説明

液晶配向膜、液晶配向剤、及び液晶表示素子

【課題】光配向処理で主鎖の配向を制御し、液晶のプレチルト角を任意に付与することのできる液晶配向剤、該液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜及び該液晶配向膜を有する液晶表示素子を提供する。
【解決手段】液晶表示素子用の液晶配向膜を形成するための液晶配向剤であって、ポリアミック酸を塗布した基板に偏光を制御した光を照射したのち、その膜をイミド化することにより、ポリイミドの主鎖を液晶配向膜において特定の方向に配向させ、液晶のプレチルト角を発現させる液晶配向剤を調製し、該液晶配向剤を用いて液晶配向膜を形成するとともに、該液晶配向膜を有する液晶表示素子を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラビング処理を施さないで、偏光を制御した光を照射してポリアミック酸膜の配向処理を施したあと、イミド化することで、ポリイミド膜におけるポリイミドの主鎖を特定方向に配向させ、液晶のプレチルト角を発現させることができる液晶配向膜、それを形成することができる液晶配向剤、及び該液晶配向膜を有する液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、ノートパソコンやデスクトップパソコンのモニターをはじめ、ビデオカメラのビューファインダー、投写型のディスプレイ等の様々な液晶表示装置に使われており、最近ではテレビにも用いられるようになってきた。さらに、光プリンターヘッド、光フーリエ変換素子、ライトバルブ等のオプトエレクトロニクス関連素子としても利用されている。従来の液晶表示素子としては、ネマティック液晶を用いた表示素子が主流であり、液晶層における一方の基板側の液晶の配向方向と他方の基板側の液晶の配向方向とが90度の角度でねじれているTN(Twisted Nematic)型液晶表示素子、前記配向方向が通常180度以上の角度でねじれているSTN(Super Twisted Nematic)型液晶表示素子、薄膜トランジスタを使用したいわゆるTFT(Thin−film−transistor)型液晶表示素子が実用化されている。
【0003】
しかしながら、これらの液晶表示素子は、画像が適正に視認できる視野角が狭く、斜め方向から見たときに、輝度やコントラストが低下することがあり、また中間調で輝度反転を生じることがある。近年、この視野角の問題については、光学補償フィルムを用いたTN型液晶表示素子、垂直配向と突起構造物の技術を併用したMVA(Multi−domain Vertical Alignment)型液晶表示素子、又は横電界方式のIPS(In−Plane Switching)型液晶表示素子(例えば、特許文献1〜3参照。)等の技術により改良され実用化されている。
【0004】
液晶表示素子の技術の発展は、単にこれらの駆動方式や素子構造の改良のみならず、表示素子に使用される構成部材の改良によっても達成されている。表示素子に使用される構成部材のなかでも、特に液晶配向膜は、液晶表示素子の表示品位に係わる重要な要素の一つであり、表示素子の高品質化に伴って液晶配向膜の役割が年々重要になってきている。
【0005】
このような液晶配向膜には、液晶表示素子の均一な表示特性のために液晶の分子配列を均一に制御することが必要であり、そのために基板上の液晶分子を一方向に均一に配向させ、更に基板面から一定の傾斜角(プレチルト角)を発現させることが求められる。このように、基板上の液晶分子の方向を一様に並べる液晶配向膜が、液晶表示素子の製造工程において重要かつ必要不可欠な技術となっている。
【0006】
液晶配向膜は、液晶配向剤より調製される。現在、主として用いられている液晶配向剤とは、ポリアミック酸もしくは可溶性のポリイミドを有機溶剤に溶解させた溶液である。このような溶液を基板に塗布した後、加熱等の手段により成膜してポリイミド系液晶配向膜を形成する。ポリアミック酸以外の種々の液晶配向剤も検討されているが、耐熱性、耐薬品性(耐液晶性)、塗布性、液晶配向性、電気特性、光学特性、表示特性等の点から、ほとんど実用化されていない。
【0007】
工業的には、簡便で大面積の高速処理が可能なラビング法が、配向処理法として広く用いられている。ラビング法は、ナイロン、レイヨン、ポリエステル等の繊維を植毛した布を用いて液晶配向膜の表面を一方向に擦る処理であり、これによって液晶分子の一様な配
向を得ることが可能になる。しかし、ラビング法による発塵、静電気の発生等の問題点が指摘されている。
【0008】
これまで、ラビング処理により配向処理を施された液晶配向膜上における液晶の配向機構として、次の2つが提案されている。
(1)ラビング処理により発生するマイクログループに起因する表面形状効果
(2)ラビング処理により一軸配向した液晶配向膜と該液晶配向膜と接する液晶単分子層との分子間相互作用
近年では(1)の表面形状効果の寄与は比較的小さく、(2)の分子間相互作用の寄与が支配的であることが確認されている。
【0009】
一方、光を照射して配向処理を施す光配向法については、光分解法、光異性化法、光二量化法、光架橋法等多くの配向機構が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。特に光配向法はラビング法と異なり非接触の配向方法であるので、液晶の配向機構としては(2)の分子間相互作用のみが作用すると考えられる。また、光配向処理法は、非接触であるため原理的に発塵や静電気の発生が、ラビング処理より少ない。
【0010】
したがって、特に光配向法により配向処理を施された一軸配向性の良好な液晶配向膜を用いることにより、液晶配向膜に接している液晶単分子層の分子配向状態を制御して液晶表示素子としての性能を改善することが期待できる。反面、光配向法では、広い範囲のプレチルト角の制御について検討の余地が残されている。
【特許文献1】特公昭63−21907号公報
【特許文献2】特開平6−160878号公報
【特許文献3】特開平9−15650号公報
【特許文献4】特開2005−275364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、光を照射して配向処理を施す光配向材料に関するものであり、塵や静電気による不良が少なく、液晶のプレチルト角の制御が容易な液晶配向剤、該液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜及び該液晶配向膜を有する液晶表示素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、特定条件で調製した液晶配向剤から得られた液晶配向膜に、偏光を制御した光を照射して配向処理を施すことにより、主鎖の配向と液晶のプレチルト角を付与することができる液晶配向膜が得られ、該液晶配向膜を用いた液晶表示素子は、工業的に安定でプレチルト角の制御が容易であることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
本発明は、下記の構成からなる。
【0013】
[1] テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応生成物であり主鎖にアゾ基を含むポリアミック酸の膜において光の照射によって所定の方向に配向したポリアミック酸をイミド化してなる液晶配向膜において、前記テトラカルボン酸二無水物及び前記ジアミンの少なくともいずれかは側鎖構造を有し、下記式1で求められる液晶配向膜におけるポリイミドの主鎖の配向指数Δが0.03〜1.00の範囲であり、液晶配向膜を含む液晶表示素子を形成したときの液晶のプレチルト角が2〜90度の範囲であることを特徴とする液晶配向膜。
Δ=(|A‖−A⊥|)/(A‖+A⊥)×d/d’ (1)
(式(1)中、A‖は、偏光した赤外光を、液晶配向膜の表面に対して垂直に、かつポリ
イミドの主鎖の平均配向方向に対して前記赤外光の偏光方向が平行になるように液晶配向膜に入射させた際の波数1360cm−1付近のイミド環のC−N−C伸縮振動による積分吸光度を表し、A⊥は、偏光した赤外光を、液晶配向膜の表面に対して垂直に、かつポリイミドの主鎖の平均配向方向に対して前記赤外光の偏光方向が垂直になるように液晶配向膜に入射させた際の波数1360cm−1付近のイミド環のC−N−C伸縮振動による積分吸光度を表し、dは液晶配向膜の膜厚を表し、d’は液晶配向膜の光配向処理された領域の実効膜厚を表す。)
【0014】
[2] 前記ポリアミック酸は、側鎖構造を有さないテトラカルボン酸二無水物と、二つのアミノの間にアゾ基を含み側鎖構造を有さないジアミンと、側鎖構造を有するジアミンとの反応生成物であり、前記側鎖構造を有するジアミンは前記ジアミンの全量に対して7〜90モル%の範囲で含まれることを特徴とする[1]記載の液晶配向膜。
【0015】
[3] 前記二つのアミノの間にアゾ基を含み側鎖構造を有さないジアミンは4,4’−ジアミノアゾベンゼンであることを特徴とする[2]に記載の液晶配向膜。
【0016】
[4] 前記テトラカルボン酸二無水物はピロメリット酸二無水物であることを特徴とする[2]に記載の液晶配向膜。
【0017】
[5] 前記側鎖構造を有するジアミンは下記一般式(I’−11)で表される化合物であることを特徴とする[2]に記載の液晶配向膜。ただし式中、R24は炭素数1〜10のアルキル又は炭素数1〜10のアルコキシを表す。
【0018】
【化1】

