説明

液圧アキュムレータ装置および液圧アキュムレータ装置の作動方法

本発明は、総ブレーキ装置、すなわち従来部分と別の部分、例えば回生部分とからなるブレーキ装置の一部として、ブレーキ回路もしくはブレーキペダルのピストン-シリンダユニット内における容積移動を誘起することができる方法および装置を開示する。このことを利用して、ブレーキ装置の液圧部分における制御可能なブレーキブースタによる圧力比の変化をブレーキ装置の別の部分の付加的なブレーキ作用により補償し、これにより、運転手がペダルの位置変化に基づいてブレーキペダルで実施しなくても、異なるブレーキシステムのブレーキ作用から総ブレーキ作用が得られる。本方法は、例えば、電流を生成する発電機として電動機を作動することによりブレーキ遅延が誘起される車両、および従来の液圧式ブレーキシステムを別のブレーキシステムまたはバックアップ-ブレーキシステムとしてさらに備える車両で使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
車両の液圧式ブレーキシステムでは、多くの場合ブレーキペダルが運転手によって操作され、場合によってはブレーキブースタの支援によって、出口に液圧装置を接続したマスタ・ブレーキシリンダの内部でピストンを変位する。これにより、ブレーキ液は液圧装置(例えばESPまたはABS)に注入され、ホイールブレーキシリンダに案内される。注入された容積はホイールブレーキシリンダ内でブレーキ圧力を高め、ブレーキディスクにブレーキライニングが圧着されることによってブレーキ作用が生じる。
【0002】
自動車を駆動するための電動モータが設けられた車両では、電動モータは、電動モータが駆動装置として使用されない走行状態では、バッテリを充電するための発電機として使用される。発電機としての電動モータの作動により、車両の運動エネルギーが電気エネルギーに変換されるブレーキ作用が生じる。これを回生ブレーキと呼ぶ。制動時に得られたエネルギーは後の時点で、再び別の形で、例えば車両を駆動するために使用される。
【0003】
発電機により制動のために貢献した発電機トルクは、一般に車両の走行速度に依存しており、したがって、制動時に変化するか、または発電機により生成されるブレーキ作用は十分ではない。変化する発電機トルクを補償または補足するために、回生ブレーキシステムと液圧式ブレーキシステムとを総ブレーキ装置として組み合わせることができる。
【0004】
例えば、運転手によるブレーキペダル操作によって、所望の総ブレーキトルクが規定された場合、運転手が望む総ブレーキトルクに比べて発電機トルクが小さすぎる場合に、液圧式ブレーキシステムによって、例えば液圧式ブレーキシステムにおける圧力上昇によって、総ブレーキトルクと発電機トルクとの差を埋め合わせることができる。例えば、液圧式ブレーキシステムにおけるブレーキブースタの作用の変化に起因する圧力変化は、従来のブレーキシステムでは、ブレーキペダルの操作距離の変化につながることが多く、これは運転手にとって苛立たしいものである。
【0005】
それ故、ブレーキペダルは、運転手のためにペダル感覚を生成するためのペダル距離シミュレータに接続されることが多く、ブレーキペダルは、ブレーキシステムから完全に分離されており、液圧式ブレーキシステムにおける圧力形成は、純粋に外力、例えばアキュムレータにより生じる。しかしながら、外力に故障が生じた場合、ブレーキペダルとホイールブレーキとの間の機械的結合はもはやなく、したがって、運転手のみによる非常操作の可能性がなくなるという危険性をはらんでいる。
【0006】
国際公開第2004/101308号パンフレットには、液圧式ブレーキシステムと回生ブレーキシステムとを一緒に作動し、この場合に高いブレーキ快適性を得るためにどのようにして液圧式ブレーキシステム内の圧力比を変更することができるかについての方法が記載されている。このために、この刊行物ではブレーキ媒体の容積が低圧アキュムレータに放出される。この低圧アキュムレータから、ポンプの操作によりブレーキ媒体を再び液圧回路に供給することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2004/101308号パンフレット
【発明の概要】
【0008】
請求項1の特徴を有する本発明による装置および請求項6の特徴を有する本発明による方法により、運転手操作力が加えられた場合に運転手を苛立たせるブレーキペダル位置変化を回避して、総ブレーキ装置の回生部分による発電機トルクと液圧ブレーキ装置のブレーキトルクとを組み合わせることが可能である。さらに、ブレーキペダルと液圧式ブレーキシステムとの連結が依然として設けられてことにより非常時にフォールバック・プランが保持される。
【0009】
