説明

液晶表示装置及びその製造方法

【課題】大がかりな装置を用いなくても、容易に応答特性を向上させることが可能な液晶表示装置を提供する。
【解決手段】液晶表示装置は、第1基板20及び第2基板30、第1電極20B、第1電極20Bに設けられた第1配向規制部21、第1配向膜22、第2電極30B、第2電極30Bに設けられた第2配向規制部31、第2配向膜32、液晶分子41を含む液晶層40を有する画素が、複数、配列されて成り、液晶層40は、更に、重合した高分子化合物を含み、液晶分子41A,41Bには、配向膜22,32と接する重合した高分子化合物によってプレチルトが付与されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対向面に配向膜を有する一対の基板の間に液晶層が封止された液晶表示素子を備えた液晶表示装置、及び、液晶表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶テレビジョン受像機やノート型パーソナルコンピュータ、カーナビゲーション装置等の表示モニタとして、液晶ディスプレイ(LCD;Liquid Crystal Display)が多く用いられている。この液晶ディスプレイは、基板間に挟持された液晶層中に含まれる液晶分子の分子配列(配向)によって様々な表示モード(方式)に分類される。表示モードとして、例えば、電圧をかけない状態で液晶分子がねじれて配向しているTN(Twisted Nematic;ねじれネマティック)モードがよく知られている。TNモードでは、液晶分子は、正の誘電率異方性、即ち、液晶分子の長軸方向の誘電率が短軸方向に比べて大きい性質を有している。このため、液晶分子は、基板面に対して平行な面内において、液晶分子の配向方位を順次回転させつつ、基板面に垂直な方向に整列させた構造となっている。
【0003】
この一方で、電圧をかけない状態で液晶分子が基板面に対して垂直に配向しているVA(Vertical Alignment)モードに対する注目が高まっている。VAモードでは、液晶分子は、負の誘電率異方性、即ち、液晶分子の長軸方向の誘電率が短軸方向に比べて小さい性質を有しており、TNモードに比べて広視野角を実現できる。
【0004】
このようなVAモードの液晶ディスプレイでは、電圧が印加されると、基板に対して垂直方向に配向していた液晶分子が、負の誘電率異方性により、基板に対して平行方向に倒れるように応答することによって、光を透過させる構成となっている。ところが、基板に対して垂直方向に配向した液晶分子の倒れる方向は任意であるため、電圧印加により液晶分子の配向が乱れ、よって、電圧に対する応答特性を悪化させる要因となっていた。
【0005】
そこで、応答特性を向上させるために、液晶分子が電圧に応答して倒れる方向を規制する技術が検討されている。具体的には、基板面に対して斜め方向から直線偏光の紫外光を照射することにより形成された配向膜を用いて、液晶分子に対してプレチルトを付与する技術(光配向技術)等である。光配向技術として、例えば、カルコン構造を含むポリマーから成る膜に対して、紫外光の直線偏光の光を基板面に対して斜め方向から照射し、カルコン構造中の二重結合部分が架橋することにより配向膜を形成する技術が知られている(特許文献1〜特許文献3参照)。また、この他に、ビニルシンナメート誘導体高分子とポリイミドとの混合物を用いて配向膜を形成する技術がある(特許文献4参照)。更に、ポリイミドを含む膜に対して波長254nmの直線偏光の光を照射して、ポリイミドの一部を分解することにより配向膜を形成する技術(特許文献5参照)等も知られている。また、光配向技術の周辺技術として、直線偏光の光あるいは斜め光を照射した、アゾベンゼン誘導体等の二色性光反応性構成単位を含むポリマーから成る膜上に、液晶性高分子化合物から成る膜を形成することにより液晶性配向膜とする技術もある(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−087859号公報
【特許文献2】特開平10−252646号公報
【特許文献3】特開2002−082336号公報
【特許文献4】特開平10−232400号公報
【特許文献5】特開平10−073821号公報
【特許文献6】特開平11−326638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した光配向技術では、応答特性は、従来のMVAモードやPVAモードよりは向上するものの、配向膜を形成する際に、直線偏光の光を基板面に対して斜め方向から照射する装置といった大がかりな光照射装置が必要とされるという問題がある。また、より広い視野角を実現するために、画素内に複数のサブ画素を設けて液晶分子の配向を分割したマルチドメインを有する液晶ディスプレイを製造するためには、より大がかりな装置が必要とされる上、製造工程が複雑になるという問題もある。具体的には、マルチドメインを有する液晶ディスプレイでは、サブ画素毎、プレチルトが異なるように配向膜が形成されている。従って、マルチドメインを有する液晶ディスプレイの製造において上記の光配向技術を用いる場合、サブ画素毎に光照射することになるため、サブ画素毎のマスクパターンが必要となり、更に光照射装置が大がかりとなる。
【0008】
従って、本開示の目的は、大がかりな装置を用いなくても、容易に応答特性を向上させることが可能な液晶表示装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための本開示の液晶表示装置は、
第1基板及び第2基板を備え、
第2基板と対向する第1基板の対向面に形成された第1電極、
第1電極に設けられた第1配向規制部、
第1電極、第1配向規制部及び第1基板の対向面を覆う第1配向膜、
第1基板と対向する第2基板の対向面に形成された第2電極、
第2電極に設けられた第2配向規制部、
第2電極、第2配向規制部及び第2基板の対向面を覆う第2配向膜、並びに、
第1配向膜及び第2配向膜の間に設けられ、液晶分子を含む液晶層、
を有する画素が、複数、配列されて成り、
液晶層は、更に、重合した高分子化合物(『重合高分子化合物』と呼ぶ場合がある)を含み、
液晶分子には、配向膜と接する重合した高分子化合物(重合高分子化合物)によってプレチルトが付与されている。
【0010】
上記の目的を達成するための本開示の液晶表示装置の製造方法(液晶表示素子の製造方法を含み、以下においても同様)は、
第1基板及び第2基板を備え、
第2基板と対向する第1基板の対向面に形成された第1電極、
第1電極に設けられた第1配向規制部、
第1電極、第1配向規制部及び第1基板の対向面を覆う第1配向膜、
第1基板と対向する第2基板の対向面に形成された第2電極、
第2電極に設けられた第2配向規制部、
第2電極、第2配向規制部及び第2基板の対向面を覆う第2配向膜、並びに、
第1配向膜及び第2配向膜の間に設けられ、液晶分子を含む液晶層、
を有する画素が、複数、配列されて成る液晶表示装置の製造方法であって、
第1基板に第1配向膜を形成し、第2基板に第2配向膜を形成した後、
第1基板及び第2基板を、第1配向膜と第2配向膜とが対向するように配置し、第1配向膜と第2配向膜との間に、重合し得る化合物(重合し得る低分子化合物又は重合し得る高分子化合物であり、『未重合化合物』と呼ぶ場合がある)及び液晶分子を含む液晶層を封止し、次いで、
化合物(未重合化合物)を重合させて液晶分子にプレチルトを付与する、
各工程を含む。
【0011】
本開示の液晶表示装置の製造方法にあっては、液晶層に対して所定の電場を印加することにより液晶分子を配向させつつ、エネルギー線を照射して化合物(未重合化合物)を重合させる形態とすることができるし、あるいは又、液晶層に対して所定の電場を印加することにより液晶分子を配向させつつ、加熱することで化合物(未重合化合物)を重合させる形態とすることができる。ここで、エネルギー線として、紫外線、X線、電子線を挙げることができる。
【0012】
本開示の液晶表示装置、あるいは、上記の好ましい形態を含む本開示の液晶表示装置の製造方法にあっては、各画素において、第1電極の縁部と第1配向規制部とによって囲まれた領域の射影像と、第2電極の縁部と第2配向規制部とによって囲まれた領域の射影像とが重なり合う重複領域の中心領域において、液晶層における液晶分子群の長軸は、略、同一仮想平面内に位置する形態とすることができる。ここで、第2基板の法線方向から重複領域の中心領域を眺めたとき、第2基板の法線方向に沿って重複領域の中心領域を占める液晶分子群(より具体的には、第1基板から第2基板までの微小な柱状領域を占める液晶分子群)の長軸は、略、同一仮想垂直面内に位置している。
【0013】
