説明

消化管の炎症状態の処置を目的とするオキサゾリジノン類

本発明は、消化管の炎症状態、例えば炎症性腸疾患(IBD)およびセリアック病および/または炎症性腸疾患(IBD)および/またはセリアック病に関連した障害、例えば血栓塞栓症(例えば、肺塞栓症(PE)、動脈および静脈血栓症、心筋梗塞、卒中を含む)の処置および/または予防を目的とする、血液凝固第Xa因子の選択的阻害剤、特に式(I)で示されるオキサゾリジノン類の使用、並びに、炎症性腸疾患(IBD)および/またはセリアック病および/または炎症性腸疾患(IBD)および/またはセリアック病に関連した障害、例えば血栓塞栓症を処置および/または予防するための医薬品を製造するためのそれらの使用に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消化管の炎症状態、例えば炎症性腸疾患(IBD)およびセリアック病および/または炎症性腸疾患(IBD)および/またはセリアック病に関連した障害、例えば血栓塞栓症事象(例えば、肺塞栓症(PE)、動脈および静脈血栓症、心筋梗塞、卒中を含む)の処置および/または予防を目的とする、血液凝固第Xa因子の選択的阻害剤、特に式(I)で示されるオキサゾリジノン類の使用、並びに炎症性腸疾患(IBD)および/またはセリアック病および/または炎症性腸疾患(IBD)および/またはセリアック病に関連した障害、例えば血栓塞栓症事象を処置および/または予防するための医薬品の製造のためのそれらの使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
式(I)で示されるオキサゾリジノン類は、国際公開A−01/047919号により公知であり、特に血液凝固第Xa因子の選択的阻害剤および抗凝血薬として作用する。
【0003】
式(I)で示されるオキサゾリジノン類は、血液凝固第Xa因子を選択的に阻害する。多数の動物モデル(U. Sinha, P. Ku, J. Malinowski, B. Yan Zhu, R.M. Scarborough, C.K. Marlowe, P.W. Wong, P. Hua Lin, S.J. Hollenbach, Antithrombotic and hemostatic capacity of factor Xa versus thrombin inhibitors in models of venous and arteriovenous thrombosis, European Journal of Pharmacology 2000, 395, 51-59; A. Betz, Recent advances in Factor Xa inhibitors, Expert Opin. Ther. Patents 2001, 11, 1007; K. Tsong Tan, A. Makin, G.Y.H. Lip, Factor X inhibitors, Exp. Opin. Investig. Drugs 2003, 12, 799; J. Ruef, H.A. Katus, New antithrombotic drugs on the horizon, Expert Opin. Investig. Drugs 2003, 12, 781; M.M. Samama, Synthetic direct and indirect factor Xa inhibitors, Thrombosis Research 2002, 106, V267; M.L. Quan, J.M. Smallheer, The race to an orally active Factor Xa inhibitor, Recent advances, J. Current Opinion in Drug Discovery & Development 2004, 7, 460-469参照)および患者に対する臨床試験(The Ephesus Study, Blood 2000, 96, 490a; The Penthifra Study, Blood 2000, 96, 490a; The Pentamaks Study, Blood 2000, 96, 490a-491a; The Pentathlon Study, Blood 2000, 第96巻、491a)において第Xa因子阻害剤の抗血栓症効果を立証することは既に可能となっている。従って、第Xa因子阻害剤は、好ましくは血栓塞栓疾患の予防および/または処置用の医薬において使用され得る。
【0004】
選択的第Xa因子阻害剤は、広範な治療域を示す。選択的第Xa因子阻害剤が、出血時間を全く、または僅かしか長引かせずに抗血栓症効果を示すことを、多数の動物モデルにおいて立証することは既に可能となっている(RJ Leadly, Coagulationfactor Xa inhibition: biological background and rationale, Curr. Top. Med. Chem. 2001, 1, 151-159参照)。従って、選択的第Xa因子阻害剤のクラスの抗凝血薬についての個々の投薬量は必要とされない。
【0005】
炎症性腸疾患(IBD)は、主としてクローン病および潰瘍性大腸炎などの疾患を包含し、不確定大腸炎(indeterminate colitis)を呈する少数の患者も含まれる。それらは、消化管の慢性炎症疾患である。潰瘍性大腸炎における炎症は、主として粘膜および粘膜下組織に局在し、クローン病では、炎症は、粘膜から漿膜へと腸壁全体に及ぶ。潰瘍性大腸炎は結腸に限られるため、結腸切除術が治療処置ではあるが、患者によっては、術後、回腸嚢の炎症(回腸嚢炎)に苦しむ場合もあり得る。対照的に、クローン病は消化管のいずれの部分でも起こり得るが、小腸の遠位末端および結腸が最もよく侵される部位である。このため、炎症部分の切除は、クローン病を治癒させるものではない。北欧および北米における白色人種集団におけるIBDの発生率が最高であり、各疾患に関する発病率は、100000人当たり約5人であり、罹患率は、100000人当たり約50人である。発症のピーク年齢は、15〜25歳であり、それより低い第2のピークは55〜65歳であるが、幼少期にも起こる。IBDに関する最も重要な危険因子は家族歴陽性であるため、遺伝的原因が関与する。IBDでは、粘膜固有層に、リンパ球、マクロファージおよび他の免疫系細胞が浸潤する。免疫応答を誘発する抗原についての徹底的な調査にもかかわらず、特異的微生物病原体はいまだ同定されていない。
【0006】
