説明

液体噴射ヘッドの製造方法、液体噴射装置

【課題】液体の飛行曲がりが低減した液体噴射ヘッドの製造方法および画質の低下を抑えた液体噴射装置を得ること。
【解決手段】ノズル21が形成されたノズル面220に形成される蒸着膜205の厚さが60nm以上形成されるので、ノズル開口210からノズル21内に進入する撥液材料の量が増え、ノズル21の内壁深くまで均一に蒸着膜205を形成できる。粘着テープ貼付工程において、粘着層51がノズル21内に進入しても、撥液材料からなる蒸着膜205に付着し、粘着テープ剥離工程において、粘着層51も剥離され、ノズル21内へ残留する粘着層51を減少できる。したがって、残留する粘着層51による液体の飛行曲がりが低減したインクジェット式記録ヘッド1の製造方法を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドの製造方法、この製造方法で得られた液体噴射ヘッドを用いた液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ノズルのノズル開口から液体を液滴として噴射する液体噴射ヘッドは、例えば、プリンター等の画像記録装置および液晶表示装置のカラーフィルターの製造等に用いられる液体噴射装置等に搭載される。
このような液体噴射ヘッドとして、圧力発生室内の液体に圧力変動を生じさせ、ノズル開口から液滴を噴射させ、記録媒体等の被対象物に液滴を到達させるようにしたものがある。圧力変動は、液体を沸騰させて、それによって生じる気泡圧によるものや、圧力発生室に貼り付けられた圧電素子に電圧を印加して圧力発生室の容積を変化させるものや、静電気力を利用して圧力発生室の容積を変化させるものがある。
例えば、液体噴射ヘッドは、圧力発生室を含む流路形成基板、ノズルが形成されたノズルプレート等を積み重ねて製造される。ウェハー状態でそれぞれの基板およびプレートを複数形成し、各ウェハーを積み重ねて接着あるいは接合したのち、個々の液体噴射ヘッドとして切断することによって得られる。
【0003】
ノズルプレートのノズルが形成されたノズル面に液体が付着すると、ノズル開口から噴射される液滴の直進性が損なわれ、飛行曲がりが生じ、画像の画質の低下等が生じる。ノズル面に液体が付着するのを防ぐため、ノズル面に撥液性を有する撥液膜が形成される。
また、ウェハー状態から個々の液体噴射ヘッドを切断する際に、ノズルへの異物の進入を防ぐために、ノズル開口を塞ぐように粘着テープを貼り付けて切り離す方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−279248号公報(5頁および6頁、図4および図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液体噴射ヘッドの製造工程において、ノズル開口およびノズル内に粘着テープの粘着剤が残留すると、液体噴射ヘッドのノズル開口から噴射される液体の直進性が損なわれ、飛行曲がりを生じる。また、飛行曲がりの生じた液体噴射ヘッドを搭載した液体噴射装置では、画質が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
ノズルが形成されたノズルプレート用ウェハーを接合してウェハー積層体を形成するウェハー積層体形成工程と、前記ノズルのノズル開口が形成されたノズル面に、蒸着法によって撥液材料を蒸着し、60nm以上の厚さの蒸着膜を形成する蒸着工程と、前記ノズル開口を塞ぐように、前記蒸着膜上に粘着テープの粘着剤を密着して貼り付ける粘着テープ貼付工程と、前記ウェハー積層体を切断し、個々の液体噴射ヘッドを切り出す切断工程と、前記粘着テープを剥離する粘着テープ剥離工程とを含むことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【0008】
この適用例によれば、ノズルが形成されたノズル面に形成される蒸着膜の厚さが60nm以上形成されるので、ノズル開口からノズル内に進入する撥液材料の量が増え、ノズルの内壁深くまで均一に蒸着膜が形成される。粘着テープ貼付工程において、粘着剤がノズル内に進入しても、撥液材料からなる蒸着膜に付着し、粘着テープ剥離工程において、粘着剤も剥離され、ノズル内へ残留する粘着剤が減少する。したがって、残留する粘着剤による液体の飛行曲がりが低減した液体噴射ヘッドの製造方法が得られる。
【0009】
[適用例2]
