説明

液体塗布装置およびその液体脱気方法

【課題】 簡素な装置構成であり、かつ装置の大型化を回避しながら、効率的な脱気処理を行うことが可能な脱気機構を備える液体塗布装置を提供する。
【解決手段】 インクジェット記録装置において、インク中の溶存酸素を、気体透過性膜を用いて減圧により液体中の溶存気体を除去することにより脱気する脱気フィルタ部25を備える。さらに、この脱気フィルタ部25にインクを流入させる流入配管20aに対して、当該流入配管20aを加熱する配管加熱部22が設けられている。これにより、インクの配管流通時に温度がほとんど低下することなく、高温状態のままで脱気フィルタ部25にインクを流入させることができる。そのため、簡素な構成で脱気効率の向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗布媒体に対して液体を塗布する場合に、液体の塗布状態を良好に制御するために液体中の溶存気体を脱気する液体塗布装置および液体脱気方法に関するものであり、中でもインクジェット方式の画像記録装置のように、被塗布媒体に対して液体を吐出する装置に好適に用いることができる液体塗布装置および液体脱気方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被塗布媒体に液体を塗布する液体塗布装置においては、一般に、当該液体中に溶け込んでいる気体(溶存気体)が塗布工程に影響を及ぼすことが知られている。具体的には、液体を被塗布媒体に対して吐出する工程で、溶存気体が気泡に成長することがあり、この気泡が吐出状態の変動要因となることがある。すなわち、溶存気体が気泡に成長すると、液体の吐出量、被塗布媒体への着弾位置等の吐出状態に影響を及ぼすことになる。その結果、被塗布媒体に対して液体を高精度かつ安定に塗布することが妨げられる場合が生ずる。
【0003】
それゆえ、液体塗布装置において液体を安定して吐出させるためには、液体を塗布(吐出)する液体塗布手段に供給される液体の溶存気体を除去することが重要となる。
【0004】
上記液体塗布装置の代表的な例としては、インクジェット方式の画像記録装置(インクジェット記録装置)を挙げることができる。このインクジェット記録装置では、インク(液体)に溶存気体が含まれていると、インクジェットの圧力室において、溶存気体の存在により発生した気泡がかみ込むおそれがある。この場合、インクの吐出が安定せず、最悪の場合、インクが吐出できない状態(不吐)が発生することもある。
【0005】
そこで、従来から、インクジェット記録装置、特に、インクの吐出量の変動を抑える必要のある用途の装置においては、インクジェットヘッド(以下、適宜、単にヘッドと略す)のインク供給経路の途中に、脱気装置を組み込むことが考えられている、このように脱気装置を組み込めば、溶存気体を除去したインクをヘッドに供給できることになる。
【0006】
ところで、インクジェットヘッドは、どのような手法でインクを吐出させる場合であっても、吐出に伴ってヘッドの温度が上昇する。これにより、ヘッドの特性の変動およびインクの粘度の低下が生じ、その結果、吐出特性が変化することになる。
【0007】
ここで、液体であるインクは、ヘッドを通過するときに、結果的に当該ヘッドを冷却することになる。つまり、インクは、ヘッドの温度を一定範囲に保持する冷媒の役割も有している。したがって、ヘッドの吐出特性を安定化させるべくヘッドの温度を一定範囲に保持するためには、インクの温度をほぼ一定に保つとともに、ヘッドへの流量を一定以上とすることが好ましい。
【0008】
また、脱気装置を備えるインクジェット記録装置においては、脱気後のインク(脱気インク)はヘッドから吐出され描画に用いられるが、その全てが描画に用いられることはほとんど無い。それゆえ、描画に用いられない脱気インクは循環して一旦リザーバ(インクタンク)に保管される。ところが、上記リザーバの多くは大気に対して開放されているため、一度脱気されたインクであっても保管中に気体を取り込んでしまう。その結果、吐出を安定して行うためには再度脱気工程が必要となる。
【0009】
このように、インクの吐出動作を安定に行うためには、インク温度を一定化し、かつ、ヘッドへの流量を一定以上するためにも、十分な量の脱気インクが必要である。しかしながら、脱気インクを保管すると再び気体を取り込んでしまう。それゆえ、十分な量の脱気インクを確保するためには、一定時間内におけるインクの脱気処理量を増加させることが必要となる。
【0010】
そこで、インクの脱気処理量を増加させるための技術が種々提案されている。例えば、(1)脱気装置の数を増やす、(2)脱気装置の処理効率を向上させる、等の技術を挙げることができる。
【0011】
まず、上記(1)の技術では、脱気装置の数を増やすことで、単位時間に脱気処理できるインクの量を増加させる。これは、一般に、脱気装置は、ある一定以上の脱気処理を行うための処理能力が限られているためである。したがって、インクの脱気処理量を増加させるためには、単位時間に処理できるインクの量を増加させることが必要となり、そのためには、脱気装置を並列あるいは直列に接続して用いることが考えられる。
【0012】
次に、上記(2)の技術としては、(2−1)脱気装置の構造を工夫する技術と、(2−2)脱気処理工程そのものの効率化を図る技術とを挙げることができる。
【0013】
脱気処理の代表的な技術としては、気体透過性を有する膜(気体透過性膜)に液体(インク)を通過させる方法が挙げられる。上記(2−1)の技術としては、例えば、この脱気方法を採用する脱気装置において、一つの脱気装置内のチャンバー内に2つ以上の脱気エレメントを付けてそれをシリーズに接続している技術を挙げることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0014】
また、上記(2−2)の技術としては、例えば、上記脱気方法を採用する脱気装置において、気体透過性膜を介してインクと対向する空間を大気圧以下に減圧するときに、気体透過性膜を加熱する技術を挙げることができる(例えば、特許文献2参照)。この技術では、上記気体透過性膜の温度を制御したり、気体透過性膜を含む脱気エレメントからインクジェットヘッドのインク流路チューブの一部を冷却したりすることで、脱気処理をより一層効率化することを図っている。
【0015】
