説明

液滴吐出装置

【課題】被吐出媒体をドラムに負圧で保持する方式のものにおいて、被吐出媒体の周縁部への液滴吐出を長期間に亘って継続する。
【解決手段】記録用紙Pを保持する部分の周囲に、外層6を貫通し、中間層7の途中まで第1および第2の液滴受け溝12,15を形成する。外層6、中間層7および内層8を相対移動させる状態切替手段によって、記録用紙Pを負圧空間Sの負圧により保持する媒体保持状態と、第1および第2の液滴受け溝12,15内の液体を負圧空間Sの負圧により外部に排出する液体排出状態とを切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置などの液滴吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、記録用紙を回転ドラムで搬送する方式のものにおいて、回転ドラムの内部に発生させた負圧によって記録用紙を吸引保持するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、記録用紙を回転ドラムで搬送する方式のものにおいて、ふちなし印字する場合において、回転ドラムに溝部が設けられたものも知られている(例えば、特許文献2参照)。つまり、ふちなし印字を行う場合、回転ドラムの円周上に溝部を設け、用紙からはみ出たインクをその溝部で受けることによって用紙汚れを避けることができる。このような、はみ出たインクを受ける部分には、フォームなどの吸収体を設置しておき、はみ出たインクが飛び散らないようにされている。また、この溝に対して印字前に予備吐出を行うことで、ノズル表面の乾燥したインクを排出できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−202966号公報
【特許文献2】特開2001−347690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、はみ出たインクを受ける溝部にフォームなどの吸収体を設ける場合には、その吸収体の吸収量には限界があるため、印字枚数が多くなると、そのフォームを交換しなければならず、メンテナンス上不利である。
【0006】
そこで、そのようなフォームのインクを吸引して外部に排出することが考えられるが、フォームが設置された溝部の上面が大気に開放されているために十分な吸引排出力が得られないおそれがある。
【0007】
この発明は、被吐出媒体をドラムに保持する方式のものにおいて、ドラム表面を汚すことを防止して、被吐出媒体の周縁部への液滴吐出(例えばインクジェット記録装置でのふちなし印字など)を長期間に亘って継続することができる液滴吐出装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、回転可能なドラムの外周面に複数の第1の開孔が形成され、前記第1の開孔を通じて負圧を被吐出媒体に作用させて前記被吐出媒体を前記ドラム外周面上に保持し、前記ドラムを回転しながら、前記被吐出媒体に対し液滴吐出ヘッドから液滴を吐出する液滴吐出装置であって、前記ドラムは、外側に少なくとも3層の円筒状層を備え、前記外周面上に、前記被吐出媒体を保持する部分を有するものであり、前記被吐出媒体を保持する部分の周囲であって前記被吐出媒体の短辺方向または長辺方向に沿って延びる第1の液滴受け溝が、前記外層を貫通して形成され、前記第1の液滴受け溝に負圧が選択的に作用する第2の開孔が形成され、前記少なくとも3層の円筒状層を相対移動させる状態切替手段が設けられ、前記状態切替手段によって、前記第2の開孔への負圧の作用を遮断した状態で前記第1の開孔に負圧を作用させ前記被吐出媒体を保持する媒体保持状態と、
前記第1の開孔への負圧の作用を遮断した状態で前記第2の開孔に負圧を作用させ前記第1の液滴受け溝内の液体を外部に排出する液体排出状態とを切替可能に構成されていることを特徴とする。
【0009】
このようにすれば、状態切替手段によって3層の円筒状層を相対移動させることで、被吐出媒体を保持する媒体保持状態と、第1の液滴受け溝内の液体を外部に排出する液体排出状態を簡単に切り替えることができる。よって、媒体保持状態では、第2の開孔への負圧の作用を遮断した状態で前記第1の開孔に負圧を作用させ前記被吐出媒体を保持し、液体排出状態では、第1の開孔への負圧の作用を遮断した状態で前記第2の開孔に負圧を作用させ前記第1の液滴受け溝内の液体を外部に排出することができ、共通の負圧空間を利用して、被吐出媒体の負圧による保持と、第1の液滴受け溝内の液体の、負圧による排出を両立することができる。
