説明

液体噴射装置及び液体噴射装置における液流出防止方法

【課題】電源再投入時に残留液体が溜まった状態にあったキャッピング手段が傾斜等する状態で開放されても、その開放時にキャッピング手段から液体が流出することを防止できる液体噴射装置及び液体噴射装置における液流出防止方法を提供する。
【解決手段】インク吸引中フラグと空吸引フラグのうちいずれか一方がセットされている場合は、キャッピング状態のままバルブを開弁させて大気開放した状態で吸引処理を行う(バルブ開吸引処理)(S32〜S34)。このキャッピング状態で空吸引されることによりキャップ内の残留インクは吸引排出される。バルブ開吸引処理後、インク吸引中フラグと空吸引フラグは共にリセットされる(S35)。その後、初期化動作処理が実行される(S36)。さらに電源ON時インクシステム処理(クリーニング等)が行われる(S37)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばインクジェット式記録装置のように液体を噴射する液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置及び液体噴射装置における液流出防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体噴射装置の一つであるインクジェット記録装置は、インクカートリッジからインク流路を介して記録ヘッドにインクを供給し、記録ヘッドのノズルから記録用紙等のターゲットにインク滴を吐出して所望の印刷を施す。
【0003】
記録ヘッドのノズルから長期間にわたってインク吐出が行われないと、ノズル内のインクの粘度が高まり、適切なインク液滴の吐出が困難あるいは不可能になる。また、ノズル内あるいはインク流路内のインクに気泡が侵入すると、インク滴の吐出時にインク滴の代わりに気泡が吐出されるいわゆる空打ち等の問題が発生し、印刷品質の劣化につながるという問題がある。
【0004】
このため、インクジェット式記録装置には、記録ヘッドのノズルの目詰まり等を予防・解消するためにメンテナンス装置(クリーニング装置)が設けられている(例えば特許文献1、2等)。メンテナンス装置は、記録ヘッドのノズル開口面を封止可能なキャップと、このキャップ内に吸引力を付与して封止領域を減圧可能な吸引ポンプとを備えている。クリーニング時は、キャップによって記録ヘッドを封止した状態で、吸引ポンプを駆動してキャップ内を減圧させることにより、ノズルから増粘インクや気泡、紙粉等の異物等がインクとともに強制的に吸引排出される。そして、インク吸引動作後は、キャップ内を大気に開放した状態で再度吸引を行ってキャップ内の残留インクを除去する空吸引が行われる。また、プリンタの電源をオフした場合、ノズル内のインクの増粘や固化等を防止するため、記録ヘッドはキャップによりキャッピングされた状態に保持される。
【0005】
例えば特許文献1に記載されたインクジェット式記録装置では、電源再投入時にプリンタが前回電源オフされた際の停止の状態を検出及び判断し、停止時の状態に対応した適切な回復動作を実施する構成となっていた。
【0006】
また、特許文献2に記載されたインクジェット式記録装置では、クリーニング動作中の電源オフ状態を記憶し、電源再投入時に電源オフ状態に応じてクリーニング部材が記録ヘッドの移動経路上に侵入状態であると認識した場合には、クリーニング部材を記録ヘッドの移動経路上から退避駆動させるシーケンスが実行される構成となっていた。
【特許文献1】特開平7−276669号公報
【特許文献2】特開平11−115199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、例えばインク吸引動作中にユーザが誤って電源プラグを抜くなどの操作が行われた場合や停電時の場合には、キャップ内に吸引されたインクが溜まった状態のまま保持されることになる。例えば携帯型プリンタ(モバイルプリンタ)では、プリンタ本体が傾斜状態あるいは転倒状態にあるまま電源再投入される場合がありうる。この場合、電源再投入時の初期化動作時にキャップが開放された際、キャップ内の残留インクが流れ出たり飛び散ったりする虞があった。これは、プリンタの電源再投入時に実施される初期化動
作では、キャリッジの位置決め・メジャメント処理等が実施され、初期化動作でキャリッジを移動させるに当たってキャップが開放されるからである。
【0008】
また、記録ヘッドが傾斜したタイプのプリンタも知られ、この場合、キャップが元々傾いているため、プリンタ本体を傾けていなくても、キャップにインクが溜まった状態で電源再投入された場合、同様にキャップ内の残留インクが流れ出るという問題が発生する。
【0009】
特許文献1では、電源再投入時にプリンタの停止時の状態に応じた適切な処理が行われるが、そもそも空吸引は非キャッピング状態(キャップ開放状態)で行われる構成であるので、電源再投入時に空吸引を行うためにキャップを開放させたときにキャップ内の残留インクが流れ出るという問題が解消されなかった。さらに特許文献1に記載のプリンタでは、電源再投入時の初期化動作との関係については言及されておらず、しかも適切なクリーニングが行われた状態で印刷が開始されることを目的とするため、停止の状態に対応した回復動作は印刷開始前であればいつ行われてもよい発明であった。そのため、初期化動作後に停止の状態に対応した適切な回復動作が行われる構成である場合は、初期化動作時のキャップ開放時に残留インクが流れ出るという問題が解消されない。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、電源再投入時に残留液体が溜まった状態にあったキャッピング手段が傾斜等する状態で開放されても、その開放時にキャッピング手段から液体が流出することを防止できる液体噴射装置及び液体噴射装置における液流出防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ターゲットに液体を噴射する液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置であって、前記液体噴射ヘッドをキャッピングするためのキャッピング手段と、キャッピング状態において前記液体噴射ヘッドと前記キャッピング手段との間の空間に吸引力を付与して吸引動作を行う吸引手段と、前記キャッピング状態において前記空間と大気との連通路を開閉可能な弁手段と、液体噴射装置の電源投入後に前記キャッピング手段を前記液体噴射ヘッドから離間させるのに先立ち、前記弁手段を開弁させた大気開放状態の下で前記吸引手段を吸引動作させて前記空間に吸引力を付与する空吸引を行う制御手段とを備えたことを要旨とする。
【0012】
これによれば、液体噴射装置の電源投入後にキャッピング手段を液体噴射ヘッドから離間させるに先立ち、弁手段の開状態の下で吸引手段を吸引動作させて空吸引が行われる。つまり、電源投入後にキャッピング手段が開放される前に、予めキャッピング状態で空吸引が行われる。例えばキャッピング手段に液体が溜まった状態で電源が遮断された後の電源投入であっても、電源投入後にキャッピング手段が開放される前にその内部に溜まった液体が、キャッピング状態下で行われる空吸引により吸引除去される。よって、その後、例えば液体噴射装置が傾斜又は転倒状態にあるなど、キャッピング手段が重力方向に対して傾いた状態で液体噴射ヘッドから離間して開放されたとしても、キャッピング手段から液体が流れ出ることはない。なお、所定の処理動作を中断する電源遮断によってキャッピング手段に液体が溜まった状態にあることに限定されず、正常な電源遮断によってキャッピング手段に液体が溜まった状態にあって、そのときにキャッピング状態下での空吸引を行ってもよい。
【0013】
また、本発明の液体噴射装置において、前記制御手段は、前記キャッピング手段に液体が溜まった状態で電源が遮断された後の電源再投入と判断した場合に、前記空吸引を行うことが好ましい。なお、電源の遮断は、電源スイッチを操作したことによる電源遮断、電源プラグを抜くなどしたことによる電源遮断、停電による電源遮断を含む。
【0014】
これによれば、キャッピング手段に液体が溜まった状態で電源が遮断された後の電源再投入には、電源再投入後初めてキャッピング手段が開放される前に、事前にその内部に溜まった液体がキャッピング状態下での空吸引により吸引除去される。よって、その後、液体噴射装置が傾いた状態にあるなど、キャッピング手段が傾いた状態で開放されても、その開放時に液体が流れ出ることがない。また、キャッピング手段に液体が溜まった状態で電源が遮断された後の電源再投入と判断されたときに限り、キャッピング状態での空吸引が実施されるので、空吸引の実施に起因して電源再投入から液体噴射動作開始までの待ち時間が長くなることを極力少なく抑えられる。
【0015】
本発明の液体噴射装置において、前記制御手段は、前記キャッピング状態かつ前記弁手段の閉状態の下で前記吸引手段を吸引動作させて前記液体噴射ヘッドのノズルから液体を吸引排出させる液体吸引動作中に電源が遮断されたとの判断をもって、前記キャッピング手段に液体が溜まった状態で電源が遮断されたと判断することが好ましい。
【0016】
これによれば、キャッピング状態かつ弁手段の閉状態の下で吸引手段を吸引動作させて液体噴射ヘッドのノズルから液体を吸引排出させる液体吸引動作が行われている途中で電源が遮断されても、電源再投入後に事前にキャッピング状態下で空吸引が行われる。よって、電源再投入後に仮にキャッピング手段が傾いた状態で開放されても、液体が流れ出ることを回避できる。
【0017】
