説明

液晶素子とその製造方法

【課題】2枚の透明基板を重ね合わせたときにシールの内側領域への侵入を極力抑えることができる液晶素子とその製造方法を提供すること。
【解決手段】枠状シールを介して2枚の透明基板を重ね合わせ、当該枠状シールの内側領域に液晶を配した液晶素子において、2枚の透明基板の少なくとも一方に、枠状シールが形成される内側位置に、シール形状に沿って溝が形成されており、枠状シールが、溝に流入した位置から外側に至る領域、または溝を被覆して、かつ当該溝の内側と外側の両方に伸延した領域に配置する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶素子とその製造方法に関し、シールの内側領域の形状が必要以上に大きくならない液晶素子とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、液晶素子は様々な用途に使用されているが、その液晶素子の用途として光ピックアップ装置がある。この光ピックアップ装置は、レーザー光源から出射されるレーザー光を光ディスクに照射し、この光ディスクからの反射光を集光して、光ディスクの情報を読み取ったり、光ディスクに情報を書き込んだりするために用いられる。そして、この光ピックアップ装置における、レーザー光の波面収差を補正するために液晶光学素子が用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この光ピックアップ装置で用いられる液晶素子の外形は非常に小さく、数ミリ角程度である。今後、さらなる光ピックアップ装置の小型化に伴い、ますます外形の小さい液晶素子が求められることは必然である。
【0004】
そこで、この外形サイズが小さな液晶素子に適用できる液晶素子の製造方法が開示された(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
まずここで、特許文献2に記載された液晶素子の構成を図8に示す。図8(a)は、この従来の液晶素子の断面図であり、(b)図は、液晶素子の平面図を示している。
【0006】
図8(a)(b)に示すように、従来の液晶素子20は、枠状シール3を介して、2枚の透明基板2a、2bを所定の間隙を持って重ね合わせてなり、その間隙であって、枠状シール3の内側領域に液晶4を配した構成となっている。ここで、外形サイズを小さくした液晶素子20における、素子に入射するレーザー光が、液晶素子20を通過する領域が有効径6となる。また、液晶素子20の枠状シール3の開口径は、上記有効径6よりも大きく形成され、枠状シール3の内壁から有効径6までの間隔が7bとなっている。
【0007】
次に、この従来の液晶素子20の製造方法について説明する。図9および図10は、従来の液晶素子の製造方法を示す図面である。なお、図9(a)は、透明基板上に紫外線硬化型のシールを形成するシール形成工程を示し、図9(b)は、シールの内側領域に液晶を滴下する液晶滴下工程を示し、図10(c)は2枚の透明基板を重ねる工程を示し、図10(d)はシールを硬化させる工程を示している。
【0008】
まず、図9(a)に示すシール形成工程にて、透明基板2bの表面に、スクリーン印刷またはディスペンサー塗布法を用いて、紫外線硬化型樹脂からなる枠状シール3を閉環形状に形成する。
【0009】
次に、図9(b)に示す液晶滴下工程にて、枠状シール3の内側領域に、液晶4を滴下する。
【0010】
次に、図10(c)に示す重ね合わせ工程にて、透明基板2bに枠状シール3を介して透明基板2aを重ね合わせる。このとき、枠状シール3は、所定のギャップ厚までつぶされるとともに、枠状シール3が、透明基板2b上に配した量に応じて、シール形成箇所から内側と外側に広がってゆく。したがって、この枠状シール3は、図9(a)に示したシール形成工程でのシール幅よりも広い幅となる。
【0011】
最後に、図10(d)に示すシール硬化工程にて、遠紫外線または近紫外線のシール硬化光9を、透明基板2aまたは透明基板2bを透して照射して、枠状シール3を硬化させることで、従来の液晶素子20が完成する。
【0012】
【特許文献1】特許第3443226号公報(第3頁、第1図)
【特許文献2】特開平11−109388号公報(第3頁、第1−3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、図8(a)(b)に示した従来の液晶素子20を、光ピックアップ装置に適用される、外形サイズを小さくした液晶素子とした場合、有効径6と枠状シール3との間隔7bがとても狭くなり、このセルを製造することが難しくなるという問題が発生する。その理由について説明する。
