説明

液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、およびマイクロアレイの製造方法

【課題】 本発明は、同一のノズルから吐出される液体を、効率よく交換することが可能な液滴吐出ヘッドおよびそれを用いた液滴吐出方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、ノズルと、加圧室と、液体収容部と、流路と、を備える液滴吐出ヘッドであって、第1の主面(12)にノズルが形成され、第1の主面に対向する第2の主面に流路が開口している本体と、2以上の液体収容部となる2以上の貫通孔が形成された基板(30)と、を含み、基板(30)は本体(20)の第2の主面に積層され、本体に対して摺動可能な構成となっており、1の貫通孔と流路とが連通した状態から、基板を本体に対して摺動させ、別の貫通孔と流路とが連通した状態にすることにより、加圧室およびノズルに接続する液体収容部を変更することが可能である、液滴吐出ヘッドを提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、およびマイクロアレイ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、核酸やタンパク質、細胞等の生体由来分子をプローブとして基板上に固定化したいわゆるマイクロアレイを用い、生体分子間の結合の特異性を利用して、サンプル中の標的物質を検出・測定する方法が広く用いられている。
【0003】
特開平11−187900号公報(特許文献1)には、標的物質に対して特異的に結合可能であるプローブを含む液体を、インクジェット法により固相表面に吐出し、該固相表面にプローブを付着させることを特徴とするプローブの固相へのスポッティング方法が開示されている。
【0004】
このようなマイクロアレイでは、標的物質をハイスループットに検出するため、微小な領域に多種類のプローブ分子を固定する必要がある。特開2004−160904号公報(特許文献2)には、複数の液体貯留部を有する第1の基板と、前記複数の液体貯留部にそれぞれ独立に連通する複数の流路を有する第2の基板と、前記複数の流路にそれぞれ独立に連通し、液滴を吐出する複数のノズルを有する一または複数のヘッドチップとを備えたインクジェットヘッドが開示されている。これによれば、複数の試料を搭載した液体貯留部と、作製するマイクロアレイのスポットの配置に対応させた複数のノズルとが流路で連通させられるので、多数のプローブが微小領域に固定されたマイクロアレイを高速に作製することができる。
【特許文献1】特開平11−187900号公報
【特許文献2】特開2004−160904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したインクジェットヘッドでは、同一のノズルから続けて異なる種類の液体を吐出する場合、1種類の液体を吐出した後、別の種類の液体をそれに対応する同一の液体貯留部に充填してから吐出しなければならない。複数の液体貯留部のそれぞれに液体を供給する作業には時間がかかり、連続して異なる種類の液体を吐出するのは困難である。
【0006】
そこで、本発明は、同一のノズルから吐出される液体を、効率よく交換することが可能な液滴吐出ヘッドおよびそれを用いた液滴吐出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、ノズルと、該ノズルから吐出する液体に加圧するための加圧手段を有する加圧室と、該ノズルから吐出する液体を収容する2以上の液体収容部と、該加圧室と該液体収容部とを接続する流路と、を備える液滴吐出ヘッドであって、第1の主面に前記ノズルが形成され、該第1の主面に対向する第2の主面に前記流路が開口している本体と、前記2以上の液体収容部となる2以上の貫通孔が形成された基板と、を含み、前記基板は前記本体の第2の主面に積層され、該本体に対して摺動可能な構成となっており、1の前記貫通孔と前記流路とが連通した状態から、前記基板を前記本体に対して摺動させ、別の前記貫通孔と前記流路とが連通した状態にすることにより、前記加圧室および前記ノズルに接続する前記液体収容部を変更することが可能であることを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、2以上の液体収容部のそれぞれに異なる液体を収容しておき、まず、1の液体収容部と流路とが連通した状態で当該液体収容部に収容された液体を吐出した後、別の液体収容部と流路とが接続されるように、基板を本体に対して摺動させ、その状態で当該液体収容部に収容された液体を吐出することにより、同一のノズルから異なる液体を略連続的に吐出することができる。続いて、もう一度、最初の液体収容部と流路とを接続させて吐出を行うこともできるし、さらに別の種類の液体を収容した液体収容部と流路とを接続させて吐出を行うことも可能である。
