説明

液体注入方法及び液体収容容器

【課題】使用済みの液体収容容器を安価に利用する。
【解決手段】液体収容室370内の液体の消費に伴って外部から液体収容室370内に大気を導入する大気連通路150の途中に、液封用の細い連通路360が装備される液体収容容器1において、細い連通路360よりも上流で大気連通路150に連通する注入口601を開けて、液体供給孔50からの真空吸引により内部を減圧して、その注入口601から液体収容室370側に向けて液体を充填後、注入口601を封止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体消費装置に着脱可能に装着される容器本体内に貯留している液体を前記液体消費装置に供給する大気開放タイプの液体収容容器に液体を注入する方法及びそれにより製造した液体収容容器に関する。
【背景技術】
【0002】
上記液体収容容器及び液体消費装置の例として、例えば、インク液を貯留した大気開放タイプのインクカートリッジと、該インクカートリッジが交換可能に装着されるインクジェット式記録装置を挙げることができる。
【0003】
上記インクカートリッジは、通常、インクジェット式記録装置のカートリッジ装着部に着脱可能に装着される容器本体内に、インクIが充填されるインク収容室と、前記インク収容室に貯留されている液体をインクジェット式記録装置に供給するためのインク供給孔と、前記インク収容室とインク供給孔とを連通するインク誘導路と、前記インク収容室内のインクIの消費に伴って外部から大気を前記インク収容室内に導入する大気連通路とを備えた構成とされていて、記録装置のカートリッジ装着部に装着された際に前記カートリッジ装着部に装備されたインク供給針が前記インク供給孔に挿入接続されることにより、貯留しているインクIがインクジェット式記録装置の記録ヘッドに供給可能になる。
【0004】
インクジェット式記録装置における記録ヘッドは、熱や振動を利用してインク滴の噴射を制御するもので、インクカートリッジがインク切れになり、インクIが供給されない状態でインク吐出動作を行う空打ちが発生すると、故障してしまう。そこで、インクジェット式記録装置では、記録ヘッドが空打ちをしないように、インクカートリッジにおけるインク液の残量を監視する必要が生じる。
【0005】
このような背景から、インクカートリッジに貯留されたインクを完全に最後まで使い切ってしまって、記録装置の記録ヘッドに空打ちを招くことがないように、容器本体内に貯留したインクIの残量が予め設定した閾値まで消費された時に、所定の電気信号を出力する液体残量センサを備えるインクカートリッジが開発されている(例えば、特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開2001−146030号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、インクカートリッジは、多数の部品から構成される高精度な容器で、コスト的には、内容物であるインクよりも、容器の方がコストがかかる。そのため、インクを消尽した時に、そのまま廃棄することは、有用な資源の廃棄となり、経済的に大きな損失となってしまう。
そこで、使用済みのインクカートリッジにインクを注入して利用することが望まれている。
【0008】
ところが、従来のインクカートリッジは、その組み立て工程の途中に、インクIの充填工程を組み込んでいて、インクカートリッジの組み立て完了後は、同様のインク充填方法が利用できない場合が多い。
そこで、新品のインクカートリッジを組み立てる際のインク充填方法は使わずに、インクIの充填を実現する再生方法の開発が必要となる。
【0009】
しかし、近年のインクカートリッジは、インク収容室とインク供給孔とを連通するインク誘導路に、インク供給孔へ供給するインク圧を調整すると共にインク供給孔側からの逆流を防止する逆止弁としても機能する差圧弁が設けられていたり、あるいはインクIの残量を検出する液体残量センサが備えられて、高性能化されている。更には、貯留しているインクIの品質を長期に渡って維持するために、インク収容室や大気連通路の構造も複雑化している。
そのため、インクIの注入のために、不用意に容器本体を加工すると、インクを注入した際に、インク収容室以外の部分にインクIが漏れたり、インク充填時に混入する気泡Bのために当初の機能が損なわれて、再生不良を招く虞がある。
また、注入のために容器本体に施す加工が複雑で、加工コストの高額化のために、再生コストが新規のインクカートリッジの製造コストを上回るようでは、再生の意義が薄れてしまう。
【0010】
そこで、本発明は、使用済みの液体収容容器に液体を注入する際に、容器本体への加工が少なくて済み、しかも、その液体収容容器の諸機能を損なうことなく液体を注入することができ、使用済みの液体収容容器を安価に利用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明の上記課題の解決は、液体消費装置に装着される容器本体内に、
液体を収容する液体収容室と、
前記液体消費装置に接続される液体供給孔と、
前記液体収容室に貯留されている液体を前記液体供給孔に誘導する液体誘導路と、
前記液体収容室内の液体の消費に伴って外部から大気を前記液体収容室内に導入する大気連通路と、
前記液体誘導路の途中に設けられ、当該液体誘導路への気体の流入を検知することで前記液体収容室の液体が消尽されたことを検出する液体残量センサと、が備えられると共に、
前記大気連通路の途中には、他の連通路部分よりも細く形成され、前記液体収容室に収容されている液体の一部をメニスカスにより保持可能な細い連通路部分が設けられ、
前記細い連通路部分に保持された液体により、前記液体収容室に収容されている液体を大気と遮断可能な大気開放タイプの液体収容容器に液体を注入する方法であって、
前記細い連通路部分の上流端より上流で注入口を形成する工程と、
前記注入口から所定量の液体を注入する工程と、
前記液体充填工程の終了後に前記注入口を封止する工程と、を含む液体注入方法により達成される。
【0012】
上記構成によれば、液体の注入のために容器本体に実施する加工は、液体を注入するための注入口を開口させることと、液体の充填後に、前記注入口を封止する加工で、いずれも簡単な加工となる。使用済みの液体収容容器に液体を注入する際に、容器本体への加工が少なくて済み、しかも、その液体収容容器の諸機能を損なうことなく液体を注入することができ、使用済みの液体収容容器を安価に利用することができる。
【0013】
(2)本発明の上記課題の解決は、液体消費装置に装着される容器本体内に、
液体を収容する液体収容室と、
前記液体消費装置に接続される液体供給孔と、