このために、液圧アキュムレータ装置は液圧式ブレーキシステムに接続されており、液圧式ブレーキシステムは、非液圧式の別のブレーキシステムと共に総ブレーキシステムをなしている。液圧アキュムレータ装置は、マスタシリンダおよび液圧式ブレーキシステム内に接続された少なくとも1つのブレーキホイールに接続している。
【0010】
本発明の核は、液圧アキュムレータ装置が別のブレーキシステムの作動状態に関係して液圧式のブレーキシステムからの容積を収容するか、保持するか、または自動的に液圧式のブレーキシステム内に放出することである。液圧式のブレーキシステムからの容積を収容し、および/または液圧式のブレーキシステム内に容積を放出することにより、冒頭で述べたブレーキペダルのペダル位置変化に反作用させることができる。自動的な放出により、特に付加的な容積搬送装置、例えばアキュムレータを排出するための循環ポンプは不要となり、これにより安価な実施形態が得られる。
【0011】
有利な実施形態では、別のブレーキシステムの上記作動状態は、別のブレーキシステムの総ブレーキ作用への貢献度の変化によって表される。特に液圧アキュムレータ装置は、
別のブレーキシステムの貢献度が増大した場合に容積の収容が行われ、および/または
別のブレーキシステムの貢献度が減少した場合に容積の放出を行う
ように作動される。
【0012】
有利な実施形態では、液圧アキュムレータ装置は少なくとも1つのピストン、少なくとも1つのシリンダおよび少なくとも1つの弾性素子を備える。同様に、ダイアフラム式アキュムレータおよび/または金属ベローズ式アキュムレータの形態の液圧アキュムレータ装置ならびにアキュムレータ機能を有する他のあらゆる容量収容ユニットが可能である。
【0013】
さらに、液圧的な接続を遮断するための手段が設けられており、これらの手段によって、液圧アキュムレータ装置を液圧式ブレーキシステム内でホイールブレーキから分離することができる。これらの遮断手段は液圧アキュムレータ装置によって、
容積を収容することができるか、または容積を収容し、
容積を保持することができるか、または容積を保持し、
容積を放出することができるか、または容積を放出するように制御される。
【0014】
特に、ブレーキ装置は、ブレーキ装置のための操作素子を備え、操作素子は、同様に液圧アキュムレータ装置に接続されたピストン-シリンダユニットを備える。この液圧的な接続も別の遮断手段によって遮断することができる。この別の遮断手段によって、液圧アキュムレータ装置は、操作素子に組み込まれたピストン-シリンダユニットの方向に排出することができる。
【0015】
さらに、液圧アキュムレータ、ピストン-シリンダユニットのシリンダおよびマスタシリンダの少なくとも1つのシリンダのそれぞれの断面積は、液圧式ブレーキシステム内の容積搬送が液圧アキュムレータに関して、生じた圧力比に基づいて可能となるように、慎重に選択すべきである。このために、液圧アキュムレータ装置内に場合によっては既に提供されている圧力レベルと同様に、少なくとも1つの弾性素子の予荷重および設計も考慮すべきである。
【0016】
本発明による方法では、液圧アキュムレータ装置は、別のブレーキシステムの作動状態に関係して、液圧式ブレーキシステムからブレーキ液の容積を収容し、保持し、特に別のブレーキシステムのブレーキトルク変化に関係して、再び液圧式ブレーキシステムに放出するように作動される。
【0017】
さらに、別のブレーキシステムの作動状態は、別のブレーキシステムによる総ブレーキ作用への貢献度の変化によって表すことができる。別のブレーキシステムの総ブレーキ作用への貢献度が増大した場合、液圧アキュムレータ装置は容積を収容し、これに対して貢献度が減少した場合、液圧アキュムレータ装置は容積を放出する。
【0018】
別の構成では、液圧式ブレーキシステムは運転手により加えられたブレーキ力を増幅するブレーキブースタを備える。ブレーキブースタは、別のブレーキシステムとの組み合わせで、総ブレーキ作用を生成するように制御される。別のブレーキシステムの貢献度が増大した場合、ブレーキブースタの作用は低減され、別のブレーキシステムの貢献度が減少した場合、ブレーキブースタの作用は高められる。ブレーキブースタのこのような操作によって生じるブレーキペダルのペダル変位には、液圧アキュムレータ装置の本発明による操作が反作用し、特に液圧式ブレーキシステムからの容積収容および/または液圧式ブレーキシステム内への容積放出が反作用する。ペダル変位は、完全に、および/または少なくとも部分的に補償される。
【0019】
さらに、制御可能な遮断手段が設けられており、これらの遮断手段は、液圧アキュムレータ装置と液圧式ブレーキシステムとの間の少なくとも1つの液圧的な接続を遮断し、遮断手段の制御により、液圧式ブレーキシステムからのブレーキ液の容積放出および/または液圧式ブレーキシステム内への溶液収容ならびにブレーキ液の容積の蓄積が制御される。
【0020】