病状:潰瘍性大腸炎では、炎症は直腸で始まり、近位部に向ってある一定の距離まで拡がり、次いで唐突に止まり、病変部の粘膜と非病変部の粘膜の間に明白な境界がある。軽症の疾患では、表在性の糜爛が存在し、さらに重症の疾患では、潰瘍は大きいが表在性であり得、かなり重症疾患の場合のみ粘膜筋板を貫通し得る。潰瘍性大腸炎における病理学的所見の大部分は、粘膜および粘膜下組織に限定される。劇症疾患でのみ、筋層まで侵される。クローン病では、腸壁が肥厚および硬直する。肥厚化し、水腫状で、萎縮した腸間膜は、腸を一つの位置に固定する。経壁の炎症は、腸の隣接ループ間の癒着を誘発し得る。腸の全ての層が肥厚化し、内腔は狭窄する。臨床的症状:潰瘍性大腸炎:下痢、通常血便を伴う。炎症を起こした直腸の過敏性の結果、腸の運動は頻繁であるが、容量は小さい。急迫症状および糞便失禁により、患者の社会的機能性は制限され得る。他の症状には発熱および疼痛があり、下腹部および直腸で見られる。重症になると、発熱、倦怠感および体重減少が起こり得、患者の機能性に対して下痢よりも多大な影響を及ぼし得る。クローン病:主たる症状は、下痢、腹痛および体重減少であり、これら3症状はいずれも、所定の個体において最も顕著であり得る。下痢は、ほぼ全てのクローン病患者で起こる。クローン病は、潰瘍性大腸炎と同様、再発寛解型疾患である。プラセボ処置した軽〜中等活動度のクローン病患者の約30%は、4か月以内に寛解期に入る。逆に、寛解期にあり、治療を受けていない患者では、約30%が1年以内に、そして50%が2年で再発する。
【0007】
現行処置:止痢薬(例、ロペラミドまたはジフェノキシレート)、抗コリン作用薬(例、ベラドンナエキス、クリジニウム、臭化プロパンテリン、および塩酸ジシクロミン)、止痢薬と鎮痙薬(例、アヘン末およびベラドンナ)の組み合わせ。疼痛に対する麻酔薬の長期使用は、IBDの治療技術の一部とするべきではない。時には抗うつ薬が有用な場合もあり得る。非ステロイド系抗炎症剤は、IBDの臨床活性を増悪させ得るため、慎重に使用されるべきである。栄養物摂取による治療技術は、潰瘍性大腸炎では小さな役割を演じるに過ぎない。患者は、症状を悪化させる特定食物、典型的には高繊維食品を回避するべきである。5−アミノサリチル酸(5−ASA)を含む薬剤(例、スルファサラジン、オルサラジンおよびバルサラジド、アサコールおよびペンタサ)は、潰瘍性大腸炎についての治療の中心となるものであるが、クローン病の治療技術において演じる役割は小さい。経口または直腸投与される全身または非全身投与コルチコステロイド類(例、プレドニゾン、ブデソニド)は、軽度〜中等度の潰瘍性大腸炎およびクローン病において有効である。免疫調節剤、例えばアザチオプリンおよび6−メルカプトプリン(6−MP)、シクロスポリンおよびメトトレキサートは、リンパ球増殖、活性化またはエフェクター機構を遮断することにより作用する。アザチオプリンおよび6−MPは、活動期クローン病の処置および寛解の維持において有効である。潰瘍性大腸炎におけるそれらの役割はそれほど明確ではない。特異的症例でのみ抗生物質。抗腫瘍壊死因子抗体(例、インフリキシマブ)。
【0008】
IBDの病態生理学的特徴は、血栓塞栓症の素因となる凝血促進状態を含む[Lam, Gastroenterology 1975, 68, 245-251]。しかしながら、臨床試験は、潰瘍性大腸炎において未分画ヘパリンについての臨床的利益を示し得なかった[Panes, Gastroenterology 2000, 4, 903-8]。対照的に、実験および臨床試験により、濃縮液中における低用量低分子量ヘパリンの抗凝固性ではない有益な効果が示されたことから、抗凝固性とは異なる薬効が利益をもたらすものと思われる[Dotan, Alimen Pharmacol Ther 2001, 15, 1687-1697; Dotan, Digestive Diseases and Sciences 2001, 46, 2239-2244]。
【0009】
グルテンに対する不耐症により誘発されるセリアック病は、上部小腸(十二指腸および空腸)を侵し、絨毛を平坦にしてしまう炎症性自己免疫疾患である。セリアック病は、栄養物、無機質および脂溶性ビタミン類の吸収不良を伴い、症状としては、下痢、腹部膨満、腹痛、体重減少、貧血および疲労感がある。主たる治療は、生涯グルテン除去食を厳守することであり、少量であってもグルテンに連続暴露されると、セリアック病に随伴する合併症の危険性が増大し得る。セリアック病はまた、血栓塞栓事象の高い危険性と関連していることが見出された[Ludvigsson Br J Haematol 2007, 139, 121-127]。
【0010】
凝固能亢進および血栓症に至る凝固系の活性化における重要な役割に加えて、第Xa因子およびトロンビンは、様々な多面的効果を呈することが知られている。すなわち、それらは、増殖を誘導する強力なマイトジェンである。それらは、血管収縮を誘導および/または増加させる。トロンビンによるシグナリングにより、炎症性サイトカイン放出が誘導される。第Xa因子阻害剤による処置は、血液凝固の阻害に加えて、第Xa因子およびトロンビンの分裂促進性、血管収縮性および炎症性刺激を抑制し得、後者についてはトロンビンの生成の阻害によるものである。
【発明の概要】
【0011】
驚くべきことに、特に式(I)で示されるオキサゾリジノンの血液凝固第Xa因子の選択的阻害剤はまた、消化管の炎症状態、例えば炎症性腸疾患(IBD)およびセリアック病および/または炎症性腸疾患(IBD)および/またはセリアック病に関連した障害の処置および/または予防に適切であることが見出された。
【0012】
従って、本発明は、消化管の炎症状態、例えば炎症性腸疾患(IBD)およびセリアック病および/または炎症性腸疾患(IBD)および/またはセリアック病に関連した障害の処置および/または予防用の医薬または医薬組成物の製造のための選択的第Xa因子阻害剤の使用に関するものである。
【0013】
従って、本発明は、消化管の炎症状態、例えば炎症性腸疾患(IBD)およびセリアック病および/または炎症性腸疾患(IBD)および/またはセリアック病に関連した障害の処置および/または予防用の医薬または医薬組成物の製造を目的とする、特に、式(I)
【化1】

[式中、
は、塩素、臭素、メチルまたはトリフルオロメチルから成る群から選択される基により5位が置換された2−チオフェンであり、
は、D−A−
(式中、
「A」基はフェニレンであって、上記「A」基は、オキサゾリジノンとの結合に対するメタ位がフッ素、塩素、ニトロ、アミノ、トリフルオロメチル、メチルまたはシアノから成る群から選択される基により1回または2回置換されていてもよく、
「D」基は、窒素原子を介して「A」に結合され、結合している窒素原子に隣接してカルボニル基を有し、環内炭素構成員がS、NおよびOの群からのヘテロ原子により置換されていてもよい、飽和5または6員複素環である)
である]
で示される化合物およびそれらの医薬上許容される塩類、溶媒和物および塩類の溶媒和物の使用に関するものである。
【0014】
同様に、この点で特に好ましいのは、消化管の炎症状態、例えば炎症性腸疾患(IBD)およびセリアック病および/または炎症性腸疾患(IBD)および/またはセリアック病に関連した障害の処置および/または予防用の医薬または医薬組成物の製造を目的とする、下式:
