浸潤抑制及び細胞殺傷剤
【課題】 細胞表面抗原CD43上に発現するセレクチン結合性糖鎖とセレクチンとの結合抑制から、白血病細胞の組織浸潤の抑制が可能な浸潤抑制剤及び抑制方法を開発する。セレクチン結合性糖鎖とその糖鎖を保持しているCD43に対して強い結合親和性を示す細胞殺傷剤及び細胞殺傷方法を開発する。
【解決手段】 細胞表面抗原CD43上に発現するセレクチンリガンド糖鎖に対して、(1) 細胞表面抗原CD43及びセレクチンリガンド糖鎖の発現に関わる遺伝子の発現をRNA干渉により抑制するsiRNA、(2)糖鎖合成の基質に対する疑似体など糖鎖合成の阻害剤、 (3) 細胞表面抗原CD43及びセレクチンリガンド糖鎖を分解する酵素、(4) 細胞表面抗原CD43及びセレクチンリガンド糖鎖に対する抗体等を、セレクチン結合性糖鎖とセレクチンとの結合抑制剤、あるいは細胞殺傷剤として用いることにより、白血病細胞の組織浸潤の抑制が可能な浸潤抑制剤及び抑制方法、及びCD43発現細胞に対する細胞殺傷剤と細胞殺傷方法を提供する。
【解決手段】 細胞表面抗原CD43上に発現するセレクチンリガンド糖鎖に対して、(1) 細胞表面抗原CD43及びセレクチンリガンド糖鎖の発現に関わる遺伝子の発現をRNA干渉により抑制するsiRNA、(2)糖鎖合成の基質に対する疑似体など糖鎖合成の阻害剤、 (3) 細胞表面抗原CD43及びセレクチンリガンド糖鎖を分解する酵素、(4) 細胞表面抗原CD43及びセレクチンリガンド糖鎖に対する抗体等を、セレクチン結合性糖鎖とセレクチンとの結合抑制剤、あるいは細胞殺傷剤として用いることにより、白血病細胞の組織浸潤の抑制が可能な浸潤抑制剤及び抑制方法、及びCD43発現細胞に対する細胞殺傷剤と細胞殺傷方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪性腫瘍細胞の組織への浸潤抑制剤及び細胞殺傷剤に関し、特に細胞表面タンパク質上に特徴的に発現するセレクチン結合性糖鎖とセレクチンとの結合を抑制する浸潤抑制剤、及び特徴的セレクチン結合性糖鎖、糖タンパク質を標的とした細胞殺傷剤に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍の重大な問題の一つに、組織・臓器への腫瘍細胞の転移・浸潤があげられる。すなわち、重要な臓器に悪性腫瘍の細胞が浸潤して転移した場合、それらの臓器は機能不全を起こし、生体全体が変調を来たすようになる。また、腫瘍細胞の血管内皮細胞等への接着による細胞間シグナルは、抗癌剤投与に対する抵抗性を誘導し、治療効果の低減を招く(非特許文献1)。
【0003】
従って、悪性腫瘍細胞の接着や接着を介した組織・臓器浸潤・転移の抑制は、治療において重要な意義を持っている。しかしながら、現在の臓器浸潤や転移に対する治療法は、血管新生抑制剤や増殖因子に対する抗体が治療薬として臨床試験されている程度であり、浸潤のきっかけとなり、抗癌剤への耐性を誘導する細胞間接着を直接的に抑制するような治療薬や治療法の実用化はなされていない。
【0004】
一方、細胞はがん化すると、その表面に正常細胞には見られない抗原が出現することが報告されている(非特許文献2)。そして、これらがん関連抗原の多くは糖鎖抗原であることが明らかにされている。糖鎖抗原は、上皮細胞や白血球の分化やがん化・白血化にともなって活発に変化し(非特許文献3、非特許文献4)、その一部は、腫瘍マーカーとしてがんの検査にも利用されている(非特許文献5)。さらに、がんに出現するこれらの糖鎖抗原には重大な機能があり、一部には強い細胞接着活性があることが報告されている。中でも、消化器がんの検査診断に広く使われている腫瘍マーカーCA19-9が消化器のがん細胞を血管に接着させる機能をもつ分子であることが明かにされている。(非特許文献6)。腫瘍マーカーCA19-9で検出する糖鎖はシアリルルイスaという糖鎖であるが、これがシアリルルイスxとともに血管内皮細胞の細胞接着分子であるE−セレクチンと結合することが報告されている。ここから、この糖鎖(セレクチンリガンド糖鎖)分子が、がん細胞と血管内皮との接着を媒介して、抗癌剤耐性の獲得やがんの血管浸潤、血行性転移を促進する働きを持つことが示唆される。さらに、シアリルルイスaやシアリルルイスxなどの糖鎖を強く発現するようながん細胞をもつ患者では、そうでない患者よりも血行性転移が起こりやすく、手術後の予後が悪いことも報告されている。
【0005】
急性Tリンパ球性白血病細胞においてもセレクチンリガンド糖鎖が発現しており、この発現レベルの皮膚浸潤との相関性が示されている(非特許文献7)。ここから、白血病細胞の細胞接着や組織浸潤の過程におけるセレクチンリガンド糖鎖とセレクチンの結合を介した作用の関与が強く示唆される。一方、急性プレBリンパ球性白血病においても、白血病細胞の臓器浸潤が見られ(非特許文献8)、免疫不全マウスへのプレBリンパ球性白血病細胞の移植は、骨髄を含む種々の臓器への浸潤や、白血病細胞の異常増殖を誘発し、マウスが死に至ることが報告されている(非特許文献9)。しかしながら、プレBリンパ球性白血病細胞では、セレクチンリガンド糖鎖が発現していること、主要なセレクチンリガンド糖鎖のほとんどが細胞表面抗原CD43糖タンパク質上に発現していること、及びCD43抗原上のセレクチンリガンド糖鎖が組織浸潤に中心的な働きをしていることは、これまで知られていなかった。
【0006】
【非特許文献1】Nat.Med., 9: 1158-1165, 2003
【非特許文献2】Natl. Cancer Inst., 71: 231-251, 1983
【非特許文献3】Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 80: 2833-2848, 1983
【非特許文献4】Science, 220: 509-511, 1983
【非特許文献5】Cancer Res., 48: 3856-3863, 1988
【非特許文献6】Cancer Res., 53: 354-361, 1993
【非特許文献7】Cancer Res., 55: 6533-6538, 1994
【非特許文献8】Blood, 88, 1135-1140,1996
【非特許文献9】Blood, 78, 2973-2981, 1991
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
悪性腫瘍、殊に白血病や悪性リンパ腫などの造血器悪性腫瘍では、腫瘍細胞の血管内皮細胞への接着やその接着を介した組織浸潤が、抗癌剤による細胞殺傷効果の抑制や再発の原因となり、治療上の問題となっている。特に抗癌剤や放射線による治療効果の及びにくい中枢神経組織への浸潤は白血病の根治的治療における重要な問題である。従って、細胞接着と接着を介した臓器浸潤の抑制は、造血器悪性腫瘍の治療において重要な課題である。しかしながら、これまでのところ細胞接着や組織浸潤及び転移を抑制する治療剤は、十分とはいえず、より効果的に細胞接着や組織浸潤・転移を抑制する薬剤の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者らは、悪性腫瘍、殊に造血器悪性腫瘍における、腫瘍細胞の細胞接着と組織浸潤の抑制を図るべく、鋭意検討を重ねた結果、細胞表面抗原CD43に局在的にセレクチン結合性糖鎖が存在し、かかるセレクチン結合性糖鎖を介して腫瘍細胞が浸潤組織のセレクチンに結合して細胞間接着が起こり、この接着過程を経て浸潤・転移がなされるとの知見を得た。そして、CD43抗原及びセレクチンリガンド糖鎖の発現抑制により腫瘍細胞の細胞接着や組織浸潤及び転移の抑制が達成できることを見いだし、CD43抗原及びセレクチンリガンド糖鎖の発現抑制物やセレクチンとの結合阻害物を組織浸潤抑制剤として、また、セレクチンリガンド糖鎖とそのキャリアタンパク質CD43に結合活性を有する物質を細胞殺傷剤として本発明に想到した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(27)に関する。
(1) 細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖と、セレクチンとの結合を抑制することを特徴とする浸潤抑制剤。
(2) small-interfering RNA(siRNA)配列を有する核酸を有効成分とすることを特徴とする上記(1)記載の浸潤抑制剤。
(3) small-interfering RNA(siRNA)配列が、配列番号1乃至20の何れかの塩基配列を含むことを特徴とする上記(2)記載の浸潤抑制剤。
(4) エンド-O-グリコシダーゼを有効成分とすることを特徴とする上記(1)記載の浸潤抑制剤。
(5) 抗CD43抗体を有効成分とすることを特徴とする上記(1)記載の浸潤抑制剤。
【0010】
(6) ヒト型-Fc-Ig-キメラE-セレクチン、ヒト型-Fc-Ig-キメラP-セレクチン、及びシアリルルイスx構造を有する糖鎖からなる群から選択される一以上の糖鎖を有効成分とすることを特徴とする上記(1)記載の浸潤抑制剤。
(7) 細胞の組織浸潤を予防するための上記(1)乃至(6)何れか一項記載の浸潤抑制剤の使用。
(8) 細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖と、セレクチンとの結合を抑制することを特徴とする浸潤抑制方法。
(9) 細胞表面抗原CD43に対するセレクチンリガンド糖鎖の付加を抑制することを特徴とする上記(8)記載の方法。
(10) 細胞表面抗原CD43の発現を抑制することを特徴とする上記(8)記載の方法。
【0011】
(11) セレクチンリガンド糖鎖を細胞表面抗原CD43に付加する糖転移酵素遺伝子の発現を抑制することを特徴とする上記(8)記載の方法。
(12) 糖転移酵素遺伝子がN-アセチルガラクトサミン転移酵素をコードする遺伝子、ガラクトース転移酵素をコードする遺伝子、N-アセチルグルコサミン転移酵素をコードする遺伝子、フコース転移酵素をコードする遺伝子、シアル酸転移酵素をコードする遺伝子、または硫酸転移酵素をコードする遺伝子であることを特徴とする上記(11)記載の方法。
(13) small-interfering RNA(siRNA)配列を有する核酸を用いることを特徴とする上記(8)乃至(12)何れか一項記載の方法。
(14) small-interfering RNA(siRNA)配列が、配列番号1乃至20の何れかの塩基配列を含むことを特徴とする上記(13)記載の方法。
(15) 細胞表面抗原CD43とセレクチンリガンド糖鎖との結合を切断することを特徴とする上記(8)記載の方法。
【0012】
(16) 細胞表面抗原CD43を分解することを特徴とする上記(8)記載の方法。
(17) セレクチンリガンド糖鎖を分解することを特徴とする上記(8)記載の方法。
(18) small-interfering RNA(siRNA)配列を有する核酸の、セレクチンリガンド糖鎖とセレクチンとの結合抑制のための使用。
(19) 細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖とその糖鎖を保持するキャリアタンパク質に結合することにより、この糖タンパク質を発現する細胞に特異的に細胞死を誘導することを特徴とする細胞殺傷剤。
(20) セレクチンリガンド糖鎖を保持するキャリアタンパク質がCD43タンパク質である上記(19)記載の細胞殺傷剤。
【0013】
(21) キャリアタンパク質に結合する物質が、CD43タンパク質の細胞外領域中のエピトープに特異的に結合する抗体やペプチドである上記(19)記載の細胞殺傷剤。
(22) 細胞傷害性薬剤が結合された上記(21)記載の細胞殺傷剤。
(23) 細胞傷害性薬剤が、抗代謝物、アルキル化剤、アンスラサイクリン類、抗生物質、抗分裂剤、化学療法剤及び放射性物質からなる群から選択される、上記(22)記載の細胞殺傷剤。
(24) 細胞傷害性薬剤が、リシン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、タキソール、臭化エチジウム、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルチシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、アクチノマイシンD、1−デヒドロテストステロン及びグルココルチコイドからなる群から選択される、上記(22)記載の細胞殺傷剤。
(25) CD43タンパク質の細胞外領域中のエピトープに特異的に結合する抗体が、ヒト型モノクローナル抗体、合成の抗体、ポリクローナル抗体またはキメラ抗体である上記(21)記載の細胞殺傷剤。
【0014】
(26) 細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖とその糖鎖を保持するキャリアタンパク質に上記(19)乃至(25)記載の細胞殺傷剤が結合することを特徴とする、細胞殺傷の方法。
(27) 上記(26)に記載の方法であって、細胞がCD43を発現する造血器悪性腫瘍及び造血幹細胞を含む造血系細胞である、方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、細胞間接着や組織浸潤・転移を効果的に抑制する薬剤及び組織浸潤・転移の抑制方法と、造血器悪性腫瘍細胞を含む造血系細胞を殺傷する薬剤と細胞殺傷の方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
1.本発明薬剤
本発明は、細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖と、セレクチンとの結合を抑制することを特徴とする浸潤抑制剤、及び細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖とその糖鎖を保持するキャリアタンパク質に結合することにより、この糖タンパク質を発現する細胞に特異的に細胞死を誘導することを特徴とする細胞殺傷剤に関し、これらを総称して「本発明薬剤」と略記する。
【0017】
本発明薬剤は、細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖と、セレクチンとの結合を抑制することと、セレクチンリガンド糖鎖を保持するキャリアタンパク質を標的に細胞を殺傷することを特徴とする。
【0018】
本発明薬剤における「細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖」とは、シアリルルイスx、硫酸化シアリルルイスx、シアリルルイスaを指称するが、硫酸化シアリルルイスxまたはシアリルルイスxがもっとも好ましい。
【0019】
セレクチンリガンド糖鎖を保持するキャリアタンパク質としては、CD43タンパク質等が挙げられ、キャリアタンパク質に結合する物質は、CD43タンパク質の細胞外領域中のエピトープに特異的に結合する抗体やペプチド等であることが好ましい。
【0020】
シアリルルイスxは、細胞表面にはCD43を介して結合している。従って、シアリルルイスxとセレクチンとの結合の抑制は、例えば(a)CD43の発現を抑制する手段、(b)CD43とシアリルルイスxとの結合を切断又は阻害する手段、(c)CD43とシアリルルイスxとの複合体に結合し立体配置に変位を起こさせる手段、(d)CD43又はシアリルルイスxを特異的に分解する手段、(e)シアリルルイスxとセレクチンとの結合を競合阻害又は競争阻害する手段、(f)シアリルルイスxの合成を阻害する手段等により達成される。また、セレクチンリガンド糖鎖とそのキャリアタンパク質CD43を標的とする細胞殺傷は、例えば(g)抗CD43抗体による抗体依存性細胞傷害活性の誘導や、(h)抗がん剤などの細胞殺傷薬剤が結合された抗CD43抗体等により達成される。
【0021】
本発明薬剤の適用対象となる細胞は、組織への浸潤性を有する腫瘍細胞であればいずれであってもよいが、特に造血器悪性腫瘍細胞であることが好ましく、白血病細胞であることがより好ましい。さらに白血病細胞の中でも、特にB細胞由来の腫瘍細胞であることが好ましく、特にプレBリンパ球性白血病細胞であることが好ましい。
【0022】
なお、本発明における「浸潤抑制」とは、組織への細胞の浸潤の進行を妨げることを意味するとともに、組織への細胞の浸潤の予防も意味する。
【0023】
