説明

液体吐出ヘッドおよび溶液ガイドの製造方法

【課題】低電圧で高速でのインク液滴の吐出が可能な静電式インクジェットの液体吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】吐出口が形成された吐出基板と、各吐出口に対応する吐出電極と、吐出口を通過して吐出基板から突出する溶液ガイドとを有し、かつ、溶液ガイドは、少なくとも先端部が樹脂材料に高誘電率材料粒子を分散してなる複合材料で形成されたものであることにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電粒子が分散された溶液に静電力を作用させることで液滴を吐出させる、静電式インクジェットの液体吐出ヘッド、および、この液体吐出ヘッドの溶液ガイドを製造する製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インク液滴を吐出することによって画像記録(描画)を行うインクジェットの液体吐出ヘッド(以下、吐出ヘッドとする)としては、インクを加熱してインクに発生した気泡の膨張力でインク液滴を吐出させる、いわゆるサーマルインクジェットの吐出ヘッドや、圧電素子によりインクに圧力を与えてインク液滴を吐出させる、いわゆるピエゾタイプのインクジェットの吐出ヘッドが知られている。
しかしながら、サーマルジェットヘッドでは、インクを部分的に300℃以上に加熱するため、インクの材料が限定されるという問題があり、他方、ピエゾタイプのインクジェットでは、構造が複雑でコストが高いといった問題がある。
【0003】
これらの問題を解決するインクジェットとして、帯電した色材粒子(微粒子)を含むインクを用い、インクに静電力を作用させ、この静電力でインク液滴を吐出する、静電式インクジェットが知られている。
静電式インクジェットの吐出ヘッドは、インク液滴を吐出するための多数の貫通孔(吐出口)が形成された絶縁性の吐出基板と、吐出口の個々に対応する吐出電極とを有し、吐出電極に所定の電圧を印加することにより、インクに静電力を作用させてインク液滴を吐出するものであり、画像データに応じて吐出電極への電圧印加on/offを制御(吐出電極を変調駆動)することによりインク液滴を吐出して、画像データに対応する画像を記録媒体上に記録する。
【0004】
このような静電式インクジェットの吐出ヘッドとして、例えば、特許文献1には、図4に概念的に示すように、支持基板202と、インクガイド204と、吐出基板206と、吐出電極208と、バイアス電圧源212と、信号電圧源214とを備える吐出ヘッド200が開示されている。
【0005】
吐出ヘッド200において、支持基板202と吐出基板206は、共に絶縁性の基板であり、所定間隔だけ離間して配置される。
吐出基板206には、インク液滴の吐出口218となる貫通孔(基板貫通孔)が多数形成され、前記支持基板202と吐出基板206との間隙が、この吐出口218にインクQを供給するインク流路216となる。さらに、吐出基板206の上面(インク液滴Rの吐出側表面)には、吐出口218を囲んでリング状の吐出電極208が設けられる。吐出電極208には、バイアス電源212およびパルス電源である駆動電源214が接続され、かつ、両者を介して接地されている。
他方、支持基板202には、各吐出口218に対応して、吐出口218を挿通して吐出基板206から突出するインクガイド204が設けられる。インクガイド204の先端部204aは、所定幅だけ切り欠かれて、先端部204aにインクQを供給するためのインク案内溝220が形成される。
【0006】
このような吐出ヘッド200を用いる参考文献1に開示される(インクジェット)記録装置においては、画像記録時には、記録媒体Pは対向電極210に支持される。
対向電極210は、吐出電極208の対向電極としての機能に加え、画像記録時に記録媒体Pを支持するプラテンとしても機能するものであり、吐出基板206の上面に対面するようにして、インクガイド204の先端部204aと所定間隔離間して配置される。
【0007】
吐出ヘッド200において、画像記録時には、図示しないインクの循環機構により、帯電した色材粒子を含有するインクQが、インク流路216内を、例えば図中右側から左側へ向かって流される。なお、インクQの色材粒子は、吐出電極208に印加される電圧と同極性に帯電している。
また、記録媒体Pは、対向電極210に支持されて、吐出基板206と対面している。
さらに、吐出電極208には、バイアス電圧として、バイアス電源212から、例えば1.5kVの直流電圧が、常時、印加されている。
【0008】
