説明

消火設備

【課題】自己反応性物質の燃焼を迅速に消火することを可能にした消火設備を提供する。
【解決手段】粉末状自己反応性物質を貯蔵又は取り扱う容器を放射範囲に包含するように、それらの直上に配置された複数の消火剤放射ノズル22を備え、該消火剤放射ノズル22は棒状ノズル及びフルコーンノズルを含む。そして、水、泡水溶液又はその他水系消火剤を、放射散布密度20L/m2/min以上、又は/及び放射圧力0.2MPa以上で放射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として粉末状自己反応性物質による火災を消火対象とする消火設備に関する。
【背景技術】
【0002】
自己反応性物質(第5類危険物を属する)を一定量以上貯蔵または取り扱う施設には、消防法令により、人が操作する消火装置として消火器、消火栓設備または固定消火設備としてはスプリンクラ設備、泡消火設備などを設置することとなっている。そして、この種の消火設備として例えば「閉鎖型泡ヘッドが火災を感知し開放作動することによって送水配管の途中に介入した圧力スイッチが送水配管2内の減圧現象を検知し、この信号を制御盤に送り、制御盤により起動容器が起動し、加圧用ガス容器からガス圧力を泡消火薬剤タンクに送って泡消火薬剤タンク内の泡水溶液を加圧し、泡消火薬剤タンクから泡水溶液を送水配管を通じて閉鎖型泡ヘッドに送り込む。その閉鎖型泡ヘッドから泡水溶液が発泡放水される。」というものが提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−346899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自己反応性物質のうち、例えばニトロソ化合物などは通常粉末状で取り扱われている。この粉末状化合物は、火花など小さな火種でも容易に着火し、その燃焼熱により周囲が熱分解反応して可燃性ガスを発生し、その燃焼によりさらにその周囲へと燃焼が拡大していって、しかも熱分解速度が速くガスの噴出火災のようになる。そのため、上記の特許文献1において提案されている消火設備等においては、スプリンクラによる水の散布や泡によっては周囲への延焼は抑制できても、危険物の燃焼自体を消火することが難しく、危険物自体の反応が終息するまで消火することは難しいという問題点があった。
【0005】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、粉末状自己反応性物質の燃焼を迅速に消火することを可能にした消火設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る消火設備は、粉末状自己反応性物質を貯蔵又は取り扱う容器若しくは領域が放射範囲に包含されるように、それらの直上に配置された複数の消火剤放射ノズルを備え、該消火剤放射ノズルは棒状ノズル及びフルコーンノズルを含むものである。
また、本発明に係る消火設備において、前記消火剤放射ノズルは、粉末状自己反応性物質の火災に対して、水、泡水溶液又はその他水系消火剤を放射散布密度20L/m2/min以上で放射するものである。
また、本発明に係る消火設備において、前記消火剤放射ノズルは、粉末状自己反応性物質の火災に対して、水、泡水溶液又はその他水系消火剤を含む消火剤を放射圧力0.2MPa以上で放射するものである。
【発明の効果】
【0007】
本願発明においては、粉末状自己反応性物質を貯蔵又は取り扱う容器若しくは領域が放射範囲に包含されるように、それらの直上に消火剤放射ノズルが配置されており、例えばベルトコンベア、ホッパーなどのように自己反応性物質を粉末状態で裸(剥き出し)で貯蔵又は取り扱う場合には、それらが消火剤の放射範囲に包含されるように、複数の棒状ノズル及びフルコーンノズルを適宜組み合わせて設けるものとし、そして、水や泡水溶液を高散布密度で放射し、燃焼していない部分の粉末の塊を分散させたり内部まで貫通して濡らしたりすることで、延焼を阻止することにより、粉末状自己反応性物質の燃焼を迅速に消火することができる。なお、本発明のフルコーンノズルとはデフレクタを持たない円錐状の噴霧ノズルをいうものとする。
【0008】
また、ニトロソ化合物の火災に対する放射実験によると、粉末状自己反応性物質の火災に対して水、泡水溶液又はその他水系消火剤を20L/m2/min以上の散布密度で放射すれば、延焼阻止に十分な効果が得られる(後述の実施例1参照)。
また、粉末状自己反応性物質の火災に対して、水、泡水溶液又はその他水系消火剤を消火剤放射ノズルから放射圧力0.2MPa以上で放射すれば、上記の消火剤は粉末状自己反応性物質の粉末塊を貫通して内部まで濡らすことができ、ノズルから放射された消火剤に塊を崩す勢いがあり、この点からも延焼を阻止することにより、粉末状自己反応性物質の燃焼を迅速に消火することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施形態1.