【0009】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドにおいては、前記基板と前記第2の主面との間にパッキング部材が備えられていることが好ましい。
【0010】
このような構成とすることにより、本体の第2の主面と基板との密着性が高められ、基板を本体に対して摺動させる際に、本体の第2の主面と基板との間において液漏れが生じるのを防ぐことができる。
【0011】
上記パッキング部材は、基板を摺動させたときに、貫通孔が通過する領域を含む領域に形成されていることが好ましい。
【0012】
このような構成とすることにより、本体の第2の主面と基板との間において液漏れが生じるのを、より効率よく防ぐことができる。
【0013】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドにおいては、基板に形成された貫通孔は、すべて直径が等しくてもよく、異なっていてもよい。また、貫通孔の直径は深さ方向の途中で変化してもよい。貫通孔の直径が異なれば液体収容部の容積も異なるので、吐出量の多い液体は直径の大きな液体収容部に、吐出量の少ない種類の液体は直径の小さな液体収容部に収容することができる。このような構成により、特定の種類の液体が余ったり不足したりする状態を防ぐことが可能となる。
【0014】
また、本発明は、上述した本発明に係る液滴吐出ヘッドを装着して用いられる液滴吐出装置をも提供する。本発明に係る液滴吐出装置は、基板を本体に密着させたまま摺動させることが可能な摺動手段を備えている。
【0015】
本発明は、さらに、上述した本発明に係る液滴吐出ヘッドを使用してマイクロアレイを製造する方法も提供する。本発明において、マイクロアレイとは、核酸、タンパク質、細胞等の生体試料を固相担体表面に固定したものをいう。
【0016】
本発明に係るマイクロアレイ製造方法は、本発明に係る液滴吐出ヘッドを使用して、少なくとも1つの液体収容部に吐出準備液を供給し、少なくとも1つの別の液体収容部に試料液体を供給する第1工程と、前記基板を前記本体に対して摺動させることにより、前記吐出準備液が供給された前記液体収容部を前記流路に接続し、該吐出準備液を前記液滴吐出ヘッドのノズル先端まで充填する第2工程と、前記基板を前記本体に対して摺動させることにより、前記試料液体が供給された前記液体収容部を前記流路に接続する第3工程と、前記加圧手段を作動させ、前記吐出準備液をすべて吐出することによって、前記試料液体を前記液滴吐出ヘッドのノズル先端まで充填する第4工程と、前記加圧手段を作動させ、前記試料液体をマイクロアレイ基板に向けて吐出する第5工程と、を含むことを特徴とする。
【0017】
空の流路に試料液体を充填すると、気体と液体の界面が微細な流路内を移動することになり、このような工程では加圧室に気泡が入りやすい。このような気泡は吐出不良の原因になる。また、このような気泡を除去するためには、マイクロアレイ基板に向けて吐出する前に、数回分の吐出液を吸引して排出する必要があるが、そうすると高価で希少な試料を浪費することになってしまう。しかしながら、本発明に係るマイクロアレイ製造方法によれば、まず、粘度や表面張力等の点で微細な流路にも充填しやすい液体を吐出準備液として用い、これをノズル先端まで充填し、続いて、同じ流路内に試料液体を充填することができる。仮に気泡が入ったとしても、吐出準備液であれば繰り返し充填を試みることができる。吐出準備液が充填された状態で、試料液体を流入させれば、流路内を液体と液体の界面が移動することになるので、試料液体には気泡が入らない。
【0018】
また、本発明に係るマイクロアレイ製造方法は、さらに、少なくとも1つの別の液体収容部に洗浄液を供給し、前記第5工程の後に、前記基板を前記本体に対して摺動させることにより、前記洗浄液を充填した前記液体収容部を前記流路に接続し、前記試料液体及び該洗浄液を送液して、洗浄する第6工程と、を含むことが望ましい。
【0019】
このような方法によれば、第2の基板を第1の基板に対して摺動させるという簡単な工程によって、試料液体を吐出した後の液滴吐出ヘッドの内部に洗浄液を通すことが可能である。
【0020】
本発明に係るマイクロアレイ製造方法に用いられる吐出準備液として、純水または試料液体の溶媒である緩衝液を用いることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照しながら説明する。
