説明

液体噴射装置のポンプ制御方法および液体噴射装置

【課題】大気開放弁を用いることなく、ノズル面を封止しているキャップ部材内の負圧を素早く解除することによってインクの吸引量(排出量)を抑えることのできる液体噴射装置のポンプ制御方法および液体噴射装置を提供する。
【解決手段】本発明の液体噴射装置のポンプ制御方法は、回転板25の正転時においてローラ部材21によりチューブ部材20を押圧することで内部空間に対して負圧を発生させてノズル開口からキャップ部材へとインクを排出させた後、内部空間が負圧状態にあるときに回転板25を逆転させてローラ部材21の回転方向を反転させることによりチューブ部材20の押圧を解除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置のポンプ制御方法および液体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は、液体を噴射可能な噴射ヘッドを備え、この噴射ヘッドから各種の液体を被記録部材等に向けて噴射する装置である。液体噴射装置の代表的なものとして、例えば、インクジェット式液体噴射ヘッド(以下、単に液体噴射ヘッドという)を備え、この液体噴射ヘッドのノズルから液体状のインク(液体)をインク滴として記録紙等に向けて吐出、着弾させてドットを形成することで記録を行うインクジェット式記録装置がある。
【0003】
インクジェット式記録装置は、ノズルにおける噴射特性を維持あるいは回復させるためのメンテナンス処理として、キャッピング手段によりノズルからインクを強制的に排出させる吸引動作が行われる。吸引動作は、液体噴射ヘッドのノズル面をキャップ部材により封止し、吸引装置によりキャップ部材内に負圧を作用させることで、液体噴射ヘッドのノズル開口からインクを排出させる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−218846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
キャッピング手段として、例えば、キャップ部材にチューブポンプ(吸引装置)と大気開放弁とが接続された構成のものがある。この場合、まず、液体噴射ヘッドのノズル面をキャップ部材によって封止した後、チューブポンプを駆動(正転)させてキャップ部材内を負圧にし、液体噴射ヘッドからインクを吸引する。その後、大気開放弁を開いてキャップ部材内の減圧状態を開放し、再びチューブポンプを駆動(正転)させることによってキャップ部材に排出されたインクをインクタンクへと送り出すこととなる。しかしながら、この構成では大気開放弁が必要になるためコストがかかる。
【0006】
また、キャッピング手段として、大気開放弁を具備しない構成のものがある。この場合、チューブポンプの作用によって液体噴射ヘッドからインクを吸引した後、ノズル面をキャップ部材によって封止したままチューブポンプの駆動を停止する。そして、キャップ部材内の減圧状態が解除されるまで待機した後にノズル面からキャップ部材を離間させる。この構成では、キャップ部材内の負圧が解除するまでインクが吸引(排出)されてしまうためインクの無駄が生じる。このため、ノズル面を封止しているキャップ部材内の負圧を素早く解除することによってインクの吸引量(排出量)を抑えることが望まれている。
【0007】
本発明は、従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、大気開放弁を用いることなく、ノズル面を封止しているキャップ部材内の負圧を素早く解除することによってインクの吸引量(排出量)を抑えることのできる液体噴射装置のポンプ制御方法および液体噴射装置を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液体噴射装置のポンプ制御方法は、液体を噴射するノズル開口を有する液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドのノズル面をキャッピングするキャッピング手段と、前記ノズル面をキャッピングしたキャッピング手段の内部空間に負圧を与えるチューブポンプと、前記チューブポンプの動作を制御する制御手段と、を備えた液体噴射装置のポンプ制御方法であって、前記チューブポンプは、回転体に支持され且つ当該回転体の公転によって転動するローラ部材と、湾曲部を有する可撓性のチューブ部材と、を有し、前記回転体の正転時において前記ローラ部材により前記チューブ部材を押圧することで前記内部空間に対して負圧を発生させて前記ノズル開口から前記キャッピング手段へと前記液体を排出させた後、前記内部空間が負圧状態にあるときに前記回転体を逆転させて前記ローラ部材の回転方向を反転させることにより前記チューブ部材の押圧を解除することを特徴とする。
