説明

消火ポンプ装置

【課題】 災害発生時の不利な条件のもとで、確実かつ効果的な作動を得ることができるような消火ポンプ装置を提供する。
【解決手段】 この消火ポンプ装置は、水を圧送する電動式のポンプ10と、ポンプ10の吐出側に取り付けられた主配管52と、主配管から分岐して設けられた分岐配管54,56と、該分岐配管に沿って設けられた1または複数の放水手段50とを有する。さらに、ポンプ10の吐出側には圧力検知器72が設けられ、この圧力検知器72の出力に基づいてポンプをその吐出し圧力が所定の値となるように可変速制御する可変速制御手段30が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物の所定箇所に配置され、火災発生の際に放水して消火を行う消火ポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の火災の際に、初期消火を担うものとして火災発生箇所に放水するための消火ポンプ装置が設置されている。放水設備としては、人力を介して火災発生箇所にホース等を介して放水する消火栓と、必要領域をカバーするように天井に配置され、火災発生を検知して自動的に放水するスプリンクラーヘッド装置が主である。
【0003】
このような消火ポンプ装置は、火災発生という緊急時に確実にかつ効果的に作動することが求められている。例えば、地震による二次災害として発生する火災の場合には、通常電源が遮断され、非常用電源で起動したり、あるいは運転を継続することが求められる場合も多い。しかしながら、通常は消火ポンプの起動時に多くの電力が必要となり、他の設備に必要な電気と競合する可能性があった。また、スプリンクラーヘッド装置を用いて放水する場合、適当な放水圧力を維持しないと適当な範囲での散水が行われないおそれも有る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、災害発生時の不利な条件のもとで、確実かつ効果的な作動を得ることができるような消火ポンプ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の消火ポンプ装置は、水を圧送する電動式のポンプと、前記ポンプの吐出側に取り付けられた主配管と、前記主配管から分岐して設けられた分岐配管と、該分岐配管に沿って設けられた1または複数の放水手段と、前記ポンプの吐出側に取り付けられた圧力検知器と、前記圧力検知器の出力に基づいて前記ポンプをその吐出し圧力が所定の値となるように可変速制御する可変速制御手段とを有することを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の消火ポンプ装置は、請求項1に記載の発明において、前記可変速制御手段は、誘導電動機とその電源側に設けられたインバータとを有することを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の消火ポンプ装置は、請求項1に記載の発明において、前記可変速制御手段は、直流ブラシレス電動機と、その電源側に設けられた電圧制御器とを有することを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載の消火ポンプ装置は、請求項2に記載の発明において、前記インバータを冷却するために、前記ポンプの吐出し側の配管から分岐する冷却水配管が設けられていることを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載の消火ポンプ装置は、請求項2に記載の発明において、前記ポンプの内部のキャビティに呼水を与える呼水槽が設けられ、前記インバータは前記呼水槽に貯留している水で冷却されるようになっていることを特徴とする。
【0010】
請求項6に記載の消火ポンプ装置は、請求項2に記載の発明において、前記主配管には、前記放水手段に所定の圧力を与える起動用圧力タンクが設けられ、この起動用圧力タンクの圧力の低下を回復させるために、前記ポンプを微速運転するようになっていることを特徴とする。
【0011】