このインクQの循環およびバイアス電圧の印加により、インクQの表面張力、毛管現象、バイアス電圧による静電力などの作用で、インクQが、インクガイド204のインク案内溝220から先端部分204aに供給され、吐出口218においてインクQのメニスカスが形成され、かつ、色材粒子が吐出口218近傍に移動(静電力による泳動)して、インクQが吐出部218や先端部分204aにおいて濃縮された状態となっている。
この状態において、駆動電源214が吐出電極208に画像データ(駆動信号)に応じた、例えば500Vのパルス状の駆動電圧を吐出電極208に印加すると、バイアス電圧に駆動電圧が重畳されて、インクQの先端部分204aへの供給および濃縮が促進され、インクQおよび色材粒子の先端部204aへの移動力および対向電極14からの吸引力が、インクQの表面張力を超えた時点で、色材粒子が濃縮されたインクQの液滴(インク液滴R)が吐出される。
吐出されたインク液滴Rは、吐出された際の勢い、および、対向電極210による引力によって飛翔し、記録媒体Pに着弾して画像を形成する。
【0009】
このように、静電式インクジェットの吐出ヘッドでは、インクQの表面張力とインクQにかかる静電力とのバランスを制御することによって、インク液滴Rを吐出する。
従って、低い駆動電圧で、かつ、高速(高い記録(吐出)周波数)で安定してインク液滴の吐出を行うためには、各吐出口毎に設けられるインクガイドは重要であり、インクガイドには、好適にインクを案内して吐出口におけるインクのメニスカスを適正に安定させること(以下、メニスカス安定性とする)や、良好な静電力の集中力(電界集中力)等が要求される。
【0010】
このような特性を満たすために、静電式インクジェットの吐出ヘッドでは、インクガイドに様々な工夫が成されている。
例えば、前記参考文献1に開示される吐出ヘッドであれば、前述のように、インクガイド204の先端部204aを所定幅だけ切り欠いてインク案内溝220を形成することにより、インクガイド204の先端部204aへのインクQの供給性を、より良好なものとしている。
また、特許文献2には、インクガイド(突起板)の表面に第2電極を形成することにより、さらに、特許文献3には、インクガイド(コーン状突起)の表面を吐出電極で被覆することにより、共に、インクガイドによる電界集中力を向上した静電式インクジェットの吐出ヘッドが、開示されている。
【0011】
【特許文献1】特開平10−230608号公報
【特許文献2】特開平10−76664号公報
【特許文献3】特開平8−149253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、良好なメニスカス安定性や電界集中力を有するインクガイドを得るためには、インクガイドは、良好な成形性で確実にインクを案内できるように高精度に成形され、かつ、自身に電界を集中できるように高い誘電率を有するのが好ましい。
【0013】
通常は、良好な誘電率を有するインクガイドを得るために、例えばZrO2やAl23などの誘電率が高いセラミックス材料でインクガイドが成形されている。しかしながら、セラミックスは成形性や加工性が悪く、しかも、硬く脆い。さらに、近年では、記録の高解像度化に対応して、インクガイドにも、より微細な成形/加工が要求される。そのため、セラミックス材料では、例えば、参考文献1に示されるインク案内溝220を有するようなインクガイドを高精度に成形することは困難である。加えて、セラミックスでは、成形に1000℃程度の高温が必要であるという難点も有る。
【0014】
他方、各種の樹脂材料でインクガイドを形成することにより、良好な成形性や加工性を確保して、微細かつ高精度に成形されたインクの案内性に優れたインクガイドを実現できる。しかしながら、樹脂製のインクガイドは誘電率が低く、電界集中力に優れたインクガイドを得ることは困難である。
【0015】
また、引用文献2や引用文献3に開示されるように、インクガイドの表面に電極を形成することで、電界集中力を向上する方法もあるが、この方法では、吐出ヘッドの生産性が悪くなる。しかも、インクガイドの表面に電極を形成すると、隣接する吐出口(チャンネル)間における電界干渉が生じ易いため、吐出口の高密度化や、2次元ヘッド(吐出口を2次元的に配列してなるヘッド)の形成が困難であるという問題点もある。