【0009】
これによれば、回転板(ローラ部材)を逆転させることによって、内部空間内の負圧状態を強制的に解除することとした。このため、従来よりも内部空間内の負圧(減圧状態)を短時間で解除することができ、その結果、インクの排出量(吸引量)を必要最低限に抑えることが可能である。また、大気開放弁を用いることなく迅速に大気開放することができるため、部品点数を削減でき、コストを抑えられる。
【0010】
また、前記回転体の正転時の回転量と逆転時の回転量とが等しい方法としてもよい。
これによれば、内部空間の負圧解除制御を容易に行うことができる。
【0011】
また、前記チューブ部材の前記湾曲部には、前記回転体の正転時において前記ローラ部材の押圧による変形量が不十分となるリーク領域が設けられており、吸引動作の終了時に、前記回転体の正転を前記リーク領域内で停止させ、この停止位置から前記回転体の逆転を開始する方法としてもよい。
これによれば、リーク領域内の停止位置から回転体の逆転を開始することにより、チューブ部材に対するローラ部材の押圧力の解除動作(リリース動作)がスムーズに行える。
【0012】
本発明の液体噴射装置は、液体を噴射するノズル開口を有する液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドのノズル面をキャッピングするキャッピング手段と、前記ノズル面をキャッピングしたキャッピング手段の内部空間に負圧を与えるチューブ部材ポンプと、前記チューブ部材ポンプの動作を制御する制御手段と、を備えた液体噴射装置であって、前記チューブ部材ポンプは、回転体に支持され且つ当該回転体の公転によって転動するローラ部材と、湾曲部を有する可撓性のチューブ部材と、を有し、前記制御手段は、前記回転体の正転時において前記ローラ部材により前記チューブ部材を押圧することで前記内部空間に対して負圧を発生させて前記ノズル開口から前記キャッピング手段へと前記液体を排出させた後、前記内部空間が負圧状態にあるときに前記回転体を逆転させて前記ローラ部材の回転方向を反転させることにより前記チューブ部材の押圧を解除するよう制御することを特徴とする。
【0013】
これによれば、回転板(ローラ部材)を逆転させることによって、内部空間内の負圧状態を強制的に解除することとした。このため、従来よりも内部空間内の負圧状態を短時間で解除することができ、その結果、インクの排出量(吸引量)を必要最低限に抑えることが可能である。また、大気開放弁を用いることなく迅速に大気開放することができるため、部品点数を削減でき、コストを抑えられる。
【0014】
また、前記制御手段は、前記回転体の正転時の回転量と逆転時の回転量とが等しくなるように制御する機能を有する構成としてもよい。
これによれば、内部空間の負圧解除制御を容易に行うことができる。
【0015】
また、前記チューブ部材の前記湾曲部には、前記回転体の正転時において前記ローラ部材の押圧による変形量が不十分となるリーク領域が設けられており、前記制御手段は、吸引動作の終了時に、前記回転体の正転を前記リーク領域内で停止させ、この停止位置から前記回転体の逆転を開始するよう制御する構成としてもよい。
これによれば、リーク領域内の停止位置から回転体の逆転を開始することにより、チューブ部材に対するローラ部材の押圧力の解除動作(リリース動作)がスムーズに行える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態によるインクジェット式記録装置の概略構成を示した斜視図。
【図2】液体噴射ヘッドおよびキャッピング手段の部分拡大断面図であって、(a)は封止前の状態を示し、(b)は封止後の状態を示す。
【図3】チューブポンプの概略構成を示す図。
【図4】リーク領域、リークポイント、所定領域の位置関係を説明する図。
【図5】実施形態におけるチューブポンプの概観を示した斜視図。
【図6】実施形態によるインクジェット式記録装置におけるクリーニング操作(吸引操作)を制御する制御回路等を示したブロック図。
【図7】(a)は、ローラ部材をリークポイントに停止させた状態を示し、(b)は、回転板を逆転させてローラ部材をリリースする状態を示す。
【図8】インク吸引制御手段における吸引動作の制御シーケンスの一例を示すフローチャート。