【0010】
請求項2に記載のように、請求項1の液滴吐出装置において、前記第1の液滴受け溝は、前記第2の開孔に負圧を作用させたとき、前記第2の開孔に向かって延びる単数若しくは複数の案内リブが前記底面に形成されていることが望ましい。ここで、案内リブは、液滴を保持でき、かつ液体排出の妨げにならずに第3の開孔に向かって延びていればよく、液滴受け溝内での空気の流れ方向に必ずしも沿っている必要はない。
【0011】
このようにすれば、第1の液滴受け溝の底面に配置された案内リブによって、第1の液滴受け溝に吐出された液滴が毛細管現象によって保持され、ドラムの回転による遠心力によって外部に飛び出すことが規制される。また、案内リブは、第2の開孔に向かって延びているため、液体排出時の妨げにならない。
【0012】
請求項3に記載のように、請求項1または2の液滴吐出装置において、前記ドラムは、その内部に負圧状態にある負圧空間を有するものであり、前記媒体保持状態では、前記第1の開孔は、前記円筒状層を貫通する貫通孔を通じて、前記負圧空間の負圧が作用する構成とすることができる。
【0013】
このようにすれば、媒体保持状態では、ドラム内の負圧空間の負圧を、円筒状層を貫通する貫通孔および第1の開孔を通じて記録用紙に作用させることで、記録用紙を保持することができる。
【0014】
請求項4に記載のように、請求項1〜3のいずれかの液滴吐出装置において、前記第1の液滴受け溝は、前記外層を貫通して、前記中間層の途中まで形成されると共に、前記第2の開孔が、前記第1の液滴受け溝の一側に形成され、前記第1の液滴受け溝の他側に、大気に開放される第3の開孔が形成され、前記液体排出状態のときに、前記第3の開孔が大気に開放されている。ここで、「中間層の途中まで」とは、中間層の厚さ方向の中間位置まで、という意味で、中間層を貫通しない。
【0015】
このようにすれば、前記液体排出状態のときに、前記第3の開孔が大気に開放されているので、第2の開孔に負圧を作用させることで、第3の開孔から第2の開孔への空気の流れが生じ、第1液滴受け溝内の液体が、第2の開孔を通じて無理なく排出される。
【0016】
請求項5に記載のように、請求項4の液滴吐出装置において、前記ドラムは、円筒状層として、外側から、外層、中間層および内層を順に備えるものであり、前記状態切替手段は、前記媒体保持状態から前記液体排出状態への切り替えのときには、前記外層および内層に対し前記中間層を相対移動させることで、前記第1の開孔への負圧の作用を遮断すると共に、前記中間層に形成された第1の液滴受け溝の開口部分を前記外層によって閉塞し、前記第3の開孔が大気に開放された状態で前記第2の開孔を、前記内層に形成された前
記貫通孔に連通させることが望ましい。
【0017】
このようにすれば、第1の液滴受け溝内の液体を排出するとき、第1の液滴受け溝の開口部分が外層により塞がれて閉空間とされ、第3の開孔が大気に開放された状態で、第2の開孔に十分な負圧力が作用し、さらに空気の流れが一方向に整流され、効率よく排出される。
【0018】
請求項6に記載のように、請求項1〜5のいずれかの液滴吐出装置において、前記ドラムは、さらに、前記外周面上に、前記被吐出媒体を保持する部分の周囲であって前記被吐出媒体の長辺方向または短辺方向に延びる第2の液滴受け溝が、前記外層を貫通して形成され、前記第2の液滴受け溝に負圧が選択的に作用する第4の開孔が形成され、前記状態切替手段は、前記媒体保持状態では前記第4の開孔への負圧の作用を遮断し、前記液体排出状態では、前記第4の開孔に負圧を作用させ前記第2の液滴受け溝内の液体を外部に排出する構成とすることが望ましい。
【0019】
このようにすれば、媒体保持状態では、第4の開孔への負圧の作用を遮断した状態で前記第1の開孔に負圧を作用させ前記被吐出媒体を保持し、液体排出状態では、第1の開孔への負圧の作用を遮断した状態で前記第4の開孔に負圧を作用させ前記第2の液滴受け溝内の液体を外部に排出することができ、よって、被吐出媒体の負圧による保持と、第2の液滴受け溝内の液体の、負圧による排出を両立することができる。