(a)CD43の発現を抑制する手段としては、例えばCD43遺伝子の転写産物とRNA干渉を起こしてCD43の正常な発現を妨げる働きを有するsmall-interfering(RNA(以下「siRNA」と記載する)を用いる方法が好ましい。このようなsiRNAを細胞内で発現させる働きを有する塩基配列としては、例えば配列番号1乃至20記載の何れかの塩基配列を含む塩基配列があげられ、特に配列番号1乃至20記載の何れかの塩基配列からなる塩基配列が好ましいが、RNA干渉の機構に基づいてCD43の発現を妨げる塩基配列である限りにおいて限定はされず、他の任意の塩基配列を含んでもよく、本発明薬剤の有効成分として使用することができる。
【0024】
このようなsiRNA配列を有効成分として使用する本発明薬剤は、常法により調製した核酸を、例えばレンチウイルスシステム(インビトロジェン社製)等のような公知の手段を用いてウイルスベクターに導入し、かかるウイルスベクターを生体に投与し、対象となる細胞に対してCD43抗原の発現を抑制させて、浸潤抑制効果を得ることができる。
【0025】
(b)CD43とシアリルルイスxとの結合を切断又は阻害する手段としては、例えばコアタンパク質からのO-結合型糖鎖の遊離が可能なエンド-O-グリコシダーゼ(prozyme社製)を用いることにより、シアリルルイスxを含む糖鎖をCD43から切断することができる。
【0026】
このような酵素を有効成分として使用する本発明薬剤は、例えば生体に本発明薬剤を注射剤などの形態により投与することで所望の効果を得ることが可能である。
【0027】
(c)CD43とシアリルルイスxとの複合体に結合し立体配置に変位を起こさせる手段としては、例えばシアリルルイスxやCD43に対する抗体等を用いる方法が挙げられる。かかる抗体の例としては、ヒト型モノクローナル抗体、合成の抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体等が挙げられ、更に具体的には、CSLEX(ベクトンディッキンソン社製)、KM93抗体(生化学工業株式会社製)、DF-T1抗体(シグマ社製)、1G10抗体(ベクトンディッキンソン社製)、1D4抗体(MBL社製)、84-3C1抗体(ネオマーカー社製)、MEM59抗体(モノサン社製)、Bra7G抗体(ネオマーカー社製)、BL-E/G3抗体(モノサン社製)、MT-1抗体(プロジェン社製)等が例示され、いずれも本発明薬剤の有効成分として使用することができる。
【0028】
本発明薬剤に使用することができるシアリルルイスxやCD43に対する抗体は、ハイブリドーマを用いて調製することも可能である。かかるハイブリドーマは、公知の細胞融合法により作製することができる。即ち、例えばヒトCD43抗原を免疫原としてヒト以外の動物を免疫し、その脾細胞又はリンパ節細胞と骨髄腫細胞とを融合させてハイブリドーマを作製し、その中からヒトCD43抗原を認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選択することにより目的のハイブリドーマを得ることができる。
【0029】
上記免疫原としては、CD43を含有するものであれば特に限定されず、例えば、CD43をコードする核酸(J. Biol. Chem., 266, 13, 8483-8489(1991))の塩基配列からなる核酸を常法に従って組み込んだ組換体を生育させて得られる生育物(組換体破砕物、培地、排泄物、分泌物など)、或いはそれらから既存の抗CD43抗体などを用いるアフィニティークロマトグラフィーで部分精製又は精製して得たCD43抗原等を挙げることができるが、特に精製して得たCD43抗原であることが好ましい。
【0030】
上述のハイブリドーマを作製するために用いる被免疫動物としては特に限定されず、例えば、ヤギ、ヒツジ、モルモット、マウス、ラット、ウサギ等を挙げることができるが、なかでもマウスが好ましい。
上記被免疫動物を免疫する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、マウスを免疫する場合、1回に1〜100μg、好ましくは50〜100μgの免疫用抗原を等容量(0.1mL)の生理食塩水及びフロイントの完全アジュバント、不完全アジュバント、又はRIBIアジュバントシステムで乳化して、上記被免疫動物の背部、腹部の皮下又は腹腔内に2〜3週毎に3〜6回接種する方法等を挙げることができる。
【0031】
上記被免疫動物を免疫後、抗体価の高い個体を選び、最終免疫3〜5日後に脾臓又はリンパ節を摘出し、公知の細胞融合法に従って、融合促進剤の存在下で、これらの組織に含まれる抗体産生細胞を骨髄腫細胞と融合させることができる。
【0032】
上記融合促進剤としては特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコール(以下「PEG」とも記載する)や、センダイウイルス等を挙げることができるが、PEGを用いることが好ましい。
【0033】
上記骨髄腫細胞としては特に限定されず、例えば、P3U1、NS-1、P3x63.Ag8.653等のマウス由来の細胞;AG1、AG2等のラット由来の細胞等を挙げることができる。
【0034】
上記細胞融合法としては特に限定されず、例えば、脾細胞と骨髄腫細胞とを1:1〜10:1の比率で混合し、これに分子量1,000〜6,000のPEGを10〜80%の濃度で添加し、20〜37℃、好ましくは30〜37℃で3〜10分間インキュベートする方法等を挙げることができる。
【0035】
抗CD43抗体を有効成分とする本発明薬剤において、CD43抗原を認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの選択は、例えば、ハイブリドーマのみが生育できるHAT培地等の選択培地で培養し、ハイブリドーマ培養上清中の抗体活性を常法により測定することにより行うことができる。更に、CD43抗原を特異的に認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの樹立は、例えば、CD43抗原を特異的に認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマに対し、限界希釈等の方法によりクローニングを繰り返すことにより行うことができる。
【0036】
上述の抗CD43抗体を大量に調製する方法としては特に限定されず、例えば、あらかじめプリスタンを投与したマウスの腹腔に本発明ハイブリドーマを移植して、回収した腹水から得る方法等を挙げることができる。腹水中の本発明抗体は、プロテインAやプロテインGカラム等を使用する公知の方法等により容易に精製することができる。
【0037】
このような抗体を有効成分として使用する本発明薬剤は、例えば生体に本発明薬剤を注射剤などの形態により投与することで所望の効果を得ることが可能である。
【0038】
(d)CD43又はシアリルルイスxを特異的に分解する手段としては、例えばシアル酸を多く含むムチン型糖タンパク質を選択的に分解する酵素や、シアリルルイスx構造に含まれる特定の糖鎖同士の結合を認識して切断する酵素が例示される。かかる酵素としては、O-シアログライコプロテインエンドペプチダーゼ(O-sialoglycoprotein endopeptidase : OSGPEP, CEDAR LANE社製)や、シアル酸とガラクトースとのα2,3-グリコシド結合を特異的に切断するシアリダーゼ(prozyme社製)、ガラクトースとN-アセチルグルコサミンとのβ1,4-グリコシド結合を特異的に切断するβ-ガラクトシダーゼ(prozyme社製)等が例示され、いずれも本発明薬剤の有効成分として使用することができる。
【0039】
このような酵素を有効成分として使用する本発明薬剤は、例えば生体に本発明薬剤を注射剤などの形態により投与することで所望の効果を得ることが可能である。
【0040】
(e)シアリルルイスxとセレクチンとの結合を競合阻害又は競争阻害する手段としては、例えば可溶型リコンビナントセレクチンや可溶型糖鎖を使用する方法が挙げられる。かかる可溶型リコンビナントセレクチンとしては、例えばヒト型Fc-Ig-キメラE-セレクチン及びヒト型Fc-Ig-キメラP-セレクチン(R&Dシステム社製)、シアリルルイスx構造を有する糖鎖(タカラ、生化学工業社製)等が例示される。このような可溶型リコンビナントセレクチンや糖鎖も本発明薬剤の有効成分として使用することが可能である。
【0041】
このような糖鎖を有効成分として使用する本発明薬剤は、例えば生体に本発明薬剤を注射剤などの形態により投与することで所望の効果を得ることが可能である。
【0042】
(f)シアリルルイスxの合成を阻害する手段としては、例えばシアリルルイスxの生合成に関与する糖転移酵素の作用を阻害する手段又はかかる酵素の発現を妨げる手段が挙げられる。このような「酵素」としては、例えばN-アセチルガラクトサミン転移酵素、ガラクトース転移酵素、N-アセチルグルコサミン転移酵素、フコース転移酵素、シアル酸転移酵素、硫酸転移酵素が挙げられる。
【0043】
このような酵素の働きを阻害する手段としては、例えばこれらの酵素の基質(UDP-GalNAc(ウリジン二リン酸-N-アセチルガラクトサミン)、UDP-Gal(ウリジン二リン酸-ガラクトース)、UDP-GlcNAc(ウリジン二リン酸-N-アセチルグルコサミン)、UDP-Fuc(ウリジン二リン酸-フコース)、UDP-SiaA(ウリジン二リン酸-シアル酸)、PAPS(活性硫酸))の疑似体(アナログ:例えばベンジル-α-N-アセチルガラクトサミン等)により競合阻害又は競争阻害が挙げられる。
【0044】
また、このような酵素の発現を妨げる手段としては、これらの酵素をコードする遺伝子の転写産物とRNA干渉を起こすsiRNAをコードする塩基配列を有する核酸を細胞に導入する手段が挙げられる。当業者であれば、発現を妨げる目的の酵素をコードする核酸の塩基配列を基に、siRNAの塩基配列を適宜選択して調製することができる。このようなsiRNAの塩基配列を有する核酸も本発明薬剤の有効成分として使用することができる。
【0045】
このような本発明薬剤は、常法により調製した核酸を、例えばレンチウイルスシステム(インビトロジェン社製)等のような公知の手段を用いてウイルスベクターに導入し、かかるウイルスベクターを生体に投与し、対象となる細胞に対してシアリルルイスxの発現を抑制させて、浸潤抑制効果を得ることができる。
【0046】
(g)抗体依存性細胞傷害活性の誘導には抗CD43抗体の投与が挙げられる。抗CD43抗体のうち、遺伝子組換の手法により可変領域を組換えてヒト化した抗体(いわゆるヒト化抗体)やキメラ抗体は白血病細胞の治療剤の有効成分としても利用可能である。本発明により、白血病細胞がCD43を発現していることが明らかになったことから、CD43の発現をsiRNAなどにより抑制した組換白血球細胞(単球、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)等)とともに上記抗体の生体への投与により、白血病の治療が可能となる。すなわち、CD43を上記抗体が認識して白血病細胞に結合し、白血病細胞に結合した上記抗体を、組換によりCD43を発現しない組換白血球細胞が認識して細胞性免疫作用を示すことで、白血病細胞のみを特異的に殺傷することが可能となる。
【0047】
(h)細胞傷害薬剤を結合させた細胞殺傷剤としては、例えば抗代謝物、アルキル化剤、アンスラサイクリン類、抗生物質、抗分裂剤、化学療法剤及び放射性物質からなる物質を抗CD43抗体など、細胞表面のCD43糖タンパク質に特異的に結合能のある物質に結合させた後、投与することで効率的な細胞殺傷効果が期待できる。更に具体的な細胞傷害性薬剤としては、リシン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、タキソール、臭化エチジウム、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルチシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、アクチノマイシンD、1−デヒドロテストステロン、グルココルチコイド等が挙げられる。また、CD43は造血系細胞の中では成熟Bリンパ球以外のほとんどの細胞で発現があることが報告されている。ここから、現在、放射線照射や抗がん剤の大量投与により、患者へ大きな負担となっている骨髄移植前の骨髄抑制処置にも本細胞殺傷剤の使用が期待できる。すなわち、本殺傷剤の投与により、造血幹細胞を含む造血系細胞のみを特異的に除去可能なことから、患者の負担の少ない骨髄移植の前処置剤としての応用が期待できる。
【0048】
このような本発明薬剤のセレクチンリガンド糖鎖とセレクチンとの結合の抑制と、セレクチンリガンド糖鎖とその糖鎖を保持するキャリアタンパク質を標的とした細胞殺傷方法は、セレクチンとの結合特に(a)CD43抗原及びセレクチンリガンド糖鎖の発現を抑制する手段又は(g)抗CD43抗体投与による抗体依存性細胞傷害活性の誘導する手段を用いて行われることが好ましく、本発明薬剤の有効成分は特にCD43抗原及びセレクチンリガンド糖鎖の発現を抑制するsiRNA配列を有する核酸、抗CD43抗体又は抗セレクチンリガンド糖鎖抗体が好ましく、特にCD43抗原及びセレクチンリガンド糖鎖の発現を抑制するsiRNA配列を有する核酸又は抗CD43抗体が好ましい。
【0049】
上記本発明薬剤は、錠剤、カプセル剤、液剤、注射剤、顆粒剤、散剤、リポ化剤、吸入散剤等、経口投与、注射等の投与ルート、目的、対象等に応じて製剤化することができる。本発明薬剤中における有効成分の濃度は特に限定はされないが、0.001〜5%とするのが好ましい。例えば本発明薬剤を経口投与用の液剤とする場合には、0.01%(W/V)以上とするのが好ましく、0.03%〜0.2%(W/V)とするのが最も好ましい。また、筋注又は静注用の注射剤とする場合には0.01%(W/V)以上とするのが好ましく、0.03%(W/V)以上とするのが最も好ましい。本発明薬剤は血管中への直接投与が最も優れた薬効を示す。従って、本発明薬剤を使用する際に、注射や点滴などの投与形態を執りうる剤形であることが特に好ましい。
【0050】
また、本発明薬剤の投与量は、投与ルート、投与形態、使用目的、投与対象となる動物の具体的症状、年齢、体重等に応じて、本発明の効果が最も適切に発揮される様に個別に決定されるべき事項であり、特に限定されない。例えば、ヒトに投与する場合、有効成分として成人1人1回当たり1mg〜1,000mg程度、1日1回〜数回投与される。
【0051】
また、本発明薬剤は、その有効成分の他に添加物を含んでいてもよい。添加剤としては例えば塩類、保存剤、抗生物質、抗炎症剤、増殖因子の混合又は組み合わせがあげられる。塩類としては例えば硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、リン酸水素ナトリウム等、保存剤としては例えばパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、塩化ベンザルコニウム等、抗生物質としては、例えばオキシテトラサイクリン等、抗炎症剤としては例えばジクロフェナック等が挙げられる。
【0052】
また、本発明薬剤は、通常の医薬組成物を調製する際に使用される賦形剤、安定化剤等の製剤補助剤も何ら支障なく使用することができる。
【0053】
本発明薬剤は、細胞の浸潤の抑制に働くが、かかる「抑制」は、浸潤前に浸潤が起こることを妨げる「予防」、すでに浸潤しているが、さらなる浸潤を妨げる「悪化防止」、「浸潤した状態の「改善」のいずれも包含する概念であるが、本発明薬剤は、特に予防にも極めて優れた効果を有する。
【0054】
2.本発明方法
本発明方法は、細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖と、セレクチンとの結合を抑制することを特徴とする細胞浸潤抑制方法及びセレクチンリガンド糖鎖を保持するCD43タンパク質などのキャリアタンパク質を標的とすることを特徴とする細胞殺傷方法である。
細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖と、セレクチンとの結合の抑制及びセレクチンリガ
【0055】
