説明

液体噴射ヘッド及び液体噴射装置

【課題】流路形成基板と封止基板とを貫通し、流路形成基板と封止基板との断面が共通の液体室に露出した接合部において、弾性膜にクラックが発生するという課題がある。
【解決手段】シリコン材料からなる隔壁11により形成された流路形成基板10と、流路形成基板10の一方の面に形成されてシリコン酸化物を含む弾性膜50と、圧電素子と接続するリード電極を構成する、金属層92及び下地層91と同一の材料を含み、弾性膜50の一方の面に形成された積層体層と、流路形成基板10の一方の面に接着層35を介して接合された封止基板30と、を備え、流路形成基板10と封止基板30とを貫通して液体流路に連通する共通の液体室と、弾性膜50が接着層35に覆われる第1の断面部R1とが形成され、第1の断面部R1は、隔壁11の共通の液体室側の端部t2よりも圧電素子側に形成されている液体噴射ヘッドを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの代表例としては、例えば、圧電素子の変位による圧力発生室内の圧力変化を利用して、ノズル列を構成する複数のノズル開口から、例えばインクなどの液滴を噴射する液体噴射ヘッドが知られている。具体的には、一つのノズル開口に対応して連通する圧力発生室ごとに圧電素子を設け、圧電素子に電圧を選択的に印加して圧電素子を収縮または膨張させることで圧力発生室内を加圧して、ノズル開口から液滴を噴射する。
複数の圧力発生室及びそれぞれの圧力発生室に連通する複数の液体流路は、隔壁が形成された流路形成基板の一方の面と圧電素子を封止するための封止基板とを接合し、流路形成基板の他方の面とノズル開口が形成されたノズルプレートとを接合することによって形成される。
複数の液体流路に連通する共通の液体室が、封止基板と流路形成基板とを貫通する貫通孔を含んで設けられる。液体噴射ヘッドの外部から共通の液体室に供給された液体は、共通の液体室から液体流路、圧力発生室を介してノズル開口から噴射される。
流路形成基板と封止基板とを貫通する貫通孔は、共通の液体室の一部となる。従って、流路形成基板と封止基板との接合部を貫通することによって、流路形成基板と封止基板との断面が、共通の液体室に露出する。共通の液体室に露出した流路形成基板に形成された弾性膜にクラックが生じる場合がある。
例えば、特許文献1では、弾性膜に熱応力が集中しないようにして、弾性膜にクラックが生じることを抑制する方法が提案されている。一方、特許文献1に記載された貫通孔における流路形成基板と封止基板との接合部には、金属層が形成されている。金属層は、流路形成基板と封止基板とを接合するための接着剤との接合性が低い。また、共通の液体室を流れる液体によって、金属層が劣化する場合がある。
そこで、貫通孔における流路形成基板と封止基板との接合部には金属層を形成しないようにする方法が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−226756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、流路形成基板を貫通する貫通孔を、エッチングによって形成するとき、弾性膜にクラックが発生してしまう場合がある。また、エッチングによるクラックの発生がなかった弾性膜を有する液体噴射ヘッドを用いてノズル開口から液体を噴射しているとき、共通の液体室を流れる液体の圧力によって、弾性膜にクラックが生じる場合がある。このように、流路形成基板と封止基板との接合部を貫通し、流路形成基板と封止基板との断面が共通の液体室に露出した接合部において、弾性膜にクラックが発生するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]液滴を噴射するノズル開口と連通する圧力発生室、前記圧力発生室と連通する液体流路が、シリコン材料からなる隔壁により形成された流路形成基板と、前記流路形成基板の一方の面に形成されてシリコン酸化物を含む弾性膜と、圧電素子と接続するリード電極を構成する層と同一の材料を含み、前記弾性膜の一方の面に形成された積層体層と、前記流路形成基板の一方の面に接着層を介して接合された封止基板と、を備え、前記流路形成基板と前記封止基板とを貫通して前記液体流路に連通する共通の液体室と、前記弾性膜が前記接着層に覆われる第1の断面部とが形成され、前記第1の断面部は、前記隔壁の前記共通の液体室側の端部よりも前記圧電素子側に形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【0007】
この構成によれば、流路形成基板と封止基板とを貫通して液体流路に連通する共通の液体室と、弾性膜が接着層に覆われる第1の断面部とが形成され、第1の断面部は、隔壁の共通の液体室側の端部よりも圧電素子側に形成されている。これにより、隔壁を弾性膜との境界までエッチングしない。そのため、エッチング時に弾性膜にかかる応力が緩和されるので弾性膜にクラックが発生してしまうことを抑制することができる。また、弾性膜が隔壁に接しているため、弾性膜が隔壁によって支持される。そのため、この構成による液体噴射ヘッドのノズル開口から液体を噴射しているとき、共通の液体室から液体流路に向かって流れる液体の圧力が弾性膜にかかっても、弾性膜にクラックが発生してしまうことを抑制することができる。