【0020】
請求項7に記載のように、請求項6の液滴吐出装置において、前記第2の液滴受け溝は、前記第4の開孔に負圧を作用させたとき、前記第4の開孔に向かって延びる単数若しくは複数の案内リブが前記底面に形成されていることが望ましい。ここで、案内リブは、液滴を保持でき、かつ液体排出の妨げにならずに第3の開孔に向かって延びていればよく、液滴受け溝内での空気の流れ方向に必ずしも沿っている必要はない。
【0021】
このようにすれば、液滴受け溝の底面に配置された案内リブによって、液滴受け溝に吐出された液滴が毛細管現象によって保持され、ドラムの回転による遠心力によって外部に飛び出すことが規制される。また、案内リブは、第4の開孔に向かって延びているため、液体排出時の妨げにならない。
【0022】
請求項8に記載のように、請求項6または7の液滴吐出装置において、前記第2の液滴受け溝は、前記外層を貫通して、前記中間層の途中まで形成されると共に、前記第4の開孔が、前記第2の液滴受け溝の一側に形成され、前記第2の液滴受け溝の他側に、大気に開放される第5の開孔が形成され、前記液体排出状態のときに、前記第5の開孔が大気に開放されている構成とすることができる。
【0023】
このようにすれば、第2の液滴受け溝内の液体を排出するとき、第5の開孔が大気に開放された状態で、第4の開孔に負圧が作用させることで、第5の開孔から第4の開孔への空気の流れが生じ、第2の液滴受け溝の液体が、第4の開孔を通じて無理なく排出される。
【0024】
請求項9に記載のように、請求項8の液滴吐出装置において、前記状態切替手段は、前記媒体保持状態から前記液体排出状態への切り替えのときには、前記外層および内層に対し前記中間層を相対移動させることで、前記中間層に形成された第2の液滴受け溝の開口部分を前記外層によって閉塞し、前記第5の開孔を大気に開放した状態で前記第4の開孔を、前記内層に形成された前記貫通孔に連通させる構成とすることができる。
【0025】
このようにすれば、第2の液滴受け溝内の液体を排出するとき、第2の液滴受け溝の開
口部分が外層により塞がれて閉空間とされ、第5の開孔が大気に開放された状態で、第4の開孔に負圧が作用するため、空気の流れが一方向に整流され、効率よく排出される。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、上記のように構成したから、被吐出媒体をドラムに負圧で保持する方式のものにおいて、ドラムの3層の円筒状層を相対移動させる状態切替手段の切替によって、被吐出媒体の負圧による保持と、液滴受け溝内の液体の、負圧による排出を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(a)(b)(c)はそれぞれ本発明の一実施の形態であるインクジェット式の記録装置の正面図、平面図および側面図である。
【図2】前記インクジェット式の記録装置を示す斜視図である。
【図3】(a)は図1(a)のA−A線における断面図、図3(a)のX部拡大図である。
【図4】図1(a)のB−B線における断面図である。
【図5】図1(a)のC−C線における断面図である。
【図6】図1(b)のD−D線における断面図である。
【図7】図1(b)のE−E線における断面図である。
【図8】図1(b)のF−F線における断面図である。
【図9】印字時における第2の液滴受け溝の模式説明図である。
【図10】液体排出時(空吸引時)における第2の液滴受け溝の模式説明図である。
【図11】印字時における第1の液滴受け溝の模式説明図である。
【図12】液体排出時(空吸引時)における第1の液滴受け溝の状態を示し、(a)は模式説明図、(b)は図12(a)のG−G線における断面図、(c)は図12(b)のH−H線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図面に沿って説明する。
【0029】