請求項7に記載の消火ポンプ装置は、請求項1に記載の発明において、前記ポンプの起動時において、回転速度を緩やかに上昇させることを特徴とする。
【0012】
請求項8に記載の消火ポンプ装置は、請求項1に記載の発明において、前記ポンプの回転速度をS字曲線に沿って上昇させることを特徴とする。
【0013】
請求項9に記載の消火ポンプ装置は、請求項1に記載の発明において、前記ポンプの回転速度を、前記ポンプの吐出し圧力が所定の目標圧力になるように制御することを特徴とする。
【0014】
請求項10に記載の消火ポンプ装置は、請求項1に記載の発明において、前記ポンプの回転速度を、前記ポンプの吐出し口から前記放水手段の末端までの配管の摩擦抵抗の変化を考慮し、前記放水手段の末端での推定圧力が所定の目標圧力になるように制御することを特徴とする。
【0015】
請求項11に記載の消火ポンプ装置は、請求項1に記載の発明において、通常電源から非常電源への切り替えを検知し、これに基づいて起動の際の回転速度の上昇パターンを変化させることを特徴とする。
【0016】
請求項12に記載の消火ポンプ装置は、請求項1に記載の発明において、前記ポンプを含む防災機器を、重要度に応じた優先順位に沿って起動させることを特徴とする。
【0017】
請求項13に記載の消火ポンプ装置は、請求項1に記載の発明において、必要な防災機器の全体を稼動させる時間を最小限とするように電源の配分を最適化することを特徴とする。
【0018】
請求項14に記載の消火ポンプ装置は、請求項1に記載の発明において、前記ポンプの前段にさらに第2のポンプを設け、該加圧ポンプの吐出し側に第2の圧力検知器を設け、この第2の圧力検知器の出力に基づいて前記第2のポンプをその吐出し圧力が所定の値となるように可変速制御することを特徴とする。
【0019】
請求項15に記載の消火ポンプ装置は、請求項14に記載の発明において、火災の発生の際に、前記第2のポンプを起動させ、その吐出し圧が所定値に達した後に前記第1のポンプを起動させることを特徴とする。
【0020】
請求項16に記載の消火ポンプ装置は、請求項1に記載の発明において、火災の検知に基づく始動信号を、自己保持機構を持つ記憶手段に記憶するようになっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1ないし請求項16に記載の消火ポンプ装置によれば、非常用電源で起動したり、運転する場合でも、使用可能な電力を考慮しつつポンプを制御して運転することができる。また、放水設備や火災発生箇所等を考慮して、適当な給水圧力を維持するようにポンプを制御して運転することができる。したがって、災害発生時の不利な条件のもとでも、確実かつ効果的な作動を得ることができるような消火ポンプ装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。
図1は、この発明の第1の実施の形態の消火ポンプ装置の全体の構成を示す図であって、この例では、消火ポンプ装置は、消火ポンプ10とそれに付随する周辺機器を共通ベース11上に搭載してユニット化して構成された給水ユニット12と、3つの階で個別に作動する放水システム14と、水源である地下水槽16及び補助高置水槽17と、これらを結ぶ配管とから構成され、火災発生時に給水ユニット12が水源の水を放水システム14に給水して初期消火を行うことができるようになっている。
【0023】
給水ユニット12内には、図2ないし図4に具体的に示すように、消火ポンプ10、駆動用電動機18、制御盤20、呼水槽22、加熱防止逃がし装置24、及びこれらを連通する配管、フレキシブルパイプ(可撓管継手)、逆止弁70、仕切弁71、試験用流量計測装置68、ポンプ始動用の圧力検知器72、吸い込み配管カバー、吸い込み配管用フート弁、後述する起動用圧力タンク74等が設けられている。消火ポンプ10は、ポンプ本体とこれを駆動する電動機18とが共通ベース11上で直結した直結形か、一体化された直動形で運転される。制御盤20には、電源線25が接続され、これには電源切換手段26を介して常用電源27と非常用電源28が接続されている。
【0024】
