説明

液体噴射装置及びクリーニング方法

【課題】液体噴射ヘッドのクリーニングにおけるキャップ内の吸引後に、該キャップ内の液体中に気泡が発生することを抑制することが可能な液体噴射装置及びクリーニング方法を提供する。
【解決手段】インクジェット式プリンターは、各ノズル22からインクを噴射する記録ヘッド19と、該記録ヘッド19に対して各ノズル22を囲うように当接して該記録ヘッド19との間で密閉空間Sを形成するキャップ24と、該キャップ24内を吸引するチューブポンプ34と、キャップ24内を冷却するペルチェ素子27と、チューブポンプ34を駆動制御するとともにペルチェ素子27への通電状態を制御する制御部39とを備える。そして、制御部39は、キャップ24により密閉空間Sが形成された状態で、キャップ24内が吸引されるようにチューブポンプ34を制御した後、キャップ24内が冷却されるようにペルチェ素子27への通電状態を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、インクジェット式プリンターなどの液体噴射装置及びクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、液体噴射ヘッドから液体を噴射させる液体噴射装置として、インクジェット式プリンター(以下、「プリンター」という。)が広く知られている。このプリンターは、インク(液体)を収容するインクカートリッジから記録ヘッド(液体噴射ヘッド)にインクを供給し、そのインクを記録ヘッドのノズルから記録用紙に噴射することにより印刷を行うようになっている。
【0003】
こうしたプリンターでは、インクの噴射不良を低減するために、インクを噴射するノズルを囲うようにして記録ヘッドにキャップを当接して閉空間を形成した状態で、該キャップ内を吸引ポンプ(吸引手段)により吸引することで、ノズルから増粘したインクや気泡などを強制的に排出させる、いわゆるクリーニングが適宜行われる。
【0004】
クリーニングにおいては、インクの温度が低い程インクへの気泡(空気)の溶解度が高くなるため、インクの温度が高いときよりも低いときの方がインク中の気泡を除去するために排出しなければならないインク量が少なくて済む。このため、従来は、記録ヘッド内のインクをペルチェ素子(冷却手段)によって冷却するプリンターが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−146012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1のプリンターでは、記録ヘッド内のインクを冷却することはできるものの、キャップ内に排出されたインクを冷却することはできないため、記録ヘッドからキャップ内に排出されたインクの温度は上昇する。このため、キャップ内でのインクへの気泡の溶解度が低下し、該インク中に再び気泡が発生する。この結果、吸引ポンプによるキャップ内の吸引後に、キャップ内のインク中に発生した気泡が記録ヘッドのノズル内に逆流し、インクの噴射不良を招くおそれがあるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、液体噴射ヘッドのクリーニングにおけるキャップ内の吸引後に、該キャップ内の液体中に気泡が発生することを抑制することが可能な液体噴射装置及びクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の液体噴射装置は、ノズルから液体を噴射する液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドに対して前記ノズルを囲うように当接して該液体噴射ヘッドとの間で閉空間を形成するキャップと、前記キャップ内を吸引する吸引手段と、前記キャップ内を冷却する冷却手段と、前記吸引手段及び前記冷却手段を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記キャップにより前記閉空間が形成された状態で、前記キャップ内が吸引されるように前記吸引手段を制御した後、前記キャップ内が冷却されるように前記冷却手段を制御する。
【0009】
この発明によれば、キャップ内が吸引手段によって吸引された後に、該キャップ内が冷却手段によって冷却されるので、該キャップ内における液体に対する気泡(空気)の溶解度が上昇し、発生した気泡が液体に再溶解する。したがって、液体噴射ヘッドのクリーニングにおけるキャップ内の吸引後に、該キャップ内の液体中に気泡が発生することを抑制することが可能となる。