図1(a)(b)(c)に示すように、この実施の形態であるインクジェット式の記録装置1(液滴吐出装置)は、回転可能なドラム2が2つのフレーム3,4の間に回転可能に支持され、図示しない搬送装置によって搬送されてきた記録用紙P(被吐出媒体)をドラム2の外周面上に保持し、ドラム2を回転しながら、記録用紙Pに対し、その長手方向が用紙幅サイズのノズル列を持ったラインヘッドであるインクジェットヘッド5(液滴吐出ヘッド)から液滴を吐出するものである。インクジェットヘッド5は、その下面にノズルを有し、ノズルと連通する圧力室を含むインク流路が形成された流路ユニットと、圧力室内のインクに圧力を与えるアクチュエータとが貼り合わされたものであり、インク色ごとにノズルを有している。なお、この実施形態においては、1つのラインヘッドにより構成されているが、各色ごとにラインヘッドを備えた複数のラインヘッドを有していてもよい。
【0030】
このドラム2の回転軸2aには、図2〜図8に示すように、外側から、3層の円筒状層、つまり円筒状の外層6、中間層7および内層8を順に、互いに相対回転可能な積層状体で備え、ドラム2(外層6)の外周面上に、矩形状の記録用紙P(被吐出媒体)を保持する矩形状部分6aを有する。なお、記録用紙Pは、その長辺がドラム2の円周に沿うように保持され、短辺がドラム2の軸方向に平行に保持されてドラム2により搬送される。よって、以下の説明では、長辺方向はドラム2の円周方向とし、短辺方向を搬送方向と直交する軸方向として説明する。
【0031】
矩形状部分6aの周囲は、コーナ部と、短辺部及び長辺部において、連結部6b,6cを介して、それの外側部分と連結され、矩形状部分6aが外層6から分離しないようにされている。連結部6b,6cの上面は外側に山形形状とされ、前記上面に付着した液滴が、後述する液滴受け溝12,15内に落下しやすくなっている。
【0032】
被吐出媒体である記録用紙Pを保持する矩形状部分6aにおいて、ドラム2の外周面に開口する複数の第1の開孔11(記録用紙を保持するための開孔)が、媒体保持状態では、外層6、中間層7および内層8を貫通する貫通孔11a,11b,11c(図5および図8参照)として形成されている。ドラム2は、内層8の内部に負圧状態にある負圧空間Sを有する。この負圧空間Sは、図3に示すように、回転軸2aの外周面において軸中央部に周回凹部として形成されている負圧空間S1と、回転軸2a内の負圧空間S2と、半径方向に延び両空間S1,S2を連通する連通孔S3とにより構成される。負圧空間S2は、図示しない外部の負圧源に接続されている。
【0033】
そして、第1の開孔11を通じて負圧空間Sの負圧をドラム2の外周面上に搬送されてきた記録用紙Pの裏面に作用させて記録用紙Pをドラム2の外周面上に保持する媒体保持状態で、図示しない駆動手段によってドラム2を回転しながら、記録用紙Pに対しインクジェットヘッド5(液滴吐出ヘッド)から液滴を吐出して記録するようになっている。
【0034】
また、記録用紙Pを保持する矩形状部分6aの周囲であって、記録用紙Pの短辺方向に延びる第1の液滴受け溝12が形成されている。この第1の液滴受け溝12は、外層6を貫通する外側溝12aと、この外側溝12aに連通可能で中間層7の途中まで形成される内側溝12bとを有する。そして、図3に示すように、第1の液滴受け溝12(内側溝12b)の底面の短辺方向の一側に回転軸2a内の負圧空間と接続されて負圧が選択的に作用する第2の開孔13が形成されている。そして、記録用紙Pが所定の位置に保持された状態では、第1の液滴受け溝12上に、記録用紙Pの一部(短辺側の縁部)が位置する。また、第1の液滴受け溝12の短辺方向の他側に、大気に開放される第3の開孔14が軸方向に貫通して形成されている。この第3の開孔14は、後で説明する液体排出状態のときも含めて、大気に常時開放されている。この第1の液滴受け溝12は、ふちなし印字の際の液滴を受ける溝や、予備吐出(フラッシング)のための溝として機能し、ドラム2の表面を汚さないように設けられた溝である。
【0035】
また、第1の液滴受け溝12は、第2の開孔13に負圧を作用させたとき、第3の開孔14から第2の開孔13の方向に向かって流れる空気の流れに沿って延びる単数若しくは複数の案内リブ21がその底面に形成されている(図14参照)。なお、液体排出時において案内リブ21は、空気の流れを整流化するとともに、媒体保持状態においては、案内リブ間に発生する毛管力により、液滴受け溝12内に吐出されたインクを案内リブ21間に保持させることができる。
【0036】
外層6,中間層7および内層8は、図3に示すように、媒体保持状態では、一側においては面一で、他側において中間層7が外層6よりも軸方向長さが短く、内層8が中間層7よりも軸方向長さが短く形成されている。内層8には、ボス部8aが設けられている。