駆動用電動機18は、図5に示すように、誘導電動機18とその電源側に設けられたインバータ(周波数変換器)30とからなり、インバータ30により電動機18の回転速度を制御しつつ駆動することができる。なお、電動機18として直流ブラシレス電動機を使用し、その電源側にドライバー(電圧制御器)を配置するようにしてもよい。
【0025】
インバータ30は、図6に示すように、電力を制御する半導体素子32により構成され、制御盤20内に配置されて、一体に設けられた冷却フィン34、及びそれを冷却する手段を有している。すなわち、図7及び図8に示すように、制御盤20の箱体は、通気のためのスリットやルーバーのような穴21を開けたり、ダクトを用いて温度の低い外気を取り入れて、冷却フィン34を冷却している。このような空冷の場合は、インバータ30を制御盤20内の空気の循環による冷却し易い場所に取付けるのが好ましい。なお、より簡便な方法として、図9に示すように、冷却フィン34を箱体の外に突き出して取付け、外気で直接冷却をするようにしてもよい。
【0026】
一方、図11に示すように、消火ポンプ10の吐出し側の配管から分岐させた冷却水配管36からの水を水冷ジャケット38を通して消火ポンプ10の吸込み側配管に戻すか、吸込み水槽に戻すようにしてもよい。これにより、消火ポンプ10自体の吐出し水を用いて効率的な冷却を行うことができる。また、水冷ジャケットを用いず、インバータ30本体か冷却フィン34を呼水槽22の直下に接して取付け、呼水槽22に貯留している水で冷却をするようにしてもよい。
【0027】
制御盤20内には、図5に示すように、消火ポンプ10の運転動作や、電動機18の回転速度の制御、圧力のPI制御等をする、マイコンを用いた制御装置40が設けられている。この制御装置40は、各動作毎に専用のものを設けてこれらを連携させるようにしても良いし、一個の制御装置で兼用しても良い。
【0028】
また、制御盤20内には、ポンプ・電動機18を修理・点検する時、電気を遮断する遮断器や、電動機18の運転電流が過電流になった時、電流を検知して警報を発報する過電流保護装置や、電動機18の電流を監視して電動機18の発熱を演算し、過負荷状態になった時に警報を発報する過負荷保護装置や、制御盤20以降の回路や電路で発生した漏電による零相の電流を検知して警報を発報する漏電保護装置や、インバータ交流から直流への入力側の電力変換時に発生する高調波を低減する交流リアクトル36(図5及び図6参照)や直流リアクトルが取付けられている。
【0029】
インバータ直流から交流への出力側の電力変換時に発生する高周波が制御盤20の外へ流出したり、外部の高周波ノイズが制御盤20内に侵入して制御機器に誤動作をさせないように、ノイズフィルタ38(図5及び図6参照)が取付けられている。
【0030】
制御盤20の接続配線の入り口部には、外部から侵入する誘導雷のサージ電圧や電流に対して、制御機器を保護するための、アレスタ23や避雷器が取付けられている。制御盤20面には、消火ポンプ10を操作する上に必要な、操作スイッチ、液晶表示器またはLED表示器42(図10参照)、各種設定を入力するスイッチや設定器が取付けられている。
【0031】
操作スイッチは、機械式有接点スイッチや無接点スイッチを使用する。表示器42は、液晶表示器に、文字・数字・記号をセグメントで表示したり、セグメント表示で状態を表示したり、ドットマトリクスで表示を行う。LED表示器を使用して、液晶表示器と同様な表示をすることができる。LED表示器の場合は、記載した文字周辺で、表示灯を点灯・消灯して表示をしても良く、また、表示灯の点灯色を切り替えて点灯表示しても良い。
【0032】
建築物内の各階には、放水手段である閉鎖型スプリンクラーヘッド50を含む放水システム14が設けられている(図1参照)。この放水システム14は、消火ポンプ10から建物の上下方向に沿って延びる主配管52と、主配管52から各階において分岐する各階配管54と、各階の所定領域において各階配管54から分岐し天井に沿って延びる領域配管56と、領域配管56に沿って互いに所定間隔を置いて設けられたスプリンクラーヘッド50とを備えている。主配管52の末端は例えば屋上等に配置された補助高置水槽17に開閉弁58及び逆止弁60を介して接続されている。各階配管54の所定箇所には、必要に応じて補助散水栓62が設けられている。各領域配管56の末端には、末端試験弁64と圧力表示器66が取付けられている。
