説明

液体噴射装置、および、液体噴射装置の制御方法

【課題】ドット群間の境界部における筋等を抑制することが可能な液体噴射装置、および、その制御方法を提供する。
【解決手段】プリンターコントローラーは、第1のバンドB1と第2のバンドB2との境界部B′におけるインクの噴射において、当該境界部以外の範囲における噴射時よりも噴射周波数を低下させ、駆動信号生成部は、境界部におけるインクの噴射に使用する噴射パルスの駆動電圧を、当該境界部以外の範囲における噴射時の噴射パルスの駆動電圧よりも高く設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録装置などの液体噴射装置、および、液体噴射装置の制御方法に関し、特に、駆動信号に含まれる噴射パルスを圧力発生手段を印加することにより当該圧力発生手段を駆動させ、ノズルに連通する圧力室内の液体に圧力変動を生じさせることでノズルから液体を噴射させる液体噴射装置、および、液体噴射装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は噴射ヘッドを備え、この噴射ヘッドから各種の液体を噴射(噴射)する装置である。この液体噴射装置としては、例えば、インクジェット式プリンターやインクジェット式プロッター等の画像記録装置があるが、最近ではごく少量の液体を所定位置に正確に着弾させることができるという特長を生かして各種の製造装置にも応用されている。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルタを製造するディスプレイ製造装置,有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイやFED(面発光ディスプレイ)等の電極を形成する電極形成装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置に応用されている。そして、画像記録装置用の記録ヘッドでは液状のインクを噴射し、ディスプレイ製造装置用の色材噴射ヘッドではR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極形成装置用の電極材噴射ヘッドでは液状の電極材料を噴射し、チップ製造装置用の生体有機物噴射ヘッドでは生体有機物の溶液を噴射する。
【0003】
上記のプリンターとしては、記録処理速度(印刷速度)を重視した記録・印刷方法として、「バンド記録」を行うものが提案されている。この「バンド記録」では、例えば、記録紙等の記録媒体(着弾対象)とインクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッド)とを主走査方向に相対移動させながら、ノズル列を構成する各ノズルからインクを噴射して記録紙にドットを順次形成することにより、記録紙の副走査方向(ノズル列方向)に並べられた複数の、つまり、同時に噴射するノズルの数に相当する数の主走査ライン(ラスタライン)から成るドット群であるバンドを記録した後に、その記録済みの主走査ラインの分だけ記録ヘッドと記録紙とを副走査方向に相対的に移動させて、次のバンドを記録する、というバンド単位での記録動作が繰り返される。このバンド記録では、記録ヘッドの主走査方向への走査回数が少なくて済むので、記録処理速度を向上させることが可能となる。
【0004】
ところが、このようなバンド記録では、ノズル群の端部に位置するノズルから噴射されるインクの飛翔曲がり、バンド端部でのインクの滲み、又は、記録媒体の搬送誤差等の要因により、バンドとバンドとの境界部、すなわち繋ぎ目で筋(他の部分よりも色が濃い部分もしくは色が薄い部分が線状に連なった部分)が生じやすい。このため、この境界部に相当する部分を複数回の走査で記録すると共に、この部分に対応するドットを追加または間引くことで、繋ぎ目を目立たなくさせるように構成されたものも提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2008−000922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記の記録ヘッドでは、噴射周波数(同一のノズルから連続してインクを噴射させるときの周波数)に応じてノズルから噴射されるインクの量(重量または体積)が増減する特性がある。バンド間の境界部でドットを間引いてインクの噴射を行った場合、境界部以外の部分におけるインクの噴射時と比較してインクの噴射周波数が低下し、これに伴って、ノズルから噴射されるインクの量が減少する場合があった。