『重複領域の中心領域』とは、重複領域の中心と一致する中心を有し、重複領域と相似の形状であって、重複領域の面積の25%の面積を有する領域を意味する。また、『液晶層における液晶分子群の長軸は、略、一仮想平面内に位置する』とは、仮想平面と液晶分子群の長軸との成す角度が±5度以内であることを意味する。云い換えれば、液晶分子群の方位角(偏角)のバラツキが±5度以内であることを意味する。更には、画素が複数の副画素から構成される場合、画素を副画素と読み替えればよい。
【0014】
このように、各画素において、第1電極の縁部と第1配向規制部とによって囲まれた領域の射影像と、第2電極の縁部と第2配向規制部とによって囲まれた領域の射影像とが重なり合う重複領域の中心領域において、液晶層における液晶分子群の長軸が、略、同一仮想平面内に位置していることで、即ち、重複領域の中心領域において、液晶層における液晶分子群は、それらの液晶分子群の長軸が一方の電極側から他方の電極側に向かって捩れた状態(ツイストした状態)にはないので、一対の電極に電圧を印加したとき、液晶分子群の長軸の捩れ(ツイスト)が解けるのに時間が不要であり、同一面内での応答ができるため、応答特性の一層の改善を図ることができる。
【0015】
尚、仮想平面と液晶分子群の長軸との成す角度、あるいは又、液晶分子群の方位角(偏角)のバラツキの測定方法として、全反射減衰振動法(全反射減衰法とも呼ばれる)あるいは位相差測定法を挙げることができる。ここで、全反射減衰振動法とは、試料表面の吸収スペクトルを測定する方法であり、高屈折率媒質(プリズム)に試料を密着させ、プリズムから僅かに浸み出し、反射する全反射光を測定する。そして、このサンプルの方位を回転させることで、100nm付近(液晶/配向膜)の分子の吸収の情報(配向方向)を求める方法である。また、位相差測定法は、RETS100(大塚電子株式会社製)を用いて、液晶セルを所望の角度だけ傾けた状態での位相差を測定し、プレチルトが付与された状態での理想の配向状態での位相差を予め算出しておき、フィッティングをかけることでプレチルトを算出する方法である。また、このサンプルをサンプル面内で回転させることで、プレチルトの付与された方位角を求めることができる。
【0016】
上記の好ましい形態を含む本開示の液晶表示装置あるいは本開示の液晶表示装置の製造方法において、液晶分子は負の誘電率異方性を有する構成とすることができる。
【0017】
更には、上記の好ましい形態、構造を含む本開示の液晶表示装置あるいは本開示の液晶表示装置の製造方法において、高分子化合物は、更に、アクリル基、メタクリル基、ビニル基、ビニルオキシ基、プロペニルエーテル基、エポキシ基、オキセタン基及びスチリル基から成る群から選択された少なくとも1種類の基を含む高分子化合物から成る形態とすることができ、あるいは又、高分子化合物(重合高分子化合物)は、メソゲン基を含む高分子化合物から成る形態とすることができる。
【0018】
ここで、未重合化合物の一般式を示すと以下のとおりである。
【0019】
1−S1−P1−(S2−P2n−S3−A2 (1)
【0020】
基A1及び基A2は、同じ又は異なる重合性官能基である。具体的には、例えば、ラジカル基;イオン重合、重付加、重縮合等の重合反応に適する基;例えば、ポリマー主鎖への付加あるいは縮合といった、ポリマー類似反応に適する基であり、好ましくは、連鎖重合のための基、特に、C=C二重結合あるいはC≡C三重結合を含有する基、例えば、オキセタン基あるいはエポキシド基等の開環重合に適する基を挙げることができる。
【0021】
より具体的には、基A1あるいはA2として、

CH2=CX1−COO−
CH2=CX1−CO−
CH2=CX2−(O)n
CX1=CH−CO−(O)n
CX1=CH−CO−NH−
CH2=CX1−CO−NH−
CH3−CH=CH−O−
(CH2=CH)2CH−OCO−
(CH2=CH−CH22CH−OCO−
(CH2=CH)2CH−O−
(CH2=CH−CH22N−
(CH2=CH−CH22N−CO−
HO−CX23
HS−CX23
HX2N−
HO−CX23−NH−
CH2=CH−(COO)n−Ph−(O)n
CH2=CH−(CO)n−Ph−(O)n
Ph−CH=CH−
HOOC−
OCN−、及び、
456Si−
から成る群から選択された基を挙げることができる。
【0022】
そして、
1:H、F、Cl、CN、CF3、フェニル基、又は、炭素原子数1〜5を有するアルキル基を表し、特に好ましくは、H、F、Cl、又は、メチル基を表す。
2及びX3:それぞれ互いに独立に、H、又は、炭素原子数1〜5を有するアルキル基を表し、特に好ましくは、H、メチル基、エチル基、又は、n−プロピル基を表す。
4、X5及びX6:それぞれ互いに独立に、Cl、炭素原子数1〜5を有するオキサアルキル基、又は、炭素原子数1〜5を有するオキサカルボニルアルキル基を表す。
7及びX8:それぞれ互いに独立に、H、Cl、又は、炭素原子数1〜5を有するアルキル基を表す。
Ph:F、Cl、CN、又は、直鎖状若しくは分岐状で炭素原子数1〜12を有し、単フッ素化若しくは多フッ素化されていてもよいアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基又はアルコキシカルボニルオキシ基によって1箇所以上置換されていてもよい、フェニル環を表す。
n:0又は1を表す。
【0023】
基S1及び基S3は、それぞれスペーサーを表し、基S1、S3は、上記の式(1)における基A−S−における「S」が式S’−X’−に対応するように、式S’−X’から選択される。ここで、
S’:炭素原子数1〜20、好ましくは1〜12を有するアルキレン基を表すが、F、Cl、Br、I又はCNで単置換又は多置換されていてもよい。また、これに加えて、1つ以上の隣接していない−CH2−が、O原子及び/又はS原子が互いに直接連結せず、それぞれ互いに独立に、−O−、−S−、−NH−、−NR0−、−SiR12−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCO−O−、−S−CO−、−CO−S−、−NR2−CO−O−、−O−CO−NR2−、−NR2−CO−NR2−、−CH=CH−、又は、−C≡C−で置き換えられていてもよい。
X’:−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−O−COO−、−CO−NR2−、−NR2−CO−、−NR2−CO−NR2−、−OCH2−、−CH2O−、−SCH2−、−CH2S−、−CF2O−、−OCF2−、−CF2S−、−SCF2−、−CF2CH2−、−CH2CF2−、−CF2CF2−、−CH=N−、−N=CH−、−N=N−、−CH=CR0−、−CY2=CY3−、−C≡C−、−CH=CH−COO−、−OCO−CH=CH−、又は、単結合を表す。
【0024】
ここで、
0、R1及びR2:それぞれ互いに独立に、H、又は、炭素原子数1〜12を有するアルキル基を表す。
2及びY3:それぞれ互いに独立に、H、F、Cl、又は、CNを表す。
【0025】
基S2もスペーサーを表し、それぞれの出現において同一又は異なって、−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−OCO−、−O−CO−O−、−OCH2−、−CH2O−、−SCH2−、−CH2S−、−CF2O−、−OCF2−、−CF2S−、−SCF2−、−(CH2n1−、−CF2CH2−、−CH2CF2−、−(CF2n1−、−CH=CH−、−CF=CF−、−C≡C−、−CH=CH−COO−、−OCO−CH=CH−、CR12、又は、単結合を表し、R1及びR2は、それぞれ互いに独立に、H、又は、炭素原子数1〜12個を有するアルキル基を表し、n1は、1、2、3又は4を表す。
【0026】
基P1及び基P2は、それぞれ互いに独立に、好ましくは、4〜25個の環原子を有する芳香族、ヘテロ芳香族、脂環式又はヘテロ環式基を表し、縮合環を含有していてもよく、基A−S−、H、OH、CH2OH、ハロゲン、SF5、NO2、炭素基又は炭化水素基で単置換又は多置換されていてもよい。そして、より好ましくは、基P1及び基P2は、
1,4−フェニレン(1つ以上の−CH−はNで置き換えられていてもよい)
ナフタレン−1,4−ジイル(1つ以上の−CH−はNで置き換えられていてもよい)
ナフタレン−2,6−ジイル(1つ以上の−CH−はNで置き換えられていてもよい)
フェナントレン−2,7−ジイル(1つ以上の−CH−はNで置き換えられていてもよい)
アントラセン−2,7−ジイル(1つ以上の−CH−はNで置き換えられていてもよい)
フルオレン−2,7−ジイル(1つ以上の−CH−はNで置き換えられていてもよい)
