説明

液晶性ポリエステル樹脂組成物及びこれを用いてなるコネクター

【課題】十分な溶融流動性を有し、その成形により、十分な耐ハンダ性を有しつつ、反りの発生が十分抑制されたコネクターを与えうる液晶性ポリエステル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】芳香族ヒドロキシカルボン酸を含む原料モノマーをイミダゾール化合物の存在下に重合させて得られた液晶性ポリエステルと、該液晶性ポリエステル100重量部に対して、白雲母からなり、体積平均粒径40μm以下且つ比表面積6m2/g以下のマイカ15〜100重量部とを混合して、液晶性ポリエステル樹脂組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品製造用の成形材料として有用な液晶性ポリエステル樹脂組成物及びこれを用いてなる電子部品、特にコネクターに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶性ポリエステルは、優れた溶融流動性を有することから、薄肉部を有する成形体、特に薄肉部を有し、複雑な形状を有するコネクター等の電子部品を製造するための成形材料として使用されている。また、該電子部品の機械強度等の特性を向上させるために、液晶性ポリエステルに繊維状充填剤(ガラス繊維など)や板状充填剤(タルクなど)を配合してなる液晶性ポリエステル樹脂組成物も、電子部品製造用の成形材料として種々検討されている。
【0003】
ところで近年、電子部品の端子形成等に関わる表面実装技術の進展や、電子部品が使用されるモバイル機器の軽薄短小化の流れに伴って、該電子部品は、その肉厚をより薄くすること(薄肉化)が求められ、形状もより複雑になってきている。該電子部品の中でもコネクター、特に長尺状コネクターは、一層薄肉化の要求が高くなってきている。しかしながら、このような長尺状コネクターとして、肉厚が極めて薄い薄肉部を有するものを得ようとする場合や、寸法が小さいものを得ようとする場合、得られたコネクターの長尺方向に反りが発生しやすいという問題がある。かかる問題を解決するため、例えば特許文献1には、特定の触媒の存在下で製造された液晶性ポリエステルを含む樹脂組成物を成形して、コネクターを製造することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−109700号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に開示されている樹脂組成物は、複雑な形状のコネクターに成形するうえで十分な溶融流動性を有しつつ、その成形により、反りが小さいコネクターを与えることができる。しかしながら、益々薄肉化が進み、形状がより複雑化しているコネクターの製造においては、成形材料がさらに良好な溶融流動性を有し、得られるコネクターにおいて反りの発生をより一層抑制することが求められている。また、得られるコネクターの表面実装プロセスにおけるハンダ処理に対する耐熱性(耐ハンダ性)の一層の改良も求められている。
【0006】
そこで、本発明の目的は、肉厚0.1mm以下という超薄肉部を有するコネクターに成形するうえでも十分な溶融流動性を有し、その成形により、十分な耐ハンダ性を有しつつ、反りの発生が十分抑制されたコネクターを与えうる液晶性ポリエステル樹脂組成物を提供することにあり、そして、当該液晶性ポリエステル樹脂組成物を用いて、反りの発生が十分抑制されたコネクターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は以下の<1>を提供する。
【0008】
<1>:芳香族ヒドロキシカルボン酸を含む原料モノマーをイミダゾール化合物の存在下に重合させて得られた液晶性ポリエステルと、該液晶性ポリエステル100重量部に対して、白雲母からなり、体積平均粒径40μm以下且つ比表面積6m2/g以下のマイカ15〜100重量部とを含有する、液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【0009】
また、本発明は、前記<1>に係る好適な実施形態として、以下の<2>〜<5>を提供する。
【0010】
<2>:前記イミダゾール化合物が、下記式(1)で表される化合物である、<1>の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、R1〜R4は、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシメチル基、シアノ基、炭素数2〜5のシアノアルキル基、炭素数2〜5のシアノアルコキシル基、カルボキシル基、アミノ基、炭素数1〜4のアミノアルキル基、炭素数1〜4のアミノアルコキシル基、フェニル基、ベンジル基、フェニルプロピル基又はフォルミル基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0013】
<3>:前記液晶性ポリエステルが、芳香族ヒドロキシカルボン酸のフェノール性水酸基及び芳香族ジオールのフェノール性水酸基を脂肪酸無水物によりアシル化して、該芳香族ヒドロキシカルボン酸のアシル化物及び該芳香族ジオールのアシル化物を得るアシル化工程と、イミダゾール化合物の存在下に、該芳香族ヒドロキシカルボン酸のアシル化物と、芳香族ジカルボン酸と、該芳香族ジオールのアシル化物とをエステル交換させて、液晶性ポリエステルを得る重合工程とを有する製造方法で得られた液晶性ポリエステルである、<1>又は<2>の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【0014】
<4>:前記芳香族ヒドロキシカルボン酸がパラヒドロキシ安息香酸であり、前記芳香族ジカルボン酸がテレフタル酸及び/又はイソフタル酸であり、前記芳香族ジオールが4,4’−ジヒドロキシビフェニルである、<3>の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【0015】
<5>:前記液晶性ポリエステルの流動開始温度が270〜400℃の範囲である、<1>〜<4>のいずれかの液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【0016】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物に含まれる液晶性ポリエステルは、複数種の液晶性ポリエステルを含む液晶性ポリエステル混合物であってもよい。この場合の好適な実施態様として、以下の<6>及び<7>を提供する。
【0017】
<6>:前記液晶性ポリエステルが複数種の液晶性ポリエステルを含む液晶性ポリエステル混合物であり、該複数種の液晶性ポリエステルのうち、最も流動開始温度の高い第1の液晶性ポリエステルの流動開始温度が300〜400℃の範囲であり、最も流動開始温度の低い第2の液晶性ポリエステルの流動開始温度が260〜350℃の範囲であり、該第1の液晶性ポリエステル100重量部に対して、該第2の液晶性ポリエステル10〜150重量部を含む、<1>〜<5>のいずれかの液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【0018】
<7>:前記第1の液晶性ポリエステルの流動開始温度から前記第2の液晶性ポリエステルの流動開始温度を引いた値が20〜60℃の範囲である、<6>の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【0019】
さらに、本発明は、前記いずれかの液晶性ポリエステル樹脂組成物を用いてなる以下の<8>及び<9>を提供する。
【0020】
<8>:<1>〜<7>のいずれかの液晶性ポリエステル樹脂組成物を成形して得られる、コネクター。
【0021】
<9>:肉厚0.1mm以下の薄肉部を有する、<8>のコネクター。
【0022】
加えて、本発明は、前記いずれかの液晶性ポリエステル樹脂組成物の好適な製造方法として、以下の<10>〜<12>を提供する。
【0023】
<10>:芳香族ヒドロキシカルボン酸を含む原料モノマーをイミダゾール化合物の存在下に重合させて得られた液晶性ポリエステルと、該液晶性ポリエステル100重量部に対して、白雲母からなり、体積平均粒径40μm以下且つ比表面積6m2/g以下のマイカ15〜100重量部とを溶融混合する、液晶性ポリエステルの製造方法。
【0024】
