説明

液体封入式マウント

【課題】サブダイアフラム6の動作に伴う打音を低減する。
【解決手段】弾性体3側の第一液室とダイアフラム4側の第二液室に分離するように配置された隔壁5内に、導圧孔51d,52bを介して前記両液室と連通した導圧室Dが形成され、導圧室D内に、厚さ方向変位可能かつ両液室間を閉塞するようにサブダイアフラム6が配置され、互いに接触可能に対向する導圧室Dの内面51e,52cとサブダイアフラム6の表面6c,6dのうち少なくとも一方が、梨地状に形成されており、大振幅の振動入力による導圧室Dの内面51e,52cとサブダイアフラム6の衝突が緩和される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のエンジン等の防振支持手段として用いられ、弾性体の変形と、これに伴う作動液体の移動により、緩衝及び振動低減を行う液体封入式マウントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車においてエンジンやトランスミッションを含むパワーユニットを防振支持するエンジンマウントとして、弾性体の変形と、これに伴う作動液体の移動により、緩衝及び振動低減を行う液体封入式マウントが知られており、この種の液体封入式マウントとしては、従来から、例えば下記の特許文献1に開示されたようなものが知られている。
【特許文献1】特開平5−240290号公報
【0003】
すなわち、この液体封入式マウントは、外側の筒状の第一取付部材と、その内周側の第二取付部材とを、ゴム状弾性材料からなる円錐状の弾性体で連結した構造を有する。弾性体とその下側に設けられたダイアフラムとの間には、隔壁によって、弾性体側の上部液室とダイアフラム側の下部液室が画成されると共に、この両液室は、隔壁に形成されたオリフィスを介して互いに連通している。隔壁内には、前記両液室に連通する導圧室が形成されており、この導圧室には、サブダイアフラム(円環状隔膜15)が、厚さ方向変位可能かつ前記両液室間を閉塞するように配置されている。
【0004】
この液体封入式マウントは、第一取付部材及び第二取付部材のうち一方がエンジンを含むパワーユニット側に連結され、他方が車体側に連結されることによって、パワーユニットを弾性的に支持するものである。そして、入力振動がエンジンのアイドリング等によるものである場合は、第一取付部材と第二取付部材との間で弾性体が反復変形されることによる上部液室の圧力変化が、導圧室内のサブダイアフラムの共振によって吸収され、動ばね定数が低くなり、振動伝達を絶縁する。また、入力振動が車両走行中の路面段差への乗り上げ、乗り下げ等に起因するショック入力による低周波大振幅のものである場合は、弾性体の変形による上部液室の容積変化に伴って、オリフィス内を作動液が反復流動し、このときの減衰効果によって、振動を速やかに収束する。
【0005】
しかしながら、この種の液体封入式マウントにおいては、路面からのショック等による大振幅の振動が入力された時に、導圧室内のサブダイアフラムが、上部液室の急激な圧力変化を受けて導圧室の内面(隔壁の内面)に勢いよく衝突し、打音を発生する問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題とするところは、小振幅の中・高周波振動を吸収するためのサブダイアフラムを備える液体封入式マウントにおいて、前記サブダイアフラムの動作に伴う打音を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、本発明に係る液体封入式マウントは、筒状の第一取付部材と、その内周側に配置された第二取付部材と、前記第一取付部材と第二取付部材間に接合された弾性体と、外周が前記第一取付部材に封着されたダイアフラムと、前記弾性体とダイアフラムの間の液封空間を前記弾性体側の第一液室と前記ダイアフラム側の第二液室に分離するように配置された隔壁と、この隔壁内に形成されて前記両液室に連通した導圧室内に厚さ方向変位可能かつ前記両液室間を閉塞するように配置されたサブダイアフラムとを備え、前記導圧室と前記サブダイアフラムの互いに接触可能な対向面のうち少なくとも一方が、梨地状に形成されたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る液体封入式マウントによれば、大振幅の振動入力によって、サブダイアフラムが導圧室(隔壁)の内面と接触する際に、その接触面の少なくとも一方が梨地状をなすため、この梨地を構成する微小凹凸によって、サブダイアフラムの衝突による衝撃が緩和され、打音を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係る液体封入式マウントの好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係る液体封入式マウントを示す縦断面図、図2は、第一の形態を示す要部拡大断面図、図3は、第二の形態を示す要部拡大断面図である。
