説明

液体塗布装置およびインクジェット記録装置

【課題】当接部とローラとの間の摩擦を軽減し、弾性部材およびローラの摩耗を軽減することができる液体塗布装置およびインクジェト記録装置を提供する。
【解決手段】円筒状の塗布ローラ1001、この塗布ローラに対向して配置された円筒状のカウンターローラ(媒体支持部材)1002、および塗布ローラを駆動するローラ駆動機構1003などを有し、このローラ駆動機構は、ローラ駆動モータ1004と、このローラ駆動モータの駆動力を塗布ローラに伝達するギアトレインなどを有する動力伝達機構1005とによって構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体塗布装置およびインクジェット記録装置に関し、詳しくは、顔料を色材とするインクで記録した際に顔料の凝集の開始を早めるなど所定の目的で媒体に液体を塗布する液体塗布装置に関するものであり、また、同様に、インクジェット記録で用いられる記録媒体に対して、顔料を色材とするインクで記録した際に顔料の凝集の開始を早めるなどの目的で液体を塗布する機構を備えたインクジェット記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
広く媒体に液体もしくは液状の材料を塗布する方式として、スピンコータ、ロールコータ、バーコータ、ダイコータが知られている。これらの塗布方式は、比較的長い塗布媒体に塗布を連続的に行うことを前提としたものである。このため、例えば、比較的小さなサイズの塗布媒体が断続的に搬送されてこれらに塗布を行う場合には、塗布媒体ごとに、その塗付開始や終了の位置で塗料ビードが乱れるなどして均一な塗膜が得られなくなるなどの問題を生じることがある。
【0003】
このような問題を解消可能な一構成として、特許文献1に記載されたものが知られている。この構成は、ダイコーダ方式において、回転するロッドバーを用い、このロッドバーに対して吐出用スリットから塗料を吐出し、ロッドバー上に塗膜を形成する。そして、形成された塗膜はロッドバーの回転に伴い塗布媒体に接触して転写されるものである。ここで、ロッドバーに形成された塗膜を塗付媒体に転写、塗布しないときは、塗料はロッドバーの回転によりヘッド内に戻り回収用スリットを介して回収される。すなわち、非塗布時でもロッドバーは回転し続け、その際、塗料はロッドバーに塗膜を形成した状態にある。これにより、塗布媒体が断続的に供給されそれらに断続的に塗布を行う場合でも、均一な塗膜を得ることを可能としている。
【0004】
インクジェット記録装置の分野においても液体塗布機構を用いたものが知られている。特許文献2には、ローラと接するドクターブレードを用い、このブレードとローラとの間にコーティング液を溜めるようにし、ローラの回転に伴ってこのローラにコーティング液が付与されることが記載されている。そして、このローラの回転に伴い、これと他のローラとの間を搬送される支持体に対し付与されているコーティング液が転写、塗布される。特許文献3にも、同様に、インクジェット記録装置において、染料を不溶化する処理液を記録の前に予め塗布する機構が示されている。この文献の実施例1には、補充タンクに在る処理液が、回転するローラに付着することによって汲み出され同時にその汲み出した処理液が記録紙に塗布されることが記載されている。
【0005】
しかしながら、以上の特許文献1ないし3に記載の構成は、いずれも、ロッドバーないしローラが回転しつつそのバーないしローラの表面に塗布液が付与もしくは供給されるが、その付与もしくは供給する部分が大気に開放されあるいは連通した部分である。このため、塗布液の蒸発などが問題となる他、装置の姿勢が変わったときに、それよって塗布液が漏れるなどの問題を生じるおそれがある。
【0006】
特に、プリンタなどのインクジェット記録装置では、運搬時の姿勢変化による液体の漏れなどを考慮すると、小型化された装置には上記各文献に記載の塗布機構を適用し難い。
【0007】
これに対し、塗布液としてのインクをローラに付与ないし供給する部分をシールする構成が、特許文献4に開示されている。同文献に記載の塗布機構は、グラビア印刷装置において印刷版のパターンが表面に形成されたローラにインクを塗布する機構である。ここでは、ローラの周面に沿った上下2ヶ所に対応した位置で、ローラの長手方向に延在するドクターブレードと、この2つのドクターブレードの両側部にそれぞれ設けられた弾性部材と、を有したインクチャンバーを用いたものである。このチャンバーをローラの周面に当接させることにより、ローラとの間で液室を形成する。そして、ローラが回転することにより、この液室の塗布液がローラに付与ないし供給されるものである。