【0008】
[適用例2]前記積層体層が前記接着層に覆われる第2の断面部を有し、前記第2の断面部は、前記隔壁の前記共通の液体室側の端部よりも前記圧電素子側に形成されていることを特徴とする上記液体噴射ヘッド。
【0009】
この構成によれば、第2の断面部が共通の液体室側に露出することを抑制できる。そのため、この構成による液体噴射ヘッドのノズル開口から液体を噴射しているとき、共通の液体室から液体流路に向かって流れる液体の圧力が、第2の断面部を介して伝わることが抑制されるので、弾性膜にクラックが生じることを抑制できる。
【0010】
[適用例3]前記第2の断面部は、前記第1の断面部よりも前記圧電素子側に形成されていることを特徴とする上記液体噴射ヘッド。
【0011】
この構成によれば、弾性膜と接着層との接合面積を広くすることができるので、接着層によって弾性膜を固定することができる。そのため、弾性膜にクラックが生じることを抑制できる。
【0012】
[適用例4]上記液体噴射ヘッドを備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【0013】
この構成によれば、流路形成基板と封止基板とを貫通して液体流路に連通する共通の液体室と、弾性膜が接着層に覆われる第1の断面部とが形成され、第1の断面部は、隔壁の共通の液体室側の端部よりも圧電素子側に形成されている。これにより、隔壁を弾性膜との境界までエッチングしない。そのため、エッチング時に弾性膜にかかる応力が緩和されるので弾性膜にクラックが発生してしまうことを抑制することができる。また、弾性膜が隔壁に接しているため、弾性膜が隔壁によって支持される。そのため、この構成による液体噴射ヘッドのノズル開口から液体を噴射しているとき、共通の液体室から液体流路に向かって流れる液体の圧力が弾性膜にかかっても、弾性膜にクラックが発生してしまうことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】インクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図。
【図2】(a)は、インクジェット式記録ヘッドの平面図であり、(b)は、インクジェット式記録ヘッドの断面図。
【図3】流路形成基板用ウェハの圧力発生室の長手方向の断面図。
【図4】流路形成基板用ウェハの圧力発生室の長手方向の断面図。
【図5】流路形成基板用ウェハの圧力発生室の長手方向の断面図。
【図6】流路形成基板用ウェハの圧力発生室の長手方向の断面図。
【図7】流路形成基板用ウェハの圧力発生室の長手方向の断面図。
【図8】(a)は、接合部を拡大した断面図、(b)は、比較例における接合部を拡大した断面図。
【図9】インクジェット式記録装置の一例を示す外観斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドHの概略構成を示す分解斜視図である。図2(a)は、インクジェット式記録ヘッドHの平面図であり、(b)は、(a)の平面図におけるA−A´断面の断面図である。
【0016】
図示するように、本実施形態では、流路形成基板10はシリコン単結晶基板からなり、流路形成基板10の一方の面には予め熱酸化によって二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
【0017】
流路形成基板10には、複数の隔壁11によって区画される、圧力発生室12、液体供給路14、連通路15が、圧力発生室12の長手方向に形成されている。圧力発生室12の一端部側は液体供給路14と連通し、液体供給路14の一端部側は連通路15と連通する。複数の圧力発生室12、複数の液体供給路14、複数の連通路15は、それぞれ圧力発生室12の短手方向に並設される。
【0018】
連通路15の液体供給路14と反対側には、各連通路15とそれぞれ連通する連通部13が設けられている。流路形成基板10の弾性膜50側の面には、接合基板である封止基板30が接合されており、連通部13は、封止基板30に設けられた貫通孔であるマニホールド部31と連通して共通の液体室100の一部を構成する。このように、本実施形態における流路形成基板10には、圧力発生室12、液体流路としての液体供給路14と連通路15、連通部13が設けられている。
【0019】
流路形成基板10の封止基板30と反対側には、各圧力発生室12に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。このノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又はステンレス鋼などからなる。
【0020】
流路形成基板10の封止基板30側に形成された弾性膜50上には絶縁体膜55が形成されている。絶縁体膜55上には下電極膜60と、圧電体層70と、上電極膜80とで構成される圧電素子300が形成されている。弾性膜50、絶縁体膜55及び下電極膜60からなる振動板が構成され、圧電素子300の駆動により振動板が変形する。
【0021】