<11>:前記イミダゾール化合物が、下記式(1)で表される化合物である、<10>の液晶性ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【0025】
【化2】

【0026】
(式中、R1〜R4は、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシメチル基、シアノ基、炭素数2〜5のシアノアルキル基、炭素数2〜5のシアノアルコキシル基、カルボキシル基、アミノ基、炭素数1〜4のアミノアルキル基、炭素数1〜4のアミノアルコキシル基、フェニル基、ベンジル基、フェニルプロピル基又はフォルミル基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0027】
<12>:前記マイカの付着水が0.3重量%以下である、<10>又は<11>の液晶性ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物は、その成形により、十分な耐ハンダ性を有しつつ、反りの発生が十分抑制されたコネクター等の電子部品を与えることができる。また、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物は、超薄肉部を有していたり、形状が複雑であったりするコネクターに成形するうえでも、十分な溶融流動性を有する。したがって、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物は、今後益々薄肉化や形状複雑化が進む電子部品、特にコネクターを製造するための成形材料として特に有用であり、産業上の価値は極めて大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例の反り量の評価で用いたコネクターの斜視外観を示す写真である。
【図2】実施例の薄肉流動長の評価で用いた金型を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物に含まれる液晶性ポリエステル及びマイカ、該液晶性ポリエステル樹脂組成物の製造方法、並びに該液晶性ポリエステル樹脂組成物を成形して得られるコネクター等の電子部品に関し、順次説明する。
【0031】
本発明で使用する液晶性ポリエステルは、サーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれるポリエステルであり、400℃以下の温度で異方性溶融体を形成するという特徴を有する。そして、本発明で使用する液晶性ポリエステルは、イミダゾール化合物の存在下に原料モノマーを重合させて得られたものであり、その原料モノマーとして芳香族ヒドロキシカルボン酸を必須とする。このような芳香族ヒドロキシカルボン酸を原料モノマーとする液晶性ポリエステルの例としては、以下の(P1)〜(P3)が挙げられる。
【0032】
(P1):芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとを組み合わせて原料モノマーとし、これを重合させて得られるもの。
(P2):異種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を原料モノマーとし、これを重合させて得られるもの。
(P3):ポリエチレンテレフタレートなどの結晶性ポリエステルに芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させて得られるもの。
【0033】
これらの中でも、前記(P1)、すなわち、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとを組み合わせて原料モノマーとして重合させて得られる液晶性ポリエステルが好ましい。なお、このような液晶性ポリエステルの製造においては、その製造がより容易である点で、該原料モノマーとして使用する芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ジオールの一部又は全部を、予めエステル形成性誘導体にして重合に供することが好ましい。
【0034】
ここで、分子内にカルボキシル基を有する芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体の例としては、当該カルボキシル基が、ハロホルミル基やアシルオキシカルボニル基などの高反応性の基に転化したものや、当該カルボキシル基が、エステル交換反応によりポリエステルを生成するように、アルコール類やエチレングリコール等とエステルを形成しているものが挙げられる。
【0035】
また、分子内にフェノール性水酸基を有する芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールのエステル形成性誘導体の例としては、当該フェノール性水酸基をエステル交換反応によりポリエステルを生成するように、フェノール性水酸基が低級カルボン酸類とエステルを形成しているものが挙げられる。
【0036】
例示したエステル形成性誘導体の中でも、前記(P1)の液晶性ポリエステルの原料モノマーとしては、フェノール性水酸基が低級カルボン酸類とエステルを形成しているエステル形成性誘導体、すなわち、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールをアシル化して得られるアシル化物が好ましい。
【0037】
以下、前記(P1)の液晶性ポリエステルを構成する構造単位に関し、具体例を挙げて説明する。
【0038】
芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、パラヒドロキシ安息香酸(後述の(A1)を誘導する芳香族ヒドロキシカルボン酸)、メタヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸(後述の(A2)を誘導する芳香族ヒドロキシカルボン酸)、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、1−ヒドロキシ−5−ナフトエ酸、4−ヒドロキシ−4’−カルボキシジフェニルエーテルや、これらの芳香族ヒドロキシカルボン酸の芳香環にある水素原子の一部が、アルキル基、アリール基及びハロゲン原子からなる群より選ばれる置換基で置換されてなる芳香族ヒドロキシカルボン酸が挙げられる。該芳香族ヒドロキシカルボン酸は、液晶性ポリエステルの製造において、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
このような芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位としては、例えば、以下に示すものが挙げられる。
【0040】
【化3】

【0041】
なお、前記の構造単位は、その芳香環にある水素原子の一部が、ハロゲン原子、アルキル基及びアリール基からなる群より選ばれる置換基で置換されていてもよい。
【0042】
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸(後述の(B1)を誘導する芳香族ジカルボン酸)、イソフタル酸(後述の(B2)を誘導する芳香族ジカルボン酸)、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、2,6−ナフタレンジルボン酸(後述の(B3)を誘導する芳香族ジカルボン酸)、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルチオエーテル−4,4’−ジカルボン酸や、これらの芳香族ジカルボン酸の芳香環にある水素原子の一部が、アルキル基、アリール基及びハロゲン原子からなる群より選ばれる置換基で置換されてなる芳香族ジカルボン酸が挙げられる。該芳香族ジカルボン酸は、液晶性ポリエステルの製造において、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
このような芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位としては、例えば、以下に示すものが挙げられる。
【0044】
【化4】

【0045】
なお、前記の構造単位は、その芳香環にある水素原子の一部が、ハロゲン原子、アルキル基及びアリール基からなる群より選ばれる置換基で置換されていてもよい。
【0046】
