説明

液体受容方法及び液体噴射装置

【課題】液体受容ケース内に排出された液体の蒸発を抑制することが可能な液体受容方法及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】インクジェット式プリンターは、キャリッジモーターによって移動されるキャリッジ16に支持され、各ノズル20から記録用紙にインクを噴射する記録ヘッド19と、該記録ヘッド19から噴射されるインクを受容可能なフラッシングボックス25とを備える。フラッシングボックス25は、上端側に開口部26aを有したフラッシングケース26と、開口部26aを閉塞する可撓性部材27と、可撓性部材27に形成され、該可撓性部材27の弾性変形によって開放可能なスリット31とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体受容方法及び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、液体噴射ヘッドからターゲットに対して液体を噴射させる液体噴射装置としてインクジェット式プリンターが知られている。このようなプリンターにおいては、印刷中に記録ヘッド(液体噴射ヘッド)における特定のノズルからインク(液体)が噴射されない状態が連続して長時間に亘ると、そのノズル内ではインクの増粘が進んだり、インクメニスカスの表面が乾燥したりしてインクの噴射不良が生じてしまうおそれがある。そのため、印刷中に長時間にわたって不使用のノズルが存在する場合には、そのノズル内から印刷とは無関係の制御信号に基づきインク滴を廃液として吐出させるフラッシングと呼ばれるメンテナンスが行われる。
【0003】
すなわち、フラッシング時は、記録ヘッドを印刷領域から外れた位置に移動させ、その直下に配置されたフラッシングボックス(液体受容装置)に向けてインクを吐出させる。そして、このようにフラッシングボックスに向けて吐出されたインクは、通常、フラッシングボックス内に配置された吸収材に吸収されて保持されるようになっている。
【0004】
そして、こうしたフラッシングボックスを備えたプリンターとしては、従来、特許文献1に示すようなものが提案されている。この特許文献1のプリンターでは、フラッシング時に記録ヘッドから吐出された廃インクが、インク受けユニットを介して廃液タンク(液体受容装置)に排出されて該廃液タンク内の廃液吸収材に吸収されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−86759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1のプリンターでは、廃液タンクの上端が常時開口しているため、フラッシング時に廃液吸収材に吸収された廃インクが、該廃インク中のインク溶媒の蒸発に伴って固化してしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、液体受容ケース内に排出された液体の蒸発を抑制することが可能な液体受容方法及び液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の液体噴射装置は、移動手段によって移動される移動体に支持され、ノズルからターゲットに液体を噴射する液体噴射ヘッドと、該液体噴射ヘッドから噴射される前記液体を受容可能な液体受容装置とを備えた液体噴射装置であって、前記液体受容装置は、前記液体噴射ヘッドのノズルから噴射される液体を受容可能であるとともに、前記液体噴射ヘッドと対向する側に開口部を有した液体受容ケースと、前記開口部を閉塞する可撓性部材と、前記可撓性部材に形成され、該可撓性部材の弾性変形によって開放可能なスリットとを備えた。
【0009】
この発明によれば、液体噴射ヘッドのノズルから可撓性部材上に液体を噴射した後に、可撓性部材を弾性変形させてスリットを開放することで、可撓性部材上に溜まった液体をスリットから液体受容ケース内に一気に排出することができる。そして、液体受容ケース内に液体を排出した後に可撓性部材を自らの弾性復元力によって元の形状に戻すことで、開放されていたスリットが速やかに閉塞される。このため、液体受容ケース内に排出された液体の蒸発を抑制することが可能となる。また、液体噴射ヘッドのノズルから可撓性部材上に液体を噴射するときに、可撓性部材上に液体を噴射せずに、可撓性部材を弾性変形させてスリットを開放することで、該噴射される液体をスリットから液体受容ケース内に速やかに排出することができる。
【0010】
