説明

液体噴射装置および液体充填方法

【課題】切換機構を備えつつ、キャップが簡易な構成でありながら無駄に廃棄される液体の量を低減可能な液体噴射装置および液体充填方法を提供すること。
【解決手段】液体噴射装置は、封止空間を吸引する吸引ポンプ64と、流路59と、液体貯留容器51から液体を吸引すると共に下流側に前記液体を排出可能な流路ポンプ54と、負圧が及ぼされる場合に可撓部材が排出孔を閉塞するチョーク弁56と、一方の液体の供給を許容するが他方の液体の供給を遮断する切換機構58と、制御部とを具備し、該制御部は、全ての流路ポンプ54を所定量の液体を排出可能な状態にさせ、その後に吸引ポンプ64を作動させ、かつ切換機構58を作動させ、流路ポンプ54の作動によって排出される液体の所定量を、流路59の全ての液体充填に必要とされる液体量に、チョーク弁56より下流側の流路59全ての液体充填に必要とされる液体量を加算した量以下としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置および液体充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、装置の最初の使用を開始する際に、気相状態にある複数の液体供給路に複数種類の液体を充填する初期充填操作について開示されている。この特許文献1の中の制御手段は、まず、複数のバルブユニットのうちの一部を開放状態とすると共に残余のすべてのバルブユニットを閉鎖状態とする。そして、開放状態にあるバルブユニットに対応する液体供給路のみを先行して充填し、この先行充填が完了したら、開放状態にあるバルブユニットを閉鎖すると共に、閉鎖状態にある残余のすべてのバルブユニットのうちの少なくとも一部を開放してこれに対応する液体供給路を充填する。
【0003】
また、特許文献2には、ノズル形成部にキャップ部(第1キャップ部、第2キャップ部)が当接する一方で、キャップ部が複数の区分室に分割され、それぞれの区分室を簡易な構成で吸引可能な構成が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、液体の種類を変更するための切換機構を備える構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−299292号公報
【特許文献2】特開2008−126408号公報
【特許文献3】特開2008−132712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献3に開示された構成のような、切換機構を備える液体噴射装置においては、2種類のインクを初期充填する場合、その2種類のインクとは関係のないインクまで、無駄に廃棄されている状態となっている。
【0007】
そこで、特許文献3の構成に特許文献1または特許文献2の構成を適用して、無駄に廃棄されるインクの量を低減させる、という手法が考えられる。しかしながら、上述の特許文献1に開示の構成では、各列毎にバルブユニットを設けることで初期充填時のインク消費量を低減しているため、その分だけコストがかさむ状態となっている。また、各バルブユニットを駆動させるための制御が複雑なものとなってしまう。
【0008】
また、特許文献2に開示の構成では、第1キャップ部と第2キャップ部を備え、第1キャップ部に連通するチューブにバルブを設ける構成のため、これらを設ける分だけコストがかさむ状態となってしまうと共に、制御も複雑なものとなってしまう。
【0009】
ここで、内部が区切られていない1つの吸引室を備えるキャップにてインクの初期充填を行えるものは、キャップの構成が簡素であるためコスト面で有利であるが、そのようなキャップを用いても、インクの無駄を極力押さえられるものが望まれている。
【0010】
本発明は上記の事情にもとづきなされたもので、その目的とするところは、切換機構を備えつつ、キャップが簡易な構成でありながら無駄に廃棄される液体の量を低減可能な液体噴射装置および液体充填方法を提供しよう、とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の液体噴射装置は、1種類の液体を噴射可能なノズル群と2種類の液体を噴射可能なノズル群を備え、複数のノズル群から複数種類の液体を噴射可能な液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドの前記ノズル群が露出するノズル形成面に当接して1つの封止空間を形成するキャップと、前記封止空間を吸引するための吸引ポンプと、液体貯留容器から前記液体噴射ヘッドに向けて前記複数種類の液体を供給するための複数の流路と、前記複数の流路において前記液体貯留容器より下流側に位置し、前記液体貯留器から前記液体を吸引すると共に、下流側に前記液体を排出可能な流路ポンプと、前記複数の流路において前記流路ポンプより下流側に位置し、前記液体が流入する弁室、可撓により前記弁室の容積を変動させる可撓部材および前記弁室の内部に存在し前記可撓部材の可撓によって閉塞または開放可能な排出孔を備え、前記弁室に所定以上の負圧が及ぼされる場合には前記可撓部材が前記排出孔を閉塞し、それよりも下流側を負圧状態とするチョーク弁と、前記複数の流路のうち2つの流路に位置する前記チョーク弁より下流側に位置し、前記2つの流路の液体を前記2種類の液体を噴射可能なノズル群に供給するための1つの流路に連結され、そのうちのいずれかの液体の供給を許容する一方、選択されなかった液体の供給を遮断する切換機構と、前記液体噴射ヘッド、前記吸引ポンプ、前記切換機構および前記流路ポンプの作動を制御する制御部と、を備える液体噴射装置であって、前記制御部が、全ての前記流路ポンプを作動させて所定量の前記液体を排出可能な状態にさせると共に、前記キャップを前記ノズル形成面に当接させて前記吸引ポンプを作動させ、かつ前記切換機構を作動させて、前記流路の全てに前記液体を充填する際の前記所定量が、前記流路の全てに前記液体を充填するために必要とされる液体量以上前記流路の全てに前記液体を充填するために必要とされる液体量に前記チョーク弁より下流側の流路の全てに前記液体を充填するために必要とされる液体量を加算した液体量以下としていることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、制御部は、流路ポンプの作動の後に、キャップをノズル形成面に当接させて吸引ポンプを作動させている。それにより、切換機構によって選択されていない流路以外の流路に、液体を充填させることができる。加えて、切換機構を作動させているため、切換機構によって最初は選択されていなかった流路に、インクを充填させることができる。このとき、流路ポンプの作動によって排出可能な液体量を、流路の全てに液体を充填するために必要とされる液体量以上流路の全てに液体を充填するために必要とされる液体量にチョーク弁より下流側の流路の全てに液体を充填するために必要とされる液体量を加算した液体量以下となるように制御しているため、無駄に排出される液体量を低減させることが可能となる。また、1つの封止空間を形成するキャップを用いて、液体の初期充填が行われるため、キャップの構成が簡素となり、コストの低減が可能となる。また、構成の複雑化を抑えることが可能となり、コストの低減が可能となる。
【0013】
本発明の液体噴射装置において、前記制御部が、前記切換機構を作動させて、2種類の前記液体を供給するそれぞれの前記流路のうちのいずれか一方の前記流路からの供給を許容する第1選択動作を行わせ、全ての前記流路ポンプを作動させて前記流路の全てに前記液体を充填するために必要とされる液体量を排出可能な状態にさせると共に、前記キャップを前記ノズル形成面に当接させて前記吸引ポンプを作動させ、前記液体噴射ヘッドの前記ノズルから前記液体の第1の吸引を行わせ、前記切換機構を作動させて、2種類の前記液体を供給するそれぞれの前記流路のうちの他方の前記流路からの供給を許容する第2選択動作を行い、再び前記キャップを前記ノズル形成面に当接させて前記吸引ポンプを作動させ、前記液体噴射ヘッドの前記ノズルから前記液体の第2の吸引を行わせることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、流路ポンプを作動させ、キャップをノズル形成面に当接させて吸引ポンプを作動させると、2種類の液体を供給するそれぞれの流路のうち、選択されなかった流路以外の全ての流路に液体を充填させることが可能となる。このとき、上記では選択されなかった他方の流路においては、切換機構よりも下流側においては、吸引ポンプの作動により大きな負圧が作用する状態となる。また、選択されなかった流路以外の全ての流路においては、流路ポンプが流路の全てに液体を充填するために必要とされる液体量を排出可能な動作をするだけで以後の液体の供給が為されないため、吸引ポンプの作動によって、チョーク弁が閉じた状態となり、液体の供給が遮断される。
【0015】
一方、上記では選択されなかった他方の流路においては、上述の流路ポンプの作動により、液体が加圧状態で存在することとなる。その後に切換機構を作動させて、上記では選択されなかった他方の流路からの供給を許容する第2選択動作を行うと、切換機構よりも下流側における負圧の作用と、選択されなかった他方の流路に液体が加圧状態で存在することにより、当該選択されなかった他方の流路に液体を充填させることが可能となる。なお、第2選択動作においては、選択されなかった他方の流路以外の流路においては、流路ポンプからの液体の供給がないため、チョーク弁が閉じた状態のままであり、液体が排出されるのを抑えることが可能となる。