【0010】
この液体封入式マウントは、図1に示されるように、第一取付部材1と、その内周に配置された第二取付部材2と、これら第一取付部材1と第二取付部材2の間に接合された弾性体3と、その上方にあって外周縁4aが第一取付部材1に封着されたダイアフラム4と、弾性体3とダイアフラム4の間の液封空間を弾性体3側(下側)の第一液室Aとダイアフラム4側(上側)の第二液室Bに分離するように配置された隔壁5と、この隔壁5内に保持されたサブダイアフラム6とを備える。
【0011】
第一取付部材1は筒状をなすものであって、円筒状の金属製のケース11と、その下端部に形成された小径部11aの外周面に圧入嵌着された金属製の外環12とからなる。この第一取付部材1は、外環12に一体的に形成された取付腕12aにおいて、不図示の車体フレーム側に連結される。
【0012】
第二取付部材2は、第一取付部材1の内周に配置された金属製のカップ状フランジ21と、その底部下面に溶接Wによって一体的に結合され、下端が第一取付部材1における外環12の下側へ延在された金属製の内筒22とからなる。この第二取付部材2は、内筒22の内周の雌螺子穴に螺合されるボルト23を介してエンジン側ブラケット24に緊結される。
【0013】
弾性体3はゴム状弾性材料からなるものであって、第二取付部材2におけるカップ状フランジ21の、上方へ向けて開いた円錐状をなす側壁部の外周から、第一取付部材1におけるケース11の段差部及び小径部11aの内面へ向けて、斜め下方へ延びる略円錐状をなしている。そしてこの弾性体3は、被支持振動体であるエンジンやトランスミッションを含むパワーユニットの荷重を弾性的に支持する主体であるため、その肉厚が十分に大きく、かつ上下変形を受けた時の歪が内周側と外周側でほぼ均一になるように、内周ほど厚肉に形成されている。
【0014】
第一取付部材1におけるケース11と、第二取付部材2におけるカップ状フランジ21及び内筒22と、弾性体3は、一体の加硫成形体をなしている。すなわちこの加硫成形体は、不図示のゴム加硫成形用金型内に、ケース11と、互いに予め溶接Wにより結合したカップ状フランジ21及び内筒22を位置決めセットして型締めし、これらケース11とカップ状フランジ21及び内筒22と金型内面との間に画成された成形用キャビティ内に、未加硫ゴム材料を充填し、加熱・加圧することによって、弾性体3の加硫成形と、ケース11、カップ状フランジ21及び内筒22への弾性体3の加硫接着を同時に行ったものである。
【0015】
なお、弾性体3には、その外周部から第一取付部材1におけるケース11の内周面を覆うように延びる弾性膜31と、内周部からカップ状フランジ21の内面を覆うように延びる弾性膜32が連続して形成されている。
【0016】
第一取付部材1におけるケース11の上端部には断面略コ字形のカシメ部11bが形成されており、ダイアフラム4の外周縁4a及び隔壁5の外周部は、互いに密接された状態で、前記カシメ部11bに固定されている。また、隔壁5の外周部とカシメ部11bの間は、ケース11の内周面をカシメ部11bの内面まで延びる弾性膜31によって密封されている。
【0017】
ダイアフラム4は、ゴム状弾性材料からなるものであって、弾性体3に比較して十分に薄肉に形成されており、円滑な変位・変形を許容するために略伏皿状に成形されている。そして、金属製の補強環41が埋設された外周縁4aが、隔壁5の外周部に密嵌されると共にケース11のカシメ部11bによってカシメ固定されている。
【0018】
隔壁5は、金属あるいは合成樹脂で円盤状に成形された上部プレート51及び下部プレート52からなる。図2及び図3にも示されるように、上部プレート51の下面中央には、係止突起51aが形成されていて、下部プレート52は、その内周孔が前記係止突起51aに嵌合されることによって、上部プレート51と重合した状態に結合されている。
