液晶装置の製造方法、液晶装置、電子機器
【課題】初期配向転移が円滑に行われるOCBモードの液晶装置の製造方法、液晶装置、これを備えた電子機器を提供すること。
【解決手段】液晶層の配向状態をスプレイ配向からベンド配向に初期配向転移させる液晶装置の製造方法であって、表示領域において凹凸を有する少なくとも一方の基板としての素子基板10を用意する工程と、少なくとも表示領域を覆うように無機材料からなる多孔質膜(配向膜18)を形成する工程と、多孔質膜に対して第1の方向(法線方向)からイオンビーム(IB)を照射して第1の配向処理を施した後に、第1の方向と異なる第2の方向(入射角45度の方向)からイオンビーム(IB)を照射して第2の配向処置を施す工程とを備え、第2の配向処理は、スプレイ配向を規定する配向処理であることを特徴とする。凹凸は例えば画素電極15に設けられたコンタクトホール15aである。
【解決手段】液晶層の配向状態をスプレイ配向からベンド配向に初期配向転移させる液晶装置の製造方法であって、表示領域において凹凸を有する少なくとも一方の基板としての素子基板10を用意する工程と、少なくとも表示領域を覆うように無機材料からなる多孔質膜(配向膜18)を形成する工程と、多孔質膜に対して第1の方向(法線方向)からイオンビーム(IB)を照射して第1の配向処理を施した後に、第1の方向と異なる第2の方向(入射角45度の方向)からイオンビーム(IB)を照射して第2の配向処置を施す工程とを備え、第2の配向処理は、スプレイ配向を規定する配向処理であることを特徴とする。凹凸は例えば画素電極15に設けられたコンタクトホール15aである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶の配向制御がOCBモードである液晶装置の製造方法、液晶装置、電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
上記液晶装置として、一対の基板間に配置されたパラレル配向型の液晶を有し、該液晶は配向方位が他の領域の配向方位と異なる局所的な異配向方位領域を有する液晶表示素子が知られている(特許文献1)。
【0003】
異配向方位領域を設けることにより、OCBモードにおけるスプレイ配向からベンド配向への初期配向転移を速く行わせることを目的としている。
【0004】
異配向方位領域を設ける方法としては、基板上の立体障害、柱状構造体、錐状構造体、山形構造体を利用する方法が挙げられている。より具体的には少なくとも一方の基板上に設けられたブラックマトリクスやアクティブ素子、アクティブ素子に接続される配線などの凹凸、柱状スペーサーを覆う配向膜の配向処理を異なった方向からラビングする方法、あるいは異なった方向から光配向処理する方法が挙げられている。これにより、立体障害、柱状構造体、錐状構造体、山形構造体を含む周辺領域において異配向方位領域を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−5189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の異配向方位領域を設ける方法において、凹凸の形状だけでは円滑にスプレイ配向からベンド配向に転移させるために、高電圧が必要であり、また、ラビングや光配向では部分的にパターニングする必要があるため表示品質の低下やプロセス負荷が生じるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例の液晶装置の製造方法は、一対の基板間に液晶層を挟持し、前記液晶層の配向状態をスプレイ配向からベンド配向に初期配向転移させる液晶装置の製造方法であって、表示領域において凹凸を有する少なくとも一方の基板を用意する工程と、少なくとも前記表示領域を覆うように無機材料からなる多孔質膜を形成する工程と、前記多孔質膜に対して第1の方向からイオンビームを照射して第1の配向処理を施した後に、前記第1の方向と異なる第2の方向からイオンビームを照射して第2の配向処置を施す工程とを備え、前記第2の配向処理は、前記スプレイ配向を規定する配向処理であることを特徴とする。
【0009】
この方法によれば、凹凸を覆う多孔質膜に対して第2の方向からイオンビームを照射したときに、凹凸の影となるイオンビームが照射されない領域には、第2の方向と異なる第1の方向からイオンビームが照射された領域の一部が残存する。有機材料からなる配向膜を異なる方向からラビング処理することや光照射することによって、異配向方位領域を形成する場合に比べて、無機材料である多孔質膜の凹凸付近にイオンビームによって配向規制力が高いスプレイ配向領域を容易に形成できると共に、スプレイ配向処理と異なる方向に配向処理が均一に施された領域すなわち転移核が発生し易い領域を容易に形成することができる。ゆえに、スプレイ配向からベンド配向に円滑に初期配向移転させる転移核発生領域を備えた液晶装置を製造することができる。
【0010】
[適用例2]上記適用例の液晶装置の製造方法において、前記第1の配向処理は、前記第2の配向処理に比べて液晶分子のプレチルト角が増加する方向から前記多孔質膜に前記イオンビームを照射することを特徴とする。
この方法によれば、第1の配向処理によりベンド配向状態に自由エネルギーが近い配向処理が多孔質膜に施される。したがって、スプレイ配向からベンド配向への移転がより円滑に進むため、液晶層に印加される転移電圧を低下させることができる。
【0011】
[適用例3]上記適用例の液晶装置の製造方法において、前記第1の配向処理は、前記多孔質膜の膜面に対して概法線方向から前記イオンビームを照射する垂直配向処理であるとしてもよい。
この方法によれば、スプレイ配向からベンド配向への移転がより円滑に進む液晶装置を製造することができる。
【0012】
[適用例4]上記適用例の液晶装置の製造方法において、前記第1の配向処理は、前記第2の配向処理における液晶分子の配向方位に対して異なる方向から前記多孔質膜に前記イオンビームを照射するとしてもよい。
この方法によれば、スプレイ配向における配向方位に対して異なる配向方位を有するツイスト配向(転移核)が形成され、ベンド配向へ転移させるために液晶分子に与えるエネルギーすなわち転移電圧を低下させることができる。
【0013】
[適用例5]本適用例の液晶装置は、一対の基板間に液晶層を挟持し、前記液晶層の配向状態をスプレイ配向からベンド配向に初期配向転移させる液晶装置であって、少なくとも一方の基板の表示領域に設けられた凹凸と、少なくとも前記表示領域を覆うように設けられた無機材料からなる多孔質膜と、前記凹凸とその周辺を覆う前記多孔質膜の少なくとも一部において、前記スプレイ配向を規定する配向処理とは異なる配向処理がイオンビームを照射することにより施されていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、有機材料からなる配向膜を異なる方向からラビング処理することや光照射することによって形成された異配向方位領域を有する場合に比べて、無機材料である多孔質膜の凹凸付近にイオンビームを照射することにより、スプレイ配向処理と異なる方向に配向処理が均一に施された領域すなわち転移核が発生し易い領域が設けられている。ゆえに、スプレイ配向からベンド配向に円滑に初期配向移転させる転移核発生領域を備えた液晶装置を提供することができる。
【0015】
[適用例6]上記適用例の液晶装置において、前記異なる配向処理が、前記スプレイ配向を規定する配向処理に対して、前記多孔質膜の表面における液晶分子のプレチルト角または配向方位を異ならせるものであることを特徴とする。
この構成によれば、スプレイ配向とベンド配向との間においてよりベンド配向状態に自由エネルギーが近い状態の転移核発生領域が凹凸付近の多孔質膜に設けられ、スプレイ配向からベンド配向への移転がより円滑に進むため、液晶層に印加される転移電圧を低下させた液晶装置を提供することができる。
【0016】
[適用例7]上記適用例の液晶装置において、前記凹凸が、スイッチング素子、配線、画素電極のうちの少なくとも1つによって構成されることを特徴とする。
この構成によれば、転移核発生領域を形成するための凹凸を新たに設ける必要がなく、基板上に設けられたスイッチング素子、配線、画素電極を利用して転移核発生領域を設けることができる。
【0017】
[適用例8]上記適用例の液晶装置において、前記凹凸が、前記画素電極に設けられたコンタクトホールであることを特徴とする。
この構成によれば、画素電極のコンタクトホールを利用して移転核発生領域を設けることができ、画素内において初期配向転移が円滑に進む。
【0018】
[適用例9]上記適用例の液晶装置において、前記凹凸が、前記液晶層の厚みを規定する柱状スペーサーであるとしてもよい。
この構成によれば、コンタクトホールよりも段差が大きな凹凸としての柱状スペーサーを利用して転移核発生領域を設けることができる。
【0019】
[適用例10]上記適用例の液晶装置において、前記異なる配向処理が施された部分の少なくとも一部が遮光領域内にあることが好ましい。
この構成によれば、異なる配向処理が施された部分すなわち転移核発生領域が設けられた部分は、液晶分子の配向状態がスプレイ配向と異なる配向状態であるため、光漏れを起こし易い。したがって、異なる配向処理が施された部分の少なくとも一部を遮光領域内に位置させることで、光漏れを低減することができる。すなわち、初期配向転移が円滑であると共に、すぐれた光学特性を有する液晶装置を提供できる。
【0020】
[適用例11]上記適用例の液晶装置において、前記多孔質膜の屈折率が部分的に空気層あるいは真空層を含むことが好ましい。
この構成によれば、多孔質膜をイオンビームを使用して表面処理する際に、カスケードによる分子の変移およびスパッタ分子の再付着により、多孔質膜の空孔が埋められ膜厚方向に深い凹凸形状が形成されるため、高プレチルト角を容易に発現することができる。
【0021】
[適用例12]本適用例の電子機器は、上記適用例の液晶装置を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、スプレイ配向からベンド配向への初期配向転移が円滑に行われ、すぐれた応答性などの光学特性を有する見栄えのよい電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】液晶装置の構成を示す概略図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のH−H'線で切った断面図。
【図2】液晶装置の電気的な構成を示す等価回路図。
【図3】(a)および(b)はOCBモードの液晶分子の配向状態を示す概略図。
【図4】(a)は実施例1の画素の構成を示す概略平面図、(b)は(a)のA−A'線で切った概略断面図。
【図5】(a)〜(d)は実施例1の液晶装置の製造方法を示す概略図。
【図6】(a)は実施例2の画素の構成を示す概略平面図、(b)は(a)のB−B'線で切った概略断面図。
【図7】(a)〜(c)は実施例2の液晶装置の製造方法を示す概略図。
【図8】(a)は実施例3の画素の構成を示す概略平面図、(b)は(a)のC−C'線で切った概略断面図。
【図9】(a)および(b)は実施例3の液晶装置の製造方法を示す概略図。
【図10】(a)〜(c)は実施例4の液晶装置の製造方法を示す概略図。
【図11】(a)は実施例5の画素の構成を示す概略平面図、(b)は(a)のD−D'線で切った概略断面図。