【0037】
このような中間層7には、外層6および内層8に対して中間層7を周方向および軸方向に相対移動させる状態切替手段Uが設けられている。この状態切替手段Uは、図1(c)に示すように、中間層7の短辺方向端部内周面に形成される周回溝7aに摺動可能に端部が係合するフレーム3を介して本体側筐体側から設置された可動軸部材31と、外層6の内周ギヤ部に噛み合う第1の駆動ギヤ32(軸部32b)と、中間層7の内周ギヤ部に噛み合う第1の駆動ギヤ33(軸部33b)と、内層8のボス部34aのギヤ部に噛み合う第2の駆動ギヤ34(軸部34b)とを備え、これらは図示しないマイクロコンピュータ
によって駆動制御される。外層6と中間層7との間、中間層7と内層8との間には、中間層7の一方向の回転のみを許容する回転許容手段35,36が設けられている。
【0038】
この状態切替手段Uによって、第2の開孔13への負圧の作用を遮断した状態で第1の開孔11に負圧を作用させ記録用紙Pを保持する媒体保持状態と、第1の開孔11への負圧の作用を遮断した状態で第2の開孔13に負圧を作用させ第1の液滴受け溝12内の液体を外部に排出する液体排出状態とを切替可能に構成されている。
【0039】
媒体保持状態とは、第2の開孔13への負圧の作用を遮断した状態で第1の開孔11に負圧を作用させ記録用紙Pを保持する状態であり、液体排出状態とは、第1の開孔11への負圧の作用を遮断した状態で第2の開孔13に負圧を作用させ第1の液滴受け溝12内の液体を外部に排出する状態をいう。なお、負圧空間Sは、具体的に図示していないが、外部の廃液を保留する廃液容器へと接続されている。
【0040】
この状態切替手段Uは、媒体保持状態から液体排出状態への切り替えのときには、外層6および内層8に対し、中間層7をドラム周方向に相対移動させることにより行われる。これは、内層8および外層6が停止した状態で、第2の駆動ギヤ33を回転することで行われる。
【0041】
これにより、第1の開孔11への負圧の作用を遮断すると共に、中間層7に形成された第1の液滴受け溝12(内側溝12b)の開口部分を外層6によって閉塞し、第3の開孔14が大気に開放された状態で第2の開孔13を、内層8に形成された貫通孔11cに連通させることができる。
【0042】
ドラム2は、さらに、前記外周面上に、図4および図5に示すように、記録用紙Pを保持する矩形状部分6aの周囲であって記録用紙Pの長辺方向に延びる第2の液滴受け溝15が形成されている。この第2の液滴受け溝15も、外層6を貫通する外側溝15aと、この外側溝15aに連通可能で中間層7の途中まで形成される内側溝15bとを有する。図9に示すように、第2の液滴受け溝15(内側溝15b)に負圧空間Sの負圧が選択的に作用する第4の開孔16が第2の液滴受け溝15の一側に形成されている。この第4の開孔16は、軸方向に延び第2の液滴受け溝15(内側溝15b)に連通する第1の孔16aと、この第1の孔16aに連通しかつ半径方法に延び貫通孔11cに選択的に連通される第2の孔16bとを備える。そして、記録用紙が所定の位置に保持された状態では、第2の液滴受け溝15上に、記録用紙Pの一部(長辺側の縁部)が位置する。この図に示す状態は、媒体保持状態で、第4の開孔16への負圧の作用が遮断されている。なお、第2の液滴受け溝15の他側に、大気に開放される第5の開孔(図示せず)が形成されている。
【0043】
第2の液滴受け溝15内の液体を外部に排出する液体排出状態のときには、可動軸部材31を駆動して、図10に示すように、内側溝15bの開口部分を外層6によって閉塞し、第4の開孔16を貫通孔11cの1つに連通させるようにすれば、第5の開孔が大気に開放されているので、第4の開孔16にも負圧を作用させ、負圧空間Sの負圧の作用により、第2の液滴受け溝15内の液体が第4の開孔16を通じて外部に排出される。なお、この第2の液滴受け溝15は、ふちなし印字の際の液滴を受ける溝として機能する。
【0044】
なお、具体的に図示していないが、第1の液滴受け溝12の場合(図14参照)と同様に、第2の液滴受け溝15にも、第4の開孔16に負圧を作用させたとき、第4の開孔16の方向に向かって流れる空気の流れに沿って延びる単数若しくは複数の案内リブが前記底面に形成されている。
【0045】
