説明

液体噴射装置および記録装置並びに障害物検出方法

【課題】手差しトレー装置200を備えたインクジェット式記録装置10で、キャリッジ170の移動を妨げる障害物を検出する。
【解決手段】キャリッジ・モータ760により駆動されて往復移動するキャリッジ170と、キャリッジ170に搬送されつつインクを吐出する記録ヘッド172と、記録ヘッド172に対向する位置へ被記録物を搬送する搬送部500と、被記録物を外部へ排出する排出部300と、被記録物とは異なる異形被記録物を保持しつつ排出部300の側から装入されて異形被記録物を記録ヘッド172に対向する位置へ搬送するディスクトレー162と、各部の動作を制御する制御部700とを備え、起動のときにキャリッジ170を記録動作よりも遅い速度で移動させ、キャリッジ・モータ760に対する負荷の変動を監視してキャリッジ170および記録ヘッド172の往復移動の軌道上にある障害物を検出する検出動作とを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体噴射装置および記録装置並びに障害物検出方法に関する。より詳細には、被記録物の搬送経路を複数有する液体噴射装置または記録装置と、これら液体噴射装置または記録装置において記録動作の妨げとなる障害物を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置では、キャリッジに搬送された液体噴射ヘッドを被記録物の搬送方向と交差する方向に往復移動させて、被記録物表面の任意の領域に液体を噴射する記録動作を行う。このとき、記録品質を一定に維持するために、液体噴射ヘッドと被記録物との間隔は数mm程度の狭い間隔に保持されている。このような液体噴射装置において記録用紙等の容易に撓む被記録物を取り扱う場合、液体噴射ヘッドに対する位置決めを確実にするために、被記録物をわずかに撓ませるような搬送経路が形成される。
【0003】
一方、汎用性のある液体噴射装置には、樹脂製円板を基板とした光記録媒体、曲げ剛性が高い厚紙等の特殊被記録物への記録に対応した機種がある。曲げ剛性の高い特殊被記録物は、それ自体が容易に曲げることができず、また、曲げることにより損傷を受ける場合もある。従って、特殊被記録物を取り扱う場合は、直線的な特殊搬送経路が一時的に形成される。
【0004】
いずれの搬送経路を用いた場合でも、キャリッジの軌道上に障害物が存在した場合、キャリッジの往復移動が妨げられて正常な記録動作ができなくなることは共通している。そこで、キャリッジの往復移動が正常ではなくなった場合に対処する技術が提案されている。
【0005】
下記特許文献1には、印刷装置においてキャリッジの移動に問題が生じた場合に対応できるキャリッジ・モータの制御方法が記載されている。即ち、特許文献1には、キャリッジの移動に与るキャリッジ・モータの駆動電力の変動を所定の「有効限界値」と比較し、有効限界値を越えたときの制御方法を予め設定しておくことにより、キャリッジの移動負荷が極端に大きくなったときも有効な制御を継続できることが開示されている。
【特許文献1】特開2003−019838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された方法は、キャリッジ・モータの負荷が実際に過大になって初めて有効になる。このため、液体噴射装置の起動当初に既に障害物が存在していた場合、初期化動作に伴うキャリッジの移動により、記録ヘッドが障害物に強く衝突して、損傷を受ける場合がある。
【0007】
特に、前述した特殊搬送経路を用いた記録動作では、具体的に後述するように、被記録物の装入経路が大きく開いている上に、特殊被記録物の装入をユーザの手により行う必要がある。また、被記録物の装入は、液体噴射装置の電源を遮断した状態でもできる場合がある。
【0008】
