説明

液晶レンズ

【課題】焦点可変レンズとして有限系と無限系のダイナミックな切り替えが可能でありながら、可視光の広い波長帯域でも、有限系あるいは無限系のいずれか一方を確実に波面収差のRMS値がλ/14以下(マレシャル基準)を満たし、回折限界の高い精度を持ち光学性能が十分に得ることができ、かつ安価な構成で量産性に優れた液晶レンズを提供すること。
【解決手段】液晶3を挟持する2枚の透明基板2a、2bにおける液晶3に接する少なくとも一方の面に、レンズ面4が形成されている液晶レンズ1において、このレンズ面4を含む透明基板2a、2bを構成する部材のアッベ数と、液晶3における常光屈折率のアッベ数、または異常光屈折率のアッベ数とを等しくなるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光の広い波長帯域によらず、色収差の小さい良好な光学性能を維持し、かつ簡素な構成で実現可能な液晶レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、眼鏡やカメラなどの結像光学系において、また、プロジェクターなどの投影光学系において、それぞれの用途に合わせて光線の集光や発散を自在に切り替えることができる液晶レンズが提案されている(例えば、特許文献1参照のこと)。
【0003】
以下、従来の液晶レンズの構成を図面に基づいて説明する。図5は、特許文献1に記載されている液晶レンズの断面図を示したものである。
【0004】
図5に示す液晶レンズ101は、液晶分子を配向するための配向膜(図示せず)と、液晶に電圧を印加するための透明電極(図示せず)をそれぞれ有する二枚の透明基板102a、102bによって、液晶103を挟持した構成となっている。また、図5に示す通り、二枚の透明基板102a、102bと液晶103と接する面がレンズ面となっている。
【0005】
この液晶レンズ101は、電圧印加により対向する透明基板102a、102bの表面にそれぞれ形成された透明電極(図示せず)の間に電界を発生させ、ここで発生した電界に沿って液晶103中の液晶分子が配列することにより、透明基板102a、102bと液晶103が屈折率差を得て、焦点可変のレンズ効果を得ることができる様になっている。
【0006】
この図5に示す液晶レンズ101は、凹部を持つ透明基板102a、102bと液晶103の屈折率差によって焦点可変レンズとして作用するため、無限系と有限系の切り替えが可能であり、例えば、凹部を持つ透明基板102a、102bの屈折率と、液晶103の液晶分子の常光屈折率を同一にしておけば、透明基板102a、102bと液晶103の屈折率差によるレンズ効果は発生せず無限系となり、液晶レンズへの入射光線105を素通しする平板効果が得られ、電圧印加によって液晶分子の異常光屈折率成分が発現すれば、透明基板102a、102bと液晶103の屈折率差によるレンズ効果を持たせ有限系とすることができる。
【0007】
ところで、一般的には液晶103のアッベ数は、透明基板102a、102bよりも小さいため、液晶レンズ101は強い色収差が発生することとなる。そこで、図5に示す液晶レンズ101は、凸レンズとしての効果を有するために、凹レンズの効果を有する透明基板102a、102bと組み合わせて、色収差を低減した液晶レンズとすることができる。
【0008】
【特許文献1】特開昭61−156221号公報(第1頁、第6図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、図5に示す液晶レンズ101は、入射光線105が示すように、400nmの光線と700nmの光線では、集光位置が変わってしまうため、このような構成では、広い波長帯域の可視光では色収差の影響により、波面収差を小さく抑えることができない。例えば、光学性能の指標として、波面収差のRMS値がλ/14以下(マレシャル基準)を満たせば、回折限界の高い精度を持ち光学性能が十分に得られるという判断が一
般的になされるが、この液晶レンズ101の構成では、これを満たすことが難しい。その特性について図6を用いて説明する。
【0010】
図6は、図5に示した液晶レンズ101について、広い波長帯域の可視光における光学特性を示す図である。図6に記載されている波面収差λ/14のラインは、光学性能の指標となるマレシャル基準を示したものであり、一般的には、液晶レンズ101で発生する波面収差を、λ/14以下に抑えることができれば、回折限界の高い精度を持ち光学性能が十分に得られるという判断がなされる。