上述したような実施の形態において、3層構造とするのは、内層8を省略して2層構造にする場合には、第1および第2の液滴受け溝12,15の開口部分を外層6で閉塞できるが、記録用紙保持時にも第1および第2の液滴受け溝12,15に負圧が作用することになり、記録用紙Pを保持する吸引力が低下することになり、外層6を省略して2層構造にする場合には、第1および第2の液滴受け溝12,15の開口部分を閉塞できず、液体を排出するための十分な吸引力が得られないからである。
【0046】
続いて、上記装置の動作について説明する。
(媒体保持状態)
図11に示すように、第1の開孔11が負圧空間Sに連通している状態で、第1の開孔11を通じて負圧空間Sの負圧を記録用紙Pに作用させて記録用紙Pをドラム2の外周面上に保持する。この状態で、ドラム2を回転しながら、記録用紙Pに対しインクジェットヘッド5(液滴吐出ヘッド)から液滴を吐出するようになっている。なお、印字時は中間層7の内層8につながる第4の開孔16は、内層8により塞がれており、内部の負圧空間Sとは連結されていない。
【0047】
印刷時において、ふちなし印字モードが選択されてふちなし印字が行われる場合には、記録用紙Pの周囲の第1および第2の液滴受け溝12,15内に余分なインクが吐出されることになり、ドラム2の表面を汚すことがないため、記録用紙Pも汚れない。また、印刷直前に媒体が保持されている状態においてインクジェットヘッド2の目詰まり等を除去するために予備吐出(フラッシング)させる場合には、インクジェットヘッド5の長手方向(軸方向)と平行に延びる第1の液滴受け溝内に、不良インクが吐出される。なお、予備吐出は、印刷直前だけでなく、定期的な予備吐出をさせようとする場合においては、媒体はドラム2に保持なされてはいないこともあるが、インクジェットヘッド5のノズル面を、インクジェットヘッド5のノズルが配置された長手方向と平行に延びる第1の液滴受け溝12と対向させておけば良い。
【0048】
さらに、媒体保持状態において、液体受け溝12、15は、外側に開口された状態であり、液滴受け溝12、15内には吐出されたインクが保持される。そして、この保持状態で、ドラム2が回転して記録用紙を搬送するため、回転による遠心力により保持されているインクが液滴受け溝12,15内から飛び出すおそれがあるが、本実施形態においては、第1の液滴受け溝12および第2の液滴受け溝15内には、複数の案内リブ21が設けられていることにより、案内リブ21間に働く毛管力によって、液滴受け溝12、15内に吐出されたインクを保持しておくことができる。よって、液滴受け溝12、15が外側に開口された状態においてドラム2が回転してもインクが飛び出さない。
(液体排出状態)
印字後もしくは予備吐出後、各液滴受け溝12、15内に吐出されたインクを排出させる。図12に示すように、中間層7の第1の液滴受け溝12(内側溝12b)の開口部分が、外層6によって塞がれる位置まで、第2の駆動ギヤ33による駆動によって中間層7が所定量回転する。その後、中間層7の底面に設けられた第2の開孔13が、内層8の内部の負圧空間Sに連通する貫通孔11cに連通する位置まで回転し、第1の液滴受け溝12に第2の開孔13を通じて負圧が作用することになる。このように、外層6により液滴受け溝12が塞がれた状態で第2の開孔13を通じて負圧が作用することで、図13に示すように第1の液滴受け溝12内のインクが、第2の開孔13を通じて十分な負圧力をもって外部に排出されることができる。このとき、第3の開孔14が大気に開放されているので、第1の液滴受け溝12内での空気の流れがスムーズな流れとなり、案内リブ21によって空気の流れが整流化される。
【0049】
それから、第2の液滴受け溝15(内側溝15b)は、可動軸部材31によって中間層7がドラム軸方向に所定量スライド移動させられることによって、図10に示すように、
外層6により塞がれ、第4の開孔16が内層8の内部の負圧空間Sに連通する貫通孔11cと連通し、第2の液滴受け溝15に第4の開孔16を通じて負圧が作用することになる。
【0050】
第4の開孔16を通じて負圧が作用することで、図10に示すように、第2の液滴受け溝15内のインクが、一側の第4の開孔16を通じて外部に排出される。このとき、他側の第5の開孔(図示せず)が大気に開放されているので、第2の液滴受け溝15内での空気の流れがスムーズな流れとなり、図示しない案内リブによって空気の流れが整流化される。
