説明

液体噴射装置およびメンテナンス方法

【課題】大気連通口から入り込んだ液体が流通路内で固化するのを防止可能な液体噴射装置およびメンテナンス方法を提供すること。
【解決手段】噴射ヘッド41と、ノズル形成面41aに当接して密閉空間を形成するキャップ部材51と、密閉空間を吸引し、外部から空気を取り入れる開放状態とすることが可能な第1吸引手段61Aと、密閉空間を吸引し、外部から空気を取り入れる開放状態とすることが可能な第2吸引手段61Bと、制御モードに応じて第1吸引手段61Aおよび第2吸引手段61Bの作動を制御する制御手段70とを具備し、制御モードには、第1吸引手段61Aにより密閉空間を吸引させつつ第2吸引手段61Bを開放状態とする第1モードと、第2吸引手段61Bにより密閉空間を吸引させつつ第1吸引手段61Aを開放状態とする第2モードと、が存在し、第1モードまたは第2モードでの作動後、第2モードまたは第1モードで作動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置およびメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット式のプリンターは、印刷ヘッドのノズルからインク滴を噴射することにより、印刷用紙等に印刷画像を形成するが、ノズル内部でインクが増粘したり、固化すると、インク滴の噴射不良となってしまう。このような噴射不良を防止するために、一般に、インクジェット式のプリンターは、特許文献1に開示されているように、キャップを有するメンテナンス手段を具備している。
【0003】
ここで、特許文献1に開示されているキャップには、大気連通口が設けられていて、この大気連通口にはチューブが連結されていて、さらに大気連通口またはチューブの中途部分には、大気連通弁が設けられている。また、キャップには、吸引口が設けられていて、この吸引口は吸引装置に接続されている。そして、特許文献1においては、キャップ内に残留したインクが固化し、いわゆる穴詰まりを解決するために、キャップを封止する封止板を設け、大気連通弁を介してクリーニング液を供給し、吸引口からクリーニング液を吸引または排出する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−240000号公報(要約、図4、図5等参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、キャップを印刷ヘッドのノズル形成面に当接させて、吸引装置を作動させると、大気連通口に連結されているチューブも、負圧の作用によって収縮する。ここで、大気開放時にキャップ内の負圧が解消される際には、上述のチューブの収縮も解消するが、その収縮の解消時に、微量のインクをキャップ内から吸い込んでしまう。そして、大気連通口から入り込んだインクが固化することによって、チューブ等の流路が塞がれてしまうことがある。また、大気連通口から入り込んだインクが膜状となり、その膜状のまま固まってしまう場合もある。それらの場合、大気連通弁を開放側に切り換えても、キャップ内に空気が流れ込むのが阻害されることがある。
【0006】
このような問題は、上述の特許文献1の構成を採用した場合でも解消されない。
【0007】
本発明は上記の事情にもとづきなされたもので、その目的とするところは、大気連通口から入り込んだ液体が流通路内で固化するのを防止可能な液体噴射装置およびメンテナンス方法を提供しよう、とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の液体噴射装置は、液体を噴射する噴射ノズル列を有する噴射ヘッドと、噴射ヘッドのノズル形成面に当接して密閉空間を形成すると共に、噴射ノズル列から噴射される液体を受け止めるキャップ部材と、密閉空間に連通して当該密閉空間を吸引可能とすると共に、外部から空気を取り入れる開放状態とすることが可能な第1吸引手段と、密閉空間に連通して当該密閉空間を吸引可能とすると共に、外部から空気を取り入れる開放状態とすることが可能な第2吸引手段と、制御モードに応じて第1吸引手段および第2吸引手段の作動を制御する制御手段と、を具備し、制御モードには、第1吸引手段により密閉空間を吸引させつつ第2吸引手段を開放状態とする第1モードと、第2吸引手段により密閉空間を吸引させつつ第1吸引手段を開放状態とする第2モードと、が設けられていて、制御手段は、第1モードまたは第2モードで第1吸引手段および第2吸引手段を作動させた後に、第2モードまたは第1モードで第1吸引手段および第2吸引手段を作動させるものである。
【0009】
このように構成する場合には、制御手段は、第1モードまたは第2モードで第1吸引手段および第2吸引手段を作動させた後に、第2モードまたは第1モードで第1吸引手段および第2吸引手段を作動させている。そのため、第1吸引手段と第2吸引手段の両方で、密閉空間の吸引を行うことが可能となる。それにより、キャップ部材の開口部分から入り込んだインクが固化する等の問題が生じるのを防止可能となる。すなわち、第1吸引手段で密閉空間の吸引がなされた後に、第2吸引手段で密閉空間の吸引が為される。そのため、仮に第1吸引手段または第2吸引手段に連通する開口部分からインク等の液体が入り込んだとしても、その液体が固化する前に排出させることが可能となり、インク等の液体が流れる流路が塞がれるのを防止することが可能となる。
【0010】
また、本発明の他の側面は、上述の発明において、制御手段は、第1モードと第2モードとを、交互に切り換えることが好ましい。
【0011】
このように構成する場合には、第1モードと第2モードとが交互に切り換えられるため、密閉空間を第1吸引手段で吸引する状態と、第2吸引手段で吸引する状態とが交互に切り換えられる。それにより、仮に第1吸引手段または第2吸引手段に連通する開口部分からインク等の液体が入り込んだとしても、その液体が固化する前に排出させることが可能となり、インク等の液体が流れる流路が塞がれるのを良好に防止可能となる。
【0012】
さらに、本発明の他の側面は、上述の各発明において、制御モードには、第1吸引手段により密閉空間を吸引させつつ第2吸引手段により密閉空間を吸引させる第3モードが設けられていることが好ましい。
【0013】
このように構成する場合には、第3モードで第1吸引手段および第2吸引手段を作動させると、密閉空間の内部を強力に吸引可能となる。それにより、液体の排出の時間短縮を図ることが可能となる。また、ノズルからの液体および/または気泡の排出を、1つの吸引手段のみを作動させる場合と比較して、より強力に行うことが可能となる。
【0014】
また、本発明の他の側面は、上述の各発明において、液体は、印刷媒体に印刷画像を形成するためのインクであると共に、ノズル列には、他の種類のインクよりも粘度の高い白色インクを噴射する白用噴射ノズル列が存在していてもよい。
【0015】
このように構成する場合には、白色インクが、他の種類のインクよりも粘度が高い場合に、そのような白色インクが第1吸引手段または第2吸引手段に連通する開口部分から入り込むと、それより下流側の流通路内で固化してしまう。しかしながら、第1吸引手段と第2吸引手段の両方で、密閉空間の吸引を行うことが可能となる。それにより、キャップ部材の開口部分から入り込んだ白色インクが固化する等の問題が生じるのを防止可能となる。すなわち、仮に第1吸引手段または第2吸引手段に連通する開口部分から白色インクが入り込んだとしても、その白色インクが固化する前に排出させることが可能となり、液体が流れる流路が塞がれるのを防止することが可能となる。
【0016】
さらに、本発明の他の側面は、上述の各発明において、液体は、印刷媒体に印刷画像を形成するためのインクであると共に、ノズル列には、他の種類のインクよりも粘度の高い高粘度インクを噴射する高粘度インク用噴射ノズル列が存在すると共に、この高粘度インクは、着色材と、水と、アルコール溶剤と、ポリグリコール溶剤とを少なくとも含んでなると共に、アルコール溶剤が、難水溶性のアルカンジオールを含み、かつポリグリコール溶剤が、ポリアルキレングリコールを含んでなるようにしてもよい。
【0017】
このように構成する場合には、インクは他の種類のインクよりも粘度が高い高粘度インクとなるが、そのような高粘度インクが第1吸引手段または第2吸引手段に連通する開口部分から入り込むと、それより下流側の流通路内で固化してしまう。しかしながら、第1吸引手段と第2吸引手段の両方で、密閉空間の吸引を行うことが可能となる。それにより、キャップ部材の開口部分から入り込んだ高粘度インクが固化する等の問題が生じるのを防止可能となる。すなわち、仮に第1吸引手段または第2吸引手段に連通する開口部分から高粘度インクが入り込んだとしても、その高粘度インクが固化する前に排出させることが可能となり、液体が流れる流路が塞がれるのを防止することが可能となる。
【0018】
また、本発明の他の側面は、上述の各発明において、第1吸引手段は、密閉空間に連通している第1チューブと、第1チューブの中途部に設けられ作動によって密閉空間を吸引する吸引状態と、外部から空気を取り入れる開放状態と、外部からの空気の取り入れを遮断する閉じ状態との間で切り換え可能な第1吸引ポンプと、を具備すると共に、第2吸引手段は、密閉空間に連通している第2チューブと、第2チューブの中途部に設けられ作動によって密閉空間を吸引する吸引状態と、外部から空気を取り入れる開放状態と、外部からの空気の取り入れを遮断する閉じ状態との間で切り換え可能な第2吸引ポンプと、を具備することが好ましい。
【0019】
このように構成する場合には、第1モードまたは第2モードで第1吸引ポンプおよび第2吸引ポンプを作動させた後に、第2モードまたは第1モードで第1吸引ポンプおよび第2吸引ポンプを作動させている。それにより、仮に第1チューブおよび/または第2チューブにインク等の液体が入り込んだとしても、その液体が固化する前に排出させることが可能となり、インク等の液体が流れる流路が塞がれるのを防止することが可能となる。また、第1吸引ポンプおよび第2吸引ポンプは、外部から空気を取り入れる開放状態と、外部からの空気の取り入れを遮断する閉じ状態との間で切り換え可能としているため、別途の弁部材等を設ける必要がなくなる。それにより、部品点数を削減することが可能となる。
【0020】
また、本発明の他の側面は、上述の各発明において、第1吸引手段は、密閉空間に連通している第1チューブと、第1チューブの中途部に設けられ、外部から空気を取り入れる開放状態と、外部からの空気の取り入れを遮断する閉じ状態との間で切り換え可能な第1弁部材と、第1チューブの中途部に設けられ密閉空間を吸引可能とする第1吸引ポンプと、を具備すると共に、第2吸引手段は、密閉空間に連通している第2チューブと、第2チューブの中途部に設けられ、外部から空気を取り入れる開放状態と、外部からの空気の取り入れを遮断する閉じ状態との間で切り換え可能な第2弁部材と、第2チューブの中途部に設けられ密閉空間を吸引可能とする第2吸引ポンプと、を具備することが好ましい。
【0021】
このように構成する場合には、第1モードまたは第2モードで第1吸引ポンプおよび第2吸引ポンプを作動させた後に、第2モードまたは第1モードで第1吸引ポンプおよび第2吸引ポンプを作動させている。それにより、仮に第1チューブおよび/または第2チューブにインク等の液体が入り込んだとしても、その液体が固化する前に排出させることが可能となり、インク等の液体が流れる流路が塞がれるのを防止することが可能となる。また、第1弁部材および第2弁部材を、第1吸引ポンプおよび第2吸引ポンプとは別体的に設けているため、安価なポンプを用いることが可能となり、コストの低減を図ることが可能となる。
【0022】
また、本発明の他の側面であるメンテナンス方法は、液体を噴射する噴射ノズル列を有する噴射ヘッドと、噴射ヘッドのノズル形成面に当接して密閉空間を形成すると共に、噴射ノズル列から噴射される液体を受け止めるキャップ部材と、密閉空間に連通して当該密閉空間を吸引可能とすると共に、外部から空気を取り入れる開放状態とすることが可能な第1吸引手段と、密閉空間に連通して当該密閉空間を吸引可能とすると共に、外部から空気を取り入れる開放状態とすることが可能な第2吸引手段と、を具備する液体噴射装置におけるメンテナンス方法であって、第1吸引手段により密閉空間を吸引させつつ第2吸引手段を開放状態とする作動状態と、第2吸引手段により密閉空間を吸引させつつ第1吸引手段を開放状態とする作動状態との間で作動を切り換えることが好ましい。
【0023】
このように構成する場合には、第1モードまたは第2モードで第1吸引手段および第2吸引手段を作動させた後に、第2モードまたは第1モードで第1吸引手段および第2吸引手段を作動させている。そのため、第1吸引手段と第2吸引手段の両方で、密閉空間の吸引を行うことが可能となる。それにより、キャップ部材の開口部分から入り込んだインクが固化する等の問題が生じるのを防止可能となる。すなわち、第1吸引手段で密閉空間の吸引がなされた後に、第2吸引手段で密閉空間の吸引が為される。そのため、仮に第1吸引手段または第2吸引手段に連通する開口部分からインク等の液体が入り込んだとしても、その液体が固化する前に排出させることが可能となり、インク等の液体が流れる流路が塞がれるのを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施の形態に係るプリンターの構成を示す概略図である。
【図2】図1のプリンターにおけるラインヘッドの構成を示す概略図である。
【図3】短尺ヘッドと吸引機構の構成を示す概略図である。
【図4】チューブの他端の取付態様の変形例の一例を示す断面図である。
【図5】チューブの他端の取付態様の変形例の一例を示す断面図である。
【図6】図5の取付態様を示す分解斜視図である。
【図7】吸引ポンプの詳細な構成および吸引ポンプの閉じ状態を示す図である。
【図8】吸引ポンプの詳細な構成および吸引ポンプの開放状態を示す図である。
【図9】プリンターの制御部の概略構成を示す図である。
【図10】吸引ポンプが作動する場合の処理フローを示す図である。
【図11】キャップ内の排出動作に関する処理フローを示す図である。
【図12】ノズルからのインク吸い出しに関する処理フローを示す図である。
【図13】短尺ヘッドと吸引機構の構成の変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施の形態に係る、液体噴射装置としてのプリンター10について、図1から図12に基づいて説明する。
【0026】
<プリンターの概略構成>
最初に、プリンター10の構成の概略について説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係るプリンター10の概略構成を示す図である。プリンター10は、紙送り機構20と、インク供給機構30と、ラインヘッド40と、吸引機構50(図3参照)と、制御部70とを具備している。
【0027】
紙送り機構20は、紙送りモーター(PFモーター)21と、この紙送りモーター21からの駆動力が伝達される給紙ローラー22等を具備していて、印刷用紙等の印刷媒体Pを、供給部位から排紙側に向けて搬送可能となっている。また、インク供給機構30は、カートリッジホルダー31と、カートリッジ32と、インク供給路33とを具備している。これらのうち、カートリッジホルダー31には、インクカートリッジ32が着脱自在に装着されている。そのため、本実施の形態のプリンター10は、いわゆるオフキャリッジタイプの構成となっている。
【0028】
また、カートリッジ32とラインヘッド40との間には、インク供給路33が設けられている。このインク供給路33を介することにより、インクカートリッジ32からラインヘッド40にインクを供給可能としている。
【0029】
