説明

液状の樹脂添加剤、並びに、それを用いた直流送電用オレフィン系樹脂絶縁電力ケーブルおよび直流送電用オレフィン系樹脂絶縁電力ケーブル接続部の絶縁体成形用の樹脂組成物の製造方法。

【課題】直流電力ケーブルの絶縁体の電気性能を向上させ、異物混入機会を低減することができる樹脂添加剤を提供。
【解決手段】[A]:常温で液体、または、加温により液状となる架橋剤と、[B]:トリアリルイソシアヌレートと、[C]:ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−(4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド、およびその他のフェニルマレイミド系化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物とからなる、液状の樹脂添加剤であって、[B成分]は[A成分]100質量部に対して5〜200質量部、[C成分]は[A成分]100質量部に対して5〜100質量部を含有する液状の樹脂添加剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流送電用オレフィン系樹脂絶縁電力ケーブル(以下、「直流電力ケーブル」という)の絶縁体、および、直流電力ケーブル接続部の絶縁体成形用の樹脂組成物に使用される液状の樹脂添加剤、および、それを用いた直流電力ケーブルの製造方法、直流電力ケーブル接続部の絶縁体成形用の樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック絶縁電力ケーブルの中でも絶縁層が架橋ポリエチレンからなる架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブルは、電気的特性、機械特性および耐熱性に優れメンテナンスが容易であると種々の利点から、送電用ケーブルの主流を占めている。しかしながら、この架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブルに直流電圧を印加すると、絶縁体層中に空間電荷が蓄積されて、局所的に高電界領域が形成されるため、破壊電圧が著しく低下する問題があった。
【0003】
これらの問題に対し、特許文献1,2には、ポリオレフィンに対して、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、2,2’−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−(4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド、下記式1で表される化合物、下記式2で表される化合物を配合した樹脂組成物を被覆することにより、直流破壊強度に優れる絶縁電力ケーブルが記載されている。
【0004】
【化1】

【0005】
【化2】

【0006】
(式1および2中、nは1以上の整数を表す。)
【0007】
しかし、特許文献1,2に紹介される電力ケーブルにおいては、ポリオレフィンに有機過酸化物架橋剤、老化防止剤、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、2,2’−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−(4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド、上記式1で表される化合物、上記式2で表される化合物を、予めブレンダーを用いて攪拌混合した樹脂組成物を押出機に投入して電力ケーブルを製造するものであり、直接ポリオレフィンを押出機に投入する場合に比べて、撹拌混合工程、添加剤配合、気送、保管、ハンドリング等の過程で異物混入の可能性が高くなり、混入する異物の種類によっては、Imp破壊値等の電気性能を低下させてしまう場合があった。
【0008】
また、特許文献3には、ブレンダーを用いて攪拌混合した樹脂組成物に対して、架橋剤・老化防止剤を液状として直接押出機に注入し、押出機内においてポリオレフィン樹脂に混練する方法が記載されている。この方法によれば、ポリオレフィンは撹拌混合工程等を経ず直接押出機に投入され、液状の添加剤は通過孔の微細なスクリーンメッシュを通過して注入することができるので、前記ブレンダーを用いた撹拌混合による樹脂組成物に比べて異物混入の可能性を低く抑えることができ、良好な電気性能の電力ケーブルを得ることができるとある。しかしながら、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、2,2’−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−(4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド、上記式1で表される化合物、上記式2で表される化合物は、常温で液体、または、加温により液状となる架橋剤に対する溶解度が低く、この方法では、直流電力ケーブルとして十分な電気性能が得られる量を溶解することができなかった。
【0009】
特許文献4には、トリアリルイソシアヌレートを架橋助剤として配合することが記載されており、これらの化合物の配合により、架橋剤の配合量を減らすことができるのは公知である。また、特許文献5には、トリアリルイソシアヌレートとジエン系ポリマーを含有する、直流電力ケーブル絶縁体に用いる樹脂組成物を公開しており、トリアリルイソシアヌレートの配合により、架橋剤配合量を一定量以下に抑えることで、架橋剤分解残留物による空間電荷の形成を抑制することができると記載されている。
しかし、トリアリルイソシアヌレートを架橋助剤として用いた場合でも、電力ケーブル製造において供給される樹脂組成物は、予めブレンダーを用いて攪拌混合した樹脂組成物であり、異物が混入する機会は直接ポリオレフィンを押出機に投入する場合に比べて高くなってしまっていた。
【特許文献1】再公表特許WO02/009123号公報
【特許文献2】特開2006−066110号公報
【特許文献3】特開平09−194645号公報
【特許文献4】特開昭57−049635号公報
【特許文献5】特開2001−325834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
直流電力ケーブルの製造、および、直流電力ケーブル接続部の絶縁体成形用の樹脂組成物を製造するに際して、直流破壊特性向上させ、絶縁体への異物混入機会を低減することが可能な樹脂添加剤を提供する。また、良好な電気性能を有する直流電力ケーブル、および、直流電力ケーブル接続部の絶縁体成形用の樹脂組成物を供給する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、常温で液体、または、加温により液状となる架橋剤に、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、2,2’−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−(4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド、上記式1で表される化合物、上記式2で表される化合物を溶解せしめ、液状の樹脂添加剤とすることを鋭意検討した結果、常温で液体、または、加温により液状となる架橋剤に、トリアリルイソシアヌレートを添加することで、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、2,2’−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−(4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド、上記式1で表される化合物、上記式2で表される化合物の、常温で液体、または、加温により液状となる架橋剤に対する溶解度が飛躍的に高まる効果があることを見出した。
【0012】
一方、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−(4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド、上記式1で表される化合物、上記式2で表される化合物の良溶媒とされる、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンを添加しても、このような効果は得ることはできなかった。
【0013】
本発明は、この知見に基づきなすにいたったものである。
すなわち、本発明は、
(1)[A成分]:常温で液体、または、加温により液状となる架橋剤と、
[B成分]:トリアリルイソシアヌレートと、
[C成分]:ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−(4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド、下記式1で表される化合物、および下記式2で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、
からなる液状の樹脂添加剤であって、[B成分]を[A成分]100質量部に対して5〜200質量部、[C成分]を[A成分]100質量部に対して5〜100質量部を配合してなることを特徴とする液状の樹脂添加剤、
【0014】
【化3】

