説明

液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置

【課題】インク温度を的確に検出してインク吐出を良好に行う。
【解決手段】一表面に開口し平行間隔をあけて形成された複数の吐出溝を有するアクチュエータ基板3およびアクチュエータ基板3に接合され吐出溝を閉塞するカバープレート基板5とによって構成される液体噴射ヘッドチップ1と、液体噴射ヘッドチップ1に接合され、カバープレート基板5によって吐出溝が閉塞されることにより形成される複数の吐出チャンネルにインクを供給する共通液体流路60を有するベースプレート50とを備え、共通液体流路60の少なくとも内面がアルミニウムによって構成されている液体噴射ヘッド10を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インク等の液体を吐出する複数の吐出ノズルを有する液体噴射ヘッドを用いて被記録媒体に文字や画像を記録する液体噴射記録装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。液体噴射記録装置においては、液体の温度が変化して液体の粘度が変化すると、液体の吐出量等が変動してしまうことがある。特許文献1に記載のインクジェット式記録装置は、インクジェットヘッドに温度センサを設け、この温度センサにより検出されたインクジェットヘッドの温度に基づいてインクジェットヘッドの駆動信号を適宜補正するようになっている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−182056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のインクジェットヘッド式記録装置のように、インクジェットヘッド自体の温度とその内部のインクの温度とが一様であるとみなして駆動制御を行うと、インクとインクジェットヘッドとの間に温度差が存在する場合にインク温度が的確に検出されず、インク吐出を良好に行うことができないという問題がある。また、高粘度インクを使用する場合に、インクジェットヘッドをヒータで加温してインク粘度を下げると、インク流量が大きくなるにつれてインクの温度と暖められたインクジェットヘッドの温度との相違が大きくなり、インク温度の的確な検出がさらに困難になるという問題がある。また、インクジェットヘッドに導入する前のインクを加温するとともにインクジェットヘッドを加温することとすると、複雑なヒータ構造および温度制御が必要になるという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、液体の温度を的確に検出することができる液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、一表面に開口し平行間隔をあけて形成された複数の液体吐出溝を有するアクチュエータ基板と該アクチュエータ基板に接合され前記液体吐出溝を閉塞するカバープレート基板とによって構成される液体噴射ヘッドチップと、該液体噴射ヘッドチップに接合され、前記カバープレート基板によって前記液体吐出溝が閉塞されることにより形成される複数の液体流路に液体を供給する共通液体流路を有するベースプレートとを備え、前記共通液体流路の少なくとも内面が金属材料によって構成されている液体噴射ヘッドを提供する。
【0007】
本発明によれば、ベースプレートの共通液体流路を介して液体噴射ヘッドチップの各液体流路に液体を充填し、液体吐出溝の両側壁をせん断変形させて液体流路内の容積を変化させることで、ポンプ効果によって液体流路内の液体を吐出させることができる。
【0008】
ベースプレートに接合された液体噴射ヘッドチップは、ベースプレートと熱的に結合することでベースプレートの温度に近い温度状態になる。また、共通液体流路の少なくとも内面を金属材料によって構成することで、共通液体流路を通過する液体にベースプレートの熱が高効率に伝達される。
【0009】
したがって、ベースプレートの温度に近い温度状態の液体を液体流路に供給することができ、液体流路内の液体と液体噴射ヘッドチップとの温度差を低減することができる。これにより、液体の温度を直接測定しなくても、液体噴射ヘッドチップの温度やベースプレートの温度を測定することで液体の温度をほぼ的確に検出することができる。これにより、良好な液体の吐出環境を整えることが可能になる。
【0010】
上記発明においては、前記ベースプレートが金属材料によって構成されていることとしてもよい。
このように構成することで、ベースプレートの表面に沿って液体を通過させるだけで、液体にベースプレートの熱を高効率に伝達することができる。したがって、ベースプレートに液体流路を直接形成するだけでよく、ベースプレートに別途金属材料からなる伝熱部材を設ける必要がない。これにより、ベースプレートを簡易な構成にして薄型化を図ることができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記共通液体流路の内面が金属材料によってコーティングされていることとしてもよい。
