説明

液晶表示素子、及びその製造方法、並びに投射型表示装置

【課題】 無機酸化物の斜方蒸着膜からなる垂直配向膜を備えた液晶表示素子に好適で、配向膜の表面処理により配向の経時安定性、焼き付き現象の緩和及び耐光性を向上させることが可能な表面処理剤及びその処理方法を提供する。
【解決手段】 無機酸化物の斜方蒸着膜からなる垂直配向膜を用いた液晶表示素子に適用され、前記斜方蒸着膜の表面水酸基が、金属アルコラートで化学反応処理されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示素子、及びその製造方法、並びに投射型表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、垂直配向タイプの液晶表示素子が液晶テレビ(直視型表示装置)、液晶プロジェクタ(投射型表示装置)等で実用化されている。これら垂直配向タイプの液晶表示素子に用いられる垂直配向膜としては、例えば液晶テレビにはポリイミド等の有機配向膜が用いられ、液晶プロジェクタにはSiO2等の無機配向膜が多用されている。
【0003】
垂直配向に用いられる無機配向膜としては、SiOX(x<2)、SiO2、TiO2、MgO、Al23、In23、Sb23、Ta25等の無機酸化物の斜方蒸着膜が知られている。例えばSiO2の場合には、基板面に対して30°以上の適当な角度でSiO2を斜方蒸着した薄膜を用いることにより、誘電率異方性が負の液晶材料を所定のプレチルトを持たせて垂直配向させることができる。このような無機配向膜は、ポリイミド等の有機配向膜と比較して、短波長の可視光及び紫外光による光劣化速度が非常に遅く、耐光性に優れる。
【0004】
また、無機酸化物からなる垂直配向膜は、その配向安定性が有機材料からなる垂直配向膜に比して劣ることが知られている。無機酸化物においては液晶分子の分子軸方向とそれに垂直方向の分散力の異方性による効果及び斜方蒸着により形成された無機酸化物カラムの形状や傾き等のトポロジカル効果により垂直配向すると考えられているが、その垂直アンカリング力は弱く、配向安定性に乏しい。一方、垂直配向に用いられる有機材料は一般にその表面は長鎖アルキルで覆われている。また垂直配向に用いられる液晶分子の両末端には短鎖アルキル基が置換されている。有機材料においては配向膜と液晶分子のアルキル基間の親和性の効果及び液晶分子の分子軸方向とそれに垂直方向の分散力の異方性による効果により垂直配向すると考えられ、その垂直アンカリング力は大きく、配向安定性は大きい。有機材料の垂直アンカリング力は無機酸化物のそれと比較して一桁以上大きいことが知られている。
【0005】
また、無機酸化物の斜方蒸着膜の構造は多孔質であるのと、その表面には分極した水酸基が多数存在して極性が大きいために、液晶表示素子に含まれる不純物、特に極性基を持つ化合物を吸着し易い。ここで、不純物にはシール剤中の不純物及び未反応成分、液晶材料中の不純物及び水分、製造過程で付着した汚れ等が含まれる。斜方蒸着膜表面に不純物が吸着すると、表面の形状や極性が変化して垂直アンカリング力が低下し、配向異常を起こすことが知られている。特に、液晶表示素子のシール際にはシール剤中の不純物や未反応成分の拡散吸着による配向異常領域が発生して、この配向異常領域は時間の経過と共に拡大することが分った。
【0006】
さらに、無機酸化物、特にSiO2からなる垂直配向膜表面の水酸基は強酸性であり、等電点がpH2.0で小さく、通常の液晶表示素子内部のpH7においては、素子内部に含まれる水に覆われた水酸基の大部分はマイナスにイオン化しているためにイオン性の不純物の吸着量及び吸着力が大きく、液晶表示素子を駆動した場合、2つの配向膜面に対して液晶中のイオン性の不純物が不可逆的にに吸着することにより液晶表示素子のC(電気容量)−V(印加電圧)特性のVの昇降時にヒステリシス現象が発生して、液晶表示に焼き付き現象が発生することが分った。
【0007】
そこで、無機酸化物配向膜の垂直アンカリング力を強化して配向安定性を改良し、さらに無機酸化物配向膜表面の水酸基のイオン化率を下げてイオン性不純物の吸着量を低減して焼き付き現象を緩和する方法として、様々な表面改質剤による無機酸化物の表面改質が考案されている。
【0008】
SiO2等の表面改質法としては、配向膜表面の水酸基を高級アルコール及びシランカップリング剤で表面処理するが考えられている。このような表面改質法としては、例えば特許文献1,2及び3に記載されたものがある。
【特許文献1】特開平11−160711号公報
【特許文献2】特開2000−47211号公報
【特許文献3】特開平5−203958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1では、SiO2の斜方蒸着膜を高級アルコール蒸気中に晒す処理が用いられているが、処理温度が低いため高級アルコールは物理吸着するに留まり、SiO2表面と高級アルコールとの結合力が弱く、液晶材料と接触させることにより脱離して、初期的に安定な垂直配向力が得られなかった。
【0010】
また、上記特許文献2では、高級アルコールに湿潤処理したSiO2の斜方蒸着膜を焼成する処理が用いられているので、高級アルコールとSiO2の斜方蒸着膜表面のOH基とが強い化学結合を作って、表面の極性は減少して不純物の吸着量は低減していると思われる。しかし、表面に結合した長鎖アルキル基の垂直配向力が充分でないためにシール際に配向異常領域が発生して、配向異常領域が経時拡大することが分った。また、高級アルコールで化学処理したSiO2の斜方蒸着膜を用いた液晶表示素子を駆動したところ、未処理のSiO2の斜方蒸着膜を用いた液晶表示素子よりは緩和されたが、焼き付き現象が発生した。
【0011】
また、上記特許文献3では、イオンビームでアシストしながら蒸着したSiO2の斜方蒸着膜に垂直配向剤として用いられているシランカップリング剤のオクタデシルジメチル(3−(トリメトキシシリル)プロピル)アンモニウムクロライド(C1837+(CH3)2(CH2)3Si(OCH3)3Cl-)を塗布した後、110℃で1時間焼成している。しかし、上記特許文献2と同様に、表面に結合した長鎖アルキル基の垂直配向力が充分でないためにシール際に配向異常領域が発生して、配向異常領域が経時拡大することが分った。また、上記のシランカップリング剤で化学処理したSiO2の斜方蒸着膜を用いた液晶表示素子を駆動したところ、未処理のSiO2の斜方蒸着膜を用いた液晶表示素子より焼き付き現象がひどくなった。この原因としては、上記のシランカップリングが塩でイオン化しているため配向膜表面のイオン性不純物の吸着量が増加したものと考えられる。