これにより、ドットの大きさが繋ぎ目以外の部分のドットよりも小さくなり、境界部に却って筋や斑が生じるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ドット群間の境界部における筋等を抑制することが可能な液体噴射装置、および、その制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液体噴射装置は、上記目的を達成するために提案されたものであり、ノズルが複数列設されて成るノズル群と、各ノズルに連通する圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段と、を有し、当該圧力発生手段の駆動により前記ノズルから液体を噴射させる液体噴射ヘッドと、
前記圧力発生手段を駆動する駆動パルスを発生する駆動パルス発生手段と、
前記液体噴射ヘッドと前記着弾対象とを相対移動させる移動手段と、
前記液体噴射ヘッドによる液体の噴射を制御する制御手段と、を備え、
前記ノズル群の各ノズルから液体を噴射して着弾対象上に第1のドット群を形成し、当該第1のドット群の形成範囲に少なくとも一部が重なる範囲に第2のドット群を形成する液体噴射装置であって、
前記制御手段は、前記第1のドット群と前記第2のドット群との重複範囲における液体の噴射において、当該重複範囲以外の範囲における噴射時よりも噴射周波数を低下させ、
前記駆動パルス発生手段は、前記重複範囲における液体の噴射に使用する駆動パルスの駆動電圧を、当該重複範囲以外の範囲における噴射時の駆動パルスの駆動電圧よりも高く設定することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、重複範囲における液体の噴射に使用する駆動パルスの駆動電圧を、当該重複範囲以外の範囲における噴射時の駆動パルスの駆動電圧よりも高く設定することで、重複範囲では、噴射周波数の低下に伴う噴射液体の重量の低下が低減されるので、筋や斑が抑制される。
【0010】
また、本発明の液体噴射装置の制御方法は、ノズルが複数列設されて成るノズル群と、各ノズルに連通する圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段と、を有し、当該圧力発生手段の駆動により前記ノズルから液体を噴射させる液体噴射ヘッドと、
前記圧力発生手段を駆動する駆動パルスを発生する駆動パルス発生手段と、
前記液体噴射ヘッドと前記着弾対象とを相対移動させる移動手段と、
前記液体噴射ヘッドによる液体の噴射を制御する制御手段と、を備え、
前記ノズル群の各ノズルから液体を噴射して着弾対象上に第1のドット群を形成し、当該第1のドット群の形成範囲に少なくとも一部が重なる範囲に第2のドット群を形成する液体噴射装置の制御方法であって、
前記第1のドット群と前記第2のドット群との重複範囲における液体の噴射において、当該重複範囲以外の範囲における噴射時よりも噴射周波数を低下させ、且つ、前記重複範囲における液体の噴射に使用する駆動パルスの駆動電圧を、当該重複範囲以外の範囲における噴射時の駆動パルスの駆動電圧よりも高く設定することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】プリンターの構成を説明する斜視図である。
【図2】記録ヘッドの構成を説明する要部断面図である。
【図3】ノズルプレートの構成を説明する平面図である。
【図4】記録ヘッドの電気的構成を説明するブロック図である。
【図5】駆動信号の構成を説明する波形図である。
【図6】バンド記録について説明する模式図である。
【図7】周波数特性の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体噴射装置として、インクジェット式記録装置(以下、プリンター)を例に挙げて説明する。
【0013】
図1はプリンター1の構成を示す斜視図である。例示したプリンター1は、液体噴射ヘッドの一種である記録ヘッド2から、記録用紙、布、フィルム等の記録媒体(着弾対象)に向けて、液体の一種であるインクを噴射する。このプリンター1は、記録ヘッド2が取り付けられると共に、液体供給源の一種であるインクカートリッジ3が着脱可能に取り付けられるキャリッジ4と、記録動作時の記録ヘッド2の下方に配設されたプラテン5と、キャリッジ4を記録紙6(着弾対象の一種)の紙幅方向、即ち、主走査方向に往復移動させるキャリッジ移動機構7(移動手段の一種)と、主走査方向に直交する副走査方向に記録紙6を搬送する紙送り機構8(移動手段の一種)と、を備えて概略構成されている。
【0014】