ンド糖鎖とそれを保持するCD43を標的とした細胞殺傷は、例えば前記本発明薬剤で説明した(a)CD43の発現を抑制する手段、(b)CD43とシアリルルイスxとの結合を切断又は阻害する手段、(c)CD43とシアリルルイスxとの複合体に結合し立体配置に変位を起こさせる手段、(d)CD43又はシアリルルイスxを特異的に分解する手段、(e)シアリルルイスxとセレクチンとの結合を競合阻害又は競争阻害する手段、(f)シアリルルイスxの合成を阻害する手段、(g)CD43の細胞外ドメインを認識する抗体により抗体依存性細胞傷害活性を誘導する手段、(h)細胞傷害薬剤を付加したCD43細胞外ドメイン結合物質による手段等によって行うことができる。
【0056】
かかる手段を実現するための具体的物質及びその使用方法は、上記1.本発明薬剤と同様である。
【実施例】
【0057】
(1)白血病細胞におけるセレクチンリガンド糖鎖発現の確認
プレBリンパ球性白血病細胞株(プレBリンパ球性白血病患者由来の細胞より樹立した株化細胞)KM3細胞(林原生物科学研究所Dr. Jun Minowadaより恵与)、NALL1細胞(林原生物科学研究所Prof. Isao Miyoshiより恵与)、KOPN-K細胞、LAZ-221細胞(林原生物科学研究所Dr. Shin Matsuoより恵与)及び、急性プレBリンパ球性白血病患者より採取した白血病細胞(総数15検体)のセレクチンリガンド糖鎖発現をフローサイトメーターを用いて確認した。なお、本実験の陰性コントロールには同じB細胞系列でセレクチンリガンド糖鎖の発現のないことが明らかにされている細胞株Raji細胞を用いた。
【0058】
主要なセレクチンリガンド糖鎖であるシアリルルイスX糖鎖抗原は、タンデム色素APC-Cy7を結合させたCSLEX抗体(シアリルルイスX構造を特異的に認識する抗体:ベクトンディッキンソン社製)により、J. Biol. Chem., 273, 41, 26779-26789(1998)記載の方法に従って、フローサイトメーターにより蛍光強度と細胞数の分布を確認した。ヒストグラムが右へシフトする程蛍光強度すなわちシアリルルイスx発現量の多いことを示す。
その結果、これらの細胞においてはシアリルルイスXが高レベルで発現していることが明らかとなった(図1:(A)KM3細胞、(B)NALL1細胞、(C)KOPN-K細胞、(D)LAZ-221細胞、(E)白血病患者由来の白血病細胞#1、(F)白血病患者由来の白血病細胞#2、(G)Raji細胞)。
【0059】
同様に、E-セレクチン及びP-セレクチンとの結合能を、リコンビナントタンパク質(ヒト型キメラ-Fc-Ig-E-またはP-セレクチン、R&Dシステムズ社製)を用いて、Blood, 104, 3091-3096(2004)記載の方法に従って、フローサイトメーターにより蛍光強度と細胞数の分布を確認した。具体的には1mmol/LCaCl2及び1%血清を添加したリン酸緩衝生理的食塩水(PBS)に懸濁した細胞に、終濃度1〜10μg/mLのリコンビナントE-及びP-セレクチンを加え、氷上で30分間反応をさせた後、PBSで洗浄し、タンデム色素APC-Cy7を結合させたヒト型-Fc-Igに対する標識抗体(ベクトンディッキンソン社製)によりシグナルを検出した。ヒストグラムが右へシフトする程、蛍光強度すなわちセレクチンとの結合能の強いことを示す。
【0060】
その結果、これらの細胞においては著明なE-セレクチン及びP-セレクチン結合能を有していることが明らかとなった(図2及び図3)。図2及び図3において、(A)(H)KM3細胞、(B)(I)NALL1細胞、(C)(J)KOPN-K細胞、(D)(K)LAZ-221細胞、(E)(L)白血病患者由来の白血病細胞#1、(F)(M)白血病患者由来の白血病細胞#2、(G)(N)Raji細胞。(A)〜(G)はE-セレクチンとの結合能を、(H)〜(N)はP-セレクチンとの結合能を表す。なお、ここに示していない白血病患者由来の白血病細胞13例に関する結果は、図1(E)(F)、図2(E)(F)及び図3(L)(M)に示した患者検体の結果とほぼ同様であった。これらの結果は、プレBリンパ球性白血病細胞は細胞表面にセレクチンリガンド糖鎖を発現していることを示すものである。
【0061】
(2)白血病細胞株におけるセレクチン依存性の細胞接着能の確認
血流中を流れる白血球の血管内皮細胞への接着の過程では、細胞表面に発現するセレクチンリガンド糖鎖とセレクチンを介した結合がきっかけとなる。この結合反応の際に、白血球が血管壁をセレクチンと結合しながら転がるように流れる現象が観察されており、白血球ローリングと呼ばれている。セレクチンリガンド糖鎖を発現するプレBリンパ球性白血病細胞も、血管内皮細胞への接着、組織浸潤の最初のステップにおいて、このローリングが起きていると考えられるため、セレクチンを発現する細胞株上にプレBリンパ球性白血病細胞を流し、インビトロにおける単位時間、単位面積あたりの細胞ローリングの計測から、セレクチンを介した細胞接着能を比較することができる。実験は、J. Biol. Chem., 277, 3979-3984(2002)記載の方法に従い、E-及びP-セレクチン遺伝子の導入により高密度で細胞表面にセレクチンを発現するCHO細胞株(それぞれCHO-E, CHO-Pと命名)をフローチャンバーに固定化し、次に、シリンジポンプにて1.0 dyne/cm2のシェアストレスを加えながら0.1%血清添加RPMI1640培地に懸濁した細胞を1x106cells/ml濃度にてフローチャンバー内へ導入した。顕微鏡下により観察される細胞のローリングを解析ソフトウェアを用いて計測した。導入した細胞には、プレBリンパ球性白血病細胞株NALL1細胞、LAZ-221細胞及び陰性コントロールとしてRaji細胞を用いた。
【0062】
その結果、セレクチンリガンドを発現するプレBリンパ球性白血病細胞株には、著明な細胞のローリングと細胞接着が観察されたが、Raji細胞には見られなかった(図4)。この結果から、セレクチンリガンドを発現するプレBリンパ球性白血病細胞にはセレクチン依存的な細胞接着能のあることが示唆された。
【0063】
(3)免疫不全マウスを用いた白血病細胞のセレクチン依存的組織移行の確認
白血病細胞の組織移行におけるセレクチンリガンドとセレクチンを介した細胞接着能の関与をマウスモデルを用いて検出した。Blood, 103, 2900-2907(2004)を参考に、セレクチンリガンド陽性のプレB白血病細胞株(KM3、NALL1あるいはKOPN-K)をセレクチンリガンド陰性のRaji細胞と等量混合し、放射線照射した免疫不全マウスの尾静脈から体内へ導入した。6時間経過後の脾臓、肝臓及び骨髄細胞を回収し、その中に含まれる、すなわち組織移行した導入細胞を検出した。プレB白血病細胞は表面抗原CD45陽性CD43陽性CD21陰性であり、Raji細胞はCD45陽性CD43陰性CD21陽性である。ここから、蛍光標識抗体(APC結合抗ヒトCD45抗体、FITC結合抗ヒトCD43抗体、PE結合抗ヒトCD21抗体、ベクトンディッキンソン社製)を用いて、フローサイトメーターによりCD45陽性CD43陽性CD21陰性のプレB白血病細胞とCD45陽性CD43陰性CD21陽性のRaji細胞を検出した。図5に代表例としてプレB白血病細胞NALL1細胞とRaji細胞を用いた際の実験結果を示す。また、図6に3種類の細胞を用いた実験結果をまとめたものを示した。等量の細胞を導入したにも関わらず、各組織中にはセレクチンリガンド陽性のプレB白血病細胞がセレクチンリガンド陰性のRaji細胞より多く検出された。ここから、白血病細胞の組織への移行はセレクチンリガンドの発現レベルに依存的で、プレB白血病細胞ではセレクチンリガンド糖鎖の発現により、細胞接着能や組織への移行と浸潤が起こり易いことが示唆された。
【0064】
(4)セレクチンリガンド糖鎖とCD43抗原との関係
プレBリンパ球性白血病細胞株NALL1などにおいて、組織浸潤の鍵となるセレクチンリガンド糖鎖を有する細胞表面抗原が、唯一CD43抗原のみであることを明らかにした。
【0065】
すなわち、免疫沈降法を用いて、NALL1細胞溶解液に、シアリルルイスxに対する抗体であるCSLEX1あるいはCD43に対する抗体であるMEM59(モノサン社製)とプロテインGセファロースビーズを加え、4℃で一晩反応の後、ビーズを遠心分離により回収し、それぞれの抗体に反応するタンパク質を単離する。ビーズに回収されたタンパク質をSDS-PAGEサンプルバッファーに溶解させ、タンパク質量で20〜40μgを7.5%濃度のポリアクリルアミドゲルにて電気泳動し、PVDFメンブレンに転写し、MEM59あるいはCSLEX1にてウェスタンブロット解析を行う.その結果、CSLEX1にて免疫沈降したNALL1細胞溶解液のMEM59によるウェスタンブロット(図7(A))により、分子量150kDa弱のタンパク質が濃縮されており、シアリルルイスxの発現しているタンパク質がCD43であることが示唆される。同様に、MEM59にて免疫沈降したNALL1細胞溶解液のCSLEX1によるウェスタンブロット(図7(B))により、分子量150kDa弱のタンパク質が濃縮されており、CD43抗原上にはシアリルルイスxが発現していることが示唆される。これらウェスタンブロットの結果では、分子量150kDa弱の部分以外にシグナルが見られないことから、シアリルルイスxの発現しているタンパク質のほとんどがCD43であることが示唆された。
【0066】
(5)CD43抗原の発現阻害によるセレクチンリガンド糖鎖発現とセレクチン結合能抑制効果の確認
プレBリンパ球性白血病細胞において、組織浸潤に重要なセレクチンリガンド糖鎖は、そのほとんどがCD43抗原上に存在している.そこで、CD43抗原の発現抑制から、セレクチンを介した細胞接着能を低下させ、組織浸潤を抑制する方法について検討を行った。
【0067】
まず、CD43発現をRNA干渉により特異的に抑制するsiRNAをデザインした。配列はAmbion社のホームページ(http://www.ambion.com/)にて公開されているsiRNA配列検索ソフトウェアを用いて、CD43遺伝子配列(J. Biol. Chem., 266, 13, 8483-8489(1991))の中から19〜21塩基をランダムに数カ所選択してsiRNAの配列をデザインした(表1:表中太字斜体で示した配列部分は、CD43遺伝子に対応する塩基配列を示す)。
【0068】
これらのsiRNAを細胞内で発現させ、その効果を確認した。siRNAの細胞内への導入には、血液系細胞へ高効率で遺伝子導入の可能なレンチウイルスシステム(インビトロジェン社製)とレンチウィルス用発現ベクターpLL3.7(Nat. Genet., 33, 401-406(2003))を用いた。pLL3.7ベクターは、U6プロモーター下流にヘアピン構造を含むセンス、アンチセンスsiRNA配列を組み込むことができ、同時にGreen Flourescent protein(GFP)をCMVプロモーターにより発現するベクターである。そこで、デザインしたsiRNA配列のセンス鎖、アンチセンス鎖とヘアピン構造を含むオリゴヌクレオチド(CD43-#1〜#5、CD43-$1〜$5、名称末尾の記号fはセンス鎖を示し、rはアンチセンス鎖を示す)を化学合成し、pLL3.7ベクターにクローニング、293細胞にウィルス粒子産生用のベクターと共導入し、培養上清からsiRNA発現レンチウィルスベクターを回収した(図8)。ウィルス粒子のNALL1細胞との共培養によりウィルスを感染させ、siRNAを細胞内へ導入、発現させた。pLL3.7ベクターによりsiRNAの導入された細胞にはGFPが同時に発現する。そこで、GFP発現の見られる細胞、すなわちsiRNAの発現している細胞のCD43抗原とシアリルルイスx発現及びセレクチンとの結合能を、CD43に対する抗体MEM59(モノサン社製)とシアリルルイスx抗体CSLEX1及びヒト型キメラ-Fc-Ig-E-またはP-セレクチンを用いて、フローサイトメーターにより解析した。その結果、空ベクター(pLL3.7)の導入では、GFP陽性、陰性に関わらずCD43発現が高いレベルで見られた。一方、CD43に対するsiRNAを導入した細胞(siCD43 #1,#2,#5-pLL3.7)では、GFP陽性分画すなわちsiRNAの導入された細胞において、有為なCD43発現の減退が見られた(図9)。同様に、著明なシアリルルイスx発現及びセレクチン結合能の減退が見られた(図10)。
【0069】
【表1】
【0070】
(6)セレクチンリガンド糖鎖合成阻害による白血病細胞のセレクチンとの結合抑制効果の確認
NALL1細胞の培養上清中に糖鎖合成阻害剤の1つであるベンジル-α-N-アセチルガラクトサミン(Bz-α-GalNAc;シグマ社製)を添加し、セレクチンとの結合能を検出した。ベンジル-α-N-アセチルガラクトサミンは細胞内に取り込まれると、タンパク質のセリン及びスレオニンに付加されたN-アセチルガラクトサミンと同様に糖鎖修飾を受ける。そこで、大過剰のベンジル-α-N-アセチルガラクトサミンを添加すると、本来の糖タンパク質への糖鎖修飾が抑制されることから、O-結合形糖鎖の合成阻害剤として利用されている。NALL1細胞の培養上清中に4mMのベンジル-α-N-アセチルガラクトサミンを添加し、3日間培養後のCD43抗原とシアリルルイスx発現及びE-及びP-セレクチンとの結合能を、フローサイトメーターにより検出した。
【0071】
その結果、CD43抗原の発現には変化が見られなかったが、シアリルルイスx発現が著明に減退しており、セレクチンとの結合能もほぼ消失していた(図12)。従って、NALL1細胞へのベンジル-α-N-アセチルガラクトサミンはの添加は、CD43抗原上のO-結合形糖鎖に合成されるシアリルルイスx発現を抑制し、E-及びP-セレクチンとの結合能の低下をもたらし、血管内皮細胞との接着を介した白血病細胞の浸潤抑制に有効であることが示唆された。同様に、CD43抗原のO-結合形糖鎖上にセレクチンリガンド糖鎖を合成する糖転移酵素の活性阻害剤や、その材料となる糖鎖もしくは糖ヌクレオチドに、種々の修飾を施した疑似体による糖鎖合成の阻害も同様の効果が期待できる。
【0072】
(7)CD43抗原の分解による白血病細胞のセレクチンとの結合能消失の確認
シアル酸を多く含むムチン型糖タンパク質を選択的に分解するO-シアログライコプロテインエンドペプチダーゼ(O-sialoglycoprotein endopeptidase : OSGPEP, CEDAR LANE社製)処理によるCD43抗原とセレクチンリガンド糖鎖の発現やE-及びP-セレクチンとの結合能を検討した。2.5×105個のNALL1細胞を懸濁した10%血清加RPMI1640培養液500μLに、0.2mg/mLのOSGPEP 50μLを24時間毎に3日間連続して加え、CD43抗原とシアリルルイスx発現及びセレクチンとの結合能をフローサイトメーターで検出した。
【0073】
その結果、OSGPEP処理によりCD43抗原、シアリルルイスx発現の消失が観察され、E-及びP-セレクチンとの結合能もほぼ消失することを明らかにした(図12)。CD43抗原タンパク質にはO-結合型糖鎖が付加されるセリン、スレオニンが多数存在している。プレBリンパ球性白血病細胞では、多数のセリン、スレオニンに付加されるO-結合型糖鎖の末端に、シアル酸を含むシアリルルイスxが存在するため、OSGPEPにより分解反応が進んだものと考えられる。従って、プレBリンパ球性白血病細胞に発現するセレクチンリガンド糖鎖を含むCD43抗原の分解、消化処理はセレクチンを介した血管内皮細胞への接着の抑制をもたらし、白血病細胞の浸潤抑制に有効であることが示唆された。
【0074】
(8)本発明薬剤による、白血病細胞のローリング及び細胞接着抑制効果
CD43に対するsiRNAを組み込んだベクター(siCD43-pLL3.7)を導入したKM3細胞のローリング及び細胞接着能を検出した。その結果、図12に示す通り、CD43に対するsiRNAを導入した細胞では、空ベクター導入細胞(pLL3.7)に比べて、CHO-E及びCHO-P細胞に対するローリング及び細胞接着能が著明に減少していた。この減少の効果は、図10で示した細胞表面のセレクチンリガンド発現レベルと相関していることから、(5)〜(7)で示した手法により処理した白血病細胞は、セレクチン依存的な細胞接着能を減弱させることが示唆された。
【0075】
(9)本発明薬剤による臓器移行の抑制効果