【0019】
隔壁5における上部プレート51の下面外周部には、円周方向に延びる有端溝51bが形成されていて、この有端溝51bは、その下側を塞ぐように存在する下部プレート52の外周部によって、円周方向へ略C字形に延びるオリフィスCをなしている。オリフィスCの一端は、下部プレート52に開設された開口52aを介して下側の第一液室Aへ開放され、他端が、上部プレート51に開設された開口51cを介して上側の第二液室Bに開放されている。
【0020】
上部プレート51の下面とその下側に存在する下部プレート52の間には、オリフィスCの内周側に位置して、扁平な環状の導圧室Dが形成されている。この導圧室Dは、下部プレート52に開設された多数の導圧孔52bを介して下側の第一液室Aへ連通されると共に、上部プレート51に開設された多数の導圧孔51dを介して上側の第二液室Bへ連通されている。
【0021】
サブダイアフラム6は、ゴム状弾性材料で円盤状に成形されたものであって、導圧室D内に、第一液室Aと第二液室Bとの間を遮断するように配置され、すなわち図2又は図3に示されるように、内周孔6aが導圧室Dの内周壁にほぼ密接し、外周縁6bが導圧室Dの外周壁にほぼ密接している。また、このサブダイアフラム6は、導圧室D内を厚さ方向(上下)に変位可能となっている。
【0022】
図2に示される実施の形態においては、サブダイアフラム6の上下面と接触可能に対向している導圧室Dの内面51e,52c、すなわち上部プレート51の下面のうち導圧室Dに臨む内面51e及び下部プレート52の上面のうち導圧室Dに臨む内面52cが梨地状に形成され、言い換えれば無数の微小凹凸を有する。この梨地状の内面51e,52cは、上部プレート51及び下部プレート52を成形するためのダイキャストやプレス金型における対応箇所の面に、ショットブラスト等による粗面加工を施しておくことによって形成することができる。
【0023】
また、図3に示される実施の形態においては、導圧室Dの内面51e,52cを梨地状に形成する代わりに、この導圧室Dの内面と接触可能に対向するサブダイアフラム6の上下面6c,6dが、梨地状に形成され、すなわち無数の微小凹凸を有する。この梨地状の上下面6c,6dは、サブダイアフラム6を成形するための金型キャビティにおける対応箇所の面に、ショットブラスト等による粗面加工を施しておくことによって形成することができる。
【0024】
なお、導圧室Dの内面51e,52c及びサブダイアフラム6の上下面6c,6dは、請求項1に記載された「互いに接触可能な対向面」に相当する。
【0025】
第一液室A、第二液室B、オリフィスC及び導圧室Dからなる液封空間には、例えばシリコーンオイル等、適当な粘性を有する非圧縮性の作動液が充填されている。この作動液は、弾性体3及び第二取付部材2と一体のケース11のカシメ部11bに、隔壁5及びダイアフラム4を、液槽に貯留した前記シリコーンオイル等の液体中で組み込んでカシメ固定することによって、前記液体の一部が閉じ込められたものである。
【0026】
以上のように構成された液体封入式マウントは、第一取付部材1における外環12の取付腕12aが車体フレーム側に連結され、第二取付部材2がエンジン側ブラケット24に連結されることによって、エンジンを含むパワーユニットを車体フレームに弾性的に懸吊・支持するものである。そしてこの取付状態において、パワーユニットあるいは車両走行に伴う路面からの上下振動が入力されると、第一取付部材1と第二取付部材2が反復的に上下相対変位され、両取付部材1,2間で反復変形される弾性体3の弾性によって、振動が有効に吸収される。
【0027】
上記入力振動が、例えばエンジンのアイドリング時の機関振動等に起因する継続的かつ小振幅の中・高周波振動である場合は、サブダイアフラム6が共振して、導圧室D内を上下に反復変位することによって、弾性体3の変形に伴う第一液室Aの液圧変化が吸収される。このため、当該マウントの動ばね定数が低下して、振動の伝達を有効に絶縁する。
【0028】