【0051】
それから、中間層7をスライドおよび回転させて、図9および図11に示す媒体保持状態とすれば、記録用紙を保持することで印字可能な状態となる。
【0052】
よって、本発明は、被吐出媒体の負圧による保持と、液滴受け溝内の液体の負圧による排出を両立することができる。また、このような第1および第2の液滴受け溝12,15内の廃インクを定期的に排出することで、両液滴受け溝12,15は、常時インクを受けることができる状態が維持される。
【0053】
本発明は、前記実施の形態のほか、次のように変更して実施することも可能である。
【0054】
(i)前記実施の形態では中間層を回転あるいはスライド移動させているが、本発明は、
その限定されるものではなく、結果として相対移動させればよい。
【0055】
(ii)前記実施の形態では、液滴受け溝を、ふちなし印字とフラッシングの両方に用いているが、フラッシング目的の場合だけであれば、第2の液滴受け溝を省略することも可能である。この場合、第1の液滴受け溝は記録用紙の周縁付近に設ける必要はなく、離れた位置に設けることもできる。
【0056】
(iii) 前記実施の形態においては、ドラム2の回転により搬送される記録用紙Pに対して固定されたラインヘッド(インクジェットヘッド)から吐出されるタイプの装置を例示して説明したが、特に限定されるものではなく、ノズルを有した液滴吐出ヘッドが軸方向に往復可能なシリアルヘッド型のプリンタにおいても適用でき、ドラム表面を汚すことなく、ふちなし印字を長期的に達成可能にできる。また、予備吐出においては、たとえば、記録用紙を搬送するドラム領域外にフラッシング用の排出ポートなどを設けなくても、ドラム上の液滴受け溝内に吐出させることができるため、小型化に寄与できる。
【0057】
(iv) 前記実施の形態においては、3層のドラムを例とした説明しているが、3層以上
あっても適用することができる。
【0058】
(v)前記実施の形態では、液滴吐出装置がインクジェット式の記録装置である場合につ
いて説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、着色液を微小液滴として塗布、あるいは導電液を吐出して配線パターンを形成するなどする他の液滴吐出装置などにおいて用いるノズルプレートの製造にも適用することができる。
【0059】
(vi)前記実施の形態では、インク(液体)を吐出させるための駆動部は特に限定されるものではなく、圧電方式、静電気あるいは電気発熱素子など吐出動作をする液滴吐出装置に使用されればよい。
【0060】
(vii)前記実施の形態では、被吐出記録媒体は記録用紙であるが、そのほか、樹脂、布
など各種のものを用いることができ、また吐出する液体としてはインクだけでなく、着色
液、機能液など各種のものを適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 インクジェット式の記録装置(液滴吐出装置)
2 ドラム
5 インクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド)
6 外層
6a 矩形状部分
7 中間層
8 内層
11 第1の開孔
11a,11b,11c 貫通孔
12 第1の液滴受け溝
13 第2の開孔
14 第3の開孔
15 第2の液滴受け溝
16 第4の開孔
21 案内リブ
S 負圧空間
P 記録用紙(被吐出媒体)
U 状態切替手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能なドラムの外周面に複数の第1の開孔が形成され、前記第1の開孔を通じて負圧を被吐出媒体に作用させて前記被吐出媒体を前記ドラム外周面上に保持し、前記ドラムを回転しながら、前記被吐出媒体に対し液滴吐出ヘッドから液滴を吐出する液滴吐出装置であって、
前記ドラムは、外側に少なくとも3層の円筒状層を備え、前記外周面上に、前記被吐出媒体を保持する部分を有するものであり、
前記被吐出媒体を保持する部分の周囲であって前記被吐出媒体の短辺方向または長辺方向に沿って延びる第1の液滴受け溝が、前記外層を貫通して形成され、
前記第1の液滴受け溝に負圧が選択的に作用する第2の開孔が形成され、
前記少なくとも3層の円筒状層を相対移動させる状態切替手段が設けられ、