【化2】

を有する化合物5−クロロ−N−({(5S)−2−オキソ−3−[4−(3−オキソ−4−モルホリニル)フェニル]−1,3−オキサゾリジン−5−イル}メチル)−2−チオフェンカルボキシアミド(リバロキサバン;実施例1)およびその医薬上許容される塩類、溶媒和物および塩類の溶媒和物の使用である。
【0015】
現在までのところ、オキサゾリジノン類は、本質的に抗生物質としてのみ、また若干の症例ではMAO阻害剤およびフィブリノーゲン拮抗物質として報告されており(概説:B. Riedl, R. Endermann, Exp. Opin. Ther. Patents 1999, 9, 625)、低分子5−[アシルアミノメチル]基(好ましくは5−[アセチルアミノメチル])は、抗菌効果にとって不可欠であると思われる。
【0016】
一置換または多置換フェニル基がオキサゾリジノン環のN原子に結合され得、オキサゾリジノン環の5位に非置換N−メチル−2−チオフェンカルボキシアミド残基を有し得る置換アリールおよびヘテロアリールフェニルオキサゾリジノン類、および抗菌活性物質としてのそれらの使用は、米国特許US−A-5929248、US−A-5801246、US−A-5756732、US−A-5654435、US−A-5654428およびUS−A-5565571号に開示されている。
【0017】
さらに、ベンズアミジン含有オキサゾリジノン類は、第Xa因子阻害剤またはフィブリノーゲン拮抗物質の合成における合成中間体として知られている(国際公開A−99/31092号、欧州特許A−623615号)。
【0018】
本発明による化合物は、式(I)で示される化合物およびその塩類、溶媒和物および塩類の溶媒和物、式(I)により包含される下記で挙げる式で示される化合物およびその塩類、溶媒和物および塩類の溶媒和物、および式(I)により包含される実施例として下記で挙げる化合物およびその塩類、溶媒和物および塩類の溶媒和物である(ただし、式(I)により包含される下記で挙げる式の化合物が既に塩類、溶媒和物および塩類の溶媒和物ではない限り)。
【0019】
本発明による化合物は、それらの構造によっては、立体異性体形態(鏡像体、ジアステレオマー)で存在し得る。従って、本発明は、鏡像体またはジアステレオマーおよびそのそれぞれの混合物を包含する。鏡像体および/またはジアステレオマーの上記混合物からは、立体異性体的に均一な成分が公知方法で単離され得る。
【0020】
本発明による化合物が互変異性体形態で存在し得る限り、本発明は互変異性体形態を全て包含する。
【0021】
本発明に関して、塩類としては、本発明による化合物の生理学的に無害な塩類が好ましい。また、それ自体は医薬適用に適切ではないが、例えば本発明による化合物の単離または精製に使用され得る塩類も含まれる。
【0022】
本発明による化合物の生理学的に無害な塩類には、無機酸、カルボン酸およびスルホン酸の酸付加塩類、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、メタンスルホン酸、エタン−スルホン酸、トルエン−スルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレン−ジスルホン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸および安息香酸の塩類がある。
【0023】
本発明による化合物の生理学的に無害な塩類はまた、通常の塩基の塩類、例えば、そして好ましくはアルカリ金属塩類(例、ナトリウムおよびカリウム塩類)、アルカリ土類金属塩類(例、カルシウムおよびマグネシウム塩類)およびアンモニアまたは1〜16個のC原子をもつ有機アミン類(例えば、そして好ましくはエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチルジイソプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジメチルアミノエタノール、プロカイン、ジベンジルアミン、N−メチルモルホリン、アルギニン、リシン、エチレンジアミンおよびN−メチルピペリジン)から誘導されるアンモニウム塩類を包含する。
【0024】
本発明に関して、固体または液体状態で溶媒分子との配位により錯体を形成する本発明による化合物の形態を溶媒和物として記載する。水和物は溶媒和物の特殊形態であり、配位は水との間で行われる。本発明に関して、水和物が溶媒和物として好ましい。
【0025】
さらに、本発明はまた、本発明による化合物のプロドラッグを含む。「プロドラッグ」なる語は、それら自体生物学的に活性または不活性であり得るが、体内での滞留期間中に(例えば代謝的または加水分解的に)本発明による化合物に変換される化合物を含む。
【0026】
本発明に関して、特に断らなければ、置換は以下の意味を有するものとする:
窒素原子を介して「A」に結合され、結合している窒素原子に隣接してカルボニル基を有し、環内炭素構成員がS、NおよびOの群からのヘテロ原子により置換ていてもよい飽和5または6員複素環としては、例えば2−オキソピロリジン−1−イル、2−オキソ−ピペリジン−1−イル、2−オキソ−ピペラジン−1−イル、2−オキソ−モルホリン−1−イル、3−オキソ−チオモルホリン−4−イル、2−オキソ−1,3−オキサゾリジン−1−イル、2−オキソ−1,3−オキサジナン−1−イル、2−オキソ−イミダゾリジン−1−イルおよび2−オキソ−テトラヒドロピリミジン−1−イルを挙げることができる。
【0027】
式(I)で示される化合物は、以下のいずれかの工程により製造され得る:
[A]一般式(II)
【化3】

(式中、R基は上記の意味を有する)
で示される化合物を、一般式(III)
【化4】

(式中、R基は上記の意味を有する)
で示されるカルボン酸、または対応するカルボニルハライド、好ましくはカルボニルクロリド、または上記一般式(III)で示されるカルボン酸の対応する対称または混合カルボン酸無水物と、不活性溶媒中、必要に応じて活性化またはカップリング試薬および/または塩基の存在下で反応させることにより、一般式(I)で示される化合物を得るか、
【0028】
または別法として、
[B]一般式(IV)
【化5】

(式中、R基は上記の意味を有する)
で示される化合物を、不活性溶媒中、適切な選択的酸化剤により一般式(V)
【化6】

(式中、R基は上記の意味を有する)
で示される対応するエポキシドに変換し、不活性溶媒中、必要に応じて触媒の存在下で一般式(VI)
−NH (VI)
(式中、R基は上記の意味を有する)
で示されるアミンと反応させ、
まず一般式(VII)
【化7】

(式中、RおよびR基は上記の意味を有する)
で示される化合物を製造し、