入力振動が、例えば車両走行中における路面段差部への乗り上げや乗り下げのような、ショック入力による大振幅の低周波振動である場合、前記乗り上げによって、車体フレームと共に第一取付部材1が上方変位するか、もしくは前記乗り下げによってパワーユニットと共に第二取付部材2が下方変位する最初の半周期では、第一取付部材1におけるケース11の下部と、第二取付部材2におけるカップ状フランジ21との間で、弾性体3が圧縮されるのに伴って、第一液室Aの容積が拡大されるので、この第一液室Aの液圧が負圧となる。このため、導圧孔52b,51dを通じて導圧室Dに導入されている第一液室Aと第二液室Bの圧力差によって、サブダイアフラム6が導圧室D内を下方変位して、その下面6dが、隔壁5における導圧室Dの下部プレート52側の内面52cに押し付けられ、オリフィスCを通じて第二液室Bから第一液室Aへ作動液が移動する。また、次の半周期、すなわちリバウンド過程では、第一液室Aの容積が縮小過程に移行するので、サブダイアフラム6は導圧室D内を上方変位して、その上面6cが、隔壁5における導圧室Dの上部プレート51側の内面51eに押し付けられ、オリフィスCを通じて第一液室Aから第二液室Bへ作動液が移動する。
【0029】
そして、オリフィスC内の作動液をマスとし、第一液室Aと第二液室Bを形成する弾性体3及びダイアフラム4等によるばねとで構成される振動系の液柱共振周波数は、上述のショック入力による振動の周波数域に同調されているため、上述のようなオリフィスC内の作動液の反復移動が液柱共振により促され、作動液の粘性による高減衰を発生して、振動を速やかに収束させる。
【0030】
また、上述のショック等による大振幅の振動入力によって、サブダイアフラム6の下面6d又は上面6cが、導圧室Dの内面52c又は51eと接触される際には、導圧室Dの内面51e,52c又はサブダイアフラム6の上下面6c,6dが梨地状に形成されているので、サブダイアフラム6の衝突力が緩和される。これは、梨地による微小凸部が先行して接触すること、及び梨地による微小凹凸と相手面との間に作動液が残留し、隔壁5とサブダイアフラム6の接触面積が小さくなることによる。その結果、打音の発生を有効に抑制することができる。
【0031】
しかも、上述のように、サブダイアフラム6の下面6d又は上面6cが、導圧室Dの内面52c又は51eと接触される際には、梨地による微小凹凸と相手面との間に作動液が閉じ込められるので、サブダイアフラム6の摩耗が起こりにくく、したがって、打音の抑制効果が長期にわたって維持される。
【0032】
なお、導圧室Dの内面51e,52c及びサブダイアフラム6の上下面6c,6dは、その双方を梨地状に形成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る液体封入式マウントを示す縦断面図である。
【図2】本発明に係る液体封入式マウントの第一の形態を示す要部拡大断面図である。
【図3】本発明に係る液体封入式マウントの第二の形態を示す要部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 第一取付部材
2 第二取付部材
3 弾性体
4 ダイアフラム
5 隔壁
51 上部プレート
51d,52b 導圧孔
51e,52c 内面
52 下部プレート
6 サブダイアフラム
6c 上面
6d 下面
A 第一液室
B 第二液室
C オリフィス
D 導圧室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の第一取付部材(1)と、その内周側に配置された第二取付部材(2)と、前記第一取付部材(1)と第二取付部材(2)間に接合された弾性体(3)と、外周が前記第一取付部材(1)に封着されたダイアフラム(4)と、前記弾性体(3)とダイアフラム(4)の間の液封空間を前記弾性体(3)側の第一液室(A)と前記ダイアフラム(4)側の第二液室(B)に分離するように配置された隔壁(5)と、この隔壁(5)内に形成されて前記両液室(A,B)に連通した導圧室(D)内に厚さ方向変位可能かつ前記両液室(A,B)間を閉塞するように配置されたサブダイアフラム(6)とを備え、前記導圧室(D)と前記サブダイアフラム(6)の互いに接触可能な対向面のうち少なくとも一方が、梨地状に形成されたことを特徴とする液体封入式マウント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−247843(P2007−247843A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−74789(P2006−74789)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】