前記液体収容室に貯留されている液体を前記液体供給孔に誘導する液体誘導路と、
前記液体収容室内の液体の消費に伴って外部から大気を前記液体収容室内に導入する大気連通路と、
前記液体誘導路の途中に設けられ、当該液体誘導路への気体の流入を検知することで前記液体収容室の液体が消尽されたことを検出する液体残量センサと、が備えられると共に、
前記大気連通路の途中には、他の連通路部分よりも細く形成され、前記液体収容室に収容されている液体の一部をメニスカスにより保持可能な細い連通路部分が設けられ、
前記細い連通路部分に保持された液体により、前記液体収容室に収容されている液体を大気と遮断可能な大気開放タイプの液体収容容器に対し、
前記細い連通路部分の上流端より上流で注入口を形成し、前記注入口から所定量の液体を注入し、前記液体充填工程の終了後に前記注入口を封止して成る液体収容容器により達成される。
【0014】
上記構成によれば、液体収容容器は、新規の製造された液体収容容器と同様の状態に液体が充填されていて、新規の製造された未使用の液体収容容器と同様に容器内の諸機能が働き、新規の製造された未使用の液体収容容器と同様の使い勝手を得ることができ、容器としての製品寿命が延びるため、資源の節約、環境汚染の防止に貢献することができる。
また、コストが安価で、安価に提供できるため、液体消費装置の運用コストの低下にも貢献する。
【0015】
尚、上記構成の液体収容容器において、前記細い連通路部分における一端の大気流出口が、前記液体収容室の底壁近傍に設けられ、
他端の大気流入口が、前記液体収容室の底壁よりも下方に設けられていることが望ましい。
【0016】
このような構成の液体収容容器によれば、例えば、注入時等に液体収容室に所定量の液体を充填した時に、大気流出口に作用する液体収容室内の液圧で、細い連通部分に必要量の液体を送給して保持させることができ、大気連通路の途中における液封部の形成が容易にできる。
【0017】
また、上記構成の液体収容容器において、前記細い連通路部分が、略L字形状に形成されていることが望ましい。
このような構成の液体収容容器によれば、細い連通路部分に保持された封止用の液体に対して、略L字形状の屈曲部で発生するメニスカス力が、液体の移動を規制する保持力を発揮し、細い連通路部分に液体を保持した液封状態を安定維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る液体注入方法と、液体収容容器の好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
以下の実施形態では、液体収容容器の一例として、液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置(プリンタ)に装着されるインクカートリッジを挙げて説明する。
【0019】
図1は本発明に係る液体収容容器としてのインクカートリッジの外観斜視図であり、図2は図1のインクカートリッジを図1とは逆の角度からみた外観斜視図である。図3は図1のインクカートリッジの分解斜視図、図4は図3のインクカートリッジを図3とは逆の角度からみた分解斜視図である。図5は図1のインクカートリッジをインクジェット式記録装置のキャリッジに取り付けた状態を示す図であり、図6はキャリッジへの取付直前の状態を示す断面図、図7はキャリッジへの取付直後の状態を示す断面図である。
【0020】
本発明によるインクカートリッジ1は、図1及び図2に示すように、略直方体形状を有し、内部に設けられたインク収容室にインクIを貯留・収納する液体収容容器である。インクカートリッジ1は、液体消費装置の一例としてのインクジェット式記録装置のキャリッジ200に装着され、当該インクジェット式記録装置にインクIを供給する(図5参照)。
【0021】
インクカートリッジ1の外観的特徴について説明すると、図1及び図2に示すように、インクカートリッジ1は、フラットな上面1aを有し、上面1aに対向する底面1bにインクジェット式記録装置に接続されてインクIを供給するインク供給孔50が設けられている。また、底面1bには、インクカートリッジ1内部に大気を導入する大気開放孔100が開口している。すなわち、インクカートリッジ1は、大気開放孔100から空気を導入しつつインク供給孔50からインクIを供給する大気開放型のインクカートリッジである。
【0022】
インクカートリッジ1の大気開放孔100は、図6に示すように、底面1bに底面側から上面側に向けて開口した略円筒形状の凹部101と、凹部101の内周面に開口した小孔102とを有している。小穴102は、後述の大気連通路に連通しており、この小穴102を介して大気が後述の最上流のインク収容室370に導入される。
【0023】
大気開放孔100の凹部101は、キャリッジ200に形成された突起230を受け入れるような深さに構成されている。この突起230は、大気開放孔100を気密に閉塞する閉塞手段としての封止フィルム90の剥がし忘れを防止するための剥離忘れ防止突起である。すなわち、封止フィルム90が貼り付けられた状態では、大気開放孔100内に突起230が挿入されないため、インクカートリッジ1がキャリッジ200に取り付けられない。これによりユーザが、大気開放孔100上に封止フィルム90が貼り付けたままキャリッジ200にインクカートリッジ1を取り付けようとしても取り付けられないようにすることにより、インクカートリッジ1の装着時には確実に封止フィルム90を剥がすように促すことができる。
【0024】
また、図1に示すように、インクカートリッジ1の上面1aの一つの短辺側に隣り合う狭側面1cには、インクカートリッジ1が誤った位置に装着されることを防ぐための誤挿入防止突起22が形成されている。受け手となるキャリッジ200側には、図5に示すように、誤挿入防止突起22と対応する凹凸220が形成されており、インクカートリッジ1は誤挿入防止突起22と凹凸220とが干渉しない場合のみキャリッジ200に装着される。誤挿入防止突起22は、インクIの種類毎に異なる形状を有し、受け手となるキャリッジ200側の凹凸220も対応するインクIの種類に応じた形状を有している。したがって、図5に示すように、キャリッジ200が複数のインクカートリッジを装着可能な場合でも、誤った位置にインクカートリッジを装着することがない。
【0025】
また、図2に示すように、インクカートリッジ1の狭側面1cと対向する狭側面1dには、係合レバー11が設けられている。この係合レバー11は、キャリッジ200への装着時にキャリッジ200に形成された凹部210と係合する突起11aが形成されており、係合レバー11が撓みつつ突起11aと凹部210が係合することによりキャリッジ200に対してインクカートリッジ1が位置固定される。