【図9】内部空間の圧力変動を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明による液体噴射装置の一実施形態としてのインクジェット式記録装置について図面を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0018】
本実施形態によるインクジェット式記録装置は、複数のノズル開口のそれぞれに連通する各圧力室に対応して設けられた各圧力発生素子により、各圧力室内のインク(液体)に圧力変動を生じさせて各ノズル開口からインク滴(液滴)を噴射させるインクジェット式の液体噴射ヘッド(液体噴射ヘッドの一例)を備えている。圧力発生素子としては、例えば圧電振動子を用いることができる。
【0019】
図1は、本実施形態によるインクジェット式記録装置の概略構成を示した斜視図である。図2は、液体噴射ヘッドおよびキャッピング手段の部分拡大断面図であって、(a)は封止前の状態を示し、(b)は封止後の状態を示す。
インクジェット式記録装置(液体噴射装置)100は、液体噴射ヘッド12、液体噴射ヘッド12を搭載するキャリッジ1および搬送される記録紙6を支持するプラテン5等を備えている。
キャリッジ1は、キャリッジモータ2により駆動されるタイミングベルト3を介して、ガイド部材4に案内されてプラテン5の軸方向に往復移動されるように構成されている。プラテン5は、記録媒体である記録紙6をその裏面から支持して液体噴射ヘッド12に対する記録紙6の位置を規定する。
【0020】
液体噴射ヘッド12は、キャリッジ1の記録紙6に対向する側に搭載されており、そのノズル面12a(図2)が記録紙6に対向している。また、キャリッジ1には、液体噴射ヘッド12にそれぞれインクを供給する複数のインクカートリッジ7が着脱可能に装着されている。
【0021】
図2(a)に示すように、液体噴射ヘッド12には複数のノズル開口14及びこれらに連通する複数の圧力室15が形成されており、圧力室15内のインクに圧力変動を生じさせてノズル開口14からインク滴を吐出させることができる。
【0022】
そして、インクジェット式記録装置100の非印刷領域であるホームポジション(図1中、右側)には、液体噴射ヘッド12のノズル面12aをキャッピングするキャッピング手段13が配置されている。キャッピング手段13は、液体噴射ヘッド12のノズル面12aを封止するキャップ部材16と、キャップ部材16の下方に配置されてこのキャップ部材16に接続されたチューブポンプ10と、キャップ部材16を昇降させる昇降機構(不図示)と、を備えている。
【0023】
図2(b)に示すように、このキャッピング手段13は、キャリッジ1に搭載された液体噴射ヘッド12がホームポジションに移動した時にキャップ部材16を上昇させて液体噴射ヘッド12のノズル面12aに押し当てることにより、キャップ部材16とノズル面12aとの間に密閉空間を形成し、チューブポンプ10によって、キャップ部材16とノズル面12aとの間に形成された内部空間Kに負圧が供給されるように構成されている。
【0024】
キャッピング手段13の印刷領域側の近傍には、ゴムなどの弾性板を備えたワイピング手段11が液体噴射ヘッド12の移動軌跡に対して例えば水平方向に進退できるように配置されている。このワイピング手段11は、キャリッジ1がキャッピング手段13上を移動するに際して、必要に応じて液体噴射ヘッド12のノズル面12aを払拭することができるように構成されている。
【0025】
このインクジェット式記録装置100は、さらに、液体噴射ヘッド12により印刷(記録)が行われる記録紙6をヘッド走査方向に対して直交する紙送り方向に間欠的に搬送する紙送り機構(不図示)を備えている。
【0026】
図3は、チューブポンプの概略構成を示す図である。
図3に示すように、チューブポンプ10は、回転板(回転体)25に支持されたローラ部材21と、円環状の湾曲部を有する可撓性のチューブ部材20とを有して構成されており、このチューブ部材20の両端を同方向に引き出して同一平面内で束ねる形式のものである。チューブ部材20の吸引方向の上流端は液体噴射ヘッド12のノズル面12aを封止するキャッピング手段13に接続され、吸引方向の下流端は廃液タンク23に接続されている。
【0027】
チューブ部材20の円環状部(湾曲部)20aは、断面略C字状に形成されたガイド部材であるポンプフレーム24の内周面に沿って配置されることにより、円環状部20aの外周がポンプフレーム24によって支持されている。そして、円環状部20aの中に円環状部20aと同心状に回転板25が配置されている。回転板25は、その外周が円環状部20aの内周面と所定のクリアランスを維持した状態で軸心Cを中心にして回転するようになっている。なお、回転板25を回転させる駆動源であるモータ22(図5参照)は、紙送り機構のモータ等を兼用することができる。
