説明

浸漬処理装置

【課題】被処理物の表面での液流の流速のばらつきをなくするとともに、被処理物の表面での液流を所望の流速に制御することができる浸漬処理装置を提供する。
【解決手段】めっき液で満たされ、被めっき材10が浸漬されるめっき槽22と、被めっき材10の側方に配設され、被めっき材10に対向する陽イオン交換膜42を有し、電解液で満たされた陽極室40と、陽極室40内にめっき液から分離されるように設けられ、陽イオン交換膜42を介して被めっき材10に対向する不溶性陽極48と、被めっき材10と陽極室40との間に、めっき槽22の下方から上方に向かって流れるめっき液の流れを形成する吹き出しユニット52とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷回路基板、帯状フィルム、帯状金属泊等の被処理物に対して、薬液処理、めっき処理、洗浄処理等の浸漬処理を施す浸漬処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被処理物を処理液中に浸漬して被処理物に対して薬液処理、めっき処理、洗浄処理等の所定の処理を施す浸漬処理においては、一般的に、被処理物の表面に液流を発生させながら処理が行われている。被処理物の表面に液流を発生させる手法としては、空気攪拌、ポンプ攪拌、プロペラ攪拌、パイプからの噴流等により処理液を流動させる手法や、液体に浸漬した被処理物をそのまま浸漬された状態で移動させる手法が用いられている。
【特許文献1】特開2003−147582号公報
【特許文献2】特許第2510422号明細書
【特許文献3】特公平6−73393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した被処理物の表面に液流を発生させる手法では、液流を発生させるための動力源が用いられている。しかし、従来の手法では、流れた液が戻る方向が制御されていなかった。このため、被処理物の表面の動力源から離れた位置では、液の逆流が発生することとなる。この結果、被処理物の表面での液流の流速は、位置によってばらつき一定しなくなる。被処理物の表面での液流の流速にばらつきが生じると、被処理物の表面に対して施される処理が不均一になってしまう等の不都合が生じる。
【0004】
本発明の目的は、被処理物の表面での液流の流速のばらつきをなくするとともに、被処理物の表面での液流を所望の流速に制御することができる浸漬処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的は、液体で満たされた処理槽と、前記処理槽内の液体に浸漬される被処理物の表面に対して間隔を空けて前記処理槽内の液体中に配設された物体と、前記処理槽内の液体に液流を発生させる動力源と、前記動力源により発生した液流を、前記物体の周囲を回流し、前記被処理物の表面に沿って流れる液流に整流する整流手段とを有し、前記被処理物の表面に沿って流れる液流により、前記被処理物の表面を処理することを特徴とする浸漬処理装置により達成される。
【0006】
また、上記の浸漬処理装置において、前記物体の周囲を回流する液流は、前記被処理物の表面に沿って、前記処理槽の下方から上方に向かう方向又は前記処理槽の上方から下方に向かう方向に流れるようにしてもよい。
【0007】
また、上記の浸漬処理装置において、前記動力源は、前記物体の周囲を回流する液流の回流方向を時間的に交互に反転させることにより、前記処理物の表面に沿って流れる液流を、前記処理槽の下方から上方に向かう方向及び前記処理槽の上方から下方に向かう方向に時間的に交互に流れさせるようにしてもよい。
【0008】
また、上記の浸漬処理装置において、前記被処理物は、条材であってもよい。
【0009】
また、上記の浸漬処理装置において、前記被処理物は、印刷回路基板であってもよい。
【0010】
また、上記の浸漬処理装置において、前記物体は、電気めっき用の陽極であってもよい。
【0011】
