説明

液体噴射装置

【課題】装置内の温度上昇によるヘッドユニットの熱膨張に起因する不具合を防止することが可能な液体噴射装置を提供する。
【解決手段】液体噴射対象である記録媒体にインクを噴射する複数のノズル17が第1方向に一定の形成ピッチで列設されてなるノズル列を有する記録ヘッド16が、第1方向に沿ってキャリッジに複数取り付けられたヘッドユニットを備えたプリンターにおいて、隣り合う記録ヘッド同士において第1方向に隣り合うノズル同士の第1方向における相対位置が、同一ノズル群を構成する各ノズルの正規の形成ピッチに対して、印刷動作時の熱膨張による記録ヘッド同士の第1方向への相対的な変位量に対応するオフセット量δだけずれるように各記録ヘッドがキャリッジに取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばインクジェット式記録ヘッドを備えた液体噴射装置に関するものであり、特に、複数の液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は液体噴射ヘッドを備え、この液体噴射ヘッドから各種の液体を噴射する装置である。この液体噴射装置の代表的なものとして、例えば、液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)を備え、この記録ヘッドから噴射対象物としての記録紙等に対して液体状のインクを液滴として噴射・着弾させてドットを形成することで記録を行うインクジェット式記録装置(以下、単にプリンターという)等の画像記録装置を挙げることができる。この液体噴射装置は、近年においては、画像記録装置に限らず、例えばディスプレー製造装置等の各種の製造装置にも応用されている。
【0003】
上記プリンターは、紙や樹脂フィルムなどの記録媒体(液体噴射対象)の幅よりも短尺な記録ヘッド(所謂シリアルヘッド)と、この記録ヘッドをヘッド走査方向に往復移動させるヘッド移動機構と、記録媒体をヘッド走査方向に直交する方向に送り出して副走査を行う搬送機構等を備え、記録ヘッドの主走査でのインクの噴射と記録媒体の搬送(副走査)とを順次繰り返すことにより、記録媒体への画像等の記録を行うように構成されている。しかしながら、この方式では、記録ヘッドの走査速度に限界があるため、例えば、比較的大きなサイズの記録媒体の全面に画像を記録するような場合には、それだけ多くの時間を要するという問題があった。
【0004】
このため、近年では、ノズルを第1方向に複数列設してなるノズル群を有する記録ヘッドをキャリッジに対して第1方向に複数取り付け、これらの記録ヘッド群によって形成されるノズル群の第1方向における全長が記録媒体の最大記録幅に対応したヘッドユニットを、記録媒体に対して第1方向に移動させることなく当該第1方向に交差(理想的には直交する)する第2方向に相対的に移動させながらインクを噴射するように構成したものが提案されている(特許文献1)。この構成によれば、シリアルヘッドを用いる構成と比較して記録時間を短縮化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−137091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記のように複数の記録ヘッドを用いて記録を行うプリンターでは、環境温度の変化や記録ヘッド自体の発熱により、ヘッドユニットを構成している各記録ヘッドやキャリッジが熱膨張することにより、キャリッジに固定されている各記録ヘッド相互の間隔が変動する虞がある。そして、プリンター内部の温度が、キャリッジに各記録ヘッドを取り付ける工程における環境温度よりも上昇することにより、隣り合う記録ヘッドA,B同士の間隔が取り付け時の間隔よりも広がると、これに伴って、図6に示す模式図のように、各記録ヘッドのノズルも破線で示す位置から実線で示す位置に相対的に移動してしまう。これにより、記録媒体上においてインクが本来の着弾位置からずれてドットの疎密が生じ、これが記録媒体に記録された画像に筋となって現れるので、記録品質が低下する虞があった。特に、同色のインクを用いて各記録ヘッドによって画像を印刷する場合に上記のような問題が生じる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、装置内の温度上昇によるヘッドユニットの熱膨張に起因する不具合を防止することが可能な液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、液体噴射対象に液体を噴射する複数のノズルが第1方向に一定の形成ピッチで列設されてなるノズル群を有する液体噴射ヘッドが、前記第1方向に沿ってヘッド取付部材に複数取り付けられ、前記液体噴射対象に対し前記第1方向に交差する第2方向に相対的に移動しながら前記ノズルから液体を噴射するヘッドユニットを備えた液体噴射装置であって、
