説明

消泡剤を用いた通気発酵による化学品の製造方法

【課題】
本発明は、破泡作用および抑泡作用の双方を併せ持ち消泡作用に優れ、かつ発酵生産に悪影響を及ぼすことのない消泡剤を添加し発酵させる化学品の製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明は、コリネ型細菌を使用した通気培養において、鉱油と、脂肪酸アミド、金属石鹸、疏水シリカおよびシリコーンコンパウンドからなる群から選ばれた化合物とが含有された消泡剤を添加することにより、気泡を制御することを特徴とする化学品の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消泡剤を用いた通気発酵による化学品の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、コリネ型細菌を使用した通気培養において、破泡作用および抑泡作用の双方を併せ持ち消泡作用に優れ、かつ発酵生産に悪影響を及ぼすことのない消泡剤を添加して発酵することにより、高効率に化学品を製造することができる化学品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、発酵工業、例えば、深部通気培養における有用物質の生産において、多量の気泡が発生し、種々の問題が生じている。すなわち、発酵槽が多量の気泡で満たされてしまうため、単位容積当たりの培養能力が低下し、また培養液が流出する等の問題が生じており、その解決が望まれている。
【0003】
そこで、このような気泡を制御する方法として、広く消泡剤が用いられている。その消泡剤としては、シリコーン油、動植物油およびアルコール類へのアルキレンオキシド付加物等があるが、発酵工業においては、抑泡性、発酵菌への阻害性およびコスト等の面から、アルキレンオキシド付加物が広く使用されている。
【0004】
しかしながら、従来のアルキレンオキシド付加タイプの消泡剤は、発酵用消泡剤として特に要求される発酵菌の生育阻害を低く抑えることと、十分な消泡効果を有することの両者を同時に満足するものではなかった。
【0005】
例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類は、消泡性に優れる反面、発酵菌への阻害が生じ、発酵菌の培養過程においてときに問題となることがある(特許文献1〜4参照。)。また、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類を脂肪酸によりエステル化したタイプの消泡剤では、阻害性は改善されるが、一方で十分な消泡効果が得られないという課題がある(特許文献5〜8参照。)。
【0006】
また別に、油脂と多価アルコール類の混合物にアルキレンオキシドを付加する方法も提案されている(特許文献9、10参照。)が、この提案では、得られた反応生成物は発酵菌への阻害性は改善されるが、十分な消泡効果が得られないという課題がある。さらに、特定の順序で多価アルコールにオキシエチレン基とオキシプロピレン基を付加した消泡剤を用いる方法が提案されている(特許文献11、12、13参照。)。しかしながら、このような方法では、消泡効果と発酵菌への阻害性を低く抑えることの両者を同時に満足することはできない。
【0007】
また、著しく消泡性(破泡、抑泡効果)に優れる消泡剤も提案されている(特許文献14、15参照。)。しかしながら、この消泡剤は塗料用として開発されたものであり、発酵に適用できるかどうかは不明である。
【0008】
そのため、破泡作用および抑泡作用の双方を併せ持ち、消泡作用に優れ、かつ発酵生産に悪影響を及ぼすことのない消泡剤の添加が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭45−30189号公報
【特許文献2】特公昭45−38827号公報
【特許文献3】特開昭50−121482号公報
【特許文献4】特開昭52−69881号公報
【特許文献5】特公昭47−40394号公報
【特許文献6】特開昭53−134785号公報
【特許文献7】特開昭54−135298号公報
【特許文献8】特開昭56−169583号公報
【特許文献9】特開平5−228308号公報
【特許文献10】特開平6−54680号公報
【特許文献11】特開平2−21905号公報
【特許文献12】特開平2−21906号公報
【特許文献13】特開平2−35073号公報
【特許文献14】特開2004−098021号公報
【特許文献15】特開2005−270890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明の目的は、コリネ型細菌を使用した通気培養において、破泡作用および抑泡作用の双方を併せ持ち消泡作用に優れ、かつ発酵生産に悪影響を及ぼすことのない消泡剤を添加し発酵させる化学品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、消泡剤を用いた通気発酵による化学品の製造方法において、破泡作用および抑泡作用の双方を併せ持ち消泡作用に優れ、かつ発酵生産に悪影響を及ぼすことのない消泡剤の作出を目的として鋭意研究した結果、鉱油と、脂肪酸アミドまたは金属石鹸または疏水シリカまたはシリコーンコンパウンドのいずれかが含有された消泡剤の添加で、気泡を制御することが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明の化学品の製造方法は、次の(1)〜(5)で構成される。
【0012】
(1)コリネ型細菌を使用した通気発酵による化学品の製造方法において、鉱油と、脂肪酸アミド、金属石鹸、疏水シリカおよびシリコーンコンパウンドからなる群から選ばれた化合物とが含有された消泡剤を用いて発酵することを特徴とする化学品の製造方法。
【0013】
(2)消泡剤が、鉱油と脂肪酸アミドを含有するものであることを特徴とする前記(1)に記載の化学品の製造方法。
【0014】
(3)コリネ型細菌が、コリネバクテリウム属およびブレビバクテリウム属からなる群から選ばれた細菌であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の化学品の製造方法。
【0015】
(4)コリネ型細菌が、コリネバクテリア・グルタミカムであることを特徴とする前記(1)から(3)のいずれかに記載の化学品の製造方法。
【0016】
(5)化学品が、カタベリン、リジンまたはグルタミン酸であることを特徴とする前記(1)から(4)のいずれかに記載の化学品の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、発酵時の多量の気泡を顕著に抑制することができるため、単位容積当たりの培養能力が維持され、化学品対糖収率が向上し、また培養液が流出する等の問題が生じない。