あるいは、上記(2−2)の技術としては、例えば、上記脱気方法において、気体透過性膜にインクジェット記録用インクを通過させる際に、当該インクを加温してから気体透過性膜を通過させることで、短時間にインク中に溶存している気体を十分に取り除く技術も挙げることができる(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平11−28307公報(平成11年(1999)2月2日公開)
【特許文献2】特開2003−341083公報(平成15年(2003)12月3日公開)
【特許文献3】特開2003−253169公報(平成15年(2003)9月10日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上記従来の技術では、液体塗布装置(インクジェット記録装置)全体として見た場合に、実用性を低下させる諸問題が伴うという課題が生じる。
【0017】
具体的には、上記(1)や(2−1)の技術では、脱気装置が大きくなるため、液体塗布装置そのものも大型化する。その結果、近年その要求が年々大きくなっている装置の小型化には対応できない。また、脱気装置の構成が複雑化するおそれもあるため、脱気装置や液体塗布装置のコストの低減を妨げたり、メンテナンスの容易性を低下させたりする等の問題も生じる。
【0018】
さらに、上記(2−2)の技術のうち、気体透過性膜を加熱する技術では、その加熱機構が大掛かりになることが懸念され、またインク流路チューブの一部を冷却する機構を設けるためにこの部分も大掛かりになる。したがって、上記各技術と同様、装置の大型化を招くおそれがある。
【0019】
一方、上記(2−2)の技術のうち、インクを加温する技術では、具体的には、インクタンク部を温水により加温している。そのため、インクが脱気部(気体透過性膜)まで配管を流通する間にインク温度が低下してしまうおそれがある。したがって、脱気効率の面で改善の余地がある。
【0020】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡素な装置構成であり、かつ装置の大型化を回避しながら、効率的な脱気処理を行うことが可能な脱気方法と、これらを用いた液体塗布装置とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、脱気機構の直前の配管に加熱手段を設けるという簡素な構成で、装置の大型化を回避しつつ効率的な脱気処理が実現可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0022】
すなわち、本発明にかかる液体塗布装置は、上記課題を解決するために、被塗布媒体に塗布される液体中の溶存気体を、気体透過性膜を用いて除去する脱気機構を備える液体塗布装置において、上記気体透過性膜に直接液体を流入させる流入配管に対して、当該流入配管を加熱する配管加熱手段を設けることを特徴としている。
【0023】
上記液体塗布装置においては、上記脱気機構では、気体透過性膜を介して配管と対向する空間を真空状態に減圧することで液体中の溶存気体を除去することが好ましい。
【0024】
上記液体塗布装置においては、さらに、上記配管加熱手段の加熱動作が制御可能となっていることが好ましい。
【0025】
上記液体塗布装置においては、さらに、脱気機構を通過した上記液体を繰り返し上記脱気機構に流入可能とするように設けられる循環配管を備えていることが好ましい。
【0026】
上記液体塗布装置においては、上記循環配管には、流通する液体中の溶存気体の量を計測する溶存気体計測手段が設けられていることが好ましい。
【0027】
上記液体塗布装置においては、上記循環配管には、流通する液体の流量を測定する流量測定手段が設けられていることが好ましい。
【0028】
上記液体塗布装置においては、さらに、上記循環配管の配管経路中には、脱気途中の液体を保管する一時保管タンクが備えられていることが好ましい。
【0029】
上記液体塗布装置においては、さらに、脱気前後の液体を貯蔵する脱気前液体タンクおよび脱気後液体タンクを備えているとともに、これら脱気前液体タンクおよび上記脱気後液体タンクは、それぞれ切換弁手段を介して上記循環配管と接続されていることが好ましい。
【0030】
上記液体塗布装置においては、さらに、脱気後の上記液体を冷却する液体冷却手段を備えていることが好ましい。
【0031】
上記液体塗布装置においては、さらに、液体冷却手段の冷却動作が制御可能となっていることが好ましい。
【0032】
上記液体塗布装置においては、さらに、上記冷却手段として、脱気後の液体を貯蔵する脱気後液体タンクを冷却する液体タンク冷却手段が設けられることが好ましい。
【0033】
上記液体塗布装置においては、さらに、上記流入配管および上記脱気機構から液体を流出させる流出配管に対して圧力計測手段が設けられることが好ましい。
【0034】
上記液体塗布装置においては、上記圧力計測手段の計測結果に基づいて、脱気機構のメンテナンスの時機を判定することが好ましい。
【0035】
上記液体塗布装置においては、上記液体としてインクを挙げることができる。また、上記液体塗布装置としては、インクジェット方式の画像記録装置(インクジェット記録装置)を挙げることができる。
【0036】
本発明にかかる、当該気体透過性膜に液体を通過させて液体中の溶存気体を除去する液体脱気方法において、上記気体透過性膜に液体を流入させる流入配管を加熱することにより、当該液体を間接的に加熱することを特徴としている。
【0037】
上記液体脱気方法においては、上記液体を複数回脱気処理するように配管を形成するとともに、液体中の溶存気体の量が所定量を下回った場合に、脱気が完了したと判定することが好ましい。
【0038】
上記液体脱気方法においては、さらに、脱気後の液体を液体タンクに貯蔵するとともに、当該液体タンクを冷却することが好ましい。
【0039】
上記液体脱気方法においては、上記気体透過性膜における上記液体の流通方向の前後にて、流通する液体の圧力を計測することにより、気体透過性膜のメンテナンスの時機を判定することが好ましい。
【0040】
上記液体脱気方法においては、上記液体がインクジェット方式の画像記録装置に用いられるインクであることが好ましい。
【発明の効果】
【0041】
