説明

液体吐出装置、及び、液体吐出制御方法

【課題】良好な吐出特性を維持しつつ、コストの低減を図る。
【解決手段】ノズルから液体を吐出させるための動作を行う駆動素子と、駆動素子の一端に印加される駆動信号を生成する駆動信号生成部と、入力電極が駆動素子の他端と接続されたNチャンネル型トランジスタであって、液体の吐出区間毎にオン又はオフに制御されるNチャンネル型トランジスタと、を有し、駆動信号生成部は、或る吐出区間において、グランド電位で開始し、且つ、グランド電位よりも高い非吐出の中間電位V0、中間電位V0よりもさらに高い電位V1、中間電位V0よりも低い電位V2、電位V2よりも高い電位V3に順次変化する駆動信号を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置、及び、液体吐出制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体(例えばインク)を吐出させるための駆動素子を有する液体吐出装置として、例えばインクジェットプリンターが知られている。このような、インクジェットプリンターでは、駆動素子を駆動させるための駆動信号を生成し、アナログスイッチ(例えばトランスミッションゲート)による制御により駆動信号の所望の波形を駆動素子に印加している(例えば、特許文献1参照)。そして、駆動信号により駆動素子を駆動させることによってノズルからインクを吐出させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−250061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなプリンターでは、複数の駆動素子を選択的に駆動させるために、駆動素子毎に対してそれぞれトランスミッションゲートが設けられている。このように、ノズル数分のトランスミッションゲートを設ける必要があり、コストが高くなるという問題がある。なお、トランスミッションゲートではなく1方の極性(例えば、Nチャンネル型)のトランジスタのみでもアナログスイッチを構成することが可能である。しかしながら、この場合、後述するように、液体の吐出特性が悪化するおそれがある。
そこで本発明は、良好な吐出特性を維持しつつ、コストの低減を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための主たる発明は、ノズルから液体を吐出させるための動作を行う駆動素子と、前記駆動素子の一端に印加される駆動信号を生成する駆動信号生成部と、入力電極が前記駆動素子の他端と接続されたNチャンネル型トランジスタであって、液体の吐出区間毎にオン又はオフに制御されるNチャンネル型トランジスタと、を有し、前記駆動信号生成部は、或る吐出区間において、グランド電位で開始し、且つ、前記グランド電位よりも高い非吐出の中間電位V0、前記中間電位V0よりもさらに高い電位V1、前記中間電位V0よりも低い電位V2、前記電位V2よりも高い電位V3に順次変化する前記駆動信号を生成することを特徴とする液体吐出装置である。
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】プリンターの全体構成のブロック図である。
【図2】図2Aは、プリンターの斜視図である。図2Bは、プリンターの横断面図である。
【図3】プリンタードライバーによる処理の説明図である。
【図4】駆動信号生成回路の構成を示すブロック図である。
【図5】ヘッドの下面におけるノズルの配列を示す説明図である。
【図6】ヘッドのノズルの周辺の断面図である。
【図7】ヘッド制御部HCの説明図である。
【図8】比較例1のスイッチ部の構成を示す図である。
【図9】比較例1の駆動信号COM’を示す図である。
【図10】比較例2のスイッチ部の構成を示す図である。
【図11】比較例2の駆動信号COM″を示す図である。
【図12】第1実施形態の駆動信号COMの説明図である。
【図13】繰り返し周期Tにおける駆動信号COMの波形を示す図である。
【図14】第2実施形態のスイッチ部の構成を示す図である。
【図15】第2実施形態の駆動信号COMの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0008】
ノズルから液体を吐出させるための動作を行う駆動素子と、前記駆動素子の一端に印加される駆動信号を生成する駆動信号生成部と、入力電極が前記駆動素子の他端と接続されたNチャンネル型トランジスタであって、液体の吐出区間毎にオン又はオフに制御されるNチャンネル型トランジスタと、を有し、前記駆動信号生成部は、或る吐出区間において、グランド電位で開始し、且つ、前記グランド電位よりも高い非吐出の中間電位V0、前記中間電位V0よりもさらに高い電位V1、前記中間電位V0よりも低い電位V2、前記電位V2よりも高い電位V3に順次変化する前記駆動信号を生成することを特徴とする液体吐出装置が明らかとなる。
このような液体吐出装置によれば、良好な吐出特性を維持しつつ、スイッチがNチャンネル型トランジスタのみで構成されるのでコストの低減を図ることができる。
【0009】
かかる液体吐出装置であって、前記駆動信号は、各吐出区間において、前記グランド電位で開始することが望ましい。
このような液体吐出装置によれば、駆動素子の誤動作を防止することができる。
【0010】
かかる液体吐出装置であって、前記Nチャンネル型トランジスタの出力電極の電圧は、前記駆動素子の前記一端の電圧に応じて変更されることが望ましい。
このような液体吐出装置によれば、駆動素子の一端の電圧を昇圧する場合に対応することができる。
【0011】
かかる液体吐出装置であって、前記Nチャンネル型トランジスタの制御電極には、画素データに基づいた信号が印加されることが望ましい。
このような液体吐出装置によれば、画素データに応じて液体を吐出することができる。
【0012】
また、ノズルから液体を吐出させるための動作を行う駆動素子と、前記駆動素子の一端に印加される駆動信号を生成する駆動信号生成部と、出力電極が前記駆動素子の他端と接続されたPチャンネル型トランジスタであって、液体の吐出区間毎にオン又はオフに制御されるPチャンネル型トランジスタと、を有し、前記駆動信号生成部は、或る吐出区間において、電源電位で開始し、且つ、前記電源電位よりも低い非吐出の中間電位V0、前記中間電位V0よりもさらに低い電位V1、前記中間電位V0よりも高い電位V2、前記電位V2よりも低い電位V3に順次変化する前記駆動信号を生成することを特徴とする液体吐出装置が明らかとなる。