【0016】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決することにあり、高い誘電率を有し、かつ、成形性も高い材料からなる、メニスカス安定性および電界集中力に優れた溶液ガイド(インクガイド)を有することにより、低電圧駆動で、高速で安定してインク液滴を吐出/飛翔することができる静電式インクジェットの液体吐出ヘッド、および、この液体吐出ヘッドに用いられる溶液ガイドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するために、本発明の液体吐出ヘッドは、帯電粒子が分散された溶液に静電力を作用させて、前記溶液の液滴を吐出させる液体吐出ヘッドであって、前記液滴を吐出する複数の貫通孔が形成された絶縁性の吐出基板と、前記貫通孔の個々に対応して配置される、前記溶液に静電力を作用させる吐出電極と、前記貫通孔を通過して前記吐出基板の液滴吐出側に突出する溶液ガイドとを有し、かつ、前記溶液ガイドは、少なくとも先端部が樹脂材料に高誘電率材料粒子を分散してなる複合材料で形成されたものであることを特徴とする液体吐出ヘッドを提供する。
【0018】
このような本発明の液体吐出ヘッドにおいて、記溶液ガイドが、先端に向かって次第に細くなる形状を有するのが好ましく、また、前記溶液ガイドは、少なくとも前記吐出電極よりも先端側が前記複合材料で形成されたものであるのが好ましく、さらに、前記樹脂材料が、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、およびフェノール樹脂のうちのいずれか1種であり、前記高誘電率材料が、PZT、PMN−PT、チタン酸バリウム、およびチタン酸ストロンチウムのうちのいずれか1種であるのが好ましい。
【0019】
また、本発明の製造方法は、前記本発明の液体吐出ヘッドに用いられる溶液ガイドの製造方法であって、前記溶液ガイドの形状に応じた複数の凹部を有する型に未硬化の前記複合材料を充填して、複合材料の硬化および余分な複合材料の除去を行い、前記複合材料の樹脂材料と同材料からなる支持基板に、硬化した複合材料の溶液ガイド基端部を固定した後、前記型を取り除くことを特徴とする溶液ガイドの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
上記構成を有する本発明によれば、微細であっても高精度に加工され、しかも高い誘電率を有することにより、好適にインクを案内して吐出口におけるインクのメニスカスを適正に安定させることができ、かつ、電界集中力に優れた溶液ガイド(インクガイド)を有する、静電式インクジェットの液体吐出ヘッドを実現できる。
従って、本発明の液体吐出ヘッドによれば、静電式のインクジェットにおいて、低電圧駆動で、高速(高い記録(液滴吐出)周波数)で安定したインク液滴を吐出/飛翔することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の液体吐出ヘッド、および、この液体吐出ヘッドに用いられる溶液ガイドの製造方法について、添付の図面に示される好適実施例を基に詳細に説明する。
【0022】
図1に、本発明の静電式インクジェットの液体吐出ヘッドの一例を利用するインクジェット記録装置の一例の概念図を示す。
【0023】
図1に示すインクジェット記録装置10(以下、記録装置10とする)は、静電式のインクジェットによってインク液滴Rを吐出して、記録媒体Pに画像記録(描画)を行うものであり、基本的に、本発明の液体吐出ヘッド12(以下、吐出ヘッド12とする)と、記録媒体Pの保持手段14と、インク循環系16と、電圧印加手段18とを有して構成される。
【0024】
図示例の記録装置10において、吐出ヘッド12は、一例として、記録媒体Pの一辺の全域に対応するインク液滴Rの吐出口24の列(以下、ノズル列とする)を有する、いわゆるラインヘッドである。
記録装置10においては、記録媒体Pを保持手段14で保持して、記録媒体Pを吐出ヘッド12と対面して所定の記録位置に位置した状態で、保持手段14を吐出ヘッド12のノズル列と直交する方向に移動(走査搬送)することにより、ノズル列によって記録媒体Pの全面を二次元的に走査する。この走査に同期して、吐出ヘッド12の各吐出口24から、記録画像に応じて変調してインク液滴Rを吐出することにより、記録媒体Pにオンデマンドで画像を記録する。
また、画像記録時には、インク循環系16によって、吐出ヘッド12(後述するインク流路32)を含む所定の循環経路でインクQを循環することにより、各吐出口24にインクQを供給する。
【0025】
吐出ヘッド12は、静電力によってインクQ(インク液滴R)を吐出する静電式インクジェットの液体吐出ヘッドであって、図1および図2に示すように、基本的に、吐出基板19と、支持基板20と、本発明の特徴的な部位であるインクガイド22とを有して構成される。
【0026】