【0011】
図5に示すように、液晶103に電圧を印加することで、この液晶レンズ101は、レンズ効果を得ることができる。このとき、図6に示すように広い波長帯域の可視光において、液晶103の波長分散の影響によって、広い波長帯域の入射光線105では同じ位置に集光することができず、色収差が発生するために回折限界となるλ/14以下を満たすことはできない。
【0012】
また、図5に示した従来の液晶レンズ101は、透明基板102a、102bのそれぞれがレンズ面を有するが、液晶レンズの製造工程において、両透明基板102a、102bのレンズ光軸を、正確に重ね合わせて貼り合わせることは、非常に困難である。このレンズ光軸がズレたまま、透明基板102a、102bを貼り合わせると、レンズの光軸芯ズレが発生し、これがレンズの光学性能を落とす要因となる。
【0013】
このように、従来の液晶レンズ101は、焦点可変レンズとして有限系と無限系の切り替えは可能だが、色収差により光学性能が著しく低下してしまうという問題を有していた。また、液晶103を挟持する透明基板102a、102bにそれぞれレンズ面104があると、光軸芯ズレにより特性が低下するため、製造が難しくなるといった課題があった。
【0014】
そこで、本発明は、焦点可変レンズとして有限系と無限系のダイナミックな切り替えが可能でありながら、可視光の広い波長帯域でも、有限系あるいは無限系のいずれか一方を確実に波面収差のRMS値がλ/14以下(マレシャル基準)を満たし、回折限界の高い精度を持ち光学性能が十分に得ることができ、かつ安価な構成で量産性に優れた液晶レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の液晶レンズは、基本的に下記の構成を有するものである。
【0016】
本発明の液晶レンズは、液晶を挟持する2枚の透明基板における液晶に接する少なくとも一方の面に、レンズ面が形成されている液晶レンズにおいて、このレンズ面を含む透明基板を構成する部材のアッベ数と、液晶における常光屈折率のアッベ数、または異常光屈折率のアッベ数と、を等しくしたことを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の液晶レンズは、前述した2枚の透明基板の内の一方の基板に、レンズ面が形成されており、他方の基板に、レンズ面が形成されていない平板基板であることを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明の液晶レンズは、前述したレンズ面が、入射する光束の光軸と直交する面内で、光軸に対して回転対称となる球面または非球面形状であることを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明の液晶レンズは、前述したレンズ面が形成された透明基板が、樹脂基板であることを特徴とするものである。
【0020】
また、本発明の液晶レンズは、前述した樹脂基板が、主剤に対して分極率の高いイオンが含む材料で形成されていることを特徴とするものである。
【0021】
また、本発明の液晶レンズは、前述した透明基板が、主剤に対して分極率の高いイオンを含む材料で形成されたガラス基板であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、簡易で安価な構成で、量産性に優れ、可変焦点レンズとして有限系から無限系へとダイナミックな切り替えが可能でありながら、可視光の広い波長帯域に関わらず、有限系あるいは無限系のいずれか一方を確実に波面収差のRMS値がλ/14以下(マレシャル基準)を満たし、回折限界の高い精度を持ち光学性能が十分に得ることができる液晶レンズが提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の液晶レンズの構成をについて以下に説明する。
【実施例1】
【0024】
本発明における第一の実施形態の液晶レンズについて、液晶レンズがレンズ効果を持った際の構成について図1を用いて説明する。図1は、第1の実施形態である液晶レンズ1の構成を示す断面図であり、レンズとして作用した状態を示している。
【0025】