【0018】
また、多量の気泡を考慮して発酵槽を設計する必要がなくなるため、発酵槽の縮小が可能であり、設備費またランニングコストの削減になる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、コリネ型細菌を使用した通気発酵において、鉱油と、脂肪酸アミドまたは金属石鹸または疏水シリカまたはシリコーンコンパウンドのいずれかが含有された消泡剤を用いて発酵することを特徴とする化学品の製造方法である。
【0020】
本発明において用いられる鉱油とは、炭素質源から得られる炭化水素油、例えば、石炭や石油などの処理、精製および分留によって取得される油分を云う。鉱油は、大量に供給され安価であり、溶剤や工業原料に広く使用されている。本発明では、市販されている融解温度が100℃より低い鉱油を、好適に使用することができる。例えば、パラフィン油、ナフテン油、ナフサ、ケロシン、軽油、スピンドル油および高沸点油などの鉱油を好適に使用することができる。
【0021】
本発明で用いられる鉱油として、炭素数10〜30の炭化水素混合物を好適に使用することができる。炭素数が10未満の炭化水素混合物は蒸発損失が大きく、また、炭素数が30を超えるものは水に対する分散性が悪くなる傾向を示す。
【0022】
また、鉱油は、芳香族炭素(aromatic carbon)、ナフテン炭素(naphthenic carbon)およびパラフィン炭素(paraffinic carbon)から構成されている。
【0023】
芳香族炭素の含有量(個数%)は、鉱油の全炭素数に基づいて、1〜30であることが好ましい。含有量(個数%)は、より好ましくは2〜20であり、さらに好ましくは5〜15である。含有量(個数%)がこの範囲であると、消泡性能がさらに良好となる。
【0024】
ナフテン炭素の含有量(個数%)は、鉱油の全炭素数に基づいて、15〜40であることが好ましい。含有量(個数%)は、より好ましくは18〜36であり、さらに好ましくは22〜32である。含有量(個数%)がこの範囲であると、消泡性がさらに良好となる。
【0025】
パラフィン炭素の含有量(個数%)は、鉱油の全炭素数に基づいて、50〜80であることが好ましい。含有量(個数%)は、より好ましくは54〜74であり、さらに好ましくは58〜70である。含有量(個数%)がこの範囲であると、消泡性がさらに良好となる。
【0026】
芳香族炭素、ナフテン炭素およびパラフィン炭素の含有量は、環分析(n−d−M)法{ASTM D3238−74(Reapproved 1979)}に準拠して測定される。
【0027】
このような鉱油としては、コスモピュアスピンG、コスモピュアスピンE、コスモSP10、スタノール35、スタノールLP35、フッコール STマシン、コスモ ニュートラル150、日石スーパーオイルDおよび日石スーパーオイルBなどの市販品を購入して用いることができる。これらの市販品のうち、消泡性能および製品安定性の観点等から、コスモピュアスピンGおよびコスモピュアスピンEがより好ましく用いられる。
【0028】
消泡剤組成物中の鉱油含有量(質量%)は、20〜99であることが好ましい。鉱油含有量(質量%)は、より好ましくは40〜98であり、さらに好ましくは60〜97である。鉱油含有量(質量%)がこの範囲であると、消泡性能がさらに良好となる。
【0029】
本発明で用いられる脂肪酸アミドとしては、例えば、ラウリン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、12−ヒドロキシステアリン酸アミド、N−置換脂肪酸アミドとしては、N,N’−エチレンビスラウリン酸アミド、N,N’−メチレンビスステアリン酸アミド、N,N’−エチレンビスステアリン酸アミド、N,N’−エチレンビスオレイン酸アミド、N,N’−エチレンビスベヘン酸アミド、N,N’−エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’−ブチレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’−キシリレンビスステアリン酸アミド、ステアリン酸モノメチロールアミド、ヤシ脂肪酸モノエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N’−ジステアリルセバシン酸アミド、N,N’−ジステアリルテレフタル酸アミド、およびN,N’−ジステアリルイソフタル酸アミドなどが挙げられる。分散性に優れているため、より好ましくはステアリン酸アミド類を好適に使用することができる。
【0030】
本発明において、成分の脂肪酸アミドは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、消泡剤組成物中の脂肪酸アミドの含有量は、通常1〜10質量%の範囲で選定される。この含有量が1質量%未満では消泡性能が十分に発揮されないおそれがあり、また10質量%超えると粘性が増加し、使用上不都合となる場合がある。消泡性能及び粘性のバランスなどの面から、この脂肪酸アミドの好ましい含有量は2〜8質量%の範囲であり、特に3〜7質量%の範囲が好適である。
【0031】
本発明で用いられる金属石鹸としては、例えば、炭素数8〜25の脂肪酸のカルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、銅塩、鉛塩、マンガン塩、カドミウム塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩、アルミニウム塩、チタニウム塩、およびジルコニウム塩などの中から任意のものを適宜選択して用いることができる。
【0032】
上記の炭素数8〜25の脂肪酸は、飽和、不飽和、直鎖状、枝分かれ状および環状のいずれであってもよいし、ヒドロキシル基を有するものであってもよい。このような脂肪酸としては、例えば、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、エルカ酸、リシノール酸、およびナフテン酸などが挙げられる。これらの中でも、親水性と疎水性のバランスがよく好ましいのはラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸およびオレイン酸である。
【0033】
金属石鹸の例としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸コバルト、ステアリン酸鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウムモノ塩、ステアリン酸アルミニウムジ塩、ナフテン酸カルシウム、ナフテン酸コバルト、ラウリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸バリウム、リシノール酸亜鉛、およびカプリン酸アルミニウムなどを挙げることができる。