【0012】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、無機酸化物の斜方蒸着膜を配向膜として用いた垂直配向タイプの液晶表示素子において、上記斜方蒸着膜を化学的に表面改質することにより、シール際の配向安定性を向上させること及び焼き付き現象を緩和することが可能で、かつ無機酸化物と遜色ない高耐光性の表面処理剤及びその製造方法を提供することを目的としている。
また、本発明は、このような表面改質をした無機酸化物の斜方蒸着配向膜を有した高画質で高耐久性の液晶表示素子、及びこの液晶表示素子を備えた信頼性の高い投射型表示装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の液晶表示素子は、無機酸化物の斜方蒸着膜からなる垂直配向膜を用いた液晶表示素子において、前記斜方蒸着膜の表面水酸基が、金属アルコラートで化学反応処理されていることを特徴とする。
このような化合物で処理した無機酸化物の斜方蒸着膜を用いることにより、垂直アンカリング力の初期値を高め、極性の有機不純物の吸着を低減させて、液晶表示素子のシール際で発生する配向異常領域の経時拡大速度を減少させることができる。また、配向膜表面の水酸基のイオン化を抑制させることにより、液晶中のイオン性不純物の吸着力を弱めて、焼き付き現象を緩和することができる。
【0014】
また、上記課題を解決するために、本発明の液晶表示素子は、無機酸化物の斜方蒸着膜からなる垂直配向膜を用いた液晶表示素子において、前記斜方蒸着膜の表面水酸基が、(化2)にて表される金属アルコラートで化学反応処理されていることを特徴とする。
【0015】
【化2】

【0016】
但し、(化2)において、R1は炭素数が6から30の直鎖又は分岐アルキル基、炭素数が6から30の直鎖又は分岐弗素化アルキル基、またはステロイドまたはその誘導体であり、Xは単結合、―O−、−OCO−、−COO−、−CO−、−CH(CH3)=C−CO−、−PO−、または−OPO(OH)PO(O−)2であり、Mはアルミニウム、チタン、またはジルコニウムであり、R2は炭素数が1から6の直鎖又は分岐アルキル基、炭素数が1から4の直鎖又は分岐アルキルキレン基、または−CH2CO−であり、mは1から3の整数であり、nは1から3の整数である。
【0017】
このような金属アルコラートで処理した無機酸化物の斜方蒸着膜を用いることにより、垂直アンカリング力の初期値を高めると共に極性の有機不純物の吸着をいっそう低減させて液晶表示素子のシール際に発生する配向異常領域の経時拡大速度をさらに減少させ、また斜方蒸着膜表面の水酸基のイオン化を抑制させて焼き付き現象を緩和させることができる。
【0018】
また、(化2)にて表される金属アルコラートは短波長可視光領域に吸収を持たないため、本発明の液晶表示素子を液晶プロジェクタの液晶ライトバルブとして用いたときには、無処理の無機酸化物配向膜を用いた場合と比して耐光性に遜色はない。
【0019】
また、上記課題を解決するために、前記斜方蒸着膜の表面水酸基が、選択的な平面領域において、金属アルコラートで化学反応処理されていることを特徴とする。
このように選択的な平面領域において、金属アルコラートで化学反応処理された無機酸化物の斜方蒸着膜を用いることにより、例えば、シール剤の接着領域に当る斜方蒸着膜面には金属アルコラート処理を施さないことにより、シール剤と斜方蒸着膜の接着強度の低下を防止することができる。
【0020】
また、上記課題を解決するために、本発明は液晶垂直配向膜がその表面水酸基が金属アルコラートで化学反応処理された無機酸化物の斜方蒸着膜からなる液晶表示素子の製造方法であって、前記斜方蒸着膜を前記金属アルコラート及び高沸点の有機溶媒からなる溶液中で加熱して化学反応させる加熱工程により、表面処理された無機酸化物の斜方蒸着膜を形成することを特徴とする液晶表示素子の製造方法を提供する。
このような製造方法によれば、無機酸化物配向膜表面の水酸基は金属アルコラートと化学結合するため、配向安定性に優れ、極性有機不純物の吸着が低減されてシール際に発生する配向異常領域の経時拡大速度を減少させ、また、表面水酸基のイオン化を抑えて焼き付き現象を緩和させ、さらに、耐光性に優れた液晶表示素子が得られる。
【0021】
さらに、本発明の投射型表示装置は、先に記載の液晶表示素子を光変調装置として備えたことを特徴としている。具体的には、光源装置と、該光源装置から出射された光を変調する光変調装置と、該光変調装置により変調された光を投射する投射装置とを含み、前記光変調装置が上記液晶表示素子にて構成されてなるものとすることができる。
このような投射型表示装置は、光変調装置として本発明の液晶表示素子を備えるため、経時使用による不具合発生の少ない信頼性に優れた投射型表示装置となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
[第1の実施の形態]
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図において、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部材毎に縮尺を異ならせてある。
以下に示す本実施形態の液晶表示素子は、本発明に係る金属アルコラートで化学的に表面処理した無機化合物の斜方蒸着膜を有し、スイッチング素子としてTFT(Thin Film Transistor)素子を用いたアクティブマトリクス型の液晶表示素子である。図1は本実施形態の液晶表示素子の画素領域を構成するマトリクス状に配置された複数の画素におけるスイッチング素子、信号線等の等価回路図である。
【0023】
図2はデータ線、走査線、画素電極等が形成されたTFTアレイ基板の相隣接する複数の画素群の構造を示す平面図である。
【0024】
図3は本実施形態の液晶表示素子の構造を示す断面図である。
【0025】
