説明

液滴吐出装置の洗浄方法

【課題】液滴吐出装置の導体パターン形成用インクの流路における汚れ、液滴吐出ヘッドの目詰まりを好適に解消できる液滴吐出装置の洗浄方法を提供する。
【解決手段】液滴吐出方式による導体パターンの形成に用いられ、金属粒子が水系分散媒に分散した導体パターン形成用インク1を吐出する液滴吐出装置を洗浄する洗浄方法であって、前記液滴吐出装置の前記導体パターン形成用インク1の流路に、分散剤と有機溶剤とを含む第1の洗浄液を流す第1の洗浄工程と、前記第1の洗浄工程の後、前記液滴吐出装置の吐出性を検査する検査工程と、無機酸を含む第2の洗浄液を前記流路に流す第2の洗浄工程と、主として前記水系分散媒で構成された第3の洗浄液を前記流路に流す第3の洗浄工程とを有し、前記第2の洗浄工程および前記第3の洗浄工程は、前記検査工程の結果に応じて行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出装置の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子回路または集積回路などに使われる配線の製造には、例えばフォトリソグラフィ法が用いられている。このフォトリソグラフィ法は、予め導電膜を塗布した基板上にレジストと呼ばれる感光材を塗布し、回路パターンを照射して現像し、レジストパターンに応じて導電膜をエッチングすることで導体パターンからなる配線を形成するものである。このフォトリソグラフィ法は真空装置などの大掛かりな設備と複雑な工程を必要とし、また材料使用効率も数%程度でそのほとんどを廃棄せざるを得ず、製造コストが高い。
【0003】
これに対して、液体吐出ヘッドから液体材料を液滴状に吐出する液滴吐出法、いわゆるインクジェット法を用いて導体パターン(配線)を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、導電性微粒子を分散させた導体パターン形成用インクを基板に直接パターン塗布し、その後、溶媒を除去して導体パターン前駆体を得、焼結させることにより導体パターンに変換する。この方法によれば、フォトリソグラフィが不要となり、プロセスが大幅に簡単なものになるとともに、原材料の使用量も少なくてすむというメリットがある。また、この方法によれば、従来の方法と比較して、微細な導体パターンを形成することが可能であり、回路密度の向上に有利である。
【0004】
ところで、導体パターンの形成に用いる液滴吐出装置(産業用)は、プリンターに適用されるもの(民生用)とは全く異なるものであり、例えば、大量生産を行うため、大量の液滴を長時間にわたって連続で吐出することが求められる。また、導体パターンの形成に用いるインク(産業用)では、プリンターに適用されるもの(民生用)で用いるインクに比べて、一般に、吐出時の液切れも悪く、インクジェットヘッドの吐出部(ノズル)や吐出面にインクが残存しやすい。この結果、継続して吐出した場合、インクに含まれる成分が液滴吐出装置のインクの流路に付着し、液滴吐出ヘッドへのインクの供給が不安定になる。また、導体パターンの形成に用いるインク(産業用)は、プリンターに適用されるもの(民生用)で用いるインクに比べて、組成に制限が多く、乾燥性や再溶解性等の特性が十分ではなく、金属粒子等の固形分が析出、あるいは凝集して、液滴吐出ヘッドの吐出部の目詰まりを起こしやすく、液滴の飛行曲がりを頻発する。このような場合、導体パターン形成用インクによって基板上に形成されたパターンは、十分に均一な厚さ、幅を有することが困難であった。このように、目的とする形状のパターンを形成できない場合、結果として形成した導体パターンの一部に断線が生じやすいものとなっていた。また、導体パターンが目的とする形状とならないことにより、導体パターンが目的とする周波数特性(Q値)からずれた特性を有してしまう問題があった。特に、近年の配線の微細化、狭ピッチ化による回路基板の高密度化に伴い、このような問題の発生が顕著であった。
【0005】
このため、例えば、液滴吐出装置のセラミックス基板のない部分で液滴を吐出することによる行う方法(つば吐き)により、液滴吐出ヘッドやインクの流路に存在する凝集物、付着物等を取り除き、インク等による汚れ、目詰まりの解消を行う。しかしながら、このような方法のみでは、十分に凝集物、付着物を取り除くことができず、再び液滴の吐出を行うと比較的短期間で、液滴の吐出量が不安定になったり、吐出部が再び目詰まりする問題があった。このような場合、液滴吐出ヘッドや他の部材を頻繁に交換する必要があり、セラミックス回路基板の生産性を極端に落とすものとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−84387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、液滴吐出装置の導体パターン形成用インクの流路における汚れ、液滴吐出ヘッドの目詰まりを好適に解消できる液滴吐出装置の洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の液滴吐出装置の洗浄方法は、液滴吐出方式による導体パターンの形成に用いられ、金属粒子が水系分散媒に分散した導体パターン形成用インクを吐出する液滴吐出装置を洗浄する洗浄方法であって、
前記液滴吐出装置の前記導体パターン形成用インクの流路に、分散剤と有機溶剤とを含む第1の洗浄液を流す第1の洗浄工程と、
前記第1の洗浄工程の後、前記液滴吐出装置の吐出性を検査する検査工程と、
無機酸を含む第2の洗浄液を前記流路に流す第2の洗浄工程と、
主として前記水系分散媒で構成された第3の洗浄液を前記流路に流す第3の洗浄工程とを有し、
前記第2の洗浄工程および前記第3の洗浄工程は、前記検査工程の結果に応じて行うことを特徴とする。
これにより、液滴吐出装置の導体パターン形成用インクの流路における汚れ、液滴吐出ヘッドの目詰まりを好適に解消できる液滴吐出装置の洗浄方法を提供することができる。
【0009】
本発明の液滴吐出装置の洗浄方法では、前記分散剤は、前記導体パターン形成用インク中に含まれる分散剤を構成する成分の少なくとも一部を含むものであることが好ましい。
これにより、導体パターン形成用インク中に含まれる有機物等の付着物や、金属粒子の軽度な付着物をより確実に除去することができる。
本発明の液滴吐出装置の洗浄方法では、前記分散剤は、COOH基とOH基とを合わせて3個以上有し、かつ、COOH基の数がOH基の数と同数またはCOOH基の数がOH基の数よりも多いヒドロキシ酸またはその塩を含むことが好ましい。
これにより、一旦遊離した金属等の汚れが流路に再付着しにくいものとなる。
【0010】
本発明の液滴吐出装置の洗浄方法では、前記有機溶剤は、多価アルコールを含むことが好ましい。
これにより、導体パターン形成用インクの流路内の有機物による汚れをより効果的に除去することができるとともに、洗浄後の液滴吐出装置内の不本意な乾燥を抑制することができ、洗浄後に液滴吐出装置内への導体パターン形成用インクの充填を容易にすることができる。
【0011】
本発明の液滴吐出装置の洗浄方法では、前記多価アルコールは、1,3−プロパンジオールであることが好ましい。
これにより、導体パターン形成用インクの流路内の有機物による汚れをさらに効果的に除去することができる。