【図12】(a)〜(d)は実施例5の液晶装置の製造方法を示す概略図。
【図13】電子機器としての投射型表示装置の構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、使用する図面は、説明する部分が認識可能な状態となるように、適宜拡大または縮小して表示している。
【0024】
(第1実施形態)
本実施形態では、薄膜トランジスター(Thin Film Transistor;TFT)を画素のスイッチング素子として備えたアクティブマトリクス型の液晶装置を例に挙げて説明する。この液晶装置は、例えば後述する投射型表示装置(液晶プロジェクター)の光変調手段(ライトバルブ)として好適に用いることができるものである。
【0025】
<液晶装置>
まず、本実施形態の液晶装置について図1〜図3を参照して説明する。図1は液晶装置の構成を示す概略図であり、同図(a)は正面図、同図(b)は同図(a)のH−H'線で切った断面図である。
【0026】
図1(a)および(b)に示すように、本実施形態の液晶装置100は、一対の基板としての素子基板10および対向基板20と、これら一対の基板によって挟持された液晶層50とを有する。
素子基板10は対向基板20よりも一回り大きく、両基板は、シール材52を介して接合され、その隙間に正の誘電異方性を有する液晶が封入されて液晶層50を構成している。
【0027】
同図(a)に示すように、素子基板10の1辺部に沿ってデータ線駆動回路101が設けられ、これに電気的に接続された複数の端子部102が配列している。該1辺部と直交し互いに対向する他の2辺部には、該2辺部に沿って走査線駆動回路104が設けられている。対向基板20を挟んで該1辺部と対向する他の1辺部には、2つの走査線駆動回路104を繋ぐ複数の配線105が設けられている。
【0028】
額縁状に配置されたシール材52の内側には、同じく額縁状に見切り部53が設けられている。見切り部53は、遮光性を有する金属材料あるいは樹脂材料からなり、見切り部53の内側が複数の画素を有する表示領域10aとなっている。
【0029】
同図(b)に示すように、素子基板10の液晶層50側の表面には、画素ごとに設けられた画素電極15およびスイッチング素子としての薄膜トランジスター30と、信号配線と、これらを覆う配向膜18とが形成されている。
【0030】
対向基板20の液晶層50側の表面には、見切り部53と、これを覆うように成膜された共通電極23と、共通電極23を覆う配向膜29とが形成されている。
【0031】
これらの配向膜18および配向膜29は、無機材料からなる多孔質膜であって、多孔質膜の表面に所定の方向からイオンビームを照射することにより、配向処理が施されている。詳しい、配向処理の方法については後述する実施例において述べる。
【0032】
対向基板20に設けられた共通電極23は、同図(a)に示すように対向基板20の四隅に設けられた上下導通部106により素子基板10側の配線に電気的に接続している。
【0033】
図2は、液晶装置の電気的な構成を示す等価回路図である。図2に示すように、液晶装置100は、少なくとも表示領域10aにおいて互いに絶縁されて直交する信号線としての複数の走査線3aと複数のデータ線6aとを有する。また、走査線3aに対して一定の間隔を置いて平行するように配置された容量線3bを有する。
【0034】
走査線3aとデータ線6aならびに容量線3bにより格子状に区画された領域に、画素電極15と、画素電極15をスイッチング制御するスイッチング素子としてのTFT(Thin Film Transistor:薄膜トランジスター)30と、保持容量36とが設けられ、これらが画素を構成している。すなわち、画素は、マトリクス状に配置されている。
【0035】
走査線3aはTFT30のゲートに電気的に接続され、データ線6aはTFT30のソースに電気的に接続されている。画素電極15はTFT30のドレインに電気的に接続されている。
データ線6aはデータ線駆動回路101(図1参照)に接続されており、データ線駆動回路101から供給される画像信号D1,D2,…,Dnを画素に供給する。走査線3aは走査線駆動回路104(図1参照)に接続されており、走査線駆動回路104から供給される走査信号SC1,SC2,…,SCmを各画素に供給する。データ線駆動回路101からデータ線6aに供給される画像信号D1〜Dnは、この順に線順次で供給してもよく、互いに隣接する複数のデータ線6a同士に対してグループごとに供給してもよい。走査線駆動回路104は、走査線3aに対して、走査信号SC1〜SCmを所定のタイミングでパルス的に線順次で供給する。
【0036】
液晶装置100は、スイッチング素子であるTFT30が走査信号SC1〜SCmの入力により一定期間だけオン状態とされることで、データ線6aから供給される画像信号D1〜Dnが所定のタイミングで画素電極15に書き込まれる構成となっている。そして、画素電極15を介して液晶層50に書き込まれた所定レベルの画像信号D1〜Dnは、画素電極15と液晶層50を介して対向配置された共通電極23との間で一定期間保持される。
保持された画像信号D1〜Dnがリークするのを防止するため、画素電極15と共通電極23との間に形成される液晶容量と並列に保持容量36が接続されている。保持容量36は、TFT30のドレインと容量線3bとの間に設けられている。
【0037】
図3(a)および(b)はOCBモードの液晶分子の配向状態を示す概略図である。本実施形態の液晶装置100は、配向状態がスプレイ配向とベンド配向のうち一方から他方へ転移可能な液晶層50を備えており、その駆動モードはOCB(Optically Compensated Birefringence)モードと呼ばれている。
【0038】
図3(a)に示すように、OCBモードでは、その初期状態(非動作時)において、液晶分子51がスプレイ状に開いた配向状態(スプレイ配向)になっており、動作時には、図3(b)に示すように液晶分子51が弓なりに曲がった配向状態(ベンド配向)になっている。そして、動作時にベンド配向の曲がり度合いで透過率を変調することで、動作の高速応答性を実現している。
【0039】
OCBモードの場合、電源遮断時における液晶分子51の配向状態が図3(a)に示すスプレイ配向であるため、電源投入時にある閾値以上の電圧(転移電圧)を液晶層50に印加する。これにより、図3(a)に示す初期のスプレイ配向から、図3(b)に示す動作時のベンド配向に液晶分子51の配向状態を転移させる、いわゆる初期配向転移操作が必要となる。初期配向転移が不十分な場合には、表示不良や所望の高速応答性が得られないおそれがある。そこで本実施形態の液晶装置100では、画素の構成を利用した配向処理を施すことにより、簡素な構成にも係らず、円滑な初期配向転移を実現した。以降、実施例を挙げて説明する。
【0040】
(実施例1)
図4(a)は実施例1の画素の構成を示す概略平面図、図4(b)は同図(a)のA−A'線で切った概略断面図、図5(a)〜(d)は実施例1の液晶装置の製造方法を示す概略図である。
【0041】
図4(a)に示すように、実施例1の画素G1は、互いに絶縁された状態で交差する走査線3aとデータ線6aとにより区画された領域に設けられた矩形状の画素電極15と、画素電極15をスイッチング制御するTFT30とを有している。
【0042】
TFT30は、走査線3aとデータ線6aの交差点付近の走査線3a上に設けられている。TFT30はゲートを挟んで形成されたソース、ドレインの3つの領域を有する半導体層30aを備え、ソースにはデータ線6aから延出されたソース電極30sが設けられている。また、ドレインには平面視で略四角形のドレイン電極30dが設けられている。ドレイン電極30dは画素電極15側に拡張された拡張部30eを有する。画素電極15にはドレイン電極30dと電気的な接続をとるための平面視で略円形のコンタクトホール15aがドレイン電極30dと重なる位置に設けられている。
【0043】
容量線3bは半導体層30aのドレイン側近傍において走査線3aと平行するように設けられている。また、ドレイン電極30の拡張部30eと重なる拡幅部を有している。
【0044】
図4(b)に示すように、素子基板10上には、まず、走査線3a、容量線3bが例えばアルミなどの低抵抗金属配線材料を用いて形成されている。これらの走査線3a、容量線3bを覆うように例えば酸化シリコンなどからなる絶縁膜11が設けられている。
【0045】
走査線3aを覆った絶縁膜11上に半導体層30aが設けられている。半導体層30aの厚みはおよそ50nmである。走査線3aを覆った部分がゲートであって、これに対向する走査線3aがゲート電極30gの役目を果たしている。すなわち、TFT30はボトムゲート構造となっている。よって、以降、絶縁膜11を他の絶縁膜と区別するためゲート絶縁膜11と呼ぶ。
【0046】
前述したように、半導体層30aのソースに重なるようにソース電極30sが設けられ、同じくドレインに重なるようにドレイン電極30dが設けられている。これらのソース電極30s、ドレイン電極30dもまたアルミなどの低抵抗金属配線材料を用いて形成されている。
これらの低抵抗金属配線材料を用いて形成された走査線3a、容量線3b、ソース電極30s(データ線6a)、ドレイン電極30dの厚みはおよそ500〜600nmである。
【0047】
これらの半導体層30a、ソース電極30s、ドレイン電極30dを覆うように層間絶縁膜12が設けられている。層間絶縁膜12は、半導体層30a、ソース電極30s、ドレイン電極30dが設けられてできた表面の段差を緩和するためにおよそ1〜2μm程度の厚みで設けられている。
【0048】
ドレイン電極30dを覆う層間絶縁膜12の部分に孔が形成され、当該孔を埋めるように例えばITO(Indium Tin Oxide)などの透明導電膜が成膜され、これをパターニングすることにより、コンタクトホール15aを有する画素電極15が形成される。
【0049】
ゲート絶縁膜11を挟んで対向する容量線3bとドレイン電極30dの拡張部30eとにより保持容量36が構成されている。
【0050】
層間絶縁膜12、画素電極15、コンタクトホール15aを覆うように配向膜18が設けられている。
【0051】
配向膜18は、前述したように無機材料からなる多孔質膜である。その形成方法としては、例えば金属アルコキシドを主原料とするゾル溶液をスピンコート、ロールコート、あるいはフレキソ印刷などの転写法、定量吐出法、液滴吐出法(インクジェット法)などを用いて、少なくとも表示領域10aを覆うように塗布する。そして、加熱乾燥させることにより成膜する方法が挙げられる。
金属アルコキシドは、金属をMとしアルキル基をRとすると、一般式;M(OR)nで表すことができる。金属Mとしては、Mg、Al、Si、Ti、V、Zn、Sr、In、Sn、La等が挙げられる。アルキル基Rとしては、C1〜C5のアルキル基が挙げられる。
本実施形態では、Si(シリコン)のアルコキシドを用いて酸化シリコンからなる多孔質膜を形成した。その厚みはおよそ50〜100nmである。
【0052】