本実施形態の液晶表示素子において、図1に示すように、マトリクス状に配置された複数の画素には、画素電極123と、当該画素電極123への通電制御を行うためのスイッチング素子であるTFT素子30とがそれぞれ形成されており、データ信号が供給されるデータ線6aが当該TFT素子30のソースに電気的に接続されている。データ線6aに書き込むデータ信号S1、S2、…、Snは、この順に線順次に供給されるか、あるいは相隣接する複数のデータ線6aに対してグループ毎に供給される。
また、走査線3aがTFT素子30のゲートに電気的に接続されており、複数の走査線3aに対して走査信号G1、G2、…、Gmが所定のタイミングでパルス的に線順次で印加される。また、画素電極123はTFT素子30のドレインに電気的に接続されており、スイッチング素子であるTFT素子30を一定期間だけオンすることにより、データ線6aから供給されるデータ信号S1、S2、…、Snを所定のタイミングで書き込む。
画素電極123を介して液晶に書き込まれた所定レベルのデータ信号S1、S2、…、Snは、後述する共通電極との間で一定期間保持される。液晶は、印加される電圧レベルにより分子集合の配向や秩序が変化することにより、光を変調可能にする。ここで、保持されたデータ信号がリークすることを防止するために、画素電極123と共通電極との間に形成される液晶容量と並列に蓄積容量70が付加されている。
【0026】
次に、図2に基づいて、本実施形態の液晶表示素子の平面構成について説明する。図2に示すように、後述する透明基板上に、インジウム錫酸化物(以下、「ITO」と略す。)等の透明導電性材料からなる矩形状の画素電極123(点線部123Aにより輪郭を示す)が複数、マトリクス状に設けられており、画素電極123の縦横の境界に各々沿ってデータ線6a、走査線3a及び容量線3bが設けられている。本実施形態において、各画素電極123及び各画素電極123を囲むように配設されたデータ線6a、走査線3a、容量線3b等が形成された領域が画素であり、マトリクス状に配置された各画素毎に光変調を行うことが可能な構造になっている。
【0027】
次に、図3に基づいて、本実施形態の液晶表示素子の断面構成について説明する。図3に示すように、本実施形態の液晶表示素子100の断面構成は、一対の基板間に液晶層104が挟持されてなるものであって、図示下側に配設される光源からの光を当該液晶表示素子100により変調可能とするものである。
液晶表示素子100は、対向して配置された上基板101と下基板102との間に液晶層104を挟持してなり、該液晶層104をシール105で封止した構成を具備している。上基板101の内面側(液晶層104側)には、基板全面にベタ状に配設された共通電極113と、垂直配向膜115とが形成されており、上基板101の外面側(図示上面側)には、位相差板118と、偏光板119とがこの順で積層されている。
一方、下基板102の内面側(液晶層104側)には、平面視マトリクス状に配列された複数の画素電極123と、垂直配向膜125とが備えられている。また、下基板102の外面側には、位相差板128と、偏光板129とがこの順で設けられており、例えばこの偏光板129の更に下方側(外面側)に設けられた光源(図示略)からの光を選択透過して光変調を行うものとされている。なお、上下基板101,102に配設された各偏光板119,129は、それぞれ透過偏光軸が互いに垂直に交わるように配設されている。
【0028】
本実施形態の液晶表示素子100では、液晶層104を構成する液晶材料として弗素系で誘電異方性が負のネマチック液晶化合物を主成分とする液晶組成物を用いている。
一般に、液晶表示素子に用いられる液晶材料はネマチック液晶化合物であり、実用的には様々な特性を得るために複数のネマチック液晶化合物を所定の割合で混合した液晶組成物として用いられる。ネマチック液晶化合物の一般的な分子構造は、複数の環を直線的に結合した骨格基、これらの連結した環の短軸方向に置換基を導入した側鎖基及び骨格基両端にある環の長軸方向に置換基を導入した2つ末端基から成る。
【0029】
垂直配向に用いられる弗素系で誘電異方性が負の液晶化合物の分子構造は、環としてはシクロヘキサン環、ベンゼン環、複素環等が用いられ、これらの環の2から4個を直線的に連結して骨格基を作り、側鎖基としては水素原子、ふっ素原子等が用いられ、末端基としてはアルキル基、アルコキシ基、弗素原子等が用いられる。側鎖基に電子吸引性の極めて大きな弗素原子数個を導入し、両末端基に電子供与性のアルキル基またはアルコキシを導入することにより、分子短軸方向の双極子モーメントを分子長軸方向のそれより大きくして、誘電異方性が負のネマチック液晶化合物を得ている。
例えば、(化3)、(化4)及び(化5)にて表される分子構造を有する液晶化合物が利用される。(化3)は誘電異方性が負でその絶対値が特に大きい特徴を有するがが、2環で分子長が短いためネマチック相―等方相転移温度が低い欠点がある。(化4)は3環化合物であり、誘電異方性が負でその絶対値が大きく、ネマチック相―等方相転移温度も高く、誘電異方性が負の液晶組成物を調整する場合の主成分として用いられることが多い。(化5)は4環化合物であり、ネマチック相―等方相転移温度は非常に高いが、誘電異方性は負であるが絶対値は小さく、また粘性が高い欠点がある。
【0030】
【化3】

【0031】
【化4】

【0032】
【化5】

【0033】
但し、(化3)から(化5)において、環AからJはシクロヘキサン環、ベンゼン環又は複素環であり、R1からR6はアルキル基、アルコキシ基又は弗素原子であり、X1からX10は水素原子又は弗素原子である。
【0034】
また、各基板101,102の間に対向するように配設された垂直配向膜115,125は、それぞれ無機酸化物を蒸着法により成膜して、さらにその表面を本発明に係る金属アルコラートで化学的に表面処理したものである。このように本実施形態では、垂直配向膜115,125の表面を金属アルコラートで被覆したものであるため、無処理、アルコール処理及びシラン処理の垂直配向膜に比して高い配向安定性を有し、焼き付き現象を緩和し、さらに遜色ない耐光性を具備するものとなっている。
【0035】
上記垂直配向膜115,125を基板上に形成する蒸着方法について説明する。図4は蒸着装置の構成を模式的に示す説明図であって、本実施形態では、この蒸着装置300を用いて、基板に対して所定方向から無機酸化物(例えばSiO2)を斜方蒸着するものとしている。
【0036】