このように構成することで、ベースプレートの構成材料や熱伝達率にかかわらず、液体にベースプレートの熱を高効率に伝達することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記共通液体流路の内面がフィルムによって覆われていることとしてもよい。
このように構成することで、フィルムにより、液体が共通液体流路の内面に直接接触するのを防ぐことができる。これにより、金属と触れることによって液体の性質が変化(例えば、変色等)してしまうのを防ぐことができる。フィルムとしては、例えば、パラキシリレン系樹脂等が挙げられる。
【0013】
また、上記発明においては、前記液体噴射ヘッドチップおよび前記ベースプレートに近接して配置され、前記液体噴射ヘッドチップと前記ベースプレートとの間の熱伝達を行う熱伝達部を備えることとしてもよい。
【0014】
このように構成することで、熱伝達部により、液体噴射ヘッドチップとベースプレートとの熱的結合を高め、液体噴射ヘッドチップとベースプレートとを略均一な温度状態に保つことができる。例えば、駆動時に液体噴射ヘッドチップが熱源として作用した場合には、液体噴射ヘッドチップで発生した熱をベースプレートに効率的に伝達することができる。これにより、液体噴射ヘッドチップから吐出される液体の温度とベースプレートの液体流路を通過する液体の温度とが不均一な状態になるのを防止することができる。熱伝達部としては、例えば、アルミニウム等からなる金属部材を採用することができる。
【0015】
また、上記発明においては、前記共通液体流路内に伝熱性フィンが配置されていることとしてもよい。
このように構成することで、液体が伝熱性フィンと接触することで液体とベースプレートとの伝熱面積が増大し、液体の温度をベースプレートの温度により近づけることができる。伝熱性フィンとしては、例えば、金属部材を採用することができる。
【0016】
また、上記発明においては、前記ベースプレートが加熱部を備えることとしてもよい。
加熱部によりベースプレートを加熱することで、ベースプレートを介して液体噴射ヘッドチップを加熱することができる。また、ベースプレートからの伝熱によって液体を加温することができ、例えば、高粘度の液体であっても加温することで粘度を効率的に下げることができる。加熱部としては、例えば、ヒータ等が挙げられる。
【0017】
また、上記発明においては、前記ベースプレートが、前記共通液体流路の少なくとも一部を開放する開口部と、該開口部を閉塞する弾性部材とを備えることとしてもよい。
このように構成することで、弾性部材の弾性変形により、共通液体流路内の圧力変動を吸収することができる。すなわち、ベースプレートにダンパ機能をもたせることができる。弾性部材としては、例えば、可撓性のフィルム(ポリエチレン等)が挙げられる。
【0018】
本発明は、上記本発明の液体噴射ヘッドを備える液体噴射記録装置を提供する。
本発明によれば、液体噴射ヘッドに供給する液体の温度変化に応じて液体の吐出環境を整えることで、液体を良好に吐出することができる。例えば、液体としてインクを用いた場合には、被記録媒体に安定した印字を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、液体の温度を的確に検出することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る液体噴射ヘッド10および液体噴射記録装置100について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る液体噴射ヘッド10は、インク(液体)を吐出するものであり、図1および図2に示すように、液体噴射ヘッドチップ1と、液体噴射ヘッドチップ1が設置された略平板状のベースプレート50と、液体噴射ヘッドチップ1を駆動する駆動回路等を搭載した回路基板62と、液体噴射ヘッドチップ1を加温するヒータ(加熱部)64とを備えている。これらの各部材どうしは熱伝導性のよい接着剤や両面テープ等で結合されている。
【0021】
液体噴射ヘッドチップ1は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電素子からなるアクチュエータ基板3と、アクチュエータ基板3の一表面に接着されたカバープレート基板5と、アクチュエータ基板3およびカバープレート基板5の端面に接着されたノズルプレート7とを備えている。
【0022】
アクチュエータ基板3は、板厚方向に分極されている。また、図2に示すように、アクチュエータ基板3には、カバープレート基板5が設けられた一表面に開口部13aを有する複数の吐出溝(液体吐出溝)13が平行間隔をあけて設けられている。各吐出溝13は、それぞれ側壁15によって分離されている。
【0023】