従って、ユーザによる特殊被記録物の装入が不正に行われた場合は、電源を投入したときにすでに、特殊被記録物がキャリッジの移動経路上に障害物として存在していることもある。このような場合、当初からキャリッジの移動を正常に行うことができず、また、キャリッジの移動負荷も当初より異常なので、特許文献1に記載された制御方法では、液体噴射ヘッドの損傷等につながる衝突を回避し切れない。この衝突によりキャリッジ・モータの制御が不能になる脱調が生じ、この脱調がフェータルエラーであるとして以後の印刷装置の動作が強制終了されるという不具合がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の第1の形態として、キャリッジ・モータと、キャリッジ・モータにより駆動されて往復移動するキャリッジと、キャリッジに搬送されつつ被記録物に対して液体を噴射する液体噴射ヘッドと、液体噴射ヘッドに対向する位置へ被記録物を搬送する搬送部と、液体噴射ヘッドに対向する位置から被記録物を外部へ排出する排出部と、少なくとも、キャリッジ、液体噴射ヘッド、搬送部および排出部の動作を制御して、被記録物の表面の所望の領域に対して液体を噴射して付着させる記録動作を実行する制御部とを備え、制御部により、起動のときに、キャリッジ・モータの負荷を監視しながら、記録動作におけるキャリッジの移動速度よりも遅い速度でキャリッジを移動させ、負荷の変動を検出することにより往復移動の軌道上のキャリッジおよび液体噴射ヘッドに対する障害物を検出する液体噴射装置が提供される。これにより、キャリッジの移動を妨げる得る障害物を確実に検出し且つ確実に記録動作を実行できる。
【0010】
また、実施形態のひとつとして、上記液体噴射装置において、搬送部および排出部により規定された、曲げ剛性の低い被記録物のための通常搬送経路と、排出部の側から曲げ剛性の高い特殊被記録物を液体噴射ヘッドに対向する位置に装入できる特殊搬送経路とを有する。これにより、定型の被記録物だけではなく、特別な寸法、材料、形状等を有する被記録物への記録動作においても確実に障害物を検出できる。
【0011】
また、他の実施形態として、上記液体噴射装置は、異形被記録物に装着され、前記異形被記録物と共に前記特殊搬送経路に装入される異形被記録物トレーを更に有する。これにより、寸法、形状等が大きく異なる異形被記録物ついても確実に記録動作ができる。
【0012】
また、他の実施形態として、上記液体噴射装置において、起動は、液体噴射装置自体の電源を投入された直後の初期化動作である。これにより、また、電源投入時等の起動時にすでに存在している障害物に対しても有効に対応できる。
【0013】
また、他の実施形態として、上記液体噴射装置において、起動は、既に実行中の記録動作を取り消された後の初期化動作である。これにより、例えば、取り消された記録動作の後に新規な記録動作を開始するときにすでに存在している障害物に対しても有効に対応できる。
【0014】
また、他の実施形態として、上記液体噴射装置において、起動は、液体噴射ヘッドに供給される液体を補充された後の初期化動作である。これにより、液体の補給直後に記録動作を開始するときにすでに存在している障害物に対しても有効に対応できる。
【0015】
また、他の実施形態として、上記液体噴射装置において、障害物の存在は、キャリッジに装着された被記録物の幅を検出するセンサによっても検出される。更に他の実施形態として、搬送部に装着された被記録物の位置を検出するセンサによっても検出される。これらにより、従来と同様に、被記録物の搬送経路に存在している障害物も検出される。
【0016】
また、本発明の第2の形態として、キャリッジ・モータと、キャリッジ・モータにより駆動されて往復移動するキャリッジと、キャリッジに搬送されつつ被記録物に対して液体を噴射する液体噴射ヘッドと、液体噴射ヘッドに対向する位置へ被記録物を搬送する搬送部と、液体噴射ヘッドに対向する位置から被記録物を外部へ排出する排出部と、少なくとも、キャリッジ、液体噴射ヘッド、搬送部および排出部の動作を制御して、被記録物の表面の所望の領域に対して液体を噴射して付着させる記録動作を実行する制御部とを備えた液体噴射装置において、制御部により、起動のときに、キャリッジ・モータの負荷を監視しながら、記録動作におけるキャリッジの移動速度よりも遅い速度でキャリッジを移動させ、負荷の変動を検出することにより往復移動の軌道上のキャリッジおよび液体噴射ヘッドに対する障害物を検出する障害物検出方法が提供される。これにより、キャリッジの移動を妨げる得る障害物を確実に検出し且つ確実に記録動作を実行できる。
【0017】