【0033】
消火ポンプ10の吸込側は吸い込み配管10aを介して水源である地下水槽16に連結されている。消火ポンプ10の上側には、消火ポンプ10の内部のキャビティに呼水を与える呼水槽22が設けられている。この呼水槽22には、消火ポンプ10自体により、あるいは外部の給水手段により、常時一定レベルの水位が維持されるようになっており、また、消火ポンプ10の性能が当初の能力を有していることを確認するための試験装置68が設けられている。
【0034】
主配管52の基端部分(給水ユニット12に接続する側)には、逆止弁70が設けられ、その下流側の開閉弁71との間には圧力検知器72が設けられ、さらに、起動用圧力タンク74に接続する起動用配管76が合流している。起動用圧力タンク74内は所定のガス圧(最上階のスプリンクラーヘッド50から放水が可能な圧力)を維持するように管理され、常時、主配管52以降の各配管内の水に所定圧力を負荷している。各階配管54には、自動警報器78がそれぞれ設けられている。自動警報器78の出力は受信器80を介して、また圧力検知器72の出力は直接にそれぞれ制御盤20に導かれている。
【0035】
上記の構成の消火ポンプ装置の動作を説明する。建物の所定の領域において火災が発生すると、その領域のスプリンクラーヘッド50が火災を検知し、例えば、その先端を封じるヒューズメタルが溶けて開口し、起動用圧力タンク74によって加圧された配管内の水が当該領域に散水される。この散水によって起動用圧力タンク74の内圧は急激に低下し、その低下信号を検知して制御装置40は消火ポンプ10を起動する。同時に、スプリンクラーヘッド50が作動した階の各階配管54において自動警報器78が水の流通を検知し、その信号が制御装置40に入力されるので、どの階で火災が発生したかが判断され、制御装置40はその階で放水が可能なように消火ポンプ装置の制御を行う。
【0036】
以下、消火ポンプ10の起動と制御について詳しく説明する。
好ましい実施の形態においては、消火ポンプ10の回転速度をインバータ30により可変制御して、通常のポンプの起動の場合よりも緩やかに上昇させる(ソフトスタート)。ソフトスタートの加速は、零から最高値まで直線的に上昇させるか、図12に示すように、S字曲線に沿って上昇させる。
【0037】
S字曲線に沿って消火ポンプ10の回転速度を上昇させることの利点は以下の通りである。すなわち、速度が低い時は、電動機18やポンプ10内の回転体の摺動部における摺動抵抗が大きく、過大な電流が流れてインバータ30の過電流保護が作動することがある。これに対して、比較的回転速度を緩やかに上昇させることにより、このインバータ30保護のための動作停止が発生しないようにすることができる。ある程度の回転速度に達した状態では、摩擦等の抵抗は少なくなるので、加速を大きくして、目標圧力に到達する時間を短くする。高速になると、渦巻きポンプ10等の遠心型ポンプ10は、回転速度の2乗に比例して、吐き出し圧力が上昇していくので、目標圧力に速く安定させるために、加速を小さくする。これにより、過電流等の保護動作を働き難くして、より速い時間で、ポンプ10の吐き出し圧力を、目標圧力に安定させることができる。
【0038】
起動時においては、ポンプ10の吐出し側、すなわち、主配管52内の圧力(圧力検知器72の検出値)は、通常、スプリンクラーヘッド50からの散水により、目標圧力より低下している。そこで、制御装置40内に記憶させた吐出し目標圧力となるポンプ10の最少流量の時の回転速度を算出し、この回転速度に対応するようにインバータ30の出力周波数を上昇させる。これにより、ポンプ10から送水された水により、スプリンクラーヘッド50からの散水による消火が継続される。
【0039】