クマリン(1つ以上の−CH−はNで置き換えられていてもよい)
フラボン(1つ以上の−CH−はNで置き換えられていてもよい)
シクロヘキサン−1,4−ジイル(1つ以上の隣接していない−CH2−はO及び/又はSで置き換えられていてもよい)
1,4−シクロヘキセニレン
ビシクロ[1.1.1]ペンタン−1,3−ジイル
ビシクロ[2.2.2]オクタン−1,4−ジイル
スピロ[3.3]ヘプタン−2,6−ジイル
ピペリジン−1,4−ジイル
デカヒドロナフタレン−2,6−ジイル
1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル
インダン−2,5−ジイル、又は、
オクタヒドロ−4,7−メタノインダン−2,5−ジイル
を表す(但し、これら全ての基は無置換であっても、以下に記載する置換基によって単置換又は多置換されていてもよく、ここで、係る置換基として、基A、基A−S−、OH、CH2OH、F、Cl、Br、I、−CN、−NO2、−NCO、−NCS、−OCN、−SCN、−C(=O)N(Rx2、−C(=O)Y1、−C(=O)Rx、−N(Rx2、置換されていてもよいシリル基、置換されていてもよく、炭素原子数6〜20を有するアリール基、又は、直鎖状又は分岐状で炭素原子数1〜25を有するアルキル基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基又はアルコキシカルボニルオキシ基を挙げることができる。但し、加えて、1つ以上のH原子は、F、Cl、P、又は、基A−S−で置き換えられていてもよい。尚、
基A及び基S:基A1及び基A2、基S1、基S2、基S3を参照。
1:ハロゲンを表す。
x:基A、基A−S−、H、ハロゲン、又は、直鎖状、分岐状若しくは環状で炭素原子数1〜25を有するアルキル基(但し、加えて、1つ以上の隣接していない−CH2−は、O及び/又はS原子が互いに直接結合しないようにして−O−、−S−、−CO−、−COO−、−O−CO−、−O−CO−O−で置き換えられていてもよいし、あるいは又、加えて、1つ以上のH原子は、F、Cl、P、又は、基A−S−で置き換えられていてもよい)、置換されていてもよい炭素原子数6〜40を有するアリール基又はアリールオキシ基、又は、置換されていてもよい炭素原子数2〜40を有するヘテロアリール基又はヘテロアリールオキシ基を表す。
【0027】
具体的には、未重合化合物として、以下に示す化合物を例示することができる。



【0028】
第1配向膜及び第2配向膜を構成する材料は、周知の垂直配向膜を形成するための材料から適宜選択すればよい。
【0029】
以上の説明した好ましい形態、構成を含む本開示の液晶表示装置あるいは本開示の液晶表示装置の製造方法(以下、これらを総称して、単に、『本開示』と呼ぶ場合がある)において、第1配向膜及び第2配向膜の表面粗さRaは1nm以下である構成とすることができる。ここで、表面粗さRaは、JIS B 0601:2001に規定されている。
【0030】
また、本開示において、
第1配向規制部は、第1電極に形成された第1スリット部から成り、
第2配向規制部は、第2電極に形成された第2スリット部から成り、
第1スリット部及び第2スリット部の幅は、2μm以上10μm未満であり、
第1スリット部及び第2スリット部のピッチは、10μm乃至180μm、好ましくは30μm乃至180μm、より好ましくは60μm乃至180μmである構成とすることができる。
【0031】
一対の基板は、画素電極を有する基板、及び、対向電極を有する基板から構成されている。即ち、第1基板を画素電極を有する基板とし、第2基板を対向電極を有する基板とする形態、あるいは又、第2基板を画素電極を有する基板とし、第1基板を対向電極を有する基板とする形態とすることができる。ここで、画素電極を有する基板側からエネルギー線を照射することが好ましい。一般に、対向電極を有する基板側にはカラーフィルタが形成されており、このカラーフィルタによってエネルギー線が吸収され、化合物(未重合化合物)の重合が生じ難くなる可能性があるが故に、カラーフィルタが形成されていない画素電極を有する基板側からエネルギー線を照射することが好ましい。尚、画素電極を有する基板側にカラーフィルタが形成されている場合、対向電極を有する基板側からエネルギー線を照射すればよい。
【0032】
高分子化合物(重合高分子化合物)は、一対の基板に対して、即ち、第1基板のみならず第2基板に対しても、液晶分子を所定の方向に配列させるが、第1配向膜近傍の液晶分子に付与される第1プレチルト角θ1と第2配向膜近傍の液晶分子に付与される第2プレチルト角θ2とは、同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。基本的に、プレチルトが付与されるときの液晶分子の方位角(偏角)は、電場の強さ及び方向、並びに、第1配向規制部及び第2配向規制部の構成、構造によって規定され、極角(天頂角)は、電場の強さによって規定される。第1プレチルト角θ1と第2プレチルト角θ2とを異なる値とするためには、例えば、第1配向規制部と第2配向規制部との構成、構造を相違させればよい。
【発明の効果】
【0033】
本開示の液晶表示装置あるいはその製造方法において、液晶分子には、配向膜と接する重合した高分子化合物(重合高分子化合物)によってプレチルトが付与されており、あるいは又、化合物(未重合化合物)を重合させて液晶分子にプレチルトを付与する。そして、このように、液晶分子が配列した状態で化合物を重合させるので、液晶層を封止する前に配向膜に対して直線偏光の光や斜め方向の光を照射しなくても、また、大がかりな装置を用いなくても、液晶分子に対してプレチルトを付与することができる。しかも、第1配向規制部及び第2配向規制部が第1電極及び第2電極に形成されているので、画素電極と対向電極との間に電界が印加されると、液晶分子は、その長軸方向が基板面に対して所定の方向に応答し、応答速度の向上を図ることができ、良好な表示特性を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、本開示の液晶表示装置の模式的な一部断面図である。
【図2】図2の(A)は、1つの画素を上方から眺めたときの第1電極及び第1スリット部、並びに、第2電極及び第2スリット部の模式図であり、図2の(B)は、1つの画素を上方から眺めたときの第2電極及び第2スリット部の模式図である。
【図3】図3の(A)は、1つの画素を上方から眺めたときの第1電極及び第1スリット部、並びに、第2電極及び第2スリット部の変形例の模式図であり、図3の(B)は、1つの画素を上方から眺めたときの第2電極及び第2スリット部の変形例の模式図である。
【図4】図4の(A)は、1つの画素を上方から眺めたときの第1電極及び第1スリット部、並びに、第2電極及び第2スリット部の別の変形例の模式図であり、図4の(B)は、1つの画素を上方から眺めたときの第2電極及び第2スリット部の別の変形例の模式図である。
【図5】図5の(A)及び(B)は、液晶分子群の長軸の捩れ(ツイスト)の状態を模式的に示す図である。
【図6】図6は、液晶分子のプレチルトを説明するための模式図である。
【図7】図7は、図1に示した液晶表示装置の製造方法を説明するための基板等の模式的な一部断面図である。
【図8】図8は、図7に続く工程を説明するための基板等の模式的な一部断面図である。
【図9】図9は、図8に続く工程を説明するための基板等の模式的な一部断面図である。
【図10】図10は、図1に示した液晶表示装置の回路構成図である。
【図11】図11は、オーダーパラメータを説明するための断面模式図である。
【図12】図12は、比較例1の液晶表示装置における第1電極の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して、発明の実施の形態、実施例に基づき本開示を説明するが、本開示は発明の実施の形態、実施例に限定されるものではなく、発明の実施の形態、実施例における種々の数値や材料は例示である。尚、説明は、以下の順序で行う。
1.[本開示の液晶表示装置における共通の構成、構造に関する説明]
2.[発明の実施の形態に基づく、本開示の液晶表示装置及びその製造方法の説明]
3.[実施例に基づく、本開示の液晶表示装置及びその製造方法の説明、その他]
【0036】
[本開示の液晶表示装置(液晶表示素子)における共通の構成、構造に関する説明]