<第1の実施形態>
(液滴吐出ヘッド)
図1に本発明に係る液滴吐出ヘッドの一態様である、インクジェットヘッド10を示す。図1(A)は、インクジェットヘッド10の斜視図である。
【0022】
インクジェットヘッド10は、加圧室、流路等が内部に形成された本体20と、液体収容部となる貫通孔16a、16bが形成された基板30とを含み、本体20の第1の主面12の中央部にノズルが形成されている。ノズル、加圧室、および流路については後述する。
【0023】
図1(B)は、図1(A)におけるIB−IB線に沿って切断したインクジェットヘッド10の概略断面図を示す。図示されるように、インクジェットヘッド10では、本体20上にパッキング部材70を介して基板30が積層されている。基板30には、液体収容部として機能する2種類の貫通孔16aおよび16bが交互に形成されているが、基板30のうち本体20に接する面における貫通孔16aおよび16bの直径は、いずれも本体20に設けられた流路62の直径と等しくなっている。
【0024】
本体20の第1の主面12の中央には、ノズルを有するヘッドチップ40が備えられている。ヘッドチップには96個のノズル42が48行×2列の配置に設けられているが、本断面図では2つのノズル42aおよび42bのみが示されている。ヘッドチップ40には、ノズル42から吐出する液体に加圧する加圧手段を備えた加圧室44が形成されている。加圧室は各ノズルに一つずつ設けられているが、図1(B)には、ノズル42a、42bに対応する加圧室44a、44bのみを示している。
【0025】
本体20は、後述する基板50および60を積層して形成されており、貫通孔16(液体収容部)と加圧室44は、基板50、60に形成された流路52、62によって連通される。
【0026】
図1(C)は、図1(A)におけるIC−IC線に沿って切断したインクジェットヘッド10の概略断面図を示す。ここでは、説明の便宜上、インクジェットヘッド10を液滴吐出装置(後述)に固定するための固定部材212も図示されている。このように固定部材212によって挟持されることにより、基板30が本体20に対してY方向にのみ摺動可能な構成とすることができる。
【0027】
なお、後述するように基板50、60(図2を参照)を積層してインクジェットヘッド10を形成する場合、図1におけるIB−IB線に沿った断面に、流路52、加圧室44、ノズル42は実際には現れないが、図1では説明の便宜上、これらの流路、加圧室、およびノズルも図示している。
【0028】
次に、本実施形態に係るインクジェットヘッド10の製造方法の一例を説明する。
【0029】
本実施形態において、インクジェットヘッド10は、基板50、60を積層して形成された本体20に、パッキング部材70を介して基板30を積層し、基板50にヘッドチップ40を接着することによって作製することができる。
【0030】
図2(A)に基板50の平面図を示す。基板50には、その上に基板60を積層することによって流路52を形成する溝52’が96本形成されている。溝52’は、基板50の周縁部から中央に向かって集束し、各溝52’の基板周縁側の末端は、基板30における貫通孔16aまたは16bのピッチ(形成間隔)と一致していている。一方、各溝52’の基板中央側の末端には、ヘッドチップ40内の圧力室に接続する貫通孔が設けられている。
【0031】
図2(B)に基板50上に積層される基板60の平面図を示す。基板60には8行×12列で96個の貫通孔62が形成されている。貫通孔62のピッチは、貫通孔16aまたは16bのピッチに一致する。貫通孔62は、流路52と液体収容部(貫通孔16)とを連通させる流路となる。
【0032】
図2(C)に、基板30の平面図を示す。基板30には、貫通孔16aおよび16bがそれぞれ96個、合計で192個形成されている。貫通孔16aは、図1にも示されるように所定の深さまで大きな内径を有し、途中から貫通孔62と等しい径となる。貫通孔16bの内径は一様で、貫通孔62と等しい。このような構成とすることによって、吐出量の多い液体は貫通孔16aによって形成される液体収容部に、吐出量の少ない液体は貫通孔16bによって形成される液体収容部にそれぞれ収容することができ、液体の種類によって余ったり不足したりするのを防ぐことができる。
【0033】
