説明

液晶表示素子用基板の製造方法

【課題】本発明は、高精度なアライメントを要しない液晶表示素子用基板の製造方法を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、電極層およびパターン状の遮光部が形成された基材上に、ポジ型感光性樹脂からなる感光性樹脂層を形成する感光性樹脂層形成工程と、上記感光性樹脂層に、上記基材側から露光する第一露光工程と、上記第一露光工程後、上記感光性樹脂層に、この感光性樹脂層側からフォトマスクを介して露光する第二露光工程と、上記第二露光工程後の感光性樹脂層を現像して、ポジ型感光性樹脂からなる隔壁を形成する現像工程とを有することを特徴とする液晶表示素子用基板の製造方法を提供することにより、上記目的を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隔壁を有しており、強誘電性液晶を用いた液晶表示素子に好適に用いられる液晶表示素子用基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、薄型で低消費電力などといった特徴から、大型ディスプレイから携帯情報端末までその用途を広げており、その開発が活発に行われている。
【0003】
従来の液晶表示素子では、一対の基板間にガラスビーズや樹脂ビーズを散布し、液晶を挟持するための基板間間隔(セルギャップ)を制御している。しかしながら、ビーズ等の散布では、厳密なセルギャップの制御や、外圧に対する変形の抑制が困難である。そこで、フォトリソグラフィー法等を用いて、基板間に柱状または壁状のスペーサを形成することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、この壁状のスペーサ(隔壁)は、セルギャップを一定に保つための強度を確保するために設けられるものであり、セルギャップと同程度の高さを有するため、極端に細く形成することができない。
また、壁状のスペーサは、開口率の観点から、好ましくは非表示領域に配置される。例えば、特許文献2には、ストライプ状遮光部に対応してストライプ状隔壁が形成されている液晶表示装置用電極板が開示されている。一方、近年、パソコン用のディスプレイや、携帯情報端末等に用いられるディスプレイの高精細化が進み、非表示領域の幅が狭くなる傾向にある。このため、非表示領域に隔壁を配置するには、高精度なアライメントが要求される。
【0005】
また近年、応答速度がμsオーダーと極めて短く、高速デバイスに適した液晶であることから、強誘電性液晶(FLC)が注目されている。強誘電性液晶としては、降温過程においてコレステリック(Ch)相−カイラルスメクチックC(SmC)相と相変化し、スメクチックA(SmA)相を経由しない液晶材料(図7上段)や、降温過程においてコレステリック(Ch)相−スメクチックA(SmA)相−カイラルスメクチックC(SmC)相と相変化し、SmA相を経由してSmC相を示す液晶材料(図7下段)がある。
【0006】
強誘電性液晶は、ネマチック液晶に比べて分子の秩序性が高いために配向が難しい。特に、SmA相を経由しない強誘電性液晶は、層法線方向の異なる二つの領域(以下、これを「ダブルドメイン」と称する。)が発生する(図7上段)。このようなダブルドメインは、駆動時に白黒反転した表示になり、大きな問題となる。一方、SmA相を経由する強誘電性液晶は、相変化の過程において、スメクチック層の層間隔が縮まり、その体積変化を補償するためにスメクチック層が曲がったシェブロン構造を有し、この曲げの方向によって液晶分子の長軸方向が異なるドメインが形成され、その境界面にジグザグ欠陥やヘアピン欠陥と呼ばれる配向欠陥が発生しやすい。このような欠陥は、光漏れによるコントラスト低下の原因になる。
【0007】
ジグザグ欠陥やヘアピン欠陥を改善する方法として、配向膜の一軸配向処理方向に対して略平行に複数の直線状の隔壁を形成し、直線状空間を設ける方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。この直線状空間に強誘電性液晶を封じ込めることで、直線状の隔壁の長手方向に対して略平行に液晶分子の流動が誘起される。これにより、強誘電性液晶の配向性が向上し、配向欠陥のないSmC相が形成されるのである。
【0008】
また、ダブルドメインを改善する方法として、強誘電性液晶の単安定状態における分子方向と隔壁の延設方向とが略同一となるように、基板間に複数の隔壁を形成する方法が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【0009】
これらの隔壁を設ける方法によれば、配向制御だけでなく、耐衝撃性を高めることができる。SmC相は外部衝撃に非常に弱いため、耐衝撃性が高いことは強誘電性液晶を用いた液晶表示素子において有用である。
【0010】
【特許文献1】特開平10−161125号公報
【特許文献2】特開平11−212098号公報
【特許文献3】特開2000−111884号公報
【特許文献4】特開2006−39519号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、高精度なアライメントを必要とすることなく、隔壁を形成することができる方法が望まれている。高精度なアライメントを要しないスペーサの形成方法としては、セルフアライメントが考えられるが、例えば、薄膜トランジスタ(TFT)基板を用いて裏面露光によってスペーサを形成しようとすると、各画素電極の周囲を囲むようにマトリクス状にスペーサが残存する。このため、TFT基板と対向基板とを貼り合せた後に、両基板間に液晶を注入することができなくなる。また、近年、一対の基板の一方に液晶を滴下した後、真空中で両基板を貼り合わせるという液晶の封入方法が実用化されているが、上記のようなマトリクス状のスペーサで囲まれた微細な領域に、精度良く液晶を滴下するのは非常に困難である。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、高精度なアライメントを要しない液晶表示素子用基板の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するために、基材と、上記基材上に形成された電極層と、上記基材上にパターン状に形成された遮光部と、上記遮光部上に上記遮光部のパターンとは異なるパターン状に形成され、ポジ型感光性樹脂からなる隔壁とを有する液晶表示素子用基板の製造方法であって、上記電極層およびパターン状の上記遮光部が形成された基材上に、上記ポジ型感光性樹脂からなる感光性樹脂層を形成する感光性樹脂層形成工程と、上記感光性樹脂層に、上記基材側から露光する第一露光工程と、上記第一露光工程後、上記感光性樹脂層に、この感光性樹脂層側からフォトマスクを介して露光する第二露光工程と、上記第二露光工程後の感光性樹脂層を現像して、上記隔壁を形成する現像工程とを有することを特徴とする液晶表示素子用基板の製造方法を提供する。
【0014】
本発明によれば、まず、第一露光工程にて基材上のパターン状の遮光部をマスクとして露光することにより、セルフアライメントで遮光部上に感光性樹脂層を残存させ、次に、第二露光工程にてフォトマスクを介して露光することにより、遮光部上の所望の位置に感光性樹脂層を残存させることができる。第二露光工程では、第一露光工程での未露光領域のうち、隔壁を形成する領域が遮光されるフォトマスクを用いればよいので、精密なマスクパターンも高精度なアライメントも要求されないという利点を有する。
【0015】
上記発明においては、上記液晶表示素子用基板が、強誘電性液晶を用いた液晶表示素子に用いられることが好ましい。背景技術の項に記載したように、強誘電性液晶は配向欠陥が発生しやすいが、本発明により得られる液晶表示素子用基板を強誘電性液晶を用いた液晶表示素子に用いた場合には、隔壁が形成されていることにより、配向欠陥の発生を抑制することができるからである。
【0016】
また、本発明においては、上記電極層が画素電極であり、上記遮光部がゲート電極、ソース電極、ドレイン電極および薄膜トランジスタ(TFT)であることが好ましい。一般に、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極およびTFTの配置は複雑であるため、隔壁を形成する際には精密なマスクパターンや高精度なアライメントが要求されるが、本発明においては精密なマスクパターンも高精度なアライメントも要求されないため、TFTを有する液晶表示素子用基板を作製する場合に有用である。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、パターン状の遮光部をマスクとして露光する第一露光工程と、フォトマスクを介して露光する第二露光工程とを経て隔壁を形成するので、高精度なアライメントを要することなく、隔壁を形成することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の液晶表示素子用基板の製造方法について詳細に説明する。
本発明の液晶表示素子用基板の製造方法は、基材と、上記基材上に形成された電極層と、上記基材上にパターン状に形成された遮光部と、上記遮光部上に上記遮光部のパターンとは異なるパターン状に形成され、ポジ型感光性樹脂からなる隔壁とを有する液晶表示素子用基板の製造方法であって、上記電極層およびパターン状の上記遮光部が形成された基材上に、上記ポジ型感光性樹脂からなる感光性樹脂層を形成する感光性樹脂層形成工程と、上記感光性樹脂層に、上記基材側から露光する第一露光工程と、上記第一露光工程後、上記感光性樹脂層に、この感光性樹脂層側からフォトマスクを介して露光する第二露光工程と、上記第二露光工程後の感光性樹脂層を現像して、上記隔壁を形成する現像工程とを有することを特徴とするものである。
【0019】
本発明の液晶表示素子用基板の製造方法について図面を参照しながら説明する。
図1および図2は、本発明の液晶表示素子用基板の製造方法の一例を示す工程図であり、図2(a)は図1(a)のA−A線断面図、図2(b)は図1(b)のB−B線断面図、図2(d)は図1(c)のC−C線断面図である。
まず、基材1上に、画素電極2を形成し、さらにゲート電極3a、ソース電極3b、ドレイン電極3cおよび薄膜トランジスタ(TFT)4を形成する(図1(a)および図2(a))。ここでは、電極層として画素電極2を形成し、遮光部としてゲート電極3a、ソース電極3b、ドレイン電極3cおよびTFT4を形成している。
次に、画素電極2等が形成された基材1上にポジ型感光性樹脂組成物を塗布して、感光性樹脂層6を形成し、この感光性樹脂層6に対して、遮光部であるゲート電極3a、ソース電極3b、ドレイン電極3cおよびTFT4をマスクとして、基材1側から露光する(図1(b)および図2(b)、感光性樹脂層形成工程および第一露光工程)。この際、遮光部であるゲート電極3a、ソース電極3b、ドレイン電極3cおよびTFT4が設けられている領域は未露光領域16aとなり、他の領域は露光領域16bとなる。
次に、上記第一露光工程後の感光性樹脂層6に対して、フォトマスク11を介して、感光性樹脂層6側から露光する(図2(c)、第二露光工程)。この際、上記第一露光工程での未露光領域16aのうち、隔壁を形成する領域が遮光されるように設計されたフォトマスク11を用いる。
次に、上記第二露光工程後の感光性樹脂層を現像することにより、隔壁6´を形成する(図1(c)および図2(d)、現像工程)。感光性樹脂層のうち、第一露光工程において未露光領域であり、かつ第二露光工程においても未露光領域である部分のみが現像後に残存することになる。ここでは、ソース電極3bの配列3ライン毎に、1ラインの隔壁6´を形成している。
【0020】
本発明によれば、第一露光工程にて、基材上のパターン状の遮光部をマスクとして露光することにより、セルフアライメントで遮光部上に感光性樹脂層を残存させることができる。また、第二露光工程にて、フォトマスクを介して露光することにより、遮光部上の所望の位置に感光性樹脂層を残存させることができる。この第二露光工程では、第一露光工程にてあらかじめ感光性樹脂層を残存させた領域(未露光領域)のうち、隔壁を形成する領域が遮光されるように設計されたフォトマスクを用いればよいので、フォトマスクのマスクパターンの寸法精度に高い精度が要求されない。同様に、第二露光工程では、第一露光工程にてあらかじめ感光性樹脂層を残存させた領域(未露光領域)のうち、隔壁を形成する領域が露光されないようにすればよいので、アライメント精度にも高い精度が要求されない。すなわち、簡単なアライメントで、または、アライメントなしで、隔壁を形成することが可能である。
【0021】
特に、基材としてプラスチック基板を用いる場合に、本発明の液晶表示素子用基板の製造方法は好適である。一般に、プラスチック基板は熱や水分によって容易に寸法が変化するため、アライメントが重要となる。これに対し本発明においては、上述したように簡単なアライメントで、または、アライメントなしで、隔壁を形成することができるので、寸法変化の大きいプラスチック基板も用いることができるのである。
【0022】
また、上述したように、第一露光工程にて、基材上のパターン状の遮光部をマスクとして露光するので、隔壁は必然的に遮光部上に配置される。一般に、隔壁を有する液晶表示素子では、隔壁付近で液晶の配向不良が生じやすい。これに対し本発明においては、隔壁が遮光部上に配置されているので、隔壁付近での配向不良による画像表示への影響を低減することができる。
【0023】
さらに、本発明によれば、第一露光工程にて残存させた感光性樹脂層を、第二露光工程にて間引くので、隔壁が液晶の封入を妨げるのを回避することができる。
例えば、図1および図2に例示するように隔壁をストライプ状に形成する場合、マトリクス状に残存する感光性樹脂を間引くことにより、ストライプ状の隔壁を形成している。このようにして得られる液晶表示素子用基板を用いて液晶表示素子を作製する際に、液晶表示素子用基板と対向基板とを貼り合わせた後に両基板間に液晶を注入する場合には、ストライプ状の隔壁で隔てられた領域の両端が開口しているので、その部分から液晶を注入することができる。
また例えば、図示しないがマトリクス状に残存する感光性樹脂層を間引くことにより、より大きなマトリクス状の隔壁を形成する場合、得られる液晶表示素子用基板を用いて液晶表示素子を作製する際に、液晶表示素子用基板の隔壁で隔てられた領域に液晶を滴下した後に液晶表示素子用基板と対向基板とを貼り合わせる場合には、液晶を滴下する各領域を所望の大きさにすることが可能である。
【0024】
図3および図4は、本発明の液晶表示素子用基板の製造方法の他の例を示す工程図であり、図4(a)は図3(a)のD−D線断面図、図4(b)は図3(b)のE−E線断面図、図4(d)は図3(c)のF−F線断面図である。
まず、基材21上に、ブラックマトリクス22および着色層23を形成し、さらに共通電極24を形成する(図3(a)および図4(a))。ここでは、電極層として共通電極24を形成し、遮光部としてブラックマトリクス22を形成している。
次に、共通電極24等が形成された基材1上にポジ型感光性樹脂組成物を塗布して、感光性樹脂層26を形成し、この感光性樹脂層26に対して、遮光部であるブラックマトリクス22をマスクとして、基材21側から露光する(図3(b)および図4(b)、感光性樹脂層形成工程および第一露光工程)。この際、遮光部であるブラックマトリクス22が設けられている領域は未露光領域36aとなり、他の領域は露光領域36bとなる。これにより、遮光部(ブラックマトリクス22)上に感光性樹脂層を残存させることができる。
次に、上記第一露光工程後の感光性樹脂層26に対して、フォトマスク31を介して、感光性樹脂層26側から露光する(図4(c)、第二露光工程)。この際、上記第一露光工程での未露光領域36aのうち、隔壁を形成する領域が遮光されるように設計されたフォトマスク31を用いる。これにより、遮光部(ブラックマトリクス22)上の所望の位置に感光性樹脂層を残存させることができる。
次に、上記第二露光工程後の感光性樹脂層を現像することにより、隔壁26´を形成する(図3(c)および図4(d)、現像工程)。感光性樹脂層のうち、第一露光工程において未露光領域であり、かつ第二露光工程においても未露光領域である部分のみが現像後に残存することになる。
なお、図3において、共通電極は省略されている。
【0025】
このように本発明においては、遮光部がパターン状に形成された基材を用いて、この基材上に感光性樹脂層を形成し、基材側からの露光および感光性樹脂層側からの露光の2回の露光を行うことにより、簡単なアライメントで、パターン状の遮光部上の所望の位置に隔壁を形成することが可能である。
【0026】
本発明の液晶表示素子用基板の製造方法は、基材上に遮光部をパターン状に形成する遮光部形成工程と、基材上に電極層を形成する電極層形成工程と、上記の感光性樹脂層形成工程、第一露光工程、第二露光工程および現像工程を有する隔壁形成工程とを有していてもよい。また、本発明の液晶表示素子用基板の製造方法は、電極層およびパターン状の遮光部が形成された基材上に配向膜を形成する配向膜形成工程を有していてもよい。
以下、本発明の液晶表示素子用基板の製造方法における各工程について説明する。
【0027】
1.隔壁形成工程
本発明における隔壁形成工程は、電極層およびパターン状の遮光部が形成された基材上に、ポジ型感光性樹脂からなる感光性樹脂層を形成する感光性樹脂層形成工程と、感光性樹脂層に、基材側から露光する第一露光工程と、第一露光工程後、感光性樹脂層に、この感光性樹脂層側からフォトマスクを介して露光する第二露光工程と、第二露光工程後の感光性樹脂層を現像して、隔壁を形成する現像工程とを有するものである。
以下、隔壁形成工程における各工程について説明する。
【0028】
(1)感光性樹脂層形成工程
本発明における感光性樹脂層形成工程は、電極層およびパターン状の遮光部が形成された基材上に、ポジ型感光性樹脂からなる感光性樹脂層を形成する工程である。
【0029】
本発明に用いられるポジ型感光性樹脂としては特に限定されるものではなく、一般的に使用されるものを用いることができる。例えば、ノボラック樹脂をベース樹脂とした化学増幅型感光性樹脂や、1,4−シス−ポリイソプレン等の環状ゴム系、ポリビニルアルコールおよびケイ皮酸クロライドから合成したもの等のポリケイ皮酸ビニル系、ナフトキノンジアジド化合物等のキノンジアジド系などが挙げられる。
【0030】