更に、本発明の第3の形態として、キャリッジ・モータと、キャリッジ・モータにより駆動されて往復移動するキャリッジと、キャリッジに搬送されつつ被記録物に対してインクを吐出する記録ヘッドと、記録ヘッドに対向する位置へ被記録物を搬送する搬送部と、記録ヘッドに対向する位置から被記録物を外部へ排出する排出部と、少なくとも、キャリッジ、記録ヘッド、搬送部および排出部の動作を制御して、被記録物の表面の所望の領域に対してインクを吐出して付着させる記録動作を実行する制御部とを備え、制御部により、起動のときに、キャリッジ・モータの負荷を監視しながら、記録動作におけるキャリッジの移動速度よりも遅い速度でキャリッジを移動させ、負荷の変動を検出することにより往復移動の軌道上のキャリッジおよび記録ヘッドに対する障害物を検出する記録装置が提供される。これにより、記録装置においても、電源が遮断された状態で発生した障害物に対しても有効な、障害物検出動作が実現される。
【0018】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0020】
図1は、被記録物案内装置を備えた液体噴射装置のひとつであるインクジェット式記録装置10の外観を示す斜視図である。同図に示すように、このインクジェット式記録装置10は、各構成要素を筐体110内に格納できるように形成されている。
【0021】
即ち、筐体110の上面後方のカバー120の内部には定型の記録用紙を供給するための給送装置が格納されている。また、上面前方のカバー130内は、これを開くことにより被記録物の搬送経路にアクセスでき、また、記録用のインクカートリッジが交換可能になる。更に、前面下端のカバー150内には、印刷後に記録用紙を排出する排出装置が格納されている。また更に、カバー150の上方に位置するカバー140を開くことにより、後述するように、定型の記録用紙ではない異形の被記録物を装入できるようになる。
【0022】
図2は、上記のインクジェット式記録装置10のいくつかのカバー130、140および150を開いた状態を示す斜視図である。なお、図1と共通の構成要素には同じ参照番号を付している。
【0023】
同図に示すように、筐体110の上面のカバー130を開くと、保守穴132およびカートリッジ交換穴134が開口している。保守穴132は、被記録物の搬送経路の上方に広く開いており、搬送不良等が生じた場合に筐体110内に手を入れて詰まった被記録物等を取り除くことができるように設けられている。一方、カートリッジ交換穴134は、記録動作をしていないときにキャリッジ170が停止しているホームポジションの上方に形成されており、ここを通じてキャリッジ170に搭載されたインクカートリッジを取り出しあるいは装荷できる。
【0024】
記録動作時のキャリッジ170は、図示されていないキャリッジ・モータに駆動され、インクジェット式記録装置10の長手方向、即ち、図上で左右に往復移動して、被記録物を全幅にわたって走査する。キャリッジ170の下面には、液体噴射ヘッドとしてインクを吐出する記録ヘッドが装着されており、下方に向かってインクを吐出して被記録物に付着させる。
【0025】
一方、筐体110の前面下部のカバー150は、このインクジェット式記録装置10の排出トレーとして機能するように形成されている。即ち、カバー120の内部に実装されている給送装置から供給された定型の被記録物は、筐体110内を前方に向かって搬送され、最終的にカバー150の内面である排出トレーに排出される。
【0026】
また、インクジェット式記録装置10の前面上部に配置されたカバー140は、その下端に形成されたヒンジ142を軸として手前に開く。こうして開いた開口の内部には、非定型の被記録物を装入するときに使用する手差しトレー装置200が格納されている。
【0027】
手差しトレー装置200は、被記録物を下方から支持するトレー部210と、トレー部210上を被記録物の幅方向に摺動できる案内部材220とを備えている。被記録物を、トレー部210の上面に載せてインクジェット式記録装置10の内部に装入することにより、所定の位置から所定の装入経路に従って被記録物を装入することができる。また、案内部材220を適宜移動させて被記録物の側方から当接させることにより、被記録物の幅方向の位置も規定される。このような構造により、任意の形状または寸法の被記録物を装入して記録できる。
【0028】
更に、図2に示すインクジェット式記録装置10では、手差しトレー装置200から装入されたディスクトレー162の端部がトレー部210上に見えている。また、このディスクトレー162の一部は、カバー130内にある保守穴132の内部にも見えており、更に、ここでは、ディスクトレー162に装荷された円盤状の光記録媒体164の一部も見えている。このように装入されたディスクトレー162は、筐体110内に装備された後述する搬送部によってキャリッジ170の軌道の下方に搬送される。ここで、ディスクトレー162の搬送とキャリッジ170の走査を交互に実施することにより、光記録媒体164に対して記録動作ができる。