蒸着装置300は、SiO2の蒸気を生じさせる蒸着源302と、SiO2の蒸気が流通可能な開口部303aを備える蒸気流通部303と、基板Sを蒸着源302に対して所定角度傾斜させて配設する基板配設部307とを具備する蒸着室308、さらには蒸着室308を真空にするための真空ポンプ310を備えている。
【0037】
本実施形態の場合の蒸着方法は以下の通りである。まず、真空ポンプ310を作動させると、蒸着室308が真空化し、さらに加熱装置(図示略)により蒸着源302を加熱すると蒸着源302からSiO2の蒸気が発生する。そして、蒸着源302から発生したSiO2の蒸気流は、開口部303aを通過し、所定の角度(蒸着角)で基板Sの表面に蒸着されるものとされている。ここで、本実施形態では垂直配向性を付与するために、蒸着源と基板Sとのなす角度θが例えば30°となるように蒸着角を定めている。
【0038】
次に、上記垂直配向膜115,125の表面処理について説明する。
垂直配向膜の表面処理剤としては、一般に配向膜表面の臨界表面張力を減少させることができ、かつ配向膜表面の水酸基と物理吸着または化学結合が可能な化合物が用いられる。例としては、長鎖アルキルトリアルコキシシラン、長鎖アルコールが挙げられる。
また、無機酸化物表面の水酸基の表面処理剤による表面改質処理法としては、吸着処理法と化学反応処理法の2つの方法がある。吸着処理した表面改質剤は無機酸化物の表面水酸基とファンデルワールス結合または水素結合するが、これらの結合力は弱く、表面改質剤は脱離しやすいため長期的に安定したアンカリング力は得られない。一方、化学反応処理した表面処理剤は無機酸化物表面の水酸基と共有結合するため結合力が強く、表面処理剤は脱離し難く、経時変化しない安定したアンカリング力が得られる。
【0039】
SiO2の斜方蒸着膜表面にはSi原子と結合した水酸基が多数存在する。これらの水酸基は金属アルコラートと化学反応してM(金属)−O−Si結合とアルコールを生成する。このM−O−SiのSiに結合した水酸基の極性は、SiとMの電気陰性度の差が大きいほど小さくなり、等電点はpHの大きい方向に移動して水酸基の解離が抑制される。
【0040】
本発明の金属アルコラートとしては下記(化6)にて表される化合物を用いことできる。
【0041】
【化6】

【0042】
但し、(化6)において、R1は炭素数が6から30の直鎖又は分岐アルキル基、炭素数が6から30の直鎖又は分岐弗素化アルキル基、またはステロイドまたはその誘導体であり、Xは単結合、―O−、−OCO−、−COO−、−CO−、−CH(CH3)=C−CO−、−PO−、または−OPO(OH)PO(O−)2であり、Mはアルミニウム、チタン、またはジルコニウムであり、R2は炭素数が1から6の直鎖又は分岐アルキル基、炭素数が1から4の直鎖又は分岐アルキルキレン基、または−CH2CO−、mは1から3の整数、nは1から3の整数である。
【0043】
ここで、R1に用いられるアルキル基としては炭素数が8から24の直鎖アルキル基とすることにより、いっそう垂直アンカリング力を強めることが可能であり、高い配向安定性が得られ、液晶表示素子のシール際に発生する配向異常領域の経時拡大速度を減少させることができる。また、このようなアルキル基は不飽和アルキル基または芳香族基と異なり短波長の可視光領域に吸収を持たないため、短波長の可視光を照射することによる光劣化は生じ難い。
【0044】
また、R1に用いられる弗素化アルキル基としては、水素原子の一部または全部を弗素原子で置換した直鎖の飽和アルキル基、水素原子の一部または全部を弗素原子で置換した直鎖または分岐した飽和アルキル基、水素原子の一部または全部を弗素原子で置換した直鎖または分岐した飽和脂環アルキル基を用いることができる。
【0045】
一般に、配向膜表面の臨界表面張力と液晶の表面張力及び液晶分子の配向方向の間には、液晶の表面張力が配向膜表面の臨界表面張力より大きければ垂直配向し、逆に液晶の表面張力が配向膜表面の臨界表面張力より小さければ水平配向する。また、配向膜表面の臨界表面張力と液晶の表面張力の差が大きいほど液晶のアンカリング力は大きいという経験則が成り立つ。アルキル基の水素原子を弗素原子で置換する場合、置換する弗素原子を増加するほどそのアルキル基の臨界表面張力は減少し、垂直アンカリング力は強くなる。また、アルキル基の炭素数を増加すると酸化物表面を占めるアルキル基の密度が増加して臨界表面張力は減少し、垂直アンカリング力は強くなる。従って、アルキル基の弗素原子の置換数が多いほど、また炭素数が多いほど良いことになるが、試験結果より、アルキル基の全水素原子の内で弗素原子の置換割合が50%以上で、炭素数が6以上のとき安定な配向が得られた。このような表面処理剤で処理した無機酸化物の斜方蒸着膜を用いることにより、垂直アンカリング力の初期値をさらに高めることができ、さらに不純物の吸着を低減して液晶表示素子のシール際に発生する配向異常領域の経時拡大速度をいっそう減少させることができる。
このような弗素化アルキル基は不飽和アルキル基または芳香族基と異なり短波長の可視光領域に吸収を持たないため、短波長の可視光を照射することによる光劣化は生じ難い。
【0046】
また,R1に用いられるステロイドまたはその誘導体としては、ヒドロキシ基を有する化合物が好ましい。
ヒドロキシステロイドの構造としては17位に置換された1、5−ジメチルヘキシル基、1、3、5−トリメチルヘキシル基等の分岐アルキル基、2,3又は4位に置換されたヒドロキシル基を有する化合物が挙げられる。ヒドロキシステロイド化合物と無機酸化物表面の水酸基をエステル化反応させると、ヒドロキシル基が表面水酸基と化学結合し、化学結合したステロイド化合物は分岐アルキル基を無機酸化物表面に対向させて配列する。
【0047】
ヒドロキシステロイド化合物で化学反応処理した無機酸化物表面に上記のふっ素系の誘電率異方性が負の液晶分子を接触させると、ステロイド化合物中の縮合環は液晶分子に比べて大きいため、液晶分子はテロイド化合物の間隙に潜り込み、液晶分子の第1層はアルキル基を液晶バルク方向に向けて、無機酸化物表面に対してほぼ垂直に並ぶ。液晶分子の次の層は第一層に制御されて垂直配向することにより強い垂直アンカリング力が得られる。
【0048】