【0034】
金属石鹸は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、消泡剤組成物中の金属石鹸の含有量は、通常0.1〜5質量%の範囲で選定される。この含有量が0.1質量%未満では金属石鹸を添加した効果が十分に発揮されないおそれがあり、5質量%を超えると、鉱油がゲル化して、流動性が失われる場合がある。したがって、この金属石鹸の好ましい含有量は0.2〜3質量%の範囲であり、特に0.3〜1質量%の範囲が好適である。また、この際用いる金属石鹸として、通常市販の工業用製品を使用する場合、多少の不純物が含有されるが、金属石鹸が主体であればよく、特に純粋な金属石鹸を用いる必要はない。
【0035】
本発明で用いられる疎水性シリカとは、親水性シリカを疎水化処理した酸化ケイ素微粒子を意味する。一方、親水性シリカとは、疎水化処理していない酸化ケイ素微粒子を意味する。疎水化処理は、親水性シリカを疎水化剤で処理する公知の方法(例えば、特公昭42−26179号公報に記載の方法)により達成できる。
【0036】
親水性シリカとしては、湿式法シリカ{シリカヒドロゲル中の水分を、70℃以下の沸点を持ち、かつ水との混和性を有する溶媒(メタノール、アセトン、ギ酸メチルおよび酢酸メチル等)で置換した後、加熱して該溶媒を除去することにより得られるコロイドシリカ}、熱分解法シリカ(四塩化ケイ素を焼いて生じたシリカ煤からなるコロイドシリカ)、および溶融固体法シリカ(ケイ酸ナトリウム水溶液に塩化ナトリウムや硫酸ナトリウム等のナトリウムイオンを滴下することにより凝集して得られるシリカ粒子)等が含まれる。これらのうち、消泡性の観点等から、熱分解法シリカおよび溶融固体法シリカが好ましく、さらに好ましくは溶融固体法シリカが用いられる。
【0037】
疎水化剤には、シリコーンオイルおよび変性シリコーンオイル等が含まれる。シリコーンオイルとしては、動粘度10〜3000(mm/s、25℃)のジメチルシロキサン等が挙げられ、オクタメチルシクロテトラシロキサンおよびデカメチルシクロペンタシロキサン等も含まれる。また、変性シリコーンオイルとしては、上記のジメチルシロキサンのメチル基の一部を炭素数2〜6のアルキル基、炭素数2〜4のアルコキシル基、フェニル基、水素原子、ハロゲン(塩素及び臭素等)原子、および/または炭素数2〜6のアミノアルキル基等に置き換えたもの等が含まれる。
【0038】
疎水化剤の使用量(質量%)としては、親水性シリカの重量に基づいて、5〜70が好ましく、さらに好ましくは7〜50であり、特に好ましくは10〜30である。使用量(質量%)がこの範囲であると、消泡性がさらに優れる。疎水化処理の温度(℃)は、100〜400が好ましく、さらに好ましくは150〜350であり、特に好ましくは200〜300である。
【0039】
疎水化処理には、溶媒{炭化水素油、動粘度(mm/s、40℃)5〜30のパラフィンオイルおよびプロセスオイル等}および反応触媒(硫酸、硝酸、塩酸、ヒドロキシ酢酸、トリフルオロ酢酸、p−ニトロ安息香酸、水酸化カリウムおよび水酸化リチウム等)等を使用することができる。
【0040】
本発明で用いられる疎水性シリカは、市場から容易に入手できる。疎水性シリカは、商品名として、Nipsilシリーズ(SS−10、SS−40、SS−50およびSS−115等、日本シリカ株式会社);AEROSILシリーズ(R972、RX200、RY200、R202、R805およびR812等、日本アエロジル株式会社);TS−530、TS−610、TS−720等(キャボットカーボン社);Sipernatシリーズ(D10、D17、C600及びC630等、デグサジャパン株式会社);REOLOSILシリーズ(MT−10、DM−10およびDM−20S等、株式会社トクヤマ);並びにSYLOPHOBICシリーズ(100、702、505および603等、富士シリシア化学株式会社)等が挙げられる。
【0041】
消泡剤中の疎水性シリカの含有量は、鉱物油100重量部当たり1質量部以上が好ましく、より好ましくは5質量部以上である。含有量が1質量部より少ないと、消泡効果が不十分となる傾向がある。一方、混合割合の上限は、好ましくは15質量部であり、より好ましくは10質量部である。含有量が15質量部より多いと、分散性が悪くなるという問題点を有する。
【0042】
本発明で用いられるシリコーンコンパウンドとしては、ポリジメチルシロキサンとシリカの混合物、変性シリコーンオイルとシリカの混合物、およびポリジメチルシロキサンと変性シリコーンオイルとシリカの混合物などが挙げられる。
【0043】
消泡剤中のシリコーンコンパウンドの含有量は、鉱物油100質量部当たり1質量部以上が好ましく、より好ましくは5質量部以上である。含有量が1質量部より少ないと、消泡効果が不十分となる傾向がある。一方、混合割合の上限は、好ましくは15質量部であり、より好ましくは10質量部である。含有量が15質量部より多いと、分散性が悪くなるという問題点を有する。
【0044】
本発明で使用されるコリネ型細菌は、本発明の本質が発酵培養の効率化にあることから、化学品を生産する能力を持つもので、例えば、従来化学品を効率よく生産することが可能なコリネ型細菌を好適に利用することができる。
【0045】
コリネ型細菌とは、好気性のグラム陽性桿菌であり、従来ブレビバクテリウム属に分類されていたが、現在、コリネバクテリウム属に統合された細菌も含まれ(Int.J.Syst.,Bacteriol.,(1981)41,p.225)、また、コリネバクテリウム属と非常に近縁なブレビバクテリウム属細菌も含まれる。
【0046】