【0019】
[6] テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応生成物であり主鎖にアゾ基を含むポリアミック酸と溶剤とを含有し、前記ジアミンは側鎖構造を有するジアミンを含むことを特徴とする液晶配向剤。
【0020】
[7] 前記ポリアミック酸は、側鎖構造を有さないテトラカルボン酸二無水物と、二つのアミノの間にアゾ基を含み側鎖構造を有さないジアミンと、側鎖構造を有するジアミンとの反応生成物であり、前記側鎖構造を有するジアミンは前記ジアミンの全量に対して7〜90モル%の範囲で含まれることを特徴とする[6]記載の液晶配向剤。
【0021】
[8] 対向配置されている一対の基板と、前記一対の基板それぞれの対向している面の一方又は両方に形成されている電極と、前記一対の基板それぞれの対向している面に形成された液晶配向膜と、前記一対の基板間に形成された液晶層とを有する液晶表示素子において、前記一対の基板それぞれの対向している面に形成された液晶配向膜の一方又は両方が、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の液晶配向膜であることを特徴とする液晶表示素子。
【0022】
[9] テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応生成物であり主鎖にアゾ基を含むポリアミック酸の膜に光を照射して膜中のポリアミック酸を配向させる工程と、前記膜中で配向したポリアミック酸をイミド化する工程とを含み、前記ポリアミック酸をイミド化してなる液晶配向膜を製造する方法であって、前記テトラカルボン酸二無水物及び前記ジ
アミンの少なくともいずれかには側鎖構造を有する化合物を用い、膜中のポリアミック酸を配向させる工程は、
(A)前記アゾ基による幾何異性体をアンチ異性体からシン異性体に変える光を前記膜に照射して膜中のポリアミック酸を膜の表面に対して垂直な方向から見たときに所定の方向に配向させる操作と、前記ポリアミック酸の膜の表面に対して斜めの方向から光を照射して、前記膜の表面に対して斜めの方向に前記ポリアミック酸を配向させる操作とを含むか、又は
(B)前記アゾ基による幾何異性体をアンチ異性体からシン異性体に変える光を前記膜の表面に対して斜めの方向から前記膜に照射して、膜中のポリアミック酸を、膜の表面に対して垂直な方向から見たときに所定の方向に配向させ、かつ前記膜の表面に対して斜めの方向に配向させる操作を含むことを特徴とする方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、発塵や静電気の問題が少なくプレチルト角の制御が容易な液晶表示素子を提供することが可能になると共に、それを可能にした液晶配向膜及び該液晶配向膜を形成することができる液晶配向剤を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、偏光成分を制御した光等の特定の光を液晶配向剤の膜に照射して配向処理を施すことで任意の液晶のプレチルト角を誘起することができ、この液晶配向膜を用いることにより工業的に安定した液晶表示素子を実現するものである。
【0025】
本発明における液晶配向膜は、ポリアミック酸膜に対して光を照射することによって所定の方向に配向したポリアミック酸をイミド化して得られる。
【0026】
前記ポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応生成物であるポリアミック酸(polyamic acid)とその誘導体を含む。前記ポリアミック酸とは、後述する液晶配向剤において溶剤に溶解した形態であり、後述する液晶配向膜としたときに、ポリイミドを主成分とする液晶配向膜を形成することができる成分である。本発明における前記ポリアミック酸に含まれるポリアミック酸の誘導体としては、例えば可溶性ポリイミド、ポリアミック酸エステル、及びポリアミック酸アミド等が挙げられる。より具体的には1)ポリアミック酸の全てのアミノ基とカルボキシル基とが脱水閉環反応したポリイミド、2)部分的に脱水閉環反応した部分ポリイミド、3)テトラカルボン酸二無水物の一部を有機ジカルボン酸に置き換えて反応させて得られたポリアミック酸−ポリアミド共重合体、さらに4)該ポリアミック酸−ポリアミド共重合体の一部もしくは全部を脱水閉環反応させたポリアミドイミドを含む。
【0027】
前記ポリアミック酸は主鎖にアゾ基を含む。主鎖にアゾ基を含むポリアミック酸は、二つの酸無水物基又は二つのアミノを結ぶ分子構造のうち、分岐している分子構造を除く分子構造を酸又はジアミンの主鎖としたときに、この酸又はジアミンの主鎖にアゾ基を含むテトラカルボン酸二無水物又はジアミン、又はこれらの両方を原料として用いることによって得られる。アゾ基は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの両方に含まれていても良いが、一方のみに含まれていても良い。
【0028】
前記テトラカルボン酸二無水物及び前記ジアミンの少なくともいずれかは、側鎖構造を有する。側鎖構造を有するテトラカルボン酸二無水物は、前記酸の主鎖から分岐する分子構造を有する。側鎖構造を有するジアミンは、このアミンの主鎖から分岐する分子構造を有する。テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの少なくとも一方が側鎖構造を有することは、これらのテトラカルボン酸二無水物とジアミンとが反応することで、高分子主鎖に対して側鎖構造を有するポリアミック酸(分岐ポリアミック酸)を提供することができる
。側鎖構造を有するポリアミック酸を含む液晶配向剤から形成される液晶配向膜は、液晶表示素子におけるプレチルト角を大きくすることができる。
【0029】
前記側鎖構造には、例えば炭素数3以上の基が挙げられる。より具体的には、
1)置換基を有していてもよいフェニル、置換基を有していてもよいシクロヘキシルフェニレン、置換基を有していてもよいビス(シクロヘキシル)フェニレン、又は炭素数3以上のアルキル、アルケニルもしくはアルキニル、
2)置換基を有していてもよいフェニルオキシ、置換基を有していてもよいシクロヘキシルオキシ、置換基を有していてもよいビス(シクロヘキシル)オキシ、置換基を有していてもよいフェニルシクロヘキシルオキシ、置換基を有していてもよいシクロヘキシルフェニルオキシ、又は炭素数3以上のアルキルオキシ、アルケニルオキシもしくはアルキニルオキシ、
3)フェニルカルボニル、又は炭素数3以上のアルキルカルボニル、アルケニルカルボニルもしくはアルキニルカルボニル、
4)フェニルカルボニルオキシ、又は炭素数3以上のアルキルカルボニルオキシ、アルケニルカルボニルオキシもしくはアルキニルカルボニルオキシ、
5)置換基を有していてもよいフェニルオキシカルボニル、置換基を有していてもよいシクロヘキシルオキシカルボニル、置換基を有していてもよいビス(シクロヘキシル)オキシカルボニル、置換基を有していてもよいビス(シクロヘキシル)フェニルオキシカルボニル、置換基を有していてもよいシクロヘキシルビス(フェニル)オキシカルボニル、又は炭素数3以上のアルキルオキシカルボニル、アルケニルオキシカルボニルもしくはアルキニルオキシカルボニル、
6)フェニルアミノカルボニル、又は炭素数3以上のアルキルアミノカルボニル、アルケニルアミノカルボニルもしくはアルキニルアミノカルボニル、
7)炭素数3以上の環状アルキレン、
8)置換基を有していてもよいシクロヘキシルアルキレン、置換基を有していてもよいフェニルアルキレン、置換基を有していてもよいビス(シクロヘキシル)アルキレン、置換基を有していてもよいシクロヘキシルフェニルアルキレン、置換基を有していてもよいビス(シクロヘキシル)フェニルアルキレン、置換基を有していてもよいフェニルアルキルオキシ、アルキルフェニルオキシカルボニル、又はアルキルビフェニリルオキシカルボニル、
9)アルキル、フッ素置換アルキル、又はアルコキシによって置換されたフェニル又はシクロヘキシル、及び、
10)2個以上のベンゼン環又はシクロヘキサン環が単結合し、又は、−O−、−COO−、−OCO−、−CONH−若しくは炭素数1〜3のアルキレンを介して結合した、アルキル、フッ素置換アルキル、又はアルコキシによって置換された環集合基等が挙げられるが、これに限定されない。
【0030】
ここで、「置換基」としては、アルキル、アルコキシ、又はアルコキシアルキル等を挙げることができる。
【0031】
また、ビス(シクロヘキシル)、又はビス(フェニル)は、アルキレンによって中断されていてもよい。
【0032】
なお、本明細書において、「アルキル」、「アルケニル」、「アルキニル」というときは、線状でもよいし、枝分かれでもよい。
【0033】
前記テトラカルボン酸二無水物は、芳香環に直接ジカルボン酸無水物が結合した芳香族系(複素芳香環系を含む)、芳香環に直接ジカルボン酸無水物が結合していない脂肪族系(複素環系を含む)の何れの群に属するものであってもよい。ポリアミック酸は、液晶表
示素子の電気特性の低下原因となりやすいエステルやエーテル結合等の酸素や硫黄を含まない構造のものが好ましい。したがって、テトラカルボン酸二無水物も酸素や硫黄を含まない構造のものが好ましい。しかし、そのような構造を有していても電気特性に悪影響を与えない範囲内の量であれば何ら問題とはならない。
【0034】
本発明で用いることのできるテトラカルボン酸二無水物の具体例は以下のとおりである。
【0035】
【化2】