本開示の液晶表示装置(あるいは液晶表示素子)の模式的な一部断面図を、図1に示す。この液晶表示装置は、複数の画素10(10A,10B,10C・・・)を有している。そして、この液晶表示装置(液晶表示素子)においては、TFT(Thin Film Transistor;薄膜トランジスタ)基板20とCF(Color Filter;カラーフィルタ)基板30との間に、配向膜22,32を介して液晶分子41を含む液晶層40が設けられている。この液晶表示装置(液晶表示素子)は、所謂透過型であり、表示モードは垂直配向(VA)モードである。図1では、駆動電圧が印加されていない非駆動状態を表している。尚、画素10は、実際には、例えば、赤色の画像を表示する副画素、緑色の画像を表示する副画素、青色の画像を表示する副画素等の副画素から構成されている。
【0037】
ここで、TFT基板20が第1基板に相当し、CF基板30が第2基板に相当する。また、第1基板(TFT基板)20に設けられた画素電極20B及び配向膜22が、第1電極及び第1配向膜に相当し、第2基板(CF基板)30に設けられた対向電極30B及び配向膜32が、第2電極及び第2配向膜に相当する。
【0038】
即ち、この液晶表示装置は、
第1基板(TFT基板)20及び第2基板(CF基板)30を備え、
第2基板30と対向する第1基板20の対向面に形成された第1電極(画素電極)20B、
第1電極(画素電極)20Bに設けられた第1配向規制部21、
第1電極(画素電極)20B、第1配向規制部21及び第1基板(TFT基板)20の対向面を覆う第1配向膜22、
第1基板(TFT基板)20と対向する第2基板(CF基板)30の対向面に形成された第2電極(対向電極)30B、
第2電極(対向電極)30Bに設けられた第2配向規制部31、
第2電極(対向電極)30B、第2配向規制部31及び第2基板(CF基板)30の対向面を覆う第2配向膜32、並びに、
第1配向膜22及び第2配向膜32の間に設けられ、液晶分子41を含む液晶層40、
を有する画素10が、複数、配列されて成る。
【0039】
ガラス基板から成るTFT基板20には、ガラス基板から成るCF基板30と対向する側の表面に、例えば、マトリクス状に複数の画素電極20Bが配置されている。更に、複数の画素電極20Bをそれぞれ駆動するゲート・ソース・ドレイン等を備えたTFTスイッチング素子や、これらTFTスイッチング素子に接続されるゲート線及びソース線等(図示せず)が設けられている。画素電極20Bは、画素分離部52によって電気的に分離された画素毎に設けられ、例えばITO(インジウム錫酸化物)等の透明性を有する材料により構成されている。画素電極20Bには、各画素内において、例えば、ストライプ状やV字状のパターンを有する第1スリット部21(電極の形成されない部分)が設けられている。これにより、駆動電圧が印加されると、液晶分子41の長軸方向に対して斜めの電場が付与され、画素内に配向方向の異なる領域が形成されるため(配向分割)、視野角特性が向上する。即ち、第1スリット部21は、良好な表示特性を確保するために、液晶層40中の液晶分子41全体の配向を規制するための第1配向規制部であり、ここでは、この第1スリット部21によって駆動電圧印加時の液晶分子41の配向方向を規制している。上述したとおり、基本的に、プレチルトが付与されたときの液晶分子の方位角は、電場の強さ及び方向、並びに、第1配向規制部21及び第2配向規制部31の構成、構造によって規定され、電場の方向は配向規制部によって決定される。
【0040】
CF基板30には、TFT基板20との対向面に、有効表示領域のほぼ全面に亙って、例えば、赤(R)、緑(G)、青(B)のストライプ状フィルタにより構成されたカラーフィルタ(図示せず)と、対向電極30Bとが配置されている。対向電極30Bは、画素電極20Bと同様に、例えばITO等の透明性を有する材料により構成されている。対向電極30Bには、各画素内において、例えば、ストライプ状やV字状のパターンを有する第2スリット部31(電極の形成されない部分)が設けられている。これによっても、駆動電圧が印加されると、液晶分子41の長軸方向に対して斜めの電場が付与され、画素内に配向方向の異なる領域が形成されるため(配向分割)、視野角特性が向上する。即ち、第2スリット部31は、良好な表示特性を確保するために、液晶層40中の液晶分子41全体の配向を規制するための第2配向規制部であり、ここでは、この第2スリット部31によっても駆動電圧印加時の液晶分子41の配向方向を規制している。
【0041】
第2スリット部31は、第1スリット部21と基板間で対向しないように配置されている。より具体的には、複数の第1スリット部21は互いに平行に設けられており、複数の第2スリット部31も互いに平行に設けられている。また、1つの画素において、互いに直交する2つの方向に複数の第1スリット部21は延びており、同様に、互いに直交する2つの方向に複数の第2スリット部31は延びている。そして、第1スリット部21は、これらの第1スリット部21に対向する第2スリット部31と平行に設けられており、第1スリット部21の射影像は、2つの第2スリット部31の対称線の射影像上に位置し、第2スリット部31の射影像は、2つの第1スリット部21の対称線の射影像上に位置する。1つの画素(副画素)を上方から眺めたときの第1電極(画素電極)20B及び第1スリット部21、並びに、第2電極(対向電極)30B及び第2スリット部31の配置図を図2の(A)に示し、第2電極(対向電極)30B及び第2スリット部31の配置図を図2の(B)に示す。また、第1スリット部21及び第2スリット部31の外形形状の変形例を図3の(A)及び(B)、並びに、図4の(A)及び(B)に示す。尚、図2の(A)、図3の(A)、図4の(A)においては、第1電極(画素電極)20Bの縁部と第1配向規制部(第1スリット部21)を実線で示し、これらの上方に位置する第2配向規制部(第2スリット部31)を点線で示した。また、第1電極(画素電極)20Bの縁部と第1配向規制部(第1スリット部21)とによって囲まれた領域の射影像と、第2電極(対向電極)30Bの縁部と第2配向規制部(第2スリット部31)とによって囲まれた領域の射影像とが重なり合う重複領域50に斜線を付し、更には、中心領域51を一点鎖線で囲み、且つ、斜線を付した。重複領域50及び中心領域51は、便宜上、1箇所のみを図示した。また、図2の(B)、図3の(B)、図4の(B)においては、画素における第2電極(対向電極)30Bの縁部を点線で示し、第2配向規制部(第2スリット部31)を実線で示した。尚、第1配向規制部(第1スリット部21)の形状を第2配向規制部(第2スリット部31)の形状と置き換え、第2配向規制部(第2スリット部31)の形状を第1配向規制部(第1スリット部21)の形状と置き換えてもよい。
【0042】
第1配向膜22は、TFT基板20の液晶層40側の表面に画素電極20B及び第1スリット部21を覆うように設けられている。第2配向膜32は、CF基板30の液晶層40側の表面に対向電極30Bを覆うように設けられている。配向膜22,32は、液晶分子41の初期の配向状態を規制するものであり、液晶分子41を基板面に対して垂直方向に配向させると共に、液晶層に含まれる化合物(未重合化合物)を重合させる以前において、基板近傍の液晶分子41(41A,41B)を基板面に対して垂直方向に配向させる機能を有している。
【0043】
ここで、具体的には、第1スリット部21及び第2スリット部31の幅は、それぞれ、5μm及び5μmであり、第1スリット部21及び第2スリット部31のピッチは、それぞれ、113μm及び113μmである。
【0044】
そして、各画素(副画素)において、第1電極(画素電極)20Bの縁部と第1配向規制部(第1スリット部21)とによって囲まれた領域の射影像と、第2電極(対向電極)30Bの縁部と第2配向規制部(第2スリット部31)とによって囲まれた領域の射影像とが重なり合う重複領域50の中心領域51において、液晶層40における液晶分子群の長軸は、略、同一仮想平面内に位置している。即ち、液晶層40における液晶分子群の方位角(偏角)のバラツキが±5度以内である。
【0045】
図10は、図1に示した液晶表示装置の回路構成を表している。
【0046】
図10に示すように、液晶表示装置は、表示領域60内に設けられた複数の画素10を有する液晶表示素子を含んで構成されている。この液晶表示装置では、表示領域60の周囲には、ソースドライバ61及びゲートドライバ62と、ソースドライバ61及びゲートドライバ62を制御するタイミングコントローラ63と、ソースドライバ61及びゲートドライバ62に電力を供給する電源回路64とが設けられている。
【0047】
表示領域60は、映像が表示される領域であり、複数の画素10がマトリックス状に配列されることにより映像を表示可能に構成された領域である。尚、図10では、複数の画素10を含む表示領域60を示しているほか、4つの画素10に対応する領域を別途拡大して示している。
【0048】