吐出基板19は、Al23やZrO2などのセラミックス材料やポリイミドなどの絶縁性材料からなる基板で、吐出基板19を貫通して、インクQのインク液滴Rを吐出するための吐出口24が、多数、穿孔される。
吐出ヘッド12は、図2の概略図に示すように、より高解像度で高速な画像記録が可能な好適例として、格子状に二次元的に配列された吐出口24を有する。
【0027】
なお、本発明の液体吐出ヘッドは、図示例のように格子状に吐出口24を有するものに限定はされず、例えば、隣接するノズル列を互いに半ピッチ分ずらして、千鳥格子状に吐出口を配列したものであってもよい。あるいは、二次元的に吐出口を配列した構成ではなく、1列のノズル列のみを有するものであってもよい。
また、本発明は、図示例のようなラインヘッドに限定はされず、記録媒体Pをノズル列の長さに対応する所定長ずつ断続的に搬送しつつ、この断続的な搬送に同期して、ノズル列と直交する方向に液体吐出ヘッドを移動して描画を行う、いわゆるシャトルタイプの液体吐出ヘッドであってもよい。
さらに、本発明の液体吐出ヘッドは、モノクロの画像記録に対応する1種のインクのみを吐出する吐出ヘッドであってもよく、カラー画像記録に対応する複数種のインクを吐出する液体吐出ヘッドであってもよい。
【0028】
吐出基板19の上面(液滴吐出側=記録媒体P側の面 以下、こちら方向を上、逆方向を下と称する)の吐出口24以外の領域は、好ましい態様として、シールド電極26によって全面的に被覆されている。
シールド電極26は、導電性の金属板などで形成される全吐出口24に共通のシート状電極で、所定電位に保持され(接地による0Vを含む)ている。このようなシールド電極26を有することにより、互いに隣接する吐出口24(吐出部)の電気力線を遮蔽して、吐出部間における電界干渉を防止して、インク液滴Rの吐出を安定できる。
また、必要に応じて、各シールド電極26の表面を撥インク処理してもよい。
【0029】
シールド電極26の上面には、好ましい態様として、立体障壁28が配置される。
立体障壁28は、各吐出口24を個々に囲んで分離することにより、吐出口24同士でのインクQの混合の防止、すなわち各吐出口24(吐出部)毎のインクQのメニスカスの確実な分離を図るためのものである。
図示例においては、図2に示すように、各吐出口24を分離するように格子状に壁で立体障壁28が形成されている。しかしながら、本発明は、これに限定はされず、個々の吐出口24を分離することができれば、例えば、各吐出口24を個々に囲む円筒状の立体障壁等であってもよい。
また、立体障壁28の壁面をへのインクの這い上がりを確実に防止し、吐出口24同士を確実に防止するために、例えば撥インク処理等により、立体障壁28の表面を撥インク性とするのが好ましい。なお、シールド電極26や立体障壁28の撥インク処理は、それぞれの形成材料やインクQの分散媒等に応じた公知の方法で行えばよい。
【0030】
吐出基板19の下面には、各吐出口24に対応して、吐出電極30が設けられる。
図示例において、吐出電極30は、吐出口24を囲むリング状の電極であり、電圧印加手段18に接続されている。
なお、吐出電極30は、図示例のようなリング状に限定はされず、吐出口24を囲む矩形であってもよく、あるいは、吐出口24の全域を囲むものにも限定はされず、例えば、略C字状等の吐出電極も利用可能である。
【0031】
吐出電極30には、電圧印加手段18が接続される。電圧印加手段18は、駆動電源50とバイアス電源52とが直列に接続されたもので、インクQの色材粒子の帯電電位と同極側(例えば正極)が吐出電極30に接続されて、他極側は設置されている。
駆動電源50は、例えばパルス電源であって、記録画像(画像データ=吐出信号)に応じて変調したパルス状の駆動電圧を吐出電極30に供給する。バイアス電源52は、画像記録中に、所定のバイアス電圧を、常時、吐出電極30に印加する。このようなバイアス電源52(バイアス電圧の印加)を有することにより、駆動電圧の低減を図ることができ、消費電圧の低減や駆動電源の低コスト化を図ることができる。
【0032】
支持基板20も、ガラス等の絶縁性の材料で形成される基板である。
吐出基板19と支持基板20とは、所定の間隔だけ離間して配置され、その間隙がインクQを各吐出口24に供給するインク流路32となる。
インク流路32は、後述するインク循環系16に接続されており、インク循環系16が所定の経路でインクQを循環することにより、インク流路32にインクQが流れ(図示例では、例えば右から左)、各吐出口24にインクが供給される。
【0033】
支持基板20の上面には、インクガイド22が設けられる。