多孔質膜は部分的に空気層あるいは真空層を含んでおり、イオンビームを使用して表面処理する際に、カスケードによる分子の変移およびスパッタ分子の再付着により、多孔質膜の空孔が埋められ膜厚方向に深い凹凸形状が形成されるため、空隙率が高いほど高プレチルト角を容易に発現することができる。その一方で、空隙率が低いほど膜としての強度を保ち難くなる。酸化シリコンからなる多孔質膜は、空隙率を50%程度とすると、屈折率が1.46から1.23へ低下する。空隙率の指標となる屈折率は、空隙率50%近傍の1.2〜1.3が好ましい。Al2O3の場合は空隙率50%程度で屈折率が1.63から1.32となる、またMgOの場合は同じく空隙率50%程度で屈折率が1.74から1.37となり多孔質膜材料として好適に用いられる。
【0053】
このような多孔質膜の表面に例えばAr(アルゴン)やN(窒素)などのイオンビームを均一化して照射することにより、照射された多孔質膜の表面がエッチングされ、1軸配向性に優れた微細な配向構造(凹凸構造)を作り出すことができる。多孔質膜の表面に対してイオンビームが入射する角度を規定することにより、液晶分子のプレチルト角(極角)と配向軸(方位角)を規定することができる。
【0054】
本実施形態のスプレイ配向における素子基板10側の液晶分子の配向方向は、図4(a)のデータ線6aに沿った矢印で示す方向となっている。矢印の先端側に基板面から開く(チルトする)ように液晶分子が配向している。また、対向基板20側のスプレイ配向における液晶分子の配向方向も同様である(図3(a)参照)。
【0055】
次に、実施例1の液晶装置の製造方法における多孔質膜にイオンビームを照射して配向処理を施す工程(配向処理工程)について、図5(a)〜(d)を参照して説明する。
【0056】
まず、図5(a)に示すように、配向膜18の表面に対して第1の方向としての法線方向からイオンビーム(IB)を照射する。これによれば、配向膜18の表面において液晶分子51のプレチルト角θがほぼ90度の垂直配向処理を施すことができる。画素電極15に設けられたコンタクトホール15aの内側部分の配向膜18にも垂直配向処理が施される。
【0057】
次に、図5(b)に示すように、配向方向に対して180度反対側の向き(第2の方向)からイオンビーム(IB)を照射する。このときの、配向膜18の表面に対するイオンビーム(IB)の入射角度は、図5(c)に示すようにおよそ45度とした。これにより、スプレイ配向における配向軸(方位角)を規定すると共に、配向膜18に対する液晶分子51のプレチルト角θをおよそ10度とすることができる。
【0058】
イオンビーム(IB)の照射条件としては、例えばArイオンビームの場合、加速電圧を500eVとし、ドーズ量を5.0E+15ions/cm2とする。
【0059】
図5(d)に示すように、画素電極15に設けられた凹凸としてのコンタクトホール15aには、コンタクトホール15a以外の膜面18aと同じ配向方向となる膜面18bと、入射角45度でイオンビーム(IB)を照射したときに影となって照射されず、垂直配向処理が残存する膜面18cとが混在する。
【0060】
膜面18cにおける液晶分子51のプレチルト角θは、膜面18a,18bのプレチルト角θよりも大きくなる。したがって、画素電極15に転移電圧を印加したときに、スプレイ配向からベンド配向への転移が膜面18cを起点(トリガー)にして進行する。すなわち、コンタクトホール15aのような凹凸部分にスプレイ配向と異なる配向処理が施された転移核発生領域を設けた。
【0061】
スプレイ配向からベンド配向への転移を円滑に進めるため、転移核発生領域の大きさはできるだけ大きい方が望ましい。したがって、コンタクトホール15aの大きさ、つまり層間絶縁膜12の孔の大きさは、少なくとも層間絶縁膜12の膜厚よりも大きい方が好ましく、この場合は、およそ2μmとなっている。
【0062】
転移核発生領域となった膜面18cは、平面視では円弧に囲まれているが、コンタクトホール15aの底面と内壁面とを含むものである。したがって、実際の膜面18cの液晶分子の配向状態は、垂直配向と言っても底面と内壁面にアンカリングされてプレチルトするため、近傍の液晶分子のプレチルトの影響を受けて必ずしも一様にならない。この点において、スプレイ配向からベンド配向への転移に要するエネルギーをむしろ小さくすると考えられる。なお、コンタクトホール15aの設け方とイオンビームの入射角度によっては、膜面18cが底面を含まないことも有り得る。
【0063】
(実施例2)
図6(a)は実施例2の画素の構成を示す概略平面図、図6(b)は同図(a)のB−B'線で切った概略断面図、図7(a)〜(c)は実施例2の液晶装置の製造方法を示す概略図である。なお、実施例1と同じ構成には同じ符号を付して詳細の説明は省略する。
【0064】
図6(a)に示すように、実施例2の画素G2は、実施例1の画素G1の構成に加えて、容量線3bと重なる位置において画素電極15上に柱状スペーサー41を設けた点が異なっている。
【0065】
柱状スペーサー41は、例えば感光性樹脂材料を素子基板10上に塗布して、フォトリソグラフィー法により所定の形状(この場合は円柱状)となるようにパターニングされたものである。そして、層間絶縁膜12、画素電極15、コンタクトホール15a、そして柱状スペーサー41を覆うように多孔質膜である配向膜18を形成する。多孔質膜の形成方法は、実施例1と同じである。
【0066】
また、柱状スペーサー41は、素子基板10と対向基板20とをシール材52を介して接合したときに、素子基板10側に設けられた柱状スペーサー41の頭頂部が対向基板20に当接して、対向配置された素子基板10と対向基板20との隙間、すなわち液晶層50の厚みを規定するものである。液晶層50の厚みは、用いられる液晶の物性と求められる光学特性に応じて設定されるものではあるが、所謂ネマチック液晶を採用したOCBモードでは、通常4〜6μm程度である。
【0067】
実施例2では、このような柱状スペーサー41を画素G2ごとに設ける構成としている。
柱状スペーサー41自体が何らの電気光学的な性質を有するものではないので、画素G2内に配置するにあたっては、画素G2の開口率を低下させないように、遮光性の容量線3bに重なるように設けられる。
【0068】
実施例2の液晶装置の製造方法における配向処理工程について、図7(a)〜(c)を参照して説明する。
【0069】
まず、図7(a)に示すように、配向膜18の表面に対して法線方向からイオンビーム(IB)を照射して垂直配向処理を施す。そして、図7(b)に示すように、配向方向に対して180度反対側の向きからイオンビーム(IB)を入射角45度で照射する。
【0070】
凹凸としての柱状スペーサー41の近傍では、配向膜18においてイオンビーム(IB)が照射されない影となった膜面18dが生ずる。
【0071】
したがって、図7(c)に示すように、柱状スペーサー41以外の通常の膜面18aは、スプレイ配向を規定する配向処理が施され、影となった膜面18dには垂直配向処理が施される。膜面18dは、膜面18aと連続した平面と柱状スペーサー41の側面において影となった部分を含み、そこに実施例1と同様な転移核発生領域が形成される。柱状スペーサー41の外形形状は、コンタクトホール15aに比べて大きい。したがって、影の部分の面積が拡大され、より大きな面積を有する転移核発生領域が形成される。すなわち、実施例1に比べてより円滑な初期配向転移を実現できる。
【0072】
実施例2の画素G2は、実施例1の画素G1と同じコンタクトホール15aを備えているので、コンタクトホール15aを覆う配向膜18の一部にも転移核発生領域を有していることは言うまでもないが、柱状スペーサー41の周辺部に形成された転移核発生領域のみでも十分にその効果を奏する。
【0073】
なお、実施例2では、柱状スペーサー41を画素G2内に1つ設けたが、これに限定されず、複数設ける構成としてもよい。また、柱状スペーサー41を素子基板10側に配置したが、もちろん対向基板20側に配置する構成としてもよい。
【0074】
(実施例3)
図8(a)は実施例3の画素の構成を示す概略平面図、同図(b)は同図(a)のC−C'線で切った概略断面図、図9(a)および(b)は実施例3の液晶装置の製造方法を示す概略図である。なお、実施例1と同じ構成には同じ符号を付して詳細の説明は省略する。
【0075】
図8(a)に示すように、実施例3の画素G3は、平面視では実施例1の画素G1と同じ構成となっている。すなわち、互いに絶縁された状態で交差する走査線3aとデータ線6aとにより区画された領域に設けられた矩形状の画素電極15と、画素電極15をスイッチング制御するTFT30とを有している。
【0076】
その一方で、図8(b)に示すように、TFT30を覆う層間絶縁膜13は、実施例1の層間絶縁膜12に比べて絶縁性が維持されるおよそ数百nm程度の膜厚を有するものであって、平坦化層の機能を有していない。それゆえに、層間絶縁膜13上に設けられた画素電極15を覆う配向膜18の表面は、TFT30や保持容量36が設けられた領域において凹凸を有する。TFT30のドレイン電極30dと画素電極15とを接続させるコンタクトホール15bは、電気的な接続がとれる例えばφ0.5μm程度の大きさとなっている。また、画素電極15を構成する透明導電膜でほとんど埋められている。
【0077】
実施例3の液晶装置の製造方法における配向処理工程について、図9(a)および(b)を参照して説明する。実施例3の配向処理工程は、TFT30や保持容量36に起因する凹凸を利用して移転核発生領域を形成している。
【0078】
図9(a)に示すように、まず、配向膜18の表面に対して法線方向からイオンビーム(IB)を照射して垂直配向処理を施す。そして、図9(b)に示すように、配向方向に対して180度反対側の向きからイオンビーム(IB)を入射角45度で照射する。
【0079】
凹凸としてのTFT30や容量線3bの近傍では、配向膜18においてイオンビーム(IB)が照射されない影となった膜面18eが生ずる。特に、半導体層30aに重なったソース電極30sおよびドレイン電極30dの部分が保持容量36による凹凸に比べて大きな段差となっている。したがって、影の部分が拡大される。
【0080】
実施例3の配向処理工程によれば、膜面18eがTFT30や保持容量36に起因する凹凸の近傍に形成されるので、画素G3内において転移核発生領域が複数個所に亘って分散されて形成される。すなわち、転移核発生領域を1箇所に設ける実施例1の画素G1に比べて、スプレイ配向からベンド配向への初期配向転移が円滑に進行する。
【0081】
実施例1〜実施例3に共通する配向処理の技術的な思想は、まずスプレイ配向における液晶分子のプレチルト角よりも大きなプレチルト角となる方向からイオンビームを照射して第1の配向処理を施す。その後に、イオンビームの入射角度を小さくしてスプレイ配向となる第2の配向処理を施すものである。
したがって、第1の配向処理は、垂直配向に限定されず、プレチルト角が大きくなる方向からイオンビームを照射すればよい。これにより配向膜18の表面の凹凸を利用して転移核発生領域を形成できる。
【0082】
また、実施例1のコンタクトホール15a、実施例2の柱状スペーサー41は、いずれも遮光性を有するドレイン電極30d、容量線3bと重なるように設けられている。これらの凹凸を利用して形成された転移核発生領域は、液晶分子の配向状態がスプレイ配向と異なるため周辺部で光漏れを起こしやすい、それゆえに転移核発生領域の少なくとも一部が遮光領域に含まれるように形成することで光漏れを低減し、所望の光学特性を確保できる。
なお、実施例3のTFT30を遮光するように、対向基板20側に画素G3を区画するブラックマトリクスを設ければ、同様の効果が得られる。
【0083】
(実施例4)