また、ステロイドにおいてはヒドロキシル基が3位に結合した化合物が最も直線状の構造をとりやすいため、無機酸化物表面の水酸基と化学結合したとき、ステロイド化合物は表面に対して分岐アルキル基を上に向けて垂直立った配列をとり垂直アンカリング力は最も強くなる。このような表面処理剤で処理した無機酸化物の斜方蒸着膜を用いることにより、垂直アンカリング力の初期値をさらに高めることができ、さらに不純物の吸着を低減して液晶表示素子のシール際に発生する配向異常領域の経時拡大速度をいっそう減少させることができる。
【0049】
3位にヒドロキシル基を有するステロイドの例としてはコレステロール(化7)、エピコレステロール、コレスタノール(化8)、エピコレスタノール(化9)、エルゴスタノール、エピエルゴスタノール、コプレステロール、エピコプレステロール、α−エルゴステロール、β−シトステロール、スチグマステタノール、カンペステロール(化10)等がある。
【0050】
【化7】

【0051】
【化8】

【0052】
【化9】

【0053】
【化10】

【0054】
さらに、全ての炭素−炭素結合が単結合から成り、3位にヒドロキシル基を有するステロイド化合物で表面処理した無機酸化物斜方蒸着配向膜は可視光領域付近に全く吸収を持たないため、このような化合物で表面処理した無機酸化物配向膜を用いた液晶ライトバルブを装着した場合、高耐光性の液晶プロジェクタが得られる。
【0055】
無機酸化物は可視及び紫外光に対して非常に安定であるが、有機化合物は一般的に可視及び紫外光を照射すると化学反応することが知られている。従って、有機化合物で表面処理した無機酸化物配向膜においては耐光性の低下が危惧されるが、3−ヒドロキシルステロイド化合物で全ての炭素−炭素結合が単結合から成るものにおいては、炭素−炭素単結合の可視−紫外光吸収スペクトルは300nm以上に吸収を持たないため、可視光に対して安定な化合物であり、このような化合物で表面処理した無機酸化物配向膜の耐光性は無処理の無機酸化物のそれと遜色ない。
【0056】
3位にヒドロキシル基を有するステロイドとしては、コレスタノール(化8)、エピコレスタノール(化9)、エルゴスタノール、エピエルゴスタノール、コプレステロール、エピコプレステロール、スチグマステタノール等がある。
【0057】
M(金属原子)としては、シリコンより電気陰性度が小さく、化学的に安定なアルコラートを作るアルミニウム、チタン、またはジルコニウムが用いられる。これらの金属アルコラートでSiO2表面の水酸基を化学的に処理すると、反応溶媒中の水分により金属アルコラートが加水分解して水酸基を生成する。金属酸化物表面に存在する水酸基は、その水酸基と結合する金属原子の電気陰性度が大きいほど、酸性が強くよりイオン化して、液晶中のイオン性不純物を吸着し、焼き付き現象をおこしやすい。それぞれの金属原子の電気陰性度の値は、シリコンが1.90、アルミニウムが1.61、チタンが1.54、ジルコニウムが1.33であり、電気陰性度の最も大きなシリコンが最も焼き付き現象を起こしやすいことが分る。
【0058】
また、金属酸化物の表面電何が零となるpHを示す等電点はシリコンが2.0、アルミニウムが9.3、チタンが6.3、ジルコニウムが6.6である。(化11)に示すように、金属酸化物表面のOHは等電点以上のpHにおいては水酸基に水素イオンが付加してM−OH2+となってプラスにイオン化し、、等電点以下のpHにおいては水酸基が解離してM−O-となってマイナスにイオン化する。等電点に等しいpHでは上記のプラスイオンの量とマイナスイオンの量が等しくなり正味の電何は零となる。
【0059】
【化11】

【0060】
また、pHが等電点から離れるほど金属酸化物表面の水酸基のイオン化率は増加する。一方、液晶表示素子内の液晶のpHは約7であるため、シリコン、チタン及びジルコニウムはマイナスにイオン化し、アルミニウムはプラスにイオン化している。pHが等電点から離れるほどイオン化が進むので、液晶表示素子内においては等電点がpH7に近い本発明の金属原子はシリコンと比較してイオン化率が低くいためイオン性不純物の吸着量が少ない。また、同時に電気陰性度の小さな金属はシリコンの極性を減少させる効果があるため極性有機不純物の吸着量も減少する。なお、本発明の金属原子はSiと同様にSiO2表面の水酸基と化学的に安定なアルコラートを作ることが知られている。
【0061】
また、選択的な平面領域において、本発明に係る金属アルコラートで化学反応処理された無機酸化物の斜方蒸着膜を用いることにより、例えば、シール剤及び/または封止剤の接着領域に当る斜方蒸着膜面を金属アルコラートで処理した場合には、斜方蒸着膜面は臨界表面張力が減少して接着剤との濡れ性が悪くなるのと、シール剤成分と水素結合又は化学結合することが可能な表面水酸基減少することにより、シール剤と斜方蒸着膜の接着強度が低下して必要とする接着強度が得られないために落下試験、耐湿試験等において不具合が生じる。つぎに、シール剤の接着領域に当る斜方蒸着膜面をフォトレジスト等でマスキングしてから金属アルコラートで化学反応処理し、その後フォトレジストを剥離することにより、シール剤の接着領域に当る斜方蒸着膜面に金属アルコラートが化学結合しない斜方蒸着膜面が得られる。未処理の斜方蒸着膜面は臨界表面張力が大きく、かつ表面水酸基が多量に存在し、シール剤と斜方蒸着膜の接着強度が充分強いため、落下試験、耐湿試験等において不具合が生じることは無い。
【0062】
次に、上記垂直配向膜115,125の本発明の係る金属アルコラートを用いた表面改質方法について説明する。
無機酸化物蒸着膜の金属アルコラートによる表面処理の前処理として、斜方蒸着基板に吸着した水分等の物質を除去するために基板の加熱処理または真空加熱処理を行うことが好ましい。特に、水分は反応を阻害するため、加熱除去することが望ましい。加熱処理温度は、100〜250℃であり、吸着した水分を完全に除去できる200〜250℃が好ましい。また、真空中で加熱処理することにより、加熱温度を下げることできる。
【0063】
反応処理条件としては、金属アルコラートの濃度、反応温度及び高沸点有機溶媒の選択が重要である。
金属アルコラートの濃度は0.001〜1mol/L、好ましくは0.01〜0.2mol/Lである。濃度が0.001mol/L以下では反応速度遅く、1mol/L以上にしても反応速度は速くならない。
反応温度は50〜150℃、好ましくは60〜100℃である。50℃以下では反応速度が遅く、150℃以上では金属アルコラートが熱分解する。
高沸点有機溶媒に求められる特性としては、