それに続いて、不活性溶媒中、ホスゲンまたはホスゲン等価物、例えばカルボニルジイミダゾール(CDI)の存在下で閉環することにより、一般式(I)で示される化合物を得る。
【0029】
上記工程に適切な溶媒は、これらの場合、反応条件下で不活性である有機溶媒である。これらの例としては、ハロ炭化水素類、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、1,2−ジクロロエチレンまたはトリクロロエチレン、エーテル類、例えばジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、グリコールジメチルエーテルまたはジエチレングリコールジメチルエーテル、アルコール類、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールまたはtert−ブタノール、炭化水素類、例えばベンゼン、キシレン、トルエン、ヘキサンまたはシクロヘキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ピリジン、ヘキサメチル−リン酸トリアミドまたは水がある。
【0030】
同様に、上記溶媒から成る溶媒混合物を用いることも可能である。
上記方法に適切な活性化またはカップリング剤は、これらの場合、これらの目的に常用される物質、例えばN'−(3−ジメチルアミノプロピル)−N−エチルカルボジイミド・HCl、N,N'−ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−ヒドロキシ−1H−ベンゾトリアゾール・HOなどである。
【0031】
適切な塩基は、通常の無機または有機塩基である。これらは、好ましくはアルカリ金属水酸化物、例えば、水酸化ナトリウムまたはカリウムまたはアルカリ金属炭酸塩、例えば炭酸ナトリウムまたはカリウムまたはナトリウムまたはカリウムメタノラートまたはナトリウムまたはカリウムエタノラートまたはカリウム・tert−ブトキシドまたはアミド類、例えばナトリウムアミド、リチウムビス(トリメチルシリル)アミドまたはリチウムジイソプロピルアミドまたはアミン類、例えばトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジイソプロピルアミン、4−N,N−ジメチルアミノピリジンまたはピリジンがある。
【0032】
塩基は、これらの場合、一般式(II)で示される化合物1モルに基づき1〜5モル、好ましくは1〜2モルの量で使用され得る。
【0033】
反応は、一般的に、−78℃〜還流温度の温度範囲、好ましくは0℃〜還流温度の範囲で行われる。
【0034】
反応は、大気圧、高圧または減圧下(例、0.5〜5barの範囲)、一般的には大気圧下で実施され得る。
【0035】
エポキシドの製造および所望によりスルホン、スルホキシドまたはN−オキシドに対して実施されてもよい酸化の両方に適切な選択的酸化剤は、例えば、m−クロロ過安息香酸(MCPBA)、メタ過ヨウ素酸ナトリウム、N−メチルモルホリン・N−オキシド(NMO)、モノ過オキシフタル酸またはオスミウムテトラオキシドである。
【0036】
エポキシドの製造に使用される条件は、これらの製品にとって常用的なものである。
適切な場合にスルホン、スルホキシドまたはN−オキシドに対して実施される酸化工程に関する詳細な条件については、次の文献が参考となり得る:M.R. Barbachyn et al. J. Med. Chem. 1996, 39, 680 および国際公開A−97/10223号。
【0037】
式(II)、(III)、(IV)および(VI)で示される化合物は、当業者には自体公知であるか、または慣用的方法により製造され得る。オキサゾリジノン類、特に必要とされる5−(アミノメチル)−2−オキソオキサゾリジン類については、国際公開A−98/01446号; 国際公開A−93/23384号; 国際公開A−97/03072号; J.A.Tucker et al. J. Med. Chem. 1998, 41, 3727; S.J. Brickner et al. J. Med. Chem. 1996, 39, 673; W.A. Gregory et al. J. Med. Chem. 1989, 32, 1673 参照。
【0038】
一般式(I)で示される化合物の合成方法は、国際公開A−01/047919号に詳述されている。
【0039】
本発明の目的の場合、「炎症性腸疾患(IBD)」は、特に深刻な疾患、例えばクローン病、潰瘍性大腸炎および消化管の慢性炎症性疾患を包含する。
【0040】
本発明の目的の場合、「炎症性腸疾患(IBD)および/またはセリアック病に関連した障害」は、特に主要な動脈および静脈の血栓塞栓症事象、肺塞栓症(PE)、心筋梗塞および卒中を包含する。
【0041】
さらに、本発明は、選択的第Xa因子阻害剤または1種またはそれ以上の薬理学的に許容される補助剤または賦形剤と組み合わせて少なくとも1種の選択的第Xa因子阻害剤を含む医薬の有効量の使用による、人体または動物体の消化管の炎症状態、例えば炎症性腸疾患(IBD)およびセリアック病および/または炎症性腸疾患(IBD)および/またはセリアック病に関連した障害の処置および/または予防方法に関するものである。
【0042】
さらに、本発明は、式(I)で示される少なくとも1種の化合物または1種またはそれ以上の薬理学的に許容される補助剤または賦形剤と組み合わせて式(I)で示される少なくとも1種の化合物を含む医薬の有効量の使用による、人体または動物体の消化管の炎症状態、例えば炎症性腸疾患(IBD)およびセリアック病および/または炎症性腸疾患(IBD)および/またはセリアック病に関連した障害の処置および/または予防方法に関するものである。
【0043】
さらに、本発明は、少なくとも化合物5−クロロ−N−({(5S)−2−オキソ−3−[4−(3−オキソ−4−モルホリニル)フェニル]−1,3−オキサゾリジン−5−イル}メチル)−2−チオフェンカルボキシアミドまたは1種またはそれ以上の薬理学的に許容される補助剤または賦形剤と組み合わせて少なくとも化合物5−クロロ−N−({(5S)−2−オキソ−3−[4−(3−オキソ−4−モルホリニル)フェニル]−1,3−オキサゾリジン−5−イル}メチル)−2−チオフェンカルボキシアミドを含む医薬の有効量の使用による、人体または動物体の消化管の炎症状態、例えば炎症性腸疾患(IBD)およびセリアック病および/または炎症性腸疾患(IBD)および/またはセリアック病に関連した障害の処置および/または予防方法に関するものである。
【0044】
さらに本発明は、式(I)で示される少なくとも1種の本発明化合物を、1種またはそれ以上の薬理学的に許容される補助剤または賦形剤と共に含む医薬および医薬組成物であって、上記で挙げた適応症に使用され得る医薬および医薬組成物を提供する。
【0045】