本発明の液体噴射装置において、前記制御手段は、前記ターゲットへの液体噴射動作中に、該液体噴射動作とは関係のない液滴を噴射するフラッシングにより前記キャッピング手段に液体が溜まった状態で電源が遮断されたとの判断をもって、前記キャッピング手段に液体が溜まった状態で電源が遮断されたと判断することが好ましい。
【0018】
これによれば、ターゲットへの液滴噴射動作中に、液体噴射動作とは関係のない液滴を噴射するフラッシングによりキャッピング手段に液体が溜まった状態で電源が遮断されたとしても、電源再投入後に事前にキャッピング状態下で空吸引が行われる。よって、電源再投入後に仮にキャッピング手段が傾いた状態で開放されても、液体が流れ出ることを回避できる。
【0019】
本発明の液体噴射装置において、前記制御手段は、前記キャッピング手段に液体が溜まることになる所定処理動作の実施に先立ち、又は前記キャッピング手段に液体が溜まった状態になったと判断したときに、フラグを立てるとともに、該フラグを立てた後における空吸引の実施後に前記フラグを降ろすフラグ制御を行い、電源再投入後に前記フラグが立っていれば、前記空吸引を行うことが好ましい。
【0020】
これによれば、キャッピング手段に液体が溜まることになる処理動作の実施に先立ち、又は前記キャッピング手段に液体が溜まった状態になったときに、フラグが立てられる。その後、空吸引の実施後にフラグは降ろされる。電源再投入後にフラグが立っていれば、キャッピング状態で空吸引が行われる。よって、キャッピング手段に液体が溜まっていることを検出するセンサ等の検出手段がなくても、必要なときに空吸引を実施できる。
【0021】
本発明の液体噴射装置は、前記液体噴射ヘッドから液体としてインクを噴射して前記ターゲットに対して印刷を行うモバイルプリンタであることが好ましい。
これによれば、モバイルプリンタ(携帯型記録装置)では傾斜状態や転倒状態で電源が投入されることがありうるが、そのような転倒状態等で電源再投入されても、キャッピング手段から液体が流れ出ることを回避できる。
【0022】
本発明の液体噴射装置において、前記液体噴射装置が重力方向に対して姿勢角が所定角
度以上傾斜した傾斜状態にあることを検出する傾斜検出手段を更に備え、前記制御手段は、前記電源投入後において前記傾斜検出手段により傾斜状態が検出された場合に、前記空吸引を行うことが好ましい。
【0023】
これによれば、電源投入後において傾斜検出手段により傾斜状態が検出された場合に、キャッピング状態で空吸引が行われる。よって、キャッピング手段を開放すると液体が流れ出る可能性がある傾斜状態に限り、キャッピング状態で空吸引が行われるので、空吸引の実施に起因して電源投入から液体噴射動作開始までの待ち時間が長くなることを極力少なく抑えられる。
【0024】
本発明の液体噴射装置において、前記液体噴射ヘッドのノズル開口面が重力方向に対して傾斜した姿勢で液体噴射動作が行われる液体噴射装置であって、前記キャッピング手段が前記ノズル開口面の傾斜に対応して傾斜していることが好ましい。
【0025】
これによれば、電源投入後、事前にキャッピング状態で空吸引が行われるので、キャッピング手段が傾斜した状態で開放されても、液体が流れ出ることがない。
本発明の液体噴射装置において、前記制御手段は、液体噴射装置の電源投入後の初期化動作において前記キャッピング手段を前記液体噴射ヘッドから該電源投入後初めて離間させるのに先立ち、前記空吸引を行うことが好ましい。
【0026】
これによれば、電源投入後に行われる初期化動作においてキャッピング手段が初めて開放されるに先立ち、キャッピング状態での空吸引が実施される。よって、初期化動作においてキャッピング手段が開放されるときに、仮に液体噴射装置が転倒状態等にあっても、キャッピング手段から液体が流れ出ることを回避できる。
【0027】
本発明は、ターゲットに液体を噴射する液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドをキャッピングするためのキャッピング手段と、キャッピング状態において前記液体噴射ヘッドと前記キャッピング手段との間の空間に吸引力を付与して前記液体噴射ヘッドから前記液体の吸引動作を行う吸引手段と、前記キャッピング状態において前記空間と大気との連通路を開閉可能な弁手段とを備えた液体噴射装置における液流出防止方法であって、電源投入後に前記キャッピング手段に液体が溜まった状態にあるか否かを判断する判断ステップと、前記キャッピング手段に前記液体が溜まった状態にあると判断した場合は、電源投入後、前記キャッピング手段を開放するのに先立ち、前記弁手段の開状態の下で前記吸引手段を吸引動作させて空吸引を行う空吸引ステップとを備えたことを要旨とする。これによれば、前記液体噴射装置の発明と同様の作用効果を得ることができる。
【0028】
本発明の液体噴射装置における液流出防止方法において、空吸引ステップは、電源投入後の初期化動作において前記キャッピング手段が初めて開放されるのに先立ち実施されることが好ましい。これによれば、電源投入後の初期化動作においてキャッピング手段が仮に傾いた状態で開放されても、事前に空吸引ステップが実施されるので、その開放時にキャッピング手段から液体が流れ出ることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
(第1実施形態)
以下、本発明をインクジェット式記録装置に具体化した第1実施形態を図1〜図7に従って説明する。
【0030】
図1は、外装ケースを取り外した状態のインクジェット式記録装置の斜視図を示す。図1に示すように、液体噴射装置としてのインクジェット式記録装置(以下、記録装置11と称す)は、例えば携帯可能なモバイルプリンタ(携帯型記録装置)である。記録装置1
1は、上側が開口する有底略四角箱状の本体ケース12を有していて、この本体ケース12の内側には図1における左右の側壁に両端が固定されたガイド軸13がキャリッジ14を挿通する状態に架設されている。ガイド軸13に沿って案内されるキャリッジ14の背面側には、無端状のタイミングベルト15が、本体ケース12の内側背面上において主走査方向Xに所定距離離れて配設された一対のプーリ16,17に巻き掛けられた状態で、かつキャリッジ14の移動経路に沿って延びた状態で回転可能に張設されている。キャリッジ14はその背面側でタイミングベルト15の所定箇所に固定されている。図1における右側に位置するプーリ16がキャリッジモータ18の駆動軸と連結され、キャリッジモータ18が正逆転駆動されることにより、タイミングベルト15が正逆に回転駆動されて、キャリッジ14が主走査方向Xに往復移動する構成となっている。
【0031】
キャリッジ14の下部には、液体としてのインクを噴射する多数のノズルが下面に開口する記録ヘッド19が設けられている。本体ケース12内において記録ヘッド19の下面となるノズル開口面19a(図2参照)と対向する位置には、記録ヘッド19(つまりノズル開口面19aと用紙Pとの間隔を規定するプラテン20が主走査方向Xに沿って延びるように設けられている。また、キャリッジ14の上部には、記録ヘッド19にインクを供給するブラック用のインクカートリッジ21、および例えばシアン、マゼンタ、イエローの3色のインクが個別に収容されたカラー用のインクカートリッジ22が着脱可能に装填されている。これら各インクカートリッジ21,22からインクが供給された記録ヘッド19は、インク色毎の各ノズル群から対応するインク色のインク滴を噴射(吐出)可能となっている。
【0032】
記録装置11の背面側には、多数の用紙Pを積重してセットできる給紙トレイ23と、給紙トレイ23上に積重された多数枚の用紙Pのうち最上位の1枚のみを分離して副走査方向Y下流側に給紙する自動給紙装置(ASF)24とが設けられている。
【0033】
また、本体ケース12の図1における右側下部には、紙送りモータ25が配設されている。紙送りモータ25が駆動されることにより、用紙の搬送経路上に記録ヘッド19を挟んだ前後の位置に設けられた紙送りローラ及び排紙ローラ(いずれも図示せず)が回転駆動されて、用紙Pが副走査方向Yに搬送される。そして、キャリッジ14を主走査方向Xに往復動させながら記録ヘッド19のノズルから用紙Pにインクを吐出する動作と、用紙Pを副走査方向Yに所定の搬送量で搬送する動作とを交互に繰り返すことで、用紙Pに記録(印刷)が施される。なお、本実施形態では、紙送りモータ25が自動給紙装置24の駆動源としても利用される。
【0034】
主走査方向Xに延びるキャリッジ14の移動経路のうち印刷可能な最大サイズの用紙Pにほぼ対応する中央領域が印刷領域となっており、その移動経路のうち両端部分は印刷が行われない非印刷領域となっている。一端側(図1における右端側)の非印刷領域には、メンテナンス装置30(クリーニング装置)が配設されている。メンテナンス装置30はキャッピング装置31を備え、キャッピング装置31は記録ヘッド19が直上に移動した時にキャッピング手段を構成するキャップ32を上昇して、記録ヘッド19のノズル開口面19aをキャップ32で密着できるように構成されている。そしてキャッピング装置31に隣接した位置には、キャップ32の内部空間に吸引力を及ぼして負圧を与える吸引手段としての吸引ポンプ35が配置されている。本実施形態の吸引ポンプ35は、例えばチューブポンプにより構成されているが、吸引力を付与できればピストンポンプ、ダイヤフラムポンプ、ギヤポンプなど他のポンプでもよい。
【0035】
上側が開口する略四角箱状のキャップ32は、記録ヘッド19のノズル開口面19aと密着した際にキャップ32の内部空間に記録ヘッド19のノズルが位置することで、記録装置11が印刷を行わない休止期間中や、記録装置11の電源オフ中に、記録ヘッド19