本工程においては、上記ポジ型感光性樹脂を含むポジ型感光性樹脂組成物を塗布して、感光性樹脂層を形成することができる。
ポジ型感光性樹脂組成物の塗布方法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等を挙げることができる。
この際、塗布後の感光性樹脂層の厚みは、目的とする隔壁の厚みに応じて適宜調整される。
【0031】
上記ポジ型感光性樹脂組成物の塗布後は、感光性樹脂層に対して加熱処理(プリベーク)を行ってもよい。
【0032】
(2)第一露光工程
本発明における第一露光工程は、感光性樹脂層に、基材側から露光する工程である。
【0033】
露光方法としては、感光性樹脂層に対して、基材側から露光する方法であれば特に限定されるものではない。本発明においては、基材上のパターン状の遮光部をマスクとして利用することができるので、セルフアライメントで露光することができる。
【0034】
(3)第二露光工程
本発明における第二露光工程は、第一露光工程後、感光性樹脂層に、この感光性樹脂層側からフォトマスクを介して露光する工程である。
【0035】
露光方法としては、感光性樹脂層に対して、この感光性樹脂層側からフォトマスクを介して露光する方法であれば特に限定されるものではない。例えば、感光性樹脂層の表面から数十μm程度の間隙をあけてフォトマスクを配置し、露光する、プロキシミティ露光を行うことができる。
【0036】
また、本工程に用いられるフォトマスクとしては、上述したように、第一露光工程での未露光領域のうち、隔壁を形成する領域が遮光されるように設計されたものであればよい。このフォトマスクには、精密なマスクパターンは要求されない。
【0037】
(4)現像工程
本発明における現像工程は、第二露光工程後の感光性樹脂層を現像して、隔壁を形成する工程である。
【0038】
本工程においては、現像により、感光性樹脂層が部分的に除去される。感光性樹脂層のうち、第一露光工程での露光により分解した部分と、第二露光工程での露光により分解した部分とが選択的に除去され、他の部分が残存する。すなわち、感光性樹脂層のうち、第一露光工程での露光領域と第二露光工程での露光領域とが選択的に除去され、第一露光工程での未露光領域かつ第二露光工程での未露光領域が残存する。
現像方法としては特に限定されるものではなく、一般的な方法を用いることができる。
【0039】
また、現像後、形成された隔壁に対して加熱処理(ポストベーク)を行ってもよい。この加熱処理は、例えば、温度100〜250℃、処理時間10〜60分程度で適宜設定することができる。
【0040】
(5)隔壁
本発明においては、遮光部上に隔壁がパターン状に形成される。隔壁のパターン形状としては、遮光部のパターン形状に応じて異なるものとなる。例えば、ストライプ状、マトリクス状等が挙げられる。
【0041】
本発明において、後述するように、遮光部として、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極およびTFT等が形成されている場合、隔壁の形成位置としては、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極およびTFTの少なくともいずれかひとつに対応していればよい。例えば、隔壁は、図1(c)に例示するようにソース電極3b、ドレイン電極3cおよびTFT4に対応してストライプ状に形成されていてもよく、図示しないが、ゲート電極およびTFTに対応してストライプ状に形成されていてもよく、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極およびTFTに対応してマトリクス状に形成されていてもよい。
【0042】
隔壁は複数形成されるものであり、複数の隔壁は所定の位置に規則的に形成されていることが好ましく、特に略平行に等間隔で形成されていることが好ましい。例えば、1画素ピッチまたは3画素ピッチで、隔壁を形成することができる。本発明により得られる液晶表示素子用基板を用いて液晶表示素子を作製する場合に、例えば、液晶表示素子用基板上の隔壁で隔てられた領域に液晶を滴下する際、複数の隔壁の形成位置が無秩序であると、液晶の滴下量を正確に制御することが困難となる場合があるからである。
【0043】
隔壁のピッチは、遮光部のピッチに応じて異なるが、50μm〜3mm程度とすることができ、好ましくは300μm〜2.5mmの範囲内、さらに好ましくは1mm〜2mmの範囲内である。隔壁のピッチが上記範囲より小さいと、本発明により得られる液晶表示素子用基板を液晶表示素子に用いた場合には、隔壁付近での液晶の配向不良によって表示品位が低下するおそれがあるからである。また、隔壁のピッチが上記範囲より大きいと、液晶表示素子の大きさによって異なるが、所望の耐衝撃性が得られなかったり、液晶層の厚みを一定に保つことが困難であったりする場合があるからである。
なお、隔壁のピッチとは、隣接する隔壁の中心部から中心部までの距離をいう。
【0044】
また、隔壁の幅は、遮光部の幅に応じて異なるが、2μm〜30μm程度とすることができ、好ましくは3μm〜20μmの範囲内、さらに好ましくは5μm〜15μmの範囲内とすることができる。
【0045】
さらに、隔壁の厚みは、通常、本発明により得られる液晶表示素子用基板が用いられる液晶表示素子における液晶層の厚みと同程度とされる。
【0046】
なお、上記隔壁のピッチ、幅および厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて直線状隔壁の断面を観察することができる。
【0047】
隔壁の数としては、複数であれば特に限定されるものではなく、液晶表示素子の大きさによって適宜選択される。
【0048】
(6)基材
本発明に用いられる基材は、透明基材である。上述したように、上記の第一露光工程にて、感光性樹脂層に対して、基材側からパターン状の遮光部をマスクとして露光するため、基材は透明性が要求されるのである。
透明基材としては、例えば、ガラス基板、プラスチック基板等が挙げられる。中でも、プラスチック基板が好ましく用いられる。プラスチック基板は寸法変化が大きいが、本発明においては高精度なアライメントが要求されないため、プラスチック基板を用いる場合に有用である。
【0049】
2.遮光部形成工程
本発明においては、上記隔壁形成工程前に、基材上に遮光部をパターン状に形成する遮光部形成工程を行ってもよい。
【0050】
本発明に用いられる遮光部は、本発明により得られる液晶表示素子用基板の用途によって適宜選択される。
例えば、液晶表示素子用基板がTFT基板である場合は、上述したように、遮光部として、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極およびTFT等が形成される。この場合、遮光部として、補助容量を形成してもよい。
また例えば、液晶表示素子用基板が共通電極基板である場合は、上述したように、遮光部として、ブラックマトリクスが形成される。
以下、それぞれについて説明する。
【0051】
(1)ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極
本発明に用いられるゲート電極、ソース電極およびドレイン電極は、信号電圧が加えられることにより、液晶を駆動させるものである。
【0052】
ゲート電極およびソース電極は、図1に例示するように縦横に配列されるが、両方が遮光性を有していてもよく、いずれか一方が遮光性を有していてもよい。すなわち、ゲート電極およびソース電極は、両方が遮光部であってもよく、いずれか一方が遮光部であってもよい。ゲート電極およびソース電極の両方が遮光部である場合は、上記第一露光工程での感光性樹脂層の未露光領域が、ゲート電極およびソース電極に対応してマトリクス状のパターンとなる。また、ゲート電極およびソース電極のいずれか一方が遮光部である場合は、上記第一露光工程での感光性樹脂層の未露光領域が、ゲート電極またはソース電極に対応してストライプ状のパターンとなる。
【0053】
ゲート電極およびソース電極のいずれか一方が遮光性を有する場合、他方は透明性を有するものとなる。
遮光性を有するゲート電極としては、一般的な金属電極を用いることができる。金属電極としては、例えば、クロム、アルミニウム、タンタル、タングステン、チタン、モリブデン等が挙げられる。また、透明性を有するゲート電極としては、透明導電体が用いられ、例えば、酸化インジウム、酸化錫、酸化インジウム錫(ITO)等が挙げられる。
【0054】
遮光性を有するソース電極としては、上記ゲート電極と同様に、一般的な金属電極を用いることができる。また、透明性を有するソース電極としては、上記ゲート電極と同様に、透明導電体を用いることができる。
【0055】
また、ドレイン電極としては、上記ゲート電極およびソース電極と同様に、遮光性を有していてもよく、透明性を有していてもよい。
【0056】
金属電極は遮光性を有するので、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極が金属電極であれば、例えば図2(b)において基材側から露光した場合、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極が設けられている領域は露光光が照射されず、未露光領域となる。
【0057】
ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極の形成方法としては、化学蒸着(CVD)法、または、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理蒸着(PVD)法が挙げられる。
【0058】
(2)TFT
本発明に用いられるTFTは、少なくとも半導体層を有するものである。
半導体層は、ゲート電極と、ソース電極およびドレイン電極との間に形成され、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極と電気的に接続されている。
この半導体層としては、一般的にTFTに用いられる半導体層を用いることができ、例えば、アモルファスシリコン、ポリシリコン、単結晶シリコン等が挙げられる。
【0059】
半導体層の形成方法としては、CVD法、または、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD法が挙げられる。
【0060】
(3)ブラックマトリクス
本発明に用いられるブラックマトリクスは、本発明により得られる液晶表示素子用基板を用いた液晶表示素子において、配線近傍からの光漏れを防いだり、外光がTFTに入射することによるオフ時のリーク電流の発生を防いだりするために設けられるものである。
【0061】
ブラックマトリクスの形成材料としては、例えば、黒色着色剤を含有する樹脂、または、クロム、酸化クロム、窒化クロム等の金属もしくは金属化合物が挙げられる。金属もしくは金属化合物を用いたブラックマトリクスとしては、例えば、CrO膜(xは任意の数)およびCr膜が2層積層されたものであってもよく、また、より反射率を低減させたCrO膜(xは任意の数)、CrN膜(yは任意の数)およびCr膜が3層積層されたものであってもよい。
【0062】
黒色着色剤を含有する樹脂を用いたブラックマトリクスは、黒色着色剤を含有する感光性樹脂組成物を塗布して塗膜を形成し、フォトリソグラフィー法を利用してこの塗膜をパターニングすることにより形成することができる。
【0063】
また、金属もしくは金属化合物を用いたブラックマトリクスは、スパッタリング法や真空蒸着法等により薄膜を形成し、フォトリソグラフィー法を利用してこの薄膜をパターニングすることにより形成することができる。また、無電界メッキ法や印刷法等を用いてブラックマトリクスを形成することもできる。
【0064】
ブラックマトリクスの厚みとしては、スパッタリング法や真空蒸着法を用いる場合には0.2μm〜0.4μm程度、塗布法や印刷法を用いる場合には0.5μm〜2μm程度とすることができる。
【0065】
3.電極層形成工程
本発明においては、上記隔壁形成工程前に、基材上に電極層を形成する電極層形成工程を行ってもよい。この電極層形成工程は、上記遮光部形成工程前に行ってもよく、上記遮光部形成工程後に行ってもよい。遮光部形成工程および電極層形成工程の順序は、本発明により得られる液晶表示素子用基板の用途に応じて適宜選択される。
【0066】
本発明に用いられる電極層は、透明電極である。上記の第一露光工程にて、感光性樹脂層に対して、電極層およびパターン状の遮光部が形成された基材側からパターン状の遮光部をマスクとして露光するため、電極層は透明性が要求されるのである。
【0067】
電極層の形成材料としては、透明導電体が用いられ、例えば、酸化インジウム、酸化錫、酸化インジウム錫(ITO)等が好ましく挙げられる。
【0068】
例えば、液晶表示素子用基板を、TFTを用いたアクティブマトリックス方式の液晶表示素子に適用する場合であって、液晶表示素子用基板がTFT基板である場合には、電極層は画素電極とされる。一方、液晶表示素子用基板が共通電極基板である場合には、電極層は共通電極とされる。
【0069】
電極層の形成方法としては、例えば化学蒸着(CVD)法や、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法等の物理蒸着(PVD)法などを挙げることができる。
【0070】
4.配向膜形成工程
本発明においては、上記の遮光部形成工程および電極層形成工程の後に、電極層およびパターン状の遮光部が形成された基材上に配向膜を形成する配向膜形成工程を行ってもよい。この配向膜形成工程は、上記隔壁形成工程前に行ってもよく、上記隔壁形成工程後に行ってもよい。
【0071】
本発明に用いられる配向膜は、液晶の配向制御が可能なものであれば特に限定されるものではない。配向膜としては、例えばラビング処理を施したラビング配向膜や、光配向処理を施した光配向膜などを用いることができる。中でも、光配向膜を用いることが好ましい。光配向処理は非接触配向処理であることから静電気や塵の発生がなく、定量的な配向処理の制御ができる点で有用であるからである。
【0072】
光配向膜は、後述する光配向膜の構成材料を塗布した基板に偏光を制御した光を照射し、光励起反応(分解、異性化、二量化)を生じさせて得られた膜に異方性を付与することによりその膜上の液晶分子を配向させるものである。
【0073】
本発明に用いられる光配向膜の構成材料は、光を照射して光励起反応を生じることにより、液晶を配向させる効果(光配列性:photoaligning)を有するものであれば特に限定されるものではない。このような材料としては、大きく、光反応を生じることにより光配向膜に異方性を付与する光反応型の材料と、光異性化反応を生じることにより光配向膜に異方性を付与する光異性化型の材料とに分けることができる。
【0074】
光配向膜の構成材料が光励起反応を生じる光の波長領域は、紫外光域の範囲内、すなわち10nm〜400nmの範囲内であることが好ましく、250nm〜380nmの範囲内であることがより好ましい。
以下、光反応型の材料および光異性化型の材料について説明する。
【0075】
(1)光反応型
光反応型の材料とは、光反応を生じることにより光配向膜に異方性を付与する材料である。本発明に用いられる光反応型の材料としては、このような特性を有するものであれば特に限定されるものではないが、これらの中でも、光二量化反応または光分解反応を生じることにより上記光配向膜に異方性を付与する材料であることが好ましい。
【0076】
ここで、光二量化反応とは、光照射により偏光方向に配向した反応部位がラジカル重合して分子2個が重合する反応をいい、この反応により偏光方向の配向を安定化し、光配向膜に異方性を付与することができるものである。また、光分解反応とは、光照射により偏光方向に配向したポリイミドなどの分子鎖を分解する反応をいい、この反応により偏光方向に垂直な方向に配向した分子鎖を残し、光配向膜に異方性を付与することができるものである。本発明においては、これらの光反応型の材料の中でも、露光感度が高く、材料選択の幅が広いことから、光二量化反応により光配向膜に異方性を付与する材料を用いることがより好ましい。
【0077】
光二量化反応を利用した光反応型の材料としては、光二量化反応により光配向膜に異方性を付与することができる材料であれば特に限定されるものではないが、ラジカル重合性の官能基を有し、かつ、偏光方向により吸収を異にする二色性を有する光二量化反応性化合物を含むことが好ましい。偏光方向に配向した反応部位をラジカル重合することにより、光二量化反応性化合物の配向が安定化し、光配向膜に容易に異方性を付与することができるからである。
【0078】
このような特性を有する光二量化反応性化合物としては、側鎖としてケイ皮酸エステル、クマリン、キノリン、カルコン基およびシンナモイル基から選ばれる少なくとも1種の反応部位を有する二量化反応性ポリマーを挙げることができる。
【0079】
これらの中でも光二量化反応性化合物としては、側鎖としてケイ皮酸エステル、クマリンまたはキノリンのいずれかを含む二量化反応性ポリマーであることが好ましい。偏光方向に配向したα、β不飽和ケトンの二重結合が反応部位となってラジカル重合することにより、光配向膜に容易に異方性を付与することができるからである。
【0080】
上記二量化反応性ポリマーの主鎖としては、ポリマー主鎖として一般に知られているものであれば特に限定されるものではないが、芳香族炭化水素基などの、上記側鎖の反応部位同士の相互作用を妨げるようなπ電子を多く含む置換基を有していないものであることが好ましい。
【0081】
上記二量化反応性ポリマーの重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、5,000〜40,000の範囲内であることが好ましく、10,000〜20,000の範囲内であることがより好ましい。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法により測定することができる。上記二量化反応性ポリマーの重量平均分子量が小さすぎると、光配向膜に適度な異方性を付与することができない場合がある。逆に、大きすぎると、光配向膜形成時の塗工液の粘度が高くなり、均一な塗膜を形成しにくい場合がある。
【0082】
二量化反応性ポリマーとしては、下記式(1)で表される化合物を例示することができる。
【0083】
【化1】