【0028】
ローラ部材21は、回転板25の外周部近傍に形成された長穴18に回転可能に軸支されている。回転板25が軸心Cを中心に回転(正転:矢印Aの方向あるいは逆転:矢印Bの方向)することにより、ローラ部材21が円環状部20aの内周面に沿って公転する。この公転により、ローラ部材21がチューブ部材20の円環状部20aの内周を転動するようになっている。
回転板25が軸心Cを中心に矢印Aの方向へ正転すると、ローラ部材21がチューブ部材20の円環状部20aの内周を転動して、チューブ部材20がローラ部材21によって内側から順次押圧されて変形する。一方、回転板25が軸心Cを中心に矢印Bの方向へ逆転すると、ローラ部材21の回転方向が反転して、ローラ部材21によるチューブ部材20の押圧が解除される。
【0029】
このように、ローラ部材21は、回転板25の正転によりチューブを押圧し、回転板25の逆転によりチューブ部材20への押圧力が解除されるよう回転板25に支持されている。すなわち、ローラ部材21は回転板25の外周部材近傍において略周方向に延びるよう形成された長穴18に軸支されている。長穴18は、円周方向の吸引方向上流側の端部18aと、吸引方向下流側の端部18bとでは軸心Cからの距離が異なるよう角度が設けられている。吸引方向上流側の端部18aの方が吸引方向下流側の端部18bよりも軸心Cからの距離が長くなるよう設定されている。これにより、ローラ部材21は、長穴18に沿って移動し、吸引方向上流側の端部18aに移動したときは径方向の外側に位置し、反対に吸引方向下流側の端部18bに移動したときは径方向の内側に位置するようになっている。
【0030】
このような構造により、回転板25が正転(矢印A)すると、ローラ部材21がチューブ部材20の円環状部20aの内周面を吸引方向に転動し、チューブ部材20が順次変形してチューブ部材20の上流側に負圧が発生するようになっている。この際、ローラ部材21は吸引方向上流側の端部18aに移動してチューブ部材20に押圧力を加えることとなる。このようにしてチューブポンプ10からキャッピング手段13へと与えられた負圧の作用により、液体噴射ヘッド12のノズル面12aに形成されたノズル開口14からインクが強制的に吸引され、吸引されたインクがチューブ部材20を流動して下流の廃液タンク23に導入されるようになっている。
反対に、回転板25が逆転(矢印B)すると、ローラ部材21は吸引方向下流側の端部18bに移動してチューブ部材20への押圧力が解除され、ローラ部材21がリリースされるようになっている(図において鎖線で示す位置である)。このようにして、キャッピング手段13における負圧を迅速に解除することにより、必要以上にインクが吸引されてしまうのを防止するようになっている。
【0031】
ここで、チューブ部材20の湾曲部である円環状部20aには、回転板25の正転時においてローラ部材21の押圧による変形量が不十分となるリーク領域LAが設けられている。
【0032】
図4は、リーク領域、リークポイント、所定領域の位置関係を説明する図である。
図4に示すように、チューブ部材20は、回転板25の外周に沿うように円環状に湾曲形成され、両端部20A,20Bを揃えて一方向に引き出されている。このチューブ部材20が束ねられた領域(リーク領域LA)は、チューブ部材20が外側に向かって延びている部分であり、外側にガイド部材であるポンプフレーム24が存在しないため、ローラ部材21で内側から押圧してチューブ部材20を変形させたとしても、負圧を発生させるだけの変形量にならず、負圧がリークする領域である。そして、リーク領域LAの中心、すなわちチューブ部材20の端部20A,20Bが束ねられた箇所にある略三角形の隙間の中心がリークポイントLPである。
【0033】
図5は、本実施形態におけるチューブポンプの概観を示した斜視図である。
図5に示すように、ポンプフレーム24の内部には、図3に示したチューブ部材20の円環状部20a(図3)が収納されている。即ち、ポンプフレーム24の内面に、可撓性のチューブ部材20の外形を円環状に規制するガイド部材としての支持面24a(図3)が形成されている。
【0034】
図5に示すように、ポンプフレーム24の一側面から、ローラ部材21の公転動作に伴って回転する回転板25の回転軸(図示せず)と一体に回転する検出用回転軸26が突出している。この検出用回転軸26の先端には回転円板27が取り付けられており、この回転円板27には切欠部27aが形成されている。