また、ラインヘッド40は、印刷媒体Pよりも幅広の長さ寸法を有している。このラインヘッド40は、図2に示すように、複数の短尺ヘッド(噴射ヘッドの一例に対応)41が、副走査方向(Y方向;ライン方向に対する直交方向)において交互に前後しつつ、主走査方向(X方向;ライン方向)に沿って並ぶように配列されている。また、図1に示すように、個々の短尺ヘッド41には、インク噴射箇所としてのノズル42が印刷媒体Pの搬送方向と直交する方向(印刷媒体Pの幅方向)に列状に配置されている。
【0030】
ここで、各短尺ヘッド41には、ライン方向(X方向)において隣り合う短尺ヘッド41のノズル42と重なり合う領域が存在している。また、短尺ヘッド41は、ノズル42がライン方向(X方向)に列を為すことにより、ノズル列43を構成している。このノズル列43は、ノズル42が所定のピッチで列状に並べられることによって構成されている。それぞれのノズル列43のノズル42からは、シアン、マゼンタ、イエロー、およびブラックといった、着色されたインクが噴射される。なお、短尺ヘッド41のうち、ノズル列43が設けられている面を、ノズル形成面41aと称する。
【0031】
なお、プリンター10で使用されるインクに関しては、通常の印刷用のインクよりも粘度の高い高粘度インクを用いるようにしても良い。なお、本願で言う高粘度とは、使用時におけるインクの粘度が5mPa・s以上15mPa・s以下の範囲の粘度を言う。このような高粘度インクについては、後述する。かかる高粘度インクを用いる場合、高粘度インクを貯留するカートリッジ32が設けられると共に、ノズル列43の全部または一部には、高粘度インクを噴射するものが存在する。
【0032】
また、上述のインクとしては、通常のインク(他の色のインク)よりも粘度の高い白色のインクを用いるようにしても良い。かかる粘度の高い白色のインクを用いる場合、高粘度の白色のインクを貯留するカートリッジ32が設けられると共に、ノズル列43の中には、高粘度の白色のインクを噴射するものが存在する。
【0033】
また、上述のノズル列43は、4色分に限られるものではなく、3色または5色以上であっても良い。
【0034】
<吸引機構の構成>
続いて、吸引機構50の構成について、図3に基づいて説明する。プリンター10には、図3に示すような吸引機構50が設けられている。吸引機構50は、キャップ51と、インク吸収体52と、廃液タンク53と、第1吸引手段60Aと、第2吸引手段60Bと、を備えている。
【0035】
また、第1吸引手段60Aは、第1チューブ61Aと、第1吸引ポンプ62Aとを備えている。また、第2吸引手段60Bは、第2チューブ61Bと、第2吸引ポンプ62Bとを備えている。なお、以下の説明においては、第1チューブ61Aと第2チューブ61Bとを区別しなくても良い場合、両者を総称する場合には、単にチューブ61と称する。また、第1吸引ポンプ62Aと第2吸引ポンプ62Bとを区別しなくても良い場合、両者を総称する場合には、単に吸引ポンプ62と称する。
【0036】
これらのうち、キャップ51は、キャップ部材の一例に対応する。このキャップ51は、短尺ヘッド41のノズル形成面41aを外部から封止する部分であるものの、外部から封止される部位である凹部51aは、第1チューブ61Aおよび第2チューブ61Bと連通している。第1チューブ61Aがキャップ51に取り付けられる部分が、吸引口511となっていて、当該凹部51aの開放側とは反対側に向かって凹部51aの底部から突出している。同じく、第2チューブ61Bがキャップ51に取り付けられる部分にも、同様の吸引口511が存在している。
【0037】
この吸引口511の管路状の部分が、第1チューブ61Aの一端側、第2チューブ61Bの一端側にそれぞれ差し込まれる等によって接続されている。
【0038】
また、本実施の形態では、図3に示すように、キャップ51の凹部51aには、インク吸収体52が設けられている。インク吸収体52は、たとえばフェルト等の不織布から形成されていて、インクを吸収可能となっている。
【0039】
廃液タンク53は、チューブ61から排出されるインクを蓄える容器である。廃液タンク53には2つの挿通孔53aが設けられていて、それぞれの挿通孔53aには、第1チューブ61Aまたは第2チューブ61Bが挿通している。また、廃液タンク53には、挿通孔53a以外に、空気を廃液タンク53の内部に導入するための空気孔53bも設けられている。
【0040】
この廃液タンク53は、上限位置Lまでインクを蓄えることを可能としている。すなわち、廃液タンク53の容量は有限であると共に、チューブ61から排出されるインクを廃液タンク53から溢れさせないようにする必要がある。また、後述するように、廃液タンク53とチューブ61の他端開口部61cとの位置関係を満たす必要がある。そのため、廃液タンク53には、当該廃液タンク53内で液面(またはインクが固化した場合には、固化した上面)が到達することが可能な上限位置Lが設定されている。なお、この廃液タンク53と、第1チューブ61Aの他端部および第2チューブ61Bの他端部の位置関係については、後述する。
【0041】
また、第1チューブ61Aおよび第2チューブ61Bは、可撓性を有する中空の管部材であり、それらの中空の部分が凹部51aと廃液タンク53とを結ぶ流路となっている。
【0042】
<廃液タンクへのチューブの取り付けについて>
図3に示すように、第1チューブ61Aおよび第2チューブ61Bの他端側の開口部分(以下、他端開口部61cとする)は、上限位置Lを上回るように設けられている。すなわち、キャップ51をノズル形成面41aに当接させ、たとえば第1吸引ポンプ62Aを作動させると共に第2吸引ポンプ62Bをリリース状態(開放状態)とする場合において、他端開口部61cが上限位置Lを下回っていると、廃液タンク53内の液体が第2チューブ61Bを介してキャップ51に流入してしまう(逆流してしまう)。なお、第2吸引ポンプ62Bを作動させて第1吸引ポンプ62Aをリリース状態(開放状態)とした場合にも同様である。このため、他端開口部61cは、上限位置Lを上回るように設けられている。
【0043】
これに対して、本実施の形態では、他端開口部61cは、上限位置Lを上回るように設けられている。そのため、廃液タンク53内の液体が第1チューブ61Aまたは第2チューブ61Bを介して、キャップ51に流入する(逆流する)ことを良好に防止可能となっている。
【0044】
ここで、廃液タンク53におけるチューブ61の支持手法について述べると、図3においては、チューブ61を挿通孔53aに挿通させている部位において、チューブ61の他端側を支持している。このため、チューブ61のうち挿通部位よりも他端の先端側に位置している部位は、特段、支持されていない状態となっている。
【0045】
しかしながら、チューブ61のうち挿通部位よりも他端の先端側に位置している部位に関して、図4に示すような構成、または図5および図6に示すような構成を採用しても良い。図4に示す構成では、他端開口部61cは、上限位置Lよりも下方に位置しているものの、チューブ61のうち上限位置Lを上回る位置に、空気を導通させることが可能な導通孔61dが設けられている。それにより、キャップ51をノズル形成面41aに当接させ、第1吸引ポンプ62Aを作動させると共に第2吸引ポンプ62Bをリリース状態(開放状態)とする場合でも、導通孔61dから空気を取り入れることが可能となる。それにより、他端開口部61cから液体を吸い込んで、キャップ51に液体が流入してしまう(逆流してしまう)のを防止することが可能となる。
【0046】
また、図5および図6に示すような構成においては、チューブ61のうち挿通孔53aへの挿通部位よりも他端の先端側は、廃液タンク53の上壁部53cに、取付部材54を介して取り付けられている。この取付部材54は、支持板54aと、ネジ54bとを備えている。支持板54aは、上壁部53cとの間でチューブ61を挟み込むための部材である。また、ネジ54bは、支持板54aと上壁部53cとの間でチューブ61を挟み込んでいる状態において、支持板54aの孔部に差し込まれる。そして、このネジ54bを上壁部53cのネジ孔53eに捻じ込むことにより、チューブ61のうち挿通孔53aへの挿通部位よりも他端側の先端側は、上壁部53cに固定される状態となる。また、かかる固定により、他端開口部61cが上限位置Lよりも上側に位置する状態となる。
【0047】
かかる図5および図6に示すような構成を採用しても、キャップ51をノズル形成面41aに当接させ、第1吸引ポンプ62Aを作動させると共に第2吸引ポンプ62Bをリリース状態(開放状態)とする場合に、他端開口部61cから空気を取り入れることが可能となる。それにより、他端開口部61cから液体を吸い込んで、キャップ51に液体が流入してしまう(逆流してしまう)のを防止することが可能となる。
【0048】
<吸引ポンプの構成について>
図7および図8は、第1吸引ポンプ62Aおよび第2吸引ポンプ62B(吸引ポンプ62)の構成を示す図である。図7および図8に示すように、吸引ポンプ62は、ポンプフレーム621と、と、ポンプホイル622と、ローラ623とを有している。ポンプフレーム621は、有底の略筒状となる外観を呈しており、当該ポンプフレーム621の内壁621aに沿って、上述のチューブ61が略一回りするように配置されている。また、ポンプフレーム621の内部であって、チューブ61よりも内周側には、ポンプホイル622が配置されている。このポンプホイル622には、ローラ支持溝624が形成されている。ローラ支持溝624は、一端側から他端側に向かうにつれて、周方向に沿って移動しつつ内径側から外径側に向かって移動するように形成されている。なお、かかるローラ支持溝624は、略180度離間する状態で、一対設けられている。
【0049】
このローラ支持溝624には、ローラ623の支持軸623aが挿通されている。このため、ローラ623は、ローラ支持溝624に沿って移動するように設けられている。また、ポンプホイル622は、例えば紙送りモーター21の駆動によって回転させられる。ところで、ポンプホイル622が図2において時計回り(矢示Aの向き)に回転させられると、ローラ623は、ローラ支持溝624に沿ってポンプホイル622の外周側に移動する。それによって、チューブ61は、ローラ623と内壁621aとの間に挟まれて押し潰され、その連通状態が遮断される。なお、このように、ローラ623と内壁621aとの間にチューブ61が挟まれて、その連通状態が遮断されると、チューブ61の内部における空気の導通も遮断される状態となり、いわば閉弁状態となる。
【0050】
この押し潰し状態において、ポンプホイル622が回転すると、ローラ623は、チューブ61を順次押し潰しながら回転する。この回転は、チューブ61内部の空気等を下流側に押し出す向きの回転であるため、チューブ61の上流側では、負圧が生じる。そのため、チューブ61を介して、キャップ51の凹部51aに負圧を及ぼすことが可能となる。
【0051】
また、図8に示すように、ポンプホイル622が反時計周り(矢示Bの向き)に回転した場合には、ローラ623はチューブ61との摩擦力等によって、ローラ支持溝624のうち軸芯側の端部624aに押される。それにより、ローラ623はポンプホイル622の内径側に移動し、チューブ61に少しだけ接するリリース状態を保つこととなる。このリリース状態を保つことによって、チューブ61のポンプフレーム621に対しての貼り付き等の不具合が発生するのを防止することが可能となる。また、リリース状態のときには、チューブ61の内部を空気が流通可能となり、外部から大気を導入可能な大気開放状態となり、いわば開弁状態となる。
【0052】
<制御部の構成>
続いて、制御部70の構成について、図9に基づいて説明する。制御部70は、不図示のCPU、メモリー(ROM、RAM、不揮発性メモリー等)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、バス、タイマー、インターフェース78(図1参照)等を有している。
【0053】
この制御部70には、各種センサーからの信号が入力されると共に、このセンサーからの信号に基づいて、制御部70は、PFモーター21、短尺ヘッド41(ラインヘッド40)、第1吸引ポンプ62A、第2吸引ポンプ62B等の駆動を司る。
【0054】
また、上述のメモリーの中のデータ、およびプログラムがCPUで実行され、制御部70の各構成が協働することにより、機能的には、図9のブロック図に示すような構成が実現される。この図9に示すように、制御部70は、主制御部71、メモリー72、ヘッド制御部73、ポンプ制御部74、タイマー75、ヘッド駆動回路76、ポンプ駆動回路77を具備している。
【0055】
これらのうち、主制御部71は、プリンター10の全体の制御を司る部分であり、コンピューター100側(図2参照)からの所定の指令が入力されると共に、コンピューター100側に所定の指令を出力する。また、主制御部71は、メモリー72に記憶されているメンテナンステーブル72aおよび/または制御モードデータ72bを読み込む。そして、メンテナンステーブル72aおよび/または制御モードデータ72bを参照して、後述するような制御モードに関する動作を実行する。
【0056】
また、主制御部71には、タイマー75からタイマー信号が入力される。また、主制御部71は、メモリー72に記憶されている不図示のメンテナンステーブルを読み込む。そして、このメンテナンステーブルを参照することにより、いずれかのメンテナンス動作を選定する。また、主制御部71は、メモリー72から制御モードに関するプログラムおよび/またはデータを読み込むと共に、タイマー信号の入力に基づいて、制御モードを選定する。
【0057】
また、所定のレベル別のメンテナンスに関するメンテナンステーブル72aが記憶されている。このメンテナンステーブル72aには、所定の経過時間やインク消費量等に基づいて、実行すべきメンテナンス動作とその処理ランクが、マトリクス形式で記述されている。
【0058】
また、メモリー72には、制御モードに関する制御モードデータ72bが記憶されている。かかる制御モードデータ72bは、タイマー75でカウントされる時間情報に対応付けられている。また、この制御モードデータ72bは、吸引ポンプ62A,62Bのうち、いずれの吸引ポンプ62A,62Bを、現在、どのようにして用いているのかを示すデータ(たとえば、現在、吸引ポンプ62Aを作動させ、吸引ポンプ62Bを閉じ状態とすべき旨のデータ)も含まれている。ここで、制御モードデータ72bの一例としては、吸引ポンプ62A,62Bのうちの一方を駆動させて密閉空間の吸引を行いつつ、吸引ポンプ62A,62Bのうちの他方は開放状態とする第1モードと、吸引ポンプ62A,62Bのうちの他方を駆動させて密閉空間の吸引を行いつつ、吸引ポンプ62A,62Bのうちの一方は開放状態とする第2モードとがある。なお、上述の第1モードにおいては、吸引ポンプ62A,62Bのうちの他方は閉じ状態とするようにしても良い。また、上述の第2モードにおいては、吸引ポンプ62A,62Bのうちの一方は閉じ状態とするようにしても良い。
【0059】
また、上述の制御モードデータ72bは、このメンテナンステーブルに含まれるものとしても良い。
【0060】
また、ヘッド制御部73は、主制御部71からの指令に基づいて、ヘッド駆動回路76を介してラインヘッド40(短尺ヘッド41)を駆動させ、インク滴を噴射させる。ここで、ヘッド制御部73が主制御部71から受信する指令には、印刷データに基づく印字動作の指令と、上述のメンテナンステーブルに基づくメンテナンス動作の一種である、フラッシング動作の指令とが存在する。
【0061】
また、ポンプ制御部74は、主制御部71からの指令に基づいて、ラインヘッド40(短尺ヘッド41)がキャップ51で封止されている状態において、ポンプ駆動回路77を介して吸引ポンプ62A,62Bを制御駆動させ、所定のクリーニングを実行する。
【0062】