上記液体噴射ヘッドの製造方法において、前記蒸着膜を、蒸着前到達真空度が5×10-4Pa以下で、撥液材料を250℃以上で加熱する蒸着条件の前記蒸着法によって形成することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
この適用例では、蒸着前到達真空度が5×10-4Pa以下なので撥液材料の平均自由行程が長くなり、250℃以上で加熱するので飛行速度も速くなりノズル内により進入しやすくなる。したがって、ノズル内の奥まで蒸着膜が形成され、液体の飛行曲がりが低減した液体噴射ヘッドの製造方法が得られる。
【0010】
[適用例3]
上記液体噴射ヘッドの製造方法において、前記撥液材料は紫外線硬化型の材料であり、前記蒸着工程の後に、前記蒸着膜に紫外線を照射する紫外線照射工程を行なうことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
この適用例では、蒸着膜に紫外線を照射することにより、蒸着膜を構成する紫外線硬化型の撥液材料が硬化する。粘着テープ剥離工程で、硬化した撥液材料は、ノズル面と結合した撥液材料を残して、粘着テープとともに剥離される。したがって、ノズル面およびノズル内に残留する未硬化の撥液材料が減少し、液体の飛行曲がりが低減した液体噴射ヘッドの製造方法が得られる。
【0011】
[適用例4]
上記液体噴射ヘッドの製造方法において、前記粘着剤は、紫外線硬化型であり、前記粘着テープ貼付工程後に、前記粘着テープの前記ノズル開口を塞いだ部分に、紫外線を照射することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
この適用例では、粘着テープのノズル開口を塞いだ部分に、紫外線を照射するので、ノズル開口部分の粘着剤が硬化する。硬化した粘着剤は流動性が減少し、紫外線照射後にノズル内に押し込まれる粘着剤が減少する。したがって、ノズル内に残留する粘着剤が減少し、液体の飛行曲がりが低減した液体噴射ヘッドの製造方法が得られる。
【0012】
[適用例5]
上記の液体噴射ヘッドの製造方法で得られた液体噴射ヘッドを備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【0013】
この適用例によれば、前述の効果を有する液体噴射装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの概略部分斜視図。
【図2】インクジェット式記録ヘッドの概略部分断面図。
【図3】インクジェット式記録ヘッドの製造方法の一部の製造工程を示すフロー図。
【図4】インクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す概略斜視図。
【図5】インクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す概略斜視図。
【図6】切断工程を表すウェハー積層体の平面図。
【図7】粘着テープを剥離するときの様子を示した図。
【図8】従来における粘着テープを剥離するときのノズル付近の様子を示した図。
【図9】実施形態における粘着テープを剥離するときのノズル付近の様子を示した図。
【図10】インクジェットプリンターの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
なお、図面では、説明を分かりやすくするために、一部を省略したり、各構成等を誇張したりして図示している。
図1は、液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッド1の概略部分斜視図であり、図2は、その概略部分断面図である。
図1は、インクジェット式記録ヘッド1をA面およびB面で切断した状態を示している。また、A面で切断した半分の状態を示しており、実際はA面を対称面として同じ構造のものを備えている。
【0016】
図1および図2において、インクジェット式記録ヘッド1は、いわゆる静電駆動方式のヘッドであり、キャビティ基板10と、このキャビティ基板10の両面にそれぞれ接合されるノズルプレート20および電極基板30とを備えている。
【0017】
キャビティ基板10は、例えば、面方位(100)または(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方面側に開口するキャビティである圧力発生室11がその幅方向に複数並設されている。図1においては図示されていないが、複数の圧力発生室11が並設された列が2列形成されている。
【0018】