【0036】
式1−1〜1−38の中で、式1−1、式1−2、式1−7、式1−13、式1−17、式1−18、式1−19、式1−20、式1−27、式1−28、及び式1−29で表されるテトラカルボン酸二無水物が好ましい。さらに好ましくは式1−1、式1−7、式1−13、式1−17、式1−19、式1−20、及び式1−29で表されるテトラカルボン酸二無水物である。
【0037】
前記テトラカルボン酸二無水物はこれらに限定されることなく、本発明の目的が達成される範囲内で他にも種々の分子構造の化合物が存在することは言うまでもない。また、これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0038】
前記ジアミンには、光異性化反応をする構造としてのアゾ基を有するジアミン、側鎖構造を有するジアミン、及び側鎖構造を有さないジアミンが含まれ得る。本発明ではこれらのジアミンを併用する事が可能である。
【0039】
アゾ基を有するジアミンには、アミンの主鎖にアゾ基を含む種々のジアミンの一種又は二種以上を用いることができる。特に好ましくは、下記式(3)で表されるジアミンが挙げられる。
【0040】
【化3】

【0041】
側鎖構造を有するジアミンには、アミンの主鎖から分岐する側鎖構造を有する種々のジアミンの一種又は二種以上を用いることができる。側鎖構造を有するジアミンには、配向安定性、プレチルト角等の諸特性をバランス良く発現させる観点から、好ましくは、一般式(I)で表されるジアミンが挙げられる。
【0042】
【化4】

【0043】
前記一般式(I)において、2つのアミノ基はフェニル環炭素に結合しているが、好ましくは、2つのアミノ基の結合位置関係は、メタ又はパラであることが好ましい。さらに2つのアミノ基はそれぞれ、「R−R−」の結合位置を1位としたときに3位と5位、又は2位と5位に結合していることが好ましい。
【0044】
前記一般式(I)中、Rは、単結合、−O−、−COO−、−OCO−、−CO−、−CONH−又は−(CH−であり、ここでmは1〜6の整数であり、Rは、ステロイド骨格を有する基、下記一般式(II)で表される基、又はベンゼン環に結合している2つのアミノ基の位置関係がパラのときは炭素数1〜20のアルキル、もしくは該位置関係がメタのときは炭素数1〜10のアルキル又はフェニルであり、該アルキルにおいては、独立して、任意の−CH−が−CF−、−CHF−、−O−、−CH=CH−又は−C≡C−で置き換えられていてもよく、−CHが−CHF、−CHF又は−CFで置き換えられていてもよく、該フェニルの環形成炭素に結合している水素は、独立して−F、−CH、−OCH、−OCHF、−OCHF又は−OCFと置き換えられていてもよい。
【0045】
【化5】

【0046】
前記一般式(II)中、A及びAはそれぞれ独立して、単結合、−O−、−COO
−、−OCO−、−CONH−、−CH=CH−又は炭素数1〜20のアルキレンであり、R及びRはそれぞれ独立して、−F又は−CHであり、環Sは1,4−フェニレン、1,4−シクロヘキシレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、ピリジン−2,5−ジイル、ナフタレン−1,5−ジイル、ナフタレン−2,7−ジイル又はアントラセン−9,10−ジイルであり、Rは−H、−F、炭素数1〜20のアルキル、炭素数1〜20のフッ素置換アルキル、炭素数1〜20のアルコキシ、−CN、−OCHF、−OCHF又は−OCFであり、a及びbはそれぞれ独立して0〜4の整数を表し、a又はbが2〜4であるとき隣り合うA又はAは異なる基であり、c、d及びeはそれぞれ独立して0〜3の整数を表し、eが2又は3であるとき複数の環Sは同一の基であっても異なる基であってもよく、f及びgはそれぞれ独立して0〜2の整数を表し、かつc+d+e≧1である。
【0047】
一般式(I)で表されるジアミンとしては、例えば式(I−1)〜(I−11)で表されるジアミンが挙げられる。
【0048】
【化6】

【0049】
式中、R19は炭素数3〜12のアルキル又は炭素数3〜12のアルコキシが好ましく、炭素数5〜12のアルキル又は炭素数5〜12のアルコキシがさらに好ましい。また、R20は炭素数1〜10のアルキル又は炭素数1〜10のアルコキシが好ましく、炭素数3〜10のアルキル又は炭素数3〜10のアルコキシがさらに好ましい。
【0050】
これらのうち、より好ましくは、式(I−2)、式(I−4)、式(I−5)、式(I−6)で表されるジアミンが挙げられる。
【0051】
本発明のジアミンは前記一般式(I)で表されるジアミンを単独で含んでいてもよく、二種以上を含んでいてもよい。
【0052】
さらに、本発明の目的を損なわない限り、前記一般式(I)で表されるジアミン以外の側鎖構造を有するジアミンを用いることができる。このような、側鎖構造を有するジアミンとしては、例えば式(I’−1)〜(I’−20)で表されるジアミンが挙げられる。
【0053】
【化7】

【0054】
式(I’−1)〜(I’−3)においてR21は炭素数4〜16のアルキルが好ましく、炭素数6〜16のアルキルがさらに好ましい。式(I’−4)においてR22は炭素数6〜20のアルキルが好ましく、炭素数8〜20のアルキルがさらに好ましい。
【0055】
【化8】

【0056】
式中、R23は炭素数3〜12のアルキル又は炭素数3〜12のアルコキシが好ましく、炭素数5〜12のアルキル又は炭素数5〜12のアルコキシがさらに好ましい。R24は炭素数1〜10のアルキル又は炭素数1から10のアルコキシが好ましく、炭素数3〜10のアルキル又は炭素数3〜10のアルコキシがさらに好ましい。
【0057】
【化9】

【0058】
側鎖構造を有さないジアミンには、アミンの主鎖から分岐する側鎖構造を有さずアミンの主鎖中のアゾ基を含まない種々のジアミンの一種又は二種以上を用いることができる。側鎖構造を有さないジアミンには、好ましくは、下記のジアミンが挙げられる。
【0059】
例えば側鎖構造を有さないジアミンとしては、式(III−1)、(III−2)で表されるジアミンが挙げられる。
【0060】
【化10】

【0061】
また例えば側鎖構造を有さないジアミンとしては、式(IV−1)〜(IV−3)で表されるジアミンが挙げられる。
【0062】
【化11】

【0063】
また例えば側鎖構造を有さないジアミンとしては、式(V−1)〜(V−7)で表されるジアミンが挙げられる。
【0064】
【化12】

【0065】
また例えば側鎖構造を有さないジアミンとしては、式(VI−1)〜(VI−30)で表されるジアミンが挙げられる。
【0066】
【化13】


【0067】
また例えば側鎖構造を有さないジアミンとしては、式(VII−1)〜(VII−6)で表されるジアミンが挙げられる。
【0068】
【化14】

【0069】
また例えば側鎖構造を有さないジアミンとしては、式(VIII−1)〜(VIII−11)で表されるジアミンが挙げられる。
【0070】
【化15】

【0071】
これらのうち、側鎖構造を有さないジアミンとしてより好ましくは、式(V−1)〜(V−7)、式(VI−1)〜(VI−12)、式(VI−26)、式(VI−27)、式(VII−1)、式(VII−2)、式(VII−6)、式(VIII−1)〜(VIII−5)で表されるジアミンが挙げられ、最も好ましくは式(V−6)、式(V−7)、式(VI−1)〜(VI−12)で表されるジアミンが挙げられる。
【0072】
さらに、本発明で用いることのできる、上記のジアミンと併用することができるその他のジアミンとして、シロキサン結合を有するシロキサン系ジアミンを挙げることができる。該シロキサン系ジアミンは特に限定されるものではないが、一般式(4)で表されるものが本発明において好ましく使用することができる。
【0073】
【化16】