インクガイド22は、インク流路32から吐出口24に供給されたインクQを案内して、メニスカスの形状や大きさを調整してメニスカスを安定させ、かつ、自身に電界(静電力)を集中させてメニスカスに電界を集中させることにより、インク液滴Rを吐出し易くするためのもので、吐出口24を貫通して吐出基板19の表面から記録媒体P(保持手段14)側に突出するように、各吐出口24に対応して配置される。
互いに対応する吐出口24、吐出電極30、およびインクガイド22によって、1ドットの液滴吐出に対応する1つの吐出部が形成される。
【0034】
インクガイド22は、本発明の特徴的な部位であり、樹脂材料に高誘電率材料の微粒子を分散してなる複合材料で形成される。
【0035】
前述のように、インクガイド22には、好適にインクQを案内して吐出口24におけるインクQのメニスカスを適正に安定させることができ(メニスカス安定性に優れ)、かつ、好適に静電力を集中できること(良好な電界集中力)が要求される。このような特性を満たすためには、インクガイド22が、微細であってもインクを確実かつ良好に案内できる形状に高精度に成形することができ、かつ、自身に良好に電界を集中できる充分な誘電率を有することが重要である。
【0036】
現状では、良好な誘電率を得るために、セラミック材料でインクガイドが形成されている。しかしながら、セラミックスは加工性や成形性が悪く、しかも硬く脆いため、高精度な成形を行って、良好なメニスカス安定性を有するインクガイドを得ることが難しい。他方、樹脂材料を用いてインクガイドを成形することにより、高精度な成形を行って、良好なメニスカス安定性を有するインクガイドを得ることはできるが、樹脂製のインクガイドは誘電率が極めて低いため、良好な電界週通力を有するインクガイドが得られない。
また、インクガイドを樹脂で成形し、その表面に電極(吐出電極もしくは補助電極)を形成することにより、成形精度と電界集中力とを両立することも考えられる。しかしながら、この方法では、インクガイドの生産性すなわち吐出ヘッドの生産性が悪くなり、また、吐出部間における電界干渉を起こし易いため、吐出部の高密度化や図示例のような二次元的な吐出部の配列が困難である。
【0037】
このような問題点を解決するために、本発明の吐出ヘッド12は、樹脂材料に高誘電率材料の微粒子を分散してなる複合材料(コンポジットレジン)からなるインクガイド22を有する。
インクガイドの成形に用いられているZrO2(ジルコニア)やAl23(アルミナ)等のセラミック材料の誘電率は20程度である。また、エポキシ樹脂の誘電率は4程度である。これに対し、例えば、エポキシ樹脂に、PMN−PT(誘電率17800)の微粒子(0.8μm)を40%(体積百分率)分散してなる複合材料は、誘電率が30程度と、セラミック材料と同等以上の誘電率を有する(日本接着学会誌 Vol.39 No.2(2003)参照)。
【0038】
従って、このような複合材料からなるインクガイド22は、樹脂材料を主成分(マトリクス)とすることによる微細な成形性および加工性と、高誘電率とを両立させた、メニスカス安定性と電界集中力に優れたものである。このようなインクガイド22を有する本発明の吐出ヘッド12によれば、メニスカスを安定して適正な状態とでき、しかも、インクガイドに好適に電界(静電力)を集中でききるので、低電圧駆動で、かつ、高速(高い記録(液滴吐出)周波数)で安定したインク液滴を吐出/飛翔することができる。
また、インクガイド22が電極を有さないので、高解像度記録に対応して高密度に吐出部を配列することができ、さらに、高解像度化や多チャンネル化、図示例のような二次元的な吐出部の配列も容易に行うことができる。
【0039】
本発明の吐出ヘッド12において、インクガイド22となる複合材料には、特に限定はなく、インクQに対する充分な耐性を有する樹脂材料に、高誘電率材料を分散してなる、各種の複合材料が利用可能である。
例えば、シリコン樹脂、生ゴム、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂等の樹脂材料に、PZT(ジルコン酸チタン酸鉛:Pb(Zr,Ti)O3)、PMN−PT(マグネシウムニオベイト鉛−チタネイト鉛:Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)等の高誘電率材料の微粒子を分散してなる複合材料が例示される。好ましくは、誘電率が100以上の高誘電率材料が用いられる。
【0040】
より具体的には、エポキシ樹脂にPMN−PTの微粒子を分散してなる複合材料、エポキシ樹脂にPZTの微粒子を分散してなる複合材料、ウレタン樹脂にPMN−PTの微粒子を分散してなる複合材料等が例示される。