また、上記の浸漬処理装置において、前記整流手段は、前記処理槽の槽壁の一部を含むようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、処理槽内の液体に被処理物を浸漬して所定の処理を被処理物に施す浸漬処理において、被処理物の表面に対して間隔を空けて処理槽内の液体中に物体を配設し、動力源により処理槽内の液体に液流を発生させ、整流手段により、動力源により発生した液流を、物体の周囲を回流し、被処理物の表面に沿って流れる液流に整流するので、被処理物の表面での液流の流速のばらつきをなくすることができる。さらに、本発明によれば、動力源を制御することにより、被処理物の表面での液流を所望の流速を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[一実施形態]
本発明の一実施形態による浸漬処理装置について図1乃至図5を用いて説明する。図1は本実施形態による浸漬処理装置の全体構成を示す平面図、図2は本実施形態による浸漬処理装置におけるめっき槽の構造を示す平面図、図3は本実施形態による浸漬処理装置におけるめっき槽の構造を示す断面図、図4及び図5は本実施形態による浸漬処理装置におけるめっき槽の構造を示す側面図である。
【0014】
本実施形態による浸漬処理装置は、フレキシブル印刷回路基板の基材等のような帯状の被めっき材に対して、電気めっき法により銅めっきを連続的に施すめっき装置である。
【0015】
まず、本実施形態による浸漬処理装置の全体構成について図1を用いて説明する。
【0016】
本実施形態による浸漬処理装置は、帯状の被めっき材10に対するめっき処理が行われるめっき処理部12と、被めっき材10をめっき処理部12に連続的に送り出す巻き出し部14と、めっき処理部14においてめっきが施された被めっき材10を連続的に回収する巻き取り部16とを有している。
【0017】
巻き出し部14には、コイル状に巻かれた帯状の被めっき材10を、その幅方向を略鉛直にして長手方向に送り出し、めっき処理部12へ導入するアンコイラー18が設けられている。
【0018】
巻き出し部14とめっき処理部12との間には、被めっき材10に給電するための給電部20が設けられている。
【0019】
めっき処理部12は、めっき液で満たされためっき槽22と、めっき槽22に供給されるめっき液を貯蔵するめっき液貯蔵槽24とを有している。めっき槽22の対向する側壁のうち、巻き出し部14側の側壁には、被めっき材10をめっき槽22内に導入するためのスリット状の導入口が設けられており、巻き取り部16側の側壁には、被めっき材10をめっき槽22外に導出するためのスリット状の導出口が設けられている。帯状の被めっき材10は、一方の側壁に設けられた導入口から幅方向を略鉛直にしてめっき槽22内に導入されるようになっている。めっき槽22内に導入された被めっき材10は、他方の側壁に設けられた導出口から、幅方向を略鉛直にしたまま連続的にめっき槽22外に導出されるようになっている。
【0020】
めっき槽22の導入口が設けられた側壁近傍には、導入口から漏出するめっき液を回収するための液受け部26が設けられている。また、めっき槽22の導出口が設けられた側壁近傍には、導出口から漏出するめっき液を回収するための液受け部28が設けられている。
【0021】
めっき処理部12と巻き取り部16との間には、めっき処理部12によりめっきが施された被めっき材10を洗浄、乾燥する洗浄乾燥部30が設けられている。
【0022】
洗浄乾燥部30と巻き取り部16との間には、被めっき材10に給電するための給電部32が設けられている。
【0023】
巻き取り部16には、めっき処理部12によりめっきが施され、幅方向を略鉛直にしてめっき処理部12から送り出された被めっき材10を巻き取って回収するリコイラー34が設けられている。
【0024】
このように、本実施形態による浸漬処理装置は、巻き出し部14から幅方向を略鉛直にして長手方向に送り出された帯状の被めっき材10が、めっき処理部12、洗浄乾燥部30を順次連続的に通過し、巻き取り部16により回収される構成となっている。
【0025】
次に、本実施形態による浸漬処理装置におけるめっき槽22について図2乃至図5を用いて詳細に説明する。なお、図3は図2のA−A′線断面図、図4及び図5は図2において被めっき材10の長手方向に垂直な方向からみた側面図である。
