説明

消火設備

【課題】低圧で常温・常圧下で液相である消火剤を放射しても気化効率が良好で消火剤の使用効率が高い消火設備を提供する。
【解決手段】消火設備は、消火剤収容容器に蓄えられ、常温・常圧下で液相であって且つ火災熱によって気化する消火剤を配管を経由してノズルから放射する消火設備において、上記消火剤には気泡が混合され、上記ノズルから放射される上記消火剤は上記気泡が混合された液滴である。消火剤がフルオロケトン系消火剤、強化液または浸潤剤である。気泡がマイクロバブルである。気泡には不活性ガスまたはフッ素系ガスが含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、常温・常圧で液体である消火剤を火源に降らすことにより火災を消火する消火設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水に濡れることを心配する場所の消火にはハロン1301などのハロゲン系消火剤が使用されていたが、オゾン層破壊を防止するために使用が禁止された。そこで、代替品として、ペンタフルオロプロパンやトリフルオロメタンなどのフッ素系消火剤が使用されてきた。しかし、これらのフッ素系消火剤は、地球温暖化指数が大きいという問題があるともに沸点が氷点下であるので高圧にして放射しなければならず消火設備として高価になってしまうという問題があった。
【0003】
これらの問題を解決するために、沸点が49℃と室温より高く、地球温暖化指数も二酸化炭素並のドデカフルオロ−2−メチルペンタン−3オンが提案されている。ドデカフルオロ−2−メチルペンタン−3オンはノズルから液滴として放射されるので、ペンタフルオロプロパンやトリフルオロメタンなどのフッ素系消火剤のように高圧で放射しなくても、1MPa以下の低圧で放射しても火炎を貫通して火源に到達できるし、気体のように横に拡がり難く局所消火に適している。また、低圧で加圧するだけで良いので、配管やバルブなどに低価格の部材が使用することができる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−117017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、低圧で放射したドデカフルオロ−2−メチルペンタン−3オンの液滴は、放射するノズルにもよるが、直径が200μmから1mmと大きく、高圧放射に比べて全体の表面積が小さいので、気化効率が悪くなるという問題がある。そのため液体燃料火災では、気化し切れなかった液滴が油面を貫通して油層の底に溜まってしまい、消火に寄与しない無駄な消火剤が増えてしまい、相対的に消火に必要な消火剤量も増えるという問題がある。
【0006】
この発明の目的は、常温・常圧下で液相である消火剤を低圧で放射しても気化効率が良好で消火剤の使用効率が高い消火設備を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る消火設備は、消火剤収容容器に蓄えられ、常温・常圧下で液相であって且つ火災熱によって気化する消火剤を配管を経由してノズルから放射する消火設備において、上記消火剤には気泡が混合され、上記ノズルから放射される上記消火剤は上記気泡が混合された液滴である。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係る消火設備の効果は、常温・常圧では液体である消火剤に気泡、より好ましくは液体中に長時間滞留するマイクロバブルが混合された混相消火剤が低圧に加圧されて消火剤放射ノズルから液滴で放射されるので、放射された液滴が火炎により加温されてマイクロバブルの容積が膨張することにより直径の小さな複数の液滴に分割されて気化が容易になり液滴のまま残る消火剤が大幅に少ないということである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1に係る消火設備に適用される混相消火剤は、常温・常圧下では液相の消火剤に気泡を混合したものである。気泡には気相のガスが含まれており、このように液相と気相とが混合されているので混相消火剤と称す。