芳香族ジオールとしては、例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(後述の(C1)を誘導する芳香族ジオール)、ハイドロキノン(後述の(C2)を誘導する芳香族ジオール)、レゾルシン(後述の(C3)を誘導する芳香族ジオール)、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルチオエーテル、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレンや、これらの芳香族ジオールの芳香環にある水素原子の一部が、アルキル基、アリール基及びハロゲン原子からなる群より選ばれる置換基で置換されてなる芳香族ジオールが挙げられる。該芳香族ジオールは、液晶性ポリエステルの製造において、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
このような芳香族ジオールに由来する構造単位としては、例えば、以下に示すものが挙げられる。
【0048】
【化5】

【0049】
【化6】

【0050】
なお、前記の構造単位は、その芳香環にある水素原子の一部が、ハロゲン原子、アルキル基及びアリール基からなる群より選ばれる置換基で置換されていてもよい。
【0051】
前記の構造単位が任意に有していてもよい置換基において、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が挙げられ、アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、ブチル基等の炭素数1〜4程度の低級アルキル基が挙げられ、アリール基の例としては、フェニル基が挙げられる。
【0052】
なお、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物から得られる成形体(電子部品)が、特に良好な耐熱性(耐ハンダ性)が要求される場合には、これらの置換基の数は少ない方が好ましく、特にアルキル基のような置換基は有しないことが好ましい。
【0053】
次に、前記(P1)の中でも、本発明に適用するうえで特に好適な液晶性ポリエステルに関し、その構造単位の組合せについて、上述の構造単位の例示をもとに詳述する。
【0054】
該液晶性ポリエステルとしては、耐ハンダ性や機械的特性のバランスから、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位として、前記(A1)を有していることが好ましく、前記(A1)を全構造単位の合計に対して30モル%以上有していることが好ましい。前記(A1)を有している好適な液晶性ポリエステルに関し、その構造単位の組合せの例としては、以下の(a)〜(h)が挙げられる。
【0055】
(a):(A1)、(B1)及び(C1)の組合せ。
(b):(A1)、(B1)、(B2)及び(C1)の組合せ。
(c):(A1)、(A2)、(B1)及び(C1)の組合せ。
(d):(A1)、(A2)、(B1)、(B2)及び(C1)の組合せ。
(e):(A1)、(B1)、(B3)及び(C1)の組合せ。
(f):(A1)、(B1)、(B2)、(B3)及び(C1)の組合せ。
(g):(A1)、(B1)、(C1)及び(C3)の組合せ。
(h):(A1)、(B1)、(B2)、(C1)及び(C3)の組合せ。
【0056】
前記の例示の中でも、(a)、(b)が好ましく、(a)がより好ましい。そして、(a)としては、(A1)に対する(C1)のモル比率(モル比率(C1)/(A1))が0.2〜1.0であり、(C1)に対する(B1)と(B2)との合計量のモル比率(モル比率((B1)+(B2))/(C1))が0.9〜1.1であり、(B1)に対する(B2)のモル比率(モル比率(B2)/(B1))が0より大きく1以下であるものが好ましい。このような構造単位の組合せ及びそのモル比率を満たし、これに対応する原料モノマーのイミダゾール化合物の存在下での重合により得られる液晶性ポリエステルは、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物の溶融流動性をより良好とすることに加え、得られる成形体の耐衝撃性を良好にすることができる。
【0057】
上述のように、本発明で使用する液晶性ポリエステルは、芳香族ヒドロキシカルボン酸を含む原料モノマーをイミダゾール化合物の存在下に重合させて得られたものであるが、このような液晶性ポリエステルとしては、芳香族ヒドロキシカルボン酸のフェノール性水酸基及び芳香族ジオールのフェノール性水酸基を脂肪酸無水物によりアシル化して、芳香族ヒドロキシカルボン酸のアシル化物及び芳香族ジオールのアシル化物を得るアシル化工程と、イミダゾール化合物の存在下に、芳香族ヒドロキシカルボン酸のアシル化物と、芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオールのアシル化物とを、エステル交換させて、液晶性ポリエステルを得る重合工程とを有する製造方法で得られたものが好ましい。そして、イミダゾール化合物は、該重合工程の反応系中に存在していればよいが、該アシル化工程もイミダゾール化合物の存在下で実施されてもよく、該アシル化工程及び該重合工程がともに、イミダゾール化合物の存在下で行われることが好ましい。
【0058】
まず、芳香族ヒドロキシカルボン酸のフェノール性水酸基及び芳香族ジオールのフェノール性水酸基を脂肪酸無水物でアシル化して、芳香族ヒドロキシカルボン酸のアシル化物及び芳香族ジオールのアシル化物を得るアシル化工程について説明する。
【0059】
該脂肪酸無水物としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水ピバル酸、無水2−エチルヘキサン酸、無水モノクロロ酢酸、無水ジクロロ酢酸、無水トリクロロ酢酸、無水モノブロモ酢酸、無水ジブロモ酢酸、無水トリブロモ酢酸、無水モノフルオロ酢酸、無水ジフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水β−ブロモプロピオン酸が挙げられる。これらは2種類以上を混合して用いてもよい。価格と取り扱い性の観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸が好ましく、無水酢酸がより好ましい。
【0060】
脂肪酸無水物の使用量は、芳香族ヒドロキシカルボン酸のフェノール性水酸基及び芳香族ジオールのフェノール性水酸基の合計に対して、1.0〜1.2モル倍であることが好ましく、1.0〜1.15モル倍であることがより好ましく、1.03〜1.12モル倍であることがさらに好ましく、1.05〜1.1モル倍であることが特に好ましい。該脂肪酸無水物の使用量があまり少ないと、アシル化反応が進行しにくくなって、後の重合工程において未反応の芳香族ヒドロキシカルボン酸又は芳香族ジオールが残存しやすくなり、結果として重合が効率よく進行しないことがある。また、このようにアシル化反応が十分進行していないと、アシル化されていない原料モノマー(芳香族ヒドロキシカルボン酸又は芳香族ジオール)が昇華して、重合時に使用する分留器が閉塞する場合がある。一方、該脂肪酸無水物の使用量があまり多いと、得られる液晶性ポリエステルが着色しやすくなる。
【0061】
アシル化の反応条件は、反応温度が130〜180℃であり、反応時間が30分〜20時間であることが好ましく、反応温度が140〜160℃であり、反応時間が1〜5時間であることがより好ましい。
【0062】
次に、芳香族ヒドロキシカルボン酸のアシル化物と、芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオールのアシル化物とをエステル交換させて、液晶性ポリエステルを得る重合工程、すなわち、前記アシル化工程によって得られた芳香族ヒドロキシカルボン酸のアシル化物のアシル基又は前記アシル化工程によって得られた芳香族ジオールのアシル化物のアシル基と、前記アシル化工程によって得られた芳香族ヒドロキシカルボン酸のアシル化物のカルボキシル基から水酸基を除いてなる残基に相当するアシル基又は芳香族ジカルボン酸のカルボキシル基から水酸基を除いてなる残基に相当するアシル基とを交換させて、液晶性ポリエステルを得る重合工程について説明する。なお、この芳香族ジカルボン酸は、前記アシル化工程の際に、その反応系中に存在させていてもよく、換言すれば、アシル化工程において、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ジオールを同一の反応系中に存在させていてもよい。これは、芳香族ジカルボン酸にあるカルボキシル基及び任意に置換されていてもよい置換基は、通常、脂肪酸無水物によって影響を受けないためである。よって、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ジオールを同一の反応機に仕込んで、脂肪酸無水物によってアシル化反応を実施する形式でもよく、先に、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールを反応機に仕込んで、脂肪酸無水物によってアシル化した後に、芳香族ジカルボン酸を反応機に仕込む形式でもよい。操作上の簡便さから前者の形式がより好ましい。