【0026】
めっき槽22内には、めっき液が満たされている。めっき液は、例えば、通常の銅めっきに用いられる硫酸銅水溶液である。その組成は、例えば、硫酸銅五水塩が60〜120g/L、硫酸が170〜210g/L、塩素イオンが30〜75ppm、添加剤としてローム・アンド・ハース電子材料株式会社製のカパーグリーム(登録商標)HS−201A、HS−201Bがそれぞれ0.2〜1.0mL/L、5〜50mL/Lである。
【0027】
めっき液への銅の補給は、銅源として例えば粉状又は粒状の酸化銅(II)をめっき液に投入して溶解することにより行われる。
【0028】
めっき槽22には、図2に示すように、巻き出し部14側の側壁22aに、被めっき材10をめっき槽22内に導入するためのスリット状の導入口36が設けられており、巻き取り部16側の側壁22bに、被めっき材10をめっき槽22外に導出するためのスリット状の導出口38が設けられている。導入口36及び導出口38は、それぞれめっき槽22からのめっき液の漏出を抑制する液シール機構を備えている。
【0029】
めっき液で満たされためっき槽22内には、導入口36から、幅方向を略鉛直にした状態で帯状の被めっき材10が導入される。めっき槽22内に導入された被めっき材10は、幅方向を略鉛直にした状態でめっき槽22内のめっき液中を連続的に通過し、導出口38から、めっき槽22外に導出される。
【0030】
上記のように被めっき材10が導入されるめっき槽22内には、被めっき材10の両側に、被めっき材10の両主面にそれぞれ対向するように一組の陽極室40がそれぞれ配設されている。
【0031】
陽極室40は、図3に示すように、被めっき材10の主面に対向する陽イオン交換膜42と、陽イオン交換膜42に略平行な裏蓋44と、陽イオン交換膜42と裏蓋44との間の空間の外周を囲う隔壁46とを有している。陽極室40内には、電解液が満たされている。電解液は、例えば、80〜170g/Lの硫酸である。
【0032】
陽極室40内には、陽イオン交換膜42を介して被めっき材10の主面に対向する網状の不溶性陽極48が設けられている。不溶性陽極48は、陽イオン交換膜48によりめっき液と分離されている。不溶性陽極48としては、例えば、チタン基体に酸化イリジウムを主成分とする被膜が形成されたものが用いられる。この被膜としては、酸化イリジウムに酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ等が混合された混合酸化物の被膜が好適である。なお、不溶性陽極48は網状のものに限定されるものではなく、例えば、多孔状、板状のものを用いることもできる。また、めっき液と不溶性陽極48とを分離する陽イオン交換膜42としては、例えば、炭化水素系の陽イオン交換膜や、パーフルオロカーボンの陽イオン交換膜が用いられる。炭化水素系の陽イオン交換膜としては、旭硝子株式会社製のセレミオン、株式会社トクヤマ製のネオセプタ(登録商標)等を用いることができ、パーフルオロカーボンの陽イオン交換膜としては、デュポン株式会社製のナフィオン(登録商標)等を用いることができる。
【0033】
陽イオン交換膜42及び不溶性陽極48の鉛直方向の幅は、被めっき材10の鉛直方向の幅と略等しくなっている。
【0034】
不溶性陽極48には、不溶性陽極48に給電するためのブスバー50が略水平に設けられている。ブスバー50は、例えば、銅からなる芯材にチタンがクラッドされてなるものである。
【0035】
陽極室40の陽イオン交換膜42と被めっき材10との間の間隔は、後述するように、これらの間にめっき槽22の下方から上方に向かって安定してめっき液の流れが形成される程度に狭くなっている。例えば、陽イオン交換膜42と被めっき材10との間の間隔は30mmとなっている。
【0036】
また、陽極室40の裏蓋44とこれに対向するめっき槽22の側壁22cとの間の間隔は、後述するように、これらの間にめっき槽22の上方から下方に向かって安定してめっき液の流れが形成される程度に狭くなっている。例えば、裏蓋44と側壁22cとの間の間隔は30mmとなっている。
【0037】