をキャッピングしてノズル内のインクの増粘や固化を抑制する蓋体として機能(キャッピング機能)する。また、キャップ32は、記録ヘッド19を封止したキャッピング状態で、そのキャッピングされた封止空間に吸引ポンプ35からの吸引力が与えられたときに該封止空間を減圧させることで、記録ヘッド19のノズルからインクを強制的に吸引排出させるクリーニング手段の一部としても機能する。記録ヘッド19がキャップ32によりキャッピングされる際のキャリッジ位置が、キャリッジ14のホームポジションとなっている。
【0036】
さらにキャップ32は、キャリッジ14がホームポジション近傍の位置に移動して、記録ヘッド19から印刷とは関係のないインクを吐出してノズル内の増粘したインクや気泡などを廃棄する空吐出(以下、フラッシングと呼ぶ)が行われるときに、このフラッシングにより記録ヘッド19から吐出されたインク滴を受け止める受け皿としても機能する。
【0037】
また、キャップ32の印刷領域側に隣接する位置には、ゴム素材を短冊状に成形したワイパ33が上方に延出して配置されている。ワイパ33は、インク吸引動作終了後にキャリッジ14がホームポジションから印刷領域側へ移動する過程で、ノズル開口面19aを払拭できるように構成されている。ワイパ33は例えばインク吸引動作後のノズル開口面19aに付着したインクを掻き取るとともにノズル内のインクのメニスカスを整える機能を有する。また、吸引ポンプ35により吸引された廃インクは、プラテン20の下側に配置された廃液タンク36に排出されるように構成されている。
【0038】
次に、メンテナンス装置30の構成を図3に従って説明する。図3はメンテナンス装置の要部側断面図である。同図では、記録ヘッド19を封止したキャップ32と吸引ポンプ35とを示している。メンテナンス装置30は、キャッピング装置31と、インクチューブ37と、インクチューブ37の途中に設けられている吸引ポンプ35とを備える。キャッピング装置31は、キャップ32及びワイパ33を上下方向に移動させる昇降装置38(図4参照)を備える。
【0039】
図3に示すように、キャップ32は、キャップホルダ32aと、キャップホルダ32aの周縁部上端に固着されたエラストマ等の可撓性素材からなる四角枠形状のキャップ部材32bとから構成されている。キャップ32の底面から外側(下側)へ垂直に延出形成された排出管32cにはインクチューブ37の一端が接続され、インクチューブ37の他端は、廃液タンク36(図1参照)に接続されている。排出管32cと廃液タンク36との間には、インクチューブ37の一部が途中で巻回されて構成される吸引ポンプ35が配設されている。インクチューブ37は、シリコンゴム等の可撓性材料によって形成されている。
【0040】
キャップ32が昇降装置38により上昇し、キャップ部材32bが記録ヘッド19のノズル開口面19aに当接した図3に示すキャッピング状態では、ノズル開口面19aとキャップ32で囲まれた空間は、キャップ32とつながる部分(本実施形態では排出管32cと後述する連通管32e)を除いて密閉状態となる。また、キャップホルダ32a内には、シート状のインク吸収材32dが配置されている。このインク吸収材32dは、ノズル(図示しない)から吸引又は吐出されるインクを受け止めて、インクを一時保持する。そして、キャップ32によりノズル開口面19aが封止された状態では、キャップ32内の湿度を高く保ち、ノズル(図示しない)内のインクの乾燥を抑制する。
【0041】
吸引ポンプ35は、ドラム形状のハウジング40と、ハウジング40内に回転自在に取着された回転体41とを備えている。回転体41の一つの構成部品であるローラ駆動円盤42(ポンプホイール)には、一対のローラ43,44が回転自在の状態で取り付けられるとともに、ローラ43,44は円弧状のガイド溝42a,42bに沿って移動可能に構
成されている。インクチューブ37の一部は途中で、ハウジング40と回転体41との間に例えば1回転巻回された状態でハウジング40内に収容されている。吸引ポンプ35は、回転体41が図3に示す矢印の方向に回転すると、ローラ43,44がインクチューブ37を押し潰しながら回転し、インクチューブ37の一端側(キャップ32側)から空気やインク等の流体を吸引するとともに、その吸引された流体をインクチューブ37の他端側(廃液タンク36側)へ排出するポンピング動作を行う。
【0042】
また、キャップ32の底面には連通管32eが延出形成されており、連通管32eに一端部が接続されたチューブ50の他端部は、弁手段としてのバルブ51(大気開放弁)の管部51aに接続されている。バルブ51は例えば二位置切換弁(開閉弁)からなる。バルブ51は、外力Fを受けない図3(b)に示す状態においてはバネ52の付勢力によってキャップ32の内部を大気に開放させる開位置に配置される。一方、バルブ51は、図3(a)に示すように、バネ52の付勢力に抗する外力Fを受けると、キャップ32内と大気との連通を遮断する閉位置に配置されるようになっている。
【0043】
図3(a)においては、キャップ32内にインクが溜まった状態で図示されている。インク吸引動作は、バルブ51が閉位置に配置されてキャップ32とノズル開口面19aとの間の封止空間に、吸引ポンプ35をポンピング動作させて負圧を与えて封止空間を減圧させることにより行われる。このインク吸引動作によってキャップ32内には、図3(a)に示すように、吸引されたインクが溜まる。このため、インク吸引動作終了後、図3(b)に示すように、バルブ51を開位置に切り換えて、キャップ32内を大気に開放した状態で、吸引ポンプ35をポンピング動作させることで、記録ヘッド19からインクを吸引せずにキャップ32内の残留インクを除去する空吸引が行われる。なお、本実施形態では、キャッピング状態のままバルブ51を開弁させて行う空吸引を、バルブ開吸引と呼ぶ場合がある。
【0044】
ここで、吸引ポンプ35の構成及び動作を説明する。図2は吸引ポンプの構成及び動作を示す側面図である。図2(a)はローラがインクチューブを押し潰しながら回転するポンピング状態を示し、同図(b)はローラがインクチューブから退避したポンプレリーズ状態を示している。なお、図2では、ハウジング40は省略している。
【0045】
図2に示すように、吸引ポンプ35は、ハウジング40(図3参照)内に回転自在に取着された回転体41を備えている。回転体41は、中心軸45と、その中心軸45の一端に形成された基端板46と、中心軸45の中程の位置に形成されたローラ駆動円盤42を備えている。基端板46とローラ駆動円盤42の間には一対のローラ43,44が回転自在の状態で取り付けられている。これらローラ43,44とハウジング40の円形凹型の内周面の間にはインクチューブ37が引き回されている。
【0046】
ローラ駆動円盤42の他端面はポンプ歯車(図示せず)の一端面に対峙している。これらの双方の面には円周方向の一箇所の位置に係合突起(図示せず)がそれぞれ形成されており、360度回転すると、これらが係合してポンプ歯車と吸引ポンプ35の回転体41とが一体回転するようになっている。
【0047】
また、図2(a),(b)に示すように、ローラ駆動円盤42には、ローラ43,44の中心軸43a、44aをガイドする円弧状ガイド溝42a、42bが形成されている。吸引ポンプ35が図2(a)のように矢印方向(同図における時計方向)に回転すると、一対のローラ43,44は半径方向の外側に移動して、インクチューブ37を押し潰しながら公転する。これによりインク吸引動作(ポンピング動作)が行われる。逆に、図2(b)に矢印で示す逆方向(同図における反時計方向)に回転すると、一対のローラ43,44は半径方向の内方に退避するので、インクチューブ37が押し潰されていないレリー
ス状態となる。
【0048】
吸引ポンプ35のローラ駆動円盤42は、紙送りモータ25(図1,図4を参照)の駆動により回転する前記ポンプ歯車を介して伝達される回転力により回転する。紙送りモータ25が用紙Pを搬送する際の回転方向に正転駆動されると、吸引ポンプ35はレリース状態となり、紙送りモータ25が逆転駆動されると、吸引ポンプ35はポンピング動作する。
【0049】
図4は、記録装置の電気的構成を示すブロック図である。以下、記録装置11の電気的構成を図4に基づいて説明する。
図4に示すように、記録装置11はコントローラ60を備える。コントローラ60は、制御部61、ヘッド駆動回路62、モータ駆動回路63,64及び電源回路65を備える。制御部61は、例えばマイクロコンピュータにより構成され、CPU71、メモリ72、クリーニングタイマ73及びフラッシングタイマ74を備える。なお、各タイマ73,74は、例えばクロック回路からのクロック信号に基づき生成された所定周波数の入力パルスのパルス数を計数するカウンタにより構成されている。もちろん、各タイマ73,74に替え、ソフトウェアでタイマ機能を実現したソフトタイマを採用することもできる。
【0050】
メモリ72は、例えばROM及びRAMにより構成されており、ROMには図5〜図7にフローチャートで示すプログラムが記憶されている。また、ROMには、記録ヘッド19、キャリッジモータ18、紙送りモータ25を駆動制御する各種制御プログラム等が記憶されている。RAMには、CPU71の演算結果が一時的に記憶されたり、印刷データ及びそれを展開した展開データなどが一時的に記憶されたりする。
【0051】