【0029】
図3は、インクジェット式記録装置10における被記録物の搬送機構20を、図2に示した矢印Cを含む鉛直面によって切った断面で示す図である。このインクジェット式記録装置10では、キャリッジ170の下面に装着された記録ヘッド172からインクが吐出され、その下方でプラテン400に支持された記録用紙600にインクを付着させる。これに対して、搬送機構20は、プラテン400を挟んで一方の側(図中では右側)に配置された搬送部500から、プラテン400の反対側(図中では左側)に配置された排出部300に被記録物を受け渡すことにより、被記録物をプラテン400上に順次送り込み、また、排出する。
【0030】
搬送部500においては、記録用紙600に対して下側に配置された搬送駆動ローラ510に対して、記録用紙600の上側に配置された搬送従動ローラ520が記録用紙600を押し下げ、回転駆動される搬送駆動ローラ510の回転に従って記録用紙600が搬送される。排出部300においても、記録用紙600を排出従動ローラ320により排出駆動ローラ310に押し付けることにより、同様に回転駆動される排出駆動ローラ310の回転に従って記録用紙600が排出される。
【0031】
なお、このインクジェット式記録装置10において、カバー140が閉じて手差しトレー装置200が格納されているときは、支持部材330が図示の状態よりも降下して、排出従動ローラ320は排出駆動ローラ310に対して上方から殆ど接触する。従って、記録ヘッド172から吐出されたインクが付着した被記録物は、排出従動ローラ320および排出駆動ローラ310に挟まれ、回転駆動される排出駆動ローラ310に従って図上の左方に排出される。また、このときの被記録物は、排出駆動ローラ310の上端の高さで水平に搬送されるので、手差しトレー装置200よりも低い位置にあるカバー150内から外部に排出される。
【0032】
また、図3には、曲げ剛性の低い記録用紙600等に対して搬送機構20で形成される搬送経路が点線により示されている。同図に示すように、記録用紙600の搬送経路は記録ヘッド172の下方でやや降下しており、この部位において記録用紙600が下側に撓んだ状態になることが判る。これにより、記録用紙600は、搬送方向に直交する方向(紙面に対して垂直な方向)については撓み難くなる。また、下方からはプラテン400により支持されるので、記録用紙600と記録ヘッド172との間隔が一定に保持される。
【0033】
図4は、定型の被記録物とは異なる形状の光記録媒体164に対する記録動作を可能にしているディスクトレー162を単独で示す斜視図である。同図に示すように、このディスクトレー162は略矩形の板状で、全体としては定型被記録物と略同じ形状および寸法を有している。また、このディスクトレー162は、その概ね中央に、光記録媒体164と相補的な形状を有する陥没部165を有している。この陥没部166に光記録媒体164を装荷した状態でインクジェット式記録装置10に装入することにより、搬送機構20を利用して光記録媒体164を搬送して記録することができる。なお、ディスクトレー162は、例えば射出成形により形成された樹脂成形品であり、それ自体は殆ど変形しない剛性を有している。
【0034】
再び図3を参照して、図4に示したディスクトレー162を、手差しトレー装置200のトレー部210上面に沿って正しく装入したとき、搬送機構20に形成される特殊搬送経路について説明する。ディスクトレー162は、排出部300側に配置された手差しトレー装置200のトレー部210から装入される。このとき、ディスクトレー162の先端側は、記録ヘッド172およびプラテン400の間を通り、搬送駆動ローラ510および搬送従動ローラ520の間に挟まれる。
【0035】
既に説明した通り、手差しトレー装置200が展開されている状態では、排出従動ローラ320とその支持部材330は上昇して、ディスクトレー162からは上方に大きく離れている。また、ディスクトレー162は、それ自体が十分な曲げ剛性を有していて変形しない。従って、ディスクトレー162は、トレー部210と搬送駆動ローラ510との間に架け渡された状態になり、直線状の特殊搬送経路が形成される。
【0036】