【0041】
樹脂材料と高誘電率材料との複合材料において、誘電率や成形性等は、高誘電率材料の粒子サイズ、粒子形状、充填密度(複合材料における高誘電率材料の含有量)、高誘電率材料の粒子−粒子相互間作用等に依存し、これらの組み合わせによって、複合材料の特性は変動する。
【0042】
従って、インクガイド22を形成する複合材料の樹脂材料と高誘電率材料との量比には、特に限定はなく、インクガイド22の成形性や強度等、高誘電率材料の誘電率等に応じて、セラミックス材料と同等以上の20以上の誘電率を発現できる量比を、適宜、決定すればよい。
ここで、高誘電率材料の量比が増えるほど、誘電率の点では有利であるものの、成形性や強度の点では不利となる。これらのバランスを考慮すると、複合材料における樹脂材料と高誘電率材料とは、重量比で10〜80%とするのが好ましい。
【0043】
また、複合材料における高誘電率材料の粒子径にも、特に限定は無い。
微細加工を構成度に行うためには、粒子径が小さい方が有利であり、インクガイド22として充分な成形性を得るためには、高誘電率材料の粒子径は10μm以下であるのが好ましい。しかしながら、粒子径が小さくなるほど、通常はコストが高くなるので、高誘電率材料の粒子径は、成形性とコストとのバランスを考慮して、好ましくは10μm以下で、適宜、決定すればよい。
【0044】
図示例の吐出ヘッド12において、インクガイド22は、一例として、下方(基部側)の円筒部分と、その上(先端部)の円錐部分部とを有する形状であるが、本発明において、インクガイドは図示例の形状に限定はされず、各種の形状が利用可能である。
例えば、図示例における下方の円筒部分を有さない円錐状であってもよく、四角錐や六角錐などの角錐状の形状であってもよく、下方の角柱部と上方の角錐部とを有する形状でもよい。また、参考文献1に開示されるインクガイドのように、先端部などにインクを案内する切り欠き部や溝等を有するものであってもよい。
【0045】
また、インクガイドは、以上のように先端部に向けて、漸次、細くなる形状に限定はされず、円柱状や角柱状等の太さが均一のものであってもよい。
しかしながら、インクガイドの先端部すなわちメニスカス先端部での電界集中を考慮すると、少なくとも上部は先端に向けて次第に細くなる形状とするのが好ましく、特に、円錐状や角錐状のように先端部分を先鋭な形状とするのが好ましい。また、インクガイドの先端部を細くすることにより、メニスカスを細くして吐出性を向上でき、かつ、インク液滴Rも微小にできるというメリットも有る。
【0046】
本発明の吐出ヘッド12においては、インクガイド22は、図示例のように全体を前記複合材料で形成してもよく、あるいは先端部のみを複合材料で形成し、それ以外の部分を成形性に優れた樹脂材料で形成してもよい。
なお、先端部のみを複合材料とする場合には、少なくとも吐出電極30よりもインク吐出方向側(すなわち記録媒体P側)の部分は、複合材料で形成するのが好ましい。このような構成とすることにより、全体を複合材料で形成しなくても、充分な電界集中力を得ることができる。
【0047】
このようなインクガイド22は、各種の方法で成形可能であるが、好適な一例として、図3に示される方法が例示される。
図3(A)に示すように、インクガイド22の形状および配列に応じた凹部34を有する型36と、樹脂材料に高誘電率材料の微粒子を分散してなる複合材料38を準備する。型36は、例えば、Si基板を用い、異方性エッチングによってインクガイド22の形状に応じた凹部34を形成することで作製すればよい。
【0048】
図3(b)に示すように、型36(凹部34)に複合材料38を充填し、必要に応じて複合材料に応じた温度で加熱硬化(キュア)を行い、複合材料38の硬化後、図3(c)に示すように、エッチング等によって、インクガイド22以外の余分な複合材料38を除去する。なお、複合材料の加熱硬化は、通常の樹脂材料と同様に200℃程度でよく、セラミック材料に比して格段に低温で行うことができる。
次いで、図3(d)に示すように支持基板20を貼着して、図3(e)に示すように、型36をエッチング等によって除去することにより、インクガイド22(インクガイド22を上面に形成された支持基板20)を形成する。
【0049】
この製造方法によれば、インクガイド22のみを複合材料で形成し、支持基板20は低誘電率の材料を用いることができるので、高誘電率による配線部分の信号の時間遅れを避けることができる。
また、高解像度化や多チャンネル化、図示例のような二次元的な吐出部の配列も容易に行うことができる。
【0050】
