説明

液体噴射装置

【課題】消費電力を低減する。
【解決手段】 複数種類の駆動パルスと、中間波形とを有する駆動信号COM1,COM2を生成する駆動信号生成部334と、駆動信号COM1,COM2の一部又は全部を選択して波形信号Wを生成し、当該波形信号を圧電振動子276に出力する駆動ユニットU1〜Unを備え、駆動信号生成部334は、複数種類の駆動パルスDP1〜DP3の各々は開始と終了とで電位が一致し、且つ、開始の電位を揃えて複数種類の駆動パルスDP1〜DP3の配置した場合と比較して、駆動信号COM1,COM2の振幅が小さくなるように複数種類の駆動パルスの開始の電位を相違させて駆動信号COM1,COM2を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動信号を選択して圧力発生素子に信号を供給する液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置の一つであるインクジェットプリンターは、圧電発生素子を電気信号で駆動して振動板を変位させ、複数のノズルからインク滴を吐出することで所定の用紙上に画像形成を行っているものがある。そして、吐出するインク滴の大きさなどによって階調を表現している。例えば、4値の階調を表現する場合には、インクの吐出無しの他、3種類の大きさのインク滴を吐出することになる。
【0003】
このように複数の階調を表現する場合、1回のインクの吐出に対応する期間に、複数の大きさのインク滴に各々対応した複数の駆動パルスを含む駆動信号を生成し、生成した駆動信号を選択することによって、所望の階調を表現するインク滴を吐出させる波形信号を発生する技術が知られている。
【0004】
微振動波形と3種類の駆動パルスで駆動信号を構成する場合、駆動信号COMは、例えば、図10に示すものとなる。この例では、駆動信号COMが、微振動パルスPa、第1駆動パルスPb、第2駆動パルスPb、及び第3駆動パルスPcで構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−299341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、各パルスは電位Vxから開始し、電位Vxで終了している。また、第1駆動パルスPbは、最小電位がVx−Vb2、最大電位がVx+Vb1であり、振幅がVbである。また、第2駆動パルスPcは、最小電位がVx−Vc2、最大電位がVx+Vc1であり、振幅がVcである。さらに、第3駆動パルスPdは、最小電位がVx−Vd2、最大電位がVx+Vd1であり、振幅がVdである。そして各パルスは電位Vxから開始し、電位Vxで終了している。そして、駆動信号COMの最小電位はVx−Vd2であり最大電位はVx+Vd2であり、振幅はVd2+Vb1となる。
【0007】
駆動信号COMを供給する回路の消費電力を削減する観点から、駆動信号COMの振幅Vd2+Vb1を小さくすることが望まれるが、「Vd2」は第3駆動パルスPdの下側ピーク波形の大きさを規定し、「Vb1」は第1駆動パルスPbの上側ピーク波形の大きさを規定する。これらは、所定量の液滴を吐出できるように定められたものであるから、これらの大きさを小さくすると所定量の液滴を吐出できなくなってしまうといった問題がある。
【0008】
また、駆動信号COMを選択するスイッチに供給する選択信号は少なくとも駆動信号COMと同程度の振幅が必要になる。このため、駆動信号COMの振幅が大きくなると、大振幅の選択信号によって不要輻射ノイズが大きくなり、さらにスイッチの耐圧を大きくする必要があるといった問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、所定量の液滴を吐出することができ、且つ駆動信号の振幅を低減した液体噴射装置を提供すること等を解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の液体噴射装置は、圧力発生素子とノズルとが設けられた吐出部を備え、前記圧力発生素子に波形信号を供給して液滴を前記ノズルから吐出させるものであって、複数種類の駆動パルスと、前記複数種類の駆動パルスの間を繋ぐ中間波形とを有する駆動信号を生成する駆動信号生成部と、前記駆動信号の一部又は全部を選択して前記波形信号を生成し当該波形信号を前記圧力発生素子に出力する選択部とを備え、 前記駆動信号生成部は、前記複数種類の駆動パルスの各々は開始と終了とで電位が一致し、且つ、開始の電位を揃えて前記複数種類の駆動パルスを配置した場合と比較して、前記駆動信号の振幅が小さくなるように前記複数の駆動パルスの開始の電位を相違させて前記駆動信号を生成する、ことを特徴とする。