【特許文献1】特開2001−70858号公報
【特許文献2】特表2002−517341号公報
【特許文献3】特開平08−72227号公報
【特許文献4】特開平08−58069号公報
【特許文献5】特開2002−96452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記文献2及び4に記載の当接部材であるドクターブレードとローラ間の摩擦に関して課題としていない。その為、摩擦によるブレード、若しくはローラの磨耗が生じてしまう可能性がある。ブレード、若しくはローラの磨耗が生じると、塗布液のもれ等が生じてしまう可能性がある。
【0009】
本発明は、このシール構成から派生する問題を解消するためになされたものであり、その目的とするところは、当接部とローラとの間の摩擦を軽減し、弾性部材およびローラの磨耗を軽減することができる液体塗布装置およびインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本発明は、媒体に液体を塗布する塗布面を有する塗布部材と、前記塗布部材の塗布面に当接することで形成される液体保持空間に液体を保持するための保持部材とを備え、前記塗布部材の塗布面を回転させることにより、前記保持部材より前記塗布面に供給された液体を前記媒体に塗布する液体塗布装置であって、前記保持部材は塗布部材との摺動負荷が低い材料であることを特徴とする。
【0011】
また、媒体に液体を塗布する塗布面を有する塗布部材と、前記塗布部材の塗布面に当接することで形成される液体保持空間に液体を保持するための保持部材とを備え、前記塗布部材の塗布面を回転させることにより、前記保持部材より前記塗布面に供給された液体を前記媒体に塗布する液体塗布装置であって、前記塗布部材の表面は微細な方向性をもった目を有し、前記塗布部材の回転方向は前記塗布部材の目に順ずる方向であることを特徴特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、液体保持部材の当接部に摺動負荷の低い材料を用いる、またはローラの回転方向をローラの目に順ずる方向にすることで、液体保持部材とローラの摩擦を軽減し、液体保持部材またはローラの磨耗を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(実施例1)
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の液体塗布装置100に係る実施形態の全体構成を示す斜視図である。
【0015】
ここに示す液体塗布装置100は、概略、液体の塗布対象である媒体(以下、塗布媒体ともいう)に対し所定の塗布液を塗布する液体塗布手段と、この液体塗布手段に塗布液を供給する液体供給手段を有して構成されている。
【0016】
液体塗布手段は、円筒状の塗布ローラ1001、この塗布ローラ1001に対向して配置された円筒状のカウンターローラ(媒体支持部材)1002、および塗布ローラ1001を駆動するローラ駆動機構1003などを有する。このローラ駆動機構1003は、ローラ駆動モータ1004と、このローラ駆動モータ1004の駆動力を塗布ローラ1001に伝達するギアトレインなどを有する動力伝達機構1005とによって構成されている。なお、本実施形態では、塗布ローラ1001の材質はゴム硬度20度のシリコーンゴムとし、表面粗さはRa1.6μmとし、研磨加工により直径は22.19mmとした。
【0017】
また、液体供給手段は、塗布ローラ1001の周面との間で塗布液を保持する液体保持部材2001、およびこの液体保持部材2001に液体を供給する後述の液体流路3000(図1では不図示)などを有して構成される。塗布ローラ1001およびカウンターローラ1002は、それぞれ、それらの両端が不図示のフレームに対して回動自在に取り付けられた、互いに平行な軸によって回動自在に支持されている。また、液体保持部材2001は、塗布ローラ1001の長手方向のほぼ全体にわたって延在するものであり、塗布ローラ1001の周面に対して接離動作を可能とする機構を介して上記のフレームに移動可能に取り付けられている。
【0018】
本実施形態の液体塗布装置は、さらに、塗布ローラ1001とカウンターローラ1002とのニップ部に塗布媒体を搬送するための、ピックアップローラなどからなる塗布媒体供給機構1006を備える。また、この塗布媒体の搬送路において、塗布ローラ1001およびカウンターローラ1002の後流側には、塗布液が塗布された塗布媒体を排紙部(不図示)へ向けて搬送する、排紙ローラなどからなる排紙機構1007が設けられる。これらの給紙機構や排紙機構も、塗布ローラなどと同様、動力伝達機構1005を介して伝えられる駆動モータ1004の駆動力によって動作する。