基板50、60および30は、それぞれガラス、樹脂等の材料で形成することができ、溝や貫通孔は、エッチング、射出成形等、材料に適した方法によって形成することができる。基板50および60は積層し、熱溶着、または接着剤等を用いて接着することが可能である。基板50および60を積層接着し、基板50における基板60に接着される面と反対側の面が第1の主面12となり、その中央にヘッドチップ40を接着すると本体20が完成する。第1の主面12と対向する第2の主面は、基板60の基板50に接着される面と反対側の面となり、ここには基板60に貫通孔62として形成された流路が96個開口していることになる。
【0034】
ヘッドチップ40は、電気的に接続するだけで単独で加圧室の加圧手段を作動させ、ノズル42から液滴を吐出可能な構成となっている。図3に、ヘッドチップ40の一例として静電駆動方式のヘッドチップの拡大断面図を示す。説明の便宜上、基板60および30等は省略し、基板50のみ示している。ヘッドチップ40は、電極68が形成された電極基板71、加圧室44を形成する加圧室基板72、およびノズル42が形成されたノズル基板73により構成されている。加圧室44に流入した液体は、図示しない共通電極と電極68との間に電圧を加えると、振動板69が弾性変位することによって加圧され、ノズル42から吐出される。尚、電極基板71には、図中下側の面から溝が形成され、その天井部に電極68が形成されているため、電極68と振動板69との間にはわずかな空隙(エアギャップ)が形成されている。本実施形態では、電極68と振動板69とが加圧手段に該当する。加圧室基板72、ノズル基板73、電極基板71の材料は特に限定されないが、吐出する液体に生体試料が含まれる場合には、ガラス、シリコン等が適している。
【0035】
ヘッドチップ40を、基板50に接着することにより、電極基板71および加圧室基板72に設けられた貫通孔が、基板50の貫通孔に接続され、本体20が完成する。尚、本実施形態では、ヘッドチップのノズルが形成された面と基板50の下側の面とにわずかな段差が存在する構成となっているが、双方を併せて第1の主面12と呼ぶ。
【0036】
次に、基板30を本体20に積層する。基板30は、本体20の第2の主面に、パッキング部材70を介して積層される。ここで、図4に、第2の主面と基板30との間に配置されるパッキング部材70の形状の一例を示す。図示されるように、基板30と第2の主面とはY方向(図1参照)にのみ摺動可能な構成となっているので、パッキング部材70は、基板60上において、貫通孔16a、16bが通過する領域を含む領域にのみ、即ち、Y方向に並んだ貫通孔16a、16bを一続きのパッキング部材70が囲むように配置する。パッキング部材70は、基板60において貫通孔62を除く全面に配置してもよいが、パッキング部材70の面積を小さくすることによって、基板30を重ねた時にパッキング部材70により高い圧力がかかるので、基板30と本体20との密着性を高めることができる。
【0037】
基板30と本体20とは、図1(C)に示すように固定部材212によって挟持されることにより一体に保持される。貫通孔62の真上に貫通孔16aが来るように配置された場合は、大きな液体収容部が加圧室に連通される。一方、貫通孔62の真上に貫通孔16bが来るように配置された場合は、小さな液体収容部が加圧室に連通されることになる。
(液滴吐出装置)
次に、本発明に係る液滴吐出装置について説明する。図5は、本発明に係る液滴吐出装置の一例として、上述したインクジェットヘッド10を装着して用いられるマイクロアレイ製造装置200の構成例を説明する図である。
【0038】
マイクロアレイ製造装置200は、ガラス等のマイクロアレイ基板202上に、生体分子を含む試料液体の液滴を複数吐出配置して作製されるマイクロアレイを製造するためのものであり、複数のマイクロアレイ基板202を載置可能に構成されたテーブル204と、インクジェットヘッド10をY方向に自在に移動させるためのY方向駆動軸216と、テーブル204をX方向に自在に移動させるためのX方向駆動軸214と、を備える。また、インクジェットヘッド10を固定するための固定手段212と、固定手段212をZ方向に自在に移動させるためのZ方向駆動軸218と、をも備えている。
【0039】
固定手段212は、インクジェットヘッド10の本体20と基板30とを挟持するように固定するので、基板30は、本体20に対してY方向に摺動可能となる。マイクロアレイ製造装置200は、基板30を、本体20に対してY方向に摺動させる摺動手段をも備えている。
(マイクロアレイ製造方法)