本発明の液体噴射装置において、前記可撓性部材における前記液体噴射ヘッドとの対向面には、前記液体噴射ヘッドの前記ノズルから噴射される前記液体を貯留可能な液体貯留部が設けられ、前記スリットは、前記液体貯留部内に位置している。
【0011】
この発明によれば、液体噴射ヘッドのノズルから噴射される液体を液体貯留部に貯留することができる。さらに、液体貯留部に貯留した液体は、可撓性部材を弾性変形させてスリットを開放することで、該スリットから液体受容ケース内に一気に排出することが可能となる。
【0012】
本発明の液体噴射装置において、前記液体貯留部は、前記可撓性部材における前記液体噴射ヘッドとの対向面上における他の部位よりも低い部位によって構成されている。
この発明によれば、液体噴射ヘッドのノズルから可撓性部材における液体噴射ヘッドとの対向面上に噴射された液体を、重力によって液体貯留部に集めることが可能となる。
【0013】
本発明の液体噴射装置において、前記液体貯留部は、前記可撓性部材の対向面に設けられた凹部によって構成されている。
この発明によれば、液体貯留部の構成を簡単にすることが可能となる。
【0014】
本発明の液体噴射装置は、外力を受けてその受けた外力を前記可撓性部材に伝達することで、該可撓性部材を前記スリットが開放されるように弾性変形させる外力伝達手段を備えた。
【0015】
この発明によれば、外力伝達手段によって可撓性部材に外力を伝達することで、該可撓性部材のスリットを開放することが可能となる。
本発明の液体噴射装置において、前記移動体が前記外力伝達手段と係合することで、該外力伝達手段に前記外力が付与されるように構成されるとともに、前記移動手段の動作を制御する制御手段を備え、前記制御手段は、前記液体噴射ヘッドの前記ノズルから前記可撓性部材上に予め設定した所定量の前記液体が噴射された場合に、前記スリットが開放されるように前記移動手段の動作を制御する。
【0016】
この発明によれば、可撓性部材上に所定量の液体が噴射された場合に、移動体が外力伝達手段と係合するように、制御手段が移動手段の動作を制御すると、スリットが開放される。このため、可撓性部材上に溜まった所定量の液体をスリットから液体受容ケース内に一気に排出することが可能となる。
【0017】
本発明の液体噴射装置において、前記制御手段は、前記液体噴射ヘッドの前記ノズルから前記可撓性部材上に前記液体が噴射されるときに、前記スリットが開放されるように前記移動手段の動作を制御する。
【0018】
この発明によれば、液体噴射ヘッドのノズルから可撓性部材上に液体が噴射されるときだけスリットを開放することで、スリットの開放時間を抑えることができるので、液体受容ケース内に排出された液体の蒸発を効果的に抑制することが可能となる。
【0019】
本発明の液体受容方法は、液体噴射ヘッドのノズルから噴射される液体を受容する液体受容方法であって、前記液体噴射ヘッドと対向する側に開口部を有した液体受容ケースの該開口部を閉塞するとともにスリットが形成された可撓性部材上に前記液体を貯留する液体貯留ステップと、前記液体貯留ステップで前記可撓性部材上に貯留した前記液体を、前記スリットが開放されるように前記可撓性部材を弾性変形させることで該スリットから前記液体受容ケース内に流下させる液体流下ステップとを備えた。
【0020】
この発明によれば、液体貯留ステップを行った後に液体流下ステップを行うことで、液体噴射ヘッドのノズルから可撓性部材上に噴射された液体を該可撓性部材上に貯留してから液体受容ケース内に一気に排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施形態のインクジェット式プリンターの斜視図。
【図2】同プリンターのフラッシングボックスの平面図。
【図3】図2の断面図。
【図4】同フラッシングボックスのスリットが開放されたときの状態を示す平面図。
【図5】図4の断面図。
【図6】第2実施形態におけるフラッシングボックスの断面図。
【図7】変更例において、(a)は可撓性部材の平面図、(b)は(a)の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1実施形態)
以下、本発明を液体噴射装置としてのインクジェット式プリンターに具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において、「前後方向」、「上下方向」及び「左右方向」をいう場合は、特に説明がない限り、図1を基準とした場合の「前後方向」、「上下方向」及び「左右方向」と一致するものとする。
【0023】