【0019】
なお、本実施形態で使用する塗布液は、顔料を色材とするインクで記録した際に顔料の凝集の開始を早めることを目的とした液体である。
【0020】
塗布液の成分の一例を以下に記述する。
【0021】
硝酸カルシウム・4水和物 10%
グリセリン 42%
界面活性剤 1%
水 残量
また、前記塗布液の粘度は25℃で5〜6cP(センチポアズ)である。
【0022】
なお、本発明の適用において塗布液は、上記のものに限られないことは勿論である。
【0023】
塗布する液体に水を用いる場合、本発明の塗布ローラとの液体保持部材の当接部分での摺動性は、表面張力を下げる成分を前記液体に含ませることで良好なものとなる。上述の塗布する液体の成分の一例では、グリセリン及び界面活性剤が水の表面張力を下げる成分である。
【0024】
ここで、各部の構成をより詳細に説明する。
【0025】
図2は、塗布ローラ1001、カウンターローラ1002および液体保持部材2001などの配置の一例を示す説明縦断側面図である。
【0026】
カウンターローラ1002は、不図示の付勢手段によって塗布ローラ1001の周面に向けて付勢されており、塗布ローラ1001を図中、時計方向に回転させることにより、両ローラの間に塗布液を塗布すべき塗布媒体Pを挟持し得ると共に、塗布媒体Pを図中の矢印方向に搬送し得るようになっている。
【0027】
また、液体保持部材2001は、バネ部材(押圧手段)2006の付勢力によって塗布ローラ1001の周面に対して付勢されて当接するとき、塗布ローラ1001による液体塗布領域全体に亘って延在する長尺な液体保持空間Sを形成するようになっている。この液体保持空間S内には、後述の液体流路3000から液体保持部材2001を介して塗布液が供給されるが、液体保持部材2001が以下のように構成されているため、塗布ローラ1001の停止状態において、液体保持空間Sから外方へ不用意に塗布液が漏出するのを防止することができる。
【0028】
この液体保持部材2001の構成を、図3ないし図8に示す。
【0029】
図3に示すように、液体保持部材2001は空間形成基材2002と、この空間形成基材2002の一方の面に突設された環状の当接部材2009とを有して構成されている。
【0030】
この当接部材2009は、本装置に取り付けら得たときに上側の部分をなす上縁部2010、同様に下側の部分をなす下縁部2011および左右両側縁部2012,2013とを一体に形成した弾性材料によって上下、左右が対称の形状に形成されており、この一体に形成された当接部材が空間形成基材に固着されている。また、この空間形成基材2002の上記当接部材が設けられた面には、塗布ローラ1001との間に一定の間隔を形成するために凹部2003が形成されており、この凹部2003の上縁部および下縁部に沿って前記当接部材2009の上縁部2010および下縁部2011が固着されている。また、左右両側縁部2012,2013は、塗布ローラ1001との当接面に偏りが生じないように円弧状に形成されている。このため、横断面の円弧状の形は前記の塗布ローラ1001から離間した状態でも塗布ローラ1001の形状に沿った円弧状を維持する。なお、本実施形態では、当接部材2009の材質はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であり、塗布ローラ1001が回転動作を行うときに塗布ローラとの摺動負荷が小さい。
【0031】
上記のようにこの実施形態における液体保持部材は、継ぎ目のない一体に形成された当接部材2009が、バネ部材2006の付勢力によって塗布ローラ1001の外周面に隙間なく連続した状態で当接する。その結果、液体保持空間Sは、この当接部材2009と、空間形成基材の一面と、塗布ローラ1001の外周面とによる実質的に閉塞した空間となり、この空間に液体が保持される。そして、塗布ローラ1001の回転が停止した状態では、当接部材2009と塗布ローラ1001の外周面とは液密状態を維持し、液体が外部へと漏出するのを確実に防止することができる。ここで、塗布ローラ1001の停止状態において、その外周面と当接部材2009とが液密状態にあるとは、上記のとおり、上記空間の内と外の間で液体を通さないことである。この場合、当接部材2009の当接状態としては、それが塗布ローラ1001の外周面に対し直に接する状態の他、毛管力によって形成される液体の膜を介して上記外周面に当接する状態を含むものである。