【0035】
回転円板27の近傍には、回転円板27の回転動作の位相を検出するための光センサ28が、その発光部28a及び受光部28bによって回転円板27を非接触にて挟み込むようにして配置されている。この光センサ28は、回転円板27の切欠部27aにおける検出信号の変化に基づいて回転円板27の回転動作の位相を検出する。
【0036】
そして、検出用回転軸26、回転円板27及び光センサ28は、公転動作するローラ部材21の位相情報を検出する位相検出手段29を構成している。すなわち、回転板25と回転円板27は同軸状に同時回転することから、回転円板27の位相を検出することにより、回転板25の位相すなわち公転するローラ部材21の位相を検出できるのである。
【0037】
ここで、光センサ28の検出信号がオンになるのは、回転円板27の切欠部27aが光センサ28の位置に来て、発光部28aから放射された光が切欠部27aを通過して受光部28bに到達する場合である。一方、光センサ28の検出信号がオフになるのは、回転円板27の切欠部27a以外の部分が光センサ28の位置に来て、発光部28aから放射された光が回転円板27で遮断されて受光部28bに到達しない場合である。
【0038】
したがって、この位相検出手段29では、光が回転円板27で遮断されて光センサ28の検出信号がオフの状態からモータ22すなわち回転板25を正転させると、光が切欠部27aを通過した時点で光センサ28の検出信号がオンに切り換わり、引き続き正転させて切欠部27aを通過して再び光が回転円板27で遮断されると光センサ28の検出信号がオフに切り換わる。
【0039】
そして、この例では、モータ22すなわち回転板25が正転している状態で、光センサ28の検出信号がオンからオフに切り換わるときに、ローラ部材21がリークポイントLPに位置するよう、回転板25および回転円板27の位置関係を設定している。
【0040】
図6は、本実施形態によるインクジェット式記録装置におけるクリーニング操作(吸引操作)を制御する制御回路等を示したブロック図である。
【0041】
チューブポンプ10を構成するチューブ部材20の一端はキャッピング手段13に連通しており、他端は廃液タンク23に連通している。これにより、キャッピング手段13の内部空間に排出されたインク廃液は、チューブポンプ10を介して廃液タンク23に廃棄することができる。
【0042】
ホストコンピュータ30にはプリンタドライバ31が搭載されている。そして、プリンタドライバ31のユーティリティ上で、入力装置およびディスプレイを利用して、既知の用紙サイズ、印刷モードの選択、フォント等のデータおよび印刷指令等が入力されるように構成されている。
【0043】
そして、プリンタドライバ31から印刷制御手段32に対して印刷データが送出され、印刷制御手段32は受け取った印刷データに基づいてビットマップデータを生成し、このビットマップデータに基づいてヘッド駆動手段33により駆動信号を発生させて、液体噴射ヘッド12からインクを吐出させるように構成されている。
【0044】
ヘッド駆動手段33は、印刷データに基づく駆動信号の他に、クリーニング制御手段34の一部を構成するフラッシング制御手段35からのフラッシング指令信号を受けてフラッシングのための駆動信号を液体噴射ヘッド12に出力するようにも構成されている。
【0045】
クリーニング制御手段34は、さらに、インク吸引制御手段(制御手段)36を有しており、このインク吸引制御手段36は、クリーニング操作としてインク吸引を実施する際にチューブポンプ10の駆動を制御する。また、クリーニング制御手段34は、キャッピング手段13による液体噴射ヘッド12のノズル面12aの封止状態および非封止状態を切換操作する。
【0046】
また、キャリッジ駆動制御手段37は、印刷制御手段32及びクリーニング制御手段34からの駆動信号に基づいて、キャリッジ1を所定のポジションに移動させる。
【0047】
インク吸引制御手段(制御手段)36は、位相検出手段29(図5)で検出された公転するローラ部材21の位置情報に基づいてローラ部材21(回転板25)の回転量を制御するものである。すなわち、ローラ部材21(回転板25)の回転量を制御することによって、キャップ部材16とノズル面12aとの間に形成された内部空間K内の負圧を制御することとなる。さらに、ローラ部材21(回転板25)の正転時における回転量と、ローラ部材21(回転板25)の逆転時における回転量とが等しくなるように制御することによって、内部空間K内を所定の負圧と大気圧との間で変化させることとなる。
【0048】