図10(a)〜(c)は実施例4の液晶装置の製造方法を示す概略図である。とりわけ、配向処理工程を説明する図である。なお、実施例1と同じ構成には同じ符号を付して詳細の説明は省略する。
【0084】
実施例4の画素の構成は、実施例1における画素G1とまったく同じである。その一方で、イオンビームの照射の仕方が異なるものである。
【0085】
図10(a)および(b)に示すように、第1の配向処理では、イオンビーム(IB)を配向膜18に対する入射角45度、且つ第2の配向処理の照射方向(照射方位)に対して60度傾いた方向から照射する。続いて第2の配向処理では、スプレイ配向を規定するように、データ線6aに沿った方向からイオンビーム(IB)を同じく入射角45度で照射する。
【0086】
これにより、図10(c)に示すように、コンタクトホール15aの部分には、スプレイ配向と異なる配向方位を有する膜面18fと、スプレイ配向と同じ配向方位を有する膜面18gと、配向方位が規定されていない膜面18hとが混在する転移核発生領域が形成される。
【0087】
したがって、スプレイ配向している液晶分子51に対して配向方位が異なる方向に配向する液晶分子51が存在することになり、コンタクトホール15aにおいて部分的に液晶分子51がツイストすることになるので、転移電圧が印加されたときにベンド配向への転移が円滑に進む。
【0088】
(実施例5)
図11(a)は実施例5の画素の構成を示す概略平面図、同図(b)は同図(a)のD−D'線で切った概略断面図、図12(a)〜(d)は実施例5の液晶装置の製造方法を示す概略図である。なお、実施例1と同じ構成には同じ符号を付して詳細の説明は省略する。
【0089】
図11(a)および(b)に示すように、実施例5の画素G5は、実施例1の画素G1の構成に加えて、画素電極15において保持容量36と重なる部分にスリット15cを設けたことを特徴とする。
【0090】
実施例5の液晶装置の製造方法における配向処理工程について、図12(a)〜(d)を参照して説明する。実施例5の配向処理工程は、スリット15cに起因する凹凸を利用して移転核発生領域を形成している。
【0091】
まず、図12(a)および(b)に示すように、第1の配向処理では、イオンビーム(IB)を配向膜18に対して入射角60度、且つ第2の配向処理におけるイオンビーム(IB)の照射方向(照射方位)に対して60度傾いた方向から照射する。
【0092】
続いて第2の配向処理では、図12(c)および(d)に示すように、イオンビーム(IB)を配向膜18に対して入射角45度、且つスプレイ配向を規定する照射方向(照射方位)から照射する。これにより、図12(d)に示すように、第2の配向処理においてスリット15cの長辺(凹凸)に沿ってイオンビーム(IB)の影となった膜面18jにプレチルト角と配向方位とが異なる転移核発生領域が形成される。
【0093】
スリット15cは遮光性を有する保持容量36に重なった位置に設けられ、長辺(凹凸)に沿って連続的に移転核発生領域が設けられているので、スプレイ配向からベンド配向へとより円滑に初期配向転移が進む。
【0094】
実施例4および実施例5は、コンタクトホール15aやスリット15cの凹凸を利用して、基本的にスプレイ配向に対して配向方位が異なる転移核発生領域を形成した。また、実施例5に示したように、配向方位を異ならせると同時にプレチルト角を異ならせてもよい。
【0095】
なお、実施例5では、矩形状のスリット15cを1つ設けたが、形状は矩形状に限定されず、また複数設ける構成としてもよい。
【0096】
また本実施形態では、画素内の構成に起因する凹凸を利用して様々な転移核発生領域を形成したが、実施例1〜実施例5に示した凹凸の例をそれぞれ組み合わせて、転移核発生領域を形成してもよい。
【0097】
以上に述べた第1実施形態によれば、スプレイ配向からベンド配向への初期配向転移をより低い転移電圧で円滑に進行させることができる転移核発生領域を備えたOCBモードの液晶装置100およびその製造方法を提供することができる。
【0098】
(第2実施形態)
次に、本実施形態の電子機器としての投射型表示装置(液晶プロジェクター)について、図13を参照して説明する。図13は電子機器としての投射型表示装置の構成を示す模式図である。
【0099】
図13に示すように、本実施形態の投射型表示装置1000は、光源1100と、2つのダイクロイックミラー1103,1104と、3つの反射ミラー1105,1106,1107と、入射レンズ1108と、リレーレンズ1109と、出射レンズ1201と、3つの光変調手段としての液晶ライトバルブ1202,1203,1204と、クロスダイクロイックプリズム1205と、投射レンズ1206とを備えている。光源1100はメタルハライド等のランプ1101とランプの光を反射するリフレクター1102とからなる。青色光・緑色光反射のダイクロイックミラー1103は、光源1100からの光束のうちの赤色光を透過させるとともに、青色光と緑色光とを反射する。透過した赤色光は反射ミラー1107で反射されて、赤色光用の液晶ライトバルブ1202に入射される。一方、ダイクロイックミラー1103で反射された光のうち緑色光は緑色光反射のダイクロイックミラー1104によって反射され、緑色光用の液晶ライトバルブ1203に入射される。一方、青色光は第2のダイクロイックミラー1104も透過する。青色光に対しては、長い光路による光損失を防ぐため、入射レンズ1108、リレーレンズ1109、出射レンズ1201を含むリレーレンズ系からなる導光手段1200が設けられ、これを介して青色光が青色光用の液晶ライトバルブ1204に入射される。各液晶ライトバルブ1202,1203,1204により変調された3つの色光はクロスダイクロイックプリズム1205に入射する。このプリズムは、4つの直角プリズムが貼り合わされ、その内面に赤色光を反射する誘電体多層膜と青色光を反射する誘電体多層膜とが十字状に形成されている。これらの誘電体多層膜によって3つの色光が合成されて、カラー画像を表す光が形成される。合成された光は、投射光学系である投射レンズ1206によってスクリーン1300上に投射され、画像が拡大されて表示される。
【0100】
各液晶ライトバルブ1202,1203,1204は、上記第1実施形態の液晶装置100と、液晶装置100の光の入射側と出射側とにそれぞれ配設された偏光素子としての偏光板(図示省略)とを備えたものである。
【0101】
このような投射型表示装置1000は、より明るいカラー画像をスクリーン1300に映し出すために、高出力な光源1100が用いられる。したがって、光源1100自体からの発熱と、各液晶ライトバルブ1202,1203,1204に入射する光によって液晶装置100が熱せられるので、図示しないファン等の冷却装置を備えて、冷却が必要な部位が冷却される。液晶装置100は、OCBモードが採用されスプレイ配向からベンド配向へと円滑に初期配向転移が進む転移核発生領域を有する。したがって、応答性に優れ動画などをスムーズに投影可能な高い表示品質を備えている。
また、液晶装置100の配向膜18(素子基板10側)および配向膜29(対向基板20側)は、それぞれ無機材料からなる多孔質膜が採用されているので、優れた耐光性を有しており、高い信頼性品質を有する投射型表示装置1000が実現されている。
【0102】
上記実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0103】
(変形例1)上記実施形態の液晶装置100の構成は、これに限定されない。例えば、対向基板20側にカラーフィルターを有する構成とする。これにより、フルカラー表示が可能であると共に、優れた応答性を有する直視型の液晶装置100を提供することができる。
【0104】
(変形例2)したがって、上記実施形態の液晶装置100を搭載した電子機器は、投射型表示装置1000に限定されない。例えば液晶装置100は、動画対応が要求される携帯型電話機やDVDプレーヤーやビューワー、ナビゲーターなどの各種電子機器の表示装置として好適に用いることができる。
【0105】
(変形例3)上記実施形態の液晶装置100では、素子基板10側の配向膜18および対向基板20側の配向膜29として、無機材料からなる多孔質膜を採用したが、これに限定されない。例えば、凹凸が多い素子基板10側の配向膜18を無機材料からなる多孔質膜を採用しイオンビームを照射して凹凸の近傍に転移核発生領域を形成する。一方で対向基板20側の配向膜29は例えばポリイミドなどの有機材料を用いラビングにより配向処理を施すとしてもよい。これによれば、多孔質膜を形成する製造能力をむやみに増やさなくてもよい。
【符号の説明】
【0106】
3b…配線としての容量線、10…一方の基板としての素子基板、10a…表示領域、15…画素電極、15a…コンタクトホール、18,29…多孔質膜としての配向膜、30…スイッチング素子としてのTFT、41…柱状スペーサー、50…液晶層、51…液晶分子、100…液晶装置、1000…電子機器としての投射型表示装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶の配向制御がOCBモードである液晶装置の製造方法、液晶装置、電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
上記液晶装置として、一対の基板間に配置されたパラレル配向型の液晶を有し、該液晶は配向方位が他の領域の配向方位と異なる局所的な異配向方位領域を有する液晶表示素子が知られている(特許文献1)。
【0003】
異配向方位領域を設けることにより、OCBモードにおけるスプレイ配向からベンド配向への初期配向転移を速く行わせることを目的としている。
【0004】
異配向方位領域を設ける方法としては、基板上の立体障害、柱状構造体、錐状構造体、山形構造体を利用する方法が挙げられている。より具体的には少なくとも一方の基板上に設けられたブラックマトリクスやアクティブ素子、アクティブ素子に接続される配線などの凹凸、柱状スペーサーを覆う配向膜の配向処理を異なった方向からラビングする方法、あるいは異なった方向から光配向処理する方法が挙げられている。これにより、立体障害、柱状構造体、錐状構造体、山形構造体を含む周辺領域において異配向方位領域を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−5189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の異配向方位領域を設ける方法において、凹凸の形状だけでは円滑にスプレイ配向からベンド配向に転移させるために、高電圧が必要であり、また、ラビングや光配向では部分的にパターニングする必要があるため表示品質の低下やプロセス負荷が生じるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例の液晶装置の製造方法は、一対の基板間に液晶層を挟持し、前記液晶層の配向状態をスプレイ配向からベンド配向に初期配向転移させる液晶装置の製造方法であって、表示領域において凹凸を有する少なくとも一方の基板を用意する工程と、少なくとも前記表示領域を覆うように無機材料からなる多孔質膜を形成する工程と、前記多孔質膜に対して第1の方向からイオンビームを照射して第1の配向処理を施した後に、前記第1の方向と異なる第2の方向からイオンビームを照射して第2の配向処置を施す工程とを備え、前記第2の配向処理は、前記スプレイ配向を規定する配向処理であることを特徴とする。