このような液体吐出装置によれば、良好な吐出特性を維持しつつ、スイッチがPチャンネル型トランジスタのみで構成されるのでコストの低減を図ることができる。
【0013】
また、ノズルから液体を吐出させるための動作を行う駆動素子を備えた液体吐出装置による液体吐出方法であって、或る吐出区間において、グランド電位で開始し、且つ、前記グランド電位よりも高い非吐出の中間電位V0、前記中間電位V0よりもさらに高い電位V1、前記中間電位V0よりも低い電位V2、前記電位V2よりも高い電位V3に順次変化する駆動信号を生成することと、前記駆動素子の一端に前記駆動信号を印加することと、入力電極が前記駆動素子の他端と接続されたNチャンネル型トランジスタを液体の吐出区間毎にオン又はオフに制御することとを有することを特徴とする液体吐出方法が明らかとなる。
【0014】
また、ノズルから液体を吐出させるための動作を行う駆動素子を備えた液体吐出装置による液体吐出方法であって、或る吐出区間において、電源電位で開始し、且つ、前記電源電位よりも低い非吐出の中間電位V0、前記中間電位V0よりもさらに低い電位V1、前記中間電位V0よりも高い電位V2、前記電位V2よりも低い電位V3に順次変化する駆動信号を生成することと、前記駆動素子の一端に前記駆動信号を印加することと、出力電極が前記駆動素子の他端と接続されたPチャンネル型トランジスタを液体の吐出区間毎にオン又はオフに制御することとを有することを特徴とする液体吐出方法が明らかとなる。
【0015】
以下の実施形態では、インクジェットプリンター(以下、プリンター1ともいう)を例に挙げて説明する。
【0016】
===プリンターの構成===
図1は、本実施形態のプリンター1の全体構成のブロック図である。また、図2Aは、プリンター1の斜視図であり、図2Bは、プリンター1の横断面図である。以下、本実施形態のプリンター1の基本的な構成について説明する。
【0017】
本実施形態のプリンター1は、搬送ユニット20、キャリッジユニット30、ヘッドユニット40、検出器群50、及びコントローラー60を有する。外部装置であるコンピューター110から印刷データを受信したプリンター1は、コントローラー60によって各ユニット(搬送ユニット20、キャリッジユニット30、ヘッドユニット40)を制御する。コントローラー60は、コンピューター110から受信した印刷データに基づいて、各ユニットを制御し、紙に画像を印刷する。プリンター1内の状況は検出器群50によって監視されており、検出器群50は、検出結果をコントローラー60に出力する。コントローラー60は、検出器群50から出力された検出結果に基づいて、各ユニットを制御する。
【0018】
搬送ユニット20は、媒体(例えば、紙Sなど)を所定の方向(以下、搬送方向という)に搬送させるためのものである。この搬送ユニット20は、給紙ローラー21と、搬送モーター22(PFモーターとも言う)と、搬送ローラー23と、プラテン24と、排紙ローラー25とを有する。給紙ローラー21は、紙挿入口に挿入された紙をプリンター内に給紙するためのローラーである。搬送ローラー23は、給紙ローラー21によって給紙された紙Sを印刷可能な領域まで搬送するローラーであり、搬送モーター22によって駆動される。プラテン24は、印刷中の紙Sを支持する。排紙ローラー25は、紙Sをプリンターの外部に排出するローラーであり、印刷可能な領域に対して搬送方向下流側に設けられている。
【0019】
キャリッジユニット30は、ヘッドを所定の方向(以下、移動方向という)に移動(「走査」とも呼ばれる)させるためのものである。キャリッジユニット30は、キャリッジ31と、キャリッジモーター32(CRモーターとも言う)とを有する。キャリッジ31は、移動方向に往復移動可能であり、キャリッジモーター32によって駆動される。また、キャリッジ31は、インクを収容するインクカートリッジを着脱可能に保持している。
【0020】
ヘッドユニット40は、紙にインクを吐出するためのものである。ヘッドユニット40は、複数のノズルを有するヘッド41とヘッド制御部HCを備えている。ヘッド41はキャリッジ31に設けられているため、キャリッジ31が移動方向に移動すると、ヘッド41も移動方向に移動する。そして、ヘッド41が移動方向に移動中にインクを断続的に吐出することによって、移動方向に沿ったドットライン(ラスタライン)が紙に形成される。
【0021】
ヘッド制御部HCは、ピエゾ素子PZTの駆動等を制御するための制御用ICでありヘッド41に設けられている。ヘッド制御部HCは、コントローラー60からのヘッド制御信号に応じて、ヘッド41の各ノズルと対応するピエゾ素子PZTを選択的に駆動させる。これによりヘッド41のノズルからインクが吐出される。
なお、ヘッドユニット40の詳細については後述する。
【0022】
検出器群50には、リニア式エンコーダー51、ロータリー式エンコーダー52、紙検出センサー53、光学センサー54等が含まれる。リニア式エンコーダー51は、キャリッジ31の移動方向の位置を検出する。ロータリー式エンコーダー52は、搬送ローラー23の回転量を検出する。紙検出センサー53は、給紙中の紙の先端の位置を検出する。光学センサー54は、キャリッジ31に取付けられている発光部と受光部により、紙の有無を検出する。そして、光学センサー54は、キャリッジ31によって移動しながら紙の端部の位置を検出し、紙の幅を検出することができる。また、光学センサー54は、状況に応じて、紙の先端(搬送方向下流側の端部であり、上端ともいう)・後端(搬送方向上流側の端部であり、下端ともいう)も検出できる。
【0023】
コントローラー60は、プリンターの制御を行うための制御ユニットである。コントローラー60は、インターフェイス部61と、CPU62と、メモリー63と、ユニット制御回路64と、駆動信号生成回路65を有する。インターフェイス部61は、外部装置であるコンピューター110とプリンター1との間でデータの送受信を行う。CPU62は、プリンター全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリー63は、CPU62のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものであり、RAM、EEPROM等の記憶素子を有する。CPU62は、メモリー63に格納されているプログラムに従って、ユニット制御回路64を介して各ユニットを制御する。
【0024】
駆動信号生成回路65は、ヘッド41のピエゾ素子PZTを駆動させる駆動信号COMを生成する。なお、駆動信号生成回路65の詳細については後述する。