タイマー75は、不図示のクロックからの信号を受信する。そして、所定の切換周期が到来すると、その切換周期に到来したことを示すタイマー信号を、主制御部71に出力する。なお、タイマー75における計時は、プリンター10の累積的な使用時間としても良く、また、いずれかの吸引ポンプ62を作動させている時間としても良く、またプリンター10を使用して、印刷を行っている時間としても良い。
【0063】
また、ヘッド駆動回路76は、ヘッド制御部73からの指令に応じて所定の電圧を生成し、その電圧をラインヘッド40(短尺ヘッド41)内のピエゾ素子に印加する。また、ポンプ駆動回路77は、ポンプ制御部74からの指令に応じて所定の電圧を生成し、その電圧を吸引ポンプ62A,62Bに印加する。
【0064】
また、上述の制御部70は、インターフェース78を介してコンピューター100に接続されていて、通信を行う。それにより、プリンター10がコンピューター100側から印刷信号PSを受け取ると、その印刷信号PSに基づいて、プリンター10で印刷のための処理が開始される。
【0065】
<高粘度のインクの成分に関して>
次に、本実施の形態で用いる高粘度のインクの成分について説明する。本実施の形態におけるインクの組成物(インク組成物)は、着色材と、水と、アルコール溶剤と、ポリグリコール溶剤とを少なくとも含んでなるインクジェット記録用インク組成物であって、前記アルコール溶剤が、難水溶性のアルカンジオールを含み、かつ前記ポリグリコール溶剤がポリアルキレングリコールを含んでなるものである。以下、各成分について説明する。
【0066】
<定義>
本実施の形態において、アルカンジオールは、直鎖または分枝鎖のいずれであってもよい。
【0067】
また、水溶性とは、20℃での、水への溶解度(水100gに対する溶質の量)が、10.0g以上であることを意味し、難水溶性とは、水への溶解度(水100gに対する溶質の量)が、1.0g未満であることを意味する。混和性とは、20℃での、水への溶解度(水100gに対する溶質の量)が、10.0gの場合に、半透明な溶液であることを意味する。
【0068】
本実施の形態におけるインク組成物に用いられるアルコール溶剤が難水溶性のアルカンジオールを含み、かつポリグリコール溶剤がポリアルキレングリコールを含む、少なくとも二種類の有機溶剤を含む。これら二種類の有機溶剤を必須成分として含むことにより、印刷用紙において、インク組成物のビーディングが抑制され、低解像度にて印刷した場合でも、ブリーディングやビーディングのない高品質な画像が実現でき、噴射の安定性にも優れたインク組成物を実現できる。なお、本実施の形態において、ビーディングとは、面として印刷した際(例えば6インチ四方に単色(インクの色数のことではない)で印刷した際)に発生する、局所的な同系色の濃度斑のことを意味し、印刷媒体表面がインクによって被覆されない部分が残存することを意味するものではない。また、色材のブリーディングとは、各単色を隣接面として印刷した際(例えば3インチ四方に各単色を隣接面として印刷した際)に、境界線近傍において、混合色が発生してしまう現象を意味する。また、溶剤のブリーディングとは、各単色を隣接面として印刷した際(例えば3インチ四方に各単色を隣接面として印刷した際)に、境界線近傍において、溶剤の滲み出しによる色材の移動等により被覆状態が変化し、同系色の濃度斑が発生してしまう現象を意味する。
【0069】
また、本実施の形態においては、上記のような印刷媒体において、米坪が73.3〜104.7g/mまたは104.7〜209.2g/mの薄い印刷用紙等を用いた場合、好ましくは米坪が73.3〜104.7g/mの薄い印刷用紙を用いた場合であっても、印字面が内側に反り返る、いわゆるカールの発生を抑制できる。
【0070】
上記のように、難水溶性のアルカンジオールに加え、ポリアルキレングリコールを必須成分として添加することにより、ブリーディングやビーディングのない高品質な画像が実現できる理由は定かではないが、以下のように考えられる。
【0071】
印刷用紙に記録する場合に発生するインクのビーディングは、インクドットの表面張力が高いために、結果として、印刷用紙表面とインク滴との接触角が高くなり、インク滴が印刷用紙に弾かれることが原因であると考えられる。弾かれたインク滴は、隣接するインク滴と相互流動し、結合しあうので、ビーディングが発生する。よって、インクのビーディングを抑制するには、インク滴の表面張力を低くし、インク滴の流動性を抑制することが好ましいと考えられる。
【0072】
また、印刷用紙に記録する場合に発生するインクのブリーディングは、インクドットの表面張力が異なるために、印刷用紙表面に付着した表面張力の低いインクドットが、表面張力の高いインクドットに濡れ広がり、インクが流動することが原因であると考えられる。このインク流動は、隣接するインクドット同士の付着時間差や付着時の液滴の大きさなども影響すると考えられる。
【0073】
よって、インクのブリーディングを抑制するには、各々のインク滴の表面張力を全て同じにすることが好ましいと考えられる。しかしながら、隣接するインク滴同士の付着時間差や付着時の液滴の大きさまでを同じにすることは困難であるので、インク滴の流動性を低くすることが好ましいと考えられる。
【0074】
したがって、インクのビーディングとブリーディングのない、高品質な画像を実現するためには、表面張力を低くし、かつ流動性の低いインクドットを、印刷用紙に付着させることが好ましいと考えられる。
【0075】
<ポリグリコール溶剤>
本実施の形態におけるインク組成物は、ポリグリコール溶剤として、ポリアルキレングリコールを含んでなるものである。好ましくは、さらに凝集を抑制するために、水混和性のポリアルキレングリコールを含有させてもよい。
【0076】
凝集が抑制される理由は定かではないが、インク滴の乾燥工程において、水混和性のポリアルキレングリコールが、難水溶性のアルカンジオールを微細な油層に分離すると考えられる。このような分離層において、水層には水分散性の分散樹脂によって分散状態にある顔料が存在するが、油層にはそれが存在できない。水層にある顔料の流動が、この油層の壁によって抑制されると考えられる。無数の微細な油滴が水の流動性を抑制していると考えられる。
【0077】
インクが着滴した瞬間は、未だ油滴が水に分散された状態であるが、乾燥過程において、水が先に失われ、O/WからW/Oの状態に層転移すると考えられる。したがって、インク滴全体での流動性も瞬時に失われると考えられる。
【0078】
本実施の形態におけるインク組成物に含まれるポリアルキレングリコールは、特に限定されないが、好ましくはポリプロピレングリコールである。そのポリプロピレングリコールは、特に限定されないが、生態毒性や環境毒性の観点から、ジオール型であることが好ましい。また、前記ポリプロピレングリコールの重量平均分子量は、特に限定されないが、難水溶性のアルカンジオールを水層から分離させる観点から、その重量平均分子量は400〜700であることが好ましく、400であることが、より好ましい。
【0079】
本実施の形態におけるインク組成物に含まれるポリグリコール溶剤は、高温低湿放置下においても乾燥しにくいため、50℃/15%HMの目詰まり回復性も改善される。
【0080】
本実施の形態におけるポリアルキレングリコールは、インク組成物全体に対し、4〜10重量%含有されていることが好ましく、より好ましくは5〜8重量%である。4重量%以上とすることで、難水溶性のアルカンジオールをインク滴の乾燥工程で良好に油層に分離することができ好ましい。一方、10重量%以下とすることで、インクの初期粘度が高くなりすぎず、通常のインク保存状態において、油層に分離することを有効に防止でき、インクの保存性の観点から好ましい。
【0081】
<アルコール溶剤>
本実施の形態におけるインク組成物は、アルコール溶剤として、難水溶性のアルカンジオールを含んでなるものである。
【0082】
本実施の形態における難水溶性のアルカンジオールは、炭素数7以上のアルカンジオールが好ましく、より好ましくは炭素数7〜10のアルカンジオールである。さらに好ましくは難水溶性の1,2−アルカンジオールであり、ビーディングを抑制できる。難水溶性の1,2−アルカンジオールとしては、例えば、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、5−メチル−1,2−ヘキサンジオール、4−メチル−1,2−ヘキサンジオール、または4,4−ジメチル−1,2−ペンタンジオール等が挙げられる。これらの中でも、1,2−オクタンジオールがより好ましい。ビーディングを抑制することができる理由は定かではないが、インク滴の表面張力を低くすることで、ビーディングを抑制できると考えられる。
【0083】
本実施の形態における難水溶性のアルカンジオールは、インク組成物全体に対し、1〜4重量%含有されていることが好ましく、より好ましくは2〜4重量%であり、さらに好ましくは2.5〜3.5重量%である。1重量%以上とすることで、ビーディング発生の抑制を十分なものとすることができ、一方、4重量%以下とすることで、インクの初期粘度が高くなりすぎず、通常のインク保存状態において、油層に分離することを有効に防止でき、インクの保存性の観点から好ましい。
【0084】
また、必須成分である難水溶性のアルカンジオールおよびポリアルキレングリコールに加え、対称型両末端アルカンジオールを添加することにより、溶剤のブリーディング発生がさらに抑制できる。その理由は、定かではないが以下のように考えられる。
【0085】
難水溶性のアルカンジオールは、表面張力が極めて低く、蒸発乾燥性も低い為に、色材の動きが止まった後も、インク溶液の濡れ拡がりが継続していると考えられる。よって、単位面積あたりのインク付着量の差異が大きい分布を有する記録画像の場合、インク付着量が多い部分から少ない部分への溶剤の滲み出しが発生する。このような溶剤のブリーディングを抑制するには、表面張力が高い対象型両末端アルカンジオールを添加することが好ましい。
【0086】
この対称型両末端アルカンジオールの含有量が少なすぎると、インク付着量の差異が大きい分布を有する記録画像の場合、溶剤のブリーディングをさらに抑制できない場合がある。また、対称型両末端アルカンジオールの含有量が多すぎると、難水溶性のアルカンジオールを溶解し過ぎてしまい、ビーディングがさらに抑制できない場合がある。理由は定かではないが、対称型両末端アルカンジオールは、難水溶性のアルカンジオールとポリアルキレングリコールとを溶解する能力が高いため、インク滴の乾燥工程において、水混和性のポリアルキレングリコールが、難水溶性のアルカンジオールを微細な油層に分離することを阻害するためと考えられる。
【0087】
本実施の形態における水溶性の対称型両末端アルカンジオールは、インク組成物全体に対し、0.1〜4重量%含有されていることが好ましく、より好ましくは、0.6〜1.4重量%である。0.1重量%以上とすることで、噴射安定性を十分なものとすることができ、またワイピング耐久性が劣化しないため好ましい。ワイピング性能とは、クリーニング操作を繰り返し実施した場合に発生する、インクノズルの周辺面の撥水劣化に起因するインク滴の着弾精度劣化を意味する。理由は定かではないが、難水溶性のアルカンジオールとポリアルキレングリコールとが、インクノズルの周辺面に析出していると考えられる。一方、4重量%以下とすることで、難水溶性のアルカンジオールとポリアルキレングリコールとを過度に溶解しないため好ましい。
【0088】
本実施の形態において使用する水溶性の対称型両末端アルカンジオールは、水溶性の対称型両末端アルカンジオールはグリセリンよりも低い表面張力を示す浸透性湿潤剤である。例えば、10%水溶液とした場合の1,6−ヘキサンジオールの表面張力は41.5mN/mであり、また、10%水溶液とした場合の2−メチル−1,3−プロパンジオールの表面張力は57.5mN/mであり、また、10%水溶液とした場合の3−メチル−1,5−ブタンジオールの表面張力は45.8mN/mである。
【0089】
また、本実施の形態における水溶性の対称型両末端アルカンジオールとしては、主鎖の炭素数が3以上のアルカンジオールが好ましく、より好ましくは主鎖の炭素数が4〜6である。また、水溶性の対称型両末端アルカンジオールは、分枝鎖を有していても良い。なお、本明細書中、「対称型」とは、アルキル鎖の両末端に水酸基を有するアルカンジオールにおいて、1,5−ペンタンジオールのように、両水酸基から等距離にある炭素を対称軸とする、両末端アルカンジオールを意味する。本実施の形態における水溶性の対称型両末端アルカンジオールとして、より好ましくは2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールである。これらの中でも、噴射安定性の観点からは、炭素数の多い水溶性の対称型両末端アルカンジオールが好ましく用いられる。炭素数が6の水溶性の対称型両末端アルカンジオール、例えば、3−メチル−1,5−ペンタンジオールおよび1,6−ヘキサンジオールは、難水溶性のアルカンジオールを水に溶解させる能力に優れるため、噴射安定性が向上する。
【0090】
特に、1,6−ヘキサンジオールは、水易溶性であり、常温において固形であることから、目詰まり回復性の能力に優れるため、より好ましい。理由は定かではないが、ノズル近傍の固形化インクに、水易溶性の固形の1,6−ヘキサンジオールが含有されることにより、クリーニング操作によって、液体のインクが接触した際に、1,6−ヘキサンジオールの溶解が目詰まり回復のきっかけになると考えられる。
【0091】
本実施の形態におけるアルコール溶剤とポリグリコール溶剤において、前記水溶性の対称型両末端アルカンジオールとポリアルキレングリコールとの含有量比が、1:1〜1:100であることが好ましい。この範囲とすることにより、重量平均分子量2000以下の前記ポリアルキレングリコールをインク中に安定的に溶解させることができ、噴射安定性が向上する。水溶性対称型両末端アルカンジオールの割合が上記範囲よりも多くなると、インク初期粘度の低減とビーディング斑低減が困難になる。一方、水混和性の水溶性対称型両末端アルカンジオールの割合が上記範囲よりも少なくなると、ポリアルキレングリコールをインク中に安定的に溶解させることが困難となり、経過時の粘度変化を抑制したり保存安定性を維持したりすることが困難となる。また、ワイピング耐久性が劣化する。
【0092】
上記範囲内において、水溶性対称型両末端アルカンジオールの割合が少ない場合は、ポリアルキレングリコールの分子量は、700以下であることが、ワイピング耐久性の観点から、より好ましい。
【0093】
また、本実施の形態における水溶性の対称型両末端アルカンジオールと難水溶性のアルカンジオールとの含有量比は、それぞれ1:80〜4:1であることが好ましく、より好ましくはそれぞれ1:40〜2:1である。この範囲とすることにより、インクの噴射安定性を向上させることができる。水溶性の対称型両末端アルカンジオールの割合が上記範囲よりも多くなると、インク初期粘度が高くなり、ビーディング斑低減が困難になる。一方、水溶性対称型両末端アルカンジオールの割合が上記範囲よりも少なくなると、難水溶性のアルカンジオールをインク中に安定的に溶解させることが困難となり、経過時の粘度変化を抑制したり保存安定性を維持したりすることが困難となる。また、本実施の形態における水溶性の対称型両末端アルカンジオールと難水溶性のアルカンジオールとの含有量比を上記範囲内とすることにより、ワイピング耐久性が向上する。
【0094】
さらに、本実施の形態における難水溶性のアルカンジオールとポリアルキレングリコールとの含有量比が、それぞれ1:1〜1:10であることが好ましく、より好ましくはそれぞれ1:1〜1:5である。この範囲とすることにより、インクの噴射安定性を向上させることができる。
【0095】