この発明によれば、駆動信号発生部は、開始の電位が互いに相違する複数種類の駆動パルスを、複数種類の駆動パルスの開始の電位を揃えた場合と比較して、振幅が小さくなるように駆動信号を生成する。このため、駆動信号の振幅を低減することができるので、消費電力を削減できる。
【0011】
ここで、前記駆動信号生成部は、前記複数種類の駆動パルスの最小電位又は最大電位が一致するように前記駆動信号を生成することが好ましい。これによって、各駆動パルスに必要な振幅を確保しつつ、駆動信号の振幅を低減することができる。
【0012】
また、前記駆動信号生成部は、先頭の前記駆動パルスの前又は末尾の前記駆動パルスの後のうち少なくとも一方に微振動パルスを有する前記駆動信号を生成し、前記駆動パルスが前記圧力発生素子に供給されると、前記液滴が前記ノズルから吐出される一方、前記微振動パルス又は前記中間波形が前記圧力発生素子に供給されても、前記液滴が前記ノズルから吐出されないことが好ましい。この発明によれば、駆動信号に含まれる微振動パルスを選択することによって、液体の増粘を抑制することが可能となる。
【0013】
上述した液体噴射装置において、前記選択部は、吐出させるべき液滴の大きさに応じて、前記駆動信号の一部又は全部を選択するための選択信号を生成する選択信号生成部(例えば、実施形態のデコーダー271)と、 前記選択信号のレベルを変換するレベル変換部と、前記レベル変換部の出力信号に基づいて、前記駆動信号を選択して前記波形信号を出力する選択回路とを備える。駆動信号の振幅が大きくなると、選択回路の耐圧が大きくなり、また、駆動信号の振幅に応じた大きさの選択信号を選択回路に供給する必要がある。この発明によれば、駆動信号の振幅を低減できるから、選択回路の耐圧を小さくすることができる。また、レベル変換部から供給する選択信号の振幅を低減できるので、レベル変換部の消費電力を低減することができ、しかも、不要輻射ノイズを低減できる。
【0014】
上述した液体噴射装置において、前記駆動信号は、複数種類の駆動パルスのうち、吐出される液滴の量が最も小さい駆動パルスを他の駆動パルスと比較して時間的に後に配置することが好ましい。液滴を吐出した後、吐出部の内部の液体は振動し、時間が経過するに従って振幅が小さくなり静定する。吐出量が少ない場合、正確に液体を吐出させるには、液体が静定している必要がある。この発明によれば、吐出される液滴の量が最も小さい駆動パルスを他の駆動パルスと比較して時間的に後に配置するので、前回の吐出による液体の振動の影響を抑制することができ、正確に液体を吐出させることが可能となる。
【0015】
上述した液体噴射装置において、前記駆動信号生成部は、複数の前記駆動信号を生成し、 前記選択部は、複数の前記駆動信号の各々の一部又は全部を選択して前記波形信号を生成し当該波形信号を前記圧力発生素子に出力する、ことが好ましい。この場合、複数の駆動信号を用いるので、1回の吐出に必要な単位時間(実施形態の記録期間)を短くすること
ができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】カラーインクジェットプリンターの主要な機械的構成の概略を示す図である。
【図2】ピエゾ方式の記録ヘッドの構造を示す図である。
【図3】カラーインクジェットプリンターの主要な電気的構成を示すブロック図である。
【図4】記録ヘッドの電気的構成を示すブロック図である。
【図5】記録ヘッドの各部の波形を示すタイミングチャートである。
【図6】記録ヘッドの各部の波形を示すタイミングチャートである。
【図7】階調データと波形信号の関係を示す図である。
【図8】変形例に係る駆動信号の波形を示す波形図である。
【図9】変形例に係る記録ヘッドの電気的構成を示すブロック図である。
【図10】従来の駆動信号の波形を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<1.実施形態>
本発明の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態では、本発明の液体噴射装置をカラーインクジェットプリンターに適用した場合について説明する。
【0018】