CPU71は、ヘッド駆動回路62を介して記録ヘッド19に接続されている。CPU71は、記録ヘッド19にノズル毎に設けられている図示しない吐出駆動素子(例えば圧電振動素子、静電振動素子又は電気熱変換素子など)に対して、ホストコンピュータから受信した印刷データを展開して得られたビットマップデータに基づいてヘッド駆動回路62に吐出駆動信号を出力することにより、吐出駆動パルス(電圧パルス)を印加する。吐出駆動素子が例えば振動素子である場合、吐出駆動素子は、吐出駆動パルスが印加されることによりその電圧パルスに応じた振動をインク室に与えてインク室を膨張・圧縮させることにより、与えられた振動の強さに応じたサイズのインク滴がノズルから噴射される。
【0052】
一方、印刷実行中においては、不使用ノズルあるいは使用頻度の低いノズルにおいて、インクが増粘して吐出不良になることを防ぐため、印刷動作中に定期的に非印刷領域へ移動して全ノズルからインクを吐出するフラッシング(定期フラッシング)を行っている。なお、この定期フラッシングの他、例えば電源オン時、印刷開始時、印刷終了時などの所定のタイミングでフラッシングは実施される。
【0053】
本実施形態では、フラッシングはキャップ32内にインク滴を吐出することにより行われる。かかる構成の記録装置11においては、フラッシングによってキャップ32内に溜まったインクを廃液タンク36へ排出するために、非キャッピング状態(キャップ開放状態)の下で吸引動作を実施する空吸引が行われる。なお、フラッシングでインク滴が廃棄される場所としては、キャップ32の他、キャップ32に対してホームポジションと反対側の非記録領域となるプラテン20上の所定箇所に設けられた廃液孔を加えることもできる。なお、フラッシング時の廃液場所が両非印刷領域に二箇所ある場合、フラッシングタイマ74がタイムアップしたときにおけるキャリッジ14の進行方向先側となる非印刷領域の廃液箇所でフラッシングを実行するようになっている。
【0054】
また、CPU71は、モータ駆動回路63を介してキャリッジモータ18に接続され、
キャリッジモータ18を駆動制御するための駆動制御信号を出力する。また、CPU71は、モータ駆動回路64を介して紙送りモータ25に接続されており、モータ駆動回路64に駆動指令信号を出力することにより紙送りモータ25を駆動制御する。例えば紙送りモータ25を正転駆動させることにより、給紙ローラ、紙送りローラ、排紙ローラが回転駆動されて、用紙Pの給紙・紙送り・排紙が行われるとともに、このとき吸引ポンプ35はレリース状態になる。一方、紙送りモータ25を逆転駆動させることにより吸引ポンプ35のポンプピング動作が行われる。なお、吸引ポンプ35と用紙搬送駆動系との各駆動源を別々に設けることもできる。
【0055】
また、制御部61に内蔵されたクリーニングタイマ73及びフラッシングタイマ74は、予めインク吸引動作、フラッシング動作毎に設定された設定時間をそれぞれ計時する機能を備え、リセット時から設定時間を経過したときにその旨を制御部61に通知する。
【0056】
例えば印刷実行中に定期的にフラッシングを実行する時間間隔(設定時間)は、例えば5〜20秒の範囲内の所定値に設定され、CPU71は、印刷実行中にその設定時間が経過する度にその旨の通知をフラッシングタイマ74から受ける。フラッシングタイマ74からその旨の通知を受けると、CPU71は、キャリッジ14を非印刷領域のフラッシング位置に移動させてフラッシングを実行させる。
【0057】
例えばクリーニングタイマ73は、前回のインク吸引動作時からの経過時間を計時し、その経過時間が、インク吸引動作を実行すべき設定時間を超えると、その旨をCPU71に通知する。CPU71はクリーニングタイマ73からその旨の通知を受けると、設定時間を超えた時またはその後最初の電源投入時に、その超えた設定時間に対応する強さのインク吸引動作を実行させる。すなわち、設定時間は、例えば1日〜2週間の範囲内に複数の閾値として設定され、クリーニングタイマ73の計時時間がそのうちどの閾値を超えたかによってインク吸引動作の強さが異なる。また、図示しないクリーニングスイッチのオン操作によるオン信号を入力したときにも、CPU71はインク吸引動作を実行する。CPU71は、インク吸引動作を実行する場合、キャリッジ14をホームポジションに移動させた状態で、モータ駆動回路64に逆転駆動信号を送出し、紙送りモータ25を逆転駆動させて、吸引ポンプ35をポンピング動作させる。
【0058】
また、クリーニング動作は、CPU71が複数の工程を所定の順序で順次実行させることで実施される。本実施形態では、クリーニング動作は、本吸引処理(図5におけるS3)、バルブ開吸引処理(S4)、ワイピング処理(S7)、微量吸引処理(S9)、バルブ開吸引処理(S10)、ワイピング処理(S13)、フラッシング処理(S14)、空吸引処理(S15)からなり、シーケンスによってこの順番で実施される(図5参照)。CPU71は、クリーニング動作を構成する複数の段階のうちインク吸引動作中であることを判断するためにフラグを備えている。本実施形態では、クリーニング動作中であるか否かと、インク吸引中であるか否かの2つの動作状態を判断できるように、クリーニング動作中である旨のクリーニング動作中フラグと、インク吸引中である旨のインク吸引中フラグが用意されている。本実施形態において「インク吸引中」であるとは、「本吸引処理〜バルブ開吸引処理」と、「微量吸引処理〜バルブ開吸引処理」との2種類がある。すなわち、吸引処理(本吸引処理又は微量吸引処理)と、キャップ32内に溜まった残留インクを除去するために吸引処理後に実施されるバルブ開吸引処理(キャッピング状態でバルブ51の開状態の下で実施される空吸引)とが、それぞれインク吸引中の処理として判断される。フラグは、対応する処理工程の開始時から終了までセットされ、処理工程の終了時にリセットされる。また、定期フラッシングが、途中で空吸引が行われることなく所定回数以上実施されて、キャップ32が傾いた状態で開放されたとするとその内部のインクが流出する可能性がある程度にキャップ32内にインクが溜まった状態であることを判断するために、空吸引フラグが用意されている。本実施形態では、各フラグは、メモリ72
を構成する不揮発性メモリの所定記憶領域に記憶されるようになっている。
【0059】
制御部61には、入力系として、電源スイッチ76を備えた操作パネルと、キャリッジ14の移動位置に応じた検出信号(パルス信号)を出力するエンコーダ77とが接続されている。制御部61に接続された電源回路65は、電源コード80と接続されている。電源コード80の電源プラグ81がコンセント82(プラグソケット)に差し込まれることで、家庭用の交流電源83(例えば100V)から入力した交流電圧を所定の直流電圧に変換する。電源回路65は電圧値の異なる直流電圧を生成し、制御部61には制御系の直流電圧(例えば3〜6V)、ヘッド駆動回路62にはヘッド駆動系の直流電圧(例えば約10〜20V)、モータ駆動回路63,64にはモータ駆動系の直流電圧(例えば約30〜50V)をそれぞれ供給する。なお、電源スイッチ76が操作されたときにインク吸引動作中あるいはキャップ32が開放中であった場合、CPU71はキャップ32をキャッピング位置に移動させて記録ヘッド19をキャッピングした後、電源回路65の電源を遮断する指令を出す。よって、電源プラグ81がコンセント82から抜かれた電源遮断時や停電時を除けば、電源オフ状態において記録ヘッド19はキャッピング状態にある。
【0060】
エンコーダ77は、キャリッジ14の移動位置を例えば光学的に検知する機能を有している。このため、キャリッジ14の軌道に沿って多数の光学的なスリットが配置されたスリットテープ78が張設されている。そして、このスリットテープ78を有するエンコーダ77(リニアエンコーダ)は、キャリッジ14の走査にしたがって、前記各スリットを通過する光の断続数に応じた数のパルスをもつ検出信号(パルス信号)を出力する。CPU71は、エンコーダ77からの検出信号に含まれる位相の異なる2種類(A相、B相)のパルス信号に基づきキャリッジ14の移動方向を認識する。そして、CPU71は内部に備える図示しないカウンタに、前記光の断続数に応じたパルス数を、例えばキャリッジ往動時にインクリメント、キャリッジ復動時にデクリメントする方法で計数することにより、その得られた計数値に基づきキャリッジ14の原点位置(例えばホームポジション)からの移動位置を検出している。CPU71はその計数値に基づいてキャリッジ14の位置制御および速度制御を行う。すなわち、速度制御は、キャリッジ14の移動位置に応じた駆動信号をモータ駆動回路63に送出してキャリッジモータ18を駆動制御することで、行われる。また、制御部61は、エンコーダ77からの検出信号(パルス信号)を用いて、記録ヘッド19から吐出されるインク滴の吐出時期を規定する吐出タイミング信号を生成し、この信号をヘッド駆動回路62に制御信号の1つとして送出することにより、記録ヘッド19からインク滴が吐出される吐出タイミングを制御している。
【0061】
また、キャッピング装置31の昇降装置38は、本実施形態では例えば図4に示す構造を有するスライダ方式のものである。すなわち、昇降装置38は、フレーム90に傾斜した経路に沿ってスライド可能に支持されたスライダ91を備え、このスライダ91上にキャップ32及びワイパ33が支持されている。スライダ91の両側面から突設された二対のガイドピン92,93はフレーム90に形成された斜状案内孔90aに移動自在に係入されている。また、スライダ91は下方へ向かう方向へ引張りバネ94により付勢されている。スライダ91には、キャリッジ14からメンテナンス装置30側へ延出する係合部14aと係合可能な係合レバー91aが突設されており、キャリッジ14がホームポジションに戻る途中で係合部14aが係合レバー91aを主走査方向X(図4では右方向)に押すことにより、スライダ91は、ガイドピン92,93が斜状案内孔90aに沿って案内されることによりフレーム90に対して図4における右方へスライドしつつ上昇する。一方、キャリッジ14がホームポジションから印刷領域側へ移動して、係合部14aが係合レバー91aから離れると、スライダ91が引張りバネ94の付勢力により図4における左方へスライドしつつ下降する。このスライダ91の上昇・下降により、キャップ32はキャリッジ14がホームポジションに戻ると上昇し、ホームポジションから離れると下降する構成となっている。