【0026】
また、係合レバー11の下方には、回路基板34が設けられている。この回路基板34上には、複数の電極端子34aが形成されており、これら電極端子34aがキャリッジ200に設けられた電極部材(不図示)と接触することにより、インクカートリッジ1が電気的にインクジェット式記録装置と接続される。回路基板34には、データ書換可能な不揮発性メモリが設けられており、インクカートリッジ1に関する各種情報やインクジェット式記録装置のインク使用情報等が記憶される。また、回路基板34の裏側には、インクカートリッジ1内のインク残量を、残留振動を利用して検出する液体残量センサ(センサユニット)31(図3または図4参照のこと)が設けられている。以下の説明では、液体残量センサ31と回路基板34とを合わせてインクエンドセンサ30と呼称することとする。
【0027】
また、インクカートリッジ1の上面1aには、図1に示すように、インクカートリッジの中身を示すラベル60aが貼り付けられている。このラベル60aは、広側面1fを覆う外表面フィルム60の端部が上面1aにまでまたがって貼り付けられることによって形成されている。
【0028】
また、図1及び図2に示すように、インクカートリッジ1の上面1aの2つの長辺側に隣り合う広側面1e,1fは、フラットな面形状とされている。以下の説明では、便宜上、広側面1eの側を正面側、広側面1fの側を背面側、狭側面1cの側を右側面側、そして狭側面1dの側を左側面側として説明する。
【0029】
次に、図3及び図4を参照しながら、インクカートリッジ1を構成する各部について説明する。
【0030】
インクカートリッジ1は、容器本体であるカートリッジ本体10と、カートリッジ本体10の正面側を覆う蓋部材20とを有している。
【0031】
カートリッジ本体10は、その正面側には様々な形状を有するリブ10aが形成されており、これらのリブ10aが仕切を為して、インクIが充填される複数のインク収容室(液体収容室)、インクIは充填されない未充填室、後述の大気連通路150の途中に位置する空気室などを、内部に区画形成する。
カートリッジ本体10と蓋部材20との間には、カートリッジ本体10の正面側を覆うフィルム80が設けられており、このフィルム80によってリブ、凹部、溝の上面が塞がれて複数の流路やインク収容室、未充填室、空気室が形成される。
【0032】
またカートリッジ本体10の背面側には、差圧弁40を収容する凹部としての差圧弁収容室40aと気液分離フィルタ70を構成する凹部としての気液分離室70aとが形成されている。
【0033】
差圧弁収容室40aには、バルブ部材41とバネ42とバネ座43とが収納されて差圧弁40を構成している。差圧弁40は、下流側のインク供給孔50と上流側のインク収容室との間に配置されており、上流側に対して下流側を減圧することで、インク供給孔50に供給されるインクIが負圧となるように構成されている。
【0034】
気液分離室70aの上面には、気液分離室70aの中央部近傍に設けられた外周を囲む土手70bに沿って気液分離膜71が貼着されている。この気液分離膜71は、気体を通過させるとともに液体を通過不可能に遮断する素材であり、全体で気液分離フィルタ70を構成している。気液分離フィルタ70は、大気開放孔100とインク収容室とを結ぶ大気連通路150内に設けられており、インク収容室のインクIが大気連通路150を経て大気開放孔100から流出しないようにするためのものである。
【0035】
カートリッジ本体10の背面側には、差圧弁収容室40aと気液分離室70a以外にも複数の溝10bが刻まれている。これらの溝10bは、差圧弁40と気液分離フィルタ70が構成された状態で外表面を外表面フィルム60が覆うことにより各溝10bの開口部が塞がれ、大気連通路150やインク誘導路が形成される。
【0036】
カートリッジ本体10の右側面側には、図4に示すように、インクエンドセンサ30を構成する各部材を収納する凹部としてセンサ室30aが形成されている。このセンサ室30aには、液体残量センサ31と、液体残量センサ31をセンサ室30aの内壁面に押しつけて固定する圧縮バネ32とが収納される。また、センサ室30aの開口部はカバー部材33によって覆われ、このカバー部材33の外表面33a上に回路基板34が固定される。液体残量センサ31のセンシング部材は回路基板34と接続されている。
【0037】
液体残量センサ31は、インク収容室からインク供給孔50との間のインク誘導路の一部を形成するキャビティと、このキャビティの壁面の一部を形成する振動板と、この振動板上に振動を印加させる圧電素子(圧電アクチュエータ)とを備えて、前記振動板に振動を印加した際の残留振動から前記インク誘導路内におけるインクIの有無を検出する。この液体残量センサ31は、インクIと気体(インクIに混入した気泡)との間での残留振動の振幅、周波数等の違いを検出して、カートリッジ本体10内におけるインクIの有無を検出する。
具体的には、カートリッジ本体10内のインク収容室のインクIが消尽されて、インク収容室内に導入された大気がインク誘導路を伝って、液体残量センサ31のキャビティ内に進入すると、その時の残留振動の振幅や周波数の変化から、その旨を検知し、インクエンドを示す電気信号を出力する。
【0038】
カートリッジ本体10の底面側には、先ほど説明したインク供給孔50と大気開放孔100以外に、図4に示すように、インク注入時に真空引き手段を介してインクカートリッジ1内部から空気を吸い出して減圧に用いられる減圧孔110と、インク収容室からインク供給孔50に至るインク誘導路を構成する凹部95aと、インクエンドセンサ30の下方に設けられたバッファ室30bとが形成されている。
【0039】
インク供給孔50、大気開放孔100、減圧孔110、凹部95a、及びバッファ室30bは、インクカートリッジ製造直後には、全てそれぞれ封止フィルム54,90,98,95,35によってそれぞれの開口部が封止された状態となっている。このうち、大気開放孔100を封止する封止フィルム90は、インクカートリッジをインクジェット式記録装置に装着して使用状態とする前にユーザによって剥離される。これにより、大気開放孔100が外部に露出し、インクカートリッジ1内部のインク収容室が大気連通路150を介して外気と連通する。
【0040】
また、インク供給孔50の外表面に貼り付けられた封止フィルム35は、図6及び図7に示すように、インクジェット式記録装置への装着時にインクジェット式記録装置側のインク供給針240によって破られるように構成されている。
【0041】
インク供給孔50の内部には、図6及び図7に示すように、装着時にインク供給針の240の外表面に押しつけられる環状のシール部材51と、プリンタに装着されていない場合はシール部材51と当接してインク供給孔50を閉塞するバネ座52と、バネ座52をシール部材51の当接方向に付勢する圧縮バネ53とを備えている。