図1(a)は、カラーインクジェットプリンターの主要な構成を示す略平面図であり、図1(b)は、インク滴を噴射する記録ヘッドのノズル面の一例を示す図である。図1(a)に示すように、カラーインクジェットプリンター100は、記録ヘッド200(図2参照)及びインクカートリッジ230(図2参照)を搭載した可動キャリッジ110が、キャリッジ軸111に沿った主走査方向で並進移動する。可動キャリッジ110は、駆動プーリー121、従動プーリー122、歯付ベルト123及びキャリッジモーター120によって駆動され、可動キャリッジ110に取り付けられたエンコーダー112によってキャリッジ軸111上のインクジェットヘッドの位置が検出される。エンコーダー112からの信号を受けたキャリッジモータードライバー331(図3参照)は、キャリッジモーター120を駆動して、可動キャリッジ110を加速→一定速度→減速→反転→加速→一定速度→減速→反転という往復運動させる。一定速度の区間が印刷領域に相当し、ケーブル124によって接続されたプリントコントローラー(図3参照)からの指示に基づいて、副走査方向に搬送される記録紙P上にインク滴を噴射することによって所望の文字や画像を記録する。
【0019】
また、カラーインクジェットプリンター100は、インク滴不吐出等の回復処理を実行するためのワイパー130とノズル面のキャッピングを行なうためのキャップ131とを備えている。
【0020】
図1(b)に示すように、記録ヘッド200のノズル面には、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(黒)ごとに、ノズル列が段をずらして配置される。Y(1)、Y(2)…Y(n)の副走査方向のノズルピッチは、dpiで表わされる印刷精度に応じて適宜設定される。
【0021】
図2は、本実施形態で用いられるピエゾ方式の記録ヘッド200の構造を示す図である。図2(a)は、積層アクチュエータを用いたピエゾ方式記録ヘッド200の構造を示している。積層アクチュエータ210は、積層圧電素子201と、外部電極(−)205a、内部電極(−)205b、外部電極(+)205c、内部電極(+)205dを備え、圧電材料と電極とが交互に積層されており、一端が固定され、他端が振動板203に固定されている。本実施形態において、積層アクチュエータ210は、図中の矢印で示す上下方向に伸び縮みするモードを利用している。積層アクチュエータ210は、積層されている分、大きな駆動力が発生するのが特徴である。積層アクチュエータ210に波形信号が与えられると、振動板203に変位が生じ、圧力室202内の圧力が変化してノズル220からインク滴が噴射される。インクは、インクカートリッジ230から供給され、リザーバー204に溜められる。
【0022】
図2(b)は、ユニモルフ型アクチュエータを用いたピエゾ方式記録ヘッド200aの構造を示している。ユニモルフ型アクチュエータ210aは、圧電材料206を上電極207aと下電極207bとで挟んだ簡単な構造のアクチュエータであるが、振動モードは、本図の上下方向に撓むモードを利用している。インクを噴射する原理は、図2(a)に示した積層アクチュエータ210を用いたピエゾ方式記録ヘッド200と同様である。
なお、上述した積層アクチュエータ210、及びユニモルフ型アクチュエータ210aは、後述する圧電振動子276に相当する。
【0023】
図3は、インクジェットプリンター100の主要部を概略的に示すブロック図である。本図においてインクジェットプリンター100は、給紙モーター140と、キャリッジモーター120と、記録ヘッド200と、これらを制御するプリントコントローラー300とを備えている。
【0024】
プリントコントローラー300は、ホストコンピューター500から入力された印刷データなどを受け取るインターフェース部310と、制御部320と、キャリッジモーター120を駆動制御するキャリッジモータードライバー331と、給紙モーター140を駆動制御する給紙モータードライバー332と、クロック信号CKを発生する発振回路333と、記録ヘッド200に出力する第1駆動信号COM1及び第2駆動信号COM2を発生する駆動信号生成部334と、インターフェース部331とを備えている。インターフェース部331は、給紙モーター140、キャリッジモーター120、及び記録ヘッド200との信号を入出力する。なお、ホストコンピューター500から供給される印刷データとしては、例えばキャラクタコード、グラフィック関数、及びイメージデータの少なくとも1つのデータを含んでもよい。
【0025】
制御部320は、印刷処理や各ノズル220の正常/異常を判定する処理などの各種処理を実行するCPU321と、ホストコンピューター500からインターフェース部310を介して入力される印刷データ等を一時的に格納するRAM323と、制御プログラム等を記憶したROM324とを備えている。なお、制御部320の各構成要素は、図示しないバスを介して電気的に接続されている。