図1に示すように、インクジェット式プリンター11の略矩形箱状をなすフレーム12内の下部には、その長手方向である左右方向に沿ってプラテン13が延設されている。プラテン13上には、フレーム12の背面下部に設けられた紙送りモーター14の駆動に基づいて、図示しない紙送り機構によりターゲットとしての記録用紙Pが後方側から給送されるようになっている。
【0024】
フレーム12内におけるプラテン13の上方には、該プラテン13の長手方向に沿ってガイド軸15が架設されている。ガイド軸15には、該ガイド軸15の軸線方向(左右方向)に沿って往復移動可能に移動体としてのキャリッジ16が支持されている。また、フレーム12の後壁内面におけるガイド軸15の両端部と対応する位置には、駆動プーリー17a及び従動プーリー17bが回転自在に支持されている。
【0025】
駆動プーリー17aにはキャリッジ16を往復移動させる際の駆動源となる移動手段としてのキャリッジモーター18の出力軸が連結されるとともに、これら一対のプーリー17a,17b間には一部がキャリッジ16に連結された無端状のタイミングベルト17が掛装されている。したがって、キャリッジ16は、ガイド軸15にガイドされながら、キャリッジモーター18の駆動力により無端状のタイミングベルト17を介して左右方向に移動されるようになっている。
【0026】
図1及び図3に示すように、キャリッジ16の下端部には、液体噴射ヘッドとしての記録ヘッド19が支持されている。記録ヘッド19の下面には、複数のノズル20が開口している。各ノズル20は、左右方向において互いに平行且つ等間隔に並ぶ複数(本実施形態では3列)のノズル列20Aを構成している。すなわち、各ノズル列20Aは、前後方向に並ぶ複数のノズル20によってそれぞれ構成されている。
【0027】
キャリッジ16上には、記録ヘッド19に対して液体としてのインクを供給するためのインクカートリッジ21が着脱可能に装着されている。そして、インクカートリッジ21内のインクは、記録ヘッド19に備えられた圧電素子(図示略)の駆動により、インクカートリッジ21から記録ヘッド19へと供給され、該記録ヘッド19の各ノズル20からプラテン13上に給送された記録用紙Pに噴射されて印刷が行われるようになっている。
【0028】
また、フレーム12内には、キャリッジ16の移動距離に比例する数のパルスを出力するリニアエンコーダー22がガイド軸15に沿うように設けられている。さらに、インクジェット式プリンター11は、該インクジェット式プリンター11を統括制御する制御手段としての制御部23を備えている。制御部23は、CPU、ROM、及びRAMを備えた構成とされている。
【0029】
制御部23は、紙送りモーター14、キャリッジモーター18、及びリニアエンコーダー22とそれぞれ電気的に接続されるとともに、紙送りモーター14及びキャリッジモーター18の駆動を個別に制御する。そして、制御部23は、リニアエンコーダー22から出力されるパルスを検出して把握されるキャリッジ16の移動位置、移動速度及び移動方向に基づいて、キャリッジモーター18の駆動を制御することで、キャリッジ16の速度制御及び位置制御を行う。
【0030】
また、フレーム12内の右端部に位置する記録用紙Pと対応しないホームポジション領域(非印刷領域)には、非印刷時に記録ヘッド19のクリーニングなどのメンテナンスを行うためのメンテナンス装置24が設けられている。一方、フレーム12内の左端部に位置する記録用紙Pと対応しない領域には、印刷中に適宜行われるフラッシングによって各ノズル20から廃液として吐出(噴射)されるインクを受容する液体受容装置としてのフラッシングボックス25が配置されている。なお、制御部23には、1回のフラッシングで各ノズル20から吐出されるインク量、後述する所定量、後述するキャリッジ16の位置情報であるフラッシング位置やスリット開放位置などが記憶されている。
【0031】
次に、フラッシングボックス25の構成について詳述する。
図2及び図3に示すように、フラッシングボックス25は、記録ヘッド19と対向する上端側に開口部26aを有する有底矩形箱状の液体受容ケースとしてのフラッシングケース26と、該フラッシングケース26の開口部26aを完全に閉塞する矩形板状の可撓性部材27とを備えている。可撓性部材27は、ゴムなどのエラストマーによって構成されている。フラッシングケース26の左側面における上端には、左方向に向かって水平に延びる矩形板状の舌片部28が設けられている。前後方向において、舌片部28の幅、フラッシングケース26の幅、及び可撓性部材27の幅は、互いに同じになっている。
【0032】