消火剤は、フルオロケトン系消火剤(例えば、ドデカフルオロ−2−メチルペンタン−3オン(示性式で表すとCFCFC(O)CF(CFとなる))、強化液(炭酸カリウムを主成分とする水溶液消火剤)、浸潤剤(リン酸アンモニウムを主成分とする水溶液消火剤)などを適用することができる。なお、以下の説明ではドデカフルオロ−2−メチルペンタン−3オン、すなわち3M(登録商標)社製Novec(登録商標)1230を消火剤として適用する。
【0010】
気泡に適用されるガスは、空気、より好ましくは、窒素ガス(N)、二酸化炭素(CO)、不活性ガス(例えば、アルゴンガス(Ar)、クリプトンガス(Kr)、キセノンガス(Xe)、ラドンガス(Rn)またはこれらの混合ガス)、フッ素系ガス(例えば、ヘプタフルオロプロパン、トリフルオロメタン、またはこれらの混合ガス)などの消火ガスである。
気泡は消火剤が液滴になったときに液滴内に内包されていれば良いので、液滴の直径が400μm以上のときには150μm以下であれば良い。しかし、消火剤内に安定して滞留するためには、液体中に長時間滞留するマイクロバブルが好ましい。なお、マイクロバブルは、液体中に長時間滞留する小さな直径の気泡であり、例えば、直径が50μm以下の気泡をマイクロバブルと称す。また、以下の説明では気泡として窒素ガスからなるマイクロバブルをNovec1230に混合する。
【0011】
図1は、この発明の実施の形態1に係る消火設備の構成図である。
この発明の実施の形態1に係る消火設備は、混相消火剤が溜まる消火剤タンク1(消火剤収容容器の一例)、消火剤タンク1から混相消火剤を汲み上げ加圧して送り出す加圧送液装置2、加圧送液装置2に一端が連結され途中で2つに分岐した加圧された混相消火剤を導く送液配管3、一端が送液配管の2つの他端にそれぞれ連結されて混相消火剤の放射を制御する2つの放射選択弁4a、4b、2つの放射選択弁4a、4bそれぞれの他端に配管を介して連結される4つの消火剤放射ノズル5a、5b、5c、5d、消火剤タンク1内の消火剤または混相消火剤を汲み上げてマイクロバブルを発生して消火剤タンク1に戻すマイクロバブル発生装置6、マイクロバブル発生装置6にマイクロバブルの素になるガスを供給するガス発生装置7、4つの消火剤放射ノズル5a、5b、5c、5dが設置された近傍に設置される2つの火災センサ8a、8b、および、消火設備全体を制御する制御装置9を備える。
【0012】
加圧送液装置2は、制御装置9と加圧送液配線11を介して接続されている。
2つの放射選択弁4a、4bは、制御装置9と2本の放射選択配線12を介して接続されている。
マイクロバブル発生装置6は、制御装置9とマイクロバブル発生配線13を介して接続されている。
2つの火災センサ8a、8bは、制御装置9と火災センサ配線14を介して接続されている。
【0013】
なお、この発明の実施の形態1に係る消火設備は、消火を担当する領域として2つの領域を設定し、それぞれの領域に火災センサ8、2つの消火剤放射ノズル5、放射選択弁4を配置したが、消火を担当する領域の数は2つに限るものではない。また、各領域に配置する火災センサ8の数も1つに限るものではなく、消火剤放射ノズル5の数も2つに限るものではない。
【0014】
制御装置9は、所定の周期、例えば1週間毎にマイクロバブル発生装置6に消火剤タンク1に溜まっているNovec1230にマイクロバブルを混合するよう指令を送る。なお、消火設備が新たに設置されたときまたはメンテナンスの際に消火剤タンク1が空にされたときは新たなNovec1230が注がれるので消火剤タンク1に溜まっているNovec1230にはマイクロバブルは混合されていないが、それ以外のときにはNovec1230には濃度は別としてマイクロバブルが混合されている。
ガス発生装置7は、マイクロバブル発生装置6と連動して稼動し、空気中から窒素ガスを取り出してマイクロバブル発生装置6に供給する。なお、マイクロバブル発生装置6にガスを供給する供給源としてガス発生装置7の代わりにガスボンベを備えても良い。
マイクロバブル発生装置6は、制御装置9からの指令に従って消火剤タンク1からNovec1230を汲み上げ且つガス発生装置7から供給される窒素ガスを受け取り、汲み上げたNovec1230の中に窒素ガスをマイクロバブルとして混合し、マイクロバブルを混合したNovec1230を消火剤タンク1に戻す。
【0015】