【0042】
図6及び図7に示すように、インク供給針240がインク供給孔50内に挿入されると、シール部材51の内周とインク供給針240の外周がシールされ、インク供給孔50とインク供給針240との間の隙間が液密に封止される。また、インク供給針51の先端がバネ座52と当接し、バネ座52を上に押し上げ、バネ座52とシール部材51のシールが解除されることにより、インク供給孔50からインク供給針240にインクIが供給可能となる。
【0043】
次に、図8〜図12を参照しながら、上記インクカートリッジ1の内部構造について説明する。
【0044】
図8はインクカートリッジ1のカートリッジ本体10を正面側から見た図であり、図9はインクカートリッジ1のカートリッジ本体10を背面側から見た図であり、図10の(a)は図8の簡略模式図であり、図10の(b)は図9の簡略模式図であり、図11は図8のA−A断面図である。また、図12は図8に示した流路の一部拡大斜視図である。
【0045】
上記インクカートリッジ1では、インクIが充填される主なインク収容室として、上下2つに分断された上部インク収容室370及び下部インク収容室390と、これらの上下のインク収容室に挟まれるように位置するバッファ室430との3つのインク収容室が、カートリッジ本体10の正面側に形成されている。
また、カートリッジ本体10の背面側には、インクIの消費量に応じて、大気を最上流のインク収容室である上部インク収容室370に導入する大気連通路150が形成されている。
【0046】
インク収容室370,390及びバッファ室430は、リブ10aにより区分されている。そして、これらの各インク収容室は、水平方向に延在して収容室の底壁となるリブ10aの一部に、下方に窪ませた形状の窪み374,394,434が形成されている。
窪み374は、上部インク収容室370のリブ10aによる底壁375の一部を下方に窪ませたものである。窪み394は、下部インク収容室390のリブ10aによる底壁395と壁面の膨出部によりカートリッジ厚さ方向に窪ませたものである。窪み434は、バッファ室430の10aによる底壁435の一部を下方に窪ませたものである。
【0047】
そして、各窪み374,394,434の底部又はその付近には、インク誘導路380,420,440に連通するインク排出口371,312,432が設けられている。
インク排出口371,432は、各インク収容室の壁面をカートリッジ本体10の厚さ方向に貫通した貫通孔である。また、インク排出口312は、液体残量センサ31内のキャビティ(流路)の出口である。
【0048】
インク誘導路380は、一端が上部インク収容室370のインク排出口371に連通すると共に、他端が下部インク収容室390に設けられたインク流入口391に連通しており、上部インク収容室370のインクIを下部インク収容室390に誘導する連絡流路となっている。このインク誘導路380は、上部インク収容室370のインク排出口371から鉛直下方に延びた形態で設けられており、連絡流路内での液体の流れ方向が上から下への降下流となる降下型接続で一対の液体収容室370,390相互を接続している。
【0049】
インク誘導路420は、一端が下部インク収容室390の下流に位置する液体残量センサ31内のキャビティのインク排出口312に連通すると共に、他端がバッファ室430に設けられたインク流入口431に連通しており、下部インク収容室390のインクIをバッファ室430に誘導する。このインク誘導路420は、液体残量センサ31内のキャビティのインク排出口312から斜め上方に延びた形態で設けられており、連絡流路内での液体の流れ方向が下から上への上昇流となる上昇型接続で一対のインク収容室390,430相互を接続している。
【0050】
即ち、上記カートリッジ本体10では、3個のインク収容室370,390,430相互は、降下型接続と、上昇型接続とが交互に並ぶ直列状に接続されている。
【0051】
インク誘導路440は、バッファ室430のインク排出口432から差圧弁40にインクIを誘導するインク流路である。
【0052】
上記の各インク収容室のインク流入口391,431は、いずれも、各インク収容室において、それぞれの収容室に設けられたインク排出口371,312よりも上方で、各インク収容室の底壁375,395,435の近傍に設けられている。
【0053】
以下、まず主たるインク収容室である上部インク収容室370からインク供給孔50に至るまでのインク誘導路を図8〜図12を参照しながら説明する。
【0054】
上部インク収容室370は、カートリッジ本体10内の最上流(最上位)のインク収容室で、図8に示すように、カートリッジ本体10の正面側に形成されている。この上部インク収容室370は、インク収容室の約半分を占めるインク収容領域であり、カートリッジ本体10の略半分から上の部分に形成されている。上部インク収容室370の底壁の窪み374には、インク誘導路380と連通するインク排出口371が開口している。このインク排出口371は、上部インク収容室370の底壁となっているリブ10aのよりも下がった位置にあり、上部インク収容室370内のインク液面が底壁まで下がっても、その時の液面よりも下方に位置して、安定したインクIの導出を継続する。
【0055】
インク誘導路380は、図9に示すように、カートリッジ本体10の背面側に形成され上方からインクIを下方の下部インク収容室390に導く。
【0056】
下部インク収容室390は、上部インク収容室370に貯留されているインクIが導入されるインク収容室で、図8に示すように、カートリッジ本体10の正面側に形成されるインク収容室の約半分を占めるインク収容領域であり、カートリッジ本体10の略半分から下の部分に形成されている。この下部インク収容室390の底壁となっているリブ10aの近傍に、インク誘導路380と連通するインク流入口391は、下部インク収容室390の底壁395の下方に配置された連通流路に開口しており、該連通流路を介して上部インク収容室370からのインクIが流入する。
【0057】
下部インク収容室390は、底壁395を貫通したインク排出口311により上流側インクエンドセンサ連絡流路400に連通している。上流側インクエンドセンサ連絡流路400には、三次元的に形成された迷路流路が形成されており、この迷路流路にてインクエンド前に流入した気泡B等を捕捉して下流側に流れないように構成されている。
【0058】
上流側インクエンドセンサ連絡流路400は、図示せぬ貫通孔を介して下流側インクエンドセンサ連絡流路410に連通しており、下流側インクエンドセンサ連絡流路410を介してインクIが液体残量センサ31に導かれる。