各圧電素子300の上電極膜80からはリード電極90が引き出され、リード電極90を介して各圧電素子300に選択的に電圧が印加されるようになっている。リード電極90は、例えば、ニッケルクロム(NiCr)からなる下地層91と、下地層91上に形成され、例えば、金(Au)等からなる金属層92とで構成されている。
【0022】
下地層91は、金属層92と絶縁体膜55等とを密着させる下地層としての役割と、上電極膜80と金属層92とを形成する金属同士が化学的に反応するのを防止するバリア層としての役割がある。
【0023】
金属層92の主材料としては、例えば、金(Au)、白金(Pt)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)が挙げられる。下地層91の材料としては、金属層92との密着性があり、接着層35との接着性がある材料であればよく、具体的には、チタン(Ti)、チタンタングステン化合物(TiW)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)又はニッケルクロム化合物(NiCr)等が挙げられる。
【0024】
流路形成基板10の連通部13の封止基板30側の開口周縁部には、リード電極90を構成する下地層91及び金属層92と同一部材からなるリード電極90とは不連続の不連続金属層190が設けられている。
【0025】
圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、連通部13に対向する領域にマニホールド部31が設けられた封止基板30が、例えば、エポキシ系の接着剤等からなる接着層35によって接合されている。
【0026】
不連続金属層190が、流路形成基板10の開口周縁部に設けられていることにより、流路形成基板10の開口周縁部の接着領域の接着層の厚みと、リード電極90側の接着領域の接着層の厚みを略同一にすることができるので、余分な接着剤の流出による不具合等を防止することができる。
【0027】
図2(b)の共通の液体室100は、封止基板30に形成されたマニホールド部31、流路形成基板10に形成された連通部13、封止基板30と流路形成基板10との接合部を貫通する貫通孔とから構成される。従って、封止基板30と流路形成基板10との接合部における断面が、共通の液体室100に露出している。
【0028】
図8(a)は、図1の隔壁11を通る図2(a)のB−B´断面において、封止基板30と流路形成基板10との接合部におけるC部を拡大した断面図である。封止基板30の端部t1、流路形成基板10の隔壁11の端部t2は、共通の液体室100に露出する。
【0029】
隔壁11の封止基板30側の面には、弾性膜50によって形成された第1の断面部R1が構成される。第1の断面部R1は、接着層35に覆われる。第1の断面部R1は、隔壁11の共通の液体室100側の端部t2よりも図2(b)の圧電素子300側に形成されている。
【0030】
第1の断面部R1の封止基板30側の面には、絶縁体膜55、下地層91、金属層92を含んで形成された積層体層の第2の断面部R2が構成される。第2の断面部R2は、接着層35によって覆われる。
【0031】
第2の断面部R2は、隔壁11の共通の液体室100側の端部t2よりも圧電素子300側に形成されている。さらに本実施形態では、第2の断面部R2は、第1の断面部R1の共通の液体室100側の端部t3よりも圧電素子300側に形成されている。
【0032】
このように、第1の断面部R1、第2の断面部R2は、接着層35によって覆われて、封止基板30と流路形成基板10の接合面は、接着層35によって封止されている。このため、圧電素子300が駆動した際に、マニホールド部31及び連通部13に液体としてのインクが充填されても、不連続金属層190の下地層91及び金属層92、絶縁体膜55、弾性膜50がインクに接触することがなく、下地層91、金属層92、絶縁体膜55、弾性膜50が剥離する虞がない。
【0033】
マニホールド部31は、上述したように、連通部13と連通されて共通の液体室100の一部を構成している。なお、連通部13を図1に示すように一体的に形成するのではなく、各圧力発生室12にそれぞれ対応する複数の連通部として構成しても良い。この場合は、共通の液体室100は、封止基板30に形成されたマニホールド部31のみで構成されることになる。
【0034】
封止基板30には、圧電素子300に対向する領域に、圧電素子300の収縮と伸長を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。なお、圧電素子保持部32は、圧電素子300の収縮と伸長を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。封止基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましい。
【0035】
封止基板30上には、圧電素子300を駆動するための駆動回路120が実装されている。駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とはボンディングワイヤ等の導電性ワイヤからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
【0036】