本発明薬剤により処理した細胞の臓器移行能を検出した。siRNA発現のない空ベクター(pLL3.7)あるいはCD43に対するsiRNAを組み込んだベクター(siCD43-pLL3.7)を導入したNALL1細胞それぞれを、放射線照射した免疫不全マウスへ尾静脈から導入した。6時間経過後の脾臓、肝臓及び骨髄細胞を回収し、その中に含まれる、すなわち組織移行した導入細胞を検出した。空ベクター及びsiRNAを組み込んだベクター共に、GFPが組み込まれているので、回収した細胞中のヒトCD45陽性かつGFP陽性細胞の数を比較した。図14に細胞導入後の各組織のフローサイトメトリー解析結果の一例を示した。また、図15に実験結果をまとめたものを示した。その結果、CD43に対するsiRNAを導入した細胞では、空ベクター導入細胞に比べて、組織へ移行する細胞数の著明な減少が観察された。この結果は、図11で示した細胞表面のセレクチンリガンド発現レベル、及び図13で示したセレクチン依存性の細胞接着能の結果と相関していることから、(5)〜(7)で示した手法により処理した白血病細胞は、セレクチンリガンド発現レベルに応じて組織への移行すなわち組織浸潤を減弱させることが示唆された。
【0076】
(10)マウスに対する延命効果の確認
本発明薬剤による、マウスの延命効果を確認することができる。
すなわち350〜400cGyの放射線を照射した免疫不全マウスの尾静脈から、未処理のNALL1細胞あるいは(5)〜(7)に示した手法により処理したNALL1細胞約5x105個を注入し、SPF室内にて、滅菌水、滅菌飼料を与えながらマウスを飼育する。約2か月間飼育を続け、マウスの生存率を計測する。また、死亡したマウスについては死亡した時点において、生存しているマウスについては約2ヶ月後の時点で安楽死させ、肝臓、脾臓、腎臓等を採取、凍結切片を作成し、ヘマトキシリンエオジン染色法により組織内に浸潤している血球細胞を観察する。
【0077】
また、マウス末梢血液及び骨髄液を採取、白血球分画中の白血病細胞の割合をヒトCD45抗体を用いて常法に従ってフローサイトメーターにて検出する。(5)〜(7)に示した手法により処理したNALL1細胞を移植したマウスでは、各種臓器や末梢血液及び骨髄液中には、移植した白血病細胞はほとんど観察されないと考えられる。さらに、組織浸潤抑制の効果として高い生存率が観察される。
【0078】
(11)抗体依存性細胞傷害活性の測定
抗CD43抗体を用いた抗体依存性細胞傷害活性を測定した。NALL1細胞を標的細胞に用いて検討を行った。細胞を5%ウシ胎児血清(GIBCO-BRL製)含有RPMI1640培地(GIBCO-BRL製)で、2 x 105個/mlになるように調製した。これら細胞を96穴U底プレート(FALCON製)に50μl加え、次いで、抗体依存性細胞傷害活性を測定する抗体(マウス抗ヒトCD43抗体、MEM59,DFT-1)、エフェクター細胞(マウスあるいはヒト単核球)を50μl加えた。37℃CO2インキュベーター中で4時間インキュベート後、50μlの培養上清を96穴平底プレート(FALCON製)に移し、Substrate Mix(promega社製)を各穴に50μl加え、室温遮光で30分インキュベートした。その後、50μlのStop Solution(promega社製)を加え、各穴の490nmの吸光度を測定システムVERSA max(Molecular Devices社製)で測定した。細胞障害活性(%)は、(A-B-C)/(D-C)x 100で計算した。なお、Aは標的細胞を抗体とエフェクター細胞存在下でインキュベートしたときの吸光度、Bはエフェクター細胞のみインキュベートしたときの吸光度、Cは標的細胞のみインキュベートしたときの吸光度、Dは標的細胞が毒性を最大に受けた場合の吸光度である。その結果、抗体濃度依存的に細胞傷害活性が検出され、その値は最大で約30%であった。このことから、抗CD43抗体が細胞殺傷剤としても有効であることが示唆された(図16)。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】フローサイトメーターによるシアリルルイスx発現様式の解析結果を示す図である。A〜Gは、それぞれA:KM3、B:NALL1、C:KOPN-K、D:LAZ221、E:プレB白血病患者(#1)、F:プレB白血病患者(#2)、G:Raji細胞のAPC-Cy7により標識したシアリルルイスx抗体:CSLEX1との反応を検出した図である。ここでRaji細胞はセレクチンリガンド発現のないB細胞系細胞株であり、本実験の陰性コントロールとして使用した。横軸はAPC-Cy7標識したCSLEX1抗体の蛍光強度を、縦軸は細胞数を表す。
【図2】フローサイトメーターによるヒト型キメラ-Fc-Ig-E-セレクチンとの結合能を解析した結果を示す図である。A〜Gは、それぞれA:KM3、B:NALL1、C:KOPN-K、D:LAZ221、E:プレB白血病患者(#1)、F:プレB白血病患者(#2)、G:Raji細胞のAPC-Cy7により標識したヒト型キメラ-Fc-Ig-E-セレクチン(A〜G)の反応を検出した図である。Raji細胞は陰性コントロールとして使用した。横軸はAPC-Cy7標識したE-セレクチンの蛍光強度を、縦軸は細胞数を表す。
【図3】フローサイトメーターによるヒト型キメラ-Fc-Ig-P-セレクチンとの結合能を解析した結果を示す図である。H〜Nは、それぞれH:KM3、I:NALL1、J:KOPN-K、K:LAZ221、L:プレB白血病患者(#1)、M:プレB白血病患者(#2)、N:Raji細胞のAPC-Cy7により標識したヒト型キメラ-Fc-Ig-P-セレクチン(H〜N)の反応を検出した図である。Raji細胞は陰性コントロールとして使用した。横軸はAPC-Cy7標識したP-セレクチンの蛍光強度を、縦軸は細胞数を表す。
【図4】プレB白血病細胞のE-セレクチンまたはP-セレクチンを過剰発現させたCHO細胞(それぞれCHO-E、CHO-Pと命名)上をローリングする細胞数を解析した結果である。Raji細胞は陰性コントロールとして使用した。横軸は、単位面積(mm2)あたりのローリングの見られる細胞数を表す。
【図5】NALL1細胞とRaji細胞を等量混合した細胞懸濁液を免疫不全マウスへ導入し、セレクチン依存性の組織移行を検出する実験の概略図と、細胞導入前後のフローサイトメーターによる解析結果を示す図である。A〜Dは、それぞれA:導入前のNALL1とRaji細胞混合物、細胞を導入したマウスのB:脾臓、C:肝臓及びD:骨髄細胞の解析図である。横軸と縦軸は、それぞれ蛍光標識したCD43抗体及びCD21抗体の蛍光強度を表す。
【図6】セレクチン依存性の組織移行を免疫不全マウスを用いて検出した実験の結果をまとめた図である。フローサイトメーターにより解析した、各組織のヒトCD45陽性細胞中のKM3、NALL1及びKOPN-K細胞の割合を示す。Spl、Liv及びBMは、それぞれ脾臓、肝臓及び骨髄細胞における結果を示す。
【図7】NALL1細胞溶解物による免疫沈降-ウェスタンブロット解析結果を示す図(写真)である。AはCSLEX1により免疫沈降した細胞溶解物のCD43抗体MEM59によるウェスタンブロット解析図であり、BはCD43抗体MEM59により免疫沈降した細胞溶解物のCSLEX1によるウェスタンブロット解析図である。また、「whole cell lysate」は免疫沈降前の全細胞溶解物を、「sLeX抗体-IP」及び「CD43抗体-IP」は、それぞれsLeX抗体CSLEX1あるいはCD43抗体MEM59にて免疫沈降したサンプルの結果を示す。
【図8】レンチウィルスによるsiRNA導入システムを示す概略図である。pLL3.7ベクターに組み込まれたsiRNAを、パッケージングベクターと共に293FT細胞へ導入する。産生されたウィルスベクターを細胞に感染させることにより、siRNAを導入、発現させることを示している。
【図9】siRNA導入NALL1細胞におけるCD43発現のフローサイトメトリー解析結果を示す図である。横軸は蛍光標識したCD43抗体の蛍光強度を、縦軸は細胞数を表す。また、GFP(+)fraction及びGFP(-)fractionは、それぞれGFP発現陽性すなわちウィルスベクターの導入された細胞の分画、及びGFP発現陰性すなわちウィルスベクターの導入されていない細胞の分画を示す。また、[pLL3.7]はsiRNA発現のない空ベクター、[siCD43-#1-pLL3.7]、[siCD43-#2-pLL3.7]、[siCD43-#5-pLL3.7]はCD43に対するsiRNAを組み込んだベクターを用いた時の結果を示す。
【図10】siRNA導入NALL1細胞のシアリルルイスx発現とE-及びP-セレクチンとの結合能のフローサイトメトリー解析結果を示す図である。(A)はCD43に対するsiRNA#2を導入したNALL1細胞のシアリルルイスx発現解析結果を、(B)はE-セレクチンへの結合能、(C)はP-セレクチンへの結合能を解析した結果を示す図である。横軸はそれぞれAPC-Cy7標識したCSLEX1抗体、E-セレクチン、またはP-セレクチンの蛍光強度を、縦軸は細胞数を表す。
【図11】ベンジル-α-N-アセチルガラクトサミン(Bz-α-GalNAc)及びOSGPEP処理したNALL1細胞の、シアリルルイスx発現及びセレクチンとの結合能のフローサイトメーターによる解析結果を示す図である。横軸はそれぞれAPC-Cy7標識したCSLEX1抗体、E-セレクチン、またはP-セレクチンの蛍光強度を、縦軸は細胞数を表す。[CSLEX1]、及び[E-selectin]、[P-selectin]は、それぞれシアリルルイスx発現、及びE-セレクチンまたはP-セレクチンとの結合能を示す。[Neg-Cont]は未処理の細胞の一次抗体なしの時の解析結果を、[None]は未処理の細胞の解析結果を、[Bz-α-GalNAc]はベンジル-α-N-アセチルガラクトサミン処理した細胞の解析結果を、[OSGPEP]はOSGPEP処理した細胞の解析結果を示す。
【図12】CD43に対するsiRNAを導入したKM3細胞のE-セレクチンまたはP-セレクチンを過剰発現させたCHO細胞上をローリングする細胞数を解析した結果である。いずれも実験3回あたりの平均値を示す。アステリスク*はP値が0.05以下であり統計的に有為な差のあることを表す。CHO-mは、空ベクターを導入したCHO細胞による結果を示す。
【図13】CD43に対するsiRNA導入NALL1細胞を移植した免疫不全マウスの各組織の細胞をフローサイトメーターにより解析した結果を示す図である。横軸はGFPの蛍光強度を、縦軸は蛍光色素PEによる蛍光強度を表す。[pLL3.7]及び[siCD43-pLL3.7]は、それぞれsiRNA発現のない空ベクター及びCD43に対するsiRNAを組み込んだベクターを導入したNALL1細胞を用いたときの結果を示す。[Spleen]、[Liver]及び[Bone marrow]は、それぞれ脾臓、肝臓及び骨髄細胞における結果を示す。
【図14】CD43に対するsiRNA導入NALL1細胞を移植した免疫不全マウスの各組織の細胞をフローサイトメーターにより解析した結果をまとめた図である。各組織の細胞106個あたりのヒトCD45かつGFP陽性細胞数の、実験3回あたりの平均値を示す。アステリスク*はP値が0.05以下であり統計的に有為な差のあることを表す。横軸のSpl、Liv及びBMは、それぞれ脾臓、肝臓及び骨髄細胞における結果を、縦軸はヒトCD45陽性かつGFP陽性の、各組織の細胞106個あたりの細胞数を示す。
【図15】NALL1細胞に抗CD43抗体とエフェクター細胞を添加した時の抗体依存性細胞傷害活性を測定した結果を示す。横軸は抗CD43抗体濃度、縦軸は細胞毒性(%)を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪性腫瘍細胞の組織への浸潤抑制剤及び細胞殺傷剤に関し、特に細胞表面タンパク質上に特徴的に発現するセレクチン結合性糖鎖とセレクチンとの結合を抑制する浸潤抑制剤、及び特徴的セレクチン結合性糖鎖、糖タンパク質を標的とした細胞殺傷剤に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍の重大な問題の一つに、組織・臓器への腫瘍細胞の転移・浸潤があげられる。すなわち、重要な臓器に悪性腫瘍の細胞が浸潤して転移した場合、それらの臓器は機能不全を起こし、生体全体が変調を来たすようになる。また、腫瘍細胞の血管内皮細胞等への接着による細胞間シグナルは、抗癌剤投与に対する抵抗性を誘導し、治療効果の低減を招く(非特許文献1)。
【0003】
従って、悪性腫瘍細胞の接着や接着を介した組織・臓器浸潤・転移の抑制は、治療において重要な意義を持っている。しかしながら、現在の臓器浸潤や転移に対する治療法は、血管新生抑制剤や増殖因子に対する抗体が治療薬として臨床試験されている程度であり、浸潤のきっかけとなり、抗癌剤への耐性を誘導する細胞間接着を直接的に抑制するような治療薬や治療法の実用化はなされていない。
【0004】
一方、細胞はがん化すると、その表面に正常細胞には見られない抗原が出現することが報告されている(非特許文献2)。そして、これらがん関連抗原の多くは糖鎖抗原であることが明らかにされている。糖鎖抗原は、上皮細胞や白血球の分化やがん化・白血化にともなって活発に変化し(非特許文献3、非特許文献4)、その一部は、腫瘍マーカーとしてがんの検査にも利用されている(非特許文献5)。さらに、がんに出現するこれらの糖鎖抗原には重大な機能があり、一部には強い細胞接着活性があることが報告されている。中でも、消化器がんの検査診断に広く使われている腫瘍マーカーCA19-9が消化器のがん細胞を血管に接着させる機能をもつ分子であることが明かにされている。(非特許文献6)。腫瘍マーカーCA19-9で検出する糖鎖はシアリルルイスaという糖鎖であるが、これがシアリルルイスxとともに血管内皮細胞の細胞接着分子であるE−セレクチンと結合することが報告されている。ここから、この糖鎖(セレクチンリガンド糖鎖)分子が、がん細胞と血管内皮との接着を媒介して、抗癌剤耐性の獲得やがんの血管浸潤、血行性転移を促進する働きを持つことが示唆される。さらに、シアリルルイスaやシアリルルイスxなどの糖鎖を強く発現するようながん細胞をもつ患者では、そうでない患者よりも血行性転移が起こりやすく、手術後の予後が悪いことも報告されている。
【0005】
急性Tリンパ球性白血病細胞においてもセレクチンリガンド糖鎖が発現しており、この発現レベルの皮膚浸潤との相関性が示されている(非特許文献7)。ここから、白血病細胞の細胞接着や組織浸潤の過程におけるセレクチンリガンド糖鎖とセレクチンの結合を介した作用の関与が強く示唆される。一方、急性プレBリンパ球性白血病においても、白血病細胞の臓器浸潤が見られ(非特許文献8)、免疫不全マウスへのプレBリンパ球性白血病細胞の移植は、骨髄を含む種々の臓器への浸潤や、白血病細胞の異常増殖を誘発し、マウスが死に至ることが報告されている(非特許文献9)。しかしながら、プレBリンパ球性白血病細胞では、セレクチンリガンド糖鎖が発現していること、主要なセレクチンリガンド糖鎖のほとんどが細胞表面抗原CD43糖タンパク質上に発現していること、及びCD43抗原上のセレクチンリガンド糖鎖が組織浸潤に中心的な働きをしていることは、これまで知られていなかった。
【0006】
【非特許文献1】Nat.Med., 9: 1158-1165, 2003
【非特許文献2】Natl. Cancer Inst., 71: 231-251, 1983
【非特許文献3】Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 80: 2833-2848, 1983
【非特許文献4】Science, 220: 509-511, 1983
【非特許文献5】Cancer Res., 48: 3856-3863, 1988
【非特許文献6】Cancer Res., 53: 354-361, 1993
【非特許文献7】Cancer Res., 55: 6533-6538, 1994
【非特許文献8】Blood, 88, 1135-1140,1996
【非特許文献9】Blood, 78, 2973-2981, 1991
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