【0059】
液体残量センサ31に導かれたインクIは、液体残量センサ31内のキャビティ(流路)を通って、キャビティの出口であるインク排出口312からカートリッジ本体10の背面側に形成されたインク誘導路420に導かれる。インク誘導路420は、液体残量センサ31から斜め上方にインクIを導くように形成されており、バッファ室430と連通するインク流入口431に接続されている。これにより、液体残量センサ31を出たインクIは、インク誘導路420を経てバッファ室430に導かれる。
【0060】
バッファ室430は、上部インク収容室370と下部インク収容室390との間にリブ10aにより区画形成された小部屋であり、差圧弁40の直前のインク貯留空間として形成されている。バッファ室430は、差圧弁40の裏側に対向するように形成されており、バッファ室430の窪み434に形成されたインク排出口432が連通したインク誘導路440を介して差圧弁40にインクIが流入する。
【0061】
差圧弁40に流入したインクIは、差圧弁40によって下流側に導かれ、貫通孔451を介して出口流路450に導かれる。出口流路450は、インク供給孔50に連通しており、インク供給孔50に差し込まれたインク供給針240を介してインクIがインクジェット式記録装置側に供給される。
【0062】
なお、上記インクカートリッジ1の場合、図8にも示したように、カートリッジ本体10の正面側には、前述のインク収容室(上部インク収容室370,390、バッファ室430)や、空気室(インクトラップ室340、連絡バッファ室350)や、インク誘導路(上流側インクエンドセンサ連絡流路400、下流側インクエンドセンサ連絡流路410)の他に、インクIが充填されない未充填室501が画成されている。
【0063】
未充填室501は、カートリッジ本体10の正面側で、左側面寄りのハッチングを施した領域で、上部インク収容室370と下部インク収容室390とに挟まれるように画成されている。
そして、この未充填室501は、その内部領域の左上隅に、背面側に貫通した大気開放孔502が設けられ、該大気開放孔502により外気に連通している。
この未充填室501は、インクカートリッジ1を減圧パック包装した時に、脱気用負圧を蓄圧した脱気室となる。
【0064】
次に、大気開放孔100から上部インク収容室370に至るまでの大気連通路150を図8〜図12を参照しながら説明する。
【0065】
インクカートリッジ1内のインクIが消費されてインクカートリッジ1内部の圧力が低下すると、貯留しているインクIの減少分だけ大気開放孔100から大気(空気)が上部インク収容室370に流入する。
【0066】
大気開放孔100の内部に設けられた小穴102は、カートリッジ本体10の背面側に形成された蛇道310の一端に連通している。蛇道310は、大気開放孔100から上部インク収容室370までの距離を長くしインク中の水分の蒸発を抑制するように細長く形成された蛇行路である。蛇道310の他端は、気液分離フィルタ70に接続されている。
【0067】
気液分離フィルタ70を構成する気液分離室70aの底面には、貫通孔322が形成されており、貫通孔322を介してカートリッジ本体10の正面側に形成された空間320に連通している。気液分離フィルタ70においては、貫通孔322と蛇道310の他端との間に気液分離膜71が配置される。気液分離膜71は撥水性および撥油性の高い繊維材料をメッシュ状に編みこんだもので形成される。
【0068】
空間320は、カートリッジ本体10の正面側からみて上部インク室の右上方に形成されている。空間320には、貫通孔322の上部に貫通孔321が開口している。空間320は、この貫通孔321を介して背面側に形成された上部連結流路330に連通している。
【0069】
上部連結流路330は、インクカートリッジ1の最も上面側、すなわちインクカートリッジ1が取り付けられた状態における重力方向で最も上となる部分を通過するように、背面側から見て貫通孔321から長辺に沿って右方向に延びる流路部分333と、短辺近傍の折り返し部335で折り返して流路部分333よりもインクカートリッジ1の上面側を通って貫通孔321の近傍に形成された貫通孔341まで延びる流路部分337とを有している。なお、貫通孔341は、正面側に形成されたインクトラップ室340に連通している。
【0070】
ここで、背面側からこの上部連結流路330を見ると、折り返し部335から貫通孔341までの延びる流路部分337には、貫通孔341が形成された位置336と、位置336よりカートリッジ厚さ方向位置が深く掘り下げられた凹部332が設けられており、この凹部332を区切るようにリブ331が複数形成されている。また、貫通孔321から折り返し部335まで延びる流路部分333は、折り返し部335から貫通孔341までの延びる流路部分337よりも深さが浅く形成されている。
【0071】
この例では、上部連結流路330を重力方向で最も上となる部分に形成することで、基本的にはインクIが上部連結流路330を超えて大気開放孔100側に移動しないように構成されている。また、上部連結流路330は、毛細管現象等によりインクIの逆流が発生しない程度に幅広の太さを有するとともに、流路部分337には凹部332が形成されているので逆流してきたインクIを捕捉しやすく構成されている。
【0072】
インクトラップ室340は、正面側から見てカートリッジ本体10の右上方の隅の位置に形成された直方体形状の空間である。貫通孔341は、図12に示すように、正面側から見てインクトラップ室340の左上方奥側隅部近傍に開口している。また、インクトラップ室340の右下方手前側隅部には、仕切となるリブ10aの一部が切り欠かれた切り欠き部342が形成されており、この切り欠き部342を介して連絡バッファ室350に連通している。ここで、インクトラップ室340および連絡バッファ室350は、大気連通路150の途中の容積を拡張した形態の空気室で、何らかの理由により上部インク収容室370からインクIが逆流した場合でもこのインクトラップ室340および連絡バッファ室350にインクIを留め、これ以上大気開放孔100側へなるべく流れ込まないように構成されたものである。具体的なインクトラップ室340および連絡バッファ室350の役割については後述する。
【0073】
連絡バッファ室350は、インクトラップ室340の下方に形成された空間である。連結バッファ室350の底面352にはインク注入時に空気抜きを行うための減圧孔110が設けられている。また、底面352近傍であってインクジェット式記録装置への装着時最も重力方向下方の部位には厚さ方向側に貫通孔351が開口しており、この貫通孔351を介して背面側に形成された細い連通路360に連通している。