また、キャビティ基板10には、各列の圧力発生室11に共通するインク室となる共通インク室12が形成されており、この共通インク室12は、後述するインク供給路を介して各圧力発生室11に連通されている。
また、共通インク室12の底壁には、共通インク室12にインクを供給するためのインク供給孔13が形成されている。
さらに、キャビティ基板10には、共通インク室12の外側に、後述する対向電極としての個別電極33に接続される個別端子部34を露出させるための貫通孔14が形成されている。
【0019】
なお、各圧力発生室11の底壁は、圧力発生室11内に圧力変化を生じさせるための振動板15として機能し、この振動板15を変位させる静電気力を発生させるための共通電極としての役割を兼ねている。
キャビティ基板10の貫通孔14近傍には、後述するノズルプレート20の露出孔内に露出されて図示しない駆動配線が接続される共通端子部16が形成されている。
【0020】
ノズルプレート20は、キャビティ基板10と同様に、面方位(100)または(110)のシリコン単結晶基板からなり、各圧力発生室11に連通する複数のノズル21が形成されている。
ノズルプレート20は、キャビティ基板10の開口面側に接合され、圧力発生室11および共通インク室12の一方の面を構成している。また、ノズルプレート20のキャビティ基板10とは反対側の面には、ノズル21に対応する領域に亘って厚さ方向の一部を除去したノズル段差部22が形成されている。
【0021】
各ノズル21は、インク滴が噴射される側に設けられてノズル段差部22内にノズル開口210を有する略円形の小径部21aと、小径部21aよりも大きい径を有し、小径部21aと圧力発生室11とを連通する大径部21bとからなる。
全てのノズル21は、このノズル段差部22内にノズル開口210を有しており、ノズル段差部22内のノズルプレート20の表面がノズル面220である。
なお、ノズル21は、詳しくは後述するが、プラズマエッチング装置を用いてシリコン単結晶基板からなるノズルプレート20をドライエッチングすることによって形成されている。
【0022】
ノズルプレート20のキャビティ基板10との接合面には、圧力発生室11と共通インク室12との境界に対応する領域に、これら各圧力発生室11と共通インク室12とを連通するインク供給路23が形成されている。
また、ノズルプレート20には、共通インク室12の外側に対応する位置に、キャビティ基板10の貫通孔14に連通し、個別端子部34と共に共通端子部16を露出させる露出孔24が形成されている。
【0023】
ノズルプレート20の表面のノズル段差部22内には、例えば、フッ素含有シランカップリング化合物等からなる撥インク膜25が形成されている。これにより、ノズルプレート20のノズル面220へのインク滴の付着を抑えている。撥インク膜25の厚さは、5nmあれば十分である。
【0024】
電極基板30は、シリコン単結晶基板に近い熱膨張率を有する、例えば、ホウ珪酸ガラス等のガラス基板からなり、キャビティ基板10の振動板15側の面に接合されている。この電極基板30の振動板15に対向する領域には、各圧力発生室11に対応して電極基板凹部31が形成されている。また、電極基板30には、キャビティ基板10のインク供給孔13に対応する位置に、このインク供給孔13に連通するインク導入孔32が形成されている。そして、図示しないインクタンクからこのインク導入孔32およびインク供給孔13を介して共通インク室12にインクが充填されるようになっている。
【0025】
また、各電極基板凹部31には、振動板15を変位させる静電気力を発生させるための個別電極33が、振動板15との間に所定の間隔を確保した状態でそれぞれ配置されている。
さらに、電極基板凹部31内には、キャビティ基板10の貫通孔14に対向する領域に、図示しない駆動配線が接続される個別端子部34が形成されており、この個別端子部34と各個別電極33とはリード電極35によって接続されている。
なお、図示しないが、これら各個別電極33及びリード電極35は絶縁膜によって封止され、また個別端子部34と共通端子部16との間には、接続配線を介して駆動電圧パルスを印加するための発振回路が接続されている。
【0026】
インクジェット式記録ヘッド1では、発振回路によって個別電極33と振動板15(キャビティ基板10)との間に駆動電圧を印加すると、これら個別電極33と振動板15との隙間に発生する静電気力によって振動板15が個別電極33側に撓み変形して、圧力発生室11の容積が拡大し、駆動電圧の印加を解除すると、振動板15が元の状態に復帰し、圧力発生室11の容積が収縮する。このとき発生する圧力発生室11内の圧力変化によって、圧力発生室11内のインクの一部が、ノズル21からインク滴として噴射される。