キャリッジ4は、主走査方向に架設されたガイドロッド9に軸支された状態で取り付けられており、キャリッジ移動機構7の作動により、ガイドロッド9に沿って主走査方向に移動するように構成されている。キャリッジ4の主走査方向の位置は、リニアエンコーダー10によって検出され、その検出信号、即ち、エンコーダーパルス(位置情報の一種)がプリンターコントローラー31の制御部37(図4参照)に送信される。リニアエンコーダー10は位置情報出力手段の一種であり、記録ヘッド2の走査位置に応じたエンコーダーパルスを、主走査方向における位置情報として出力する。このため、制御部37は、受信したエンコーダーパルスに基づいてキャリッジ4に搭載された記録ヘッド2の走査位置を認識できる。即ち、例えば、受信したエンコーダーパルスをカウントすることで、キャリッジ4の位置を認識することができる。これにより、制御部37はこのリニアエンコーダー10からのエンコーダーパルスに基づいてキャリッジ4(記録ヘッド2)の走査位置を認識しながら、記録ヘッド2による記録動作を制御することができる。
【0015】
キャリッジ4の移動範囲内における記録領域よりも外側の端部領域には、キャリッジの走査の基点となるホームポジションが設定されている。本実施形態におけるホームポジションには、記録ヘッド2のノズル形成面(ノズルプレート21:図3参照)を封止するキャッピング部材11と、ノズル形成面を払拭するためのワイパー部材12とが配置されている。そして、プリンター1は、このホームポジションから反対側の端部へ向けてキャリッジ4が移動する往動時と、反対側の端部からホームポジション側にキャリッジ4が戻る復動時との双方向で記録紙6上に文字や画像等を記録する双方向記録を行う。
【0016】
図2は、上記記録ヘッド2の構成を説明する要部断面図である。この記録ヘッド2は、ケース13と、このケース13内に収納される振動子ユニット14と、ケース13の底面(先端面)に接合される流路ユニット15等を備えている。上記のケース13は、例えば、エポキシ系樹脂により作製され、その内部には振動子ユニット14を収納するための収納空部16が形成されている。振動子ユニット14は、圧力発生手段の一種として機能する圧電振動子17と、この圧電振動子17が接合される固定板18と、圧電振動子17に駆動信号等を供給するためのフレキシブルケーブル19とを備えている。圧電振動子17は、圧電体層と電極層とを交互に積層した圧電板を櫛歯状に切り分けることで作製された積層型であって、積層方向に直交する方向に伸縮可能な縦振動モードの圧電振動子17である。
【0017】
流路ユニット15は、流路形成基板20の一方の面にノズルプレート21を、流路形成基板20の他方の面に振動板22をそれぞれ接合して構成されている。この流路ユニット15には、リザーバー23(共通液室)と、インク供給口24と、圧力室25と、ノズル連通口26と、ノズル27とを設けている。そして、インク供給口24から圧力室25及びノズル連通口26を経てノズル27に至る一連のインク流路が、ノズル27毎に対応して形成されている。
【0018】
図3は、ノズルプレート21の構成を説明する平面図である。なお、各ノズル27には、それぞれを区別するために模式的に通し番号(#1〜#360)を付してある。本実施例におけるノズルプレート21は、インクを噴射するノズル27が、記録紙2の搬送方向Tと平行に360個が並ぶノズル列(ノズル群の一種)を構成している。本実施形態におけるノズル列は、ノズル27が例えば360dpiの形成ピッチで開設されている。上記各ノズル群を用いたバンド記録の詳細については後述する。なお、図3では、ノズル列が1列のみ図示されているが、これには限られず、記録ヘッド2が噴射可能なインクの種類に応じた数のノズル列がノズルプレート21に形成される。また、1つのノズル列を構成するノズル27の数に関しても図3に例示したものには限られない。
【0019】
上記振動板22は、支持板28の表面に弾性体膜29を積層した二重構造である。本実施形態では、金属板の一種であるステンレス板を支持板28とし、この支持板28の表面に樹脂フィルムを弾性体膜29としてラミネートした複合板材を用いて振動板22を作製している。この振動板22には、圧力室25の容積を変化させるダイヤフラム部30が設けられている。また、この振動板22には、リザーバー23の一部を封止するコンプライアンス部31が設けられている。
【0020】
上記のダイヤフラム部30は、エッチング加工等によって支持板28を部分的に除去することで作製される。即ち、このダイヤフラム部30は、圧電振動子17の先端面が接合される島部32と、この島部32の周囲の支持板28を除去して形成された薄肉弾性部とからなる。上記のコンプライアンス部31は、リザーバー23の開口面に対向する領域の支持板28を、ダイヤフラム部30と同様にエッチング加工等によって除去することにより作製され、リザーバー23に貯留された液体の圧力変動を吸収するダンパーとして機能する。
