説明

浸漬ノズルおよび連続鋳造方法

【課題】耐用性を向上できる浸漬ノズル、および、この浸漬ノズルを予熱する予熱工程を含む連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】本発明の浸漬ノズルは、溶融金属の連続鋳造方法に使用される浸漬ノズルであって、少なくとも外周部のスラグと接触する部分が、ZrO70質量%以上と、FC(フリーカーボン)30質量%以下とを含んで構成された耐火物、あるいは、ZrO70質量%以上と、FC(フリーカーボン)20質量%以下と、ZrOの安定化材を含む残部10質量%以下とを含んで構成された耐火物にて形成されており、高周波誘導加熱によって予熱されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属の連続鋳造方法に使用される浸漬ノズル、および、この浸漬ノズルを予熱する予熱工程を含む連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶融金属を連続的に冷却凝固させて所定形状の鋳片を形成する連続鋳造方法が知られており、この連続鋳造方法では、浸漬ノズルを介してタンディッシュからモールド(水冷鋳型)内に溶融金属を注入する鋳造工程が実施される。
【0003】
浸漬ノズルは、タンディッシュの底部に取り付けられて、タンディッシュ内の溶融金属をノズル下端の吐出口よりモールド内に吐出するように構成されている。この浸漬ノズルは、下端側をモールド内の溶融金属中に浸漬させた状態で使用され、これにより、注入溶融金属の飛散を防止すると共に、注入溶融金属の大気との接触を防止して酸化を抑制している。また、浸漬ノズルは、整流化した状態で注入可能であるため、溶融金属に浮遊するスラグや非金属介在物などの不純物が溶融金属中へ巻き込まれることを防止している。結果、鋳片品質を改善できると共に、操業の安定性を確保できる。
【0004】
このような浸漬ノズルは、一般的に、Al−SiO−C(カーボン)耐火物やAl−C耐火物にて形成されている。これらAl−C含有耐火物製の浸漬ノズルは、Alが耐火性および溶融金属に対する耐食性に優れ、Cが介在物(スラグ成分)に対して濡れ難く、膨張量が低く、かつ、熱伝導性が良好なことから、現在、溶融金属の連続鋳造において最も広く用いられている。
ここで、溶融金属の連続鋳造の際、モールド内の溶鋼湯面上にはモールドパウダーと呼ばれる低塩基度で侵食性の強いスラグが浮遊している。このモールドパウダーは一般的にCaO、SiO、CaF、NaO、Cを含有しており、その塩基度は1程度であるため、AlやSiOを含む耐火物を著しく溶損させてしまう。このため、従来のAl−C含有耐火物では、浸漬ノズルの外周部におけるモールドパウダーに接する部位(以下、パウダーライン部と称す)の溶損が大きく、長期の使用に耐えられないという問題があった。
【0005】
この問題に対して、従来、浸漬ノズルのパウダーライン部にZrO−C質の耐火物を使用したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
ZrO−C質の耐火物は、ZrOのモールドパウダーに対する優れた耐食性と、Cの耐熱衝撃性とを組み合わせた特徴を有しており、このZrO−C質の耐火物をパウダーライン部に使用することで、浸漬ノズルの耐用性を向上できる。
【0006】
このようなZrO−C質の耐火物において、耐食性をより向上させるためには、Cの配合量を少なくして、ZrOの配合量を増加させることが効果的である。しかし、ZrOの増量は耐熱衝撃性の低下を引き起こし、使用時の割れや折れの問題が発生する。一方、耐熱衝撃性を向上させるためには、Cの配合量を増加させて、ZrOの配合量を少なくすることが効果的であるが、耐食性は低下する。
このように、耐食性および高耐用性を高めるためにはZrOおよびCの配合量を最適化する必要がある。上記特許文献1に記載の構成では、ZrOの配合量を70〜95質量%、Cの配合量を5〜30質量%とすることで当該最適化を図っている。