【0063】
前記重合工程は、その反応温度を昇温しながら実施することが好ましく、具体的には、130〜400℃の範囲で0.1〜50℃/分の割合で昇温しながら実施することが好ましく、150〜350℃の範囲で0.3〜5℃/分の割合で昇温しながら実施することがより好ましい。
【0064】
さらに、前記重合工程における前記エステル交換反応は、その平衡をずらすために、副生する脂肪酸及び未反応の脂肪酸無水物は、蒸発させ、分留器等を通じて系外へ留去させることが好ましい。また、留出する脂肪酸の一部を還流させて反応機に戻すことによって、脂肪酸と同伴して蒸発または昇華する原料モノマーの一部を凝縮又は逆昇華し、反応機に戻すこともできる。
【0065】
既述のように、液晶性ポリエステルは、前記重合工程、好ましくは前記アシル化工程及び前記重合工程において、イミダゾール化合物を存在させることにより、好適に得ることができる。そして、このイミダゾール化合物は、下記式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0066】
【化7】

【0067】
(式中。R1〜R4は、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシメチル基、シアノ基、炭素数2〜5のシアノアルキル基、炭素数2〜5のシアノアルコキシル基、カルボキシル基、アミノ基、炭素数1〜4のアミノアルキル基、炭素数1〜4のアミノアルコキシル基、フェニル基、ベンジル基、フェニルプロピル基又はフォルミル基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0068】
イミダゾール化合物の具体例としては、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、4−エチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1,4−ジメチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、1−メチル−2−エチルイミダゾール、1−メチル−4−エチルイミダゾール、1−エチル−2−メチルイミダゾール、1−エチル−2−エチルイミダゾール、1−エチル−2−フェニルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−メチルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−フェニルイミダゾール、4−(2−シアノエチル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−(2−アミノエチル)−2−メチルイミダゾール、1−[2−(2−シアノエチルアミノ)エチル]−2−メチルイミダゾール、N−[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)エチル]尿素、1−(2−シアノエチル)−2−ウンデシルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−メチルイミダゾールトリメリテート、1−(2−シアノエチル)−2−フェニルイミダゾールトリメリテート、1−(2−シアノエチル)−2−エチル−4−メチルイミダゾールトリメリテート、1−(2−シアノエチル)−2−ウンデシルイミダゾールトリメリテート、2,4−ジアミノ−6−[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)エチル]−S−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2−(2−ウンデシル−1−イミダゾリル)エチル]−S−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2−(2−エチル−4−メチル−1−イミダゾリル)エチル]−S−トリアジン、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、N,N'−ビス[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)エチル]尿素、N,N'−ビス[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)エチル]アジポアミド、2,4−ジアルキルイミダゾール−5−ジチオカルボン酸、1,3−ジベンジル−2−メチルイミダゾリウムクロライド、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ビス(ヒドロキシメチル)イミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−フェニル−4,5−ビス(2−シアノエトキシメチル)イミダゾール、2−メチルイミダゾール・イソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾール・イソシアヌル酸付加物、2,4−ジアミノ−6−[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)エチル]−S−トリアジン・イソシアヌル酸付加物、2−アルキル−4−フォルミルイミダゾール、2,4−ジアルキル−5−フォルミルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、イミダゾール−4−ジチオカルボン酸、2−メチルイミダゾール−4−ジチオカルボン酸、2−ウンデシルイミダゾール−4−ジチオカルボン酸、2−ヘプタデシルイミダゾール−4−ジチオカルボン酸、2−フェニルイミダゾール−4−ジチオカルボン酸、4−メチルイミダゾール−5−ジチオカルボン酸、4−ジメチルイミダゾール−5−ジチオカルボン酸、2−エチル−4−メチルイミダゾール−5−ジチオカルボン酸、2−ウンデシル−4−メチルイミダゾール−5−ジチオカルボン酸、2−フェニル−4−メチルイミダゾール−5−ジチオカルボン酸、1−(2−アミノエチル)−2−メチルイミダゾール、1−[2−(2−シアノエチル)アミノエチル]−2−メチルイミダゾール、N−[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)エチル]尿素、N,N'−ビス[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)エチル]アジポイルジアミド、1−(2−アミノエチル)−2−エチルイミダゾール、4−フォルミルイミダゾール、2−メチル−4−フォルミルイミダゾール、4−メチル−5−フォルミルイミダゾール、2−エチル−4−メチル−5−フォルミルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−フォルミルイミダゾールが挙げられる。
【0069】
イミダゾール化合物のうち、前記アシル化工程におけるアシル化反応や前記重合工程におけるエステル交換反応の反応性をより向上できる点と、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物を用いて得られる成形体(電子部品)の色調をより良好にする点から好適なものは、前記式(1)において、R1が炭素数1〜4のアルキル基であり、R2〜R4がそれぞれ水素原子であるイミダゾール誘導体であり、このイミダゾール誘導体の中でも入手が容易であることから、1−メチルイミダゾール及び/又は1−エチルイミダゾールが特に好ましい。
【0070】
