液体吐出ヘッド用ノズルプレート及び液体吐出ヘッド用ノズルプレート製造方法
【課題】清掃が容易で小型の液体吐出ヘッド用ノズルプレート及び液体吐出ヘッド用ノズルプレート製造方法を提供する。
【解決手段】貫通孔を複数個有するSi基板からなり、前記貫通孔の一方の開口が液滴を吐出する吐出口である液体吐出ヘッド用ノズルプレートにおいて、前記吐出口の開口形状は、長方形であって、複数個の前記吐出口は、互いに平行移動の関係に配置している。
【解決手段】貫通孔を複数個有するSi基板からなり、前記貫通孔の一方の開口が液滴を吐出する吐出口である液体吐出ヘッド用ノズルプレートにおいて、前記吐出口の開口形状は、長方形であって、複数個の前記吐出口は、互いに平行移動の関係に配置している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド用ノズルプレート及び液体吐出ヘッド用ノズルプレート製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット式プリンタは高速・高解像度な印刷が要求されている。このプリンタに用いられるインクジェット式記録ヘッドの構成部品の形成方法にマイクロマシン分野の微細加工技術であるシリコン基板等を対象とした半導体プロセスが用いられている。このため、シリコン基板にエッチングを施すことにより微細な構造体を形成する方法が数多く提案されている。
【0003】
インクジェット式記録ヘッドに用いられるノズルを有しているノズルプレートは、例えば直径が5μmから10μmといった微小な開口のノズルが複数個配列した厚みが数百μm程度の板状の部材である。このノズルプレートに、別途用意するノズルに連通するインク室、圧力室、インク供給路等を備えたボディプレートを貼り合わせ、更に圧力室を変形させる圧電素子等のアクチュエータを設けて液体吐出ヘッドを構成する。液体吐出ヘッドは、アクチュエータにより圧力室を変形させ、この変形により圧力室内の液体に圧力を加え、圧力室内の液体をノズルの開口(吐出口)から液滴として吐出する。この時、液体を記録用インクとし、記録信号に基づいて記録ヘッドを記録用紙に対して相対移動させ、適宜インク滴を吐出することにより記録紙に記録を行う。
【0004】
このようにして、吐出口よりインク滴の吐出を続けていると、例えば液体吐出ヘッドが稼動していない時に、吐出口の周囲に付着したインクが乾燥して、徐々にノズルに目詰まりが生じ、適量のインクが記録紙に十分に到達しないといった不具合が生じる。こうした印字品質が低下したり、印字不可能な状態に陥るといった不具合が生じないように、ノズルプレートの液滴を吐出する吐出口のある面(吐出面)に対して拭き取りを行うブレード(クリーニングブレード)を押し当てた状態で、クリーニングブレードを移動して目詰まりを生じるインク溜まりの拭き取りを行う清掃方法がある。拭き取りを行う例として、以下がある。
【0005】
クリーニングブレードは、液体吐出ヘッドの洗浄時にノズルプレートに圧接して残存した洗浄液を払拭する吸液性部と、インク充填時並びにクリーニング時にノズルプレートを圧接して残存したインク並びに異物を払拭する圧接部とをそれぞれ個別に備えている。ブレードの吸液性部と圧接部との切り替えをキャリッジ移動方向に対して垂直方向に移動させて行い、拭き取りをキャリッジ移動方向に移動して行っている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−376211号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らは、特許文献1のノズルプレートとクリーニングブレードのように拭き取りを一方向に行う方法で、液滴を吐出する吐出口の清掃実験を行った。具体的には、図10に示すように、吐出口が円形のノズルを有しているノズルプレートの吐出面90を一方向(図中の→方向)にクリーニングブレード92を移動して拭き取りを行い、その開口94を観察した。その結果、開口94のAで示す部分に拭き残りが生じてしまう問題があった。
【0007】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、清掃が容易で小型の液体吐出ヘッド用ノズルプレート及び液体吐出ヘッド用ノズルプレート製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は、以下の構成により解決される。
【0009】
1. 貫通孔を複数個有するSi基板からなり、前記貫通孔の一方の開口が液滴を吐出する吐出口である液体吐出ヘッド用ノズルプレートにおいて、
前記吐出口の開口形状は、長方形であって、
複数個の前記吐出口は、互いに平行移動の関係に配置していることを特徴とする液体吐出ヘッド用ノズルプレート。
【0010】
2. 前記吐出口は、等間隔で配列していることを特徴とする1に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレート。
【0011】
3. 前記貫通孔は、前記Si基板の一方の面に長方形を開口形状とする大径部と、前記Si基板の他方の面に長方形を開口形状とし、前記大径部の断面積より小さい断面積の前記吐出口を開口とする小径部とからなり、
前記大径部の開口形状を成す互いに直交する2つの辺と、前記吐出口の開口形状を成す互いに直交する2つの辺とは、2組の平行関係を成していることを特徴とする1又は2に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレート。
【0012】
4. 前記吐出口の開口形状の前記長方形は、正方形であることを特徴とする1乃至3の何れか一項に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレート。
【0013】
5. 前記Si基板の前記吐出口を有する面に撥液層を有することを特徴とする1乃至4の何れか一項に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレート。
【0014】
6. 4に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレートを製造する液体吐出ヘッド用ノズルプレート製造方法であって、
厚み方向の結晶方位が(100)、且つ厚み方向と垂直な面内の結晶方位が(110)とするSi基板の表面にエッチングマスクとなる膜を備えた基板を準備する工程と、
前記(110)の結晶方位に対する平行方向及び垂直方向に、それぞれ平行な2つの辺を含む正方形を前記吐出口の形状として形成するマスクパターンが円形である前記エッチングマスクを前記膜に形成する工程と、
前記エッチングマスクを用いて、フォトリソグラフィー処理及びエッチング処理を行い、前記Si基板に前記エッチングマスクに基づいて開口形状が円形の貫通孔を形成する工程と、
前記円形の貫通孔を形成した前記Si基板をアルカリ溶液に浸漬して前記Si基板を選択エッチングし、前記貫通孔の開口形状が正方形である前記吐出口を形成する工程と、
正方形の前記吐出口を形成した後、前記エッチングマスクを前記Si基板より除去する工程と、を有することを特徴とする液体吐出ヘッド用ノズルプレート製造方法。
【0015】
7. 前記エッチング処理は、エッチングと側壁保護膜の形成とを交互に繰り返すSi異方性ドライエッチング処理であることを特徴とする6に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレート製造方法。
【0016】
8. 前記Si基板の前記吐出口を有する面に撥液層を設ける工程を有することを特徴とする6又は7に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレート製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の液体吐出ヘッド用ノズルプレートによれば、複数個ある液滴を吐出する吐出口の開口形状は長方形であり、複数個の吐出口は互いに平行移動の関係に配列している。このため、吐出口の長方形を成す互いに直交する2つの辺方向に沿って拭き取りを行うと、吐出口に吐出液の拭き残りがほとんどない状態とすることができる。また、例えば、長方形を正方形とすると、正方形の開口は、開口の断面積が同じ円形と比較して円の直径より正方形の1辺の長さの方が短いため、同じ吐出量を得る開口を複数個配列する周期をより小さくすることができる。
【0018】
また、液体吐出ヘッド用ノズルプレート製造方法によれば、特定の結晶方位を備えているSi基板に液滴を吐出する吐出口の開口形状が正方形である貫通孔を効率よく製造することができる。
【0019】
従って、清掃が容易で小型の液体吐出ヘッド用ノズルプレート及びこの液体吐出ヘッド用ノズルプレートを効率良く製造する液体吐出ヘッド用ノズルプレート製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明を図示の実施の形態に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限らない。液体吐出ヘッド用ノズルプレートにおいて、吐出口の形状が円形状のノズルの吐出面をクリーニングブレードで一方向に拭き取りを行うと、図10の開口94のAで示す位置に拭き残り生じる。発明者らは、更に図11に示すように、拭き取り方向を上記で行った方向に加えて、直交する方向にも拭き取りを行った。その結果、図11の開口94のBで示す位置に拭き残りが生じた。更に、同じ開口94に対して、例えば斜め45°方向等、方向を変えて拭き取りを行ったが、拭き残り量は減少するものの、拭き残りは依然としてあることが分かった。