有利には、別の遮断手段が設けられており、これらの遮断手段は、液圧式ブレーキシステムに接続されたホイールブレーキを、液圧アキュムレータ装置およびマスタシリンダから液圧的に分離する。液圧式ブレーキシステム内に提供された制御可能なブレーキブースタにより、液圧式ブレーキシステムから分離されたホイールブレーキでは、制御可能なブレーキブースタの作動により液圧アキュムレータ装置を充填することができる。
【0021】
特に、アキュムレータから容積を放出することができる圧力レベルを高めるためにアキュムレータはあらかじめ充填され、これにより、アキュムレータからの容積をより高い圧力レベルで液圧式ブレーキシステムまたはピストン-シリンダユニットに再び供給することが可能である。これは、同様に液圧アキュムレータ装置の構造的設計により可能となる。
【0022】
本方法の有利な構成では運転手が制動しない走行状態でアキュムレータがあらかじめ充填される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1aは、液圧式ブレーキシステムに組み込まれた本発明による装置を示す図であり、図1bは、別の実施例を挿入部として示す図である。
【図2】電動機トルクが停止された場合のペダルにおける距離補償を行う3つの方法ステップを示す図である。
【図3】電動機トルクがスイッチオフされた場合のペダルにおける距離補償を行う3つの方法ステップを示す図である。
【図4】アキュムレータユニットが2つのチャンバを備えるが、図1とは反対に入口チャンバにではなく、液圧式ブレーキシステムに排出される本発明による装置の別の実施形態を示す図である。
【図5】図4に類似しているが、チャンバが1つしか設けられていない別の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
有利な実施形態では、従来の液圧部分(例えばESP,ABS構成素子を含む)と、付加的部分とからなる総ブレーキ装置から出発する。例示目的で、ブレーキ作用のための付加的な貢献が回生ブレーキシステムにより生じ、発電機モーメントによりもたらされると仮定する。ブレーキシステムの従来部分は入口装置101からなり、この入口装置を介して運転手力102をブレーキシステムに加えることができる。この運転手力は、連結素子104、例えば反応ディスクにおいて、例えば、制御可能なブレーキブースタによる支援力と組み合わせることができる。この制御可能なブレーキブースタは、例えば電気式に切り換えられる弁を有する電気機械式の制御可能な真空ブレーキブースタであってもよいし、もちろん他の実施形態も可能である。連結素子104はブレーキシステムのマスタシリンダ106の入口ロッドと機械的に結合105しており、図1にはタンデム式-マスタシリンダ106として示されているが、マスタシリンダはこの実施形態に限定されない。マスタシリンダ106はブレーキ液のための2つの出口107a,bを有し、これらの出口はブレーキシステムの少なくとも1つのブレーキ回路に通じており、したがって、ブレーキ回路に接続されたホイールブレーキ(図示しない)をマスタシリンダ106に液圧的に接続している。このマスタシリンダ106とホイールブレーキとの間の液圧的な接続は制御可能な弁124によって遮断することができる。従来の再循環システムでは、弁124は、液圧装置の流入弁、例えば切換弁の形態で提供されていてもよい。ここまでは、従来のブレーキシステムと際立った相違はない。場合によっては支援力と結合された運転手操作力は、マスタシリンダの圧力変化によって運転手のブレーキ願望を液圧式ブレーキシステムに伝達する。
【0025】
いま付加的ブレーキトルクを遮断したい場合、少なくとも1つのブレーキ回路のブレーキ圧を調整する装置が必要となる。これは、制御可能なブレーキブースタによる支援力を調整することによって確保できる。これにより、もちろん液圧式ブレーキシステム内の圧力が変化し、ひいては収容容積が変化し、これにより、操作ユニットが移動する。
【0026】
これを防止するために、ブレーキペダル距離の変化に反作用させる必要がある。
【0027】
このために、少なくとも1つの出口107a,bが別の構成部分108と液圧的に接続される。この構成部分108は、さらにピストン110を含む入口チャンバ109と液圧的に接続している。入口チャンバ109およびピストン110は構造的に入口装置101に組み込まれている。アキュムレータユニット108は2つの切換弁111,113とピストン-シリンダユニットとからなり、ピストン-シリンダユニットは、異なる断面積を有する2つのピストン114,115と2つのチャンバ121,122とからなり、これらピストンは、予荷重をかけられたばね116によって連結されている。さらに、ピストン115は圧縮ばね123を介して液圧アキュムレータにおける右側のチャンバ112のハウジングに接続されている。より大きい断面積を有するチャンバは、弁111によってブレーキ回路から分離することができ、より小さい断面積を有するチャンバは弁113によって入口チャンバ109から分離することができる。液圧式ブレーキシステムの従来の作動は、弁111および113が閉鎖状態に保持されるか、または弁111が閉鎖状態に保持され、ピストン109が停止していることによって可能であり、この場合、弁113は開放されていてもよい。