【0007】
ところで、上記鋳造工程では、浸漬ノズルの温度が低い場合、溶融金属の注入を開始する際に浸漬ノズルの割れや閉塞が起こったり、溶融金属上にスラグが十分に浮上せずに鋳片の品質が低下してしまう等の不具合が発生することがある。このため、浸漬ノズルを予熱しておくことで、溶融金属の注入を開始した際に浸漬ノズルに生じる温度差を減少させて、上記不具合の発生を防止することが考えられる。
このような予熱法としては、例えば図5に示すようにバーナー100により燃焼ガスを吹き付けるものが考えられる。
また、浸漬ノズルの外周を電熱器で囲み伝熱・輻射により加熱する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】特開平11−302073号公報
【特許文献2】特開平10−118746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に記載のようなZrO−C質の耐火物をパウダーライン部に使用した浸漬ノズルを予熱した後、鋳造工程を実施する場合、ZrO−C質の耐火物は高熱膨張材であるため、次の(A)(B)のような問題がある。
【0010】
(A)図5に示すようなバーナー100を用いて予熱する場合、ノズルの上端からバーナー100を挿入して、内部に燃焼ガスを吹き付け下端側の吐出孔より排気する。このため、ノズル全体を均一に加熱することが困難であり、この温度差に伴うZrOの熱膨張差に起因して応力割れなどが発生してしまう。
また、バーナーによる予熱の場合、予熱に要する時間が長く、かつ、燃焼ガスより生じる酸化性雰囲気により、ZrO−C質の耐火物におけるC成分が酸化によりCOガスあるいはCOガスとなって消失してしまう。このため、ZrO−C質の耐火物中に大径の気孔が形成されて当該気孔内にモールドパウダーが侵食し易くなり、モールドパウダーによる溶損が助長されてしまう問題がある。
【0011】
(B)上記特許文献2に記載の電熱器を用いて予熱する場合、C成分の消失は防止できるものの、伝熱・輻射によりノズルを加熱しているので、部分的には1400℃に達するが全体を均一に加熱することはやはり難しい。
【0012】
本発明の目的は、耐用性を向上できる浸漬ノズル、および、この浸漬ノズルを予熱する予熱工程を含む連続鋳造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、浸漬ノズルを均一に加熱するためには、高周波誘導加熱を用いるのが良いとの知見に基づいて案出されたものであり、本発明の要旨とすることころは以下の通りである。
【0014】
(1)本発明に係る浸漬ノズルは、溶融金属の連続鋳造方法に使用される浸漬ノズルであって、少なくとも外周部のスラグと接触する部分が、ZrO70質量%以上と、FC(フリーカーボン)30質量%以下とを含んで構成された耐火物にて形成されており、高周波誘導加熱によって予熱されることを特徴とする。
より好ましくは、前記ZrOは80質量%以上であり、前記FCは20質量%以下であることを特徴とする。
ここで、ZrOの配合量が70質量%よりも低い場合、および、FCの配合量が30質量%よりも高い場合は、モールドパウダーに対する十分な耐食性が得られない。
【0015】
このような浸漬ノズルは、例えば、各種無機物の微粉と、フェノール樹脂などのバインダとを混練したものを、CIP法などにて所定の形状に成形し、これを還元焼成することにより形成される。ZrOは、結晶粒サイズが数μmから2mm程度のものが使用される。また、FCは、例えば通常鱗状黒鉛、電極屑、無煙炭、土状黒鉛等の添加黒鉛の他、バインダが焼成した際に残留した炭素分をも含む。
【0016】