【0010】
本発明の液体噴射装置において、前記制御手段は、前記キャップ内が吸引されるように前記吸引手段を制御した後、該吸引手段を停止させてから前記キャップ内が冷却されるように前記冷却手段を制御する。
【0011】
通常、液体は冷却されると粘度が上昇するが、吸引手段によってキャップ内の液体を吸引する際には液体の粘度が低いほど好ましい。この点、この発明によれば、吸引手段によってキャップ内を吸引した後、該吸引手段を停止させてから冷却手段によってキャップ内が冷却される。このため、キャップ内の液体の粘度を上昇させることなく、吸引手段によってキャップ内の液体を吸引することが可能となる。すなわち、冷却手段によるキャップ内の冷却が吸引手段によるキャップ内の液体の吸引を妨げることを抑制することが可能となる。
【0012】
本発明の液体噴射装置において、前記制御手段は、前記キャップが前記液体噴射ヘッドから離間する前に前記冷却手段を停止させる。
この発明によれば、例えば、キャップを液体噴射ヘッドから離間させた後に該キャップ内を吸引手段によって空吸引する際には、冷却手段が既に停止しているため、空吸引中にキャップ内の液体の粘度が上昇することを抑制することが可能となる。
【0013】
本発明の液体噴射装置において、前記冷却手段は、前記キャップの周壁の外面に配置されている。
この発明によれば、冷却手段をキャップの底壁の外面に配置する場合に比べて、キャップ内を効率よく冷却することが可能となる。
【0014】
本発明のクリーニング方法は、液体を噴射する液体噴射ヘッドに対してノズルを囲うようにキャップを当接して、前記キャップと前記液体噴射ヘッドとで閉空間を形成する閉空間形成ステップと、前記閉空間を吸引して前記ノズルから該閉空間へ前記液体を排出させる液体排出ステップと、前記閉空間を冷却する冷却ステップとを備えた。
【0015】
この発明によれば、液体排出ステップを行うことで閉空間に発生する液体の泡を、冷却ステップを行うことで、該液体に再溶解させることが可能となる。したがって、液体噴射ヘッドのクリーニングにおけるキャップ内の吸引後に、該キャップ内の液体中に気泡が発生することを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態のインクジェット式プリンターの斜視図。
【図2】同プリンターのメンテナンス機構を示す断面模式図。
【図3】同メンテナンス機構における吸引後のキャップ内の状態を示す断面模式図。
【図4】変更例のキャップの断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をインクジェット式プリンターに具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において、「前後方向」、「上下方向」及び「左右方向」をいう場合は、特に説明がない限り、図1を基準とした場合の「前後方向」、「上下方向」及び「左右方向」と一致するものとする。
【0018】
図1に示すように、液体噴射装置としてのインクジェット式プリンター11は、略矩形箱状をなすフレーム12を備えている。フレーム12内の下部には、その長手方向である左右方向に沿ってプラテン13が延設されている。プラテン13上には、フレーム12の背面下部に設けられた紙送りモーター14の駆動に基づき、図示しない紙送り機構により記録用紙Pが後方側から給送されるようになっている。
【0019】
フレーム12内におけるプラテン13の上方には、該プラテン13の長手方向に沿ってガイド軸15が架設されている。ガイド軸15には、該ガイド軸15の軸線方向(左右方向)に沿って往復移動可能にキャリッジ16が支持されている。すなわち、キャリッジ16には左右方向に貫通するように支持孔16aが形成されており、該支持孔16aにガイド軸15が挿通されることにより、キャリッジ16がガイド軸15によって左右方向に往復移動可能に支持されている。
【0020】