隣り合う液体噴射ヘッド同士において前記第1方向に隣り合う同一種類の液体に対応するノズル群のノズル同士の第1方向における相対位置が、同一ノズル群を構成する各ノズルの正規の形成ピッチに対して、液体噴射時の熱膨張による液体噴射ヘッド同士の前記第1方向への相対的な変位量に対応するオフセット量δだけずれるように各液体噴射ヘッドが前記ヘッド取付部材に取り付けられていることを特徴とする。
なお、上記変位量は、ヘッドユニットの製造工程においてヘッド取付部材に液体噴射ヘッドが取り付けられる作業が行われる際の環境温度から液体噴射動作において想定される装置内部の温度(規定温度)まで変化したときに生じる熱膨張によるヘッド同士の第1方向における相対的な変位量である。
また、オフセット量δは、上記変位量に基づいて定められた値であり、変位量と等しい値であっても良いし、変位量の誤差等を考慮して上記変位量から多少前後する値を採用しても良い。
【0009】
上記構成によれば、隣り合う液体噴射ヘッド同士において前記第1方向に隣り合うノズル同士の第1方向における相対位置が、同一ノズル群を構成する各ノズルの正規の形成ピッチに対して、液体噴射時の熱膨張による液体噴射ヘッド同士の第1方向への相対的な変位量に対応するオフセット量δだけずれるように各液体噴射ヘッドがヘッド取付部材に取り付けられているので、液体噴射動作時には、熱膨張によって液体噴射ヘッド間の第1方向に隣り合うノズル同士が、第1方向において正規の形成ピッチで並ぶこととなり、液体噴射対象に着弾するドットの間隔も一定に揃えることができる。これにより、ドットの疎密を低減することができ、例えば、液体噴射対象に形成された画像等に筋が生じることを防止することができる。
【0010】
上記構成において、装置内の温度が、熱膨張によって前記液体噴射ヘッド同士が前記第1方向にδだけ相対的に変位する温度になるまで、噴射動作の開始を待機する構成を採用することができる。
【0011】
これにより、液体噴射動作開始直後において、熱膨張によって液体噴射ヘッド間の第1方向に隣り合うノズル同士が、第1方向において正規の形成ピッチで並ぶので、ドットの着弾位置ずれを防止することができる。
【0012】
また、上記構成において、発熱手段を備え、
装置内の温度が、熱膨張によって前記液体噴射ヘッド同士が前記第1方向にδだけ相対的に変位する温度になるまで前記発熱手段によって加熱してから、噴射動作を開始する構成を採用することが望ましい。
【0013】
この構成によれば、ヘッド取付部材及び液体噴射ヘッドに熱膨張を意図的に生じさせて、可及的に早い段階で、液体噴射ヘッド間の配置ピッチを正規のピッチに揃えることができる。これにより、より迅速に印刷動作を開始することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)はプリンターの概略構成を説明する側面図、(b)はプリンターの概略構成を説明する平面図である。
【図2】ヘッドユニットをノズル形成面側から見た平面図である。
【図3】隣り合う記録ヘッド間のノズル列端部同士がオーバーラップする部分のノズルの配置関係を説明する模式図である。
【図4】隣り合う記録ヘッド間のノズル列端部同士がオーバーラップする部分のノズルの配置関係を説明する他の模式図である。
【図5】隣り合う記録ヘッド間のノズル列端部同士がオーバーラップする部分のノズルを用いて罫線の一部を形成する様子を説明する模式図である。
【図6】従来の構成において、隣り合う記録ヘッド間のノズル列端部同士がオーバーラップする部分のノズルを用いて罫線の一部を形成する様子を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。なお、本実施形態では、液体噴射装置の一形態である画像記録装置、詳しくは、液体噴射ヘッドとしてインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)複数を搭載したインクジェット式プリンター(以下、プリンターという)を例に挙げて説明する。
【0016】