本発明にかかる液体塗布装置は、以上のように、脱気機構に直接つながる流入配管(直前の配管)に配管加熱手段を設けている。そのため、液体が脱気機構に流入して流出するまでの間(通液中)に液体の温度が低下することがほとんど無く、高温状態を維持した状態で脱気処理を行うことができる。それゆえ、簡素な構成で脱気効率をより向上させることができるという効果を奏する。
【0042】
また、脱気機構が、気体透過性膜を介して配管と対向する空間を真空状態に減圧する構成となっていれば、より一層効率的な脱気処理が可能になるという効果を奏する。
【0043】
また、配管加熱手段の加熱動作が制御可能となっていれば、流入配管中を流通する液体の温度を好ましい温度範囲に調節することができるため、より一層効率的な脱気処理が可能になるという効果を奏する。
【0044】
また、循環配管を備えておれば、液体を繰り返し脱気処理することが可能になるので、脱気処理の確実性を向上させることができるだけでなく、処理機能の優れた脱気装置をコンパクト化することもできるという効果を奏する。
【0045】
また、上記循環配管に溶存気体計測手段が設けられておれば、溶存気体の含有量を基準として脱気処理の終了を判断することができるため、より一層効率的な脱気処理が可能になるという効果を奏する。
【0046】
また、上記循環配管に流量測定手段が設けられておれば、液体の流量に基づく脱気処理や液体流通の制御が可能になるため、より一層効率的な脱気処理が可能になるという効果を奏する。
【0047】
また、一時保管タンクを備えることにより、循環配管による繰り返しの脱気処理を効率的に行うことができるという効果を奏する。
【0048】
また、循環配管と脱気前液体タンクおよび脱気後液体タンクとが切換弁手段により接続されていれば、脱気前液体タンクから循環配管への液体の移動、循環配管から液体タンクへの液体の移動をそれぞれ効率的かつ確実に行うことができる。そのため、より一層効率的な脱気処理が可能になるという効果を奏する。
【0049】
また、脱気後の液体を冷却する液体冷却手段を備えていれば、脱気処理により加温された液体を常温まで冷却することができる。そのため、液体を塗布する際に塗布精度が低下する等の問題を回避または抑制することが可能になり、脱気処理した液体を良好に塗布できるという効果を奏する。
【0050】
また、液体冷却手段の冷却動作が制御可能となっていれば、脱気後の液体を好ましい温度範囲に調節することができるため、脱気処理した液体をより一層良好に塗布できるという効果を奏する。
【0051】
また、脱気後液体タンクを液体タンク冷却手段により冷却することにより、液体冷却手段を簡素な構成にすることができるとともに、液体を確実に冷却することができるという効果を奏する。
【0052】
また、脱気機構の前後に圧力計測手段が設けられていることで、脱気機構前後の圧力の変動を確認することができる。そのため、気体透過性膜の劣化や寿命等を確認することができるという効果を奏する。
【0053】
また、圧力の測定結果により脱気機構のメンテナンスの時機を判断すれば、脱気機構(気体透過性膜)の状態を確認しながらメンテナンスの時機を判断することになるので、脱気機構のメンテナンスを効率的に行うことができるという効果を奏する。
【0054】
上記液体塗布装置においては、上記液体としてインクを用いることができ、具体的な装置の一例としてはインクジェット記録装置に適用することができる。それゆえ、インクジェット記録装置の大型化を回避しつつ、簡素な構成で確実にインクの脱気処理ができるとともに、脱気処理後のインクを良好に塗布することもできるという効果を奏する。
【0055】
本発明にかかる液体脱気方法は、以上のように、流入配管を加熱することにより液体を間接的に加熱している。そのため、液体が脱気機構に流入して流出するまでの間(通液中)に液体の温度が低下することがほとんど無く、高温状態を維持した状態で脱気処理を行うことができる。それゆえ、簡素な構成で脱気効率をより向上させることができるという効果を奏する。
【0056】
また、液体を複数回脱気処理するように配管を形成すれば、液体を繰り返し脱気処理することが可能になるので、脱気処理の確実性を向上させることができる。また、溶存気体の含有量を基準として脱気処理の終了を判断することができるため、より一層効率的な脱気処理が可能になるという効果を奏する。
【0057】
また、脱気後の液体タンクを冷却することにより、液体冷却手段を簡素な構成にすることができるとともに、液体を確実に冷却することができるという効果を奏する。
【0058】
また、脱気機構の前後で圧力を計測することにより、圧力の変動から気体透過性膜の劣化や寿命等を確認することができる。そのため。脱気機構のメンテナンスを効率的に行うことができるという効果を奏する。
【0059】
また、本発明は、インクジェット記録装置のインクの脱気に好適に用いることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0060】
本発明の一実施形態について図1ないし図5に基づいて説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0061】
本発明にかかる液体塗布装置は、被記録媒体に液体を塗布することで記録を行うものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、図1に模式的に示すようなインクジェット方式の画像記録装置(インクジェット記録装置)を挙げることができる。この場合、塗布する液体としてはインクが用いられる。
【0062】
図1に示すインクジェット記録装置は、メインインクタンク(脱気前液体タンク)11、循環脱気部(脱気装置)30、ローカルインクタンク(脱気後液体タンク)12、インクジェットヘッド13、およびこれら各手段や部材を接続し、インクを流通させる配管10a・10b・10cを備えている。メインインクタンク11には、第一加圧源14が設けられており、ローカルインクタンク12には、第二加圧源15および冷却ユニット(液体冷却手段・液体タンク冷却手段)16が設けられている。
【0063】
