水余熱装置や装置本体を複数台組み合わせて稼働させることも可能になる。
【符号の説明】
【0178】
1:取水装置
2:海水貯留装置
3、70:海水余熱装置、 3a:余熱海水貯留装置、 3b:太陽光集光装置
4:太陽光発電装置、 4a:太陽光発電パネル、 4b:蓄電装置
5:海水淡水化装置本体(装置本体)
6:余熱海水返送室
7:冷却室
8:熱媒体加熱装置 8a:熱交換用配管
9:熱風発生装置(熱風発生供給装置) 10:冷風発生装置
11:真水貯留装置
23a、23b:仕切部材
24:空洞部 25:水蒸気上昇通路
28a、28b:集水樋
29a、29b、40a、40b、81:余熱海水流下室
30、41、82:海水案内部材
31、61a、61b、61c:透水性部材(紐部材)
32:熱風噴出手段
46:仕切り板
73:太陽光受光部 80:透水性部材 83:ボルト
84:中空線状部材 85:透水性繊維部材 86:割りリング
K :空間部 H1:貫通孔 H2:空間部
S1:海水(余熱海水返送室内に貯留されている海水)
S2:余熱海水(余熱海水流下室に貯留されている余熱海水)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽エネルギーを利用して、余熱された余熱海水を得る海水余熱装置を備えた海水淡水化装置において、
前記余熱海水を貯留するとともに、貯留した前記余熱海水を下方に空間部を介して流下させるために、少なくとも表面部を透水性を有する部材で構成した透水性部材を垂直方向に多数本配列した前記透水性部材を備えた余熱海水流下室と、
前記透水性部材から流下した前記余熱海水を貯留する余熱海水返送室と、
前記空間部に熱風を供給する熱風発生供給装置と、
前記空間部において、前記透水性部材の前記表面部を伝わって流下する前記余熱海水から発生した水蒸気を収集し、前記収集した水蒸気を冷却して真水を生成する冷却室と、
を備えていることを特徴とする海水淡水化装置。
【請求項2】
前記余熱海水流下室は、前記透水性部材の上端部を係止するとともに、貯留した前記余熱海水を前記透水性部材に導くための海水案内部材を備えていることを特徴とする請求項1に記載の海水淡水化装置。
【請求項3】
前記透水性部材は、前記余熱海水流下室から前記余熱海水返送室に貯留された前記余熱海水まで、碁盤の目状に配列して吊り下げられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の海水淡水化装置。
【請求項4】
前記透水性部材は、前記余熱海水流下室から前記余熱海水返送室に貯留された前記余熱海水まで、碁盤の目状に配列して吊り下げられているとともに、前記透水性部材の太さは、前記空間部の中央部は該空間部の外側部と比較して小さくなされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の海水淡水化装置。
【請求項5】
前記透水性部材は、綿糸、絹糸、麻糸のいずれか、またはこれら2種以上の糸から構成された組紐状または縄状の部材からなることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の海水淡水化装置。
【請求項6】
前記透水性部材は、中空で炭素繊維を含む複合材料からなる中空線状部材と、前記中空線状部材の外周面に嵌装された透水性を有する繊維部材から構成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の海水淡水化装置。
【請求項7】
前記透水性部材は、中空で炭素繊維を含む複合材料からなる中空線状部材と、前記中空線状部材の外周面の上端部から下端部に向けて巻回された透水性を有する紐部材から構成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の海水淡水化装置。
【請求項8】
前記余熱海水返送室は、貯留する前記余熱海水を加熱して水蒸気を発生させるための加熱手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の海水淡水化装置。
【請求項9】
前記余熱海水返送室に貯留する前記余熱海水を、前記余熱海水流下室に返送する余熱海水返送手段を備えていることを特徴とする請求項1又は請求項8に記載の海水淡水化装置。
【請求項10】
前記熱風発生供給装置は、太陽エネルギーを利用して空気を加熱して得た熱風を前記空間部に供給する装置であることを特徴とする請求項1に記載の海水淡水化装置。
【請求項11】
前記加熱手段は、太陽エネルギーを利用して熱媒体を加熱する熱媒体加熱装置から循環供給される加熱された前記熱媒体を熱源としていることを特徴としている。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−245478(P2011−245478A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96872(P2011−96872)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(510117724)
【出願人】(510117816)
【出願人】(510117827)
【Fターム(参考)】