【0025】
<印刷手順について>
コントローラー60は、コンピューター110から印刷命令及び印刷データを受信すると、印刷データに含まれる各種コマンドの内容を解析し、各ユニットを用いて、以下の処理を行う。
【0026】
まず、コントローラー60は、給紙ローラー21を回転させ、印刷すべき用紙Sを搬送ローラー23の所まで送る。次に、コントローラー60は、搬送モーター22を駆動させることによって搬送ローラー23を回転させる。搬送ローラー23が所定の回転量にて回転すると、用紙Sは所定の搬送量にて搬送される。
【0027】
用紙Sがヘッドユニット40の下部まで搬送されると、コントローラー60は、印刷命令に基づいてキャリッジモーター32を回転させる。このキャリッジモーター32の回転に応じて、キャリッジ31が移動方向に移動する。また、キャリッジ31が移動することによって、キャリッジ31に設けられたヘッドユニット40も同時に移動方向に移動する。また、ヘッドユニット40が移動方向に移動している間に、コントローラー60は、駆動信号生成回路65に駆動信号COMを生成させて、ヘッド41のピエゾ素子に駆動信号COMを印加する。これにより、ヘッドユニット40が移動方向に移動している間に、ヘッド41から断続的にインク滴が吐出される。このインク滴が、用紙Sにインク滴が着弾することによって、移動方向に複数のドットが並ぶドット列が形成される。なお、移動するヘッド41からインクを吐出することによるドット形成動作のことをパスという。
【0028】
また、コントローラー60は、ヘッドユニット40が往復移動する合間に搬送モーター22を駆動させる。搬送モーター22は、コントローラー60からの指令された駆動量に応じて回転方向の駆動力を発生する。そして、搬送モーター22は、この駆動力を用いて搬送ローラー23を回転させる。搬送ローラー23が所定の回転量にて回転すると、用紙Sは所定の搬送量にて搬送される。つまり、用紙Sの搬送量は、搬送ローラー23の回転量に応じて定まることになる。このように、パスと搬送動作を交互に繰り返して行い、用紙Sの各画素にドットを形成していく。こうして用紙Sに画像が印刷される。
【0029】
そして、最後に、コントローラー60は、搬送ローラー23と同期して回転する排紙ローラー25によって印刷が終了した用紙Sを排紙する。
【0030】
<プリンタードライバーによる処理の概要>
上記の印刷処理は、前述したように、プリンター1に接続されたコンピューター110から印刷データが送信されることにより開始する。当該印刷データは、プリンタードライバーによる処理により生成される。以下、プリンタードライバーによる処理について、図3を参照しながら説明する。図3は、プリンタードライバーによる処理の説明図である。
【0031】
プリンタードライバーは、アプリケーションプログラムから画像データを受け取り、プリンター1が解釈できる形式の印刷データに変換し、印刷データをプリンターに出力する。アプリケーションプログラムからの画像データを印刷データに変換する際に、プリンタードライバーは、解像度変換処理・色変換処理・ハーフトーン処理・ラスタライズ処理・コマンド付加処理などを行う。
解像度変換処理は、アプリケーションプログラムから出力された画像データ(テキストデータ、イメージデータなど)を、紙に印刷する際の解像度(印刷解像度)に変換する処理である。例えば、印刷解像度が720×720dpiに指定されている場合、アプリケーションプログラムから受け取ったベクター形式の画像データを720×720dpiの解像度のビットマップ形式の画像データに変換する。なお、解像度変換処理後の画像データの各画素データは、RGB色空間により表される多階調(例えば256階調)のRGBデータである。この階調値は、RGB画像データに基づいて定められるものであり、以下指令階調値ともいう。
【0032】
色変換処理は、RGBデータをCMYK色空間のデータに変換する処理である。なお、CMYK色空間の画像データは、プリンターが有するインクの色に対応したデータである。言い換えると、プリンタードライバーは、RGBデータに基づいて、CMYK平面の画像データを生成する。
【0033】
この色変換処理は、RGBデータの階調値とCMYKデータの階調値とを対応づけたテーブル(色変換ルックアップテーブルLUT)に基づいて行われる。なお、色変換処理後の画素データは、CMYK色空間により表される256階調のCMYKデータである。
【0034】
ハーフトーン処理は、高階調数のデータを、プリンターが形成可能な階調数のデータに変換する処理である。このハーフトーン処理により、256階調を示すデータが、2階調を示す1ビットデータや4階調を示す2ビットデータに変換される。ハーフトーン処理後の画像データでは、画素ごとに1ビット又は2ビットの画素データが対応しており、この画素データは各画素でのドットの形成状況(ドットの有無、ドットの大きさ)を示すデータになる。例えば2ビット(4階調)の場合、ドット階調値[00]に対応するドットなし、ドット階調値[01]に対応する小ドットの形成、ドット階調値[10]に対応する中ドットの形成、及び、ドット階調値[11]に対応する大ドットの形成のように4段階に変換される。その後、各ドットのサイズについてドット生成率が決められた上で、ディザ法・γ補正・誤差拡散法等を利用して、プリンター1がドットを分散して形成するように画素データが作成される。
【0035】
ラスタライズ処理は、マトリクス状に並ぶ画素データを、印刷時のドット形成順序に従って並べ替える処理である。例えば、印刷時に数回に分けてドット形成処理が行われる場合、各ドット形成処理に対応する画素データをそれぞれ抽出し、ドット形成処理の順序に従って並べ替える。なお、印刷方式が異なれば印刷時のドット形成順序が異なるので、印刷方式に応じてラスタライズ処理が行われることになる。
【0036】
コマンド付加処理は、ラスタライズ処理されたデータに、印刷方式に応じたコマンドデータを付加する処理である。コマンドデータとしては、例えば媒体の搬送速度を示す搬送データなどがある。
【0037】
これらの処理を経て生成された印刷データは、プリンタードライバーによりプリンター1に送信される。
【0038】
===駆動信号生成回路===
図4は、駆動信号生成回路65の構成の一例を示すブロック図である。