【0074】
細い連通路360は、上部インク収容室370を大気開放孔100に連通させる大気連通路150の一部を成すもので、図10(b)に示すように、背面側から見て中央上方側に延びており、上部インク収容室370の底面近傍に開口した貫通孔372を介して上部インク収容室370と連通している。
細い連通路360の一端の貫通孔372は、大気連通路150を介して外気を上部インク収容室370内に導入する大気流出口である。また、細い連通路360の他端の貫通孔351は、連絡バッファ室350に連通しており、連絡バッファ室350から細い連通路360に外気を導入させる大気流入口である。
【0075】
上記の細い連通路360では、その一端の大気流出口である貫通孔372が、最上流の上部インク収容室370の底壁375(図10(a)参照)の近傍に設けられ、更に、他端の大気流入口である貫通孔351が上部インク収容室370の底壁375よりも距離H1だけ下方に設けられている。
【0076】
細い連通路360は、図10(b)に示すように、大気流出口である貫通孔372から略垂直に距離H1だけ降下する第1連通路361と、この第1連通路361の下端から略水平に距離L1だけ延出して大気流入口である貫通孔351に連通する第2連通路362とによって、略L字形状に形成されている。
【0077】
第1連通路361と第2連通路362とにより略L字形状に形成された細い連通路360は、大気連通路150を構成する他の連通路部分よりも流路断面が細く形成された連通路で、上部インク収容室370に収容されているインクIの一部を通路のメニスカスにより第1連通路361及び第2連通路362内に保持している。
連通路360は全ての部分においてメニスカスを形成できる程度に細いので、温度変化などで上部インク収納室370内部の空気が膨張ないし収縮し、連通路360内で形成されている液面が移動した場合においても、連通路360内のいずれかの場所でメニスカスを形成できる。
また、細い連通路360の内部に保持されるインク量が、上部インク収容室370に収容されているインクIを外部の大気から遮断可能な適当量となるように、前述の第1連通路361の長さH1や第2連通路362の長さL1が設定されている。
【0078】
以上に説明したインクカートリッジ1では、大気連通路150は、その途中に設けられた細い連通路360の部分に保持されたインクIにより液封されているため、上部インク収容室370に貯留されているインク中の水分が大気連通路150から外部に蒸発することがなく、水分の蒸発によるインクIの粘度上昇を防止できる。また、細い連通路360における液封は、上部インク収容室370内のインクIの消費により上部インク収容室370内の気圧が下がると、外部の大気を微少な気泡状態にして液封しているインク中を通過させて上部インク収容室370内に導入し、上部インク収容室370内の気圧を大気圧に戻すが、上部インク収容室370内の気圧が下がらないときは外部の大気が導入されることがない。
即ち、大気連通路150を介したインク収容室370内のへの大気の流入が必要最小限に規制されるため、インクIと新鮮な空気との接触によるインクIの品質劣化を抑えることができる。
従って、各インク収容室370,390,430に貯留しているインクIの品質をより長期に渡って、安定維持することができる。
【0079】
また、上記のインクカートリッジ1の場合、液封を行う細い連通路360は、一端の大気流出口である貫通孔372が、上部インク収容室370の底壁375の近傍に設けられ、他端の大気流入口である貫通孔351が、上部インク収容室370の底壁375よりも距離H1だけ下方に設けられている。
そのため、例えば、工場等でカートリッジ本体10内に所定量のインクIを充填した時に、大気流出口に作用する上部インク収容室370内のインクIの液圧で、細い連通路360の部分に必要量のインクIを送給して保持させることができ、大気連通路150の途中の液封部の形成が容易にできる。
【0080】
また、上記のインクカートリッジ1の場合、細い連通路360の部分が、略L字形状に形成されているため、細い連通路360の部分に貯留された封止用のインクIに対して、略L字形状の屈曲部で発生するメニスカス力が、インクIの移動(逆流)を規制する保持力を発揮し、細い連通路360の部分にインクIを保持した液封状態をより長期にわたって安定維持することができる。
【0081】
なお、上記のインクカートリッジ1では、一つのカートリッジ本体内に3個のインク収容室を区画形成しているが、カートリッジ本体内に装備するインク収容室の数量は、3個以上の任意数に設定でき、インク収容室の装備数が増えるほど、気泡トラップが多重化されて、気泡Bの下流への移動を阻止する性能が向上する。
【0082】
次に、以上に説明したインクカートリッジ1内のインクIが消尽された場合に、その使用済みのインクカートリッジ1にインクIを注入する方法の一実施の形態を、図13〜図14に基づいて説明する。
【0083】
まず、本実施の形態の注入方法で使用するインク再注入装置の構成について説明する。
インク再注入装置600は、図13に示すように、カートリッジ本体10に穿孔加工により開けた注入口601に接続されるインク注入手段610と、カートリッジ本体10のインク供給孔50に接続される真空吸引手段620とから構成されている。
【0084】
インク注入手段610は、充填するインクIを貯留したインクタンク611と、このインクタンク611内のインクIを前記注入口601に接続された流路612に圧送するポンプ613と、このポンプ613と注入口601との間で流路612を開閉するバルブ614とを備えている。
【0085】
真空吸引手段620は、真空吸引に必要な負圧を発生する真空ポンプ621と、この真空ポンプ621の発生する負圧をインク供給孔50に作用させる連絡流路622と、連絡流路622の途中に装備されて真空吸引によりカートリッジ本体10側から連絡流路622に流入してきたインクIを捕捉・回収して、インクミスト等から真空ポンプ621を保護するインクトラップ623と、このインクトラップ623とインク供給孔50との間で連絡流路622を開閉するバルブ624とを備えている。
【0086】
本実施の形態では、カートリッジ本体10の構造や機能を配慮し、カートリッジ本体10への穿孔加工により形成する注入口601の位置は、大気連通路150の一部を構成する細い連通路360の上流端に位置する貫通孔351に連通するように装備される。
貫通孔351に連通する注入口601は、次のようにして形成する。