イミダゾール化合物の使用量は、前記液晶性ポリエステルの原料モノマーである芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ジオールの合計100重量部に対して、0.005〜1重量部であることが好ましく、より良好な色調の成形体を得るためには0.05〜0.5重量部であることがより好ましい。この使用量があまり多いと、前記アシル化反応や前記エステル交換反応が制御しにくくなる。一方、この使用量があまり少ないと、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物の溶融流動性が低下し易くなり、得られる成形体(電子部品)の機械強度も低下しやすくなる。なお、イミダゾール化合物は、アシル化工程の前に原料モノマーとともに仕込む形式でもよく、アシル化工程はイミダゾール化合物を存在させることなく行い、アシル化工程後、重合工程の前に仕込む形式でもよい。
【0071】
なお、前記エステル交換反応をさらに促進して重合速度を増加させる目的で、本発明の目的を損なわない範囲であれば、他の重合触媒をさらに添加してもよい。ここでいう他の重合触媒としては、例えば、酸化ゲルマニウムなどのゲルマニウム化合物、しゅう酸第一スズ、酢酸第一スズ、ジアルキルスズ酸化物、ジアリールスズ酸化物などのスズ化合物、二酸化チタン、チタンアルコキシド、アルコキシチタンケイ酸類などのチタン化合物、三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛、酢酸第一鉄などの有機酸の金属塩、トリフッ化ホウ素、塩化アルミニウムなどのルイス酸類、アミン類、アミド類、塩酸、硫酸などの無機酸が挙げられる。ただし、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物を、コネクター等の電子部品の製造用に使用する場合、使用される液晶性ポリエステルには金属不純物が少ない方が好ましいので、金属を含む重合触媒、特に遊離金属イオンが生成し得る重合触媒は、その使用量を極めて少なくするか、実質的に使用しないことが好ましい。
【0072】
前記アシル化工程及び前記重合工程は、回分式反応装置により実施することもできるし、連続的反応装置を使用して、アシル化工程と重合工程とを別々の反応機中で行ってもよい。
【0073】
かくして得られる液晶性ポリエステルは、その流動開始温度が270〜400℃の範囲であることが好ましく、280〜380℃の範囲であることがより好ましい。該流動開始温度が、このような範囲である液晶性ポリエステルを使用すると、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物を用いて得られる成形体(電子部品)の耐ハンダ性をより良好にすることができる。また、該液晶性ポリエステル樹脂組成物から成形体を得る際の溶融成形において、液晶性ポリエステルが熱劣化するという不都合を良好に回避することができる。
【0074】
なお、ここでいう流動開始温度とは、内径1mm、長さ10mmのノズルを持つ毛細管レオメータを用い、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下において、4℃/分の昇温速度で液晶性ポリエステルの加熱溶融体をノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48,000ポイズ)を示す温度を意味するものであり、液晶性ポリエステルの分子量の目安として当業者には周知のものである(小出直之編,「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」,95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行)。
【0075】
上述の好適な流動開始温度の液晶性ポリエステルは、該液晶性ポリエステルを構成する構造単位を適宜最適化することで容易に得ることが可能である。すなわち、液晶性ポリエステルの分子鎖の直線性を向上させるようにすると、その流動開始温度が上がる傾向がある。たとえば、前記芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位の中の(B1)と(B2)において、(B1)は液晶性ポリエステル分子鎖の直線性を向上させ、(B2)は液晶性ポリエステル分子鎖の屈曲性を向上させる(直線性を低下させる)ので、この(B1)と(B2)の共重合比をコントロールすることにより、所望の流動開始温度の液晶性ポリエステルを得ることができる。
【0076】
また、液晶性ポリエステルの分子量を上げると、一般に流動開始温度は上がる傾向がある。これから分子量をコントロールすることにより、所望の流動開始温度の液晶性ポリエステルを得ることができる。このように該液晶性ポリエステルの分子量を上げるには、上述のアシル化工程及び重合工程を含む溶融重合を行った後に、固相重合を行うことが好ましい。
【0077】
固相重合では、まず、前記溶融重合により得られた樹脂を取り出して冷却し、冷却後の樹脂を粉砕によって粉体状としたり、粉体状にした樹脂を造粒してペレット状としたりする。そして、こうして得られる固体状態(粉体状又はペレット状)の樹脂をさらに加熱することで、液晶性ポリエステルを高分子量化する。このように固体状態の樹脂をさらに加熱することで高分子量化する方法を固相重合という。
【0078】
該固相重合の反応条件としては、固体状態の樹脂を不活性気体雰囲気下又は減圧下に、1〜20時間熱処理する方法が通常採用される。この固相重合に係る重合条件は、前記溶融重合で得られた樹脂の流動開始温度を求めてから適宜最適化することができる。なお、該熱処理に使用される装置としては、例えば、既知の乾燥機、反応機、イナートオーブン、電気炉が挙げられる。
【0079】
本発明では、複数種の液晶性ポリエステルを混合してなる液晶性ポリエステル混合物を使用することも可能である。その場合、該液晶性ポリエステル混合物に含まれる複数種の液晶性ポリエステルのうち、少なくも1種の液晶性ポリエステルは、芳香族ヒドロキシカルボン酸を含む原料モノマーをイミダゾール化合物の存在下に重合させて得られたものであることが必要であり、該複数種の液晶性ポリエステルの全てが、芳香族ヒドロキシカルボン酸を含む原料モノマーをイミダゾール化合物の存在下に重合させて得られたものであることが好ましい。
【0080】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物の溶融流動性をさらに一層良好にして、得られる成形体、特に長尺状コネクターの反りを十分抑制できる点で、互いに異なる流動開始温度を有する液晶性ポリエステルを2種含有する液晶性ポリエステル混合物を使用することが好ましい。このような流動開始温度の異なる液晶性ポリエステルの組合せとしては、最も流動開始温度の高い第1の液晶性ポリエステルの流動開始温度が300〜400℃の範囲であり、最も流動開始温度の低い第2の液晶性ポリエステルの流動開始温度が260〜350℃の範囲である組合せが好ましい。該第1の液晶性ポリエステルの流動開始温度は310〜360℃の範囲であることがより好ましい。一方、該第2の液晶性ポリエステルの流動開始温度は270〜320℃の範囲であることがより好ましい。また、該液晶性ポリエステル混合物において、該第1の液晶性ポリエステル100重量部に対して、該第2の液晶性ポリエステルの含有量が10〜150重量部であることが好ましく、60〜100重量部であることがより好ましい。なお、流動開始温度の定義は上述したとおりである。
【0081】
前記第1の液晶性ポリエステルの流動開始温度があまり低いと、得られる成形体の耐ハンダ性が不十分となることがあり、あまり高いと、液晶性ポリエステル樹脂組成物を溶融成形する際、その効率が低下する傾向にあり、該液晶性ポリエステル樹脂組成物の成形加工が困難となることがある。前記第2の液晶性ポリエステルの流動開始温度があまり低いと、得られる成形体の耐ハンダ性が不十分となることがあり、あまり高いと、やはり溶融成形に係る成形加工が比較的困難になる傾向がある。
【0082】
また、前記第1の液晶性ポリエステル樹脂の流動開始温度から前記第2の液晶性ポリエステル樹脂の流動開始温度を引いた値は、20〜60℃の範囲であることが好ましい。この値(差)があまり小さいと、液晶性ポリエステル樹脂混合物自体の溶融流動性が低下し易くなり、結果として液晶性ポリエステル樹脂混合物の溶融流動性が不十分となるおそれがある。一方、この値(差)があまり大きいと、成形加工時に、該第2の液晶性ポリエステルが劣化しやすくなる。