【0009】
この方法によれば、凹凸を覆う多孔質膜に対して第2の方向からイオンビームを照射したときに、凹凸の影となるイオンビームが照射されない領域には、第2の方向と異なる第1の方向からイオンビームが照射された領域の一部が残存する。有機材料からなる配向膜を異なる方向からラビング処理することや光照射することによって、異配向方位領域を形成する場合に比べて、無機材料である多孔質膜の凹凸付近にイオンビームによって配向規制力が高いスプレイ配向領域を容易に形成できると共に、スプレイ配向処理と異なる方向に配向処理が均一に施された領域すなわち転移核が発生し易い領域を容易に形成することができる。ゆえに、スプレイ配向からベンド配向に円滑に初期配向移転させる転移核発生領域を備えた液晶装置を製造することができる。
【0010】
[適用例2]上記適用例の液晶装置の製造方法において、前記第1の配向処理は、前記第2の配向処理に比べて液晶分子のプレチルト角が増加する方向から前記多孔質膜に前記イオンビームを照射することを特徴とする。
この方法によれば、第1の配向処理によりベンド配向状態に自由エネルギーが近い配向処理が多孔質膜に施される。したがって、スプレイ配向からベンド配向への移転がより円滑に進むため、液晶層に印加される転移電圧を低下させることができる。
【0011】
[適用例3]上記適用例の液晶装置の製造方法において、前記第1の配向処理は、前記多孔質膜の膜面に対して概法線方向から前記イオンビームを照射する垂直配向処理であるとしてもよい。
この方法によれば、スプレイ配向からベンド配向への移転がより円滑に進む液晶装置を製造することができる。
【0012】
[適用例4]上記適用例の液晶装置の製造方法において、前記第1の配向処理は、前記第2の配向処理における液晶分子の配向方位に対して異なる方向から前記多孔質膜に前記イオンビームを照射するとしてもよい。
この方法によれば、スプレイ配向における配向方位に対して異なる配向方位を有するツイスト配向(転移核)が形成され、ベンド配向へ転移させるために液晶分子に与えるエネルギーすなわち転移電圧を低下させることができる。
【0013】
[適用例5]本適用例の液晶装置は、一対の基板間に液晶層を挟持し、前記液晶層の配向状態をスプレイ配向からベンド配向に初期配向転移させる液晶装置であって、少なくとも一方の基板の表示領域に設けられた凹凸と、少なくとも前記表示領域を覆うように設けられた無機材料からなる多孔質膜と、前記凹凸とその周辺を覆う前記多孔質膜の少なくとも一部において、前記スプレイ配向を規定する配向処理とは異なる配向処理がイオンビームを照射することにより施されていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、有機材料からなる配向膜を異なる方向からラビング処理することや光照射することによって形成された異配向方位領域を有する場合に比べて、無機材料である多孔質膜の凹凸付近にイオンビームを照射することにより、スプレイ配向処理と異なる方向に配向処理が均一に施された領域すなわち転移核が発生し易い領域が設けられている。ゆえに、スプレイ配向からベンド配向に円滑に初期配向移転させる転移核発生領域を備えた液晶装置を提供することができる。
【0015】
[適用例6]上記適用例の液晶装置において、前記異なる配向処理が、前記スプレイ配向を規定する配向処理に対して、前記多孔質膜の表面における液晶分子のプレチルト角または配向方位を異ならせるものであることを特徴とする。
この構成によれば、スプレイ配向とベンド配向との間においてよりベンド配向状態に自由エネルギーが近い状態の転移核発生領域が凹凸付近の多孔質膜に設けられ、スプレイ配向からベンド配向への移転がより円滑に進むため、液晶層に印加される転移電圧を低下させた液晶装置を提供することができる。
【0016】
[適用例7]上記適用例の液晶装置において、前記凹凸が、スイッチング素子、配線、画素電極のうちの少なくとも1つによって構成されることを特徴とする。
この構成によれば、転移核発生領域を形成するための凹凸を新たに設ける必要がなく、基板上に設けられたスイッチング素子、配線、画素電極を利用して転移核発生領域を設けることができる。
【0017】
[適用例8]上記適用例の液晶装置において、前記凹凸が、前記画素電極に設けられたコンタクトホールであることを特徴とする。
この構成によれば、画素電極のコンタクトホールを利用して移転核発生領域を設けることができ、画素内において初期配向転移が円滑に進む。
【0018】
[適用例9]上記適用例の液晶装置において、前記凹凸が、前記液晶層の厚みを規定する柱状スペーサーであるとしてもよい。
この構成によれば、コンタクトホールよりも段差が大きな凹凸としての柱状スペーサーを利用して転移核発生領域を設けることができる。
【0019】
[適用例10]上記適用例の液晶装置において、前記異なる配向処理が施された部分の少なくとも一部が遮光領域内にあることが好ましい。
この構成によれば、異なる配向処理が施された部分すなわち転移核発生領域が設けられた部分は、液晶分子の配向状態がスプレイ配向と異なる配向状態であるため、光漏れを起こし易い。したがって、異なる配向処理が施された部分の少なくとも一部を遮光領域内に位置させることで、光漏れを低減することができる。すなわち、初期配向転移が円滑であると共に、すぐれた光学特性を有する液晶装置を提供できる。
【0020】
[適用例11]上記適用例の液晶装置において、前記多孔質膜の屈折率が部分的に空気層あるいは真空層を含むことが好ましい。
この構成によれば、多孔質膜をイオンビームを使用して表面処理する際に、カスケードによる分子の変移およびスパッタ分子の再付着により、多孔質膜の空孔が埋められ膜厚方向に深い凹凸形状が形成されるため、高プレチルト角を容易に発現することができる。
【0021】
[適用例12]本適用例の電子機器は、上記適用例の液晶装置を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、スプレイ配向からベンド配向への初期配向転移が円滑に行われ、すぐれた応答性などの光学特性を有する見栄えのよい電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】液晶装置の構成を示す概略図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のH−H'線で切った断面図。
【図2】液晶装置の電気的な構成を示す等価回路図。
【図3】(a)および(b)はOCBモードの液晶分子の配向状態を示す概略図。
【図4】(a)は実施例1の画素の構成を示す概略平面図、(b)は(a)のA−A'線で切った概略断面図。
【図5】(a)〜(d)は実施例1の液晶装置の製造方法を示す概略図。
【図6】(a)は実施例2の画素の構成を示す概略平面図、(b)は(a)のB−B'線で切った概略断面図。
【図7】(a)〜(c)は実施例2の液晶装置の製造方法を示す概略図。
【図8】(a)は実施例3の画素の構成を示す概略平面図、(b)は(a)のC−C'線で切った概略断面図。
【図9】(a)および(b)は実施例3の液晶装置の製造方法を示す概略図。
【図10】(a)〜(c)は実施例4の液晶装置の製造方法を示す概略図。
【図11】(a)は実施例5の画素の構成を示す概略平面図、(b)は(a)のD−D'線で切った概略断面図。
【図12】(a)〜(d)は実施例5の液晶装置の製造方法を示す概略図。
【図13】電子機器としての投射型表示装置の構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、使用する図面は、説明する部分が認識可能な状態となるように、適宜拡大または縮小して表示している。
【0024】
(第1実施形態)
本実施形態では、薄膜トランジスター(Thin Film Transistor;TFT)を画素のスイッチング素子として備えたアクティブマトリクス型の液晶装置を例に挙げて説明する。この液晶装置は、例えば後述する投射型表示装置(液晶プロジェクター)の光変調手段(ライトバルブ)として好適に用いることができるものである。
【0025】
<液晶装置>
まず、本実施形態の液晶装置について図1〜図3を参照して説明する。図1は液晶装置の構成を示す概略図であり、同図(a)は正面図、同図(b)は同図(a)のH−H'線で切った断面図である。
【0026】
図1(a)および(b)に示すように、本実施形態の液晶装置100は、一対の基板としての素子基板10および対向基板20と、これら一対の基板によって挟持された液晶層50とを有する。
素子基板10は対向基板20よりも一回り大きく、両基板は、シール材52を介して接合され、その隙間に正の誘電異方性を有する液晶が封入されて液晶層50を構成している。
【0027】
同図(a)に示すように、素子基板10の1辺部に沿ってデータ線駆動回路101が設けられ、これに電気的に接続された複数の端子部102が配列している。該1辺部と直交し互いに対向する他の2辺部には、該2辺部に沿って走査線駆動回路104が設けられている。対向基板20を挟んで該1辺部と対向する他の1辺部には、2つの走査線駆動回路104を繋ぐ複数の配線105が設けられている。
【0028】
額縁状に配置されたシール材52の内側には、同じく額縁状に見切り部53が設けられている。見切り部53は、遮光性を有する金属材料あるいは樹脂材料からなり、見切り部53の内側が複数の画素を有する表示領域10aとなっている。
【0029】
同図(b)に示すように、素子基板10の液晶層50側の表面には、画素ごとに設けられた画素電極15およびスイッチング素子としての薄膜トランジスター30と、信号配線と、これらを覆う配向膜18とが形成されている。
【0030】
対向基板20の液晶層50側の表面には、見切り部53と、これを覆うように成膜された共通電極23と、共通電極23を覆う配向膜29とが形成されている。
【0031】
これらの配向膜18および配向膜29は、無機材料からなる多孔質膜であって、多孔質膜の表面に所定の方向からイオンビームを照射することにより、配向処理が施されている。詳しい、配向処理の方法については後述する実施例において述べる。
【0032】
対向基板20に設けられた共通電極23は、同図(a)に示すように対向基板20の四隅に設けられた上下導通部106により素子基板10側の配線に電気的に接続している。
【0033】
図2は、液晶装置の電気的な構成を示す等価回路図である。図2に示すように、液晶装置100は、少なくとも表示領域10aにおいて互いに絶縁されて直交する信号線としての複数の走査線3aと複数のデータ線6aとを有する。また、走査線3aに対して一定の間隔を置いて平行するように配置された容量線3bを有する。
【0034】
走査線3aとデータ線6aならびに容量線3bにより格子状に区画された領域に、画素電極15と、画素電極15をスイッチング制御するスイッチング素子としてのTFT(Thin Film Transistor:薄膜トランジスター)30と、保持容量36とが設けられ、これらが画素を構成している。すなわち、画素は、マトリクス状に配置されている。
【0035】
走査線3aはTFT30のゲートに電気的に接続され、データ線6aはTFT30のソースに電気的に接続されている。画素電極15はTFT30のドレインに電気的に接続されている。