なお、ディスクトレー162を挟んでいるとき、搬送従動ローラ520の支持部材530は、軸支部535を軸として僅かに転動して搬送従動ローラ520を上昇させている。従って、搬送駆動ローラ510および搬送従動ローラ520の間が開き、記録用紙600よりも厚いディスクトレー162を挟んでいる。これにより、ディスクトレー162は搬送駆動ローラ510に押し付けられ、搬送駆動ローラ510の回転に従って搬送される。
【0037】
また、大きく開いた排出従動ローラ320および排出駆動ローラ310は、ディスクトレー162を挟んで搬送することはできない。従って、ディスクトレー162に装荷された光記録媒体164に対して記録動作させる場合は、ディスクトレー162の先端が搬送部500に届くまで、ユーザ自身がディスクトレー162を押し込まなければならない。また、ディスクトレー162の搬送および排出は、すべて搬送部500により行われる。
【0038】
搬送部500まで届くように装入されたディスクトレー162は、搬送部500により、ディスクトレー162に装荷された光記録媒体164が記録ヘッド172の直下を通り過ぎるまでインクジェット式記録装置10内に向かってに引き込まれ、次いで、反転動作する搬送部500により再び手差しトレー装置200に向かって搬送される。この過程で記録ヘッド172を適宜動作させることにより、光記録媒体164に対する記録が行われる。
【0039】
図5は、図4に示したディスクトレー162を、手差しトレー装置200のトレー部210から誤った方向に装入したときの搬送機構20の状態を、図3および図5と同じ断面において示す図である。なお、図5において、図3と同じ構成要素には同じ参照番号を付して、重複する説明を省いている。
【0040】
既に説明した通り、手差しトレー装置200が展開されている状態では、排出従動ローラ320と排出駆動ローラ310との間は大きく開いている。このため、ディスクトレー162を装入するときに、手差しトレー装置200のトレー部210に沿わせずに装入すると、図6に示すように、ディスクトレー162の先端部168が、搬送部500の上に乗り上げるように進入することがある。
【0041】
この状態では、ディスクトレー162の一部が、記録ヘッド172の下面よりも高い位置に存在している。従って、この状態でキャリッジ・モータが駆動されて記録ヘッド172が移動した場合、ディスクトレー162に衝突してしまう。
【0042】
なお、ディスクトレー162は、インクジェット式記録装置10の電源が投入されていない状態でも装入できる。このため、インクジェット式記録装置10の電源が投入されたときには既にディスクトレー162が装入されており、キャリッジ170とそれに装着された記録ヘッド172の往復移動の軌道がディスクトレー162によって塞がれている場合がある。
【0043】
図6は、インクジェット式記録装置10が実装する制御部700の構造を模式的に示すブロック図である。同図に示すように、インクジェット式記録装置10は、ユーザ701からの指示、記録データ等を受ける中央制御部710と、中央制御部710の制御の下にインクジェット式記録装置10の各構成要素を個別に制御する個別制御部711とを備えている。
【0044】
中央制御部710は、上記ユーザ701から入力される指示および記録データの他に、インクジェット式記録装置10に設けられた各種入出力との信号の受け渡しもする。即ち、中央制御部710は、インクジェット式記録装置10に実装されたハードウェア・スイッチ712、キャリッジ・モニタ714、センサ類716等の各種入力部からの信号を受けると共に、表示部780等に返すメッセージも生成する。また、中央制御部710には、内蔵プログラム718も実装されており、ユーザ701からの指示があった場合、各種入力部から特定の条件を検知した場合等に内蔵プログラム718を起動して、インクジェット式記録装置10に特定の動作を自律的に起動して実行させることもできる。
【0045】
なお、ハードウェア・スイッチ712は、電源スイッチの他、機種に応じてインクジェット式記録装置10に実装される機能を直接に起動し実行させるものを割り当てられる。具体的には、実行中の記録動作を取り消すもの、強制的な排紙動作を実行するもの、インクジェット式記録装置10単体での設定するもの等が例示できる。また、キャリッジ・モニタ714は、キャリッジ・モータ760の駆動電力、キャリッジ170の位置、キャリッジ170の移動速度等を監視して、キャリッジ170の移動に伴う負荷の変動を監視している。
【0046】