図7(a)は、ローラ部材をリークポイントに停止させた状態を示し、図7(b)は、回転板を逆転させてローラ部材をリリースする状態を示す。
インク吸引制御手段36は、吸引動作終了時にモータ22すなわち回転板25の正転をリークポイントLPで停止させる(図7(a))。そして、この停止位置から回転板25の逆転を開始して(図7(b))ローラ部材21のリリースを行うよう制御する。ローラ部材21をリークポイントLPで停止させると、チューブ部材20に対するローラ部材21の押圧状態が一瞬緩む。このような機械的な緩みにより、ローラ部材21の押圧力の解除がスムーズに行われ、リリースされるのである。特に、回転板25の磨耗によりローラ部材21の押圧力の解除が行われ難くなった場合でも、スムーズに解除が行われる。
【0049】
図8は、インク吸引制御手段における吸引動作の制御シーケンスの一例を示すフローチャートである。
図8に示すように、まず、吸引動作がスタートすると、キャリッジ1が移動して液体噴射ヘッド12をキャッピング手段13に対面させるとともに、キャップ部材16を上昇させて液体噴射ヘッド12のノズル面12aをキャッピングする(ステップS101)。
【0050】
次に、光センサ28の検出信号がONか否かを判定する(ステップS102)。本ステップS102において光センサ28がOFFであると判定された場合(NO)には、モータ22を正転させ、光センサ28がONになるまで回転板25を回転させる(ステップS103)。一方、ステップS102において光センサ28がONであると判定された場合には、ステップS103を省略してステップS104へと移行する。
【0051】
ステップS104においては、モータ22の駆動を開始して、光センサ28がオンからオフに変化するまで回転板25を回転させる。光センサ28がオンからオフに変化した時点が、ローラ部材21がリークポイントLPに位置した状態である。
【0052】
そして、光センサ28がオンからオフに変化した時点すなわちローラ部材21がリークポイントLPに位置した時点から、所定の回転量Xだけモータ22を正転させ、これによりローラ部材21を所定の回転量Xだけ正転(公転)させる(ステップS105)。ローラ部材21が正転することによってキャップ部材16とノズル面12aとの間に形成された内部空間K内が負圧になり、液体噴射ヘッド12のノズル開口14からインクが吸引される。このようにして、吸引動作を所定時間実施する。
【0053】
そして、ローラ部材21を所定の回転量Xだけ公転させた後、モータ22の駆動を停止して(ステップS106)、ローラ部材21をリークポイントLPに配置する。こうして液体噴射ヘッド12に対する吸引動作が終了すると、次に、モータ22すなわち回転板25を逆転させるリリース動作を行う。
このように、吸引動作の終了時に、回転板25の正転をリークポイントLP(リーク領域LA内)で停止させ、この停止位置から回転板25の逆転を開始する。
【0054】
リリース動作では、内部空間K内が負圧状態にあるときにモータ22の駆動を逆転させて(ステップS107)、回転板25の回転方向を反転させる。このようにして、ローラ部材21によるチューブ部材20に対する押圧をリリースする。このとき、正転時と同様の回転量だけローラ部材21(回転板25)を逆転させる。ローラ部材21の逆転によってチューブ部材20に対するローラ部材21の押圧力が順次解除されていくに従い、キャップ部材16とノズル面12aとの間に形成された内部空間K内の負圧が徐々に解除されることとなる。
【0055】
そして、ステップS107においてローラ部材の回転量が所定の回転量Xに達した(YES)と判定されると、モータ22の駆動を停止して(ステップS108)、再びローラ部材21をリークポイントLPに配置する。ローラ部材21を正転時と同様の回転量Xだけ逆転させることにより、内部空間K内の負圧が完全に解除される。
【0056】
リリース後、キャップ部材16を降下させて、キャップ部材16をノズル面12aから離間させる(ステップS109)。その後、モータ22すなわち回転板25を正転させてチューブポンプ10のローラ部材21(回転板25)を正転させて、キャップ部材16内に溜まっているインクを吸引することにより廃液タンク23へと排出する動作を行う(ステップS110)。このようにして吸引動作が終了する。
【0057】
なお、実際のメンテナンス動作では、吸引動作が終了した後に、ノズル面12aをワイパー手段によって払拭するワイピング動作を行うことによって、ノズル面12aに付着したインクを除去する。
【0058】
図9は、内部空間の圧力変動を示す図である。