図1は、本発明に係るプリンター1の概略構成を説明する図であり、図1(a)は、プリンター1の概略側面図、図1(b)はプリンター1の概略平面図である。本実施形態におけるプリンター1は、記録媒体(噴射対象)の一種である帯状の印刷テープ2に、後に切り抜いて用いられる単位画像、例えば、食品等の包装や瓶などの表面に貼付されるシール状のラベルを、インクジェット方式によって印刷するものである。なお、印刷テープ2は、剥離紙つきのロール紙(連続紙)である。そして、プリンター1は、印刷テープ2が連続する方向にラベルとなる画像が連続的に印刷する。
【0017】
本実施形態におけるプリンター1は、制御ユニット(プリンターコントローラー。図示せず。)、搬送ユニット3、駆動ユニット4、及びヘッドユニット5により概略構成されている。搬送ユニットは、印刷テープ2が連続する方向(本発明における第2方向。以下、搬送方向という。)に当該印刷テープ2を、上流側に配置された供給ロール7から下流側の巻き取りロール8側に搬送する(図1における黒い矢印で示す方向。)。この搬送ユニット3は、上下一対の繰り出しローラー9a,9bと、同じく上下一対の送り出しローラー10a,10bと、吸着テーブル11等から構成されている。繰り出しローラー9a,9bは、互いに印刷テープ2をニップした状態で図示しない駆動モーターによって回転して、供給ロール7から印刷テープ2を繰り出して印刷領域である吸着テーブル11側に送り込む。
【0018】
吸着テーブル11は、印刷動作中において印刷テープ2を、インクが着弾する印刷面とは反対側の裏面から支持する部材である。この吸着テーブル11は、その上面全体に多数の吸引口13が開設されており、印刷動作中において当該上面に供給された印刷テープ2を、図示しない吸引機構により下方から吸引口13を通じて吸引して上面に密着させるように構成されている。また、吸着テーブル11の内部には、プラテンヒーター12が配設されている。このプラテンヒーター12は、後述するように、印刷動作前にプリンター1の内部温度が特定の温度になるまでプリンター内部の雰囲気を加熱したり、印刷テープ2に印刷された画像等の乾燥を促進させるために当該印刷テープ2を加熱したりする。
【0019】
送り出しローラー10a,10bは、互いに印刷テープ2をニップした状態で図示しない駆動モーターによって回転して、印刷済みの印刷テープ2を印刷領域側から巻き取りロール8側に送り出す。印刷領域から送り出された印刷テープ2は、巻き取りロール8に巻き取られる。
【0020】
駆動ユニット4は、印刷テープ2の搬送方向に対応する第2方向(ヘッド走査方向)にヘッドユニット5を移動させるための移動機構である。駆動ユニット4は、搬送方向に沿って延設されたガイドレール14を、吸着テーブル11の第1方向両側にそれぞれ1本ずつ合計2本備えており、このガイドレール14に沿ってヘッドユニット5をヘッド走査方向に移動させることができるようになっている。
【0021】
ヘッドユニット5は、ガイドレール14に案内されつつ駆動ユニット4によりヘッド走査方向に移動しながら、吸着テーブル11上に配置された印刷テープ2に対してインクを噴射して着弾させることにより、ドットを形成し、このドットの集まりにより印刷テープ2上に画像等を印刷する。このヘッドユニット5は、ヘッド取付部材の一種であるキャリッジ15に複数(n個)の記録ヘッド16を取り付けて構成されている。
【0022】
図2は、ヘッドユニット5を底面側(ノズル形成面側)から見た平面図である。
同図に示すように、各記録ヘッド16(16(1)〜16(n))は、キャリッジ15に対し、隣り合う記録ヘッド同士がヘッド走査方向(図2における横方向)に互い違いに2段となるように、ヘッド走査方向に交差する第1方向(図2における縦方向)に沿って一定間隔に並べて配置されている。そして、ヘッドユニット5の一回のヘッド走査方向への移動により印刷テープ2の全幅に渡ってインクを吐出することができるように、即ち、各記録ヘッドのノズル17から成るノズル群の全長が、印刷テープ2の幅よりも大きくなるように各記録ヘッド16が配置されている。
【0023】
記録ヘッド16(1)〜16(n)は、ノズル17に連通する圧力室や、この圧力室内のインクに圧力変動を生じさせる圧力発生手段を備えており(例えば、圧電振動子や発熱素子など。何れも図示せず)、制御ユニットからの駆動信号を圧力発生手段に印加して当該圧力発生手段を駆動することにより、ノズル17からインク(本発明における液体の一種)を噴射して印刷テープ2に着弾させる印刷動作(液体噴射動作)を行うように構成されている。