図1に示す様に、本発明における第一の実施形態の液晶レンズ1は、液晶3と接する面にレンズ面4を形成した樹脂6を有する透明基板2a(凹レンズの効果を有する透明基板2a)と、対向する、レンズ形状を有さない透明基板2b(平板基板)によって構成されている。ここでは、レンズ面4は、液晶3の一方の面のみに、入射光線5aの光軸と直交する面内で、光軸に対して回転対称となる球面または非球面形状で形成されている。このレンズ面4を球面または非球面とするのかは、設計仕様に応じて任意である。また、このレンズ面4は曲率によって液晶3の厚さに大きく影響するので、液晶レンズ1の応答性に大きく関わる。そのため、液晶3の厚さを薄くするためにレンズ面4をフレネルレンズ形状としてもよい。さらに、ここで示した凹レンズ効果を有する透明基板2aだけでなく、仕様に応じて凸レンズ効果を有する形態としても構わない。
【0026】
また、レンズ面4を有する透明基板2aおよび対向する透明基板2bには、それぞれの基板表面に形成された透明電極(図示せず)と配向膜(図示せず)とによって、基板間に挟持する液晶3に給電を行って、樹脂6のレンズ面4の入射光線5aに対して液晶3との屈折率差を付与できる様になっている。
【0027】
また、図1で示す液晶レンズ1において、レンズ面4を形成した樹脂6には、例えば、アクリル樹脂からなる主剤に対して分極率の高いイオンを含む、高屈折率でありかつ低アッベ数の材料を採用している。ここで示す分極率とは、物質の光による変位の受けやすさを表すものであるため、分極率が高い物質ほど高い屈折率を示す。また、ここで使用する樹脂6は、例えば、高い分極率を示す有機基であるベンゼン環、硫黄、ヨウ素、臭素などを有する高分子材料を用いることで、その樹脂材料の屈折率から更に高い屈折率に調整することができる。また、この様に上記有機基を備えた高分子材料によりレンズ面4を形成して屈折率を上昇させると、液晶レンズ1に入射する入射光線5aの波長による分散の影響が大きくなるため、高屈折率の材料は必然的に波長分散の大きい低アッベ数の材料となることに留意すべきである。
【0028】
また、図1で示す本発明における第一の実施形態の液晶レンズ1において、液晶3はホモジニアス配向を有するネマテック液晶が用いられるが、垂直配向型液晶を利用することも可能である。いずれの配向モードにおいても、液晶3の異常光屈折率Neを樹脂6の屈折率と一致させる。そうすることで、図1に示すように液晶分子が透明基板2bと平行(紙面に対して上下方向)になるように駆動した場合、入射光線5aに対して液晶3の常光屈折率Noが作用するために、液晶3の常光屈折率Noと樹脂6の屈折率の差によって、レンズ面4で入射光線5aが屈折することにより、液晶レンズ1にレンズ効果を持たせることができる。
【0029】
また、液晶3は、異常光屈折率Neと常光屈折率Noのそれぞれにおいて、屈折率が異なるために、必然的に波長分散の大きさを示すアッベ数もそれぞれ異なる。そこで、液晶3とレンズとして作用させる樹脂材料のアッベ数を考慮せずに液晶レンズを構成すると、屈折率の大きい異常光屈折率Neの方が、屈折率の小さい常光屈折率Noよりも波長分散の大きい低アッベ数となるが、この異常光屈折率Neのアッベ数は、樹脂6のアッベ数と比べても小さくなってしまうこととなる。そのため、本発明においては、液晶3の常光屈折率Noにおけるアッベ数と、高屈折率である樹脂6のアッベ数とをほぼ一致するように構成した。このとき、当然ながら液晶3の異常光屈折率Neのアッベ数と、樹脂6のアッベ数とは異なる値となる。
【0030】
そこで、樹脂6のアッベ数と液晶3の常光屈折率Noにおけるアッベ数とを一致させるために、具体的には、液晶3の常光屈折率Noにおけるアッベ数が35前後であるため、樹脂6を先に述べた分極率の高い有機基を有する高分子材料用いて、屈折率とアッベ数を調整する。このとき、樹脂6の屈折率は1.6〜1.9程度、アッベ数が20〜40前後の範囲で調整可能となるため、樹脂6のアッベ数を35前後になるように調整すれば、液晶3の常光屈折率Noのアッベ数にほぼ一致することになる。
【0031】
また、液晶3の常光屈折率Noは1.5前後であり、樹脂材料の屈折率は1.6〜1.9前後となるため、両者の屈折率差が0.1〜0.4程度得られることになる。そして、液晶レンズ1は、この屈折率差の範囲内において色収差のない焦点可変レンズを実現することができる。
【0032】
このように、図1で示す本発明における第一の実施形態の液晶レンズ1は、レンズ効果を持つように液晶3を駆動させた場合に、常光屈折率Noが作用しても、この常光屈折率Noにおけるアッベ数と、樹脂6のアッベ数とが一致するので、例え図1に示すように、400nmから700nmの広い波長帯域の入射光線5aであったとしても、各波長の光の全てを同じ位置に集光させて、その結果、色収差を抑えることができるのである。