図9に示すように、吸引動作が開始されてモータ22が正転駆動されると回転板25の回転に伴ってローラ部材21が回転し、このローラ部材21の回転量に伴ってキャップ部材16とノズル面12aとの間に形成される内部空間K内の負圧が徐々に高まっていく(正転期間T1)。ローラ部材21の回転量が所定量に達すると、内部空間K内が所定の圧力Pとなる。
【0059】
そして、ローラ部材21の回転量が所定量に達すると、モータ22を一旦停止させ、その後、モータ22を逆転駆動させる(逆転期間T2)。すると、内部空間K内の負圧が徐々に解除されていき、内部空間K内の圧力が圧力Pから圧力P(大気圧)へと戻る。
内部空間Kの減圧状態が完全に解消するまでに要する時間は、従来よりも本実施形態の方が大幅に短い(本実施形態の逆転期間T2<従来の逆転期間T2’)。このため、吸引動作終了後に吸引されるインクの吸引量(排出インク量)は、従来に比べて本実施形態の方が大幅に少なくなっている(本実施形態のインク吸引量S<従来のインク吸引量S’)。
【0060】
内部空間K内の負圧状態が解除されない限りキャップ部材16をノズル面12aから離間させることは困難であり、内部空間Kの負圧状態が完全に解除されないうちに(大気開放されないうちに)キャップ部材16をノズル面12aから無理に離間させようとすると、インクの飛び散りが生じるおそれがある。そのため、従来では、内部空間Kの負圧状態が解除されるまでキャップ部材16によるノズル面12aの封止状態を維持したまま待機していた。この場合、内部空間K内の負圧状態が完全に解除するまでにインクが吸引(排出)され続けてしまい、必要以上のインクが無駄になってしまうことが問題となっていた。
【0061】
これに対し、本実施形態では、モータ22の駆動(ローラ部材21の回転)を逆転させることによって、内部空間K内の負圧状態を強制的に解除させることとした。このため、従来よりも短時間で内部空間K内の負圧状態を解除(減圧状態を解消)することができ、その結果、吸引動作終了後のインクの排出量(吸引量)を必要最低限に抑えることが可能である。つまり、液体噴射ヘッド12におけるインクの逆流を防止した仕上げ吸引が短時間で行えることとなる。
【0062】
また、上記した本実施形態の構成によれば、大気開放弁を用いることなく迅速に大気開放することが可能である。大気開放弁を必要としないことから部品点数を削減でき、コスト低減を図れる。なお、内部空間K内の負圧状態が完全に解除された後にキャップ部材16をノズル面12aから離間させているため、インクの飛び散りも生じず、装置内が汚れることもない。
【0063】
なお、本実施形態においては、モータ22(ローラ部材21)を正転時の回転量と同じ回転量で逆転させることによって内部空間K内の負圧状態を解除することとしたが、ローラ部材21の逆転時の回転量が正転時の回転量に満たなくても、リークポイントLPでローラ部材21を停止させた状態を維持しておくことにより、内部空間K内の負圧を徐々に解除することが可能である。チューブ部材20の端部20A,20Bが束ねられたリークポイントLPには略三角形の隙間が形成されている。この隙間によって、ローラ部材21によるチューブ部材20の押圧が不十分となる。つまり、ローラ部材21の押圧による変形量が不十分となるため、リークポイントLPでローラ部材21を停止させておくことで、内部空間K内の負圧が徐々に解除されることとなる。この場合、モータ22(ローラ部材21)を逆転させるよりも負圧解除に時間がかかるが、従来よりも短時間で内部空間K内の負圧を解除することが可能である。
【0064】
なお、本発明は、各実施形態に限定するものではなく、以下のような変更例を包含する趣旨である。
【0065】
キャップ部材16を昇降させるキャップ昇降手段は、鉛直方向にも水平方向にも移動する機構、すなわち斜めに昇降する構成であってもよいし、鉛直方向に昇降させるものであってもよい。
【0066】
各実施形態において、液体噴射ヘッド12は、液体を噴射させる駆動素子である圧力発生素子として、圧電振動子を利用した液体噴射装置に適用することもできるし、発熱素子を利用したタイプの液体噴射装置に適用することもできる。
【0067】
また、本発明のメンテナンス方法をコンピュータ装置に実行させるプログラムを、記録媒体に記録して提供したり、通信ネットワークを介して提供したりすることもできる。
【0068】