可撓性部材27は、その前後両側面及び右側面がフラッシングケース26の前後両側面及び右側面とそれぞれ面一となるように該フラッシングケース26の上面上に載置されるとともに、該可撓性部材27の右端部のみがフラッシングケース26の上面上に固着されている。可撓性部材27の左端部は、舌片部28によって下側から支持されている。そして、可撓性部材27における記録ヘッド19との対向面である上面27aの左端部には、左右方向においてキャリッジ16と係合可能な外力伝達手段としての丸棒状の係合部29が立設されている。
【0033】
フラッシングを行う際にキャリッジ16がフラッシングボックス25の真上に位置するときの該キャリッジ16の位置は、フラッシング位置(図3に示す位置)とされている。そして、このフラッシング位置にキャリッジ16が位置する場合において、可撓性部材27の上面27aにおける記録ヘッド19の各ノズル列20Aと対応する位置には、フラッシング時に各ノズル列20Aを構成する各ノズル20から吐出されるインクを受容して貯留可能な液体貯留部としての凹部30がそれぞれ設けられている。すなわち、可撓性部材27の上面27aにおいて、各凹部30が設けられた部位は、他の部位よりも低くなっている。
【0034】
各凹部30は、これらが対応するノズル列20A全体をそれぞれカバーするように、それぞれ平面視で前後方向(ノズル列20Aの延びる方向)に長い矩形状をなしている。各凹部30の深さは、可撓性部材27の厚さの半分程度に設定されている。さらに、各凹部30の底部には、前後方向に切れ込みが延びるスリット31がそれぞれ形成されている。したがって、各スリット31は、可撓性部材27を左右方向に伸ばすように弾性変形させることで、それぞれ開放されるようになっている。なお、フラッシングケース26内の底部には、インクを吸収する多孔質のインク吸収材32が配置されている。
【0035】
次に、インクジェット式プリンター11のフラッシング時の作用について説明する。
さて、インクジェット式プリンター11では、記録用紙Pの印刷中に、ほぼ一定の間隔(例えば、1パス毎)でキャリッジ16をフラッシング位置に移動させた状態でフラッシングが行われる。そして、フラッシングによって記録ヘッド19の各ノズル列20Aの各ノズル20から吐出されたインクは、それぞれ対応する各凹部30に貯留される(液体貯留ステップ)。このとき、各凹部30のスリット31は、閉塞されているため、各凹部30に貯留されたインクは、スリット31からフラッシングケース26内に流下することはない。
【0036】
そして、制御部23は、繰り返し行われるフラッシングの回数をカウントして、各凹部30に貯留されたインク量が予め設定された所定量に達したと判断した場合には、キャリッジ16がフラッシング位置から左方向に移動するように、キャリッジモーター18の駆動を制御する。本実施形態では、この所定量が、各凹部30に貯留可能な量であってフラッシング10回分に相当するインク量に設定されている。
【0037】
このキャリッジ16の移動により、該キャリッジ16が係合部29に係合した状態で該係合部29に対して左方向に向かう押圧力(外力)を付与する。これにより、係合部29が左方向に移動されるとともに、この移動に伴って可撓性部材27は右端部がフラッシングケース26に固着されているので左方向に引っ張られて弾性変形しながら伸びる。すなわち、キャリッジ16の移動力は、係合部29により、可撓性部材27を弾性変形させるための弾性変形力として該可撓性部材27に伝達される。
【0038】
すると、図4及び図5に示すように、各スリット31が開放されて各凹部30内とフラッシングケース26内とが該各スリット31を介して連通した状態になる。この状態になるときのキャリッジ16の位置(図5に示す位置)はスリット開放位置として予め制御部23に記憶されているため、制御部23はキャリッジ16がフラッシング位置からスリット開放位置まで移動したときにキャリッジモーター18の駆動を停止する。
【0039】
そして、各スリット31が開放されると、該各スリット31から各凹部30に貯留されたインクがそれぞれ一気にフラッシングケース26内に流下する(液体流下ステップ)。この場合、各凹部30に所定量のインクが貯留された状態で各スリット31が開放されるため、該インクは各凹部30にほとんど残ることなくフラッシングケース26内に流下する。
【0040】
フラッシングケース26内に流下したインクは、インク吸収材32に吸収されて保持される。このとき、所定量のインクがまとまってインク吸収材32上に流下するため、該インクがインク吸収材32の表面で固まることなく該インク吸収材32の内部まで円滑に浸透する。また、各スリット31の開放前に各凹部30でインクが固まってしまった場合でも、可撓性部材27の弾性変形によって各スリット31が開放されることで、各凹部30で固まったインクが罅割れして各スリット31からフラッシングケース26内に剥がれ落ちる。