図1は本発明の実施形態1に係る消火設備の系統図である。同図において、例えばゴム製品の製造工場において、保管庫10には例えば粉末状自己反応性物質11が収納された容器12が保管されている。この容器12内の粉末状自己反応性物質11がホッパー13に移送され、その下部に設けられている自動供給機14によりベルトコンベア15上に供給される。そして、ベルトコンベア15は粉末状自己反応性物質11を移送して製造装置16に供給する。製造装置16はその粉末状自己反応性物質や他の原材料を用いて所定のゴム製品を製造する。
【0010】
図1の製造工場の天井側には火災検知器21が配置されている。また、ホッパー13及びベルトコンベア15の直上部には消火剤放射ノズル22が配置されている。消火剤放射ノズル22は、粉末状自己反応性物質11を塊又は粉末状で貯蔵又は取り扱う容器若しくは領域を放射範囲としており、上記のように、ホッパー13及びベルトコンベア15が放射範囲に包含されるように、複数の消火剤放射ノズル22が配置されている。また、例えば飛散した粉末状のニトロソ化合物が堆積する可能性がある領域がある場合には、そのような領域に対しても消火剤放射ノズル22を設置する。
【0011】
火災検知器21は主に炎検知器が使われている。火災検知器21の出力は火災受信機23に出力され、火災受信機23は火災検知器21の出力に基づいて火災警報を発するとともに火災表示をし、更に制御盤24に火災発生信号を出力する。水槽25には消火用水が貯蔵され、ポンプ26が制御盤24からの制御指令に基づいて消火用水を汲み上げて送り出す。また、制御盤24は、ポンプ26の下流側に設けられている開放弁27を開放する。このポンプ26からの消火用水は開放弁27を介して送り出され、泡消火薬剤タンク28の泡消火薬剤と混合装置29で混合されて消火剤配管30に送り出される。泡消火薬剤タンク28の泡消火薬剤は、例えば水成膜泡、合成界面活性剤、たん白泡等の各種のものが使用される。また、この泡消火薬剤タンク28は、ポンプ26による送水圧力が泡消火薬剤タンク28に加圧すると、泡消火薬剤を送出する構成になっている。
【0012】
消火剤配管30には、上記の消火剤放射ノズル22が取り付けられており、泡水溶液を放射して、粉末状自己反応性物質11に直接散布する。火災検知器21と火災受信機23とは火災検知器配線31により接続されており、火災検知器21の検知出力が火災検知器配線31を介して火災受信機23に供給される。制御盤24とポンプ26とはポンプ制御配線32により接続されており、制御盤24からの制御信号がポンプ制御配線32を介してポンプ26に供給される。また、制御盤24と開放弁27とは開放弁配線33により接続されており、制御盤24からの制御信号が開放弁配線33を介して開放弁27に供給される。
【0013】
図2はホッパー13に対する消火剤放射ノズル22の配置例を示した図である。消火剤放射ノズル22は、棒状ノズル22aと、充円錐状(円錐形状の中にも消火剤が満たされている状態)に消火剤を放射するフルコーンノズル22bとから構成されており、棒状ノズル22aは棒状に消火剤を放射し、その貫通力で粉末状自己反応性物質11の内部まで到着させ、また、フルコーンノズル22bは充円錐状に消火剤を放射し、ノズルによる放射領域がホッパー13の全域を覆うように配置されている。
【0014】