本発明の液滴吐出装置の洗浄方法では、前記検査工程において、前記液滴吐出装置から吐出される液滴の着弾位置についての精度を吐出性として検査することが好ましい。
これにより、第1の洗浄工程後に容易に検査を行うことができる。
【0012】
本発明の液滴吐出装置の洗浄方法では、前記無機酸は、酸化力を有する酸であることが好ましい。
これにより、導体パターン形成用インクの流路に付着した汚れ(特に金属粒子の凝集)をより容易に酸化分解(金属粒子の場合は溶解)することができる。
本発明の液滴吐出装置の洗浄方法では、前記無機酸は、硝酸、硝酸第二鉄水溶液または無水クロム酸と硫酸の混合液であることが好ましい。
これにより、導体パターン形成用インクの流路に付着した汚れ(特に金属粒子の凝集)をより確実に除去することができ、液滴吐出装置内をさらに効果的に洗浄することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】液滴吐出装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1の液滴吐出装置が備える液滴吐出ヘッドの概略構成を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
《液滴吐出装置》
まず、本発明の洗浄方法の説明に先立ち、本発明が適用される液滴吐出装置の好適な実施形態について説明する。
図1は、液滴吐出装置(インクジェット装置)の好適な実施形態の一例を示す斜視図、図2は、図1の液滴吐出装置が備える液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)の概略構成を説明するための模式図である。
【0015】
図1に示すように、液滴吐出装置100は、図2に示す液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド。以下、単にヘッドと呼ぶ)110と、ベース130と、テーブル140と、インク貯留槽150と、洗浄液貯留槽160と、テーブル位置決め手段170と、ヘッド位置決め手段180と、制御装置190とを有している。
この液滴吐出装置100は、属粒子が水系分散媒に分散した導体パターン形成用インクを吐出することにより、導体パターンを形成するのに用いられる装置である。
【0016】
ベース130は、テーブル140、テーブル位置決め手段170、およびヘッド位置決め手段180等の液滴吐出装置100の各構成部材を支持する台である。
テーブル140は、テーブル位置決め手段170を介してベース130に設置されている。また、テーブル140は、基材S(本実施形態ではセラミックス成形体)を載置するものである。
また、テーブル140の裏面には、ラバーヒータ(図示せず)が配設されている。テーブル140上に載置されたセラミックス成形体は、その上面全体がラバーヒータにて所定の温度に加熱されるようになっている。
【0017】
セラミックス成形体に着弾したインク(後述する導体パターン形成用インク)1は、その表面側から水系分散媒の少なくとも一部が蒸発する。このとき、セラミックス成形体は加熱されているので、水系分散媒の蒸発が促進される。そして、セラミックス成形体に着弾したインク1は、乾燥とともにその表面の外縁から増粘し、つまり、中央部に比べて外周部における固形分(粒子)濃度が速く飽和濃度に達することから表面の外縁から増粘していく。外縁の増粘したインク1は、セラミックス成形体の面方向に沿う自身の濡れ広がりを停止するため、着弾径しいては線幅の制御が容易になる。
セラミックス成形体の加熱温度としては、例えば、40℃以上100℃以下で行うのが好ましく、50℃以上70℃以下で行うのがより好ましい。このような条件とすることにより、水系分散媒が蒸発した際に、クラックが発生するのをより効果的に防止することができる。
【0018】
テーブル位置決め手段170は、第1移動手段171と、モータ172とを有している。テーブル位置決め手段170は、ベース130におけるテーブル140の位置を決定し、これにより、ベース130におけるセラミックス成形体の位置を決定する。
第1移動手段171は、Y方向と略平行に設けられた2本のレールと、当該レール上を移動する支持台とを有している。第1移動手段171の支持台は、モータ172を介してテーブル140を支持している。そして、支持台がレール上を移動することにより、基材Sを載置するテーブル140は、Y方向に移動および位置決めされる。
モータ172は、テーブル140を支持しており、θz方向にテーブル140を揺動および位置決めする。
【0019】
ヘッド位置決め手段180は、第2移動手段181と、リニアモータ182と、モータ183、184、185とを有している。ヘッド位置決め手段180は、ヘッド110の位置を決定する。
第2移動手段181は、ベース130から立設する2本の支持柱と、当該支持柱同士の間に当該支持柱に支持されて設けられ、2本のレールを有するレール台と、レールに沿って移動可能でヘッド110を支持する支持部材(図示せず)とを有している。そして、支持部材がレールに沿って移動することにより、ヘッド110は、X方向に移動および位置決めされる。
【0020】
リニアモータ182は、支持部材付近に設けられており、ヘッド110のZ方向の移動および位置決めをすることができる。
モータ183、184、185は、ヘッド110を、それぞれα,β,γ方向に揺動および位置決めする。
以上のようなテーブル位置決め手段170およびヘッド位置決め手段180とにより、インクジェット装置100は、ヘッド110のインク吐出面115Pと、テーブル140上の基材Sとの相対的な位置および姿勢を、正確にコントロールできるようになっている。
【0021】
図2に示すように、ヘッド110は、インクジェット方式(液滴吐出方式)によってインク1をノズル(突出部)118から吐出するものである。本実施形態では、ヘッド110は、圧電体素子としてのピエゾ素子113を用いてインクを吐出させるピエゾ方式を用いている。ピエゾ方式は、インク1に熱を加えないため、材料の組成に影響を与えないなどの利点を有する。
【0022】
ヘッド110は、ヘッド本体111と、振動板112と、ピエゾ素子113とを有している。
ヘッド本体111は、本体114と、その下端面にノズルプレート115とを有している。そして、本体114を板状のノズルプレート115と振動板112とが挟み込むことにより、空間としてのリザーバ116およびリザーバ116から分岐した複数のインク室117が形成されている。
【0023】
リザーバ116には、後述するインク貯留槽150よりインク1が供給される。リザーバ116は、各インク室117にインク1を供給するための流路を形成している。
また、ノズルプレート115は、本体114の下端面に装着されており、インク吐出面115Pを構成している。このノズルプレート115には、インク1を吐出する複数のノズル118が、各インク室117に対応して開口されている。そして、各インク室117から対応するノズル118に向かって、インク流路が形成されている。
【0024】
振動板112は、ヘッド本体111の上端面に装着されており、各インク室117の壁面を構成している。振動板112は、ピエゾ素子113の振動に応じて振動可能となっている。