上記循環脱気部30は、サブインクタンク(一時保管タンク)21、配管加熱部(配管加熱手段)22、溶存酸素計(溶存気体計測手段)23、流量計(流量計測手段)24、脱気フィルタ部25、循環ポンプ26、上流圧力計(圧力計測手段)27a、下流圧力計(圧力計測手段)27b、真空ポンプ28、第三加圧源17を備えている。この循環脱気部30は、メインインクタンク11およびローカルインクタンク12と配管10を介して接続されているが、それぞれの接続部位には、三方弁(切換弁手段)31および32が設けられている。
【0064】
上記循環脱気部30を構成する手段または部材は循環配管20により接続されて環状に配置されている。循環配管20のうち、脱気フィルタ部25の直前に接続される配管を流入配管20aと称し、脱気フィルタ部25の直後に接続される配管を流出配管20bと称する。したがって、上記メインインクタンク11および上記ローカルインクタンク12は、それぞれ三方弁31・32を介して上記循環配管20と接続されていることになる。
【0065】
上記メインインクタンク11は、脱気前のインクを貯蔵するものであり、上記ローカルインクタンク12は、脱気後のインクを貯蔵するものである。また、第一加圧源14および第二加圧源15は、それぞれメインインクタンク11およびローカルインクタンク12の内部を加圧する加圧手段であり、これらインクタンクから配管10aまたは10cを介してインクを流出させるようになっている。これらインクタンクや加圧源の具体的な構成は特に限定されるものではなく、公知のインクタンクや加圧手段を好適に用いることができる。なお、用いる液体がインク以外の場合、当該液体の種類に応じて、タンクや加圧手段として好ましいものを選択して用いればよい。
【0066】
上記インクジェットヘッド13は、ローカルインクタンク12から配管10cを介して供給される脱気後のインクを吐出するものであり、インクジェット記録装置において公知のヘッド手段を用いることができる。なお、本発明では、インクを吐出する手段はインクジェットヘッドに特に限定されるものではなく、他の手段であってもよい。また、用いる液体がインク以外の場合、当該液体の種類に応じて好ましい吐出手段を選択して用いればよい。
【0067】
上記冷却ユニット16は、ローカルインクタンク13全体を冷却することによって、脱気後のインクを常温(室温)まで冷却する。これにより、後述するように、インクジェットヘッド13によるインクの吐出精度の低下を抑制または回避することができる。なお、冷却ユニット16の詳細については後述する。
【0068】
上記配管10aは、メインインクタンク11と循環脱気部30(循環配管20)とを接続しており、上記配管10bは循環脱気部30(循環配管20)とローカルインクタンク12とを接続しており、上記配管10cはローカルインクタンク12とインクジェットヘッド13とを接続している。これら配管10a〜10cの具体的な構成は特に限定されるものではなく、インクを流通させることができる公知のチューブ等を好適に用いることができる。なお、用いる液体がインク以外の場合には、当該液体の種類に応じて好ましい配管を選択して用いればよい。
【0069】
上記循環脱気部30は、循環配管20により、サブインクタンク21、溶存酸素計23、流量計24、配管加熱部(配管加熱手段)22、脱気フィルタ部(脱気手段、脱気機構、または脱気ユニット)25、循環ポンプ26がこの順で環状に接続されている構成となっている。図1に示す構成では、循環ポンプ26とサブインクタンク21との間に三方弁31が設けられており、流量計24と配管加熱部22との間に三方弁32が設けられている。したがって、三方弁31および32の間には、配管加熱部22、脱気フィルタ部25、循環ポンプ26がこの順で配置されていることになる。
【0070】
上記三方弁31は配管10aを介してメインインクタンク11に接続されており、上記三方弁32は配管10bを介してローカルインクタンク12に接続されている。したがって、インクは、三方弁31を介して循環配管20(循環脱気部30)に導入されることになるが、インクの循環方向は、図1で矢印により示すように、サブインクタンク21から三方弁32を介して循環ポンプ26まで循環して流通するようになっている。
【0071】
なお、本実施の形態では、メインインクタンク11と循環配管20、ローカルインクタンク12と循環配管20との接続部位には、上記三方弁31・32を用いているが、もちろん本発明はこれに限定されるものではなく、液体をそれぞれに移動(流出・流入)可能な切換弁手段であれば公知の他の構成も好適に用いることができる。
【0072】
上記サブインクタンク21は、配管10aを介してメインインクタンク11から供給された脱気前のインク、または循環配管20を介して循環ポンプ26から供給される脱気途中のインクを一時的に保管する一時保管タンクである。循環脱気部30は循環構造となっているため、このようなサブインクタンク21を設けて循環するインクを一時保管することで、インクを円滑に循環流通させることができる。
【0073】
サブインクタンク21の具体的な構成は特に限定されるものではなく、メインインクタンク11やローカルインクタンク12と同様に公知のインクタンクを用いることができる。また、図1に示すように、サブインクタンク21には、メインインクタンク11やローカルインクタンク12と同様に内部を加圧する第三加圧源17が設けられている。
【0074】
上記溶存酸素計23は、流通するインク中の溶存気体の量を計測する溶存気体計測手段である。インク中に溶け込む気体(溶存気体)は空気であるが、特に、インクに含まれる成分に大きな影響を与えるのは酸素であるため、本実施の形態では、インク中の溶存酸素を計測すればよい。この溶存酸素計23の具体的な構成は特に限定されるものではなく、公知の構成を用いることができる。また、溶け込む気体の種類によっては溶存酸素計23以外の計測手段を用いればよい。また、上記流量計24は、循環配管20中を循環流通するインクの流量を測定する液体流量計測手段であり、公知の流量計を好適に用いることができる。
【0075】
なお、上記溶存酸素計23および流量計24は、後述するように、循環制御部34に対して計測結果を出力するようになっていてもよい。
【0076】
配管加熱部22は、循環配管20のうち、脱気フィルタ部25に直接接続される流入配管20a、すなわち、インクの循環方向から見て脱気フィルタ部25の直前の上流側に設けられている配管を加熱するものである。このように脱気フィルタ部25の直前の流入配管20aを加熱することにより、内部のインクを効率的に加熱し、かつ、ほとんど冷却されることなく加熱温度を維持した状態で、インクを脱気フィルタ部25に導入することができる。また、加熱手段として簡素な構成を採用できるため、省スペース化を図ることもできる。