めっき槽22の底部には、めっき槽22の下方から上方に向かってめっき液及び気泡を吹き出すことにより、めっき槽22内のめっき液に回流を形成する吹き出しユニット52が設けられている。吹き出しユニット52の上方には、幅方向を略鉛直にした状態の帯状の被めっき材10の下端が位置している。
【0038】
吹出ユニット52は、めっき液が吹き出されるめっき液吹き出しパイプ54と、空気が吹き出される空気吹き出しパイプ56と、めっき液吹き出しパイプ54から吹き出されためっき液、及び空気吹き出しパイプ56から吹き出された気泡の流れを整流する吹き出し整流板58及び下部整流板60とを有している。めっき液吹き出しパイプ54及び空気吹き出しパイプ56は、めっき液槽22内のめっき液に液流を発生させるための動力源である。
【0039】
図3及び図4に示すように、めっき液吹き出しパイプ54は、帯状の被めっき材10の下方に、被めっき材10の長手方向に沿って延在するように配設されている。めっき液吹き出しパイプ54には、複数のめっき液吹き出し孔62が設けられている。めっき液吹き出し孔62は、被めっき材10の両側に対称に設けられ、対称に設けられためっき液吹き出し孔62の組が、被めっき材10の長手方向に均等に設けられている。
【0040】
めっき液吹出パイプ54には、図4に示すように、めっき液供給パイプ64を介して、めっき液吹き出しパイプ54にめっき液を供給するためのポンプ(図示せず)が接続されている。ポンプにより、めっき液貯蔵槽24に貯蔵されためっき液が、めっき液吹き出しパイプ54に供給される。めっき液吹き出しパイプ54に供給されためっき液は、めっき液吹き出し孔62から吹き出される。
【0041】
空気吹き出しパイプ56は、めっき液吹き出しパイプ54上に、めっき液吹き出しパイプ54に沿って延在するように配設されている。空気吹き出しパイプ56には、複数の空気吹き出し孔66が設けられている。空気吹き出し孔66は、被めっき材10の両側に対称に設けられ、対称に設けられた空気吹き出し孔66の組が、被めっき材10の長手方向に均等に設けられている。
【0042】
空気吹き出しパイプ56には、空気吹き出しパイプ56に空気を供給するための空気供給装置(図示せず)が接続されている。空気吹き出しパイプ56に供給された空気は、空気吹き出し孔66からめっき液中に気泡として吹き出される。
【0043】
図3及び図5に示すように、めっき液吹き出しパイプ54及び空気吹き出しパイプ56の延在方向の両側には、両パイプ54、56に沿って延在するように、一組の吹き出し整流板58が配設されている。一組の吹き出し整流板58のそれぞれは、下端から上端近傍までの略鉛直になっている鉛直部分58aと、被めっき材10側に傾斜している上端部分58bとを有している。また、吹き出し整流板58の下端には、めっき液の吸い込み口となる開口部58cが設けられている。
【0044】
また、空気吹き出しパイプ56と被めっき材10の下端との間には、被めっき材10及び空気吹き出しパイプ56の長手方向に沿って延在するように、下部整流板60が配設されている。下部整流板60は、下端から上端近傍までの略鉛直になっている鉛直部分60aと、両陽極室40側に僅かに傾斜して二股に分岐した上端部分60bとを有している。下部整流板60の上端部分60bは、被めっき材10の下端近傍に位置している。下部整流板60の下端は、空気吹き出しパイプ56に固定されている。
【0045】
こうして、吹き出しユニット52が構成されている。
【0046】
被めっき材10及びその両側の陽極室40の上端近傍には、被めっき材10及び陽極室40の長手方向に沿って延在するように、上部整流板68が配設されている。上部整流板68は、一方の陽極室40の裏蓋44から他方の陽極室40の裏蓋44までの幅と略等しい幅の略水平な横板部分68aと、この横板部分68aの略中心から被めっき材10の上端近傍までを仕切る略鉛直な縦板部分68bとを有している。縦板部分68bの両側の横板部分68aと縦板部分68bとに挟まれた隅には、被めっき材10側から陽極室40側に向かうに従って上方に向かうように傾斜する傾斜面を有する傾斜部68cがそれぞれ設けられている。
【0047】