ピエゾ素子113は、その振動板112のヘッド本体111と反対側に、各インク室117に対応して設けられている。ピエゾ素子113は、水晶等の圧電材料を一対の電極(不図示)で挟持したものである。その一対の電極は、駆動回路191に接続されている。
【0025】
そして、駆動回路191からピエゾ素子113に電気信号を入力すると、ピエゾ素子113が膨張変形または収縮変形する。ピエゾ素子113が収縮変形すると、インク室117の圧力が低下して、リザーバ116からインク室117にインク1が流入する。また、ピエゾ素子113が膨張変形すると、インク室117の圧力が増加して、ノズル118からインク1が吐出される。なお、印加電圧を変化させることにより、ピエゾ素子113の変形量を制御することができる。また、印加電圧の周波数を変化させることにより、ピエゾ素子113の変形速度を制御することができる。すなわち、ピエゾ素子113への印加電圧を制御することにより、インク1の吐出条件を制御し得るようになっている。
【0026】
制御装置190は、インクジェット装置100の各部位を制御する。例えば、駆動回路191で生成する印加電圧の波形を調節してインク1の吐出条件を制御したり、テーブル位置決め手段170およびヘッド位置決め手段180を制御することにより基材Sへのインク1の吐出位置を制御する。
また、インク貯留槽150は、インク1を貯留する。インク貯留槽150は、搬送路151を介して、リザーバ116に接続されており、インク貯留槽150に貯留されたインク1は、液滴吐出時等における必要に応じてリザーバ116に供給される。
また、搬送路151には、その途中に分岐路152が設けられており、分岐路152を介して洗浄液貯留槽160と接続されている。
【0027】
洗浄液貯留槽160は、洗浄液を貯留する。洗浄液貯留槽160は、分岐路152および搬送路151を介してリザーバ116等のインク1の流路に接続されている。そして、洗浄時においては、リザーバ116へ洗浄液が搬送されてインク1と置換されて貯留され、貯留された洗浄液をインク1の流路に沿って流すことにより、リザーバ116、インク室117等にあるインク1の流路の洗浄が行われる。
このようにインク貯留槽150および洗浄液貯留槽160を有することにより、より簡便かつ確実にインク1の流路を洗浄することができる。
【0028】
《液滴吐出装置の洗浄方法》
次に、本発明の液滴吐出装置の洗浄方法の好適な実施形態について説明する。
本実施形態では、上述したような液滴吐出装置100を洗浄する洗浄方法を代表的に説明するが、本発明は、上述したような液滴吐出装置100に限定されるものではない。
洗浄は、いかなるときに行ってもよいが、例えば、液滴吐出の休止時、導体パターン形成用インク1の交換、補給時、インクジェット装置100を作動させる前後、液滴吐出ヘッド交換時、インクの流路にある部品の交換時等に行うことができる。このような期間に定期的に洗浄液による洗浄を行うことにより、液滴吐出装置100のインクの流路における汚れの付着、ノズル118の目詰まりを確実に防止することができる。また、液滴吐出装置100の各部品の寿命を極めて長いものとすることができ、例えば、ヘッド110の劣化による交換を少ないものとすることができる。
【0029】
本実施形態の液滴吐出装置の洗浄方法では、液滴吐出装置100のインク1の流路に、分散剤と有機溶剤とを含む第1の洗浄液を流す第1の洗浄工程と、その後に液滴吐出装置100の吐出性を検査する検査工程とを行った後、当該検査工程の吐出性の評価が満足なものでなかった場合には、さらに、無機酸を含む第2の洗浄液をインク1の流路に流す第2の洗浄工程と、主として水系分散媒で構成された第3の洗浄液をインク1の流路に流す第3の洗浄工程とを行う。
【0030】
このように本発明では、上記第1の洗浄液で洗浄する第1の洗浄工程と、その洗浄の効果を検査する検査工程とを行い、検査の結果、洗浄が不十分であった場合には、その工程後に第2の洗浄液で洗浄する第2の洗浄工程と、第3の洗浄液で洗浄する第3の洗浄工程とを行う点に特徴を有している。このような特徴を有することにより、液滴吐出装置の導体パターン形成用インクの流路における汚れ、液滴吐出ヘッドの目詰まりを好適に解消できる液滴吐出装置の洗浄方法を提供することができる。すなわち、まず、軽度な汚れ等を第1の洗浄工程で除去し、検査により洗浄が十分であると判断した場合は第1の洗浄工程で終了し、検査により洗浄が不十分である場合と判断した場合は、金属粒子の付着等の重度の汚れによるものと判断し、無機酸を含む第2の洗浄液による第2の洗浄工程を行い、付着した金属粒子等を除去し、さらに、液滴吐出装置内の酸成分を除去するために水系分散媒で構成された第3の洗浄液で洗浄する第3の洗浄工程を行う。これにより、洗浄による液滴吐出装置内の劣化(酸による劣化)を防止しつつ、液滴吐出装置内をより効果的に洗浄することができる。その結果、液滴吐出装置の液滴の吐出性を常に優れたものとすることができるとともに、液滴吐出装置の寿命を長くすることができる。
【0031】
以下、各工程について説明する。
<第1の洗浄工程>
本工程では、液滴吐出装置100のインク1の流路に、分散剤と有機溶剤とを含む第1の洗浄液を流し、液滴吐出装置100内を洗浄する。
本工程では、インク1の流路における、インク1中に含まれる有機物等の付着や、金属粒子の軽度な付着等を除去することを目的としている。
【0032】
第1の洗浄液中に含まれる分散剤としては、特に限定されないが、COOH基とOH基とを合わせて3個以上有し、かつ、COOH基の数がOH基と同じか、それよりも多いヒドロキシ酸またはその塩を含むことが好ましい。これらの分散剤は、金属粒子の表面に吸着してコロイド粒子を形成し、分散剤中に存在するCOOH基の電気的反発力によって銀コロイド粒子を水溶液中に均一に分散させてコロイド液を安定化する働きを有する。これにより、一旦遊離した金属等の汚れがインク1の流路に再付着しにくいものとなる。これに対して、分散剤中のCOOH基とOH基の数が3個未満であったり、COOH基の数がOH基の数よりも少ないと、金属コロイド粒子の分散性が十分に得られない場合がある。
【0033】
このような分散剤としては、例えば、クエン酸、りんご酸、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三リチウム、クエン酸三アンモニウム、りんご酸二ナトリウム、タンニン酸、ガロタンニン酸、五倍子タンニン等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、分散剤は、COOH基とSH基とを合わせて2個以上有するメルカプト酸またはその塩を含んでいてもよい。これらの分散剤は、メルカプト基が金属粒子の表面に吸着してコロイド粒子を形成し、分散剤中に存在するCOOH基の電気的反発力によってコロイド粒子を水溶液中に均一に分散させてコロイド液を安定化する働きを有する。これにより、上述したような、ヒドロキシ酸またはその塩と同様の効果を得ることができる。これに対して、分散剤中のCOOH基とSH基の数が2個未満すなわち片方のみであると、金属コロイド粒子の分散性が十分に得られない場合がある。
【0034】