このようにして常時消火剤タンク1に窒素ガスのマイクロバブルが混合されたNovec1230からなる混相消火剤が溜められている。特に、直径が50μm以下のマイクロバブルが混合されていると、マイクロバブルに作用する浮力が小さくなり消火剤中に長時間マイクロバブルを滞留することができ、消火の最初から混相消火剤を放射することができる。
【0016】
火災センサ8a、8bは、消火を担当する領域毎に配置され、火災を感知したとき火災センサ配線14を介して制御装置9に火災感知信号を送信する。
制御装置9は、火災感知信号を受信すると、加圧送液装置2に送液開始指令を送信する。また、制御装置9は、火災感知信号を送信した火災センサ8a、8bが配置されている消火を担当する領域を特定し、特定した消火を担当する領域の対応する放射選択弁4a、4bに開放指令を送信する。
消火剤放射ノズル5a、5b、5c、5dは、消火を担当する領域毎に少なくとも1つが配置されている。この消火剤放射ノズル5a、5b、5c、5dは、開放型であり、消火を担当する領域毎に配置された火災センサ8a、8bが火災を感知したとき加圧送液装置2により加圧された混相消火剤が放射選択弁4a、4bが開放されることにより消火剤放射ノズル5a、5b、5c、5dから混相消火剤が液滴として放射される。
加圧送液装置2は、制御装置9から送液開始指令を受信すると、消火剤タンク1から混相消火剤を汲み上げ所定の圧力、例えば0.5MPa位の圧力で加圧して送液配管3に送り出す。
放射選択弁4a、4bは、制御装置9から開放指令を受信すると、内蔵する弁を開放する。
【0017】
消火剤放射ノズル5a、5b、5c、5dから0.5MPaに加圧された混相消火剤が放射され、火元に到達するまでの液滴の様子を説明する。
0.5MPaに加圧された混相消火剤は、消火剤放射ノズル5a、5b、5c、5dから直径約200μmから1mm位の液滴として放射される。そして、放射された液滴内には直径50μm以下のマイクロバブルが存在している。
放射された液滴は、火炎を貫通して火源に到達するのであるが、火炎を通過するとき内部に存在するマイクロバブルの容積が増大して複数の径の小さなNovec1230の液滴に壊される。壊されたNovec1230の液滴は火源の熱により容易に気化して消火に寄与する。
【0018】
次に、マイクロバブルを混合したNovec1230を消火剤として用いたときの消火剤効率について説明する。
マイクロバブルを体積比率0.5%混合した混相消火剤を0.5MPaで加圧して消火剤放射ノズル5a、5b、5c、5dから放射された液滴は平均直径が600μmである。そして、油を注いだパッドに着火して火災を起こし、起こした火災を消火剤放射ノズル5a、5b、5c、5dから混相消火剤を放射して消火したときに油の下に溜まっているNovec1230の量を確認すると放射したNovec1230の5%しか溜まっていないことが分かった。一方、マイクロバブルを混合しないNovec1230を同じ条件で消火に用いたときには30%のNovec1230が油の下に溜まっていた。
【0019】
このように直径が200μmから1mmの液滴が直径100μm以下の細かい複数の液滴になり、細かい液滴は殆ど火炎および火源で気化しまうので、液滴のまま残るNovec1230を大幅に減らすことができる。
また、放射する液滴は直径が200μmから1mmで良いので、混相消火剤を0.5MPaのよう低圧で加圧すれば良く、加圧送液装置2、送液配管3、消火剤放射ノズル5a、5b、5c、5dに加わる圧力が低く低価格の部材を使用できる。
【0020】
なお、この発明の実施の形態1に係る消火設備では、消火剤タンク1に常時マイクロバブルを混合した混相消火剤を溜めておき、火災が感知されたとき最初から混相消火剤を放射するようにしているが、火災が感知されたとき消火剤タンク1に溜められたマイクロバブルが混合されない消火剤を放射するとともにマイクロバブル発生装置6を稼動して消火剤タンク1に溜まっている消火剤にマイクロバブルを混合しても良い。
【0021】
また、この発明の実施の形態1に係る消火設備は、開放型の消火剤放射ノズル5a、5b、5c、5dを適用しているが、閉鎖型の消火剤放射ノズルを適用し放射選択弁4a、4bなどを省略しても良い。
また、この発明の実施の形態1に係る消火設備は、消火剤としてNovec1230を用いて水に濡れることも防げるが、水に濡れても構わない場所であれば、消火剤として水系消火剤を用いても良い。
【0022】
実施の形態2.