【0074】
一般式(4)中、R及びRは独立して炭素数1〜3のアルキル又はフェニルであり、Rはメチレン、フェニレン又はアルキル置換されたフェニレンである。xは1〜6の整数であり、yは1〜10の整数である。
【0075】
本発明で用いることのできるジアミンはこれらに限定されることなく、本発明の目的が達成される範囲内で他にも種々の分子構造の化合物が存在することはいうまでもない。また、これらのジアミンは単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0076】
一方、本発明で用いることのできるジアミンについても前述したテトラカルボン酸二無水物と同様に、芳香環に直接アミノ基が結合した芳香族系(複素芳香環系を含む)、芳香環に直接アミノ基が結合していない脂肪族系(複素環系を含む)の何れの群に属するものであってもよい。中でも環構造を有する芳香族及び環構造を有する脂肪族のジアミンは、液晶の配向性を良好に保つため好ましい。さらに、液晶表示素子の電気特性の低下原因となりやすいエステルやエーテル結合等の酸素や硫黄を含まない構造のものが好ましい。しかし、そのような構造を有していても電気特性に悪影響を与えない範囲内の量であれば何ら問題とはならない。
【0077】
さらに、これらのテトラカルボン酸二無水物及びジアミン以外にポリアミック酸の反応末端を形成する、モノアミン、又は/及びモノカルボン酸無水物を併用することも可能である。基板への密着性をよくするために、アミノシリコーン化合物を導入することもできる。
【0078】
アミノシリコーン化合物には、パラアミノフェニルトリメトキシシラン、パラアミノフェニルトリエトキシシラン、メタアミノフェニルトリメトキシシラン、メタアミノフェニルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0079】
側鎖構造を有するジアミンと側鎖構造を有さないジアミンとの割合は、電気特性やプレチルト角に合わせて任意に選定できる。全ジアミンに対する側鎖構造を有するジアミンの割合が7〜90モル%の範囲であることが好ましく、10〜70モル%であることがより好ましい。該側鎖構造を有するジアミンの割合が、7モル%以上で良好な液晶のプレチルト角が得られ、90モル%以下でポリイミド主鎖の良好な配向が得られる。
【0080】
本発明における液晶配向膜は、下記式1で求められる液晶配向膜におけるポリイミドの主鎖の配向指数Δが0.03〜1.00の範囲である。
【0081】
ポリイミド主鎖の配向(Δ)は、偏光赤外光を用いた赤外線吸収分光法により評価することができる。この方法は、試料に直交する2つの直線偏光赤外光を入射したときの赤外線吸収量が分子配向方位によって違うという赤外二色性を検出して、分子配向を評価するものである。
【0082】
すなわち、赤外線分光光度計(好ましくはFT−IR)の光源とポリイミド液晶配向膜
を有する試料を保持する試料ホルダーとの間に偏光子を配置し、液晶配向膜の表面に平行な方向へのポリイミドの主鎖の平均配向方向が偏光子の偏光方向と平行になるようにかつ、赤外光が試料表面に対して垂直に入射するようにして試料ホルダーに前記試料を固定し、赤外吸光度を測定する。次に、試料を試料ホルダーに固定した状態で偏光子を90度回転させて、偏光子を通過した赤外光の偏光方向が液晶配向膜の表面に平行な方向へのポリイミドの主鎖の平均配向方向と垂直になるようにして赤外吸光度を測定する。このようにして得られた赤外吸光度において、ポリイミド主鎖の分子軸に平行に分極した分子振動に起因する吸収バンドのピーク値又は積分値からΔが算出される。
【0083】
なお、この方法では、シリコンやフッ化カルシウム(ホタル石:CaF)等赤外光が透過する基板上に作製された試料が用いられる。
【0084】
本発明において、ポリイミドの主鎖の平均配向方向とは、液晶配向膜の表面に対して垂直な方向から液晶配向膜を見たときにポリイミド主鎖が平均して配向している方向を言う。即ち、前述測定配置において偏光子を適宜回転して赤外吸光スペクトルを測定したとき、ポリイミド主鎖の分子軸に平行に分極した分子振動に起因する吸収バンドのピーク値又は積分値が最大を示すときの偏光子による偏光方向がポリイミドの主鎖の平均配向方向である。
【0085】
本発明におけるポリイミドの特性基振動数は、ポリイミドの強い赤外吸収ピークとして1360cm−1付近(イミド環のC−N−C伸縮振動)、1510cm−1付近(フェニルのC−C伸縮振動)及び1720cm−1付近(イミド基のC=O伸縮振動)等に現れる。どの赤外吸収ピークを用いてもよいが、分子振動によって生じる分極の方向がポリイミド主鎖に沿っていて、ポリイミド組成による赤外吸収ピークの変化が比較的少ない1360cm−1付近(イミド環のC−N−C伸縮振動)を特に好ましく用いることができる。さらに、赤外二色比は、液晶配向膜の膜厚により異なる場合があるので、膜厚の影響を除去した赤外二色差を用いてポリイミド主鎖の配向を評価する方が好ましい。
【0086】
以上のことから、本発明においては1360cm−1付近(イミド環のC−N−C伸縮振動)の赤外二色差により液晶配向膜の配向の液晶配向膜の表面に平行な方向への異方性を評価する。なお、本発明における1360cm−1付近の吸光度とは、イミド環のC−N−C伸縮振動に帰属されるバンドの積分値(1330から1430cm−1)を示すものとする。さらに、膜厚の影響を補正するために液晶配向膜の膜厚、光配向処理に用いる光の波長での吸収係数αを測定する。
【0087】
本発明においては、次式(1)で示される配向処理後の液晶配向膜の配向指数Δによりポリイミド主鎖の配向を評価した。
Δ=(|A‖−A⊥|)/(A‖+A⊥)×d/d’ (1)
【0088】
式(1)中、A‖は、偏光した赤外光を、液晶配向膜の表面に対して垂直に、かつポリイミドの主鎖の平均配向方向に対して前記赤外光の偏光方向が平行になるように液晶配向膜に入射させた際の波数1360cm−1付近のイミド環のC−N−C伸縮振動による積分吸光度を表し、A⊥は、偏光した赤外光を、液晶配向膜の表面に対して垂直に、かつポリイミドの主鎖の平均配向方向に対して前記赤外光の偏光方向が垂直になるように液晶配向膜に入射させた際の波数1360cm−1付近のイミド環のC−N−C伸縮振動による積分吸光度を表す。dは液晶配向膜の膜厚を表す。d’は液晶配向膜の光配向処理された領域の実効膜厚を表す。
【0089】
液晶配向膜の光配向処理される領域の実効膜厚d’は、次式(2)より求まる。
d’=(1/α)×γ (2)
【0090】
式(2)中、αは、光配向処理に用いる光の波長における、光配向処理していないポリアミック酸膜の吸収係数である。γはイミド化による液晶配向膜の厚さの補正係数で、イミド化前のポリアミック酸膜の膜厚をdPAAとするとd/dPAAで与えられる。dがd’より小さい場合はd’=dとする。なお、イミド化前のポリアミック酸膜の膜厚はエリプソメトリーや接触段差計などによって測定することができる。
【0091】
吸収係数αは、段差計又はエリプソメーター等によって測定した膜厚dPAAのポリアミック酸膜の紫外−可視光領域の透過スペクトルを、光配向処理前に紫外−可視分光光度計によって測定することにより決定される。光配向処理に用いる光の波長における、ポリアミック酸膜が塗布された基板の透過率をTsample、基板のみの透過率をTsubとすると吸収係数αは、次式(3)で与えられる。
α=(1/dPAA)×ln(Tsub/Tsample) (3)
【0092】
本発明における液晶配向膜は、配向指数Δが0.03以上1.00以下の範囲のものであり、Δが0.10以上0.95以下であることが好ましく、Δが0.20以上0.90以下であることがより好ましい。配向指数Δが0.03以上であればポリイミドの主鎖の配向が充分であり、安定した液晶表示素子が得られる。
【0093】
本発明における液晶配向膜は、液晶表示素子を形成したときの液晶のプレチルト角が2〜90度の範囲である。前記プレチルト角は、3〜90度であることが好ましい。
【0094】
前記プレチルト角は、例えば中央精機製液晶特性評価装置OMS−CA3型を用いて、Journal of Applied Physics, Vol.48, No.5, p.1783−1792 (1977)に記載されているクリスタルローテーション法によって測定することができる。又は前記プレチルト角は、Mol. Cryst. Liq. Cryst. 241 (1994) 147.に記載されているクリスタルローテーション法によって測定することができる。
【0095】
本発明における液晶配向膜の膜厚は、膜の厚みの均一性と機械的、光学的、電気特性の観点から、通常5〜500nmである。液晶配向膜の膜厚は、5〜200nmであることが好ましく、5〜150nmであることがより好ましい。
【0096】
液晶配向膜の膜厚は、エリプソメトリーや接触式段差計によって測定することができる。また、液晶配向膜の膜厚は、液晶配向剤の濃度、粘度や液晶配向剤の塗布条件によって調整することができる。
【0097】
本発明における液晶配向膜の形成には、液晶配向剤が用いられる。この液晶配向剤は、前述した主鎖にアゾ基を含み、かつ主鎖に側鎖構造を有するポリアミック酸を溶剤に溶解した状態のワニスである。この液晶配向剤を基板上に塗布し、溶剤を乾燥したのち配向処理を施すことにより本発明における液晶配向膜が形成される。該ポリアミック酸は、ランダム共重合体、ブロック共重合体等の共重合体であってもよく、複数種の前記ポリアミック酸が含まれていてもよい。
【0098】
