説明

液晶素子及び立体表示装置

【課題】 解像度及び透過率を低下させずに立体視を可能にする液晶素子を提供する。
【解決手段】 液晶素子は、第1の透明基板と、前記第1の透明基板上に形成された第1の透明電極と、前記第1の透明基板に対向する第2の透明基板と、前記第2の透明基板上に形成されるプリズム層と、前記プリズム層上に形成される第2の透明電極と、前記第1及び第2の透明基板間に挟まれ、コレスティックブルー相を示す液晶分子を有する液晶層と、前記液晶層に印加する電圧を高速に切り替えることにより、前記液晶層の屈折率を変化させて、前記プリズム層を通過する光の進行方向を視認できない速度で変更する制御手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶素子及び立体表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、偏光方向が90°異なる左右視の画像をディスプレイ装置に表示し、当該左右視の画像の偏光方向にそれぞれ対応した偏光板をそれぞれ左右の目に合うように張った偏光めがねを用いた立体視が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、立体表示を行うために、ディスプレイ装置を時分割駆動して左眼用画像と右眼用画像とを交互に表示し、これに同期して左右のシャッターを開閉させる液晶シャッターめがねが知られている(例えば、特許文献2参照)。ディスプレイ装置に左眼用画像が表示されている時には、左側の液晶シャッターを開けて右側の液晶シャッターを閉じ、右眼用画像が表示されている時には、右側の液晶シャッターを開けて左側の液晶シャッターを閉じることにより、ディスプレイ装置上の表示画像を立体視する。
【0004】
また、近年、映像観察、ゲーム機器などへの応用が期待される次世代の立体表示方式として、めがねなしで立体表示を行うレンチキュラーレンズ方式やパララックスバリア方式が知られている。これらの方式では、空間的に右眼用画像、左眼用画像を作り出し、観察者が特定の位置から表示を見ることにより立体表示を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−257083号公報
【特許文献2】特開平06−178325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術では、右眼用と左眼用の画素を別にするため、解像度が1/2になってしまう。また、偏光板は透過率が低いという問題点がある。さらには、特許文献1に記載の技術では、立体視可能なディスプレイ装置が液晶表示装置等の偏光タイプのものに限定されてしまう。
【0007】
特許文献2に記載の技術は、解像度を低下させずに、偏光タイプ以外のディスプレイ装置を使用して、立体視を可能としている。しかし、特許文献2に記載の技術による液晶シャッターは透過率が非常に低く、明るいものでも透過率は45%以下であり、暗いものでは30%以下となってしまう。
【0008】
また、レンチキュラーレンズ方式やパララックスバリア方式では、解像度が低下してしまう。例えば、2眼式では解像度は1/2になり、多眼式では1/(多眼の数)になる。
【0009】
本発明の目的は、めがねを用いることなく立体視を可能にする液晶素子を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、めがねを用いることなく立体視を可能にする立体表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一観点によれば、液晶素子は、第1の透明基板と、前記第1の透明基板上に形成された第1の透明電極と、前記第1の透明基板に対向する第2の透明基板と、前記第2の透明基板上に形成されるプリズム層と、前記プリズム層上に形成される第2の透明電極と、前記第1及び第2の透明基板間に挟まれ、コレスティックブルー相を示す液晶分子を有する液晶層と、前記液晶層に印加する電圧を高速に切り替えることにより、前記液晶層の屈折率を変化させて、前記プリズム層を通過する光の進行方向を視認できない速度で変更する制御手段とを有する。
【0012】