このような発明によれば、耐火物中にFCが存在することにより、高周波誘導加熱にて当該FCを選択的に加熱でき、図5や上記特許文献2に示すような従来の加熱法にて浸漬ノズルを予熱する場合に比べて、浸漬ノズルを均一に予熱できる。このため、鋳造工程にて溶融金属の注入を開始する際、溶融金属により浸漬ノズルが受ける熱衝撃を緩和でき、割れ等の不具合が発生することを防止できる。特に、ノズルを均一に予熱できるので、耐熱衝撃性にも優れたFCの配合量を20質量%以下に下げたとしても、割れ等の不具合が発生することがない。これにより、ZrOの配合割合をさらに増大させることが可能となるので、スラグによる溶損速度を低減できる。
また、高周波誘導加熱によれば、従来のように燃焼ガスを使用せずに短時間で予熱を完了できるので、耐火物中のFCの消失が少なく、スラグによる溶損速度を低減できる。
したがって、浸漬ノズルの耐用性を向上させることができる。
【0017】
(2)本発明に係る浸漬ノズルは、上記(1)に記載の浸漬ノズルの他に、以下の構成としても成立するものである。すなわち、本発明に係る浸漬ノズルは、溶融金属の連続鋳造方法に使用される浸漬ノズルであって、少なくとも外周部のスラグと接触する部分が、ZrO70質量%以上と、FC(フリーカーボン)20質量%以下と、ZrOの安定化材を含む残部10質量%以下とを含んで構成された耐火物にて形成されており、高周波誘導加熱によって予熱されることを特徴とする。
【0018】
このような発明によれば、上記(1)の本発明と同様の効果を奏することができる。これに加えて、安定化材の添加によりZrOを安定した状態で耐火物組織内に固定でき、スラグ中にZrO結晶粒が脱落することを防ぐことができる。これにより、スラグと接触する部分がスラグにより溶損してしまうことを抑制できる。したがって、浸漬ノズルの耐用性をさらに向上させることができる。
【0019】
(3)本発明に係る浸漬ノズルは、上記(2)に記載の浸漬ノズルにおいて、安定化材は、CaO、MgOおよびYのうち少なくともいずれか1種を含むことが好ましい。
ここで、ZrOの配合量が70質量%よりも低い場合、FCおよび残部の配合量を合計したものが30質量%よりも高い場合は、モールドパウダーに対する十分な耐食性が得られない。
【0020】
(4)本発明は、方法の発明としても成立するものである。
すなわち、本発明に係る連続鋳造方法は、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の浸漬ノズルを、高周波誘導加熱により予熱する予熱工程と、前記予熱工程にて予熱された前記浸漬ノズルを介してタンディッシュからモールドに溶融金属を注入する鋳造工程と、を備えることを特徴とする。
このような発明によれば、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の効果を奏することができる。したがって、浸漬ノズルの耐用性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、耐火物中にFCが存在することにより、高周波誘導加熱にて当該FCを選択的に加熱でき、浸漬ノズルを均一に予熱できる。このため、予熱後、鋳造開始時において浸漬ノズルに割れ等の不具合が発生することを防止でき、鋳造工程時におけるスラグと接触する部分のスラグによる溶損を抑制できる。したがって、浸漬ノズルの耐用性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
〔連続鋳造機の概略構成〕
図1に本実施形態における連続鋳造機の概略構成を示す。図1において、1は連続鋳造機であって、この連続鋳造機1は、溶鋼を連続的に冷却凝固させて、所定形状の鋼塊を形成するものである。このような連続鋳造機1は、取鍋2と、ロングノズル3と、タンディッシュ4と、複数の浸漬ノズル5と、複数のモールド6とを備えている。なお、図1では、浸漬ノズル5およびモールド6をそれぞれ1つだけ図示している。
【0023】
取鍋2は、連続鋳造において最初に溶鋼が導入される耐熱容器であり、底面部には注入口21が設けられている。