【0024】
各記録ヘッド16のノズル形成面18には、インクを噴射するノズル17が第1方向に複数列設されてノズル列(ノズル群の一種。)が構成され、このノズル列がヘッド走査方向に複数、本実施形態においては4列形成されている。1つのノズル列は、例えば360dpiに対応するピッチ、即ち、70μmの間隔で開設された360個のノズル17(#1)〜17(#360)から成る。そして、各記録ヘッド16では、インクの種類毎、つまり、インクの色毎に1つのノズル列が対応している。本実施形態においては、イエローインク(Y)、マゼンタインク(M)、シアンインク(C)、及びブラックインク(K)の4色のインクに対応して、各記録ヘッド16には合計4列のノズル列がヘッド走査方向に並べて形成されている。
【0025】
図3は、図2における領域Aを拡大して示した平面図、図4は、図2における領域Bを拡大して示した平面図である。各図においては、記録ヘッド16(n)と記録ヘッド16(n−1)のノズルの配置関係、及び、記録ヘッド16(n−1)と記録ヘッド16(n−2)のノズルの配置関係を例に挙げて説明するが、他の隣り合う記録ヘッド同士の組み合わせにおいても以下に説明するように、ノズル列の端部同士がオーバーラップする配置関係となっている。
【0026】
図3に示すように、隣り合う記録ヘッド16の間では、ノズル列の端部の第1方向における位置がオーバーラップしている。本実施形態においては、隣り合う記録ヘッド16のうち、第1方向の一側(図2又は図3における上側)の記録ヘッド16(n−1)のノズル列において他側(図2又は図3における下側)の端部に位置する4つのノズル17(#357)、17(#358)、17(#359)、17(#360)の第1方向における配置領域に対し、他側の記録ヘッド16(n)のノズル列において一側の端部に位置する4つのノズル17(#1)、17(#2)、17(#3)、17(#4)の第1方向における配置領域がオーバーラップしている。このオーバーラップの領域では、記録ヘッド16(n−1)のノズル17(#357)に対して記録ヘッド16(n)のノズル17(#1)が対応関係にある。同様に、記録ヘッド16(n−1)のノズル17(#358)に対して記録ヘッド16(n)のノズル17(#2)が対応し、記録ヘッド16(n−1)のノズル17(#359)に対して記録ヘッド16(n)のノズル17(#3)が対応し、記録ヘッド16(n−1)のノズル17(#360)に対して記録ヘッド16(n)のノズル17(#4)が対応している。
【0027】
また、図4に示すように、記録ヘッド16(n−1)のノズル列の一側端部と、記録ヘッド16(n−2)のノズル列の他側端部とのオーバーラップ部の領域においても、同様に4組のノズル17が対応関係にある。即ち、記録ヘッド16(n−1)のノズル17(#1)に対して記録ヘッド16(n−2)のノズル17(#357)が対応し、記録ヘッド16(n−1)のノズル17(#2)に対して記録ヘッド16(n−2)のノズル17(#358)が対応し、記録ヘッド16(n−1)のノズル17(#3)に対して記録ヘッド16(n−2)のノズル17(#359)が対応し、記録ヘッド16(n−1)のノズル17(#4)に対して記録ヘッド16(n−2)のノズル17(#360)が対応している。
【0028】
なお、図3及び図4では、便宜上、左側の記録ヘッドにおける最も右側(印刷テープ搬送方向の最も上流側)に位置するノズル列に位置するノズル列(本実施形態においてはブラックインク(K)に対応するノズル列)と、右側の記録ヘッドにおける最も左側(印刷テープ搬送方向の最も下流側)に位置するノズル列(本実施形態においてはイエローインク(Y)に対応するノズル列)との対応関係を示しているが、実際には、同一種類(同一色)に対応するノズル列同士が上記の対応関係となっている。
また、隣り合う記録ヘッド間でノズル列の端部同士がオーバーラップする領域のノズルの数は例示したものには限られない。勿論、ノズル列の端部同士がオーバーラップしない構成を採用することもできる。
【0029】