【0021】
発明者らは、拭き取り方向と図10、図11に示すような拭き残り状態を検討した結果、ノズルの開口形状を円形でなく、長方形(正方形を含む)にすることに着目した。図9に示すように、ノズルの開口84の形状を正方形として、最初に吐出面80の開口84の直交する2辺の一方の辺に平行な方向に沿ってクリーニングブレード82を移動させて拭き取りを行うと、図9(a)のCで示す位置に拭き残りがある。引き続いて、図9(b)に示すように、直交する2辺の他方の辺に平行な方向に沿ってクリーニングブレード82を移動させて拭き取りを行うと、拭き残りがほとんど生じないことが分かった。図9では開口84を正方形で説明したが、長方形としても同じである。
【0022】
これより、吐出面に開口形状が長方形の複数の吐出口が平行移動の関係に配列しているノズルプレートにおいて、開口形状の長方形の互いに直交する2辺の方向にクリーニングブレードを移動させることにより、吐出口を拭き残りがほとんど無い状態で良好に清掃することができる。以下、ノズルの開口形状を正方形とするノズルプレートに関して説明する。
【0023】
図1は液体吐出ヘッドの例であるインクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッドと称する。)Hを構成している、ノズルプレート1、ボディプレート2、圧電素子3を模式的に示している。
【0024】
ノズルプレート1には、インク吐出のため吐出口(吐出面12における開口)の開口形状が正方形のノズル11を複数個配列してある。また、ボディプレート2には、ノズルプレート1を貼り合わせることで、圧力室となる圧力室溝24、インク供給路となるインク供給路溝23及び共通インク室となる共通インク室溝22、並びにインク供給口21が形成されている。
【0025】
そして、ノズルプレート1のノズル11とボディプレート2の圧力室溝24とが一対一で対応するようにノズルプレート1とボディプレート2とを貼り合わせることで流路ユニットMを形成する。ここで、以後、上記で説明に使用した圧力室溝、供給路溝、共通インク室溝の各符号はそれぞれ圧力室、供給路、共通インク室にも使用する。
【0026】
ここで、図2は、この記録ヘッドHにおけるノズルプレート1のY−Y’、及びボディプレート2のX−X’の位置での断面を模式的に示している。図2が示しているように、流路ユニットMに圧電素子3をインク吐出用アクチュエータとしてボディプレート2のノズルプレート1を接着する面と反対の各圧力室24の底部25の面に接着することで、記録ヘッドHが完成する。この記録ヘッドHの各圧電素子3に駆動パルス電圧が印加され、圧電素子3から発生する振動が圧力室24の底部25に伝えられ、この底部25の振動により圧力室24内の圧力を変動させることでノズル11からインク滴を吐出させる。
【0027】
図3にノズルプレート1の例としてノズル11の周辺部を示す。図3(a)は断面図、(b)は上面図で、ノズル11が複数個配列している様子を示している。図3のノズルプレート1は、Si基板30にノズル11が形成してあり、ノズル11の吐出面12に撥液層45が設けてある。ノズル11は、大径部15及び小径部14から構成され、大径部15、小径部14は、共に断面形状が正方形となっており、それぞれの断面積は、大径部15の方が小径部14より大きい。又、大径部15の開口形状の中心と小径部14の開口形状の中心は同心としている。小径部14の吐出面12の開口は吐出口である。
【0028】
図3(b)に示すように、ノズル11の吐出口の開口形状は正方形であり、複数のノズル11は、互いに平行移動の関係を維持して等間隔で一列に配列している。また、大径部15の開口形状を成す互いに直交する2つの辺と、小径部14の開口形状を成す互いに直交する2つの辺とは、2組の平行関係を成している。従って、この例では、大径部15は、小径部14と同様に、互いに平行移動の関係を維持して等間隔で一列に配列している。
【0029】
図3(c)に示すように、ノズル11を千鳥状に2列の配列としてもよい。この場合も、図3(b)と同様に、ノズル11の吐出口の開口形状は正方形であり、複数のノズル11は、互いに平行移動の関係を維持し、等間隔で2列に配列している。また、大径部15の開口形状を成す互いに直交する2つの辺と、小径部14の開口形状を成す互いに直交する2つの辺とは、2組の平行関係を成している。
【0030】
ここで、小径部14を例にして、小径部14の吐出口の開口形状を円形、正方形とした場合、吐出口の断面積を同じとして等間隔Lで一列にN個配列した状態を図4に示す。円の直径dは、正方形の1辺の長さaの2/π1/2倍(約1.13倍)となる。このため、図4に示すように、小径部14を等間隔Lで一列にN個並べた場合、円形の小径部14は、正方形の小径部14と比較して、1個当たりΔh(=(2/π1/2−1)×d)だけ長いことから、N×Δhだけ配列方向に長くなる。小径部14の開口形状を円形の場合と正方形の場合とを比較すると、開口形状を正方形とする方がより密に小径部14を配列することができる。従って、ノズルプレート1を小型にすることができる。尚、上記は小径部14を例にして説明したが、大径部15としても同じであることは勿論である。
【0031】
Siからなるノズルプレート1を製造することに関して図5、図6に沿って説明する。大径部15及び小径部14は、それぞれSi基板30の対向する面から形成する。
【0032】
Si基板30の厚み方向の結晶方位は(100)であり、厚み方向に対して垂直な面内に結晶方位(110)を有している。ノズルプレートの製造時の結晶方位の判別を容易とするため、Si基板30の結晶方位(110)の方向に位置合わせ用の切り欠きであるオリフラOF(Orientation Flat)を設けるのが好ましい(図7参照)。
【0033】
まず大径部15の形成に関して図5に沿って説明する。Si基板30に大径部15を形成する方法は、特に限定されないが、後述する小径部14と同じくエッチングとコーティングとを交互に繰り返すSi異方性ドライエッチング方法を用いることができる。このSi異方性ドライエッチング方法によるエッチングを行う際のエッチングマスクとなるSiO2からなる熱酸化膜32、31を両面に設けてあるSi基板30を準備する(図5(a))。尚、エッチングマスクとなる膜は、上記の熱酸化膜に限定されることはなく、Siのドライエッチング及び後述のアルカリ溶液のエッチングに対してエッチングマスクとなる膜であればよく、例えば感光性ポリイミド膜が挙げられる。熱酸化膜32、31の厚みは、以降で行うSi異方性ドライエッチング、アルカリ溶液によるエッチングに対してもマスクとして機能する厚みとしておく。
【0034】
次に大径部15を形成する側の熱酸化膜32の面にフォトレジスト34を塗布(図5(b))後、大径部15を形成するためのフォトレジストパターン34aを形成する(図5(c))。Si基板30におけるフォトレジストパターン34aの様子を示す上面図を図7に模式的に示す。図7の拡大部Kは、後述の大径部15を形成する円形状のエッチングマスクを形成するための円形レジストパターン部M15を拡大して示している。Si基板30のオリフラOFに対して、ノズルプレート1の大径部15を形成するための円形レジストパターン部M15は円形状とし、その配列方向(矢印F)は、オリフラの方向(矢印G)と平行とする。このようにすると、大径部15は、結晶方位(110)の方向に並ぶことになり、後述のアルカリ溶液によるウエットエッチングで形成される大径部15の開口形状である正方形の直交する2辺が結晶方位(110)方向及びこれに垂直な方向と同じ方向とすることができる。
【0035】
フォトレジストパターン34aをエッチングマスクとして、例えばCHF3を用いたドライエッチングにより熱酸化膜パターン32aを形成し(図5(d))、これをSi異方性ドライエッチング方法におけるエッチングマスクとする。
【0036】
酸素プラズマによるアッシング等によりフォトレジストパターン34aを除去後(図5(e))、エッチングとコーティングとを交互に繰り返すSi異方性ドライエッチング方法より大径部15を形成する(図5(f))。異方性エッチング方法を行うエッチング装置は、ICP(Inductive Coupling Plasma)を用いるRIE(Reactive Ion Etching)装置が好ましく、例えば、エッチング時のエッチングガスとして、6フッ化硫黄(SF6)、コーティング時のデポジションガスとしてフッ化炭素(C4F8)を交互に使用する。熱酸化膜パターン32aは、以降のアルカリ溶液によるエッチングマスクとして使用する。尚、大径部15を形成する方法を上記ではエッチングとコーティングとを交互に繰り返す異方性エッチング方法としたが、これに限定されない。また、大径部15の深さ(長さ)は、所定の深さとなるように、予め大径部15を形成する方法、装置を用いて実験等を行うことで形成条件を決めればよい。
【0037】
次に、小径部14の形成に関して図6に沿って説明する。小径部14はエッチングとコーティングとを交互に繰り返すSi異方性ドライエッチング方法を用いて形成する。形成方法は、上記の大径部15の場合と同様であり、以下に説明する。