ロングノズル3は、取鍋2の注入口21に取り付けられて、取鍋2内部に貯留された溶鋼をノズル下端開口部31よりタンディッシュ4内に吐出するように構成されている。
タンディッシュ4は、ロングノズル3の下方に配設されて、取鍋2からロングノズル3を介して注入された溶鋼を貯留する耐熱容器である。このタンディッシュ4は、底面部には各モールド6に対応した複数の注入口41が形成されており、この注入口41の内部には注入口41より流出する溶鋼の流量を調整する流量調整機(図示しない)が設けられている。このようなタンディッシュ4により、取鍋2からの溶鋼が整流化され、当該溶鋼が各モールド6に所定量ずつ分配されるようになっている。
【0024】
浸漬ノズル5は、具体的には後述するが、タンディッシュ4における注入口41の下部に取り付けられており、このノズルを介してタンディッシュ4内の溶鋼がモールド6に注入される。
モールド6は、浸漬ノズル5の下方に設けられた水冷式の鋳型である。モールド6内は所定の断面形状を有しており、このモールド6内に浸漬ノズル5を介してタンディッシュ4からの溶鋼が連続的に注入される。このようなモールド6により、モールド6内の溶鋼は冷却されて、モールド6内の内周面側から凝固シェルが形成・成長して、凝固した鋼が形成されるようになっている。
【0025】
また、図示省略したが、モールド6の下方には、モールド6内にて形成された鋼を、モールド6内の下方開口部から下方に連続的に引き抜くローラーエプロンおよび引抜ロールが設けられている。さらに、引抜ロールの下流側には、引抜ロールにて引き抜かれて、モールド6内から連続して延びた状態の鋼を、所定の長さ寸法に切断する切断機(図示省略)が設けられている。この切断機にて鋼が切断されることにより、例えば板状や棒状など所定形状の鋼塊が形成されるようになっている。
【0026】
〔浸漬ノズルの構成〕
次に、浸漬ノズル5の構成について、図2,3に基づいて説明する。図2は、本実施形態に係る浸漬ノズルを示す側断面図である。図3は、浸漬ノズルのパウダーライン部に使用する耐火物のZrOとFCの配合量を示した図である。
図2において、浸漬ノズル5は、ノズル本体51と、注入口41の下部に取り付けられてノズル本体51の上端部を保持するホルダー52とを備えている。このような浸漬ノズル5は、後述する予熱工程において高周波誘導加熱により予熱されてから使用される。
【0027】
ノズル本体51は、略円筒状に形成されて、その下端を閉塞する底面部511が設けられている。このノズル本体51における側面部の底面部511近傍には、一対の吐出口512が、互いに対向する状態で設けられている。このようなノズル本体51により、ノズル本体51の上端開口より流入した溶鋼が、一対の吐出口512を介してモールド6内へと吐出されるようになっている。
【0028】
また、ノズル本体51は、その下端側がモールド6内の溶鋼に浸漬された状態で使用される。ここで、図2中二点鎖線はスラグラインSを示す。ノズル本体51が当該溶鋼中に浸漬された状態では、ノズル本体51の外周面におけるスラグラインSよりも下側にてモールドパウダーに接触(パウダー厚みは10mm程度)し、さらにモールドパウダーよりも下側が溶鋼中に浸漬している。予熱不良の場合、パウダーラインSよりも上側にて割れが発生する場合がある。
【0029】
このようなノズル本体51は、外周面部のうち吐出口512よりも上側のパウダーライン部513と、それ以外の部位とが、それぞれ異なる耐火物で形成された2層構造となっている。
パウダーライン部513を形成する耐火物は、図3中領域Aおよび領域Bに示すように、ZrO70質量%以上と、FC(フリーカーボン)30質量%以下とを含んで構成されている。また、パウダーライン部513を形成する耐火物は、図3中領域Aで示すように、ZrO70質量%以上と、黒鉛を含むFC20質量%以下と、ZrOを安定化させる安定化材を含む残部10質量%以下とを含んで構成されていてもよい。