【0016】
このため、従来のように、切換機構を備える液体噴射装置において2種類のインクを初期充填する場合、その2種類のインクとは関係のないインクまで無駄に廃棄されるのを防ぐことが可能となる。
【0017】
本発明の液体噴射装置において、前記制御部が、前記第2の吸引の後に、または前記第2の吸引と共に、全ての前記流路ポンプを作動させて、前記チョーク弁より下流側の流路の全てに前記液体を充填するために必要とされる液体量の液体を、前記流路を介して前記液体噴射ヘッドに向けて供給することを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、吸引ポンプの作動により、チョーク弁よりも下流側の流路に作用している負圧を解消可能となる。すなわち、上述の負圧を解消しない場合、当該負圧の作用によって、キャップに排出されている液体がノズルから逆流する虞がある。しかしながら、吸引ポンプによる第2の吸引の後に、または第2の吸引と共に、流路ポンプを作動させて、チョーク弁より下流側の流路の全てに液体を充填するために必要とされる液体量の液体を供給すれば、その負圧を解消可能となり、ノズルからの液体の逆流を防ぐことが可能となる。
【0019】
本発明の液体噴射装置において、前記チョーク弁よりも下流側に、前記液体が流入する圧力室および前記圧力室の内圧の変動に応じて可撓し該圧力室の容積を変動させる可撓部材を備え、前記可撓部材の可撓によって前記圧力室の内圧が所定の圧力未満となる場合に開弁し、それ以外の場合には閉弁する圧力調整弁を備え、前記制御部が、前記第2の吸引の後に、または前記第2の吸引と共に、全ての前記流路ポンプを作動させて、前記圧力調整弁および該圧力調整弁より下流側の流路の全てに前記液体を充填するために必要とされる液体量の液体を、前記流路を介して前記液体噴射ヘッドに向けて供給することを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、吸引ポンプの作動により、圧力調整弁および圧力調整弁よりも下流側の流路に作用している負圧を解消可能となる。すなわち、上述の負圧を解消しない場合、当該負圧の作用によって、キャップに排出されている液体がノズルから逆流する虞がある。しかしながら、吸引ポンプによる第2の吸引の後に、または第2の吸引と共に、流路ポンプを作動させて、圧力調整弁および圧力調整弁より下流側の流路の全てに液体を充填するために必要とされる液体量の液体を供給すれば、その負圧を解消可能となり、ノズルからの液体の逆流を防ぐことが可能となる。
【0021】
本発明の液体噴射装置に液体の初期充填を行わせるための液体充填方法において、前記液体噴射装置は、1種類の液体を噴射可能なノズル群と2種類の液体を噴射可能なノズル群を備え、複数のノズル群から複数種類の液体を噴射可能な液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドの前記ノズル群が露出するノズル形成面に当接して1つの封止空間を形成するキャップと、前記封止空間を吸引するための吸引ポンプと、液体貯留容器から前記液体噴射ヘッドに向けて前記複数種類の液体を供給するための複数の流路と、前記複数の流路において前記液体貯留容器より下流側に位置し、前記液体貯留器から前記液体を吸引すると共に、下流側に前記液体を排出可能な流路ポンプと、前記複数の流路において前記流路ポンプより下流側に位置し、前記液体が流入する弁室、可撓により前記弁室の容積を変動させる可撓部材および前記弁室の内部に存在し前記可撓部材の可撓によって閉塞または開放可能な排出孔を備え、前記弁室に所定以上の負圧が及ぼされる場合には前記可撓部材が前記排出孔を閉塞し、それよりも下流側を負圧状態とするチョーク弁と、前記複数の流路のうち2つの流路に位置する前記チョーク弁より下流側に位置し、前記2つの流路の液体を前記2種類の液体を噴射可能なノズル群に供給するための1つの流路に連結され、そのうちのいずれかの液体の供給を許容する一方、選択されなかった液体の供給を遮断する切換機構と、前記液体噴射ヘッド、前記吸引ポンプ、前記切換機構および前記流路ポンプの作動を制御する制御部と、を備えると共に、前記切換機構を作動させて、2種類の前記液体を供給するそれぞれの前記流路のうちのいずれか一方の前記流路からの供給を許容する第1選択動作を行わせ、全ての前記流路ポンプを作動させて前記流路の全てに前記液体を充填するために必要とされる液体量を排出可能な状態にさせると共に、前記キャップを前記ノズル形成面に当接させて前記吸引ポンプを作動させ、前記液体噴射ヘッドの前記ノズルから前記液体の第1の吸引を行わせ、前記切換機構を作動させて、2種類の前記液体を供給するそれぞれの前記流路のうちの他方の前記流路からの供給を許容する第2選択動作を行い、再び前記キャップを前記ノズル形成面に当接させて前記吸引ポンプを作動させ、前記液体噴射ヘッドの前記ノズルから前記液体の第2の吸引を行わせることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、流路ポンプを作動させ、キャップをノズル形成面に当接させて吸引ポンプを作動させると、2種類の液体を供給するそれぞれの流路のうち、選択されなかった流路以外の全ての流路に液体を充填させることが可能となる。このとき、上記では選択されなかった他方の流路においては、切換機構よりも下流側においては、吸引ポンプの作動により大きな負圧が作用する状態となる。また、選択されなかった流路以外の全ての流路においては、流路ポンプが流路の全てに液体を充填するために必要とされる液体量を排出可能な動作をするだけで以後の液体の供給が為されないため、吸引ポンプの作動によって、チョーク弁が閉じた状態となり、液体の供給が遮断される。
【0023】
一方、上記では選択されなかった他方の流路においては、上述の流路ポンプの1サイクルの作動により、液体が加圧状態で存在することとなる。その後に切換機構を作動させて、上記では選択されなかった他方の流路からの供給を許容する第2選択動作を行うと、切換機構よりも下流側における負圧の作用と、選択されなかった他方の流路に液体が加圧状態で存在することにより、当該選択されなかった他方の流路に液体を充填させることが可能となる。なお、第2選択動作においては、選択されなかった他方の流路以外の流路においては、流路ポンプからの液体の供給がないため、チョーク弁が閉じた状態のままであり、液体が排出されるのを抑えることが可能となる。
【0024】
このため、従来のように、切換機構を備える液体噴射装置において2種類のインクを初期充填する場合、その2種類のインクとは関係のないインクまで無駄に廃棄されるのを防ぐことが可能となる。
【0025】
本発明の液体噴射装置に液体の初期充填を行わせるための液体充填方法において、前記第2の吸引の後に、または前記第2の吸引と共に、全ての前記流路ポンプを作動させて、前記チョーク弁より下流側の流路の全てに前記液体を充填するために必要とされる液体量の液体を、前記流路を介して前記液体噴射ヘッドに向けて供給することを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、吸引ポンプの作動により、チョーク弁よりも下流側の流路に作用している負圧を解消可能となる。すなわち、上述の負圧を解消しない場合、当該負圧の作用によって、キャップに排出されている液体がノズルから逆流する虞がある。しかしながら、吸引ポンプによる第2の吸引の後に、または第2の吸引と共に、流路ポンプを作動させて、チョーク弁より下流側の流路の全てに前記液体を充填するために必要とされる液体量の液体を供給すれば、その負圧を解消可能となり、ノズルからの液体の逆流を防ぐことが可能となる。
【0027】
本発明の液体噴射装置に液体の初期充填を行わせるための液体充填方法において、前記液体噴射ヘッドが、前記チョーク弁よりも下流側に、前記液体が流入する圧力室および前記圧力室の内圧の変動に応じて可撓し該圧力室の容積を変動させる可撓部材を備え、前記可撓部材の可撓によって前記圧力室の内圧が所定の圧力未満となる場合に開弁し、それ以外の場合には閉弁する圧力調整弁を備えると共に、前記第2の吸引の後に、または前記第2の吸引と共に、全ての前記流路ポンプを作動させて、前記圧力調整弁および該圧力調整弁より下流側の流路の全てに前記液体を充填するために必要とされる液体量の液体を、前記流路を介して前記液体噴射ヘッドに向けて供給することを特徴とする。
【0028】
この構成によれば、吸引ポンプの作動により、圧力調整弁および圧力調整弁よりも下流側の流路に作用している負圧を解消可能となる。すなわち、上述の負圧を解消しない場合、当該負圧の作用によって、キャップに排出されている液体がノズルから逆流する虞がある。しかしながら、吸引ポンプによる第2の吸引の後に、または第2の吸引と共に、流路ポンプを作動させて、圧力調整弁および圧力調整弁より下流側の流路の全てに液体を充填するために必要とされる液体量の液体を供給すれば、その負圧を解消可能となり、ノズルからの液体の逆流を防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係るプリンターの構成を示す斜視図である。
