説明

消火システム

【課題】ゴム製品やプラスチック製品の倉庫に好適な消火システムを提供する。
【解決手段】タイヤを貯蔵する倉庫1の天井側に配置された複数の大流量スプリンクラーヘッド(114L/min以上)12と、消火用水と泡消火薬剤と混合して泡水溶液を生成する混合装置9と、火災の発生を検知する火災検知器3とを備え、火災検知器3により火災の発生が検知されると、泡水溶液をスプリンクラーヘッド12からタイヤに向けて散布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ等のゴム製品やプラスチック製品等を貯蔵する倉庫の消火システムに関する。
【背景技術】
【0002】
走行中車両がタイヤ火災を起こしたときには、その温度を検出してエンジンルームに消火剤を放出するといった従来の技術があったが、例えばタイヤを貯蔵するタイヤ倉庫やタイヤ流通センター等において火災が発生した場合には、消火栓や消火器で対応している(例えば特許文献1等)。
【0003】
ところで、海外では、タイヤ倉庫の貯蔵量や貯蔵形態に応じて水スプリンクラーヘッド(ESFR:早期抑制速動型SP)や高膨張泡消火設備を設置するNFPA(米国防火協会)やFM(米国工場相互保険協会)などの基準がある。日本国内でも固定式ラック倉庫では、消防法令により一般の水スプリンクラーヘッドや高膨張泡消火設備を設置することになっている。
【特許文献1】特開2000−196032号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、消火栓や消火器によりタイヤ倉庫、とりわけラック倉庫の火災を消火しようとすると次のような問題点が発生する。
(1)ゴム製のタイヤは部位によっては着火しやすく、一旦着火すると発熱量が大きい
ため消火栓や消火器では容易に消火できない。
(2)タイヤは一般的に複数段のラックの上に積まれている。下段のタイヤが燃焼する
と上段のタイヤへ延焼しやすく、消火活動は一層難しい。
(3)タイヤ燃焼と同時に、黒煙も多量発生する。黒煙は人間の消火活動に支障を与え
る。
(4)ゴムタイヤ表面は撥水性であるため、水のみでは撥かれてタイヤ表面を充分濡ら
すことが出来ず、充分な消火効果が望めない。
プラスチック製品のラック倉庫でもこれらとほぼ同様の問題点がある。
【0005】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、ゴム製品やプラスチック製品の倉庫に好適な消火システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る消火システムは、タイヤを含むゴム製品又はプラスチック製品を貯蔵する倉庫の天井側に配置された複数の大流量スプリンクラーヘッドと、消火用水と泡消火薬剤とを混合して泡水溶液を生成する混合装置と、火災の発生を検知する火災検知手段とを備え、前記火災検知手段により火災の発生が検知されると、前記泡水溶液を前記スプリンクラーヘッドから前記製品に向けて散布する。なお、本発明において、大流量スプリンクラーヘッドとは114L/min以上(放水圧力0.1MPa時)の吐出流量を有するものとする。
また、前記泡消火薬剤としては、水成膜泡、合成界面活性剤又たん白泡を使用する。 また、前記混合装置は、前記泡水溶液の泡消火薬剤濃度が0.1%〜3.0%の範囲となるように前記消火用水と前記泡消火薬剤とを混合する。
【発明の効果】
【0007】
本発明においては、消火用水と泡消火薬剤と混合して泡水溶液を生成された泡水溶液をスプリンクラーヘッドから製品に向けて放射するようにしたので、ゴム製品やプラスチック製品の倉庫に好適な消火システムが実現されている。即ち、大流量の消火剤を放射することができるので高い燃焼エネルギーを持つタイヤ火災等を短時間で抑制することができる。また、消火剤として泡消火薬剤を使用することで、表面張力が低下して泡水溶液が製品表面に沿って展開性(広がり)が良く、膜形成に優れているので、冷却効果が高く、燃焼面の被覆による窒息効果もよい。さらに、泡水溶液が製品と衝突して二次発泡した泡の被覆となることにより、製品表面における滞留時間が長くなり、継続的な冷却・窒息と再着火防止により消火効率が向上する等により消火効果が優れたものとなっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施形態1.