このようなコリネ型細菌の例として、コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム(Corynebacterium acetoacidophylum)、コリネバクテリウム・アセトグルタミカム(Corynebacterium acetoglutamicum)、コリネバクテリウム・アルカノリティカム(Corynebacterium alkanolyticum)、コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・リリウム(Corynebacterium lilium)、コリネバクテリウム・メラセコーラ(Corynebacterium mellassecola)、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(Corynebacterium thermoaminogenes)、コリネバクテリウム・エッフィシエンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウム・ハーキュリス(Corynebacterium herculis)、ブレビバクテリウム・ディバリカタム(Brevivacterium divaricatum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevivacterium flavum)、ブレビバクテリウム・インマリオフィラム(Brevivacterium immariophilum)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevivacterium lactofermentum)、ブレビバクテリウム・ロゼウム(Brevivacterium roseum)、ブレビバクテリウム・サッカロリティカム(Brevivacterium saccharolyticum)、ブレビバクテリウム・チオゲニタリス(Brevivacterium thiogenitalis)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、ブレビバクテリウム・アルバム(Brevivacterium album)、ブレビバクテリウム・セリヌム(Brevivacterium cerinum)、およびミクロバクテリウム・アンモニアフィラム(Microbacterium ammoniaphilum)が挙げられる。なかでも、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevivacterium flavum)、およびブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevivacterium lactofermentum)が好適に使用できる。
【0047】
また、各コリネ型細菌の具体的な菌株として、例えば、コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム ATCC13870、コリネバクテリウム・アセトグルタミカム ATCC15806、コリネバクテリウム・アルカノリティカム ATCC21511、コリネバクテリウム・カルナエ ATCC15991、コリネバクテリウム・グルタミカム ATCC13020,ATCC13020,ATCC13060、コリネバクテリウム・リリウム ATCC15990、コリネバクテリウム・メラセコーラ ATCC17965、コリネバクテリウム・エッフィシエンス AJ12340(寄託番号:FERM BP−1539)、コリネバクテリウム・ハーキュリス ATCC13868、ブレビバクテリウム・ディバリカタム ATCC14020、ブレビバクテリウム・フラバム ATCC13826,ATCC14067,AJ12418(寄託番号:FERM BP−2205)、ブレビバクテリウム・インマリオフィラム ATCC14068、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC13869、ブレビバクテリウム・ロゼウム ATCC13825、ブレビバクテリウム・サッカロリティカム ATCC14066、ブレビバクテリウム・チオゲニタリス ATCC19240、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス ATCC6871,ATCC6872、ブレビバクテリウム・アルバム ATCC15111、ブレビバクテリウム・セリヌム ATCC15112、およびミクロバクテリウム・アンモニアフィラス ATCC15354が挙げられる。なかでも、コリネバクテリウム・グルタミカム ATCC13020,ATCC13020,ATCC13060、およびブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC13869が好適に使用できる。
【0048】
前記のコリネ型細菌は、例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから分譲を受けることができる。すなわち、コリネ型細菌は、菌株毎に対応する登録番号が付与されており、この登録番号はアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログに記載され、この番号を参照して各菌株の分譲を受けることができる。
【0049】
本発明においては、前記のコリネ型細菌の中でもコリネバクテリウム・グルタミカム、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムが好ましく用いられる。
【0050】
本発明で用いられるコリネ型細菌としては、自然界に存在する野生株の変異株であってもよく、また遺伝子組換え等のバイオテクノロジーを利用した人為株でもよい。
【0051】
また、培養培地には、通常、化学品の原料となる有機炭素源が含まれている。有機炭素源としては、コリネ型細菌が生化学反応に利用できる物質が挙げられ、なかでもコリネ型細菌が代謝できる物質が好ましく、具体的には糖類や場合によりエタノールなどが挙げられる。特に、本発明で用いられる培養培地には、糖類が含有されていることが好ましい。糖類としては、例えば、グルコース、ガラクトース、フルクトースもしくはマンノースなどの単糖類、セロビオース、ショ糖もしくはラクトース、マルトースなどの二糖類、およびデキストリンもしくは可溶性澱粉などの多糖類などが挙げられる。なかでも、グルコースが好ましく用いられる。
【0052】
本発明において、より好ましくは、化学品の生成反応に用いられる培養培地組成は、コリネ型細菌がその代謝機能を維持するために必要な成分、即ち、各種糖類等の炭素源、蛋白質合成に必要な窒素源、その他リン、カリウムまたはナトリウム等の塩類、さらに鉄、マンガンまたはカルシウム等の微量金属塩を含む。
【0053】
これらの成分の添加量は、反応時間、目的生産物の種類および用いられるコリネ型細菌の種類等により適宜定めることができる。用いられるコリネ型細菌によっては、特定のビタミン類を添加することが好ましい場合もある。
【0054】
コリネ型細菌と糖類との反応は、コリネ型細菌が活動できる温度条件下で行われることが好ましく、温度条件はコリネ型細菌の種類などにより適宜選択することができる。
【0055】
培養によって得られた化学品は、バイオプロセスで用いられる公知の方法を用いて分離・精製することができる。そのような公知の方法として、塩析法、再結晶法、有機溶媒抽出法、エステル化蒸留分離法、クロマトグラフィー分離法および電気透析法等があり、化学品の特性に応じて、その分離・精製法は適宜定めることができる。