RAM323は、受信バッファ、中間バッファ、出力バッファ及びワークメモリ(図示せず)等として利用される。受信バッファには、ホストコンピューター500からの印刷データが一時的に記憶される。中間バッファには、CPU321によって印刷データが中間コードに変換され、中間コードデータとして記憶される。出力バッファには、記録ヘッド200に送られる記録データが展開される。CPU321は、中間バッファから読み出した中間コードデータを解析し、ROM323内のフォントデータ及びグラフィック関数等を参照して中間コードデータをドット毎の記録データに展開する。また、ROM324は、制御部320によって実行される各種制御ルーチン、フォントデータ及びグラフィック関数等が記憶されている。
【0026】
駆動信号生成部334は、記録周期Tの第1駆動信号COM1及び第2駆動信号COM2を繰り返し発生する。記録周期Tは液滴を吐出する周期である。図4に示すように、第1駆動信号COM1は、前側微振動波形PS1と、ミドルドット駆動パルスDP2、中間波形PS2、及びスモールドット駆動パルスDP1を有する。ここで、スモールドット駆動パルスDP1は、スモールドットに対応する量の液滴(例えば、2.5pl)を吐出させるための駆動パルスであり、電位V1から開始して電位V1で終了する。ミドルドット駆動パルスDP2は、ミドルドットに対応する量の液滴(例えば、5pl)を吐出させるための駆動パルスであり、電位V2から開始して電位V2で終了する。
【0027】
前側微振動波形PS1は、インク室202(特に、ノズル220近辺)におけるインクの粘度の増加を抑制するための波形であり、前側微振動波形PS1が圧電振動子に印加されたとしても、液滴が吐出しないように設定されている。中間波形PS2は、ミドルドット駆動パルスDP2の終了の電位V2とスモールドット駆動パルスDP1の開始の電位V1とを緩やかに繋ぐ波形である。中間波形PS2は、前側微振動波形PS1と同様に圧電振動子に印加されたとしても、液滴が吐出しないように設定されている。
【0028】
第2駆動信号COM2は、前側微振動波形PS3、2個のラージドット駆動パルスDP3、及び後側微振動波形PS5を有する。ここで、ラージドット駆動パルスDP3は、ラージドットに対応する量の液滴(例えば、10pl)を吐出させるための駆動パルスであり、電位V3から開始して電位V3で終了する。また、前側微振動波形PS4及び後側微振動波形PS5は、圧電振動子に印加されたとしても、液滴が吐出しないように設定されている。
【0029】
本実施形態の記録データは、1ドットが3ビットの階調データによって構成される。こ
の階調データは、例えば、非記録(印字内微振動)を示す階調データ[000]と、スモールドットによる記録を示す階調データ[001]と、ミドルドットによる記録を示す階調データ[010]と、1個のラージドットによる記録を示す階調データ[011]と、2個のラージドット(スーパーラージドット)による記録を示す階調データ[100]から構成される。
従って、この構成では、各ドットを5階調で記録することができる。これら5種の記録階調に関し、単位面積当たりの着弾インク量は、スーパーラージドットの記録階調が最も多く、ラージドットの記録階調が2番目に多く、ミドルドットの記録階調が3番目に多く、スモールドットの記録階調が4番目に多い。
【0030】
また、制御部320は、インターフェース部311を介して、記録ヘッド200にラッチ信号LATや第1チャネル信号CH−A及び第2チャネル信号CH−Bを供給する。これらのラッチ信号LATやチャネル信号CH−A,CH−Bに含まれるラッチパルスやチャネルパルスは、駆動信号COM1,COM2を構成する複数の駆動パルスや波形、あるいはそれらの構成要素の供給開始タイミングを規定する。
【0031】
具体的には、図4に示すように、ラッチパルスLAT1は、記録期間Tの開始を規定する。また、前側微振動波形PS1は、期間T0、T11、及びT12の各要素から構成され、第1チャネル信号CH−Aにおける第1チャネルパルスCH11は期間T11の開始、第2チャネルパルスCH12は期間T12の開始を規定する。さらに、第3チャネルパルスCH13はミドルドット駆動パルスDP2の開始を規定し、第4チャネルパルスCH14は中間波形PS2の開始を規定し、第5チャネルパルスCH15はスモールドット駆動パルスDP1の開始を規定する。
【0032】
次に、前側微振動波形PS4は、期間T20及びT21の各要素から構成され、第2チャネル信号CH−Bにおける第1チャネルパルスCH21は、期間T21の開始を規定する。さらに、第2チャネルパルスCH22は期間T22から開始するラージドット駆動パルスDP3の開始を規定し、第3チャネルパルスCH23は期間T23から開始するラージドット駆動パルスDP3の開始を規定する。後側微振動波形PS5は、期間T24及びT25の各要素から構成され、第2チャネル信号CH−Bにおける第4チャネルパルスCH24は期間T24の開始を規定し、第5チャネルパルスCH25は期間T25の開始を規定する。
【0033】