【0084】
上記式において、M11およびM12は、それぞれ独立して、単重合体または共重合体の単量体単位を表す。例えば、エチレン、アクリレート、メタクリレート、2−クロロアクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、2−クロロアクリルアミド、スチレン誘導体、マレイン酸誘導体、シロキサンなどが挙げられる。M12としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタクリレート、メチルメタクリレート、ヒドロキシアルキルアクリレートまたはヒドロキシアルキルメタクリレートであってもよい。xおよびyは、共重合体とした場合の各単量体単位のモル比を表すものであり、それぞれ、0<x≦1、0≦y<1であり、かつ、x+y=1を満たす数である。nは4〜30,000の整数を表す。DおよびDは、スペーサー単位を表す。
【0085】
は−A−(Z−B−Z−で表される基であり、Rは−A−(Z−B−Z−で表される基である。ここで、AおよびBは、それぞれ独立して、共有単結合、ピリジン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、1,4−シクロヘキシレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、または置換基を有していてもよい1,4−フェニレンを表す。また、ZおよびZは、それぞれ独立して、共有単結合、−CH−CH−、−CHO−、−OCH−、−CONR−、−RNCO−、−COO−または−OOC−を表す。Rは、水素原子または低級アルキル基であり、Zは、水素原子、置換基を有していてもよい、炭素数1〜12のアルキルまたはアルコキシ、シアノ、ニトロ、ハロゲンである。zは、0〜4の整数である。Eは、光二量化反応部位を表し、例えば、ケイ皮酸エステル、クマリン、キノリン、カルコン基、シンナモイル基などが挙げられる。jおよびkは、それぞれ独立して、0または1である。
【0086】
このような二量化反応性ポリマーとしては、具体的に下記式(1-1)〜(1-4)で表される化合物を挙げることができる。
【0087】
【化2】