図2は、この発明の実施の形態2に係る消火設備の構成図である。
この発明の実施の形態2に係る消火設備は、この発明の実施の形態1に係る消火設備の消火剤タンク1および加圧送液装置2の代わりに消火剤加圧タンク21、加圧ガスボンベ22および加圧ガス起動装置23を備え、後述するように、マイクロバブル発生装置6およびガス発生装置7は分離されていることが異なり、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記し説明は省略する。
【0023】
消火剤加圧タンク21は、上部には加圧ポート24と消火剤取出口25とが設けられ、加圧ポート24に加圧ガスを供給すると消火剤取出口25から加圧された混相消火剤が送液配管3に送りだされる。
加圧ガスボンベ22は、所定の圧力、例えば0.5MPaの窒素ガスが充填されている。
加圧ガス起動装置23は、制御装置9から送液開始指令を受信すると加圧ガスボンベ22の出口と消火剤加圧タンク21の加圧ポート24とを連通し、加圧ポート24に0.5MPaの窒素ガスが供給されるようにする。加圧ガス起動装置23は、起動配線26を介して制御装置9に接続されている。
制御装置9は、火災感知信号を受信すると、加圧ガス起動装置23に送液開始指令を送信する。また、制御装置9は、火災感知信号を送信した火災センサ8a、8bが配置されている消火を担当する領域を特定し、特定した消火を担当する領域の対応する放射選択弁4a、4bに開放指令を送信する。
【0024】
消火剤加圧タンク21には、図示しない専門の混合ステーションで消火剤にマイクロバブルを混合した混相消火剤を注入してから現地に搬送するので、マイクロバブル発生装置6とガス発生装置7を混合ステーションだけに配置すれば良く、複数の消火設備を必要とする場合には全体として設備費用が安くすることができる。
【0025】
なお、実施の形態2に係る消火設備においては、加圧ガスボンベ22に所定の圧力(混相消火剤の放射圧力としての低圧)の窒素ガスを充填するようにしたが、高圧(例えば、14MPa)の窒素ガスを充填しても良い。その場合、加圧ガス起動装置23と加圧ポート24との間、または送液配管3に、窒素ガスまたは加圧された混相消火剤を所定の圧力に減圧するための圧力調整弁を設けるようにしても良い。
【0026】
また、実施の形態2に係る消火設備においては、消火剤加圧タンク21と加圧ガスボンベ22を別々のものとして、所謂加圧式としたが、所謂蓄圧式としても良い。その場合、加圧ガスボンベ22、加圧ガス起動装置23、加圧ポート24を削除し、消火剤加圧タンク21内に混相消火剤と窒素ガスを一体に封入し、また、消火剤取出口25から送り出された加圧された混相消火剤を所定の圧力に減圧するための圧力調整弁、および起動配線26を介して、制御装置9から送液開始指令を受信して開弁する自動開閉弁を送液配管3に設けるようにしても良い。
【0027】
実施の形態3.
図3は、この発明の実施の形態3に係る消火設備の構成図である。
この発明の実施の形態3に係る消火設備は、この発明の実施の形態1に係る消火設備のマイクロバブル発生装置6を消火剤タンク1の近傍から送液配管3の途中に介設したことが異なり、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記し説明は省略する。
【0028】
マイクロバブル発生装置6は、加圧送液装置2により加圧されたNovec1230が注入され、注入されたNovec1230にガス発生装置7から供給される窒素ガスを直径50μm以下のマイクロバブルとして混合して送液配管3に送り出す。
【0029】
このように放射される消火剤だけにマイクロバブルを混合するので、マイクロバブル発生装置6のマイクロバブル発生容量が少なくてすみ、小型のマイクロバブル発生装置6で十分である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の実施の形態1に係る消火設備の構成図である。
【図2】この発明の実施の形態2に係る消火設備の構成図である。
【図3】この発明の実施の形態3に係る消火設備の構成図である。
【符号の説明】
【0031】
1 消火剤タンク、2 加圧送液装置、3 送液配管、4、4a、4b 放射選択弁、5、5a〜5d 消火剤放射ノズル、6 マイクロバブル発生装置、7 ガス発生装置、8a、8b 火災センサ、9 制御装置、11 加圧送液配線、12 放射選択配線、13 マイクロバブル発生配線、14 火災センサ配線、21 消火剤加圧タンク、22 加圧ガスボンベ、23 加圧ガス起動装置、24 加圧ポート、25 消火剤取出口、26 起動配線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消火剤収容容器に蓄えられ、常温・常圧下で液相であって且つ火災熱によって気化する消火剤を配管を経由してノズルから放射する消火設備において、
上記消火剤には気泡が混合され、
上記ノズルから放射される上記消火剤は上記気泡が混合された液滴であることを特徴とする消火設備。
【請求項2】
上記消火剤がフルオロケトン系消火剤、強化液または浸潤剤であることを特徴とする請求項1に記載の消火設備。
【請求項3】
上記気泡がマイクロバブルであることを特徴とする請求項1または2に記載の消火設備。
【請求項4】
上記気泡には不活性ガスまたはフッ素系ガスが含まれることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の消火設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−65996(P2009−65996A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234096(P2007−234096)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000233826)能美防災株式会社 (918)
【Fターム(参考)】