めっき槽22内には、この上部整流板68の上までめっき液が満たされており、被めっき材10及びその両側に配設された陽極室40がめっき液中に浸漬されている。めっき槽22の側壁22cには、めっき液の液面の高さが略一定に保たれるように、上部整流板68よりも高い位置に、めっき液の排出口(図示せず)が設けられている。この排出口から溢れ出ためっき液は、めっき液貯蔵槽24に回収されるようになっている。
【0048】
こうしてめっき液が満たされためっき槽22の上側開口部は、中蓋70及び上蓋72により二重に蓋がされている。
【0049】
陽極室40の裏蓋44に対向するめっき槽22の側壁22cの内側には、陽極室40の下端近傍の位置に、被めっき材10の長手方向に沿って延在するように下流整流板74がそれぞれ突設されている。下流整流板74は、めっき槽22の側壁22c側から陽極室22の裏蓋44側に向かうに従って下方に向かうように傾斜する傾斜面を有している。
【0050】
本実施形態による浸漬処理装置では、以下のようにして被めっき材10に対して銅めっきが施される。
【0051】
めっき槽22内に被めっき材10を導入した後、被めっき材10に対するめっき処理に先立ち、以下に述べるように、吹き出しユニット52により、めっき槽22内に満たされためっき液中に、めっき液の回流及び気泡の流れを形成する。
【0052】
まず、めっき液吹き出しパイプ54にめっき液を供給することにより、めっき液吹き出しパイプ54のめっき液吹き出し孔62から、めっき槽22内に満たされためっき液中に、めっき液を吹き出す。同時に、空気吹き出しパイプ56に空気を供給することにより、空気吹き出しパイプ56の空気吹き出し孔66から、めっき槽22内に満たされためっき液中に気泡を吹き出す。
【0053】
めっき液吹き出しパイプ54から吹き出されためっき液、及び空気吹き出しパイプ56から吹き出された気泡は、下部整流板60とその両側の吹き出し整流板58の上端との間の間隙のそれぞれから、上方に向かって吹き出していく。
【0054】
こうして吹き出しユニット52から吹き出されためっき液及び気泡は、被めっき材10とその両側の陽極室40との間を、めっき槽22の下方から上方に向かって流れていく。このとき、被めっき材10の下端近傍に位置する下部整流板60の上端部分60bは、両陽極室40側に僅かに傾斜して二股に分岐している。このような上端部分60bにより、吹き出しユニット52から吹き出しためっき液及び気泡が被めっき材10の下端に直接衝突することなく、めっき液の流れ及び気泡の流れが被めっき材10の下端を回避するように形成される。この結果、めっき液の流れ及び気泡の流れにより被めっき材10の下端が煽られるのを抑えることができ、安定して被めっき材10にめっきを施すことができる。
【0055】
こうして、被めっき材10とその両側の陽極室40との間に、めっき槽22の下方から上方に向かうようにめっき液の流れ及び気泡の流れが形成される。
【0056】
被めっき材10とその両側の陽極室40との間をめっき槽22の下方から上方に向かって流れた気泡は、上部整流板68に衝突する等した後、めっき液の液面に到達して消失する。
【0057】
他方、被めっき材10とその両側の陽極室40との間をめっき槽22の下方から上方に向かって流れるめっき液の流れは、上部整流板68により、陽極室40の上端近傍で、陽極室40の裏蓋44とめっき槽22の側壁22cとの間に回り込むように屈曲する。
【0058】
こうして、陽極室40の裏蓋44とめっき槽22の側壁22cとの間には、めっき槽22の上方から下方に向かって流れるめっき液の流れが形成される。
【0059】
陽極室40の裏蓋44とめっき槽22の側壁22cとの間をめっき槽22の上方から下方に向かって流れるめっき液の流れは、下流整流板74により、陽極室40の下端近傍で、被めっき材10陽極室40との間に回り込むように屈曲する。被めっき材10陽極室40との間に回り込んだめっき液は、吹き出しユニット52から吹き出されるめっき液と合流し、再び被めっき材10と陽極室40との間をめっき槽22の下方から上方に向かって流れるめっき液の流れの一部となる。
【0060】