駆動信号生成回路65(駆動信号生成部に相当する)は、CPU62からのDACデータに基づき、駆動信号COMを生成する。図4に示すように、駆動信号生成回路65は、DAC回路651と、電圧増幅回路652と、電流増幅回路653とを有する。DAC回路651は、デジタルのDACデータをアナログ信号に変換する。電圧増幅回路652は、DAC回路651で変換されたアナログ信号の電圧を、ピエゾ素子PZTを駆動できるレベルまで増幅する。このプリンター1では、DAC回路651から出力されるアナログ信号は最大3.3Vであるのに対し、電圧増幅回路652から出力される増幅後のアナログ信号は最大42Vである。電流増幅回路653は、電圧増幅回路652からのアナログ信号について電流の増幅をし、駆動信号COMとして出力する。なお、この電流増幅回路653は、例えば、プッシュプル接続されたトランジスタ対(不図示)によって構成される。
【0039】
===ヘッドユニット===
<ヘッドについて>
図5は、ヘッド41の下面におけるノズルの配列を示す説明図である。図5に示すように、ヘッド41の下面には、ブラックインクノズル列Kと、シアンインクノズル列Cと、マゼンタインクノズル列Mと、イエローインクノズル列Yが移動方向に並んで形成されている。各ノズル列は、各色のインクを吐出するための吐出口であるノズルを複数個(本実施形態では180個)備えている。
【0040】
各ノズル列の複数のノズルは、搬送方向に沿って、一定の間隔(ノズルピッチ:k・D)でそれぞれ整列して並んでいる。ここで、Dは、搬送方向における最小のドットピッチ(つまり、用紙Sに形成されるドットの最高解像度での間隔)である。また、kは、1以上の整数である。例えば、ノズルピッチが180dpi(1/180インチ)であって、搬送方向のドットピッチが720dpi(1/720)である場合、k=4である。
【0041】
各ノズル列のノズルは、下流側のノズルほど若い番号が付されている(♯1〜♯180)。つまり、ノズル♯1は、ノズル♯180よりも搬送方向の下流側に位置している。各ノズルには、各ノズルを駆動してインク滴を吐出させるための駆動素子としてピエゾ素子(不図示)が設けられている。また、光学センサー54は、搬送方向の位置に関して、一番上流側にあるノズル♯180とほぼ同じ位置にある。
【0042】
図6は、ヘッド41のノズルの周辺の断面図である。ヘッド41は、駆動ユニット42と、駆動ユニット42を収納するためのケース43と、ケース43に装着される流路ユニット44とを備えている。
【0043】
駆動ユニット42は、複数のピエゾ素子PZTによって構成されるピエゾ素子群と、このピエゾ素子群が固定される固定板423と、各ピエゾ素子PZTに給電するためのフレキシブルケーブル424とを有している。各ピエゾ素子PZTは、所謂片持ち梁の状態で固定板423に取り付けられている。固定板423は、ピエゾ素子PZTからの反力を受け止め得る剛性を備えた板状部材である。フレキシブルケーブル424は、可撓性を有するシート状の配線基板であり、固定板423とは反対側となる固定端部の側面でピエゾ素子PZTと電気的に接続されている。そして、このフレキシブルケーブル424の表面には、ピエゾ素子PZTの駆動等を制御するための制御用ICであるヘッド制御部HCが実装されている。
【0044】
ケース43は、駆動ユニット42を収納可能な収納空部431を有する直方体ブロック状の外形である。このケース43の先端面には上記の流路ユニット44が接合される。この収納空部431は、駆動ユニット42が丁度嵌合可能な大きさである。また、このケース43には、インク供給路432も形成されている。インク供給路432は、インクカートリッジに貯留されたインクをリザーバ453に供給するための供給路である。
【0045】
流路ユニット44は、流路形成基板45と、ノズルプレート46と、弾性板47とを有し、流路形成基板45がノズルプレート46と弾性板47に挟まれるようにそれぞれを積層して一体的に構成される。ノズルプレート46は、ノズルが形成されたステンレス鋼製の薄いプレートである。
【0046】
流路形成基板45には、圧力室451及びインク供給口452となる空部が各ノズルに対応して複数形成される。リザーバ453は、インクカートリッジに貯留されたインクを各圧力室451に供給するための液体貯留室であり、インク供給口452を通じて対応する圧力室451の他端と連通している。そして、インクカートリッジからのインクは、インク供給路432を通って、リザーバ453内に導入されるようになっている。
【0047】
駆動ユニット42は、ピエゾ素子PZTの自由端部を流路ユニット44側に向けた状態で収納空部431内に挿入され、この自由端部の先端面が対応する島部473に接着される。また、固定板423の背面が収納空部431を区画するケース43の内壁面に接着される。この収納状態でフレキシブルケーブル424を介してピエゾ素子PZTに駆動信号を供給すると、ピエゾ素子PZTは伸縮して圧力室451の容積を膨張・収縮させる。このような圧力室451の容積変化により、圧力室451内のインクには圧力変動が生じる。そして、このインク圧力の変動を利用することでノズルからインク滴を吐出させることができる。
【0048】
<ヘッド制御部HCについて>
図7は、ヘッド制御部HCの説明図である。
図7に示すヘッドヘッド制御部HCは、第1シフトレジスタ81Aと、第2シフトレジスタ81Bと、第1ラッチ回路82Aと、第2ラッチ回路82Bと、デコーダ83と、制御ロジック85と、スイッチ部86を備えている。なお、第1シフトレジスタ81A、第2シフトレジスタ81B、第1ラッチ回路82A、第2ラッチ回路82B、デコーダ83、は、それぞれノズル毎(ピエゾ素子PZT毎)に設けられている。
【0049】
ヘッド制御部HCには、ラッチ信号LAT、チェンジ信号CH、画素データSI、クロック信号CLKが入力される。以下、これらの各信号について説明する。なお、ヘッド制御部HCには駆動信号COMも入力されるが、駆動信号COMについては後述する。
【0050】
ラッチ信号LATは、繰り返し周期T(1画素の区間をヘッド41が移動する期間)を示す信号である。ラッチ信号LATは、リニア式エンコーダー51の信号に基づいて、コントローラー60によって生成され、制御ロジック85とラッチ回路(第1ラッチ回路82A、第2ラッチ回路82B)に入力される。
【0051】
チェンジ信号CHは、本実施形態では繰り返し周期Tを3等分した期間(以下、吐出区間ともいう)を示す信号である。チェンジ信号CHは、リニア式エンコーダー51の信号に基づいてコントローラー60によって生成され、制御ロジック85に入力される。
【0052】