【0028】
本発明による方法を、総ブレーキ装置の第2の典型的な作動状態に基づき説明したい。このために、いま上記第1実施形態による構成から出発する。
【0029】
状態1:運転手が制動し、発電機トルクが起動されるか、または増大する。(図2)
状態2:運転手および発電機トルクが制動し、発電機トルクが停止されるか、または低下する。
【0030】
用語は、上記図面に対応する。本発明による装置および本発明による方法は、発電機トルクの起動・停止時のみではなく、発電機トルクの値の変更時にも使用される。図2aには、第1ステップで運転手がどのようにしてブレーキ願望により運転手力をブレーキシステムに加え、この場合に入口装置101が運転手によって変位されるかが示されている。運転手は従来通りに制動する。付加的に連結素子に、制御可能なブレーキブースタの支援力が加えられる。上述のように、このブレーキ状態では、弁111および113が閉鎖されているか、または弁111が閉鎖されており、ピストン109が停止しており、弁113が開放されていてもよい。
【0031】
いま発電機トルクが起動され、発電機トルクは車両を付加的に減速する。運転手はいま従来式および同時に回生式に制動する。一定の遅延を確保するために、支援力は図2bに示すように制御可能なブレーキブースタによって低減される。これにより、ブレーキシステム内の圧力が低減され、ブレーキ液はマスタシリンダに戻る。これにより、マスタシリンダのピストン、および連結素子の機械的結合により入口装置101もまたもとの作動方向とは反対に変位される。この変位を補償するために、弁111が開放され、ブレーキ液がブレーキ回路からアキュムレータに案内される。このために、弁113は閉鎖状態に保持される。
【0032】
これにより、入口装置101は再びもとの作動方向に変位される。したがって、発電機トルクの起動による入口装置の距離差は、ブレーキ媒体をアキュムレータ装置に完全に放出するか、または少なくとも部分的に放出することによって補償される。
【0033】
図3aでは、運転手が既に従来式および回生式のブレーキシステムを組み合わせて制動することを前提とする。図3aの状態は図2cの状態に対応する。入口装置101は、固定した作動距離に位置する。発電機トルクが停止された場合、制御可能なブレーキブースタはより大きい支援力を加え、ペダル位置に基づき運転手が期待する一定のブレーキ遅延を確保する必要がある。より大きい支援力はマスタシリンダ内により高い圧力をもたらし、対応したブレーキ媒体容積がブレーキ回路に移動され、ピストン、ひいては入口装置101も支援力方向に変位される。ここでも再びこのような変位を補償するために、容積は弁113の開放によってアキュムレータの右側のチャンバから入口装置101の入口チャンバ109に放出され、ピストン110は、これにより、運転手の方向に変位され、したがって入口装置の距離差は発電機トルクの減衰により完全に、または少なくとも部分的に補償される。
【0034】
ブレーキプロセスの終了後、弁111および113が開放され、アキュムレータは、場合によってはばね116および123の作用によって再び初期状態に移行する。このために、右側のチャンバ122は入口素子からブレーキ液を収容し、左側のチャンバ121は、ブレーキ回路またはマスタシリンダのリザーバタンクにブレーキ液を放出する。システムに再びブレーキ液を供給するここに示さない代替的な可能性は、2つのチャンバのそれぞれからブレーキ液を有する少なくとも1つのリザーバタンク、特にマスタシリンダのリザーバタンクへの遮断可能な直接の液圧接続によるものである。
【0035】
2つのチャンバからなるアキュムレータ装置の上記実施形態により、圧力レベルが上昇する。例えば、右側のピストンの断面積は、左側のピストンの断面積の1/3しかなく、ばね116の予荷重は、左側のチャンバに5barの圧力が形成され、右側のチャンバから少なくとも15barの圧力によりブレーキ液を取り込むことができるように、しかも、左側のチャンバにあらかじめ放出された容積の1/3のみを取り込むことができるように設計されている。
【0036】
例えば2つのピストンの連結によって、またはアキュムレータへのブレーキ液の放出によってばねの予荷重を誘起することができ、これによりばねの締め付けを行うこともできる。さらに、入口ピストン110に対する力がマスタシリンダにおける力よりも小さいという事実が利用される。
【0037】