このような分散剤としては、例えば、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオジプロピオン酸、メルカプトコハク酸、チオ酢酸、メルカプト酢酸ナトリウム、メルカプトプロピオン酸ナトリウム、チオジプロピオン酸ナトリウム、メルカプトコハク酸二ナトリウム、メルカプト酢酸カリウム、メルカプトプロピオン酸カリウム、チオジプロピオン酸カリウム、メルカプトコハク酸二カリウム等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
また、第1の洗浄液中に含まれる分散剤は、導体パターン形成用インク(例えば、後述するような導体パターン形成用インク)1中に含まれる分散剤を構成する成分の少なくとも一部を含むことが好ましく、導体パターン形成用インク中に含まれる分散剤と組成がほぼ同一であることがより好ましい。これにより、インク1中に含まれる有機物等の付着物や、金属粒子の軽度な付着物をより確実に除去することができる。
【0036】
第1の洗浄液中における分散剤の含有量は、特に限定されないが、1wt%以上20wt%以下であることが好ましく、5wt%以上10wt%以下であることがより好ましい。これにより、インク1中に含まれる有機物等の付着物や、金属粒子の軽度な付着物をより効率よく除去することができる。
第1の洗浄液中に含まれる有機溶剤は、特に限定されないが、多価アルコールを含んでいるのが好ましい。これにより、インク1の流路内の有機物による汚れをより効果的に除去することができるとともに、洗浄後の液滴吐出装置100内の不本意な乾燥を抑制することができ、洗浄後に液滴吐出装置100内へのインク1の充填を容易にすることができる。
【0037】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオールや、トレイトール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、アラビトール、リビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、スレイトール、グリトール、タリトール、ガラクチトール、アリトール、アルトリトール、ドルシトール、イディトール、グリセリン(グリセロール)、イノシトール、マルチトール、イソマルチトール、ラクチトール、ツラニトール等の糖アルコール等を用いることができる。上述した中でも、特に、取り扱いやすさや、洗浄性が高いという観点から、1,3−プロパンジオールを用いるのが好ましい。
第1の洗浄液中における多価アルコールの含有量は、特に限定されないが、5wt%以上50wt%以下であることが好ましく、10wt%以上20wt%以下であることがより好ましい。これにより、インク1中に含まれる有機物等の付着物や、金属粒子の軽度な付着物をより効率よく除去することができる。
【0038】
また、第1の洗浄液には、上記成分の他、水系分散媒が含まれていてもよい。
本明細書において、「水系分散媒」とは、水および/または水との相溶性に優れる液体(例えば、25℃における水100gに対する溶解度が30g以上の液体)で構成されたもののことを指す。このように、水系分散媒は、水および/または水との相溶性に優れる液体で構成されたものであるが、主として水で構成されたものであるのが好ましく、特に、水の含有率が70wt%以上のものであるのが好ましく、90wt%以上のものであるのがより好ましい。
また、第1の洗浄液中に含まれる水系分散媒は、後述する導体パターン形成用インクを構成する水系分散媒とほぼ同じ組成のものであるのが好ましい。これより、インクとの置換性が特に優れたものとなり、残存したインクと素早く混合、置換することができる。
【0039】
水系分散媒の具体例としては、例えば、水、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒、ピリジン、ピラジン、ピロール等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、アセトアルデヒド等のアルデヒド系溶媒等が挙げられ、これらのうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、第1の洗浄液中に水系分散媒が含まれている場合、水系分散媒の含有量は、50wt%以上90wt%以下であることが好ましく、60wt%以上90wt%以下であることがより好ましい。これにより、第1の洗浄液の粘度を好適なものとすることができ、第1の洗浄液としての特性をより高いものとすることができる。
【0040】
<検査工程>
本工程では、液滴吐出装置100の液滴の吐出性を検査することにより、第1の洗浄工程における洗浄の度合いを評価する。
吐出性の検査は、例えば、液滴吐出ヘッド110から吐出される液滴の着弾位置についての精度(着弾位置精度)の測定や、液滴吐出ヘッド110から吐出される液滴の重量についての精度(液滴重量精度)の測定、液滴吐出ヘッド110から吐出される液滴の飛行速度(液滴速度精度)の測定等によって行うことができる。これらの中でも、着弾位置精度の測定は、容易に測定することができることから、第1の洗浄工程後に容易に検査を行うことができる。
また、吐出性の検査は、上述した第1の洗浄液を用いて検査することができる。これにより、第1の洗浄工程後に容易に検査を行うことができる。
【0041】
<第2の洗浄工程>
本工程は、上記検査工程の検査の結果、洗浄が不十分だと判断した場合に行う工程であり、無機酸を含む第2の洗浄液を流路に流し、液滴吐出装置100内を洗浄する。
本工程では、上述した第1の洗浄工程では除去しきれなかった、重度の金属粒子の付着等を除去することを目的としている。
無機酸を含む第2の洗浄液を用いることにより、インク1の流路に付着した汚れ(特に金属粒子の凝集)を容易に除去することができる。この結果、液滴吐出装置100内をより効果的に洗浄することができる。
【0042】
無機酸としては、塩酸、臭化水素酸、フッ化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、亜硝酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、クロム酸、二クロム酸、過マンガン酸、酸化第二鉄水溶液、および、これらの塩等が挙げられる。
また、無機酸としては、酸化力のある酸を用いることが好ましい。このように、無機酸が酸化力を有することにより、インクの流路に付着した汚れ(特に金属粒子の凝集)をより容易に酸化分解(金属粒子の場合は溶解)することができる。この結果、液滴吐出装置100内をより確実に洗浄することができる。
【0043】
具体的には、無機酸の酸化還元電位E(V)は、0.8≦E≦2.05であることが好ましく、0.86≦E≦1.55であることがより好ましい。これにより、第2の洗浄液の洗浄性をより高いものとすることができるとともに、インク1の流路を構成する部材を劣化させることを防止することができる。
また、無機酸としては、上述した中でも、硝酸、硝酸第二鉄水溶液、または無水クロム酸と硫酸の混合液を用いることが好ましく、硝酸を用いることがより好ましい。これにより、インクの流路に付着した汚れ(特に金属粒子の凝集)をより確実に除去することができ、液滴吐出装置100内をさらに効果的に洗浄することができる。
【0044】
<第3の洗浄工程>