表示領域60では、行方向に複数のソース線71が配列されていると共に、列方向に複数のゲート線72が配列されており、ソース線71及びゲート線72が互いに交差する位置に画素10がそれぞれ配置されている。各画素10は、画素電極20B及び液晶層40と共に、トランジスタ121及びキャパシタ122を含んで構成されている。各トランジスタ121では、ソース電極がソース線71に接続され、ゲート電極がゲート線72に接続され、ドレイン電極がキャパシタ122及び画素電極20Bに接続されている。各ソース線71は、ソースドライバ61に接続されており、ソースドライバ61から画像信号が供給される。各ゲート線72は、ゲートドライバ62に接続されており、ゲートドライバ62から走査信号が順次供給される。
【0049】
ソースドライバ61及びゲートドライバ62は、複数の画素10の中から特定の画素10を選択する。
【0050】
タイミングコントローラ63は、例えば、画像信号(例えば、赤、緑、青に対応するRGBの各映像信号)と、ソースドライバ61の動作を制御するためのソースドライバ制御信号とを、ソースドライバ61に出力する。また、タイミングコントローラ63は、例えば、ゲートドライバ62の動作を制御するためのゲートドライバ制御信号をゲートドライバ62に出力する。ソースドライバ制御信号として、例えば、水平同期信号、スタートパルス信号あるいはソースドライバ用のクロック信号等が挙げられる。ゲートドライバ制御信号として、例えば、垂直同期信号や、ゲートドライバ用のクロック信号等が挙げられる。
【0051】
この液晶表示装置では、以下の要領で第1電極(画素電極)20Bと第2電極(対向電極)30Bとの間に駆動電圧を印加することにより、映像が表示される。具体的には、ソースドライバ61が、タイミングコントローラ63からのソースドライバ制御信号の入力により、同じくタイミングコントローラ63から入力された画像信号に基づいて所定のソース線71に個別の画像信号を供給する。これと共に、ゲートドライバ62が、タイミングコントローラ63からのゲートドライバ制御信号の入力により所定のタイミングでゲート線72に走査信号を順次供給する。これにより、画像信号が供給されたソース線71と走査信号が供給されたゲート線72との交差点に位置する画素10が選択され、画素10に駆動電圧が印加される。
【0052】
以下、発明の実施の形態(『実施の形態』と略称する)及び実施例に基づき、本開示を説明する。
【0053】
[実施の形態1]
実施の形態1は、本開示のVAモードの液晶表示装置(あるいは液晶表示素子)、並びに、本開示の液晶表示装置(あるいは液晶表示素子)の製造方法に関する。実施の形態1において、液晶層40は、液晶分子41を含み、更に、重合した高分子化合物(重合高分子化合物)を含んでいる。そして、液晶分子41には、配向膜22,32と接する重合した高分子化合物(重合高分子化合物)によってプレチルトが付与されている。ここで、第1基板20に第1配向膜22を形成し、第2基板30に第2配向膜32を形成した後、第1基板20及び第2基板30を、第1配向膜22と第2配向膜32とが対向するように配置し、第1配向膜22と第2配向膜32との間に、重合し得る化合物(重合し得る低分子化合物又は重合し得る高分子化合物であり、未重合化合物)及び液晶分子41を含む液晶層40を封止し、次いで、化合物(未重合化合物)を重合させて液晶分子41にプレチルトを付与する。より具体的には、液晶層に対して所定の電場又は磁場を印加することにより液晶分子を配向させつつ、エネルギー線(具体的には、例えば紫外線)を照射して化合物(未重合化合物)を重合させる。その結果、液晶分子41を一対の基板(具体的には、TFT基板20及びCF基板30)に対して所定の方向(具体的には、斜め方向)に配列させることができる。そして、このように、配向膜22,32近傍の液晶分子41に対してプレチルトを付与できるため、しかも、第1配向規制部21及び第2配向規制部31が第1電極20B及び第2電極30Bに形成されているので、応答速度が早くなり、表示特性が向上する。
【0054】
加えて、重複領域50の中心領域51において、液晶層40における液晶分子群はツイストした状態にはない。それ故、一対の電極20B,30Bに電圧を印加したとき、液晶分子群の長軸の捩れ(ツイスト)が解けるのに時間が不要であり、応答特性の一層の改善が図ることができる。
【0055】
液晶層40は、負の誘電率異方性を有する液晶分子41を含んでいる。液晶分子41は、例えば、互いに直交する長軸及び短軸をそれぞれ中心軸として回転対称な形状をなし、負の誘電率異方性を有している。
【0056】
液晶分子41は、第1配向膜22との界面近傍において、第1配向膜22に保持された液晶分子41Aと、第2配向膜32との界面近傍において第2配向膜32に保持された液晶分子41Bと、それら以外の液晶分子41Cとに分類することができる。液晶分子41Cは、液晶層40の厚み方向における中間領域に位置し、駆動電圧がオフの状態において液晶分子41Cの長軸方向(ダイレクタ)が第1基板20及び第2基板30に対してほぼ垂直になるように配列されている。ここで、駆動電圧がオンになると、液晶分子41Cのダイレクタが第1基板20及び第2基板30に対して平行になるように傾いて配向する。このような挙動は、液晶分子41Cにおいて、長軸方向の誘電率が短軸方向よりも小さいという性質を有することに起因している。液晶分子41A,41Bも同様の性質を有することから、駆動電圧のオン・オフの状態変化に応じて、基本的には、液晶分子41Cと同様の挙動を示す。但し、駆動電圧がオフの状態において、液晶分子41Aは重合高分子化合物によって第1プレチルト角θ1が付与され、そのダイレクタが第1基板20及び第2基板30の法線方向から傾斜した姿勢となる。同様に、液晶分子41Bも重合高分子化合物によって第2プレチルト角θ2が付与され、そのダイレクタが第1基板20及び第2基板30の法線方向から傾斜した姿勢となる。尚、ここで、「保持される」とは、配向膜22,32と液晶分子41A,41Cとが固着せずに、液晶分子41の配向を規制していることを表している。また、「プレチルト角θ(θ1,θ2)」とは、図6に示すように、第1基板20及び第2基板30の表面に垂直な方向(法線方向)をZとした場合に、駆動電圧がオフの状態で、Z方向に対する液晶分子41(41A,41B)のダイレクタDの傾斜角度を指す。
【0057】
液晶層40では、プレチルト角θ1,θ2の双方が0°よりも大きな値を有している。この液晶層40では、プレチルト角θ1,θ2は、同じ角度(θ1=θ2)であってもよいし、異なる角度(θ1≠θ2)であってもよいが、中でも、プレチルト角θ1,θ2は、異なる角度であることが好ましい。これにより、プレチルト角θ1,θ2の双方が0°である場合よりも駆動電圧の印加に対する応答速度が向上すると共に、プレチルト角θ1,θ2の双方が0°である場合とほぼ同等のコントラストを得ることができる。よって、応答特性を向上させつつ、黒表示の際の光の透過量を低減することができ、コントラストを向上させることができる。プレチルト角θ1,θ2を異なる角度とする場合、プレチルト角θ1,θ2のうちの大きい方のプレチルト角θは、1°以上、4°以下であることがより望ましい。大きい方のプレチルト角θを上記した範囲内にすることにより、特に、高い効果が得られる。
【0058】
次に、上記の液晶表示装置(液晶表示素子)の製造方法について、図7、図8及び図9に表した液晶表示装置等の模式的な一部断面図を参照して説明する。尚、図7、図8及び図9では、簡略化のため、一画素分についてのみ示す。
【0059】
最初に、第1基板(TFT基板)20の表面に第1配向膜22を形成すると共に、第2基板(CF基板)30の表面に第2配向膜32を形成する。
【0060】
具体的には、先ず、第1基板20の表面に、所定の第1スリット部21を有する画素電極20Bを例えばマトリクス状に設けることによりTFT基板20を作製する。また、カラーフィルタが形成された第2基板30のカラーフィルタ上に、所定の第2スリット部31を有する対向電極30Bを設けることによりCF基板30を作製する。
【0061】
そして、配向膜材料を、TFT基板20及びCF基板30のそれぞれに、画素電極20B及び第1スリット部21、並びに、対向電極30B及び第2スリット部31を覆うように塗布あるいは印刷した後、加熱処理をする。加熱処理の温度は、使用する配向膜材料に依り、適宜、最適な温度条件とすればよい。その後、必要に応じて、ラビング等の処理を施してもよい。こうして、垂直配向膜である第1配向膜22及び第2配向膜32を得ることができる。
【0062】