また、本発明の他の観点によれば、立体表示装置は、表示装置と、前記表示装置の表示面側に設置され、第1の透明基板と、前記第1の透明基板上に形成された第1の透明電極と、前記第1の透明基板に対向する第2の透明基板と、前記第2の透明基板上に形成されるプリズム層と、前記プリズム層上に形成される第2の透明電極と、前記第1及び第2の透明基板間に挟まれ、コレスティックブルー相を示す液晶分子を有する液晶層と、前記液晶層に印加する電圧を高速に切り替えることにより、前記液晶層の屈折率を変化させて、前記表示装置から入射し、前記プリズム層を通過する光の進行方向を視認できない速度で変更する制御手段とを有する光偏向液晶素子とを有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、めがねを用いることなく立体視を可能にする液晶素子を提供することができる。
【0014】
また、本発明によれば、めがねを用いることなく立体視を可能にする立体表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例による光偏向液晶セルを概略的に示す厚さ方向断面図である。
【図2】プリズム層3の概略斜視図である。
【図3】ガラス基板1上のプリズム層3の概略平面図である。
【図4】本発明の実施例による光偏向液晶セル100を組み込んだ立体表示液晶表示装置200の構成を表す概略図である。
【図5】光偏向液晶セル100に高い電圧が印加された場合の光の伝播の仕方を表す概念図である。
【図6】光偏向液晶セル100に低い電圧が印加された場合の光の伝播の仕方を表す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の実施例による光偏向液晶セルを概略的に示す厚さ方向断面図である。1枚のガラス基板1と透明電極12が形成されたガラス基板11を用意した。ガラス基板1は、厚さ0.7mmt以下であり、材質は無アルカリガラスである。
【0017】
ガラス基板11は、厚さ0.7mmtであり、材質は無アルカリガラスである。透明電極12は、厚さ150nmであり、材質はインジウムスズ酸化物(ITO)で、所望の平面形状にパターニングされている。パターニングは、ガラス基板11を洗浄機にて洗浄した後に、周知のフォトリソグラフィ工程により行った。ITOのエッチング方法としては、ウェットエッチング(第2塩化鉄)を用いることができる。洗浄方法は、後述するガラス基板12の洗浄方法と同一である。
【0018】
まず、ガラス基板1上にプリズム層(プリズム層)3を形成する。プリズム層3は、ガラス基板1上に形成されるベース層3b上にプリズム3aが並んだ形状を有する。ベース層3bの厚さは、例えば、2μm〜30μm程度である。
【0019】
本実施例では、UV硬化型のアクリル系樹脂等の180℃以上の熱処理に対する特性(透過率)変化の少ない材料(以下、単に耐熱性プリズム材料と呼ぶ)を用いてプリズム層3を形成する。なお、UV硬化型のアクリル系樹脂等の180℃以上の熱処理に対する特性(透過率)変化の少ない(180℃以上の熱処理が可能な)材料を用いることにより、透明度の高い(抵抗値の低い)透明電極をプリズム上に形成できる。なお、本明細書において、「特性(透過率)変化の少ない」とは、特性(透過率)変化が熱処理前に比べて概ね2%以内である状態を示す。UV硬化型のアクリル系樹脂は、耐熱性だけでなく、ガラスへの密着性も優れていると共に金属には密着しにくい(離型性が良い)という性質を有しており、本発明の第1の実施例によるプリズムを形成する材料として好適である。また、エポキシ系の樹脂も耐熱性に優れており、本発明の第1の実施例によるプリズムを形成する材料として使用可能であると考えられる。また、ポリイミドも使用可能である。
【0020】
図2は、プリズム層3の概略斜視図であり、右側部分にプリズム3aの断面形状の拡大図を示す。各プリズム3aは、例えば、頂角約45°、底角が約45°及び約90°の三角柱状であり、複数のプリズム3aが、プリズム長さ方向と直交する方向(この方向を、プリズム幅方向と呼ぶこととする)に、方向を揃えて並んでいる。プリズム3aの高さは約20μm(最低0μm〜最高20μm)であり、プリズム3aの底辺の長さ(プリズムのピッチ)は約20μmである。また、プリズム層3のベース層3bの高さは2μm〜30μmである。本実施例では、光を片側にだけ曲げるため、プリズム3aの形状は図2に示すような左右非対称の構造(片のこぎり形状)が好ましい。