本工程では、主として水系分散媒で構成された第3の洗浄液を、インク1の流路に流す。これにより、上記第2の洗浄工程において使用した無機酸を含む第2の洗浄液を確実に除去することができる。その結果、インク1の流路を構成する部材が残存した無機酸によって劣化してしまうのを防止することができる。
なお、第3の洗浄工程の後に、上述したような検査工程を行い、その検査結果によって、再度第2の洗浄工程および第3の洗浄工程を行ってもよい。
以上説明したような洗浄方法を用いることにより、液滴吐出装置の液滴の吐出性を常に優れたものとすることができるとともに、液滴吐出装置の寿命を長くすることができる。
【0045】
《導体パターン形成用インク》
次に、本発明の洗浄方法に適用される液滴吐出装置から吐出可能な導体パターン形成用インクについて説明する。
導体パターン形成用インク(以下、単にインクともいう)は、基板上に導体パターンを形成するのに用いるインクであり、特に、液滴吐出法によって導体パターンを形成するのに用いるインクである。
なお、本実施形態では、金属粒子を水系分散媒に分散してなる分散液として、銀粒子が分散した分散液を用いた場合について代表的に説明する。
【0046】
また、導体パターンが形成される基板は、いかなるものであってもよいが、本実施形態では、基板としてセラミックスを主として構成されたセラミックス基板を用いることとする。また、本実施形態では、セラミックスとバインダーとを含む材料で構成されたシート状のセラミックス成形体(セラミックスグリーンシート)に導体パターン形成用インクを付与するものとして説明する。なお、セラミックス成形体は、焼結処理され、セラミックス基板となる。
【0047】
以下、導体パターン形成用インクの各構成成分について詳細に説明する。
[水系分散媒]
水系分散媒としては、上述した、第1の洗浄液および第3の洗浄液と同様の液体を用いることができる。
特に、水系分散媒は、前述した第3の洗浄液を構成する水系分散媒とほぼ同等の組成を有するものを用いることが好ましい。これにより、洗浄後にインクを再充填する際のインクの置換性をより高いものとすることができる。
また、導体パターン形成用インク中における水系分散媒の含有量は、25wt%以上60wt%以下であることが好ましく、30wt%以上50wt%以下であることがより好ましい。これにより、インクの粘度を好適なものとしつつ、分散媒の揮発による粘度の変化を少ないものとすることができる。
【0048】
[銀粒子]
次に、銀粒子(金属粒子)について説明する。
銀粒子は、形成される導体パターンの主成分であり、導体パターンに導電性を付与する成分である。
また、銀粒子は、インク中において分散している。
【0049】
銀粒子の平均粒径は、1nm以上100nm以下であるのが好ましく、10nm以上30nm以下であるのがより好ましい。これにより、インクの吐出安定性をより高いものとすることができるとともに、微細な導体パターンを容易に形成することができる。
また、インク中に含まれる銀粒子(分散剤が表面に吸着していない銀粒子(金属粒子))の含有量は、0.5wt%以上60wt%以下であるのが好ましく、10wt%以上45wt%以下であるのがより好ましい。これにより、導体パターンの断線をより効果的に防止することができ、より信頼性の高い導体パターンを提供することができる。
【0050】
また、銀粒子(金属粒子)は、その表面に分散剤が付着した銀コロイド粒子(金属コロイド粒子)として、水系分散媒中に分散していることが好ましい。これにより、銀粒子の水系分散媒への分散性が特に優れたものとなり、インクの吐出安定性が特に優れたものとなる。また、このように、銀コロイド粒子が安定してインク中に存在することにより、より容易に微細な導体パターンを形成することができる。また、インクによって形成されたパターン(導体パターン前駆体)において銀粒子が均一に分布し、クラック、断線等が発生しにくいものとなる。
分散剤としては、特に限定されないが、例えば、上述したような、第1の洗浄液に用いることのできる分散剤を用いることができる。
【0051】
インク中における銀コロイド粒子の含有量は、1wt%以上60wt%以下であるのが好ましく、10wt%以上50wt%以下であるのがより好ましい。銀コロイド粒子の含有量が前記下限値未満であると、銀の含有量が少なく、導体パターンを形成した際、比較的厚い膜を形成する場合に、複数回重ね塗りする必要が生じる。一方、銀コロイド粒子の含有量が前記上限値を超えると、銀の含有量が多くなり、分散性が低下し、これを防ぐためには攪拌の頻度が高くなる。
【0052】
また、銀コロイド粒子の熱重量分析における500℃までの加熱減量は、1wt%以上25wt%以下であるのが好ましい。コロイド粒子(固形分)を500℃まで加熱すると、表面に付着した分散剤等が酸化分解され、大部分のものはガス化されて消失する。500℃までの加熱による減量は、銀コロイド粒子中の分散剤の量にほぼ相当すると考えられる。加熱減量が1wt%未満であると、銀粒子に対する分散剤の量が少なく、銀粒子の充分な分散性が低下する。一方、25wt%を超えると、銀粒子に対する残留分散剤の量が多なり、導体パターンの比抵抗が高くなる。但し、比抵抗は、導体パターンの形成後に加熱焼結して有機分を分解消失させることである程度改善することができる。そのため、基板として、より高温で焼結されるセラミックス成形体等を用いた場合このような効果をように得ることができる。
【0053】
[有機バインダー]
また、導体パターン形成用インクは、有機バインダーを含んでいてもよい。有機バインダーは、導体パターン形成用インクによって形成された導体パターン前駆体において、銀粒子の凝集を防止するものである。すなわち、形成された導体パターン前駆体において、有機バインダーは、銀粒子同士の間に存在することで銀粒子同士が凝集して、パターンの一部に亀裂(クラック)が生じることを防止できる。また、焼結時においては、有機バインダーは、分解されて除去されることができ、導体パターン前駆体中の銀粒子同士は、結合して導体パターンを形成する。
【0054】
有機バインダーとしては、特には限定されないが、例えば、ポリエチレングリコール#200(重量平均分子量200)、ポリエチレングリコール#300(重量平均分子量300)、ポリエチレングリコール#400(平均分子量400)、ポリエチレングリコール#600(重量平均分子量600)、ポリエチレングリコール#1000(重量平均分子量1000)、ポリエチレングリコール#1500(重量平均分子量1500)、ポリエチレングリコール#1540(重量平均分子量1540)、ポリエチレングリコール#2000(重量平均分子量2000)等のポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール#200(重量平均分子量:200)、ポリビニルアルコール#300(重量平均分子量:300)、ポリビニルアルコール#400(平均分子量:400)、ポリビニルアルコール#600(重量平均分子量:600)、ポリビニルアルコール#1000(重量平均分子量:1000)、ポリビニルアルコール#1500(重量平均分子量:1500)、ポリビニルアルコール#1540(重量平均分子量:1540)、ポリビニルアルコール#2000(重量平均分子量:2000)等のポリビニルアルコール、ポリグリセリン、ポリグリセリンエステル等のポリグリセリン骨格を有するポリグリセリン化合物が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、ポリグリセリンエステルとしては、例えば、ポリグリセリンのモノステアレート、トリステアレート、テトラステアレート、モノオレエート、ペンタオレエート、モノラウレート、モノカプリレート、ポリシノレート、セスキステアレート、デカオレエート、セスキオレエート等が挙げられる。