【0056】
本発明で製造することができる化学品としては、ピルビン酸、乳酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、オキサロ酢酸、クエン酸、シスアコニット酸、イソクエン酸、2−オキソグルタル酸および酢酸などの有機酸や、エタノール、ブタノール、1,3−プロパンジオールおよび1,4−ブタンジオールなどのアルコールが挙げられる。これらのなかでも、ピルビン酸とコハク酸が好適に製造される。
【0057】
また、本発明で製造することができる化学品として、L−スレオニン、L−リジン、L−グルタミン酸、L−トリプトファン、L−イソロイシン、L−グルタミン、L−アルギニン、L−アラニン、L−ヒスチジン、L−プロリン、L―フェニルアラニン、L−アスパラギン酸、L−チロシン、メチオニン、セリン、バリン、およびロイシンなどのアミノ酸や、イノシン、グアノシンなど核酸、およびカダベリンなどのジアミン化合物、酵素、抗生物質、および組換えタンパク質を挙げることができる。これらのなかでも、アミノ酸のリジン、グルタミン酸およびジアミン化合物のカダベリンが好適に製造される。
【0058】
次に、具体的な化学品を例示しながら、本発明の化学品の製造方法について説明する。
【0059】
最初に、ピルビン酸を製造する場合について説明する。ピルビン酸を製造する場合は、例えば、コリネバクテリウム属(Genus Corynebacterium)に属する細菌を好ましく用いることができる。これら細菌を突然変異や遺伝子組換えによって、一部性質が改変したものを用いてもよい。例えば、酸化的リン酸化によるATP生産に直接関与するATPase遺伝子を変異、または欠失させた細菌も好ましく用いられ、ピルビン酸を好適に製造することができる。
【0060】
次に、コハク酸を製造する場合について説明する。コハク酸を製造する場合は、例えば、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属やブレビバクテリウム(Brevibacterium)属などのコリネ型細菌(Coryneform bacterium)が利用可能である。コリネ型細菌では、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、およびブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)などが好適である。
【0061】
また、コハク酸を製造する微生物としては、遺伝子組換えによって、コハク酸の生産能力が改善された微生物を用いることができ、これによりコハク酸の生産性を向上させることも可能である。このような微生物としては、例えば、特開2005−27533号公報に記載されている乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase)を欠損したブレビバクテリウム・フラバムMJ233AB−41(FERM BP−1498)や、ヒラオ・トシヒコらが開示しているアプライド マイクロバイアル アンド マイクロバイオロジー,32,269−273(1989)(Appl. Microbiol. Biotechnol.)に記載のコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)などを使用することができる。
【0062】
L−リジン生産菌としては、コリネバクテリウム属およびブレビバクテリウム属に属する細菌等が挙げられる。そして、特に好ましい細菌は、コリネバクテリウム・グルタミカム、ブレビバクテリウム・フラバムおよびブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムである。
【0063】
L−グルタミン酸生産菌としては、コリネバクテリウム・グルタミカム、ブレビバクテリウム・フラバムおよびブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムが好ましく用いられる。
【0064】
カダベリンを製造する場合は、例えば、リジン脱炭酸酵素および/またはリジン・カダベリンアンチポーターの酵素活性を増強している微生物が好ましく用いられる。更に好ましくは、リジン脱炭酸酵素および/またはリジン・カダベリンアンチポーターをコードする遺伝子を組み込んだ組換え微生物が挙げられる。更に好ましくは、リジン脱炭酸酵素をコードする遺伝子が1または2種類以上組み込まれている組換え微生物が挙げられる。
【0065】
カダベリンを製造する場合、組換え微生物としては、好ましくは、リジン脱炭酸酵素活性を有し、かつホモセリン栄養要求性またはS−(2−アミノエチル)−L−システイン耐性の少なくともいずれか1つの特徴を有しているコリネ型細菌が用いられる。更には、ホモセリンデヒドロゲナーゼ活性を欠損していることが好ましく、遺伝子挿入変異生成によりホモセリンデヒドロゲナーゼ活性を欠損していることが好ましい。また、コリネ型細菌の属が、コリネバクテリウム属およびブレビバクテリウム属からなる群より選ばれた少なくとも1つの属であることが好ましい態様である。更に好ましくは、コリネバクテリア・グルタミカム(Corynebacuterium gulutamicum)が用いられる。
【0066】
本発明では、コリネ型細菌を通気発酵することにより化学品を製造する。通気発酵とは、発酵槽中に気体を通気して発酵させる発酵方法のことをいう。通気発酵の操作方法としては、通気攪拌発酵(撹拌翼を用いた発酵液撹拌による発酵)、振とう発酵、深部通気発酵等の通気可能な方式を挙げることができる。なかでも、コリネ型細菌の通気発酵としては、通気攪拌発酵法が好ましく用いられる。
【0067】
通気攪拌発酵法において、攪拌の回転数(攪拌翼の攪拌速度)は特に制限されないが、通常100〜1000rpm、好ましくは400〜800rpmを例示することができる。
【0068】
通気条件としては、反応時間、目的生産物の種類および用いられるコリネ型細菌の種類等により適宜定めることができるが、好ましくは0.1〜3vvm、より好ましくは0.3〜2vvmの範囲を挙げることができる。なお、通気に使用される気体としては、滅菌した酸素を含む気体、具体的には大気をフィルターに通して濾過滅菌した空気を例示することができる。
【0069】
本発明で使用される発酵原料としては、発酵培養する微生物の生育を促し、目的とする発酵生産物である化学品を良好に生産させ得るものであれば良い。このような発酵原料としては、例えば、炭素源、窒素源、無機塩類、および必要に応じてアミノ酸、およびビタミンなどの有機微量栄養素を適宜含有する液体培地等が好ましく用いられる。