前述のように、吐出基板19と支持基板20との間に形成されるインク流路32には、インク循環系16によってインクが供給される。
インク循環系16は、インクQを貯留するインクタンクやインクQを供給するポンプを有するインク供給手段54と、インク供給手段54とインク流路32のインク流入口(インク流路32の図1中の右側端部)とを接続するインク供給流路56と、インク流路32のインク流出口(同左側端部)とインク供給手段54とを接続するインク回収流路58とを有して構成される。また、これ以外にも、インクタンクへのインク補充手段等を有してもよい。
【0051】
インクQは、インク供給手段54からインク供給流路56を経て吐出ヘッド12のインク流路32に供給されて、インク流路32を流れ(図中右から左に流れる)、インク流路32からインク回収流路58を経てインク供給手段54に戻る経路で循環され、これによりインク流路24から各ノズル28に供給される。
なお、本発明の吐出ヘッド12が吐出するインクQとしては、色材を含む帯電粒子を分散媒にしてなるインクQ等、帯電した微粒子を分散媒に分散してなる、静電式のインクジェットに利用される各種のインクQ(溶液)が利用可能である。
【0052】
前述のように、保持手段14は、記録媒体Pを保持して吐出ヘッド12のノズル列方向と直交方向(以下、走査方向とする)に走査搬送するものである。
図示例において、保持手段14は、吐出ヘッド12(吐出基板19)の上面に対面した状態で記録媒体Pを保持するプラテンとしても作用する対向電極70と、対向バイアス電源72と、対向電極70を走査方向に移動することにより、記録媒体Pを走査方向に走査搬送する走査搬送手段(図示省略)とを有して構成される。この走査搬送により、記録媒体Pは、吐出ヘッド12の吐出口24(ノズル列)によって、全面を二次元的に走査され、各吐出口24から変調して吐出されたインク液滴Rによって画像を記録される。
【0053】
対向電極70による記録媒体Pの保持手段には、特に限定はなく、静電気を利用する方法、治具を用いる方法、吸引による方法等、公知の方法によればよい。
また、対向電極70の移動方法にも、特に限定はなく、公知の板状部材の移動方法を利用すれば良い。なお、本発明の吐出ヘッド12を利用する記録装置においては、記録媒体Pを固定して、吐出ヘッド12を移動(走査)することにより、ノズル列で記録媒体Pを走査するようにしてもよい。
対向バイアス電源72は、吐出電極30(=色材粒子)と逆極性のバイアス電圧を対向電極70に印加するものである。なお、バイアス電源72の他極側は、接地されている。
【0054】
以下、記録装置10における画像記録の作用について説明する。
画像記録時には、インク循環系16によって、インク供給手段54〜インク供給流路56〜吐出ヘッド12のインク流路32〜インク回収流路58〜インク供給手段54の経路でインクQが循環される。この循環により、インク流路32にインクQが流れ(例えば、200mm/sのインク流)、これにより各吐出口24にインクが供給される。
また、画像記録時には、バイアス電源52が吐出電極30に100Vのバイアス電圧を印加している。さらに、記録媒体Pは対向電極70に保持され、対向電極70には、対向バイアス電源72が−1000Vのバイアス電圧を印加している。従って、吐出電極30と対向電極70(記録媒体P)との間には、1100V分のバイアス電圧が印加され、その分の電界(静電力)が形成されている。
【0055】
このインクQの循環、バイアス電圧による静電力、インクQの表面張力、毛管現象、インクガイド22の作用などにより、吐出口24にはインクQのメニスカスが形成され、また、色材粒子(本例では正に帯電)が吐出口24(メニスカス)に泳動してインクQが濃縮され、この濃縮の作用によってメニスカスがさらに成長し、インクQの表面張力と静電力等とのバランスが取れることによってメニスカスが安定した状態となっている。
【0056】
この状態において、駆動電源50が吐出電極30に例えば200Vの駆動電圧を印加すると、インクQおよびメニスカスに作用する静電力が大きくなり、かつ、メニスカスでのインクQの濃縮が促進されて、メニスカスが急激に成長し、メニスカスの成長力、色材粒子のメニスカスへの移動力、および対向電極70からの吸引力が、インクQの表面張力を超えた時点で、色材粒子が濃縮されたインクQのインク液滴Rが吐出される。
吐出されたインク液滴Rは、吐出された際の勢い、および、対向電極70による引力によって飛翔し、記録媒体Pに着弾して画像を形成する。
【0057】
前述のように、画像記録時には、記録媒体Pは吐出ヘッド12と対面した状態で、ノズル列と直交する走査方向に走査搬送されている。