封止基板30のマニホールド部31に対応する領域には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、封止膜41によってマニホールド部31の一方面が封止されている。固定板42は、金属等の硬質の材料で形成される。固定板42の共通の液体室100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、共通の液体室100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0037】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドHでは、図示しない外部液体供給手段からインクを取り込み、共通の液体室100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0038】
以下、インクジェット式記録ヘッドHの製造方法について、図3〜図7を参照して説明する。なお、図3〜図7は、流路形成基板用ウェハの圧力発生室の長手方向の断面図である。
【0039】
まず、図3(a)に示すように、シリコンウェハである流路形成基板用ウェハ110を約1100℃の拡散炉で熱酸化し、その表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン膜51を形成する。次に、図3(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。具体的には、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、例えば、スパッタ法等によりジルコニウム(Zr)層を形成した後、このジルコニウム層を、例えば、500〜1200℃の拡散炉で熱酸化することにより酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる絶縁体膜55を形成する。
【0040】
次いで、図3(c)に示すように、例えば、白金とイリジウムとを絶縁体膜55上に積層することにより下電極膜60を形成した後、この下電極膜60を所定形状にパターニングする。
【0041】
そして、図4(a)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、例えば、イリジウムからなる上電極膜80とを流路形成基板用ウェハ110の全面に形成し、図4(b)に示すように、これら圧電体層70及び上電極膜80を、各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成する。なお、圧電体層70の形成方法は、特に限定されないが、例えば、本実施形態では、金属有機物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成する。
【0042】
次に、図4(c)に示すように、イオンミリングすることによりパターニングして、絶縁体膜55に開口56を形成すると共に、弾性膜50に開口52を形成する。このとき、絶縁体膜55及び弾性膜50のイオンミリングする際には、図示しないが、開口56及び開口52以外の領域がイオンミリングによりエッチングされないように、レジスト等のマスクで保護しておく。
【0043】
図4(c)に示すように、絶縁体膜55の開口56が弾性膜50の開口52よりも大きくなるように形成する。このようにすることにより、図8(a)の絶縁体膜55の端部t4を、弾性膜50の端部t3より圧電素子300側に形成することができる。
【0044】
図5(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の全面に亘って、ニッケルクロム(NiCr)からなる下地層91を形成し、この下地層91上に、例えば、金(Au)からなる金属層92を形成する。
【0045】
次に、図5(b)に示すように、金属層92を所定形状にする。具体的には、この金属層92上に、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を形成し、圧電素子300に対応する領域及び連通部13に対応する金属層92の領域を除去することにより金属層92を所定形状にパターニングする。
【0046】
そして、図5(c)に示すように、下地層91を所定形状にすることにより、リード電極90と、後に形成される連通部13の周縁部近傍にリード電極90とは不連続の不連続金属層190とを形成する。具体的には、金属層92を所定形状にする場合と同様に、下地層91上に、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を形成し、圧電素子300に対応する領域及び連通部13に対応する下地層91の領域を除去することにより下地層91を所定形状にパターニングする。
【0047】
このとき、不連続金属層190の金属層92の連通部13が形成される側の端部と、下地層91の連通部13が形成される側の端部とは、弾性膜50の連通部13が形成される側の端部t3(図8(a)参照)より圧電素子300側にあるように形成する。
【0048】