【0021】
図3は、ガラス基板1上のプリズム層3の概略平面図である。プリズム層3の作製方法について説明する。ガラス基板1(縦150mm×横150mm×厚さ0.7mmt)の透明電極2上に、所定量の耐熱性プリズム材料3R(例えば、紫外線(UV)硬化型のアクリル系樹脂)を滴下し、その上の所定位置に、離型剤もしくはコーティング剤付きのプリズム層3の型が形成されたプリズム金型を置き、厚手の石英部材などを基板の裏側に配置して補強した状態でプレスを行った。金型のサイズ(プリズム形成領域のサイズ)は、縦80mm×横80mmである。
【0022】
プレスして1分以上放置し、耐熱性プリズム材料3Rを十分広げた後、ガラス基板1の裏側から紫外線を照射し、耐熱性プリズム材料3Rを硬化させた。紫外線の照射量は20mJ/cmとした。紫外線の照射量は、樹脂が硬化するように適宜設定すればよい。
【0023】
耐熱性プリズム材料3Rの硬化後、石英、プレス治具などを取り外し、プリズム層3が形成されたガラス基板1を押し下げることにより、プリズム金型から剥離する。
【0024】
なお、プリズム層3の大きさは、耐熱性プリズム材料3Rの滴下量を調整することにより調整できる。滴下量を調整してプリズム形成領域全体A1(縦80mm×横80mm)のうちの必要な領域A2(縦60mm×横60mm)にプリズム層3を形成した。なお、プリズム層3を構成するUV硬化型のアクリル系樹脂の屈折率は、1.51である。
【0025】
プリズム層3は液晶層15と協働して、頂角の角度により、1辺から入射し、他辺から出射する光の進行方向を変える機能を有する。
【0026】
図1に戻り、説明を続ける。次に、プリズム付きガラス基板1を洗浄機にて洗浄した。洗浄方法は、アルカリ洗剤を用いたブラシ洗浄、純水洗浄、エアーブロー、紫外線照射、赤外線乾燥の順に行った。なお、洗浄方法はこれに限らず、高圧スプレー洗浄やプラズマ洗浄などを行ってもよい。
【0027】
その後、プリズム層3を形成した側のガラス基板1上に、後述するITO膜の密着性を向上させるためにSiO膜4を薄く形成した。SiO膜4の形成には、スパッタ法(交流放電)を用いた。80℃に基板加熱し、500Åの厚さに形成した。なお、このSiO膜4は省略可能である。なお、均一膜厚の層は、入射光を入射角度に応じて面内方向にシフトする機能は有するが、光の進行方向を変える機能は有さない。
【0028】
引き続き、SiO膜4上に、スパッタ法(交流放電)を用いてITO膜2を形成した。ここでは、100℃に基板加熱し、1000Åの厚さにITO膜2を形成した。このとき、SUSマスクなどを用いて余分なところにはITO膜が形成されないようにしてもよい。なお、ITO膜2は、スパッタ法に限らず、真空蒸着法、イオンビーム法、CVD法などで形成してもよい。
【0029】
次に、プリズム付きガラス基板1と、ITO付きガラス基板11を洗浄機にて洗浄した。洗浄方法は、アルカリ洗剤を用いたブラシ洗浄、純水洗浄、エアーブロー、紫外線照射、赤外線乾燥の順に行った。なお、洗浄方法はこれに限らず、高圧スプレー洗浄やプラズマ洗浄などを行ってもよい。
【0030】
次に、プリズム付きガラス基板1上のプリズム非形成部分に、ギャップコントロール剤を2wt%〜5wt%含んだメインシール剤16を形成した。形成方法として、スクリーン印刷やディスペンサが用いられる。液晶層5の厚さが、例えば10μm〜20μmとなるように、ギャップコントロール剤を選択した。なお、プリズム層3は位置によって高さが変化するので、それに応じて液晶層5の厚さも変化する。
【0031】
ここでは、ギャップコントロール剤として径が30μmの積水化学製のプラスチックボールを選択し、これを三井化学製のシール剤ES−7500に4wt%添加して、メインシール剤16とした。
【0032】
プリズムを形成しない側のガラス基板(ITO付きガラス基板)11上には、ギャップコントロール剤14として径が17μmの積水化学製のプラスチックボールを、乾式のギャップ散布機を用いて散布した。
【0033】