【0038】
図6(a)に示す大径部15が形成されたSi基板30において、小径部14が形成される側の熱酸化膜31の面にフォトレジスト44を塗布(図6(b))後、小径部14を形成するためのフォトレジストパターン44aを形成する(図6(c))。小径部14の吐出口の開口形状の中心は、大径部15の開口形状の中心と同心とし、大径部15と連通するように形成するため、小径部14が配列する方向は、大径部の場合と同様にオリフラの方向と平行となり、また小径部14の形成するためのマスク形状は、円形である。
【0039】
フォトレジストパターン44aをエッチングマスクとして、熱酸化膜パターン31aを形成し(図6(d))、これをSi異方性ドライエッチング方法におけるエッチングマスクとする。フォトレジストパターン44aを除去後(図6(e))、エッチングとコーティングとを交互に繰り返すSi異方性ドライエッチング方法により小径部14を大径部15に貫通するまで形成する(図6(f))。小径部14の形成終了後の熱酸化膜パターン31aは、以降のアルカリ溶液によるエッチングマスクとして使用する。
【0040】
次に、Si基板30をアルカリ溶液に浸漬してウエットエッチングを行う。Si基板30は、その結晶方位によりアルカリ溶液のエッチング速度が大きく異なる選択エッチングが可能である。つまり、結晶方位(111)方向のエッチング速度が(100)方向や(110)方向のエッチング速度に比べて100倍以上遅く、エッチングが進行して(111)面が露出するとあたかもエッチングが停止したように振舞う。このエッチング性質を利用して、Si基板30をアルカリ溶液で選択エッチングすると、開口形状を円形から正方形に加工できる。エッチングマスクが円形であることで、アルカリ溶液によるエッチング作用が制限される中、開口形状が全体に大きくなりながらも、選択エッチング作用の働きが強い方向があるため正方形となる。このエッチングは、緩やかに進むため、形状の制御が容易であるため加工精度が極めてよく、所望の形状を得ることができる。
【0041】
Si基板を選択エッチングするアルカリ溶液は、選択性(異方性ともいう)を示す、例えばKOH、NaOH等が挙げられるが、これらに限定されることはなく、公知のSi対応の選択エッチング液を用いることができ、これらのエッチング液を所望のエッチング速度により濃度、温度を適宜設定すればよい。
【0042】
ノズルの開口形状を正方形にするには、正方形のマスクを設けて、Si異方性ドライエッチングを行っても可能であるが、加工時間が上記のドライエッチングとアルカリ溶液によるウエットエッチングを組み合わせる方法に比較して長くなってしまう。また、アルカリ溶液によるウエットエッチングを行うと、ノズルの開口形状の正方形の角部が適度に丸みをおびるようにできるため、Si異方性ドライエッチングの切れのよい加工状態により生じやすい角部の欠けや角部周辺でのインク留りを抑えることができる。よって、本例の様にドライエッチングとアルカリ溶液によるウエットエッチングを組み合わせることで、効率よく製造できると共に良好な吐出性能を得ることができる。
【0043】
尚、ノズルの開口形状を正方形を除く長方形とする場合、長方形のマスクを設けて、Si異方性ドライエッチングを行って形成することができるが、これに限定されない。また、大径部の開口形状を正方形を除く長方形とする場合も上記と同じく、長方形のマスクを設けて、Si異方性ドライエッチングを行って形成することができるが、これに限定されない。
【0044】
図8にアルカリ溶液のウエットエッチングによるノズルの開口の大きさの変化の例を示している。横軸は、アルカリ溶液への浸漬時間(エッチング時間)、縦軸はノズルの開口の大きさを示している。ノズルの開口の大きさは、開口形状が、エッチングの経過と共に円形から正方形に変化するため、外接円径で示している。図8においては、エッチング開始時は、直径約φ3.7μmの開口形状が円形のノズルが、エッチングが進行するに従い、次第に開口が大きくなることを示している。この例のアルカリ溶液(水溶液)の条件を、以下に示す。
(1)アルカリ液:クリンクA−27−a(商品名、吉村油化学(株)、主成分:メタケイ酸ナトリウム 19質量%、pH=12〜13)
(2)濃度(水溶液):4体積%
(3)温度:80℃
この例では、エッチング開始から60分経過した辺りから、開口形状が正方形と認められる状態になる。例えば、対角線長が約7μm(辺の長さが約5μm)の正方形の開口形状を形成するのであれば、まず、直径約φ3.7μmの円形の開口形状を有するノズルを形成し、その後、上記の条件のアルカリ溶液に120分浸漬してエッチングすれば得られることが分かる。
【0045】
上記の様にアルカリ溶液に浸漬して所望の大きさの正方形の開口形状を吐出口とする小径部14を得た後、熱酸化膜パターン31a、32aを除去し、図7に示すように、一枚のSi基板30に複数のノズルプレートを形成しているのであれば、ダイシングソー等により個々のノズルプレートに分離することによりノズルプレート1が完成する(図6(g))。
【0046】
これまで説明した例では、Si基板30にまず大径部15を形成し次に小径部14を形成しているが、この順序を逆として、まず小径部14を形成し次に大径部15を形成することもできる。
【0047】
好ましいノズルプレート1として、図1に示す様に吐出面12に撥液層45を設ける。これに関して説明する。吐出面12に撥液層45を設けることで、ノズル11から吐出される液体が吐出面12に馴染むことによる染み出しや広がりを抑制することができる。具体的には、例えば液体が水性であれば撥水性を有する材料が用いられ、液体が油性であれば撥油性を有する材料が用いられるが、一般に、FEP(四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン)、PTFE(ポリテトラフロロエチレン)、フッ素シロキサン、フルオロアルキルシラン、アモルファスパーフルオロ樹脂等のフッ素樹脂等が用いられることが多く、塗布や蒸着等の方法で吐出面12に成膜されている。膜厚の厚みは、特に限定されるものではないが、概ね0.1μmから3μmとするのが好ましい。
【0048】
なお、撥液層45は、ノズルプレート1の吐出面12に直接成膜してもよいし、撥液層45の密着性を向上させるために中間層を介して成膜することも可能である。
【実施例】
【0049】
(実施例)
図5、図6を用いてノズルプレート1を製造する例を説明する。厚み200μmのSi基板30を用意した。Si基板30におけるSiの結晶方位は、厚み方向が(100)であり、厚み方向と垂直な面内が(110)としている。面内の結晶方位は、表裏面同じ方向である。Si基板30の面内の結晶方位(110)の方向が分かるように、図7に示すような、結晶方位(110)の方向に平行なオリフラOF(切り欠き)を設けた。
【0050】
まず、上記のSi基板30に、ノズルプレート1の開口形状が正方形のノズルとなる、小径部14の直径を3.5μm、大径部15の直径を60μmとした円形ノズルを128個を作製した。Si基板30の両面には、予めエッチングマスクとなる厚み1.2μmの熱酸化膜31、32が設けてある。
【0051】
この熱酸化膜32の上にフォトレジスト34を塗布し(図5(b))、フォトリソグラフィー処理により、フォトレジストパターン34aを形成する(図5(c))。このフォトレジストパターン34aを用いてエッチング処理を行うことでエッチングマスクである熱酸化膜パターン32aを得る(図5(d))。尚、フォトレジストパターン34aは、酸素プラズマによるアッシング法にて除去している。
【0052】
熱酸化膜パターン32aを用いて、Si異方性ドライエッチングにより深さ195μmまでSi基板30をエッチングして大径部15を形成した(図5(d))。
【0053】
Si異方性ドライエッチングの具体的な方法は、ボッシュプロセスを用いた。エッチングガスとして6フッ化硫黄(SF6)、デポジション(側壁保護膜の形成)ガスとしてフッ化炭素(C4F8)を交互に使用した。
【0054】
次、SiO2膜である熱酸化膜31の上に両面マスクアライナーを用いたフォトリソグラフィー処理により、先に作製したSi基板30の大径部15の穴と同心となるように小径部14を形成するためのフォトレジストパターン44aを形成した(図6(c))。
【0055】
この後、エッチングにより吐出面のノズルの開口とする直径3.5μmの小径部14をSi基板30に形成するためのエッチングマスクである熱酸化膜パターン31aを形成した(図6(d))。その後、フォトレジストパターン36aを除去した。
【0056】
熱酸化膜パターン31aを用いて、Si異方性ドライエッチングにより大径部15に貫通するまでSi基板30をエッチングして小径部14を形成した(図6(f))。
【0057】
この状態で、小径部14及び大径部15の開口形状を顕微鏡にて観察したところ、小径部14の開口形状は直径約φ3.7μm、大径部15の開口形状は直径約φ60μmのほぼ円形であった。
【0058】
次に、ノズルである小径部14、大径部15を形成した上記のSi基板30を以下のアルカリ溶液に浸漬して選択エッチングを行った。アルカリ溶液は、アルカリ液(商品名:クリンクA−27−a(吉村油化学(株)、主成分:メタケイ酸ナトリウム 19質量%))の4体積%水溶液を80℃に加熱した状態で、Si基板30を120分間浸漬した。
【0059】