【図2】プリンターの構成を示す概略図である。
【図3】インク供給機構とクリーニング機構の概略を示す図である。
【図4】インク供給機構の概略および流路ポンプと逆止弁の構成を示す図である。
【図5】チョーク弁の概略構成を示す断面図である。
【図6】圧力調整弁の概略構成を示す断面図である。
【図7】切換機構の概略構成を示す図である。
【図8】流路ポンプの作動の様子を示す図である。
【図9】カートリッジから印刷ヘッドまでのインク供給の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施形態に係る、液体噴射装置としてのプリンター10について、図1から図9に基づいて説明する。なお、以下の説明においては、下方側とは、プリンター10が設置される側を指し、上方側とは、設置される側から離間する側を指す。また、キャリッジ31が移動する方向を主走査方向、主走査方向に直交する方向であって印刷媒体Pが搬送される方向を副走査方向とする。また、印刷媒体Pが供給される側を給紙側、印刷媒体Pが排出される側を排紙側として説明する。
【0031】
<プリンターの概略構成>
最初に、プリンター10の構成の概略について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るプリンター10の概略構成を示す斜視図であり、紙送りの上流側(給紙側)を手前、紙送りの下流側(排紙側)を奥側に配置している状態を示す図である。また、図2は、プリンター10の構成を示す概略図である。
本実施形態のプリンター10は、シャーシ21と、ハウジング22と、キャリッジ機構30と、紙送り機構40と、インク供給機構50と、クリーニング機構60と、制御部70と、を具備している。
【0032】
これらのうち、シャーシ21は、その下面側が設置面に接触する部分であると共に、各種ユニットが搭載される部分である。また、このシャーシ21には、図1において二点鎖線で示されるハウジング22が取り付けられる。このハウジング22は、上述したシャーシ21と同様な平面形状を有している。
【0033】
また、キャリッジ機構30は、図1および図2に示すように、キャリッジ31と、このキャリッジ31が摺動するキャリッジ軸32と、印刷ヘッド33と、を具備している。また、キャリッジ機構30は、キャリッジモーター(CRモーター)34と、このCRモーター34に取り付けられている歯車プーリー35と、無端のベルト36と、歯車プーリー35との間にこの無端のベルト36を張設する従動プーリー37と、を具備している。これらのうち、印刷ヘッド33(噴射ヘッドに対応)からは、後述するインク供給機構50を介して供給されるインク(液体に対応)が、印刷媒体Pに対して噴射される。
【0034】
また、図2に示すように、紙送り機構40は、紙送りモーター(PFモーター)41と、この紙送りモーター41からの駆動力が伝達される給紙ローラー42等を具備している。
【0035】
なお、図1においては、たとえば、インクカートリッジ51(液体貯留容器に対応)をシャーシ21側に装着する、いわゆるオフキャリッジタイプのプリンター10が示されているが、プリンターはオフキャリッジタイプには限られず、キャリッジにインクカートリッジが搭載される、いわゆるオンキャリッジタイプのプリンターとしても良い。
【0036】
ここで、本実施形態では、インクカートリッジ51は、シアン(図3においてCで示されるもの)、マゼンタ(図3においてMで示されるもの)、イエロー(図3においてYで示されるもの)のインクを貯留するものと、2種類のブラックのインクを貯留するものが存在している。2種類のブラックのインクとは、たとえば、光沢紙に対して光沢感の高い記録を実現するフォトブラック(図3においてPKで示されるもの)のインク、および光沢感のないマット紙に適したマットブラック(図3においてMKで示されるもの)のインクである。
なお、上述の印刷ヘッド33は、ノズル群としてのシアンのインクを噴射するノズル33a(図3参照)、マゼンタのインクを噴射するノズル33a、イエローのインクを噴射するノズル33aがそれぞれ設けられている。また、ブラックのインクを噴射するノズル33aは1つしかなく(すなわち、2種類のブラックインクの共通のものとなっている。)、2種類のインクのうちから後述する切換機構58によって選択されたブラックインクが噴射される。
【0037】
<インク供給機構について>
続いて、インク供給機構50の構成について、図3から図7に基づいて説明する。図3および図4は、インク供給機構50、およびクリーニング機構60の全体的な流れを示す図である。インク供給機構50は、インク供給針52、第1逆止弁53、流路ポンプ54、第2逆止弁55、チョーク弁56、圧力調整弁57、切換機構58、第1流路59a〜第7流路59gを主要な構成要素としている。
【0038】
なお、第1流路59a〜第7流路59gは、特に区別する必要がない場合には、流路59と称呼するものとする。
【0039】
図3に示すように、インク供給機構50のうち、流路ポンプ54、チョーク弁56、圧力調整弁57は、各インクカートリッジ51毎に設けられている。また、図3に示されていないが、第1逆止弁53および第2逆止弁55は、各流路ポンプ54毎に設けられている。しかしながら、図3に示す切換機構58は、後述するように、フォトブラックのインク、またはマットブラックのインクのいずれか一方のみを、図4に示す第7流路59gに流すのを許容する装置であるため、これらフォトブラックのインクを流すための第6流路59fに接続され、かつマットブラックのインクを流すための第6流路59fに接続されていて、それら以外のインクカートリッジ51は第6流路59fには接続されていない。
【0040】
これらのうち、インク供給針52は、インクカートリッジ51のインク供給口51aへと差し込む部分であり、この差し込みによってインク供給針52とインク供給口51aとが、インクの流通を可能とする状態で接続される。
【0041】
第1逆止弁53は、インクカートリッジ51から下流側に向かうインクの流れは許容するものの、流路ポンプ54側からインクがインクカートリッジ51に戻るのを防ぐための部材である。図4に示すように、第1逆止弁53は、ハウジング530によって構成される内部空間531と、可撓弁532と、付勢バネ533と、を有している。これらのうち、内部空間531には、その底部531a側に弁座531bが設けられると共に、底部531aとは反対側の天面部531cにはバネ受け部531dが設けられている。この内部空間531には、可撓弁532が設けられていて、当該可撓弁532は弁座531bに対して接離するように可撓(変形)可能となっている。この可撓弁532の存在により、内部空間531は、インクカートリッジ51からインクが供給される第1流路59aと連通している上流室534Aと、インクを流路ポンプ54に供給するための第2流路59bに連通している下流室534Bとに区切られている。
【0042】
また、可撓弁532の径方向の中心には、貫通孔532aが設けられている。加えて、可撓弁532には、弁座531b側に向かって突出し、かつ貫通孔532aを囲むように設けられるリング状の突出部532bが設けられている。突出部532bが弁座531bに接触していないとき、上流室534Aに流れ込んだインクが貫通孔532aを通り、下流室534Bを経て第2流路59bへと流れる。
【0043】
また、可撓弁532には、付勢バネ533により弁座531bに向かう付勢力が与えられている。この付勢バネ533の一端側はバネ受け部531dに当接すると共に、その他端側は可撓弁532に当接している。そのため、付勢バネ533は、可撓弁532を弁座531bに向かって付勢する付勢力を与える。なお、この付勢力により、下流室534B側に負圧等が作用しない状態では、突出部532bは弁座531bに当接させられる。
【0044】
また、第1逆止弁53よりも下流側には、第2流路59bを経て流路ポンプ54が設けられている。流路ポンプ54は、ハウジング540によって構成される内部空間541と、ダイアフラム542と、コイルスプリング543を有している。これらのうち、内部空間541は、ダイアフラム542の存在によって、ポンプ室544Aと負圧室544Bとの2つに分けられている。ポンプ室544Aには、第2流路59bが連通していると共に、第3流路59cも連通している。第3流路59cは、印刷ヘッド33へのインク供給順路で見ると流路ポンプ54よりも下流側に存在する流路であり、第2逆止弁55へと連通している。また、ダイアフラム542は、内部空間541において、ポンプ室544A側の底部541aに当接するように可撓(変形)可能であり、かつ負圧室544B側の天面部541bに当接するように可撓(変形)可能となっている。
【0045】
また、負圧室544Bの天面部541b側には、バネ受け部541cが設けられていて、このバネ受け部541cには、ポンプ室544Aに外力を与えるコイルスプリング543の一端側が当接している。また、コイルスプリング543の他端側は、ダイアフラム542に当接している。このため、ダイアフラム542には、当該ダイアフラム542をポンプ室544Aの底部541aに当接させる付勢力が、コイルスプリング543によって与えられている。なお、この付勢力により、負圧室544Bに後述する負圧が作用しない状態では、ダイアフラム542がポンプ室544Aの底部541aに当接するため、インクの下流側に向かう流れが阻害される。