ZrO含有量の上限値は特に規定するものではなく、100質量%未満であれば良く、またFC(フリーカーボン)含有量の下限値も特に規定するものではなく、0質量%超であれば良い。さらに、安定化材を含む残部の下限値も特に規定するものではなく、0質量%超であれば良い。
【0030】
ノズル本体51におけるパウダーライン部513以外の部位は、例えばAl−SiO−CやAl−C等の耐火物にて形成されている。なお、パウダーライン部513以外の部位に使用する耐火物はこれに限定されず、ノズル本体51内部を流通する溶鋼に対して優れた耐火性および低い溶融濡れ性が得られる材料であれば、いずれをも採用できる。
【0031】
〔予熱装置の構成〕
次に、上記した構成の浸漬ノズル5を予熱する予熱装置について、図4に基づいて説明する。図4は、浸漬ノズルが装着された状態の予熱装置を示す側断面図である。
図4において、7は予熱装置であって、この予熱装置7は浸漬ノズル5を高周波誘導加熱により予熱する。このような予熱装置7は、耐熱容器71と、外コイル72と、内コイル73と、図示しない誘導電流印加装置とを備えて構成されている。
【0032】
外コイル72は、耐熱容器71の内部に収用された誘導加熱コイルであって、コイル内周側にノズル本体51の下端部から中間部上方までを収容可能に構成されている。
内コイル73は、外コイル72と同様の誘導加熱コイルであって、ノズル本体51の上部開口より内部に挿入可能に構成されている。
誘導電流印加装置は、外コイル72および内コイル73のそれぞれに高周波の誘導電流を印加する装置である。
【0033】
〔連続鋳造方法〕
本実施形態に係る連続鋳造方法について、上記のような構成の連続鋳造機1および予熱装置7を使用した例で説明する。
本実施形態の連続鋳造方法は、予熱工程と、鋳造工程と、引抜工程と、鋼塊形成工程とを備えて構成されている。
【0034】
予熱工程では、図4に示す予熱装置7を用いて、浸漬ノズル5を高周波誘導により予熱する。具体的には、まず、タンディッシュ4から外された状態の浸漬ノズル5に対して予熱装置7をセットする。このセットされた状態では、ノズル本体51は、外コイル72内に収容され、ノズル本体51の上部開口より内部に内コイル73が挿入された状態となっている。そして、誘導電流印加装置により、外コイル72および内コイル73に誘導電流を印加する。これにより、ノズル本体51に含まれるFC近傍に高密度のうず電流が発生して大きなジュール熱が発生し、ノズル本体51全体が均一に加熱される。
【0035】
この高周波誘導加熱により、例えば0.5〜2時間程度の加熱時間で、ノズル本体51の温度は1000℃以上に達する。また、例えばノズル本体51を1100℃以上に加熱する場合、従来の如くバーナー100(図5参照)で加熱する場合には各部間で最大500℃〜600℃の温度差が生じるが、高周波誘導加熱によれば各部間で最大300℃程度の温度差しか生じない。
そして、高周波誘導加熱によれば、従来のように燃焼ガスを使用せずに短時間で予熱が完了するので、パウダーライン部513中のCが消失し難く、当該耐火物中における気孔の拡大が防止される。
【0036】
鋳造工程では、図1に示した連続鋳造機1を用いて溶鋼の鋳造を行う。まず、予熱工程にて予熱された浸漬ノズル5をタンディッシュ4の注入口41に取り付けた後、取鍋2の内部に溶鋼を導入する。この溶鋼は、ロングノズル3を介して取鍋2からタンディッシュ4内部へと流動し、タンディッシュ4の内部にて整流化される。この後、整流化された溶鋼を、流量調整機(図示)にて流出量を調整しながら、浸漬ノズル5を介してモールド6内に注入し、モールド6において一定の湯面レベルを維持する。
【0037】
この鋳造工程において、溶鋼の注入を開始する際、予熱工程にてノズル本体51を均一に予熱してあるので、浸漬ノズル5が溶鋼により受ける熱衝撃が緩和されて、割れ等の不具合の発生を防止できる。そして、パウダーライン部513は、ZrOおよびFC等を上記範囲で含有した耐火物にて形成されているので、モールドパウダーに対する高い耐食性を有しており、モールドパウダーによる溶損を抑制できる。また、予熱工程での予熱によりパウダーライン部513中の気孔が拡大されていないので、当該気孔内部にモールドパウダーが侵食して耐火物中の結晶粒がモールドパウダー中に脱落することを防止できる。したがって、浸漬ノズル5の耐用性を向上できる。