【0062】
ここで、キャップ32に連通するバルブ51を開閉させる構成は適宜選択できる。図3で示したように、閉弁させるためにバルブ51に働く外力Fとしては、機械的な外力が挙げられる。例えばキャップ32はスライダ91の上面にバネ(図示せず)を介して上方へ付勢された状態で支持されている。キャップ32がノズル開口面19aに密接するキャッピング状態においては、キャップ32がノズル開口面19aに当接した位置からスライダ91がさらに上昇することにより、キャップ32を介して受ける反力によりバネ52が付勢力に抗して圧縮方向に押し付けられ、その押し付け力を外力Fとしてバルブ51は閉位置に切り換わる。そして、スライダ91がその位置から若干下降すると、キャップ32とノズル開口面19aとの密接状態は保持しつつ、キャップ32からの押付け力が若干弱まることで、バルブ51が開弁する構成となっている。
【0063】
また、バルブ51の開閉機構は、例えば特許文献1に記載されたものと同様の構成も採用できる。すなわち、バルブ51は例えばスライダ91に固定され、フレーム90にはキャップ32がキャッピング位置に上昇した状態において、バルブ51の大気開放口が開口するバルブ面に密接可能な弁板が、バネによりバルブ51に接近する側へ付勢された状態で取り付けられている。スライダ91が上昇しつつ図3、図4における右方向へスライドすると、バルブ51のバルブ面が弁板に密接して、大気開放口が閉鎖するように構成されている。この場合も、バルブ51が閉位置にある状態において、キャップ32が弁板から離間する方向へ少し移動すると、キャッピング状態を保持しつつバルブ51が開位置に切り換わる。
【0064】
さらにバルブ51を閉位置に切り換える外力Fは、バルブ51に備えられた電磁ソレノイドの電磁力でもよく、例えばバルブ51のソレノイドが励消磁駆動回路(図示せず)を介して制御部61と電気的に接続された構成でもよい。この場合、制御部61が励消磁駆動回路に対して励磁信号を出力することによりソレノイドが励磁されてバネ52(図3参照)の付勢力に抗してバルブ51が閉弁し、消磁信号を出力することによりソレノイドが消磁されてバルブ51がバネ52の付勢力により開弁する。さらに電磁力など電気的な力を用いる場合、電動アクチュエータの動力によりバルブ51を開閉させる構成でもよい。特にメンテナンス装置30がスライダ式の昇降装置38を備えるものではなく、電動モータなどの電動アクチュエータを駆動源(動力源)とする電動昇降方式である場合、電動アクチュエータの動力で動作する円筒カム等のカム機構を介してキャッピング状態下でバルブ51を開閉できる構成も採用できる。
【0065】
次に、以上のように構成されたインクジェット式の記録装置11の動作を説明する。
クリーニングタイマ73が設定時間を計時すると、その旨が制御部61のCPU71に通知される。CPU71は、その通知を受けると、メンテナンス装置30による記録ヘッド19のクリーニングを指令する。すなわち、まずキャリッジ14をホームポジションに移動させる。キャリッジ14がホームポジションまで移動すると、昇降装置38がキャップ32を上昇させ、キャップ32がノズル開口面19aに密接してノズルが封止される。このキャッピング後、バルブ51の閉弁状態の下で紙送りモータ25を逆転駆動させて、吸引ポンプ35がポンピング動作することによりキャップ32内に負圧が付与され、記録ヘッド19のノズルからインクが吸引される。吸引されたインクは、吸引ポンプ35を構成するインクチューブを介して廃液タンク36に排出される。
【0066】
このクリーニング動作は、CPU71が図5にフローチャートで示すクリーニング制御処理を実行することにより行われる。CPU71は、クリーニングタイマ73から設定時間を経過した旨の通知を受けたとき、図示しないクリーニングスイッチが押下された旨の信号を入力したときに、図5に示すクリーニング制御処理ルーチンを実行する。また、記録装置11に初めてインクカートリッジが装填されたときにはインクカートリッジから記
録ヘッド19のノズルまでのインク流路にインクを充填させるために充填クリーニングが行われる。さらにインクカートリッジ交換時には、インクカートリッジをキャリッジ14の供給針が供給口に挿し込まれた状態に装填する際に供給針から混入する気泡等をインク流路から除去するために交換クリーニングが行われる。これら充填クリーニング及び交換クリーニングは、通常のクリーニングと同様に、キャッピング状態でバルブ51の閉弁状態の下で吸引ポンプ35を駆動させて行われ、いずれもそのクリーニング動作中は記録ヘッド19のノズルから吸引排出されたインクがキャップ32内に溜まることになる。
【0067】
クリーニング動作開始に先立ち、まずステップS1では、クリーニング動作中フラグをセットする。次のステップS2では、インク吸引中フラグをセットする。
次のステップS3では、本吸引処理を実行する。すなわち、CPU71は、キャリッジ14がホームポジションに位置していなければ、キャリッジモータ18を駆動させてキャリッジ14をホームポジションへ移動させて、キャップ32を記録ヘッド19に対してキャッピングさせる。本実施形態では、キャリッジ14がホームポジションへ移動すれば昇降装置38によりキャップ32はキャッピング位置へ上昇する。そして、バルブ51が閉状態の下で、紙送りモータ25を逆転駆動させることにより吸引ポンプ35をポンピング動作させる。この本吸引処理において、記録ヘッド19とキャップ32との間の封止空間に吸引ポンプ35からの吸引力が及ぶことでその封止空間が減圧され、ノズルからインクが強制的に吸引排出される。吸引排出されたインクはキャップ32内に一時溜まるとともにキャップ32内から吸引ポンプ35を介して廃液タンク36へ排出される。インク吸引動作中においては例えば図3(a)に示すように、キャップ32内にインクが溜まる。
【0068】
次のステップS4では、バルブ開吸引処理を実行する。すなわち、CPU71は、バルブ51を閉位置から開位置へ切り換える。例えばCPU71はキャリッジモータ18を駆動制御してキャリッジ14をホームポジションから少量だけ印刷領域側へ移動させ、キャップ32を封止状態が保持される範囲において少し下降させる。この結果、バネ52の弾性付勢力に抗してバルブ51を閉位置に押圧していた図3(a)に示す外力Fが少し緩和され、バルブ51が開位置に切り換えられる。バルブ51が開位置に切り換えられることにより、キャップ32と記録ヘッド19の間の封止空間が大気に開放される。この大気開放状態の下で、CPU71は紙送りモータ25を再び逆転駆動させて吸引ポンプ35をポンピング動作させる。このバルブ開吸引処理によって、キャップ32内に溜まった残留インクが吸引ポンプ35を経由して廃液タンク36へ排出される。こうしてキャップ32内は残留インクがほとんどない状態となる。
【0069】
ステップS5では、インク吸引中フラグをリセットする。例えば、先のインク吸引中(本吸引中)に電源プラグ81がコンセント82から抜かれた電源遮断時あるいは停電時には、インク吸引動作が中断され、インク吸引中フラグはその中断時のセット状態に保持される。
【0070】
次のステップS6では、電源OFFされたか否かを判断する。つまり、CPU71は、電源スイッチ76がオフ操作されたときの信号の入力があったか否かを判断する。電源OFFされたと判断すればステップS17に進み、電源OFFされたと判断しなければステップS7に進む。電源OFFされた場合は、その後、ステップS17において、クリーニング強制終了処理を行った後、ステップS18において電源OFF処理を実施して、当該ルーチンを終了することになる。このように仮にインク吸引動作中に電源スイッチ76がオフ操作されても、現在進行中のインク吸引動作(本吸引処理)が終了するまで処理は継続されるので、バルブ開吸引処理が終了し、インク吸引中フラグがリセットされた状態で電源OFFされる。
【0071】
一方、ステップS6において電源OFFされたと判断しなかった場合、次のステップS
7において、ワイピング処理を実行する。すなわち、CPU71はキャリッジモータ18を駆動制御してキャリッジ14をホームポジションから印刷領域側へ所定量移動させる。このキャリッジ14の移動によりキャップ32が下降するとともにワイパ33によってノズル開口面19aが払拭される。なお、ワイパ33がノズル開口面19aを払拭する期間においては、スライダ91が移動途中で一定高さに保持され、ノズル開口面19aに対するワイパ33の払拭圧が一定に維持されるようになっている。
【0072】
次のステップS8では、インク吸引中フラグをセットする。次のステップS9では、微量吸引処理を実行する。微量吸引処理は、インク吸引量が本吸引処理に比べてかなり少ないことを除けば、基本的に本吸引処理と同様の手順で進められる。すなわち、微量吸引処理では、本吸引処理に比べ、吸引ポンプ35のポンピング駆動速度が低速度かつポンピング駆動時間が短時間である。
【0073】