【0083】
前記第1の液晶性ポリエステルを構成する構造単位の好適な組合せとしては、前記のとおり、(a)、(b)が好ましく、(a)がより好ましい。そして、(a)としては、(A1)に対する(C1)のモル比率(モル比率(C1)/(A1))が0.2〜1.0であり、(C1)に対する(B1)と(B2)との合計量のモル比率(モル比率((B1)+(B2))/(C1))が0.9〜1.1であり、(B1)に対する(B2)のモル比率(モル比率(B2)/(B1))が0より大きく1以下であるものが好ましい。
このような構造単位の組合せ及びそのモル比率を満たし、これに対応する原料モノマーのイミダゾール化合物の存在下での重合により得られる液晶性ポリエステルは、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物の溶融流動性をより良好にすることに加え、得られる成形体の耐ハンダ性及び耐衝撃性を良好にすることができる。
【0084】
一方、前記第2の液晶性ポリエステルを構成する構造単位の好適な組合せとしても、前記のとおり、(a)、(b)が好ましく、(a)がより好ましい。そして、(a)としては、(A1)に対する(C1)のモル比率(モル比率(C1)/(A1))が0.2〜1.0であり、(C1)に対する(B1)と(B2)との合計量のモル比率(モル比率((B1)+(B2))/(C1))が0.9〜1.1であり、(B1)に対する(B2)のモル比率(モル比率(B2)/(B1))が0より大きく1以下であるものが好ましい。このような第2の液晶性ポリエステルは、それを構成する構造単位の種類が、上述の好適な第1の液晶性ポリエステルと同じであるので、このような2種の液晶性ポリエステルを混合した際、その相溶性が極めて良好になる傾向がある。これら第1の液晶性ポリエステル及び第2の液晶性ポリエステルを構成する構造単位の種類及びそのモル比率は、上述した流動開始温度を満たすようにして適宜選択する。
【0085】
また、上述のように液晶性ポリエステルの分子鎖の直線性をコントロールすることで互いに異なる流動開始温度の液晶性ポリエステルを各々製造できる点で、(B1)及び(B2)の構造単位の共重合比を最適化することが好ましい。具体的には、第1の液晶性ポリエステルのモル比率(B2)/(B1)をαとし、第2の液晶性ポリエステルのモル比率(B2)/(B1)をβとしたとき、後者に対する前者の比率(α/β)が0.1〜0.6の範囲であることが好ましく、0.3〜0.6の範囲であることがより好ましい。
【0086】
前記液晶性ポリエステル混合物は、上述の第1の液晶性ポリエステル及び第2の液晶性ポリエステルを含んでいればよく、その他の液晶性ポリエステルを含有することもできるが、実質的に第1の液晶性ポリエステル及び第2の液晶性ポリエステルからなる液晶性ポリエステル混合物が好適である。
【0087】
本発明で使用するマイカは、アルカリ金属を含有するアルミノ珪酸塩であり、白雲母からなるものであり、50重量%以上が白雲母であることが好ましく、80重量%以上が白雲母であることがより好ましく、実質的に白雲母のみからなることがさらに好ましい。また、本発明で使用するマイカの体積平均粒径は40μm以下であり、25μm以下であることが好ましい。ここでいう体積平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した値である。このような体積平均粒径を有するマイカは、液晶性ポリエステルとの混和性が良好になって、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物の溶融流動性をさらに良好にすることができる。
【0088】
また、該マイカは、その比表面積が6m2/g以下である。この比表面積は、4m2/g以下であることがより好ましい。ここでいう比表面積は、BET比表面積測定により求められるものである。比表面積が6m2/gを超えるマイカを使用すると、液晶性ポリエステル樹脂組成物を比較的高温条件で溶融成形する際、液晶性ポリエステル樹脂組成物に含有されている液晶性ポリエステルの加水分解を助長するおそれがある。そして、このように液晶性ポリエステルの加水分解が生じた場合、得られる成形体の耐ハンダ性が低下し易いという不都合がある。一般に、マイカの体積平均粒径が大きくなるほど、マイカの比表面積が小さくなる傾向があるので、前記ような好適な比表面積を満たすように、好適な体積平均粒径のマイカが選択される。
【0089】
前記白雲母の化学式は、一般にK2O・3Al23・6SiO2・2H2Oとなる。本技術分野で使用されるマイカとしては、通常、金雲母又は白雲母からなるものが知られている。本発明者等は、金雲母からなるマイカを用いた場合、その体積平均粒径を40μm以下にし、その比表面積を6m2/g以下にしたとしても、これを含む液晶性ポリエステル樹脂組成物を成形して、例えば超薄肉部を有する長尺状コネクターを製造する場合、該長尺状コネクターの反りの発生が十分には抑制されにくいことを見出している。また、このような金雲母からなるマイカの使用は、該液晶性ポリエステル樹脂組成物の溶融流動性を低下させやすいことも見出している。
【0090】
本発明に使用するマイカを上述の液晶性ポリエステルと溶融混合することで、前記液晶性ポリエステル樹脂組成物をペレット状で得る場合、この溶融混合する前のマイカの付着水は、0.3重量%以下であることが好ましく、0.2重量%以下であることがより好ましい。ここでいうマイカの付着水は、加熱乾式水分計により測定される値である。該マイカの付着水があまり多いと、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物を、比較的高温条件で溶融混合してペレット状にする際、この付着水の影響によって、該液晶性ポリエステル樹脂組成物に含有されている液晶性ポリエステルの加水分解を助長するおそれがある。該マイカの比表面積を6m2/g以下にすることにより、付着水を低減することも可能となる。
【0091】
<その他の成分>
本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物には、前記マイカ以外の充填剤や添加剤を含有させることもできる。得られる成形体の機械強度等を改善する点では、該充填剤としては繊維状充填剤が好ましく、無機材料からなる繊維状充填剤(繊維状無機充填剤)がよりに好ましい。
【0092】
このような繊維状無機充填剤は、平均繊維径が0.1〜20μmであることが好ましく、0.5〜15μmであることがより好ましい。平均繊維径があまり小さいと、反りの発生を抑制することが困難になることもある。一方、平均繊維径があまり大きいと、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物の溶融流動性を損なうおそれがある。また、平均繊維長は、1〜300μmであることが好ましく、5〜300μmであることがより好ましい。平均繊維長があまり小さいと、機械強度の向上が期待できないという問題があり、平均繊維長があまり大きいと、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物の溶融流動性を損なうおそれがある。
【0093】
かかる繊維状無機充填剤としては、例えば、ガラス繊維、ウォラストナイト、ホウ酸アルミニウムウィスカ、チタン酸カリウムウィスカ、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維が挙げられる。中でも、ガラス繊維、炭素繊維、ウォラストナイト、ホウ酸アルミニウムウィスカ、チタン酸カリウムウィスカが好ましい。なお繊維状無機充填剤を使用する場合、該繊維状無機充填剤は単独で使用しても、2種類以上を合わせて使用してもよい。
【0094】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物に含まれうる添加剤としては、例えば、液晶性ポリエステル以外の樹脂や当技術分野で周知の添加剤が挙げられる。液晶性ポリエステル以外の樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル及びその変性物、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルイミドなどの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。また、当技術分野で周知の添加剤としては、例えば、金属石鹸類等の離型改良剤、染料や顔料等の着色剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤が挙げられる。また、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤等の外部滑剤効果を有する添加剤も挙げられる。これらの添加剤も前記繊維状無機充填剤と同様に、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物の優れた溶融流動性を極端に損なわないようにして、その種類及び使用量が決定される。