本発明で用いられる液晶配向剤は、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られるポリアミック酸を含有することを特徴とする液晶配向剤であり、側鎖構造を有するジアミン及びテトラカルボン酸二無水物の少なくとも一種類と、主鎖にアゾ基を含むジアミン及びテトラカルボン酸二無水物の少なくとも一種類とを用いたポリアミック酸を含有する。さらに好ましくは前記ジアミンとして、側鎖構造を有するジアミンを含むジアミンと、主鎖にアゾ基を含み側鎖構造を有さないジアミンとを用いたポリアミック酸を含
有する。本発明における液晶配向剤には、液晶配向膜において前述したテトラカルボン酸二無水物とジアミンとが用いられる。
【0099】
本発明における液晶配向剤は、側鎖構造を有するジアミンをジアミンの全量に対して7〜90モル%含むことが、前述したように、液晶表示素子における良好な液晶のプレチルト角と液晶配向膜におけるポリイミドの主鎖の良好な配向とを得る観点から好ましい。
【0100】
本発明における液晶配向剤中のポリアミック酸の濃度は特に限定されないが、0.1〜40質量%であることが好ましい。該液晶配向剤を基板に塗布するときには、膜厚の調整のために、含有されているポリアミック酸を予め溶剤により希釈する操作が必要とされることがある。ポリアミック酸の濃度が40質量%以下であると、液晶配向剤の粘度は好ましいものとなり、膜厚の調整のために液晶配向剤を希釈する必要があるときに、液晶配向剤に対して溶剤を容易に混合できるため好ましい。
【0101】
スピンナー法や印刷法等の塗布方法のときには膜厚を良好に保つために、通常10質量%以下とすることが多い。その他の塗布方法、例えばディッピング法やインクジェット法ではさらに低濃度とすることもあり得る。一方、ポリアミック酸の濃度が0.1質量%以上であると、得られる液晶配向膜の膜厚が好ましいものとなり易い。従ってポリアミック酸の濃度は、通常のスピンナー法や印刷法等の塗布方法では0.1質量%以上、好ましくは0.5〜10質量%である。しかしながら、該液晶配向剤の塗布方法によっては、さらに希薄な濃度で使用してもよい。
【0102】
本発明における液晶配向剤において前記ポリアミック酸と共に用いられる溶剤は、ポリアミック酸を溶解する能力を持った溶剤であれば格別制限なく適用可能である。かかる溶剤は、ポリアミック酸の製造や使用で通常使用されている溶剤を広く含み、使用目的に応じて、適宜選択できる。これらの溶剤を例示すれば以下のとおりである。
【0103】
ポリアミック酸に対し良溶剤である非プロトン性極性有機溶剤の例としては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、N−メチルプロピオンアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、及びγ−ブチロラクトン等のラクトンを挙げることができる。
【0104】
上記の溶剤以外の溶剤であって、塗布性改善等を目的とした他の溶剤の例としては、乳酸アルキル、3−メチル−3−メトキシブタノール、テトラリン、イソホロン、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のジエチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキル及びフェニルアセテート、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル、マロン酸ジエチル等のマロン酸ジアルキル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のジプロピレングリコールモノアルキルエーテル、並びにこれらグリコールモノエーテル類等のエステル化合物を挙げることができる。
【0105】
これらの中で、前記溶剤には、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、γ−ブチロラクトン、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等を特に好ましく用いることができる。
【0106】
本発明における液晶配向剤は、必要により各種の添加剤を含むことができる。例えば、塗布性の向上を望むときにはかかる目的に沿った界面活性剤を、帯電防止の向上を必要と
するときは帯電防止剤を、また基板との密着性の向上を望むときにはシランカップリング剤やチタン系のカップリング剤を適量配合してもよい。
【0107】
本発明に係わる液晶表示素子は、対向配置されている一対の基板と、前記一対の基板それぞれの対向している面の一方又は両方に形成されている電極と、前記一対の基板それぞれの対向している面に形成された液晶配向膜と、前記一対の基板間に形成された液晶層とを有する。本発明における液晶表示素子は、液晶配向膜を除いて従来の液晶表示素子と同様に構成することができる。前記一対の基板それぞれの対向している面に形成された液晶配向膜の一方又は両方に、前述した本発明における液晶配向膜が用いられる。
【0108】
前記基板は、その用途に応じて適当な基板が用いられる。前記基板は、表示の観点によれば、ガラス等の透明の基板が好ましく、液晶配向膜の配向指数Δを確認する観点によれば、シリコンやフッ化カルシウム等の赤外光を透過する基板が好ましい。
【0109】
前記電極は、基板の一面に形成される電極であれば特に限定されない。このような電極には、例えばITOや金属の蒸着膜等が挙げられる。また電極は、基板の一方の面の全面に形成されていても良いし、例えばパターン化されている所望の形状に形成されていても良い。電極の前記所望の形状には、例えば櫛型又はジグザグ構造等が挙げられる。電極は、一対の基板のうちの一方の基板に形成されていても良いし、両方の基板に形成されていても良い。電極の形成の形態は液晶表示素子の種類に応じて異なり、例えばIPS型液晶表示素子の場合は前記一対の基板の一方に電極が配置され、その他の液晶表示素子の場合は前記一対の基板の双方に電極が配置される。前記基板又は電極の上に前記液晶配向膜が形成される。
【0110】
前記液晶層は、液晶配向膜が形成された面が対向している前記一対の基板によって液晶組成物が挟持される形で形成される。液晶層の形成では、微粒子や樹脂シート等の、前記一対の基板の間に介在して適当な間隔を形成するスペーサを必要に応じて用いることができる。
【0111】
本発明の液晶表示素子において用いられる液晶組成物は、特に制限はなく、誘電率異方性が正の各種の液晶組成物を用いることができる。好ましい液晶組成物の例は、特許第3086228号公報、特許第2635435号公報、特表平5−501735号公報、特開平8−157826号公報、特開平8−231960号公報、特開平9−241644号公報(EP885272A1明細書)、特開平9−302346号公報(EP806466A1明細書)、特開平8−199168号公報(EP722998A1明細書)、特開平9−235552号公報、特開平9−255956号公報、特開平9−241643号公報(EP885271A1明細書)、特開平10−204016号公報(EP844229A1明細書)、特開平10−204436号公報、特開平10−231482号公報、特開2000−087040号公報、特開2001−48822号公報等に開示されている。
【0112】
誘電率異方性が負の各種の液晶組成物を用いることができる。好ましい液晶組成物の例は、特開昭57−114532号公報、特開平2−4725号公報、特開平4−224885号公報、特開平8−40953号公報、特開平8−104869号公報、特開平10−168076号公報、特開平10−168453号公報、特開平10−236989号公報、特開平10−236990号公報、特開平10−236992号公報、特開平10−236993号公報、特開平10−236994号公報、特開平10−237000号公報、特開平10−237004号公報、特開平10−237024号公報、特開平10−237035号公報、特開平10−237075号公報、特開平10−237076号公報、特開平10−237448号公報(EP967261A1明細書)、特開平10−
287874号公報、特開平10−287875号公報、特開平10−291945号公報、特開平11−029581号公報、特開平11−080049号公報、特開2000−256307号公報、特開2001−019965号公報、特開2001−072626号公報、特開2001−192657号公報等に開示されている。
【0113】
前記誘電率異方性が正又は負の液晶組成物に一種以上の光学活性化合物を添加して使用することも何ら差し支えない。
【0114】
本発明における液晶表示素子では、一対の基板は、液晶表示素子の種類に応じて、それぞれの基板上の液晶配向膜におけるポリイミドの主鎖の平均配向方向が特定の向きになるように対向する。例えば液晶表示素子がTN型液晶表示素子の場合、それぞれの基板の液晶配向膜におけるポリイミドの主鎖の平均配向方向が90度で交差するように、一対の基板は電極や液晶配向膜が形成されている面を内側に向けて対向する。また、液晶表示素子がSTN型液晶表示素子の場合、それぞれの基板の液晶配向膜におけるポリイミドの主鎖の平均配向方向が、通常、逆方向すなわち180度、となるか、それ以上の角度で交差するように、一対の基板は電極や液晶配向膜が形成されている面を内側に向けて対向する。
【0115】
また本発明における液晶表示素子は、液晶表示素子の種類に応じてさらなる他の部材を有していても良い。例えば、薄膜トランジスタを使用したカラー表示のTFT型液晶素子においては、第1の透明基板上には薄膜トランジスタ、絶縁膜、保護膜及び画素電極等が形成されており、第2の透明基板上には画素領域以外の光を遮断するブラックマトリクス、カラーフィルター、平坦化膜及び画素電極等を有する。