液圧アキュムレータを作動するための上記過程に加えて、液圧アキュムレータをあらかじめ充填することもできる。これは、本発明による方法ではブレーキブースタの作動により行われ、ブレーキブースタはマスタシリンダピストン105に力を加え、これにより、容積は接続された少なくとも1つのブレーキ回路および液圧アキュムレータの方向に移動される。ブレーキ液の容積を液圧アキュムレータ、より正確にいえば液圧アキュムレータの左側のチャンバに供給するために、弁111が開放され、弁113が閉鎖される。
【0038】
さらに、ホイールブレーキとの液圧的な接続は弁124によって遮断され、これにより、液圧アキュムレータをあらかじめ充填する際にはブレーキ作用が阻止される。従来の再循環システムでは、これは液圧装置の流入弁、例えば切換弁の閉鎖により行われる。このようにあらかじめ充填を行うことにより、より小さい断面積に基づいたより高い圧力レベルで右側のチャンバからのより多くのブレーキ液を使用することができ、これにより使用範囲が拡大される。ブレーキブースタをあらかじめ充填することにより、同様にばね116の予荷重が生成される。
【0039】
本発明による装置の代替的な構成は、図1に挿入部117として示されている。第1実施形態(図1)の2つの弁および2部材からなるピストン-シリンダユニット108を組み合わせて、2つのチャンバ114,115,121,122を有するピストン-シリンダユニットが1つのみのチャンバ120を備えるアキュムレータの形のピストン-シリンダユニットにより代替される。ピストン-シリンダユニットは圧縮ばね118およびピストン119を含む。他の全ての構成素子111,113は同一である。
【0040】
使用した方法は、連結された2つのアキュムレータチャンバを有する上述の実施形態と同じ方法である。例として、ブレーキブースタの増幅係数は5であり、チャンバ120の断面積は、マスタシリンダの断面積と同一であり、入口チャンバ109の断面積はマスタシリンダの断面積の0.75倍であると仮定されたい。アキュムレータチャンバ120の内部のばね118の予荷重は、チャンバ5の圧力が5barとなり、ばねの剛性が無視できるように設計されたい。ブレーキシステム内の圧力は、発電機トルクが加えられる前に20barとされたい。25.4mmのマスタシリンダ直径によりマスタシリンダに対して1013Nの力が生じ、マスタシリンダに対して運転手によって加えられる力の割合は、1013/(5+1)=168Nとなる。液体が入口チャンバに放出された場合、5barおよび入口チャンバの断面積がマスタシリンダの断面積の0.75倍であることにより、190Nの運転手操作力が克服される。入口ピストン110の断面積がマスタシリンダの断面積より小さいので、液圧アキュムレータから入口チャンバへのブレーキ液の流出により形成される距離は、ブレーキ回路からのブレーキ液の流出によって補償される距離よりも大きい。詳細な説明は、図2および図3につき既に上述した方法に類似しているので省略する。2つのシリンダを有する液圧アキュムレータにおける説明に類似して、1つのみのシリンダを有する構成では、液圧アキュムレータはブレーキブースタの作動および弁111の開放、弁124の閉鎖によるホイールブレーキへの液圧的な接続の遮断ならびに弁113の閉鎖によってあらかじめ充填される。
【0041】
本発明による装置403の代替的な構成が図4に示されている。この図における素子の符号は図1の素子と同一である。この実施形態では、図1に比べると液圧アキュムレータは入口チャンバ109に排出されるのではなく、容積はもともとアキュムレータに収容されたように高圧下に再びブレーキシステムに供給される。このために、アキュムレータ装置と入口素子のピストンとの間に液圧的な接続は設けられていない。この実施形態でも、発電機ブレーキトルクが起動もしくは増大され、これにより、ブレーキブースタの支持力が低減された場合の操作素子の位置変化を、上記方法に類似して弁401の開放によりブレーキ液が2チャンバアキュムレータの左側の低圧チャンバに放出されることにより補償することができる。
【0042】
発電機トルクが停止もしくは低減された場合、一定のブレーキ遅延のために支援力を再び高める必要がある。この場合に、ペダル変位を少なくとも部分的に補償するために、弁402の開放により液体が圧力アキュムレータからブレーキ回路に供給され、不可欠な容積を補償するために働く。詳細な説明は、図2および図3に基づき既に説明した方法に類似しているので省略する。
【0043】
ブレーキプロセス後、アキュムレータは初期状態に移行され、この場合に、弁401および402が開放され、場合によってはばね116および123の作用による支援によって制動前のチャンバの充填状態が再現される。図1とは反対に、右側のチャンバ122はこの場合、ブレーキ回路および/またはマスタシリンダからの液体を収容する。ここでも代替的な可能性(図示しない)は、2つのチャンバそれぞれからブレーキ液を有する少なくとも1つのリザーバタンク、特にマスタシリンダのリザーバタンクへの遮断可能で直接的な液圧接続によりシステムに再びブレーキ液を供給することである。