データ線6aはデータ線駆動回路101(図1参照)に接続されており、データ線駆動回路101から供給される画像信号D1,D2,…,Dnを画素に供給する。走査線3aは走査線駆動回路104(図1参照)に接続されており、走査線駆動回路104から供給される走査信号SC1,SC2,…,SCmを各画素に供給する。データ線駆動回路101からデータ線6aに供給される画像信号D1〜Dnは、この順に線順次で供給してもよく、互いに隣接する複数のデータ線6a同士に対してグループごとに供給してもよい。走査線駆動回路104は、走査線3aに対して、走査信号SC1〜SCmを所定のタイミングでパルス的に線順次で供給する。
【0036】
液晶装置100は、スイッチング素子であるTFT30が走査信号SC1〜SCmの入力により一定期間だけオン状態とされることで、データ線6aから供給される画像信号D1〜Dnが所定のタイミングで画素電極15に書き込まれる構成となっている。そして、画素電極15を介して液晶層50に書き込まれた所定レベルの画像信号D1〜Dnは、画素電極15と液晶層50を介して対向配置された共通電極23との間で一定期間保持される。
保持された画像信号D1〜Dnがリークするのを防止するため、画素電極15と共通電極23との間に形成される液晶容量と並列に保持容量36が接続されている。保持容量36は、TFT30のドレインと容量線3bとの間に設けられている。
【0037】
図3(a)および(b)はOCBモードの液晶分子の配向状態を示す概略図である。本実施形態の液晶装置100は、配向状態がスプレイ配向とベンド配向のうち一方から他方へ転移可能な液晶層50を備えており、その駆動モードはOCB(Optically Compensated Birefringence)モードと呼ばれている。
【0038】
図3(a)に示すように、OCBモードでは、その初期状態(非動作時)において、液晶分子51がスプレイ状に開いた配向状態(スプレイ配向)になっており、動作時には、図3(b)に示すように液晶分子51が弓なりに曲がった配向状態(ベンド配向)になっている。そして、動作時にベンド配向の曲がり度合いで透過率を変調することで、動作の高速応答性を実現している。
【0039】
OCBモードの場合、電源遮断時における液晶分子51の配向状態が図3(a)に示すスプレイ配向であるため、電源投入時にある閾値以上の電圧(転移電圧)を液晶層50に印加する。これにより、図3(a)に示す初期のスプレイ配向から、図3(b)に示す動作時のベンド配向に液晶分子51の配向状態を転移させる、いわゆる初期配向転移操作が必要となる。初期配向転移が不十分な場合には、表示不良や所望の高速応答性が得られないおそれがある。そこで本実施形態の液晶装置100では、画素の構成を利用した配向処理を施すことにより、簡素な構成にも係らず、円滑な初期配向転移を実現した。以降、実施例を挙げて説明する。
【0040】
(実施例1)
図4(a)は実施例1の画素の構成を示す概略平面図、図4(b)は同図(a)のA−A'線で切った概略断面図、図5(a)〜(d)は実施例1の液晶装置の製造方法を示す概略図である。
【0041】
図4(a)に示すように、実施例1の画素G1は、互いに絶縁された状態で交差する走査線3aとデータ線6aとにより区画された領域に設けられた矩形状の画素電極15と、画素電極15をスイッチング制御するTFT30とを有している。
【0042】
TFT30は、走査線3aとデータ線6aの交差点付近の走査線3a上に設けられている。TFT30はゲートを挟んで形成されたソース、ドレインの3つの領域を有する半導体層30aを備え、ソースにはデータ線6aから延出されたソース電極30sが設けられている。また、ドレインには平面視で略四角形のドレイン電極30dが設けられている。ドレイン電極30dは画素電極15側に拡張された拡張部30eを有する。画素電極15にはドレイン電極30dと電気的な接続をとるための平面視で略円形のコンタクトホール15aがドレイン電極30dと重なる位置に設けられている。
【0043】
容量線3bは半導体層30aのドレイン側近傍において走査線3aと平行するように設けられている。また、ドレイン電極30の拡張部30eと重なる拡幅部を有している。
【0044】
図4(b)に示すように、素子基板10上には、まず、走査線3a、容量線3bが例えばアルミなどの低抵抗金属配線材料を用いて形成されている。これらの走査線3a、容量線3bを覆うように例えば酸化シリコンなどからなる絶縁膜11が設けられている。
【0045】
走査線3aを覆った絶縁膜11上に半導体層30aが設けられている。半導体層30aの厚みはおよそ50nmである。走査線3aを覆った部分がゲートであって、これに対向する走査線3aがゲート電極30gの役目を果たしている。すなわち、TFT30はボトムゲート構造となっている。よって、以降、絶縁膜11を他の絶縁膜と区別するためゲート絶縁膜11と呼ぶ。
【0046】
前述したように、半導体層30aのソースに重なるようにソース電極30sが設けられ、同じくドレインに重なるようにドレイン電極30dが設けられている。これらのソース電極30s、ドレイン電極30dもまたアルミなどの低抵抗金属配線材料を用いて形成されている。
これらの低抵抗金属配線材料を用いて形成された走査線3a、容量線3b、ソース電極30s(データ線6a)、ドレイン電極30dの厚みはおよそ500〜600nmである。
【0047】
これらの半導体層30a、ソース電極30s、ドレイン電極30dを覆うように層間絶縁膜12が設けられている。層間絶縁膜12は、半導体層30a、ソース電極30s、ドレイン電極30dが設けられてできた表面の段差を緩和するためにおよそ1〜2μm程度の厚みで設けられている。
【0048】
ドレイン電極30dを覆う層間絶縁膜12の部分に孔が形成され、当該孔を埋めるように例えばITO(Indium Tin Oxide)などの透明導電膜が成膜され、これをパターニングすることにより、コンタクトホール15aを有する画素電極15が形成される。
【0049】
ゲート絶縁膜11を挟んで対向する容量線3bとドレイン電極30dの拡張部30eとにより保持容量36が構成されている。
【0050】
層間絶縁膜12、画素電極15、コンタクトホール15aを覆うように配向膜18が設けられている。
【0051】
配向膜18は、前述したように無機材料からなる多孔質膜である。その形成方法としては、例えば金属アルコキシドを主原料とするゾル溶液をスピンコート、ロールコート、あるいはフレキソ印刷などの転写法、定量吐出法、液滴吐出法(インクジェット法)などを用いて、少なくとも表示領域10aを覆うように塗布する。そして、加熱乾燥させることにより成膜する方法が挙げられる。
金属アルコキシドは、金属をMとしアルキル基をRとすると、一般式;M(OR)nで表すことができる。金属Mとしては、Mg、Al、Si、Ti、V、Zn、Sr、In、Sn、La等が挙げられる。アルキル基Rとしては、C1〜C5のアルキル基が挙げられる。
本実施形態では、Si(シリコン)のアルコキシドを用いて酸化シリコンからなる多孔質膜を形成した。その厚みはおよそ50〜100nmである。
【0052】
多孔質膜は部分的に空気層あるいは真空層を含んでおり、イオンビームを使用して表面処理する際に、カスケードによる分子の変移およびスパッタ分子の再付着により、多孔質膜の空孔が埋められ膜厚方向に深い凹凸形状が形成されるため、空隙率が高いほど高プレチルト角を容易に発現することができる。その一方で、空隙率が低いほど膜としての強度を保ち難くなる。酸化シリコンからなる多孔質膜は、空隙率を50%程度とすると、屈折率が1.46から1.23へ低下する。空隙率の指標となる屈折率は、空隙率50%近傍の1.2〜1.3が好ましい。Al2O3の場合は空隙率50%程度で屈折率が1.63から1.32となる、またMgOの場合は同じく空隙率50%程度で屈折率が1.74から1.37となり多孔質膜材料として好適に用いられる。
【0053】
このような多孔質膜の表面に例えばAr(アルゴン)やN(窒素)などのイオンビームを均一化して照射することにより、照射された多孔質膜の表面がエッチングされ、1軸配向性に優れた微細な配向構造(凹凸構造)を作り出すことができる。多孔質膜の表面に対してイオンビームが入射する角度を規定することにより、液晶分子のプレチルト角(極角)と配向軸(方位角)を規定することができる。
【0054】
本実施形態のスプレイ配向における素子基板10側の液晶分子の配向方向は、図4(a)のデータ線6aに沿った矢印で示す方向となっている。矢印の先端側に基板面から開く(チルトする)ように液晶分子が配向している。また、対向基板20側のスプレイ配向における液晶分子の配向方向も同様である(図3(a)参照)。
【0055】
次に、実施例1の液晶装置の製造方法における多孔質膜にイオンビームを照射して配向処理を施す工程(配向処理工程)について、図5(a)〜(d)を参照して説明する。
【0056】
まず、図5(a)に示すように、配向膜18の表面に対して第1の方向としての法線方向からイオンビーム(IB)を照射する。これによれば、配向膜18の表面において液晶分子51のプレチルト角θがほぼ90度の垂直配向処理を施すことができる。画素電極15に設けられたコンタクトホール15aの内側部分の配向膜18にも垂直配向処理が施される。
【0057】
次に、図5(b)に示すように、配向方向に対して180度反対側の向き(第2の方向)からイオンビーム(IB)を照射する。このときの、配向膜18の表面に対するイオンビーム(IB)の入射角度は、図5(c)に示すようにおよそ45度とした。これにより、スプレイ配向における配向軸(方位角)を規定すると共に、配向膜18に対する液晶分子51のプレチルト角θをおよそ10度とすることができる。
【0058】
イオンビーム(IB)の照射条件としては、例えばArイオンビームの場合、加速電圧を500eVとし、ドーズ量を5.0E+15ions/cm2とする。
【0059】
図5(d)に示すように、画素電極15に設けられた凹凸としてのコンタクトホール15aには、コンタクトホール15a以外の膜面18aと同じ配向方向となる膜面18bと、入射角45度でイオンビーム(IB)を照射したときに影となって照射されず、垂直配向処理が残存する膜面18cとが混在する。
【0060】
膜面18cにおける液晶分子51のプレチルト角θは、膜面18a,18bのプレチルト角θよりも大きくなる。したがって、画素電極15に転移電圧を印加したときに、スプレイ配向からベンド配向への転移が膜面18cを起点(トリガー)にして進行する。すなわち、コンタクトホール15aのような凹凸部分にスプレイ配向と異なる配向処理が施された転移核発生領域を設けた。
【0061】
スプレイ配向からベンド配向への転移を円滑に進めるため、転移核発生領域の大きさはできるだけ大きい方が望ましい。したがって、コンタクトホール15aの大きさ、つまり層間絶縁膜12の孔の大きさは、少なくとも層間絶縁膜12の膜厚よりも大きい方が好ましく、この場合は、およそ2μmとなっている。
【0062】
転移核発生領域となった膜面18cは、平面視では円弧に囲まれているが、コンタクトホール15aの底面と内壁面とを含むものである。したがって、実際の膜面18cの液晶分子の配向状態は、垂直配向と言っても底面と内壁面にアンカリングされてプレチルトするため、近傍の液晶分子のプレチルトの影響を受けて必ずしも一様にならない。この点において、スプレイ配向からベンド配向への転移に要するエネルギーをむしろ小さくすると考えられる。なお、コンタクトホール15aの設け方とイオンビームの入射角度によっては、膜面18cが底面を含まないことも有り得る。