【0055】
この中でも、有機バインダーとして、ポリグリセリン化合物を用いた場合、以下のような効果が得られる。
ポリグリセリン化合物は、導体パターン形成用インクによって形成された導体パターン前駆体を乾燥(脱分散媒)した際に、導体パターン前駆体にクラックが発生するのを特に好適に防止することができる。これは、以下のように考えられる。導体パターン形成用インク中にポリグリセリン化合物が含まれることにより、銀粒子(金属粒子)の間に高分子鎖が存在することとなり、ポリグリセリン化合物が銀粒子同士の距離を適度なものとすることができる。さらに、ポリグリセリン化合物は比較的沸点が高いため、水系分散媒の除去時においては除去されず、銀粒子の周囲に付着する。以上により、水系分散媒除去時において、ポリグリセリン化合物が銀粒子を包み込んだ状態が長く続き、水系分散媒の揮発による急激な体積収縮が避けられるとともに銀の粒成長(凝集)が妨げられる結果、導体パターン前駆体中のクラックの発生が抑制されると考えられる。
【0056】
また、ポリグリセリン化合物は、導体パターンを形成する際の焼結時において、断線が発生するのをより確実に防止することができる。これは、以下のように考えられる。ポリグリセリン化合物は、比較的沸点あるいは分解温度が高い。このため、導体パターン形成用インクから導体パターンを形成する過程において、水系分散媒が蒸発した後、比較的高い温度まで、ポリグリセリン化合物を、蒸発或いは熱(酸化)分解せずに、導体パターン前駆体中に存在させることができる。したがって、ポリグリセリン化合物が蒸発或いは熱(酸化)分解するまでは、銀粒子の周囲にポリグリセリン化合物が存在し、銀粒子同士の接近と凝集とを抑制することができ、ポリグリセリン化合物が分解した後には、より均一に銀粒子同士を接合させることができる。さらに、焼結時においてパターン中の銀粒子(金属粒子)の間に高分子鎖(ポリグリセリン化合物)が存在することとなり、ポリグリセリン化合物が銀粒子同士の距離を保つことができる。また、このポリグリセリン化合物は、適度な流動性を有している。このため、ポリグリセリン化合物を含むことにより、導体パターン前駆体は、セラミックス成形体の温度変化による膨張・収縮への追従性が優れたものとなる。
【0057】
以上より、形成された導体パターンに断線が生じることをより確実に防止することができると考えられる。
また、このようなポリグリセリン化合物を含むことにより、インクの粘度をより適度なものとすることができ、インクジェットヘッドからの吐出安定性をより効果的に向上させることができる。また、成膜性も向上させることができる。
【0058】
ポリグリセリン化合物としては、上述した中でも、ポリグリセリンを用いるのが好ましい。ポリグリセリンは、セラミックス成形体の温度変化による膨張・収縮への追従性が特に優れるとともに、セラミックス成形体の焼結後には、導体パターン中からより確実に除去することができる成分である。その結果、導体パターンの電気的特性をより高いものとすることができる。さらに、ポリグリセリンは、水系分散媒への溶解度も高いので、好適に用いることができる。
【0059】
有機バインダーは、その重量平均分子量が300以上3000以下であるのが好ましく、400以上1000以下であるのがより好ましく、400以上600以下であるのがさらに好ましい。これにより、導体パターン形成用インクによって形成されたパターンを乾燥した際に、クラックの発生をより確実に防止することができる。これに対し、有機バインダーの重量平均分子量が前記下限値未満であると、有機バインダーの組成によっては、水系分散媒を除去する際に有機バインダーが分解しやすい傾向があり、クラックの発生を防止する効果が小さくなる。また、有機バインダーの重量平均分子量が前記上限値を超えると、有機バインダーの組成によっては、排除体積効果等によりインク中への溶解性、分散性が低下する場合がある。
【0060】
また、インク中に有機バインダーの含有量は、1wt%以上30wt%以下であるのが好ましく、5wt%以上20wt%以下であるのがより好ましい。これにより、インクの吐出安定性を特に優れたものとしつつ、クラック、断線の発生をより効果的に防止することができる。これに対して、有機バインダーの含有量が前記下限値未満であると、有機バインダーの組成によっては、クラックの発生を防止する効果が小さくなる場合がある。また、有機バインダーの含有量が前記上限値を超えると、有機バインダーの組成によっては、インクの粘度を十分に低いものとすることが困難な場合がある。
【0061】
[乾燥抑制剤]
また、導体パターン形成用インクは、乾燥抑制剤を含んでいてもよい。乾燥抑制剤は、インク中の水系分散媒の不本意な揮発を防止するものである。その結果、インクジェット装置の吐出部付近において水系分散媒が揮発することを防止でき、インクの粘度の上昇、乾燥が抑えられる。導体パターン形成用インクは、このような乾燥抑制剤を含む結果、インクの液滴の吐出安定性が特に優れたものとなる。すなわち、インクの液滴の重量のばらつきが小さいものとなり、目詰まり、飛行曲がり等が少ないものとなる。
このような乾燥抑制剤としては、下記式(I)で示される化合物、上述したような多価アルコール、アルカノールアミン等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
【化1】

(ただし、R、R’は、それぞれ、Hまたはアルキル基である。)
【0063】
上記式(I)で表される化合物は、水素結合性の高い成分である。このため、水との親和性が高く、適度な水分を保持することができ、導体パターン形成用インクの水系分散媒の不本意な揮発を防止することができる。
また、上記化合物は、比較的燃焼しやすく、導体パターンを形成する際には導体パターン内からより容易に除去(酸化分解)することができる。
【0064】
また、導体パターン形成用インクによって形成されたパターンを乾燥(脱分散媒)する際に、水系分散媒が揮発とともに、上記化合物の濃度が上昇する。これにより、導体パターンの前駆体の粘度が上昇するため、前駆体を構成するインクの不本意な部位への流れ出しがより確実に防止される。その結果、形成される導体パターンをより高い精度で所望の形状とすることができる。
また、上述したような化合物は、金属粒子(銀粒子)が前述したように表面に分散剤が付着したコロイド粒子である場合、表面の分散剤と水素結合により結合し、金属粒子の分散安定性を向上させる効果を有している。これにより、導体パターン形成用インクの吐出安定性に優れるとともに、保存安定性にも優れたものとなる。
【0065】
上述したように、本発明で用いる上記式(I)で表される化合物中における、R、R’は、それぞれ、水素またはアルキル基であるが、R、R’は、ともに水素であるのが好ましい。すなわち、尿素であるのが好ましい。これにより、上述したような保湿性を特に高いものとすることができ、特に優れた吐出安定性を得ることができる。また、金属粒子が上述したようなコロイド粒子として存在する場合に、特に優れた分散安定性を示すものとなる。