次に、制御装置40は、圧力検知器72で検出したポンプ10の吐出し圧力が目標圧力になるようにPIまたはPID制御を行う。1つの方法では、図13に示すように、ポンプ10の吐出し圧力を圧力検知器72で検知し、吐出し圧力が流量に関わらず一定となる吐出し圧力一定制御を行う。別の方法では、図14に示すように、ポンプ10の回転速度から流量を算出し、流量の変化によるポンプ10の吐出し口から末端のスプリンクラーヘッド50までの配管の摩擦抵抗の変化を考慮した曲線に沿って制御する推定末端圧力一定制御を行う。
【0040】
いずれの場合も、目標圧力の設定値は、制御装置40内に予め複数の値を記憶させておき、スプリンクラーヘッド50の開放動作した区画の自動警報装置からの信号により、必要な目標圧力設定値を選択して圧力制御運転を行う。これにより、どの階のスプリンクラーヘッド50が作動したか、あるいはいくつのスプリンクラーヘッド50が作動したかに拘わらず、スプリンクラーヘッド50には所定の圧力の水が供給され、したがって、各スプリンクラーヘッド50による散水角度や散水領域が適正に保たれ、消火の効率を高めることができる。
【0041】
消火ポンプ10の制御の工程をより詳しく説明する。インバータ30により、ポンプ10が始動を始めてから、微少時間が経過した後、制御装置40内のPI制御機能を働かせて、圧力検知器72からの圧力信号と目標圧力をPI制御で演算し、出力値に基づいてインバータ30の指令周波数信号を送る。信号の送信は、電流信号や電圧信号等のアナログ信号か、デジタルの通信信号を使用して、制御装置40とインバータ30間を結ぶ方式を用いる。また、インバータ30の制御回路内(ソフトプログラム)に同様の機能を組みこんでも良い。
【0042】
インバータ30の周波数が上昇し、ポンプ10の吐き出し圧力も上昇して、目標圧力に到達すると、制御装置40により、インバータ30の周波数すなわちポンプ10駆動用電動機18の回転速度を、圧力検知器72からの現在圧力と目標圧力が一致するように、周波数を上下させて制御を行う。検出圧力が、目標値より高ければ周波数を下げ、低ければ周波数を上げて、目標圧力に収束させる。
【0043】
火災の範囲の広がりにより、スプリンクラーヘッド50からの散水個数が増加して、送水必要量が増加すると、ポンプ10の吐き出し圧力は低下するが、PI制御によりインバータ30周波数も増加するので、送水流量が増加した時も同じ吐き出し圧力が維持される。
【0044】
更なる火災の広がりにより、別の区画のスプリンクラーヘッド50が開放し、散水を開始すると、この系統の自動警報装置が動作して、この信号が、受信器80を経由して、消火ポンプ制御盤20に入る。この時、この系統の制御盤20に記憶された、目標圧力信号が、現在運転している目標圧力より高ければ、制御装置40は目標圧力を高い方に切替えて、インバータ30の周波数を増加させる。これにより、両方のスプリンクラーヘッド50の圧力が不足しないように、消火ポンプ10の運転が行われる。
【0045】
火災の発生時は、火災や他の要因(地震等)により電気系統が被害を受け、停電する場合があるので、この実施の形態では、通常電源以外に非常電源を有するバックアップシステムを有している。通常電源は、電力会社から供給されるもので容量も大きく安定している。他方、非常電源は、自家発電装置や蓄電池設備等を使用しており、一般に容量が小さく安定性も小さい。
【0046】
そこで、この実施の形態の消火ポンプ10では、初期消火時に通常電源で始動し、途中で非常電源に切り替ることを想定して、以下のような制御を行うようになっている。すなわち、火災信号や、起動用圧力空気槽(タンク)による圧力低下の始動信号は、通常の電気回路では、停電が発生すると、初期状態に戻り、信号が消えてしまう。したがって、そのままでは、非常電源により通電が再開しても消火ポンプ10は始動せず、消火活動が遮断されてしまう。そのため、この実施の形態では、消火ポンプ制御盤20は、火災検知信号や始動信号は、機械的な保持機構をもったリレーまたは不揮発メモリー機能を持った半導体記憶回路に入力され、記憶されるようになっている。同様に、可変速消火ポンプ10においても、外部から入力された各種信号や情報は、停電時でも保持できるように、不揮発メモリーを回路に使用したり、回路を一次電池や二次電池でバックアップしている。これにより、復電時においてポンプ10を自動的に再始動させることができるようになっている。