【0070】
上記の炭素源としては、例えば、グルコース、シュークロース、フラクトース、ガラクトース、ラクトース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉糖化液、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ハイテストモラセス、サトウキビ搾汁、更には酢酸、フマル酸等の有機酸、エタノールなどのアルコール類およびグリセリン等が使用される。ここで糖類とは、多価アルコールの最初の酸化生成物であり、アルデヒド基またはケトン基をひとつ持ち、アルデヒド基を持つ糖をアルドース、ケトン基を持つ糖をケトースと分類される炭水化物のことを指す。
【0071】
また、上記の窒素源としては、例えば、アンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助的に使用される有機窒素源、例えば、油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、その他のアミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、酵母または酵母エキス、肉エキス、ペプトン等のペプチド類、各種発酵菌体およびその加水分解物などが使用される。
【0072】
また、上記の無機塩類としては、例えば、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、およびマンガン塩等を適宜添加使用することができる。
【0073】
本発明で使用される微生物が生育のために特定の栄養素を必要とする場合には、その栄養物を標品もしくはそれを含有する天然物として添加することができる。
【0074】
微生物の発酵培養は、通常、pHが4〜8で温度が20〜40℃の範囲で行われることが多い。発酵液のpHは、無機の酸または有機の酸、アルカリ性物質、さらには尿素、炭酸カルシウムおよびアンモニアガスなどによって、上記範囲内のあらかじめ定められた値に調節される。
【実施例】
【0075】
次に、実施例を挙げて、本発明の化学品の製造方法について詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0076】
表1に、本発明で使用した消泡剤を示す。これらの消泡剤を使用して、以下の実施例を実施した。
【0077】
【表1】

【0078】
(参考例1)カダベリン濃度のHPLCによる分析方法
カダベリン量の測定は、次の方法で行った。
・使用カラム:CAPCELL PAK C18(資生堂)
・移動相:0.1%(w/w)リン酸水溶液:アセトニトリル=4.5:5.5
・検出:UV360nm
・サンプル前処理:分析サンプル25μlに内標として、1,4−ジアミノブタン(0.03M)を25μl、炭酸水素ナトリウム(0.075M)を150μlおよび2,4−ジニトロフルオロベンゼン(0.2M)のエタノール溶液を添加混合し、37℃の温度で1時間保温する。
【0079】
上記の反応溶液50μlを1mlアセトニトリルに溶解後、10,000rpmで5分間遠心した後の上清10μlをHPLC分析した。
【0080】
(参考例2)リジン濃度のHPLCによる分析方法
培養液中に含まれるリジン量の測定は、次の方法で行った。測定するリジンを含む発酵培養液を25μL取り、そこに400μlのNaHCO(75mM)および内標として25μLの1,4−ブタンジオール(2g/L)を加える。上記の溶液に、150μlの0.2M DNFBを添加後、37℃で1時間反応させた。
【0081】
その溶液50μlをアセトニトリル1mlに溶解し、10,000rpmで5分間遠心した上清10μlを以下の条件でHPLCにより分析した。
・カラム:CAPCELLPAK C18 TYPE SG120(資生堂)
・移動相:0.1%(w/w)リン酸水溶液:アセトニトリル=45:55(流速1ml/min)
・検出方法:UV(360nm)
・温度:23℃。
【0082】
検量線は、濃度既知のリジンを標品として分析を行い、横軸にリジン濃度、縦軸にリジン面積/1,4−ブタンジオール(内標)面積の面積比をプロットして作製した。
【0083】
(参考例3)グルタミン酸濃度のHPLCによる分析方法
培養液中に含まれるグルタミン酸量の測定は、次の方法で行った。測定するグルタミン酸を含む発酵培養液を25μl取り、そこに400μlのNaHCO(75mM)および内標として25μLの1,4−ブタンジオール(2g/L)を加える。上記の溶液に、150μlの0.2M DNFBを添加後、37℃で1時間反応させた。
【0084】
その溶液50μlをアセトニトリル1mlに溶解し、10,000rpmで5分間遠心した上清10μlを以下の条件でHPLCにより分析した。
・カラム:CAPCELLPAK C18 TYPE SG120(資生堂)
・移動相:0.1%(w/w)リン酸水溶液:アセトニトリル=45:55(流速1ml/min)
・検出方法:UV(360nm)
・温度:23℃。
【0085】
検量線は、濃度既知のグルタミン酸を標品として分析を行い、横軸にグルタミン酸濃度、縦軸にグルタミン酸面積/1,4−ブタンジオール(内標)面積の面積比をプロットして作製した。
【0086】
(実施例1)バッチ培養によるカダベリンの製造
カダベリンを生産させる微生物として、特開2004−222569号公報に記載のコリネバクテリウム・グルタミカムTR−CAD1株を用い、培地として表2に示す組成のカダベリン生産培地を用い、生産物であるカダベリンの濃度の評価は、HPLC法により測定して行った(参考例1参照。)。また、グルコース濃度の測定には、“グルコーステストワコーC”(登録商標)(和光純薬社製)を用い、添付のプロトコールに従って測定した。
【0087】
【表2】

【0088】
まず、コリネバクテリウム・グルタミカムTR−CAD1株を、試験管で5mlのカナマイシン(25μg/ml)を添加したカダベリン生産培地添加で一晩振とう培養し培養液を得た(前々培養)。得られた培養液を、新鮮なカナマイシン(25μg/ml)を添加したカダベリン生産培地50mlに植菌し、500ml容坂口フラスコで24時間、30℃の温度で、振幅30cmで、180rpmの条件下で培養を行い前培養液を得た(前培養)。
【0089】