次に、この記録ヘッド200の電気的構成について説明する。この記録ヘッド200は、図5に示すように、クロック信号CKが供給される第1乃至第4シフトレジスター241〜244とラッチ信号LATが供給される第1乃至第4ラッチ回路251〜254と、制御ロジック260、及びn個の駆動ユニットU1〜Unを備える。
駆動ユニットU1〜Unには、第1駆動信号COM1及び第2駆動信号COM2が供給される。駆動ユニットU1〜Unは、これらを適宜選択して圧電振動子276に印加すべき波形信号Wを生成している。第1〜第4シフトレジスター241〜244は直列に接続されており、クロック信号CKに同期して転送データDを順次シフトする。転送データDは、記録データSIと選択データSPとからなる。
【0034】
図6に転送データDの構造を示す。まず、記録データSIの構造について説明する。上述したように階調データは3ビットで表すことができる。ここで、n個の階調データDS1〜DSnの各々について、階調データを構成する各ビットをbi1,bi2,bi3(iは1からnまでの任意の自然数)とすれば、記録データSIは、b11,b21,…bn1,b12,b22,…bn2,b13,b23,…bn3の並びとなる。以下の説明では、[b11,b21,…bn1]を上位記録データSIa、[b12,b22,…bn2]を中位記録データSIb、[b13,b23,…bn3]を下位記録データSIcと称する。次に、選択データSPは、60ビットのデータである。この例では記録期間Tにおいて3n+60ビットの転送データDが生成され、これに同期して3n+60個のクロック信号CKが記録ヘッド200に供給される。
【0035】
従って、ある記録期間Tにおいて3n+60ビットの転送データDが第4シフトレジスター244→第3シフトレジスター243→第2シフトレジスター242→第1シフトレジスター241の順に転送され、当該記録期間Tが終了するタイミングでは、第1ラッチ回路251に上位記録データSIa、第2ラッチ回路252に中位記録データSIb、第3ラッチ回路253に下位記録データSIc、第4ラッチ回路251に選択データSPが入力される。そして、次の記録周期Tが開始するタイミングで、ラッチ信号LATがアクティブとなると、記録データSI(SIa,SIb,SIc)及び選択データSPがラッチされる。
【0036】
上述したように選択データSPは60ビットのデータであり、図6に示すように先頭から12ビットごとに階調データ[000],[001],[010],[011],[100]に対応づけて第1駆動信号COM1及び第2駆動信号COM2の選択の関係を示している。より具体的には、第1駆動信号COM1の1記録周期Tを6個の期間T10〜T15に分割し、各期間ごとに第1駆動信号COM1を選択する場合を「1」、非選択の場合を「0」で表す。同様に第2駆動信号COM2の1記録周期Tを6個の期間T20〜T25に分割し、各期間ごとに第2駆動信号COM2を選択する場合を「1」、非選択の場合を「0」で表す。期間T10〜T15及び期間T20〜T25は、図4に示す通りである。
【0037】
階調データが[000]である場合、圧電振動子276に供給すべき波形信号Wは、図4に示すように期間T10及びT11において第1駆動信号COM1を選択し、期間T24及びT25において第2駆動信号COM2を選択したものとなる。この場合の選択データSPは、[110000] [000011]となる。そして、選択された波形信号Wは図7に示すように電位V1から電位V2を経て電位V3となる階段状に変化し、電位V3を維持し、その後、電位V3から電位V2を経て電位V1となる階段状に変化する微振動波形となる。すなわち、図4に示す前側微振動波形PS1の一部と後側微振動波形PS5とを合成した波形となる。この波形信号Wでは、液滴の吐出は行われず、インクの増粘が抑制される。
また、この例において、駆動信号COM1は、複数種類の駆動パルスDP1,DP2のうち、吐出される液滴の量が最も小さいスモールドット駆動パルスDP1を他の駆動パルスであるミドルドット駆動パルスDP2と比較して時間的に後に配置している。インク滴を吐出した後、圧力室の内部のインクは振動し、時間が経過するに従って振幅が小さくなり静定する。吐出量が少ない場合、正確にインクを吐出させるには、インクの振動が静定している必要がある。この例によれば、吐出されるインク滴の量が最も小さいスモールドット駆動パルスDP1を他の駆動パルスと比較して時間的に後に配置するので、前回の吐出によるインクの振動の影響を抑制することができ、正確にインクを吐出させることが可能となる。
【0038】