【0032】
一方、空間形成基材2002には、図3ないし図5に示すように、当接部材2009に囲繞された領域内に、それぞれ空間形成基材2002を貫通する孔を有して構成される液体供給口2004および液体回収口2005が設けられている。これらは空間形成基材の背面側に突設された円筒状の連結部20041,20051にそれぞれ連通している。また、この連結部20041,20051は、後述の液体流路3000に連結されている。なお、この実施形態では、液体供給口2004が当接部材2009に囲繞された領域の一端部(図3では左端部)近傍に形成され、液体回収口2005が同領域の他端部(図3では右端部)近傍に設けられる。なお、液体供給口および液体回収口は、上述に限らず空間形成基材上のいずれの場所にも形成することができる。また、液体供給口および液体回収口の数は、それぞれいずれの数であっても良い。この液体供給口2004は、液体流路3000から供給される塗布液を前述の液体保持空間Sに供給し、液体回収口2005は液体保持空間S内の液体を液体流路3000へと流出させるためのものである。この液体の供給、流出を行うことにより、液体保持空間S内において、塗布液は上記の左端部から右端部へと流動する。
【0033】
図11は、前記塗布液供給手段の液体保持部材2001に連結される液体流路3000の概略構成を示す説明図である。
【0034】
この液体流路3000は、液体保持部材2001を構成する空間形成基材2002の液体供給口2004と塗布液を貯蔵する貯蔵タンク3003とを連結する第1流路3001と、空間形成基材2002の液体回収口2005と前記貯蔵タンク3003とを連結する第2流路3002とを有する。この貯蔵タンク3003には、大気連通口3004が設けられており、また、この大気連通口には、大気との連通、遮断を切換える大気連通弁3005が設けられる。なお、大気連通口3004は、蒸発を抑制するために迷路構造であることが望ましい。また、第1流路3001内には切換弁3006が設けられており、この切換弁3006によって第1流路3001と大気との連通、遮断が切換え可能となっている。さらに第2流路3002内には、本液体流路3000内で塗布液および空気を所望の方向へと強制的に流動させるためのポンプ3007が連結されている。ここでは、液体保持空間Sを介して第1流路3001から第2流路3002へ向かう方向の液体の流れを発生させる。
【0035】
図12は液体保持空間への液体充填処理から塗布終了までのフローを表すフローチャートである。
【0036】
充填工程
ステップS1では、液体保持空間Sに対する塗布液の充填工程を実行する。この充填工程では、まず、貯蔵タンク3003の大気連通弁3005を大気に開放させると共に、ポンプ3007を一定時間駆動する。これにより、液体保持空間Sおよび各流路3001,3002内に塗布液が充填されていない場合には、ポンプによって内部の空気が貯留タンク3003へと送られて大気へと排出されると共に各部に塗布液が充填される。また、既に各部に塗布液が充填されている場合には、各部の塗布液が流動して適正な濃度および粘度の塗布液が供給される。この初期動作によって、塗布ローラ1001に対し塗布液が供給された状態となり、塗布媒体への塗布が可能となる。
【0037】
塗布工程
ここで、塗布開始指令が入力されると(ステップS2)、再びポンプ3007が作動を開始すると共に(ステップS3)、塗布ローラ1001が図9の矢印に示すように、時計周りに回転を開始する(ステップS4)。この塗布ローラ1001の回転により、液体保持空間Sに充填された塗布液Lは、塗布ローラ1001に対する液体保持部材2001の当接部材2009の押圧力に抗して、塗布ローラ1001と当接部材2009の下縁部2011との間を摺り抜け、塗布ローラ1001の外周に層状態となって付着する。塗布ローラ1001に付着した塗布液Lは、塗布ローラ1001とカウンターローラ1002との当接部に送られる。
【0038】
次いで、塗布媒体送給機構1006によって塗布ローラ1001とカウンターローラ1002との間に塗布媒体が搬送され、これらのローラの間に塗布媒体が挿入されるとともに、塗布ローラ1001とカウンターローラ1002の回転に伴い排紙部へ向けて搬送される(ステップS5)。この搬送の間に、塗布ローラの周面に塗布された塗布液が、図9に示すように塗布ローラ1001から塗布媒体Pに転写される。なお、塗布ローラ1001とカウンターローラ1002との間に塗布媒体を供給する手段としては、上記の送給機構に限られないことはもちろんであり、例えば、所定のガイド部材を補助的に用いる手差しによる手段を併せて用いてもよく、また、手差し手段を単独で用いる構成等、どのような手段を用いてもよい。