こうして、めっき槽22内に満たされためっき液中に、被めっき材10と陽極室40との間をめっき槽22の下方から上方に向かって流れ、陽極室40の裏蓋44とめっき槽22の側壁22cとの間をめっき槽22の上方から下方に向かって流れるめっき液の回流が形成される。また、被めっき材10と陽極室40との間には、めっき槽22の下方から上方に向かって流れる気泡の流れが形成される。
【0061】
このように、本実施形態による浸漬処理装置では、めっき液吹き出しパイプ54から吹き出されためっき液及び空気吹き出しパイプ56から吹き出された気泡により形成されためっき液の流れが、整流手段、すなわち、吹き出し整流板58、下部整流板60、上部整流板68、めっき槽22の側壁22c、及び下流整流板74により整流され、陽極室40の周囲を回流し、被めっき材10の表面に沿って鉛直方向に流れるめっき液の回流が形成される。このため、吹き出しユニット52から離れた位置等においてめっき液が逆流することはない。したがって、めっき槽22の下方から上方に向かって流れる被めっき材10の表面でのめっき液の流れを、流速にばらつきのないものとすることができる。
【0062】
さらに、めっき槽22の上下方向でのめっき液の回流の流速は、めっき液吹き出しパイプ54に供給するめっき液の供給速度、及び空気吹き出しパイプ56に供給する空気の供給速度を制御することにより、制御することができる。例えば、めっき槽22の上下方向でのめっき液の回流の流速は、10〜100cm/秒の範囲で制御することができる。被めっき材10に対するめっき処理は、めっき液の回流の流速を略一定にして行う。
【0063】
また、めっき液吹き出し孔62及び空気吹き出し孔66は、それぞれ被めっき材10の長手方向に均一に設けられている。したがって、被めっき材10の長手方向で、めっき液の回流の流速は略均一になっている。
【0064】
このように、本実施形態によるめっき装置は、被めっき材10の表面でのめっき液の流れの流速をばらつくことなく制御することが可能であるため、高電流密度で被めっき材10に対してめっきを施すことができる。
【0065】
従来のめっき装置では、高電流密度でめっきを施す場合、陰極となる被めっき材の表面にめっき材をめっき液の噴流を吹き付けることにより被めっき材の表面でのめっき液の流れの流速を上げていた。このため、被めっき材がフィルム等の容易に変形するものである場合には、高電流密度でめっきを施すことは困難であった。また、被めっき材の表面全体でばらつくことなくめっき液の流れの流速を上げることも困難であった。このため、従来のめっき装置では、電流密度5〜6A/dmでのめっきが限界であった。
【0066】
これに対し、本実施形態によるめっき装置によれば、被めっき材10の表面でのめっき液の流れの流速をばらつくことなく上げることができるため、例えば7A/dm以上の高電流密度で、被めっき材10に対してめっきを施すことができる。
【0067】
なお、めっき処理時には、めっき液貯蔵層24からめっき槽22内にめっき液が供給されることとなるが、めっき槽22内のめっき液の液面の高さは、めっき槽22の側壁22cの上部整流板68の上の位置に設けられた排出口からめっき液が溢れ出ることにより、常に略一定に保たれる。
【0068】
上述のように、めっき液の回流及び気泡の流れが形成された状態で、給電部20、32により、陰極としての被めっき材10に給電を行うとともに、ブスバー50を介してめっき液中にて不溶性陽極48に給電を行う。
【0069】
こうして、電解反応により、被めっき材10の両主面に、銅のめっき層を形成する。めっき処理の間には、アンコイラー18により被めっき材10を送り出し、リコイラー34により被めっき材10を巻き取ることにより、帯状の被めっき材10をめっき槽22内に所定の速度で通過させ、被めっき材10に対して連続的にめっきを施していく。また、めっき層の形成量に伴い、めっき液中に粉状又は粒状の酸化銅を投入して溶解し、めっき液への銅の補給を適宜行う。
【0070】