図1は本発明の実施形態1に係る消火システムの構成図である。同図において、倉庫1は、壁など区切られていない一つの倉庫又は耐火壁等で複数に仕切られた防火区画のうち一つの区画を示している。倉庫1内には可燃性収納物ラック2が複数台配置されており、この可燃性収納物ラック2にはタイヤが載置される。可燃性収納物ラック2の上部(倉庫1の天井側)には火災検知器3が各消火区画に対応してそれぞれ配置されている。火災検知器3の出力は火災受信機4に出力され、火災受信機4は火災検知器3の出力に基づいて火災警報を発するとともに火災表示をし、更に消火設備制御盤5に火災発生信号を出力する。水槽6には消火用水が貯蔵され、加圧送水装置(ポンプ)7が消火設備制御盤5からの制御指令に基づいて消火用水を汲み上げて送り出す。この加圧送水装置(ポンプ)7からの消火用水は、泡消火薬剤タンク8の泡消火薬剤と混合装置9で混合されて消火用水配管10に送り出される。泡消火薬剤タンク8の泡消火薬剤は、例えば水成膜泡、合成界面活性剤、たん白泡等の各種のものが使用される。また、混合濃度は、例えば水成膜泡消火薬剤の場合には泡水溶液の表面張力と放射パターンの縮み方から0.1%以上3.0%以下であれば良く、好ましくは0.3%から2.0%、好ましくは0.5から1.0%であれば良い(この根拠は後述の図3及び図4により説明する)。また、この泡消火薬剤タンク8は、加圧送水装置(ポンプ)7による送水圧力がタンク8に加圧すると、泡消火薬剤を送出する構成になっている。
【0009】
消火用水配管10には、各消火区画に対応して区画選択弁11及び開放型のスプリンクラーヘッド(以下、SPヘッドという)12が取付けられており、区画単位で消火がなされる。SPヘッド12には例えば大流量SPヘッド(114〜400L/min)が用いられ、泡水溶液(例えば泡原液1%)を放射して、火災タイヤに直接散布する。上記の加圧送水装置(ポンプ)7と混合装置9との間には仕切り弁(平常時:開)13が設けられており、点検時などに仕切り弁13を閉じることにより、加圧送水装置(ポンプ)7と混合装置9側とを遮断することができる。火災検知手段としての火災検知器3と火災受信機4とは火災検知器配線14で接続されており、火災検知器3の検知出力が火災検知器配線14を介して火災受信機4に供給される。消火設備制御盤5と区画選択弁11とは区画選択弁配線15で接続されており、消火設備制御盤5からの制御信号が区画選択弁配線15を介して区画選択弁11に供給される。また、消火設備制御盤5と加圧送水装置(ポンプ)7とはポンプ制御配線16で接続されており、消火設備制御盤5からの制御信号(起動信号)がポンプ制御配線16を介して加圧送水装置(ポンプ)7に供給される。また、消火設備制御盤5には手動起動装置17が接続さており、消火用水配管10には流水検知装置18が取付けられている。流水検知装置18の検知出力(作動信号)は火災受信機4に供給される。また、加圧送水装置(ポンプ)7の出側にはポンプ起動用圧力スイッチ19が取り付けられており、ポンプ起動用圧力スイッチ19は消火用水配管10内の圧力を検出して消火設備制御盤5に出力する。なお、本実施形態1においては、平常時には、混合装置9で混合生成された泡水溶液が消火用水配管10に充填されているものとする。可燃収納物ラック2は、通常金属性のパイプをフレームとして形成されている。ラック上に積まれるタイヤは、図示しないが、ドーナツの形状を有し、タイヤ同士が肩並びのように縦置きされている。そのため、タイヤ火災が発生すると、上記ドーナツで形成された空洞には燃焼が早く、且つ横に延焼しやすいという特徴がある。
【0010】
図2は図1の消火システムの処理過程を示したフローチャートである。
図1の倉庫1内でタイヤが何らかの原因で燃えて火災が発生すると、火災検知器3が作動して火災検知信号を火災受信機4に出力する(S11)。火災受信機4は火災検知器3からの火災検知信号を入力すると、その火災検知信号に基づいて火災警報を発するとともに火災表示をし、更に、消火設備制御盤5に火災発生信号を出力する(S12)。消火設備制御盤5は、火災表示をするとともに(S13)、火災を検知した火災検知器3に対応する区画の区画選択弁11を開放する(S14)。これにより該当する区画のSPヘッド12から、消火用水配管10に予め充填しておいた泡水溶液が放射される(S15)。消火用水配管10内の泡水溶液がSPヘッド12から放射されることにより、泡水溶液が消火用水配管10内を移動して流水検知装置18が作動し(S16)、流水検知装置18の作動信号が火災受信機4に入力する。火災受信機4は流水検知装置18が作動したことを示す信号を消火設備制御盤5に出力する。