【0039】
図9において、交差する斜線で表現した部分が塗布液Lを示している。なお、ここでは、塗布ローラ1001及び塗布媒体Pにおける塗布液の層の厚みは、塗布時における塗布液Lの様子を明確に図示する上で、実際の厚みよりも過大に表している。
【0040】
上記のようにして、塗布媒体Pの塗布された部分は塗布ローラ1001の搬送力により矢印方向に搬送されると共に、塗布媒体Pと塗布ローラ1001の接触部に塗布媒体Pの未塗布部分が搬送され、この動作を連続もしくは間欠的に行うことで塗布媒体全体に塗布液を塗布していく。
【0041】
さて、塗布液Lは上述したように表面張力を下げる成分を含ませており、塗布ローラと液体保持部材の当接部分での摺動性を向上させている。すなわち塗布液Lは潤滑材としての機能も備えている。図10に示すように塗布媒体Pが塗布ローラ1001に存在しない場合、塗布ローラ1001を回転させると当接部材2009から擦り抜けた塗布液Lは再び当接部材2009の上縁部2010に戻ってくる。この際塗布液Lは塗布ローラ1001と当接部材2009の潤滑材として働くため、塗布ローラ1001と当接部材2009の摩擦は小さい。
【0042】
ところで、図9においては、当接部材2009から摺り抜けて塗布ローラ1001に付着した塗布液Lの全てが塗布媒体Pに転写された塗布状態を示している。実際には、塗布ローラ1001に付着した塗布液Lの殆どは塗布媒体Pに転写されるが、塗布ローラ1001にも付着し、残留する。この塗布ローラ1001における塗布液Lの残留量は、塗布媒体Pの材質及び表面の微小な凹凸の状態によっても異なる。
【0043】
塗布ローラに付着した塗布液Lが塗布媒体Pに転写されると、塗布ローラ1001の表面には塗布液Lが殆どなくなる。塗布液Lが殆どない塗布ローラ1001の表面が塗布ローラ1001の回転動作により前記当接部材2009の上縁部2010と当接すると、塗布液Lがあるときより摺動性が悪く、摩擦が大きくなる。この摩擦が大きい程、塗布ローラ1001及び当接部材2009の磨耗量が大きくなる。本実施例では摩擦による塗布ローラ1001及び当接部材2009の磨耗量を少なくする為、摺動性の良いPTFEを当接部材として用いている。当接部材2009が硬度50°のEPDMであった場合、A4サイズの普通紙2000枚塗布後の塗布ローラの外径の磨耗が8.1μmであったのに対し、本実施例である当接部材がPTFEの場合、4.5μmであった。
【0044】
以上のように本発明によれば、液体保持部材の当接部に摺動負荷の低い材料としてフッ素樹脂であるPTFEを用いれば、液体保持部材とローラの摩擦を軽減できることにより、液体保持部材またはローラの磨耗を軽減することができる。
【0045】
また本実施例では当接部材がPTFEの場合について説明したが、他のフッ素樹脂、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマ(FEP)等を用いてもよい。
【0046】
(実施例2)
実施例2として、当接部材としてポリオキシメチレン(POM)を用いた。その他の構成及び動作は実施例1と同様である。当接部材としてPOMを用いた場合A4サイズの普通紙2000枚塗布後の塗布ローラの外径磨耗は6.3μmであった。
【0047】
以上のように本発明によれば、液体保持部材の当接部に摺動負荷の低い材料としてPOMを用いれば、液体保持部材とローラの摩擦を軽減できることにより、液体保持部材またはローラの磨耗を軽減することができる。
【0048】
(実施例3)
実施例3として、塗布ローラの研磨目の向きが塗布ローラの回転方向に対して順方向である場合について説明する。
【0049】
液体保持部材を塗布ローラに当接させ液密性の高い液体保持空間を形成する為には、塗布ローラの真円度、円筒度及び同軸度等の精度が必要となる。その為、研磨加工を行った塗布ローラが用いられる。
【0050】
シリコーンゴムの様な弾性部材に対して研磨加工を行うと、研磨方向に方向性をもった微細な凹凸が生じる。これを研磨目と称する。図13に塗布ローラ研磨目の断面拡大図を図示する。研磨目は表面粗さRa1.0〜2.0程度の粗さである。
【0051】
図中の矢印は塗布ローラ1001の回転方向を表し、塗布ローラの回転方向に研磨目が順ずる方向に設置される。塗布ローラの回転方向に対し研磨目が逆方向に設置されるより、順方向に設置されたほうが、摺動負荷が小さく、磨耗も少ない。
【0052】