この後、両面のエッチングマスク34a、40aを反応性イオンエッチング法(RIE)により除去した。
【0060】
上記の手順により形成したノズル孔を有するSi基板30をダイシングソーにて個々に分離してノズル孔を有するノズルプレート1を作製した。
【0061】
この後、洗浄後、小径部14の開口形状を顕微鏡にて観察したところ、1辺がほぼ5μmの正方形となっていることを確認した。また、大径部15の開口形状も顕微鏡にて観察したところ、小径部14の開口形状と同じ方向の四隅が角張った1辺が約61μmの正方形になっていることを確認した。
【0062】
次に図1に示す様なボディプレート2を製造した。Si基板を用いて、公知のフォトリソグラフィー処理(レジスト塗布、露光、現像)及びSi異方性ドライエッチング技術を用いて、ノズル11にそれぞれ連通する複数の圧力室となる圧力室溝24、この圧力室にそれぞれ連通する複数のインク供給路となるインク供給溝23及びこのインク供給に連通する共通インク室となる共通インク室溝22、並びにインク供給口21を形成した。
【0063】
次に、図1に示すように、これまでに用意したノズルプレート1とボディプレート2とを接着剤を用いて貼り合わせ、更にボディプレート2の各圧力室24の背面に圧力発生手段であるピエゾ素子3を取り付けて液体吐出ヘッドとした。
【0064】
上記と同様にして、小径部14をSi基板30に形成するエッチングマスクである熱酸化膜パターン31aにおける開口の大きさや、アルカリ溶液への浸漬時間を適宜調整して、上記とは別に、1辺をそれぞれ3.5μm、7μm、9μmの正方形を開口形状とする小径部14を備えたノズルプレートを作製した。大径部15は、上記とほぼ同じ1辺が約61μmの正方形とした。この後、上記と同様にして、これらのノズルプレートを備えた液体吐出ヘッドを作製した。
【0065】
開口が上記4種類の大きさの小径部14を形成したノズルプレートを備えた液体吐出ヘッドを用いて、それぞれインクの吐出を行った後、吐出面のクリーニングを行い、吐出面の観察を行った。クリーニング方法と観察は以下とした。
(1)10分間連続吐出を行った後、クリーニングブレードをノズルが一列に並んでいる方向(X方向とする)に1回移動させて全てのノズルを清掃した後吐出面を顕微鏡で観察した。
(2)10分間連続吐出を行った後、クリーニングブレードをノズルが一列に並んでいる方向に対して垂直な方向(Y方向とする)に1回移動させて全てのノズルを清掃した後吐出面を顕微鏡で観察した。
(3)10分間連続吐出を行った後、クリーニングブレードをX方向に1回移動させて全てのノズルを清掃し、引き続いて、クリーニングブレードをY方向に対して垂直な方向に1回移動させて全てのノズルを清掃した後吐出面を顕微鏡で観察した。
(4)10分間連続吐出を行った後、クリーニングブレードをX方向に5回移動させて全てのノズルを清掃し、引き続いて、クリーニングブレードをY方向に対して垂直な方向に5回移動させて全てのノズルを清掃した後吐出面を顕微鏡で観察した。
【0066】
この結果を以下の表1に示す。表に示す記号は以下を示している。
◎:ほぼ完全に拭き取りがなされている。
○:実用レベルに拭き取りがなされている。
×:拭き取り状態が実用レベルに到達していない。
【0067】
(比較例)
アルカリ溶液によるエッチング行わないで、ドライエッチングにて小径部14の開口形状を直径φ3.5μm、φ5μm、φ7μm、φ9μmの円形とした以外は、実施例1と同じとして、ノズルプレート及びこのノズルプレートを備えた液体吐出ヘッドを作製した。
【0068】
この後、実施例と同じく、開口が上記4種類の大きさの小径部14を形成したノズルプレートを備えた液体吐出ヘッドを用いて、それぞれインクの吐出を行った後、吐出面のクリーニングを行い、吐出面の観察を行った。クリーニング方法と観察は上記の(1)、(2)、(3)、(4)とした。この結果を実施例の結果と合わせて表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1が示す通り、ノズルが一列に並んでいる方向と、これに垂直な方向にクリーニングを行うことにより、ノズルの開口形状が円形より正方形のノズルの方が、インクの拭き取りが良好であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】インクジェット式記録ヘッドの構成の例を示す図である。
【図2】インクジェット式記録ヘッドにおける断面を模式的に示す図である。
【図3】ノズルプレートの周辺部の一例を示す図である。(a)は断面図、(b)は吐出口が配列している例を示す上面図、(c)は吐出口が配列している別の例を示す上面図を示している。
【図4】小径部の開口形状が円の場合と正方形の場合の配列密度を説明する図である。
【図5】ノズルプレートのノズル孔を形成する工程を説明する図である。
【図6】ノズルプレートのノズル孔を形成する工程を説明する図である。
【図7】Si基板のオリフラとマスクパターンを形成するためのフォトレジストパターンとの配置の関係及び拡大された円形レジストパターン部を示す図である。
【図8】アルカリ溶液への浸漬時間(エッチング時間)とノズル孔の大きさとの関係を示す図である。
【図9】吐出口が正方形状であるノズルの吐出面をクリーニングブレードで清掃した場合の拭き残りの例を説明する図である。(a)は、吐出口が並んだ方向に拭き取りを行った場合の拭き残りの様子、(b)は、更に、吐出口が並んだ方向に垂直な方向に拭き取りを行った場合の拭き残りの様子を説明する図である。
【図10】従来例として、吐出口が円形状であるノズルの吐出面をクリーニングブレードで清掃した場合の拭き残りの例を説明する図である。
【図11】従来例として、吐出口が円形状であるノズルの吐出面をクリーニングブレードで清掃した場合の拭き残りの例を説明する図である。
【符号の説明】
【0072】
1 ノズルプレート
2 ボディプレート
3 圧電素子
11 ノズル
12、80、90 吐出面
14 小径部
15 大径部
21 インク供給口
22 共通インク室(溝)
23 インク供給路(溝)
24 圧力室(溝)
30 Si基板
31、32 熱酸化膜
31a、32a 熱酸化膜パターン
34a、44a フォトレジストパターン
45 撥液層
OF オリフラ
H 記録ヘッド
M15 円形レジストパターン部
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド用ノズルプレート及び液体吐出ヘッド用ノズルプレート製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット式プリンタは高速・高解像度な印刷が要求されている。このプリンタに用いられるインクジェット式記録ヘッドの構成部品の形成方法にマイクロマシン分野の微細加工技術であるシリコン基板等を対象とした半導体プロセスが用いられている。このため、シリコン基板にエッチングを施すことにより微細な構造体を形成する方法が数多く提案されている。
【0003】
インクジェット式記録ヘッドに用いられるノズルを有しているノズルプレートは、例えば直径が5μmから10μmといった微小な開口のノズルが複数個配列した厚みが数百μm程度の板状の部材である。このノズルプレートに、別途用意するノズルに連通するインク室、圧力室、インク供給路等を備えたボディプレートを貼り合わせ、更に圧力室を変形させる圧電素子等のアクチュエータを設けて液体吐出ヘッドを構成する。液体吐出ヘッドは、アクチュエータにより圧力室を変形させ、この変形により圧力室内の液体に圧力を加え、圧力室内の液体をノズルの開口(吐出口)から液滴として吐出する。この時、液体を記録用インクとし、記録信号に基づいて記録ヘッドを記録用紙に対して相対移動させ、適宜インク滴を吐出することにより記録紙に記録を行う。
【0004】
このようにして、吐出口よりインク滴の吐出を続けていると、例えば液体吐出ヘッドが稼動していない時に、吐出口の周囲に付着したインクが乾燥して、徐々にノズルに目詰まりが生じ、適量のインクが記録紙に十分に到達しないといった不具合が生じる。こうした印字品質が低下したり、印字不可能な状態に陥るといった不具合が生じないように、ノズルプレートの液滴を吐出する吐出口のある面(吐出面)に対して拭き取りを行うブレード(クリーニングブレード)を押し当てた状態で、クリーニングブレードを移動して目詰まりを生じるインク溜まりの拭き取りを行う清掃方法がある。拭き取りを行う例として、以下がある。
【0005】
クリーニングブレードは、液体吐出ヘッドの洗浄時にノズルプレートに圧接して残存した洗浄液を払拭する吸液性部と、インク充填時並びにクリーニング時にノズルプレートを圧接して残存したインク並びに異物を払拭する圧接部とをそれぞれ個別に備えている。ブレードの吸液性部と圧接部との切り替えをキャリッジ移動方向に対して垂直方向に移動させて行い、拭き取りをキャリッジ移動方向に移動して行っている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−376211号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らは、特許文献1のノズルプレートとクリーニングブレードのように拭き取りを一方向に行う方法で、液滴を吐出する吐出口の清掃実験を行った。具体的には、図10に示すように、吐出口が円形のノズルを有しているノズルプレートの吐出面90を一方向(図中の→方向)にクリーニングブレード92を移動して拭き取りを行い、その開口94を観察した。その結果、開口94のAで示す部分に拭き残りが生じてしまう問題があった。