【0021】
そして、上記の島部32には圧電振動子17の先端面が接合されており、この圧電振動子17の自由端部を伸縮させることで圧力室25の容積を変動させることができる。この容積変動に伴って圧力室25内のインクに圧力変動が生じる。そして、記録ヘッド2は、この圧力変動を利用してノズル27からインクを噴射させる。
【0022】
次に、プリンター1の電気的構成を説明する。
図4は、プリンター1の電気的な構成を説明するブロック図である。外部装置35は、例えばコンピューターやデジタルカメラなどの画像を取り扱う電子機器である。この外部装置35は、プリンター1と通信可能に接続されており、プリンター1において記録紙等の記録媒体に画像やテキストを印刷させるため、その画像等に応じた印刷データをプリンター1に送信する。
【0023】
本実施形態におけるプリンター1は、紙送り機構8、キャリッジ移動機構7、リニアエンコーダー10、記録ヘッド2、及び、プリンターコントローラー36を有する。
【0024】
プリンターコントローラー36は、本発明における制御手段の一種であり、プリンターの各部の制御を行う制御ユニットである。プリンターコントローラー36は、インターフェース(I/F)部37と、CPU38と、記憶部39と、駆動信号生成部40と、を有する。インターフェース部37は、外部装置35からプリンター1へ印刷データや印刷命令を送ったり、外部装置35がプリンター1の状態情報を受け取ったりする等プリンターの状態データの送受信を行う。CPU38は、プリンター全体の制御を行うための演算処理装置である。記憶部39は、CPU38のプログラムや各種制御に用いられるデータを記憶する素子であり、ROM、RAM、NVRAM(不揮発性記憶素子)を含む。CPU38は、記憶部39に記憶されているプログラムに従って、各ユニットを制御する。
【0025】
CPU38は、リニアエンコーダー10から出力されるエンコーダーパルスEPからタイミングパルスPTSを生成するタイミングパルス生成手段として機能する。そして、CPU38は、このタイミングパルスPTSに同期させて印刷データの転送や、駆動信号生成部40による駆動信号COMの生成等を制御する。また、CPU38は、タイミングパルスPTSに基づいて、ラッチ信号LAT等のタイミング信号を生成して記録ヘッド2のヘッド制御部53に出力する。ヘッド制御部53は、プリンターコントローラー36からのヘッド制御信号(印刷データおよびタイミング信号)に基づき、記録ヘッド2の圧電振動子17に対する駆動信号COMの噴射パルスPS(図5参照)の印加制御等を行う。
【0026】
駆動信号生成部40は、本発明における駆動パルス発生手段として機能する部分であり、駆動信号の波形に関する波形データに基づいて、アナログの電圧信号を生成する。また、駆動信号生成部40は、上記の電圧信号を増幅して駆動信号COMを生成する。この駆動信号COMは、記録媒体に対する印刷処理(記録処理或いは噴射処理)時に記録ヘッド2の圧力発生部である圧電振動子17に印加されるものであり、繰り返し周期である単位期間内に、例えば図5に示す噴射パルスPSを少なくとも1つ以上含む一連の信号である。ここで、噴射パルスPSとは、本発明における駆動パルスに相当し、記録ヘッド2のノズル27から液滴状のインクを噴射させるべく圧電振動子17に所定の動作を行わせるものである。
【0027】
図5は、駆動信号生成部40によって生成される駆動信号COMに含まれる噴射パルスPSの波形例を説明する図である。駆動信号COMは、繰り返し周期である単位期間ごとに駆動信号生成部40から繰り返し生成される。単位期間は、記録紙6に印刷する画像等の1画素分に対応する距離だけノズル27が移動する間の期間に対応する。例えば、印刷解像度が720dpiの場合、単位期間Tは、ノズル27が記録紙6に対して1/720インチ移動するための期間に相当する。そして、この単位期間内には、噴射パルスPSが発生する期間Tpが少なくとも1つ以上含まれている。即ち、駆動信号COMには、噴射パルスPSが少なくとも1つ以上含まれている。なお、噴射パルスPSの形状は例示したものには限られず、ノズル27から噴射するインクの量等に応じて種々の波形のものが採用される。
【0028】