ここで、従来では、隣り合う記録ヘッド同士において第1方向に隣り合うノズル同士の第1方向の配置ピッチは、同一ノズル列を構成する各ノズルの形成ピッチPで一定となっていた(隣り合う記録ヘッド間でノズル列の端部同士がオーバーラップする構成では、対応するノズル同士の中心の第1方向における位置が一致していた。)。つまり、各記録ヘッド16のノズル17全体が第1方向において規定のピッチPで配置されるように、各記録ヘッド16がキャリッジ15に取り付けられていた。しかしながら、印刷動作時にプリンター内部の温度が上昇することにより、キャリッジ15や記録ヘッド16が熱膨張することで、隣り合う記録ヘッドの第1方向の相対位置が互いに離れる方に変動してしまう場合がある。これにより、ノズル17の配置ピッチが正規のピッチPから変わってしまうため、印刷テープ2に着弾するドットに疎密が生じ、印刷された画像等の画質が低下する虞があった。
【0030】
これに対し、本発明に係るプリンター1では、隣り合う記録ヘッド間で第1方向に隣り合うノズル17同士(オフセットしていない構成において隣り合う関係となるノズル同士を意味する。例えば、図3の例では、記録ヘッド16(n−1)のノズル17(#357)と記録ヘッド16(n)のノズル17(#2)。)の距離が互いに近づく方向にδだけオフセットされるように各記録ヘッド16がキャリッジ15に配置される。このオフセット量δは、印刷動作時のキャリッジ15や記録ヘッド16の熱膨張によって隣り合う記録ヘッド16同士が第1方向へ相対的に変位する量に基づいて定められている。つまり、隣り合う記録ヘッド同士において第1方向に隣り合うノズル同士の第1方向における相対位置が、同一ノズル列を構成する各ノズルの正規の形成ピッチ(本実施形態では70μm)に対し、印刷動作時の熱膨張による記録ヘッド同士の第1方向への相対的な変位量に対応するオフセット量δだけずらされている。したがって、隣り合う記録ヘッド同士において第1方向に隣り合うノズル同士の第1方向の配置ピッチP′は、P−δで表される。
【0031】
ここで、記録ヘッド間の変位量は、ヘッドユニット5の製造工程においてキャリッジ15に各記録ヘッド16が取り付けられる作業が行われる際の環境温度(例えば、23℃)から印刷動作において想定されるプリンター1内部の温度(規定温度)までΔT℃だけ変化したときに生じる熱膨張による記録ヘッド同士の相対的な変位量である。具体的には、キャリッジ15の第1方向の全長をL、記録ヘッド16の配置ピッチをHPとし、キャリッジ15の線膨張係数をα(1/℃)、及び、記録ヘッド16の線膨張係数をβ(1/℃)とすると、変位量D=(α×L×ΔT)+(β×HP×ΔT)で表される。そして、オフセット量δの値は、この変位量Dを考慮して定められる。例えば、δの値が、印刷動作時の熱膨張による記録ヘッド同士の第1方向への相対的な変位量Dと等しい値であっても良いし(δ=D)、変位量の誤差や他の要因によるヘッド間の変位を考慮して上記変位量から多少前後する値を採用しても良い(δ=D+α)。本実施形態においては、δ=Dが採用される。
【0032】
次に、上記構成のプリンター1の動作について説明する。
印刷が開始される前のヘッドユニット5は、ホームポジションで待機している。そして、本実施形態では、プリンター1の内部の温度が規定温度(熱膨張により隣り合う記録ヘッド16同士が第1方向へ相対的にδだけ変位する温度)になるまで、プラテンヒーター12によって加熱が行われる。これにより、キャリッジ15及び記録ヘッド16に熱膨張を生じさせて、可及的に早い段階で、記録ヘッド間の配置ピッチを正規のピッチPに揃えることができる。これにより、より迅速に印刷動作を開始することが可能となる。印刷動作が開始されると、ヘッドユニット5は、駆動ユニット4によって印刷テープ2の搬送方向の下流側から上流側へガイドレール14に沿って走査される。この走査により、例えば、所定の色で第1方向に並ぶドット列から成る罫線を印刷し、この罫線をヘッド走査方向(第2方向)に連続して形成することにより、印刷テープ2の所定の範囲を塗りつぶす場合について説明する。
【0033】
図5は、隣り合う記録ヘッド間のブラックインク(K)に対応するノズル列端部同士がオーバーラップする部分の各ノズル17で罫線の一部を印刷する様子を説明する模式図である。同図に示すように、オーバーラップ部で罫線の一部を印刷する場合、まずヘッド走査方向の先方に位置する記録ヘッド16(この例では、16(n))の偶数番のノズル17(この例ではノズル17(#2)及びノズル17(#4))からインクを噴射して印刷テープ2上にドットを形成する。次に、ノズル列同士の第2方向の距離だけヘッドユニット5と印刷テープ2とが相対的に移動した時点で、ヘッド走査方向の後方に位置する記録ヘッド16(この例では、16(n−1))の奇数番のノズル17(この例ではノズル17(#357)及びノズル17(#359))からインクを噴射して印刷テープ2上にドットを形成する。なお、ヘッド走査方向の先方に位置する記録ヘッド16の奇数番のノズル17(この例ではノズル17(#1)及びノズル17(#3))からインクを噴射して印刷テープ2上にドットを形成した後、ヘッド走査方向の後方に位置する記録ヘッド16の偶数番のノズル17(この例ではノズル17(#358)及びノズル17(#360))からインクを噴射して印刷テープ2上にドットを形成する場合もある。