【0077】
この配管加熱部22の具体的な構成は特に限定されるものではなく、循環配管20内のインクを効率的に加熱できるものであればよいが、一例として、公知のフッ素樹脂配管加熱装置等を好ましく用いることができる。このような加熱装置を用いれば、循環流通するインクを迅速かつ確実に所望の温度まで加熱することができる。
【0078】
ここで、加熱後のインクそのものの温度は、脱気フィルタ部25における脱気処理を効率的に行うことができる温度であれば特に限定されるものではないが、30〜70℃の範囲内が好ましく、40〜50℃の範囲内がより好ましい。この温度範囲内であれば、どのような組成のインクであっても良好に脱気処理を行うことができる。なお、インク以外の液体については適宜好ましい温度範囲に加熱すればよい。
【0079】
上記脱気フィルタ部25は、インク中に含まれる溶存気体(溶存空気、特に溶存酸素)を除去するものであり、気体透過性膜を用いて減圧により液体中の溶存気体を除去する構成となっている。具体的には、例えば、真空チャンバー内に気体透過性膜を設け、減圧空間と通液空間とを隔てた構成を挙げることができる。このとき気体透過性膜は中空糸膜となっていることが好ましいが特に限定されるものではない。
【0080】
上記脱気フィルタ部25には、図1および図2に示すように、真空ポンプ28が接続されている。この真空ポンプ28は、気体透過性膜を介して流入配管20aと対向する空間(上記の例では真空チャンバー内)を真空状態に減圧することで、インクから溶存気体を除去するようになっている。上記真空ポンプ28の具体的な構成は特に限定されるものではなく、公知のポンプを用いることができる。
【0081】
上記気体透過性膜は、非多孔質で気体透過性を有する材質から形成されるものであることが好ましい。具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ(テトラフルオロエチレン)樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。なお、脱気する液体がインク以外の場合は、当該液体の種類に応じた気体透過性膜を選択して用いればよい。
【0082】
上記循環ポンプ26は、循環脱気部30内でインクを循環流通させるようにインクに圧力を加えて流通させるものである。この循環ポンプ26は、脱気フィルタ部25の直後に設けられることが好ましい。脱気フィルタ部25の直後の循環配管20(流出配管20b)では、脱気処理によりインクの流通の勢いが最も衰える箇所であるため、この直後に循環ポンプ26を設けることで、良好にインクを循環流通させることができる。循環ポンプ26の具体的な構成は特に限定されるものではなく、公知のポンプを用いることができる。
【0083】
上記循環配管20(流入配管20aおよび流出配管20bを含む)の具体的な構成は特に限定されるものではなく、前記配管10a〜10cと同様に、インクを流通させることができる公知のチューブ等を好適に用いることができる。なお、用いる液体がインク以外の場合には、当該液体の種類に応じて好ましい配管を選択して用いればよい。
【0084】
なお、本実施の形態では、流入配管20aおよび流出配管20bのそれぞれに上流圧力計27aおよび下流圧力計27bがそれぞれ設けられているが、これら圧力計の詳細については、循環脱気部全体の動作とともに説明する。
【0085】
このように、本発明にかかる液体塗布装置は、少なくとも、脱気機構(脱気フィルタ部25)の直前の配管(流入配管20a)を加熱する配管加熱部22を備える構成を有している。特許文献3等に示すように、インクを加温してから気体透過性膜を通過させることで、短時間に脱気処理ができるが、気体透過性膜に到達するまでの間にインクの温度が低下してしまうと効率的な脱気処理ができなくなる。特に、本実施の形態では、脱気機構が循環系(脱気脱気部30)に組み込まれているが、このような循環系ではインクが循環して流通を継続するため、インク温度の低下を効率的に抑制することは困難であった。
【0086】
これに対して、本発明では、気体透過性膜の直前で配管(流通配管20a)を加熱することにより、インクを間接的に加熱している。特に、循環系の場合、当該循環系に流入したインクは、脱気フィルタ部25の手前の循環配管20(流入配管20a)を通液中に加温される。そのため、高温状態のままでインクを脱気フィルタ部25に流入させることができる。これにより、インクをほとんど温度低下させること無く効率的な脱気処理を行うことができる上に、配管を加熱するので、加熱装置として簡素な構成のものを採用することができる。それゆえ、加熱装置を含む脱気装置全体や液体塗布装置全体の大型化を回避することが可能になり、装置のコンパクト化・スリム化や、製造コスト抑制等も図ることができる。
【0087】
ここで、本発明では、上記配管加熱部22は、加熱動作が制御可能となっていることが非常に好ましい。これにより、流入配管20aの温度を適切な温度範囲に調節することができる。そのため、循環流通しているインクの状態に応じた脱気処理が可能となり、脱気処理をより一層効率的に行うことができる。
【0088】
上記配管加熱部22の加熱動作を制御するための具体的な構成は特に限定されるものではないが、例えば、図2に示すように、温度計27cおよび脱気制御部29を備える構成を挙げることができる。この構成では、温度計27cは、流出配管20bに設けられておる。また、図2(および図3・図5)では、各種配管を実線で示し、各種制御信号の入出力を破線の矢印で示している。脱気制御部29は、温度計27cからの温度計測結果が入力可能となっている。一方、脱気制御部29からは、配管加熱部22、循環ポンプ26、および真空ポンプ28に対して制御信号が出力可能となっている。
【0089】
この構成例では、脱気フィルタ部25から流出するインクの温度を温度計27cで計測し、この結果に基づいて、脱気制御部29が配管加熱部22に対して制御信号を出力する。すなわち、加熱時の配管温度を検知し、これに基づいて配管加熱部22の加熱動作を制御する。これにより効率的な脱気が可能となる。さらに、脱気制御部29は、真空ポンプ28や循環ポンプ26に対しても制御信号を出力可能となっている。そのため、脱気フィルタ部25における減圧の程度や、循環ポンプ26によるインクの流通速度や流通圧力も制御することが可能となる。それゆえ、より一層効率的な脱気処理が可能となる。