また、前記対称型両末端アルカンジオールをX、前記難水溶性のアルカンジオールをY、前記ポリアルキレングリコールをZとした場合に、含有量比が、X:(Y+Z)=1:140〜4:5が好ましい。この範囲にすることで、噴射安定性と保存安定性、ワイピング耐久性を確保できる。また、理由は定かではないが、乾燥過程において、水が先に失われ、O/WからW/Oの状態に層転移する機構が発現できると考えられる。上記範囲内であり、かつ、X:Y=1:80〜4:1の範囲内において、難水溶性のアルカンジオールの割合が多い場合は、ポリアルキレングリコールの分子量は、700以下であることが、ワイピング耐久性の観点で、より好ましい。
【0096】
このような層転移は、乾燥過程において、低分子量の水は即座に乾燥するが、難水溶性のアルカンジオールとポリアルキレングリコールとは、乾燥しないで残るために発現すると考えられる。顔料に吸着した樹脂は、流動性に優れた分散状態から、急激に水が失われるのと同時に、油層に取り残されるので、凝集状態の高粘調性の樹脂に変化すると考えられる。
【0097】
また、本実施の形態における難水溶性のアルカンジオールとポリアルキレングリコールとの含有量の和が、インク組成物に対し14重量%以下であることが好ましい。この範囲とすることにより、インクの初期粘度を低く抑えられ、印刷用紙のようなインク吸収性の低い印刷媒体においてビーディングを生じることなく、色材のブリーディングにも優れる。
【0098】
また、本実施の形態においては、難水溶性のアルカンジオールと、ポリアルキレングリコールと、水溶性の対称型両末端アルカンジオールとの含有量の和が、インク組成物に対し18重量%以下であることが好ましい。この範囲とすることにより、インクの初期粘度を低く抑えられ、印刷用紙のようなインク吸収性の低い印刷媒体においてビーディング斑を生じることなく、色材のブリーディングだけでなく、溶剤のブリーディングにも優れる。特に、溶剤のブリーディングに優れるので、水の吸収能力が殆どない、合成紙への記録性に優れる。
【0099】
本実施の形態におけるアルコール溶剤として、更に1,2−ヘキサンジオールを0.1〜4重量%含んでなることが好ましい。1,2−ヘキサンジオールを0.1〜4重量%含むことにより、さらにブリーディングやビーディングのない高品質な画像が実現できる。また、顔料種や樹脂量により噴射性能が異なる場合の調整剤として効果的である。
【0100】
また、本実施の形態におけるアルコール溶剤として、更に4−メチル−1,2−ペンタンジオールを0.1〜4重量%含んでなることが好ましい。1,2−ヘキサンジオールを0.1〜4重量%含むことにより、さらにブリーディングやビーディングのない高品質な画像が実現できる。また、顔料種や樹脂量により噴射性能が異なる場合の調整剤として効果的である。
【0101】
<着色材>
本実施の形態におけるインクジェット記録用インク組成物に用いられる着色材(色剤)としては、染料および顔料のいずれも使用することができるが、耐光性や耐水性の観点から顔料を好適に使用できる。
【0102】
顔料としては、無機顔料および有機顔料を使用することができ、それぞれ単独または複数種を混合して用いることができる。前記無機顔料としては、例えば、酸化チタンおよび酸化鉄の他に、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造されたカーボンブラックが使用できる。また、前記有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等を含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料等)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等が使用できる。
【0103】
顔料の具体例は、得ようとするインク組成物の種類(色)に応じて適宜挙げられる。例えば、イエローインク組成物用の顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1,2,3,12,14,16,17,73,74,75,83,93,95,97,98,109,110,114,128,129,138,139,147,150,151,154,155,180,185等が挙げられ、これらの1種または2種以上が用いられる。これらのうち、特にC.I.ピグメントイエロー74,110,128、および129からなる群から選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましい。また、マゼンタインク組成物用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド5,7,12,48(Ca),48(Mn),57(Ca),57:1,112,122,123,168,184,202,209;C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられ、これらの1種または2種以上が用いられる。これらのうち、特にC.I.ピグメントレッド122,202,209、およびC.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましく、これらの固溶体であってもよい。また、シアンインク組成物用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー1,2,3,15:3,15:4,15:34,16,22,60;C.I.バットブルー4,60等が挙げられ、これらの1種または2種以上が用いられる。これらのうち、特にC.I.ピグメントブルー15:3および/または15:4を用いることが好ましく、とりわけ、C.I.ピグメントブルー15:3を用いることが好ましい。
【0104】
また、ブラックインク組成物用の顔料としては、例えば、ランプブラック(C.I.ピグメントブラック6)、アセチレンブラック、ファーネスブラック(C.I.ピグメントブラック7)、チャンネルブラック(C.I.ピグメントブラック7)、カーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)等の炭素類、酸化鉄顔料等の無機顔料;アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料等が挙げられるが、本実施の形態においては、カーボンブラックが好ましく用いられる。カーボンブラックとして、具体的には、#2650、#2600、#2300、#2200、#1000、#980、#970、#966、#960、#950、#900、#850、MCF-88、#55、#52、#47、#45、#45L、#44、#33、#32、#30、(以上、三菱化学(株)製)、SpecialBlaek4A、550、Printex95、90、85、80、75、45、40(以上、デグッサ社製)、Regal660、RmogulL、monarch1400、1300、1100、800、900(以上、キャボット社製)、Raven7000、5750、5250、3500、3500、2500ULTRA、2000、1500、1255、1200、1190ULTRA、1170、1100ULTRA、Raven5000UIII、(以上、コロンビアン社製)等が挙げられる。
【0105】
顔料の濃度は、インク組成物を調製した際に適宜な顔料濃度(含有量)に調整すればよいため特に限定されないが、本実施の形態においては、顔料の固形分濃度を7重量%以上とすることが好ましく、10重量%以上とすることがより好ましい。印刷媒体上にインク液滴が付着すると、印刷媒体の表面でインクが濡れ拡がるが、顔料固形濃度を7%重量%以上と高くすることにより、濡れ拡がりが留まった後のインクの流動性が早期に失われるため、印刷用紙等の印刷媒体に低解像度で印刷した場合に、より滲みを抑制することができる。すなわち、上記した特定の二種の有機溶剤を組み合わせて使用することにより、インク吸収性の低い印刷媒体上でもインクが濡れ拡がり、併せて、インクの固形分濃度を高くすることにより、印刷媒体上でのインクの流動性を下げて、滲みを抑制することができると考えられる。特に、インク滴の1滴の重量が6ng以上の場合において、ビーディングとブリーディングの抑制効果が顕著である。
【0106】
前記顔料は、後記する分散剤との混練処理がされた顔料であることが画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点から好ましい。
【0107】
<分散剤>
本実施の形態におけるインク組成物は、着色材を分散させるための分散剤としては、スチレン−アクリル酸系共重合樹脂、オキシエチルアクリレート系樹脂、ウレタン系樹脂、およびフルオレン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含んでなることが好ましく、より好ましくは、オキシエチルアクリレート系樹脂およびフルオレン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含んでなる。これら共重合樹脂は、顔料に吸着して分散性を向上させる。
【0108】
共重合体樹脂における疎水性モノマーの具体例としては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、iso−プロピルアクリレート、iso−プロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、sec−ブチルアクリレート、sec−ブチルメタクリレート、tert−ブチルアクリレート、tert−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルアクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、n−オクチルアクリレート、n−オクチルメタクリレート、iso−オクチルアクリレート、iso−オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ジメチルアミノエチルアクリレート、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2−ジエチルアミノエチルアクリレート、2−ジエチルアミノエチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルアクリレート、フエニルメタクリレート、ノニルフェニルアクリレート、ノニルフェニルメタクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルメタクリレート、ボルニルアクリレート、ボルニルメタクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、グリセロールアクリレート、グリセロールメタクリレート、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、ヒドロキシエチル化オルトフェニルフェノールアクリレートなどを挙げることができる。これらは、単独でまたは2種以上を混合して用いてもよい。
【0109】
親水性モノマーの具体例としては、たとえばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などを挙げることができる。
【0110】
前記疎水性モノマーと親水性モノマーとの共重合樹脂は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合樹脂、スチレン−メチルスチレン−(メタ)アクリル酸共重合樹脂、またはスチレン−マレイン酸共重合樹脂、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂、またはスチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂、ヒドロキシエチル化オルトフェニルフェノールアクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合樹脂の少なくともいずれかであることが好ましい。
【0111】
前記共重合樹脂は、スチレンと、アクリル酸またはアクリル酸のエステルと、を反応して得られる重合体を含む樹脂(スチレン−アクリル酸樹脂)であってもよい。あるいは、前記共重合樹脂は、アクリル酸系水溶性樹脂であってもよい。またはこれらのナトリウム、カリウム、アンモニウム、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン等の塩であってもよい。
【0112】
前記共重合樹脂の酸価は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは50〜320であり、一層好ましくは100〜250である。
【0113】
前記共重合樹脂の重量平均分子量(Mw)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは2,000〜3万であり、より好ましくは2,000〜2万である。
【0114】
前記共重合樹脂のガラス転移温度(Tg;JISK6900に従い測定)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは30℃以上であり、一層好しくは50〜130℃である。
【0115】
前記共重合樹脂は、顔料分散液中において顔料に吸着している場合と、遊離している場合とがあり、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記共重合樹脂の最大粒径は0.3μm以下であることが好ましく、平均粒径は0.2μm以下(さらに好ましくは0.1μm以下)であることが一層好ましい。なお、平均粒径とは、顔料が実際に分散液中で形成している粒子としての分散径(累積50%径)の平均値であり、例えば、マイクロトラックUPA(MicrotracInc.社)を使用して測定することができる。
【0116】
前記共重合樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100重量部に対して、好ましくは20〜50重量部であり、一層好ましくは20〜40重量部である。
【0117】
本実施の形態においては、前記共重合樹脂として、オキシエチルアクリレート系樹脂を使用することもできる。使用することにより、インクの初期粘度の低減、高温時の保存安定性、目詰まり回復性に優れるので、より好ましい。
【0118】
上記オキシエチルアクリレート系樹脂は、特に限定されないが、好ましくは下記式(I)で表される化合物である。下記式(I)で表される化合物は、例えば、モノマーモル比として、CAS No.72009−86−0のオルト-ヒドロキシエチル化フェニルフェノールアクリレートを45〜55%と、CAS No.79−10−7のアクリル酸を20〜30%と、CAS No.79−41−4のメタクリル酸を20〜30%と含む樹脂が挙げられる。これらは、単独でもまたは二種以上を混合して用いてもよい。また、上記モノマー構成比は、特に限定されないが、好ましくはCAS No.72009−86−0のオルト-ヒドロキシエチル化フェニルフェノールアクリレートが70〜85%、CAS No.79−10−7のアクリル酸が5〜15%、CAS No.79−41−4のメタクリル酸が10〜20%である。
【0119】
【化1】

(R1および/またはR3は水素原子またはメチル基であって、R2はアルキル基またはアリール基である。nは1以上の整数である。)
【0120】
上記式(I)で表される化合物は、好ましくはノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレートまたはポリプロピレングリコール#700アクリレート等が挙げられる。
【0121】