各吐出溝13の長手方向の一端は、アクチュエータ基板3の一端面3aまで延びて途中位置において深さが徐々に浅くなっており、他端は深さが変わらずに他端面3bまで延びて閉塞されている。このような吐出溝13は、例えば、円板状のダイスカッタ(図示略)のブレード外径にならった形状になっている。
【0024】
また、これら吐出溝13には、配列方向の1つおきに、前記他端近傍に開口部13aとは反対側の表面に開口する液体導入口13bが形成されている。また、各吐出溝13の両側壁15には、吐出溝13の開口部13aから深さ方向の途中位置まで、アクチュエータ基板3の長手方向に延びる駆動電圧印加用の電極16が蒸着によって形成されている。
【0025】
カバープレート基板5は、アクチュエータ基板3の一表面、すなわち、吐出溝13の開口部13aが形成されている表面に接着されている。アクチュエータ基板3にカバープレート基板5が接着された状態では、吐出溝13の開口部13aがカバープレート基板5によって塞がれることにより、複数の独立した吐出チャンネル(液体流路)23Aおよびダミーチャンネル23Bが形成されている。
【0026】
吐出チャンネル23Aは、液体導入口13bが開口している吐出溝13によって形成されるインク流路であり、液体導入口13bからインクが供給されて充填されるようになっている。一方、ダミーチャンネル23Bは、液体導入口13bが開口していない吐出溝13によって形成される空洞部であり、インクが流入しないように密閉されている。これら吐出チャンネル23Aおよびダミーチャンネル23Bは、吐出溝13の配列方向に交互に形成されている。
【0027】
ノズルプレート7は、アクチュエータ基板3の吐出チャンネル23Aおよびダミーチャンネル23Bが開口している一端面3aに接着されている。また、ノズルプレート7は、吐出チャンネル23Aの開口に対向する位置にのみノズル孔27を有している。なお、ダミーチャンネル23Bの開口は、ノズルプレート7によって封止されている。
【0028】
このノズルプレート7は、例えば、ポリイミドフィルムにエキシマレーザ装置等を用いてノズル孔27が形成されたものである。なお、ノズルプレート7の被記録媒体に対向することとなる面には、撥水性を有する撥水膜(図示略)が形成されており、インクの付着等を防止するようになっている。
【0029】
ベースプレート50は、例えば、アルミニウム(金属材料)によって構成された略直方体形状の支持部材であり、インクを貯留する共通液体室52と、共通液体室52から突出する液体供給路54と、液体供給路54に連通してアクチュエータ基板3にインクを供給する液体供給口56aを有するヘッドチップ設置部56とによって構成されている。
【0030】
また、ベースプレート50の内部には、これら共通液体室52、液体供給路54および液体供給口56aを連通する共通液体流路60が形成されている。すなわち、共通液体流路60の内面は、ベースプレート50を構成するアルミニウムによって構成されたものである。
【0031】
また、共通液体流路60内には、流路の内面に沿って櫛歯状の複数のフィン(伝熱性フィン)66が配置されている。フィン66は、流路の内面に沿って突出するように形成されており、共通液体流路60と同様にアルミニウムによって構成されている。
【0032】
共通液体室52は、略直方体状に広がる空洞部を有し、インクカートリッジ107(図3参照)等からインクが供給されてインクを貯留するようになっている。ベースプレート50の共通液体室52上の表面には、前記回路基板62が設置されている。
【0033】
また、ベースプレート50の回路基板62が設置されている側とは反対側の表面には、共通液体流路60の少なくとも一部、すなわち、共通液体室52の一部が開放された流路開口部(開口部)52aと、流路開口部52aを閉塞する弾性フィルム(弾性部材)58とが設けられている。
【0034】
弾性フィルム58は、例えば、ポリエチレン等の可撓性のフィルムであり、弾性変形することにより、共通液体流路60内の圧力変動を吸収することができるようになっている。このように共通液体流路60の一部を開口して弾性フィルム58によって閉塞することで、ベースプレート50がダンパ機能を備えるようになっている。
【0035】
ヘッドチップ設置部56は、ベースプレート50の幅方向に延びる略直法体形状を有し、液体噴射ヘッドチップ1のアクチュエータ基板3が接合されている。また、ヘッドチップ設置部56の液体供給口56aは、アクチュエータ基板3のすべての液体導入口13bに連通する連通構造を有している。
【0036】
また、ヘッドチップ設置部56の液体供給口56a近傍には、平坦面を有する異物除去フィルタ29が接着で固定されている。異物除去フィルタ29は、例えば、孔径が約8ミクロンのメッシュ構造で、約0.1mmの厚さを有している。この異物除去フィルタ29により、共通液体流路60から吐出チャンネル23Aに供給されるインクに含まれる塵埃等を除去したり、大きな気泡が吐出チャンネル23Aに侵入したりしてしまうのを防ぐことができるようになっている。
【0037】