【0027】
以下に、インクジェット式記録ヘッド1の製造方法について具体的に説明する。
インクジェット式記録ヘッド1は、複数のキャビティ基板10、ノズルプレート20および電極基板30をウェハー状態で形成し、各ウェハーを貼り合せた後に個々のインクジェット式記録ヘッド1を切り離すことによって得られる。
【0028】
図3は、インクジェット式記録ヘッド1の製造方法の一部の製造工程を示すフロー図である。
図3において、インクジェット式記録ヘッド1の製造方法は、ウェハー積層体形成工程としてのステップ1(S1)と、蒸着工程としてのステップ2(S2)と、紫外線照射工程としてのステップ3(S3)と、粘着テープ貼付工程としてのステップ4(S4)と、切断工程としてのステップ5(S5)と、粘着テープ剥離工程としてのステップ6(S6)とを含む。
【0029】
図4および図5には、インクジェット式記録ヘッド1の製造方法を示す概略斜視図を示した。
図4(a)はウェハー積層体形成工程(S1)を、図4(b)は蒸着工程(S2)を、図4(c)は紫外線照射工程(S3)を、図5(d)は粘着テープ貼付工程(S4)を、図5(e)は切断工程(S5)を、図5(f)は粘着テープ剥離工程(S6)を示している。
【0030】
図4(a)において、ウェハー積層体形成工程(S1)では、まず、上述したノズル21を有するノズルプレート20が複数一体的に形成されたノズルプレート用ウェハー200と、上述した圧力発生室11等を有するキャビティ基板10が複数一体的に形成されたキャビティ基板用ウェハー100と、上述した個別電極33等が設けられた電極基板30が複数一体的に形成された電極基板用ウェハー300とをそれぞれ用意する。その後、キャビティ基板用ウェハー100の両面に、ノズルプレート用ウェハー200と電極基板用ウェハー300とをそれぞれ接合してウェハー積層体400を形成する。
【0031】
次に、図4(b)において、蒸着工程(S2)では、ノズルプレート用ウェハー200のノズル面であるノズル段差部22内に、蒸着法によって紫外線硬化型の撥液材料を蒸着し、蒸着膜205を形成する。なお、蒸着膜205および撥インク膜25とは、撥水性と撥油性を同時に備えた膜のことを指す。
例えば、撥液材料として、フッ素含有シランカップリング化合物を真空蒸着することによって蒸着膜205を60nm以上の厚さで形成する。蒸着条件は、ノズル21の径が20μmの場合、蒸着前到達真空度が5×10-4Pa以下で、フッ素含有シランカップリング化合物の含まれたセラミック製のペレット(バラックコート:東京製品開発研究所製)の加熱温度が250℃以上の条件で行なう。
【0032】
次に、図4(c)において、紫外線照射工程(S3)では、この蒸着膜205に紫外線を照射する。これにより、蒸着膜205を硬化させ、蒸着膜205の緻密な膜の厚さを増加させている。
ノズルプレート用ウェハー200上に蒸着法によって形成した蒸着膜205の下層部は、ノズルプレート用ウェハー200のノズル面220と共有結合して「緻密な膜」となっているが、それ以外の部分は分子間結合力による結合力で保持された「疎な膜」となっている。そして、このような蒸着膜205に紫外線を照射すると、蒸着膜205内における結合力が高まり「緻密な膜」の厚さが実質的に増加する。
【0033】
次に、図5(d)において、粘着テープ貼付工程(S4)では、ノズル段差部22の幅となるように、粘着剤からなる粘着層51を有する粘着テープ50を切り出して用意し、この粘着テープ50をノズル段差部22内の蒸着膜205上に貼り付ける。そして、この粘着テープ50を蒸着膜205と完全に密着させる。なお、この粘着テープ50は、特に限定されず、例えば、紫外線硬化型の粘着剤からなる粘着層51を有するダイシングテープ、すなわち、一般的に使用されている紫外線剥離型のダイシングテープ等を用いればよい。
【0034】
ここで、粘着テープ貼付工程(S4)の後に、粘着テープ50のノズル開口210を塞いだ部分に、紫外線を照射するとよい。
【0035】
次に、図5(e)において、切断工程(S5)では、電極基板用ウェハー300の大きさとなるように切り出した粘着層71を有する保護テープ70を用意し、この保護テープ70をウェハー積層体400の電極基板用ウェハー300の表面に貼り付ける。
なお、ここで使用する保護テープ70としては、粘着テープ50と同様に、一般的に使用されている紫外線剥離型のダイシングテープを用いることができる。
【0036】
図6に、切断工程(S5)を表すウェハー積層体400の平面図を示した。