【0014】
外形サイズが小さな小型の液晶素子20を製造する場合、図9(a)に示した、シール形成工程での枠状シール3の塗布量によって、枠状シール3の内径が変化する。ここで、枠状シール3の塗布量が少な過ぎると、透明基板2a、2bが十分な強度を持って接着することができない。それに対して、枠状シール3の塗布量が多過ぎると、図10(c)および図10(d)に示した工程で、有効径6の内部に枠状シール3が入り込んでしまうこととなる。この枠状シール3の塗布量は、本工程において常に安定して供給することは非常に難しく、製造した液晶素子によって、出来上がった枠状シール3の広がり方が異なり、枠状シール3の内径を変えてしまう。この様に、従来の製造方法では、目的に合致した従来の液晶素子20を作成することが、非常に難しいことが明白である。
【0015】
そこで、本発明は上記課題を解決し、2枚の透明基板を重ね合わせたときにシールの内側領域への侵入を極力抑えることができる液晶素子とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の液晶素子は下記記載の構成を採用する。
本発明の液晶素子は、枠状シールを介して2枚の透明基板を重ね合わせ、当該枠状シールの内側領域に液晶を配した液晶素子において、2枚の透明基板の少なくとも一方に、枠状シールが形成される内側位置に、シール形状に沿って溝が形成されており、枠状シールが、溝に流入した位置から外側に至る領域、または溝を被覆して、かつ当該溝の内側と外側の両方に伸延した領域に配置されていることを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の液晶素子は、上記溝が2枚の透明基板の両方に形成されていることを特徴とするものである。
【0018】
また、上記溝は、2枚の透明基板の対向する位置に形成されていても良い。
【0019】
本発明の液晶素子に製造方法は、枠状シールを介して一方と他方の透明基板を重ね合わせ、当該枠状シールの内側領域に液晶を配する液晶素子の製造方法において、一方の透明基板表面に、溝を形成する溝形成工程と、この一方の透明基板に形成された溝の外側領域に、枠状シールを形成するシール形成工程と、他方の透明基板を、枠状シールを介して一方の透明基板に重ね合わせ、溝に枠状シールを流入させた上で、枠状シールを硬化させる基板重ね合わせ工程を有することを特徴とするものである。
【0020】
また、上記溝形成工程は、一方の透明基板と他方の透明基板の両方に対して溝を形成す
ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の様に、シールの内側であり、有効径の外側である位置に溝を設けることで、シールと有効径との間隔を十分確保できない位まで、外形サイズを小さくしたとしても、透明基板を重ね合わせたときに、シールの有効径内への進入を極力抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面に基づいて、本発明の液晶素子について詳述する。
【実施例1】
【0023】
まず、本発明の液晶素子1の実施例1の構成例を図1に基づいて説明する。図1(a)(b)は、本発明の液晶素子1の構成を示す断面図および平面図である。なお、図1(a)は、本図(b)のA−A断面を示している。
【0024】
図1(a)(b)に示すように、本発明の液晶素子1は、閉環形状の枠状シール3を介して、2枚の透明基板2a、2bで、液晶4を挟持する構成となっている。また、透明基板2bには、光ピックアップ装置におけるレーザー光源から発振されるレーザー光の有効径6の外側であって、かつ枠状シール3の内側壁が、環形状の溝5に入り込む位置となる様に枠状シール3が形成されている。ここで、本図での枠状シール3は、溝5に流入した位置から、外側に至る領域に形成されている。この様に構成した液晶素子1は、素子の外形サイズを小さくしたとしても、有効径6と枠状シール3の間隔7aを十分確保した形態とすることが出来る。その理由については、後段で詳細に説明する。
【0025】
次に、本発明の液晶素子1の製造方法について図2および図3に基づいて説明する。図2は、本発明の液晶素子1の製造方法を示す図面であり、図2(a)はレジストパターニング工程を示す図であり、図2(b)はエッチング工程を示す図であり、図2(c)はシール形成工程を示す図である。また、図3(d)は液晶滴下工程を示す図であり、図3(e)は重ね合わせ工程を示す図であり、図3(f)はシール硬化工程を示す図である。
【0026】
まず、図2(a)に示すレジストパターニング工程によって、透明基板2bの基板表面に、スピンコートによりレジストを塗布し、その後フォトリソグラフィー法によって、閉環形状のスリットを有するレジスト8を形成する。