【0044】
操作素子の変位が完全に補償されることを確保するために、図1の液圧アキュムレータの場合の説明と同様に、液圧アキュムレータは図4では、弁402が閉鎖されており、弁401が開放されており、接続されているホイールブレーキとの液圧的な接続が弁124により遮断されている場合にブレーキブースタの作動によりあらかじめ充填される。
【0045】
本発明による装置502の代替的な構成が図5に示されている。この状態では、1つのみのチャンバを有するアキュムレータ変化態様が再び使用される。ここでも、図4のように入口素子との液圧的な接続はない。他の構成素子は、図1に示す構成素子に対応しており、それゆえ新たに示していない。原理的に、発電機トルクが起動された場合、弁501の開放時に容積をブレーキ回路からアキュムレータに収容することができ、発電機トルクが停止された場合、容積をアキュムレータからブレーキ回路に放出することができる。このようにして、ブレーキブースタによる支援力の変更により、入口装置101の位置変化に反作用させる。詳細な説明は、図2および図3にも度づき既に説明した方法に類似しているので省略する。図1の液圧アキュムレータにおける説明と同様に、この実施形態では、液圧アキュムレータがブレーキブースタの作動、弁111の開放、および弁124によるホイールブレーキとの液圧的な接続の中断によりあらかじめ充填され、これにより、容積を高圧下でブレーキ回路に放出することができる。
【0046】
マスタシリンダ106、ピストン-シリンダユニット109および110、液圧アキュムレータ108,117,403および502のチャンバの断面積ならびにばね116,118および123の予荷重および設計は、例えばブレーキ回路、マスタシリンダ、入口チャンバなどに提供された圧力レベルに応じて、距離補償のための弁の開放により、構造に基づいた限界内でアキュムレータ内外にブレーキ媒体が流れることが可能となるように選択すべきである。特にこのような寸法決めにより、補償可能な距離の値を調節することもできる。この場合、アキュムレータの充填状態を考察すべきである。より正確にいえば、アキュムレータは、最大充填状態に到達するまでブレーキ液を収容することができ、もしくは完全に排出されるまで排出することができる。
【0047】
図示の全ての実施形態では、ブレーキシステムから取り出されるか、もしくはブレーキシステムまたは入口チャンバに供給されるブレーキ液の量は弁の制御によって調整される。もちろん上述のように関与する液圧素子の圧力レベルが容積搬送を可能にすることを前提とする。容積交換を制御するために、弁111,113,401,402および501が制御ユニットに接続されている(図示しない)。この制御ユニットは、例えば液圧装置またはブレーキブースタの制御ユニットの形態でブレーキシステム内に既に設けられていてもよい。
【0048】
上記全ての実施形態では、ピストン-シリンダユニットとばねおよび弁との組み合わせの形で液圧アキュムレータを説明したが、これは決して限定的なものとして理解されるべきものではない。とりわけ、ダイアフラム式アキュムレータおよび/または金属ベローズ式アキュムレータおよび/またはアキュムレータ機能を有する他の容積収容ユニットが可能である。
【0049】
液圧アキュムレータの説明は、ここでは1つのみのブレーキ回路に接続されたアキュムレータに限定しているが、本方法および本装置は、接続されたブレーキ回路の数を限定するものではない。さらに別のブレーキ回路内に接続された弁の位置が所定の役割を果たし得る。例えば、マスタシリンダに接続された別のブレーキ回路の流入弁は液圧アキュムレータの充填時に充填によるブレーキ作用を防止する役割を果たす。
【0050】
制御可能なブレーキブースタを介してアキュムレータを充填する代わりに、場合によっては付加的に、ブレーキ回路および/またはマスタシリンダに液圧的に接続されているか、および/またはアキュムレータに直接に液圧的に接続されている他の種類の容積搬送ユニット、例えばESPの再循環ポンプがこれを実施することもできる。ブレーキシステム内の容積搬送ユニットの構成および位置決めに応じて、場合によっては、容積搬送ユニットと液圧アキュムレータとの間の液圧接続部に位置する弁の位置を考慮する必要がある。
【0051】
要約すれば、本発明は、従来部分と別の部分、例えば回生部分とからなる総ブレーキ装置の一部として、ブレーキ回路もしくはブレーキペダルのピストン-シリンダユニット内における容積移動を誘起することができる方法および装置を記載しているといえる。このことを利用して、ブレーキ装置の液圧部分における制御可能なブレーキブースタによる圧力比の変化をブレーキ装置の別の部分の付加的なブレーキ作用により補償し、これにより、運転手がペダルの位置変化に基づいてブレーキペダルで実施しなくても、異なるブレーキシステムのブレーキ作用から総ブレーキ作用が得られる。本方法は、例えば、電流を生成する発電機として電動機を作動することによりブレーキ遅延が誘起され、従来の液圧式ブレーキシステムを別のブレーキシステムまたはバックアップ-ブレーキシステムとして備える車両で使用することができる。