次に、インクジェットヘッド10およびマイクロアレイ製造装置200を用いて行われる、本発明に係るマイクロアレイの製造方法について説明する。本製造方法では、まず、インクジェットヘッド内の流路に吐出準備液を充填し、続けてマイクロアレイ基板に固定すべき試料(DNA、タンパク質等)を含む試料液体を充填する。一般に、空の流路内に液体を導入する工程では、気体と液体の界面が流路内を移動することになり、加圧室に気泡が入りやすい。空の流路内に試料液体を充填し、気泡が入ってしまった場合には、試料液体を吸引排出することによって気泡を除去しなければならない。生体分子を含む試料液体には高価なものや入手しにくいものあり、試料の浪費は極力避けることが望ましい。
【0040】
これに対し、試料液体を充填する前に、吐出準備液を充填しておけば、試料液体を導入する際には液体と液体の界面が流路内を移動することになるので、試料液体に気泡が入らない。吐出準備液は、試料液体に影響を与えない限り、どのようなものを用いてもよいので、粘性や表面張力の点から微細な流路に導入しやすい液体を選択することによって、気泡が入るのを防ぐことができる。また、万一気泡が入っても、吐出準備液は、試料液体を充填する際にすべて吸引排出することができるので、問題とならない。
【0041】
図6に、このようなマイクロアレイの製造方法を説明する概略断面図を示す。
【0042】
まず、図6(A)に示されるように、インクジェットヘッド10の容積の大きい液滴収容部(貫通孔)16aに吐出準備液を供給し、容積の小さい液滴収容部(貫通孔)16bに試料液体を供給する。ここで試料液体としては、マイクロアレイ基板に固定すべき生体分子(例えば、DNA、タンパク質等)を溶解させた緩衝液等を用いることができる。マイクロアレイの各反応スポットに異なる生体分子を固定する場合は、それぞれの液滴収容部16bに異なる試料液体を供給する。また、吐出準備液は上述したように純水や緩衝液等が好ましく、すべての液体収容部16aに同一の吐出準備液を供給する。吐出準備液および試料液体は、公知のディスペンサ等によって、各液滴収容部に供給される。
【0043】
次に、図6(B)に示されるように、基板30を本体20に対して摺動させることによって、吐出準備液が収容された液滴収容部16aのそれぞれを、基板60に設けられた貫通孔(流路)62に接続する。吐出準備液は公知の方法に従ってノズル42先端まで充填させることができ、例えば、ノズル42から吸引装置により吸引して行ってもよい。充填後は、ノズル42が形成された面を払拭し、付着した液や埃等を除去することが望ましい。
【0044】
続いて、図6(C)に示されるように、基板30を本体20に対して摺動させることによって、試料液体が収容された液体収容部16bのそれぞれを、基板60に設けられた貫通孔(流路)62に接続する。これにより、流路62に充填された吐出準備液と試料液体とが接することになる。この状態で、図6(D)に示されるように、インクジェットヘッド10の加圧手段を作動させ、吐出準備液を吐出することにより、試料液体が流路62内に導入される。吐出準備液は、例えば、液滴吐出装置200に設けられた排出液用容器(図示せず)に吐出することができる。流路62、52内は非常に細いので、流れる液体は層流となり、吐出準備液と試料液体との界面の混合は拡散によるものだけである。このような混合部分は狭い範囲に限定されるため、吐出準備液を吐出する際に容易に排出することができるので、マイクロアレイの品質には影響しない。
【0045】
次に、X方向駆動軸214およびY方向駆動軸216を作動させて、マイクロアレイ基板202の上方にインクジェットヘッド10を配置し、Z方向駆動軸218を作動させてインクジェットヘッド10とマイクロアレイ基板202との距離を調整した後、マイクロアレイ基板202に向けて試料液体を吐出する。
【0046】
上述のように、本発明に係るインクジェットヘッドによれば、1種類の液体を吐出した後、液体収容部が形成された基板を本体に対して摺動させることにより、連続して別の種類の液体を吐出することが可能となる。このインクジェットヘッドを利用して、吐出準備液をインクジェットヘッド内の流路に充填した後、続けて試料液体を導入することにより、気泡が入ることなく、迅速に試料液体をノズル先端まで充填することができる。吐出準備液は、試料液体に影響を与えることもなく、マイクロアレイの品質は維持される。
<第2の実施形態>
図7に本発明に係る液滴吐出ヘッドの第2の実施形態として、インクジェットヘッド310を示す。インクジェットヘッド310は、本体320に基板330が積層されてなり、基板330には、液体収容部316a、316b、316cを構成する貫通孔が、それぞれ96個ずつ形成されている。図8(A)、(B)に、本体320を構成する基板350および360の平面図を示す。基板350および360は、既述のインクジェットヘッド10を構成する基板50、60と略同一の構成とすることができ、また、基板350に接着されるヘッドチップも図3に示されたインクジェットヘッド10に用いられるヘッドチップ40とすることができるので、ここでは説明を省略する。