次に、図6(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110上に、接着層35を介して封止基板用ウェハ130を接合する。封止基板用ウェハ130には、マニホールド部31、圧電素子保持部32等が予め形成されている。封止基板用ウェハ130は、例えば、400μm程度の厚さを有するシリコンウェハであり、封止基板用ウェハ130を接合することで流路形成基板用ウェハ110の剛性は著しく向上することになる。
【0049】
次いで、図6(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110をある程度の厚さとなるまで研削した後、更に弗硝酸によってウェットエッチングすることにより流路形成基板用ウェハ110を所定の厚さとする。例えば、研削及びウェットエッチングによって、流路形成基板用ウェハ110を、約70μmの厚さとなるように加工する。次いで、図6(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110上に、例えば、窒化シリコン(SiN)からなるマスク膜53を新たに形成し、所定形状にパターニングする。
【0050】
そして、図7(a)に示すように、封止基板用ウェハ130のマニホールド部31を、例えば、耐アルカリ性を有する封止フィルム38で封止した後、マスク膜53を介して流路形成基板用ウェハ110を異方性エッチング(ウェットエッチング)して、流路形成基板用ウェハ110に圧力発生室12、液体供給路14、連通路15及び連通部13等を形成する。このとき、図示しないが、封止基板用ウェハ130の流路形成基板用ウェハ110側とは反対側の表面全体を、例えば、熱融着フィルム等によりさらに覆っておく。
【0051】
このように、封止基板用ウェハ130のマニホールド部31が封止フィルム38により封止されているため、エッチング液がマニホールド部31側から封止基板用ウェハ130の表面に設けられている接続配線やリード電極90に流れ込むことがない。
【0052】
これにより、封止基板用ウェハ130の表面に設けられている接続配線やリード電極90にエッチング液が付着することがなく、断線等の不良の発生を防止することができる。また、このとき、不連続金属層190の連通部13側の端面が接着層35により封止されていることにより、ウェットエッチングにより不連続金属層190の下地層91及び金属層92の端面が剥離する虞がない。
【0053】
図7(b)に示すように、封止フィルム38及び図示しない熱融着フィルム等を剥がした後は、封止基板用ウェハ130に形成されている接続配線上に駆動回路120を実装すると共に、駆動回路120とリード電極90とを接続配線121によって接続する(図2参照)。その後、流路形成基板用ウェハ110及び封止基板用ウェハ130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。
【0054】
そして、流路形成基板用ウェハ110の封止基板用ウェハ130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、封止基板用ウェハ130にコンプライアンス基板40を接合し、これら流路形成基板用ウェハ110等を、図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって上述した構造のインクジェット式記録ヘッドHが製造される。
【0055】
(比較例)
ここで、本実施形態との比較例について説明する。図8(b)は、本実施形態で説明した図2(a)のB−B´断面における図2(b)のC部と同じ部分を拡大した比較例の断面図である。
【0056】
図8(b)の比較例では、弾性膜50によって構成された第1の断面部R1の共通の液体室100側の端部t3は、隔壁11の共通の液体室100側の端部t2より、圧電素子300と反対側、すなわち共通の液体室100側に形成されている。
【0057】
そのため、図8(b)に示すように、弾性膜50が共通の液体室100に露出する面を形成するため、隔壁11を弾性膜50との境界までエッチングすることになる。従って、隔壁11をエッチングしているとき、弾性膜50にクラックDが発生する可能性が高くなる。
【0058】
また、弾性膜50の隔壁11側が共通の液体室100に露出している。そのため、ノズル開口21からインクを噴射しているとき、共通の液体室100から液体流路となる連通路15に向かって流れるインクの圧力が弾性膜50にかかると、弾性膜50にクラックDが発生する可能性が高くなる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態の液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッドHは、液滴を噴射するノズル開口21と連通する圧力発生室12、圧力発生室12と連通する液体流路としての液体供給路14と連通路15とが、シリコン材料からなる隔壁11により形成された流路形成基板10と、流路形成基板10の一方の面に形成されてシリコン酸化物を含む弾性膜50と、圧電素子300と接続するリード電極90を構成する、金属層92及び下地層91と同一の材料を含み、弾性膜50の一方の面に形成された積層体層と、流路形成基板10の一方の面に接着層35を介して接合された封止基板30と、を備え、流路形成基板10と封止基板30とを貫通して液体流路に連通する共通の液体室100と、図8(a)の弾性膜50が接着層35に覆われる第1の断面部R1とが形成され、第1の断面部R1は、隔壁11の共通の液体室100側の端部t2よりも圧電素子300側に形成されている。