【0033】
次に、本発明における液晶レンズ1について、液晶レンズ1が平板効果を持った際(液晶3を駆動させなかったとき)の形態について図2を用いて説明する。図2は、液晶レンズ1を図1に示したレンズ効果から、平板効果に切り替えたときを示す図面である。
【0034】
先の説明の通り、本発明の液晶レンズ1は、液晶3の常光屈折率Noを樹脂6の屈折率と一致させている。そのため、図2に示すように液晶分子が透明基板2bと垂直になるように駆動した場合、入射光線5bには液晶3の異常光屈折率Neが作用することとなり、図1で示した形態とは異なり、レンズ面4で入射光線5bが屈折することなく、液晶レンズ1は平板として作用して、入射光線5bを素通しとすることができる。
【0035】
しかしながら、図2で示す本発明における第一の実施形態の液晶レンズ1は、平板効果を持つように液晶3を駆動させた場合に、異常光屈折率Neが作用しているため、この異
常光屈折率Neにおけるアッベ数と、樹脂6のアッベ数とが異なることから、図2に示すように、広い波長帯域の入射光線5bは、各波長の光が同じ位置に集光することができず、色収差を抑えることは難しくなる。
【0036】
次に、本発明の液晶レンズ1の性能について示す。図3は、図1と図2により説明した本発明における液晶レンズ1に、広い波長帯域の可視光の入射光線を入射させ、この液晶レンズ1から出射する光線における波面収差を示している。本図における縦軸は波面収差量であり、横軸は波長を示している。また、本図に示す実線は、液晶レンズ1がレンズ効果を持った際の波面収差を示し、点線が液晶レンズ1が平板効果を持った際の波面収差を示す。また、図3に記載されている波面収差λ/14のラインは、光学性能の指標となるマレシャル基準を示したものであり、一般的にはこのλ/14以下に波面収差を抑えることができれば、回折限界の高い精度を持ち光学性能が十分に得られるという判断がなされる。
【0037】
図3に示すように、本発明における液晶レンズ1がレンズ効果を持った際には、回折限界であるλ/14を満たすことができる。これは、先に述べたとおり、常光屈折率Noにおけるアッベ数と、樹脂6のアッベ数とがほぼ一致することから、液晶レンズ1を透過した光線の色収差を、極力抑えることができるためである。
【0038】
また、本発明における液晶レンズ1が平板効果を持った際には、回折限界であるλ/14を満たすことが難しいことが判る。これも、先に述べたとおり、このときには、異常光屈折率Neにおけるアッベ数と、樹脂6のアッベ数が異なることから、液晶レンズ1を透過した光線の色収差を、抑えることは難しくなる。
【0039】
また、本発明における第一の実施形態では、液晶レンズ1がレンズ効果を持った際に波面収差を最も小さくなるように構成しているため、平板効果の際には波面収差が悪化することとなるが、液晶レンズ1の実際の用途に合わせて、平板効果の際に波面収差を最も小さくすることも可能である。この平板効果の際に波面収差を最も小さくするためには、樹脂6のアッベ数が、液晶3の異常光屈折率Neにおけるアッベ数と一致するように設定すれば、その効果を得ることができる。
【0040】
このように、本発明における第一の実施形態における液晶レンズ1によって、液晶レンズ1が有限系から無限系へとダイナミックな切り替えが可能となり、液晶レンズのそれぞれの用途に合わせて、可視域である、広い波長帯域の入射光に対して色収差の発生を極力抑え、回折限界まで波面収差を抑えることが可能となる。また、本発明の構成は、レンズ面が1面であるため、光軸芯ズレの問題も起こらないために、安価な構成で量産性に優れた液晶レンズを提供することができる。
【0041】
なお、レンズ効果と平板効果の両方において色収差を極力抑えたい場合には、レンズ面を形成する材料のアッベ数を、液晶の常光屈折率Noにおけるアッベ数と、異常光屈折率Neにおけるアッベ数の中間となるように調整すればよい。
【0042】
また、本実施例では、レンズ面4が一方の透明基板2b側に形成した構成例を示したが、必要に応じて他方の面の透明基板2a表面にも、レンズ面を設けても構わない。この構成とすることにより、レンズ面を一方に設けた図1、図2の構成に比べて、液晶レンズの製造工程において、レンズの光軸芯ズレが発生する可能性が増すが、他の収差を低減する、またはレンズ効果を高める等、レンズ設計の自由度を広げながらにして、色収差の発生を極力抑えた形態とすることができる。
【実施例2】
【0043】