【0007】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、清掃が容易で小型の液体吐出ヘッド用ノズルプレート及び液体吐出ヘッド用ノズルプレート製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は、以下の構成により解決される。
【0009】
1. 貫通孔を複数個有するSi基板からなり、前記貫通孔の一方の開口が液滴を吐出する吐出口である液体吐出ヘッド用ノズルプレートにおいて、
前記吐出口の開口形状は、長方形であって、
複数個の前記吐出口は、互いに平行移動の関係に配置していることを特徴とする液体吐出ヘッド用ノズルプレート。
【0010】
2. 前記吐出口は、等間隔で配列していることを特徴とする1に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレート。
【0011】
3. 前記貫通孔は、前記Si基板の一方の面に長方形を開口形状とする大径部と、前記Si基板の他方の面に長方形を開口形状とし、前記大径部の断面積より小さい断面積の前記吐出口を開口とする小径部とからなり、
前記大径部の開口形状を成す互いに直交する2つの辺と、前記吐出口の開口形状を成す互いに直交する2つの辺とは、2組の平行関係を成していることを特徴とする1又は2に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレート。
【0012】
4. 前記吐出口の開口形状の前記長方形は、正方形であることを特徴とする1乃至3の何れか一項に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレート。
【0013】
5. 前記Si基板の前記吐出口を有する面に撥液層を有することを特徴とする1乃至4の何れか一項に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレート。
【0014】
6. 4に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレートを製造する液体吐出ヘッド用ノズルプレート製造方法であって、
厚み方向の結晶方位が(100)、且つ厚み方向と垂直な面内の結晶方位が(110)とするSi基板の表面にエッチングマスクとなる膜を備えた基板を準備する工程と、
前記(110)の結晶方位に対する平行方向及び垂直方向に、それぞれ平行な2つの辺を含む正方形を前記吐出口の形状として形成するマスクパターンが円形である前記エッチングマスクを前記膜に形成する工程と、
前記エッチングマスクを用いて、フォトリソグラフィー処理及びエッチング処理を行い、前記Si基板に前記エッチングマスクに基づいて開口形状が円形の貫通孔を形成する工程と、
前記円形の貫通孔を形成した前記Si基板をアルカリ溶液に浸漬して前記Si基板を選択エッチングし、前記貫通孔の開口形状が正方形である前記吐出口を形成する工程と、
正方形の前記吐出口を形成した後、前記エッチングマスクを前記Si基板より除去する工程と、を有することを特徴とする液体吐出ヘッド用ノズルプレート製造方法。
【0015】
7. 前記エッチング処理は、エッチングと側壁保護膜の形成とを交互に繰り返すSi異方性ドライエッチング処理であることを特徴とする6に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレート製造方法。
【0016】
8. 前記Si基板の前記吐出口を有する面に撥液層を設ける工程を有することを特徴とする6又は7に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレート製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の液体吐出ヘッド用ノズルプレートによれば、複数個ある液滴を吐出する吐出口の開口形状は長方形であり、複数個の吐出口は互いに平行移動の関係に配列している。このため、吐出口の長方形を成す互いに直交する2つの辺方向に沿って拭き取りを行うと、吐出口に吐出液の拭き残りがほとんどない状態とすることができる。また、例えば、長方形を正方形とすると、正方形の開口は、開口の断面積が同じ円形と比較して円の直径より正方形の1辺の長さの方が短いため、同じ吐出量を得る開口を複数個配列する周期をより小さくすることができる。
【0018】
また、液体吐出ヘッド用ノズルプレート製造方法によれば、特定の結晶方位を備えているSi基板に液滴を吐出する吐出口の開口形状が正方形である貫通孔を効率よく製造することができる。
【0019】
従って、清掃が容易で小型の液体吐出ヘッド用ノズルプレート及びこの液体吐出ヘッド用ノズルプレートを効率良く製造する液体吐出ヘッド用ノズルプレート製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明を図示の実施の形態に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限らない。液体吐出ヘッド用ノズルプレートにおいて、吐出口の形状が円形状のノズルの吐出面をクリーニングブレードで一方向に拭き取りを行うと、図10の開口94のAで示す位置に拭き残り生じる。発明者らは、更に図11に示すように、拭き取り方向を上記で行った方向に加えて、直交する方向にも拭き取りを行った。その結果、図11の開口94のBで示す位置に拭き残りが生じた。更に、同じ開口94に対して、例えば斜め45°方向等、方向を変えて拭き取りを行ったが、拭き残り量は減少するものの、拭き残りは依然としてあることが分かった。
【0021】
発明者らは、拭き取り方向と図10、図11に示すような拭き残り状態を検討した結果、ノズルの開口形状を円形でなく、長方形(正方形を含む)にすることに着目した。図9に示すように、ノズルの開口84の形状を正方形として、最初に吐出面80の開口84の直交する2辺の一方の辺に平行な方向に沿ってクリーニングブレード82を移動させて拭き取りを行うと、図9(a)のCで示す位置に拭き残りがある。引き続いて、図9(b)に示すように、直交する2辺の他方の辺に平行な方向に沿ってクリーニングブレード82を移動させて拭き取りを行うと、拭き残りがほとんど生じないことが分かった。図9では開口84を正方形で説明したが、長方形としても同じである。
【0022】
これより、吐出面に開口形状が長方形の複数の吐出口が平行移動の関係に配列しているノズルプレートにおいて、開口形状の長方形の互いに直交する2辺の方向にクリーニングブレードを移動させることにより、吐出口を拭き残りがほとんど無い状態で良好に清掃することができる。以下、ノズルの開口形状を正方形とするノズルプレートに関して説明する。
【0023】
図1は液体吐出ヘッドの例であるインクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッドと称する。)Hを構成している、ノズルプレート1、ボディプレート2、圧電素子3を模式的に示している。
【0024】
ノズルプレート1には、インク吐出のため吐出口(吐出面12における開口)の開口形状が正方形のノズル11を複数個配列してある。また、ボディプレート2には、ノズルプレート1を貼り合わせることで、圧力室となる圧力室溝24、インク供給路となるインク供給路溝23及び共通インク室となる共通インク室溝22、並びにインク供給口21が形成されている。
【0025】
そして、ノズルプレート1のノズル11とボディプレート2の圧力室溝24とが一対一で対応するようにノズルプレート1とボディプレート2とを貼り合わせることで流路ユニットMを形成する。ここで、以後、上記で説明に使用した圧力室溝、供給路溝、共通インク室溝の各符号はそれぞれ圧力室、供給路、共通インク室にも使用する。
【0026】
ここで、図2は、この記録ヘッドHにおけるノズルプレート1のY−Y’、及びボディプレート2のX−X’の位置での断面を模式的に示している。図2が示しているように、流路ユニットMに圧電素子3をインク吐出用アクチュエータとしてボディプレート2のノズルプレート1を接着する面と反対の各圧力室24の底部25の面に接着することで、記録ヘッドHが完成する。この記録ヘッドHの各圧電素子3に駆動パルス電圧が印加され、圧電素子3から発生する振動が圧力室24の底部25に伝えられ、この底部25の振動により圧力室24内の圧力を変動させることでノズル11からインク滴を吐出させる。
【0027】
図3にノズルプレート1の例としてノズル11の周辺部を示す。図3(a)は断面図、(b)は上面図で、ノズル11が複数個配列している様子を示している。図3のノズルプレート1は、Si基板30にノズル11が形成してあり、ノズル11の吐出面12に撥液層45が設けてある。ノズル11は、大径部15及び小径部14から構成され、大径部15、小径部14は、共に断面形状が正方形となっており、それぞれの断面積は、大径部15の方が小径部14より大きい。又、大径部15の開口形状の中心と小径部14の開口形状の中心は同心としている。小径部14の吐出面12の開口は吐出口である。
【0028】