【0060】
この構成によれば、隔壁11を弾性膜50との境界までエッチングしない。そのため、エッチング時に弾性膜50にかかる応力が緩和されるので、弾性膜50にクラックが発生してしまうことを抑制することができる。また、弾性膜50が隔壁11に接しているため、弾性膜50が隔壁11によって支持される。そのため、この構成による液体噴射ヘッドHのノズル開口21から液体としてのインクを噴射しているとき、共通の液体室100から液体流路となる連通路15に向かって流れるインクの圧力が弾性膜50にかかっても、弾性膜50にクラックが発生してしまうことを抑制することができる。
【0061】
また、圧電素子300と接続する図8(a)のリード電極90を構成する、金属層92及び下地層91と同一の材料を含み、弾性膜50の一方の面に形成された積層体層が接着層35に覆われる第2の断面部R2を有し、第2の断面部R2は、隔壁11の共通の液体室100側の端部t2よりも圧電素子300側に形成されている。
【0062】
この構成によれば、第2の断面部R2が共通の液体室100側に露出することを抑制できる。そのため、この構成による液体噴射ヘッドHのノズル開口21からインクを噴射しているとき、共通の液体室100から液体流路となる連通路15に向かって流れるインクの圧力が、第2の断面部R2を介して伝わることが抑制されるので、弾性膜50にクラックが生じることを抑制できる。
【0063】
また、第2の断面部R2は、第1の断面部R1よりも圧電素子300側に形成されている。この構成によれば、弾性膜50と接着層35との接合面積を広くすることができるので、接着層35によって弾性膜50を固定することができる。そのため、弾性膜50にクラックが生じることを抑制できる。
【0064】
なお、上述したインクジェット式記録ヘッドHは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図9は、インクジェット式記録装置の一例を示す外観斜視図である。
【0065】
図9に示すように、インクジェット式記録装置Pは、インクジェット式記録ヘッドHを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bを具備する。記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0066】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSが、プラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0067】
本実施形態においては、液体噴射ヘッドの一例として、記録シートSに画像を形成するインクジェット式液体噴射ヘッドHについて説明したが、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも適用する。
【符号の説明】
【0068】
10…流路形成基板、11…隔壁、30…封止基板、35…接着層、50…弾性膜、91…下地層、92…金属層、H…インクジェット式液体噴射ヘッド、P…インクジェット式記録装置、R1…第1の断面部、t2…端部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を噴射するノズル開口と連通する圧力発生室、前記圧力発生室と連通する液体流路が、シリコン材料からなる隔壁により形成された流路形成基板と、
前記流路形成基板の一方の面に形成されてシリコン酸化物を含む弾性膜と、
圧電素子と接続するリード電極を構成する層と同一の材料を含み、前記弾性膜の一方の面に形成された積層体層と、
前記流路形成基板の一方の面に接着層を介して接合された封止基板と、を備え、
前記流路形成基板と前記封止基板とを貫通して前記液体流路に連通する共通の液体室と、前記弾性膜が前記接着層に覆われる第1の断面部とが形成され、前記第1の断面部は、前記隔壁の前記共通の液体室側の端部よりも前記圧電素子側に形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記積層体層が前記接着層に覆われる第2の断面部を有し、前記第2の断面部は、前記隔壁の前記共通の液体室側の端部よりも前記圧電素子側に形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記第2の断面部は、前記第1の断面部よりも前記圧電素子側に形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドを備えたことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−189598(P2011−189598A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57140(P2010−57140)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】