【0088】
また、上記二量化反応性ポリマーとして、より具体的には下記式(1-5)〜(1-8)で表される化合物を挙げることができる。
【0089】
【化3】

【0090】
本発明においては、光二量化反応性化合物として、上述した化合物の中から、要求特性に応じて光二量化反応部位や置換基を種々選択することができる。また、光二量化反応性化合物は、1種単独でも2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0091】
また、光二量化反応を利用した光反応型の材料としては、上記光二量化反応性化合物のほか、光配向膜の光配列性を妨げない範囲内で添加剤を含んでいてもよい。上記添加剤としては、重合開始剤、重合禁止剤などが挙げられる。
【0092】
重合開始剤または重合禁止剤は、一般に公知の化合物の中から、光二量化反応性化合物の種類によって適宜選択して用いればよい。重合開始剤または重合禁止剤の添加量は、光二量化反応性化合物に対し、0.001重量%〜20重量%の範囲内であることが好ましく、0.1重量%〜5重量%の範囲内であることがより好ましい。重合開始剤または重合禁止剤の添加量が小さすぎると重合が開始(禁止)されない場合があり、逆に大きすぎると、反応が阻害される場合があるからである。
【0093】
光分解反応を利用した光反応型の材料としては、例えば日産化学工業(株)製のポリイミド「RN1199」などを挙げることができる。また、光二量化反応を利用した光反応型の材料としては、例えばRolic technologies社製の「ROP102」、「ROP103」などを挙げることができる。
【0094】
(2)光異性化型
光異性化型の材料とは、光異性化反応を生じることにより光配向膜に異方性を付与する材料である。本発明に用いられる光異性化型の材料としては、このような特性を有する材料であれば特に限定されるものではないが、光異性化反応を生じることにより上記光配向膜に異方性を付与する光異性化反応性化合物を含むものであることが好ましい。このような光異性化反応性化合物を含むことにより、光照射により、複数の異性体のうち安定な異性体が増加し、それにより光配向膜に容易に異方性を付与することができるからである。
【0095】
光異性化反応性化合物としては、上記のような特性を有する材料であれば特に限定されるものではないが、偏光方向により吸収を異にする二色性を有し、かつ、光照射により光異性化反応を生じるものであることが好ましい。このような特性を有する光異性化反応性化合物の偏光方向に配向した反応部位の異性化を生じさせることにより、上記光配向膜に容易に異方性を付与することができるからである。
【0096】
また、光異性化反応性化合物が生じる光異性化反応としては、シス−トランス異性化反応であることが好ましい。光照射によりシス体またはトランス体のいずれかの異性体が増加し、それにより光配向膜に異方性を付与することができるからである。
【0097】
光異性化反応性化合物としては、単分子化合物、または、光もしくは熱により重合する重合性モノマーを挙げることができる。これらは用いられる液晶の種類に応じて適宜選択すればよいが、光照射により光配向膜に異方性を付与した後、ポリマー化することにより、その異方性を安定化することができることから、重合性モノマーを用いることが好ましい。このような重合性モノマーの中でも、光配向膜に異方性を付与した後、その異方性を良好な状態に維持したまま容易にポリマー化できることから、アクリレートモノマー、メタクリレートモノマーであることが好ましい。
【0098】
上記重合性モノマーは、単官能のモノマーであっても、多官能のモノマーであってもよいが、ポリマー化による光配向膜の異方性がより安定なものとなることから、2官能のモノマーであることが好ましい。
【0099】
このような光異性化反応性化合物としては、具体的には、アゾベンゼン骨格やスチルベン骨格などのシス−トランス異性化反応性骨格を有する化合物を挙げることができる。
【0100】
この場合に、分子内に含まれるシス−トランス異性化反応性骨格の数は、1つであっても2つ以上であってもよいが、液晶の配向制御、特に強誘電性液晶の配向制御が容易となることから、2つであることが好ましい。
【0101】
上記シス−トランス異性化反応性骨格は、液晶分子との相互作用をより高めるために置換基を有していてもよい。置換基は、液晶分子との相互作用を高めることができ、かつ、シス−トランス異性化反応性骨格の配向を妨げないものであれば特に限定されるものではなく、例えば、カルボキシル基、スルホン酸ナトリウム基、水酸基などが挙げられる。これらの構造は、用いられる液晶の種類に応じて、適宜選択することができる。
【0102】
また、光異性化反応性化合物としては、分子内にシス−トランス異性化反応性骨格以外にも、液晶分子との相互作用をより高められるように、芳香族炭化水素基などのπ電子が多く含まれる基を有していてもよく、シス−トランス異性化反応性骨格と芳香族炭化水素基は、結合基を介して結合していてもよい。結合基は、液晶分子との相互作用を高められるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、−COO−、−OCO−、−O−、−C≡C−、−CH−CH−、−CHO−、−OCH−などが挙げられる。
【0103】
なお、光異性化反応性化合物として、重合性モノマーを用いる場合には、上記シス−トランス異性化反応性骨格を、側鎖として有していることが好ましい。上記シス−トランス異性化反応性骨格を側鎖として有していることにより、光配向膜に付与される異方性の効果がより大きなものとなり、液晶の配向制御、中でも強誘電性液晶の配向制御に特に適したものとなるからである。この場合に、前述した分子内に含まれる芳香族炭化水素基や結合基は、液晶分子との相互作用が高められるように、シス−トランス異性化反応性骨格と共に、側鎖に含まれていることが好ましい。
【0104】
また、上記重合性モノマーの側鎖には、シス−トランス異性化反応性骨格が配向しやすくなるように、アルキレン基などの脂肪族炭化水素基をスペーサーとして有していてもよい。
【0105】
上述したような単分子化合物または重合性モノマーの光異性化反応性化合物の中でも、本発明に用いられる光異性化反応性化合物としては、分子内にアゾベンゼン骨格を有する化合物であることが好ましい。アゾベンゼン骨格は、π電子を多く含むため、液晶分子との相互作用が高く、液晶の配向制御、中でも強誘電性液晶の配向制御に特に適しているからである。
【0106】
以下、アゾベンゼン骨格が光異性化反応を生じることにより光配向膜に異方性を付与できる理由について説明する。まず、アゾベンゼン骨格に、直線偏光紫外光を照射すると、下記式に示されるように、分子長軸が偏光方向に配向しているトランス体のアゾベンゼン骨格が、シス体に変化する。
【0107】
【化4】

【0108】
アゾベンゼン骨格のシス体は、トランス体に比べて化学的に不安定であるため、熱的にまたは可視光を吸収してトランス体に戻るが、このとき、上記式の左のトランス体になるか右のトランス体になるかは同じ確率で起こる。そのため、紫外光を吸収し続けると、右側のトランス体の割合が増加し、アゾベンゼン骨格の平均配向方向は紫外光の偏光方向に対して垂直になる。本発明においては、この現象を利用することにより、アゾベンゼン骨格の配向方向を揃え、光配向膜に異方性を付与し、その膜上の液晶分子の配向を制御することができるのである。
【0109】
このような分子内にアゾベンゼン骨格を有する化合物のうち、単分子化合物としては、例えば、下記式(2)で表される化合物を挙げることができる。
【0110】
【化5】

【0111】
上記式中、R41は各々独立して、ヒドロキシ基を表す。R42は−(A41−B41−A41−(D41−で表される連結基を表し、R43は(D41−(A41−B41−A41−で表される連結基を表す。ここで、A41は二価の炭化水素基を表し、B41は−O−、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCO−、−NHCOO−または−OCONH−を表し、mは0〜3の整数を表す。D41は、mが0のとき二価の炭化水素基を表し、mが1〜3の整数のとき−O−、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCO−、−NHCOO−または−OCONH−を表し、nは0または1を表す。R44は各々独立して、ハロゲン原子、カルボキシ基、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化メトキシ基、シアノ基、ニトロ基、メトキシ基またはメトキシカルボニル基を表す。ただし、カルボキシ基はアルカリ金属と塩を形成していてもよい。R45は各々独立して、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、アミノ基またはヒドロキシ基を表す。ただし、カルボキシ基またはスルホ基はアルカリ金属と塩を形成していてもよい。
【0112】
上記式で表される化合物の具体例としては、下記式(2-1)〜(2-4)に示す化合物を挙げることができる。
【0113】
【化6】