次のステップS10では、バルブ開吸引処理を実行する。このバルブ開吸引処理は、ステップS4の処理と同様であるが、微量吸引でキャップ32内に排出されたインク量が微量であることから、吸引ポンプ35のポンピング駆動時間が相対的に短い。
【0074】
ステップS11では、インク吸引中フラグをリセットする。例えば、先のインク吸引中(微量吸引中)に電源プラグ81がコンセント82から抜かれた電源遮断時あるいは停電時には、インク吸引動作が中断され、インク吸引中フラグはその中断時のセット状態に保持される。
【0075】
そして、次のステップS12では、電源OFFされたか否かを判断する。この電源OFFの判断処理は、ステップS6と基本的に同じであり、電源スイッチ76がオフ操作されたか否かを判断する。電源OFFされたと判断すればステップS17に進み、電源OFFされたと判断しなければステップS13に進む。電源OFFされた場合は、その後、ステップS17において、クリーニング強制終了処理を行った後、ステップS18において電源OFF処理を実施して、当該ルーチンを終了する。このように仮にインク吸引動作途中に電源スイッチ76がオフ操作されても、現在進行中のインク吸引動作(微量吸引動作)が終了するまで処理は継続されるので、バルブ開吸引処理が終了し、インク吸引中フラグがリセットされた状態で電源OFFされる。
【0076】
一方、ステップS12で電源OFFされたと判断しなかった場合、次のステップS13において、ワイピング処理を実行する。このワイピング処理は基本的にステップS7と同様であるが、キャリッジ14はホームポジションより少し手前側(印刷領域側)のフラッシング位置まで戻す。
【0077】
次のステップS14では、フラッシング処理を実行する。すなわち、CPU71はヘッド駆動回路62を介して記録ヘッド19(詳しくは吐出駆動素子)に吐出駆動信号を出力して、記録ヘッド19の全ノズルからインク滴を吐出させる。フラッシング時はノズル開口面19aとキャップ32の底面(インク吸収材32dの上面)との距離が適切に保たれている。このため、距離が短いときに懸念されるキャップ32の底面で跳ね返ったインク滴のノズル開口面19aへの付着や、距離が長いときに懸念される噴霧状に吐出された微細なインク滴のキャップ32外への飛散が防止される。
【0078】
次のステップS15では、空吸引処理を実行する。前回のフラッシング処理終了時はキャップ32は開放状態のフラッシング位置にあるので、その開放された非キャッピング状態で吸引ポンプ35をポンピング動作させる。この結果、空吸引処理によりキャップ32内の残留インクは廃液タンク36側へ吸引除去される。この空吸引処理が終了すると、ステップS16において、クリーニング動作中フラグをリセットする。
【0079】
また、記録装置11の印刷実行中においては、フラッシングタイマ74が設定時間を計時する度に、CPU71へその旨を通知する。CPU71はフラッシングタイマ74から通知を受ける度に、図6に示すフラッシング処理ルーチンを実行する。以下、フラッシング処理について説明する。
【0080】
まずステップS21では、定期フラッシング処理を実行する。
次のステップS22では、前回の空吸引から定期フラッシング処理をA回以上実施したか否かを判断する。ここで、CPU71は図示しないカウンタにより定期フラッシング回数を計数しており、その計数値に基づいて前回の空吸引からの定期フラッシング回数がA回以上に達したか否かを判断する。ここで、「A回」とは、空吸引を行うべき設定回数「B回」よりも少ない値であり(つまりA<B)、記録装置11を傾斜又は転倒させた状態でキャップ32が開放されると、キャップ32内の残留インクが流れ出る虞があると判断される回数に少し余裕をみた分を差し引いた値に設定されている。
【0081】
次のステップS23では、空吸引フラグをセットする。すなわち、記録装置11が傾斜又は転倒させた状態でキャップ32が開放された場合に残留インクが流れ出る虞がある状態となったので、空吸引フラグをセットする。電源再投入時に空吸引フラグがセットされている場合は、電源再投入後、キャップ32が最初に開放される前にキャッピング状態で空吸引できるバルブ開吸引処理を行うべき旨を示す。
【0082】
次のステップS24では、前回の空吸引から定期フラッシング処理をB回以上実施したか否かを判断する。ここで、「B回」とは、空吸引を行うべき設定回数である。
次のステップS25では、印刷終了であるか否かを判断する。
【0083】
ステップS26では、空吸引処理を実行する。すなわち、印刷を終了すると、CPU71はキャリッジモータ18を駆動制御して、キャリッジ14をホームポジション手前の所定位置(例えばフラッシング位置)に移動させる。キャリッジ14が所定位置に配置されると、スライダ91が斜め上方へ移動することで上昇したキャップ32は記録ヘッド19から少量離間した所定位置(例えばフラッシング位置)に配置される。次にCPU71は、この非キャッピング状態の下で吸引ポンプ35をポンピング動作させて空吸引を行う。キャップ32を開放させた状態で吸引が行われると、印刷中にB回以上実施された定期フラッシングによってキャップ32内に溜まったインクが吸引除去される。このとき、開放されたキャップ32内は減圧されないので、ノズルからインクが吸引されることはない。
【0084】
次のステップS26では、空吸引フラグをリセットする。
以上より、印刷実行中においては、前回の空吸引実施時から定期フラッシングがA回以上実施された段階で、空吸引フラグがセットされ、さらにB回以上実施された後の印刷終了後に空吸引フラグはリセットされる。例えば空吸引フラグがセットされた後、空吸引が行われずキャップ32内にインクが溜まったまま、ユーザによる電源スイッチ76のオフ操作や電源プラグ81の引き抜きなどにより電源が遮断された場合、次回、電源再投入時まで空吸引フラグがセット状態に保持される。また、電源スイッチ76がオフ操作されたときは、ステップS17(図5)と同様の強制終了処理を行った後、電源OFF処理が行われる。ここで、強制終了処理には、キャリッジ14がホームポジションに位置しない非キャッピング状態の際、キャリッジ14をホームポジションに移動させてキャッピング状態とする処理が含まれる。よって、電源スイッチ76がオフ操作されたときは、次回、電源再投入される際、記録装置11はキャッピング状態にある。一方、電源プラグ81の引き抜きは、電源オフ状態と誤認したときなど印刷待機中に行われる場合が多いので、この場合も、次回、電源再投入される際、記録装置11はキャッピング状態にある。電源再投入時に非キャッピング状態にあることは、クリーニング動作のうちワイピングや空吸引な
ど非キャッピング状態で実施される一部の工程中、あるいは印刷動作中に、電源プラグ81が引き抜かれたときなど稀である。
【0085】
図7は、電源投入時にCPU71が実行する起動処理ルーチン(プログラム)を示すフローチャートである。以下、電源投入(電源再投入)時の処理について図7に従って説明する。記録装置11の電源が再投入されると、CPU71は図7に示す起動処理ルーチンを実行する。
【0086】
まずステップS31では、環境温度測定を実行する。CPU71は記録装置に備えられた図示しない温度センサの検出値を取得して環境温度測定を行う。
次のステップS32では、インク吸引中フラグがセットされているか否かを判断する。インク吸引中フラグがセットされていればステップS34に進み、リセットであればステップS33に進む。
【0087】
ステップS33では、空吸引フラグがセットされているか否かを判断する。空吸引フラグがセットされていればステップS34に進み、リセットであればステップS36に進む。
【0088】
ステップS34では、バルブ開吸引処理を実行する。このバルブ開吸引処理は、ステップS4,S10と同様の処理である。ここで、インク吸引中フラグと空吸引フラグのうちいずれか一方がセットされている場合、図3(a)に示すようにキャップ32内には傾けて開放すれば流れ出る程度以上のインクが残留している。図3(b)に示すように、バルブ51が開状態の下で吸引ポンプ35がポンピング動作することにより、キャップ32内の残留インクは吸引排出されてキャップ32内から除去される。バルブ開吸引処理を実行してキャップ32内の残留インクが除去された後、次のステップS35において、インク吸引中フラグ及び空吸引フラグを共にリセットする。
【0089】
次のステップS36では、初期化動作処理を実行する。すなわち、CPU71は、初期化動作処理として、例えばキャリッジ14のホームポジションシーク処理、紙送り系/給紙系のリセット処理、紙送り系のメジャメント処理、キャリッジ14のメジャメント処理を順次実行する。このうちキャリッジ14に係るホームポジションシーク処理及びメジャメント処理は、キャリッジ14を実際に走行させて行われる。そのため、処理開始に先立ちキャップ32は開放される。例えばユーザが、携帯プリンタである記録装置11を傾斜又は転倒させた状態で電源再投入して、キャップ32が傾斜又は転倒した状態で開放されたとしても、キャップ32内の残留インクは予め除去されているので、インクが流れ出ることはない。よって、キャップ32が傾斜等の状態で開放されたことに起因してキャップ32内の残留インクが飛散し、飛散したインクによって記録装置11内が汚染される事態が回避される。
【0090】
そしてステップS37では、電源ON時インクシステム処理を実行する。電源ON時インクシステム処理では、電源ON時に実施すべきクリーニング動作も行われる。例えば電源再投入時に、前回のクリーニング実施時からの経過時間を計時するクリーニングタイマ73の計時時間が、予め設定された複数の閾値で区分された複数の設定範囲のどれに属するかを判断し、その属する設定範囲に応じたレベル(強さ・時間)のクリーニング動作を実行する。