【図1A】

【図1B】

【図2A−2C】

【図3A−3C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタシリンダ(106)と少なくとも1つのホイールブレーキとを備える液圧式ブレーキシステムの他に、液圧式ではない少なくとも1つの別のブレーキシステムを備える総ブレーキ装置の液圧式ブレーキシステムで使用するための液圧アキュムレータ装置(108,117,403,502)において、
液圧アキュムレータ装置(108,117,403,502)が、マスタシリンダ(106)の出口および少なくとも1つのホイールブレーキと液圧的に接続しており、別のブレーキシステムの作動状態に関係して、液圧式ブレーキシステムからの容積を収容するか、保持するか、または自動的に液圧式ブレーキシステムに放出することを特徴とする液圧アキュムレータ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液圧アキュムレータ装置(108,117,403,502)において、
前記別のブレーキシステムの作動状態が、別のブレーキシステムによる総ブレーキ作用への貢献度の変化によって表され、特に、
前記別のブレーキシステムの貢献度が増大した場合に容積の収容が行われ、および/または
前記別のブレーキシステムの貢献度が減少した場合に容積の放出が行われる、液圧アキュムレータ装置。
【請求項3】
請求項1に記載の液圧アキュムレータ装置(108,117,403,502)において、
液圧アキュムレータ装置が、
少なくとも1つのピストン(114,115,119)、少なくとも1つのシリンダ(121,122,120)および少なくとも1つの弾性素子、特に少なくとも1つのばね(116,123,118)を備えるか、または
ダイアフラム式アキュムレータおよび/または金属ベローズ式アキュムレータおよび/またはアキュムレータ機能を有する別の容量収容ユニットの形態で設けられている、液圧アキュムレータ装置。
【請求項4】
請求項1に記載の液圧アキュムレータ装置において、
液圧式ブレーキシステムが、液圧アキュムレータ装置(108,117,403,502)、マスタシリンダ(106)および少なくとも1つのホイールブレーキの間の液圧的な接続を遮断するための遮断手段(111,124,401,402,501)を備え、これにより、少なくとも1つのホイールブレーキを、前記液圧アキュムレータ装置(108,117,403,502)およびマスタシリンダ(106)から液圧的に分離することができるようになっており、特に、液圧式ブレーキシステムがブレーキ装置のための操作素子(101)を備え、該操作素子が、前記液圧アキュムレータ装置(108,117)と液圧的に接続したピストン-シリンダユニット(109,110)を備え、前記液圧アキュムレータ装置(108,117)と前記ピストン-シリンダユニット(109,110)との間の液圧的な接続を遮断するための制御可能な遮断手段(113)が設けられており、
液圧式ブレーキシステムからの容積の収容、容積の蓄積および液圧式ブレーキシステム内への容積の放出が前記遮断手段(111,113,124,401,402,501)の制御によって行われる、液圧アキュムレータ装置。
【請求項5】
請求項1、3および/または4に記載の液圧アキュムレータ装置(108,117,403,502)において、
該液圧アキュムレータ装置(108,117,403,502)の少なくとも1つのシリンダ(121,122,120)および操作素子(101)のシリンダ(109)のそれぞれの断面積、および/または
少なくとも1つの弾性素子(116,123,118)の予荷重および設計、および/または
液圧式ブレーキシステム内で設定された圧力に関係した前記液圧アキュムレータ装置(108,117,403,502)の充填状態が、
ブレーキ液の容積の収容および/または特に自動的な放出および/または蓄積が、構造に基づいた限界内で可能であるように設計されている、アキュムレータ装置。
【請求項6】
マスタシリンダ(106)と少なくとも1つのホイールブレーキとを備える液圧式のブレーキシステムの他に、液圧式ではない少なくとも1つの別のブレーキシステムを備える総ブレーキ装置の液圧式ブレーキシステムで液圧アキュムレータ装置(108,117,403,502)を作動する方法において、