フレーム12の後壁内面におけるガイド軸15の両端部と対応する位置には、駆動プーリー17a及び従動プーリー17bが回転自在に支持されている。駆動プーリー17aにはキャリッジ16を往復移動させる際の駆動源となるキャリッジモーター18の出力軸が連結されており、これら一対のプーリー17a,17b間には一部がキャリッジ16に連結された無端状のタイミングベルト17が掛装されている。従って、キャリッジ16は、ガイド軸15にガイドされながら、キャリッジモーター18の駆動力により無端状のタイミングベルト17を介して左右方向に移動されるようになっている。
【0021】
キャリッジ16の下面側には液体噴射ヘッドとしての記録ヘッド19が設けられており、該記録ヘッド19の下面で構成されるノズル形成面19aには該記録ヘッド19に備えられた複数のノズル22(図2参照)が開口している。一方、キャリッジ16上には記録ヘッド19に対して液体としてのインクを供給するためのインクカートリッジ20が着脱可能に装着されている。
【0022】
そして、インクカートリッジ20内のインクは、記録ヘッド19に備えられた圧電素子21(図2参照)の駆動により、インクカートリッジ20から記録ヘッド19へと供給され、該記録ヘッド19の各ノズル22(図2参照)からプラテン13上に給送された記録用紙Pに噴射されて印刷が行われるようになっている。
【0023】
なお、フレーム12内の右端部に位置する記録用紙Pと対応しないホームポジション領域(非印刷領域)には、非印刷時に記録ヘッド19のクリーニング等のメンテナンスを行うためのメンテナンス機構23が設けられている。
【0024】
次に、メンテナンス機構23について詳述する。
図2に示すように、メンテナンス機構23は、有底四角箱状をなすキャップ24と、該キャップ24を昇降するための昇降装置25とを備えている。そして、キャリッジ16をホームポジション領域に移動させた状態で、キャップ24を昇降装置25によって上昇させると、該キャップ24が各ノズル22を囲うように記録ヘッド19のノズル形成面19aに当接して該記録ヘッド19との間で閉空間としての密閉空間Sを形成するようになっている。
【0025】
キャップ24内には、記録ヘッド19の各ノズル22から排出されたインクの一部を吸収して保持するインク吸収材26が収容されている。インク吸収材26は、キャップ24内の形状に合わせた直方体状をなす可撓性の多孔質部材によって構成されている。この場合、インク吸収材26の上面(表面)はキャップ24の上端よりも低くなるように設定されている。したがって、キャップ24が各ノズル22を囲うように記録ヘッド19のノズル形成面19aに当接した状態ではキャップ24内においてインク吸収材26の上面とノズル形成面19aとの間に若干の隙間S1が形成される。
【0026】
また、キャップ24の周壁における外面の上端部には、該キャップ24内を冷却するための冷却手段としてのペルチェ素子27が設けられている。ペルチェ素子27は、吸熱部27aと放熱部27bとを備えており、吸熱部27aがキャップ24の周壁における外面の上端部に接触している。この場合、放熱部27bは、どこにも接触していない。なお、ペルチェ素子27によるキャップ24内の冷却効果を高めるという観点から、キャップ24をできるだけ熱伝導性の良い材料で構成することが好ましい。
【0027】
図2に示すように、ペルチェ素子27には一端が電源28に接続された電線29の他端が接続されている。この場合、ペルチェ素子27におけるキャップ24に接触している側の部分が吸熱部27aとなるように、該ペルチェ素子27に流れる電流の方向が設定されている。電線29の途中位置には、電源28からの電流を通したり止めたりするためのスイッチ回路30が設けられている。
【0028】
キャップ24の底壁におけるやや後よりの位置からは突部31が下方に向かって突設されており、該突部31内にはキャップ24内からインクを排出するための排出路31aが上下方向に貫通するように形成されている。突部31には可撓性を有する排出チューブ32の基端側(上流側)が接続され、該排出チューブ32の他端側(下流側)は直方体状をなす廃インクタンク33内に挿入されている。
【0029】
キャップ24と廃インクタンク33との間における排出チューブ32の中間部には、キャップ24側から廃インクタンク33側へ向かってキャップ24内を吸引するための吸引手段としてのチューブポンプ34が設けられている。なお、廃インクタンク33内には、該廃インクタンク33内に排出されたインクを吸収して保持する廃インク吸収材35が収容されている。
【0030】