画素データSIは、画素毎の階調(ドット無し、小ドット、中ドット、大ドット)を示す信号である。この画素データは、1個のノズルに対して2ビットずつで構成されている。例えば、ノズル数が180個の場合、2ビット×180の画素データSIが繰り返し周期T毎に装置本体側から無線で送られてくることになる。なお、画素データSIは、第1シフトレジスタ81A及び第2シフトレジスタ81Bに入力される。
【0053】
クロック信号CLKは、コントローラー60から送られる画素データSIを、各シフトレジスタ(第1シフトレジスタ81A、第2シフトレジスタ81B)にセットする際に用いられる信号である。
【0054】
次に、ヘッド制御部HCで生成される信号について説明する。ヘッド制御部HCでは、選択信号q0〜q3、スイッチ制御信号SWが生成される。
【0055】
選択信号q0〜q3は、ラッチ信号LATとチェンジ信号CHに基づいて、制御ロジック85で生成される。そして生成された選択信号q0〜q3は、ピエゾ素子PZT毎に設けられたデコーダ83にそれぞれ入力される。
【0056】
スイッチ制御信号SWは、各ラッチ回路(第1ラッチ回路82A、第2ラッチ回路82B)にラッチされた画素データ(2ビット)に基づいて、選択信号q0〜q3の何れかがデコーダ83によって選択されたものである。各デコーダ83で生成されたスイッチ制御信号SWは、スイッチ部86に入力される。
【0057】
スイッチ部86は、各ピエゾ素子PZTに対応したスイッチを有しており、各デコーダ83から出力されるスイッチ制御信号SWに基づいて、それぞれ対応するスイッチを動作させることによって、駆動信号COMをピエゾ素子PZTに印加する。
【0058】
<ヘッド制御部HCの動作について>
ヘッド制御部HCは、画素データSIに基づき、各ピエゾ素子PZTの駆動(インクを吐出させるための動作)を制御している。本実施形態では、画素データSIが2ビットで構成されている。そして、転送用クロックCLKに同期して、この画素データSIがヘッド41へ送られてくる。さらに、画素データSIの上位ビット群が各第1シフトレジスタ81Aにセットされ、下位ビット群が各第2シフトレジスタ81Bにセットされる。第1シフトレジスタ81Aには第1ラッチ回路82Aが電気的に接続され、第2シフトレジスタ81Bには第2ラッチ回路82Bが電気的に接続されている。そして、コントローラー60からのラッチ信号LATがHレベルになると、各第1ラッチ回路82Aは対応する画素データSIの上位ビットをラッチし、各第2ラッチ回路82Bは画素データSIの下位ビットをラッチする。第1ラッチ回路82A及び第2ラッチ回路82Bでラッチされた画素データSI(上位ビットと下位ビットの組)はそれぞれ、デコーダ83に入力される。デコーダ83は、第1ラッチ回路82A及び第2ラッチ回路82Bにラッチされた画素データSIに応じて、制御ロジック85から出力される選択信号q0〜q3のうちの一つの選択信号(例えば選択信号q1)を選択し、選択され選択信号をスイッチ制御信号SWとしてスイッチ部86に出力する。
【0059】
===比較例1===
<比較例1のスイッチ部>
図8は比較例1のスイッチ部86の構成を示す図である。比較例1のスイッチ部86は、Pチャンネル型MOSFET(以下PMOSともいう)T1と、Nチャンネル型MOSFET(以下NMOSともいう)T2によるトランスミッションゲート49を有している。なお、ピエゾ素子PZT以外の部分は集積化(IC化)されている。
【0060】
トランスミッションゲート49は、駆動信号COMをピエゾ素子PZTへ印加するのを制御するアナログスイッチとして機能する。なお、このトランスミッションゲート49は、ノズル毎(ピエゾ素子PZT毎)に設けられている。図では、1つのピエゾ素子PZTに対応する部分のみを示している。
【0061】
トランスミッションゲート49の入力側には駆動信号COMが印加され、出力側はピエゾ素子PZTの一端と接続されている。そして、PMOST1及びNMOST2のゲートへの電圧の印加によって入出力間の導通が制御されている。なお、PMOST1のオン/オフは、PMOST11とNOST12で構成されるインバーターPAの出力によって制御されており、NMOST2のオン/オフは、PMOST21とNOST22で構成されるインバーターPBの出力によって制御されている。また、各インバーターの出力は、対応するデコーダ83から出力されるスイッチ制御信号SWに応じて変化する。つまり、トランスミッションゲート49のオン/オフは、スイッチ制御信号SW(言い換えると画素データSI)に基づいて制御されている。
【0062】
以上の構成により、ピエゾ素子PZTに対して充電・放電の双方向に対応できる。具体的には、充電時にはPMOST1によってピエゾ素子PZTを充電することができる。また、放電時にはNMOST1によってピエゾ素子PZTの電荷を放電させることができる。
【0063】
<比較例1の駆動信号>
次に、比較例1で使用される駆動信号COM’とインク吐出の関係について図5及び図9を用いて説明する。図9は、比較例1の駆動信号COM’を示す図である。なお、図では一つの吐出区間の波形を示している。
【0064】
この例の場合、駆動信号生成回路65は時刻T0まで中間電位Vc(GND<Vc<VDD)を出力し、ピエゾ素子PZTの一端には中間電位Vcが印加される。このときの圧力室451の容積を基準容積とする。その後、時刻T0から時刻T1までの間に、駆動信号生成回路65は中間電位Vcから最高電位Vhまで電位を上昇させる。この電位上昇により、ピエゾ素子PZTは長手方向に収縮し、圧力室451の容積を膨張させる。その結果、圧力室451内の圧力は減圧する。
そして、駆動信号生成回路65は、時刻T2まで最高電位Vhを維持した後、時刻T2から時刻T3までの間に、最高電位Vhから最低電位Vlまで電位を下降させ、ピエゾ素子PZTを伸長する。そうすると、圧力室451の容積は収縮し、圧力室451内の圧力は一気に加圧され、ノズルからインクが吐出される。
その後、駆動信号生成回路65は、時刻T4まで最低電位Vlを維持し、時刻T4から時刻T5までの間に、最低電位Vlから中間電位Vcまで電位を上昇させる。その結果、収縮した圧力室451の容積が膨張し、圧力室451内の容積は基準容積に戻される。
【0065】
===比較例2===
<比較例2のスイッチ部>
図10は比較例2のスイッチ部86の構成を示す図である。
この比較例2のスイッチ部86の各スイッチはトランスミッションゲートではなくNMOSのみで構成されている。図10においても、1つのピエゾ素子PZTに対応する部分のみを示している。また、図において、ピエゾ素子PZT以外の部分は集積化(IC化)されている。