次に、TFT基板20とCF基板30とを配向膜22と配向膜32とが対向するように配置し、配向膜22と配向膜32との間に、液晶分子41を含む液晶層40を封止する。具体的には、TFT基板20あるいはCF基板30のどちらか一方の、配向膜22,32の形成されている面に対して、セルギャップを確保するためのスペーサ突起物、例えば、プラスチックビーズ等を散布すると共に、例えば、スクリーン印刷法によりエポキシ接着剤等を用いてシール部を印刷する。その後、図7に示すように、TFT基板20とCF基板30とを、配向膜22,32が対向するように、スペーサ突起物及びシール部を介して貼り合わせ、液晶分子41を含む液晶材料を注入する。次いで、加熱するなどしてシール部の硬化を行うことにより、液晶材料をTFT基板20とCF基板30との間に封止する。図7は、配向膜22及び配向膜32の間に封止された液晶層40の断面構成を表している。
【0063】
次に、図8に示すように、画素電極20Bと対向電極30Bとの間に、電圧印加手段を用いて、電圧V1を印加する。電圧V1は、例えば、3ボルト〜30ボルトである。これにより、第1基板20及び第2基板30の表面に対して所定の角度をなす方向の電場(電界)が生じ、液晶分子41が、第1基板20及び第2基板30の垂直方向から所定方向に傾いて配向する。即ち、このときの液晶分子41の方位角(偏角)は、電場の強さ及び方向、並びに、第1スリット部21及び第2スリット部31の構成、構造によって規定され、極角(天頂角)は、電場の強さ、並びに、第1スリット部21及び第2スリット部31の構成、構造によって規定される。そして、第1配向膜22との界面近傍において第1配向膜22に保持された液晶分子41A及び第2配向膜32との界面近傍において第2配向膜32に保持された液晶分子41Bに付与されるプレチルト角θ1,θ2は、概ね等しくなる。従って、電圧V1の値を適宜調節することにより、液晶分子41A,41Bのプレチルト角θ1,θ2の値を制御することが可能である。
【0064】
更に、図9に示すように、電圧V1を印加した状態のまま、エネルギー線(具体的には紫外線)を、例えば、TFT基板20の外側から液晶層40に対して照射する。即ち、液晶分子41を一対の基板20,30の表面に対して斜め方向に配列させるように、液晶層に対して電場又は磁場を印加しながら紫外線を照射する。これによって、液晶層40に含まれる化合物(未重合化合物)が重合し、液晶分子41にプレチルトが付与される。こうして、重合高分子化合物により液晶分子41の応答すべき方向が記憶され、配向膜22,32近傍の液晶分子41にプレチルトが付与される。そして、その結果、非駆動状態において、液晶層40における配向膜22,32との界面近傍に位置する液晶分子41A,41Bに、重合高分子化合物によってプレチルト角θ1,θ2が付与される。紫外線として、波長295nmから波長365nm程度程度の光成分を多く含む紫外線が好ましい。これよりも短波長域の光成分を多く含む紫外線を用いると、液晶分子41が光分解し、劣化する虞があるからである。尚、ここでは、紫外線をTFT基板20の外側から照射したが、CF基板30の外側から照射してもよく、TFT基板20及びCF基板30の双方の基板の外側から照射してもよい。この場合、透過率が高い方の基板側から紫外線を照射することが好ましい。また、CF基板30の外側から紫外線を照射した場合、紫外線の波長域に依っては、カラーフィルタに吸収されて重合反応し難くなる虞がある。このため、TFT基板20の外側(画素電極を有する基板側)から照射することが好ましい。
【0065】
また、液晶層40に含まれる化合物(未重合化合物)が十分に重合し、未重合の化合物が出来る限り残存しないように、エネルギー線(具体的には、紫外線)の照射時間を十分に長く設定することが望ましい。具体的には、液晶層40に含まれる化合物(未重合化合物)への紫外線照射量として1ジュール乃至20ジュール、好ましくは5ジュール乃至10ジュールを例示することができる。紫外線照射量が多すぎると、液晶層や他の有機物に損傷が生じる虞がある。
【0066】
以上の工程により、図1に示した液晶表示装置(液晶表示素子)を完成させることができる。
【0067】
液晶表示装置(液晶表示素子)の動作において、選択された画素10では、駆動電圧が印加されると、液晶層40に含まれる液晶分子41の配向状態が、画素電極20Bと対向電極30Bとの間の電位差に応じて変化する。具体的には、液晶層40では、図1に示した駆動電圧の印加前の状態から、駆動電圧が印加されることにより、配向膜22、23の近傍に位置する液晶分子41A、41Bが自らの傾き方向に倒れ、且つ、その動作がその他の液晶分子41Cに伝播する。その結果、液晶分子41は、TFT基板20及びCF基板30に対してほぼ水平(平行)となる姿勢をとるように応答する。これにより、液晶層40の光学的特性が変化し、液晶表示素子への入射光が変調された出射光となり、この出射光に基づいて階調表現されることで、映像が表示される。
【0068】
ここで、プレチルト処理が全く施されていない液晶表示素子及びそれを備えた液晶表示装置では、液晶分子の配向を規制するためのスリット部等の配向規制部が基板に設けられていても、駆動電圧が印加されると、配向規制部から離れた領域では、基板に対して垂直方向に配向していた液晶分子は、そのダイレクタが基板の面内方向において任意の方位を向くように倒れる。このように駆動電圧に応答した液晶分子では、各液晶分子のダイレクタの方位がぶれた状態となり、全体としての配向に乱れが生じる。これにより、応答速度が遅くなり、応答特性が劣化し、その結果、表示特性を悪化させるという問題がある。また、初期の駆動電圧を表示状態の駆動電圧よりも高く設定して駆動(オーバードライブ駆動)させると、初期駆動電圧印加時において、応答した液晶分子と、殆ど応答していない液晶分子とが存在し、それらの間でダイレクタの傾きに大きな差が生じる。その後に表示状態の駆動電圧が印加されると、初期駆動電圧印加時に応答した液晶分子は、その動作が他の液晶分子に対して殆ど伝播しないうちに、表示状態の駆動電圧に応じたダイレクタの傾きとなり、この傾きが他の液晶分子に伝播する。その結果、画素全体として、初期駆動電圧印加時に表示状態の輝度に達するが、その後、輝度が低下し、再度、表示状態の輝度に達する。即ち、オーバードライブ駆動すれば、オーバードライブ駆動しない場合よりも見かけの応答速度は早くなるが、十分な表示品位が得られ難いという問題がある。尚、これらの問題は、IPSモードやFFSモードの液晶表示素子では生じ難く、VAモードの液晶表示素子において特有の問題と考えられる。
【0069】
これに対して、実施の形態1の液晶表示装置(液晶表示素子)及びその製造方法では、上記した重合高分子化合物が液晶分子41A,41Bに対して所定のプレチルト角θ1,θ2を付与する。これにより、プレチルト処理が全く施されていない場合の問題が生じ難くなり、駆動電圧に対する応答速度が大幅に向上し、オーバードライブ駆動時における表示品位も向上する。その上、TFT基板20及びCF基板30には、液晶分子41の配向を規制するための配向規制部として第1スリット部21及び第2スリット部31が設けられているので、視野角特性等の表示特性が確保されるため、良好な表示特性を維持した状態で応答特性が向上し、応答速度が大幅に向上する。しかも、重複領域50の中心領域51において、液晶層40における液晶分子群はツイストした状態にはない。それ故、一対の電極20B,30Bに電圧を印加したとき、液晶分子群の長軸の捩れ(ツイスト)が解けるのに時間が不要であり、応答特性の一層の改善が図ることができる。尚、液晶分子群の長軸の捩れ(ツイスト)の状態を図5の(A)及び(B)に模式的に示す。ここで、図5の(A)及び(B)の最上段に示す液晶分子41Bは、第2基板の近傍に位置する液晶分子を示し、図5の(A)及び(B)の最下段に示す液晶分子41Aは、第1基板の近傍に位置する液晶分子を示し、図5の(A)及び(B)の中段に示す液晶分子41Cは、第1基板と第2基板の中間に位置する液晶分子を示す。また、液晶分子を横切る点線は液晶分子の長軸を示す。図5の(A)に示す状態にあっては、液晶層40における液晶分子群はツイストした状態にはない。一方、図5の(B)に示す状態にあっては、液晶層40における液晶分子群はツイストした状態にある。
【0070】
また、従来の液晶表示装置の製造方法(光配向技術)では、配向膜は、基板面上に設けられた所定の高分子材料を含む前駆体膜に対して直線偏光の光や基板面に対する斜め方向の光(以下、『斜め光』と呼ぶ)を照射して形成され、これによりプレチルト処理が施される。このため、配向膜を形成する際に、直線偏光の平行光を斜めから照射する装置といった大がかりな光照射装置が必要とされるという問題がある。また、より広い視野角を実現するためのマルチドメインを有する画素の形成には、マスクが必要とされる上、製造工程が複雑になるという問題もある。特に、斜め光を用いて配向膜を形成する場合、基板上にスペーサ等の構造物あるいは凹凸があると、構造物等の陰になり、斜め光が届かない領域が生じ、この領域において液晶分子に対する所望の配向規制が難しくなる。この場合、例えば、画素内にマルチドメインを設けるためにフォトマスクを用いて斜め光を照射するには、光の回り込みを考慮した画素設計が必要となる。即ち、斜め光を用いて配向膜を形成する場合、高精細な画素形成が難しいという問題もある。