【0046】
ここで、負圧室544Bには、空気流路545を介して大気開放弁546が連結されている。大気開放弁546は、不図示の弁体の閉じた状態のときには、負圧室544Bに向かう外部からの空気の流入を遮断する。この遮断状態で後述する減圧ポンプ547を作動させると、負圧室544Bに負圧を及ぼさせることが可能となり、その負圧の作用によって、ダイアフラム542をコイルスプリング543のバネ力に抗させつつポンプ室544Aの底部541aから離間させることが可能となる。また、空気流路545の大気開放弁546よりも負圧室544Bから離間する側には、減圧ポンプ547が連結されている。減圧ポンプ547は、負圧室544Bに負圧を及ぼさせるように作動するポンプである。なお、この減圧ポンプ547の駆動は、制御部70によって制御されている。
【0047】
また、第2逆止弁55は、上述した第1逆止弁53と同様の構成を有しているが、第2逆止弁55には貫通孔が形成されていない点で、第1逆止弁53と異なっている。また、第2逆止弁55においては、上流側の第3流路59cが、常時、流入室552Aに連通している。第2逆止弁55の可撓弁553は、第4流路59dを閉塞する閉弁方向に付勢部材554により付勢されている。このため、第2逆止弁55の可撓弁553は、流入室552A内の圧力が負圧状態はもちろんのこと、所定圧力未満の場合は、開弁せず、第3流路59cへのインクの逆流を防止している。そして、上流側の第3流路59cから第2逆止弁55の流入室552A内にインクが流入し、流入室552A内の圧力が所定圧力以上になった場合、第2逆止弁55の可撓弁553は、付勢部材554の押圧力に抗して、流入室552A内の容積が増大する方向に変形することにより開弁し、下流側の第4流路59dが、流入室552A内を経由して、上流側の第3流路59cと連通する。なお、第2逆止弁55のうち、第1逆止弁53と共通の構成については、その説明を省略する。
【0048】
また、第4流路59dに沿って下流側に向かうと、チョーク弁56が設けられている。図5に示すように、チョーク弁56は、成型品560aによって形成される凹部560と、フィルム561(可撓部材に対応)とを有している。凹部560は、第4流路59dと連通している。また、凹部560は、後述する環状凸部563を除いて、他の部分よりも窪んで形成されている。そして、この凹部560を覆うようにフィルム561を貼付することによって、チョーク弁室562が構成されている。このチョーク弁室562(凹部560)の径方向の中央または略中央には、環状凸部563が設けられている。環状凸部563は、成型品560aのうち凹部560以外の部分と同程度まで突出している。この環状凸部563のうち、後述する排出孔564の周囲には、フィルム561が接離する当接部が設けられている。なお、フィルム561は環状凸部563に対して接離するように可撓(変形)可能となっている。
【0049】
また、この環状凸部563には、第5流路59eの入口となる排出孔564が設けられている。すなわち、フィルム561が環状凸部563に接触していない状態では、排出孔564は開放状態となり、第5流路59eに向かうインクの流れが許容される。しかしながら、チョーク弁室562内の圧力低下によりフィルム561が環状凸部563に当接すると、排出孔564が閉塞状態となり、第5流路59eに向かうインクの流れが遮断される。このような構成により、チョーク弁56としての機能が実現されている。
【0050】
また、第5流路59eに沿って下流側に向かうと、圧力調整弁57が設けられている。図6に示すように、圧力調整弁57は、ハウジング570によって形成されるインク供給室571Aおよび圧力室571Bと、弁体572と、板状部材573と、フィルム574と、付勢バネ575とを有している。インク供給室571Aは、第5流路59eからインクが流れ込む部分であり、連通孔576を介して圧力室571Bと連通している。また、インク供給室571Aには、弁体572の封止部572aが位置する。封止部572aには、突出部572bが設けられていて、この突出部572bは連通孔576の外周よりも外側の底部(インク供給室571Aのうち、連通孔576が形成されている側の側壁を底部571A1とする)を囲うようなリング形状を為している。したがって、突出部572bが、インク供給室571Aの底部571A1と接触すると、突出部572bによって連通孔576の周囲が閉塞されて、インクの連通孔576に向かう流れが阻止される。
【0051】
また、弁体572には、上述の封止部572a以外にも、軸部572cが設けられている。軸部572cは、図6に示すように、連通孔576に挿入されて、その先端側が圧力室571B側に突出する部分である。この軸部572cの先端部は、板状部材573と連結されている。また、板状部材573は、フィルム574に貼付されている。なお、フィルム574は、圧力室571Bの圧力の変動に応じて可撓(変形)し、当該圧力室571Bの容積を変動させることが可能となっている。なお、圧力室571Bのうち、フィルム574と対向する部分を底部571B1とする。
【0052】
また、板状部材573と圧力室571Bの底部571B1の間には、付勢バネ575が設けられている。付勢バネ575は、フィルム574を圧力室571Bの底部571B1から離間させる付勢力を与えるものである。すなわち、圧力室571Bに負圧が作用しない状態(十分な量のインクがある状態)においては、付勢バネ575による付勢力を受けて、フィルム574は底部571B1から離間させられる。その離間動作に伴って弁体572がフィルム574側に移動させられ、突出部572bは底部571A1のうち連通孔576の周囲に当接し、連通孔576の周囲が閉塞されて、インクの連通孔576に向かう流れが阻止される。これに対して、印刷ヘッド33でのインク噴射に伴ってインクを消費すると、圧力室571Bの内部に存在するインクの量も少なくなり、その分だけフィルム574がインク供給室571A側に向かって可撓する。そのとき、圧力室571Bの内圧と大気圧との圧力差が、付勢バネ575の付勢力に抗することができる程に大きくなると、フィルム574および弁体572は、図6において右側に移動し、突出部572bは底部571A1から離間する。それにより、インク供給室571Aから連通孔576を介して、圧力室571Bへのインク供給が為され、所定だけインクの供給が為されると、再びフィルム574が底部571B1から離間する側に移動させられる。
【0053】
また、2種類のブラックインクを流通させる第6流路59fに沿って下流に向かうと、図7に示すような切換機構58が設けられている。切換機構58は、印刷ヘッド33のノズル33aから噴射されるインクを、印刷媒体Pが、たとえば光沢紙であるか、またはたとえばマット紙であるかにより、フォトブラックインクとマットブラックインクとの間で切り換え可能となっている。
【0054】
図7に示すように、切換機構58は、本体部581と、フィルム582と、封止部材583と、軸部材584と、第1アーム585Aおよび第2アーム585Bと、板カム587とを有している。これらのうち、本体部581には、一対の凹嵌部581A(581A1,581A2)が設けられていて、一対の凹嵌部581Aは、それぞれ第6流路59fと連通している。
【0055】
ここで、一方の凹嵌部581A1は、たとえばフォトブラックインクを供給するための第6流路59fに連通している。また、他方の凹嵌部581A2は、マットブラックインクを供給するための第6流路59fに連結されている。また、凹嵌部581Aの底部581bには、当該底部581bの他の部分よりも突出しているリング状の弁座581cが設けられていて、この弁座581cの中央には挿通孔588が設けられている。この凹嵌部581Aには、封止部材583が嵌め込まれるが、当該封止部材583が弁座581cに対して離れている状態では、凹嵌部581Aから挿通孔588へのインクの流れが許容される。逆に、封止部材583が弁座581cに対して当接している状態では、凹嵌部581Aから挿通孔588へのインクの流れが遮断される。
【0056】
なお、封止部材583は、凹嵌部581Aを液密に覆うフィルム582に貼付されている。そのため、インクが凹嵌部581Aに入り込むと、フィルム582が弁座581cから離れる向きに撓み、その撓みによって封止部材583は弁座581cから離間させられる。
【0057】
上述の挿通孔588には、第7流路59gが連結されていて、この第7流路59gを介して、印刷ヘッド33へのインクの供給が可能となっている。また、挿通孔588には、軸部材584が挿通される。軸部材584は、挿通孔588の長さ寸法よりも若干長い長さ寸法を有している。そのため、一方の封止部材583が押し込まれて弁座581cに当接している状態のとき、他方の封止部材583は軸部材584により弁座581cから離間させられる。なお、軸部材584の両端側は、他の部分よりも直径の大きな拡径部584aとなっているが、この拡径部584aの直径は、挿通孔588の内径に対応する大きさとなっている。しかしながら、拡径部584aの周方向の一部は切り欠かれていて(図示省略)、その切欠部分の存在によって、挿通孔588へのインクの流れが許容されるようになっている。