比較例2のスイッチ部86は、インバーターPTと、NMOST3と、ダイオオードD1〜D4と、抵抗R1とを有している。なお、駆動信号COMは、図のようにピエゾ素子PZTの一端に印加される。
【0066】
インバーターPTは、PMOST31とNMMOST32によって構成されている。インバーターPTの出力はNMOST3のゲート(制御電極)に印加される。なお、インバーターPTの出力は、対応するデコーダ83から出力されるスイッチ制御信号SWに応じて変化する。すなわち、NMOST3のゲートには画素データSIに基づいた信号が印加される。
【0067】
NMOST3のドレイン(入力電極)は、ICの出力端子DOnを介してピエゾ素子PZTの他端に接続されている。また、NMOST3のソースは、グランド端子GND2と接続されている。そして、NMOST3は、インバーターPTの出力がHレベルのときオンとなり、インバーターPTの出力がLレベルのときオフとなる。
【0068】
ダイオードD1はPMOST31の寄生ダイオードであり、ダイオードD2はNMOST32の寄生ダイオードである。
また、ダイオードD3及びダイオードD4は、逆流防止用のダイオードである。
【0069】
抵抗R2は、電圧降下用の抵抗である。抵抗R2の一端はダイオードD4のアノード側と接続され。他端はグランド端子GND2と接続されている。
【0070】
<比較例2の駆動信号>
図11は比較例2の駆動信号COM″を示す図である。この比較例2では、比較例1のように吐出区間の開始時に中間電位にできない。なぜなら、もし仮に、吐出区間の開始時にピエゾ素子PZTの一端側が中間電位であるとすると、NMOST3がオフからオンに切り替わる際に、ピエゾ素子PZTに電流が流れ、ピエゾ素子PZTが誤動作するおそれがあるからである。
【0071】
このように吐出区間の開始時に中間電位にできないため、比較例2では駆動信号COM″はグランド電位から始まっている。そして、駆動信号COM″の電位はグランド電位から上昇して最高電位に達した後、下降してグランド電位に戻っている。このように比較例2の駆動信号COM″の波形はパルス波形である。そして、この電位変化に応じたピエゾ素子PZTの振動によりノズルからインクを吐出する。
【0072】
比較例2では、ピエゾ素子PZTに駆動信号COMを印加するスイッチとしてトランスミッションゲートを用いた比較例1と比べると、トランジスタの数を減少させることができるので、コストの削減及びICの小型化を実現することができる。しかし、比較例2の波形(パルス波形)では、引き打ち(圧力室451の容積を基準容量から膨張させて基準容量に戻す)又は押しうち(圧力室451の容積を基準容量から縮小させて基準容量に戻す)しかできない。
【0073】
このように、比較例2では、圧力室451の変位量やノズルから吐出されるインク量が比較例1の場合よりも小さくなる。よって、インク吐出の特性が比較例1の場合よりも悪化してしまう。
【0074】
===第1実施形態===
以下、図面を参照しつつ第1実施形態について説明する。なお、第1実施形態のスイッチ部86の構成は前述した比較例2(図9)と同じである。つまり、本実施形態のスイッチ部86の各スイッチは、トランスミッションゲートではなくNMOST3のみで構成されている。ただし、本実施形態の駆動信号COMの波形は比較例2と異なっている。以下、第1実施形態の駆動信号COMについて説明する。
【0075】
<第1実施形態の駆動信号>
図12は、第1実施形態の駆動信号COMの説明図である。
本実施形態では、NMOST3がオンする吐出区間の開始時にグランド電位から開始している。このため、吐出区間の開始時にNMOST3がオンになっても、いきなりピエゾ素子PZTに電流が流れることは無い。このときの圧力室451の容積を基準容積とする。その後、時刻Taから時刻Tbまでの間に、駆動信号生成回路65はグランド電位GNDから中間電位V0まで電位を上昇させる。電位上昇により、ピエゾ素子PZTは長手方向に収縮し、圧力室451の容積を膨張させる。そして、駆動信号生成回路65は、時刻Tcまで中間電位V0を維持した後、時刻Tcから時刻Tdまでの間に、中間電位V0から最高電位V1まで電位を上昇させる。この電位上昇により、ピエゾ素子PZTはさらに長手方向に収縮し、圧力室451の容積をさらに膨張させる。
【0076】
そして、駆動信号生成回路65は、時刻Teまで最高電位V1を維持した後、時刻Teから時刻Tfまでの間に、最高電位V1から最低電位V2(ここではグランド電位GND)まで電位を下降させ、ピエゾ素子PZTを伸長する。このとき、圧力室451の容積は収縮し、圧力室451内の圧力は一気に加圧され、ノズルからインクが吐出される。
【0077】
その後、駆動信号生成回路65は、時刻Tgまで最低電位V2を維持し、時刻Tgから時刻Thまでの間に、最低電位V2から電位V3まで電位を上昇させる。その結果、収縮した圧力室451の容積が膨張する。そして、時刻Tiまで電位V3を維持した後、時刻Tiから時刻Tjまでの間に、電位V3からグランド電位GNDまで電位を降下させる。この電位降下により、圧力室451の容積は基準容積に戻る。
【0078】
なお、時刻Ta〜Tbと時刻Ti〜Tjにおける電位変化は、ノズルからインクが吐出されない程度となるように設定されている。
こうすることにより、図の時刻Tb〜時刻Thにおける波形は図9(比較例1)の吐出波形と同じ波形(吐出波形)になる。つまり、比較例1と同じ吐出特性を比較例2の構成により実現することが可能になる。
【0079】
図13は、繰り返し周期Tにおける駆動信号COMの波形の一例を示す図である。
【0080】
駆動信号COMは、繰り返し周期T(1画素の区間をヘッド41が移動する周期)における期間T11で生成される駆動パルスPS1と、期間T12で生成される駆動パルスPS2と、期間T13で生成される駆動パルスPS3とを有している。駆動パルスPS1、駆動パルスPS2及び駆動パルスPS3は、後で詳述する大ドットの形成時にピエゾ素子PZTへ印加されるものであり、互いに同じ波形をしている。また、駆動パルスPS1と駆動パルスPS2は、後で詳述する中ドットの形成時にも、ピエゾ素子PZTへ印加されるものである。また、駆動パルスPS1は、後で詳述する小ドットの形成時にも、ピエゾ素子PZTへ印加されるものである。なお、駆動パルスがピエゾ素子PZTに印加されない場合は、インクが吐出されない(ドットが形成されない)。
【0081】
(画素データとドットの関係)