【0071】
更に、従来の光配向技術の中でも、高分子材料として架橋性高分子化合物を用いる場合、前駆体膜中において架橋性高分子化合物に含まれる架橋性官能基又は重合性官能基は、熱運動によりランダムな方位(方向)を向いているため、架橋性官能基又は重合性官能基同士の物理的距離が近づく確率が低くなる。その上、ランダム光(非偏光)を照射した場合、架橋性官能基又は重合性官能基同士の物理的距離が近づくことにより反応するが、直線偏光の光を照射して反応する架橋性官能基又は重合性官能基は、偏光方向と反応部位の方向とが所定の方向に揃う必要がある。また、斜め光は、垂直光と比較して、照射面積が広がる分だけ、単位面積当たりの照射量が低下する。即ち、直線偏光の光あるいは斜め光に反応する架橋性官能基又は重合性官能基の割合は、ランダム光(非偏光)を基板面に対して垂直方向から照射した場合と比較して低くなる。よって、形成された配向膜中における架橋密度(架橋度合い)が低くなり易い。
【0072】
これに対して、実施の形態1では、液晶層40に未重合化合物が含まれた状態で、配向膜22と配向膜32の間に液晶層40を封止する。次いで、液晶層40に電圧を印加することにより、液晶分子41が所定の配向をとると共に、液晶分子41によって基板あるいは電極に対する側鎖の末端構造部の方向が規定されながら、液晶層40中の未重合化合物を重合させる。こうして、重合高分子化合物によって液晶分子41A,41Bにプレチルト角θ1,θ2を付与することができる。即ち、実施の形態1の液晶表示装置(液晶表示素子)及びその製造方法によれば、大がかりな装置を用いなくても、容易に応答特性を向上させることができる。その上、未重合化合物を重合させる際に、紫外線の照射方向に依存することなく液晶分子41に対してプレチルト角θを付与することができるため、高精細な画素を形成することができる。そして、長時間駆動しても、駆動中に重合構造が新たに形成され難いため、液晶分子41A,41Bのプレチルト角θ1,θ2が製造時の状態に維持され、信頼性を向上させることもできる。
【0073】
また、液晶層40を封止した後に液晶層40に含まれる未重合の化合物の重合によりプレチルト処理が施される実施の形態1では、配向膜22,32近傍における液晶分子41の配向を規制するための第1スリット部21及び第2スリット部31によって、駆動時の液晶分子41の配向方向に応じて、プレチルトが付与される。よって、図11に示すように、液晶分子41のプレチルトの方向が揃い易いため、オーダーパラメータが大きくなる(1に近づく)。これにより、液晶表示素子の駆動時において、液晶分子41が均一な挙動を示すため、透過率が連続的に増加する。
【0074】
尚、実施の形態1では、第1スリット部21及び第2スリット部31を設けることにより、配向分割させて視野角特性を向上させるようにしたが、それに限定されるものではない。例えば、第1スリット部21の代わりに、画素電極20B上に配向規制部としての突起を設けてもよい。このように突起を設けることによっても、第1スリット部21を設けた場合と同様の効果を得ることができる。更に、CF基板30の対向電極30B上に配向規制部としての突起を設けてもよい。この場合、TFT基板20上の突起とCF基板30上の突起とは、基板間で対向しないように配置されている。そして、これらの突起を設けることでも、上記と同様の効果を得ることができる。
【実施例1】
【0075】
実施例1は、本開示の液晶表示装置(液晶表示素子)及びその製造方法に関する。実施例1にあっては、以下の手順により、図1に示す液晶表示装置(液晶表示素子)を作製した。
【0076】
先ず、TFT基板20及びCF基板30を準備した。TFT基板20として、厚さ0.7mmのガラス基板20Aの一面側に、スリットパターン(第1スリット部21の幅及びピッチは、それぞれ、5μm及び65μmであり、第1スリット部21が形成された第1電極20Bの部分の幅は60μm、第1電極20Bと第1電極20Bとの間の隙間は5μm)を有するITOから成る画素電極20Bが形成された基板を用いた。また、CF基板30として、カラーフィルタが形成された厚さ0.7mmのガラス基板30Aのカラーフィルタ上に、スリットパターン(第2スリット部31の幅及びピッチは、それぞれ、5μm及び65μmであり、第2スリット部31が形成された第3電極30Bの部分の幅は60μm、第2電極30Bと第2電極30Bとの間の隙間は5μm)を有するITOから成る対向電極30Bが形成された基板を用いた。この画素電極20B及び対向電極30Bに形成されたスリットパターンによって、TFT基板20とCF基板30との間に斜め電界が加わる。その後、TFT基板20の上に3.5μmのスペーサ突起物を形成した。尚、スリットパターンとして、図3の(A)及び(B)に示したスリットパターンを用いた。
【0077】
次いで、TFT基板20及びCF基板30のそれぞれに、市販の垂直配向膜材料(JSR株式会社製AL1H659)をスピンコーターを用いて塗布した後、塗布膜を80゜Cのホットプレートで80秒間乾燥させた。その後、TFT基板20及びCF基板30を、窒素ガス雰囲気下、200゜Cのオーブンで1時間加熱した。これにより、画素電極20B及び対向電極30B上における厚さが90nmの配向膜22,32を形成した。
【0078】
次に、CF基板30上の画素部周縁に、粒径3.5μmのシリカ粒子を含む紫外線硬化型樹脂を塗布することによりシール部を形成し、これに囲まれた部分に、ネガ型液晶であるMLC−7029(メルク社製)から成る液晶材料と、BASFジャパン株式会社製のアクリルモノマーLC242[式(1−6)で示される]から成る未重合化合物の混合物を滴下注入した。尚、混合物における液晶材料/未重合化合物の質量比を、100/0.3とした。その後、画素電極20Bのライン部分の中央と、対向電極30Bの第2スリット部31とが対向するようにTFT基板20とCF基板30とを貼り合わせ、シール部を硬化させた。次に、120゜Cのオーブンで1時間加熱し、シール部を完全に硬化させた。これにより、液晶層40が封止され、液晶セルを完成させることができた。
【0079】
次いで、このように作製された液晶セルに対して、実効値電圧4ボルトの矩形波の交流電界(60Hz)を印加した状態で、500mJ(波長365nmでの測定)の均一な紫外線を照射し、液晶層40に含まれる未重合化合物を重合させ、重合高分子化合物を得た。以上により、TFT基板20及びCF基板30側の液晶分子41A,41Bがプレチルトをなす図1に示す液晶表示装置(液晶表示素子)を完成させることができた。最後に、液晶表示装置の外側に、吸収軸が直交するように一対の偏光板を貼り付けた。
【0080】
尚、こうして得られた液晶表示装置を、実施例1Aの液晶表示装置と呼ぶ。
【0081】
式(1−1)にて示した未重合化合物を使用し、混合物における液晶材料/未重合化合物の質量比を、100/0.3とした以外は、実施例1と同様にして液晶表示装置を作製した。こうして得られた液晶表示装置を、実施例1Bの液晶表示装置と呼ぶ。
【0082】
比較例1として、図12に示すように、第1基板(TFT基板)における第1電極(画素電極)の構造を、幅8μmの幹電極部、及び、幹電極部から斜め横方向に延びる枝配線部(幅4μm、枝配線部と枝配線部との間の隙間4μm)とし、第2基板(CF基板)における第2電極(対向電極)には、スリット部を設けず、所謂ベタ電極とした構造を有する液晶表示装置を製造した。尚、第1電極及び第2電極の構成、構造以外は、実施例1Aと同じ液晶表示装置の構成、構造とした。
【0083】
実施例1A、実施例1B及び比較例1、並びに、後述する実施例2の液晶表示装置(液晶表示素子)について、応答時間及び第1プレチルト角θ1、第2プレチルト角θ2を測定した。その結果を以下の表1に示すが、第1プレチルト角θ1=第2プレチルト角θ2であった。それ故、表1にあっては、第1プレチルト角θ1及び第2プレチルト角θ2を纏めてプレチルト角θで表す。応答時間を測定する際には、測定装置としてLCD5200(大塚電子株式会社製)を用いて、画素電極20Bと対向電極30Bとの間に、駆動電圧(7.5ボルト)を印加し、輝度10%からその駆動電圧に応じた階調の90%の輝度となるまでの時間を測定した。また、液晶分子41のプレチルト角θを調べる際には、公知の方法(T.J.Scheffer等,J.Appl.Phys.,vol.19,2013頁,1980年に記載されている方法)に準拠し、He−Neレーザ光を用いた結晶回転法により測定した。尚、プレチルト角θは、上述し、図6に示したように、ガラス基板20A,30Aの表面に垂直な方向(法線方向)をZとした場合に、駆動電圧がオフの状態で、Z方向に対する液晶分子41(41A,41B)のダイレクタDの傾斜角度である。