【0090】
さらに、図2では、上流圧力計27aおよび下流圧力計27bからの圧力計測結果も、脱気制御部29に出力可能となっており、脱気制御部29からの出力信号は表示部33にも出力可能となっている。上記各圧力計は、脱気フィルタ部25におけるインク流通方向の前後に設けられているため、脱気フィルタ部25に含まれる気体透過性膜を流通するインクの圧力を計測し、その圧力変動を詳細に確認することができる。それゆえ、圧力の変動に基づいて、気体透過性膜の目詰まりや寿命等を判定することが可能になるだけでなく、気体透過性膜の劣化以外の要因で起こりうる圧力変動も検知することができる。
【0091】
これまでは、脱気フィルタ部25の修理や、気体透過性膜の交換の時機については、装置のメンテナンス担当者により、公知のメンテナンス周期から判断して行う必要があった。しかしながら、このような判断では、適切なメンテナンス時機を逃すだけでなく、使用可能な気体透過性膜を交換して廃棄するような可能性もあった。これに対して、上記構成によれば、上流圧力計27aおよび下流圧力計27bからの圧力計測結果を脱気制御部29に出力して判定し、その結果を表示部33に出力する。そのため、脱気フィルタ部25のメンテナンスの時機を正確に判定することができ、かつ、気体透過性膜の効率的な利用も可能となる。
【0092】
なお、上記上流圧力計27a、下流圧力計27b、温度計27c、表示部33の具体的な構成は特に限定されるものではなく、公知の構成を好適に用いることができる。例えば、上流圧力計27a、下流圧力計27b、温度計27cは流通する液体の圧力や温度を図る公知の計測手段を用いればよいし、表示部33としては、公知の液晶パネル等を用いればよい。
【0093】
本発明では、上記配管加熱部22および脱気フィルタ部25は循環脱気部30のような循環系に組み込まれている必要は無いが、本実施の形態のように循環系に組み込まれていることで、より一層効率的な脱気処理が可能となる。この点についてより詳細に説明する。
【0094】
図1に示すように、本実施の形態では、脱気フィルタ部25を通過したインクを繰り返し脱気フィルタ部25に流入可能とするように循環配管20が設けられている。すなわち、本実施の形態では、インクを複数回脱気処理できるように循環配管20が形成されている構成となっている。この循環配管20には、前述したように、溶存酸素計23や流量計24が設けられている。また、図3に示すように、溶存酸素計23および流量計24の計測結果は、循環制御部34に出力可能となっているとともに、循環制御部34からは、三方弁31・32、配管加熱部22、循環ポンプ26、脱気制御部29等に制御信号を出力可能となっている。
【0095】
メインインクタンク11に投入されたインクは第一加圧源14により内部が加圧され三方弁31を通り、循環脱気部30のサブインクタンク21に流入する。循環ポンプ26の動作による流れを受けてサブインクタンク21からインクが流出し、溶存酸素計23および流量計24を通過して、さらに、三方弁31を介して配管加熱部22を通過する。この過程でインクは加熱され、脱気フィルタ部25に流入して脱気される。その後、脱気フィルタ部25を流出したインクは、循環ポンプ26および三方弁31を通過してサブインクタンク21に流入する。これで循環経路を1回循環したことになる。
【0096】
このようにして循環経路を複数回循環する間、溶存酸素計23でインク中の溶存酸素濃度を確認する。溶存酸素計23では、溶存酸素濃度(計測結果)を循環制御部34に出力し、循環制御部34は、その結果に基づいて脱気制御部29や三方弁32に制御信号を出力し、インクの循環および脱気処理を継続させる。これによって、所望の溶存酸素濃度に達するまでインクを循環させて脱気処理することができる。
【0097】
溶存酸素濃度が所定量を下回った場合には、循環制御部34は脱気が完了したと判定し、第三加圧源17でサブインクタンク21内を加圧し、三方弁32を開放して、インクを循環配管20から配管10bを介してローカルインクタンク12に流入させる。このとき、流量計24はインクの流量を循環制御部34に出力するが、この計測結果よりインクの流量が所定量以下となれば、脱気処理したインクがローカルインクタンク12に全て流入したと判断する。その結果、循環制御部34は、三方弁32を閉鎖するとともに、配管加熱部22の加熱動作を停止させたり、脱気制御部29の制御動作を停止させたり、循環ポンプ26の動作を停止させたりする等して、循環脱気部を待機状態とする。その後、循環制御部34は、三方弁31を開放し、メインインクタンク11から脱気前のインクを循環配管20に流入させ循環脱気動作を繰り返す。
【0098】
このように、脱気機構が循環系に組み込まれていれば、インクを確実に脱気処理できるだけでなく、脱気効率を向上させ、かつ、脱気構成の大型化を回避できるので省スペース化を図り、インクジェット記録装置全体をコンパクト化することができる。
【0099】
脱気処理されたインクは、ローカルインクタンク12に貯蔵され、配管10cを介してインクジェットヘッド13から吐出される。ここで、本発明では、ローカルインクタンク12には、図1に示すように、冷却ユニット16が設けられている。
【0100】
上述したように、循環脱気部30では、インクを加熱することにより脱気しているが、これにより加温されたインクは粘度が下がるため、この状態でインクジェットヘッド13から吐出されると、吐出精度が悪化する現象が確認された。そこで、本発明では、加温されたインクを冷却する手段を有していることが好ましい。このようなインク冷却手段(液体冷却手段)としては、特に限定されるものではないが、ローカルインクタンク12に設けられる上記冷却ユニット16を好適に用いることができる。
【0101】
上記冷却ユニット16を備えるローカルインクタンク12を設けることで、脱気後のインクをローカルインクタンク12に貯蔵する際に、当該ローカルインクタンク12を冷却することになる。そのため、インクジェットヘッド13に流入するインクを十分に常温程度まで冷却することができる。また、ローカルインクタンク12を設けることで、循環脱気部のサブインクタンク21の容量を小さくすることができる等、省スペース化を図ることも可能となる。