【0047】
一方、基板330には、図示されたように、液体収容部316a、316b、316cとなる貫通孔が、繰り返し形成されている。316aおよび316cは同一で、316bよりも大きな直径を有しているが、本体320と接する面における貫通孔の直径は、基板360に設けられた貫通孔362と同一となっている。本体320に対して、基板330を摺動させることにより、一組の液体収容部316a、316b、316cが1つの貫通孔362に交互に接続されることになり、それぞれに収容された液体を吐出することが可能となる。
【0048】
図9に示されるように、基板330は、パッキング部材370を介して本体320に積層される。本実施形態では、パッキング部材は、貫通孔362のそれぞれの周囲に独立したパッキング部材370を配置させる。このようにパッキング部材370の面積を小さくすることによって、基板330を重ねた時にパッキング部材370により高い圧力がかかることになり、基板330と本体320との密着性を高めることができる。
【0049】
このようなインクジェットヘッド310は、上述した液滴吐出装置200に装着して用いることが可能である。
【0050】
次に、図10を用いて、本実施形態に係るインクジェットヘッド310を使用したマイクロアレイ製造方法を説明する。まず図10(A)に示されるように、液体収容部316aには吐出準備液を、液体収容部316bに試料液体を、液体収容部316cには洗浄液を供給する。次に、同図(B)に示されるように基板330を本体320に対して摺動させて、液体収容部316aを基板360に設けられた貫通孔362に接続し、吐出準備液をノズル342先端まで充填する。充填方法は上述の通りである。充填後、ノズル342が形成された面を払拭し、付着した液や埃等を除去することが望ましい。
【0051】
続いて、図10(C)に示されるように、基板330を本体320に対して摺動させ、液体収容部316bを貫通孔362に接続し、試料液体と吐出準備液を接触させる。この状態で、インクジェットヘッド310の加圧手段を作動させて、吐出準備液を吐出することにより、試料液体が流路(貫通孔)362に流入する。吐出準備液をすべて排出し、さらに必要に応じて吐出準備液と試料液体との混合部分も吐出することによって、吐出準備が完了する。吐出準備液は、例えば、X方向駆動軸214およびY方向駆動軸216を作動させて、インクジェットヘッド310を、排出液用容器(図示せず)の上方に配置し、吐出することができる。
【0052】
次に、X方向駆動軸214およびY方向駆動軸216を作動させて、マイクロアレイ基板202の上方にインクジェットヘッド310を配置し、Z方向駆動軸218を作動させてインクジェットヘッド310とマイクロアレイ基板202との距離を調整した後、マイクロアレイ基板202に向けて試料液体を吐出する。
【0053】
試料液体の吐出が終了したら、基板330を本体320に対して摺動させ、図10(D)に示すように、液滴収容部316cを貫通孔362に接続する。この状態で、図示しない吸引手段をノズル面に密着させて吸引し、流路中に残留した試料液体および洗浄液を吸引排出することにより、貫通孔362、流路352、加圧室、ノズル342内部を洗浄することができる。
【0054】
本実施形態に係る方法によれば、試料液体の吐出後、続けて洗浄液を吐出して内部を洗浄することができるので、試料液体が乾燥して溶質が内壁に付着するのを防ぎ、一連の工程を効率よく行うことが可能となる。
【0055】
なお、本発明は上述した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。例えば、液滴吐出ヘッドの液体収容部の数や容積は、吐出する液体の種類や目的に応じて自由に変更することが可能である。また、液滴吐出装置にも、図示された構成要素以外に、吸引装置、洗浄装置等を具備させることができる。吐出準備液や試料液体も、インクジェットヘッドから吐出できるものである限り、その種類を問わない。さらに、液体収容部が形成された基板と本体とは、固定部材によって挟持されるのではなく、基板または本体にスライド可能な固定手段が設けられていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る液滴吐出ヘッドを示す概略斜視図および概略断面図である。
【図2】本発明に係る液滴吐出ヘッドを構成する基板の一例の概略平面図である。
【図3】本発明に係る液滴吐出ヘッドのヘッドチップの断面図の一例である。
【図4】本発明に係る液滴吐出ヘッドに用いられるパッキング部材の配置例である。