次に、両ガラス基板1、11の重ね合わせを行い、プレス機などで圧力を一定に加えた状態で熱処理することにより、メインシール剤を硬化させた。ここでは、150℃で3時間の熱処理を行った。こうして、5〜25μmのセル厚を有する空セルを作製した。なお、プリズム層3の形状により、セル厚は場所により異なる。また、本実施例では、プリズム層3と液晶層5との界面での屈折率差が重要であり、セル厚に性能はほとんど依存しない。また、ブルー相ではセル厚に応答速度は依存しないものの、駆動電圧はセル厚に依存し、セル圧が厚いほど駆動電圧が高くなる。このようにして作製された空セルに、液晶を真空注入して、液晶層5を形成した。液晶注入後、注入口にエンドシール剤を塗布し、封止した。
【0034】
実施例では、作製された空セルに注入する材料として、ある温度範囲でコレステリックブルー相を示す液晶と、高分子安定化のための光重合性モノマーに光重合開始剤を添加したものとを混合した材料を用いる。
【0035】
具体的には、液晶として、フッ素系混合液晶であるJC1041−XX(チッソ製、Δn:0.142、no:1.507、ne:1.649)と4−cyano−4’−pentylbiphenyl(5CB)(メルク製、Δn:0.184、no:1.534、ne:1.718)を1:1の割合で混合し、これにカイラル剤ZLI−4572(メルク製)を5.6wt%添加した。この混合液晶材料の場合、光学的等方相状態での屈折率は、約1.574であり、no及びneはそれぞれ約1.683、約1.521である。
【0036】
また光重合性モノマーとして、一官能性の材料と二官能性の材料とを混合して添加した。ここでは、一官能性材料として2−ethylhexylacrylate(EHA)(アルドリッチ製)を、二官能性材料としてRM257(メルク製)を70:30のモル比となるように混合し、また光重合開始剤として2,2−dimethoxy−2−phenylacetophenone(DMPAP)を用いて混合モノマーに対して5mol%となるように添加した。この混合モノマーを上記液晶の混合系に対し8mol%となるように添加して注入用の液晶を作製した。液晶、カイラル剤、モノマー、光重合開始剤は、これらに限るものではないが、光重合性モノマーは、一官能性の材料と二官能性の材料とを混合することが望ましい。
【0037】
以上のようにして、液晶を注入して封止した液晶セルを加熱すると、ある温度範囲(60℃付近)でブルー相を示した。そのブルー相を示す温度に保ったまま紫外線を長時間照射し、液晶層5の一部に高分子ネットワークを形成して高分子安定化させた。ここでは、30mW/cm(365nm)の光を照射したが、初めに短い周期で間欠露光を行い、最後に長時間露光した。具体的には、1秒照射10秒無照射を10回繰り返した後、最後に3分間連続照射を行った。なお、露光条件はこれに限らず、例えば、もっと弱い照度で露光してもよいが、その場合、紫外線硬化にかかる時間は長くなる。このようにして高分子安定化させた液晶セルは広い温度範囲(−5℃〜60℃程度)でコレステリックブルー相を示した。この温度範囲は使用する材料やその混合比、重合条件などにより拡大することができる。以上により、本実施例の光偏向液晶セル100が完成する。
【0038】
ブルー相は、光学的に等方性であるため、実施例の光偏向液晶セル100の基板法線方向から見た液晶層の屈折率は、液晶材料の常光線屈折率noと異常光線屈折率neの平均的な値((2no+ne)/3)になり、光偏向液晶セル100への入射光線(基板法線方向に進行する光線)の相互に直交する偏光成分の両方で等しくなる。
【0039】
一方、実施例の光偏向液晶セル100は、電圧印加時、液晶層厚さ方向に電圧が印加され、正の誘電率異方性により、ブルー相における液晶分子のねじれ構造が解消し、ほぼ全ての液晶分子が基板垂直方向に立ち上がって、ホメオトロピック相を示す。
【0040】
ホメオトロピック相では、基板法線方向から見た液晶層の屈折率は、常光線屈折率noとなり、光偏向液晶セル100への入射光線(基板法線方向に進行する光線)の相互に直交する偏光成分の両方で等しくなる。
【0041】
本実施例では、液晶材料の常光線屈折率noは1.521であり、異常光線屈折率neは1.683である。したがって、入射光に対する液晶層の屈折率は、偏光方向に依らず、電圧非印加時のブルー相で1.574程度となり、電圧印加時のホメオトロピック相で1.521となると見積もられる。また、プリズム材料の屈折率は1.51である。