得られた前培養液を、1.0Lのカダベリン生産培地に植菌し、ジャーファメンター(エイブル社製)を用いてバッチ培養を行った。攪拌機によって800rpmで攪拌し、除菌空気を毎分1000ml通気し、温度を30℃に保温し、pHを3MのHClおよび3Mのアンモニアを用いて7.0に保ちつつ調整培養を行い、30時間培養を行った。消泡剤は、1時間おきに0.1ml添加していき、泡立ち具合、発酵成績で消泡剤の比較を実施した。生産されたカダベリン濃度および残存グルコース濃度は、培養終了後に測定した。表3に、各消泡剤での泡立ち、発酵成績を示す。コリネ型細菌を使用した通気発酵において、鉱油と、脂肪酸アミドまたは金属石鹸または疏水シリカまたはシリコーンコンパウンドのいずれかが含有された消泡剤を用いて発酵すると、泡立ちが抑制され、安定したカダベリン発酵が可能であることを確認することができた。
【0090】
(比較例1)バッチ培養によるカダベリンの製造
消泡剤に、RCスビンドル油(コスモ石油社製)、ポリエーテル系消泡剤PE−L(和光純薬社製)、シリコーン系消泡剤KS−70(信越シリコーン社製)、アルコール系消泡剤ビスフォームCS−3(日新化学研究所社製)を使用したこと以外は、実施例1と同様の手順で実施した。その結果を表3に示す。消泡剤を添加しても発泡を抑えることが不可能であり、発酵成績が低下した。
【0091】
【表3】

【0092】
(実施例2)バッチ培養によるリジンの製造(遺伝子組換え株の作製)
リジン生産能力をもつ微生物として、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032(以下、ATCC13032株と略す。)のホモセリンデヒドロゲナーゼ(HOM)遺伝子破壊株の作製を行った。
【0093】
(1)レバンスクラーゼ(SacB)遺伝子のクローニング
バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)由来のSacB遺伝子のクローニングを行った。
【0094】
データベース(GenBank)に登録されているSacB遺伝子(Accession No.X02730)の塩基配列を参考に、オリゴヌクレオチドプライマー(配列番号1,2)を合成した。バチルス・サブチリス IFO13719株から常法に従い調整したゲノムDNAの溶液を増幅鋳型として0.2mlのミクロ遠心チューブに0.2μlずつ取り、各プライマーを20pmol、トリス塩酸緩衝液pH8.0(20mM)、塩化カリウム(2.5mM)、ゼラチン(100μg/ml)、各dNTP(50μM)、LATaqDNAポリメラーゼ(2単位)(宝酒造製)となるように各試薬を加え、全量を50μlとした。DNAの変性条件を温度94℃、時間30秒、プライマーのアニーリング条件を温度55℃、時間30秒、DNAプライマーの伸長反応条件を温度72℃、時間3分の各条件でBioRad社のサーマルサイクラーを用い、30サイクルポリメラーゼ連鎖反応を行わせた(以下、PCR法と略す)。この実施例2におけるPCR法は、特に断らない限り、本条件によって行った。このPCR法により得られた産物を、1%(w/w)アガロースゲルを用いて電気泳動し、SacB遺伝子を含む約1.4kbのDNA断片をゲルから切り出しジーン・クリーン・キット(BIO101社製)により精製した。この断片を、制限酵素のSacIで消化し、得られた1.4kbのSacI断片を、予めSacIで消化しておいたpHSG298(宝酒造製)のEcoRI/BamHI間隙にライゲーションキットver.1(宝酒造社製)を用いて挿入し、得られたプラスミドをpTM38と命名した。
【0095】
(2)ホモセリンデヒドロゲナーゼ(HOM)遺伝子のクローニング
HOM活性を欠損させるために、N末端から300アミノ酸領域に該当する遺伝子のクローニングを行った。
【0096】
データベース(GenBank)に登録されているHOM遺伝子(Accession No.BA000036)の塩基配列を参考に、オリゴヌクレオチドプライマー(配列番号3,4)を合成した。ATCC13032株から常法に従い調整したゲノムDNAの溶液を増幅鋳型として、配列番号3,4のオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRを行い、このPCRにより得られた産物を、1%(w/w)アガロースゲルを用いて電気泳動し、HOM遺伝子を含む約0.9kbのDNA断片をゲルから切り出しジーン・クリーン・キット(BIO101社製)により精製した。この断片を、制限酵素のSphIおよびBamHIで消化し、得られた0.9kbのSphI−BamHI断片を、予めSphIおよびBamHIで消化しておいたpTM38のSphI/BamHI間隙にライゲーションキットver.1(宝酒造社製)を用いて挿入し、得られたプラスミドをpTM44と命名した。
【0097】
(3)クロラムフェニコール耐性遺伝子(Cm遺伝子)のクローニング
データベース(GenBank)に登録されているpHSG399(Accession No.M19087)の塩基配列を参考に、オリゴヌクレオチドプライマー(配列番号5,6)を合成した。
【0098】
pHSG399を増幅鋳型として、配列番号5,6のオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRを行い、このPCRにより得られた産物を、1%(w/w)アガロースゲルを用いて電気泳動し、Cm伝子を含む約1.0kbのDNA断片をゲルから切り出しジーン・クリーン・キット(BIO101社製)により精製した。この断片を、制限酵素のAor51HIで消化し、得られた1kbのAor51HI断片を、予めAor51HIで消化しておいたpTM44のAor51HI間隙にライゲーションキットver.1(宝酒造社製)を用いて挿入し、得られたプラスミドをpTM62と命名した。
【0099】
(4)ホモセリンデヒドロゲナーゼ遺伝子の破壊
ATCC13032株にプラスミドpTM62を、電気穿孔法[FEMS Microbiology Letters,65,p.299(1989)]により導入し、カナマイシン(25μg/ml)が添加されているLB(トリプトン(10g/l)(Bacto社製)、酵母エキス(5g/l)(Bacto社製)、および塩化ナトリウム(10g/l))寒天培地上で選択した。
【0100】
このようにして選択された形質転換体から、常法に従い、ゲノムDNA溶液を調整した。このゲノムDNAを鋳型として、オリゴヌクレオチド(配列番号:3,4)をプライマーセットとして用いたPCR法を行い、得られた産物を、1%(w/w)アガロースゲルを用いて電気泳動したところ、約2.4kbのバンドが観察された。このことから、選択された形質転換体が、HOM遺伝子座にCm遺伝子が挿入され、破壊されていることを確認することができた。この形質転換体を、コリネバクテリウム・グルタミカムdelta−HOM株(以下、delta−HOM株と略す。)と命名した。
【0101】
(実施例3)
微生物として、実施例2で作製したdelta−HOM株を用い、培地として表4に示す組成のL−リジン発酵培地を用いた。生産物であるリジンの濃度の評価は、HPLC法により測定して行った(参考例2参照。)。また、グルコース濃度の測定には、“グルコーステストワコーC”(登録商標)(和光純薬社製)を用い、添付のプロトコールに従い測定した。