キャップ24の底壁におけるやや前よりの位置からは突部36が下方に向かって突設されており、該突部36内にはキャップ24内を大気開放するための大気開放路36aが上下方向に貫通するように形成されている。突部36には可撓性を有する大気開放チューブ37の基端側(上流側)が接続され、該大気開放チューブ37の他端側(下流側)は大気開放弁38に接続されている。
【0031】
また、図1に示すように、メンテナンス機構23は、キャップ24の左側に配置されたワイパー40を備えている。ワイパー40は、昇降装置25(図2参照)によって、記録ヘッド19のノズル形成面19aに接触可能なワイピング位置と記録ヘッド19のノズル形成面19aと接触しない退避位置との間で昇降されるようになっている。ワイパー40は、平板状のエラストマーによって構成されており、ワイピング位置に移動させた状態で該ワイパー40上を通過するようにキャリッジ16を移動させることで、記録ヘッド19のノズル形成面19aをワイピング(払拭)するようになっている。
【0032】
図2に示すように、インクジェット式プリンター11(図1参照)は、該インクジェット式プリンター11全体の稼働状態を制御する制御手段としての制御部39を備えている。制御部39は、紙送りモーター14、キャリッジモーター18、昇降装置25、スイッチ回路30、チューブポンプ34、及び大気開放弁38とそれぞれ電気的に接続されている。そして、制御部39は、紙送りモーター14、キャリッジモーター18、昇降装置25及びチューブポンプ34の駆動を制御するとともに、スイッチ回路30のON−OFFの切り替え動作及び大気開放弁38の開閉動作を制御するようになっている。
【0033】
次に、記録ヘッド19のクリーニングを行う際のメンテナンス機構23の作用について説明する。
さて、記録ヘッド19のクリーニングを行う場合には、まず、キャリッジ16をホームポジション領域に移動させた状態で、キャップ24を上昇させる。すると、キャップ24が各ノズル22を囲うように記録ヘッド19のノズル形成面19aに当接した状態(キャッピング状態)となり、キャップ24と記録ヘッド19のノズル形成面19aとで密閉空間Sが形成される(閉空間形成ステップ)。このとき、スイッチ回路30はOFF状態になっている。
【0034】
引き続き、大気開放弁38を閉弁するとともにチューブポンプ34を駆動すると、キャップ24内(密閉空間S)が吸引されて該キャップ24内に負圧が発生する。この負圧により、各ノズル22から増粘したインクが気泡等とともに吸引されてキャップ24内に排出される(液体排出ステップ)。キャップ24内に排出されたインクは、チューブポンプ34により排出路31a及び排出チューブ32を介して廃インクタンク33内に排出される。
【0035】
このとき、チューブポンプ34によるキャップ24内の吸引によって、キャップ24内には、多量の気泡が発生する。そして、チューブポンプ34を停止すると、図3に示すように、各ノズル22とインク吸収材26の上面とがインクを介して繋がった状態となる。続いて、スイッチ回路30をON状態にすると、ペルチェ素子27が通電され、吸熱部27aの温度が低下するとともに放熱部27bの温度が上昇する。
【0036】
この吸熱部27aの温度低下により、キャップ24を介してキャップ24内(密閉空間S)が冷却される(冷却ステップ)。この冷却ステップでは、例えばキャップ24内の温度(室温)が25℃だとすると、キャップ24内が10℃程度になるまで冷却される。すると、キャップ24内のインクに対する気泡(空気)の溶解度が上昇し、キャップ24内の気泡がインクに溶解する。このとき、インク吸収材26の上面とノズル形成面19aとの間の隙間S1の空気が冷却されて収縮するため、各ノズル22内のインク中に存在する気泡(空気)が隙間S1へと流れる。
【0037】
続いて、大気開放弁38を開弁すると、キャップ24内(密閉空間S)に発生している負圧が解消される。そして、スイッチ回路30をOFF状態にした後、キャップ24を下降させると、キャップ24が記録ヘッド19から離間した状態になる。これにより、ペルチェ素子27への電流の供給が断たれ、キャップ24内の冷却が解除される。引き続き、チューブポンプ34を駆動させると、該チューブポンプ34によってキャップ24内が空吸引されて該キャップ24内に溜まったインクが廃インクタンク33内に排出される。
【0038】