【0041】
そして、各凹部30内のインクが各スリット31からフラッシングケース26内に流下した後、制御部23は、キャリッジ16がスリット開放位置から記録用紙P上の印刷領域に移動して印刷を再開するように、キャリッジモーター18の駆動を制御する。このとき、キャリッジ16により係合部29を介して左方向に引っ張られて伸びるように弾性変形していた可撓性部材27が自らの弾性復元力により元の形状に戻るため、開放されていた各スリット31は速やかに閉塞される。
【0042】
このように、可撓性部材27の各スリット31は各凹部30に貯留された所定量のインクをフラッシングケース26内に流下させるとき以外に開放されることはないので、フラッシングケース26内のインクの蒸発が効果的に抑制されて湿潤状態が好適に維持される。
【0043】
以上、詳述した第1実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
(1)フラッシングボックス25は、記録ヘッド19の各ノズル20から噴射されるインクを受容可能であるとともに、上端側に開口部26aを有したフラッシングケース26と、開口部26aを閉塞する可撓性部材27とを備えている。そして、可撓性部材27の上面27aには、フラッシングによって記録ヘッド19の各ノズル20から吐出されるインクをノズル列20A毎に貯留する凹部30がそれぞれ設けられるとともに、該各凹部30内には可撓性部材27の弾性変形によって開放可能なスリット31がそれぞれ形成されている。
【0044】
このため、フラッシングを10回行って各凹部30にフラッシング10回分に相当する所定量のインクを貯留した後に、可撓性部材27を弾性変形させて各スリット31を開放することで、各凹部30に貯留した所定量のインクを各スリット31からフラッシングケース26内に一気に流下させる(排出する)ことができる。この場合、フラッシング1回分のインク量が各凹部30に貯留した状態で各スリット31を開放しても、貯留したインクが少量のため流下しないが、フラッシングを複数回行った後にスリット31を開放することで各凹部30に貯留したインクが流れ易くなる。このため、各凹部30に貯留したインクが該各凹部30にほとんど残ることなく、該インクを各スリット31からフラッシングケース26内に流下させることができる。各凹部30に貯留する所定量のインクは、各スリット31の開放によって流下するインク量になる。そして、各凹部30に貯留したインクを各スリット31からフラッシングケース26内に流下させた(排出した)後には、可撓性部材27を自らの弾性復元力によって元の形状に戻すことで、開放されていた各スリット31を速やかに閉塞することができる。このため、フラッシングケース26内がほぼ密閉状態となるので、フラッシングケース26内のインクの蒸発を効果的に抑制することができ、フラッシングケース26内の湿潤状態を好適に維持することができる。この結果、フラッシングケース26内のインクが固化することを抑制することができる。また、複数回のフラッシング後にキャリッジ16を移動して各スリット31を開放しているため、フラッシングの度に毎回キャリッジ16を移動して各スリット31を開放する場合に比べて、各スリット31を開放するためのキャリッジ16の移動回数を減らすことができ、印字時間を短くすることができる。
【0045】
(2)フラッシングボックス25は、可撓性部材27の上面27aにインクを貯留可能な凹部30が液体貯留部として設けられているため、液体貯留部を簡単な構成にすることができる。
【0046】
(3)フラッシングボックス25は、キャリッジ16と係合することで、該キャリッジ16の移動力を、各スリット31が開放されるように可撓性部材27を弾性変形させる弾性変形力として該可撓性部材27に伝達する係合部29を備えている。このため、キャリッジ16の移動によって可撓性部材27の各スリット31を開放することができる。
【0047】
(4)フラッシングボックス25において、フラッシングケース26内には、インクを吸収するインク吸収材32が収容されている。このため、フラッシングケース26内に排出されたインクをインク吸収材32によって吸収して保持することができるので、該フラッシングケース26内の湿潤状態を好適に維持することができる。
【0048】