【0038】
引抜工程では、モールド6内において冷却・固化された鋼を、図示しないローラーエプロンおよび引抜ロールにより下方に連続的に引き出す。
鋼塊形成工程では、当該引抜ロールにて引き抜かれた鋼を切断機により所定の長さ寸法で切断して、所定形状の鋳片を連続的に形成する。
【0039】
なお、予熱工程では、浸漬ノズル5の他にも、ロングノズル3およびタンディッシュ4をも予熱する。また、予熱工程において浸漬ノズル5をタンディッシュ4に組み付けない状態で予熱するとしたが、浸漬ノズル5をタンディッシュ4に組み付けた状態で予熱を施してもよい。
【実施例】
【0040】
上述した本実施形態の効果を確認するための実施例について説明する。
〔実験試料〕
・浸漬ノズル:図2に示す上記実施形態の浸漬ノズル5と同様のものを複数準備した。
・ノズル寸法:ノズル本体51の最大外径寸法はφ140mm、内径寸法はφ80mm、長さ寸法は700mmとした。
・耐火物組成:各パウダーライン部513を形成する耐火物の組成は、以下の表1に示すものを含め、図3中各プロットに示した組成のものも含まれている。
・形成法:耐火骨材、鱗状黒鉛をバインダーと共に混練した後、ノズル形状のゴム型に混練物(はい土)を流し込む。異材質を流し込む場合には、ゴム型に仕切りを入れて混入しないように流し込む。その後、湿式のCIP成形法にて高圧(50〜100MPa)の水圧をかけて固める。枠から成形品を取り出した後は、還元雰囲気で1000℃以上の高温で焼成を行う。冷却後は、必要な寸法に加工し、酸化防止材を塗布した後、実機での使用となる。
【0041】
【表1】

【0042】
〔高周波誘導加熱による予熱〕
・予熱対象:実施例1〜6
・予熱装置:図4に示す予熱装置7と同様である。外コイル72には径寸法φ200mm、長さ寸法500mmのものを使用し、内コイル73には径寸法φ70mm、長さ寸法300mmのものを使用した。
・誘導電流:外コイル72には周波数30kHz、電流200A、電力量15kWの誘導電流を印加した。内コイル73には、周波数37kHz、電流200A、電力量12kWの誘導電流を印加した。
・予熱時間:40分
【0043】
〔バーナー加熱による予熱〕
・予熱対象:比較例1,2
・予熱装置:図5に示すバーナー100を用いて予熱した。図5において、浸漬ノズル5を耐熱容器101中に収容した状態で、浸漬ノズル5の上端開口部より内部にバーナー100を挿入して燃焼ガスを吹き付けている。
・燃焼ガス:COG(Coke-oven Gas:コークス炉ガス)
・空気比:1.2
・予熱時間:90分
【0044】
〔鋳造実験〕
・実験対象:実施例1〜6および比較例1,2
・連続鋳造機:図1に示す上記実施形態の連続鋳造機1と同様のものを使用した(8チャージ)。
・鋳造方法:上記実施形態における鋳造工程と同様である。具体的には、各浸漬ノズル5を単体で予熱した後、それぞれタンディッシュ4に取り付けて、予熱終了の時点から5分後に鋳造を開始した。
・鋼種:低炭素鋼(炭素濃度0.06質量%)
・モールドパウダーの塩基度:1.0
・操業時間:合計360分
【0045】
〔実験結果〕
実施例1〜6、比較例1,2の浸漬ノズル5について、上記鋳造実験の結果(溶損速度指数、トラブル発生指数)を表1に併せて示す。
・溶損速度指数:比較例1についての溶損速度(鋳造によってパウダーライン部513が溶損した量を操業時間で除算したもの)を100とした場合における、実施例1〜6および比較例2についての当該溶損速度を指数化したものである。
・トラブル発生指数:比較例1についてのトラブル発生率(鋳造した回数と、折損や割れなどの不具合が発生した回数との比)を100とした場合における、実施例1についてのトラブル発生率を指数化したものである。