【0058】
また、第1アーム585Aおよび第2アーム585Bは、図7に示すように、互いに交差して配置されており、それらの交差部位には、両者を貫通するピン586が取り付けられている。そのため、第1アーム585Aおよび第2アーム585Bは、ピン586を介して回動可能となっている。第1アーム585Aおよび第2アーム585Bのうち、凹嵌部581A側に近い一端側は、封止部材583を押し込むための押し込み部585cとなっている。
【0059】
また、第1アーム585Aおよび第2アーム585Bのうち、凹嵌部581Aから離間する他端側は、板カム587に当接するカム当接部585dとなっている。板カム587は、回転軸587aからカム面587bまでの距離が変化するように設けられていて、それらには押し込み領域587Cと離間領域587Dとが存在している。すなわち、押し込み領域587Cは、カム面587bが回転中心である回転軸587aに最も距離が近い領域であり、封止部材583を押し込み部585cが押し込むときにカム当接部585dがカム面587bに当接する部分である。また、離間領域587Dは、カム面587bが回転中心である回転軸587aに最も距離が遠い領域であり、押し込み部585cが封止部材583から離れるときにカム当接部585dがカム面587bに当接する部分である。
【0060】
また、第1アーム585Aのうちピン586よりもカム当接部585d側と第2アーム585Bのうちピン586よりも押し込み部585c側の間、および第1アーム585Aのうちピン586よりも押し込み部585c側と第2アーム585Bのうちピン586よりもカム当接部585dの間には、それぞれバネ部材589が取り付けられている。このバネ部材589は、その取り付け部位が互いに離間する向きの付勢力を与えている。そのため、第1アーム585Aのカム当接部585dと第2アーム585Bのカム当接部585dとは、同時に板カム587に当接させられている。
【0061】
以上のような切換機構58により、不図示のモーターの駆動によって板カム587が回転させられると、第1アーム585Aの押し込み部585cまたは第2アーム585Bの押し込み部585cのいずれか一方が封止部材583を押し込んで、封止部材583が一方の凹嵌部581Aの弁座581cに当接して、挿通孔588へのインクの流れを遮断する。同時に、第1アーム585Aの押し込み部585cまたは第2アーム585Bの押し込み部585cのいずれか他方は、封止部材583に対して離間している。そのため、インクが他方の凹嵌部581Aに流れ込んでフィルム582が弁座581cから離間する向きに撓むと、封止部材583は弁座581cに当接しない状態となり、インクが挿通孔588を介して第7流路59gに向かって流れるのを許容する。なお、第7流路59gは、印刷ヘッド33のノズル33aに連通している。
【0062】
<クリーニング機構について>
続いて、クリーニング機構60について説明する。シャーシ21には、図1、図3および図4に示すようなクリーニング機構60が設けられている。このクリーニング機構60は、キャップ61と、インク排出チューブ62と、廃液タンク63と、吸引ポンプ64とを備えている。
【0063】
これらのうち、キャップ61は、印刷ヘッド33のノズル群としてのノズル33aが露出するノズル形成面(不図示)を封止して、1つの封止空間を形成する部分である。そのため、キャップ61は、不図示の昇降機構により、上下に昇降させることを可能としている。また、インク排出チューブ62は、その一端側がキャップ61に接続されていると共に、その他端側が廃液タンク63に接続されている。なお、廃液タンク63は、印刷ヘッド33のノズル33aからキャップ61に排出されるインクを蓄える部分である。また、吸引ポンプ64は、インク排出チューブ62の中途部に接続されている。そのため、吸引ポンプ64が作動すると、ノズル33aからインクを廃液タンク63に向けて排出することが可能となる。
【0064】
<制御部について>
図2に示すように、プリンター10には、制御部70が設けられている。この制御部70は、インターフェイス71、不図示のCPU、メモリー、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、バス、タイマー等を有している。また、この制御部70には、各種センサーからの信号が入力されると共に、これらのセンサーからの信号に基づいて、またはこれらのセンサーとは関係なく、CRモーター34、PFモーター41、減圧ポンプ547のポンプモーター(図示省略)、吸引ポンプ64のポンプモーター(図示省略)、および印刷ヘッド33等の駆動を司る。なお、かかる駆動を司るためのプログラムおよびデータが、メモリーに記憶させられている。
【0065】
<印刷ヘッドにインクを初期充填する際の動作について>
続いて、上述の構成を有するプリンター10において、印刷ヘッド33にインクを初期充填する際の動作について、図8および図9等に基づいて説明する。
【0066】
<<第1回目の初期充填>>
(1)減圧ポンプ547の作動(負圧の発生)
制御部70において、初期充填の動作が選択されると、当該制御部70は、いずれかのブラックインクがノズル33aに供給されるように選択動作を実行する(第1の選択動作)。すなわち、切換機構58を作動させ、不図示のモーターの作動によって板カム587が回転させられ、一方側の押し込み部585cは封止部材583から離れるものの、他方側の押し込み部585cが封止部材583を押し込む。それにより、ブラックインクの一方側を供給するための凹嵌部581Aにおいては、封止部材583が弁座581cから離れて、当該ブラックインクの一方側を供給可能となる。しかしながら、ブラックインクの他方側を供給するための凹嵌部581Aにおいては、封止部材583が弁座581cに当接し、当該ブラックインクの他方側の供給が遮断される。
【0067】
この選択が為された後に、制御部70は減圧ポンプ547を作動させる。このとき、大気開放弁546は、閉じた状態とさせられる。すると、減圧ポンプ547により、負圧室544Bの圧力が負圧状態となり、ダイアフラム542は、図4に示すようなポンプ室544A側の底部541aに当接する状態から、図8(b)に示すような負圧室544B側の天面部541bに当接するように可撓する。
【0068】
このとき、第2逆止弁55の可撓弁553は、負圧の作用によって第4流路59dを閉塞した状態となり、これより下流側の流路には負圧が及ぼされない。一方、ポンプ室544A側も負圧状態となり、その負圧が第2流路59bを介して第1逆止弁53へと及ぼされる。そのとき、第1逆止弁53の下流室534Bが負圧となるため、可撓弁532はその負圧によって付勢バネ533の付勢力に抗しつつ可撓させられる。そのため、突出部532bが弁座531bから離間し、負圧が上流室534Aおよび第1流路59aを介してインクカートリッジ51へ及ぼされる。それにより、インクカートリッジ51内に貯留されているインクが、第1流路59aを介して上流室534Aへと流入する。また、上流室534Aにインクが流入すると、可撓弁532は下流室534Bへの押し上げ状態を維持し、インクは貫通孔532aを介して下流室534Bへと流入し、さらには下流室534Bから第2流路59bを介してポンプ室544Aへと流れ込み、また、第3流路59cにも入り込む。
【0069】
なお、ポンプ室544Aおよび第3流路59cへのインクの入り込みは、全てのインクカートリッジ51に対して為される。すなわち、フォトブラックインクとマットブラックインクの両方とも、それぞれのポンプ室544Aおよび第3流路59cに、インクが入り込んでいる。また、このときのインクの下流側に向かう様子が、図9(a)に示されている。
【0070】
(2)吸引ポンプの作動
上述のように、制御部70の制御により、ダイアフラム542が負圧室544B側の天面部541bに接触する状態を維持したまま、続いて、吸引ポンプ64が作動させられる(第1の吸引)。すると、圧力調整弁57においては、圧力室571Bが負圧となり、その負圧に応じてフィルム574がインク供給室571A側に向かって撓む。それにより、弁体572が付勢バネ575のバネ力に抗してインク供給室571A側に押し込まれるため、突出部572bは底部571A1から離間し、インク供給室571Aが連通孔576を介して圧力室571Bと連通する。そのため、インク供給室571Aにも負圧が及ぼされ、さらには第5流路59eおよび排出孔564を介してチョーク弁56のチョーク弁室562にも及ぼされる。
【0071】
そして、チョーク弁室562が負圧となることにより、フィルム561が凹部560の底部に向かって撓もうとするが、この撓み動作によって、フィルム561は環状凸部563に接触する。すると、排出孔564の周囲がフィルム561で閉塞される状態となり、さらなる吸引ポンプ64の作動によって、フィルム561は環状凸部563へ大きな圧力で押し付けられる状態となる。一方、排出孔564よりも下流側の部位(第5流路59e、圧力調整弁57、第6流路59f等)は、吸引ポンプ64の作動によって大きな負圧状態となる。なお、このときのインクの到達地点は、図9(a)と同様である。
【0072】
(3)大気開放