まず、ドットの非形成の場合(画素データSIがデータ[00]の場合)について説明する。画素データ[00]がラッチされている場合、スイッチ制御信号SWとして選択信号q0が出力される。この場合、期間TにおいてNMOST3がオフ状態になる。この結果、ピエゾ素子PZTは駆動信号COMによって駆動されず、ノズルからはインク滴は吐出されない。
【0082】
次に、小ドットの形成の場合(画素データSIがデータ[01]の場合)について説明する。画素データ[01]がラッチされている場合、スイッチ制御信号SWとして選択信号q1が出力される。この場合、期間T11においてNMOST3がオン状態になり、期間T12及び期間T13においてNMOST3がオフ状態になる。この結果、ピエゾ素子PZTは駆動信号COMの駆動パルスPS1で駆動され、ノズルからは小ドットに対応する量のインク滴が吐出される。
【0083】
次に、中ドットの形成の場合(画素データSIがデータ[10]の場合)について説明する。画素データ[10]がラッチされている場合、スイッチ制御信号SWとして選択信号q2が出力される。この場合、期間T11及び期間T12においてNMOST3がオン状態になり、期間T13ではNMOST3がオフ状態になる。この結果、ピエゾ素子PZTは駆動信号COMの駆動パルスPS1と駆動パルスPS2で駆動され、ノズルからは中ドットに対応する量のインク滴(中インク滴)が吐出される。
【0084】
次に、大ドットの形成の場合(画素データSIがデータ[11]の場合)について説明する。画素データ[11]がラッチされている場合、スイッチ制御信号SWとして選択信号q3が出力される。この場合、期間T11、期間T12及び期間T13においてNMOST3はオン状態になる。この結果、ピエゾ素子PZTは駆動信号COMの駆動パルスPS1と駆動パルスPS2と駆動パルスPS3で駆動され、ノズルからは大ドットに対応する量のインク滴(大インク滴)が吐出される。
【0085】
以上説明したように、本実施形態の駆動信号生成回路65は、各吐出区間においてグランド電位で開始し、且つ、グランド電位よりも高い非吐出の中間電位V0、中間電位V0よりもさらに高い最高電位V1、中間電位V0よりも低い最低電位V2、最低電位V2よりも高い電位V3に順次変化する駆動信号COMを生成している。これにより、比較例2の構成(図10)を用いて、比較例1の中間電位のある吐出波形(図9)によるピエゾ素子PZTの駆動を実現することができる。よって、吐出特性を維持しつつ、コストの低減を図ることができる。
【0086】
さらに、本実施形態では、時刻Taから時刻Tb(中間電位V0に達するまで)の間での電位の上昇により、インクが吐出されない程度の振動(微振動)を圧力室451内のインクに与えることができる。これにより、微振動の効果が得られるので、インクをより安定して吐出することができる。
【0087】
なお、本実施形態では、繰り返し周期Tの各吐出区間に図12の吐出波形が含まれていたがこれには限定されない。例えば、1つの吐出区間にピエゾ素子PZTを微振動させる波形を含んでいてもよい。また、本実施形態では繰り返し周期Tに吐出区間が3つであるがこれには限定されない。例えば4つでもよい。また、繰り返し周期Tが1つの吐出区間であってもよい。
【0088】
また、本実施形態の駆動信号COMでは、グランド電位から上昇して中間電位V0になった後、さらに電位が上昇して最高電位V1になっているが、中間電位V0と最高電位V1との間に別の波形が含まれていてもよい。例えば、中間電位V0から一度電位が下降し、再度、上昇して中間電位に戻り、その後最高電位V1になってもよい。
【0089】
要するに、各吐出区間の開始時(ラッチ信号LAT、チェンジ信号CHのパルスのタイミング)にはグランド電位であり、さらに、図12のような吐出波形が少なくとも1つの吐出区間内に含まれていればよい。
【0090】
また、ピエゾ素子PZTの駆動信号COMを印加する側(一端側)の電圧を昇圧していてもよい。この場合、グランド端子GND2の電圧(NMOST3のソース電圧)を、その昇圧した電圧に合わせるようにすればよい。このようにピエゾ素子PZTの一端側の電圧を昇圧する場合にも対応することができる。
【0091】
===第2実施形態===
前述した実施形態では、スイッチ部86のスイッチがNMOSのみで形成されていた。これに対し、第2実施形態ではスイッチがPMOSのみで構成されている。
【0092】
<第2実施形態のスイッチ部86>
図14は、第2実施形態のスイッチ部86の構成を示す図である。なお、図14において図10と同一構成の部分には同一符号を付し説明を省略する。
この比較例2のスイッチ部86は、PMOST4を有している。なお、第2実施形態においても、駆動信号COMは、図のようにピエゾ素子PZTの一端に印加される。
PMOST4のドレイン(出力電極)は、出力端子DOnを介してピエゾ素子PZTの他端に接続されている。また、PMOST4のソースには電源電圧VHVが印加されている。PMOST4のゲートにはインバーターPTの出力が印加される。そして、PMOST4は、インバーターPTの出力がLレベルのときオンとなり、インバーターPTの出力がHレベルのときオフとなる。
【0093】
<第2実施形態の駆動信号>
図15は、第2実施形態の駆動信号COMの説明図である。
第2実施形態の駆動信号生成回路65が生成する駆動信号COMは、吐出区間の開始時に電源電位VHVから開始している。これは、PMOST4がオフからオンに切り替わるときにピエゾ素子PZTの両端に電位差があると誤動作するおそれがあるからである。
そして、駆動信号生成回路65は、電源電位VHVよりも低い非吐出の中間電位V0、中間電位V0よりもさらに低い最低電位V1、中間電位V0よりも高い電位V2(本実施形態では電源電位VHV)、電位V2よりも低い電位V3に順次変化する駆動信号COMを生成している。
【0094】
この第2実施形態においても、PMOST4のみでスイッチを構成することができるとともに、中間電位のある吐出波形によってピエゾ素子PZTを駆動することができる。よって、良好な吐出特性を維持しつつ、コストの低減を図ることができる。
【0095】
===その他の実施形態===
一実施形態としてのプリンター等を説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0096】
<液体吐出装置について>