まず、インクカートリッジ1から蓋部材20を採りはずして、カートリッジ本体10の正面側に溶着されているフィルム80を露出させる。そして、貫通孔351に一致するように、フィルム80に孔を開けることで、形成する。なお、該注入口601に挿入される流路612の先端部は、例えば、貫通孔351に押し当てると、貫通孔351の周囲の容器壁面に気密に密着して、流路612と細い連通路360とを気密な接続状態とするシールリング等が設けられている。
【0087】
なお、カートリッジ本体10上の注入口601は、細い連通路360の上流端より上流で大気連通路150に連通すれば良く、注入口601の装備位置は、上記実施の形態に限らない。
例えば、図14に示すように、気液分離フィルタ70を構成する気液分離室70aに開口する貫通孔322に対向する位置P1に設定しても良い。この場合は、気液分離フィルタ70を構成する気液分離膜71を剥がして、貫通孔322に流路612を接続することになる。
【0088】
本実施の形態では、まず、細い連通路360の部分の上流端より上流で大気連通路150に連通する注入口601をカートリッジ本体10に開口させる注入口形成工程と、インク供給孔50から内部に残留するインク及び残留気体を真空吸引手段620により吸引除去する真空吸引工程と、注入口601からインク注入手段610により所定量のインクIを注入する液体充填工程と、液体充填工程の終了後に注入口601を封止する封止工程と、を順に実施することで、使用済みのインクカートリッジ1を、再び使用可能なインクカートリッジ(液体収容容器)として復活させる。
上記真空吸引工程と液体充填工程は、上記のように吸引工程を行った後、減圧状態を維持した工程を間において、続いて液体を充填するような工程をとる事も可能である。
また、真空吸引工程の途中で、液体充填工程を開始するような工程や、真空吸引工程を行いながら、液体充填工程を行う工程をとる事も可能である。
液体充填工程においては、具体的には、真空吸引工程を開始する時には、インク注入手段610の注入口601から流路612の間が注入前に吸引工程に同期して減圧状態に置かれるように開閉バルブ614を閉状態にし、その後、開閉バルブ614を開くことで、上記のような、1.真空吸引工程と充填工程を順次行う場合、2.真空吸引工程と充填工程を一部重複する工程として行う場合、3.真空吸引工程を行いながらほぼ同期して充填工程を行う場合等、で液体充填を空気の取り込みをきわめて少なくし短時間で行うことが可能となり、再生カートリッジの品質を落とす事が無いようにする事が出来る。
また更に、再充填するインクIの脱気度が高く(溶存空気、溶存気体の割合が少ない)管理されたインクの場合には、真空吸引手段620をコントロールし、液体充填工程のインク注入速度をゆっくりとする事でより気泡の取り込みのない液体充填を可能にすることで、再生カートリッジの品質を落とす事が無いようにする事も出来る。
【0089】
封止工程は、具体的には、注入口601を、封止フィルムの接着,溶着等で気密に塞ぐ処理工程である。また、回収時のカートリッジ状態や再生処理時の注入口601の状態から、封止フイルムの接着,溶着等で気密に塞ぐことが困難である場合には、気密に塞ぐことを可能とするフイルム以外の封止材料(軟質樹脂材料、接着剤等)を利用する事もできる。
更に、封止工程を終えた再生カートリッジを、遮気性素材(遮気性フイルムや遮気性金属材料、アルミ素材等)でパックする工程を加える事も可能であり、このようにして製造した再生インクカートリッジは、それが再び流通過程を経て消費者の下に届くまで、直接流通過程下の環境に触れる事が無い為、より安定した再生品質を維持する事が可能となる。更に、遮気性素材のパック内の空気を脱気した状態で再生カートリッジをパックすることでより安定した再生品質を維持する事が可能となる。
【0090】
以上に説明した本実施の形態では、インクIの注入のためにカートリッジ本体10に実施する加工は、細い連通路360の部分の上流端より上流で大気連通路150に連通するように、インクを注入するための注入口601を開口させることと、インクIの充填後に、注入口601を封止する加工で、いずれも簡単な加工となる。従って加工コストが安価で済み、また、手間もかからない。
【0091】
そして、本実施の形態では、インク供給孔50から内部に残留するインク及び残留気体を吸引除去する真空吸引工程を備えているため、注入口601から所定量のインクを注入する液体充填工程は、カートリッジ本体10の各インク誘導路380,420,440や各インク収容室を減圧環境に管理して、注入したインクを、インク収容室370,390,430だけでなく、インク供給孔50に至るすべてのインク誘導路の隅々まで、効率よく充填できる。
【0092】
また、インクIの充填時に混入する気泡も、真空吸引によりインク供給孔50から外部に排除したり、あるいは真空吸引により形成する容器内の減圧環境により、流入した気泡を液中に溶解・消滅させることができる。
従って、インクIの注入時に混入する気泡が、インク収容室やインク誘導路に浮遊したり、あるいは流路壁面に付着して残存することがなく、例えば、液体残量センサの検出部付近に気泡が残存することにより液体残量センサが正常に作動しなくなるといった不都合も生じない。
【0093】
また、注入口601を設ける位置が、大気連通路150の一部の細い連通路360の部分の上流であることから、この細い連通路360の部分にも、インクを注入することができる。
大気連通路150中の細い連通路360の部分に充填されたインクは、インク収容室370内のインクと大気連通路150の外部の大気との間を遮断して、インク収容室370内のインクIの外気との接触を必要最小限に抑えることで、インクIの劣化を防止するもので、このような細い連通路360の部分に託された機能(貯留されているインク中の水分の蒸発防止など)も、容器の新規製造時と同様に、復活させることができる。
即ち、上記構成によれば、使用済みのインクカートリッジ1にインクを注入する際に、カートリッジ本体10への加工が少なくて済み、しかも、そのインクカートリッジ1の諸機能を損なうことなくインクを注入することができ、使用済みのインクカートリッジ1を安価に利用することができる。
【0094】
そして、このようなインクカートリッジを提供すれば、インクカートリッジの容器としての製品寿命が延びるため、資源の節約、環境汚染の防止に貢献することができる。また、コストが低く、安価に提供できるため、インクジェット式記録装置の運用コストの低下にも貢献する。
【0095】
本実施の形態を実施する際に使用するインク再注入装置600は、具体的には、入手が容易な器具を代用することもできる。
例えば、インク注入手段610の場合、注射器の用にシリンダとピストンで構成される注入器を代用したり、変形可能なペットボトルに補充インクを収容した補充ボトルを代用することもできる。
【0096】