一実施態様において、本発明は、微小または巨大血管系における血栓形成の予防方法であって、式(I)で示される少なくとも1種の化合物、例えばリバロキサバンの治療有効量を長期体制で哺乳類に投与することを含む方法を提供する。
【0046】
別の実施態様において、本方法は、哺乳類において起こる生存の改良を提供し、式(I)で示される少なくとも1種の化合物、例えばリバロキサバンの治療有効量を長期体制で哺乳類に投与する段階を含み、ここで、先に特記した事象の頻度は、公認の標準治療により確立される頻度よりも減少する。
【0047】
別の実施態様において、本方法は、個体の治療に必要とされる入院加療数の減少を提供し、式(I)で示される少なくとも1種の化合物、例えばリバロキサバンの治療有効量を長期体制で哺乳類に投与する段階を含み、ここで、先に特記した事象の頻度は、公認の標準治療により確立される頻度よりも減少する。
【0048】
別の実施態様において、本方法は、現行の指針に基づいた標準治療を代表する他の抗凝血および抗血小板療法に対し、哺乳類での代替治療を提供し、式(I)で示される少なくとも1種の化合物、例えばリバロキサバンの治療有効量を長期体制で哺乳類に投与する段階を含む。哺乳類において観察される事象の頻度は、代替されている公認の標準治療により確立される頻度と同等であるか、またはそれよりも減少する。
【0049】
別の実施態様において、本発明はまた、
A)式(I)で示される化合物と共に
B)他の医薬品、特に止痢薬、抗コリン作用薬、止痢薬と鎮痙薬の組み合わせ、鎮痛剤、抗うつ薬、非ステロイド系抗炎症剤、5−アミノサリチル酸(5−ASA)を含む薬剤、経口コルチコステロイド剤、免疫調節剤、抗生物質および/または抗腫瘍壊死因子抗体
から成る組み合わせに関するものである。
【0050】
本願に関して、「組み合わせ」は、全成分を含む医薬製剤(いわゆる多剤混合薬)および全成分を互いに離した状態で維持する組み合わせパッケージ、および同時または時差的に投与される成分を指し、上記成分は全て同一疾患の予防および/または処置に使用されるものとする。さらに、それぞれ2剤または多剤併用形態である、2種またはそれ以上の薬剤を組み合わせることも可能である。
【0051】
組み合わせの個々の薬剤は文献により公知であり、たいていの場合市販されている。
止痢薬は、例えばロペラミドおよびジフェノキシレートである。
【0052】
抗コリン作用薬は、例えばベラドンナエキス、クリジニウム、臭化プロパンテリンおよび塩酸ジシクロミンである。
止痢薬と鎮痙薬の併用処置は、例えばアヘン末およびベラドンナである。
【0053】
鎮痛薬または非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)は、例えばサリチル酸誘導体、例えばアセチルサリチル酸(アスピリン)、ベノリラート/ベノリラート(benorylate/benorilate)、サリチル酸コリンマグネシウム、ジフルニサル、エテンザミド、ファイスラミン、サリチル酸メチル、サリチル酸マグネシウム、サリチル酸サリチルまたはサリチルアミド;アリールアルカン酸、例えばジクロフェナック、アセクロフェナック、アセメタシン、アルクロフェナック、ブロムフェナック、エトドラック、インドメタシン、ナブメトン、オキサメタシン、プログルメタシン、スリンダックまたはトルメチン;2−アリールプロピオン酸、例えばイブプロフェン、アルミノプロフェン、カルプロフェン、デキシブプロフェン、デクスケトプロフェン、フェンブフェン、フェノプロフェン、フルノキサプロフェン、フルルビプロフェン、イブプロキサム、インドプロフェン、ケトプロフェン、ケトロラック、ロキソプロフェン、ナプロキセン、オキサプロジン、ピルプロフェン、スプロフェンまたはチアプロフェン酸;N−アリールアントラニル酸(フェナム酸)、例えばメフェナム酸、フルフェナム酸、メクロフェナム酸またはトルフェナム酸;ピラゾリジン誘導体、例えばフェニルブタゾン、アンピロン、アザプロパゾン、クロフェゾン、ケブゾン、メタミゾール、モフェブタゾン、オキシフェンブタゾン、フェナゾン、フェニルブタゾンまたはスルフィンピラゾン;オキシカム、例えばピロキシカム、ドロキシカム、ロルノキシカム、メロキシカムまたはテノキシカムおよびCOX−2阻害剤、例えばセレコキシブである。
【0054】
抗うつ剤は、例えばミルタザピン、ブプロピオン、パロキセチン、選択的セロトニン再取り込み阻害剤または選択的ノルエピネフリンセロトニン再取り込み阻害剤である。
【0055】
5−アミノサリチル酸(5−ASA)を含む薬剤は、例えばスルファサラジン、オルサラジンおよびバルサラジド、アサコールおよびペンタサである。
【0056】
経口コルチコステロイドは例えばプレドニゾンである。
免疫調節剤は、例えばアザチオプリンおよび6−メルカプトプリン(6−MP)、シクロスポリンおよびメトトレキサートである。
【0057】
抗生物質は、例えばアミノグリコシド類、例えばアミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシンまたはパロモマイシン;アンサマイシン類、例えばゲルダナマイシンまたはヘルビマイシン;カルバセフェム、例えばロラカルベフ;カルバペネム類、例えばエルタペネム、ドリペネム、イミペネム/シラスタチン、メロペネム;セファロスポリン類(第1世代)、例えばセファドロキシル、セファゾリン、セファロチンまたはセファロシン、セファレキシン;セファロスポリン類(第2世代)、例えばセファクロル、セファマンドール、セフォキシチン、セフプロジルまたはセフロキシム;セファロスポリン類(第3世代)、例えばセフィキシム、セフジニル、セフジトレン、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフポドキシム、セフタジジム、セフチブテン、セフチゾキシムまたはセフトリアキソン;セファロスポリン類(第4世代)、例えばセフェピム;セファロスポリン類(第5世代)、例えばセフトビプロール;グリコペプチド類、例えばテイコプラニンまたはバンコマイシン;マクロライド類、例えばアジスロマイシン、クラリスロマイシン、ジリスロマイシン、エリスロマイシン、ロキシスロマイシン、トロレアンドマイシン、テリスロマイシンまたはスペクチノマイシン;モノバクタム類、例えばアズトレオナム;ペニシリン類、例えばアモキシリン、アンピシリン、アズロシリン、カルベニシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、メズロシリン、メチシリン、ナフシリン、オキサシリン、ペニシリン、ピペラシリンまたはチカルシリン;ポリペプチド類、例えばバシトラシン、コリスチンまたはポリミキシンB;キノロン類、例えばシプロフロキサシン、エノキサシン、ガチフロキサシン、レボフロキサシン、ロメフロキサシン、モキシフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシンまたはトロバフロキサシン;スルホンアミド類、例えばマフェニド、プロントジル(アルカイック)、スルファセタミド、スルファメチゾール、スルファニリミド(sulfanilimide)(アルカイック)、スルファサラジン、スルフィソキサゾール、トリメトプリムまたはトリメトプリム−スルファメトキサゾール(コ−トリモキサゾール)(TMP−SMX);テトラサイクリン類、例えばデメクロサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、オキシテトラサイクリンまたはテトラサイクリン;他の抗生物質、例えばアルスフェナミン、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、リンコマイシン、エタムブトール、ホスホマイシン、フシジン酸、フラゾリドン、イソニアジド、リネゾリド、メトロニダゾール、ムピロシン、ニトロフラントイン、プラテンシマイシン、ピラジンアミド、キヌプリスチン/ダルホプリスチン、リファンピン、リファンピシンまたはチニダゾールである。
抗腫瘍壊死因子抗体は、例えばインフリキシマブである。
【0058】
さらに、本発明は、少なくとも1種の本発明による化合物を、1種またはそれ以上の不活性、非毒性で医薬上適切な補助剤と共に含む薬剤、および上記で挙げた目的についてのそれらの使用に関するものである。
【0059】
さらに、本発明は、特に上記疾患の予防および/または処置に関する使用を目的とする、少なくとも1種の本発明による化合物を上記併用薬剤の1種またはそれ以上と共に含む薬剤に関するものである。
【0060】
本発明による化合物は、全身的および/または局所的に作用し得る。この目的の場合、それらは、適切な方法で、例えば経口、非経腸、肺、鼻、舌下、口腔、頬側、直腸、皮膚、経皮、結膜または耳経路により、または移植体またはステントとして投与され得る。
これらの投与経路の場合、本発明による化合物は、適切な投与経路で投与され得る。
【0061】
経口投与の場合、結晶および/または非結晶および/または溶解形態で本発明による化合物を含む、迅速に、そして/または改変された形で本発明による化合物を放出する、先行技術に準じて機能する投与形態、例えば錠剤(非コーティングまたはコーティング錠剤、例えば本発明による化合物の放出を制御する、胃液耐性または溶解遅延型または不溶性コーティングを施した錠剤)、口腔で迅速に崩壊する錠剤またはフィルム/オブラート剤、フィルム/凍結乾燥剤、カプセル剤(例えばハードまたはソフトゼラチンカプセル剤)、糖衣錠、顆粒剤、ペレット剤、散剤、乳剤、懸濁剤、エーロゾルまたは液剤が適切である。
【0062】
非経腸投与は、吸収段階を省いて(例、静脈内、動脈内、心内、脊髄内または腰椎内投与)、または吸収を伴って(例、筋肉内、皮下、皮内、経皮または腹腔内投与)実施され得る。非経腸投与に適切な投与形態には、液剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥剤または滅菌粉末剤の形態の注射および注入製剤がある。
【0063】
他の投与経路については、例えば吸入製剤(粉末吸入剤およびネブライザーを含む)、点鼻薬、液剤またはスプレー、口腔、舌下または頬側投与用錠剤、錠剤、フィルム/オブラート剤またはカプセル剤、坐薬、経口または眼用調製物、膣用カプセル剤、水性懸濁剤(ローション、撹拌混合物)、親油性懸濁剤、軟膏、クリーム、経皮治療システム(例、絆創膏)、乳剤、ペースト、泡沫、散布剤、インプラントまたはステントが適切である。
経口または非経腸投与、特に経口および静脈内投与が好ましい。
【0064】
本発明による化合物は、上述の投与形態に変換され得る。これは、不活性、非毒性で医薬上適切な添加剤と混合することにより自体公知の方法で実施され得る。これらの添加剤には、担体(例えば結晶セルロース、乳糖またはマンニトール)、溶媒(例、液体ポリエチレングリコール類)、乳化剤および分散剤または湿潤剤(例えばドデシル硫酸ナトリウム、ポリオキシソルビタンオレエート)、結合剤(例えばポリビニルピロリドン)、合成および天然ポリマー(例えばアルブミン)、安定剤(例、酸化防止剤、例えばアスコルビン酸)、着色剤(例、無機顔料、例えば酸化鉄)および香味料または芳香矯正剤がある。
【0065】
一般に、非経腸投与において有効な成果を達成するためには、約0.001〜30mg/体重kg、好ましくは約0.01〜1mg/体重kgの量を投与するのが有利であることが見出された。経口投与では、投薬量は、約0.01〜100mg/体重kg、好ましくは約0.01〜30mg/体重kg、極めて好ましくは1〜30mg/体重kgである。
【0066】
それにもかかわらず、具体的には体重、投与経路、活性物質に対する個体の応答、製剤の性質および投与を行う時間または間隔によって、上記の量から逸脱することが必要な場合もあり得る。すなわち、上記の最小量より少量で十分有効な場合もあれば、既定された上限を超えなければならない場合もある。大量投与の場合には、それを1日数回の個別投与に分割するのが望ましいこともあり得る。
【0067】
以下、本発明を実施例により説明する。しかしながら、これらの実施例は、いかなる点においても本発明を制限するものではない。
【0068】
以下の試験および実施例におけるパーセンテージは、特に断らなければ、重量に基づくものであり、部とあるは重量部である。液体/液状溶液について報告されている溶媒比、希釈率および濃度は、それぞれ体積に基づくものである。
【実施例】
【0069】
実施例
A.製造例
出発材料
出発材料の合成は、国際公開A01−047919号に詳述されている。
合成例
【化8】

【表1】

合成例の合成は、国際公開A01−047919号に記載されている。
【0070】
B.生理学的活性の評価
1.式(I)で示される化合物の生理学的活性
式(I)で示される化合物は、特に血液凝固第Xa因子の選択的阻害剤として作用するが、他のセリンプロテアーゼ類、例えばプラスミンまたはトリプシンを阻害せず、または明らかに高濃度の場合のみ阻害する。
【0071】
第Xa因子阻害についてのIC50値が、他のセリンプロテアーゼ類、特にプラスミンおよびトリプシンの阻害に関するIC50値の100分の1、好ましくは500分の1、特に1000分の1であるとき、血液凝固第Xa因子阻害剤を「選択的」と称するものとし、選択性に関する試験方法については、下記の実施例A.a.1)およびA.a.2)の試験方法で説明する。
【0072】
式(I)で示される化合物の特に有利な生物学的特性は、以下の方法により確認され得る。
【0073】
a)試験法の説明(インビトロ)
a.1)第Xa因子阻害の測定
ヒト第Xa因子(FXa)の酵素活性は、FXa特異的色素原基質の変換により測定される。この場合、第Xa因子は色素原基質からp−ニトロアニリンを排除する。この測定は、次の要領でマイクロタイタープレートにおいて実施される。
【0074】