【0095】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物は、上述のように、液晶性ポリエステルにマイカを配合してなるものであり、前記液晶性ポリエステル100重量部に対して、前記マイカの配合量は、15〜100重量部であり、25〜80重量部であることが好ましい。前記マイカの配合量が15重量部以上であれば、得られる成形体、特に長尺状コネクターの反りの発生が十分抑制され、一方、前記マイカの配合量が100重量部以下であれば、溶融成形時の溶融流動性が良好となり、成形がより容易になる。また、前記液晶性ポリエステルに対する前記マイカの配合量がこのような範囲である液晶性ポリエステル樹脂組成物は、特に長尺状コネクターに成形しようとする場合、このコネクターの耐熱性を良好にすることができるので、実用的な耐ハンダ性の成形体を得る点でも有利である。なお、前記液晶性ポリエステルとして前記液晶性ポリエステル混合物を用いる場合、この液晶性ポリエステル混合物100重量部に対して、前記マイカを15〜100重量部、好ましくは25〜80重量部、配合すればよい。
【0096】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物を得るための原料成分の配合手段としては、例えば、液晶性ポリエステル、マイカ及び必要に応じて使用される繊維状充填剤や添加剤等の各原料成分を、各々別々に溶融混合機に供給する方法や、これらの原料成分を乳鉢、ヘンシェルミキサー、ボールミル、リボンブレンダー等を利用して予備混合してから、溶融混合機に供給する方法が挙げられる。また、既述のように、溶融混練機に供給する前の前記マイカは、その付着水が0.3重量%以下であることが好ましい。
【0097】
このようにして得られる液晶性ポリエステル樹脂組成物を溶融成形することにより、成形体、特に長尺状コネクターを好適に得ることができる。成形方法としては射出成形法が好ましい。射出成形の成形温度は、液晶性ポリエステル樹脂組成物に含まれている液晶性ポリエステルの流動開始温度(Tr[℃])を勘案して決定される。具体的には、Trより10〜80℃高い成形温度を採用することが好ましい。該成形温度がこの範囲であれば、液晶性ポリエステル樹脂組成物が優れた溶融流動性を発現し、超薄肉部を有するコネクターや複雑な形状を有するコネクターの製造においても、良好な成形性を発現できる。また、溶融成形時の液晶性ポリエステルの劣化が十分に防止されるので、コネクターの耐ハンダ性や機械的強度といった特性の低下を生じさせるおそれがない。特に、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物は、肉厚0.1mm以下の薄肉部を有するようなコネクターに成形しても、反りの発生を十分に抑制することが可能となる。また、このようにして得られるコネクターは、液晶性ポリエステルの優れた耐熱性を損なうことなく、アイゾット衝撃強度(耐衝撃性)や曲げ弾性率などの機械的強度にも優れているため、今後益々、薄肉化や形状の複雑化が求められるコネクターを容易に得ることができる。そして、この薄肉部を有したり、複雑な形状を有したりするコネクターは、モバイル機器等に使用する電子部品に好適である。
【実施例】
【0098】
以下、本発明の実施例を示す。なお、マイカの物性は、以下の(1)〜(3)の方法により測定し、得られた液晶性ポリエステル樹脂組成物は、以下の(4)〜(6)の方法により評価した。
【0099】
(1)体積平均粒径
マスターサイザー2000(シスメックス(株))にて測定した。
【0100】
(2)比表面積
Hmmodel−1208(Mountech)にて測定した。
【0101】
(3)付着水
加熱乾式水分計((株)エー・アンド・デイ)にて測定した。
【0102】
(4)薄肉流動長(溶融流動性)
液晶性ポリエステル樹脂組成物を、図2に示す金型(0.3mmt)を装着した射出成形機(日精樹脂工業(株)「PS10E1ASE」)を用いて、シリンダー温度350℃、金型温度130℃、射出速度60%で成形した。取り出した成形品の、4個のキャビティー部の長さを測定し、5個の成形品の測定値をもって薄肉流動長とした。
【0103】
(5)耐ハンダ性
液晶性ポリエステル樹脂組成物を、射出成形機(日精樹脂工業(株)「PS40E1ASE」)を用いて、シリンダー温度350℃、金型温度130℃、射出速度60%で、JIS K7113(1/2)号ダンベル試験片(厚さ1.2mm)に成形した。得られた試験片10本を280℃に加熱したハンダ浴に60秒間浸漬し、取り出し後の試験片表面にブリスター(膨れ)が発生しているか否かを観察し、ブリスターが発生した試験片本数からブリスター発生確率を算出した。
【0104】
(6)反り量
液晶性ポリエステル樹脂組成物を、射出成形機(日精樹脂工業(株)「ES400」)を用いて成形し、図1に示すようなコネクターを得た。射出成形条件は、シリンダー温度350℃、金型温度70℃、射出速度150mm/秒とした。得られたコネクターの底面に対し、長さ方向に0.2mmごと、幅方向に0.5mmごとに、平坦度測定モジュール((株)コアーズ)にて反り量を測定し、その平均値を算出して、リフロー前反り量とした。さらに、同コネクターを、50℃で40秒保持した後、270℃まで昇温し、次いで、同温度で1分間保持した後、50℃まで降温させ、前記と同様にして反り量を測定し、その平均値を算出して、リフロー後反り量とした。なお、前記コネクターは、長さ18mm、幅3.5mm、高さ1mmの、53pin(0.3mmピッチ)FPC用コネクターであり、最小肉厚部は0.1mmである。
【0105】
製造例1
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応機に、パラヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を仕込んだ。反応機内を十分に窒素ガスで置換した後、1−メチルイミダゾールを0.18g添加し、窒素ガス気流下で30分かけて150℃まで昇温し、同温度を保持して30分間還流させた。その後、1−メチルイミダゾールを2.4g添加した後、留出する副生酢酸と未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められた時点を反応終了とみなし、プレポリマーを取り出した。得られたプレポリマーを室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕した。粉砕後のプレポリマーを、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から295℃まで5時間かけて昇温し、295℃で3時間保持することで、固相重合を行った。こうして得られた液晶性ポリエステルをLCP1とする。このLCP1は、流動開始温度が327℃であり、モル比率(C1)/(A1)が1/3であり、モル比率((B1)+(B2))/(C1)が1/1であり、モル比率(B2)/(B1)が1/3であった。
【0106】
製造例2
1−メチルイミダゾールを添加しなかったこと以外は、製造例1と同様にしてプレポリマーを得た。このプレポリマーを粗粉砕機で粉砕した後、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、285℃で3時間保持することで、固相重合を行った。こうして得られた液晶性ポリエステルをLCP2とする。このLCP2は、流動開始温度が324℃であり、モル比率(C1)/(A1)が1/3であり、モル比率((B1)+(B2))/(C1)が1/1であり、モル比率(B2)/(B1)が1/3であった。
【0107】
製造例3