【0046】
〔知見1:高周波誘導加熱の効果について〕
表1に示すように、実施例1と比較例1とはパウダーライン部513の組成が同一であり(ZrO:FC:CaO=75:20:5)、実施例2と比較例2とはパウダーライン部513の組成が同一である(ZrO:FC:CaO=82:13:5)。また、実施例1,2は予熱方法が高周波誘導加熱(IH)であり、比較例1,2はバーナーによる加熱であるという点で異なっている。
【0047】
表1の結果において、溶損速度指数を比較すると、実施例1は比較例1に対して10%低い値となっており、また、実施例2は比較例に対して約9.5%低い値となっている。これは、高周波誘導加熱により予熱した場合、バーナーで予熱した場合と異なって燃焼ガスを使用せずに短時間で予熱が終了するので、パウダーライン部513におけるCの消失が防止されためと考えられる。
また、表1の結果において、トラブル発生指数を比較すると、実施例1は比較例1に対して85%低い値となっている。これは、高周波誘導加熱により予熱した場合、バーナーにより予熱した場合よりも、ノズル本体51の各部が均一に予熱されたためと考えられる。
【0048】
以上より、高周波誘導加熱にて浸漬ノズル5を予熱することで、モールドパウダーに溶損し難くなり、かつ、鋳造開始時における割れなどの不具合の発生頻度を著しく低減できることが分かった。つまり、浸漬ノズル5の耐用性を向上できることが分かった。
【0049】
〔知見2:ZrOとFCとの配合割合について〕
表1に示すように、実施例1〜3,6とを比較すると、いずれもパウダーライン部513にCaOが5質量%程含まれており、ZrOの配合量は、75質量%(実施例1)、82質量%(実施例2)、88質量%(実施例3)、70質量%(実施例6)であり、実施例3が最も高く、実施例6が最も低くなっている。この分、FCの配合量は、20質量%(実施例1)、13質量%(実施例2)、8質量%(実施例3)、26質量%(実施例6)であり、実施例3が最も低く、実施例6が最も高くなっている。
【0050】
そして、表1の結果において、溶損速度指数を比較すると、実施例1は実施例6に対して約5%低く、実施例2は実施例6に対して約9%低く、実施例3は実施例6に対して約13%低い値となっている。これは、耐食性に優れたZrOの配合割合が増大したため、パウダーライン部513のモールドパウダーに対する耐食性が向上したことによるものと考えられる。
これら実施例1〜3,6においては、溶鋼の注入開始時において殆ど割れ等が発生しておらず、いずれも良好な耐熱衝撃性を示していた。これは、耐熱衝撃性に優れたFCの配合量が十分であったことと、高周波誘導加熱によりノズル本体51が均一に加熱されたためによるものと考えられる。
なお、表1には示さなかったが、ZrOの配合量が70質量%よりも低い場合や、FCの配合量が30質量%よりも高い場合は、ZrOの配合量が十分でなく、モールドパウダーに対する十分な耐食性が得られなかった。
【0051】
以上より、ZrOの配合量を70質量%以上とすることで、モールドパウダーに対する十分な耐食性が得られ、さらに、ZrOの配合量を80質量%以上とすることで、当該耐食性をより向上できることが分かった。
また、FCの配合量を30質量%以下とすることで、パウダーライン部513の高度な耐熱衝撃性が得られることが分かった。さらに、FCの配合量を20質量%以下としても、パウダーライン部513の良好な耐熱衝撃性を維持できることが分かった。
【0052】
〔知見3:安定化材の添加による効果について〕
表1に示すように、実施例3,4と実施例5とを比較すると、いずれもパウダーライン部513に含まれるZrOの量が、88質量%(実施例3)、86質量%(実施例4)、85質量%(実施例5)と同程度となっている。また、実施例3,4にはそれぞれ安定化材としてCaO、MgOが4%含まれており、実施例5には安定化材が添加されていない。
【0053】