(5)フラッシングボックス25の可撓性部材27において、各凹部30内の厚さ(各スリット31のある部分の厚さ)は、他の部分の厚さの半分程度になっているため、可撓性部材27を容易に弾性変形させて各スリット31を開放することができる。
【0049】
(6)フラッシングボックス25において、可撓性部材27の各スリット31は、各凹部30に貯留された所定量のインクをフラッシングケース26内に流下させるときだけ開放されて、それ以外のときには閉塞されるため、可撓性部材27がフラッシングケース26の蓋として機能する。このため、キャリッジ16の移動による気流の影響でフラッシングケース26内のインクが飛散してフレーム12内がインクで汚染されたり、フラッシングケース26内のインクが蒸発したりすることを、可撓性部材27によって抑制することができる。
【0050】
(7)フラッシングボックス25は、可撓性部材27を弾性変形させることで各スリット31を開放させる一方、可撓性部材27の弾性復元力によって開放された各スリット31を閉塞している。このため、可撓性部材27の代わりに硬質の閉塞部材を用いるとともに該閉塞部材にインクを流下するための貫通孔と該貫通孔を開閉可能な蓋とを設ける場合に比べて、部品点数を少なくすることができる。
【0051】
(第2実施形態)
以下、本発明の第2実施形態を上記第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
図6に示すように、この第2実施形態は、第1実施形態のフラッシングボックス25において、可撓性部材27から各凹部30を省略するとともに、キャリッジ16がフラッシング位置に移動したときに可撓性部材27が弾性変形して各スリット31が開放されるように係合部29の位置を調整したものである。すなわち、第2実施形態では、フラッシング位置とスリット開放位置とが一致している。また、キャリッジ16がフラッシング位置にある場合において、各ノズル列20Aと各スリット31とはそれぞれ互いに対応している。
【0052】
さて、インクジェット式プリンター11の印刷中に、フラッシングを行うべくキャリッジ16を印刷領域からフラッシング位置に移動させると、このキャリッジ16の移動により、該キャリッジ16が係合部29に係合した状態で該係合部29に対して左方向に向かう押圧力(外力)を付与する。これにより、係合部29が左方向に移動されるとともに、この移動に伴って可撓性部材27が左方向に引っ張られて弾性変形しながら伸びる。すなわち、キャリッジ16の移動力は、係合部29により、可撓性部材27を弾性変形させるための弾性変形力として該可撓性部材27に伝達される。
【0053】
すると、図6に示すように、可撓性部材27は、各スリット31が開放された状態になる。この状態で、フラッシングによって記録ヘッド19の各ノズル列20Aの各ノズル20から吐出されたインクは、それぞれ対応する各スリット31を通ってフラッシングケース26内に直接排出される。
【0054】
フラッシングの終了後、印刷を再開するべくキャリッジ16をフラッシング位置から記録用紙P上の印刷領域に移動させると、キャリッジ16により係合部29を介して左方向に引っ張られて伸びるように弾性変形していた可撓性部材27が自らの弾性復元力により元の形状に戻るため、開放されていた各スリット31は速やかに閉塞される。なお、この第2実施形態におけるキャリッジ16の移動制御は、第1実施形態と同様に、制御部23がキャリッジモーター18の駆動を制御することによって行われる。
【0055】
このように、可撓性部材27の各スリット31はフラッシングを行うとき以外に開放されることはないので、フラッシングケース26内のインクの蒸発が効果的に抑制されて湿潤状態が好適に維持される。
【0056】
以上、詳述した第2実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
(8)フラッシングボックス25は、フラッシングが行われるときだけ各スリット31が開放されるので、各スリット31の開放時間を短く抑えることができる。このため、フラッシングケース26内のインクの蒸発を効果的に抑制することができる。
【0057】
(9)キャリッジ16のフラッシング位置への移動にともなって可撓性部材27が弾性変形して各スリット31が開放されるので、フラッシングによって記録ヘッド19の各ノズル20から吐出されるインクを、各スリット31を通してフラッシングケース26内に直接的且つ速やかに排出することができる。
(変更例)
なお、上記各実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
【0058】