悪性腫瘍、殊に白血病や悪性リンパ腫などの造血器悪性腫瘍では、腫瘍細胞の血管内皮細胞への接着やその接着を介した組織浸潤が、抗癌剤による細胞殺傷効果の抑制や再発の原因となり、治療上の問題となっている。特に抗癌剤や放射線による治療効果の及びにくい中枢神経組織への浸潤は白血病の根治的治療における重要な問題である。従って、細胞接着と接着を介した臓器浸潤の抑制は、造血器悪性腫瘍の治療において重要な課題である。しかしながら、これまでのところ細胞接着や組織浸潤及び転移を抑制する治療剤は、十分とはいえず、より効果的に細胞接着や組織浸潤・転移を抑制する薬剤の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者らは、悪性腫瘍、殊に造血器悪性腫瘍における、腫瘍細胞の細胞接着と組織浸潤の抑制を図るべく、鋭意検討を重ねた結果、細胞表面抗原CD43に局在的にセレクチン結合性糖鎖が存在し、かかるセレクチン結合性糖鎖を介して腫瘍細胞が浸潤組織のセレクチンに結合して細胞間接着が起こり、この接着過程を経て浸潤・転移がなされるとの知見を得た。そして、CD43抗原及びセレクチンリガンド糖鎖の発現抑制により腫瘍細胞の細胞接着や組織浸潤及び転移の抑制が達成できることを見いだし、CD43抗原及びセレクチンリガンド糖鎖の発現抑制物やセレクチンとの結合阻害物を組織浸潤抑制剤として、また、セレクチンリガンド糖鎖とそのキャリアタンパク質CD43に結合活性を有する物質を細胞殺傷剤として本発明に想到した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(27)に関する。
(1) 細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖と、セレクチンとの結合を抑制することを特徴とする浸潤抑制剤。
(2) small-interfering RNA(siRNA)配列を有する核酸を有効成分とすることを特徴とする上記(1)記載の浸潤抑制剤。
(3) small-interfering RNA(siRNA)配列が、配列番号1乃至20の何れかの塩基配列を含むことを特徴とする上記(2)記載の浸潤抑制剤。
(4) エンド-O-グリコシダーゼを有効成分とすることを特徴とする上記(1)記載の浸潤抑制剤。
(5) 抗CD43抗体を有効成分とすることを特徴とする上記(1)記載の浸潤抑制剤。
【0010】
(6) ヒト型-Fc-Ig-キメラE-セレクチン、ヒト型-Fc-Ig-キメラP-セレクチン、及びシアリルルイスx構造を有する糖鎖からなる群から選択される一以上の糖鎖を有効成分とすることを特徴とする上記(1)記載の浸潤抑制剤。
(7) 細胞の組織浸潤を予防するための上記(1)乃至(6)何れか一項記載の浸潤抑制剤の使用。
(8) 細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖と、セレクチンとの結合を抑制することを特徴とする浸潤抑制方法。
(9) 細胞表面抗原CD43に対するセレクチンリガンド糖鎖の付加を抑制することを特徴とする上記(8)記載の方法。
(10) 細胞表面抗原CD43の発現を抑制することを特徴とする上記(8)記載の方法。
【0011】
(11) セレクチンリガンド糖鎖を細胞表面抗原CD43に付加する糖転移酵素遺伝子の発現を抑制することを特徴とする上記(8)記載の方法。
(12) 糖転移酵素遺伝子がN-アセチルガラクトサミン転移酵素をコードする遺伝子、ガラクトース転移酵素をコードする遺伝子、N-アセチルグルコサミン転移酵素をコードする遺伝子、フコース転移酵素をコードする遺伝子、シアル酸転移酵素をコードする遺伝子、または硫酸転移酵素をコードする遺伝子であることを特徴とする上記(11)記載の方法。
(13) small-interfering RNA(siRNA)配列を有する核酸を用いることを特徴とする上記(8)乃至(12)何れか一項記載の方法。
(14) small-interfering RNA(siRNA)配列が、配列番号1乃至20の何れかの塩基配列を含むことを特徴とする上記(13)記載の方法。
(15) 細胞表面抗原CD43とセレクチンリガンド糖鎖との結合を切断することを特徴とする上記(8)記載の方法。
【0012】
(16) 細胞表面抗原CD43を分解することを特徴とする上記(8)記載の方法。
(17) セレクチンリガンド糖鎖を分解することを特徴とする上記(8)記載の方法。
(18) small-interfering RNA(siRNA)配列を有する核酸の、セレクチンリガンド糖鎖とセレクチンとの結合抑制のための使用。
(19) 細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖とその糖鎖を保持するキャリアタンパク質に結合することにより、この糖タンパク質を発現する細胞に特異的に細胞死を誘導することを特徴とする細胞殺傷剤。
(20) セレクチンリガンド糖鎖を保持するキャリアタンパク質がCD43タンパク質である上記(19)記載の細胞殺傷剤。
【0013】
(21) キャリアタンパク質に結合する物質が、CD43タンパク質の細胞外領域中のエピトープに特異的に結合する抗体やペプチドである上記(19)記載の細胞殺傷剤。
(22) 細胞傷害性薬剤が結合された上記(21)記載の細胞殺傷剤。
(23) 細胞傷害性薬剤が、抗代謝物、アルキル化剤、アンスラサイクリン類、抗生物質、抗分裂剤、化学療法剤及び放射性物質からなる群から選択される、上記(22)記載の細胞殺傷剤。
(24) 細胞傷害性薬剤が、リシン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、タキソール、臭化エチジウム、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルチシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、アクチノマイシンD、1−デヒドロテストステロン及びグルココルチコイドからなる群から選択される、上記(22)記載の細胞殺傷剤。
(25) CD43タンパク質の細胞外領域中のエピトープに特異的に結合する抗体が、ヒト型モノクローナル抗体、合成の抗体、ポリクローナル抗体またはキメラ抗体である上記(21)記載の細胞殺傷剤。
【0014】
(26) 細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖とその糖鎖を保持するキャリアタンパク質に上記(19)乃至(25)記載の細胞殺傷剤が結合することを特徴とする、細胞殺傷の方法。
(27) 上記(26)に記載の方法であって、細胞がCD43を発現する造血器悪性腫瘍及び造血幹細胞を含む造血系細胞である、方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、細胞間接着や組織浸潤・転移を効果的に抑制する薬剤及び組織浸潤・転移の抑制方法と、造血器悪性腫瘍細胞を含む造血系細胞を殺傷する薬剤と細胞殺傷の方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
1.本発明薬剤
本発明は、細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖と、セレクチンとの結合を抑制することを特徴とする浸潤抑制剤、及び細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖とその糖鎖を保持するキャリアタンパク質に結合することにより、この糖タンパク質を発現する細胞に特異的に細胞死を誘導することを特徴とする細胞殺傷剤に関し、これらを総称して「本発明薬剤」と略記する。
【0017】
本発明薬剤は、細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖と、セレクチンとの結合を抑制することと、セレクチンリガンド糖鎖を保持するキャリアタンパク質を標的に細胞を殺傷することを特徴とする。
【0018】
本発明薬剤における「細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖」とは、シアリルルイスx、硫酸化シアリルルイスx、シアリルルイスaを指称するが、硫酸化シアリルルイスxまたはシアリルルイスxがもっとも好ましい。
【0019】
セレクチンリガンド糖鎖を保持するキャリアタンパク質としては、CD43タンパク質等が挙げられ、キャリアタンパク質に結合する物質は、CD43タンパク質の細胞外領域中のエピトープに特異的に結合する抗体やペプチド等であることが好ましい。
【0020】
シアリルルイスxは、細胞表面にはCD43を介して結合している。従って、シアリルルイスxとセレクチンとの結合の抑制は、例えば(a)CD43の発現を抑制する手段、(b)CD43とシアリルルイスxとの結合を切断又は阻害する手段、(c)CD43とシアリルルイスxとの複合体に結合し立体配置に変位を起こさせる手段、(d)CD43又はシアリルルイスxを特異的に分解する手段、(e)シアリルルイスxとセレクチンとの結合を競合阻害又は競争阻害する手段、(f)シアリルルイスxの合成を阻害する手段等により達成される。また、セレクチンリガンド糖鎖とそのキャリアタンパク質CD43を標的とする細胞殺傷は、例えば(g)抗CD43抗体による抗体依存性細胞傷害活性の誘導や、(h)抗がん剤などの細胞殺傷薬剤が結合された抗CD43抗体等により達成される。
【0021】
本発明薬剤の適用対象となる細胞は、組織への浸潤性を有する腫瘍細胞であればいずれであってもよいが、特に造血器悪性腫瘍細胞であることが好ましく、白血病細胞であることがより好ましい。さらに白血病細胞の中でも、特にB細胞由来の腫瘍細胞であることが好ましく、特にプレBリンパ球性白血病細胞であることが好ましい。
【0022】
なお、本発明における「浸潤抑制」とは、組織への細胞の浸潤の進行を妨げることを意味するとともに、組織への細胞の浸潤の予防も意味する。
【0023】
(a)CD43の発現を抑制する手段としては、例えばCD43遺伝子の転写産物とRNA干渉を起こしてCD43の正常な発現を妨げる働きを有するsmall-interfering(RNA(以下「siRNA」と記載する)を用いる方法が好ましい。このようなsiRNAを細胞内で発現させる働きを有する塩基配列としては、例えば配列番号1乃至20記載の何れかの塩基配列を含む塩基配列があげられ、特に配列番号1乃至20記載の何れかの塩基配列からなる塩基配列が好ましいが、RNA干渉の機構に基づいてCD43の発現を妨げる塩基配列である限りにおいて限定はされず、他の任意の塩基配列を含んでもよく、本発明薬剤の有効成分として使用することができる。
【0024】
このようなsiRNA配列を有効成分として使用する本発明薬剤は、常法により調製した核酸を、例えばレンチウイルスシステム(インビトロジェン社製)等のような公知の手段を用いてウイルスベクターに導入し、かかるウイルスベクターを生体に投与し、対象となる細胞に対してCD43抗原の発現を抑制させて、浸潤抑制効果を得ることができる。
【0025】
(b)CD43とシアリルルイスxとの結合を切断又は阻害する手段としては、例えばコアタンパク質からのO-結合型糖鎖の遊離が可能なエンド-O-グリコシダーゼ(prozyme社製)を用いることにより、シアリルルイスxを含む糖鎖をCD43から切断することができる。
【0026】
このような酵素を有効成分として使用する本発明薬剤は、例えば生体に本発明薬剤を注射剤などの形態により投与することで所望の効果を得ることが可能である。
【0027】
(c)CD43とシアリルルイスxとの複合体に結合し立体配置に変位を起こさせる手段としては、例えばシアリルルイスxやCD43に対する抗体等を用いる方法が挙げられる。かかる抗体の例としては、ヒト型モノクローナル抗体、合成の抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体等が挙げられ、更に具体的には、CSLEX(ベクトンディッキンソン社製)、KM93抗体(生化学工業株式会社製)、DF-T1抗体(シグマ社製)、1G10抗体(ベクトンディッキンソン社製)、1D4抗体(MBL社製)、84-3C1抗体(ネオマーカー社製)、MEM59抗体(モノサン社製)、Bra7G抗体(ネオマーカー社製)、BL-E/G3抗体(モノサン社製)、MT-1抗体(プロジェン社製)等が例示され、いずれも本発明薬剤の有効成分として使用することができる。
【0028】
本発明薬剤に使用することができるシアリルルイスxやCD43に対する抗体は、ハイブリドーマを用いて調製することも可能である。かかるハイブリドーマは、公知の細胞融合法により作製することができる。即ち、例えばヒトCD43抗原を免疫原としてヒト以外の動物を免疫し、その脾細胞又はリンパ節細胞と骨髄腫細胞とを融合させてハイブリドーマを作製し、その中からヒトCD43抗原を認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選択することにより目的のハイブリドーマを得ることができる。
【0029】
上記免疫原としては、CD43を含有するものであれば特に限定されず、例えば、CD43をコードする核酸(J. Biol. Chem., 266, 13, 8483-8489(1991))の塩基配列からなる核酸を常法に従って組み込んだ組換体を生育させて得られる生育物(組換体破砕物、培地、排泄物、分泌物など)、或いはそれらから既存の抗CD43抗体などを用いるアフィニティークロマトグラフィーで部分精製又は精製して得たCD43抗原等を挙げることができるが、特に精製して得たCD43抗原であることが好ましい。
【0030】
上述のハイブリドーマを作製するために用いる被免疫動物としては特に限定されず、例えば、ヤギ、ヒツジ、モルモット、マウス、ラット、ウサギ等を挙げることができるが、なかでもマウスが好ましい。
上記被免疫動物を免疫する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、マウスを免疫する場合、1回に1〜100μg、好ましくは50〜100μgの免疫用抗原を等容量(0.1mL)の生理食塩水及びフロイントの完全アジュバント、不完全アジュバント、又はRIBIアジュバントシステムで乳化して、上記被免疫動物の背部、腹部の皮下又は腹腔内に2〜3週毎に3〜6回接種する方法等を挙げることができる。
【0031】
上記被免疫動物を免疫後、抗体価の高い個体を選び、最終免疫3〜5日後に脾臓又はリンパ節を摘出し、公知の細胞融合法に従って、融合促進剤の存在下で、これらの組織に含まれる抗体産生細胞を骨髄腫細胞と融合させることができる。
【0032】
上記融合促進剤としては特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコール(以下「PEG」とも記載する)や、センダイウイルス等を挙げることができるが、PEGを用いることが好ましい。
【0033】
上記骨髄腫細胞としては特に限定されず、例えば、P3U1、NS-1、P3x63.Ag8.653等のマウス由来の細胞;AG1、AG2等のラット由来の細胞等を挙げることができる。
【0034】
上記細胞融合法としては特に限定されず、例えば、脾細胞と骨髄腫細胞とを1:1〜10:1の比率で混合し、これに分子量1,000〜6,000のPEGを10〜80%の濃度で添加し、20〜37℃、好ましくは30〜37℃で3〜10分間インキュベートする方法等を挙げることができる。
【0035】
抗CD43抗体を有効成分とする本発明薬剤において、CD43抗原を認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの選択は、例えば、ハイブリドーマのみが生育できるHAT培地等の選択培地で培養し、ハイブリドーマ培養上清中の抗体活性を常法により測定することにより行うことができる。更に、CD43抗原を特異的に認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの樹立は、例えば、CD43抗原を特異的に認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマに対し、限界希釈等の方法によりクローニングを繰り返すことにより行うことができる。
【0036】
上述の抗CD43抗体を大量に調製する方法としては特に限定されず、例えば、あらかじめプリスタンを投与したマウスの腹腔に本発明ハイブリドーマを移植して、回収した腹水から得る方法等を挙げることができる。腹水中の本発明抗体は、プロテインAやプロテインGカラム等を使用する公知の方法等により容易に精製することができる。
【0037】
このような抗体を有効成分として使用する本発明薬剤は、例えば生体に本発明薬剤を注射剤などの形態により投与することで所望の効果を得ることが可能である。
【0038】