【0102】
また、この冷却ユニット16は配管加熱部12と同様に冷却動作が制御可能となっていることが好ましい。これによって、冷却時のローカルインクタンク12の温度を効率良く制御することが可能であり、その結果、インクの冷却を効率的かつ確実に行うことができる。
【0103】
上記冷却ユニット16の具体的な構成は特に限定されるものではないが、例えば、図4に示すように、ローカルインクタンク12本体の周囲に設けられる水冷ジャケット部16a等を挙げることができる。この水冷ジャケット16aは、内部に冷却水を循環させることによりローカルインクタンク12を冷却するようになっており、公知の構成を好適に用いることができる。また、冷却ユニット16の冷却動作を制御するための具体的な構成は特に限定されるものではないが、図5に示すように、冷却制御部35およびインクタンク温度計18を備える構成を挙げることができる。インクタンク温度計18は計測結果(温度)を冷却制御部35に出力可能となっており、冷却制御部35は、計測結果に基づいて冷却ユニット16の動作を制御するための制御信号を出力できるようになっている。なお、冷却制御部35は、循環制御部34や脱気制御部29と連動するようになっていてもよい。
【0104】
このようにして冷却されたインクは、第二加圧源15によりローカルインクタンク12内が加圧されることで、配管10cを介してインクジェットヘッド13に流入し、当該インクジェットヘッド13から吐出されることになる。このとき、インクの温度はほぼ常温に近い程度に冷却されているため、常温時の吐出精度と変わらない性能で脱気したインクを吐出させることが可能となる。
【0105】
なお、本実施の形態では、塗布する液体として、インクジェット記録装置に用いられるインクを挙げているが、もちろん本発明はこれに限定されるものではなく、インク以外の液体、例えば、各種コーティング剤や塗料等を用いることも可能である。この場合、液体塗布装置を構成する各手段や部材として、液体の種類に応じたものを選択すればよい。
【0106】
また、上述した実施の形態では、インクジェット記録装置、すなわち液体塗布装置の構成に基づいて本発明を詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明には、液体塗布装置に装備される液体脱気装置や、液体塗布装置に採用可能な液体脱気方法も含まれる。
【実施例】
【0107】
本発明について、実施例および図1および図6に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、以下の実施例におけるインクの脱気効率および吐出精度は次のようにして評価した。
【0108】
〔インクの脱気効率〕
以下の実施例でインクのモデルとして用いられる液状組成物について、脱気処理前および脱気処理後に溶存酸素濃度を測定し、以下の式に基づき脱気効率Rを算出した。なお、以下の式では、脱気処理前の溶存酸素濃度をCpre、脱気処理後の溶存酸素濃度をCpostとする。
【0109】
R=(Cpre −Cpost )/Cpre ×100
〔吐出精度〕
インクジェットヘッドとしては、孔径25μm、穴数が30のノズルを有するものを用いた。次に、対象物の表面に目標地点を設定し、この目標地点に対して、上記インクジェットヘッドからインクを吐出させた。対象物の表面に付着したインクが上記目標地点から離れている距離を測定し、その平均値を算出した。参考例の結果を基準として、どの程度ずれているかに基づいて吐出精度を評価した。
【0110】
〔参考例〕
インクのモデルとして、ジエチレングリコール45wt%および純水55wt%からなる液状組成物(含量成分無し)を調製して使用した。図6に示す構成のインクジェット記録装置、すなわち脱気機構を備えていない従来の装置を用いて、インクジェットヘッドから当該液状組成物の吐出させた。このときの吐出結果を基準として、後述する実施例における吐出精度を評価した。
【0111】
〔実施例1〕
インクのモデルとして、ジエチレングリコール45wt%および純水55wt%からなる液状組成物(顔料成分無し)を調製して使用した。本発明にかかる液体塗布装置としては、図1に示すインクジェット記録装置を用いた。メインインクタンク11に上記液状組成物を2L入れ、そのうち1Lを、三方弁31を開き第一加圧源14により加圧してサブインクタンク21に移動させた。その後、三方弁31を閉じ、循環ポンプ26を動作させ循環配管20内の循環を開始した。このときの液状組成物の流量は500mL/minに設定した。
【0112】
次に、配管加熱部22による加熱温度を50℃に設定し、真空ポンプ28を動作させ脱気フィルタ部内の真空空間を大気圧から50KPa減圧して脱気処理を行った。脱気処理開始後10分後および30分後の溶存酸素濃度を溶存酸素計23により測定した。その結果を表1に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
次に、三方弁32を開放し、30分間脱気処理を行った液状組成物をローカルインクタンク12に入れ、液状組成物の温度が常温になるまで冷却ユニット16により冷却した。その後、インクジェットヘッド13から当該液状組成物を吐出させ、吐出の精度を評価した。
【0115】
〔実施例2〕
ローカルインクタンク12の冷却動作を行わない以外は実施例1と同様にして脱気処理を行い、溶存酸素濃度および吐出精度を評価した。
【0116】
吐出精度は、実施例1の吐出精度は参考例とほとんど変わらない結果であったが、実施例2の吐出制度は、参考例の結果を基準としたときに、5%程度目標地点から離れる方向にシフトするという結果が得られた。
【0117】
以上の結果から、本発明によれば、インクの脱気処理を効率的に行うことができること、特に、ローカルインクタンク21を冷却することでインクを常温まで冷却することにより、脱気処理の効率を向上できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0118】