【0114】
また、上記アゾベンゼン骨格を側鎖として有する重合性モノマーとしては、例えば、下記式(3)で表される化合物を挙げることができる。
【0115】
【化7】

【0116】
上記式中、R51は各々独立して、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基、ビニルオキシ基、ビニルオキシカルボニル基、ビニルイミノカルボニル基、ビニルイミノカルボニルオキシ基、ビニル基、イソプロペニルオキシ基、イソプロペニルオキシカルボニル基、イソプロペニルイミノカルボニル基、イソプロペニルイミノカルボニルオキシ基、イソプロペニル基またはエポキシ基を表す。R52は−(A51−B51−A51−(D51−で表される連結基を表し、R53は(D51−(A51−B51−A51−で表される連結基を表す。ここで、A51は二価の炭化水素基を表し、B51は−O−、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCO−、−NHCOO−または−OCONH−を表し、mは0〜3の整数を表す。D51は、mが0のとき二価の炭化水素基を表し、mが1〜3の整数のとき−O−、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCO−、−NHCOO−または−OCONH−を表し、nは0または1を表す。R54は各々独立して、ハロゲン原子、カルボキシ基、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化メトキシ基、シアノ基、ニトロ基、メトキシ基またはメトキシカルボニル基を表す。ただし、カルボキシ基はアルカリ金属と塩を形成していてもよい。R55は各々独立して、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、アミノ基またはヒドロキシ基を表す。ただし、カルボキシ基またはスルホ基はアルカリ金属と塩を形成していてもよい。
【0117】
上記式で表される化合物の具体例としては、下記式(3-1)〜(3-4)に示す化合物を挙げることができる。
【0118】
【化8】

【0119】
本発明においては、このような光異性化反応性化合物の中から、要求特性に応じて、シス−トランス異性化反応性骨格や置換基を種々選択することができる。なお、これらの光異性化反応性化合物は、1種単独でも2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0120】
本発明に用いられる光異性化型の材料としては、上記光異性化反応性化合物のほか、光配向膜の光配列性を妨げない範囲内で添加剤を含んでいてもよい。上記光異性化反応性化合物として重合性モノマーを用いる場合には、添加剤としては、重合開始剤、重合禁止剤などが挙げられる。
【0121】
重合開始剤または重合禁止剤は、一般に公知の化合物の中から、光異性化反応性化合物の種類によって適宜選択して用いればよい。重合開始剤または重合禁止剤の添加量は、光異性化反応性化合物に対し、0.001重量%〜20重量%の範囲内であることが好ましく、0.1重量%〜5重量%の範囲内であることがより好ましい。重合開始剤または重合禁止剤の添加量が小さすぎると重合が開始(禁止)されない場合があり、逆に大きすぎると、反応が阻害される場合があるからである。
【0122】
(3)光配向膜の形成方法
本発明において光配向膜を形成するには、まず光配向膜の構成材料を有機溶剤で希釈した光配向膜形成用塗工液を塗布し、乾燥させる。この場合に、光配向膜形成用塗工液中の光二量化反応性化合物または光異性化反応性化合物の含有量は、0.05重量%〜10重量%の範囲内であることが好ましく、0.2重量%〜2重量%の範囲内であることがより好ましい。含有量が上記範囲より少ないと、配向膜に適度な異方性を付与することが困難となり、逆に含有量が上記範囲より多いと、光配向膜形成用塗工液の粘度が高くなるので均一な塗膜を形成しにくくなるからである。
【0123】
光配向膜形成用塗工液の塗布方法としては、例えばスピンコート法、ロールコート法、ロッドバーコート法、スプレーコート法、エアナイフコート法、スロットダイコート法、ワイヤーバーコート法、インクジェット法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法などを用いることができる。
【0124】
上記光配向膜形成用塗工液を塗布することにより得られる膜の厚みは、1nm〜2000nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは3nm〜100nmの範囲内である。膜の厚みが上記範囲より薄いと十分な光配列性を得ることができない可能性があり、逆に厚みが上記範囲より厚いとコスト的に不利になる場合があるからである。
【0125】
得られた膜には光配向処理を施すことによって異方性を付与する。具体的には、偏光を制御した光を照射することにより、光励起反応を生じさせて異方性を付与することができる。照射する光の波長領域は、用いられる光配向膜の構成材料に応じて適宜選択すればよいが、紫外光域の範囲内、すなわち100nm〜400nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは250nm〜380nmの範囲内である。また、偏光方向は、上記光励起反応を生じさせることができるものであれば特に限定されるものではない。
【0126】
さらに、光配向膜の構成材料として、光異性化反応性化合物の中でも重合性モノマーを用いた場合には、光配向処理を行った後、加熱することにより、ポリマー化し、光配向膜に付与された異方性を安定化することができる。
【0127】
5.反応性液晶層形成工程
本発明においては、上記配向膜形成工程後に、配向膜上に反応性液晶を固定化してなる反応性液晶層を形成する反応性液晶層形成工程を行ってもよい。
【0128】
反応性液晶は配向膜により配向しており、例えば紫外線を照射して反応性液晶を重合させ、その配向状態を固定化することにより反応性液晶層を形成することができる。反応性液晶層は、このように反応性液晶の配向状態を固定化してなるものであるので、液晶を配向させる配向膜として機能する。また、反応性液晶は固定化されているため、温度等の影響を受けないという利点を有する。さらに、反応性液晶は、液晶と構造が比較的類似しており、液晶との相互作用が強いので、配向膜のみを用いた場合よりも効果的に液晶の配向を制御することができる。
【0129】
本発明に用いられる反応性液晶としては、ネマチック相を発現するものであることが好ましい。ネマチック相は、液晶相の中でも配向制御が比較的容易であるからである。
【0130】
また、反応性液晶は、重合性液晶材料を含有することが好ましい。これにより、反応性液晶の配向状態を固定化することが可能になるからである。重合性液晶材料としては、重合性液晶モノマー、重合性液晶オリゴマー、および重合性液晶ポリマーのいずれかを用いることができるが、中でも、重合性液晶モノマーが好適に用いられる。重合性液晶モノマーは、他の重合性液晶材料、すなわち重合性液晶オリゴマーや重合性液晶ポリマーと比較して、より低温で配向が可能であり、かつ配向に際しての感度も高く、容易に配向させることができるからである。
【0131】
上記重合性液晶モノマーとしては、重合性官能基を有する液晶モノマーであれば特に限定されるものではなく、例えばモノアクリレートモノマー、ジアクリレートモノマー等が挙げられる。また、これらの重合性液晶モノマーは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0132】
モノアクリレートモノマーとしては、例えば下記式(4)および(5)で表される化合物を例示することができる。
【0133】
【化9】

【0134】
上記式において、A、B、D、EおよびFはベンゼン、シクロヘキサンまたはピリミジンを表し、これらはハロゲン等の置換基を有していてもよい。また、AおよびB、あるいはDおよびEは、アセチレン基、メチレン基、エステル基等の結合基を介して結合していてもよい。MおよびMは、水素原子、炭素数3〜9のアルキル基、炭素数3〜9のアルコキシカルボニル基、またはシアノ基のいずれであってもよい。さらに、分子鎖末端のアクリロイルオキシ基とAまたはDとは、炭素数3〜6のアルキレン基等のスペーサーを介して結合していてもよい。
【0135】
ジアクリレートモノマーとしては、例えば下記式(6)および(7)に示す化合物を挙げることができる。
【0136】
【化10】

【0137】
上記式において、XおよびYは、水素、炭素数1〜20のアルキル、炭素数1〜20のアルケニル、炭素数1〜20のアルキルオキシ、炭素数1〜20のアルキルオキシカルボニル、ホルミル、炭素数1〜20のアルキルカルボニル、炭素数1〜20のアルキルカルボニルオキシ、ハロゲン、シアノまたはニトロを表す。また、mは2〜20の範囲内の整数を表す。上記式(6)において、Xとしては、炭素数1〜20のアルキルオキシカルボニル、メチルまたは塩素であることが好ましく、中でも炭素数1〜20のアルキルオキシカルボニル、特にCH(CHOCOであることが好ましい。
【0138】
また、ジアクリレートモノマーとしては、例えば下記式(8)に示す化合物を挙げることができる。
【0139】
【化11】

【0140】
上記式において、Z31およびZ32は、各々独立して直接結合している−COO−、−OCO−、−O−、−CHCH−、−CH=CH−、−C≡C−、−OCH−、−CHO−、−CHCHCOO−、−OCOCHCH−を表し、R31、R32およびR33は、各々独立して水素または炭素数1〜5のアルキルを表す。また、kおよびmは0または1を表し、nは2〜8の範囲内の整数を表す。R31、R32およびR33は、k=1の場合、各々独立して炭素数1〜5のアルキルであり、k=0の場合、各々独立して水素または炭素数1〜5のアルキルであることが好ましい。このR31、R32およびR33は、互いに同じであってもよい。
【0141】
上記式(8)で表される化合物の具体例としては、下記式(8-1)に示す化合物を挙げることができる。
【0142】
【化12】