階調データが[001]である場合、圧電振動子276に供給すべき波形信号Wは、図4に示すように期間T20において第2駆動信号COM2を選択し、期間T15において第1駆動信号COM1を選択したものとなる。この場合の選択データSPは、[000001] [100000]となる。そして、選択された波形信号Wは図7に示すように電位V1を維持し、その後、駆動パルスDP1に変化する波形となる。すなわち、図4に示す前側微振動波形PS4の一部と駆動パルスDP1とを合成した波形となる。この波形信号Wによって、2.5plの液滴の吐出がなされる。
【0039】
階調データが[010]である場合、圧電振動子276に供給すべき波形信号Wは、図5に示すように期間T10及びT13において第1駆動信号COM1を選択し、期間T25において第2駆動信号COM2を選択したものとなる。この場合の選択データSPは、[101000] [000001]となる。そして、選択された波形信号Wは図7に示すように電位V1から電位V2に遷移して電位V2を維持し、その後、駆動パルスDP2となり、再び電位V2を維持し、最後に電位V2から電位V1に変化する波形となる。すなわち、図5に示す前側微振動波形PS1の一部と駆動パルスDP2と後側微振動波形PS5の一部とを合成した波形となる。この波形信号Wによって、5plの液滴の吐出がなされる。
【0040】
階調データが[011]である場合、圧電振動子に供給すべき信号は、図5に示すように期間T10及びT11において第1駆動信号COM1を選択し、期間T22、T24及びT25において第2駆動信号COM2を選択したものとなる。この場合の選択データSPは、[110000] [001011]となる。そして、選択された信号波形は図7に示すように電位V1から電位V2を経て電位V3となる階段状に変化し、その後、駆動パルスDP3となり、再び電位V3を維持し、最後に電位V3から電位V2を経て電位V1に階段状に変化する波形となる。すなわち、図5に示す前側微振動波形PS1の一部と駆動パルスDP3と後側微振動波形PS5とを合成した波形となる。この駆動波形によって、10plの液滴の吐出がなされる。
【0041】
階調データが[100]である場合、圧電振動子276に供給すべき波形信号Wは、図5に示すように期間T10及びT11において第1駆動信号COM1を選択し、期間T22、T23、T24及びT25において第2駆動信号COM2を選択したものとなる。この場合の選択データSPは、[110000] [001111]となる。そして、選択された波形信号Wは図7に示すように電位V1から電位V2を経て電位V3となる階段状に変化し、その後、駆動パルスDP3を2度繰り返し、最後に電位V3から電位V2を経て電位V1に階段状に変化する波形となる。すなわち、図5に示す前側微振動波形PS1の一部と2個の駆動パルスDP3と後側微振動波形PS5とを合成した波形となる。この波形信号Wによって、20plの液滴の吐出がなされる。
【0042】
説明を図4に戻す。駆動ユニットU1〜Unの各々は、第1選択信号SEL1及び第2選択信号SEL2を生成するデコーダー271と、第1選択信号SEL1の論理レベルをシフトすることにより、大振幅に変換する第1レベルシフター272、第2選択信号SEL2の論理レベルをシフトすることにより、大振幅に変換する第2レベルシフター273、第1レベルシフター272の出力信号に基づいて第1駆動信号COM1を選択して圧電振動子276に供給する第1選択回路274、第2レベルシフター273の出力信号に基づいて第2駆動信号COM2を選択して圧電振動子276に供給する第2選択回路275とを備える。
【0043】
デコーダー271は、記録データSIと制御ロジック260から供給される制御信号TYa及びTYb、並びに選択データSPとに基づいて第1選択信号SEL1及び第2選択信号SEL2を生成する。ここで、制御信号TYaはラッチ信号LATと第1チャネル信号CH−Aの論理和として与えられ、制御信号TYbはラッチ信号LATと第2チャネル信号CH−Bの論理和として与えられる(図4参照)。デコーダー271は、記録データSIの示す階調値に対応する第1選択信号SEL1及び第2選択信号SEL2を生成する。例えば、階調値が(011)であれば、第1選択信号SEL1は、期間T10及びT11でアクティブとなり、期間T12〜T15で非アクティブとなる。また、第2選択信号SEL2は、期間T22、T24及びT25でアクティブとなり、期間T20、T21、及びT23で非アクティブとなる。
【0044】
このように、第1駆動信号COM1及び第2駆動信号COM2の一部又は全部が、階調値に応じて選択されて波形信号Wが生成される。波形信号Wが圧電振動子276に印加されると、圧電振動子276が伸縮して所定量の液滴が吐出される。
【0045】