次に、本発明における第一の実施形態の液晶レンズの他の構成について、液晶レンズがレンズ効果を持った際の構成について図4を用いて説明する。図4は、第2の実施形態である液晶レンズ11の構成を示す断面図であり、レンズとして作用した状態を示している。
【0044】
図4に示す様に、本発明における第二の実施形態の液晶レンズ11は、液晶13と接する面にレンズ面14を形成した透明基板12aと、対向する透明基板12bによって構成されている。本形態においても、レンズ面14は、液晶13に対して一方の面に、入射光線15aの光軸と直交する面内で光軸に対して回転対称となる球面または非球面形状で形成されている。このレンズ面形状を球面または非球面形状とするかは、仕様用途に応じて任意である。さらには、このレンズ面14は曲率によって液晶13の厚さに大きく影響するので、液晶レンズ11の応答性に大きく関わる。そのため、液晶13の厚さを薄くするためにレンズ面14をフレネルレンズ形状としてもよい。
【0045】
また、レンズ面14を有する透明基板12aおよび対向する透明基板12bには、それぞれの基板表面に形成された透明電極(図示せず)と配向膜(図示せず)とによって、基板間に挟持する液晶13に給電を行って、レンズ面14の入射光線15aに対して液晶13との屈折率差を付与できる様になっている。
【0046】
また、図4で示す本発明における第二の実施形態の液晶レンズ11において、レンズ面14を有する透明基板12aはガラス基板であり、主剤に対して分極率の高いイオンを含む、高屈折率でありかつ低アッベ数の材料を採用している。ここで示す分極率とは、物質の光による変位の受けやすさを表すものであるため、分極率が高い物質ほど高い屈折率を示す。この透明基板12aについては、例えば、ガラス材料に、高い分極率を示す鉛やバリウムの含有量を調整することで、高い屈折率を有する透明基板12aとすることができる。また、高い屈折率の透明基板12aとすると、入射光線の波長による分散の影響が大きくなるため、高屈折率の材料は必然的に波長分散の大きい低アッベ数の材料となることに留意する必要がある。
【0047】
また、図4で示す本発明における第二の実施形態の液晶レンズ11において、液晶13はホモジニアス配向を有するネマテック液晶が用いられるが、垂直配向型液晶を利用することも可能である。いずれの配向モードにおいても、液晶13の異常光屈折率Neを透明基板12aの屈折率と一致させる。そうすることで、図4に示すように液晶分子が透明基板12bと平行(紙面に対して上下方向)になるように駆動した場合、入射光線15aには液晶13の常光屈折率Noが作用するために、液晶13の常光屈折率Noと透明基板12aの屈折率の差によって、レンズ面14で入射光線15aが屈折することにより、液晶レンズ11にレンズ効果を持たせることができる。
【0048】
また、液晶13は、異常光屈折率Neと常光屈折率Noのそれぞれにおいて、屈折率が異なるために、必然的に波長分散の大きさを示すアッベ数もそれぞれ異なる。そこで、液晶13とレンズとして作用させる透明基板材料を考慮せずに液晶レンズを構成すると、屈折率の大きい異常光屈折率Neの方が、屈折率の小さい常光屈折率Noよりも波長分散の大きい低アッベ数となるが、この異常光屈折率Neのアッベ数は、透明基板12aのアッベ数と比べても小さくなってしまうこととなる。そのため、本発明においては、常光屈折率Noにおけるアッベ数と高屈折率である透明基板12aのアッベ数をほぼ一致するように構成した。このとき、当然ながら液晶13の異常光屈折率Neのアッベ数と、透明基板12aのアッベ数とは異なる値となる。
【0049】
そこで、透明基板12aのアッベ数と液晶13の常光屈折率Noにおけるアッベ数とを一致させるために、具体的には、液晶13の常光屈折率Noにおけるアッベ数が35前後
であるため、透明基板12aを先に述べた分極率の高い鉛やバリウムをの含有量を調整して、屈折率とアッベ数を調整する。このとき、透明基板12aの屈折率は1.6〜1.9程度、アッベ数が20〜40前後の範囲で調整可能となるため、透明基板12aのアッベ数を35前後になるように調整すれば、液晶13の常光屈折率Noのアッベ数にほぼ一致することになる。また、液晶13の常光屈折率Noは1.5前後であり、樹脂材料の屈折率は1.6〜1.9前後となるため、両者の屈折率差が0.1〜0.4程度得られることになる。液晶レンズ11は、この屈折率差の範囲内において色収差のない焦点可変レンズを実現することができる。
【0050】