さらに、センサ類716は、記録用紙600の有無、搬送経路上の記録用紙600の位置、インクの量等、記録用紙600の側端位置等を検知してインクジェット式記録装置10の各部の動作状態を監視している。従って、既存のセンサ類716からも、キャリッジ170の移動を妨げる障害物をある程度は検出できる。
【0047】
例えば、多くのインクジェット式記録装置10は、記録用紙600の側端部の位置を検出してその幅を検出するセンサを、キャリッジ170に備えている。このセンサを利用して、キャリッジ170の下方に存在する障害物を検出できる。また、インクジェット式記録装置10の搬送部500は、搬送する記録用紙600の先端の位置を検出するためのセンサを備えている場合がある。そこで、このセンサを利用することにより、搬送部500に存在する障害物を検出することができる。ただし、前述のように、手差しトレー装置200から誤って装入されたディスクトレー162のような特別な障害物は、既存のセンサの検出範囲外に存在する場合がある。
【0048】
一方、個別制御部711において、搬送制御部720は、図2に示したインクジェット式記録装置10の給送部750、搬送部500および排出部300を統合して制御している。この制御により、記録用紙600の給送、搬送および排出が実行される。
【0049】
また、個別制御部711において、キャリッジ制御部730は、搬送制御部720による記録用紙600の給送、搬送および排出に呼応してキャリッジ・モータ760の動作を制御して、キャリッジ170の往復移動を実行または停止させている。記録動作の開始前または終了後に、キャリッジ170をホームポジションに復帰させる等、記録動作以外の動作においても、キャリッジ170の移動を制御している。
【0050】
更に、個別制御部711において、記録ヘッド制御部740は、記録ヘッド駆動部770を制御して、キャリッジ170に装着された記録ヘッド172を動作させている。即ち、インクの吐出またはその停止の他に、インクの吐出量、ノズル清掃のためのフラッシング動作等の実行等も制御している。
【0051】
このような制御部700を備えたインクジェット式記録装置10における記録動作は、以下のように実行される。即ち、まず、搬送制御部720の制御の下に記録ヘッド172の下方まで記録用紙600を搬送させる。次いで、キャリッジ制御部730の制御の下にキャリッジ・モータ760を動作させ、記録ヘッド172により記録用紙600上を走査させる。この間に、記録ヘッド制御部740により記録ヘッド駆動部770を適宜動作させ、記録情報に応じた適切な領域に対してインクを吐出し、付着させる。記録ヘッド172が1行分の走査を終えた後は、再び、搬送制御部720の制御の下に記録用紙600を搬送させる。このような動作を繰り返すことにより、記録用紙600の所望の領域に対して記録情報に応じてインクを付着させる記録動作を完遂させられる。
【0052】
また、このインクジェット式記録装置10における障害物検出動作は、上記のような中央制御部710に内蔵プログラム718として実装され、実行できる。即ち、まず、記録ヘッド制御部740からはなにも指示を出させず記録ヘッド172を停止した状態で、キャリッジ制御部730からキャリッジ・モータ760に指示を出してキャリッジ170を移動させる。ただし、キャリッジ170が障害物に衝突したときに損傷を受けないように、キャリッジ170の移動速度は相当に低くなるように指示される。
【0053】
上記のようにして移動したキャリッジ170が障害物に当接したとき、キャリッジ170は移動を妨げられて停止するか、あるいは、キャリッジ170を所定の速度で移動させるためにキャリッジ・モータ760に求められる負荷が著しく増加する。従って、キャリッジ・モータ760における負荷の増加をキャリッジ・モニタ714により検出することにより、キャリッジ170の移動の妨げになる障害物の存在を検出することができる。よて、強い衝突によるキャリッジ・モータの脱調を防ぎ、この脱調によるフェータルエラーを防ぐことができる。
【0054】
なお、障害物を検出するための上記内蔵プログラム718の起動および実行を指示するトリガには、種々のものを設定できる。即ち、例えば、前記インクジェット式記録装置10自体の電源が投入されたときに障害物検出動作を実行させることにより、記録動作に先立って障害物を検出することができる。また、既に実行中の記録動作を取り消されたときに障害物検出動作を実行させることにより、次の記録動作に先立って障害物を検出することができる。更に、前記キャリッジ170に装荷されるインクカートリッジが交換されたときに障害物検出動作を実行させることにより、次の記録動作に先立って障害物を検出することができる。