【0143】
上記式において、Z21およびZ22は、各々独立して直接結合している−COO−、−OCO−、−O−、−CHCH−、−CH=CH−、−C≡C−、−OCH−、−CHO−、−CHCHCOO−、−OCOCHCH−を表す。また、mは0または1を表し、nは2〜8の範囲内の整数を表す。
【0144】
本発明においては、上記の中でも、上記式(6)および(8)で表される化合物が好適に用いられる。上記式(8)で表される化合物として、具体的には旭電化工業株式会社製の「アデカキラコール PLC-7183」、「アデカキラコール PLC-7209」などを挙げることができる。また、アクリレートモノマーとしては、例えばRolic technologies 社製の「ROF-5101」、「ROF-5102」なども挙げられる。
【0145】
また本発明においては、重合性液晶モノマーの中でも、ジアクリレートモノマーが好適である。ジアクリレートモノマーは、配向状態を良好に維持したまま容易に重合させることができるからである。
【0146】
上述した重合性液晶モノマーは、それ自体がネマチック相を発現するものでなくてもよい。これらの重合性液晶モノマーは、上述したように2種以上を混合して用いてもよいものであり、これらを混合した組成物すなわち反応性液晶が、ネマチック相を発現するものであればよいからである。
【0147】
さらに本発明においては、必要に応じて、上記反応性液晶に光重合開始剤や重合禁止剤等を添加してもよい。例えば、電子線照射により重合性液晶材料を重合させる際には、光重合開始剤が不要な場合はあるが、一般的に用いられている例えば紫外線照射による重合の場合においては、通常光重合開始剤が重合促進のために用いられるからである。
【0148】
本発明に用いることができる光重合開始剤としては、例えばベンジル(ビベンゾイルとも言う)、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4−ベンゾイル−4´−メチルジフェニルサルファイド、ベンジルメチルケタール、ジメチルアミノメチルベンゾエート、2−n−ブトキシエチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、3,3´−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、メチロベンゾイルフォーメート、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン等を挙げることができる。なお、光重合開始剤の他に増感剤を、本発明の目的が損なわれない範囲で添加することも可能である。
【0149】
このような光重合開始剤の添加量としては、一般的には0.01〜20重量%、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.5〜5重量%の範囲で上記反応性液晶に添加することができる。
【0150】
反応性液晶層の厚みは、目的とする異方性に応じて適宜調整されるものであり、例えば1nm〜1000nmの範囲内で設定することができ、好ましくは3nm〜100nmの範囲内である。反応性液晶層の厚みが厚すぎると必要以上の異方性が生じてしまい、また反応性液晶層の厚みが薄すぎると所定の異方性が得られない場合があるからである。
【0151】
反応性液晶層は、配向膜上に反応性液晶を含む反応性液晶層形成用塗工液を塗布し、配向処理を行い、上記反応性液晶の配向状態を固定化することにより形成することができる。また、反応性液晶層形成用塗工液を塗布するのではなく、ドライフィルム等を予め形成し、これを配向膜上に積層することにより、反応性液晶層を形成してもよい。製造工程の簡便さの観点からは、反応性液晶を溶媒に溶解させて反応性液晶層形成用塗工液を調製し、これを配向膜上に塗布し、溶媒を除去する方法を用いることが好ましい。
【0152】
上記反応性液晶層形成用塗工液に用いる溶媒としては、上記反応性液晶等を溶解することができ、かつ配向膜の配向能を阻害しないものであれば特に限定されるものではない。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、n−ブチルベンゼン、ジエチルベンゼン、テトラリン等の炭化水素類;メトキシベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、2,4−ペンタンジオン等のケトン類;酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;t−ブチルアルコール、ジアセトンアルコール、グリセリン、モノアセチン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール等のアルコール類;フェノール、パラクロロフェノール等のフェノール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のセロソルブ類;などの1種または2種以上が使用可能である。
【0153】
また、単一種の溶媒を使用しただけでは、上記反応性液晶等の溶解性が不十分であったり、配向膜が侵食されたりする場合がある。この場合には、2種以上の溶媒を混合使用することにより、この不都合を回避することができる。上記の溶媒のなかにあって、単独溶媒として好ましいものは、炭化水素類およびグリコールモノエーテルアセテート系溶媒であり、混合溶媒として好ましいのは、エーテル類またはケトン類と、グリコール系溶媒との混合系である。
【0154】
反応性液晶層形成用塗工液の濃度は、反応性液晶の溶解性や、反応性液晶層の厚みに依存するため一概には規定できないが、通常は0.1〜40重量%、好ましくは1〜20重量%の範囲で調整される。反応性液晶層形成用塗工液の濃度が上記範囲より低いと、反応性液晶が配向しにくくなる場合があり、逆に反応性液晶層形成用塗工液の濃度が上記範囲より高いと、反応性液晶層形成用塗工液の粘度が高くなるので均一な塗膜を形成しにくくなる場合があるからである。
【0155】
さらに、上記反応性液晶層形成用塗工液には、本発明の目的を損なわない範囲内で、下記に示すような化合物を添加することができる。添加できる化合物としては、例えば、多価アルコールと1塩基酸または多塩基酸を縮合して得られるポリエステルプレポリマーに、(メタ)アクリル酸を反応させて得られるポリエステル(メタ)アクリレート;ポリオール基と2個のイソシアネート基を持つ化合物を互いに反応させた後、その反応生成物に(メタ)アクリル酸を反応させて得られるポリウレタン(メタ)アクリレート;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリカルボン酸ポリグリシジルエステル、ポリオールポリグリシジルエーテル、脂肪族または脂環式エポキシ樹脂、アミンエポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシベンゼン型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂と、(メタ)アクリル酸を反応させて得られるエポキシ(メタ)アクリレート等の光重合性化合物;アクリル基やメタクリル基を有する光重合性の液晶性化合物;などが挙げられる。
上記反応性液晶に対するこれら化合物の添加量は、本発明の目的が損なわれない範囲で選択される。これらの化合物の添加により、反応性液晶の硬化性が向上し、得られる反応性液晶層の機械強度が増大し、またその安定性が改善される。
【0156】
このような反応性液晶層形成用塗工液の塗布方法としては、例えばスピンコート法、ロールコート法、プリント法、ディップコート法、ダイコート法、キャスティング法、バーコート法、ブレードコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、リバースコート法、押し出しコート法、インクジェット法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法等が挙げられる。
【0157】
また、上記反応性液晶層形成用塗工液を塗布した後は、溶媒を除去するのであるが、この溶媒の除去は、例えば、減圧除去もしくは加熱除去、さらにはこれらを組み合わせる方法等により行われる。
【0158】
本発明においては、上述したように塗布された反応性液晶を、配向膜により配向させて液晶規則性を有する状態とする。すなわち、反応性液晶にネマチック相を発現させる。これは、通常はN−I転移点以下で熱処理する方法等の方法により行われる。ここで、N−I転移点とは、液晶相から等方相へ転移する温度を示すものである。
【0159】
反応性液晶は重合性液晶材料を有するものであり、このような重合性液晶材料の配向状態を固定化するには、重合を活性化する活性放射線を照射する方法が用いられる。ここでいう活性放射線とは、重合性液晶材料に対して重合を起こさせる能力がある放射線をいう。
【0160】
このような活性放射線としては、重合性液晶材料を重合させることが可能な放射線であれば特に限定されるものではないが、通常は装置の容易性等の観点から紫外光または可視光線が使用され、波長が150〜500nm、好ましくは250〜450nm、さらに好ましくは300〜400nmの照射光が用いられる。
【0161】
本発明においては、光重合開始剤が紫外線でラジカルを発生し、重合性液晶材料がラジカル重合するような重合性液晶材料に対して、紫外線を活性放射線として照射する方法が好ましい方法であるといえる。活性放射線として紫外線を用いる方法は、既に確立された技術であることから、用いる光重合開始剤を含めて、本発明への応用が容易であるからである。
【0162】
この照射光の光源としては、低圧水銀ランプ(殺菌ランプ、蛍光ケミカルランプ、ブラックライト)、高圧放電ランプ(高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ)、ショートアーク放電ランプ(超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀キセノンランプ)などが例示できる。なかでもメタルハライドランプ、キセノンランプ、高圧水銀ランプ等の使用が推奨される。また、照射強度は、反応性液晶の組成や光重合開始剤の多寡によって適宜調整されて照射される。
【0163】
このような活性照射線の照射は、上記重合性液晶材料が液晶相となる温度条件で行ってもよく、また液晶相となる温度より低い温度で行ってもよい。一旦液晶相となった重合性液晶材料は、その後温度を低下させても、配向状態が急に乱れることはないからである。
【0164】
また、重合性液晶材料の配向状態を固定化する方法としては、上記の活性放射線を照射する方法以外にも、加熱して重合性液晶材料を重合させる方法も用いることができる。この場合に用いられる反応性液晶としては、反応性液晶のN−I転移点以下で、反応性液晶に含有される重合性液晶モノマーが熱重合するものであることが好ましい。
【0165】
6.着色層形成工程
本発明においては、例えば、上記遮光部形成工程にてブラックマトリクスを形成し、上記電極層形成工程にて共通電極を形成する場合、遮光部形成工程後であって電極層形成工程前に、パターン状の遮光部(ブラックマトリクス)が形成された基材上に着色層を形成する着色層形成工程を行ってもよい。
着色層が形成されている場合、液晶表示素子用基板を用いた液晶表示素子では、着色層によりカラー表示を実現することができる。
【0166】
本発明に用いられる着色層としては、一般にカラーフィルタの着色層として用いられるものであれば特に限定されるものではない。例えば、赤、緑または青の顔料を含有する着色層形成用組成物を用いて、着色層を形成することができる。
【0167】
着色層の形成方法としては、一般的な方法を適用することができ、例えば、フォトリソグラフィー法、インクジェット法、スクリーン印刷法等が挙げられる。
【0168】
7.用途
本発明により得られる液晶表示素子用基板は、例えば、TFTを用いたアクティブマトリックス方式の液晶表示素子に適用することができる。
【0169】
図5に、本発明により得られる液晶表示素子用基板を用いた液晶表示素子であって、TFTを用いたアクティブマトリックス方式の液晶表示素子の一例を示す斜視図を示す。図5に例示するように、液晶表示素子60は、液晶表示素子用基板10(TFT基板)と、対向基板50(共通電極基板)とを有している。対向基板50(共通電極基板)には、基材51上に共通電極52および配向膜53が形成されている。また、液晶表示素子用基板10(TFT基板)には、画素電極2、ゲート電極3a、ソース電極3bおよびドレイン電極3cおよびTFT4が形成されている。ゲート電極3aおよびソース電極3bはそれぞれ縦横に配列しており、ゲート電極3aおよびソース電極3bに信号を加えることによりTFT4を作動させ、液晶を駆動させることができる。ゲート電極3aおよびソース電極3bが交差した部分は、図示しないが絶縁層で絶縁されており、ゲート電極3aの信号とソース電極3bの信号とは独立に動作することができる。ゲート電極3aおよびソース電極3bにより囲まれた部分は、液晶表示素子を駆動する最小単位である画素であり、各画素には少なくとも1つ以上のTFT4および画素電極2が形成されている。そして、ゲート電極およびソース電極に順次信号電圧を加えることにより、各画素のTFTを動作させることができる。なお、図5において、液晶層および液晶表示素子用基板の配向膜は省略されている。
【0170】
図5に示す例においては、液晶表示素子用基板はTFT基板であるが、これに限定されるものではなく、液晶表示素子用基板は、TFT基板であってもよく、共通電極基板であってもよい。中でも、液晶表示素子用基板はTFT基板であることが好ましい。TFT基板では各構成部材の配置が複雑であるため、隔壁を形成する際に高精度なアライメントが要求されるが、本発明においては精密なアライメントが要求されないため、TFT基板を作製する場合に有用である。