【0027】
次に、図2(b)に示すエッチング工程により、透明基板2bをフッ酸と過酸化水素のエッチング液でもってウェットエッチングし、透明基板2bの外周部に溝5を形成する。その後、レジストパターニング工程にて形成したレジスト8を剥離する。
【0028】
次に、図2(c)に示すシール形成工程によって、閉環形状で紫外線硬化型の枠状シール3を、ディスペンサー塗布法またはスクリーン印刷法により、透明基板2bの表面上であって、溝5の外側領域に形成する。このとき枠状シール3は、未硬化状態で、溝5に沿って枠状シール3が形成される。
【0029】
次に、図3(d)に示す液晶滴下工程によって、閉環形状の枠状シール3の内側領域に、ディスペンサー塗布法によって、液晶4を透明基板2bの上部から滴下する。
【0030】
次に、図3(e)に示す重ね合わせ工程によって、枠状シール3の内側領域に液晶4が滴下された透明基板2bと透明基板2aとを、枠状シール3を介して1[Pa]程度の真空状態で重ね合わせる。その後、大気圧に戻して透明基板2a、2bを圧縮し、所定の基板間ギャップを形成する。ここで、透明基板2aと透明基板2bによって枠状シール3が
つぶされて、枠状シール3は、枠状シール3を形成した外側領域には広がっていくが、枠状シール3を形成した内側領域には溝5が形成されているため、枠状シール3は溝へと流入する。そのため、枠状シール3の外側への広がりに比べて、内側領域への広がりを極力抑えることができる。
【0031】
次に、図3(f)に示すシール硬化工程によって、重ね合わせた透明基板2a、2bを押圧したまま、透明基板1aの外側表面から2〜3[J/cm]程度の、遠紫外または近紫外の波長帯域のシール硬化光9を照射することで、枠状シール3の樹脂材料のオリゴマー成分を架橋硬化させ、透明基板2a、2bが強固に接着して固定されて、目的の液晶素子1が完成する。
【0032】
なお、上記説明では、透明基板2bに溝5を設けたが、透明基板2aに設けても構わない。また、枠状シール3の形成箇所は溝5の外側領域としたが、上記重ね合わせ工程によって、枠状シール3の内側領域への広がりを抑えることが出来ればよいので、図4のように、上記シール形成工程において、枠状シール3を溝5に掛かる位置に形成しても構わない。
【0033】
また、上記説明では、図3(f)で最終的に得られる液晶素子1が、溝5に流入した位置(溝5の内側縁部から外側が枠状シール3で埋まった位置)から、外側に至る領域に形成された例を示したが、図5(a)のように、枠状シール3が溝5の全部を満たさずに、最終的に形成された液晶素子が、一部の溝5部分に、枠状シール3が充填する形態としてもよい。
【0034】
また、図5(b)のように、枠状シール3が溝5の全部を満たし、この枠状シール3がさらにその内側まで広がって、溝の内側と外側の両方に伸延した領域に形成された形態としてもよい。
【0035】
さらに、図5(c)のように、溝5に枠状シール3が入り込んでいれば、溝5に対して枠状シール3がずれて(有効径6の中心から枠状シール3の内側までの間隔が異なる形態で)形成されていてもよい。
【0036】
上記のいずれかの構成とすることにより、シール形成工程にて形成された枠状シール3を、重ね合わせ工程にて内側領域にある溝5に流入させて、枠状シール3の外側への広がりに比べて内側への広がりを極力抑えることができる。そのため、液晶素子1の外形サイズを小さくすることで、枠状シール3と有効径6との間隔7a(図1参照)が十分確保できない場合であっても、有効径6内への枠状シール3の侵入を、極力抑えた液晶素子1とすることが出来る。
【実施例2】
【0037】
次に、本発明の液晶素子の他の構成例を図6に基づいて説明する。図6は、本実施例の液晶素子の構成を示す図面である。
【0038】
図6に示すように、実施例2の液晶素子1では、実施例1で示した液晶素子の一方の透明基板だけに配した溝を、透明基板2a、透明基板2bの両方に設けている。尚、以下の説明では、実施例1で示した液晶素子の同一要素には同一番号を付け、重複する説明は省略する。
【0039】
図6(a)に示すように、本実施例で示す液晶素子1は、透明基板2a、2bの両基板の対向する位置に、溝15a、15bが配置してなる。
【0040】
この様に、本形態では、溝15a、15bを透明基板2a、2b両方に設けているので、枠状シール3が流入できる溝の体積が2倍になり、より効果的に枠状シール3の内側領域への広がりを抑えることが出来る。
【0041】