【0116】
また、IPS型液晶表示素子においては、薄膜トランジスタが形成された第1の透明基板、対向する第2の透明基板及びそれらの基板間に液晶が狭持される。第1の透明基板は、交互に櫛歯が延びるように形成された画素電極及び共通電極を有する。従来の液晶表示素子と同様に第2の透明基板は、画素領域以外の光を遮断するブラックマトリクス、カラーフィルター、平坦化膜等を有する。櫛歯状の電極は、例えばガラス等の透明基板上にCr等の金属のスパッタリング法等を用いて堆積した後、所定の形状のレジストパターンをマスクとしてエッチングを行って形成される。
【0117】
さらに、MVA型液晶表示素子においては、透明基板上に微小な突起物が形成されている場合、又は、マスキング工程を経て光照射処理によるマルチドメイン化が実施される場合がある。
【0118】
本発明における液晶配向膜は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応生成物であり主鎖にアゾ基を含むポリアミック酸の膜に光を照射して膜中のポリアミック酸を配向させる工程と、前記膜中で配向したポリアミック酸をイミド化する工程とを含む方法によって製造することができる。前記テトラカルボン酸二無水物及び前記ジアミンの少なくともいずれかには、側鎖構造を有する化合物が用いられる。
【0119】
ポリアミック酸の膜は、例えば基板又は電極上に前述した本発明における液晶配向剤を塗布することによって形成することができる。液晶配向剤の塗布方法としてはスピンナー法、印刷法、ディッピング法、滴下法、インクジェット法等が一般に知られている。これらの方法は本発明においても同様に適用可能である。
【0120】
ポリアミック酸の骨格構造に含まれるアゾ基は、シンとアンチの二つの幾何異性体を通常とりうる。通常はアンチ異性体が安定であるが、適当なエネルギーの光をポリアミック酸に照射すると光が吸収され、アゾ基はシン異性体に変化する。シン異性体はアンチ異性体に比べて安定性が低いので、アゾ基はアンチ異性体に戻るが、シン異性体から戻ったア
ンチ異性体はランダムな方向を向く。このとき特定の方向に偏光した光を照射すると、特定の方向を向いているアンチ異性体が選択的にシン異性体に変化し、そのシン異性体はランダムな配向変化を伴ってアンチ異性体に戻る。光吸収が起こらなくなるまで前記アンチ−シン光異性化反応が繰り返されるので、十分な光照射の後、アンチ異性体は光の偏光方向に垂直になるように配向する。本発明では、このような光異性化反応をポリアミック酸の配向制御に利用している。
【0121】
膜中のポリアミック酸を配向させる工程では、光の照射によってポリアミック酸の主鎖を配向させる。このような光配向処理条件は、本発明の目的が達成される範囲内である限り、どのようなものであってもよい。光配向処理に用いる光源としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、Deep UVランプ、エキシマーレーザー等を使用できる。
【0122】
アゾ基の光異性化反応を利用する本発明の場合では、光配向処理に用いる光の波長は300〜600nm、より好ましくは340〜500nmである。300nm以上の波長の光では塗膜の光分解が生じ難くなり、600nm以下の波長の光では光異性化反応が進み易くなるためである。また、長波長透過フィルター又はバンドパスフィルター等を用いて低波長の光を除去することが好ましい。なお、紫外・可視の連続光源とバンドパスフィルターを併用し、紫外光と可視光を同時に照射する方が好ましい。
【0123】
液晶配向膜の表面に平行な方向へのポリアミック酸の配向処理に用いる光の照射光量は、用いる液晶配向剤の種類、光源の波長、照射条件に依存するが、照射量が大きくなるほど、光配向処理が強くなり高い配向指数Δが得られる。目安としては、Deep UVランプと340〜500nmのバンドパスフィルターを用いて配向処理を行う場合の光照射量は、2J/cm以上であり、好ましくは30J/cm以上であり、より好ましくは100J/cm以上である。光照射量は、特に上限はないが、液晶配向膜の劣化を避けるためには、2,000J/cm以下であることが好ましく、設備及び処理に係るコスト等の経済性を考慮すると300J/cm以下であることが好ましい。
【0124】
膜中のポリアミック酸の主鎖は、偏光が制御された光を前記膜に照射することによって所定の方向に配向させることができる。ポリアミック酸の主鎖は、照射される光の偏光方向に対して垂直な方向に配向する。偏光が制御された光には、例えば直線偏光、円偏光、楕円偏光等が挙げられる。ここでは、非偏光もランダムな偏光を有する光として、偏光を制御した光として含む。偏光の制御は、偏光フィルターや偏光プリズムで行うことができる。又は光を、斜めにおいたガラス板を透過させることによってもできる。
【0125】
ポリアミック酸を膜の表面に対して垂直な方向から見たときに所定の方向に配向させるには、前記アゾ基による幾何異性体をアンチ異性体からシン異性体に変える光として、前記の偏光が制御された光を用いることができる。ポリアミック酸の膜の表面に対して斜めの方向に配向させるには、前記ポリアミック酸の膜の表面に対して斜めの方向から光を照射する。
【0126】
前記ポリアミック酸の膜の表面に対して斜めの方向から照射する光は、目的のポリイミド主鎖の配向と液晶のプレチルト角を得るために変更することが可能である。
【0127】
膜の表面に対して斜めの方向から光を照射する際の照射角度は、特に限定されるものではないが、任意のプレチルト角を得るためには、液晶配向膜の表面又は基板面に対して20〜70度であることが好ましく、さらには30〜60度であることが、良好なポリイミド主鎖の配向と液晶のプレチルト角とを得る観点からより好ましい。
【0128】
本発明では、前記アゾ基による幾何異性体をアンチ異性体からシン異性体に変える光を前記膜の表面(基板面)に対して斜めの角度から照射することによって、膜の表面に平行な方向における膜中のポリアミック酸の配向(平均配向方向)と光の入射面におけるポリアミック酸の配向(基板面に対する傾斜角)との両方を制御することが可能である。本発明において膜中におけるポリアミック酸の配向を制御する好ましい方法は、膜の表面(基板面)に対して垂直方向から直線偏光した光を照射した後、更に、その直線偏光の偏光方向に垂直な面を入射面として前記照射角度で無偏光を照射することである。これによりポリイミドの主鎖の配向の程度(配向指数Δ)を高くすることができ、一様でプレチルト角を有する液晶の配向を得ることができる。
【0129】
液晶配向膜の製造では、透明基板上に得られた液晶配向剤の膜を乾燥させる工程をさらに施すことが好ましい。乾燥工程は前述した光配向処理の前に行うことが好ましく、乾燥工程としては、オーブン又は赤外炉の中で加熱処理する方法、ホットプレート上で加熱処理する方法等が一般に知られている。これらの方法も本発明において同様に適用可能である。乾燥工程は溶剤の蒸発が可能な範囲内の比較的低温で実施することが好ましい。
【0130】
前記膜中で配向したポリアミック酸のイミド化は、通常、加熱によって行われる。本発明においても加熱処理を配向後のポリアミック酸のイミド化に適用することができる。加熱処理工程の方法としては、前述した乾燥工程と同じ手法が適用可能である。加熱処理工程は一般に150〜300℃程度の温度で行うことが好ましい。
【0131】
本発明における液晶表示素子は、上記のように基板上に液晶配向膜を作製し、次いでスペーサを介して該基板を対向させて組み立てる工程、液晶組成物を封入する工程及び偏光フィルムを貼り付ける工程等の工程を経て製造される。
【0132】
本発明における液晶表示素子は、洗浄液による洗浄処理を行うこともできる。洗浄方法としては、ジェットスプレー、蒸気洗浄又は超音波洗浄等が挙げられる。これらの方法は単独で行ってもよいし、併用してもよい。洗浄液としては純水、メチルアルコール、エチルアルコール若しくはイソプロピルアルコール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン若しくはキシレン等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素、又はアセトン若しくはメチルエチルケトン等のケトン類を用いることができるが、これらに限定されるものではない。もちろん、これらの洗浄液は十分に精製された不純物の少ないものが用いられる。
【0133】
本発明で用いられる光異性化構造を有するテトラカルボン酸二無水物及び/又はジアミンの全モノマーに対する割合は、10〜90モル%である必要があり、好ましくは15〜80モル%、更に好ましくは20〜70モル%である必要がある。光異性化構造を有するテトラカルボン酸二無水物及び/又はジアミンの該割合が10モル%以上では光異性化によってポリマー主鎖の配向が良好になり、光異性化構造を有するテトラカルボン酸二無水物及び/又はジアミンの該割合が90モル%以下であるとプレチルト角が良好になる。
【実施例】
【0134】
以下、本発明を実施例及び比較例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いるテトラカルボン酸二無水物、ジアミン及び溶剤の名称を略号で示す。以降の記述にはこの略号を使用することがある。
【0135】
テトラカルボン酸二無水物
ピロメリット酸二無水物 :PMDA
ジアミン
4,4’−ジアミノアゾベンゼン :DAZ
側鎖構造を有するジアミン
下記構造式1の化合物 :T1
下記構造式2の化合物 :T2
溶剤
N−メチル−2−ピロリドン :NMP
【0136】
【化17】