【0047】
上述したように、非常電源設備は、通常使用しない設備であり、経済的な観点からも、容量は小さく、必要容量を越える程度のものが多い。したがって、通常電源から非常電源に切り替った時、多くの機器が同時に始動を行うと、始動時の始動電流が電動機18に流れ、これにより、電源容量不足を起こし、電圧や周波数が低下して、始動不能や電気系機器や電動機18の異常発熱等が生じる。そこで、この実施の形態では、制御装置40は、火災発生時に不要な電気機器の制御回路や電源設備回路に運転停止信号を送り、これらの機器を停止させて電気が流れないようにし、上記のような事態を回避している。
【0048】
さらに、この実施の形態では、防災機器について予め重要度に応じた順位を付けておき、復電をした時には、この順序で、予め設定した時間間隔で、各機器を始動させる。時間は機器の大きさや始動時間に応じて、最適な時間を設定する。電源電圧により始動時間が変わる場合は、センサにより電圧値を取り込んで、これに基づいて可変に制御する。
【0049】
この実施の形態の可変速消火ポンプ10では、インバータ30を用いて速度を可変としたソフトスタート機能を持つので、例えば、速度到達信号を制御装置40に返送し、必要な機器の全体を稼動させる時間を最小限とするように最適化するように、始動の時間を変更しても良い。これにより、全ての機器が、必要な時間でかつ最少の始動時間で完了することができる。
【0050】
同様に、インバータ30を用いてソフトスタートし、スタート時間を長くすることにより、電動機18の始動立ち上がり時間を長くし、始動加速時の電流値を小さくすることができる。すなわち、消火ポンプ10の電源側に設置した電源切替装置で、常用電源から非常電源にきりかわった時、切替信号を消火ポンプ制御盤20を経由して、インバータ30に入力し、加速時間の変更を指示する。非常電源での始動時は、電源容量が小さい為、電流値を小さくすることが好ましいからである。常用電源時と非常電源時の加速時間は、消火ポンプ10の制御盤20に記憶するか、インバータ30に記憶しておく。
または、インバータ30の出力電流値を常時監視しながら、予め設定した、低い電流値を超えないように、ソフトスタート時間を自動的に変化させて、始動しても良い。
【0051】
インバータ30は、電力変換装置であり、交流から直流へ、更に交流へと変換して、任意の交流周波数を作り出すことができる。この交流から直流への変換の際の整流作用時に、高調波が発生する。通常電源のような、電源容量が大きい場合は、問題が小さいが、非常電源のような電源容量が小さい場合は、高調波により発電機が発熱したりする。そこで、この実施の形態では、高調波を減らすために、インバータ30の一次電源側にACリアクトルや、インバータ30の整流後の直流回路に、DCリアクトルを取付けている。また、インバータ30の整流するコンバータ回路に、スイッチング半導体素子による正弦波PWM回路を設け、インバータ30への入力電流波形を正弦波にして、高調波の発生が少ない、力率が100%に近い装置にしている。これにより、高調波の発生を抑え、ソフトスタート機能を組み合わせることにより、始動電流が少なく、発電機等の非常電源容量を小さくした消火ポンプ10ができる。
【0052】
図15は、この発明の他の実施の形態の消火ポンプ10装置を示すもので、この実施の形態が図1の実施の形態と異なる点は、各階配管54にそれぞれ圧力検知器82が設けられ、各階における圧力を検出することができるようになっている点である。これらのセンサの検出値を制御装置40にフィードバックすることにより、特に推定末端御圧力制御をより精度良く行うことができる。
【0053】
図16はこの発明のさらに他の実施の形態を示すもので、高層建築物に採用される連結送水システムに適用した例である。
高層の建物では、上層の階になるほど必要なヘッド圧は大きくなる。このような大きな圧力を1つのポンプ10装置で加圧するのは困難であり、かつ経済的でない。また、各放水設備には所定の動作圧力範囲が決められている。そこで、いくつかの階層毎に区切って同一の配管で連結された階層区画を構成し、これらの階層区画毎に加圧用の消火ポンプ10を設置し、各層に設置された消火ポンプ10やセンサはそれぞれの制御盤20に接続して信号を送受信できるようになっている。そして、上層階では、それより下層のポンプ10を全て起動して直列に接続して使用する。この例では、2つの階層区画の場合を例示しているが、より高層の場合には同様にして3以上の階層区画を形成する。