続いて、制御部70の制御により、減圧ポンプ547の作動が停止させられると共に、大気開放弁546が開放状態となるように作動させられる。すると、図8(a)に示すように、流路ポンプ54においては、負圧室544Bにおける負圧状態が解消され、コイルスプリング543によりダイアフラム542が押し込まれる。それにより、インクが流入室552A内に流入し、流入室552A内の圧力が所定圧力以上になることにより、可撓弁553が開弁し、第3流路59c、第2逆止弁55、第4流路59dを介して、チョーク弁56のチョーク弁室562に流れ込む。
【0073】
このチョーク弁56においては、インクの流入によってフィルム561に押圧力が作用し、その押圧力が環状凸部563とフィルム561との間の吸引力(負圧による力)に打ち勝つと、フィルム561が環状凸部563から離れる。すると、負圧の作用によって、インクは、気泡と共に印刷ヘッド33まで一気に流れ込んでいき、ノズル33aからキャップ61内に排出される。それにより、ノズル33aからインクが排出された部位においては、インクカートリッジ51からノズル33aまでの間がインクで満たされる、初期充填が完了する状態となる。
【0074】
かかるインクのキャップ61への排出後、吸引ポンプ64の継続した作動により、または吸引ポンプ64の作動は停止するが残存している負圧が作用する状態として、再びチョーク弁56のチョーク弁室562に負圧が働き、フィルム561は環状凸部563へ大きな圧力で押し付けられる状態となる(チョーク弁56が閉じ状態となる)。そして、吸引ポンプ64の作動継続により、排出孔564よりも下流側の部位(第5流路59e、圧力調整弁57、第6流路59f等)は、負圧状態となる一方、ノズル33aからインクが排出された部位においては、ノズル33aからのインクの排出はなくなるものの、インクカートリッジ51からノズル33aまでの間がインクで満たされる状態は維持される。すなわち、ブラックインクの一方側と、シアンのインクと、マゼンタのインクと、イエローのインクの初期充填が終了する。
【0075】
一方、切換機構58によって押し込み部585cが封止部材583を押し込んでいる側では、圧力調整弁57、チョーク弁56への負圧の作用がない。よって、コイルスプリング543でダイアフラム542が押され、加圧力のみが第3流路59c、第1逆止弁53、第4流路59d、チョーク弁56のチョーク弁室562および圧力調整弁57に作用している。そして、圧力調整弁57の圧力室571Bには、インクが所定の加圧状態で入り込むが、上述のように押し込み部585cが封止部材583を押し込んでいるため、ブラックインクの他方側の初期充填は、未だ為されていない。
【0076】
<<第2回目の初期充填>>
(4)切換機構58の作動
上述の状態で、制御部70の制御により、切換機構58が作動させられる(第2の選択動作)と、不図示のモーターの作動によって板カム587が回転させられ、今まで押し込み部585cが封止部材583を押し込んでいる側(他方側とする)では、封止状態が解かれ、それとは異なる側(一方側とする)の封止部材583が押し込み部585cによって押し込まれる。
【0077】
この後に、吸引ポンプ64を作動させる(第2の吸引)。なお、負圧が十分に残存している場合には、吸引ポンプ64を作動させなくても良い。ここで、切換機構58のうちブラックインクの他方側を供給するための凹嵌部581Aでは、封止部材583が弁座581cから離れるため、それよりも上流側には、挿通孔588および第7流路59gよりも下流側に作用している負圧が及ぼされる状態となる。一方、上述したように封止部材583よりも上流側においては、インクが所定の加圧状態で入り込んでいる。そのため、上述のように封止部材583が弁座581cから離れると、ブラックインクの他方側は、気泡と共に印刷ヘッド33まで一気に流れ込んでいき、ノズル33aからキャップ61内に排出される。それにより、ブラックインクの他方側の初期充填が終了する。すなわち、図9(c)に示す状態となる。
【0078】
(5)その他の動作
以上の動作に加えて、(4)の動作の後に、吸引ポンプ64の作動は継続しながらも、または吸引ポンプ64の作動は停止するが残存している負圧が作用する状態として、流路ポンプ54を作動させて、インクを印刷ヘッド33側に供給するようにしても良い。ここで、この動作により供給されるインク量は、1回目の初期充填におけるインクの充填量よりも少ない量であることが必須である。その場合には、1回目〜2回目の初期充填で構成される1サイクルのインク排出量が、流路の全てにインクを充填するために必要とされるインク量の2倍未満となり、従来よりもインクの排出量を低減可能となるからである。
【0079】
加えて、この動作により供給されるインク量は、吸引ポンプ64の作動の継続によって大きな負圧が作用している部位を充填するためのインク量(または大きな負圧が作用している部位の負圧を解消するためのインク量)としても良い。
【0080】
具体的には、負圧の作用を受けるチョーク弁56の排出孔564よりも下流側の流路の全てを充填するためのインク量としても良いし、負圧の作用による第5流路59eの容積変化が微量であることを考慮して、圧力調整弁57の圧力室571Bおよび圧力室571Bよりも下流側の流路の全てを充填するためのインク量としても良い。
【0081】
この場合には、吸引ポンプ64の作動の継続によって大きな負圧が作用している部位、または吸引ポンプ64の作動は停止するが残存している負圧が作用している部位に、インクを流し込むことができ、その大きな負圧が作用している部位の負圧を解消でき、キャップ61に排出されているインクがノズル33aから吸い込まれるのを防止可能となる。
【0082】
<効果>
以上のような構成のプリンター10によれば、制御部70は、流路ポンプ54の1サイクルの作動の後に、キャップ61をノズル33aが露出するノズル形成面に当接させて吸引ポンプ64を作動させている。それにより、切換機構58によって選択されていない流路59以外の流路59の上流側から下流側まで、インクを充填させることができる。加えて、切換機構58を作動させているため、切換機構58によって最初は選択されていなかった流路59に、インクを充填させることができる。このとき、ポンプ室544Aの収縮によって排出されるインク量を、流路59の上流側から下流側までの全てにインクを充填するために必要とされるインク量の2倍未満となるように制御しているため、無駄に排出されるインク量を低減させることが可能となる。
【0083】
また、1つの封止空間を形成するキャップ61を用いて、インクの初期充填が行われるため、キャップ61の構成が簡素となり、コストの低減が可能となる。また、インク供給機構50において構成の複雑化を抑えることが可能となり、コストの低減が可能となる。
【0084】
また、流路59の切換機構58よりも上流側であって流路ポンプ54よりも下流側には圧力調整弁57が設けられていて、この圧力調整弁57は、インクが流入する圧力室571Bを有していて、インクの減少により圧力室571Bの内圧が所定の圧力未満となる場合に開弁し、それ以外の場合には閉弁する。
【0085】
このため、印刷ヘッド33がインクを消費しない場合に、過度のインクが圧力室571Bから印刷ヘッド33に供給されるのを防止可能となり、印刷ヘッド33からのインクの噴射を適正化させることが可能となる。
【0086】
また、本実施形態では、流路ポンプ54を1サイクル作動させ、キャップ61をノズル形成面に当接させて吸引ポンプ64を作動させると、2種類のブラックインクを供給するそれぞれの流路59のうち、切換機構58で選択されなかった流路59以外の全ての流路59にインクを充填させることが可能となる。このとき、選択されなかった他方の流路59においては、切換機構58よりも下流側において、吸引ポンプ64の作動により大きな負圧が作用する状態となる。また、選択されなかった流路59以外の全ての流路59においては、流路ポンプ54が1サイクル動作するだけで以後のインクの供給が為されないため、吸引ポンプ64の作動によって、チョーク弁56が閉じ状態となり、インクの供給が遮断される。選択されなかった他方の流路59では、流路ポンプ54の1サイクルの作動により、インクが加圧状態で存在する。その後に切換機構58を作動させて、選択されなかった他方の流路59からの供給を許容する動作を行うと、切換機構58よりも下流側における負圧の作用と、選択されなかった他方の流路59にインクが加圧状態で存在することにより、当該選択されなかった他方の流路59にインクを充填させることが可能となる。
【0087】
なお、当初は選択されなかった他方の流路59以外の流路59においては、流路ポンプ54からのインクの供給がないため、チョーク弁56が閉じ状態のままであり、インクが排出されるのを抑えることが可能となる。
【0088】
このようにすると、従来のように、切換機構58を備えるプリンター10において2種類のインクを初期充填する場合、その2種類のインクとは関係のないインクまで無駄に廃棄されるのを防ぐことが可能となる。
【0089】
さらに、本実施形態では、上述の発明において、制御部70は、当初は選択されなかった他方の流路59にインクを充填させた後に(または吸引ポンプ64が第2回目の吸引を行った後に)、またはこの充填と共に(または吸引ポンプ64が第2回目の吸引を行うのと共に)、流路ポンプ54を作動させて、所定量のインクを流路59を介して印刷ヘッド33に向けて供給する。