図3(b)に示すように、ノズル11の吐出口の開口形状は正方形であり、複数のノズル11は、互いに平行移動の関係を維持して等間隔で一列に配列している。また、大径部15の開口形状を成す互いに直交する2つの辺と、小径部14の開口形状を成す互いに直交する2つの辺とは、2組の平行関係を成している。従って、この例では、大径部15は、小径部14と同様に、互いに平行移動の関係を維持して等間隔で一列に配列している。
【0029】
図3(c)に示すように、ノズル11を千鳥状に2列の配列としてもよい。この場合も、図3(b)と同様に、ノズル11の吐出口の開口形状は正方形であり、複数のノズル11は、互いに平行移動の関係を維持し、等間隔で2列に配列している。また、大径部15の開口形状を成す互いに直交する2つの辺と、小径部14の開口形状を成す互いに直交する2つの辺とは、2組の平行関係を成している。
【0030】
ここで、小径部14を例にして、小径部14の吐出口の開口形状を円形、正方形とした場合、吐出口の断面積を同じとして等間隔Lで一列にN個配列した状態を図4に示す。円の直径dは、正方形の1辺の長さaの2/π1/2倍(約1.13倍)となる。このため、図4に示すように、小径部14を等間隔Lで一列にN個並べた場合、円形の小径部14は、正方形の小径部14と比較して、1個当たりΔh(=(2/π1/2−1)×d)だけ長いことから、N×Δhだけ配列方向に長くなる。小径部14の開口形状を円形の場合と正方形の場合とを比較すると、開口形状を正方形とする方がより密に小径部14を配列することができる。従って、ノズルプレート1を小型にすることができる。尚、上記は小径部14を例にして説明したが、大径部15としても同じであることは勿論である。
【0031】
Siからなるノズルプレート1を製造することに関して図5、図6に沿って説明する。大径部15及び小径部14は、それぞれSi基板30の対向する面から形成する。
【0032】
Si基板30の厚み方向の結晶方位は(100)であり、厚み方向に対して垂直な面内に結晶方位(110)を有している。ノズルプレートの製造時の結晶方位の判別を容易とするため、Si基板30の結晶方位(110)の方向に位置合わせ用の切り欠きであるオリフラOF(Orientation Flat)を設けるのが好ましい(図7参照)。
【0033】
まず大径部15の形成に関して図5に沿って説明する。Si基板30に大径部15を形成する方法は、特に限定されないが、後述する小径部14と同じくエッチングとコーティングとを交互に繰り返すSi異方性ドライエッチング方法を用いることができる。このSi異方性ドライエッチング方法によるエッチングを行う際のエッチングマスクとなるSiO2からなる熱酸化膜32、31を両面に設けてあるSi基板30を準備する(図5(a))。尚、エッチングマスクとなる膜は、上記の熱酸化膜に限定されることはなく、Siのドライエッチング及び後述のアルカリ溶液のエッチングに対してエッチングマスクとなる膜であればよく、例えば感光性ポリイミド膜が挙げられる。熱酸化膜32、31の厚みは、以降で行うSi異方性ドライエッチング、アルカリ溶液によるエッチングに対してもマスクとして機能する厚みとしておく。
【0034】
次に大径部15を形成する側の熱酸化膜32の面にフォトレジスト34を塗布(図5(b))後、大径部15を形成するためのフォトレジストパターン34aを形成する(図5(c))。Si基板30におけるフォトレジストパターン34aの様子を示す上面図を図7に模式的に示す。図7の拡大部Kは、後述の大径部15を形成する円形状のエッチングマスクを形成するための円形レジストパターン部M15を拡大して示している。Si基板30のオリフラOFに対して、ノズルプレート1の大径部15を形成するための円形レジストパターン部M15は円形状とし、その配列方向(矢印F)は、オリフラの方向(矢印G)と平行とする。このようにすると、大径部15は、結晶方位(110)の方向に並ぶことになり、後述のアルカリ溶液によるウエットエッチングで形成される大径部15の開口形状である正方形の直交する2辺が結晶方位(110)方向及びこれに垂直な方向と同じ方向とすることができる。
【0035】
フォトレジストパターン34aをエッチングマスクとして、例えばCHF3を用いたドライエッチングにより熱酸化膜パターン32aを形成し(図5(d))、これをSi異方性ドライエッチング方法におけるエッチングマスクとする。
【0036】
酸素プラズマによるアッシング等によりフォトレジストパターン34aを除去後(図5(e))、エッチングとコーティングとを交互に繰り返すSi異方性ドライエッチング方法より大径部15を形成する(図5(f))。異方性エッチング方法を行うエッチング装置は、ICP(Inductive Coupling Plasma)を用いるRIE(Reactive Ion Etching)装置が好ましく、例えば、エッチング時のエッチングガスとして、6フッ化硫黄(SF6)、コーティング時のデポジションガスとしてフッ化炭素(C4F8)を交互に使用する。熱酸化膜パターン32aは、以降のアルカリ溶液によるエッチングマスクとして使用する。尚、大径部15を形成する方法を上記ではエッチングとコーティングとを交互に繰り返す異方性エッチング方法としたが、これに限定されない。また、大径部15の深さ(長さ)は、所定の深さとなるように、予め大径部15を形成する方法、装置を用いて実験等を行うことで形成条件を決めればよい。
【0037】
次に、小径部14の形成に関して図6に沿って説明する。小径部14はエッチングとコーティングとを交互に繰り返すSi異方性ドライエッチング方法を用いて形成する。形成方法は、上記の大径部15の場合と同様であり、以下に説明する。
【0038】
図6(a)に示す大径部15が形成されたSi基板30において、小径部14が形成される側の熱酸化膜31の面にフォトレジスト44を塗布(図6(b))後、小径部14を形成するためのフォトレジストパターン44aを形成する(図6(c))。小径部14の吐出口の開口形状の中心は、大径部15の開口形状の中心と同心とし、大径部15と連通するように形成するため、小径部14が配列する方向は、大径部の場合と同様にオリフラの方向と平行となり、また小径部14の形成するためのマスク形状は、円形である。
【0039】
フォトレジストパターン44aをエッチングマスクとして、熱酸化膜パターン31aを形成し(図6(d))、これをSi異方性ドライエッチング方法におけるエッチングマスクとする。フォトレジストパターン44aを除去後(図6(e))、エッチングとコーティングとを交互に繰り返すSi異方性ドライエッチング方法により小径部14を大径部15に貫通するまで形成する(図6(f))。小径部14の形成終了後の熱酸化膜パターン31aは、以降のアルカリ溶液によるエッチングマスクとして使用する。
【0040】
次に、Si基板30をアルカリ溶液に浸漬してウエットエッチングを行う。Si基板30は、その結晶方位によりアルカリ溶液のエッチング速度が大きく異なる選択エッチングが可能である。つまり、結晶方位(111)方向のエッチング速度が(100)方向や(110)方向のエッチング速度に比べて100倍以上遅く、エッチングが進行して(111)面が露出するとあたかもエッチングが停止したように振舞う。このエッチング性質を利用して、Si基板30をアルカリ溶液で選択エッチングすると、開口形状を円形から正方形に加工できる。エッチングマスクが円形であることで、アルカリ溶液によるエッチング作用が制限される中、開口形状が全体に大きくなりながらも、選択エッチング作用の働きが強い方向があるため正方形となる。このエッチングは、緩やかに進むため、形状の制御が容易であるため加工精度が極めてよく、所望の形状を得ることができる。
【0041】
Si基板を選択エッチングするアルカリ溶液は、選択性(異方性ともいう)を示す、例えばKOH、NaOH等が挙げられるが、これらに限定されることはなく、公知のSi対応の選択エッチング液を用いることができ、これらのエッチング液を所望のエッチング速度により濃度、温度を適宜設定すればよい。
【0042】
ノズルの開口形状を正方形にするには、正方形のマスクを設けて、Si異方性ドライエッチングを行っても可能であるが、加工時間が上記のドライエッチングとアルカリ溶液によるウエットエッチングを組み合わせる方法に比較して長くなってしまう。また、アルカリ溶液によるウエットエッチングを行うと、ノズルの開口形状の正方形の角部が適度に丸みをおびるようにできるため、Si異方性ドライエッチングの切れのよい加工状態により生じやすい角部の欠けや角部周辺でのインク留りを抑えることができる。よって、本例の様にドライエッチングとアルカリ溶液によるウエットエッチングを組み合わせることで、効率よく製造できると共に良好な吐出性能を得ることができる。
【0043】
尚、ノズルの開口形状を正方形を除く長方形とする場合、長方形のマスクを設けて、Si異方性ドライエッチングを行って形成することができるが、これに限定されない。また、大径部の開口形状を正方形を除く長方形とする場合も上記と同じく、長方形のマスクを設けて、Si異方性ドライエッチングを行って形成することができるが、これに限定されない。
【0044】
図8にアルカリ溶液のウエットエッチングによるノズルの開口の大きさの変化の例を示している。横軸は、アルカリ溶液への浸漬時間(エッチング時間)、縦軸はノズルの開口の大きさを示している。ノズルの開口の大きさは、開口形状が、エッチングの経過と共に円形から正方形に変化するため、外接円径で示している。図8においては、エッチング開始時は、直径約φ3.7μmの開口形状が円形のノズルが、エッチングが進行するに従い、次第に開口が大きくなることを示している。この例のアルカリ溶液(水溶液)の条件を、以下に示す。