前記状態切替手段によって、前記第2の開孔への負圧の作用を遮断した状態で前記第1の開孔に負圧を作用させ前記被吐出媒体を保持する媒体保持状態と、前記第1の開孔への負圧の作用を遮断した状態で前記第2の開孔に負圧を作用させ前記第1の液滴受け溝内の液体を外部に排出する液体排出状態とを切替可能に構成されていることを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
前記第1の液滴受け溝は、前記第2の開孔に負圧を作用させたとき、前記第2の開孔の方向に向かって延びる単数若しくは複数の案内リブが前記底面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記ドラムは、その内部に負圧状態にある負圧空間を有するものであり、
前記媒体保持状態では、前記第1の開孔は、前記円筒状層を貫通する貫通孔を通じて、前記負圧空間の負圧が作用する構成とされていることを特徴とする請求項1または2に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記第1の液滴受け溝は、前記外層を貫通して、前記中間層の途中まで形成されると共に、前記第2の開孔が、前記第1の液滴受け溝の一側に形成され、
前記第1の液滴受け溝の他側に、大気に開放される第3の開孔が形成され、
前記液体排出状態のときに、前記第3の開孔が大気に開放されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
前記ドラムは、円筒状層として、外側から、外層、中間層および内層を順に備えるものであり、
前記状態切替手段は、前記媒体保持状態から前記液体排出状態への切り替えのときには、前記外層および内層に対し前記中間層を相対移動させることで、前記第1の開孔への負圧の作用を遮断すると共に、前記中間層に形成された第1の液滴受け溝の開口部分を前記外層によって閉塞し、前記第3の開孔が大気に開放された状態で前記第2の開孔を、前記内層に形成された前記貫通孔に連通させることを特徴とする請求項4に記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
前記ドラムは、さらに、前記外周面上に、前記被吐出媒体を保持する部分の周囲であって前記被吐出媒体の長辺方向または短辺方向に延びる第2の液滴受け溝が、前記外層を貫通して形成され、前記第2の液滴受け溝に負圧が選択的に作用する第4の開孔が形成され

前記状態切替手段は、前記媒体保持状態では前記第4の開孔への負圧の作用を遮断し、前記液体排出状態では、前記第4の開孔に負圧を作用させ前記第2の液滴受け溝内の液体を外部に排出する構成とされていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の液滴吐出装置。
【請求項7】
前記第2の液滴受け溝は、前記第4の開孔に負圧を作用させたとき、前記第4の開孔に向かって延びる単数若しくは複数の案内リブが前記底面に形成されていることを特徴とする請求項6に記載の液滴吐出装置。
【請求項8】
前記第2の液滴受け溝は、前記外層を貫通して、前記中間層の途中まで形成されると共に、前記第4の開孔が、前記第1の液滴受け溝の一側に形成され、
前記第2の液滴受け溝の他側に、大気に開放される第5の開孔が形成され、
前記液体排出状態のときに、前記第5の開孔が大気に開放されていることを特徴とする請求項6または7に記載の液滴吐出装置。
【請求項9】
前記状態切替手段は、前記媒体保持状態から前記液体排出状態への切り替えのときには、前記外層および内層に対し前記中間層を相対移動させることで、前記中間層に形成された第2の液滴受け溝の開口部分を前記外層によって閉塞し、前記第5の開孔を大気に開放した状態で前記第4の開孔を、前記内層に形成された前記貫通孔に連通させることを特徴とする請求項8に記載の液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−234623(P2010−234623A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84625(P2009−84625)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】