【0091】
以上、詳述したように本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)インク吸引中に電源遮断されたときでも、電源再投入時にバルブ開吸引(キャッピング状態での空吸引)を行う。よって、記録装置11の傾斜又は転倒状態で電源再投入されても、キャップ32開放時にキャップ32内に残留するインクが流れ出て記録装置1
1内を汚染する事態を解消できる。また、インク吸引中にインク吸引中フラグをセットし、インク吸引動作が終了するとインク吸引中フラグをリセットする。よって、電源再投入時にインク吸引中に電源が遮断されたことを正確に判断できる。
【0092】
(2)フラッシングでキャップ32内にインクが溜まった状態で電源遮断された場合も、電源再投入時にキャッピング状態で空吸引を行ってからキャップ32が開放されるので、この場合も、傾斜状態でキャップ32が開放されてもインクが流れ出ず、キャップ開放時に流出するインクの飛散による記録装置11内の汚染を回避できる。例えば20分以上印刷し続けたときには、定期フラッシングが約10秒毎に多数回実施されてキャップ32内にかなりの量のインクが溜まり、その状態で印刷中又は印刷後の空吸引中に電源遮断又は停電があった場合、電源再投入時までキャップ32内に残量インクが溜まったまま放置される。このとき、定期フラッシングが所定回数(B回)以上になった段階でセットされた空吸引フラグは、その後、空吸引動作を終了するまでリセットされないので、電源再投入時にキャップ32内に傾けて開放したときに流れ出る程度のインクが定期フラッシングにより溜まった状態にあることを正確に判断できる。
【0093】
(3)フラグの状態からキャップ32内の残留インクが存在するか否かを判断するので、例えばキャップ32内に残留インクを検出するセンサを設けなくて済む。
(4)初期化動作前にバルブ開吸引処理を実施しておくので、初期化動作に当たり仮に記録装置11が転倒する状態でキャップ32が開放されても、キャップ32内からインクが流出することがない。
【0094】
(5)本吸引処理(S3)や微量吸引処理(S9)が電源の遮断により中断された場合、特許文献1のようにその中断された吸引処理の続きから実施するのではなく、キャップ32内のインクを吸引除去する空吸引(バルブ開吸引)だけが実施される。よって、電源再投入から印刷開始までの待ち時間を短く抑えることができる。
【0095】
(第2実施形態)
第2実施形態は、傾斜センサで記録装置11の姿勢角を検出し、電源再投入時の姿勢角を、バルブ開吸引処理を実施すべきか否かを決める判断要素の一つとして採用する構成である。なお、図8に示す起動動作処理ルーチンの内容が前記第1実施形態と異なるのみで、他の構成及び制御等については前記第1実施形態と同様である。記録装置11内には、傾斜検出手段としての傾斜角センサ98(図1に仮想線で示す)が設けられている。CPU71は傾斜角センサ98から入力する検出値に基づいて、記録装置11の姿勢角を認識することが可能になっている。
【0096】
記録装置11の電源遮断後、電源再投入されると、CPU71は図8の起動処理ルーチンを実行する。ステップS41〜S43の各処理は、第1実施形態における図7のS31〜S33の各処理に同じである。すなわち、CPU71は、環境温度測定、インク吸引中フラグセット判断、空吸引フラグセット判断を行う。S42及びS43の判断処理によって、インク吸引中フラグと空吸引フラグのうちいずれか一方がセット状態であれば、ステップS44に進み、両フラグが共にリセット状態であればステップS47に進む。
【0097】
ステップS44では、姿勢角がθ以上であるか否かを判断する。ここで、角度θは、キャップ32を傾斜して開放させた場合に、内部の残留インクが流れ出る虞のある記録装置11の傾斜角よりも少し小さめの所定角度に設定されている。よって、姿勢角がθ未満であればキャップ32を開放したときに内部の残留インクが流れ出ることはない。姿勢角がθ以上であればステップS45に進み、θ未満であればステップS47に進む。すなわち、前記第1実施形態では、インク吸引中フラグと空吸引フラグとを見て、キャップ32内の残量インクが多いと判断されるときに、事前にキャッピング状態下で空吸引を行うこと
で、キャップ32の開放時における残留インクの流出を防止する構成であった。これに対し、本実施形態では、電源再投入時の記録装置11の姿勢角を取得し、記録装置11(つまりキャップ32)の姿勢角が、キャップ32を開放させても内部の残留インクが流出することのないθ未満である場合は、たとえ内部に残留インクが存在しても、初期化動作前にキャッピング状態下で空吸引(バルブ開吸引処理)は行わない。そして、記録装置11(つまりキャップ32)の姿勢角がθ以上であって、そのままキャップ32を開放させると内部の残留インクが流出する虞がある場合は、ステップS45に進んで、初期化動作前にキャッピング状態下で空吸引(バルブ開吸引処理)を行う。
【0098】
その後の処理であるステップS46〜S48は、前記第1実施形態と同様の処理である。すなわち、バルブ開吸引処理を終えると、インク吸引中フラグ及び空吸引フラグを共にリセットする(S6)。そして、キャッピング状態下で空吸引を事前に実施する場合もしない場合も、次のステップS47において初期化動作処理を実行し(S47)、初期化動作処理終了後にそれに続いて電源ON時インクシステム処理を実行する。姿勢角がθ未満であって、事前の空吸引処理が行われなかった場合でも、初期化動作処理後の電源ON時インクシステム処理の中で実施されるクリーニング動作中の空吸引によって、キャップ32内の残留インクは吸引除去される。
【0099】
以上より、この第2実施形態によれば、電源再投入時にたとえフラグがセットされていても、記録装置11が傾斜又は転倒した状態にあるときにだけ、初期化動作処理前の事前の空吸引(バルブ開吸引処理)を実施する。よって、姿勢角がθ未満でキャップ32を開放しても残留インクの流出の虞のないときには事前の空吸引処理(バルブ開吸引処理)が省略されるので、電源再投入時から印刷開始までの待ち時間を短縮できる。
【0100】
なお、実施の形態は、上記に限定されず、以下の構成も採用できる。
(変形例1)クリーニング動作途中に電源が遮断されたか否かを判断する方法は、フラグによる方法に限定されない。例えば吸引ポンプ35のチューブを押し潰すローラ43,44の位置を検出するセンサを備え、そのセンサが検出したローラ43,44の位置に応じて吸引処理中に電源が遮断されたことを判断する構成も採用できる。すなわち、図2(a)に示すポンピング動作状態では、ローラ43,44は半径方向外側に変位しており、一方、図2(b)に示すレリース状態では、ローラ43,44は半径方向内側に変位している。例えば吸引ポンプ35にはローラ43,44が、ポンピング駆動位置にあることを検出するセンサを設ける。電源再投入時にセンサが、ローラ43,44がポンピング駆動位置にあることを検出した場合は、電源遮断時にインク吸引動作が中断された可能性が高いので、キャップ32内の残留インクを除去すべくバルブ開吸引処理を実行する。一方、ローラ43,44がレリース位置にあることを検出すると、正常に電源が遮断されたことになるので、この場合はバルブ開吸引処理を実行せず、初期化動作処理を実行する。
(変形例2)また、キャップ32内の残留インクを検出する構成を採用することもできる。例えば導電率を計測する計測器(導電率計測式センサ)を、キャップ32内に所定量以上のインクが溜まったときにその溜まったインクに導電率計測式センサの検出部が触れる位置に設ける。詳しくは、正常に電源が遮断されたときであれば大気に触れるような位置とキャップの底面との間の位置を検出位置として導電率の変化を検出する。導電率計測式センサは、その検知部にインクが接触すると導電率が変化してインクの存在を検知できる構成となっている。導電率計測式センサがインクを検知した場合、キャップ32内に所定量以上のインクが残留していることになる。電源再投入時に導電率計測式センサからインクを検知した旨の信号をCPU71が入力すると、キャップ32内に所定量以上の残留インクが溜まっているので、CPU71は初期化処理に先立ちバルブ開吸引処理を実行する。一方、キャップ32内のインクが検知されないときは、バブル開吸引処理を実施することなく、初期化処理に進む。
(変形例3)前記実施形態では、電源再投入時にキャップ32内に残留インクが存在する
ことを、インク吸引動作中に電源遮断された場合と、定期フラッシングでキャップ32内にインクがある程度溜まった状態で電源遮断された場合との2つのケースに対応できる構成としたが、いずれか一方のみ対応する構成でもよい。例えば前者に対応する構成の場合は、インク吸引中に電源遮断された場合、その後の電源再投入時にキャップ32からのインクの飛散を防止できる。また、後者に対応する構成の場合は、印刷実行中に電源遮断された後の電源再投入時にキャップ32からのインクの飛散を防止できる。
【0101】
(変形例4)記録ヘッドが重力方向に対して斜めに傾き、その傾きに合わせてキャップが傾斜して設けられたプリンタにも適用できる。このような記録装置では、電源再投入時にキャップが傾斜した姿勢で開放されるが、予め残留インクがバルブ開吸引処理によって吸引除去されているので、インクの飛び散りは発生しない。
【0102】
(変形例5)電源ON時インクシステム処理のときに、前回の電源遮断時に中断されたインク吸引処理の続きを行ったり、インク吸引処理が中断されたことを考慮して通常より強力なインク吸引動作を行ったりしてもよい。この場合、特許文献1と同様の効果を得ることができる。