前記オキシエチルアクリレート系樹脂の含有量は、インク組成物の初期粘度およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに、凝集斑を抑制し、埋まり性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100重量部に対して、好ましくは10〜40重量部であり、一層好ましくは15〜25重量部である。
【0122】
前記オキシエチルアクリレート系樹脂に占めるアクリル酸とメタクリル酸の群から選ばれる水酸基を有するモノマー由来の樹脂構成比の合計は、インク組成物の初期粘度およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに、目詰まり回復性の観点からは、好ましくは30〜70%であり、一層好ましくは40〜60%である。
【0123】
前記オキシエチルアクリレート系樹脂の架橋前の数平均分子量(Mn)は、インク組成物の初期粘度およびインク組成物の保存安定性を両立する観点からは、好ましくは4000〜9000であり、より好ましくは5000〜8000である。Mnは、例えば、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定する。
【0124】
前記オキシエチルアクリレート系樹脂は、顔料分散液中において顔料に吸着している場合と、遊離している場合とがあり、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記共重合樹脂の最大粒径は0.3μm以下であることが好ましく、平均粒径は0.2μm以下(さらに好ましくは0.1μm以下)であることが一層好ましい。なお、平均粒径とは、顔料が実際に分散液中で形成している粒子としての分散径(累積50%径)の平均値であり、例えば、マイクロトラックUPA(MicrotracInc.社)を使用して測定することができる。
【0125】
前記オキシエチルアクリレート系樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100重量部に対して、好ましくは20〜50重量部であり、一層好ましくは20〜40重量部である。
【0126】
また、本実施の形態においては、定着性顔料分散剤として、ウレタン系樹脂を用いることにより、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる。ウレタン系樹脂とは、ジイソシアネート化合物と、ジオール化合物とを反応して得られる重合体を含む樹脂であるが、本実施の形態においては、ウレタン結合および/またはアミド結合と、酸性基とを有する樹脂であることが好ましい。
【0127】
ジイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート化合物、トルイレンジイソシアネート、フェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物、これらの変性物が挙げられる。
【0128】
ジオール化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル系、ポリエチレンアジベート、ポリブチレンアジベート等のポリエステル系、ポリカーボネート系が挙げられる。
【0129】
前記ウレタン系樹脂の酸価は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは10〜300であり、一層好ましくは20〜100である。なお、酸価は、樹脂1gを中和させるのに必要なKOHのmg量である。
【0130】
前記ウレタン樹脂の架橋前の重量平均分子量(Mw)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは100〜20万であり、より好ましくは1000〜5万である。Mwは、例えば、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定する。
【0131】
前記ウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg;JISK6900に従い測定)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは−50〜200℃であり、一層好ましくは−50〜100℃である。
【0132】
前記ウレタン系樹脂は、カルボキシル基を有することが好ましい。
【0133】
前記ウレタン系樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100重量部に対して、好ましくは20〜50重量部であり、一層好ましくは20〜40重量部である。
【0134】
さらに、本実施の形態においては、定着性顔料分散剤として、フルオレン系樹脂を使用することもできる。使用することにより、インクの初期粘度の低減、高温時の保存安定性、印刷用紙への定着性に優れるので、より好ましい。
【0135】
また、前記フルオレン系樹脂は、フルオレン骨格を有する樹脂であれば何ら制限されるものではなく、例えば、下記のモノマー単位を共重合することにより得ることができる。
シクロヘキサン、5−イソシアネート−1−(イソシアネートメチル)−1,3,3−トリメチル(CAS No.4098−71−9)
エタノール、2,2‘−[9H−フルオレン−9−イリデンビス(4,1−フェニレンオキシ)]ビス(CAS No.117344−32−8)
プロピオン酸、3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチル(CAS No.4767−03−7)
エタンアミン、N,N−ジエチル−(CAS No.121−44−8)
【0136】
上記フルオレン系樹脂は、特に限定されないが、例えば、モノマー構成比は、特に限定されないが、好ましくはCAS No.4098−71−9が35〜45%、CAS No.117344−32−8が40〜50%、CAS No.4767−03−7が5〜15%、CAS No.121−44−8が5〜10%である。
【0137】
前記フルオレン系樹脂の架橋前の数平均分子量(Mn)は、インク組成物の初期粘度およびインク組成物の保存安定性を両立する観点からは、好ましくは2000〜5000であり、より好ましくは3000〜4000である。Mnは、例えば、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定する。
【0138】
前記フルオレン系樹脂は、顔料分散液中において顔料に吸着している場合と、遊離している場合と、があり、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記共重合樹脂の最大粒径は0.3μm以下であることが好ましく、平均粒径は0.2μm以下(さらに好ましくは0.1μm以下)であることが一層好ましい。なお、平均粒径とは、顔料が実際に分散液中で形成している粒子としての分散径(累積50%径)の平均値であり、例えば、マイクロトラックUPA(MicrotracInc.社)を使用して測定することができる。
【0139】
前記フルオレン系樹脂の含有量は、カラー画像の定着性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層定着性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100重量部に対して、好ましくは20〜50重量部であり、一層好ましくは20〜40重量部である。
【0140】
前記共重合樹脂および前記定着性顔料分散剤の重量比(前者/後者)は、1/2〜2/1が好ましいが、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、1/1.5〜1.5/1であることが一層好ましい。
【0141】
前記顔料の固形分と、前記共重合樹脂および前記定着性顔料分散剤の固形分との重量比(前者/後者)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、100/40〜100/100であることが好ましい。
【0142】
また、分散剤として、界面活性剤を用いてもよい。このような界面活性剤としては、脂肪酸塩類、高級アルキルジカルボン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩類、高級アルキルスルホン酸塩、高級脂肪酸とアミノ酸の縮合物、スルホ琥珀酸エステル塩、ナフテン酸塩、液体脂肪油硫酸エステル塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類などの陰イオン界面活性剤;脂肪酸アミン塩、第四アンモニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウムなどの陽イオン界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類などの非イオン性界面活性剤等を挙げることができる。上記した界面活性剤はインク組成物に添加されることで、界面活性剤としての機能をも果たすことは言うまでもない。
【0143】
<界面活性剤>
本実施の形態におけるインクジェット記録用インク組成物は、界面活性剤を含んでもよい。印刷媒体として、その表面にインクを受容するための樹脂がコーティングされたものに対して、界面活性剤を用いることにより、光沢感がより重視される写真紙等の印刷媒体においても、優れた光沢を有する画像を実現することができる。とりわけ、印刷用紙のように、表面の受容層に油性インクを受容するための塗布層が設けられているような印刷媒体を用いた場合であっても、色間の滲み(ブリーディング)を防止できるとともに、インク付着量の増加に伴い発生する光の反射光による白化を防止することができる。
【0144】
本実施の形態において用いられる界面活性剤としては、ポリオルガノシロキサン系界面活性剤を好適に使用でき、記録画像を形成する際に、印刷媒体表面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。ポリオルガノシロキサン系界面活性剤を用いた場合、上記したような1種類のアルコール溶剤と1種類のポリグリコール溶剤を含有するため、界面活性剤のインク中への溶解性が向上し、不溶物等の発生を抑制できるため、噴射安定性がより優れるインク組成物を実現できる。
【0145】
上記のような界面活性剤は市販されているものを用いてもよく、例えば、オルフィンPD−501(日信化学工業株式会社製)、オルフィンPD−570(日信化学工業株式会社製)、BYK−347(ビックケミー株式会社製)、BYK−348(ビックケミー株式会社製)等を用いることができる。
【0146】
また、ポリオルガノシロキサン系界面活性剤として、下記式(II):
【化2】

(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、aは7〜11の整数を表し、mは30〜50の整数を表し、nは3〜5の整数を表す。)
で表される一種または二種以上の化合物を含んでなるか、または、上記式(II)の化合物において、式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、aは9〜13の整数を表し、mは2〜4の整数を表し、nは1〜2の整数である一種または二種以上の化合物を含んでなることがより好ましい。また、上記式(II)の化合物において、Rは水素原子またはメチル基を表し、aは6〜18の整数を表し、mは0の整数を表し、nは1の整数である一種または二種以上の化合物を含んでなることがより好ましい。このような特定のポリオルガノシロキサン系界面活性剤を使用することにより、印刷媒体として印刷用紙に印刷した場合であっても、インクのビーディングとブリーディングがより改善される。
【0147】
上記式(II)の化合物においては、Rがメチル基の化合物を使用することによって、さらにインクのビーディングが改善できる。
【0148】
また、上記式(II)の化合物においては、Rが水素原子の化合物を併用することにより、さらにインクのブリーディングが改善できる。
【0149】
上記界面活性剤は、本実施の形態におけるインク組成物中に、好ましくは0.01〜1.0重量%、より好ましくは0.05〜0.50重量%含有される。特に、Rがメチル基である上記界面活性剤を使用する場合は、RがHである上記界面活性剤を用いた場合よりも、含有量を多くすることが好ましい。
【0150】
本実施の形態におけるインク組成物には、その他の界面活性剤、具体的には、アセチレングリコール系界面活性剤、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤等をさらに添加しても良い。
【0151】
これらのうち、アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、または3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オール、2,4−ジメチル−5−ヘキシン−3−オールなどが挙げられる。また、アセチレングリコール系界面活性剤は市販品も利用することができ、例えば、オルフィンE1010、STG、Y(商品名、日信化学社製)、サーフィノール61、104,82,465,485あるいはTG(商品名、Air Products and Chemicals Inc.製)が挙げられる。
【0152】
<水、その他の成分>
本実施の形態におけるインク組成物は、上記した特定のアルコール溶剤、特定のポリグリコール溶剤、および界面活性剤、その他の各種添加剤を含有するとともに、溶媒として水を含有する。水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を、紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、長期間に亘ってカビやバクテリアの発生が防止されるので好ましい。
【0153】
また、本実施の形態におけるインク組成物は、上記成分に加えて、浸透剤を含んでなることが好ましい。
【0154】
浸透剤としては、グリコールエーテル類を好適に使用できる。
【0155】
グリコールエーテル類の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノールなどが挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物として用いることができる。
【0156】
上記グリコールエーテル類のなかでも、多価アルコールのアルキルエーテルが好ましく、特にエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルまたはトリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルが好ましい。より好ましくは、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルである。
【0157】
上記浸透剤の添加量は適宜決定されてよいが、0.1〜30重量%程度が好ましく、より好ましくは1〜20重量%程度である。
【0158】
また、本実施の形態におけるインク組成物は、上記成分に加えて、印刷媒体溶解剤を含んでなることが好ましい。
【0159】
印刷媒体溶解剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの、ピロリドン類を好適に使用できる。上記印刷媒体溶解剤の添加量は適宜決定されてよいが、0.1〜30重量%程度が好ましく、より好ましくは1〜20重量%程度である。
【0160】