(1)沸点が80℃以上である。
(2)金属アルコラートを0.2mol/L以上溶解することができる。
(3)金属アルコラート、斜方蒸着膜及びITO膜と化学反応しない。
等が挙げられる。
上記の特性を満たす高沸点有機溶媒としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン等のアルキルベンゼン類、デカン、ドデカン、テトラデカン等の長鎖アルカン類、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、p−メンタン等のシクロアルカン類。メチルエチルケトン、ジブチルケトン等のケトン類、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル等のエーテル類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類がある。
【0064】
また、反応は攪拌又は反応溶液を循環させながら行ない、金属アルコラートは高温状態では空気中の酸素で酸化されやすいため、反応は窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
表面処理をした斜方蒸着膜基板はアルコール、アセトン等の低沸点溶媒を用いて超音波洗浄してから100〜200℃で乾燥する。
【0065】
上記垂直配向膜115及び125を形成した上基板及び下基板を上記表面改質法により処理することにより、金属アルコラートで化学的に表面処理された垂直配向膜を形成するができる。
【0066】
以上のような液晶表示素子100によると、液晶表示素子のシール際から発生する配向異常領域の経時拡大を防止することができ、また焼き付き現象を緩和でき、さらに高耐光性であり、非常に信頼性の高い液晶表示素子となっている。
【実施例】
【0067】
(実施例1)
2枚のガラス基板(2.5cm×2.5cmの正方形)を用意し、真空蒸着装置に基板面が蒸着源に対して50度となるように基板をセットした。蒸着装置内を真空にしてからSiO2を400Åの厚さに斜方蒸着し、SiO2斜方蒸着膜付き基板を作成した。
【0068】
表面処理用化合物として、(化6)でR1=C1735、X=−COO−、M=チタン、R2=(CH3)2CH−、m=1、n=3の化合物であるKRTTS(味の素ファインテクノ株式会社製)を用いた。この化合物0.01molをビーカーに秤量し、キシレン200mlを加えて攪拌溶解してKRTTSの0.1Mキシレン溶液を作った。
【0069】
この溶液をマントルヒーターで80℃に加熱してから、上記蒸着膜付き基板のSiO2蒸着膜面を上にしてビーカーの底に配置して、75から85℃の温度範囲で1時間攪拌して、SiO2蒸着膜表面をKRTTSで化学的に表面処理した。表面処理した基板をエタノール中で超音波洗浄してから、120℃のオーブン中で1時間乾燥した。
【0070】
一方の表面処理した蒸着膜付き基板に対し、SiO2蒸着面外周の液晶注入口以外の部分に直径約3μmのシリカ球を混合したエポキシ樹脂からなる熱硬化型接着剤ML3804P(日本化薬社製)を印刷し、80℃で10分間加熱して溶媒を除去した。他方の表面処理した蒸着膜付き基板のSiO2蒸着面を内側にして、2枚の蒸着膜付き基板の蒸着方向が180度となるように配置して、2枚の基板をクリップで圧着しながら140℃で1時間加熱して貼り合わせた。
【0071】
これら2枚の基板を貼り合わせた内側の空間に、注入口からふっ素系の負の誘電異方性の液晶MLC−6610(メルク社製)を真空注入法により注入した。その後、注入口をアクリル系のUV接着剤LPD−204(ヘンケルジャパン社製)を用いて、波長365nmのUVを3000mJ/cm2照射して硬化し、KRTTSで化学的に表面処理したSiO2の斜方蒸着配向膜を用いた垂直配向タイプの液晶セルを作成した。このようにして作製した液晶セルの平面図を図5示す。
【0072】
配向安定性試験として、このようにして作成した液晶セルを80℃の恒温槽内に放置し、0時間、500時間及び1000時間経過後に、シール105際の液晶配向異常領域の幅を測定した結果を表1に示した。
また、焼き付き試験として、60℃のオーブン中で、液晶セルのC(電気容量)−V(印加電圧)特性をVを上昇及び降下させながら測定し、Vを上昇及び降下びさせながら測定した電圧差ΔVを測定した結果を表2に示した。ここで、図6に模式的に示したように、ΔVはVを上昇及び降下させたときのCの最大値と最小値の中心値に対応するそれぞれのV値の差で表す。
【0073】
さらに、耐光性試験として、上記の液晶セルを図7の本実施形態の投射型表示装置の青色光用液晶光変調装置824の位置にセットして、液晶セルの表面温度を70℃に保ちながら、光源810として130WUHPランプ(フィリップス社製)を連続点灯し、表示異常が発生するまでの時間を測定した結果を表3に示した。
【0074】
(実施例2)
表面処理用化合物として、(化6)でR1=C1735、X=−CO−CH=CH(CH3)−、M=アルミニウム、R2=(CH3)2CH−、m=1、n=2の化合物であるAL-M(味の素ファインテクノ株式会社製)0.01molを使用したこと以外は実施例1と同様にして液晶セルを作製して、配向安定性試験、焼き付き試験及び耐光性試験をした結果を表1、2及び3に示した。
【0075】
(実施例3)
テトライソプロピポキシジルコニウム1mol及びコレスタノール1.2molをオクタン1Lに溶解した。この溶液を攪拌しながら、100℃で5時間攪拌した。このようにして得られた反応液を減圧エバポレーターを用いて濃縮して、(化6)でR1=コレスタニル、X=O、M=ジルコニウム、R2=(CH3)2CH−、m=1、n=3の化合物を得た。表面処理用化合物として、この化合物0.01molを使用したこと以外は実施例1と同様にして液晶セルを作製して、配向安定性試験、焼き付き試験及び耐光性試験をした結果を表1、2及び3に示した。
【0076】
(実施例4)