図5(a)において、噴射パルスPSの波形の各点における座標e0〜e7が示されている。駆動信号COMが生成される際、プリンターコントローラー36からは、このような駆動信号の波形に関し(時間、電圧)を規定する座標データが送られる。即ち、座標データにおけるXは、e0を原点(基準点)としたときの時間(経過時間)を示し、Yはその時間での電圧(電位)を示している。駆動信号生成部40は、送られた座標データに基づいて座標点間を補間し、各座標データの座標がつなぎ合わされた波形の駆動信号を生成する。つまり、プリンターコントローラー36から送られる各座標データが変化させられると、これに応じて噴射パルスの波形も変化する。なお、実際の噴射パルスPSにおいて、隣り合う座標点に相当する部分を互いに結んだ部分を波形要素とも言う。
【0029】
例えば、噴射パルスPSの振幅を大きくしたいときには、例えば、e2における電圧Y2及びe3における電圧Y3の値を高くし、e4における電圧Y4及びe5における電圧Y5の値を低くする。このようにすることで、噴射パルスPSの振幅が大きくなるので、印加される圧電振動子17の変位はより大きなものとなる。また、噴射パルスPSの振幅を小さくしたいときには、例えば、e2における電圧Y2及びe3における電圧Y3の値を低くし、e4における電圧Y4及びe5における電圧Y5の値を高くする。このようにすることで、噴射パルスの振幅が小さくなるので、印加される圧電振動子17の変位はより小さなものとなる。そして、このようにX,Yを設定することで、所望の噴射パルスPSを生成することができる。また、電圧を変えることなく電位変化(波形要素)の傾きを変えることもできる。例えば、e1における時間X1の値を大きく(すなわち、時間を長く)したり、e4における時間X4の値を小さく(すなわち、時間を短く)したりすることで、電位変化の傾きを急峻にすることができる。これにより、印加される圧電振動子17の変位がより急激になる。逆に、e1における時間X1の値を小さくしたり、e4における時間X4の値を大きくしたりすることで、電位変化の傾きを緩やかにすることができる。これにより、印加される圧電振動子17の変位がより緩やかになる。
【0030】
次に、上記のように構成されたプリンター1におけるバンド記録について説明する。バンド記録では、記録紙6に対し、主走査方向に列設された複数のドットから成る主走査ライン(ラスタライン)を副走査方向に複数並べて形成してバンド(ドット群の一種)を記録し、このバンド単位で画像等を印刷する。
【0031】
図6は、記録紙6に記録された第1のバンドB1(第1のドット群に相当)および第2のバンドB2(第2のドット群に相当)の境界部分(バンド間の繋ぎ目部分)の近傍を拡大して示した模式図である。図6では、1番から360番までの全てのノズル27を用いて一回の主走査により1つのバンドBを記録する例を示す。同図では、説明の便宜上、主走査ライン毎に、当該主走査ラインを記録するノズル27およびその番号が図示されている。なお、各バンドを区別する目的で各バンドの形成範囲をそれぞれ異なるハッチングで示しているが、ハッチングの濃さは当該バンドにおける色の濃さを示すものではない。
【0032】
本実施形態においては、例えば、ノズル列を構成する各ノズル27に対応する圧電素子17に対して上記の噴射パルスPSを印加して各ノズル27から記録紙6に向けてインクを噴射させる。これにより、各々の着弾領域にインクを着弾させてドットを形成し、このドットを主走査方向に複数列設することでノズル27毎に主走査ラインをそれぞれ形成する。そして、副走査方向に連続的に並ぶ360本の主走査ラインにより1つのバンドBが構成される。第1のバンドB1は、記録ヘッド2の往動時に形成されるバンドであり、第2のバンドB2は、記録ヘッド2の復動時に形成されるバンドである。本実施形態では、第1のバンドB1において358番から360番までのノズル27に対応する範囲(第2のバンドB2側の端部)と、第2のバンドB2において1番から3番までのノズル27に対応する範囲(第1のバンドB1側の端部)とが重なるように記録が行われる。この重なった範囲が境界部(本発明における重複範囲)B′である。
【0033】