前述の実施形態では、液体吐出装置の一例としてインクジェットプリンターが説明されている。但し、液体吐出装置はインクジェットプリンターに限られるものではなく、インク以外の液体(液体以外にも、機能材料の粒子が分散されている液状体、ジェルのような液状体も含む)や液体以外の流体(流体として吐出できる固体、例えば粉体)を吐出する流体吐出装置にも適用可能である。例えば、液晶ディスプレイ、ELディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる液状の色剤や電極材などを吐出する吐出装置や、バイオチップ製造に用いられる液状の生体有機物を吐出する吐出装置に、前述の実施形態を適用しても良い。
【0097】
<プリンターについて>
前述の実施形態のプリンターは、ヘッドが移動方向に移動するドット形成動作(パス)と、用紙を搬送方向に搬送する搬送動作とを交互に繰り返すプリンター(いわゆるシリアルプリンター)であった。しかし、プリンターの種類は、これに限られるものではない。例えば、ヘッドを固定して、ヘッドと対向させて用紙を搬送させながらヘッドからインクを吐出させて印刷を行うプリンター(いわゆるラインプリンター)であっても良い。
【0098】
<インクについて>
前述の実施形態は、プリンターの実施形態だったので、インクをノズルから吐出しているが、このインクは水性でも良いし、油性でも良い。また、ノズルから吐出する流体は、インクに限られるものではない。例えば、金属材料、有機材料(特に高分子材料)、磁性材料、導電性材料、配線材料、成膜材料、電子インク、加工液、遺伝子溶液などを含む液体(水も含む)をノズルから吐出しても良い。
【符号の説明】
【0099】
1 プリンター、20 搬送ユニット、21 給紙ローラー、
22 搬送モーター(PFモーター)、23 搬送ローラー、
24 プラテン、25 排紙ローラー、30 キャリッジユニット、
31 キャリッジ、32 キャリッジモーター(CRモーター)、
40 ヘッドユニット、41 ヘッド、42 駆動ユニット、
423 固定板、424 フレキシブルケーブル、43 ケース、
431 収納空部、432 インク供給路、44 流路ユニット、
45 流路形成基板、451 圧力室、452 インク供給口、453 リザーバ、
46 ノズルプレート、47 弾性板、49 トランスミッションゲート、
50 検出器群、51 リニア式エンコーダー、52 ロータリー式エンコーダー、
53 紙検出センサー、54 光学センサー、60 コントローラー、
61 インターフェイス部、62 CPU、63 メモリー、
64 ユニット制御回路、65 駆動信号生成回路、
110 コンピューター、HC ヘッド制御部、PZT ピエゾ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから液体を吐出させるための動作を行う駆動素子と、
前記駆動素子の一端に印加される駆動信号を生成する駆動信号生成部と、
入力電極が前記駆動素子の他端と接続されたNチャンネル型トランジスタであって、液体の吐出区間毎にオン又はオフに制御されるNチャンネル型トランジスタと、
を有し、
前記駆動信号生成部は、或る吐出区間において、グランド電位で開始し、且つ、前記グランド電位よりも高い非吐出の中間電位V0、前記中間電位V0よりもさらに高い電位V1、前記中間電位V0よりも低い電位V2、前記電位V2よりも高い電位V3に順次変化する前記駆動信号を生成することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出装置であって、
前記駆動信号は、各吐出区間において、前記グランド電位で開始する、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体吐出装置であって、
前記Nチャンネル型トランジスタの出力電極の電圧は、前記駆動素子の前記一端の電圧に応じて変更される、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の液体吐出装置であって、
前記Nチャンネル型トランジスタの制御電極には、画素データに基づいた信号が印加される、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項5】
ノズルから液体を吐出させるための動作を行う駆動素子と、
前記駆動素子の一端に印加される駆動信号を生成する駆動信号生成部と、
出力電極が前記駆動素子の他端と接続されたPチャンネル型トランジスタであって、液体の吐出区間毎にオン又はオフに制御されるPチャンネル型トランジスタと、
を有し、
前記駆動信号生成部は、或る吐出区間において、電源電位で開始し、且つ、前記電源電位よりも低い非吐出の中間電位V0、前記中間電位V0よりもさらに低い電位V1、前記中間電位V0よりも高い電位V2、前記電位V2よりも低い電位V3に順次変化する前記駆動信号を生成することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項6】
ノズルから液体を吐出させるための動作を行う駆動素子を備えた液体吐出装置による液体吐出方法であって、
或る吐出区間において、グランド電位で開始し、且つ、前記グランド電位よりも高い非吐出の中間電位V0、前記中間電位V0よりもさらに高い電位V1、前記中間電位V0よりも低い電位V2、前記電位V2よりも高い電位V3に順次変化する駆動信号を生成することと、
前記駆動素子の一端に前記駆動信号を印加することと、
入力電極が前記駆動素子の他端と接続されたNチャンネル型トランジスタを液体の吐出区間毎にオン又はオフに制御することと、
を有することを特徴とする液体吐出方法。
【請求項7】
ノズルから液体を吐出させるための動作を行う駆動素子を備えた液体吐出装置による液体吐出方法であって、
或る吐出区間において、電源電位で開始し、且つ、前記電源電位よりも低い非吐出の中間電位V0、前記中間電位V0よりもさらに低い電位V1、前記中間電位V0よりも高い電位V2、前記電位V2よりも低い電位V3に順次変化する駆動信号を生成することと、
前記駆動素子の一端に前記駆動信号を印加することと、
出力電極が前記駆動素子の他端と接続されたPチャンネル型トランジスタを液体の吐出区間毎にオン又はオフに制御することと、
を有することを特徴とする液体吐出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−207114(P2011−207114A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78167(P2010−78167)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】