テトライソプロピポキシチタン1mol及び2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,11−ヘニコサフルオロ−1−ウンデカノール1.2molをオクタン1Lに溶解した。この溶液を攪拌しながら、80℃で2時間攪拌した。このようにして得られた反応液を減圧エバポレーターを用いて濃縮して、(化6)でR1=2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,11−ヘニコサフルオロ−1−ウンデシル、X=O、M=チタン、R2=(CH3)2CH−、m=1、n=3の化合物を得た。表面処理用化合物として、この化合物0.01molを使用したこと以外は実施例1と同様にして液晶セルを作製して、配向安定性試験、焼き付き試験及び耐光性試験をした結果を表1、2及び3に示した。
【0077】
(実施例5)
2枚のガラス基板(2.5cm×2.5cmの正方形)を用意し、真空蒸着装置に基板面が蒸着源に対して50度となるように基板をセットした。蒸着装置内を真空にしてからSiO2を400Åの厚さに斜方蒸着し、SiO2斜方蒸着膜付き基板を作成した。
この2枚の基板の斜方蒸着膜面にポジ型のフォトレジストをスピンナーを用いて塗布し、シール部及び封止部をマスキングして露光機を用いて露光し、有機アルカリ溶液で現像してシール部以外のフォトレジストを剥離してシール部及び封止部をフォトレジストでマスキングしたSiO2斜方蒸着膜付き基板を作成した。
【0078】
表面処理用化合物として、(化6)でR1=C1735、X=−COO−、M=チタン、R2=(CH3)2CH−、m=1、n=3の化合物であるKRTTS(味の素ファインテクノ株式会社製)を用いた。この化合物0.01molをビーカーに秤量し、キシレン200mlを加えて攪拌溶解してKRTTSの0.1Mキシレン溶液を作った。
【0079】
この溶液をマントルヒーターで80℃に加熱してから、上記蒸着膜付き基板のSiO2蒸着膜面を上にしてビーカーの底に配置して、75から85℃の温度範囲で1時間攪拌して、SiO2蒸着膜表面をKRTTSで化学的に表面処理した。表面処理した基板をエタノール中で超音波洗浄した。この基板を露光機を用いて再露光してから有機アルカリ溶液で現像してシール部及び封止部のフォトレジストを剥離した。次に、この基板をエタノール中で超音波洗浄してから、120℃のオーブン中で1時間乾燥した。
【0080】
一方の表面処理した蒸着膜付き基板に対し、SiO2蒸着面外周の液晶注入口以外の部分に直径約3μmのシリカ球を混合したエポキシ樹脂からなる熱硬化型接着剤ML3804P(日本化薬社製)を印刷し、80℃で10分間加熱して溶媒を除去した。他方の表面処理した蒸着膜付き基板のSiO2蒸着面を内側にして、2枚の蒸着膜付き基板の蒸着方向が180度となるように配置して、2枚の基板をクリップで圧着しながら140℃で1時間加熱して貼り合わせた。
【0081】
これら2枚の基板を貼り合わせた内側の空間に、注入口からふっ素系の負の誘電異方性の液晶MLC−6610(メルク社製)を真空注入法により注入した。その後、注入口をアクリル系のUV接着剤LPD−204(ヘンケルジャパン社製)を用いて、波長365nmのUVを3000mJ/cm2照射して硬化封止し、KRTTSで化学的に表面処理したSiO2の斜方蒸着配向膜を用いた垂直配向タイプの液晶セルを作成した。
耐湿性試験として、このようにして作成した液晶セルを60℃で湿度が90%の恒温恒湿槽内に放置し、配向異常の発生を観察したところ、500時間でシール際に配向異常が認められた。
【0082】
(比較例1)
表面処理を行わないSiO2を使用したこと以外は実施例1と同様にして液晶セルを作製して、配向安定性試験、焼き付き試験及び耐光性試験をした結果を表1、2及び3に示した。
【0083】
(比較例2)
表面処理用化合物として、ドデカノール1.86g(0.01mol)を使用したこと以外は実施例1と同様にして液晶セルを作製して、配向安定性試験、焼き付き試験及び耐光性試験をした結果を表1、2及び3に示した。
【0084】
(比較例3)
実施例1において作製した液晶セルを60℃で湿度が90%の恒温恒湿槽内に放置し、配向異常の発生を観察したところ、250時間でシール際に配向異常が認められた。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
【表3】

【0088】
比較例1では、表面処理を行わないSiO2を使用しており、液晶分子の分散力異方性とSiO2表面のトポロジカルな効果のみで配向しているため垂直アンカリング力がかなり弱い。また、SiO2表面には極性の高い多数の水酸基が存在するために極性物質が吸着し易く、シール剤由来の安定剤や開始剤等の極性不純物の吸着量が多いと考えられる。これらの理由により、配向安定性に欠け、液晶配向異常領域の拡大速度は非常に大きい。また、SiO2表面には極性の高い多数の水酸基が存在し、その大部分部は解離してマイナスにイオン化しているため液晶中のイオン性不純物質が吸着し易く焼き付き現象が起こりやすく、ΔVが非常に大きい。さらに、耐光性試験においてはSiO2は無機物であり、可視及び近紫外光領域に吸収を持たないため高耐光性である。
【0089】
比較例2では、1−ドデカノールで表面処理したSiO2を使用しており、SiO2表面のOHの大部分がアルキル化されて極性が減少したためシール剤由来の極性不純物の吸着量は低減されている。しかし、SiO2表面の長鎖アルキル基と液晶分子末端アルキル基との表面張力差は小さいため垂直アンカリング力は不充分である。このため液晶配向異常領域の拡大速度は、比較例1の表面処理を行わないSiO2を用いた場合と比較して大幅に減少しているが、まだ満足できる値ではない。また、一部残存する表面OHは比較例1と同様に解離してマイナスにイオン化しているため液晶中のイオン性不純物質が吸着して焼き付き現象が発生するが、ΔVは小さい。さらに、耐光性試験においては1−ドデカノールは有機化合物であるが、炭素−炭素及び炭素−酸素の単結合から成り短波長可視光領域に吸収を持たないため耐光性は表面処理を行わないSiO2と遜色ない。
【0090】
実施例1から4では、本発明に係る金属アルコラートで表面処理したSiO2を使用しており、SiO2表面の水酸基が電気陰性度の小さな金属アルコラートと反応して表面の極性が減少し、比較例2の長鎖アルキル化されたSiO2を使用した場合よりもシール剤由来の極性不純物の吸着量はさらに低減されているため垂直アンカリング力が強、液晶配向異常領域の拡大速度は小さい。また、金属アルコラートの加水分解で生成した水酸基基はアルミニウム、チタン及びジルコニウムの等電点が液晶セル内のpH7に近いため、イオン化が抑制されて、液晶中のイオンの吸着量がすくないため、ΔVは非常に小さく焼き付き現象は大幅に緩和される。耐光性試験においては、アルキル基、ステロイド及びフルオロアルキル基は有機化合物であるが、短波長可視光領域に吸収を持たないため耐光性は表面処理を行わないSiO2と遜色ない。