【0055】
また、上記のようにして、キャリッジ170および記録ヘッド172の移動を妨げる障害物が検出されたとき、制御部700は、インクジェット式記録装置10全体の動作を保留させると共に、例えば、表示部780を通じて、ユーザ701に対する警告を発生できる。このとき、単に障害物の存在を告げるだけではなく、検出位置も併せて表示することにより、ユーザ701の障害物除去作業を支援できる。また、既存の搬送部500および排出部300を動作させることにより、障害物を自動的に排除する試みもできる。ただし、この種の試みが有効であったかどうかは、再び障害物検出動作を実行して検証することが好ましい。なお、障害物が検出されたか否かに関わりなく、電源投入時に搬送部500及び排出部300を動作させて、搬送経路上の障害物を除去する動作をした後に、上記キャリッジ170の移動による障害物の検出動作を実行してもよい。
【0056】
更に、ここではインクジェット式記録装置10を例にあげて説明したが、この発明が適用できる液体噴射装置の具体例としては、液晶ディスプレイ用カラーフィルタの製造における色材噴射装置、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の製造における電極形成装置またはバイオチップ製造に使用する試料噴射ヘッド等もあげられる。
【0057】
また、実施の形態をあげて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に多様な変更または改良を加え得ることは当業者に明らかである。また、その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることは、特許請求の範囲の記載からも明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】インクジェット式記録装置10の外観を示す斜視図。
【図2】いくつかのカバー130、140および150を開いたインクジェット式記録装置10を示す斜視図。
【図3】インクジェット式記録装置10の搬送機構20を示す断面図。
【図4】ディスクトレー162を単独で示す斜視図。
【図5】ディスクトレー162が搬送機構20に異常に装入された状態を示す断面図。
【図6】インクジェット式記録装置10の制御部700の構造を示す模式図。
【符号の説明】
【0059】
10 インクジェット式記録装置、20 搬送機構、110 筐体、120、130、140、150 カバー、132 保守穴、134 カートリッジ交換穴、142 ヒンジ、162 ディスクトレー、164 光記録媒体、166 陥没部、168 先端部、170 キャリッジ、172 記録ヘッド、200 手差しトレー装置、210 トレー部、215、535 軸支部、220 案内部材、300 排出部、310 排出駆動ローラ、320 排出従動ローラ、330、530 支持部材、400 プラテン、500 搬送部、510 搬送駆動ローラ、520 搬送従動ローラ、600 記録用紙、700 制御部、701 ユーザ、710 中央制御部、711 個別制御部、712 ハードウェア・スイッチ、714 キャリッジ・モニタ、716 センサ類、718 内蔵プログラム、720 搬送制御部、730 キャリッジ制御部、740 記録ヘッド制御部、750 給送部、760 キャリッジ・モータ、770 記録ヘッド駆動部、780 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリッジ・モータと、
前記キャリッジ・モータにより駆動されて往復移動するキャリッジと、
前記キャリッジに搬送されつつ被記録物に対して液体を噴射する液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドに対向する位置へ前記被記録物を搬送する搬送部と、
前記液体噴射ヘッドに対向する位置から前記被記録物を外部へ排出する排出部と、
少なくとも、前記キャリッジ、前記液体噴射ヘッド、前記搬送部および前記排出部の動作を制御して、前記被記録物の表面の所望の領域に対して液体を噴射して付着させる記録動作を実行する制御部と
を備え、