【0171】
8.液晶表示素子
図6は、本発明により得られる液晶表示素子用基板を用いた液晶表示素子の一例を示す概略断面図である。図6に例示する液晶表示素子60においては、基材1上に画素電極2およびソース電極3b等が形成され、ソース電極3b上に隔壁6´が形成され、画素電極2、ソース電極3bおよび隔壁6´等の上に配向膜7が形成された液晶表示素子用基板10(TFT基板)と、基材51上に共通電極52および配向膜53が順に形成された対向基板50(共通電極基板)とが対向しており、液晶表示素子用基板10(TFT基板)の配向膜7と対向基板50(共通電極基板)の配向膜53との間には液晶が挟持され、液晶層55が構成されている。
以下、このような液晶表示素子における液晶層について説明する。
【0172】
(1)液晶層
液晶層は、配向膜間に液晶を挟持させることにより構成されている。
液晶としては、特に限定されるものではなく、ネマチック液晶、コレステリック液晶、スメクチック液晶、強誘電性液晶等が例示される。
【0173】
上記の中でも、強誘電性液晶が好ましい。一般に、図7下段に例示するようなSmA相を経由する相系列を有する強誘電性液晶は、相変化の過程において、スメクチック層の層間隔が縮まり、その体積変化を補償するためにスメクチック層が曲がったシェブロン構造を有し、この曲げの方向によって液晶分子の長軸方向が異なるドメインが形成され、その境界面にジグザグ欠陥やヘアピン欠陥と呼ばれる配向欠陥が発生しやすい。また一般に、図7上段に例示するようなSmA相を経由しない相系列を有する強誘電性液晶は、層法線方向の異なる二つの領域(ダブルドメイン)が発生しやすい。本発明においては、隔壁が形成されていることにより、このような配向欠陥の発生を抑制することが可能である。
【0174】
強誘電性液晶としては、カイラルスメクチックC相(SmC)を発現するものであれば特に限定されるものではない。強誘電性液晶の相系列としては、例えば、ネマチック(N)相−コレステリック(Ch)相−カイラルスメクチックC(SmC)相と相変化するもの、ネマチック(N)相−カイラルスメクチックC(SmC)相と相変化するもの、ネマチック(N)相−スメクチックA(SmA)相−カイラルスメクチックC(SmC)相と相変化するもの、ネマチック(N)相−コレステリック(Ch)相−スメクチックA(SmA)相−カイラルスメクチックC(SmC)相と相変化するもの、などを挙げることができる。
【0175】
上記の中でも、SmA相を経由しない強誘電性液晶が好ましい。上述したように、SmA相を経由しない強誘電性液晶は、ダブルドメイン等の配向欠陥を生じやすいが、隔壁が形成されていることにより、ダブルドメイン等の配向欠陥の発生を効果的に抑制することができるからである。
【0176】
また、強誘電性液晶としては、クラークおよびラガーウォルにより提唱された電圧非印加時に安定状態を二つ有する双安定性のもの(図8上段)、および、電圧無印加時の液晶層の状態がひとつの状態で安定化している(以下、これを「単安定」と称する。)もの(図8下段、NONAKA, T., LI, J., OGAWA, A., HORNUNG, B., SCHMIDT, W., WINGEN, R., and DUBAL, H., 1999, Liq. Cryst., 26, 1599.)のいずれも用いることができる。中でも、単安定性を示す強誘電性液晶が好ましい。単安定性を示す強誘電性液晶を用いた場合には、電圧変化により液晶のダイレクタ(分子軸の傾き)を連続的に変化させ、透過光度をアナログ変調することで、階調表示が可能となるからである。
【0177】
特に、液晶表示素子をフィールドシーケンシャルカラー方式により駆動させる場合には、単安定性を示す液晶材料を用いることが好ましい。単安定性を示す液晶材料を用いることにより、TFTを用いたアクティブマトリックス方式による駆動が可能になり、また、電圧変調により階調制御が可能になり、高精細で高品位の表示を実現することができるからである。
【0178】
なお、「単安定性を示す」とは、電圧無印加時の強誘電性液晶の状態がひとつの状態で安定化している状態をいう。強誘電性液晶は、図9に例示するように、液晶分子56が層法線zから傾いており、層法線zに垂直な底面を有する円錐(コーン)の稜線に沿って回転する。このような円錐(コーン)において、液晶分子56の層法線zに対する傾き角をチルト角θという。このように、液晶分子56は層法線zに対しチルト角±θだけ傾く二つの状態間をコーン上に動作することができる。具体的に説明すると、単安定性を示すとは、電圧無印加時に液晶分子56がコーン上のいずれかひとつの状態で安定化している状態をいう。
【0179】
単安定性を示す液晶材料の中でも、例えば図8左下に示すような、正負いずれかの電圧を印加したときにのみ液晶分子が動作する、half−V shaped switching(以下、HV字型スイッチングと称する。)特性を示すものが特に好ましい。このようなHV字型スイッチング特性を示す強誘電性液晶を用いると、白黒シャッターとしての開口時間を十分に長くとることができ、これにより時間的に切り替えられる各色をより明るく表示することができ、明るいカラー表示の液晶表示素子を実現することができるからである。
なお、「HV字型スイッチング特性」とは、印加電圧に対する光透過率が非対称な電気光学特性をいう。
【0180】
このような強誘電性液晶としては、一般に知られる液晶材料の中から要求特性に応じて種々選択することができる。
【0181】
特に、Ch相からSmA相を経由しないでSmC相を発現する液晶材料は、HV字型スイッチング特性を示すものとして好適である。具体的には、AZエレクトロニックマテリアルズ社製「R2301」が挙げられる。
【0182】
また、SmA相を経由する液晶材料としては、材料選択の幅が広いことから、Ch相からSmA相を経由してSmC相を発現するものが好ましい。この場合、SmC相を示す単一の液晶材料を用いることもできるが、低粘度でSmC相を示しやすいノンカイラルな液晶(以下、ホスト液晶とする場合がある。)に、それ自身ではSmC相を示さないが大きな自発分極と適当な螺旋ピッチを誘起する光学活性物質を少量添加することにより、上記のような相系列を示す液晶材料が、低粘度であり、より速い応答性を実現できることから好ましい。
【0183】
上記ホスト液晶としては、広い温度範囲でSmC相を示す材料であることが好ましく、一般に強誘電性液晶のホスト液晶として知られているものであれば特に限定されることなく使用することができる。例えば、下記一般式:
Ra−Q−X−(Q−Y−Q−Rb
(式中、RaおよびRbはそれぞれ、直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルカノイルオキシ基またはアルコキシカルボニルオキシ基であり、Q、QおよびQはそれぞれ、1,4−フェニレン基、1,4−シクロヘキシレン基、ピリジン−2,5−ジイル基、ピラジン−2,5−ジイル基、ピリダジン−3,6−ジイル基、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル基であり、これらの基はハロゲン原子、水酸基、シアノ基等の置換基を有していてもよく、XおよびYはそれぞれ、−COO−、−OCO−、−CHO−、−OCH−、−CHCH−、−C≡C−または単結合であり、mは0または1である。)で表される化合物を使用することができる。ホスト液晶としては、上記化合物を1種単独でも2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0184】
上記ホスト液晶に添加する光学活性物質としては、自発分極が大きく、適当な螺旋ピッチを誘起する能力を持った材料であれば特に限定されるものではなく、一般にSmC相を示す液晶組成物に添加する材料として知られるものを使用することができる。特に少量の添加量で大きな自発分極を誘起できる材料であることが好ましい。このような光学活性物質としては、例えば、下記一般式:
Rc−Q−Za−Q−Zb−Q−Zc−Rd
(式中、Q、Q、Qは上記一般式と同じ意味を表し、ZaおよびZbは−COO−、−OCO−、−CHO−、−OCH−、−CHCH−、−C≡C−、−CH=N−、−N=N−、−N(→O)=N−、−C(=O)S−または単結合であり、Rcは不斉炭素原子を有していてもよい直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルカノイルオキシ基またはアルコキシカルボニルオキシ基であり、Rdは不斉炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルカノイルオキシ基またはアルコキシカルボニルオキシ基であり、RcおよびRdはハロゲン原子、シアノ基、水酸基で置換されていてもよい。)で表される化合物を使用することができる。光学活性物質としては、上記化合物を1種単独でも2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0185】
SmA相を経由する強誘電性液晶として、具体的には、AZエレクトロニックマテリアルズ社製「FELIXM4851−100」などが挙げられる。
【0186】
液晶として強誘電性液晶を用いる場合、液晶層には、上記の強誘電性液晶以外に他の化合物が含有されていてもよい。他の化合物としては、液晶表示素子に求められる機能に応じて任意の機能を備えるものを用いることができる。好適に用いられる他の化合物としては、重合性モノマーの重合物を挙げることができる。液晶層中に重合性モノマーの重合物が含有されることにより、強誘電性液晶の配列がいわゆる「高分子安定化」され、優れた配向安定性が得られるからである。
【0187】
上記重合性モノマーとしては、重合反応により重合物を生じる化合物であれば特に限定されるものではない。重合性モノマーとしては、加熱処理により重合反応を生じる熱硬化性樹脂モノマー、および活性放射線の照射により重合反応を生じる活性放射線硬化性樹脂モノマーを挙げることができる。中でも、活性放射線硬化性樹脂モノマーを用いることが好ましい。熱硬化性樹脂モノマーを用いる場合は、重合反応を生じさせるために加温処理をすることが必要であるため、このような加温処理により強誘電性液晶の規則的な配列が損なわれたり、相転移が誘起されてしまったりするおそれがある。一方、活性放射線硬化性樹脂モノマーを用いる場合は、このようなおそれがなく、重合反応が生じることによって強誘電性液晶の配列が害されることが少ないからである。
【0188】
活性放射線硬化性樹脂モノマーとしては、電子線の照射により重合反応を生じる電子線硬化性樹脂モノマー、および光照射により重合反応を生じる光硬化性樹脂モノマーを挙げることができる。中でも、光硬化性樹脂モノマーを用いることが好ましい。光硬化性樹脂モノマーを用いることにより、製造工程を簡略化できるからである。
【0189】
光硬化性樹脂モノマーとしては、波長が150nm〜500nmの範囲内の光を照射することにより、重合反応を生じるものであれば特に限定されるものではない。中でも波長が250nm〜450nmの範囲内、特に300nm〜400nmの範囲内の光を照射することにより重合反応を生じる紫外線硬化性樹脂モノマーを用いることが好ましい。照射装置の容易性等の面において利点を有するからである。
【0190】
紫外線硬化性樹脂モノマーが有する重合性官能基は、上記波長領域の紫外線照射により、重合反応を生じるものであれば特に限定されるものではない。特に、アクリレート基を有する紫外線硬化型樹脂モノマーを用いることが好ましい。
【0191】
また、紫外線硬化性樹脂モノマーは、一分子中に一つの重合性官能基を有する単官能性モノマーであってもよく、また、一分子中に二つ以上の重合性官能基を有する多官能性モノマーであってもよい。中でも、多官能性モノマーを用いることが好ましい。多官能性モノマーを用いることにより、液晶層においてより強いポリマーネットワークを形成することができるため、分子間力および配向膜界面におけるポリマーネットワークを強化することができる。これにより、液晶層の温度変化による強誘電性液晶の配列の乱れを抑制することができる。
【0192】
多官能性モノマーの中でも、分子の両末端に重合性官能基を有する2官能性モノマーが好ましく用いられる。分子の両端に重合性官能基を有することにより、ポリマー同士の間隔が広いポリマーネットワークを形成することができ、液晶層が重合性モノマーの重合物を含むことによる強誘電性液晶の駆動電圧の低下を防止できるからである。
【0193】
また、紫外線硬化性樹脂モノマーの中でも、液晶性を発現する紫外線硬化性液晶モノマーを用いることが好ましい。このような紫外線硬化性液晶モノマーが好ましい理由は次の通りである。すなわち、紫外線硬化性液晶モノマーは液晶性を示すことから、配向膜の配向規制力により規則的に配列することができる。このため、紫外線硬化性液晶モノマーを、規則的に配列した後に重合反応を生じさせることにより、規則的な配列状態を維持したまま固定化することができる。このような規則的な配列状態を有する重合物が液晶層中に存在することにより、強誘電性液晶の配向安定性を向上させることができ、優れた耐熱性および耐衝撃性を得ることができる。
【0194】
紫外線硬化性液晶モノマーが示す液晶相としては、特に限定されるものではなく、例えば、N相、SmA相、SmC相を挙げることができる。
【0195】
本発明に用いられる紫外線硬化性液晶モノマーとしては、例えば、下記式(4)、(5)および(7)に示す化合物を挙げることができる。
【0196】
【化13】