試験物質を様々な濃度でDMSOに溶かし、25℃で10分間ヒトFXa(50mmol/lのトリス緩衝液[C,C,C−トリス(ヒドロキシメチル)−アミノメタン]、150mmol/lのNaCl、0.1%BSA(ウシ血清アルブミン)、pH=8.3に溶かした0.5nmol/l)とインキュベーションする。純粋なDMSOは、対照としての役割を果たす。次いで、色素原基質(150μmol/lのPefachrome(登録商標)FXa、Pentapharm)を添加する。25℃で20分間インキュベーション後、405nmでの吸光度を測定する。試験物質を含む試験混合物の吸光度を、試験物質不含有の対照混合物と比較し、そこからIC50値を計算する。
【0075】
a.2)選択性測定
選択的FXa阻害は、他のヒトセリンプロテアーゼ類、例えばトリプシン、プラスミンの試験物質による阻害を調べることにより立証される。トリプシン(500mU/ml)およびプラスミン(3.2nmol/l)をトリス緩衝液(100mmol/l、20mmol/lのCaCl、pH=8.0)に溶解し、10分間試験物質または溶媒とインキュベーションすることにより、それらの酵素の酵素活性を測定する。次いで、適切な特異的色素原基質(Boehringer Mannheim からの Chromozym Trypsin(登録商標)、Boehringer Mannheim からのChromozym Plasmin(登録商標))を添加することにより酵素反応を開始させ、20分後に405nmで吸光度を測定する。測定は全て37℃で実施する。試験物質を含む試験混合物の吸光度を、試験物質不含有の対照試料と比較し、そこからIC50値を計算する。
【0076】
a.3)抗凝血効果の測定
試験物質の抗凝血効果をヒト血漿においてインビトロで測定する。この目的のため、ヒトの血液を、1/9のクエン酸ナトリウム/血液混合比で0.11モル濃度のクエン酸ナトリウム溶液中に集める。収集後、血液を十分に混合し、10分間約2000gで遠心分離にかける。上清をピペットにより除去する。市販の試験キット(Boehringer Mannheim からの Neoplastin(登録商標))を用いて、プロトロンビン時間(PT、別名:Quick 試験)を、様々な濃度の試験物質または適切な溶媒の存在下で測定する。試験化合物を、37℃で10分間血漿とインキュベーションする。次いで、トロンボプラスチンを添加することにより血液凝固を誘導し、血液凝固の開始時間を測定する。プロトロンビン時間の倍加をもたらす試験物質の濃度が判明する。
【0077】
b)抗血栓症効果の測定(インビボ)
b.1)動静脈シャントモデル(ラット)
体重200〜250gの絶食雄ラット(系統:HSD CPB:WU)に、Rompun/Ketavet溶液(12mg/kg/50mg/kg)で麻酔をかける。Christopher N. Berry et al., Br. J. Pharmacol. (1994), 113, 1209-1214 に報告された方法に基づく方法で血栓形成を動静脈シャントにおいて誘導する。この目的のため、左頸静脈および右頸動脈を露出させる。10cm長のポリエチレンチューブ(PE60)を用いて、この2脈管間に体外シャントを形成させる。ループを形成することにより血栓形成性表面を生じさせる粗いナイロン糸を含むさらなる3cm長のポリエチレンチューブ(PE160)で連結することにより、先のポリエチレンチューブを中間で確保する。体外循環を15分間維持する。次いで、シャントを除去し、直ちに血栓を伴うナイロン糸を秤量する。実験開始前にナイロン糸のブランク重量は判明しているものとする。体外循環を設定する前に、試験物質を、意識のある動物に尾静脈を通して静脈内に、または胃管栄養法により経口で投与する。
【0078】
b.2)マウスおよびラットにおけるハプテン誘導炎症性腸疾患のモデル
エタノール中のジニトロベンゼンスルホン酸(DNBS)、例えば30mgのDNBSを含む50%エタノール0.25mlの直腸内投与により、マウスまたはラットを処置する[Dotan, Alimen Pharmacol Ther 2001, 15, 1687-1697]。マウスまたはラットでの様々なモデルにおいて、「バリアブレーカー」として50%エタノール0.25ml中のハプテン2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸(5〜30mg)を投与することにより、用量依存的結腸潰瘍および炎症を生じさせる。Morris, Gastroenterology 1989, 96, 795-803]。さらに、Neurath, J Exp Med. 1995, 182(5), 1281-90; Dohi, J Exp Med. 1999, 189(8), 1169-80; Dohi, Gastroenterology 2000, 119(3), 724-33; Heller, Immunity 2002, 17(5), 629-38 and Nieuwenhuis, Proc Natl Acad Sci U S A. 2002, 99(26), 16951-6 と同様の方法が使用され得る。さらなるモデルでは、マウスまたはラットをハプテンオキサゾロンで処置することにより、結腸の炎症を誘発する[Kojima, J Pharmacol Sci 2004, 96, 307-313; Ekstroem, Scand J Gastroenterol 1998, 33, 174-179; Boivirant, J Exp Med 1998, 188, 1929-1939]。
【0079】
b.3)マウスおよびラットにおけるヨードアセトアミド(IA)誘導炎症性腸疾患のモデル
マウスまたはラットを、ヨードアセトアミド(IA)の直腸内投与により、例えばラットでは0.1mlのIA3%で、処置する[Dotan, Alimen Pharmacol Ther 2001, 15, 1687-1697; Rachmilewitz, Gastroenterology 1995, 109, 98-106; Reifen J, Gastroenterol 2004, 39, 514-9]。
【0080】
b.4)マウスおよびラットにおけるデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導炎症性腸疾患のモデル
マウスまたはラットを、飲用水中のデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)ポリマーで数日間処置することにより、急性または慢性大腸炎を誘発する[Okayasu, Gastroenterology 1990, 98(3), 694-702; Mahler, Am J Physiol. 1998, 274(3 Pt 1), G544-51]。
【0081】
b.5)マウスおよびラットにおける炎症性腸疾患の遺伝的モデル