また、本実施の形態におけるインクジェット記録用インク組成物においては、湿潤剤を実質的に含まないことが好ましい。湿潤剤は、インクジェットノズル等において、インクが乾燥して固化するのを防ぐ機能を有するものであるため、インク吸収性能が特に低い合成紙にインクを滴下すると、インクが乾燥せず、高速印刷の際に問題となる場合がある。また、湿潤剤は含まれるインクを用いた場合、吸収されないインクが印刷媒体表面に存在している状態で、次のインクが印刷媒体上に付着するため、ビーディング斑が発生する場合がある。そのため、本実施の形態においては、このようなインク吸収性能が特に低い印刷媒体を用いる場合に、湿潤剤を実質的に含まないことが好ましい。なお、ノズル42においてインクが乾燥固化してしまった場合であっても、湿潤剤を含む溶液を適用することにより、固化したインクを再溶解させることができる。
【0161】
特に、本実施の形態においては、25℃における蒸気圧が2mPa以下である湿潤剤を、実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、これら湿潤剤の添加量が、インク組成物に対して1重量%未満であることを意味する。
【0162】
25℃における蒸気圧が2mPa以下である湿潤剤の含有量が、インクに対して1重量%未満となることにより、印刷用紙等のインク吸収性の低い印刷媒体だけでなく、インク吸収能のまったくない金属やプラスチックに対しても、インクジェット記録方式により印刷することが可能となる。なお、上記した浸透溶剤の一部は、湿潤剤としても作用することは、当業者にとって明らかであるが、本明細書においては、上記した浸透溶剤は、湿潤剤には含まれないものとする。また、本明細書においては、上記したアルコール溶剤およびポリグリコール溶剤は、湿潤剤に含まれないものとする。
【0163】
湿潤剤としては、通常のインクジェット記録用のインクに用いられている湿潤剤が挙げられ、具体的には、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン等が挙げられる。本実施の形態の好ましい態様としては、インク組成物に対して、グリセリンを0.1〜8重量%以下含んでなる。印刷媒体が、インク吸収性能の特に低い印刷用紙等の場合には、適宜、これら湿潤剤を添加することができる。
【0164】
本実施の形態におけるインク組成物は、さらにノズルの目詰まり防止剤、防腐剤、酸化防止剤、導電率調整剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、酸素吸収剤などを添加することができる。
【0165】
防腐剤・防かび剤の例としては、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジンチアゾリン−3−オン(ICI社のプロキセルCRL、プロキセルBND、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)等を挙げることができる。
【0166】
さらに、pH調整剤、溶解助剤、または酸化防止剤の例として、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、モルホリンなどのアミン類およびそれらの変成物、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどの無機塩類、水酸化アンモニウム、四級アンモニウム水酸化物(テトラメチルアンモニウムなど)、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムなどの炭酸塩類その他燐酸塩など、あるいはN−メチル−2−ピロリドン、尿素、チオ尿素、テトラメチル尿素などの尿素類、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類など、L−アスコルビン酸およびその塩を挙げることができる。
【0167】
また、本実施の形態におけるインク組成物は、酸化防止剤および紫外線吸収剤を含んでいてもよく、その例としては、チバ・スペシャリティーケミカルズ社のTinuvin
328、900、1130、384、292、123、144、622、770、292、Irgacor 252 153、Irganox 1010、1076、1035、MD1024、ランタニドの酸化物等を挙げることができる。
【0168】
本実施の形態におけるインク組成物は、上記の各成分を適当な方法で分散・混合することよって製造することができる。好ましくは、まず顔料と高分子分散剤と水とを適当な分散機(例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータミル、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、ジェットミル、オングミルなど)で混合し、均一な顔料分散液を調製し、次いで、別途調製した樹脂(樹脂エマルジョン)、水、水溶性有機溶媒、糖、pH調製剤、防腐剤、防かび剤等を加えて十分溶解させてインク溶液を調製する。十分に攪拌した後、目詰まりの原因となる粗大粒径および異物を除去するためにろ過を行って目的のインク組成物を得ることができる。
【実施例】
【0169】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、これら実施例により本発明が限定されるものではない。
【0170】
<インク組成物の調製>
下記表1の組成に従い各成分を混合し、10μmのメンブランフィルターでろ過することにより、各インクを調製した。なお、表中のオキシエチルアクリレート系樹脂は、CAS No.72009−86−0で示されるオキシエチルアクリレート構造を有するモノマーをモノマー構成比率略75重量%含有する、分子量6900の樹脂である。
フルオレン系樹脂は、CAS No.117344−32−8で示されるフルオレン骨格を有するモノマーをモノマー構成比率略50重量%含有する、分子量3300の樹脂である。
さらに、用いた界面活性剤は、ポリオルガノシロキサン系界面活性剤であり、上記の式(II)において、Rがメチル基であり、aが6〜18の整数であり、mが0の整数であり、nが1の整数である化合物と、上記の式(II)において、Rが水素原子であり、aが7〜11の整数であり、mが30〜50の整数であり、nが3〜5の整数である化合物と、上記の式(II)において、Rがメチル基であり、aが9〜13の整数であり、mが2〜4の整数であり、nが1〜2の整数である化合物とからなる界面活性剤である。
【0171】
<表1>

<表1(つづき)>

<表1(つづき)>

【0172】
実施例9〜16および比較例2
また、上記の実施例1〜8のインクセットおよび比較例1のインクセットのアルコール溶剤である1,2−オクタンジオールを2重量%から4重量%に変更した以外は同様にして、実施例9〜16および比較例2のインクセットを調製した。
【0173】
実施例17〜32
さらに、上記の実施例1〜16のインクセットのポリグリコール溶剤であるジオール型のポリプロピレングリコール(重量平均分子量400)(和光純薬工業株式会社製)を、ジオール型のポリプロピレングリコール(重量平均分子量1000)(和光純薬工業株式会社製)に変更した以外は同様にして、実施例17〜32のインクセットを調製した。
【0174】
実施例33〜48
また、上記の実施例1〜16のインクセットのアルコール溶剤である1,2−オクタンジオールを2重量%または4重量%から1重量%に変更した以外は同様にして、実施例33〜48のインクセットを調製した。
【0175】
さらに、上記の比較例1のアルコール溶剤である1,2−オクタンジオールを2重量%から1重量%に変更した以外は同様にして、比較例3のインクセットを調製した。
【0176】
<評価>
インクブリーディング(画質)の評価(その1)(ブリーディング1)
上記で得られたY、M、C、およびKの各インクをインクセットとして、インクジェットプリンター(PX−G920、セイコーエプソン社製)のインクカートリッジに装着し、主走査(ヘッド駆動)方向に720dpiでかつ副走査(記録媒体搬送)方向に360dpiで記録できるようにした。次に、着弾時のドットサイズが概ね7ngになるようにプリンタヘッドのピエゾ素子に与える電圧を調整し、一駆動が720×360dpiで、約128g/平米のOKT+(王子製紙株式会社製)に、720×720dpiのベタ画像を記録した。記録は、低温高湿(15℃、65%湿度)環境下において実施した。この際、単色のDuty100%のインク付着量は概ね3.6mg/inch平米であった。なお、記録用紙と記録ヘッドとの間の距離は3mmであった。
記録画像は、Duty60%同士のDuty120%の2次色に、Duty60%の1次色の2〜8ピクセル罫線を接触させた画像である。
【0177】
得られた画像について、下記の基準により評価を行った。
A:2/720インチの罫線がブリーディングなく、再現できている。
B:4/720インチの罫線がブリーディングなく、再現できているが、2/720インチの罫線がブリーディングして、再現できていない。
C:6/720インチの罫線がブリーディングなく、再現できているが、4/720インチの罫線がブリーディングして、再現できていない。
D:8/720インチの罫線がブリーディングして、再現できていない。
評価結果は、下記の表2に示される通りであった。
【0178】
インクブリーディング(画質)の評価(その2)(ブリーディング2)
上記で得られたY、M、C、およびKの各インクをインクセットとして、インクジェットプリンター(PX−G920、セイコーエプソン社製)のインクカートリッジに装着し、主走査(ヘッド駆動)方向に720dpiでかつ副走査(記録媒体搬送)方向に360dpiで記録できるようにした。次に、着弾時のドットサイズが概ね7ngになるようにプリンタヘッドのピエゾ素子に与える電圧を調整し、一駆動が720×360dpiで、約128g/平米のOKT+(王子製紙株式会社製)に、720×720dpiのベタ画像を記録した。記録は、低温高湿(15℃、65%湿度)環境下において実施した。この際、単色のDuty100%のインク付着量は概ね3.6mg/inch平米であった。なお、記録用紙と記録ヘッドとの間の距離は3mmであった。
記録画像は、Duty60%同士のDuty180%の3次色に、Duty60%の1次色の2〜8ピクセル罫線を接触させた画像である。
【0179】
得られた画像について、下記の基準により評価を行った。
A:2/720インチの罫線がブリーディングなく、再現できている。
B:4/720インチの罫線がブリーディングなく、再現できているが、2/720インチの罫線がブリーディングして、再現できていない。
C:6/720インチの罫線がブリーディングなく、再現できているが、4/720インチの罫線がブリーディングして、再現できていない。
D:8/720インチの罫線がブリーディングして、再現できていない。
【0180】
インクブリーディング(画質)の評価(その3)(ブリーディング3)
上記で得られたY、M、C、およびKの各インクをインクセットとして、インクジェットプリンター(PX−G920、セイコーエプソン社製)のインクカートリッジに装着し、主走査(ヘッド駆動)方向に720dpiでかつ副走査(記録媒体搬送)方向に360dpiで記録できるようにした。次に、着弾時のドットサイズが概ね3ngになるようにプリンタヘッドのピエゾ素子に与える電圧を調整し、一駆動が720×360dpiで、約128g/平米のOKT+(王子製紙株式会社製)に、720×720dpiのベタ画像を記録した。記録は、低温高湿(15℃、65%湿度)環境下において実施した。この際、単色のDuty100%のインク付着量は概ね1.6mg/inch平米であった。なお、記録用紙と記録ヘッドとの間の距離は3mmであった。
記録画像は、Duty60%同士のDuty120%の2次色に、Duty60%の1次色の2〜8ピクセル罫線を接触させた画像である。
【0181】
得られた画像について、下記の基準により評価を行った。
A:2/720インチの罫線がブリーディングなく、再現できている。
B:4/720インチの罫線がブリーディングなく、再現できているが、2/720インチの罫線がブリーディングして、再現できていない。
C:6/720インチの罫線がブリーディングなく、再現できているが、4/720インチの罫線がブリーディングして、再現できていない。
D:8/720インチの罫線がブリーディングして、再現できていない。
評価結果は、下記の表2に示される通りであった。
【0182】
インクブリーディング(画質)の評価(その4)(ブリーディング4)
上記で得られたY、M、C、およびKの各インクをインクセットとして、インクジェットプリンター(PX−G920、セイコーエプソン社製)のインクカートリッジに装着し、主走査(ヘッド駆動)方向に720dpiでかつ副走査(記録媒体搬送)方向に360dpiで記録できるようにした。次に、着弾時のドットサイズが概ね3ngになるようにプリンタヘッドのピエゾ素子に与える電圧を調整し、一駆動が720×360dpiで、約128g/平米のOKT+(王子製紙株式会社製)に、720×720dpiのベタ画像を記録した。記録は、低温高湿(15℃、65%湿度)環境下において実施した。この際、単色のDuty100%のインク付着量は概ね1.6mg/inch平米であった。なお、記録用紙と記録ヘッドとの間の距離は3mmであった。
記録画像は、Duty60%同士のDuty180%の3次色に、Duty60%の1次色の2〜8ピクセル罫線を接触させた画像である。
【0183】
得られた画像について、下記の基準により評価を行った。
A:2/720インチの罫線がブリーディングなく、再現できている。
B:4/720インチの罫線がブリーディングなく、再現できているが、2/720インチの罫線がブリーディングして、再現できていない。
C:8/720インチの罫線がブリーディングして、再現できていない。
評価結果は、下記の表2に示される通りであった。
【0184】
インクビーディング(画質)の評価(その1)(ビーディング1)
上記で得られたY、M、C、およびKの各インクをインクセットとして、インクジェットプリンター(PX−G920、セイコーエプソン社製)のインクカートリッジに装着し、主走査(ヘッド駆動)方向に720dpiでかつ副走査(記録媒体搬送)方向に360dpiで記録できるようにした。次に、着弾時のドットサイズが概ね7ngになるようにプリンタヘッドのピエゾ素子に与える電圧を調整し、一駆動が720×360dpiで、約128g/平米のOKT+(王子製紙株式会社製)に、720×720dpiのベタ画像を記録した。記録は、低温高湿(15℃、65%湿度)環境下において実施した。この際、単色のDuty100%のインク付着量は概ね3.6mg/inch平米であった。なお、記録用紙と記録ヘッドとの間の距離は3mmであった。
記録画像は、同じDutyの単色同士を混合した2次色の画像である。
【0185】
得られた画像について、下記の基準により評価を行った。
AA:各単色Duty90%の2次色Duty180%までが、ビーディングなく再現できている。
A:各単色Duty80%の2次色Duty160%までが、ビーディングなく再現できている。
B:各単色Duty70%の2次色Duty140%までが、ビーディングなく再現できている。
C:各単色Duty60%の2次色Duty120%までが、ビーディングなく再現できている。
評価結果は、下記の表2に示される通りであった。
【0186】
インクビーディング(画質)の評価(その2)(ビーディング2)
上記で得られたY、M、C、およびKの各インクをインクセットとして、インクジェットプリンター(PX−G920、セイコーエプソン社製)のインクカートリッジに装着し、主走査(ヘッド駆動)方向に720dpiでかつ副走査(記録媒体搬送)方向に360dpiで記録できるようにした。次に、着弾時のドットサイズが概ね3ngになるようにプリンタヘッドのピエゾ素子に与える電圧を調整し、一駆動が720×360dpiで、約128g/平米のOKT+(王子製紙株式会社製)に、720×720dpiのベタ画像を記録した。記録は、低温高湿(15℃、65%湿度)環境下において実施した。この際、単色のDuty100%のインク付着量は概ね1.6mg/inch平米であった。なお、記録用紙と記録ヘッドとの間の距離は3mmであった。