【0042】
以上より、本実施例による光偏向液晶セル100は、ブルー相を示す電圧非印加時には、液晶層15とプリズム層3の屈折率が異なるので、プリズムの作用で入射光を偏向することとなる。一方、ホメオトロピック相を示す電圧印加時には、液晶層15とプリズム層3の屈折率が同等となり、プリズム斜面の向きに依らず、入射光をほぼそのまま直進させることとなる。そして、これらの作用は入射光の偏光方向に依存しない。
【0043】
なお、第1の材料の屈折率と第2の材料の屈折率との差が、第1の材料の屈折率または第2の材料の屈折率に対して3%以内(より好ましくは2%以内)であるとき、両材料の屈折率が同等であるとする。
【0044】
実施例の光偏向液晶セル100では、1枚の光偏向液晶セル100であっても全ての光に対してその角度を制御することができる。なお、曲げる角度を変える場合はプリズム3aの角度を変更するか、液晶材料を変更する必要がある。
【0045】
以上述べたように、本実施例による光偏向液晶セル100は、両基板1、11の内側に微小な傾斜状の突起形状からなるプリズム層3と、一定の温度範囲でブルー相を示す液晶層5と、透明電極2、12を含んで構成される。透明電極2、12を介して、液晶層5に電圧を印加し、セル厚方向に液晶分子の配列を変化させ、すなわち、液晶層5の屈折率を変化させ、プリズム層3の斜面と液晶層5の界面を透過する光の屈折角をスネルの法則により変化させ、該透過する光の方向を電気的に制御することができる。
【0046】
図4は、本発明の実施例による光偏向液晶セル100を組み込んだ立体表示液晶表示装置200の構成を表す概略図である。
【0047】
立体表示液晶表示装置200は、液晶ディスプレイ101と、液晶ディスプレイ101の表示面側に配置される図1に示す光偏向液晶セル100と、光偏向液晶セル100を駆動する駆動回路102と、液晶ディスプレイ101を制御する制御部103とを含んで構成される。
【0048】
光偏向液晶セル100は、図1を参照して説明したものであり、印加される電圧に応じて、光偏向液晶セル100を透過する光の方向を変更する。
【0049】
駆動回路102は、交流電圧(周波数1KHz程度)の電圧値を変えながら、光偏向液晶セル100に電圧を印加する回路であり、制御部103と同期することにより、液晶ディスプレイ101が表示する画像と同期させて、光偏向液晶セル100に印加する電圧値を変化させ、光偏向液晶セル100を透過する光の方向を変更することが可能である。
【0050】
液晶ディスプレイ101は、例えば、指向性バックライト51を背面に配置した液晶表示素子50であり、制御部103の制御により、立体表示を行うために、左眼用画像と右眼用画像をそれぞれ高速で切り換えながら表示する。液晶表示素子50は、周知のものであり、液晶セル、偏向板等を含んで構成されている。
【0051】
指向性バックライト51は、LEDなどの光源52と、光源52の光を導光する導光板53、プリズムシート(BEF等)54等を含んで構成される。導光板53の片側側面に配置された光源52から入光した光は、導光板53により斜め方向に指向される。この斜めに指向された光は、プリズムシート54により、指向性を保ったまま法線方向に傾けられ、表示面に配置される光偏向液晶セル100に入射する。
【0052】
なお、指向性バックライト51の詳細については、特開2005−142078号公報の[発明を実施するための最良の形態]の項を参照する。
【0053】
また、指向性発光型ディスプレイを液晶ディスプレイ101として用いることもできる。指向性発光型ディスプレイでは、発光型ディスプレイの発光部に対応してマイクロレンズなどを配置することで指向性を与えることが可能となる。
【0054】
制御部103は、立体表示を行うため、液晶ディスプレイ101に右眼用画像と左眼用画像のそれぞれを高速で切り替えながら表示させる。表示切替の周波数は、例えば、120Hzや240Hzである。表示切替の周波数は、例えば、120Hzや240Hzである。表示切替の周波数を120Hzとした場合、約8.3msecごとに表示を切り換え、240Hzとした場合は、約4.2msecごとに表示を切り換える。
【0055】