【0137】
【化18】

【0138】
実施例1
1)液晶配向剤A1の調製
温度計、攪拌機、原料投入仕込み口及び窒素ガス導入口を備えた200mLの四つ口フラスコにDAZとT1をそれぞれ2.1104gと0.4802g、脱水NMPを30.00g導入し、乾燥窒素気流下攪拌溶解した。反応系の温度を5℃に保ちながらPMDAを2.4096g添加し、30時間反応させた後、脱水NMPを65.00g加えて高分子成分の濃度が5質量%のポリアミック酸の液晶配向剤を調製した。原料の反応中に反応熱により温度が上昇するときは、反応温度を約70℃以下に抑えて反応させた。
【0139】
2)赤外光の吸光度、液晶配向膜の膜厚の測定及び配向指数Δの算出
得られたPMDA/DAZ/T1(原料モル比=50/45/5)の液晶配向剤A1をNMPで希釈して1.34質量%とした後、CaF基板(厚さ2mm)上にスピンナーにて塗布した。塗布条件は3,000rpm、60秒であった。塗膜後、ウシオ電機株式会社製の500W Deep UVランプ(UXM−501MD)を光源とし、光照射を行った。照射した光の波長領域は透過波長域340〜500nmのバンドパスフィルター(朝日分光株式会社製)を透過させることにより340〜500nmとした。
【0140】
はじめにグランテーラー偏光プリズムを通して直線偏光とした光を、基板面に対して垂直方向から照射した。その照射量は156J/cmであった。次に、1回目の直線偏光の照射における光の偏光方向に垂直な面を入射面とし、入射角(基板法線から定義)45度で無偏光の光の照射を行った。その照射量は221J/cmであった。その後、光照射された試料を窒素雰囲気中250℃にて60分間加熱処理を行って液晶配向膜を形成した。
【0141】
イミド化前のポリアミック酸膜の膜厚dPAAと液晶配向膜の膜厚dは、光照射をしない以外は同一の工程で作製したポリイミド膜の厚さを、株式会社島津製作所製の自動偏光解析装置(APE−100)を用いて、測定波長632.8nm(He−Neレーザー)、入射角62.5度で測定して決定したところ、それぞれdPAA=19nm、d=11nmであった。イミド化前後の膜厚の比から、イミド化による液晶配向膜の厚さの補正係数γは、0.58であった。
【0142】
得られた液晶配向膜の赤外線吸収スペクトルの測定は、FT−IR装置(分光器:Mattson Galaxy 3020、検出器:mercury cadmium telluride)を用いて、測定温度32℃、積算400回の条件で測定した。
【0143】
偏光子を透過した赤外光を液晶配向膜の基板面垂直方向から照射した。サンプルの平均配向方向と偏光方向とが平行で測定したときの赤外光スペクトル及び垂直で測定したときの赤外光スペクトルを測定した。平行と垂直で測定した赤外光スペクトルのC−N−C伸縮振動に帰属される1360cm-1付近の吸収バンドの積分値を用いて、液晶配向膜の吸光度の差(|A‖−A⊥|)及び液晶配向膜の吸光度の和(A⊥+A‖)を算出した。
【0144】
イミド化前のポリアミック酸膜の吸収係数αを求めるために、2.00質量%のポリアミック酸溶液を、CaF基板(厚さ2mm)上にスピンナーにて塗布した。塗布条件は3,000rpm、60秒であった。光照射を施さないポリアミック酸膜の膜厚を測定したところ、36nmであった。垂直透過配置で前記のイミド化前のポリアミック酸膜の紫外・可視吸収スペクトルを測定したところ、波長364nmの吸光度(=log(Tsub/Tsample))は0.36であった。式(3)より、イミド化前のポリアミック酸膜の吸収係数αは0.023と求まる。紫外・可視吸収スペクトルは、例えば紫外・可視分光光度計(島津MPS−2000)などで測定できる。
【0145】
α=0.023、γ=0.58から、該液晶配向膜の光配向処理された領域の実効膜厚d’は25nmであった。膜厚が11nmの場合、d<d’であるからd/d’=1とすることができるので、得られた(|A‖−A⊥|)及び(A⊥+A‖)の値より計算すると、液晶配向膜のポリイミド主鎖の配向指数Δは0.28であった。
【0146】
3)液晶のプレチルト角の測定
同じ条件で液晶配向膜を作製した一対のCaF基板を、厚さ25μmのポリエステルフィルムをスペーサとして挟持するように、液晶配向膜を形成した面を内側にして対向させ、アンチパラレルセルを作製した。ここでいうアンチパラレルセルとは、基板に塗布されたポリアミック酸の膜に光配向処理を行ったときの無偏光の光の照射方向が平行かつ反対になるように組んだセルを意味する。
【0147】
前記セルに下記構造式(5)で表されるシアノビフェニル液晶(5CB)を80℃で注入し、室温まで徐冷してプレチルト角測定用セル(液晶表示素子)を作製した。作製したプレチルト角測定用セルの液晶のプレチルト角を測定したところ、プレチルト角は3.3度であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。プレチルト角はクリスタルローテーション法でHe−Neレーザー(発振波長632.8nm)を用いて測定した。プレチルト角の測定時の温度は25℃であった。5CBのNI点(ネマティック・等方相転移温度)は35℃であり、波長632.8nmでの屈折率はne=1.706(異常光),no=1.530(常光)であった。
【0148】
【化19】

【0149】
実施例2
実施例1における液晶配向剤A1の代わりに、PMDA/DAZ/T2(原料モル比=50/37.5/12.5)の液晶配向剤A2を調製した。得られた液晶配向剤A2を、実施例1に準じた方法でCaF基板上にスピンナーにて塗布、光照射、焼成し、膜厚9nmの液晶配向膜を形成した。イミド化前のポリアミック酸膜の膜厚dPAAは18nm
であり、イミド化による液晶配向膜の厚さの補正係数γは、0.50であった。イミド化前のポリアミック酸膜の吸収係数αは0.015であり、液晶配向膜の実効膜厚d’は33nmであった。
【0150】
次いで、実施例1に準じた方法で液晶配向膜のポリイミド主鎖の配向指数Δを評価したところ0.17であった。さらに、実施例1に準じた方法でアンチパラレルセルを作製し、プレチルト角を測定したところ71.3度であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。
【0151】
実施例3
実施例1における液晶配向剤A1の代わりに、PMDA/DAZ/T2(原料モル比=50/25/25)の液晶配向剤A3を調製した。得られた液晶配向剤A3を、実施例1に準じた方法でCaF基板上にスピンナーにて塗布、光照射、焼成し、膜厚11nmの液晶配向膜を形成した。イミド化前のポリアミック酸膜の膜厚dPAAは19nmであり、イミド化による液晶配向膜の厚さの補正係数γは、0.58であった。イミド化前のポリアミック酸膜の吸収係数αは0.009であり、液晶配向膜の実効膜厚d’は64nmであった。
【0152】
次いで、実施例1に準じた方法で液晶配向膜のポリイミド主鎖の配向指数Δを評価したところ0.06であった。さらに、実施例1に準じた方法でアンチパラレルセルを作製し、プレチルト角を測定したところ89.6度であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。
【0153】
実施例4
実施例1における液晶配向剤A1の代わりに、PMDA/DAZ/T1(原料モル比=50/43.75/6.25)の液晶配向剤A4を調製した。得られた液晶配向剤A4を、実施例1に準じた方法でCaF基板上にスピンナーにて塗布、光照射、焼成し、膜厚12nmの液晶配向膜を形成した。イミド化前のポリアミック酸膜の膜厚dPAAは20nmであり、イミド化による液晶配向膜の厚さの補正係数γは、0.60であった。イミド化前のポリアミック酸膜の吸収係数αは0.022であり、液晶配向膜の実効膜厚d’は27nmであった。
【0154】
次いで、実施例1に準じた方法で液晶配向膜のポリイミド主鎖の配向指数Δを評価したところ0.27であった。さらに、実施例1に準じた方法でアンチパラレルセルを作製し、プレチルト角を測定したところ4.8度であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。
【0155】
実施例5
実施例1における液晶配向剤A1の代わりに、PMDA/DAZ/T1(原料モル比=50/42.5/7.5)の液晶配向剤A5を調製した。得られた液晶配向剤A5を、実施例1に準じた方法でCaF基板上にスピンナーにて塗布、光照射、焼成し、膜厚10nmの液晶配向膜を形成した。イミド化前のポリアミック酸膜の膜厚dPAAは17nmであり、イミド化による液晶配向膜の厚さの補正係数γは、0.59であった。イミド化前のポリアミック酸膜の吸収係数αは0.020であり、液晶配向膜の実効膜厚d’は30nmであった。
【0156】
次いで、実施例1に準じた方法で液晶配向膜のポリイミド主鎖の配向指数Δを評価したところ0.25であった。さらに、実施例1に準じた方法でアンチパラレルセルを作製し、プレチルト角を測定したところ5.8度であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。
【0157】
実施例6
実施例1における液晶配向剤A1の代わりに、PMDA/DAZ/T1(原料モル比=50/37.5/12.5)の液晶配向剤A6を調製した。得られた液晶配向剤A6を、実施例1に準じた方法でCaF基板上にスピンナーにて塗布、光照射、焼成し、膜厚10nmの液晶配向膜を形成した。イミド化前のポリアミック酸膜の膜厚dPAAは15nmであり、イミド化による液晶配向膜の厚さの補正係数γは、0.66であった。イミド化前のポリアミック酸膜の吸収係数αは0.020であり、液晶配向膜の実効膜厚d’は33nmであった。
【0158】
次いで、実施例1に準じた方法で液晶配向膜のポリイミド主鎖の配向指数Δを評価したところ0.20であった。さらに、実施例1に準じた方法でアンチパラレルセルを作製し、プレチルト角を測定したところ75.4度であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。
【0159】
比較例1
実施例1における液晶配向剤A1の代わりに、PMDA/DAZ(原料モル比=50/50)の液晶配向剤B1を調製した。得られた液晶配向剤B1を、実施例1に準じた方法でCaF基板上にスピンナーにて塗布、光照射、焼成し、膜厚10nmの液晶配向膜を形成した。但し、焼成時間は120分で行った。イミド化前のポリアミック酸膜の膜厚dPAAは16nmであり、イミド化による液晶配向膜の厚さの補正係数γは、0.63であった。イミド化前のポリアミック酸膜の吸収係数αは0.028であり、液晶配向膜の実効膜厚d’は23nmであった。
【0160】
次いで、実施例1に準じた方法で液晶配向膜のポリイミド主鎖の配向指数Δを評価したところ0.27であった。さらに、実施例1に準じた方法でアンチパラレルセルを作製し、プレチルト角を測定したところ1.4度であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。
【0161】
比較例2
実施例1における液晶配向剤A1の代わりに、PMDA/DAZ/T1(原料モル比=50/47.5/2.5)の液晶配向剤B2を調製した。得られた液晶配向剤B2を、実施例1に準じた方法でCaF基板上にスピンナーにて塗布、光照射、焼成し、膜厚12nmの液晶配向膜を形成した。イミド化前のポリアミック酸膜の膜厚dPAAは18nmであり、イミド化による液晶配向膜の厚さの補正係数γは、0.67であった。イミド化前のポリアミック酸膜の吸収係数αは0.026であり、液晶配向膜の実効膜厚d’は26nmであった。
【0162】
次いで、実施例1に準じた方法で液晶配向膜のポリイミド主鎖の配向指数Δを評価したところ0.33であった。さらに、実施例1に準じた方法でアンチパラレルセルを作製し、プレチルト角を測定したところ1.0度であった。液晶が傾斜する方向は無偏光の光の照射方向であった。
【0163】
比較例3
窒素雰囲気中250℃にて60分間加熱処理を行った後に直線偏光とした光を基板面に対して垂直方向から照射する以外は、すなわちポリアミック酸膜を熱によってイミド化した後に直線偏光の紫外光を照射する以外は、実施例1に準じた方法で一対の液晶配向膜を形成した。
【0164】
次いで、実験例1に準じた方法で、プレチルト角を測定しようとしたが、配向不良のた
め、プレチルト角と配向指数Δの測定を実施しなかった。
【0165】
各実施例及び各比較例の液晶配向剤の原料モル%を表1に示した。
【0166】
【表1】