回路基板62は、ベースプレート50の共通液体室52上の表面に固定されている。この回路基板62には、ベースプレート50との接着面にベースプレート50の温度を計測する温度センサ68が配置されている。なお、温度センサ68は、ベースプレート50に固定されていることとしてもよい。
【0038】
ヒータ64は、ベースプレート50のヘッドチップ設置部56の液体噴射ヘッドチップ1とは反対側の表面に配置されている。このヒータ64は、ベースプレート50を加熱することで、ベースプレート50を介して液体噴射ヘッドチップ1を加熱するようになっている。
【0039】
このように構成された液体噴射ヘッド10は、例えば、図3に示すように、プリンタやファックス等に適用されるインクジェット式の記録装置である液体噴射記録装置100に搭載されて使用される。
【0040】
液体噴射記録装置100は、色ごとに設けられた複数の液体噴射ヘッド10と、液体噴射ヘッド10が主走査方向に複数併設して搭載されたキャリッジ103と、フレキシブルチューブからなるインク供給管105を介して液体噴射ヘッド10にインクを供給するインクカートリッジ107とを備えている。
【0041】
キャリッジ103は、一対のガイドレール109A,109Bの長軸方向に移動可能に搭載されている。また、ガイドレール109A,109Bの一端側には駆動モータ111が設けられている。駆動モータ111による駆動力が、この駆動モータ111に連結されたプーリ113Aとガイドレール109A,109Bの他端側に設けられたプーリ113Bとの間に掛け渡されたタイミングベルト115に伝わり、これによりタイミングベルト115の所定の位置に固定されたキャリッジ103が搬送されるようになっている。
【0042】
また、キャリッジ103の搬送方向に直交する方向で、鎖線で示すケース117の両端側には、ガイドレール109A,109Bに沿ってそれぞれ一対の搬送ローラ119が設けられている。これら搬送ローラ119は、キャリッジ103の下方であってキャリッジ103の搬送方向に直交する方向に被記録媒体Sを搬送するものである。
【0043】
このように構成された液体噴射記録装置100においては、搬送ローラ119によって被記録媒体Sを送りつつ、キャリッジ103を被記録媒体Sの送り方向に直交する方向に走査することにより、液体噴射ヘッド10によって被記録媒体S上に文字および画像等が記録されるようになっている。
【0044】
以下、液体噴射記録装置100に搭載された液体噴射ヘッド10の作用について具体的に説明する。
インクカートリッジ107から供給されるインクは、圧力調整室(図示略)において一時的に貯留された後、ベースプレート50の共通液体流路60内に導入される。共通液体流路60においては、インクが共通液体室52に貯留された後、液体供給路54を通ってヘッドチップ設置部56の液体供給口56aへと導かれる。そして、共通液体流路60からアクチュエータ基板3の液体導入口13に導入されて、吐出チャンネル23Aに分配供給される。
【0045】
この場合に、ベースプレート50のヘッドチップ設置部56に接合された液体噴射ヘッドチップ1は、ベースプレート50と熱的に結合することでベースプレート50の温度に近い温度状態になる。具体的には、ヒータ64の作動により、ベースプレート50が加熱され、ベースプレート50を介して液体噴射ヘッドチップ1が加熱される。
【0046】
また、共通液体流路60の内面がアルミニウムによって構成されているので、共通液体流路60の共通液体室52、液体供給路54および液体供給口56aを通過するインクにベースプレート50の熱が高効率に伝達される。また、インクが共通液体流路60を通過する際にフィン66に接触することで、インクとベースプレート50との伝熱面積が増大する。これにより、インクの温度をベースプレート50の温度により近づけることができ、ベースプレート50の温度に近い温度状態のインクを吐出チャンネル23Aに供給することができる。
【0047】
例えば、インクタンクから供給されたインクの温度が低い場合には、ベースプレート50を加熱して、共通液体流路60を通過するインクにベースプレート50の熱を伝達することで、吐出チャンネル23A内にベースプレート50の温度に近い温度状態のインクを貯留することができる。
このように、インクの温度とベースプレート50の温度と液体噴射ヘッドチップ1の温度とを略等しい状態にすることができる。
【0048】
また、ヘッドチップ設置部56の液体供給口56a近傍に配置された異物除去フィルタ29により、インクに含まれる塵埃や大きな気泡等が除去される。これにより、塵埃等や大きな気泡を含まないインクをアクチュエータ基板3の吐出チャンネル23Aに供給することができる。
【0049】
各吐出チャンネル23内にインクが供給されたら、図2に示す所定の吐出チャンネル23Aの両側壁15の電極16に電圧を印加する。これにより、圧電厚みすべり効果によって側壁15がせん断変形し、吐出チャンネル23A内の容積が変化する。そして、ポンプ効果によって吐出チャンネル23A内のインクが吐出される。
【0050】