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応機に、パラヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、テレフタル酸239.2g(1.44モル)、イソフタル酸159.5g(0.96モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を仕込んだ。反応機内を十分に窒素ガスで置換した後、1−メチルイミダゾールを0.18g添加し、窒素ガス気流下で30分かけて150℃まで昇温し、同温度を保持して30分間還流させた。その後、1−メチルイミダゾールを2.4g添加した後、留出する副生酢酸と未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められた時点を反応終了とみなし、プレポリマーを取り出した。このプレポリマーを室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕した。粉砕後のプレポリマーを窒素雰囲気下、室温から220℃まで1時間かけて昇温し、220℃から240℃まで0.5時間かけて昇温し、240℃で10時間保持することで、固相重合を行った。こうして得られた液晶性ポリエステルをLCP3とする。このLCP3は、流動開始温度が286℃であり、モル比率(C1)/(A1)が1/3であり、モル比率((B1)+(B2))/(C1)が1/1であり、モル比率(B2)/(B1)が2/3であった。
【0108】
製造例4
1−メチルイミダゾールを添加しなかったこと以外は、製造例3と同様にしてプレポリマーを得た。このプレポリマーを粗粉砕機で粉砕した後、粉砕後のプレポリマーを窒素雰囲気下、室温から220℃まで1時間かけて昇温し、220℃から245℃まで0.5時間かけて昇温し、245℃で10時間保持することで、固相重合を行った。こうしてえら得た液晶性ポリエステルをLCP4とする。このLCP4は、流動開始温度が285℃であり、モル比率(C1)/(A1)が1/3であり、モル比率((B1)+(B2))/(C1)が1/1であり、モル比率(B2)/(B1)が2/3であった。
【0109】
マイカとして、以下のものを使用し、その種類及び前記(1)〜(3)の方法による物性測定結果を表1に示した。
(株)山口雲母工業所製「AB−25S」
(株)山口雲母工業所製「A61」
(株)山口雲母工業所製「A21」
クラレトレーディング(株)製「300W」
クラレトレーディング(株)製「325HK」
【0110】
実施例1〜4及び比較例1〜7
表2に示す種類の液晶性ポリエステル及びマイカ(ただし、比較例7では、マイカに代えて、タルク(体積平均粒径16μm、比表面積2.11m2/g、付着水0.13%)及びガラス繊維(比表面積0.38m2/g、付着水0.11%)を使用)を、表2に示す重量割合で混合した後、2軸押出機(池貝鉄工(株)「PCM−30HS」)と水封式真空ポンプ(神港精機(株)「SW−25」)を用いて、シリンダー温度340℃にて、真空ベントで脱気しながら造粒して、液晶性ポリエステル樹脂組成物をペレット状で得た。得られた液晶性ポリエステル樹脂組成物の前記(4)〜(6)による評価結果を表2に示した。
【0111】
【表1】

【0112】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ヒドロキシカルボン酸を含む原料モノマーをイミダゾール化合物の存在下に重合させて得られた液晶性ポリエステルと、該液晶性ポリエステル100重量部に対して、白雲母からなり、体積平均粒径40μm以下且つ比表面積6m2/g以下のマイカ15〜100重量部とを含有することを特徴とする液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記イミダゾール化合物が、下記式(1)で表される化合物であることを特徴とする液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【化1】

(式中、R1〜R4は、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシメチル基、シアノ基、炭素数2〜5のシアノアルキル基、炭素数2〜5のシアノアルコキシル基、カルボキシル基、アミノ基、炭素数1〜4のアミノアルキル基、炭素数1〜4のアミノアルコキシル基、フェニル基、ベンジル基、フェニルプロピル基又はフォルミル基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項3】
前記液晶性ポリエステルが、芳香族ヒドロキシカルボン酸のフェノール性水酸基及び芳香族ジオールのフェノール性水酸基を脂肪酸無水物によりアシル化して、該芳香族ヒドロキシカルボン酸のアシル化物及び該芳香族ジオールのアシル化物を得るアシル化工程と、イミダゾール化合物の存在下に、該芳香族ヒドロキシカルボン酸のアシル化物と、芳香族ジカルボン酸と、該芳香族ジオールのアシル化物とをエステル交換させて、液晶性ポリエステルを得る重合工程とを有する製造方法で得られた液晶性ポリエステルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記芳香族ヒドロキシカルボン酸がパラヒドロキシ安息香酸であり、前記芳香族ジカルボン酸がテレフタル酸及び/又はイソフタル酸であり、前記芳香族ジオールが4,4’−ジヒドロキシビフェニルであることを特徴とする請求項3に記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
前記液晶性ポリエステルの流動開始温度が270〜400℃の範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
前記液晶性ポリエステルが複数種の液晶性ポリエステルを含む液晶性ポリエステル混合物であり、該複数種の液晶性ポリエステルのうち、最も流動開始温度の高い第1の液晶性ポリエステルの流動開始温度が300〜400℃の範囲であり、最も流動開始温度の低い第2の液晶性ポリエステルの流動開始温度が260〜350℃の範囲であり、該第1の液晶性ポリエステル100重量部に対して、該第2の液晶性ポリエステル10〜150重量部を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
前記第1の液晶性ポリエステルの流動開始温度から前記第2の液晶性ポリエステルの流動開始温度を引いた値が20〜60℃の範囲であることを特徴とする請求項6に記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物を成形して得られることを特徴とするコネクター。
【請求項9】
肉厚0.1mm以下の薄肉部を有することを特徴とする請求項8に記載のコネクター。
【請求項10】
芳香族ヒドロキシカルボン酸を含む原料モノマーをイミダゾール化合物の存在下に重合させて得られた液晶性ポリエステルと、該液晶性ポリエステル100重量部に対して、白雲母からなり、体積平均粒径40μm以下且つ比表面積6m2/g以下のマイカ15〜100重量部とを溶融混合することを特徴とする液晶性ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
前記イミダゾール化合物が、下記式(1)で表される化合物であることを特徴とする請求項10に記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【化2】

(式中、R1〜R4は、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシメチル基、シアノ基、炭素数2〜5のシアノアルキル基、炭素数2〜5のシアノアルコキシル基、カルボキシル基、アミノ基、炭素数1〜4のアミノアルキル基、炭素数1〜4のアミノアルコキシル基、フェニル基、ベンジル基、フェニルプロピル基又はフォルミル基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項12】
前記マイカの付着水が0.3重量%以下であることを特徴とする請求項10又は11に記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−168574(P2010−168574A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292263(P2009−292263)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】