記録画像は、同じDutyの単色同士を混合した2次色の画像である。
【0187】
得られた画像について、下記の基準により評価を行った。
AA:各単色Duty90%の2次色Duty180%までが、ビーディングなく再現できている。
A:各単色Duty80%の2次色Duty160%までが、ビーディングなく再現できている。
B:各単色Duty70%の2次色Duty140%までが、ビーディングなく再現できている。
C:各単色Duty60%の2次色Duty120%までが、ビーディングなく再現できている。
評価結果は、下記の表2に示される通りであった。
【0188】
ワイピング耐久の評価
上記のインクカートリッジおよびインクジェットプリンターを用いた。1回当たり各色で約0.25gのインクがキャップ内に廃棄され、その後、ヘッド面をワイパーがワイピングする動作を3000回繰り返し実施した。評価は、低温高湿(15℃、65%湿度)環境下において実施した。
A:濡れ曲がりが発生していない。
B:濡れ曲がりが発生している。
評価結果は、下記の表2に示される通りであった。
【0189】
インクの初期粘度の評価
上記のようにして得られた各インクについて、インク粘度の評価を行った。振動型粘度計(MV100型番、ヤマイチエレクトロニクス社製)を用い、インク調製後1時間経過後のインクの粘度を測定し、以下の基準により評価を行った。なお、測定温度は20℃とした。
A:粘度が3.5mPa・sを超え、4.5mPa・s以下である。
B:粘度が4.5mPa・sを超え、5.5mPa・s以下である。
C:粘度が5.5mPa・sを超える。
評価結果は、下記の表2に示される通りであった。
【0190】
目詰まり回復性の評価
上記のインクカートリッジおよびインクジェットプリンターを用い、インク交換ボタンを押してからコンセントを抜いた。このように、ヘッドキャップが外れた状態にしてから、プリンタを50℃15%RHの環境に2日間放置した。
【0191】
放置後、全ノズルが初期と同等に吐出するまでクリーニング動作を繰り返し、以下の判断基準により、回復しやすさを評価した。
AA:クリーニング操作を3回繰り返して目詰まりが回復する。
A:クリーニング操作を6回繰り返して目詰まりが回復する。
B:クリーニング操作を12回繰り返して目詰まりが回復する。
C:クリーニング操作を12回繰り返しても目詰まりが回復しない。
結果は下記の表2に示される通りであった。
【0192】
<表2>


<表2(つづき)>

【0193】
<クリーニングに関する動作について>
続いて、上述のような構成を有するプリンター10において、クリーニングに関する動作について、図10に基づいて説明する。以下の動作説明においては、ステップS10〜ステップS50の各ステップを、順次実行可能としている。
【0194】
なお、このステップS10〜ステップS50の各ステップを実行するのに先立って、主制御部71は、メモリー72のメンテナンステーブル72aを参照して、いずれのランクのメンテナンスを実行するのかを選定する。このメンテナンスの選定により、吸引ポンプ62の動作シーケンス、作動時間等が決定される。
【0195】
ステップS10:まず、制御部70の指令により、キャップ51の凹部51aの内部の排出動作が為される。なお、このステップS10における、キャップ51の凹部51a内の排出動作の詳細については、後述する。
【0196】
ステップS20:主制御部71の指令により、ステップS10で作動させられていた吸引ポンプ62の作動が停止させられる。また、主制御部71の指令により、一方の吸引ポンプ62が閉じ状態とさせられると共に、他方の吸引ポンプ62も閉じ状態とさせられる。
【0197】
ステップS30:次に、ノズル42からのインクの吸い出しを行う。それにより、吸引口511の近傍に位置するインクが、一方のチューブ61を介して廃液タンク53に向けて排出される。そして、インクは、一方の吸引ポンプ62を通過し、その後に廃液タンク53の内部に位置する他端開口部62cから廃液タンク53の内部に排出させられる。
【0198】
なお、このステップS30における、ノズル42からのインクの吸い出しの詳細については、後述する。
【0199】
ステップS40:ステップS30に続いて、主制御部71の指令により、ステップS30で作動させられていた一方の吸引ポンプ62の作動が停止させられる。このとき、他方の吸引ポンプ62は、ステップS20と同様に閉じ状態を維持したままとする。
【0200】
ステップS50:上述のステップS40の後に、ステップS10と同様の動作を実行する。すなわち、主制御部71の制御指令により、一方の吸引ポンプ62が作動させられると共に、他方の吸引ポンプ62を開放状態とする。それにより、凹部51aに残存しているインクが、吸引口511および一方のチューブ61を介して、廃液タンク53に排出させられる。
【0201】
<キャップ内の排出動作の詳細について>
続いて、ステップS10における、キャップ51内のインクの排出動作の詳細について、図11に基づいて説明する。
【0202】
ステップS11:主制御部71は、制御モードデータ72bを参照して、いずれの制御モードを実行すべきかを選定する。
【0203】
ステップS12:上述のステップS11の制御モードの選定に基づいて、キャップ51の凹部51aの内部の排出動作を実行する。このとき、主制御部71は、一方の吸引ポンプ62を作動させると共に、他方の吸引ポンプ62を開放状態とする。たとえば、第1吸引ポンプ62Aを作動させると共に、第2吸引ポンプ62Bを閉じ状態とする。それにより、キャップ51の凹部51a(密閉空間)の空吸引が為される。ここで、空吸引とは、インクは短尺ヘッド41側から供給されないものの、吸引ポンプ62を作動させてインクをキャップ51(凹部51a)から排出させる動作をいう。このとき、キャップ51をノズル形成面41aから離間させた状態で、吸引ポンプ62を作動させても良いが、キャップ51をノズル形成面41aに当接させた状態で、吸引ポンプ62を作動させるようにしても良い。
【0204】
かかる空吸引を行うことにより、凹部51aに残存しているインクが吸い出される。すなわち、凹部51aに残存しているインクが、吸引口511、一方のチューブ61および一方の吸引ポンプ62を通過し、その後に廃液タンク53の内部に位置する他端開口部62cから廃液タンク53の内部に排出させられる。
【0205】
ステップS13:主制御部71は、所定の切換周期の到来に対応するタイマー信号を受信したか否かを判定する。すなわち、タイマー75においては、計時を行っている。この計時において、所定の切換周期が到来すると、タイマー75は、主制御部71にタイマー信号を出力する。なお、このステップS13の判断において、所定の切換周期の到来に対応するタイマー信号を受信していないと判定する場合(Noの場合)、この処理フローを終了する。なお、かかるタイマー信号を受信したか否かを判定することにより、第1モードと第2モードとの間で、交互に切り換えを行うことが可能となる。
【0206】
ステップS14:主制御部71は、上述したような、所定の切換周期の到来に対応するタイマー信号を受信したと判定する場合(Yesの場合)、吸引ポンプ62A,62Bの作動を切り換える。たとえば、上述のステップS12において、第1吸引ポンプ62Aを作動させると共に、第2吸引ポンプ62Bを開放状態としている場合、第2吸引ポンプ62Bを作動させると共に、第1吸引ポンプ62Aを開放状態とするように、吸引ポンプ62A,62Bの作動を切り換える。
【0207】
なお、第1吸引ポンプ62Aと第2吸引ポンプ62Bとの間の作動の切り換えタイミングは、所定の切換周期の到来に対応するタイマー信号を受信したときに、即座に行うようにしても良いが、吸引効率、吸引時間等を考慮する場合には、次回の吸引ポンプ62A,62Bの作動時に、作動の切り換えを行うようにしても良い。ここで、次回の吸引ポンプ62A,62Bの作動時とは、ステップS10におけるキャップ51内の吸引を行う場合でも良く、またステップS30のノズル42内の吸引を行う場合としても良い。
【0208】
ステップS15:主制御部71は、吸引ポンプ62A,62Bの作動の切り換えと共に、制御モードデータ72bの記録内容を、切り換えた作動状態に対応させるように書き換える。それにより、次回、吸引ポンプ62を作動させる際に、いずれの吸引ポンプ62A,62Bを作動させるべきかを、判断可能となる。
【0209】
以上のような、ステップS11〜S15に示す各ステップを実行することによって、制御モードに基づく、キャップ51内の排出動作が実行される。
【0210】
<ノズルからのインクの吸い出しについて>
続いて、ステップS30における、ノズル42からのインクの吸い出しの詳細について、図12に基づいて説明する。
【0211】
ステップS31:主制御部71は、制御モードデータ72bを参照して、いずれの制御モードを実行すべきかを選定する。
【0212】
ステップS32:上述のステップS31の制御モードの選定に基づいて、ノズル42からのインクの吸い出しを実行する。このとき、主制御部71は、一方の吸引ポンプ62を作動させると共に、他方の吸引ポンプ62を閉じ状態とする。たとえば、第1吸引ポンプ62Aを作動させると共に、第2吸引ポンプ62Bを開放状態とする。それにより、キャップ51の凹部51a(密閉空間)の内部が負圧となる。それにより、ノズル42からインクが吸い出され、そのインクが吸引口511、一方のチューブ61および一方の吸引ポンプ62を通過し、その後に廃液タンク53の内部に位置する他端開口部62cから廃液タンク53の内部に排出させられる。
【0213】
なお、このとき、他方の吸引ポンプ62は、閉じ状態となっているため、他方のチューブ61の他端開口部61cから、空気を吸い込むことがない。そのため、凹部51a(密閉空間)の内部に良好に負圧を及ぼさせることが可能となっており、それによってノズル42の内部を吸引することが可能となっている。
【0214】
ステップS33:主制御部71は、所定の切換周期の到来に対応するタイマー信号を受信したか否かを判定する。すなわち、タイマー75においては、計時を行っている。この計時において、所定の切換周期が到来すると、タイマー75は、主制御部71にタイマー信号を出力する。
【0215】
ステップS34:主制御部71は、上述したような、所定の切換周期の到来に対応するタイマー信号を受信したと判定する場合、吸引ポンプ62A,62Bの作動を切り換える。たとえば、上述のように、第1吸引ポンプ62Aを作動させると共に、第2吸引ポンプ62Bを閉じ状態としている場合、第2吸引ポンプ62Bを作動させると共に、第1吸引ポンプ62Aを閉じ状態とするように、吸引ポンプ62A,62Bの作動を切り換える。
【0216】
なお、第1吸引ポンプ62Aと第2吸引ポンプ62Bとの間の作動の切り換えタイミングは、所定の切換周期の到来に対応するタイマー信号を受信したときに、即座に行うようにしても良いが、吸引効率、吸引時間等を考慮する場合には、次回の吸引ポンプ62A,62Bの作動時に、作動の切り換えを行うようにしても良い。ここで、次回の吸引ポンプ62A,62Bの作動時とは、ステップS10、ステップS50におけるキャップ51内の吸引を行う場合でも良く、またステップS30のノズル42内の吸引を行う場合としても良い。
【0217】
ステップS35:主制御部71は、吸引ポンプ62A,62Bの作動の切り換えと共に、制御モードデータ72bの記録内容を、切り換えた作動状態に対応させるように書き換える。それにより、次回、吸引ポンプ62を作動させる際に、いずれの吸引ポンプ62A,62Bを作動させるべきかを、判断可能となる。
【0218】
以上のような、ステップS31〜S35に示す各ステップを実行することによって、制御モードに基づく、キャップ51内の排出動作が実行される。
【0219】
なお、図10における、ステップS50のキャップ内の排出動作は、上述したステップS10のキャップ内の排出動作と同様であるため、その詳細についての説明は省略する。
【0220】
<効果>
以上のような構成のプリンター10によれば、制御部70は、第1モードで吸引ポンプ62A,62Bのうちのいずれか一方を吸引作動させた後に、第2モードで第1吸引ポンプ62A,62Bのうちのいずれか他方を吸引作動させている。また、第2モードで吸引ポンプ62A,62Bのうちのいずれか一方を吸引作動させた後に、第1モードで第1吸引ポンプ62A,62Bのうちのいずれか他方を吸引作動させている。
【0221】
そのため、第1吸引手段60A(第1吸引ポンプ62A)と第2吸引手段60B(第2吸引ポンプ62B)の両方で、密閉空間の吸引を行うことが可能となる。それにより、キャップ51の開口部分から入り込んだインクが固化する等の問題が生じるのを防止可能となる。すなわち、第1吸引手段60A(第1吸引ポンプ62A)で密閉空間の吸引がなされた後に、第2吸引手段60B(第2吸引ポンプ62B)で密閉空間の吸引が為される。そのため、仮に第1吸引手段60Aまたは第2吸引手段60Bに連通する吸引口511からインクが入り込んだとしても、そのインクが固化する前に排出させることが可能となり、インクが流れる流路が塞がれるのを防止することが可能となる。
【0222】
また、本実施の形態では、制御部70は、第1モードと第2モードとを、交互に切り換えて、吸引ポンプ62A,62Bを作動させている。このように、第1モードと第2モードとの交互の切り換えを行うことにより、廃液タンク53への排出に用いていないチューブ61に入り込んだインクの排出を良好に行わせることが可能となる。それにより、入り込んだインクが固化する前に排出させることが可能となり、インクが流れる流路が塞がれるのを良好に防止可能となる。
【0223】
さらに、本実施の形態では、複数のノズル列43の中には、他の種類のインクよりも粘度の高い白色インクを噴射するものが設けられるようにしても良い。このように構成する場合、白色インクが、他の種類のインクよりも粘度が高い場合に、そのような白色インクが吸引口511から入り込み、入り込んだチューブ61においてインクの吸引が為されないと、チューブ61内で固化してしまう。しかしながら、制御部70は、第1モードで吸引ポンプ62A,62Bのうちのいずれか一方を吸引作動させた後に、第2モードで第1吸引ポンプ62A,62Bのうちのいずれか他方を吸引作動させている。そのため、キャップ51の吸引口511から入り込んだ白色インクが固化する等の問題が生じるのを防止可能となる。すなわち、仮に第1吸引手段60Aまたは第2吸引手段60Bに連通する吸引口511から白色インクが入り込んだとしても、その白色インクが固化する前に排出させることが可能となり、白色インクが流れる流路が塞がれるのを防止することが可能となる。
【0224】
また、本実施の形態では、複数のノズル列43の中には、他の種類のインクよりも粘度の高い高粘度インクを噴射するものが設けられるようにしても良い。このように構成する場合、高粘度インクは、他の種類のインクよりも粘度が高いものの、そのような高粘度インクが吸引口511から入り込み、入り込んだチューブ61においてインクの吸引が為されないと、チューブ61内で固化してしまう。しかしながら、制御部70は、第1モードで吸引ポンプ62A,62Bのうちのいずれか一方を吸引作動させた後に、第2モードで第1吸引ポンプ62A,62Bのうちのいずれか他方を吸引作動させている。そのため、キャップ51の吸引口511から入り込んだ高粘度インクが固化する等の問題が生じるのを防止可能となる。すなわち、仮に第1吸引手段60Aまたは第2吸引手段60Bに連通する吸引口511から高粘度インクが入り込んだとしても、その高粘度インクが固化する前に排出させることが可能となり、高粘度インクが流れる流路が塞がれるのを防止することが可能となる。