【0103】
(変形例6)電源再投入後のバルブ開吸引処理は、環境温度測定の前に実施してもよい。また、電源再投入後にキャップ32がはじめて開放される前でありさえすれば、初期化動作の一動作としてバルブ開吸引処理を実施してもよい。
【0104】
(変形例7)前記実施形態では、キャッピング方法として、キャップを移動させたが、例えば記録ヘッド(液体噴射ヘッド)側を移動させてキャッピングを行う構成でも構わない。例えばプラテンギャップ調整装置を備え、プラテンギャップ調整装置により記録ヘッドを下降(例えば最下降)させた状態において記録ヘッドがキャップによりキャッピングされる構成が挙げられる。
【0105】
(変形例8)前記実施形態では、液体噴射装置をインクジェット式記録装置に具体化したが、この限りではなく、インク以外の他の液体(機能材料の粒子が分散されている液状体を含む)を噴射する液体噴射装置に具体化することもできる。例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散または溶解のかたちで含む液状体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置であってもよい。そして、これらのうちいずれか一種の液体噴射装置に本発明を適用することができる。
【0106】
以下、前記実施形態および各変形例から把握される技術的思想を記載する。
(1)電源遮断によって中断された液体吸引動作をやり直すことはなくキャッピング状態下で空吸引を行うことを特徴とする液体噴射装置。
【0107】
(2)前記液体吸引動作は液体吸引処理と空吸引処理とを含み、電源遮断によって液体吸引処理は完了しているが空吸引が中断された場合も、電源再投入後にキャッピング状態で空吸引を行うことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【0108】
(3)前記液体噴射ヘッドがターゲットへの液体噴射動作の途中に間欠的に行うノズル保守のための液体噴射によって前記キャッピング手段に規定量を超える液体が残留する旨
の情報を記憶する記憶ステップと、電源遮断後の電源再投入時に前記情報を基に前記キャッピング手段に規定量を超える液体が残留するか否かを判断する判断ステップと、前記規定量を超える液体が残留すると判断した場合は、電源再投入後に前記キャッピング手段を最初に開放する前に、前記弁手段の開状態の下で前記吸引手段を駆動させて空吸引を行う空吸引ステップとを備えたことを特徴とする請求項10に記載の液体噴射装置における液漏れ防止方法。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】第1実施形態におけるインクジェット式記録装置の斜視図。
【図2】(a),(b)吸引ポンプの構成及び動作を示す側面図。
【図3】(a),(b)メンテナンス装置の要部側断面図。
【図4】記録装置の電気的構成を示すブロック図。
【図5】クリーニング制御処理を示すフローチャート。
【図6】定期フラッシング処理ルーチンを示すフローチャート。
【図7】起動処理ルーチンを示すフローチャート。
【図8】第2実施形態における起動処理ルーチンを示すフローチャート。
【符号の説明】
【0110】
11…液体噴射装置としての記録装置、12…本体ケース、14…キャリッジ、16…、18…キャリッジモータ、19…記録ヘッド、19a…ノズル開口面、21,22…インクカートリッジ、25…紙送りモータ、30…メンテナンス装置、31…キャッピング装置、32…キャッピング手段を構成するキャップ、33…ワイパ、35…吸引手段を構成する吸引ポンプ、36…廃液タンク、37…インクチューブ、38…キャッピング手段を構成する昇降装置、50…チューブ、51…バルブ(大気開放弁)、50…連通路としてのチューブ、60…コントローラ、61…制御手段としての制御部、62…ヘッド駆動回路、64…モータ駆動回路、71…制御手段を構成するCPU、72…メモリ、73…クリーニングタイマ、74…フラッシングタイマ、76…電源スイッチ、80…電源コード、81…電源プラグ、82…コンセント、83…交流電源、98…傾斜検出手段としての傾斜角センサ、P…用紙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットに液体を噴射する液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置であって、
前記液体噴射ヘッドをキャッピングするためのキャッピング手段と、
キャッピング状態において前記液体噴射ヘッドと前記キャッピング手段との間の空間に吸引力を付与して前記液体噴射ヘッドから前記液体の吸引動作を行う吸引手段と、
前記キャッピング状態において前記空間と大気との連通路を開閉可能な弁手段と、
液体噴射装置の電源投入後に前記キャッピング手段を前記液体噴射ヘッドから離間させるのに先立ち、前記弁手段を開弁させた大気開放状態の下で前記吸引手段を吸引動作させて前記空間に吸引力を付与する空吸引を行う制御手段と
を備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記キャッピング手段に液体が溜まった状態で電源が遮断された後の電源再投入と判断した場合に、前記空吸引を行うことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記キャッピング状態かつ前記弁手段の閉状態の下で前記吸引手段を吸引動作させて前記液体噴射ヘッドのノズルから液体を吸引排出させる液体吸引動作中に電源が遮断されたとの判断をもって、前記キャッピング手段に液体が溜まった状態で電源が遮断されたと判断することを特徴とする請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記ターゲットへの液体噴射動作中に、該液体噴射動作とは関係のない液滴を噴射するフラッシングにより前記キャッピング手段に液体が溜まった状態で電源が遮断されたとの判断をもって、前記キャッピング手段に液体が溜まった状態で電源が遮断されたと判断することを特徴とする請求項2又は3に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記キャッピング手段に液体が溜まることになる所定処理動作の実施に先立ち、又は前記キャッピング手段に液体が溜まった状態になったと判断したときに、フラグを立てるとともに、該フラグを立てた後における空吸引の実施後に前記フラグを降ろすフラグ制御を行い、電源再投入後に前記フラグが立っていれば、前記空吸引を行うことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
液体噴射装置は、前記液体噴射ヘッドから液体としてインクを噴射して前記ターゲットに対して印刷を行うモバイルプリンタであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項7】
前記液体噴射装置が重力方向に対して姿勢角が所定角度以上傾斜した傾斜状態にあることを検出する傾斜検出手段を更に備え、
前記制御手段は、前記電源投入後に前記傾斜検出手段により傾斜状態が検出された場合に、前記空吸引を行うことを特徴とする請求項6に記載の液体噴射装置。
【請求項8】
前記液体噴射ヘッドのノズル開口面が重力方向に対して傾斜した姿勢で液体噴射動作が行われる液体噴射装置であって、前記キャッピング手段が前記ノズル開口面の傾斜に対応して傾斜していることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項9】
前記制御手段は、液体噴射装置の電源投入後の初期化動作において前記キャッピング手段を前記液体噴射ヘッドから該電源投入後初めて離間させるのに先立ち、前記空吸引を行うことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項10】
ターゲットに液体を噴射する液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドをキャッピングするためのキャッピング手段と、キャッピング状態において前記液体噴射ヘッドと前記キャ
ッピング手段との間の空間に吸引力を付与して前記液体噴射ヘッドから前記液体の吸引動作を行う吸引手段と、前記キャッピング状態において前記空間と大気との連通路を開閉可能な弁手段とを備えた液体噴射装置における液流出防止方法であって、
電源投入後に前記キャッピング手段に液体が溜まった状態にあるか否かを判断する判断ステップと、
前記キャッピング手段に前記液体が溜まった状態にあると判断した場合は、電源投入後、前記キャッピング手段を開放するのに先立ち、前記弁手段の開状態の下で前記吸引手段を吸引動作させて空吸引を行う空吸引ステップと
を備えたことを特徴とする液体噴射装置における液流出防止方法。
【請求項11】
空吸引ステップは、電源投入後の初期化動作において前記キャッピング手段が初めて開放されるのに先立ち実施されることを特徴とする請求項10に記載の液体噴射装置における液流出防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−100397(P2008−100397A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−283416(P2006−283416)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】