【0090】
このため、吸引ポンプ64の作動により、チョーク弁56よりも下流側の流路59に作用している負圧を解消可能となる。すなわち、上述の負圧を解消しない場合、当該負圧の作用によって、キャップ61に排出されているインクがノズル33aから逆流する虞がある。しかしながら、当初は選択されなかった他方の流路59にインクを充填させた後に(または吸引ポンプ64が第2回目の吸引を行った後に)、またはこの充填と共に(または吸引ポンプ64が第2回目の吸引を行うのと共に)、流路ポンプ54を作動させて、所定量のインクを供給すれば、その負圧を解消可能となり、ノズル33aからのインクの逆流を防ぐことが可能となる。
【0091】
また、ノズル33aからインクが逆流によって入り込む場合には、キャップ61のインクが入り込むことになるため、各色のインクが混じり合っているものが入り込み、印刷媒体Pに印刷した結果物の画質が悪化する。しかしながら、上述のように所定量のインクを供給して負圧を解消することにより、印刷媒体Pに印刷した結果物の画質を良好な状態に維持可能となる。
【0092】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について述べたが、本発明は、種々変形可能である。以下、それについて述べる。
【0093】
上述の実施形態では、インク供給機構50は、排出するインクの量を制御可能な流路ポンプとして、外力の付加による内部容積の拡大時にインクを吸引すると共に、外力の付加による内部容積の収縮時に液体を排出するポンプ室544Aを可撓可能なダイアフラム542備えることにより構成する流路ポンプ54、所謂ダイアフラムポンプを備える構成としている。しかしながら、流路ポンプ54は、インクカートリッジ51からインクを吸引し、所定量のインクを排出するように制御可能なポンプであればダイアフラムポンプでなくても良い。
【0094】
例えば、ピストンポンプ、プランジャーポンプなどの往復動ポンプや、チューブポンプ、ギヤポンプ、ベーンポンプ、ねじポンプなどの回転ポンプを用いることができる。往復動ポンプの場合は、ダイアフラムポンプと同様に1サイクル(1往復動)当たり排出可能なインクの量を把握しておけば、制御部がポンプを1サイクルまたは複数サイクル作動させることにより、所定量のインクを排出するように制御可能である。また、回転ポンプの場合は、1回転当たり排出可能なインクの量を把握しておけば、制御部がポンプを必要な回転数作動させることにより、所定量のインクを排出するように制御可能である。
【0095】
上述の実施形態では、インク供給機構50は、第1逆止弁53、第2逆止弁55、および圧力調整弁57を備える構成としている。しかしながら、インク供給機構50は、これらのうち少なくとも1つを備えない構成としても良い。インク供給機構50が、第1逆止弁53、第2逆止弁55、および圧力調整弁57のうち少なくとも1つを備えない構成であっても、本発明が成立し得るからである。
【0096】
また、上述の実施形態では、第1逆止弁53、第2逆止弁55、チョーク弁56および圧力調整弁57は、別の構成を採用しても良い。たとえば、これらは、フィルム(ダイアフラム)を備える構成とはせずに、スイング式のもの、ウエハーチャッキ式のもの、リフト式のもの、フート弁のもの等、種々のタイプを用いるようにしても良い。
【0097】
また、上述の実施形態では、インクカートリッジ51は、シアン、マゼンタ、イエロー、フォトブラック、マットブラックの各インクを貯留するものとしている。しかしながら、インクカートリッジ51は、これらのインクを貯留するものには限られず、たとえばライトシアン、ライトマゼンタ、グレー、ライトグレー、グリーン、オレンジ等のうちの少なくとも1つを有するものであっても良い。また、上述の実施形態では、切換機構58で供給を切り換えられるインクを、フォトブラックとマットブラックとしている。しかしながら、切換機構58で供給を切り換えられるインクは、フォトブラックとマットブラックとには限られない。たとえば、グレーのインクとライトグレートのインク、またはライトマゼンタとビビッドライトマゼンタのインクとを切換可能な構成としても良い。
【0098】
また、上述の実施形態では、減圧ポンプ548を作動させ、その後吸引ポンプ64を作動させ、その後大気開放弁546を作動させている。しかしながら、減圧ポンプ548よりも吸引ポンプ64を先に作動させるようにしても良い。
【0099】
また、上述の実施形態では、「(5)その他の動作」として、吸引ポンプ64の作動は継続しながらも、または吸引ポンプ64の作動は停止するが残存している負圧が作用する状態として、流路ポンプ54を作動させて、インクを印刷ヘッド33側に供給し、大きな負圧が作用している部位の負圧を解消して、キャップ61に排出されているインクがノズル33aから吸い込まれるのを防止している。しかしながら、負圧が作用しても可撓部が少なく流路の容積がほとんど変化しないような場合は、吸引ポンプ64の作動に代えて、制御部70が印刷ヘッド33を駆動させて、負圧によってノズル33aに入り込んだインクまたはそれ以上のインクを噴射するようにしても良い。この場合、各色のインクが混じり合っているものがノズル33aに入り込んだとしても、かかる混じり合ったインクをノズル33aから排出可能となり、印刷媒体Pに印刷した結果物の画質を良好な状態に維持可能となる。
【0100】
また、上述の実施形態では、1回目〜2回目の初期充填で構成される1サイクルのインク排出量が、流路の全てにインクを充填するために必要とされるインク量の2倍未満となるものとしている。ここで、上述の(1)〜(4)の動作を実行する場合には、インクの排出量は、流路の全てにインクを充填するために必要とされるインク量の1倍か、または1倍より多いとしても、その多くなる分は、吸引ポンプ64の作動時の負圧の影響でキャップ61に入り込むものが加算される分となるがその量は微量であり、流路の全てにインクを充填するために必要とされるインク量の2倍よりも大幅に少なくなる。
【0101】
また、上述の(5)の動作を実行する場合でも、負圧が作用しているのがチョーク弁56よりも下流側であることを考慮すれば、インク排出量は、流路の全てにインクを充填するために必要とされるインク量の1倍に、吸引ポンプ64の作動の継続によって大きな負圧が作用している部位を充填するためのインク量または大きな負圧が作用している部位の負圧を解消するためのインク量が加算された量となり、流路の全てにインクを充填するために必要とされるインク量の2倍よりも大幅に少なくなる。
【0102】
この動作により排出されるインク量は、負圧の作用を受けるチョーク弁56の排出孔564よりも下流側の流路の全てを充填するためのインク量としても良いし、負圧の作用による第5流路59eの容積変化が微量であることを考慮して、圧力調整弁57の圧力室571Bおよび圧力室571Bよりも下流側の流路の全てを充填するためのインク量としても良い。
【0103】
さらに、吸引ポンプ64の作動が継続することによる負圧の影響でキャップ61に入り込むものを加算しても良いがその量は微量であり、そのため排出されるインク量は、従来のインク排出量の2倍よりも大幅に少なくなる。
【0104】
また、上述の実施形態においては、制御部70は、ソフトウエア的に実現されるものでも良く、また回路的に実現される構成であっても良い。
【0105】
また、プリンター10は、インクジェット式のプリンター10に適用される場合には限られず、例えば、ジェルジェット方式のプリンターとしても良い。また、プリンター以外のスキャナー装置、ファックス装置、コピー装置等を備える複合機を、本発明のプリンターとしても良い。
【0106】
また、上述の実施形態におけるプリンター10の概念には、インク以外の他の液体(液体そのものや、機能材料の粒子が液体に分散又は混合されてなる液状体、ゲルのような流動性を有する材質を含む)を噴射したり噴射したりする流体噴射装置を含むようにすることもできる。そのようなものとしては、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材(画素材料)などの材料を分散または溶解のかたちで含む液体を噴射する液状体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する流体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する流体噴射装置等がある。
【0107】
さらに、本発明のプリンター10の概念に含まれるものとしては、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する流体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する流体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する流体噴射装置、ゲル(例えば物理ゲル)などの流状体を噴射する流状体噴射装置等がある。
【符号の説明】
【0108】