例えば、吐出チャンネル23Aの両側壁15が吐出チャンネル23Aの外側に向かって変形するように、すなわち、ダミーチャンネル23Bの内側に向かって変形するように、分極方向に直交する一方向に電圧を印加する。これにより、吐出チャンネル23A内の容積が増加する分、吐出チャンネル23A内にインクが引き込まれる。
【0051】
続いて、電圧を逆方向に印加する。すなわち、吐出チャンネル23Aの両側壁15が吐出チャンネル23Aの内側に向かって変形するように、すなわち、ダミーチャンネル23Bの外側に向かって変形するように、分極方向に直交する他の一方向に電圧を印加する。これにより、吐出チャンネル23A内の容積が減少して圧力が増加し、ノズル孔27からインクが吐出される。
【0052】
この場合に、吐出されるインクの温度が設計上の基準温度より高いときは、インク粘度が通常より低くなる。そのため、標準の駆動電圧でインク滴を吐出させると、インク滴の量が設計値よりも多くなったりインク滴の飛び散り現象が発生してしまったりする。一方、吐出されるインクの温度が基準温度よりも低いときは、インク粘度が通常よりも高くなる。そのため、標準の駆動電圧でインク滴を吐出させるとインク滴の量が設計値よりも少なくなってしまったりインク滴が吐出されなくなってしまったりする。
【0053】
そこで、温度センサ68により計測されたベースプレート50の温度、すなわち、ベースプレート50の温度と略近似する液体噴射ヘッドチップ1の温度に基づいて、液体噴射ヘッドチップ1を駆動する駆動電圧を適宜補正する。
【0054】
本実施形態に係る液体噴射ヘッド10および液体噴射記録装置100によれば、ベースプレート50の温度と略等しい温度のインクが吐出チャンネル23Aに供給されるので、吐出チャンネル23A内のインクの温度と液体噴射ヘッドチップ1の温度とを略一致させることができる。これにより、インク温度を直接測定しなくても、ベースプレート50の温度に基づいてインクの温度を略的確に検出することができる。したがって、インクの温度変化に合わせて駆動電圧を適宜補正することができ、良好なインクの吐出環境を整えることが可能になる。
【0055】
また、ベースプレート50をアルミニウムによって構成することで、ベースプレート50の表面に沿ってインクを通過させるだけで、インクにベースプレート50の熱を高効率に伝達することができる。したがって、ベースプレート50に共通液体流路60を直接形成するだけでよく、ベースプレート50に別途金属材料からなる伝熱部材を設ける必要がない。したがって、ベースプレート50を簡易な構成にして薄型化を図ることができる。
【0056】
なお、本実施形態においては、ベースプレート50を構成する材料としてアルミニウムを例示して説明したが、金属材料であればよくアルミニウムに限定されるものではない。また、共通液体流路60の内面をアルミニウムによって構成することとしたが、例えば、共通液体流路60の内面をアルミニウム等の金属材料によってコーティングすることとしてもよい。このようにすることで、ベースプレート50の構成材料や熱伝達率にかかわらず、インクにベースプレート50の熱を高効率に伝達することができる。
【0057】
また、例えば、共通液体流路60の内面をパラキシリレン系樹脂等のフィルムによって覆うこととしてもよい。このようにすることで、フィルムにより、インクが共通液体流路60の内面に直接接触するのを防ぐことができる。これにより、金属と触れることによってインクの性質が変化(例えば、変色等)してしまうのを防ぐことができる。
【0058】
また、例えば、液体噴射ヘッドチップ1の周囲を覆いベースプレート50に固定される金属材料等からなるカバー(熱伝達部)を設けることとしてもよい。例えば、アルミニウム等からなるカバーを液体噴射ヘッドチップ1およびベースプレート50に近接して配置して液体噴射ヘッドチップ1とベースプレート50との間の熱伝達を行うことで、液体噴射ヘッドチップ1とベースプレート50との熱的結合を高め、液体噴射ヘッドチップ1とベースプレート50とを略均一な温度状態に保つことができる。例えば、駆動時に液体噴射ヘッドチップ1が熱源として作用した場合には、液体噴射ヘッドチップ1で発生した熱をベースプレート50に効率的に伝達することができる。これにより、液体噴射ヘッドチップ1から吐出されるインクの温度とベースプレートの共通液体流路60を通過するインクの温度とが不均一な状態になるのを防止することができる。
ここでは、特に放熱作用について説明したが、吸熱作用についても同様に、ベースプレート50と液体噴射ヘッドチップ1の熱的結合が高く、インク温度が不均一とならないことによって、高精細で高精度のインク滴を吐出することが可能となる。
【0059】
また、本実施形態においては、ベースプレート50の表面の一部が開放された流路開口部52aに弾性フィルム58を設けることとしたが、例えば、流路開口部52aの周囲に沿って外方に突出する壁部を形成し、この壁部に弾性フィルム58を設けることとしてもよい。
【0060】