本実施例では硬度40°のシリコーンローラと硬度50°のEPDMの当接部材を用いた。その他の構成及び動作は実施例1と同様である。塗布ローラの研磨目を回転方向と逆方向に設置した場合、A4サイズの普通紙10000枚後の塗布ローラの外径磨耗は30μmであったのに対し、研磨目を回転方向に順ずる方向で設置した場合は25μmであった。
【0053】
以上のように本発明によれば、塗布ローラの研磨加工によって生じる研磨目を回転方向に順ずる方向となるよう塗布ローラを設置すれば、液体保持部材とローラの摩擦を軽減できることにより、液体保持部材またはローラの磨耗を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の液体塗布装置に係る実施形態の全体構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示した塗布ローラ、カウンターローラおよび液体保持部材などの配置の一例を示す縦断側面図である。
【図3】図1および図2に示した液体保持部材の正面図である。
【図4】図3に示した液体保持部材をA−A線にて切断した端面を示す端面図である。
【図5】図3に示した液体保持部材をB−B線にて切断した端面を示す端面図である。
【図6】図3に示した液体保持部材の平面図である。
【図7】図3に示した液体塗布部材の当接部を液体塗布ローラに当接させた状態を示す左側面図である。
【図8】図3に示した液体塗布部材の当接部を液体塗布ローラに当接させた状態を示す右側面図である。
【図9】本発明の実施形態において、液体保持部材と塗布ローラとによって形成される液体保持空間に塗布液が充填され、塗布ローラの回転により塗布媒体に液体が塗布されている状態を示す縦断断面図である。
【図10】本発明の実施形態において、液体保持部材と塗布ローラとによって形成される液体保持空間に塗布液が充填され、塗布媒体が存在しない状態で塗布ローラを回転させた状態を示す縦断断面図である。
【図11】本発明の実施形態における液体塗布装置の液体流路の概略構成を示す図である。
【図12】本発明の実施形態における液体塗布動作シーケンスを示すフローチャートである。
【図13】本発明の実施形態における塗布ローラ研磨目の断面拡大図。
【符号の説明】
【0055】
100 液体塗布装置
1001 塗布ローラ
1002 カウンターローラ
1003 ローラ駆動機構
1004 ローラ駆動モータ
1005 動力伝達機構
1006 塗布媒体供給機構
1007 排紙機構
2001 液体保持部材
2002 空間形成基材
2003 凹部
2004 液体供給口
2005 液体回収口
2006 バネ部材
2009 当接部材
2010 上縁部
2011 下縁部
2012 左縁部
2013 右縁部
3001 第1流路
3002 第2流路
3003 貯蔵タンク
3004、3013 大気連通口
3005 大気連通弁
3006 切換弁
3007 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体に液体を塗布する塗布面を有する塗布部材と、前記塗布部材の塗布面に当接することで形成される液体保持空間に液体を保持するための保持部材とを備え、前記塗布部材の塗布面を回転させることにより、前記保持部材より前記塗布面に供給された液体を前記媒体に塗布する液体塗布装置であって、
前記保持部材は塗布部材との摺動負荷が低い材料であることを特徴とした液体塗布装置。
【請求項2】
前記保持部材は、フッ素樹脂であることを特徴とした請求項1に記載の液体塗布装置。
【請求項3】
前記保持部材は、ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とした請求項2に記載の液体塗布装置。
【請求項4】
前記保持部材は、ポリオキシメチレンであることを特徴とした請求項1に記載の液体塗布装置。
【請求項5】
媒体に液体を塗布する塗布面を有する塗布部材と、前記塗布部材の塗布面に当接することで形成される液体保持空間に液体を保持するための保持部材とを備え、前記塗布部材の塗布面を回転させることにより、前記保持部材より前記塗布面に供給された液体を前記媒体に塗布する液体塗布装置であって、
前記塗布部材の表面は微細な方向性をもった目を有し、前記塗布部材の回転方向は前記塗布部材の目に順ずる方向であることを特徴とした液体塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−83180(P2007−83180A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−276126(P2005−276126)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】