【0102】
まず、5mlのBY培地(0.5%(w/w)イーストエキストラクト、0.7%(w/w)ミートエキストラクト、1%(w/w)ペプトン、0.3%(w/w)塩化ナトリウム)を投入した試験管に、寒天培地から掻き取ったdelta−HOM株を植菌し、これを温度30℃で24時間振とう培養を行い前々培養液を得た(前々培養)。得られた前々培養液を、表4に示した培地を50ml投入した500mlの三角フラスコに全量植菌し、30℃の温度で24時間振とう培養し前培養液を得た(前培養)。
【0103】
【表4】

【0104】
得られた前培養液を、1.0Lのリジン生産培地に植菌し、ジャーファメンター(エイブル社製)を用いてバッチ培養を行った。攪拌機によって800rpmで攪拌し、除菌空気を毎分1500ml通気し、温度を30℃に保温し、pHを4N NHOHにて7.3に保ちつつ調整培養を行い、30時間培養を行った。消泡剤は、1時間おきに0.1ml添加していき、泡立ち具合、発酵成績で消泡剤の比較を実施した。生産されたリジン濃度および残存グルコース濃度は培養終了後に測定した。表5に、各消泡剤での泡立ち、発酵成績を示す。コリネ型細菌を使用した通気発酵において、鉱油と、脂肪酸アミドまたは金属石鹸または疏水シリカまたはシリコーンコンパウンドのいずれかが含有された消泡剤を用いて発酵すると、泡立ちが抑制され、安定したリジン発酵が可能であることを確認することができた。
【0105】
(比較例2)バッチ培養によるリジンの製造
消泡剤に、RCスビンドル油(コスモ石油社製)、ポリエーテル系消泡剤PE−L(和光純薬社製)、シリコーン系消泡剤 KS−70(信越シリコーン社製)、アルコール系消泡剤 ビスフォームCS−3(日新化学研究所社製)を使用したこと以外は、実施例3と同様の手順で実施した。その結果を表5に示す。消泡剤を添加しても発泡を抑えることが不可能であり、発酵成績が低下した。
【0106】
【表5】

【0107】
(実施例4)バッチ培養によるグルタミン酸の製造
グルタミン酸を生産させる微生物として、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC13869株を用い、培地として表6に示す組成のグルタミン酸生産培地を用い、生産物であるグルタミン酸の濃度の評価は、HPLC法により測定して行った(参考例3参照。)。また、グルコース濃度の測定には、“グルコーステストワコーC”(登録商標)(和光純薬社製)を用い、添付のプロトコールに従って測定した。
【0108】
【表6】

【0109】
まず、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC13869株を、試験管で5mlのグルタミン酸生産培地で一晩振とう培養し培養液を得た(前々培養)。得られた培養液を、新鮮なグルタミン酸生産培地50mlに植菌し、500ml容坂口フラスコで24時間、30℃の温度で、振幅30cmで、180rpmの条件下で培養を行い前培養液を得た(前培養)。得られた前培養液を、1.0Lのグルタミン酸生産培地に植菌し、ジャーファメンター(エイブル社製)を用いてバッチ培養を行った。攪拌機によって800rpmで攪拌し、除菌空気を毎分300ml通気し、温度を30℃に保温し、pHをNHガスにて7.5に保ちつつ調整培養を行い、40時間培養を行った。消泡剤は、1時間おきに0.1ml添加していき、泡立ち具合、発酵成績で消泡剤の比較を実施した。生産されたグルタミン酸濃度および残存グルコース濃度は、培養終了後に測定した。表7に、各消泡剤での泡立ち、発酵成績を示す。コリネ型細菌を使用した通気発酵において、鉱油と、脂肪酸アミドまたは金属石鹸または疏水シリカまたはシリコーンコンパウンドのいずれかが含有された消泡剤を用いて発酵すると、泡立ちが抑制され、安定したグルタミン酸発酵が可能であることを確認することができた。
【0110】
(比較例3)バッチ培養によるグルタミン酸の製造
消泡剤に、RCスビンドル油(コスモ石油社製)、ポリエーテル系消泡剤PE−L(和光純薬社製)、シリコーン系消泡剤KS−70(信越シリコーン社製)、アルコール系消泡剤ビスフォームCS−3(日新化学研究所社製)を使用したこと以外は、実施例4と同様の手順で実施した。その結果を表7に示す。消泡剤を添加しても発泡を抑えることが不可能であり、発酵成績が低下した。
【0111】
【表7】

【配列表フリーテキスト】
【0112】
配列番号1:レバンスクラーゼ(SacB)遺伝子のクローニング用オリゴヌクレオチドプライマー。
配列番号2:レバンスクラーゼ(SacB)遺伝子のクローニング用オリゴヌクレオチドプライマー。
配列番号3:ホモセリンデヒドロゲナーゼ(HOM)遺伝子のクローニング用オリゴヌクレオチドプライマー。
配列番号4:ホモセリンデヒドロゲナーゼ(HOM)遺伝子のクローニング用オリゴヌクレオチドプライマー。
配列番号5:クロラムフェニコール耐性遺伝子(Cm遺伝子)のクローニング用オリゴヌクレオチドプライマー。
配列番号6:クロラムフェニコール耐性遺伝子(Cm遺伝子)のクローニング用オリゴヌクレオチドプライマー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コリネ型細菌を使用した通気発酵による化学品の製造方法において、鉱油と、脂肪酸アミド、金属石鹸、疏水シリカおよびシリコーンコンパウンドからなる群から選ばれた化合物とが含有された消泡剤を用いて発酵することを特徴とする化学品の製造方法。
【請求項2】
消泡剤が、鉱油と脂肪酸アミドを含有するものであることを特徴とする請求項1記載の化学品の製造方法。
【請求項3】
コリネ型細菌が、コリネバクテリウム属およびブレビバクテリウム属からなる群から選ばれた細菌であることを特徴とする請求項1または2記載の化学品の製造方法。
【請求項4】
コリネ型細菌が、コリネバクテリア・グルタミカムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の化学品の製造方法。
【請求項5】
化学品が、カタベリン、リジンまたはグルタミン酸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の化学品の製造方法。

【公開番号】特開2012−75429(P2012−75429A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226536(P2010−226536)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】