【0066】
このような上記式(I)で表される化合物のインク中における含有量は、5wt%以上25wt%以下であるのが好ましく、8wt%以上20wt%以下であるのがより好ましく、10wt%以上18wt%以下であるのがさらに好ましい。これにより、導体パターン形成用インクの不本意な乾燥をより効率よく防止することができる。その結果、インクの吐出安定性を特に優れたものとすることができる。
【0067】
アルカノールアミンは、保湿性の高い成分であるとともに、金属粒子が前述したようなコロイド粒子である場合に、コロイド粒子表面の分散剤の官能基を活性化させることができ、金属粒子の分散安定性をより高いものとすることができる。
アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン等各種のものを挙げることができる。
【0068】
また、アルカノールアミンは、第3級アミンであるのが好ましい。第3級アミンは、アルカノールアミンの中でも、特に保湿性が高く、上記効果をより顕著なものとすることができる。
また、第3級アミンの中でも、取り扱いやすさや、保湿性の高さ等の観点から、特に、トリエタノールアミンを用いるのが好ましい。
導体パターン形成用インク中におけるアルカノールアミンの含有量は、1wt%以上10wt%以下であるのが好ましく、3wt%以上7wt%以下であるのがより好ましい。これにより、導体パターン形成用インクの吐出安定性をより効果的に優れたものとすることができる。
【0069】
上述したような多価アルコールの、導体パターン形成用インク中における含有量は、3wt%以上20wt%以下であるのが好ましく、5wt%以上15wt%以下であるのがより好ましい。これにより、導体パターン形成用インクの水系分散媒の揮発をより確実に抑制することができ、導体パターン形成用インクは、より長期にわたって液滴の吐出安定性が特に優れたものとなる。
【0070】
[表面張力調整剤]
また、導体パターン形成用インクには、表面張力調整剤を含んでいてもよい。
表面張力調整剤は、導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角を所定の角度に調整するために用いられる。
表面張力調整剤としては、各種界面活性剤を用いることができ、1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、アセチレングリコール系化合物を含むことが好ましい。
【0071】
アセチレングリコール系化合物は、少ない添加量で、導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角を所定の範囲に調整することができる。このように、導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角を所定の範囲に調整することにより、より微細な導体パターンを形成することができる。また、吐出した液滴内に気泡が混入した場合であっても、速やかに気泡を除去することができる。その結果、形成される導体パターンでのクラック、断線の発生をより効果的に防止することができる。
【0072】
アセチレングリコール系化合物としては、例えば、サーフィノール104シリーズ(104E、104H、104PG−50、104PA等)、サーフィノール400シリーズ(420、465、485等)、オルフィンシリーズ(EXP4036、EXP4001、E1010等)(「サーフィノール」および「オルフィン」は、日信化学工業株式会社の商品名)等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0073】
また、インク中には、HLB値が異なる2種以上のアセチレングリコール系化合物を含んでいるのが好ましい。導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角を所定の範囲により容易に調整することができる。
特に、インク中に含まれる2種以上のアセチレングリコール系化合物のうち、最もHLB値が高いアセチレングリコール系化合物のHLB値と、最もHLB値が低いアセチレングリコール系化合物のHLB値との差が、4以上12以下であるのが好ましく、5以上10以下であるのがより好ましい。これにより、より少ないアセチレングリコール系化合物の添加量で、導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角を所定の範囲により容易に調整することができる。
【0074】
インク中に2種以上のアセチレングリコール系化合物を含むものを用いる場合、最もHLB値の高いアセチレングリコール系化合物のHLB値は、8以上16以下であるのが好ましく、9以上14以下であるのがより好ましい。
また、インク中に2種以上のアセチレングリコール系化合物を含むものを用いる場合、最もHLB値の低いアセチレングリコール系化合物のHLB値は、2以上7以下であるのが好ましく、3以上5以下であるのがより好ましい。
【0075】
インク中に含まれる表面張力調整剤の含有量は、0.001wt%以上1wt%以下であるのが好ましく、0.01wt%以上0.5wt%以下であるのがより好ましい。これにより、導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角をより効果的に所定の範囲に調整することができる。
なお、導体パターン形成用インクの構成成分は、上記成分に限定されず、上記以外の成分を含んでいてもよい。
【0076】
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、前述した実施形態では、金属粒子を溶媒に分散してなる分散液として、コロイド液を用いる場合について説明したが、コロイド液でなくてもよい。
また、前述した実施形態では、導体パターン形成用インクは、銀粒子が分散したものとして説明したが、銀以外のものであってもよい。金属粒子に含まれる金属としては、例えば、銀、銅、パラジウム、白金、金、または、これらの合金等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。金属粒子が合金である場合、前記金属が主とするもので、他の金属を含む合金であってもよい。また、上記金属同士が任意の割合で混ざった合金であってもよい。また、混合粒子(例えば、銀粒子と銅粒子とパラジウム粒子とが任意の比率で存在するもの)が液中に分散したものであってもよい。これら金属は、抵抗率が小さく、かつ、加熱処理によって酸化されない安定なものであるから、これらの金属を用いることにより、低抵抗で安定な導体パターンを形成することが可能になる。
【0077】
また、例えば、前述した実施形態では、導体パターン前駆体を形成する基板として、セラミックス成形体を用いることして説明したが、これに限定されない。導体パターン前駆体の形成に用いられる基板としては、特に限定されず、例えば、セラミックス焼結体、アルミナ焼結体、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、ガラスエポキシ樹脂、ガラス等からなる基板等が挙げられる。
【実施例】