【0084】
[表1]
プレチルト角θ(度) 応答時間(ミリ秒)
実施例1A 2.0 7.4
実施例1B 2.7 3.2
比較例2 2.1 18.7
比較例 3.0 12.1
【0085】
以上に説明したように、実施例1あるいは実施例2にあっては、液晶層40を設けた状態で、液晶層40に含まれる高分子化合物がその近傍の液晶分子41に対してプレチルト角θを付与するように、液晶層40に含まれる化合物を重合させる。しかも、第1配向規制部21及び第2配向規制部31が第1電極20B及び第2電極30Bに形成されているので、応答速度を大幅に向上させることができる。この場合、大がかりな装置を用いなくても、液晶分子41A,41Bに対してプレチルトを付与することが可能であることが確認された。しかも、重複領域50の中心領域51において、液晶層40における液晶分子群の長軸は、略、同一仮想平面内に位置していた。云い換えれば、液晶層40における液晶分子群の方位角(偏角)のバラツキが±5度以内にあった。即ち、重複領域50の中心領域51において、液晶層40における液晶分子群はツイストした状態にはなかった。それ故、一対の電極20B,30Bに電圧を印加したとき、液晶分子群の長軸の捩れ(ツイスト)が解けるのに時間が不要であり、応答特性の一層の改善が図ることができた。しかも、液晶層40における液晶分子群の方位角(偏角)のバラツキが±5度以内にあり、各種の配線(ソース線やゲート線等)による配向の乱れを制御することができ(即ち、配向の乱れを少なくすることができ)、透過率の向上を図ることができる。
【実施例2】
【0086】
実施例2は実施例1の変形である。実施例2にあっては、実施例1にあっては、液晶層に対して所定の電場を印加することにより液晶分子を配向させつつ、エネルギー線を照射して化合物(未重合化合物)を重合させた。一方、実施例2にあっては、液晶層に対して所定の電場を印加することにより液晶分子を配向させつつ、加熱することで化合物(未重合化合物)を重合させる。
【0087】
実施例2にあっては、式(1−19)にて示した未重合化合物を使用し、混合物における液晶材料/未重合化合物の質量比を100/0.3とした。以上の点以外は、実施例1と同様にして液晶表示装置を作製した。こうして得られた液晶表示装置の応答時間及び第1プレチルト角θ1、第2プレチルト角θ2を測定結果を表2に示す。
【0088】
以上、好ましい実施の形態及び実施例を挙げて本開示を説明したが、本開示はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能であるし、第1配向規制部及び第2配向規制部の構成、構造、配置状態も、適宜、変更することができる。例えば、実施の形態及び実施例ではVAモードの液晶表示装置(液晶表示素子)について説明したが、本開示は必ずしもこれに限定されず、ECBモード(水平配向でポジ液晶のモード;ツイスト無し)、IPS(In Plane Switching )モード、FFS(Fringe Field Switching)モードあるいはOCB(Optically Compensated Bend)モード等の、他の表示モードにも適用可能である。この場合においても同様の効果が得られる。但し、本開示では、プレチルト処理が施されていないものと比較すると、VAモードにおいて、IPSモードやFFSモードよりも、特に高い応答特性の改善効果を発揮することができる。
【0089】
また、実施の形態及び実施例では、専ら透過型の液晶表示装置(液晶表示素子)について説明したが、本開示では必ずしも透過型に限られず、例えば、反射型としてもよい。反射型とした場合には、画素電極がアルミニウム等の光反射性を有する電極材料により構成される。
【符号の説明】
【0090】
10,10A,10B,10C・・・画素、20・・・第1基板(TFT基板)、20A,30A・・・ガラス基板、20B・・・第1電極(画素電極)、21・・・第1配向規制部(第1スリット部)、22・・・第1配向膜、30・・・第2基板(CF基板)、30B・・・第2電極(対向電極)、31・・・第2配向規制部(第2スリット部)、32・・・第2配向膜、40・・・液晶層、41,41A,41B,41C・・・液晶分子、50・・・重複領域、51・・・中心領域、52・・・画素分離部、60・・・表示領域、61・・・ソースドライバ、62・・・ゲートドライバ、63・・・タイミングコントローラ、64・・・電源回路、71・・・ソース線、72・・・ゲート線、121・・・トランジスタ、122・・・キャパシタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基板及び第2基板を備え、
第2基板と対向する第1基板の対向面に形成された第1電極、
第1電極に設けられた第1配向規制部、
第1電極、第1配向規制部及び第1基板の対向面を覆う第1配向膜、
第1基板と対向する第2基板の対向面に形成された第2電極、
第2電極に設けられた第2配向規制部、
第2電極、第2配向規制部及び第2基板の対向面を覆う第2配向膜、並びに、
第1配向膜及び第2配向膜の間に設けられ、液晶分子を含む液晶層、
を有する画素が、複数、配列されて成り、
液晶層は、更に、重合した高分子化合物を含み、
液晶分子には、配向膜と接する重合した高分子化合物によってプレチルトが付与されている液晶表示装置。
【請求項2】
各画素において、第1電極の縁部と第1配向規制部とによって囲まれた領域の射影像と、第2電極の縁部と第2配向規制部とによって囲まれた領域の射影像とが重なり合う重複領域の中心領域において、液晶層における液晶分子群の長軸は、略、同一仮想平面内に位置する請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
液晶分子は負の誘電率異方性を有する請求項1又は請求項2に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
高分子化合物は、更に、アクリル基、メタクリル基、ビニル基、ビニルオキシ基、プロペニルエーテル基、エポキシ基、オキセタン基及びスチリル基から成る群から選択された少なくとも1種類の基を含む高分子化合物から成る請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
【請求項5】
高分子化合物は、メソゲン基を含む高分子化合物から成る請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
【請求項6】
第1基板及び第2基板を備え、
第2基板と対向する第1基板の対向面に形成された第1電極、
第1電極に設けられた第1配向規制部、
第1電極、第1配向規制部及び第1基板の対向面を覆う第1配向膜、
第1基板と対向する第2基板の対向面に形成された第2電極、
第2電極に設けられた第2配向規制部、
第2電極、第2配向規制部及び第2基板の対向面を覆う第2配向膜、並びに、
第1配向膜及び第2配向膜の間に設けられ、液晶分子を含む液晶層、
を有する画素が、複数、配列されて成る液晶表示装置の製造方法であって、
第1基板に第1配向膜を形成し、第2基板に第2配向膜を形成した後、
第1基板及び第2基板を、第1配向膜と第2配向膜とが対向するように配置し、第1配向膜と第2配向膜との間に、重合し得る化合物及び液晶分子を含む液晶層を封止し、次いで、
化合物を重合させて液晶分子にプレチルトを付与する、
各工程を含む液晶表示装置の製造方法。
【請求項7】
液晶層に対して所定の電場を印加することにより液晶分子を配向させつつ、エネルギー線を照射して化合物を重合させる請求項6に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項8】
液晶層に対して所定の電場を印加することにより液晶分子を配向させつつ、加熱することで化合物を重合させる請求項6に記載の液晶表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−198443(P2012−198443A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63674(P2011−63674)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】