(1)アルカリ液:クリンクA−27−a(商品名、吉村油化学(株)、主成分:メタケイ酸ナトリウム 19質量%、pH=12〜13)
(2)濃度(水溶液):4体積%
(3)温度:80℃
この例では、エッチング開始から60分経過した辺りから、開口形状が正方形と認められる状態になる。例えば、対角線長が約7μm(辺の長さが約5μm)の正方形の開口形状を形成するのであれば、まず、直径約φ3.7μmの円形の開口形状を有するノズルを形成し、その後、上記の条件のアルカリ溶液に120分浸漬してエッチングすれば得られることが分かる。
【0045】
上記の様にアルカリ溶液に浸漬して所望の大きさの正方形の開口形状を吐出口とする小径部14を得た後、熱酸化膜パターン31a、32aを除去し、図7に示すように、一枚のSi基板30に複数のノズルプレートを形成しているのであれば、ダイシングソー等により個々のノズルプレートに分離することによりノズルプレート1が完成する(図6(g))。
【0046】
これまで説明した例では、Si基板30にまず大径部15を形成し次に小径部14を形成しているが、この順序を逆として、まず小径部14を形成し次に大径部15を形成することもできる。
【0047】
好ましいノズルプレート1として、図1に示す様に吐出面12に撥液層45を設ける。これに関して説明する。吐出面12に撥液層45を設けることで、ノズル11から吐出される液体が吐出面12に馴染むことによる染み出しや広がりを抑制することができる。具体的には、例えば液体が水性であれば撥水性を有する材料が用いられ、液体が油性であれば撥油性を有する材料が用いられるが、一般に、FEP(四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン)、PTFE(ポリテトラフロロエチレン)、フッ素シロキサン、フルオロアルキルシラン、アモルファスパーフルオロ樹脂等のフッ素樹脂等が用いられることが多く、塗布や蒸着等の方法で吐出面12に成膜されている。膜厚の厚みは、特に限定されるものではないが、概ね0.1μmから3μmとするのが好ましい。
【0048】
なお、撥液層45は、ノズルプレート1の吐出面12に直接成膜してもよいし、撥液層45の密着性を向上させるために中間層を介して成膜することも可能である。
【実施例】
【0049】
(実施例)
図5、図6を用いてノズルプレート1を製造する例を説明する。厚み200μmのSi基板30を用意した。Si基板30におけるSiの結晶方位は、厚み方向が(100)であり、厚み方向と垂直な面内が(110)としている。面内の結晶方位は、表裏面同じ方向である。Si基板30の面内の結晶方位(110)の方向が分かるように、図7に示すような、結晶方位(110)の方向に平行なオリフラOF(切り欠き)を設けた。
【0050】
まず、上記のSi基板30に、ノズルプレート1の開口形状が正方形のノズルとなる、小径部14の直径を3.5μm、大径部15の直径を60μmとした円形ノズルを128個を作製した。Si基板30の両面には、予めエッチングマスクとなる厚み1.2μmの熱酸化膜31、32が設けてある。
【0051】
この熱酸化膜32の上にフォトレジスト34を塗布し(図5(b))、フォトリソグラフィー処理により、フォトレジストパターン34aを形成する(図5(c))。このフォトレジストパターン34aを用いてエッチング処理を行うことでエッチングマスクである熱酸化膜パターン32aを得る(図5(d))。尚、フォトレジストパターン34aは、酸素プラズマによるアッシング法にて除去している。
【0052】
熱酸化膜パターン32aを用いて、Si異方性ドライエッチングにより深さ195μmまでSi基板30をエッチングして大径部15を形成した(図5(d))。
【0053】
Si異方性ドライエッチングの具体的な方法は、ボッシュプロセスを用いた。エッチングガスとして6フッ化硫黄(SF6)、デポジション(側壁保護膜の形成)ガスとしてフッ化炭素(C4F8)を交互に使用した。
【0054】
次、SiO2膜である熱酸化膜31の上に両面マスクアライナーを用いたフォトリソグラフィー処理により、先に作製したSi基板30の大径部15の穴と同心となるように小径部14を形成するためのフォトレジストパターン44aを形成した(図6(c))。
【0055】
この後、エッチングにより吐出面のノズルの開口とする直径3.5μmの小径部14をSi基板30に形成するためのエッチングマスクである熱酸化膜パターン31aを形成した(図6(d))。その後、フォトレジストパターン36aを除去した。
【0056】
熱酸化膜パターン31aを用いて、Si異方性ドライエッチングにより大径部15に貫通するまでSi基板30をエッチングして小径部14を形成した(図6(f))。
【0057】
この状態で、小径部14及び大径部15の開口形状を顕微鏡にて観察したところ、小径部14の開口形状は直径約φ3.7μm、大径部15の開口形状は直径約φ60μmのほぼ円形であった。
【0058】
次に、ノズルである小径部14、大径部15を形成した上記のSi基板30を以下のアルカリ溶液に浸漬して選択エッチングを行った。アルカリ溶液は、アルカリ液(商品名:クリンクA−27−a(吉村油化学(株)、主成分:メタケイ酸ナトリウム 19質量%))の4体積%水溶液を80℃に加熱した状態で、Si基板30を120分間浸漬した。
【0059】
この後、両面のエッチングマスク34a、40aを反応性イオンエッチング法(RIE)により除去した。
【0060】
上記の手順により形成したノズル孔を有するSi基板30をダイシングソーにて個々に分離してノズル孔を有するノズルプレート1を作製した。
【0061】
この後、洗浄後、小径部14の開口形状を顕微鏡にて観察したところ、1辺がほぼ5μmの正方形となっていることを確認した。また、大径部15の開口形状も顕微鏡にて観察したところ、小径部14の開口形状と同じ方向の四隅が角張った1辺が約61μmの正方形になっていることを確認した。
【0062】
次に図1に示す様なボディプレート2を製造した。Si基板を用いて、公知のフォトリソグラフィー処理(レジスト塗布、露光、現像)及びSi異方性ドライエッチング技術を用いて、ノズル11にそれぞれ連通する複数の圧力室となる圧力室溝24、この圧力室にそれぞれ連通する複数のインク供給路となるインク供給溝23及びこのインク供給に連通する共通インク室となる共通インク室溝22、並びにインク供給口21を形成した。
【0063】
次に、図1に示すように、これまでに用意したノズルプレート1とボディプレート2とを接着剤を用いて貼り合わせ、更にボディプレート2の各圧力室24の背面に圧力発生手段であるピエゾ素子3を取り付けて液体吐出ヘッドとした。
【0064】
上記と同様にして、小径部14をSi基板30に形成するエッチングマスクである熱酸化膜パターン31aにおける開口の大きさや、アルカリ溶液への浸漬時間を適宜調整して、上記とは別に、1辺をそれぞれ3.5μm、7μm、9μmの正方形を開口形状とする小径部14を備えたノズルプレートを作製した。大径部15は、上記とほぼ同じ1辺が約61μmの正方形とした。この後、上記と同様にして、これらのノズルプレートを備えた液体吐出ヘッドを作製した。
【0065】
開口が上記4種類の大きさの小径部14を形成したノズルプレートを備えた液体吐出ヘッドを用いて、それぞれインクの吐出を行った後、吐出面のクリーニングを行い、吐出面の観察を行った。クリーニング方法と観察は以下とした。
(1)10分間連続吐出を行った後、クリーニングブレードをノズルが一列に並んでいる方向(X方向とする)に1回移動させて全てのノズルを清掃した後吐出面を顕微鏡で観察した。
(2)10分間連続吐出を行った後、クリーニングブレードをノズルが一列に並んでいる方向に対して垂直な方向(Y方向とする)に1回移動させて全てのノズルを清掃した後吐出面を顕微鏡で観察した。
(3)10分間連続吐出を行った後、クリーニングブレードをX方向に1回移動させて全てのノズルを清掃し、引き続いて、クリーニングブレードをY方向に対して垂直な方向に1回移動させて全てのノズルを清掃した後吐出面を顕微鏡で観察した。
(4)10分間連続吐出を行った後、クリーニングブレードをX方向に5回移動させて全てのノズルを清掃し、引き続いて、クリーニングブレードをY方向に対して垂直な方向に5回移動させて全てのノズルを清掃した後吐出面を顕微鏡で観察した。
【0066】
この結果を以下の表1に示す。表に示す記号は以下を示している。
◎:ほぼ完全に拭き取りがなされている。
○:実用レベルに拭き取りがなされている。
×:拭き取り状態が実用レベルに到達していない。
【0067】
(比較例)
アルカリ溶液によるエッチング行わないで、ドライエッチングにて小径部14の開口形状を直径φ3.5μm、φ5μm、φ7μm、φ9μmの円形とした以外は、実施例1と同じとして、ノズルプレート及びこのノズルプレートを備えた液体吐出ヘッドを作製した。
【0068】