このとき、キャップ24内の冷却は解除されているため、キャップ24内に溜まったインクの粘度の上昇は抑えられる。したがって、キャップ24内に溜まったインクは廃インクタンク33内へと円滑に排出される。続いて、大気開放弁38を閉弁するとともにチューブポンプ34を停止させ、キャリッジ16を左方向に移動させると、ワイパー40によって記録ヘッド19のノズル形成面19aがワイピングされる。そして、再びキャリッジ16をホームポジション領域に移動させた後、キャップ24を上昇させると、該キャップ24により記録ヘッド19がキャッピングされて記録ヘッド19のクリーニングが完了する。
【0039】
このように、記録ヘッド19のクリーニングにおいて、キャップ24内(密閉空間S)の吸引後に該キャップ24内を冷却することで、キャップ24内のインクに対する気泡の溶解度が上昇するため、キャップ24内の吸引によって該キャップ24内に発生した気泡がインクに再溶解する。したがって、キャップ24内の吸引後に該キャップ24内のインク中に気泡が発生することが抑制される。
【0040】
ここで、チューブポンプ34の駆動によりキャップ24内を吸引してチューブポンプ34を停止した後、キャップ24内を冷却することなく、大気開放弁38を開弁すると、密閉空間Sの圧力は大気圧に戻るが、各ノズル22内は若干の負圧状態になっている。このため、ノズル形成面19a上に各ノズル22を覆うように付着した気泡を含むインク滴が、各ノズル22内と密閉空間Sとの圧力差によって各ノズル22内にそれぞれ吸い込まれ、該各ノズル22からのインクの噴射不良(例えば、ドット抜けなど)を招いてしまう。
【0041】
この点、本実施形態では、キャップ24内の吸引後に、キャップ24内(密閉空間S)を冷却することで、該キャップ24内に発生している気泡がインクに再溶解するので、密閉空間Sを大気開放した際に各ノズル22内に吸い込まれるインク滴中の気泡の発生が抑制される。したがって、インク中の気泡に起因する各ノズル22からのインクの噴射不良が効果的に抑えられる。
【0042】
以上、詳述した実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
(1)キャップ24内をチューブポンプ34によって吸引した後に、該キャップ24内をペルチェ素子27によって冷却している。このため、キャップ24内におけるインクに対する気泡(空気)の溶解度を上昇させることができ、チューブポンプ34によるキャップ24内の吸引によって該キャップ24内に発生した気泡をインクに再溶解させることができる。したがって、記録ヘッド19のクリーニングにおけるキャップ24内の吸引後に、該キャップ24内のインク中に気泡が発生することを抑制することができる。
【0043】
(2)通常、インクは冷却されると粘度が上昇するが、記録ヘッド19のクリーニングにおいてチューブポンプ34によってキャップ24内のインクを吸引する際には該インクの粘度が低いほど好ましい。この点、本実施形態によれば、チューブポンプ34によってキャップ24内を吸引した後、該チューブポンプ34を停止させてからペルチェ素子27によってキャップ24内が冷却される。このため、キャップ24内のインクの吸引中はキャップ24内が冷却されないので、キャップ24内のインクの粘度を上昇させることなく、チューブポンプ34によってキャップ24内のインクを円滑に吸引することができる。すなわち、ペルチェ素子27によるキャップ24内の冷却がチューブポンプ34によるキャップ24内のインクの吸引を妨げることを抑制することができる。
【0044】
(3)キャップ24内の吸引後、該キャップ24を記録ヘッド19から離間させる前にペルチェ素子27によるキャップ24内の冷却を停止させている。このため、キャップ24を記録ヘッド19から離間させた後に該キャップ24内のインクをチューブポンプ34によって空吸引する際には、ペルチェ素子27によるキャップ24内の冷却が既に停止している。したがって、キャップ24内の空吸引中にキャップ24内のインクが冷却されて該インクの粘度が上昇することを抑制でき、キャップ24内のインクを円滑に空吸引することができる。
【0045】
(4)ペルチェ素子27はキャップ24の周壁における外面の上端部に配置されているため、ペルチェ素子27をキャップ24の底壁の外面に配置する場合に比べて、キャップ24内を効率よく冷却することができる。
(変更例)
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
【0046】