そして、表1の結果において、溶損速度指数を比較すると、実施例3は実施例5に対して約5%低い値となっており、さらに、実施例4は実施例5に対して約7%低い値となっている。これは、安定化材の添加により耐火物組織内からZrO結晶粒が脱落し難くなったためと考えられる。
また、安定化材を含んだ残部が10質量%よりも多い場合でも、その効果は発揮されるものの、相対的にZrOの配合割合が少なく、モールドパウダーに対する十分な耐食性が得られ難くなるため、10質量%以下とすることが好ましい。
なお、表1には示さなかったが、安定化材としてYを添加した場合も同様の結果が得られた。
以上より、安定化材を10質量%以下添加することにより、パウダーライン部513の溶損速度を低減できることが分かった。
【0054】
なお、本発明は上述の実施例に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。例えば、パウダーライン部513の組成は、実施例1〜6の組成に限定されず、図3の領域A,B内に収まる組成であれば、本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態における連続鋳造機の概略構成を示す。
【図2】前記実施形態に係る浸漬ノズルを示す側断面図である。
【図3】前記実施形態における浸漬ノズルのパウダーライン部に使用する耐火物のZrOとFCの配合量を示した図である。
【図4】前記実施形態における浸漬ノズルが装着された状態の予熱装置を示す側断面図である。
【図5】従来のバーナーを用いた加熱法により浸漬ノズルを予熱している状態を示す側断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 …連続鋳造機
2 …取鍋
21 …注入口
3 …ロングノズル
31 …ノズル下端開口部
4 …タンディッシュ
41 …注入口
5 …浸漬ノズル
51 …ノズル本体
511…底面部
512…吐出口
513…パウダーライン部
52 …ホルダー
6 …モールド
7 …予熱装置
71 …耐熱容器
72 …外コイル
73 …内コイル
100…バーナー
101…耐熱容器
A,B…領域
S …スラグライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属の連続鋳造方法に使用される浸漬ノズルであって、
少なくとも外周部のスラグと接触する部分が、ZrO70質量%以上と、FC(フリーカーボン)30質量%以下とを含んで構成された耐火物にて形成されており、
高周波誘導加熱によって予熱される
ことを特徴とする浸漬ノズル。
【請求項2】
溶融金属の連続鋳造方法に使用される浸漬ノズルであって、
少なくとも外周部のスラグと接触する部分が、ZrO70質量%以上と、FC(フリーカーボン)20質量%以下と、ZrOの安定化材を含む残部10質量%以下とを含んで構成された耐火物にて形成されており、
高周波誘導加熱によって予熱される
ことを特徴とする浸漬ノズル。
【請求項3】
請求項2に記載の浸漬ノズルにおいて、
前記安定化材は、CaO、MgOおよびYのうち少なくともいずれか1種を含む
ことを特徴とする浸漬ノズル。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の浸漬ノズルを、高周波誘導加熱により予熱する予熱工程と、
前記予熱工程にて予熱された前記浸漬ノズルを介してタンディッシュからモールドに溶融金属を注入する鋳造工程と、を備える
ことを特徴とする連続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−326110(P2007−326110A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157155(P2006−157155)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】