(d)CD43又はシアリルルイスxを特異的に分解する手段としては、例えばシアル酸を多く含むムチン型糖タンパク質を選択的に分解する酵素や、シアリルルイスx構造に含まれる特定の糖鎖同士の結合を認識して切断する酵素が例示される。かかる酵素としては、O-シアログライコプロテインエンドペプチダーゼ(O-sialoglycoprotein endopeptidase : OSGPEP, CEDAR LANE社製)や、シアル酸とガラクトースとのα2,3-グリコシド結合を特異的に切断するシアリダーゼ(prozyme社製)、ガラクトースとN-アセチルグルコサミンとのβ1,4-グリコシド結合を特異的に切断するβ-ガラクトシダーゼ(prozyme社製)等が例示され、いずれも本発明薬剤の有効成分として使用することができる。
【0039】
このような酵素を有効成分として使用する本発明薬剤は、例えば生体に本発明薬剤を注射剤などの形態により投与することで所望の効果を得ることが可能である。
【0040】
(e)シアリルルイスxとセレクチンとの結合を競合阻害又は競争阻害する手段としては、例えば可溶型リコンビナントセレクチンや可溶型糖鎖を使用する方法が挙げられる。かかる可溶型リコンビナントセレクチンとしては、例えばヒト型Fc-Ig-キメラE-セレクチン及びヒト型Fc-Ig-キメラP-セレクチン(R&Dシステム社製)、シアリルルイスx構造を有する糖鎖(タカラ、生化学工業社製)等が例示される。このような可溶型リコンビナントセレクチンや糖鎖も本発明薬剤の有効成分として使用することが可能である。
【0041】
このような糖鎖を有効成分として使用する本発明薬剤は、例えば生体に本発明薬剤を注射剤などの形態により投与することで所望の効果を得ることが可能である。
【0042】
(f)シアリルルイスxの合成を阻害する手段としては、例えばシアリルルイスxの生合成に関与する糖転移酵素の作用を阻害する手段又はかかる酵素の発現を妨げる手段が挙げられる。このような「酵素」としては、例えばN-アセチルガラクトサミン転移酵素、ガラクトース転移酵素、N-アセチルグルコサミン転移酵素、フコース転移酵素、シアル酸転移酵素、硫酸転移酵素が挙げられる。
【0043】
このような酵素の働きを阻害する手段としては、例えばこれらの酵素の基質(UDP-GalNAc(ウリジン二リン酸-N-アセチルガラクトサミン)、UDP-Gal(ウリジン二リン酸-ガラクトース)、UDP-GlcNAc(ウリジン二リン酸-N-アセチルグルコサミン)、UDP-Fuc(ウリジン二リン酸-フコース)、UDP-SiaA(ウリジン二リン酸-シアル酸)、PAPS(活性硫酸))の疑似体(アナログ:例えばベンジル-α-N-アセチルガラクトサミン等)により競合阻害又は競争阻害が挙げられる。
【0044】
また、このような酵素の発現を妨げる手段としては、これらの酵素をコードする遺伝子の転写産物とRNA干渉を起こすsiRNAをコードする塩基配列を有する核酸を細胞に導入する手段が挙げられる。当業者であれば、発現を妨げる目的の酵素をコードする核酸の塩基配列を基に、siRNAの塩基配列を適宜選択して調製することができる。このようなsiRNAの塩基配列を有する核酸も本発明薬剤の有効成分として使用することができる。
【0045】
このような本発明薬剤は、常法により調製した核酸を、例えばレンチウイルスシステム(インビトロジェン社製)等のような公知の手段を用いてウイルスベクターに導入し、かかるウイルスベクターを生体に投与し、対象となる細胞に対してシアリルルイスxの発現を抑制させて、浸潤抑制効果を得ることができる。
【0046】
(g)抗体依存性細胞傷害活性の誘導には抗CD43抗体の投与が挙げられる。抗CD43抗体のうち、遺伝子組換の手法により可変領域を組換えてヒト化した抗体(いわゆるヒト化抗体)やキメラ抗体は白血病細胞の治療剤の有効成分としても利用可能である。本発明により、白血病細胞がCD43を発現していることが明らかになったことから、CD43の発現をsiRNAなどにより抑制した組換白血球細胞(単球、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)等)とともに上記抗体の生体への投与により、白血病の治療が可能となる。すなわち、CD43を上記抗体が認識して白血病細胞に結合し、白血病細胞に結合した上記抗体を、組換によりCD43を発現しない組換白血球細胞が認識して細胞性免疫作用を示すことで、白血病細胞のみを特異的に殺傷することが可能となる。
【0047】
(h)細胞傷害薬剤を結合させた細胞殺傷剤としては、例えば抗代謝物、アルキル化剤、アンスラサイクリン類、抗生物質、抗分裂剤、化学療法剤及び放射性物質からなる物質を抗CD43抗体など、細胞表面のCD43糖タンパク質に特異的に結合能のある物質に結合させた後、投与することで効率的な細胞殺傷効果が期待できる。更に具体的な細胞傷害性薬剤としては、リシン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、タキソール、臭化エチジウム、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルチシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、アクチノマイシンD、1−デヒドロテストステロン、グルココルチコイド等が挙げられる。また、CD43は造血系細胞の中では成熟Bリンパ球以外のほとんどの細胞で発現があることが報告されている。ここから、現在、放射線照射や抗がん剤の大量投与により、患者へ大きな負担となっている骨髄移植前の骨髄抑制処置にも本細胞殺傷剤の使用が期待できる。すなわち、本殺傷剤の投与により、造血幹細胞を含む造血系細胞のみを特異的に除去可能なことから、患者の負担の少ない骨髄移植の前処置剤としての応用が期待できる。
【0048】
このような本発明薬剤のセレクチンリガンド糖鎖とセレクチンとの結合の抑制と、セレクチンリガンド糖鎖とその糖鎖を保持するキャリアタンパク質を標的とした細胞殺傷方法は、セレクチンとの結合特に(a)CD43抗原及びセレクチンリガンド糖鎖の発現を抑制する手段又は(g)抗CD43抗体投与による抗体依存性細胞傷害活性の誘導する手段を用いて行われることが好ましく、本発明薬剤の有効成分は特にCD43抗原及びセレクチンリガンド糖鎖の発現を抑制するsiRNA配列を有する核酸、抗CD43抗体又は抗セレクチンリガンド糖鎖抗体が好ましく、特にCD43抗原及びセレクチンリガンド糖鎖の発現を抑制するsiRNA配列を有する核酸又は抗CD43抗体が好ましい。
【0049】
上記本発明薬剤は、錠剤、カプセル剤、液剤、注射剤、顆粒剤、散剤、リポ化剤、吸入散剤等、経口投与、注射等の投与ルート、目的、対象等に応じて製剤化することができる。本発明薬剤中における有効成分の濃度は特に限定はされないが、0.001〜5%とするのが好ましい。例えば本発明薬剤を経口投与用の液剤とする場合には、0.01%(W/V)以上とするのが好ましく、0.03%〜0.2%(W/V)とするのが最も好ましい。また、筋注又は静注用の注射剤とする場合には0.01%(W/V)以上とするのが好ましく、0.03%(W/V)以上とするのが最も好ましい。本発明薬剤は血管中への直接投与が最も優れた薬効を示す。従って、本発明薬剤を使用する際に、注射や点滴などの投与形態を執りうる剤形であることが特に好ましい。
【0050】
また、本発明薬剤の投与量は、投与ルート、投与形態、使用目的、投与対象となる動物の具体的症状、年齢、体重等に応じて、本発明の効果が最も適切に発揮される様に個別に決定されるべき事項であり、特に限定されない。例えば、ヒトに投与する場合、有効成分として成人1人1回当たり1mg〜1,000mg程度、1日1回〜数回投与される。
【0051】
また、本発明薬剤は、その有効成分の他に添加物を含んでいてもよい。添加剤としては例えば塩類、保存剤、抗生物質、抗炎症剤、増殖因子の混合又は組み合わせがあげられる。塩類としては例えば硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、リン酸水素ナトリウム等、保存剤としては例えばパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、塩化ベンザルコニウム等、抗生物質としては、例えばオキシテトラサイクリン等、抗炎症剤としては例えばジクロフェナック等が挙げられる。
【0052】
また、本発明薬剤は、通常の医薬組成物を調製する際に使用される賦形剤、安定化剤等の製剤補助剤も何ら支障なく使用することができる。
【0053】
本発明薬剤は、細胞の浸潤の抑制に働くが、かかる「抑制」は、浸潤前に浸潤が起こることを妨げる「予防」、すでに浸潤しているが、さらなる浸潤を妨げる「悪化防止」、「浸潤した状態の「改善」のいずれも包含する概念であるが、本発明薬剤は、特に予防にも極めて優れた効果を有する。
【0054】
2.本発明方法
本発明方法は、細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖と、セレクチンとの結合を抑制することを特徴とする細胞浸潤抑制方法及びセレクチンリガンド糖鎖を保持するCD43タンパク質などのキャリアタンパク質を標的とすることを特徴とする細胞殺傷方法である。
細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖と、セレクチンとの結合の抑制及びセレクチンリガ
【0055】
ンド糖鎖とそれを保持するCD43を標的とした細胞殺傷は、例えば前記本発明薬剤で説明した(a)CD43の発現を抑制する手段、(b)CD43とシアリルルイスxとの結合を切断又は阻害する手段、(c)CD43とシアリルルイスxとの複合体に結合し立体配置に変位を起こさせる手段、(d)CD43又はシアリルルイスxを特異的に分解する手段、(e)シアリルルイスxとセレクチンとの結合を競合阻害又は競争阻害する手段、(f)シアリルルイスxの合成を阻害する手段、(g)CD43の細胞外ドメインを認識する抗体により抗体依存性細胞傷害活性を誘導する手段、(h)細胞傷害薬剤を付加したCD43細胞外ドメイン結合物質による手段等によって行うことができる。
【0056】
かかる手段を実現するための具体的物質及びその使用方法は、上記1.本発明薬剤と同様である。
【実施例】
【0057】
(1)白血病細胞におけるセレクチンリガンド糖鎖発現の確認
プレBリンパ球性白血病細胞株(プレBリンパ球性白血病患者由来の細胞より樹立した株化細胞)KM3細胞(林原生物科学研究所Dr. Jun Minowadaより恵与)、NALL1細胞(林原生物科学研究所Prof. Isao Miyoshiより恵与)、KOPN-K細胞、LAZ-221細胞(林原生物科学研究所Dr. Shin Matsuoより恵与)及び、急性プレBリンパ球性白血病患者より採取した白血病細胞(総数15検体)のセレクチンリガンド糖鎖発現をフローサイトメーターを用いて確認した。なお、本実験の陰性コントロールには同じB細胞系列でセレクチンリガンド糖鎖の発現のないことが明らかにされている細胞株Raji細胞を用いた。
【0058】
主要なセレクチンリガンド糖鎖であるシアリルルイスX糖鎖抗原は、タンデム色素APC-Cy7を結合させたCSLEX抗体(シアリルルイスX構造を特異的に認識する抗体:ベクトンディッキンソン社製)により、J. Biol. Chem., 273, 41, 26779-26789(1998)記載の方法に従って、フローサイトメーターにより蛍光強度と細胞数の分布を確認した。ヒストグラムが右へシフトする程蛍光強度すなわちシアリルルイスx発現量の多いことを示す。
その結果、これらの細胞においてはシアリルルイスXが高レベルで発現していることが明らかとなった(図1:(A)KM3細胞、(B)NALL1細胞、(C)KOPN-K細胞、(D)LAZ-221細胞、(E)白血病患者由来の白血病細胞#1、(F)白血病患者由来の白血病細胞#2、(G)Raji細胞)。
【0059】
同様に、E-セレクチン及びP-セレクチンとの結合能を、リコンビナントタンパク質(ヒト型キメラ-Fc-Ig-E-またはP-セレクチン、R&Dシステムズ社製)を用いて、Blood, 104, 3091-3096(2004)記載の方法に従って、フローサイトメーターにより蛍光強度と細胞数の分布を確認した。具体的には1mmol/LCaCl2及び1%血清を添加したリン酸緩衝生理的食塩水(PBS)に懸濁した細胞に、終濃度1〜10μg/mLのリコンビナントE-及びP-セレクチンを加え、氷上で30分間反応をさせた後、PBSで洗浄し、タンデム色素APC-Cy7を結合させたヒト型-Fc-Igに対する標識抗体(ベクトンディッキンソン社製)によりシグナルを検出した。ヒストグラムが右へシフトする程、蛍光強度すなわちセレクチンとの結合能の強いことを示す。
【0060】
その結果、これらの細胞においては著明なE-セレクチン及びP-セレクチン結合能を有していることが明らかとなった(図2及び図3)。図2及び図3において、(A)(H)KM3細胞、(B)(I)NALL1細胞、(C)(J)KOPN-K細胞、(D)(K)LAZ-221細胞、(E)(L)白血病患者由来の白血病細胞#1、(F)(M)白血病患者由来の白血病細胞#2、(G)(N)Raji細胞。(A)〜(G)はE-セレクチンとの結合能を、(H)〜(N)はP-セレクチンとの結合能を表す。なお、ここに示していない白血病患者由来の白血病細胞13例に関する結果は、図1(E)(F)、図2(E)(F)及び図3(L)(M)に示した患者検体の結果とほぼ同様であった。これらの結果は、プレBリンパ球性白血病細胞は細胞表面にセレクチンリガンド糖鎖を発現していることを示すものである。
【0061】
(2)白血病細胞株におけるセレクチン依存性の細胞接着能の確認
血流中を流れる白血球の血管内皮細胞への接着の過程では、細胞表面に発現するセレクチンリガンド糖鎖とセレクチンを介した結合がきっかけとなる。この結合反応の際に、白血球が血管壁をセレクチンと結合しながら転がるように流れる現象が観察されており、白血球ローリングと呼ばれている。セレクチンリガンド糖鎖を発現するプレBリンパ球性白血病細胞も、血管内皮細胞への接着、組織浸潤の最初のステップにおいて、このローリングが起きていると考えられるため、セレクチンを発現する細胞株上にプレBリンパ球性白血病細胞を流し、インビトロにおける単位時間、単位面積あたりの細胞ローリングの計測から、セレクチンを介した細胞接着能を比較することができる。実験は、J. Biol. Chem., 277, 3979-3984(2002)記載の方法に従い、E-及びP-セレクチン遺伝子の導入により高密度で細胞表面にセレクチンを発現するCHO細胞株(それぞれCHO-E, CHO-Pと命名)をフローチャンバーに固定化し、次に、シリンジポンプにて1.0 dyne/cm2のシェアストレスを加えながら0.1%血清添加RPMI1640培地に懸濁した細胞を1x106cells/ml濃度にてフローチャンバー内へ導入した。顕微鏡下により観察される細胞のローリングを解析ソフトウェアを用いて計測した。導入した細胞には、プレBリンパ球性白血病細胞株NALL1細胞、LAZ-221細胞及び陰性コントロールとしてRaji細胞を用いた。
【0062】
その結果、セレクチンリガンドを発現するプレBリンパ球性白血病細胞株には、著明な細胞のローリングと細胞接着が観察されたが、Raji細胞には見られなかった(図4)。この結果から、セレクチンリガンドを発現するプレBリンパ球性白血病細胞にはセレクチン依存的な細胞接着能のあることが示唆された。
【0063】
(3)免疫不全マウスを用いた白血病細胞のセレクチン依存的組織移行の確認
白血病細胞の組織移行におけるセレクチンリガンドとセレクチンを介した細胞接着能の関与をマウスモデルを用いて検出した。Blood, 103, 2900-2907(2004)を参考に、セレクチンリガンド陽性のプレB白血病細胞株(KM3、NALL1あるいはKOPN-K)をセレクチンリガンド陰性のRaji細胞と等量混合し、放射線照射した免疫不全マウスの尾静脈から体内へ導入した。6時間経過後の脾臓、肝臓及び骨髄細胞を回収し、その中に含まれる、すなわち組織移行した導入細胞を検出した。プレB白血病細胞は表面抗原CD45陽性CD43陽性CD21陰性であり、Raji細胞はCD45陽性CD43陰性CD21陽性である。ここから、蛍光標識抗体(APC結合抗ヒトCD45抗体、FITC結合抗ヒトCD43抗体、PE結合抗ヒトCD21抗体、ベクトンディッキンソン社製)を用いて、フローサイトメーターによりCD45陽性CD43陽性CD21陰性のプレB白血病細胞とCD45陽性CD43陰性CD21陽性のRaji細胞を検出した。図5に代表例としてプレB白血病細胞NALL1細胞とRaji細胞を用いた際の実験結果を示す。また、図6に3種類の細胞を用いた実験結果をまとめたものを示した。等量の細胞を導入したにも関わらず、各組織中にはセレクチンリガンド陽性のプレB白血病細胞がセレクチンリガンド陰性のRaji細胞より多く検出された。ここから、白血病細胞の組織への移行はセレクチンリガンドの発現レベルに依存的で、プレB白血病細胞ではセレクチンリガンド糖鎖の発現により、細胞接着能や組織への移行と浸潤が起こり易いことが示唆された。