具体的には、往動時(往路)における記録では、上記の噴射パルスPSが、ノズル列を構成する1番ノズルから365番ノズルの計360個のノズル27にそれぞれ対応する圧電振動子17に印加されることで、各ノズル27からそれぞれ規定量のインクが噴射される。このインクが記録紙6の着弾領域に着弾してドットが形成され、このドットがマトリクス状に並ぶことで第1のバンドB1が記録される。第1のバンドB1が記録されたならば、紙送り機構8によって記録紙6が副走査方向に送られ、次のバンドB2が記録される。この際、図6の例では、357ライン分だけ記録紙6の副走査が行われた後、第1のバンドB1の副走査方向下流側に連続して次の第2のバンドB2が記録される。つまり、記録済みの第1のバンドB1の358番の主走査ラインから360番の主走査ライン(358番から360番の各ノズル27によって記録された主走査ライン)に対して、次の第2のバンドB2の1番の主走査ラインから3番の主走査ライン(1番から3番の各ノズル27によって記録される主走査ライン)が重なる状態で、第2のバンドB2の記録が行われる。これにより、本実施形態においては、主走査ライン3つ分だけ隣接バンド同士が重なる境界部B′が生じる。なお、この境界部B′の幅(主走査ライン数)は、例示したものに限られるものではなく、記録される画像や仕様等に応じて増減されるものである。また、境界部B′を形成する際の記録ヘッド2の走査回数は2回に限られず、3回以上の走査で形成される場合もある。
【0034】
本実施形態における境界部B′では、往動時と復動時の2回に分けて画像等の記録が行われるので、印刷データに基づいてドットの間引き処理が行われる。すなわち、例えば、仮に1回の走査で境界部B′が記録されるときのドットの形成数を100%としたとき、往復で記録する場合には、往路で50%、復路で50%、或いは、往路で30%、復路で70%のようにドット形成数が設定される。このようにドットを間引くことにより、境界部B′の記録を行うノズル27では、境界部B′以外の部分を記録するノズル27と比較してインクの噴射周波数が低下する。
【0035】
ここで、図7は、インクの噴射周波数(kHz)と、ノズル27から噴射されるインクの重量(ng)との関係(インク重量についての周波数特性)を示すグラフである。このグラフは、所定範囲の噴射周波数でそれぞれインクを噴射したときの一滴当たりのインク重量の測定結果をプロットしたものである。同図に示すように、所定のノズル27におけるインクの噴射周波数を変化させると、これに伴って当該ノズル27から噴射されるインクの重量が増減することが判る。これは、ノズル27におけるメニスカスの振動状態に起因するものである。
【0036】
ここでは、15kHz以上を高周波数領域とし、15kHz未満を低周波数領域とする。本実施形態では、境界部B′以外の部分を記録する際には、インクの噴射周波数が30kHzに設定される。高周波数領域では、先のインクの噴射時から次のインクの噴射時までの時間が短いので、噴射直後における圧力室25内のインク(特に、メニスカス)の振動が十分に収束する前に次の噴射が行われることになり、残留振動の位相にもよるが、1滴当たりのインク重量が概ね増加する傾向となる。図7の例では、30kHzのときのインク重量が12.7ngとなっている。これに対して、境界部B′を記録する際に、低周波数領域、例えば、インクの噴射周波数が10kHzに設定された場合、先のインクの噴射時から次のインクの噴射時までの時間が、高周波数領域と比較して長くなる。この場合、噴射直後における圧力室25内のインクの振動がある程度収束した状態で次の噴射が行われることになり、残留振動の位相にもよるが、1滴当たりのインク重量が概ね減少する傾向となる。図7の例では、10kHzのときのインク重量が10.3ngであり、高周波領域の場合と比較して2.4ng減少している。
【0037】
記録ヘッド2にこのような周波数特性があることに鑑み、本発明に係るプリンター1では、境界部B′を記録するノズル27のうち、噴射周波数の低下に伴ってインク重量が減少するノズル27に関し、当該ノズル27に対応する圧電振動子17を駆動する噴射パルスPSが補正される。具体的には、噴射パルスPSの駆動電圧が、境界部B′以外の範囲における噴射時の噴射パルスPSの駆動電圧よりも高く設定される。この駆動電圧は、上記の周波数特性に応じて定められる。すなわち、目標とするインク重量が、噴射周波数30〔kHz〕のときの重量(100%)であるとすると、噴射周波数10〔kHz〕のときのインク重量(駆動電圧未補正時)は81%であるため、100%のインク重量が得られるように駆動電圧が高められる。なお、駆動電圧を高めることにより、これに伴って電圧が変化する部分である波形要素の傾きも補正前と比較して急峻となる。
このように境界部B′の記録に用いられる噴射パルスPSの駆動電圧を補正することで、境界部B′では、噴射周波数の低下に伴うインク重量が目標とする値から低下することが低減されるので、筋や斑が抑制される。その結果、記録画像等の画質の低下を防止することが可能となる。
【0038】
ところで、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。
【0039】
例えば、噴射パルスPSの波形に関し、図5に例示したものには限られず、種々の波形の噴射パルスを採用することができる。