【0167】
各実施例及び各比較例の液晶配向膜の膜厚、ポリイミド主鎖の配向指数Δ及びプレチルト角の測定結果を表2に示した。
【0168】
【表2】

【0169】
実施例1、2、3、4、5、6及び比較例1、2、3の結果から、全ジアミンに対する側鎖構造ジアミンの含有率を変えて、偏光を制御した光を照射して配向処理をした液晶配向膜を用いることで、広い範囲の液晶プレチルト角を有する液晶表示素子が得られることがわかる。
【0170】
特に、側鎖構造ジアミンを全ジアミンに対するモル比で少なくとも10%以上導入した液晶配向剤を塗布した基板に、偏光を制御した光を照射して配向処理をすることにより、側鎖構造ジアミンを含まない液晶配向剤B1を用いて同様に作製した液晶配向膜によって発生するプレチルト角より大きなプレチルト角を発生させることができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応生成物であり主鎖にアゾ基を含むポリアミック酸の膜において光の照射によって所定の方向に配向したポリアミック酸をイミド化してなる液晶配向膜において、
前記テトラカルボン酸二無水物及び前記ジアミンの少なくともいずれかは側鎖構造を有し、
下記式1で求められる液晶配向膜におけるポリイミドの主鎖の配向指数Δが0.03〜1.00の範囲であり、
液晶配向膜を含む液晶表示素子を形成したときの液晶のプレチルト角が2〜90度の範囲であることを特徴とする液晶配向膜。
Δ=(|A‖−A⊥|)/(A‖+A⊥)×d/d’ (1)
(式(1)中、A‖は、偏光した赤外光を、液晶配向膜の表面に対して垂直に、かつポリイミドの主鎖の平均配向方向に対して前記赤外光の偏光方向が平行になるように液晶配向膜に入射させた際の波数1360cm−1付近のイミド環のC−N−C伸縮振動による積分吸光度を表し、A⊥は、偏光した赤外光を、液晶配向膜の表面に対して垂直に、かつポリイミドの主鎖の平均配向方向に対して前記赤外光の偏光方向が垂直になるように液晶配向膜に入射させた際の波数1360cm−1付近のイミド環のC−N−C伸縮振動による積分吸光度を表し、dは液晶配向膜の膜厚を表し、d’は液晶配向膜の光配向処理された領域の実効膜厚を表す。)
【請求項2】
前記ポリアミック酸は、側鎖構造を有さないテトラカルボン酸二無水物と、二つのアミノの間にアゾ基を含み側鎖構造を有さないジアミンと、側鎖構造を有するジアミンとの反応生成物であり、
前記側鎖構造を有するジアミンは前記ジアミンの全量に対して7〜90モル%の範囲で含まれることを特徴とする請求項1記載の液晶配向膜。
【請求項3】
前記二つのアミノの間にアゾ基を含み側鎖構造を有さないジアミンは4,4’−ジアミノアゾベンゼンであることを特徴とする請求項2に記載の液晶配向膜。
【請求項4】
前記テトラカルボン酸二無水物はピロメリット酸二無水物であることを特徴とする請求項2に記載の液晶配向膜。
【請求項5】
前記側鎖構造を有するジアミンは下記一般式(I’−11)で表される化合物であることを特徴とする請求項2に記載の液晶配向膜。
【化1】

(式中、R24は炭素数1〜10のアルキル又は炭素数1〜10のアルコキシを表す。)
【請求項6】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応生成物であり主鎖にアゾ基を含むポリアミック酸と溶剤とを含有し、前記ジアミンは側鎖構造を有するジアミンを含むことを特徴とする液晶配向剤。
【請求項7】
前記ポリアミック酸は、側鎖構造を有さないテトラカルボン酸二無水物と、二つのアミノの間にアゾ基を含み側鎖構造を有さないジアミンと、側鎖構造を有するジアミンとの反応生成物であり、
前記側鎖構造を有するジアミンは前記ジアミンの全量に対して7〜90モル%の範囲で含まれることを特徴とする請求項6記載の液晶配向剤。
【請求項8】
対向配置されている一対の基板と、前記一対の基板それぞれの対向している面の一方又は両方に形成されている電極と、前記一対の基板それぞれの対向している面に形成された液晶配向膜と、前記一対の基板間に形成された液晶層とを有する液晶表示素子において、前記一対の基板それぞれの対向している面に形成された液晶配向膜の一方又は両方が、請求項1〜5のいずれか一項に記載の液晶配向膜であることを特徴とする液晶表示素子。
【請求項9】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応生成物であり主鎖にアゾ基を含むポリアミック酸の膜に光を照射して膜中のポリアミック酸を配向させる工程と、前記膜中で配向したポリアミック酸をイミド化する工程とを含み、前記ポリアミック酸をイミド化してなる液晶配向膜を製造する方法であって、
前記テトラカルボン酸二無水物及び前記ジアミンの少なくともいずれかには側鎖構造を有する化合物を用い、
膜中のポリアミック酸を配向させる工程は、
(A)前記アゾ基による幾何異性体をアンチ異性体からシン異性体に変える光を前記膜に照射して膜中のポリアミック酸を膜の表面に対して垂直な方向から見たときに所定の方向に配向させる操作と、
前記ポリアミック酸の膜の表面に対して斜めの方向から光を照射して、前記膜の表面に対して斜めの方向に前記ポリアミック酸を配向させる操作とを含むか、又は
(B)前記アゾ基による幾何異性体をアンチ異性体からシン異性体に変える光を前記膜の表面に対して斜めの方向から前記膜に照射して、膜中のポリアミック酸を、膜の表面に対して垂直な方向から見たときに所定の方向に配向させ、かつ前記膜の表面に対して斜めの方向に配向させる操作を含むことを特徴とする方法。

【公開番号】特開2007−248637(P2007−248637A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−69625(P2006−69625)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】