ヒトHLA−B27およびβ2−ミクログロブリンについてのトランスジェニックラットは、自然発症炎症性腸疾患を発症する[Sartor, Int Rev Immunol 2000, 19, 39-50]。SAMP1/Yit系統[Kosiewicz, J Clin Invest 2001, 107, 695-702]のマウス、および例えばIL−10[Kuhn, Cell 1993, 75, 263-274]またはmdrla[Panwala, J Immunol 1998, 161, 5733-5744]が欠損するように遺伝子操作されたマウスもまた、消化管の自然発症炎症性病変を発症する。
【0082】
C.医薬組成物の実施例
本発明による化合物は、次の要領で医薬品に変換され得る:
錠剤:
組成:
本発明による化合物100mg、乳糖(一水和物)50mg、トウモロコシ澱粉(天然)50mg、ポリビニルピロリドン(PVP25)(BASF Co.、ドイツ国ルードヴィヒシャーフェン)10mgおよびステアリン酸マグネシウム2mg。
錠剤重量212mg、直径8mm、曲率半径12mm。
【0083】
製法:
本発明による化合物、乳糖および澱粉の混合物を、PVPの5%水溶液(w/w)により造粒する。乾燥後、顆粒をステアリン酸マグネシウムと5分間混合する。この混合物を通常の錠剤成型機で圧縮する(錠剤の形式:上記参照)。指針として、上記圧縮には15kNの圧縮力を用いる。
【0084】
経口投与用懸濁液:
組成:
本発明による化合物1000mg、エタノール(96%)1000mg、Rhodigel(登録商標)(キサンタンガム、FMC Co.、米国ペンシルベニア)400mgおよび水99g。
10mlの経口懸濁液は、本発明化合物100mgの単用量に相当する。
製法:
Rhodigel をエタノールに懸濁し、本発明による化合物を懸濁液に加える。水を撹拌しながら加える。Rhodigel の膨張が完了するまで、混合物を約6時間撹拌する。
【0085】
経口投与用液剤:
組成:
本発明による化合物500mg、ポリソルベート2.5gおよび97gのポリエチレングリコール400。20gの経口用液剤は、本発明による化合物100mgの単用量に相当する。
【0086】
製法:
本発明による化合物を撹拌しながらポリエチレングリコールおよびポリソルベートの混合物に懸濁する。本発明による化合物が完全に溶解するまで撹拌工程を続行する。
【0087】
静注溶液:
本発明による化合物を、飽和溶解度より低濃度で生理学的に適合する溶媒(例、等張性塩化ナトリウム溶液、5%グルコース溶液および/または30%PEG400溶液)に溶解する。溶液を滅菌濾過し、無菌のパイロジェン不含有注射容器に充填する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性腸疾患(IBD)およびセリアック病および/または炎症性腸疾患(IBD)および/またはセリアック病に関連した障害などの消化管の炎症状態の処置および/または予防用の医薬または医薬組成物の製造を目的とする、式(I)
【化1】

[式中、
は、塩素、臭素、メチルまたはトリフルオロメチルから成る群から選択される基により5位が置換された2−チオフェンであり、
は、D−A−
(式中、
「A」基はフェニレンであって、上記「A」基は、オキサゾリジノンとの結合に対するメタ位がフッ素、塩素、ニトロ、アミノ、トリフルオロメチル、メチルまたはシアノから成る群から選択される基により1回または2回置換されていてもよく、
「D」基は、窒素原子を介して「A」に結合され、結合している窒素原子に隣接してカルボニル基を有し、環内炭素構成員がS、NおよびOの群からのヘテロ原子により置換されていてもよい、飽和5または6員複素環である)
である]
で示される化合物およびその医薬上許容される塩、溶媒和物および塩の溶媒和物の使用。
【請求項2】
式(I)で示される化合物が、5−クロロ−N−({(5S)−2−オキソ−3−[4−(3−オキソ−4−モルホリニル)フェニル]−1,3−オキサゾリジン−5−イル}メチル)−2−チオフェンカルボキシアミド
【化2】

またはその医薬上許容される塩、溶媒和物および塩の溶媒和物であることを特徴とする、請求項1記載の使用。
【請求項3】
炎症性腸疾患(IBD)が、クローン病、潰瘍性大腸炎および/または消化管の慢性炎症性疾患であることを特徴とする、請求項1または請求項2記載の式(I)で示される化合物の使用。
【請求項4】
炎症性腸疾患(IBD)および/またはセリアック病に関連した障害が、主要な動脈および静脈の血栓塞栓症事象、肺塞栓症(PE)、心筋梗塞および/または卒中であることを特徴とする、請求項1または請求項2記載の式(I)で示される化合物の使用。
【請求項5】
請求項1または請求項2記載の式(I)で示される少なくとも1種の化合物、または1種またはそれ以上の薬理学的に許容される補助剤または賦形剤と組み合わせた請求項1または請求項2記載の式(I)で示される少なくとも1種の化合物を含む医薬の有効量の使用による、人体または動物体の炎症性腸疾患(IBD)およびセリアック病および/または炎症性腸疾患(IBD)および/またはセリアック病に関連した障害などの消化管の炎症状態の処置および/または予防方法。
【請求項6】
炎症性腸疾患(IBD)が、クローン病、潰瘍性大腸炎および/または消化管の慢性炎症性疾患であることを特徴とする、請求項5記載の炎症性腸疾患(IBD)およびセリアック病および/または炎症性腸疾患(IBD)および/またはセリアック病に関連した障害などの消化管の炎症状態の処置および/または予防方法。
【請求項7】
炎症性腸疾患(IBD)および/またはセリアック病に関連した障害が、主要な動脈および静脈の血栓塞栓症事象、肺塞栓症(PE)、心筋梗塞および/または卒中であることを特徴とする、請求項5記載の炎症性腸疾患(IBD)およびセリアック病および/または炎症性腸疾患(IBD)および/またはセリアック病に関連した障害などの消化管の炎症状態の処置および/または予防方法。

【公表番号】特表2011−526266(P2011−526266A)
【公表日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515183(P2011−515183)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【国際出願番号】PCT/EP2009/004496
【国際公開番号】WO2010/000404
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(507113188)バイエル・シェーリング・ファルマ・アクチェンゲゼルシャフト (141)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Schering Pharma Aktiengesellschaft
【Fターム(参考)】