また、境界部B′の記録に用いられる噴射パルスPSの補正に関し、上記実施形態では、電圧を高める補正を例示したが、これには限られず、例えば、電圧を変えることなく波形要素(電圧が経時変化する部分)の傾きを急峻にすることで、インク重量の低下分を補正する構成を採用することも可能である。
さらに、上記実施形態では、圧力発生手段として、所謂縦振動型の圧電振動子17を例示したが、これには限られず、例えば、所謂撓み振動型の圧電振動子を採用することも可能である。この場合、例示した駆動信号(噴射パルス)の波形に関し、電位の変化方向、つまり上下が反転した波形となる。
【0040】
そして、本発明は、噴射パルスを用いて液体の噴射制御が可能な液体噴射装置であれば、プリンターに限らず、プロッター、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体噴射装置、例えば、ディスプレイ製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等にも適用することができる。そして、ディスプレイ製造装置では、色材噴射ヘッドからR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極製造装置では、電極材噴射ヘッドから液状の電極材料を噴射する。チップ製造装置では、生体有機物噴射ヘッドから生体有機物の溶液を噴射する。
【符号の説明】
【0041】
1…プリンター,2…記録ヘッド,6…記録紙,7…キャリッジ移動機構,8…紙送り機構,17…圧力室,17…圧電振動子,21…ノズルプレート,25…圧力室,27…ノズル,36…プリンターコントローラー,40…駆動信号生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルが複数列設されて成るノズル群と、各ノズルに連通する圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段と、を有し、当該圧力発生手段の駆動により前記ノズルから液体を噴射させる液体噴射ヘッドと、
前記圧力発生手段を駆動する駆動パルスを発生する駆動パルス発生手段と、
前記液体噴射ヘッドと前記着弾対象とを相対移動させる移動手段と、
前記液体噴射ヘッドによる液体の噴射を制御する制御手段と、を備え、
前記ノズル群のノズルから液体を噴射して着弾対象上に第1のドット群を形成し、当該第1のドット群の形成範囲に少なくとも一部が重なる範囲に第2のドット群を形成する液体噴射装置であって、
前記制御手段は、前記第1のドット群と前記第2のドット群との重複範囲における液体の噴射において、当該重複範囲以外の範囲における噴射時よりも噴射周波数を低下させ、
前記駆動パルス発生手段は、前記重複範囲における液体の噴射に使用する駆動パルスの駆動電圧を、当該重複範囲以外の範囲における噴射時の駆動パルスの駆動電圧よりも高く設定することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
ノズルが複数列設されて成るノズル群と、各ノズルに連通する圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段と、を有し、当該圧力発生手段の駆動により前記ノズルから液体を噴射させる液体噴射ヘッドと、
前記圧力発生手段を駆動する駆動パルスを発生する駆動パルス発生手段と、
前記液体噴射ヘッドと前記着弾対象とを相対移動させる移動手段と、
前記液体噴射ヘッドによる液体の噴射を制御する制御手段と、を備え、
前記ノズル群のノズルから液体を噴射して着弾対象上に第1のドット群を形成し、当該第1のドット群の形成範囲に少なくとも一部が重なる範囲に第2のドット群を形成する液体噴射装置の制御方法であって、
前記第1のドット群と前記第2のドット群との重複範囲における液体の噴射において、当該重複範囲以外の範囲における噴射時よりも噴射周波数を低下させ、且つ、前記重複範囲における液体の噴射に使用する駆動パルスの駆動電圧を、当該重複範囲以外の範囲における噴射時の駆動パルスの駆動電圧よりも高く設定することを特徴とする液体噴射装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−240323(P2012−240323A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113200(P2011−113200)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】