図6において、粘着テープ50および保護テープ70を貼り付けた状態でウェハー積層体400を一点鎖線で示す切断ラインに沿って切断し、個々のインクジェット式記録ヘッド1を切り出す。
なお、切り出されたインクジェット式記録ヘッド1は、ノズル段差部22に粘着テープ501が貼り付けられると共に、電極基板30の表面には保護テープ701が貼り付けられた状態である。
【0037】
次に、図5(f)において、粘着テープ剥離工程(S6)では、各インクジェット式記録ヘッド1の電極基板30の表面に貼り付けられている保護テープ701に、紫外線を照射して粘着層711を硬化させ、粘着力を低下させる。そして、ノズルプレート20から粘着テープ501を、電極基板30から保護テープ701を剥離する。
【0038】
図7は、粘着テープ501を剥離するときの様子を示した図である。
図7において、粘着テープ501と共に蒸着膜205の一部が粘着テープ501の粘着層511に付着して剥離される。これにより、所定厚さ、例えば、5nm以下の撥インク膜25が形成される。すなわち、粘着テープ501をノズルプレート20から剥離すると、このノズルプレート20に形成されていた蒸着膜205は、ノズルプレート20の表面に密着性の高い緻密な膜を残しながら、疎な膜が分離されて粘着テープ501と共に剥離される。その結果、ノズルプレート20の表面には、緻密な膜のみからなる極めて良好な撥インク膜25が形成される。
【0039】
図8は、蒸着膜205を厚さ30nm形成した従来における粘着テープを剥離するときのノズル付近の様子を示した図である。一方、図9は、蒸着膜205を厚さ60nm以上形成した実施形態における粘着テープを剥離するときのノズル付近の様子を示した図である。
図8(a)および図9(a)は、蒸着膜205を形成する前の状態を、図8(b)および図9(b)は、蒸着膜205を形成した状態を、図8(c)および図9(c)は、紫外線照射後、粘着テープ50を蒸着膜205に貼り付けた後の状態を、図8(d)および図9(d)は、粘着テープ50を剥離した後の状態を示している。
【0040】
図8(b)において、蒸着膜205を厚さ30nm形成した場合、ノズル21の内壁211には、蒸着膜205が均一に形成されず、蒸着膜205が薄いあるいは形成されない部分が存在する。また、蒸着膜205がノズル21の内壁211の深い場所まで形成されない。
一方、図9(b)において、蒸着膜205を厚さ60nm以上形成した場合、ノズル21の内壁211には、蒸着膜205が均一に形成され、ノズル21の内壁211の深い場所まで形成されている。
【0041】
図8(c)において、蒸着膜205を厚さ30nm形成した場合、ノズル21の内壁211では、蒸着膜205が薄いあるいは形成されない部分に、ノズル21内に押し込まれた粘着層51が蒸着膜205を介さずに、内壁211に付着する部分が存在する。
一方、図9(c)において、蒸着膜205を厚さ60nm以上形成した場合、ノズル21内に押し込まれた粘着層51は、ノズル21の内壁211には直接付着せず、蒸着膜205に付着する。
【0042】
図8(d)において、蒸着膜205を厚さ30nm形成した場合、粘着テープ50を剥離した後も、蒸着膜205が薄いあるいは形成されない部分に付着した粘着層51がノズル21の内壁211に残留する。
一方、図9(d)において、蒸着膜205を厚さ60nm以上形成した場合、ノズル21の内壁211には、紫外線照射後の蒸着膜205が粘着層51とともに剥離され、ほぼ均一な撥インク膜25として残る。
【0043】
図10は、液滴噴射装置としてのインクジェットプリンター1000の斜視図である。インクジェットプリンター1000は、インクジェット式記録ヘッド1を搭載したもので、液滴としてインクを吐出する。
【0044】
以上に述べた実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)ノズル21が形成されたノズル面220に形成される蒸着膜205の厚さが60nm以上形成されるので、ノズル開口210からノズル21内に進入する撥液材料の量が増え、ノズル21の内壁深くまで均一に蒸着膜205を形成できる。粘着テープ貼付工程において、粘着層51がノズル21内に進入しても、撥液材料からなる蒸着膜205に付着し、粘着テープ剥離工程において、粘着層51も剥離され、ノズル21内へ残留する粘着層51を減少できる。したがって、残留する粘着層51による液体の飛行曲がりが低減したインクジェット式記録ヘッド1の製造方法を得ることができる。
【0045】