【0091】
実施例5と比較例3から、シール部及び封止部の金属アルコラートによる化学処理の有無により耐湿性試験で有意差が認められた。金属アルコラートによる化学処理によりシール剤と斜方蒸着膜との接着強度が低下し、シール剤と斜方蒸着膜の界面を通して水分が液晶セル内部に侵入しやすくなっている。
【0092】
[第2の実施の形態]
【0093】
以下、本発明の第2の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。ここでは、第1実施形態の液晶表示素子100を光変調装置として用いた液晶プロジェクタ(投射型表示装置)の一例を説明する。第1実施形態の液晶表示素子100は、高い耐光性及び配向安定性を有しているため、液晶プロジェクタ(投射型表示装置)の光変調装置として用いるのが好適である。
【0094】
図7は、本実施形態の投射型表示装置の要部を示す概略構成図である。図7において、810は光源、813、814はダイクロイックミラー、815、816、817は反射ミラー、818は入射レンズ、819はリレーレンズ、820は出射レンズ、822、823、824は液晶光変調装置、825はクロスダイクロイックプリズム、826は投写レンズを示す。
【0095】
光源810はメタルハライド、超高圧水銀等のランプ811とランプの光を反射するリフレクタ812とからなる。青色光、緑色光反射のダイクロイックミラー813は、光源810からの光束のうちの赤色光を透過させるとともに、青色光と緑色光とを反射する。透過した赤色光は反射ミラー817で反射されて、第1実施形態の液晶表示素子100を備えた赤色光用液晶光変調装置822に入射される。
【0096】
一方、ダイクロイックミラー813で反射された色光のうち緑色光は緑色光反射のダイクロイックミラー814によって反射され、第1実施形態の液晶表示素子100を備えた緑色光用液晶光変調装置823に入射される。なお、青色光は第2のダイクロイックミラー814も透過する。青色光に対しては、光路長が緑色光、赤色光と異なるのを補償するために、入射レンズ818、リレーレンズ819、出射レンズ820を含むリレーレンズ系からなる導光手段821が設けられ、これを介して青色光が第1実施形態の液晶表示素子100を備えた青色光用液晶光変調装置824に入射される。
【0097】
各光変調装置822,823,824により変調された3つの色光はクロスダイクロイックプリズム825に入射する。このプリズムは4つの直角プリズムが貼り合わされ、その内面に赤光を反射する誘電体多層膜と青光を反射する誘電体多層膜とが十字状に形成されている。これらの誘電体多層膜によって3つの色光が合成されて、カラー画像を表す光が形成される。合成された光は、投写光学系である投写レンズ826によってスクリーン827上に投写され、画像が拡大されて表示される。
【0098】
このような構造を有する本実施形態の投射型表示装置は、第1実施形態の液晶表示素子100を備えたものであるので、耐久性に優れ、表示品質を長期に渡って維持することができる表示装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の第1実施形態の液晶表示素子についての等価回路図。
【図2】同、液晶表示素子の画素構成を示す平面模式図。
【図3】同、液晶表示素子の要部を示す断面模式図。
【図4】蒸着装置の構成を示す説明図。
【図5】実施例の液晶セルを示す平面模式図。
【図6】ΔVの定義を示すグラフ。
【図7】本発明の第2実施形態の投射型表示装置について示す概念図。
【符号の説明】
【0100】
101…上基板、102…下基板、104…液晶層、106…封止、113…共通電極、115,125…垂直配向膜(配向膜)、123…画素電極、130…ITO電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸化物の斜方蒸着膜からなる垂直配向膜を用いた液晶表示素子において、前記斜方蒸着膜の表面水酸基が、金属アルコラートで化学反応処理されていることを特徴とする液晶表示素子。
【請求項2】
前記金属アルコラートが、下記(化1)にて表されることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示素子。
【化1】

但し、(化1)において、R1は炭素数が6から30の直鎖又は分岐アルキル基、炭素数が6から30の直鎖又は分岐弗素化アルキル基、またはステロイドまたはその誘導体であり、Xは単結合、―O−、−OCO−、−COO−、−CO−、−CH(CH3)=C−CO−、−PO−、または−OPO(OH)PO(O−)2であり、Mはアルミニウム、チタン、またはジルコニウムであり、R2は炭素数が1から6の直鎖又は分岐アルキル基、炭素数が1から4の直鎖又は分岐アルキルキレン基、または−CH2CO−であり、mは1から3の整数であり、nは1から3の整数である。
【請求項3】
前記斜方蒸着膜の表面水酸基が、選択的な平面領域において、金属アルコラートで化学反応処理されていることを特徴とする請求項1及び2に記載の液晶表示素子。
【請求項4】
表面水酸基が金属アルコラートで化学反応処理された無機酸化物の斜方蒸着膜からなる垂直配向膜を用いた液晶表示素子の製造方法であって、前記斜方蒸着膜を前記金属アルコラート及び高沸点の有機溶媒からなる溶液中で加熱して化学反応させる加熱工程により、表面処理された無機酸化物の斜方蒸着膜を形成することを特徴とする液晶表示素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1から3に記載の液晶表示素子を光変調装置として備えることを特徴とする投射型表示装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−47613(P2006−47613A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227568(P2004−227568)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】