【0063】
(実施例2)
図6(a)は実施例2の画素の構成を示す概略平面図、図6(b)は同図(a)のB−B'線で切った概略断面図、図7(a)〜(c)は実施例2の液晶装置の製造方法を示す概略図である。なお、実施例1と同じ構成には同じ符号を付して詳細の説明は省略する。
【0064】
図6(a)に示すように、実施例2の画素G2は、実施例1の画素G1の構成に加えて、容量線3bと重なる位置において画素電極15上に柱状スペーサー41を設けた点が異なっている。
【0065】
柱状スペーサー41は、例えば感光性樹脂材料を素子基板10上に塗布して、フォトリソグラフィー法により所定の形状(この場合は円柱状)となるようにパターニングされたものである。そして、層間絶縁膜12、画素電極15、コンタクトホール15a、そして柱状スペーサー41を覆うように多孔質膜である配向膜18を形成する。多孔質膜の形成方法は、実施例1と同じである。
【0066】
また、柱状スペーサー41は、素子基板10と対向基板20とをシール材52を介して接合したときに、素子基板10側に設けられた柱状スペーサー41の頭頂部が対向基板20に当接して、対向配置された素子基板10と対向基板20との隙間、すなわち液晶層50の厚みを規定するものである。液晶層50の厚みは、用いられる液晶の物性と求められる光学特性に応じて設定されるものではあるが、所謂ネマチック液晶を採用したOCBモードでは、通常4〜6μm程度である。
【0067】
実施例2では、このような柱状スペーサー41を画素G2ごとに設ける構成としている。
柱状スペーサー41自体が何らの電気光学的な性質を有するものではないので、画素G2内に配置するにあたっては、画素G2の開口率を低下させないように、遮光性の容量線3bに重なるように設けられる。
【0068】
実施例2の液晶装置の製造方法における配向処理工程について、図7(a)〜(c)を参照して説明する。
【0069】
まず、図7(a)に示すように、配向膜18の表面に対して法線方向からイオンビーム(IB)を照射して垂直配向処理を施す。そして、図7(b)に示すように、配向方向に対して180度反対側の向きからイオンビーム(IB)を入射角45度で照射する。
【0070】
凹凸としての柱状スペーサー41の近傍では、配向膜18においてイオンビーム(IB)が照射されない影となった膜面18dが生ずる。
【0071】
したがって、図7(c)に示すように、柱状スペーサー41以外の通常の膜面18aは、スプレイ配向を規定する配向処理が施され、影となった膜面18dには垂直配向処理が施される。膜面18dは、膜面18aと連続した平面と柱状スペーサー41の側面において影となった部分を含み、そこに実施例1と同様な転移核発生領域が形成される。柱状スペーサー41の外形形状は、コンタクトホール15aに比べて大きい。したがって、影の部分の面積が拡大され、より大きな面積を有する転移核発生領域が形成される。すなわち、実施例1に比べてより円滑な初期配向転移を実現できる。
【0072】
実施例2の画素G2は、実施例1の画素G1と同じコンタクトホール15aを備えているので、コンタクトホール15aを覆う配向膜18の一部にも転移核発生領域を有していることは言うまでもないが、柱状スペーサー41の周辺部に形成された転移核発生領域のみでも十分にその効果を奏する。
【0073】
なお、実施例2では、柱状スペーサー41を画素G2内に1つ設けたが、これに限定されず、複数設ける構成としてもよい。また、柱状スペーサー41を素子基板10側に配置したが、もちろん対向基板20側に配置する構成としてもよい。
【0074】
(実施例3)
図8(a)は実施例3の画素の構成を示す概略平面図、同図(b)は同図(a)のC−C'線で切った概略断面図、図9(a)および(b)は実施例3の液晶装置の製造方法を示す概略図である。なお、実施例1と同じ構成には同じ符号を付して詳細の説明は省略する。
【0075】
図8(a)に示すように、実施例3の画素G3は、平面視では実施例1の画素G1と同じ構成となっている。すなわち、互いに絶縁された状態で交差する走査線3aとデータ線6aとにより区画された領域に設けられた矩形状の画素電極15と、画素電極15をスイッチング制御するTFT30とを有している。
【0076】
その一方で、図8(b)に示すように、TFT30を覆う層間絶縁膜13は、実施例1の層間絶縁膜12に比べて絶縁性が維持されるおよそ数百nm程度の膜厚を有するものであって、平坦化層の機能を有していない。それゆえに、層間絶縁膜13上に設けられた画素電極15を覆う配向膜18の表面は、TFT30や保持容量36が設けられた領域において凹凸を有する。TFT30のドレイン電極30dと画素電極15とを接続させるコンタクトホール15bは、電気的な接続がとれる例えばφ0.5μm程度の大きさとなっている。また、画素電極15を構成する透明導電膜でほとんど埋められている。
【0077】
実施例3の液晶装置の製造方法における配向処理工程について、図9(a)および(b)を参照して説明する。実施例3の配向処理工程は、TFT30や保持容量36に起因する凹凸を利用して移転核発生領域を形成している。
【0078】
図9(a)に示すように、まず、配向膜18の表面に対して法線方向からイオンビーム(IB)を照射して垂直配向処理を施す。そして、図9(b)に示すように、配向方向に対して180度反対側の向きからイオンビーム(IB)を入射角45度で照射する。
【0079】
凹凸としてのTFT30や容量線3bの近傍では、配向膜18においてイオンビーム(IB)が照射されない影となった膜面18eが生ずる。特に、半導体層30aに重なったソース電極30sおよびドレイン電極30dの部分が保持容量36による凹凸に比べて大きな段差となっている。したがって、影の部分が拡大される。
【0080】
実施例3の配向処理工程によれば、膜面18eがTFT30や保持容量36に起因する凹凸の近傍に形成されるので、画素G3内において転移核発生領域が複数個所に亘って分散されて形成される。すなわち、転移核発生領域を1箇所に設ける実施例1の画素G1に比べて、スプレイ配向からベンド配向への初期配向転移が円滑に進行する。
【0081】
実施例1〜実施例3に共通する配向処理の技術的な思想は、まずスプレイ配向における液晶分子のプレチルト角よりも大きなプレチルト角となる方向からイオンビームを照射して第1の配向処理を施す。その後に、イオンビームの入射角度を小さくしてスプレイ配向となる第2の配向処理を施すものである。
したがって、第1の配向処理は、垂直配向に限定されず、プレチルト角が大きくなる方向からイオンビームを照射すればよい。これにより配向膜18の表面の凹凸を利用して転移核発生領域を形成できる。
【0082】
また、実施例1のコンタクトホール15a、実施例2の柱状スペーサー41は、いずれも遮光性を有するドレイン電極30d、容量線3bと重なるように設けられている。これらの凹凸を利用して形成された転移核発生領域は、液晶分子の配向状態がスプレイ配向と異なるため周辺部で光漏れを起こしやすい、それゆえに転移核発生領域の少なくとも一部が遮光領域に含まれるように形成することで光漏れを低減し、所望の光学特性を確保できる。
なお、実施例3のTFT30を遮光するように、対向基板20側に画素G3を区画するブラックマトリクスを設ければ、同様の効果が得られる。
【0083】
(実施例4)
図10(a)〜(c)は実施例4の液晶装置の製造方法を示す概略図である。とりわけ、配向処理工程を説明する図である。なお、実施例1と同じ構成には同じ符号を付して詳細の説明は省略する。
【0084】
実施例4の画素の構成は、実施例1における画素G1とまったく同じである。その一方で、イオンビームの照射の仕方が異なるものである。
【0085】
図10(a)および(b)に示すように、第1の配向処理では、イオンビーム(IB)を配向膜18に対する入射角45度、且つ第2の配向処理の照射方向(照射方位)に対して60度傾いた方向から照射する。続いて第2の配向処理では、スプレイ配向を規定するように、データ線6aに沿った方向からイオンビーム(IB)を同じく入射角45度で照射する。
【0086】
これにより、図10(c)に示すように、コンタクトホール15aの部分には、スプレイ配向と異なる配向方位を有する膜面18fと、スプレイ配向と同じ配向方位を有する膜面18gと、配向方位が規定されていない膜面18hとが混在する転移核発生領域が形成される。
【0087】
したがって、スプレイ配向している液晶分子51に対して配向方位が異なる方向に配向する液晶分子51が存在することになり、コンタクトホール15aにおいて部分的に液晶分子51がツイストすることになるので、転移電圧が印加されたときにベンド配向への転移が円滑に進む。
【0088】
(実施例5)
図11(a)は実施例5の画素の構成を示す概略平面図、同図(b)は同図(a)のD−D'線で切った概略断面図、図12(a)〜(d)は実施例5の液晶装置の製造方法を示す概略図である。なお、実施例1と同じ構成には同じ符号を付して詳細の説明は省略する。
【0089】
図11(a)および(b)に示すように、実施例5の画素G5は、実施例1の画素G1の構成に加えて、画素電極15において保持容量36と重なる部分にスリット15cを設けたことを特徴とする。
【0090】
実施例5の液晶装置の製造方法における配向処理工程について、図12(a)〜(d)を参照して説明する。実施例5の配向処理工程は、スリット15cに起因する凹凸を利用して移転核発生領域を形成している。
【0091】
まず、図12(a)および(b)に示すように、第1の配向処理では、イオンビーム(IB)を配向膜18に対して入射角60度、且つ第2の配向処理におけるイオンビーム(IB)の照射方向(照射方位)に対して60度傾いた方向から照射する。
【0092】
続いて第2の配向処理では、図12(c)および(d)に示すように、イオンビーム(IB)を配向膜18に対して入射角45度、且つスプレイ配向を規定する照射方向(照射方位)から照射する。これにより、図12(d)に示すように、第2の配向処理においてスリット15cの長辺(凹凸)に沿ってイオンビーム(IB)の影となった膜面18jにプレチルト角と配向方位とが異なる転移核発生領域が形成される。
【0093】
スリット15cは遮光性を有する保持容量36に重なった位置に設けられ、長辺(凹凸)に沿って連続的に移転核発生領域が設けられているので、スプレイ配向からベンド配向へとより円滑に初期配向転移が進む。
【0094】
実施例4および実施例5は、コンタクトホール15aやスリット15cの凹凸を利用して、基本的にスプレイ配向に対して配向方位が異なる転移核発生領域を形成した。また、実施例5に示したように、配向方位を異ならせると同時にプレチルト角を異ならせてもよい。
【0095】
なお、実施例5では、矩形状のスリット15cを1つ設けたが、形状は矩形状に限定されず、また複数設ける構成としてもよい。
【0096】
また本実施形態では、画素内の構成に起因する凹凸を利用して様々な転移核発生領域を形成したが、実施例1〜実施例5に示した凹凸の例をそれぞれ組み合わせて、転移核発生領域を形成してもよい。
【0097】
以上に述べた第1実施形態によれば、スプレイ配向からベンド配向への初期配向転移をより低い転移電圧で円滑に進行させることができる転移核発生領域を備えたOCBモードの液晶装置100およびその製造方法を提供することができる。
【0098】
(第2実施形態)