本実施形態によれば、図5に示すように、スモールドット駆動パルスDP1は電位V1から開始し、ミドルドット駆動パルスDP2は電位V2から開始し、ラージドット駆動パルスDP3は電位V3から開始する。ここで、電位V1,V2、V3は、各駆動パルスDP1〜DP3の最低電位が一致するように選ばれている。このように各駆動パルスDP1〜DP3の開始電位を設定すると、図10に示すように駆動パルスの開始電位を揃えた場合と比較して、第1駆動信号COM1及び第2駆動信号COM2の振幅を小さくすることができる。
これにより、第1駆動信号COM1及び第2駆動信号COM2を記録ヘッド200に出力する回路(インターフェース部311)の消費電力を低減することができる。また、第1選択回路274及び第2選択回路275に用いるスッチング素子(例えば、FET)の耐圧を低減することができる。
【0046】
第1選択回路274及び第2選択回路275には第1レベルシフター272及び第2レベルシフター273で電圧増幅した第1選択信号SEL1及び第2選択信号SEL2が供給されるが、第1駆動信号COM1及び第2駆動信号COM2の振幅が小さくなるので、第1選択信号SEL1及び第2選択信号SEL2の振幅を小さくできる。よって、第1レベルシフター272及び第2レベルシフター273の消費電力を低減するとともに、不要輻射ノイズを低減することができる。
【0047】
<2.変形例>
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に述べる各種の
変形が可能である。
(1)上述した実施形態では、各駆動パルスDP1〜DP3の最低電位を揃えることによって、第1駆動信号COM1及び第2駆動信号COM2の振幅を低減させたが、駆動パルスの開始電位を揃えた場合と比較して、第1駆動信号COM1及び第2駆動信号COM2の振幅を小さくできるのであれば、各駆動パルスの開始電位をどのように設定してもよい。例えば、各駆動パルスDP1〜DP3の最高電位を揃えることによって、第1駆動信号COM1及び第2駆動信号COM2の振幅を低減させてもよい。
【0048】
(2)上述した実施形態及び変型例では、2つの駆動信号COM1、COM2から圧電振動子276に印加する波形信号Wを生成したが、本発明はこれに限定されるものはなく、1つの駆動信号から波形信号を生成してもよいし、あるいは3以上の駆動信号から波形信号を生成してもよい。要は、駆動信号に含まれる複数の駆動パルスの開始電位を互いに異ならせることによって、複数の駆動パルスの開始電位を一致させた場合と比較して、駆動信号の振幅が小さくなればよい。なお、一又は複数の駆動信号に基づいて波形信号を生成する場合、それらの駆動信号の一部を選択して波形信号を生成してもよいし、あるいは、全部を選択して波形信号を生成してもよい。
【0049】
例えば、1つの駆動信号COMから波形信号Wを生成する場合には、図8に示すように、2個のラージドット駆動パルスDP3、ミドルドット駆動パルスDP2、及びスモールドット駆動パルスDP1を含む駆動信号COMを図3に示す駆動信号生成部334で生成し、これに同期して1つのチャネル信号CHを制御部320で生成すればよい。
また、記録ヘッドとして図9に示す構成の記録ヘッド200Aを採用すればよい。この場合、制御ロジック280は、ラッチ信号LATとチャネル信号CHの論理和を算出して得た制御信号TYと、選択データSPとをn個の駆動ユニットU1〜Unに供給する。
デコーダー271は、3ビットの記録データSI、制御信号TY及び選択データSPに基づいて第1選択信号SEL1を生成する。第1選択信号SEL1は駆動信号COMを選択するタイミングを示す。これにより、記録すべき階調に応じて駆動信号COMが選択され、波形信号Wが生成される。
また、この例では、吐出するインク滴が大きい順に駆動パルスDP1〜DP3を配置したので、少量のインク滴を吐出する場合に圧力室のインクの振動を静定させることができる。この結果、正確にインク滴を吐出させることができる。
【0050】
(3)上述した実施形態及び変型例では、圧力発生素子に関し、所謂縦振動モードの圧電振動子276を用いた場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。即ち、波形信号の供給によって電位を変化させ、波形信号の供給を遮断した場合には直前の電位を保持可能な素子であれば種々のものを用いることができる。例えば、所謂撓み振動モードの圧電振動子を用いてもよいし、静電アクチュエータを用いてもよい。
【0051】
(4)また、本発明は、プリンタに限らず、プロッタ、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置にも適用可能である。
また、本発明は、記録装置以外の液体噴射装置にも適用することができる。例えば、液