なお、溝15aと15bの位置関係は、図6(a)に示したように、対向した位置としなくてもよく、図6(b)に示すように、有効径6の外側であれば、各溝15a、15bを対向しない位置にそれぞれ配置してもよい。また、図6(a)(b)の形態も、実施例1で示したと同じ方法で製造することができる。
【実施例3】
【0042】
次に、本発明の液晶素子のさらに他の構成例を図7に基づいて説明する。図7は、本実施例の液晶素子の構成を示す図面である。
【0043】
図7に示すように、実施例3の液晶素子1は、枠状シール3の形状が、実施例1および2で示した閉環形状ではなく封孔口10を有する形状になっており、この封孔口10が封孔剤11によってふさがれている点と、透明基板2a、2bに形成される溝15a、15bが、閉環形状でない点以外は、実施例2と同じ構成となっている。
【0044】
また、本実施例における液晶素子1は、透明基板2aに封孔口10を有する枠状シール3を塗布し、この透明基板2aと他の透明基板2bと重ね合わせ、真空装置内で、封孔口10から液晶を注入し、この封孔口10を封孔剤11で閉蓋することで、目的の液晶素子1を得ることができる。
【0045】
この様に、実施例3のように、枠状シール3が閉環形状でない場合においても、枠状シール3を透明基板2aに塗布した後に、他の透明基板2bと重ね合わせたときに、枠状シール3が溝15a、15bに流入してゆき、有効径6内部の内側領域への枠状シール3の広がりが抑えることができる。
【0046】
そして、実施例2と同様に、基板を重ね合わせたときに枠状シール3が有効径6内へ広がることを抑えた液晶素子1を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の液晶素子の構成例を示す平面図と断面図である。
【図2】本発明の液晶素子の製造方法を示した工程図である。
【図3】図2の続きの製造方法を示す工程図である。
【図4】本発明のシール塗布の変形例を示す平面図と断面図である。
【図5】本発明の液晶素子の変形例を示す平面図と断面図である。
【図6】本発明の実施例2に係わる液晶素子の構成例を示す平面図と断面図である。
【図7】本発明の実施例3に係わる液晶素子の構成例を示す平面図と断面図である。
【図8】従来の液晶素子の概略を示す平面図と断面図である。
【図9】従来の液晶素子の製造方法を示す工程図である。
【図10】図9の続きの製造方法を示す工程図である。
【符号の説明】
【0048】
1 液晶素子
2a、2b 透明基板
3 枠状シール
4 液晶
5、5a、5b、15a、15b 溝
6 有効径
7a、7b 間隔
8 レジスト
9 シール硬化光
10 封孔口
11 封孔剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠状シールを介して2枚の透明基板を重ね合わせ、当該当枠状シールの内側領域に液晶を配した液晶素子において、
前記2枚の透明基板の少なくとも一方に、前記枠状シールが形成される内側位置に、シール形状に沿って溝が形成されており、
前記枠状シールは、前記溝に流入した位置から外側に至る領域、または前記溝を被覆して、かつ当該溝の内側と外側の両方に伸延した領域に配設されている
ことを特徴とする液晶素子。
【請求項2】
前記溝は、前記2枚の透明基板の両方に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の液晶素子。
【請求項3】
前記溝は、前記2枚の透明基板の対向する位置に形成されている
ことを特徴とする請求項2に記載の液晶素子。
【請求項4】
枠状シールを介して一方と他方の透明基板を重ね合わせ、当該枠状シールの内側領域に液晶を配する液晶素子の製造方法において、
前記一方の透明基板表面に、溝を形成する溝形成工程と、
前記一方の透明基板に形成された前記溝の外側領域に、前記枠状シールを形成するシール形成工程と、
前記他方の透明基板を、前記枠状シールを介して前記一方の透明基板に重ね合わせ、前記溝に前記枠状シールを流入させた上で、前記枠状シールを硬化させる基板重ね合わせ工程と、を有する
ことを特徴とする液晶素子の製造方法。
【請求項5】
前記溝形成工程は、前記一方の透明基板と前記他方の透明基板の両方に対して前記溝を形成する工程である
ことを特徴とする請求項4に記載の液晶素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−216786(P2009−216786A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57832(P2008−57832)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】