次に、本実施形態の電子機器としての投射型表示装置(液晶プロジェクター)について、図13を参照して説明する。図13は電子機器としての投射型表示装置の構成を示す模式図である。
【0099】
図13に示すように、本実施形態の投射型表示装置1000は、光源1100と、2つのダイクロイックミラー1103,1104と、3つの反射ミラー1105,1106,1107と、入射レンズ1108と、リレーレンズ1109と、出射レンズ1201と、3つの光変調手段としての液晶ライトバルブ1202,1203,1204と、クロスダイクロイックプリズム1205と、投射レンズ1206とを備えている。光源1100はメタルハライド等のランプ1101とランプの光を反射するリフレクター1102とからなる。青色光・緑色光反射のダイクロイックミラー1103は、光源1100からの光束のうちの赤色光を透過させるとともに、青色光と緑色光とを反射する。透過した赤色光は反射ミラー1107で反射されて、赤色光用の液晶ライトバルブ1202に入射される。一方、ダイクロイックミラー1103で反射された光のうち緑色光は緑色光反射のダイクロイックミラー1104によって反射され、緑色光用の液晶ライトバルブ1203に入射される。一方、青色光は第2のダイクロイックミラー1104も透過する。青色光に対しては、長い光路による光損失を防ぐため、入射レンズ1108、リレーレンズ1109、出射レンズ1201を含むリレーレンズ系からなる導光手段1200が設けられ、これを介して青色光が青色光用の液晶ライトバルブ1204に入射される。各液晶ライトバルブ1202,1203,1204により変調された3つの色光はクロスダイクロイックプリズム1205に入射する。このプリズムは、4つの直角プリズムが貼り合わされ、その内面に赤色光を反射する誘電体多層膜と青色光を反射する誘電体多層膜とが十字状に形成されている。これらの誘電体多層膜によって3つの色光が合成されて、カラー画像を表す光が形成される。合成された光は、投射光学系である投射レンズ1206によってスクリーン1300上に投射され、画像が拡大されて表示される。
【0100】
各液晶ライトバルブ1202,1203,1204は、上記第1実施形態の液晶装置100と、液晶装置100の光の入射側と出射側とにそれぞれ配設された偏光素子としての偏光板(図示省略)とを備えたものである。
【0101】
このような投射型表示装置1000は、より明るいカラー画像をスクリーン1300に映し出すために、高出力な光源1100が用いられる。したがって、光源1100自体からの発熱と、各液晶ライトバルブ1202,1203,1204に入射する光によって液晶装置100が熱せられるので、図示しないファン等の冷却装置を備えて、冷却が必要な部位が冷却される。液晶装置100は、OCBモードが採用されスプレイ配向からベンド配向へと円滑に初期配向転移が進む転移核発生領域を有する。したがって、応答性に優れ動画などをスムーズに投影可能な高い表示品質を備えている。
また、液晶装置100の配向膜18(素子基板10側)および配向膜29(対向基板20側)は、それぞれ無機材料からなる多孔質膜が採用されているので、優れた耐光性を有しており、高い信頼性品質を有する投射型表示装置1000が実現されている。
【0102】
上記実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0103】
(変形例1)上記実施形態の液晶装置100の構成は、これに限定されない。例えば、対向基板20側にカラーフィルターを有する構成とする。これにより、フルカラー表示が可能であると共に、優れた応答性を有する直視型の液晶装置100を提供することができる。
【0104】
(変形例2)したがって、上記実施形態の液晶装置100を搭載した電子機器は、投射型表示装置1000に限定されない。例えば液晶装置100は、動画対応が要求される携帯型電話機やDVDプレーヤーやビューワー、ナビゲーターなどの各種電子機器の表示装置として好適に用いることができる。
【0105】
(変形例3)上記実施形態の液晶装置100では、素子基板10側の配向膜18および対向基板20側の配向膜29として、無機材料からなる多孔質膜を採用したが、これに限定されない。例えば、凹凸が多い素子基板10側の配向膜18を無機材料からなる多孔質膜を採用しイオンビームを照射して凹凸の近傍に転移核発生領域を形成する。一方で対向基板20側の配向膜29は例えばポリイミドなどの有機材料を用いラビングにより配向処理を施すとしてもよい。これによれば、多孔質膜を形成する製造能力をむやみに増やさなくてもよい。
【符号の説明】
【0106】
3b…配線としての容量線、10…一方の基板としての素子基板、10a…表示領域、15…画素電極、15a…コンタクトホール、18,29…多孔質膜としての配向膜、30…スイッチング素子としてのTFT、41…柱状スペーサー、50…液晶層、51…液晶分子、100…液晶装置、1000…電子機器としての投射型表示装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の基板間に液晶層を挟持し、前記液晶層の配向状態をスプレイ配向からベンド配向に初期配向転移させる液晶装置の製造方法であって、
表示領域において凹凸を有する少なくとも一方の基板を用意する工程と、
少なくとも前記表示領域を覆うように無機材料からなる多孔質膜を形成する工程と、
前記多孔質膜に対して第1の方向からイオンビームを照射して第1の配向処理を施した後に、前記第1の方向と異なる第2の方向からイオンビームを照射して第2の配向処置を施す工程とを備え、
前記第2の配向処理は、前記スプレイ配向を規定する配向処理であることを特徴とする液晶装置の製造方法。
【請求項2】
前記第1の配向処理は、前記第2の配向処理に比べて液晶分子のプレチルト角が増加する方向から前記多孔質膜に前記イオンビームを照射することを特徴とする請求項1に記載の液晶装置の製造方法。
【請求項3】
前記第1の配向処理は、前記多孔質膜の膜面に対して概法線方向から前記イオンビームを照射する垂直配向処理であることを特徴とする請求項2に記載の液晶装置の製造方法。
【請求項4】
前記第1の配向処理は、前記第2の配向処理における液晶分子の配向方位に対して異なる方向から前記多孔質膜に前記イオンビームを照射することを特徴とする請求項1または2に記載の液晶装置の製造方法。
【請求項5】
一対の基板間に液晶層を挟持し、前記液晶層の配向状態をスプレイ配向からベンド配向に初期配向転移させる液晶装置であって、
少なくとも一方の基板の表示領域に設けられた凹凸と、
少なくとも前記表示領域を覆うように設けられた無機材料からなる多孔質膜と、
前記凹凸とその周辺を覆う前記多孔質膜の少なくとも一部において、前記スプレイ配向を規定する配向処理とは異なる配向処理がイオンビームを照射することにより施されていることを特徴とする液晶装置。
【請求項6】
前記異なる配向処理が、前記スプレイ配向を規定する配向処理に対して、前記多孔質膜の表面における液晶分子のプレチルト角または配向方位を異ならせるものであることを特徴とする請求項5に記載の液晶装置。
【請求項7】
前記凹凸が、スイッチング素子、配線、画素電極のうちの少なくとも1つによって構成されることを特徴とする請求項5または6に記載の液晶装置。
【請求項8】
前記凹凸が、前記画素電極に設けられたコンタクトホールであることを特徴とする請求項7に記載の液晶装置。
【請求項9】
前記凹凸が、前記液晶層の厚みを規定する柱状スペーサーであることを特徴とする請求項5または6に記載の液晶装置。
【請求項10】
前記異なる配向処理が施された部分の少なくとも一部が遮光領域内にあることを特徴とする請求項5乃至9のいずれか一項に記載の液晶装置。
【請求項11】
前記多孔質膜の屈折率が部分的に空気層あるいは真空層を含むことを特徴とする請求項5乃至10のいずれか一項に記載の液晶装置。
【請求項12】
請求項5乃至11のいずれか一項に記載の液晶装置を備えたことを特徴とする電子機器。
【請求項1】
一対の基板間に液晶層を挟持し、前記液晶層の配向状態をスプレイ配向からベンド配向に初期配向転移させる液晶装置の製造方法であって、
表示領域において凹凸を有する少なくとも一方の基板を用意する工程と、
少なくとも前記表示領域を覆うように無機材料からなる多孔質膜を形成する工程と、
前記多孔質膜に対して第1の方向からイオンビームを照射して第1の配向処理を施した後に、前記第1の方向と異なる第2の方向からイオンビームを照射して第2の配向処置を施す工程とを備え、
前記第2の配向処理は、前記スプレイ配向を規定する配向処理であることを特徴とする液晶装置の製造方法。
【請求項2】
前記第1の配向処理は、前記第2の配向処理に比べて液晶分子のプレチルト角が増加する方向から前記多孔質膜に前記イオンビームを照射することを特徴とする請求項1に記載の液晶装置の製造方法。
【請求項3】
前記第1の配向処理は、前記多孔質膜の膜面に対して概法線方向から前記イオンビームを照射する垂直配向処理であることを特徴とする請求項2に記載の液晶装置の製造方法。
【請求項4】
前記第1の配向処理は、前記第2の配向処理における液晶分子の配向方位に対して異なる方向から前記多孔質膜に前記イオンビームを照射することを特徴とする請求項1または2に記載の液晶装置の製造方法。
【請求項5】
一対の基板間に液晶層を挟持し、前記液晶層の配向状態をスプレイ配向からベンド配向に初期配向転移させる液晶装置であって、
少なくとも一方の基板の表示領域に設けられた凹凸と、
少なくとも前記表示領域を覆うように設けられた無機材料からなる多孔質膜と、
前記凹凸とその周辺を覆う前記多孔質膜の少なくとも一部において、前記スプレイ配向を規定する配向処理とは異なる配向処理がイオンビームを照射することにより施されていることを特徴とする液晶装置。
【請求項6】
前記異なる配向処理が、前記スプレイ配向を規定する配向処理に対して、前記多孔質膜の表面における液晶分子のプレチルト角または配向方位を異ならせるものであることを特徴とする請求項5に記載の液晶装置。
【請求項7】
前記凹凸が、スイッチング素子、配線、画素電極のうちの少なくとも1つによって構成されることを特徴とする請求項5または6に記載の液晶装置。
【請求項8】
前記凹凸が、前記画素電極に設けられたコンタクトホールであることを特徴とする請求項7に記載の液晶装置。
【請求項9】
前記凹凸が、前記液晶層の厚みを規定する柱状スペーサーであることを特徴とする請求項5または6に記載の液晶装置。
【請求項10】
前記異なる配向処理が施された部分の少なくとも一部が遮光領域内にあることを特徴とする請求項5乃至9のいずれか一項に記載の液晶装置。
【請求項11】
前記多孔質膜の屈折率が部分的に空気層あるいは真空層を含むことを特徴とする請求項5乃至10のいずれか一項に記載の液晶装置。
【請求項12】
請求項5乃至11のいずれか一項に記載の液晶装置を備えたことを特徴とする電子機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−22301(P2011−22301A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166432(P2009−166432)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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