【0011】
SPヘッド12から泡水溶液が放射されることにより消火用水配管10内の圧力が低下すると(S17)、これによりポンプ起動用圧力スイッチ19が作動する(S18)。消火設備制御盤5は、流水検知装置18の作動信号を入力した後にポンプ起動用圧力スイッチ19の作動信号が入力すると、加圧送水装置(ポンプ)7を起動させて水槽6の消火用水を送水する(S19,S20)。また、この加圧送水装置(ポンプ)7の起動により泡消火薬剤タンク8が加圧され(S21)、泡消火薬剤が送り出される(S22)。混合装置9は、水槽6からの消火用水と泡消火薬剤タンク8からの泡消火薬剤とを混合して泡水溶液を継続して送出する(S23)。これによりSPヘッド12から泡水溶液が放射されて消火活動が継続し(S24)、消火に至る。なお、上記の説明においては、火災検知器3が作動する例について説明したが、作業員等により火災を発見した場合には、手動起動装置17を操作することにより、火災受信機4がその起動信号を取り込むことにより上記の例の同様な動作が得られる。
【0012】
ところで、消火用水に泡消火薬剤を添加する効果は、それに含有される界面活性剤により水溶液の表面張力を低下させて対象物表面を濡らすこと及び適度に発泡させた泡による表面の被覆にある。
図3は水成膜泡消火薬剤を添加した場合の添加濃度と泡水溶液の表面張力を測定した例である。これによると,水成膜泡消火薬剤を0.1%添加しただけで表面張力が水(=泡消火薬剤濃度0%)の半分程度まで低下している。この程度まで表面張力が低下すれば、ゴムタイヤなどの表面での濡れ性は充分である。一方、本実施形態1の消火システムでは各種のSPヘッドが泡水溶液放射用ヘッドとして使用できるが,図4はその1例のヘッドで水成膜泡消火薬剤水溶液を放射した場合の、各添加濃度における有効散水半径の水(=泡消火薬剤濃度0%)の有効散水半径との比率を示したグラフである。これによると、泡消火薬剤添加濃度が高くなるほどヘッドのデフレクターで発泡して散水半径が狭くなるため、それに伴ってスプリンクラーヘッドの設置間隔を狭くしなければならなくなる。そのため、添加濃度は実用上3%以下であることが望ましい。以上により、泡消火薬剤濃度は、0.1%から3.0%であることが望ましく、好ましくは0.3%から2.0%、より好ましくは0.5%から1.0%であれば良い。
【0013】
以上のように本実施形態1においては、SPヘッド12として大流量SPヘッドを用いたことにより、従来のSPヘッドより大流量の消火剤を放射することができ、高い燃焼エネルギーを持つタイヤ火災を短時間で抑制することができる。このため、一般のSPヘッドよりも流量の大きいESFRヘッド等を使用することが好ましい。
【0014】
また、消火剤として泡消火薬剤を添加・混合した泡水溶液を使用している。この泡水溶液は、添加される界面活性剤の効果により表面張力が低くなり、ゴムタイヤ表面での濡れ性が良いためタイヤ表面に沿って展開性(広がり)が良く、膜形成に優れているので、水に比べて冷却効果が高く燃焼面の被覆による窒息効果もよい。加えて、放射された泡水溶液の液滴がタイヤ表面に衝突して二次発泡した泡の被膜となることにより、タイヤ表面における滞留時間が長くなり継続的な冷却・窒息と、ゴムタイヤが熱分解して発生する可燃性ガスの遮断による再着火防止効果が期待できる、といった特徴があるため、消火効果が優れている。
【0015】
上記のことは、プラスチック製品の火災に対しても同様のことが期待できるので、本発明はプラスチック製品を貯蔵する倉庫においても同様に適用される。また、ポリエチレン(PE) やポリプロピレン(PP)は燃焼すると、溶解して油火災に似た液体火災になるため、水による消火はかえって火災を煽る場合がある。そのため、泡が油面を覆って油火災を消火するのと同様に、このようなプラスチック類の火災の消火にも泡水溶液が適している。
【0016】
なお、本実施形態1においては、SPヘッド12としては開放型のものを使用することを前提に説明したが、火災検知手段と兼用される閉鎖型のSPヘッドを使用してもよいことは言うまでもない。
【0017】
実施形態2.