【0054】
以下、この実施の形態の消火ポンプ10装置の作動を以下に説明する。
上層階で火災が発生し、スプリンクラーヘッド50が開放して散水すると、始動信号がその階層の消火ポンプ10の制御盤20に送られる。この階層区画の消火ポンプ10は直ちに始動せず、始動信号は最下階層区画の消火ポンプ10の制御盤20に送られる。最下階層区画の消火ポンプ10は、制御装置40によるインバータ制御により電動機18を駆動されつつ始動させ、予め制御装置40に設定・記憶した吐出し圧力になるように圧力制御をしながら、運転を行う。吐出し圧力が目標圧力に到達すると、次の上位階層の消火ポンプ制御盤20に始動信号を送る。これにより、上位階層の消火ポンプには必要な水量と圧力の水が供給され、消火送水動作が可能となる。
【0055】
以上、この発明の実施の形態を図面を基に説明したが、本発明はこれらに限られるものではなく、発明の趣旨に沿って種々の改変が可能である。例えば、上記においては、個々の消火ポンプ10を一台のポンプにより構成したが、これらの少なくとも一部を複数の(例えば2台の)ポンプ10から構成し、状況に応じて選択的に稼動させることができる。すなわち、所要放水量が多いときには複数台を稼動させるようにし、また、少ない時には一方のみを稼動させ、他方を予備として用いるようにする。
【0056】
また、従来の消火ポンプ10では、極低速での運転は困難であったので、起動用圧力タンク74の圧力低下を補うためのジョッキーポンプを備えていた。上記の実施の形態では、インバータ制御方式を採用することで、消火ポンプ10自体を微速運転させ、起動用圧力タンク74の圧力低下を補うことができるので、このようなジョッキーポンプが不要になった。このような圧力補充運転は、起動用圧力タンク74の圧力低下を検知して、自動的に行うことができる。
【0057】
また、上記の実施の形態では、水源として地下水槽16を設けているが、このような水槽の設置あるいはメンテナンスのコストを考慮して、消火ポンプ10を水道配管に直結することが提案されている。この場合、消火ポンプ10の運転が水道施設の配水用ポンプに影響を与えないことが要求されるが、上記の実施の形態ではインバータ制御方式を採用しているので、上述したようなソフトスタートを実行することでそのような目的を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】この発明の第1の実施の形態の消火ポンプ装置の全体の構成を示す図である。
【図2】給水ユニットを具体的に示す正面図である。
【図3】給水ユニットの側面図である。
【図4】同じく、給水ユニットの側面図である。
【図5】消火ポンプ装置の制御装置を示す図である。
【図6】ポンプ駆動用電動機の可変制御機構を示す図である。
【図7】制御盤の正面図である。
【図8】制御盤の(a)側面図、(b)裏面図である。
【図9】制御盤の他の例を示す側面図である。
【図10】表示パネルを示す図である。
【図11】制御盤のさらに他の例を示す側面図である。
【図12】ポンプの起動の際の回転速度変化を示すグラフである。
【図13】吐出し圧力一定制御の際の運転カーブを示すグラフである。
【図14】推定末端圧力制御の際の運転カーブを示すグラフである。
【図15】この発明の第2の実施の形態の消火ポンプ装置を示す図である。
【図16】この発明の第3の実施の形態の消火ポンプ装置を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
10 ポンプ
18 電動機
22 呼水槽
30 インバータ(可変速制御手段)
36 交流リアクトル
38 ノイズフィルタ
40 制御装置
50 スプリンクラーヘッド(放水手段)
52 主配管
54 各階配管(分岐配管)
56 領域配管(分岐配管)
72 圧力検知器
74 起動用圧力タンク