【0197】
上記式(4)および(5)において、A、B、D、EおよびFはベンゼン、シクロヘキサンまたはピリミジンを表し、これらはハロゲン等の置換基を有していてもよい。また、AおよびB、あるいはDおよびEは、アセチレン基、メチレン基、エステル基等の結合基を介して結合していてもよい。MおよびMは、水素原子、炭素数3〜9のアルキル基、炭素数3〜9のアルコキシカルボニル基、またはシアノ基のいずれであってもよい。さらに、分子鎖末端のアクリロイルオキシ基とAまたはDとは、炭素数3〜6のアルキレン基等の結合基を介して結合していてもよい。
【0198】
また、上記式(7)において、Yは、水素、炭素数1〜20のアルキル、炭素数1〜20のアルケニル、炭素数1〜20のアルキルオキシ、炭素数1〜20のアルキルオキシカルボニル、ホルミル、炭素数1〜20のアルキルカルボニル、炭素数1〜20のアルキルカルボニルオキシ、ハロゲン、シアノまたはニトロを表す。
【0199】
上記の中でも、好適に用いられるものとして、下記式の化合物を例示することができる。
【0200】
【化14】

【0201】
【化15】

【0202】
【化16】

【0203】
また、上記重合性モノマーの重合物は、単一の重合性モノマーの重合物であってもよく、2以上の異なる重合性モノマーの重合物であってもよい。2以上の異なる重合性モノマーの重合物とする場合は、例えば、上記式で示される紫外線硬化性液晶モノマーと他の紫外線硬化性樹脂モノマーとの重合物を例示することができる。
【0204】
重合性モノマーとして紫外線硬化性液晶モノマーを用いた場合、重合性モノマーの重合物としては、主鎖に液晶性を示す原子団を有することにより主鎖が液晶性を示す主鎖液晶型重合物であってもよく、側鎖に液晶性を示す原子団を有することにより側鎖が液晶性を示す側鎖液晶型重合物であってもよい。中でも、重合性モノマーの重合物が側鎖液晶型重合物であることが好ましい。液晶性を示す原子団が側鎖に存在することにより、この原子団の自由度が高くなるため、液晶層において液晶性を示す原子団が配向しやすくなるからである。また、その結果として強誘電性液晶の配向安定性を向上させることができるからである。
【0205】
液晶層中の重合性モノマーの重合物の存在量としては、強誘電性液晶の配向安定性を所望の程度にできる範囲内であれば特に限定されないが、0.5質量%〜30質量%の範囲内が好ましく、より好ましくは1質量%〜20質量%の範囲内、さらに好ましくは1質量%〜10質量%の範囲内である。重合性モノマーの重合物の存在量が上記範囲よりも多いと、強誘電性液晶の駆動電圧が増加したり、応答速度が低下したりする場合があるからである。また、重合性モノマーの重合物の存在量が上記範囲よりも少ないと、強誘電性液晶の配向安定性が不十分となり、耐熱性や耐衝撃性が低下する可能性があるからである。
【0206】
なお、液晶層中の重合性モノマーの重合物の存在量は、液晶層中の単分子液晶を溶剤で洗い流した後、残存する重合性モノマーの重合物の重量を電子天秤で測量することによって求めた残存量と、液晶層の総質量とから算出することができる。
【0207】
液晶層の厚みとしては、用いる液晶の種類に応じて適宜選択される。例えば、強誘電性液晶を用いる場合、液晶層の厚みは、1.2μm〜3.0μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1.3μm〜2.5μm、さらに好ましくは1.4μm〜2.0μmの範囲内である。液晶層の厚みが薄すぎるとコントラストが低下するおそれがあり、逆に液晶層の厚みが厚すぎると強誘電性液晶が配向しにくくなる可能性があるからである。また例えば、ネマチック液晶を用いる場合、液晶層の厚みは、2μm〜30μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは2μm〜5μmの範囲内である。
【0208】
液晶層の形成方法としては、一般に液晶セルの作製方法として用いられる方法を使用することができ、例えば、真空注入方式や液晶滴下方式等が挙げられる。
真空注入方式では、例えば、あらかじめ液晶表示素子用基板および対向基板を用いて液晶セルを作製し、液晶を加温することにより等方性液体とし、キャピラリー効果を利用して液晶セルに液晶を等方性液体の状態で注入し、接着剤で封鎖することにより液晶層を形成することができる。その後、液晶セルを常温まで徐冷することにより、封入された液晶を配向させることができる。
また液晶滴下方式では、例えば、液晶表示素子用基板の周縁にシール剤を塗布し、この液晶表示素子用基板を液晶が等方相になる温度まで加熱し、この液晶表示素子用基板の配向膜上に、ディスペンサーを用いて液晶を等方性液体の状態で滴下し、液晶表示素子用基板および対向基板を減圧下で重ね合わせ、シール剤を介して接着させることにより、液晶層を形成することができる。その後、液晶セルを常温まで徐冷することにより、封入された液晶を配向させることができる。
【0209】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0210】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
[実施例]
クロム膜が幅10μm、ピッチ100μmのマトリクス状に形成されたPES基板(大きさ:100mm×100mm、厚み:0.2mm)を準備した。この基板上に、感光性樹脂材料(OFPR、東京応化工業(株)製)をスピンコート法(2000rpm、10秒間)により塗布し、真空乾燥を行い、ホットプレートで90℃、3分間乾燥を行い、感光性樹脂層を形成した。その後、感光性樹脂層に対して、基板側から露光を行った。
次に、遮光部が幅100μm、ピッチ2mmのストライプ状に形成されたフォトマスクを使用し、感光性樹脂層に対して、感光性樹脂層側から露光を行った。次いで、230℃で30分間焼成し、感光性樹脂からなる隔壁を形成した。
これにより、クロム膜パターン上に、幅10μm、ピッチ2mmのストライプ状に形成された隔壁を得た。
【0211】
[比較例]
クロム膜が幅10μm、ピッチ100μmのマトリクス状に形成されたPES基板(大きさ:100mm×100mm、厚み:0.2mm)を準備した。この基板上に、感光性樹脂材料(OFPR、東京応化工業(株)製)をスピンコート法(2000rpm、10秒間)により塗布し、真空乾燥を行い、ホットプレートで90℃、3分間乾燥を行い、感光性樹脂層を形成した。
次に、遮光部が幅10μm、ピッチ100μmのストライプ状に形成されたフォトマスクを使用し、感光性樹脂層に対して、感光性樹脂層側から露光を行った。次いで、230℃で30分間焼成し、感光性樹脂からなる隔壁を形成した。
上記のホットプレートでの加熱時に、熱によりPES基板が形状変化を起こしたため、感光性樹脂層の露光の際に、フォトマスクと基板のアライメントマークが合わず、隔壁はクロム膜パターン上からずれて形成された。
【図面の簡単な説明】
【0212】
【図1】本発明の液晶表示素子用基板の製造方法の一例を示す工程図である。
【図2】本発明の液晶表示素子用基板の製造方法の他の例を示す工程図である。
【図3】本発明の液晶表示素子用基板の製造方法の他の例を示す工程図である。
【図4】本発明の液晶表示素子用基板の製造方法の他の例を示す工程図である。
【図5】液晶表示素子用基板を用いた液晶表示素子の一例を示す概略斜視図である。
【図6】液晶表示素子用基板を用いた液晶表示素子の一例を示す概略断面図である。
【図7】強誘電性液晶の有する相系列の相違による配向の違いを示した図である。
【図8】強誘電性液晶の印加電圧に対する透過率の変化を示したグラフである。
【図9】液晶分子の挙動を示す模式図である。
【符号の説明】
【0213】
1、21 … 基材
2 … 画素電極
3a … ゲート電極
3b … ソース電極
3c … ドレイン電極
4 … TFT
6、26 … 感光性樹脂層
6´、26´ … 隔壁
7 … 配向膜
10 … 液晶表示素子用基板
11 … フォトマスク
16a、36a … 未露光領域
16b、36b … 露光領域
22 … ブラックマトリクス
23 … 着色層
24 … 共通電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に形成された電極層と、前記基材上にパターン状に形成された遮光部と、前記遮光部上に前記遮光部のパターンとは異なるパターン状に形成され、ポジ型感光性樹脂からなる隔壁とを有する液晶表示素子用基板の製造方法であって、
前記電極層およびパターン状の前記遮光部が形成された基材上に、前記ポジ型感光性樹脂からなる感光性樹脂層を形成する感光性樹脂層形成工程と、
前記感光性樹脂層に、前記基材側から露光する第一露光工程と、
前記第一露光工程後、前記感光性樹脂層に、当該感光性樹脂層側からフォトマスクを介して露光する第二露光工程と、
前記第二露光工程後の感光性樹脂層を現像して、前記隔壁を形成する現像工程と
を有することを特徴とする液晶表示素子用基板の製造方法。
【請求項2】
前記液晶表示素子用基板が、強誘電性液晶を用いた液晶表示素子に用いられることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示素子用基板の製造方法。
【請求項3】
前記電極層が画素電極であり、前記遮光部がゲート電極、ソース電極、ドレイン電極および薄膜トランジスタ(TFT)であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液晶表示素子用基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−26387(P2008−26387A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195745(P2006−195745)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】