(2)蒸着前到達真空度が5×10-4Pa以下なので撥液材料の平均自由行程が長くなり、250℃以上で加熱するので飛行速度も速くなりノズル内により進入しやすくできる。したがって、ノズル21内の奥まで蒸着膜205が形成され、液体の飛行曲がりが低減したインクジェット式記録ヘッド1の製造方法を得ることができる。
【0046】
(3)蒸着膜205を構成する紫外線硬化型の撥液材料が硬化する。粘着テープ剥離工程で、硬化した撥液材料は、ノズル面220と結合した撥液材料を残して、粘着テープ50とともに剥離できる。したがって、ノズル面220およびノズル21内に残留する未硬化の撥液材料を減少でき、液体の飛行曲がりが低減したインクジェット式記録ヘッド1の製造方法を得ることができる。
【0047】
(4)粘着テープ50のノズル開口210を塞いだ部分に、紫外線を照射するので、ノズル開口210部分の粘着層51が硬化する。硬化した粘着層51は流動性が減少し、紫外線照射後にノズル21内に押し込まれる粘着層51を減少できる。したがって、ノズル21内に残留する粘着層51を減少でき、液体の飛行曲がりが低減したインクジェット式記録ヘッド1の製造方法を得ることができる。
【0048】
(5)前述の効果を有するインクジェットプリンター1000を得ることができる。
【0049】
以上、実施形態について説明したが、このような実施形態に限定されるものではない。
例えば、実施形態では、静電駆動方式のインクジェット式記録ヘッド1を一例として説明したが、これに限定されず、例えば、圧電素子の変位によってインク滴を吐出させる方式、あるいは、発熱素子等によってインクを加熱することでインク滴を吐出させる方式等、あらゆる方式のインクジェット式記録ヘッドに採用することができる。また、インク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドだけでなく、他のあらゆる液滴を吐出する液体噴射ヘッドにも採用することができる。
【0050】
他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0051】
1…液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド、21…ノズル、50,501…粘着テープ、51,511…粘着層、200…ノズルプレート用ウェハー、205…蒸着膜、210…ノズル開口、220…ノズル面、400…ウェハー積層体、1000…液体噴射装置としてのインクジェットプリンター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルが形成されたノズルプレート用ウェハーを接合してウェハー積層体を形成するウェハー積層体形成工程と、
前記ノズルのノズル開口が形成されたノズル面に、蒸着法によって撥液材料を蒸着し、60nm以上の厚さの蒸着膜を形成する蒸着工程と、
前記ノズル開口を塞ぐように、前記蒸着膜上に粘着テープの粘着剤を密着して貼り付ける粘着テープ貼付工程と、
前記ウェハー積層体を切断し、個々の液体噴射ヘッドを切り出す切断工程と、
前記粘着テープを剥離する粘着テープ剥離工程とを含む
ことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記蒸着膜を、蒸着前到達真空度が5×10-4Pa以下で、撥液材料を250℃以上で加熱する蒸着条件の前記蒸着法によって形成する
ことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記撥液材料は紫外線硬化型の材料であり、前記蒸着工程の後に、前記蒸着膜に紫外線を照射する紫外線照射工程を行なう
ことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記粘着剤は、紫外線硬化型であり、
前記粘着テープ貼付工程後に、前記粘着テープの前記ノズル開口を塞いだ部分に、紫外線を照射する
ことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法で得られた液体噴射ヘッドを備えた
ことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−93136(P2011−93136A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247417(P2009−247417)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】