・図4に示すように、キャップ24の周壁に該キャップ24の内外に露出する冷却部材41を設け、該冷却部材41を介してキャップ24内がペルチェ素子27によって冷却されるように構成してもよい。すなわち、冷却部材41は、金属などの熱伝導性の良い材料によって形成され、キャップ24内に配置される内側部41aと、キャップ24外に配置される外側部41bと、キャップ24の周壁を貫通するとともに内側部41aと外側部41bとを連結する連結部41cとにより構成されている。そして、ペルチェ素子27は、冷却部材41の外側部41bに吸熱部27aが接触するように配置される。
【0047】
・ペルチェ素子27をキャップ24の周壁の外面に複数配置してもよい。
・ペルチェ素子27は、キャップ24の底壁の外面に配置してもよい。
・チューブポンプ34によってキャップ24内を吸引した後、該チューブポンプ34を停止させることなくペルチェ素子27によってキャップ24内を冷却するようにしてもよい。
【0048】
・キャップ24内の吸引後、該キャップ24を記録ヘッド19から離間させる前にペルチェ素子27によるキャップ24内の冷却を必ずしも停止させる必要はない。
・キャップ24内を冷却可能な冷風ファンを冷却手段として用いてもよい。
【0049】
・上記実施形態では、液体噴射装置をインクジェット式プリンター11に具体化したが、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置を採用してもよい。微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用してもよい。そして、これらのうちいずれか一種の液体噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
11…液体噴射装置としてのインクジェット式プリンター、19…液体噴射ヘッドとしての記録ヘッド、22…ノズル、24…キャップ、27…冷却手段としてのペルチェ素子、34…吸引手段としてのチューブポンプ、39…制御手段としての制御部、S…閉空間としての密閉空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから液体を噴射する液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドに対して前記ノズルを囲うように当接して該液体噴射ヘッドとの間で閉空間を形成するキャップと、
前記キャップ内を吸引する吸引手段と、
前記キャップ内を冷却する冷却手段と、
前記吸引手段及び前記冷却手段を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記キャップにより前記閉空間が形成された状態で、前記キャップ内が吸引されるように前記吸引手段を制御した後、前記キャップ内が冷却されるように前記冷却手段を制御することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記キャップ内が吸引されるように前記吸引手段を制御した後、該吸引手段を停止させてから前記キャップ内が冷却されるように前記冷却手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記キャップが前記液体噴射ヘッドから離間する前に前記冷却手段を停止させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記冷却手段は、前記キャップの周壁の外面に配置されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
液体を噴射する液体噴射ヘッドに対してノズルを囲うようにキャップを当接して、前記キャップと前記液体噴射ヘッドとで閉空間を形成する閉空間形成ステップと、
前記閉空間を吸引して前記ノズルから該閉空間へ前記液体を排出させる液体排出ステップと、
前記閉空間を冷却する冷却ステップと
を備えたことを特徴とするクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−79193(P2011−79193A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232584(P2009−232584)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】