なお、光偏向液晶セル100の液晶セル(ブルー相)の応答速度は、室温において、立ち上がりで約200μsec、立ち下がりで約20μsecであり、120Hz駆動での立体表示のみならず240Hz駆動での立体表示に必要な応答速度に対しても十分に速く、余裕を持って対応可能である。
【0056】
図5は、光偏向液晶セル100に高い電圧が印加された場合の光の伝播の仕方を表す概念図である。
【0057】
本実施例では、液晶材料の常光線屈折率noは約1.521であり、異常光線屈折率neは約1.683である。したがって、入射光に対する液晶層の屈折率は、偏光方向に依らず、電圧非印加時のブルー相で約1.574程度となり、電圧印加時のホメオトロピック相で約1.521となると見積もられる。また、プリズム材料の屈折率は1.51である。
【0058】
図5に示すように、左眼用画像が表示されているときは、光偏向液晶セル100には高い電圧(LCD ON:例えば、20V)が印加され、液晶分子の配列はホメオトロピック配向状態となり、プリズム層3の屈折率(1.51)と液晶層5の屈折率(約1.521)がほぼ等しくなり、光偏向液晶セル100に入射した光は、プリズム層3と液晶層5により曲げられることなく透過し、左眼に左眼用画像の光が入射され、右眼にはその画像が入射されない。
【0059】
図6は、光偏向液晶セル100に低い電圧が印加された場合の光の伝播の仕方を表す概念図である。
【0060】
図6に示すように、右眼用画像が表示されているときは、光偏向液晶セル100には低い電圧が印加され(もしくは電圧を印加せず(LCD OFF))、液晶分子の配列はブルー相配向状態(光学的等方相状態)となり、プリズム層3の屈折率(1.51)が液晶層5の屈折率(約1.574)より小さくなり、光偏向液晶セル100に入射した光は、プリズム層3と液晶層5により曲げられて、右眼に右眼用画像の光が入射され、左眼にはその画像が入射されない。
【0061】
上述の図5の動作と図6の動作を高速で切り換えることにより、観察者は立体表示を見ることが可能となる。
【0062】
なお、立体表示を行わない時は、光偏向液晶セル100に対して高い電圧と低い電圧を高速で交互にかければ、右眼と左眼でほぼ同時に画像を見ることができ、立体表示ではない通常の画像を見ることができる。または、中間電圧を印加し続けることにより、光偏向液晶セル100を透過する光を法線方向に進ませて、右眼と左眼の双方で同時に視認な状態とし、通常の表示とすることができる。この時の光偏向液晶セル100の透過率は少なくとも90%以上(反射防止フィルム使用時)であり、光偏向液晶セル100が光路上に配置されていないときと比べても、さほど変わらず明るい画像を見ることができる。
【0063】
以上、本発明の実施例によれば、入射光の透過率の非常に高い液晶素子を提供することができる。また、ブルー相液晶を用いるため、応答速度が充分に速く、画像のちらつき等がない。さらに、偏光板が不要なので、コスト面、透過率、重さ、厚さ、信頼性において有利である。
【0064】
また、偏向に依存しないので、LCDだけでなく、例えば、プラズマディスプレイ(PDP)、有機ELディスプレイ、電界放出ディスプレイ(FED)、ブラウン管(CRT)ディスプレイ等のあらゆる表示装置を液晶ディスプレイ101の代わりに用いることもできる。また、解像度を落とすことなく、透過率もほとんど通常の表示と同じ状態で立体表示を実現することができる。
【0065】
また、本発明の実施例によれば、光偏向液晶セル100により、透過する光の方向を変更することが可能である。よって、観察者に対して左眼画像は左眼で、右眼画像は右眼で見させることができ、めがねなしでの立体表示を行うことができる。
【0066】
また、本発明の実施例による光偏向液晶セル100は、液晶ディスプレイ101の画面と近い位置に配置する又は密着させることが可能であるため、プリズム形状の不具合などによる画像の乱れが生じにくい。
【0067】
なお、上述の実施例では、プリズム3aの傾斜角が一定の場合についてのみ説明したが、場所により異なるようにしても良い。
【0068】
また、導光板53のローレットの角度も上記プリズム3aの傾斜角と同様の理由で、場所により異なるようにしても良い。図4の下側、図5及び図6の右側になるほど右眼に光を送るために大きく曲げる必要があるため、図4の下側、図5及び図6の右側になるにしたがい、ローレットの角度を大きくしても良い。