このように、図4で示す本発明の液晶レンズ11は、レンズ効果を持つように液晶13を駆動させた場合に、常光屈折率Noが作用しても、この常光屈折率Noにおけるアッベ数と、透明基板12aのアッベ数とが一致するので、例え図4に示すように、400nmから700nmの広い波長帯域の入射光線15aであったとしても、各波長の光の全てを同じ位置に集光させて、色収差を抑えることができるのである。
【0051】
また、本発明の第二の実施形態における液晶レンズ11が、レンズ効果を持った際の波面収差と平板効果を持った際の波面収差の関係については、実施例1で説明した図1および図2とそれぞれと同様の効果を持つため、ここでの説明は省略する。
【0052】
また、第二の実施形態における液晶レンズ11も、先に説明したと同様に、レンズ効果を持った際に波面収差を最も小さくなるように構成しているため、平板効果の際には波面収差が悪化することとなるが、液晶レンズ11の実際の用途に合わせて、平板効果の際に波面収差を最も小さくすることも可能である。この平板効果の際に波面収差を最も小さくするためには、透明基板12aのアッベ数が、液晶13の異常光屈折率Neにおけるアッベ数と一致するように設定すれば、その効果を得ることができる。
【0053】
このように、本発明の第二の実施形態における液晶レンズ11によっても、液晶レンズ11が有限系から無限系へとダイナミックな切り替えが可能となり、液晶レンズのそれぞれの用途に合わせて、可視光の広い波長帯域の入射光に対して色収差の発生を極力抑え、回折限界まで波面収差を抑えることが可能となる。また、本発明の構成は、レンズ面が1面であるため、光軸芯ズレの問題も起こらないために、安価な構成で量産性に優れた液晶レンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明における第一の実施形態の液晶レンズが、レンズ効果を持った際の断面図である。
【図2】本発明における第一の実施形態の液晶レンズが、平板効果を持った際の断面図である。
【図3】本発明の液晶レンズが、レンズ効果および平板効果をそれぞれ持った際の波面収差を表す図である。
【図4】本発明における第二の実施形態の液晶レンズが、レンズ効果を持った際の断面図である。
【図5】従来の液晶レンズの構成を示す断面図である。
【図6】従来の液晶レンズが、レンズ効果を持った際の波面収差を表す図である。
【符号の説明】
【0055】
1、11、101 液晶レンズ
2a、2b、12a、12b 透明基板
3、13 液晶
4、14 レンズ面
5a、5b、15a 入射光線
6 樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶を挟持する2枚の透明基板における前記液晶に接する少なくとも一方の面に、レンズ面が形成されている液晶レンズにおいて、
前記レンズ面を含む前記透明基板を構成する部材のアッベ数と、前記液晶における常光屈折率のアッベ数、または異常光屈折率のアッベ数と、を等しくした
ことを特徴とする液晶レンズ。
【請求項2】
前記2枚の透明基板の内の一方の基板には、レンズ面が形成されており、他方の基板には、レンズ面が形成されていない平板基板である
ことを特徴とする請求項1に記載の液晶レンズ。
【請求項3】
前記レンズ面は、入射する光束の光軸と直交する面内で、光軸に対して回転対称となる球面または非球面形状である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の液晶レンズ。
【請求項4】
前記レンズ面が形成された前記透明基板は、樹脂基板である
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の液晶レンズ。
【請求項5】
前記樹脂基板は、主剤に対して分極率の高いイオンを含む材料で形成されている
ことを特徴とする請求項4に記載の液晶レンズ。
【請求項6】
前記レンズ面が形成された透明基板は、主剤に対して分極率の高いイオンを含む材料で形成されたガラス基板である
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の液晶レンズ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−192791(P2009−192791A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33048(P2008−33048)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】