図3はベルトコンベア15に対する消火剤放射ノズル22の配置例を示した図である。消火剤放射ノズル22は、棒状ノズル22aとフルコーンノズル22bとから構成されており、棒状ノズル22aはベルトコンベア15の中央分にその長さ方向に沿って所定の間隔で配置されている。また、フルコーンノズル22bは、ベルトコンベア15の長さ方向については棒状ノズル22a間の位置で、且つ、ベルトコンベア15の幅方向については棒状ノズル22aの両側にそれぞれ配置される。そして、フルコーンノズル22bは、その放射領域が図示のようにベルトコンベア15のほぼ全域に亘るように配置されている。
【0015】
次に、本実施形態の消火設備の動作について説明する。
(1)図1の例えばベルトコンベア15上の粉末状自己反応性物質11が何らかに原因で燃えて火災が発生すると、火災検知器21が作動して火災検知信号を火災受信機23に出力する。火災受信機23は火災検知器21からの火災検知信号を入力すると、その火災検知信号に基づいて火災警報を発するとともに火災表示をし、更に、制御盤24に火災発生信号を出力する。
【0016】
(2)制御盤24は、火災表示をするとともに、ポンプ26及び開放弁27に制御信号を出力する。これにより開放弁27は開放され、また、ポンプ26が起動して、水槽の消火用水を送水する。また、このポンプ26の起動により泡消火薬剤タンク28が加圧され、泡消火薬剤が送り出される。混合装置29は、水槽25からの消火用水と泡消火薬剤タンク28からの泡消火薬剤とを混合して泡水溶液を継続して消火剤配管30に送出する。これにより消火剤放射ノズル22(22a,22b)から泡水溶液が放射されて消火活動が継続し、消火に至る。本実施形態においては、上記のように、消火剤放射ノズル22は、棒状ノズル22aとフルコーンノズル22bとから構成されており、フルコーンノズル22bからの泡水溶液は拡散されて粉末状自己反応性物質11に放射されて消火する。また、このとき、棒状ノズル22aからの泡水溶液は、燃焼していない部分の粉末の塊を分散させたり内部まで貫通して濡らしたりすることにより、延焼を阻止することにより早期に火災を消すことができる。
【0017】
以上のように本実施形態1においては、粉末状自己反応性物質を貯蔵又は取り扱う容器若しくは領域が放射範囲に包含されるように複数の棒状ノズル22a及びフルコーンノズル22bを組み合わせて設置して泡水溶液を高散布密度で放射し、また、燃焼していない部分の粉末の塊を分散させたり内部まで貫通して濡らしたりすることで、延焼を阻止することにより、粉末状自己反応性物質の燃焼を迅速に消火することを可能にしている。
【0018】
なお、本実施形態1においては、消火剤として泡水溶液を使用した例について説明したが、消火剤として水を使用してもよい。また、その他の水系消火剤として、リン酸アンモニウムを含有した水系消火剤、炭酸カリウムを含有した水系消火剤を使用してもよい。
また、火災検知器21が作動する例について説明したが、作業員等により火災を発見した場合には、手動起動装置(図示せず)を操作することにより、火災受信機23がその起動信号を取り込むことにより上記の例の同様な動作が得られる。また、消火剤放射ノズル22としては開放型のものを使用することを前提に説明したが、火災検知手段と兼用される閉鎖型のノズルを使用してもよいことは言うまでもない。更に、消火剤配管30に泡消火液を予め充填しておいてもよい。
【0019】
また、本実施形態1の上記の説明においては防火区画について言及していないが、必要に応じて防火区画を設けて、火災発生区画又はそれを含めて隣接する区画の消火剤放射ノズル22から泡消火液等を放射させるようにしてもよい。
【0020】
実施形態2.