82 圧力検知器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を圧送する電動式のポンプと、
前記ポンプの吐出側に取り付けられた主配管と、
前記主配管から分岐して設けられた分岐配管と、
該分岐配管に沿って設けられた1または複数の放水手段と、
前記ポンプの吐出側に取り付けられた圧力検知器と、
前記圧力検知器の出力に基づいて前記ポンプをその吐出し圧力が所定の値となるように可変速制御する可変速制御手段とを有することを特徴とする消火ポンプ装置。
【請求項2】
前記可変速制御手段は、誘導電動機とその電源側に設けられたインバータとを有することを特徴とする請求項1に記載の消火ポンプ装置。
【請求項3】
前記可変速制御手段は、直流ブラシレス電動機と、その電源側に設けられた電圧制御器とを有することを特徴とする請求項1に記載の消火ポンプ装置。
【請求項4】
前記インバータを冷却するために、前記ポンプの吐出し側の配管から分岐する冷却水配管が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の消火ポンプ装置。
【請求項5】
前記ポンプの内部のキャビティに呼水を与える呼水槽が設けられ、前記インバータは前記呼水槽に貯留している水で冷却されるようになっていることを特徴とする請求項2に記載の消火ポンプ装置。
【請求項6】
前記主配管には、前記放水手段に所定の圧力を与える起動用圧力タンクが設けられ、この起動用圧力タンクの圧力の低下を回復させるために、前記ポンプを微速運転するようになっていることを特徴とする請求項2に記載の消火ポンプ装置。
【請求項7】
前記ポンプの起動時において、回転速度を緩やかに上昇させることを特徴とする請求項1に記載の消火ポンプ装置。
【請求項8】
前記ポンプの回転速度をS字曲線に沿って上昇させることを特徴とする請求項1に記載の消火ポンプ装置。
【請求項9】
前記ポンプの回転速度を、前記ポンプの吐出し圧力が所定の目標圧力になるように制御することを特徴とする請求項1に記載の消火ポンプ装置。
【請求項10】
前記ポンプの回転速度を、前記ポンプの吐出し口から前記放水手段の末端までの配管の摩擦抵抗の変化を考慮し、前記放水手段の末端での推定圧力が所定の目標圧力になるように制御することを特徴とする請求項1に記載の消火ポンプ装置。
【請求項11】
通常電源から非常電源への切り替えを検知し、これに基づいて起動の際の回転速度の上昇パターンを変化させることを特徴とする請求項1に記載の消火ポンプ装置。
【請求項12】
前記ポンプを含む防災機器を、重要度に応じた優先順位に沿って起動させることを特徴とする請求項1に記載の消火ポンプ装置。
【請求項13】
必要な防災機器の全体を稼動させる時間を最小限とするように電源の配分を最適化することを特徴とする請求項1に記載の消火ポンプ装置。
【請求項14】
前記ポンプの前段にさらに第2のポンプを設け、該加圧ポンプの吐出し側に第2の圧力検知器を設け、この第2の圧力検知器の出力に基づいて前記第2のポンプをその吐出し圧力が所定の値となるように可変速制御することを特徴とする請求項1に記載の消火ポンプ装置。
【請求項15】
火災の発生の際に、前記第2のポンプを起動させ、その吐出し圧が所定値に達した後に前記第1のポンプを起動させることを特徴とする請求項14に記載の消火ポンプ装置。
【請求項16】
火災の検知に基づく始動信号を、自己保持機構を持つ記憶手段に記憶するようになっていることを特徴とする請求項1に記載の消火ポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−6158(P2009−6158A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−210191(P2008−210191)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【分割の表示】特願2004−201864(P2004−201864)の分割
【原出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】