また、液体噴射装置の代表例としては、上述したような画像記録用のインクジェット式液体噴射ヘッドを備えたインクジェット式記録装置があるが、本発明は、その他の液体噴射装置として、例えば液晶ディスプレイ等のカラーフィルタ製造に用いられる色材噴射ヘッドを備えた装置、有機ELディスプレイ、面発光ディスプレイ(FED)等の電極形成に用いられる電極材(導電ペースト)噴射ヘッドを備えた装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドを備えた装置、精密ピペットとしての試料噴射ヘッドを備えた装置等、各種の液体噴射装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0069】
K…内部空間、X…回転量、10…チューブポンプ、12…液体噴射ヘッド、12a…ノズル面、13…キャッピング手段、14…ノズル開口、20…チューブ部材、20a…円環状部(湾曲部)、21…ローラ部材、25…回転板(回転体)、36…インク吸引制御手段(制御手段)、LA…リーク領域、100…インクジェット式記録装置(液体噴射装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズル開口を有する液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドのノズル面をキャッピングするキャッピング手段と、前記ノズル面をキャッピングしたキャッピング手段の内部空間に負圧を与えるチューブポンプと、前記チューブポンプの動作を制御する制御手段と、を備えた液体噴射装置のポンプ制御方法であって、
前記チューブポンプは、回転体に支持され且つ当該回転体の公転によって転動するローラ部材と、湾曲部を有する可撓性のチューブ部材と、を有し、
前記回転体の正転時において前記ローラ部材により前記チューブ部材を押圧することで前記内部空間に対して負圧を発生させて前記ノズル開口から前記キャッピング手段へと前記液体を排出させた後、
前記内部空間が負圧状態にあるときに前記回転体を逆転させて前記ローラ部材の回転方向を反転させることにより前記チューブ部材の押圧を解除する
液体噴射装置のポンプ制御方法。
【請求項2】
前記回転体の正転時の回転量と逆転時の回転量とが等しい
請求項1に記載の液体噴射装置のポンプ制御方法。
【請求項3】
前記チューブ部材の前記湾曲部には、前記回転体の正転時において前記ローラ部材の押圧による変形量が不十分となるリーク領域が設けられており、
吸引動作の終了時に、前記回転体の正転を前記リーク領域内で停止させ、この停止位置から前記回転体の逆転を開始する
請求項1または2に記載の液体噴射装置のポンプ制御方法。
【請求項4】
液体を噴射するノズル開口を有する液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドのノズル面をキャッピングするキャッピング手段と、前記ノズル面をキャッピングしたキャッピング手段の内部空間に負圧を与えるチューブ部材ポンプと、前記チューブ部材ポンプの動作を制御する制御手段と、を備えた液体噴射装置であって、
前記チューブ部材ポンプは、回転体に支持され且つ当該回転体の公転によって転動するローラ部材と、湾曲部を有する可撓性のチューブ部材と、を有し、
前記制御手段は、前記回転体の正転時において前記ローラ部材により前記チューブ部材を押圧することで前記内部空間に対して負圧を発生させて前記ノズル開口から前記キャッピング手段へと前記液体を排出させた後、
前記内部空間が負圧状態にあるときに前記回転体を逆転させて前記ローラ部材の回転方向を反転させることにより前記チューブ部材の押圧を解除するよう制御する
液体噴射装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記回転体の正転時の回転量と逆転時の回転量とが等しくなるように制御する機能を有する
請求項4に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記チューブ部材の前記湾曲部には、前記回転体の正転時において前記ローラ部材の押圧による変形量が不十分となるリーク領域が設けられており、
前記制御手段は、吸引動作の終了時に、前記回転体の正転を前記リーク領域内で停止させ、この停止位置から前記回転体の逆転を開始するよう制御する
請求項4または5に記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−121306(P2012−121306A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276184(P2010−276184)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】