晶ディスプレー等のカラーフィルタを製造するディスプレー製造装置,有機EL(Electr
o Luminescence)ディスプレーやFED(面発光ディスプレー)等の電極を形成する電極製造装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置,極く少量の試料溶液を正確な量供給するマイクロピペットにも適用することができる。
そして、ディスプレー製造装置では、色材噴射ヘッドからR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を吐出する。また、電極製造装置では、電極材噴射ヘッドから液状の電極材料を吐出する。チップ製造装置では、生体有機物噴射ヘッドから生体有機物の溶液を吐出する。
(5)上述した実施形態では、インジェットプリンタの一例として、圧力室の収縮によってインクを吐出させる形態として、振動板203を変位させるものを説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、圧力室自体を収縮させるものであってもよい。そのような方式としては、いわゆるザール方式が該当する。
【符号の説明】
【0052】
100…カラーインクジェットプリンター、200…記録ヘッド、U1〜Un…駆動ユニット、271…デコーダー、272…第1レベルシフター(レベル変換部)、273…第2レベルシフター(レベル変換部)、274…第1選択回路、275…第2選択回路、276…圧電振動子、334…駆動信号生成部。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力発生素子とノズルとが設けられた吐出部を備え、前記圧力発生素子に波形信号を供給して液滴を前記ノズルから吐出させる液体噴射装置において、
複数種類の駆動パルスと、前記複数種類の駆動パルスの間を繋ぐ中間波形とを有する駆動信号を生成する駆動信号生成部と、
前記駆動信号の一部又は全部を選択して前記波形信号を生成し当該波形信号を前記圧力発生素子に出力する選択部とを備え、
前記駆動信号生成部は、前記複数種類の駆動パルスの各々は開始と終了とで電位が一致し、且つ、開始の電位を揃えて前記複数種類の駆動パルスを配置した場合と比較して、前記駆動信号の振幅が小さくなるように前記複数種類の駆動パルスの開始の電位を相違させて前記駆動信号を生成する、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記駆動信号生成部は、前記複数種類の駆動パルスの最小電位又は最大電位が一致するように前記駆動信号を生成することを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記駆動信号生成部は、先頭の前記駆動パルスの前又は末尾の前記駆動パルスの後のうち少なくとも一方に微振動パルスを有する前記駆動信号を生成し、
前記駆動パルスが前記圧力発生素子に供給されると、前記液滴が前記ノズルから吐出される一方、前記微振動パルス又は前記中間波形が前記圧力発生素子に供給されても、前記液滴が前記ノズルから吐出されない、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記選択部は、
吐出させるべき液滴の大きさに応じて、前記駆動信号の一部又は全部を選択するための選択信号を生成する選択信号生成部と、
前記選択信号のレベルを変換するレベル変換部と、
前記レベル変換部の出力信号に基づいて、前記駆動信号を選択して前記波形信号を出力する選択回路とを備える、
ことを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記駆動信号は、複数種類の駆動パルスのうち、吐出される液滴の量が最も小さい駆動パルスを他の駆動パルスと比較して時間的に後に配置したことを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記駆動信号生成部は、複数の前記駆動信号を生成し、
前記選択部は、複数の前記駆動信号の各々の一部又は全部を選択して前記波形信号を生成し当該波形信号を前記圧力発生素子に出力する、
ことを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか1項に記載の液体噴射装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−240507(P2011−240507A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111830(P2010−111830)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】