また、本発明による液体収容容器は、上記実施形態に示したインクカートリッジに限らない。また、本発明による液体収容容器が装着される容器装着部を備えた液体消費装置も、上記実施形態に示したインクジェット式記録装置に限らない。
液体消費装置としては、液体収容容器が着脱可能に装着される容器装着部を備え、前記液体収容容器に貯留されている液体が装置に供給される各種の装置が該当し、具体例としては、例えば液晶ディスプレー等のカラーフィルタ製造に用いられる色材噴射ヘッドを備えた装置、有機ELディスプレー、面発光ディスプレー(FED)等の電極形成に用いられる電極材(導電ペースト)噴射ヘッドを備えた装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドを備えた装置、精密ピペットとしての試料噴射ヘッドを備えた装置等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明に係る液体収容容器としてのインクカートリッジの外観斜視図である。
【図2】図1のインクカートリッジを図1とは逆の角度からみた外観斜視図である。
【図3】図1のインクカートリッジの分解斜視図である。
【図4】図3のインクカートリッジを図3とは逆の角度からみた分解斜視図である。
【図5】図1のインクカートリッジをインクジェット式記録装置のキャリッジに取り付けた状態を示す図である。
【図6】図1のインクカートリッジのキャリッジへの取付直前の状態を示す断面図である。
【図7】図1のインクカートリッジのキャリッジへの取付直後の状態を示す断面図である。
【図8】図1のインクカートリッジのカートリッジ本体を正面側から見た図である。
【図9】図1のインクカートリッジのカートリッジ本体を背面側から見た図である。
【図10】(a)は図8の簡略模式図、(b)は図9の簡略模式図である。
【図11】図8のA−A断面図である。
【図12】図8に示したカートリッジ本体内の流路構造の一部の拡大斜視図である。
【図13】本発明に係る液体注入方法を実施するインク再注入装置の構成を示すブロック図である。
【図14】図10(b)に示したインクカートリッジの構造において、本発明に係る液体注入方法でインクを注入可能な箇所の説明図である。
【符号の説明】
【0098】
1:インクカートリッジ(液体収容容器)、10:カートリッジ本体(容器本体)、11:係合レバー、20:蓋部材、30:インクエンドセンサ、31:液体残量センサ、40:差圧弁、50:インク供給孔(液体供給孔)、70:気液分離フィルタ、80:フィルム、90:封止フィルム(閉塞手段)、100:大気開放孔、150:大気連通路、220:キャリッジ、330:上部連結流路、340:インクトラップ室(空気室)、350:連結バッファ室(空気室)、351:貫通孔(大気流入口)、370:上部インク収容室(液体収容室)、360:細い連通路、361:第1連通路、362:第2連通路、371,432:インク排出口(液体排出口)、372:貫通孔(大気流出口)、374,394,434:窪み、375,395,435:液体収容室の底壁、380:インク誘導路(液体誘導路)、390:下部インク収容室(液体収容室)、391,431:インク流入口(液体流入口):400:上流側インクエンドセンサ連絡流路(液体誘導路)、410:下流側インクエンドセンサ連絡流路(液体誘導路)、420:インク誘導路(液体誘導路)、430:バッファ室(液体収容室)、501,511,512,521:未充填室(脱気室)、600:インク再注入装置、601:注入口、610:インク注入手段、620:真空吸引手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体消費装置に装着される容器本体内に、
液体を収容する液体収容室と、
前記液体消費装置に接続される液体供給孔と、
前記液体収容室に貯留されている液体を前記液体供給孔に誘導する液体誘導路と、
前記液体収容室内の液体の消費に伴って外部から大気を前記液体収容室内に導入する大気連通路と、
前記液体誘導路の途中に設けられ、当該液体誘導路への気体の流入を検知することで前記液体収容室の液体が消尽されたことを検出する液体残量センサと、が備えられると共に、
前記大気連通路の途中には、他の連通路部分よりも細く形成され、前記液体収容室に収容されている液体の一部をメニスカスにより保持可能な細い連通路部分が設けられ、
前記細い連通路部分に保持された液体により、前記液体収容室に収容されている液体を大気と遮断可能な大気開放タイプの液体収容容器に液体を注入する方法であって、
前記細い連通路部分の上流端より上流で注入口を形成する工程と、
前記注入口から所定量の液体を注入する工程と、
前記液体充填工程の終了後に前記注入口を封止する工程と、を含む液体注入方法。
【請求項2】
液体消費装置に装着される容器本体内に、
液体を収容する液体収容室と、
前記液体消費装置に接続される液体供給孔と、
前記液体収容室に貯留されている液体を前記液体供給孔に誘導する液体誘導路と、
前記液体収容室内の液体の消費に伴って外部から大気を前記液体収容室内に導入する大気連通路と、
前記液体誘導路の途中に設けられ、当該液体誘導路への気体の流入を検知することで前記液体収容室の液体が消尽されたことを検出する液体残量センサと、が備えられると共に、
前記大気連通路の途中には、他の連通路部分よりも細く形成され、前記液体収容室に収容されている液体の一部をメニスカスにより保持可能な細い連通路部分が設けられ、
前記細い連通路部分に保持された液体により、前記液体収容室に収容されている液体を大気と遮断可能な大気開放タイプの液体収容容器に対し、
前記細い連通路部分の上流端より上流で注入口を形成し、前記注入口から所定量の液体を注入し、前記液体充填工程の終了後に前記注入口を封止して成る液体収容容器。
【請求項3】
前記細い連通路部分における一端の大気流出口が、前記液体収容室の底壁近傍に設けられ、
他端の大気流入口が、前記液体収容室の底壁よりも下方に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の液体収容容器。
【請求項4】
前記細い連通路部分が、略L字形状に形成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の液体収容容器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−44193(P2008−44193A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−220763(P2006−220763)
【出願日】平成18年8月12日(2006.8.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】