・図7(a)、(b)に示すように、第1実施形態の可撓性部材27において、各凹部30の代わりに、各スリット31を囲うように上面27a上に矩形枠状の堰部40をそれぞれ設けて、該各堰部40を液体貯留部として用いてもよい。
【0059】
・第1実施形態において、各スリット31を開放するタイミングの基準となる所定量は、各凹部30に貯留可能な量であれば、フラッシングの任意の回数分に相当するインク量に適宜変更してもよい。
【0060】
・第1実施形態において、各スリット31の開放は、各凹部30がフラッシングのインクで満たされたときや1つの印刷ジョブが終了したときに行うようにしてもよい。
・インク吸収材32は省略してもよい。
【0061】
・フラッシングボックス25において、係合部29を省略し、変形手段としてエアシリンダーなどのアクチュエーターを用いて、各スリット31が開放されるように可撓性部材27を弾性変形させるようにしてもよい。このようにすれば、キャリッジ16やキャリッジモーター18に負荷をかけることなく、アクチュエーターによって各スリット31を開放することができる。
【0062】
・フラッシングボックス25において、可撓性部材27に磁性体を取着して電磁石による磁力によって各スリット31が開放されるように可撓性部材27を弾性変形させるようにしてもよい。
【0063】
・フラッシングボックス25において、可撓性部材27は、キャリッジ16の移動方向の両側(左右両側)から引っ張られることで、各スリット31が開放されるように弾性変形されるように構成してもよい。この場合、可撓性部材27は、左右方向の中央部のみがフラッシングケース26の上面上に固着される。
【0064】
・第1実施形態において、可撓性部材27から各凹部30を省略してもよい。
・第1実施形態において、可撓性部材27における各凹部30内の底面を各スリット31に向かって下降するように傾斜させてもよい。
【0065】
・第1実施形態において、可撓性部材27の上面27aを傾斜面とし、該上面27aにおける最も低い部位にスリット31を設けて、該最も低い部位を液体貯留部として用いてもよい。このようにすれば、可撓性部材27の上面27a上にフラッシングされたインクを重力によって液体貯留部に集めることができる。
【0066】
・第1実施形態において、可撓性部材27の上面27aに記録ヘッド19の全てのノズル列20Aをカバーできる凹部30を1つ設けるとともに、該凹部30内にスリットを1つだけ形成するようにしてもよい。
【0067】
・フラッシングボックス25において、可撓性部材27の各スリット31は十字状や放射状に形成してもよい。
・第1実施形態において、フラッシングボックス25の可撓性部材27を、定形性を有する硬質の閉塞部材に変更してもよい。この場合、各凹部30内には、スリット31の代わりに、各凹部30に貯留したインクをフラッシングケース26内に流下(排出)させるための貫通孔と該貫通孔を開閉可能な蓋とを設ける必要がある。この場合、貫通孔と蓋とによって液体流下手段が構成される。このようにすれば、各凹部30にフラッシングのインクを所定量貯留した状態で貫通孔の蓋を開放することで、該各凹部30に貯留した所定量のインクを貫通孔からフラッシングケース26内にまとめて一気に流下させることができる。
【0068】
・インクジェット式プリンター11において、ターゲットは、プラスチックフィルム、布、金属箔などであってもよい。
・上記各実施形態では、液体噴射装置をインクジェット式プリンター11に具体化したが、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置を採用してもよい。微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルターの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用してもよい。そして、これらのうちいずれか一種の液体噴射装置に本発明を適用することができる。
【0069】
さらに、上記各実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
(イ)液体噴射ヘッドのノズルから噴射される液体を受容可能であるとともに、前記液体噴射ヘッドと対向する開口部を有した液体受容ケースと、前記開口部を閉塞する閉塞部材とを備え、前記閉塞部材における前記液体噴射ヘッドとの対向面には、前記液体噴射ヘッドの前記ノズルから噴射される前記液体を貯留可能な液体貯留部が設けられ、前記液体貯留部内には、該液体貯留部に貯留された前記液体を前記液体受容ケース内に流下させる液体流下手段が設けられていることを特徴とする液体受容装置。