また、本実施形態においては、吐出溝13の配列方向に交互に吐出チャンネル23Aおよびダミーチャンネル23Bが形成されていることとしたが、これに代えて、全ての吐出溝13に液体導入口13bを貫通させて吐出チャンネル23Aだけを形成することとしてもよい。この場合、ノズルプレート7は、すべての吐出チャンネル23Aに対向するピッチでノズル孔27を形成することとすればよい。
【0061】
また、上述した良好な熱的結合を持つことに加えて、本実施形態における温度センサ68が検知する温度は、インクの温度と、ベースプレート50の温度と、液体噴射ヘッドチップ1の温度と略等しいことが好ましい。従来技術では、上述した課題に記載したとおり、インクの温度を正確に検出することが難しかったが、本実施形態においては、インク、ベースプレート50および液体噴射ヘッドチップ1の熱的結合を良好にすることによって、ベースプレート50の温度を計測することで、限りなくインク温度に近い温度を検出することができる。また、この良好な熱的結合を利用し、より正確なインク温度を計測するためには、ベースプレート50が金属材料によって構成されている場合はベースプレート50に温度センサ68を付けて温度を検出することが好ましい。また、共通液体流路60の内面を金属コーティングする場合は、この金属コーティングが温度センサ68まで延びる構造、すなわち、金属コーティングに接触する位置に温度センサ68を配置することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施形態に係る液体噴射ヘッドの縦断面図である。
【図2】図1の液体噴射ヘッドチップを吐出溝が延びる方向に対して直交する方向に切断した断面図である。
【図3】図1の液体噴射ヘッドを搭載する液体噴射装置の概略斜視図である。
【符号の説明】
【0063】
1 液体噴射ヘッドチップ
3 アクチュエータ基板
5 カバープレート基板
10 液体噴射ヘッド
13 吐出溝(液体吐出溝)
50 ベースプレート
58 弾性フィルム(弾性部材)
60 共通液体流路
66 フィン
100 液体噴射記録装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一表面に開口し平行間隔をあけて形成された複数の液体吐出溝を有するアクチュエータ基板と該アクチュエータ基板に接合され前記液体吐出溝を閉塞するカバープレート基板とによって構成される液体噴射ヘッドチップと、
該液体噴射ヘッドチップに接合され、前記カバープレート基板によって前記液体吐出溝が閉塞されることにより形成される複数の液体流路に液体を供給する共通液体流路を有するベースプレートと
を備え、
前記共通液体流路の少なくとも内面が金属材料によって構成されている液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記ベースプレートが金属材料によって構成されている請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記共通液体流路の内面が金属材料によってコーティングされている請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記共通液体流路の内面がフィルムによって覆われている請求項1から請求項3のいずれかに記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記液体噴射ヘッドチップおよび前記ベースプレートに近接して配置され、前記液体噴射ヘッドチップと前記ベースプレートとの間の熱伝達を行う熱伝達部を備える請求項1から請求項4のいずれかに記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記共通液体流路内に伝熱性フィンが配置されている請求項1から請求項5のいずれかに記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記ベースプレートが加熱部を備える請求項1から請求項6のいずれかに記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記ベースプレートが、前記共通液体流路の少なくとも一部を開放する開口部と、該開口部を閉塞する弾性部材とを備える請求項1から請求項7のいずれかに記載の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載の液体噴射ヘッドを備える液体噴射記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−131943(P2010−131943A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312370(P2008−312370)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(501167725)エスアイアイ・プリンテック株式会社 (198)
【Fターム(参考)】