以上のように、本発明では、簡素な装置構成であり、かつ装置の大型化を回避しながら、効率的な脱気処理を行うことが可能となる。そのため、本発明は、インクジェット記録装置に代表される各種液体塗布装置やその部品を製造する分野に利用することができるだけでなく、さらには、広く液体の塗布に関わる分野に広くするにも応用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】本発明の実施の一形態における液体塗布装置としてのインクジェット記録装置の構成を示す模式図である。
【図2】図1におけるインクジェット記録装置において、脱気機構(脱気フィルタ部)および直前の流入配管を加熱する配管加熱部を中心とする脱気装置の要部構成を示す模式図である。
【図3】図2における脱気装置の要部を含む循環脱気部全体の構成を示す模式図である。
【図4】図1におけるローカルインクタンクに設けられる冷却ユニットの一例を示す概略斜視図である。
【図5】図1におけるローカルインクタンクに設けられる冷却ユニットの制御を示す概略模式図である。
【図6】参考例で用いられる従来のインクジェット記録装置の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0120】
11 メインインクタンク(脱気前液体タンク)
12 ローカルインクタンク(脱気後液体タンク)
14 第一加圧源(加圧手段)
15 第二加圧源(加圧手段)
16 冷却ユニット(液体冷却手段・液体タンク冷却手段)
16a 冷却ジャケット(液体タンク冷却手段)
17 第三加圧源(加圧手段)
20 循環配管
20a 流入配管
20b 流出配管
21 サブインクタンク(一時保管タンク)
22 配管加熱部(配管加熱手段)
23 溶存酸素計(溶存気体計測手段)
24 流量計(流量測定手段)
25 脱気フィルタ部(脱気機構)
27a 上流圧力計(圧力計測手段)
27b 下流圧力計(圧力計測手段)
31 三方弁(切換弁手段)
32 三方弁(切換弁手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗布媒体に塗布される液体中の溶存気体を、気体透過性膜を用いて除去する脱気機構を備える液体塗布装置において、
上記気体透過性膜に直接液体を流入させる流入配管に対して、当該流入配管を加熱する配管加熱手段を設けることを特徴とする液体塗布装置。
【請求項2】
上記脱気機構では、気体透過性膜を介して配管と対向する空間を真空状態に減圧することで液体中の溶存気体を除去することを特徴とする請求項1に記載の液体塗布装置。
【請求項3】
さらに、上記配管加熱手段の加熱動作が制御可能となっていることを特徴とする請求項1に記載の液体塗布装置。
【請求項4】
さらに、脱気機構を通過した上記液体を繰り返し上記脱気機構に流入可能とするように設けられる循環配管を備えていることを特徴とする請求項1に記載の液体塗布装置。
【請求項5】
上記循環配管には、流通する液体中の溶存気体の量を計測する溶存気体計測手段が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の液体塗布装置。
【請求項6】
上記循環配管には、流通する液体の流量を測定する流量測定手段が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の液体塗布装置。
【請求項7】
さらに、上記循環配管の配管経路中には、脱気途中の液体を保管する一時保管タンクが備えられていることを特徴とする請求項4に記載の液体塗布装置。
【請求項8】
さらに、脱気前後の液体を貯蔵する脱気前液体タンクおよび脱気後液体タンクを備えているとともに、
これら脱気前液体タンクおよび上記脱気後液体タンクは、それぞれ切換弁手段を介して上記循環配管と接続されていることを特徴とする請求項4に記載の液体塗布装置。
【請求項9】
さらに、脱気後の上記液体を冷却する液体冷却手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の液体塗布装置。
【請求項10】
さらに、液体冷却手段の冷却動作が制御可能となっていることを特徴とする請求項9に記載の液体塗布装置。
【請求項11】
さらに、上記冷却手段として、脱気後の液体を貯蔵する脱気後液体タンクを冷却する液体タンク冷却手段が設けられることを特徴とする請求項9に記載の液体塗布装置。
【請求項12】
さらに、上記流入配管および上記脱気機構から液体を流出させる流出配管に対して圧力計測手段が設けられることを特徴とする請求項1に記載の液体塗布装置。
【請求項13】
上記圧力計測手段の計測結果に基づいて、脱気機構のメンテナンスの時機を判定することを特徴とする請求項12に記載の液体塗布装置。
【請求項14】
上記液体がインクであることを特徴とする請求項1に記載の液体塗布装置。
【請求項15】
インクジェット方式の画像記録装置であることを特徴とする請求項14に記載の液体塗布装置。
【請求項16】
気体透過性膜における液体の流通方向の上流側を減圧しながら、当該気体透過性膜に液体を通過させて液体中の溶存気体を除去する液体脱気方法において、
上記気体透過性膜に液体を流入させる流入配管を加熱することにより、当該液体を間接的に加熱することを特徴とする液体脱気方法。
【請求項17】
上記液体を複数回脱気処理するように配管を形成するとともに、
液体中の溶存気体の量が所定量を下回った場合に、脱気が完了したと判定することを特徴とする請求項16に記載の液体脱気方法。
【請求項18】
さらに、脱気後の液体を液体タンクに貯蔵するとともに、当該液体タンクを冷却することを特徴とする請求項16に記載の液体脱気方法。
【請求項19】
上記気体透過性膜における上記液体の流通方向の前後にて、流通する液体の圧力を計測することにより、気体透過性膜のメンテナンスの時機を判定することを特徴とする請求項16に記載の液体脱気方法。
【請求項20】
上記液体がインクジェット方式の画像記録装置に用いられるインクであることを特徴とする請求項16に記載の液体脱気方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−75683(P2006−75683A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−260272(P2004−260272)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】