【0070】
この構成によれば、液体噴射ヘッドのノズルから噴射される液体を液体貯留部に貯留することができる。さらに、液体貯留部に貯留した液体は、液体流下手段によって液体受容ケース内に一気に排出することができる。
【符号の説明】
【0071】
11…液体噴射装置としてのインクジェット式プリンター、16…移動体としてのキャリッジ、18…移動手段としてのキャリッジモーター、19…液体噴射ヘッドとしての記録ヘッド、20…ノズル、23…制御手段としての制御部、25…液体受容装置としてのフラッシングボックス、26…液体受容ケースとしてのフラッシングケース、26a…開口部、27…可撓性部材、27a…対向面としての上面、29…外力伝達手段としての係合部、30…液体貯留部としての凹部、31…スリット、P…ターゲットとしての記録用紙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動手段によって移動される移動体に支持され、ノズルからターゲットに液体を噴射する液体噴射ヘッドと、
該液体噴射ヘッドから噴射される前記液体を受容可能な液体受容装置と
を備えた液体噴射装置であって、
前記液体受容装置は、
前記液体噴射ヘッドのノズルから噴射される液体を受容可能であるとともに、前記液体噴射ヘッドと対向する側に開口部を有した液体受容ケースと、
前記開口部を閉塞する可撓性部材と、
前記可撓性部材に形成され、該可撓性部材の弾性変形によって開放可能なスリットと
を備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記可撓性部材における前記液体噴射ヘッドとの対向面には、前記液体噴射ヘッドの前記ノズルから噴射される前記液体を貯留可能な液体貯留部が設けられ、
前記スリットは、前記液体貯留部内に位置していることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記液体貯留部は、前記可撓性部材における前記液体噴射ヘッドとの対向面上における他の部位よりも低い部位によって構成されていることを特徴とする請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記液体貯留部は、前記可撓性部材の対向面に設けられた凹部によって構成されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
外力を受けてその受けた外力を前記可撓性部材に伝達することで、該可撓性部材を前記スリットが開放されるように弾性変形させる外力伝達手段を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項4のうちいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記移動体が前記外力伝達手段と係合することで、該外力伝達手段に前記外力が付与されるように構成されるとともに、前記移動手段の動作を制御する制御手段を備え、
前記制御手段は、前記液体噴射ヘッドの前記ノズルから前記可撓性部材上に予め設定した所定量の前記液体が噴射された場合に、前記スリットが開放されるように前記移動手段の動作を制御することを特徴とする請求項5に記載の液体噴射装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記液体噴射ヘッドの前記ノズルから前記可撓性部材上に前記液体が噴射されるときに、前記スリットが開放されるように前記移動手段の動作を制御することを特徴とする請求項6に記載の液体噴射装置。
【請求項8】
液体噴射ヘッドのノズルから噴射される液体を受容する液体受容方法であって、
前記液体噴射ヘッドと対向する側に開口部を有した液体受容ケースの該開口部を閉塞するとともにスリットが形成された可撓性部材上に前記液体を貯留する液体貯留ステップと、
前記液体貯留ステップで前記可撓性部材上に貯留した前記液体を、前記スリットが開放されるように前記可撓性部材を弾性変形させることで該スリットから前記液体受容ケース内に流下させる液体流下ステップと
を備えたことを特徴とする液体受容方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−116034(P2012−116034A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266222(P2010−266222)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】