【図5】本発明に係る液滴吐出装置の一例である。
【図6】本発明に係るマイクロアレイ製造方法の工程を示す説明図である。
【図7】本発明に係る液滴吐出ヘッドを示す概略斜視図および概略断面図である。
【図8】本発明に係る液滴吐出ヘッドを構成する基板の一例の概略平面図である。
【図9】本発明に係る液滴吐出ヘッドに用いられるパッキング部材の配置例である。
【図10】本発明に係るマイクロアレイ製造方法の工程を示す説明図である。
【符号の説明】
【0057】
10、310…液滴吐出ヘッド、12…第1の主面、14…第2の主面、20、320…本体、30、50、60、330、350、360…基板、40、340…ヘッドチップ、42、342…ノズル、44、344…加圧室、52’、352’…溝、52、352…流路、62、362…流路(貫通孔)、70、370…パッキング部材、200…液滴吐出装置、202…マイクロアレイ基板、204…テーブル、214…X方向駆動軸、216…Y方向駆動軸、218…Z方向駆動軸、


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルと、該ノズルから吐出する液体に加圧するための加圧手段を有する加圧室と、該ノズルから吐出する液体を収容する2以上の液体収容部と、該加圧室と該液体収容部とを接続する流路と、を備える液滴吐出ヘッドであって、
第1の主面に前記ノズルが形成され、該第1の主面に対向する第2の主面に前記流路が開口している本体と、前記2以上の液体収容部となる2以上の貫通孔が形成された基板と、を含み、
前記基板は前記本体の第2の主面に積層され、該本体に対して摺動可能な構成となっており、
1の前記貫通孔と前記流路とが連通した状態から、前記基板を前記本体に対して摺動させ、別の前記貫通孔と前記流路とが連通した状態にすることにより、前記加圧室および前記ノズルに接続する前記液体収容部を変更することが可能である、液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記基板と前記第2の主面との間にパッキング部材が備えられている、請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記パッキング部材が、前記基板を摺動させたときに、前記貫通孔が通過する領域を含む領域に形成されている、請求項2に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記2以上の液体収容部には、容積の異なる液体収容部が含まれている、請求項1から3のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッドを装着して用いられ、
前記基板を前記本体に対して摺動させることが可能な摺動手段を備える、液滴吐出装置。
【請求項6】
請求項1に記載の液滴吐出ヘッドを使用してマイクロアレイを製造する方法であって、
少なくとも1つの液体収容部に吐出準備液を供給し、少なくとも1つの別の液体収容部に試料液体を供給する第1工程と、
前記基板を前記本体に対して摺動させることにより、前記吐出準備液が供給された前記液体収容部を前記流路に接続し、該吐出準備液を前記液滴吐出ヘッドのノズル先端まで充填する第2工程と、
前記基板を前記本体に対して摺動させることにより、前記試料液体が供給された前記液体収容部を前記流路に接続する第3工程と、
前記加圧手段を作動させ、前記吐出準備液をすべて吐出することによって、前記試料液体を前記液滴吐出ヘッドのノズル先端まで充填する第4工程と、
前記加圧手段を作動させ、前記試料液体をマイクロアレイ基板に向けて吐出する第5工程と、を含むマイクロアレイ製造方法。
【請求項7】
さらに、少なくとも1つの別の液体収容部に洗浄液を供給し、
前記第5工程の後に、前記基板を前記本体に対して摺動させることにより、前記洗浄液を供給した前記液体収容部を前記流路に接続し、前記試料液体及び該洗浄液を前記送液して、洗浄する第6工程と、を含む、請求項6に記載のマイクロアレイ製造方法。
【請求項8】
前記吐出準備液が、純水または試料液体に含まれる緩衝液である、請求項6または7に記載のマイクロアレイ製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−57384(P2007−57384A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−243301(P2005−243301)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】