【0064】
(4)セレクチンリガンド糖鎖とCD43抗原との関係
プレBリンパ球性白血病細胞株NALL1などにおいて、組織浸潤の鍵となるセレクチンリガンド糖鎖を有する細胞表面抗原が、唯一CD43抗原のみであることを明らかにした。
【0065】
すなわち、免疫沈降法を用いて、NALL1細胞溶解液に、シアリルルイスxに対する抗体であるCSLEX1あるいはCD43に対する抗体であるMEM59(モノサン社製)とプロテインGセファロースビーズを加え、4℃で一晩反応の後、ビーズを遠心分離により回収し、それぞれの抗体に反応するタンパク質を単離する。ビーズに回収されたタンパク質をSDS-PAGEサンプルバッファーに溶解させ、タンパク質量で20〜40μgを7.5%濃度のポリアクリルアミドゲルにて電気泳動し、PVDFメンブレンに転写し、MEM59あるいはCSLEX1にてウェスタンブロット解析を行う.その結果、CSLEX1にて免疫沈降したNALL1細胞溶解液のMEM59によるウェスタンブロット(図7(A))により、分子量150kDa弱のタンパク質が濃縮されており、シアリルルイスxの発現しているタンパク質がCD43であることが示唆される。同様に、MEM59にて免疫沈降したNALL1細胞溶解液のCSLEX1によるウェスタンブロット(図7(B))により、分子量150kDa弱のタンパク質が濃縮されており、CD43抗原上にはシアリルルイスxが発現していることが示唆される。これらウェスタンブロットの結果では、分子量150kDa弱の部分以外にシグナルが見られないことから、シアリルルイスxの発現しているタンパク質のほとんどがCD43であることが示唆された。
【0066】
(5)CD43抗原の発現阻害によるセレクチンリガンド糖鎖発現とセレクチン結合能抑制効果の確認
プレBリンパ球性白血病細胞において、組織浸潤に重要なセレクチンリガンド糖鎖は、そのほとんどがCD43抗原上に存在している.そこで、CD43抗原の発現抑制から、セレクチンを介した細胞接着能を低下させ、組織浸潤を抑制する方法について検討を行った。
【0067】
まず、CD43発現をRNA干渉により特異的に抑制するsiRNAをデザインした。配列はAmbion社のホームページ(http://www.ambion.com/)にて公開されているsiRNA配列検索ソフトウェアを用いて、CD43遺伝子配列(J. Biol. Chem., 266, 13, 8483-8489(1991))の中から19〜21塩基をランダムに数カ所選択してsiRNAの配列をデザインした(表1:表中太字斜体で示した配列部分は、CD43遺伝子に対応する塩基配列を示す)。
【0068】
これらのsiRNAを細胞内で発現させ、その効果を確認した。siRNAの細胞内への導入には、血液系細胞へ高効率で遺伝子導入の可能なレンチウイルスシステム(インビトロジェン社製)とレンチウィルス用発現ベクターpLL3.7(Nat. Genet., 33, 401-406(2003))を用いた。pLL3.7ベクターは、U6プロモーター下流にヘアピン構造を含むセンス、アンチセンスsiRNA配列を組み込むことができ、同時にGreen Flourescent protein(GFP)をCMVプロモーターにより発現するベクターである。そこで、デザインしたsiRNA配列のセンス鎖、アンチセンス鎖とヘアピン構造を含むオリゴヌクレオチド(CD43-#1〜#5、CD43-$1〜$5、名称末尾の記号fはセンス鎖を示し、rはアンチセンス鎖を示す)を化学合成し、pLL3.7ベクターにクローニング、293細胞にウィルス粒子産生用のベクターと共導入し、培養上清からsiRNA発現レンチウィルスベクターを回収した(図8)。ウィルス粒子のNALL1細胞との共培養によりウィルスを感染させ、siRNAを細胞内へ導入、発現させた。pLL3.7ベクターによりsiRNAの導入された細胞にはGFPが同時に発現する。そこで、GFP発現の見られる細胞、すなわちsiRNAの発現している細胞のCD43抗原とシアリルルイスx発現及びセレクチンとの結合能を、CD43に対する抗体MEM59(モノサン社製)とシアリルルイスx抗体CSLEX1及びヒト型キメラ-Fc-Ig-E-またはP-セレクチンを用いて、フローサイトメーターにより解析した。その結果、空ベクター(pLL3.7)の導入では、GFP陽性、陰性に関わらずCD43発現が高いレベルで見られた。一方、CD43に対するsiRNAを導入した細胞(siCD43 #1,#2,#5-pLL3.7)では、GFP陽性分画すなわちsiRNAの導入された細胞において、有為なCD43発現の減退が見られた(図9)。同様に、著明なシアリルルイスx発現及びセレクチン結合能の減退が見られた(図10)。
【0069】
【表1】
【0070】
(6)セレクチンリガンド糖鎖合成阻害による白血病細胞のセレクチンとの結合抑制効果の確認
NALL1細胞の培養上清中に糖鎖合成阻害剤の1つであるベンジル-α-N-アセチルガラクトサミン(Bz-α-GalNAc;シグマ社製)を添加し、セレクチンとの結合能を検出した。ベンジル-α-N-アセチルガラクトサミンは細胞内に取り込まれると、タンパク質のセリン及びスレオニンに付加されたN-アセチルガラクトサミンと同様に糖鎖修飾を受ける。そこで、大過剰のベンジル-α-N-アセチルガラクトサミンを添加すると、本来の糖タンパク質への糖鎖修飾が抑制されることから、O-結合形糖鎖の合成阻害剤として利用されている。NALL1細胞の培養上清中に4mMのベンジル-α-N-アセチルガラクトサミンを添加し、3日間培養後のCD43抗原とシアリルルイスx発現及びE-及びP-セレクチンとの結合能を、フローサイトメーターにより検出した。
【0071】
その結果、CD43抗原の発現には変化が見られなかったが、シアリルルイスx発現が著明に減退しており、セレクチンとの結合能もほぼ消失していた(図12)。従って、NALL1細胞へのベンジル-α-N-アセチルガラクトサミンはの添加は、CD43抗原上のO-結合形糖鎖に合成されるシアリルルイスx発現を抑制し、E-及びP-セレクチンとの結合能の低下をもたらし、血管内皮細胞との接着を介した白血病細胞の浸潤抑制に有効であることが示唆された。同様に、CD43抗原のO-結合形糖鎖上にセレクチンリガンド糖鎖を合成する糖転移酵素の活性阻害剤や、その材料となる糖鎖もしくは糖ヌクレオチドに、種々の修飾を施した疑似体による糖鎖合成の阻害も同様の効果が期待できる。
【0072】
(7)CD43抗原の分解による白血病細胞のセレクチンとの結合能消失の確認
シアル酸を多く含むムチン型糖タンパク質を選択的に分解するO-シアログライコプロテインエンドペプチダーゼ(O-sialoglycoprotein endopeptidase : OSGPEP, CEDAR LANE社製)処理によるCD43抗原とセレクチンリガンド糖鎖の発現やE-及びP-セレクチンとの結合能を検討した。2.5×105個のNALL1細胞を懸濁した10%血清加RPMI1640培養液500μLに、0.2mg/mLのOSGPEP 50μLを24時間毎に3日間連続して加え、CD43抗原とシアリルルイスx発現及びセレクチンとの結合能をフローサイトメーターで検出した。
【0073】
その結果、OSGPEP処理によりCD43抗原、シアリルルイスx発現の消失が観察され、E-及びP-セレクチンとの結合能もほぼ消失することを明らかにした(図12)。CD43抗原タンパク質にはO-結合型糖鎖が付加されるセリン、スレオニンが多数存在している。プレBリンパ球性白血病細胞では、多数のセリン、スレオニンに付加されるO-結合型糖鎖の末端に、シアル酸を含むシアリルルイスxが存在するため、OSGPEPにより分解反応が進んだものと考えられる。従って、プレBリンパ球性白血病細胞に発現するセレクチンリガンド糖鎖を含むCD43抗原の分解、消化処理はセレクチンを介した血管内皮細胞への接着の抑制をもたらし、白血病細胞の浸潤抑制に有効であることが示唆された。
【0074】
(8)本発明薬剤による、白血病細胞のローリング及び細胞接着抑制効果
CD43に対するsiRNAを組み込んだベクター(siCD43-pLL3.7)を導入したKM3細胞のローリング及び細胞接着能を検出した。その結果、図12に示す通り、CD43に対するsiRNAを導入した細胞では、空ベクター導入細胞(pLL3.7)に比べて、CHO-E及びCHO-P細胞に対するローリング及び細胞接着能が著明に減少していた。この減少の効果は、図10で示した細胞表面のセレクチンリガンド発現レベルと相関していることから、(5)〜(7)で示した手法により処理した白血病細胞は、セレクチン依存的な細胞接着能を減弱させることが示唆された。
【0075】
(9)本発明薬剤による臓器移行の抑制効果
本発明薬剤により処理した細胞の臓器移行能を検出した。siRNA発現のない空ベクター(pLL3.7)あるいはCD43に対するsiRNAを組み込んだベクター(siCD43-pLL3.7)を導入したNALL1細胞それぞれを、放射線照射した免疫不全マウスへ尾静脈から導入した。6時間経過後の脾臓、肝臓及び骨髄細胞を回収し、その中に含まれる、すなわち組織移行した導入細胞を検出した。空ベクター及びsiRNAを組み込んだベクター共に、GFPが組み込まれているので、回収した細胞中のヒトCD45陽性かつGFP陽性細胞の数を比較した。図14に細胞導入後の各組織のフローサイトメトリー解析結果の一例を示した。また、図15に実験結果をまとめたものを示した。その結果、CD43に対するsiRNAを導入した細胞では、空ベクター導入細胞に比べて、組織へ移行する細胞数の著明な減少が観察された。この結果は、図11で示した細胞表面のセレクチンリガンド発現レベル、及び図13で示したセレクチン依存性の細胞接着能の結果と相関していることから、(5)〜(7)で示した手法により処理した白血病細胞は、セレクチンリガンド発現レベルに応じて組織への移行すなわち組織浸潤を減弱させることが示唆された。
【0076】
(10)マウスに対する延命効果の確認
本発明薬剤による、マウスの延命効果を確認することができる。
すなわち350〜400cGyの放射線を照射した免疫不全マウスの尾静脈から、未処理のNALL1細胞あるいは(5)〜(7)に示した手法により処理したNALL1細胞約5x105個を注入し、SPF室内にて、滅菌水、滅菌飼料を与えながらマウスを飼育する。約2か月間飼育を続け、マウスの生存率を計測する。また、死亡したマウスについては死亡した時点において、生存しているマウスについては約2ヶ月後の時点で安楽死させ、肝臓、脾臓、腎臓等を採取、凍結切片を作成し、ヘマトキシリンエオジン染色法により組織内に浸潤している血球細胞を観察する。
【0077】
また、マウス末梢血液及び骨髄液を採取、白血球分画中の白血病細胞の割合をヒトCD45抗体を用いて常法に従ってフローサイトメーターにて検出する。(5)〜(7)に示した手法により処理したNALL1細胞を移植したマウスでは、各種臓器や末梢血液及び骨髄液中には、移植した白血病細胞はほとんど観察されないと考えられる。さらに、組織浸潤抑制の効果として高い生存率が観察される。
【0078】
(11)抗体依存性細胞傷害活性の測定
抗CD43抗体を用いた抗体依存性細胞傷害活性を測定した。NALL1細胞を標的細胞に用いて検討を行った。細胞を5%ウシ胎児血清(GIBCO-BRL製)含有RPMI1640培地(GIBCO-BRL製)で、2 x 105個/mlになるように調製した。これら細胞を96穴U底プレート(FALCON製)に50μl加え、次いで、抗体依存性細胞傷害活性を測定する抗体(マウス抗ヒトCD43抗体、MEM59,DFT-1)、エフェクター細胞(マウスあるいはヒト単核球)を50μl加えた。37℃CO2インキュベーター中で4時間インキュベート後、50μlの培養上清を96穴平底プレート(FALCON製)に移し、Substrate Mix(promega社製)を各穴に50μl加え、室温遮光で30分インキュベートした。その後、50μlのStop Solution(promega社製)を加え、各穴の490nmの吸光度を測定システムVERSA max(Molecular Devices社製)で測定した。細胞障害活性(%)は、(A-B-C)/(D-C)x 100で計算した。なお、Aは標的細胞を抗体とエフェクター細胞存在下でインキュベートしたときの吸光度、Bはエフェクター細胞のみインキュベートしたときの吸光度、Cは標的細胞のみインキュベートしたときの吸光度、Dは標的細胞が毒性を最大に受けた場合の吸光度である。その結果、抗体濃度依存的に細胞傷害活性が検出され、その値は最大で約30%であった。このことから、抗CD43抗体が細胞殺傷剤としても有効であることが示唆された(図16)。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】フローサイトメーターによるシアリルルイスx発現様式の解析結果を示す図である。A〜Gは、それぞれA:KM3、B:NALL1、C:KOPN-K、D:LAZ221、E:プレB白血病患者(#1)、F:プレB白血病患者(#2)、G:Raji細胞のAPC-Cy7により標識したシアリルルイスx抗体:CSLEX1との反応を検出した図である。ここでRaji細胞はセレクチンリガンド発現のないB細胞系細胞株であり、本実験の陰性コントロールとして使用した。横軸はAPC-Cy7標識したCSLEX1抗体の蛍光強度を、縦軸は細胞数を表す。
【図2】フローサイトメーターによるヒト型キメラ-Fc-Ig-E-セレクチンとの結合能を解析した結果を示す図である。A〜Gは、それぞれA:KM3、B:NALL1、C:KOPN-K、D:LAZ221、E:プレB白血病患者(#1)、F:プレB白血病患者(#2)、G:Raji細胞のAPC-Cy7により標識したヒト型キメラ-Fc-Ig-E-セレクチン(A〜G)の反応を検出した図である。Raji細胞は陰性コントロールとして使用した。横軸はAPC-Cy7標識したE-セレクチンの蛍光強度を、縦軸は細胞数を表す。
【図3】フローサイトメーターによるヒト型キメラ-Fc-Ig-P-セレクチンとの結合能を解析した結果を示す図である。H〜Nは、それぞれH:KM3、I:NALL1、J:KOPN-K、K:LAZ221、L:プレB白血病患者(#1)、M:プレB白血病患者(#2)、N:Raji細胞のAPC-Cy7により標識したヒト型キメラ-Fc-Ig-P-セレクチン(H〜N)の反応を検出した図である。Raji細胞は陰性コントロールとして使用した。横軸はAPC-Cy7標識したP-セレクチンの蛍光強度を、縦軸は細胞数を表す。
【図4】プレB白血病細胞のE-セレクチンまたはP-セレクチンを過剰発現させたCHO細胞(それぞれCHO-E、CHO-Pと命名)上をローリングする細胞数を解析した結果である。Raji細胞は陰性コントロールとして使用した。横軸は、単位面積(mm2)あたりのローリングの見られる細胞数を表す。
【図5】NALL1細胞とRaji細胞を等量混合した細胞懸濁液を免疫不全マウスへ導入し、セレクチン依存性の組織移行を検出する実験の概略図と、細胞導入前後のフローサイトメーターによる解析結果を示す図である。A〜Dは、それぞれA:導入前のNALL1とRaji細胞混合物、細胞を導入したマウスのB:脾臓、C:肝臓及びD:骨髄細胞の解析図である。横軸と縦軸は、それぞれ蛍光標識したCD43抗体及びCD21抗体の蛍光強度を表す。
【図6】セレクチン依存性の組織移行を免疫不全マウスを用いて検出した実験の結果をまとめた図である。フローサイトメーターにより解析した、各組織のヒトCD45陽性細胞中のKM3、NALL1及びKOPN-K細胞の割合を示す。Spl、Liv及びBMは、それぞれ脾臓、肝臓及び骨髄細胞における結果を示す。