従って、この走査搬送に同期して、画像データ(インク液滴Rの吐出信号)に応じて変調して各吐出電極30に駆動電圧を印加(吐出電極30を駆動)することにより、記録する画像に応じて変調してインク液滴Rを吐出して、記録媒体Pの全面にオンデマンドで画像記録を行うことができる。
【0058】
ここで、本発明の吐出ヘッド12は、樹脂材料に高誘電率材料の微粒子を分散してなる複合材料製のインクガイド22を有するので、高い成形精度による良好なメニスカス安定性を有し、かつ、インクガイドの高い電界集中力によってメニスカスに良好に静電力を作用させることができるので、低い駆動電圧(あるいはさらにバイアス電圧)でも、高速かつ安定したインク液滴Rの吐出を行うことができ、従って、低い電力消費で安定して高画質な画像記録を行うことができる。
【0059】
以上、本発明の液体吐出ヘッド、および、溶液ガイドの製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定はされず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の変更や改良をしてもよいのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の液体吐出ヘッドの一例を利用するインクジェット記録装置の一例の概念図である。
【図2】図1に示す液体吐出ヘッドの概略斜視図である。
【図3】(A)〜(E)は、本発明の溶液ガイドの製造方法の一例を説明するための概念図である。
【図4】従来の液体吐出ヘッドの一例を説明するための概念図である。
【符号の説明】
【0061】
10 (インクジェット)記録装置
12,200 吐出ヘッド
14 保持手段
16 インク循環系
18 電圧印加手段
19,206 吐出基板
20,202 支持基板
22,204 インクガイド
24,218 吐出口
26 ガード電極
28 立体障壁
30,208 吐出電極
32,216 インク流路
34 凹部
36 型
38 複合材料
50,214 駆動電源
52,212 バイアス電源
54 インク循環手段
56 インク供給流路
58 インク回収流路
70,210 対向電極
72 対向バイアス電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電粒子が分散された溶液に静電力を作用させて、前記溶液の液滴を吐出させる液体吐出ヘッドであって、
前記液滴を吐出する複数の貫通孔が形成された絶縁性の吐出基板と、
前記貫通孔の個々に対応して配置される、前記溶液に静電力を作用させる吐出電極と、
前記貫通孔を通過して前記吐出基板の液滴吐出側に突出する溶液ガイドとを有し、
かつ、前記溶液ガイドは、少なくとも先端部が樹脂材料に高誘電率材料粒子を分散してなる複合材料で形成されたものであることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記溶液ガイドが、先端に向かって次第に細くなる形状を有する請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記溶液ガイドは、少なくとも前記吐出電極よりも先端側が前記複合材料で形成されたものである請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記樹脂材料が、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、およびフェノール樹脂のうちのいずれか1種であり、前記高誘電率材料が、PZT、PMN−PT、チタン酸バリウム、およびチタン酸ストロンチウムのうちのいずれか1種である請求項1〜3のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の液体吐出ヘッドに用いられる溶液ガイドの製造方法であって、
前記溶液ガイドの形状に応じた複数の凹部を有する型に未硬化の前記複合材料を充填して、複合材料の硬化および余分な複合材料の除去を行い、
前記複合材料の樹脂材料と同材料からなる支持基板に、硬化した複合材料の溶液ガイド基端部を固定した後、前記型を取り除くことを特徴とする溶液ガイドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−1118(P2006−1118A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179520(P2004−179520)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】