【0225】
また、本実施の形態では、第1吸引手段60Aは、第1チューブ61Aと第1吸引ポンプ62Aとを具備すると共に、第2吸引手段60Bは、第2チューブ61Bと第2吸引ポンプ62Bとを具備している。そのため、仮に第1チューブ61Aおよび/または第2チューブ61Bにインクが入り込んだとしても、そのインクが固化する前に排出させることが可能となり、インクが流れる流路が塞がれるのを防止することが可能となる。また、第1吸引ポンプ62Aおよび第2吸引ポンプ62Bは、外部から空気を取り入れる開放状態と、外部からの空気の取り入れを遮断する閉じ状態との間で切り換え可能としているため、別途の弁部材等を設ける必要がなくなる。それにより、部品点数を削減することが可能となる。
【0226】
<変形例>
以上、本発明の一実施の形態について述べたが、本発明は、種々変形可能である。以下、それについて述べる。
【0227】
上述の実施の形態では、吸引ポンプ62A,62Bのうちの他方は開放状態とする第1モードと、吸引ポンプ62A,62Bのうちの他方を駆動させて密閉空間の吸引を行いつつ、吸引ポンプ62A,62Bのうちの一方は開放状態とする第2モードについて、制御部70で実行される制御モードとして説明している。しかしながら、制御モードとして、その他のものを制御部70で実行するようにしても良い。
【0228】
たとえば、第1吸引手段60Aにより密閉空間を吸引させつつ第2吸引手段60Bにより密閉空間を吸引させる第3モードを、制御モードとして設けるようにしても良い。この場合、第3モードで第1吸引手段60A(第1吸引ポンプ62A)および第2吸引手段60B(第2吸引ポンプ62B)を作動させると、密閉空間の内部を強力に吸引可能となる。それにより、インクの排出の時間短縮を図ることが可能となる。また、ノズル42からのインクおよび/または気泡の排出を、いずれか1つの吸引手段のみを作動させる場合と比較して、より強力に行うことが可能となる。なお、第3モードにおいては、第1吸引手段60Aによる密閉空間の吸引と、第2吸引手段60Bによる密閉空間の吸引とが、同じまたは同等の吸引力を有することが好ましい。
【0229】
また、その他の制御モードとしては、たとえば、第1吸引手段60Aと第2吸引手段60Bとの間で、密閉空間を吸引させる吸引力に強弱を持たせるモードを実行するようにしても良い。たとえば、第5モードとして、第1吸引手段60Aは第2吸引手段60Bよりも吸引力を強くするようにしても良い。また、第6モードとして、第2吸引手段60Bは第1吸引手段60Aよりも吸引力を強くするようにしても良い。ここで、いずれか弱い側の吸引力は、チューブ61の内部からインクを排出させる程度としても良い。このようにすれば、吸引が為されない側のチューブ61内に入り込んだインクを、即座に排出させることが可能となり、チューブ61内におけるインクの固化を、一層確実に防止可能となる。
【0230】
また、上述の実施の形態では、第1吸引手段60Aは、第1チューブ61Aと第1吸引ポンプ62Aとを具備すると共に、第2吸引手段60Bは、第2チューブ61Bと第2吸引ポンプ62Bとを具備するものについて、説明している。しかしながら、第1吸引手段および第2吸引手段としては、たとえば、図13に示すようなものを採用しても良い。この図13に示す構成では、第1吸引手段600Aは、第1チューブ61A、第1吸引ポンプ63A、第1弁部材64Aを備えている。また、第2吸引手段600Bは、第2チューブ61B、第2吸引ポンプ63B、第2弁部材64Bを備えている。ここで、第1吸引ポンプ63Aおよび第2吸引ポンプ63Bは、上述の実施の形態のような、閉じ状態と開放状態の切り換えを行えないタイプとなっている。そのため、図13に示す構成では、第1弁部材64Aおよび第2弁部材64Bを備える構成となっているが、第1弁部材64Aおよび第2弁部材64Bは、開弁状態ではチューブ61におけるインク(または洗浄液またはこれらの混合液)の流通が可能となると共に、閉弁状態ではチューブ61におけるインクの流通が不能となるものである。また、大気開放時には、チューブ61の他端開口部61cから空気を導入可能とするものである。
【0231】
なお、第1吸引ポンプ63A、第1弁部材64A、第2吸引ポンプ63B、および第2弁部材64Bは、いずれも制御部70によって作動を制御可能となっている。また、上述の実施の形態における吸引ポンプ62A,62Bの吸引に関する動作は、吸引ポンプ63A,63Bに代用され、吸引ポンプ62A,62Bの閉じ状態および開放状態に関する動作は、弁部材64A,64Bに代用される。
【0232】
このように構成する場合にも、上述した実施の形態で述べたような動作を実現可能となる。また、図13に示すような構成を採用する場合、第1弁部材64Aおよび第2弁部材64Bを、第1吸引ポンプ63Aおよび第2吸引ポンプ63Bとは別体的に設けているため、安価なポンプを用いることが可能となり、コストの低減を図ることが可能となる。
【0233】
なお、図13における第1の弁部材64Aおよび第2の弁部材64Bは、単独で大気開放を行う機能をも兼ね備えるものとしても良い。
【0234】
また、上述の実施の形態では、主制御部71は、所定の切換周期の到来に対応するタイマー信号を受信したか否かに基づいて、制御モードの切り換えを行っている。しかしながら、制御モードの切り換えは、かかるタイマー信号の受信に基づくものに限られるものではない。たとえば、今回、第1モードで吸引ポンプ62A,62Bを作動させた場合、次回は第2モードで吸引ポンプ62A,62Bを作動させる等のように、タイマー信号に基づかない状態で、制御モードの切り換えを行うようにしても良い。また、たとえば、インクの消費量を、インクの噴射量をカウントする等の手段により、インクの消費量に基づいて制御モードの切り換えを行うようにしても良い。
【0235】
なお、上述の実施の形態の図10においては、いずれのタイミングでフラッシングが為されるようにしても良い。
【0236】
また、上述の実施の形態においては、複数の短尺ヘッド41から構成されるラインヘッド40を用いる場合について説明している。ここで、上述の実施の形態では、各短尺ヘッド41が噴射ヘッドに対応するものの一例としているが、ラインヘッド40を噴射ヘッドに対応させるようにしても良い。また、ラインヘッドは、複数の短尺ヘッドから構成されるものには限られず、印刷媒体Pの幅寸法よりも大きな幅寸法を有する長尺のラインヘッドを用いるようにしても良い。
【0237】
また、上述の実施の形態では、ラインヘッド40を用いると共に、複数の短尺ヘッド41のそれぞれが、噴射ヘッドに対応するものの一例としている。しかしながら、ラインヘッドではなく、主走査方向に沿って移動可能な印刷ヘッドを、噴射ヘッドに対応するものの一例としても良い。
【0238】
また、上述の実施の形態における吸引口511は、複数設ける構成を採用しても良いが、その場合には、チューブ61の接続部位も吸引口511の個数に対応させるようにするのが好ましい。
【0239】
また、上述の実施の形態においては、制御部70は、ソフトウエア的に実現されるものでも良く、また回路的に実現される構成であっても良い。
【0240】
また、上述の実施の形態における液体噴射装置としては、プリンター10とコンピューター100の機能の両方を備えるものとしても良い。
【0241】
また、プリンター10は、印刷機能以外のスキャナー装置、ファックス装置、コピー装置等を備える複合機を、本発明のプリンターとしても良い。
【0242】
また、上述の実施の形態におけるプリンター10の概念には、インク以外の他の液体(液体そのものや、機能材料の粒子が液体に分散又は混合されてなる液状体、ゲルのような流動性を有する材質を含む)を噴射したり噴射したりする流体噴射装置を含むようにすることもできる。そのようなものとしては、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材(画素材料)などの材料を分散または溶解のかたちで含む液体を噴射する液状体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する流体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する流体噴射装置等がある。
【0243】
さらに、本発明のプリンター10の概念に含まれるものとしては、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する流体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する流体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する流体噴射装置、ゲル(例えば物理ゲル)などの流状体を噴射する流状体噴射装置等がある。
【符号の説明】
【0244】
10…プリンター(液体噴射装置の一例に対応)、20…紙送り機構、21…PFモーター、22…給紙ローラー、30…インク供給機構、31…カートリッジホルダー、32,32a,32b…カートリッジ、33…インク供給路、33b…ノズル開口面、40…ラインヘッド、41…短尺ヘッド(噴射ヘッドに対応)、41a…ノズル形成面、42,42a,42b…ノズル、43…ノズル列、43a…ノズル列(第1噴射ノズル列の一例に対応)、43b…ノズル列(第2噴射ノズル列の一例に対応)、50…吸引機構、51…キャップ、51a…凹部、52…インク吸収体、53…廃液タンク、60A…第1吸引手段、60B…第2吸引手段、61,61A,61B…チューブ、61A…第1チューブ、61B…第2チューブ、62,62A,62B,63,63A,63B…吸引ポンプ、62A,63A…第1吸引ポンプ、62B,63B…第2吸引ポンプ、64,64A,64B…弁部材、64A…第1弁部材、64B…第2弁部材、70…制御部、71…主制御部、100…コンピューター、511…吸引口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射する噴射ノズル列を有する噴射ヘッドと、
上記噴射ヘッドのノズル形成面に当接して密閉空間を形成すると共に、上記噴射ノズル列から噴射される液体を受け止めるキャップ部材と、
上記密閉空間に連通して当該密閉空間を吸引可能とすると共に、外部から空気を取り入れる開放状態とすることが可能な第1吸引手段と、
上記密閉空間に連通して当該密閉空間を吸引可能とすると共に、外部から空気を取り入れる開放状態とすることが可能な第2吸引手段と、
制御モードに応じて上記第1吸引手段および上記第2吸引手段の作動を制御する制御手段と、
を具備し、
上記制御モードには、
上記第1吸引手段により上記密閉空間を吸引させつつ上記第2吸引手段を開放状態とする第1モードと、
上記第2吸引手段により上記密閉空間を吸引させつつ上記第1吸引手段を開放状態とする第2モードと、
が設けられていて、
上記制御手段は、上記第1モードまたは上記第2モードで上記第1吸引手段および上記第2吸引手段を作動させた後に、上記第2モードまたは上記第1モードで上記第1吸引手段および上記第2吸引手段を作動させる、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
請求項1記載の液体噴射装置であって、
前記制御手段は、
前記第1モードと前記第2モードとを、交互に切り換える、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の液体噴射装置であって、
前記制御モードには、
前記第1吸引手段により前記密閉空間を吸引させつつ前記第2吸引手段により前記密閉空間を吸引させる第3モードが設けられている、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の液体噴射装置であって、
前記液体は、印刷媒体に印刷画像を形成するためのインクであると共に、
前記ノズル列には、他の種類の上記インクよりも粘度の高い白色インクを噴射する白用噴射ノズル列が存在する、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の液体噴射装置であって、
前記液体は、印刷媒体に印刷画像を形成するためのインクであると共に、
前記ノズル列には、他の種類の上記インクよりも粘度の高い高粘度インクを噴射する高粘度インク用噴射ノズル列が存在すると共に、
前記高粘度インクは、
着色材と、水と、アルコール溶剤と、ポリグリコール溶剤とを少なくとも含んでなると共に、
前記アルコール溶剤が、難水溶性のアルカンジオールを含み、かつ前記ポリグリコール溶剤が、ポリアルキレングリコールを含んでなる、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の液体噴射装置であって、
前記第1吸引手段は、
前記密閉空間に連通している第1チューブと、
上記第1チューブの中途部に設けられ作動によって前記密閉空間を吸引する吸引状態と、外部から空気を取り入れる開放状態と、外部からの空気の取り入れを遮断する閉じ状態との間で切り換え可能な第1吸引ポンプと、
を具備すると共に、
前記第2吸引手段は、
前記密閉空間に連通している第2チューブと、
上記第2チューブの中途部に設けられ作動によって前記密閉空間を吸引する吸引状態と、外部から空気を取り入れる開放状態と、外部からの空気の取り入れを遮断する閉じ状態との間で切り換え可能な第2吸引ポンプと、
を具備する、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載の液体噴射装置であって、
前記第1吸引手段は、
前記密閉空間に連通している第1チューブと、
上記第1チューブの中途部に設けられ、外部から空気を取り入れる開放状態と、外部からの空気の取り入れを遮断する閉じ状態との間で切り換え可能な第1弁部材と、
上記第1チューブの中途部に設けられ前記密閉空間を吸引可能とする第1吸引ポンプと、
を具備すると共に、
前記第2吸引手段は、
前記密閉空間に連通している第2チューブと、
上記第2チューブの中途部に設けられ、外部から空気を取り入れる開放状態と、外部からの空気の取り入れを遮断する閉じ状態との間で切り換え可能な第2弁部材と、
上記第2チューブの中途部に設けられ前記密閉空間を吸引可能とする第2吸引ポンプと、
を具備する、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項8】
液体を噴射する噴射ノズル列を有する噴射ヘッドと、上記噴射ヘッドのノズル形成面に当接して密閉空間を形成すると共に、上記噴射ノズル列から噴射される液体を受け止めるキャップ部材と、上記密閉空間に連通して当該密閉空間を吸引可能とすると共に、外部から空気を取り入れる開放状態とすることが可能な第1吸引手段と、上記密閉空間に連通して当該密閉空間を吸引可能とすると共に、外部から空気を取り入れる開放状態とすることが可能な第2吸引手段と、を具備する液体噴射装置におけるメンテナンス方法であって、
上記第1吸引手段により上記密閉空間を吸引させつつ上記第2吸引手段を開放状態とする作動状態と、上記第2吸引手段により上記密閉空間を吸引させつつ上記第1吸引手段を開放状態とする作動状態との間で作動を切り換える、
ことを特徴とするメンテナンス方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−148172(P2011−148172A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10717(P2010−10717)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】