このように、本実施形態によれば、陽極室40の周囲を回流するめっき液の回流が形成されるので、めっき液が逆流することはなく、被めっき材10の表面でのめっき液の流れを、流速にばらつきのないものとすることができる。また、吹き出しユニット52からのめっき液、気泡の吹き出しを制御することにより、被めっき材10の表面でのめっき液の流速を制御することができる。被めっき材10の表面にばらつきのない流速でめっき液を流しながら被めっき材10に対してめっき処理を施すので、被めっき材10の両主面に、高品質の銅のめっき層を均一に形成することができる。
【0071】
[変形実施形態]
本発明は上記実施形態に限らず種々の変形が可能である。
【0072】
例えば、上記実施形態では、吹き出しユニット52からめっき液及び気泡を吹き出す場合を例に説明したが、吹き出しユニット52からめっき液及び気泡のいずれか一方のみを吹き出してめっき処理を行ってもよい。この場合、吹き出しユニット52のめっき液吹き出しパイプ54及び空気吹き出しパイプ56のいずれか一方を省略した構成としてもよい。
【0073】
吹き出しユニット58から気泡のみを吹き出す場合においても、気泡の浮力によってめっき液が押し上げられ、上記と同様に、被めっき材10と陽極室40との間をめっき槽22の下方から上方に向かって流れ、陽極室40の裏蓋44とめっき槽22の側壁22cとの間をめっき槽22の上方から下方に向かって流れるめっき液の回流を形成することができる。
【0074】
また、上記実施形態では、被めっき材10の表面に沿って、めっき槽22の下方から上方に向かってめっき液を流れさせる場合を例に説明したが、めっき液の回流方向を上記実施形態とは逆方向とし、被めっき材10の表面に沿って、めっき槽22の上方から下方に向かってめっき液を流れさせるようにしてもよい。この場合、例えば、吹き出しユニット52が、陽極室40とめっき槽22の側壁22cとの間へ向けてめっき液、気泡を吹き出し、上記実施形態とは逆方向のめっき液の回流が陽極室40の周囲に形成されるようにすればよい。
【0075】
また、上記実施形態では、めっき液が陽極室40の周囲を一定方向に回流する場合を例に説明したが、めっき液の回流方向を時間的に交互に反転させることにより、被めっき材10の表面に沿って流れるめっき液の流れを、めっき槽22の下方から上方に向かう方向及びめっき槽22の上方から下方に向かう方向に時間的に交互に流れさせるようにしてもよい。この場合において、めっき液の回流方向の反転は、例えば、吹き出しユニット52が、被めっき材10と陽極室40との間へ向けためっき液、気泡の吹き出しと、陽極室40とめっき槽22の側壁22cとの間へ向けためっき液、気泡の吹き出しとを切り替え可能な構成により実現することができる。
【0076】
また、上記実施形態では、被めっき材10の両側に陽極室40を配設し、被めっき材10の両主面にめっき層を形成する場合を例に説明したが、被めっき材10の片側のみに陽極室40を配設し、被めっき材10の片方の主面のみにめっき層を形成してもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、銅めっきを施す場合を例に説明したが、本発明は、銅めっきに限らず、不溶性陽極を用いて種々の金属めっきを施す場合に適用することができる。
【0078】
また、上記実施形態では、帯状の被めっき材10の主面にめっきを施す場合を例に説明したが、本発明は、例えば、条材、板状の被めっき材等の種々の形状を有する被めっき材にめっきを施す場合に適用することができる。
【0079】
また、上記実施形態では、本発明をめっき装置に適用する場合を例に説明したが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。本発明は、液体に浸漬された被処理物に対して、薬液処理、洗浄処理等の液体による処理を施す場合に広く適用することができる。
【0080】
例えば、ソフトエッチング等のような薬液を用いて被処理物の表面を溶解させる場合において、被処理物の表面の溶解量を変更するには、従来では、薬液組成、浸漬時間、薬液温度等を変更する必要があった。これに対して、本発明によれば、薬液組成等を変更しなくても、被処理物の表面での薬液の流れの流速を変化させることにより、被処理物の表面の溶解量を変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の一実施形態による浸漬処理装置の全体構成を示す平面図である。