図5は本発明の実施形態2に係る消火システムのシステムの構成図である。なお、同図において、倉庫1は図1の場合と同様に、壁など区切られていない一つの倉庫又は耐火壁で複数に仕切られた防火区画のうち一つの区画を示している。本実施形態2は、倉庫1の壁によって区画され、当該区画された倉庫1の全域に対して大流量SPヘッド(114〜400L/min)が泡水溶液(泡原液1%)を散布する、いわゆる全域放射の消火システムである。このため、本実施形態2の消火システムにおいては、図1の実施形態1の消火区画毎に設けられた区画選択弁11の代わりに、消火用水配管10に一斉開放弁11aが取付けられている。この点を除けば実施形態1の構成と基本的には同一であり、図2のフローチャートの処理においても、区画選択弁11を開放する代わりに、一斉開放弁11aが開放される点が相違するだけである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態1に係る消火システムのシステムの構成図である。
【図2】図1の消火システムの処理過程を示したフローチャートである。
【図3】水成膜泡消火薬剤を添加した場合の添加濃度と泡水溶液の表面張力を測定した特性図である。
【図4】水成膜泡消火薬剤水溶液を放射した場合の、各添加濃度における有効散水半径の水の有効散水半径との比率を示した特性図である。
【図5】本発明の実施形態2に係る消火システムのシステムの構成図である。
【符号の説明】
【0019】
1 倉庫、2 可燃性収納物ラック、3 火災検知器、4 火災受信機、5 消火設備制御盤、6 水槽、8 泡消火薬剤タンク、9 混合装置、10 消火用水配管、11 区画選択弁、11a 一斉開放弁、12 SPヘッド、13 仕切り弁、14 火災検知器配線、15 区画選択弁配線、16 ポンプ制御配線、17 手動起動装置、18 流水検知装置、9 ポンプ起動用圧力スイッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤを含むゴム製品又はプラスチック製品を貯蔵する倉庫の天井側に配置された複数の大流量スプリンクラーヘッドと、
消火用水と泡消火薬剤とを混合して泡水溶液を生成する混合装置と、
火災の発生を検知する火災検知手段とを備え、
前記火災検知手段により火災の発生が検知されると、前記泡水溶液を前記スプリンクラーヘッドから前記製品に向けて散布することを特徴とする消火システム。
【請求項2】
前記泡消火薬剤として、水成膜泡、合成界面活性剤又たん白泡を使用することを特徴とする請求項1記載の消火システム。
【請求項3】
前記混合装置は、前記泡水溶液の泡消火薬剤濃度が0.1%〜3.0%の範囲となるように前記消火用水と前記泡消火薬剤とを混合することを特徴とする請求項1又は2記載の消火システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−252636(P2007−252636A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−81296(P2006−81296)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000233826)能美防災株式会社 (918)
【Fターム(参考)】