この後、実施例と同じく、開口が上記4種類の大きさの小径部14を形成したノズルプレートを備えた液体吐出ヘッドを用いて、それぞれインクの吐出を行った後、吐出面のクリーニングを行い、吐出面の観察を行った。クリーニング方法と観察は上記の(1)、(2)、(3)、(4)とした。この結果を実施例の結果と合わせて表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1が示す通り、ノズルが一列に並んでいる方向と、これに垂直な方向にクリーニングを行うことにより、ノズルの開口形状が円形より正方形のノズルの方が、インクの拭き取りが良好であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】インクジェット式記録ヘッドの構成の例を示す図である。
【図2】インクジェット式記録ヘッドにおける断面を模式的に示す図である。
【図3】ノズルプレートの周辺部の一例を示す図である。(a)は断面図、(b)は吐出口が配列している例を示す上面図、(c)は吐出口が配列している別の例を示す上面図を示している。
【図4】小径部の開口形状が円の場合と正方形の場合の配列密度を説明する図である。
【図5】ノズルプレートのノズル孔を形成する工程を説明する図である。
【図6】ノズルプレートのノズル孔を形成する工程を説明する図である。
【図7】Si基板のオリフラとマスクパターンを形成するためのフォトレジストパターンとの配置の関係及び拡大された円形レジストパターン部を示す図である。
【図8】アルカリ溶液への浸漬時間(エッチング時間)とノズル孔の大きさとの関係を示す図である。
【図9】吐出口が正方形状であるノズルの吐出面をクリーニングブレードで清掃した場合の拭き残りの例を説明する図である。(a)は、吐出口が並んだ方向に拭き取りを行った場合の拭き残りの様子、(b)は、更に、吐出口が並んだ方向に垂直な方向に拭き取りを行った場合の拭き残りの様子を説明する図である。
【図10】従来例として、吐出口が円形状であるノズルの吐出面をクリーニングブレードで清掃した場合の拭き残りの例を説明する図である。
【図11】従来例として、吐出口が円形状であるノズルの吐出面をクリーニングブレードで清掃した場合の拭き残りの例を説明する図である。
【符号の説明】
【0072】
1 ノズルプレート
2 ボディプレート
3 圧電素子
11 ノズル
12、80、90 吐出面
14 小径部
15 大径部
21 インク供給口
22 共通インク室(溝)
23 インク供給路(溝)
24 圧力室(溝)
30 Si基板
31、32 熱酸化膜
31a、32a 熱酸化膜パターン
34a、44a フォトレジストパターン
45 撥液層
OF オリフラ
H 記録ヘッド
M15 円形レジストパターン部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を複数個有するSi基板からなり、前記貫通孔の一方の開口が液滴を吐出する吐出口である液体吐出ヘッド用ノズルプレートにおいて、
前記吐出口の開口形状は、長方形であって、
複数個の前記吐出口は、互いに平行移動の関係に配置していることを特徴とする液体吐出ヘッド用ノズルプレート。
【請求項2】
前記吐出口は、等間隔で配列していることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレート。
【請求項3】
前記貫通孔は、前記Si基板の一方の面に長方形を開口形状とする大径部と、前記Si基板の他方の面に長方形を開口形状とし、前記大径部の断面積より小さい断面積の前記吐出口を開口とする小径部とからなり、
前記大径部の開口形状を成す互いに直交する2つの辺と、前記吐出口の開口形状を成す互いに直交する2つの辺とは、2組の平行関係を成していることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレート。
【請求項4】
前記吐出口の開口形状の前記長方形は、正方形であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレート。
【請求項5】
前記Si基板の前記吐出口を有する面に撥液層を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレート。
【請求項6】
請求項4に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレートを製造する液体吐出ヘッド用ノズルプレート製造方法であって、
厚み方向の結晶方位が(100)、且つ厚み方向と垂直な面内の結晶方位が(110)とするSi基板の表面にエッチングマスクとなる膜を備えた基板を準備する工程と、
前記(110)の結晶方位に対する平行方向及び垂直方向に、それぞれ平行な2つの辺を含む正方形を前記吐出口の形状として形成するマスクパターンが円形である前記エッチングマスクを前記膜に形成する工程と、
前記エッチングマスクを用いて、フォトリソグラフィー処理及びエッチング処理を行い、前記Si基板に前記エッチングマスクに基づいて開口形状が円形の貫通孔を形成する工程と、
前記円形の貫通孔を形成した前記Si基板をアルカリ溶液に浸漬して前記Si基板を選択エッチングし、前記貫通孔の開口形状が正方形である前記吐出口を形成する工程と、
正方形の前記吐出口を形成した後、前記エッチングマスクを前記Si基板より除去する工程と、を有することを特徴とする液体吐出ヘッド用ノズルプレート製造方法。
【請求項7】
前記エッチング処理は、エッチングと側壁保護膜の形成とを交互に繰り返すSi異方性ドライエッチング処理であることを特徴とする請求項6に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレート製造方法。
【請求項8】
前記Si基板の前記吐出口を有する面に撥液層を設ける工程を有することを特徴とする請求項6又は7に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレート製造方法。
【請求項1】
貫通孔を複数個有するSi基板からなり、前記貫通孔の一方の開口が液滴を吐出する吐出口である液体吐出ヘッド用ノズルプレートにおいて、
前記吐出口の開口形状は、長方形であって、
複数個の前記吐出口は、互いに平行移動の関係に配置していることを特徴とする液体吐出ヘッド用ノズルプレート。
【請求項2】
前記吐出口は、等間隔で配列していることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレート。
【請求項3】
前記貫通孔は、前記Si基板の一方の面に長方形を開口形状とする大径部と、前記Si基板の他方の面に長方形を開口形状とし、前記大径部の断面積より小さい断面積の前記吐出口を開口とする小径部とからなり、
前記大径部の開口形状を成す互いに直交する2つの辺と、前記吐出口の開口形状を成す互いに直交する2つの辺とは、2組の平行関係を成していることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレート。
【請求項4】
前記吐出口の開口形状の前記長方形は、正方形であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレート。
【請求項5】
前記Si基板の前記吐出口を有する面に撥液層を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレート。
【請求項6】
請求項4に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレートを製造する液体吐出ヘッド用ノズルプレート製造方法であって、
厚み方向の結晶方位が(100)、且つ厚み方向と垂直な面内の結晶方位が(110)とするSi基板の表面にエッチングマスクとなる膜を備えた基板を準備する工程と、
前記(110)の結晶方位に対する平行方向及び垂直方向に、それぞれ平行な2つの辺を含む正方形を前記吐出口の形状として形成するマスクパターンが円形である前記エッチングマスクを前記膜に形成する工程と、
前記エッチングマスクを用いて、フォトリソグラフィー処理及びエッチング処理を行い、前記Si基板に前記エッチングマスクに基づいて開口形状が円形の貫通孔を形成する工程と、
前記円形の貫通孔を形成した前記Si基板をアルカリ溶液に浸漬して前記Si基板を選択エッチングし、前記貫通孔の開口形状が正方形である前記吐出口を形成する工程と、
正方形の前記吐出口を形成した後、前記エッチングマスクを前記Si基板より除去する工程と、を有することを特徴とする液体吐出ヘッド用ノズルプレート製造方法。
【請求項7】
前記エッチング処理は、エッチングと側壁保護膜の形成とを交互に繰り返すSi異方性ドライエッチング処理であることを特徴とする請求項6に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレート製造方法。
【請求項8】
前記Si基板の前記吐出口を有する面に撥液層を設ける工程を有することを特徴とする請求項6又は7に記載の液体吐出ヘッド用ノズルプレート製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−119773(P2009−119773A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297816(P2007−297816)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】
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