ところで、ニトロソ化合物の火災に対する放射実験によると、粉末状自己反応性物質の火災に対して、水、泡水溶液又はその他水系消火剤を20L/m2/min以上の散布密度で放射すれば、延焼阻止に十分な効果が得られる(後述の実施例1参照)。
【0021】
また、粉末状自己反応性物質の火災に対して,消火剤放射ノズル22(棒状ノズル22a及びフルコーンノズル22b)から水、泡水溶液又はその他の水系消火剤を、放射圧力0.2MPa以上で放射すれば、上記の消火剤は粉末状自己反応性物質の粉末塊を貫通して内部まで濡らすことができ、ノズルから放射された消火剤に塊を崩す勢いがあり、延焼阻止に十分な効果が得られる(後述の実施例1参照)。
【実施例】
【0022】
実施例1.
図4は消火剤放射ノズルからの噴射液の散布密度及び放射圧力の試験方法を示した説明図である。
火災モデル:ニトロソ化合物混合粉末 3.0kg;長さ60cm×幅20cm×高さ5cmに成型
点火方法 :上記ニトロソ化合物混合粉末の上面中央にライターで着火
消火剤放射:燃焼範囲が中心から半径10cmに広がった時点でノズルから一斉放射開始。
棒状ノズル、フルコーンノズルの散布密度、放射圧力を変えて放射した。
消火剤 :水、水成膜泡消火薬剤(3%)水溶液
判定方法 :点火位置から20cm離れた位置に熱電対を埋め込み、消火剤放出開始後、
火災の発熱によって反応開始温度(110℃以上)まで温度上昇するかを観測
した。
【0023】
上記の試験によれば、表1に示されるように、散布密度(フルコーンと棒状の合計)20L/m2/min以上,放射圧力0.2MPa以上では,測定点の温度が100℃以下となり反応温度まで到らず熱分解反応の拡大を阻止することができた(延焼を抑制した)。
【0024】
【表1】

【0025】
実施例2.
また、表2は棒状ノズル22aから放射された水の浸入深さを示したものである。試験方法は、ニトロソ化合物混合粉末をペール缶に入れ、その直上に置いた棒状ノズルから流量及び圧力を変えて水を放射し、水が粉末の表面からどの深さまで浸入したかを調べた。表2の試験結果から棒状ノズル22aから放射された水は粉状自己反応性物質の一例としてのニトロソ化合物混合粉末に十分な深さで浸入している。このため、燃焼していない部分の粉末の塊を分散させたり内部まで貫通して濡らしたりすることにより、延焼を阻止することが可能になっている。
【0026】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態1に係る消火設備の系統図である。
【図2】ホッパーに対する消火剤放射ノズルの配置例を示した図である。
【図3】ベルトコンベアに対する消火剤放射ノズルの配置例を示した図である。
【図4】消火剤放射ノズルからの噴射液の散布密度及び放射圧力の試験方法を示した説明図である。
【符号の説明】
【0028】
10 保管庫、11 粉末状自己反応性物質、12 容器、13 ホッパー、14 自動供給機、15 ベルトコンベア、16 製造装置、21 火災検知器、22 消火剤放射ノズル、22a 棒状ノズル、22b フルコーンノズル、23 火災受信機、24 制御盤、25 水槽、26 ポンプ、27 開放弁、28 泡消火薬剤タンク、29 混合装置、30 消火剤配管、31 火災検知器配線、32 ポンプ制御配線、33 開放弁配線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状自己反応性物質を貯蔵又は取り扱う容器若しくは領域が放射範囲に包含されるように、それらの直上に配置された複数の消火剤放射ノズルを備え、
該複数の消火剤放射ノズルは、棒状ノズル及びフルコーンノズルを含むことを特徴とする消火設備。
【請求項2】
前記消火剤放射ノズルは、粉末状自己反応性物質の火災に対して、水、泡水溶液又はその他水系消火剤を、放射散布密度20L/m2/min以上で放射することを特徴とする請求項1記載の消火設備。
【請求項3】
前記消火剤放射ノズルは、粉末状自己反応性物質の火災に対して、水、泡水溶液又はその他水系消火剤を、放射圧力0.2MPa以上で放射することを特徴とする請求項1又は2記載の消火設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−5997(P2008−5997A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−178488(P2006−178488)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(000233826)能美防災株式会社 (918)
【Fターム(参考)】