【0034】
このようにして、隣り合う記録ヘッドからインクがそれぞれ噴射されて印刷テープ2上に形成されたドットが第1方向に沿って並ぶ。これらのドット群によって第1方向に延びる罫線が印刷される。ここで、本発明に係るプリンター1では、隣り合う記録ヘッド同士において第1方向に隣り合うノズル同士の第1方向における相対位置が、同一ノズル列を構成する各ノズルの正規の形成ピッチPに対し、印刷動作時の熱膨張による記録ヘッド同士の第1方向への相対的な変位量に対応するオフセット量δだけずらされているので、印刷動作時には、前記熱膨張によって記録ヘッド間の第1方向に隣り合うノズル同士が、第1方向において正規のピッチPで並ぶこととなり、印刷テープ2に着弾するドットの間隔も一定に揃えることができる。これにより、ドットの疎密を低減することができ、印刷された画像等に筋が生じることを防止することができる。
【0035】
なお、記録ヘッド16の配置レイアウトや、記録ヘッド16の配置個数などについては、上記各実施形態において例示したものには限られず、任意の構成を採用することができる。
また、上記実施形態では、プラテンヒーター12によって、上記の規定温度になるまでプリンター内部の雰囲気を加熱する構成を例示したが、これには限れない。プラテンヒーター12を用いずに、プリンター内部の温度が規定温度になるまで、印刷動作を待機する構成を採用することもできる。
【0036】
そして、本発明は、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材噴射記録ヘッドイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等の他の液体噴射ヘッド、及び、これを備える液体噴射装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1…プリンター,2…印刷テープ,5…ヘッドユニット,12…プラテンヒーター,14…ガイドレール,15…キャリッジ,16…記録ヘッド,17…ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体噴射対象に液体を噴射する複数のノズルが第1方向に一定の形成ピッチで列設されてなるノズル群を有する液体噴射ヘッドが、前記第1方向に沿ってヘッド取付部材に複数取り付けられ、前記液体噴射対象に対し前記第1方向に交差する第2方向に相対的に移動しながら前記ノズルから液体を噴射するヘッドユニットを備えた液体噴射装置であって、
隣り合う液体噴射ヘッド同士において前記第1方向に隣り合うノズル同士の第1方向における相対位置が、同一ノズル群を構成する各ノズルの正規の形成ピッチに対して、液体噴射時の熱膨張による液体噴射ヘッド同士の前記第1方向への相対的な変位量に対応するオフセット量δだけずれるように各液体噴射ヘッドが前記ヘッド取付部材に取り付けられていることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
装置内の温度が、熱膨張によって前記液体噴射ヘッド同士が前記第1方向にδだけ相対的に変位する温度になるまで、噴射動作の開始を待機することを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
発熱手段を備え、
装置内の温度が、熱膨張によって前記液体噴射ヘッド同士が前記第1方向にδだけ相対的に変位する温度になるまで前記発熱手段によって加熱してから、噴射動作を開始することを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−62991(P2011−62991A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217772(P2009−217772)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】