【0078】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
[1]洗浄液および導体パターン形成用インクの調製
第1の洗浄液、第2の洗浄液および導体パターン形成用インクは、以下のようにして製造した。なお、第3の洗浄液は、イオン交換水で構成されたものを用いた。
【0079】
(第1の洗浄液の調製)
分散剤としてのクエン酸3ナトリウム:2.0重量部、タンニン酸:2.0重量部と、有機溶剤としての1,3−プロパンジオール:10重量部と、イオン交換水:86重量部とを混合することにより、第1の洗浄液を得た。
(第2の洗浄液の調製)
無機酸としての硝酸:0.03重量部と、イオン交換水:99.97重量部とを混合することにより、第2の洗浄液を得た。
【0080】
(導体パターン形成用インク)
10N−NaOH水溶液を3mL添加してアルカリ性にした水50mLに、クエン酸3ナトリウム2水和物17g、タンニン酸0.36gを溶解した。得られた溶液に対して3.87mol/L硝酸銀水溶液3mLを添加し、2時間攪拌を行い、銀コロイド液を得た。得られた銀コロイド液に対し、導電率が30μS/cm以下になるまで透析することで脱塩を行った。透析後、3000rpm、10分の条件で遠心分離を行うことで、粗大金属コロイド粒子を除去した。
【0081】
この銀コロイド液に、トリエタノールアミンと、尿素と、キシリトールと、ポリグリセリンと、アセチレングリコール系化合物としてのサーフィノール104PG−50(日信化学工業社製)およびオルフィンEXP4036(日信化学工業社製)とを添加し、さらに濃度調整用のイオン交換水を添加して調整し、導体パターン形成用インク(以下単にインクとも言う)とした。インク中における銀コロイド粒子の含有量は40wt%、トリエタノールアミンの含有量は10wt%、尿素の含有量は5wt%、キシリトールの含有量は6wt%、ポリグリセリンの含有量は9wt%、サーフィノール104PG−50の含有量は0.02wt%、オルフィンEXP4036の含有量は0.006wt%、水の含有量は29.974wt%であった。
【0082】
(導体パターン形成用インク2〜6)
[2]液滴吐出装置の洗浄
まず、室温25℃、相対湿度50%、クラス100のクリーンルーム内に設置した図1、図2に示すような液滴吐出装置に、上記導体パターン形成用インクを充填し、ピエゾ素子の駆動波形を最適化した状態で、液滴吐出ヘッドの各ノズルから、150000発(150000滴)の液滴の連続吐出を行った。
【0083】
(第1の洗浄工程)
その後、上記第1の洗浄液にて、導体パターン形成用インクの流路を洗浄した。洗浄は、第1の洗浄液を1.0ml/minの流速で、100秒間流すことによって行った。
(検査工程(着弾精度評価))
次に、液滴吐出ヘッドの各ノズルから、上記第1の洗浄液を用いて、100000発(100000滴)の液滴の連続吐出を行った。液滴吐出ヘッドの左右両端の指定の2つのノズルについて、吐出された液滴の総重量を求め、上記2つのノズルから吐出された液滴の平均吐出量の差の絶対値ΔW[ng]を求めた。このΔWの、液滴の目標吐出量W[ng]に対する比率(ΔW/W)を求めた。ΔW/Wが0.420以上であったため、洗浄が不十分であると判断した。
【0084】
(第2の洗浄工程)
次に、第2の洗浄液にて、導体パターン形成用インクの流路を洗浄した。洗浄は、第2の洗浄液を1.0ml/minの流速で、100秒間流すことによって行った。
(第3の洗浄工程)
次に、第3の洗浄液にて、導体パターン形成用インクの流路を洗浄した。洗浄は、第3の洗浄液を1.0ml/minの流速で、100秒間流すことによって行った。
その後、上記と同様の検査を行ったところ、ΔW/Wが0.420よりも小さかったので、洗浄を終了した。
上記結果から明らかなように、本発明の洗浄方法は、洗浄性に優れていた。
また、導体パターン形成用インク中における銀コロイド粒子の含有量を20wt%、30wt%に変更したところ、上記と同様の結果が得られた。
【符号の説明】
【0085】
1…導体パターン形成用インク(インク) 100…インクジェット装置(液滴吐出装置) 110…インクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド、ヘッド) 111…ヘッド本体 112…振動板 113…ピエゾ素子 114…本体 115…ノズルプレート 115P…インク吐出面 116…リザーバ 117…インク室 118…ノズル(突出部) 130…ベース 140…テーブル 150…インク貯留槽 151…搬送路 152…分岐路 160…洗浄液貯留槽 170…テーブル位置決め手段 171…第1移動手段 172…モータ 180…ヘッド位置決め手段 181…第2移動手段 182…リニアモータ 183、184、185…モータ 190…制御装置 191…駆動回路 S…基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴吐出方式による導体パターンの形成に用いられ、金属粒子が水系分散媒に分散した導体パターン形成用インクを吐出する液滴吐出装置を洗浄する洗浄方法であって、
前記液滴吐出装置の前記導体パターン形成用インクの流路に、分散剤と有機溶剤とを含む第1の洗浄液を流す第1の洗浄工程と、
前記第1の洗浄工程の後、前記液滴吐出装置の吐出性を検査する検査工程と、
無機酸を含む第2の洗浄液を前記流路に流す第2の洗浄工程と、
主として前記水系分散媒で構成された第3の洗浄液を前記流路に流す第3の洗浄工程とを有し、
前記第2の洗浄工程および前記第3の洗浄工程は、前記検査工程の結果に応じて行うことを特徴とする液滴吐出装置の洗浄方法。
【請求項2】
前記分散剤は、前記導体パターン形成用インク中に含まれる分散剤を構成する成分の少なくとも一部を含むものである請求項1に記載の液滴吐出装置の洗浄方法。
【請求項3】
前記分散剤は、COOH基とOH基とを合わせて3個以上有し、かつ、COOH基の数がOH基の数と同数またはCOOH基の数がOH基の数よりも多いヒドロキシ酸またはその塩を含む請求項1または2に記載の液滴吐出装置の洗浄方法。
【請求項4】
前記有機溶剤は、多価アルコールを含む請求項1ないし3のいずれかに記載の液滴吐出装置の洗浄方法。
【請求項5】
前記多価アルコールは、1,3−プロパンジオールである請求項4に記載の液滴吐出装置の洗浄方法。
【請求項6】
前記検査工程において、前記液滴吐出装置から吐出される液滴の着弾位置についての精度を吐出性として検査する請求項1ないし5のいずれかに記載の液滴吐出装置の洗浄方法。
【請求項7】
前記無機酸は、酸化力を有する酸である請求項1ないし6のいずれかに記載の液滴吐出装置の洗浄方法。
【請求項8】
前記無機酸は、硝酸、硝酸第二鉄水溶液または無水クロム酸と硫酸の混合液である請求項1ないし7のいずれかに記載の液滴吐出装置の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−167672(P2011−167672A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36644(P2010−36644)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】