前記制御部により、起動のときに、前記キャリッジ・モータの負荷を監視しながら、前記記録動作における前記キャリッジの移動速度よりも遅い速度で前記キャリッジを移動させ、前記負荷の変動を検出することにより前記往復移動の軌道上の前記キャリッジおよび前記液体噴射ヘッドに対する障害物を検出する液体噴射装置。
【請求項2】
前記搬送部および前記排出部により規定された、曲げ剛性の低い被記録物のための通常搬送経路と、
前記排出部の側から曲げ剛性の高い特殊被記録物を前記液体噴射ヘッドに対向する位置に装入できる特殊搬送経路と
を有する請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
異形被記録物に装着され、前記異形被記録物と共に前記特殊搬送経路に装入される異形被記録物トレーを更に有する請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記起動が、前記液体噴射装置の電源を投入された直後の初期化動作である請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記起動が、既に実行中の記録動作を取り消された後の初期化動作である請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記起動が、前記液体を補充された後の初期化動作である請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項7】
前記障害物の存在が、前記キャリッジに装着された被記録物の幅を検出するセンサによっても検出される請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項8】
前記障害物の存在が、前記搬送部に装着された被記録物の位置を検出するセンサによっても検出される請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項9】
キャリッジ・モータと、
前記キャリッジ・モータにより駆動されて往復移動するキャリッジと、
前記キャリッジに搬送されつつ被記録物に対して液体を噴射する液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドに対向する位置へ前記被記録物を搬送する搬送部と、
前記液体噴射ヘッドに対向する位置から前記被記録物を外部へ排出する排出部と、
少なくとも、前記キャリッジ、前記液体噴射ヘッド、前記搬送部および前記排出部の動作を制御して、前記被記録物の表面の所望の領域に対して液体を噴射して付着させる記録動作を実行する制御部と
を備えた液体噴射装置において、
前記制御部により、起動のときに、前記キャリッジ・モータの負荷を監視しながら、前記記録動作における前記キャリッジの移動速度よりも遅い速度で前記キャリッジを移動させ、前記負荷の変動を検出することにより前記往復移動の軌道上の前記キャリッジおよび前記液体噴射ヘッドに対する障害物を検出する障害物検出方法。
【請求項10】
キャリッジ・モータと、
前記キャリッジ・モータにより駆動されて往復移動するキャリッジと、
前記キャリッジに搬送されつつ被記録物に対してインクを吐出する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドに対向する位置へ前記被記録物を搬送する搬送部と、
前記記録ヘッドに対向する位置から前記被記録物を外部へ排出する排出部と、
少なくとも、前記キャリッジ、前記記録ヘッド、前記搬送部および前記排出部の動作を制御して、前記被記録物の表面の所望の領域に対してインクを吐出して付着させる記録動作を実行する制御部と
を備え、
前記制御部により、起動のときに、前記キャリッジ・モータの負荷を監視しながら、前記記録動作における前記キャリッジの移動速度よりも遅い速度で前記キャリッジを移動させ、前記負荷の変動を検出することにより前記往復移動の軌道上の前記キャリッジおよび前記記録ヘッドに対する障害物を検出する記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−297835(P2006−297835A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−125602(P2005−125602)
【出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】