前記マスタシリンダ(106)の少なくとも1つの出口(107a,107b)および少なくとも1つのホイールブレーキと液圧的に接続した液圧アキュムレータ装置(108,117,403,502)に、別のブレーキシステムの作動状態に関係して、液圧式ブレーキシステムからの容積を収容させるか、保持させるかまたは自動的に液圧式ブレーキシステムに放出させることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、
前記別のブレーキシステムの作動状態が、別のブレーキシステムによる総ブレーキ作用への貢献度の変化によって表され、特に、
前記別のブレーキシステムの貢献度が増大した場合に容積の収容を行い、および/または
前記別のブレーキシステムの貢献度が減少した場合に容積の放出を行う方法。
【請求項8】
請求項6に記載の方法において、
前記液圧式ブレーキシステムが、運転手により加えられたブレーキ力(102)を所定の支援力だけ増幅作用させるブレーキブースタと、ブレーキ装置のための操作素子(101)とを備え、
別のブレーキシステムに基づくブレーキトルク増大時にブレーキブースタの作用を低減し、および/または
別のブレーキシステムに基づくブレーキトルク減少時にブレーキブースタの作用を増大するように前記ブレーキブースタを作動し、
総ブレーキ装置により加えられた総ブレーキトルクを実質的に一定にし、ブレーキブースタによって加えられた支援力の変化によって誘起される前記操作素子(101)の位置変化に、液圧式ブレーキシステムから、および/または液圧式ブレーキシステム内への容積収容および/または容積放出を反作用させ、特に前記変化を完全に、または少なくとも部分的に補償する方法。
【請求項9】
請求項6に記載の方法において、
少なくとも1つの液圧的な接続を遮断するための制御可能な遮断手段(111,113,401,402,405)を設け、前記液圧アキュムレータ装置(108,117,403,502)と少なくとも1つのホイールブレーキとマスタシリンダ(106)との間の少なくとも1つの液圧的な接続ならびに液圧アキュムレータ装置(108,117,403,502)と、ピストン-シリンダユニット(109,110)との間の少なくとも1つの液圧的な接続を制御可能な遮断手段(111,113,124,401,402,501)によって遮断し、液圧式ブレーキシステムから、および/または液圧式ブレーキシステム内へのブレーキ液の容積放出および/またはブレーキ液の容積収容ならびにブレーキ液容積の蓄積を前記遮断手段(111,113,124,401,402,501)によって制御する方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法において、
前記液圧式ブレーキシステムに、制御可能なブレーキブースタと、前記液圧アキュムレータ装置(108,117,403,502)と前記マスタシリンダ(106)と少なくとも1つのホイールブレーキとの間の液圧的な接続を遮断し、前記液圧アキュムレータ装置(108,117,403,502)から前記ホイールブレーキを液圧的に分離するための遮断手段(124)とを設け、前記遮断手段(111,113,401,402,501)を制御し、遮断手段(124)が閉じた状態でブレーキブースタを制御することによって前記液圧アキュムレータ装置(108,117,403,502)を充填する方法。
【請求項11】
請求項6から10までのいずれか一項に記載の方法において、
前記液圧アキュムレータ装置(108,117,403,502)からの容積を液圧式ブレーキシステムに供給する液圧アキュムレータ装置(108,117,403,502)の圧力レベルを、
前記液圧アキュムレータ装置(108,117,403,502)の構成および/または
前記ブレーキブースタによる前記液圧アキュムレータ装置(108,117,403,502)の充填および/または
ブレーキ回路から前記液圧アキュムレータ装置(108,117,403,502)への容積の放出による液圧アキュムレータ装置の充填によって上昇させ、特に前記液圧アキュムレータ装置(108,117,403,502)により容積を自動的に放出させる方法。
【請求項12】
請求項10に記載の方法において、
運転手が制動しない走行状態でブレーキブースタにより前記液圧アキュムレータ装置(108,117,403,502)を充填する方法。

【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−500189(P2013−500189A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520974(P2012−520974)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/057196
【国際公開番号】WO2011/009659
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】