【図7】NALL1細胞溶解物による免疫沈降-ウェスタンブロット解析結果を示す図(写真)である。AはCSLEX1により免疫沈降した細胞溶解物のCD43抗体MEM59によるウェスタンブロット解析図であり、BはCD43抗体MEM59により免疫沈降した細胞溶解物のCSLEX1によるウェスタンブロット解析図である。また、「whole cell lysate」は免疫沈降前の全細胞溶解物を、「sLeX抗体-IP」及び「CD43抗体-IP」は、それぞれsLeX抗体CSLEX1あるいはCD43抗体MEM59にて免疫沈降したサンプルの結果を示す。
【図8】レンチウィルスによるsiRNA導入システムを示す概略図である。pLL3.7ベクターに組み込まれたsiRNAを、パッケージングベクターと共に293FT細胞へ導入する。産生されたウィルスベクターを細胞に感染させることにより、siRNAを導入、発現させることを示している。
【図9】siRNA導入NALL1細胞におけるCD43発現のフローサイトメトリー解析結果を示す図である。横軸は蛍光標識したCD43抗体の蛍光強度を、縦軸は細胞数を表す。また、GFP(+)fraction及びGFP(-)fractionは、それぞれGFP発現陽性すなわちウィルスベクターの導入された細胞の分画、及びGFP発現陰性すなわちウィルスベクターの導入されていない細胞の分画を示す。また、[pLL3.7]はsiRNA発現のない空ベクター、[siCD43-#1-pLL3.7]、[siCD43-#2-pLL3.7]、[siCD43-#5-pLL3.7]はCD43に対するsiRNAを組み込んだベクターを用いた時の結果を示す。
【図10】siRNA導入NALL1細胞のシアリルルイスx発現とE-及びP-セレクチンとの結合能のフローサイトメトリー解析結果を示す図である。(A)はCD43に対するsiRNA#2を導入したNALL1細胞のシアリルルイスx発現解析結果を、(B)はE-セレクチンへの結合能、(C)はP-セレクチンへの結合能を解析した結果を示す図である。横軸はそれぞれAPC-Cy7標識したCSLEX1抗体、E-セレクチン、またはP-セレクチンの蛍光強度を、縦軸は細胞数を表す。
【図11】ベンジル-α-N-アセチルガラクトサミン(Bz-α-GalNAc)及びOSGPEP処理したNALL1細胞の、シアリルルイスx発現及びセレクチンとの結合能のフローサイトメーターによる解析結果を示す図である。横軸はそれぞれAPC-Cy7標識したCSLEX1抗体、E-セレクチン、またはP-セレクチンの蛍光強度を、縦軸は細胞数を表す。[CSLEX1]、及び[E-selectin]、[P-selectin]は、それぞれシアリルルイスx発現、及びE-セレクチンまたはP-セレクチンとの結合能を示す。[Neg-Cont]は未処理の細胞の一次抗体なしの時の解析結果を、[None]は未処理の細胞の解析結果を、[Bz-α-GalNAc]はベンジル-α-N-アセチルガラクトサミン処理した細胞の解析結果を、[OSGPEP]はOSGPEP処理した細胞の解析結果を示す。
【図12】CD43に対するsiRNAを導入したKM3細胞のE-セレクチンまたはP-セレクチンを過剰発現させたCHO細胞上をローリングする細胞数を解析した結果である。いずれも実験3回あたりの平均値を示す。アステリスク*はP値が0.05以下であり統計的に有為な差のあることを表す。CHO-mは、空ベクターを導入したCHO細胞による結果を示す。
【図13】CD43に対するsiRNA導入NALL1細胞を移植した免疫不全マウスの各組織の細胞をフローサイトメーターにより解析した結果を示す図である。横軸はGFPの蛍光強度を、縦軸は蛍光色素PEによる蛍光強度を表す。[pLL3.7]及び[siCD43-pLL3.7]は、それぞれsiRNA発現のない空ベクター及びCD43に対するsiRNAを組み込んだベクターを導入したNALL1細胞を用いたときの結果を示す。[Spleen]、[Liver]及び[Bone marrow]は、それぞれ脾臓、肝臓及び骨髄細胞における結果を示す。
【図14】CD43に対するsiRNA導入NALL1細胞を移植した免疫不全マウスの各組織の細胞をフローサイトメーターにより解析した結果をまとめた図である。各組織の細胞106個あたりのヒトCD45かつGFP陽性細胞数の、実験3回あたりの平均値を示す。アステリスク*はP値が0.05以下であり統計的に有為な差のあることを表す。横軸のSpl、Liv及びBMは、それぞれ脾臓、肝臓及び骨髄細胞における結果を、縦軸はヒトCD45陽性かつGFP陽性の、各組織の細胞106個あたりの細胞数を示す。
【図15】NALL1細胞に抗CD43抗体とエフェクター細胞を添加した時の抗体依存性細胞傷害活性を測定した結果を示す。横軸は抗CD43抗体濃度、縦軸は細胞毒性(%)を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖と、セレクチンとの結合を抑制することを特徴とする
浸潤抑制剤。
【請求項2】
small-interfering RNA(siRNA)配列を有する核酸を有効成分とすることを特徴とする請求項1記載の浸潤抑制剤。
【請求項3】
small-interfering RNA(siRNA)配列が、配列番号1乃至20の何れかの塩基配列を含むことを特徴とする請求項2記載の浸潤抑制剤。
【請求項4】
エンド-O-グリコシダーゼを有効成分とすることを特徴とする請求項1記載の浸潤抑制剤。
【請求項5】
抗CD43抗体を有効成分とすることを特徴とする請求項1記載の浸潤抑制剤。
【請求項6】
ヒト型-Fc-Ig-キメラE-セレクチン、ヒト型-Fc-Ig-キメラP-セレクチン、及びシアリルルイスx構造を有する糖鎖からなる群から選択される一以上の糖鎖を有効成分とすることを特徴とする請求項1記載の浸潤抑制剤。
【請求項7】
細胞の組織浸潤を予防するための請求項1乃至6何れか一項記載の浸潤抑制剤の使用。
【請求項8】
細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖と、セレクチンとの結合を抑制することを特徴とする
浸潤抑制方法。
【請求項9】
細胞表面抗原CD43に対するセレクチンリガンド糖鎖の付加を抑制することを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
細胞表面抗原CD43の発現を抑制することを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項11】
セレクチンリガンド糖鎖を細胞表面抗原CD43に付加する糖転移酵素遺伝子の発現を抑制することを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項12】
糖転移酵素遺伝子がN-アセチルガラクトサミン転移酵素をコードする遺伝子、ガラクトース転移酵素をコードする遺伝子、N-アセチルグルコサミン転移酵素をコードする遺伝子、フコース転移酵素をコードする遺伝子、シアル酸転移酵素をコードする遺伝子、または硫酸転移酵素をコードする遺伝子であることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項13】
small-interfering RNA(siRNA)配列を有する核酸を用いることを特徴とする請求項8乃至12何れか一項記載の方法。
【請求項14】
small-interfering RNA(siRNA)配列が、配列番号1乃至20の何れかの塩基配列を含むことを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項15】
細胞表面抗原CD43とセレクチンリガンド糖鎖との結合を切断することを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項16】
細胞表面抗原CD43を分解することを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項17】
セレクチンリガンド糖鎖を分解することを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項18】
small-interfering RNA(siRNA)配列を有する核酸の、セレクチンリガンド糖鎖とセレクチンとの結合抑制のための使用。
【請求項19】
細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖とその糖鎖を保持するキャリアタンパク質に結合することにより、この糖タンパク質を発現する細胞に特異的に細胞死を誘導することを特徴とする細胞殺傷剤。
【請求項20】
セレクチンリガンド糖鎖を保持するキャリアタンパク質がCD43タンパク質である請求項19記載の細胞殺傷剤。
【請求項21】
キャリアタンパク質に結合する物質が、CD43タンパク質の細胞外領域中のエピトープに特異的に結合する抗体やペプチドである請求項19記載の細胞殺傷剤。
【請求項22】
細胞傷害性薬剤が結合された請求項21記載の細胞殺傷剤。
【請求項23】
細胞傷害性薬剤が、抗代謝物、アルキル化剤、アンスラサイクリン類、抗生物質、抗分裂剤、化学療法剤及び放射性物質からなる群から選択される、請求項22記載の細胞殺傷剤。
【請求項24】
細胞傷害性薬剤が、リシン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、タキソール、臭化エチジウム、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルチシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、アクチノマイシンD、1−デヒドロテストステロン及びグルココルチコイドからなる群から選択される、請求項22記載の細胞殺傷剤。
【請求項25】
CD43タンパク質の細胞外領域中のエピトープに特異的に結合する抗体が、ヒト型モノクローナル抗体、合成の抗体、ポリクローナル抗体またはキメラ抗体である請求項21記載の細胞殺傷剤。
【請求項26】
細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖とその糖鎖を保持するキャリアタンパク質に請求項19乃至25記載の細胞殺傷剤が結合することを特徴とする、細胞殺傷の方法。
【請求項27】
請求項26に記載の方法であって、細胞がCD43を発現する造血器悪性腫瘍及び造血幹細胞を含む造血系細胞である、方法。
【請求項1】
細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖と、セレクチンとの結合を抑制することを特徴とする
浸潤抑制剤。
【請求項2】
small-interfering RNA(siRNA)配列を有する核酸を有効成分とすることを特徴とする請求項1記載の浸潤抑制剤。
【請求項3】
small-interfering RNA(siRNA)配列が、配列番号1乃至20の何れかの塩基配列を含むことを特徴とする請求項2記載の浸潤抑制剤。
【請求項4】
エンド-O-グリコシダーゼを有効成分とすることを特徴とする請求項1記載の浸潤抑制剤。
【請求項5】
抗CD43抗体を有効成分とすることを特徴とする請求項1記載の浸潤抑制剤。
【請求項6】
ヒト型-Fc-Ig-キメラE-セレクチン、ヒト型-Fc-Ig-キメラP-セレクチン、及びシアリルルイスx構造を有する糖鎖からなる群から選択される一以上の糖鎖を有効成分とすることを特徴とする請求項1記載の浸潤抑制剤。
【請求項7】
細胞の組織浸潤を予防するための請求項1乃至6何れか一項記載の浸潤抑制剤の使用。
【請求項8】
細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖と、セレクチンとの結合を抑制することを特徴とする
浸潤抑制方法。
【請求項9】
細胞表面抗原CD43に対するセレクチンリガンド糖鎖の付加を抑制することを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
細胞表面抗原CD43の発現を抑制することを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項11】
セレクチンリガンド糖鎖を細胞表面抗原CD43に付加する糖転移酵素遺伝子の発現を抑制することを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項12】
糖転移酵素遺伝子がN-アセチルガラクトサミン転移酵素をコードする遺伝子、ガラクトース転移酵素をコードする遺伝子、N-アセチルグルコサミン転移酵素をコードする遺伝子、フコース転移酵素をコードする遺伝子、シアル酸転移酵素をコードする遺伝子、または硫酸転移酵素をコードする遺伝子であることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項13】
small-interfering RNA(siRNA)配列を有する核酸を用いることを特徴とする請求項8乃至12何れか一項記載の方法。
【請求項14】
small-interfering RNA(siRNA)配列が、配列番号1乃至20の何れかの塩基配列を含むことを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項15】
細胞表面抗原CD43とセレクチンリガンド糖鎖との結合を切断することを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項16】
細胞表面抗原CD43を分解することを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項17】
セレクチンリガンド糖鎖を分解することを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項18】
small-interfering RNA(siRNA)配列を有する核酸の、セレクチンリガンド糖鎖とセレクチンとの結合抑制のための使用。
【請求項19】
細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖とその糖鎖を保持するキャリアタンパク質に結合することにより、この糖タンパク質を発現する細胞に特異的に細胞死を誘導することを特徴とする細胞殺傷剤。
【請求項20】
セレクチンリガンド糖鎖を保持するキャリアタンパク質がCD43タンパク質である請求項19記載の細胞殺傷剤。
【請求項21】
キャリアタンパク質に結合する物質が、CD43タンパク質の細胞外領域中のエピトープに特異的に結合する抗体やペプチドである請求項19記載の細胞殺傷剤。
【請求項22】
細胞傷害性薬剤が結合された請求項21記載の細胞殺傷剤。
【請求項23】
細胞傷害性薬剤が、抗代謝物、アルキル化剤、アンスラサイクリン類、抗生物質、抗分裂剤、化学療法剤及び放射性物質からなる群から選択される、請求項22記載の細胞殺傷剤。
【請求項24】
細胞傷害性薬剤が、リシン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、タキソール、臭化エチジウム、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルチシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、アクチノマイシンD、1−デヒドロテストステロン及びグルココルチコイドからなる群から選択される、請求項22記載の細胞殺傷剤。
【請求項25】
CD43タンパク質の細胞外領域中のエピトープに特異的に結合する抗体が、ヒト型モノクローナル抗体、合成の抗体、ポリクローナル抗体またはキメラ抗体である請求項21記載の細胞殺傷剤。
【請求項26】
細胞表面のセレクチンリガンド糖鎖とその糖鎖を保持するキャリアタンパク質に請求項19乃至25記載の細胞殺傷剤が結合することを特徴とする、細胞殺傷の方法。
【請求項27】
請求項26に記載の方法であって、細胞がCD43を発現する造血器悪性腫瘍及び造血幹細胞を含む造血系細胞である、方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図7】
【公開番号】特開2006−36761(P2006−36761A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183787(P2005−183787)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
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