10…プリンター、30…キャリッジ機構、33…印刷ヘッド(液体噴射ヘッドに対応)、40…紙送り機構、50…インク供給機構、51…インクカートリッジ(液体貯留容器に対応)、52…インク供給針、53…第1逆止弁、54…流路ポンプ、55…第2逆止弁、56…チョーク弁、57…圧力調整弁、58…切換機構、59…流路、60…クリーニング機構、61…キャップ、64…吸引ポンプ、70…制御部、542…ダイアフラム、544A…ポンプ室、544B…負圧室、545…空気流路、546…大気開放弁、547…減圧ポンプ、560…凹部、561…フィルム(可撓部材に対応)、562…チョーク弁室、563…環状凸部、564…排出孔、571A…インク供給室、571B…圧力室、572…弁体、572a…封止部、572b…突出部、574…フィルム、575…付勢バネ、576…連通孔、581A…凹嵌部、582…フィルム、583…封止部材、584…軸部材、585A…第1アーム、585B…第2アーム、585c…押し込み部、585d…カム当接部、587…板カム、588…挿通孔、P…印刷媒体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種類の液体を噴射可能なノズル群と2種類の液体を噴射可能なノズル群を備え、複数のノズル群から複数種類の液体を噴射可能な液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドの前記ノズル群が露出するノズル形成面に当接して1つの封止空間を形成するキャップと、
前記封止空間を吸引するための吸引ポンプと、
液体貯留容器から前記液体噴射ヘッドに向けて前記複数種類の液体を供給するための複数の流路と、
前記複数の流路において前記液体貯留容器より下流側に位置し、前記液体貯留器から前記液体を吸引すると共に、下流側に前記液体を排出可能な流路ポンプと、
前記複数の流路において前記流路ポンプより下流側に位置し、前記液体が流入する弁室、可撓により前記弁室の容積を変動させる可撓部材および前記弁室の内部に存在し前記可撓部材の可撓によって閉塞または開放可能な排出孔を備え、前記弁室に所定以上の負圧が及ぼされる場合には前記可撓部材が前記排出孔を閉塞し、それよりも下流側を負圧状態とするチョーク弁と、
前記複数の流路のうち2つの流路に位置する前記チョーク弁より下流側に位置し、前記2つの流路の液体を前記2種類の液体を噴射可能なノズル群に供給するための1つの流路に連結され、そのうちのいずれかの液体の供給を許容する一方、選択されなかった液体の供給を遮断する切換機構と、
前記液体噴射ヘッド、前記吸引ポンプ、前記切換機構および前記流路ポンプの作動を制御する制御部と、を備える液体噴射装置であって、
前記制御部が、全ての前記流路ポンプを作動させて所定量の前記液体を排出可能な状態にさせると共に、前記キャップを前記ノズル形成面に当接させて前記吸引ポンプを作動させ、かつ前記切換機構を作動させて、前記流路の全てに前記液体を充填する際の前記所定量が、前記流路の全てに前記液体を充填するために必要とされる液体量以上前記流路の全てに前記液体を充填するために必要とされる液体量に前記チョーク弁より下流側の流路の全てに前記液体を充填するために必要とされる液体量を加算した液体量以下としている、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射装置であって、
前記制御部が、
前記切換機構を作動させて、2種類の前記液体を供給するそれぞれの前記流路のうちのいずれか一方の前記流路からの供給を許容する第1選択動作を行わせ、
全ての前記流路ポンプを作動させて前記流路の全てに前記液体を充填するために必要とされる液体量を排出可能な状態にさせると共に、
前記キャップを前記ノズル形成面に当接させて前記吸引ポンプを作動させ、前記液体噴射ヘッドの前記ノズルから前記液体の第1の吸引を行わせ、
前記切換機構を作動させて、2種類の前記液体を供給するそれぞれの前記流路のうちの他方の前記流路からの供給を許容する第2選択動作を行い、
再び前記キャップを前記ノズル形成面に当接させて前記吸引ポンプを作動させ、前記液体噴射ヘッドの前記ノズルから前記液体の第2の吸引を行わせる、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項3】
請求項2に記載の液体噴射装置であって、
前記制御部が、前記第2の吸引の後に、または前記第2の吸引と共に、全ての前記流路ポンプを作動させて、前記チョーク弁より下流側の流路の全てに前記液体を充填するために必要とされる液体量の液体を、前記流路を介して前記液体噴射ヘッドに向けて供給する、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項4】
請求項2に記載の液体噴射装置であって、
前記チョーク弁よりも下流側に、前記液体が流入する圧力室および前記圧力室の内圧の変動に応じて可撓し該圧力室の容積を変動させる可撓部材を備え、前記可撓部材の可撓によって前記圧力室の内圧が所定の圧力未満となる場合に開弁し、それ以外の場合には閉弁する圧力調整弁を備え、
前記制御部が、前記第2の吸引の後に、または前記第2の吸引と共に、全ての前記流路ポンプを作動させて、前記圧力調整弁および該圧力調整弁より下流側の流路の全てに前記液体を充填するために必要とされる液体量の液体を、前記流路を介して前記液体噴射ヘッドに向けて供給する、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項5】
液体噴射装置に液体の初期充填を行わせるための液体充填方法であって、
前記液体噴射装置は、
1種類の液体を噴射可能なノズル群と2種類の液体を噴射可能なノズル群を備え、複数のノズル群から複数種類の液体を噴射可能な液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドの前記ノズル群が露出するノズル形成面に当接して1つの封止空間を形成するキャップと、
前記封止空間を吸引するための吸引ポンプと、
液体貯留容器から前記液体噴射ヘッドに向けて前記複数種類の液体を供給するための複数の流路と、
前記複数の流路において前記液体貯留容器より下流側に位置し、前記液体貯留器から前記液体を吸引すると共に、下流側に前記液体を排出可能な流路ポンプと、
前記複数の流路において前記流路ポンプより下流側に位置し、前記液体が流入する弁室、可撓により前記弁室の容積を変動させる可撓部材および前記弁室の内部に存在し前記可撓部材の可撓によって閉塞または開放可能な排出孔を備え、前記弁室に所定以上の負圧が及ぼされる場合には前記可撓部材が前記排出孔を閉塞し、それよりも下流側を負圧状態とするチョーク弁と、
前記複数の流路のうち2つの流路に位置する前記チョーク弁より下流側に位置し、前記2つの流路の液体を前記2種類の液体を噴射可能なノズル群に供給するための1つの流路に連結され、そのうちのいずれかの液体の供給を許容する一方、選択されなかった液体の供給を遮断する切換機構と、
前記液体噴射ヘッド、前記吸引ポンプ、前記切換機構および前記流路ポンプの作動を制御する制御部と、
を備えると共に、
前記切換機構を作動させて、2種類の前記液体を供給するそれぞれの前記流路のうちのいずれか一方の前記流路からの供給を許容する第1選択動作を行わせ、
全ての前記流路ポンプを作動させて前記流路の全てに前記液体を充填するために必要とされる液体量を排出可能な状態にさせると共に、
前記キャップを前記ノズル形成面に当接させて前記吸引ポンプを作動させ、前記液体噴射ヘッドの前記ノズルから前記液体の第1の吸引を行わせ、
前記切換機構を作動させて、2種類の前記液体を供給するそれぞれの前記流路のうちの他方の前記流路からの供給を許容する第2選択動作を行い、
再び前記キャップを前記ノズル形成面に当接させて前記吸引ポンプを作動させ、前記液体噴射ヘッドの前記ノズルから前記液体の第2の吸引を行わせる、
ことを特徴とする液体充填方法。
【請求項6】
請求項5に記載の液体充填方法であって、
前記第2の吸引の後に、または前記第2の吸引と共に、全ての前記流路ポンプを作動させて、前記チョーク弁より下流側の流路の全てに前記液体を充填するために必要とされる液体量の液体を、前記流路を介して前記液体噴射ヘッドに向けて供給する、
ことを特徴とする液体充填方法。
【請求項7】
請求項5に記載の液体充填方法であって、
前記液体噴射ヘッドが、前記チョーク弁よりも下流側に、前記液体が流入する圧力室および前記圧力室の内圧の変動に応じて可撓し該圧力室の容積を変動させる可撓部材を備え、前記可撓部材の可撓によって前記圧力室の内圧が所定の圧力未満となる場合に開弁し、それ以外の場合には閉弁する圧力調整弁を備えると共に、
前記第2の吸引の後に、または前記第2の吸引と共に、全ての前記流路ポンプを作動させて、前記圧力調整弁および該圧力調整弁より下流側の流路の全てに前記液体を充填するために必要とされる液体量の液体を、前記流路を介して前記液体噴射ヘッドに向けて供給する、
ことを特徴とする液体充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−16921(P2012−16921A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156586(P2010−156586)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】