【図2】本発明の一実施形態による浸漬処理装置におけるめっき槽の構造を示す平面図である。
【図3】本発明の一実施形態による浸漬処理装置におけるめっき槽の構造を示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態による浸漬処理装置におけるめっき槽の構造を示す側面図(その1)である。
【図5】本発明の一実施形態による浸漬処理装置におけるめっき槽の構造を示す側面図(その2)である。
【符号の説明】
【0082】
10…被めっき材
12…めっき処理部
14…巻き出し部
16…巻き取り部
18…アンコイラー
20…給電部
22…めっき槽
22a、22b、22c…めっき槽の側壁
24…めっき液貯蔵槽
26、28…液受け部
30…洗浄乾燥部
32…給電部
34…リコイラー
36…導入口
38…導出口
40…陽極室
42…陽イオン交換膜
44…裏蓋
46…隔壁
48…不溶性陽極
50…ブスバー
52…吹き出しユニット
54…めっき液吹き出しパイプ
56…空気吹き出しパイプ
58…吹き出し整流板
58a…吹き出し整流板の鉛直部分
58b…吹き出し整流板の上端部分
60…下部整流板
60a…下部整流板の鉛直部分
60b…下部整流板の上端部分
62…めっき液吹き出し孔
64…めっき液供給パイプ
66…空気吹き出し孔
68…上部整流板
70…中蓋
72…上蓋
74…下流整流板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体で満たされた処理槽と、
前記処理槽内の液体に浸漬される被処理物の表面に対して間隔を空けて前記処理槽内の液体中に配設された物体と、
前記処理槽内の液体に液流を発生させる動力源と、
前記動力源により発生した液流を、前記物体の周囲を回流し、前記被処理物の表面に沿って流れる液流に整流する整流手段とを有し、
前記被処理物の表面に沿って流れる液流により、前記被処理物の表面を処理する
ことを特徴とする浸漬処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の浸漬処理装置において、
前記物体の周囲を回流する液流は、前記被処理物の表面に沿って、前記処理槽の下方から上方に向かう方向又は前記処理槽の上方から下方に向かう方向に流れる
ことを特徴とする浸漬処理装置。
【請求項3】
請求項2記載の浸漬処理装置において、
前記動力源は、前記物体の周囲を回流する液流の回流方向を時間的に交互に反転させることにより、前記処理物の表面に沿って流れる液流を、前記処理槽の下方から上方に向かう方向及び前記処理槽の上方から下方に向かう方向に時間的に交互に流れさせる
ことを特徴とする浸漬処理装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の浸漬処理装置において、
前記被処理物は、条材である
ことを特徴とする浸漬処理装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の浸漬処理装置において、
前記被処理物は、印刷回路基板である
ことを特徴とする浸漬処理装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の浸漬処理装置において、
前記物体は、電気めっき用の陽極である
ことを特徴とする浸漬処理装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の浸漬処理装置において、
前記整流手段は、前記処理槽の槽壁の一部を含む
ことを特徴とする浸漬処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−257453(P2006−257453A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−72871(P2005−72871)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(000226518)日陽エンジニアリング株式会社 (19)
【Fターム(参考)】