【0069】
また、上述の実施例では、導光板53のローレットの角度を、光偏向液晶セル100により、透過する光の方向が変わらない場合に、光が右眼方向に進むように設定し、光偏向液晶セル100に入射する光は、右眼方向に向いていたが、光偏向液晶セル100に垂直に光が入射するように構成しても良い。この場合、電圧ON時には光偏向液晶セル100を透過する方向は右方向に曲げられ、電圧OFF時には光偏向液晶セル100を透過する方向は左方向に曲げられるように、液晶材料及びプリズム材料の屈折率を調整する必要がある。液晶材料としては、上述の実施例による混合液晶材料を使用しても、例えば、屈折率が1.54〜1.55程度のプリズム材料を使用してプリズム層3を形成することにより、光偏向液晶セル100の平面に対して垂直に入射する光を電圧のON・OFF(印加電圧の高低)により、左右両方に振ることが可能となる。
【0070】
また、プリズム形成用の金型にはエア抜き用の微小な溝を形成してもよい。また、金型と基板とは真空中で重ね合わせてもよい。なお、液晶の注入方法は真空注入に限らず、例えばOne Drop Fill(ODF)法を用いてもよい。この時、紫外線による硬化と、ブルー相液晶の紫外線によるポリマー化とを、45〜60℃程度の所定の温度に加熱しながら、紫外線を全面に照射することにより、同時に行ってもよい。
【0071】
なお、実施例の液晶セルでは、プリズムパターンより広く上下基板間で90°に交差した長方形状の電極パターンを用い、両基板側から端子を取り、また、メインシール部分で上下基板の電極が交差しないようにした。メインシール部分で上下基板の電極を交差させないことにより、短絡が抑制される。なお、片側から端子を取りたい場合は、メインシールに上下導通用のミクロパールAU(積水化学工業製)のような金メッキを施したスチレンボールなどの導電性とギャップ安定性を備えた部材を添加する構造等とすればよい。
【0072】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0073】
1、11 ガラス基板
2、12 透明電極
3 プリズム層(プリズム層)
3a、3b プリズム
4 SiO
5 液晶層
14 ギャップコントロール剤
16 メインシール剤
50 液晶表示素子
51 指向性バックライト
52 光源
53 導光板
54 プリズムシート
100 光偏向液晶セル
101 液晶ディスプレイ
102 駆動回路
103 制御部
200 立体表示液晶表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の透明基板と、
前記第1の透明基板上に形成された第1の透明電極と、
前記第1の透明基板に対向する第2の透明基板と、
前記第2の透明基板上に形成されるプリズム層と、
前記プリズム層上に形成される第2の透明電極と、
前記第1及び第2の透明基板間に挟まれ、コレスティックブルー相を示す液晶分子を有する液晶層と、
前記液晶層に印加する電圧を高速に切り替えることにより、前記液晶層の屈折率を変化させて、前記プリズム層を通過する光の進行方向を視認できない速度で変更する制御手段と
を有する液晶素子。
【請求項2】
表示装置と、
前記表示装置の表示面側に設置され、第1の透明基板と、前記第1の透明基板上に形成された第1の透明電極と、前記第1の透明基板に対向する第2の透明基板と、前記第2の透明基板上に形成されるプリズム層と、前記プリズム層上に形成される第2の透明電極と、前記第1及び第2の透明基板間に挟まれ、コレスティックブルー相を示す液晶分子を有する液晶層と、前記液晶層に印加する電圧を高速に切り替えることにより、前記液晶層の屈折率を変化させて、前記表示装置から入射し、前記プリズム層を通過する光の進行方向を視認できない速度で変更する制御手段とを有する光偏向液晶素子と
を有する立体表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−242574(P2012−242574A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112062(P2011−112062)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】