【0015】
【化4】

【0016】
(式1および2中、nは1以上の整数を表す。)
(2)[A成分]がジクミルパーオキサイドまたはt−ブチルクミルパーオキサイドの単独または混合物からなり、
[B成分]がトリアリルイソシアヌレート、
[C成分]が2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパンまたは式1で表される化合物の単独または混合物からなり、
用いられる温度が50〜70℃であることを特徴とする(1)項記載の液状の樹脂添加剤、
(3)老化防止剤成分として、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノールを、[A成分]100質量部に対して5〜50質量部配合してなることを特徴とする、(1)または(2)項記載の液状の樹脂添加剤、
(4)直流電力ケーブルを製造するに際して、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、(1)、(2)または(3)項記載の液状の樹脂添加剤を、少なくとも1回、通過孔の微細なスクリーンメッシュで濾過してから0.6〜3.0質量部配合し、これを直流電力ケーブル絶縁体層として押出被覆することを特徴とする、直流電力ケーブルの製造方法、
(5)直流電力ケーブル接続部の絶縁体成形用の樹脂組成物を製造するに際して、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、(1)、(2)または(3)項記載の液状の樹脂添加剤を、少なくとも1回、通過孔の微細なスクリーンメッシュで濾過してから0.6〜3.0質量部配合することを特徴とする、直流電力ケーブル接続部の絶縁体成形用の樹脂組成物の製造方法、および
(6)ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して[A成分]が0.5〜2.0質量部、[B成分]が0.05〜1.0質量部、[C成分]が0.05〜0.4質量部となるよう配合することを特徴とする(4)項記載の直流電力ケーブルの製造方法、または、(5)項記載の直流電力ケーブル接続部の絶縁体成形用の樹脂組成物の製造方法
を提供するものである。
本発明の液状の樹脂添加剤は、直流電力ケーブルの絶縁体の電気性能を向上させ、微細な異物の除去が可能な液状の添加剤である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の液状の樹脂添加剤は、微細なスクリーンメッシュで濾過することができ、そのことにより、直流電力ケーブルの製造、および、直流電力ケーブル接続部の絶縁体成形用の樹脂組成物を製造するに際して、絶縁体への異物混入機会を低減することができ、良好な電気性能を有し、長尺でも安定して製造することができる直流電力ケーブル、および、良好な電気性能を有する直流電力ケーブル接続部の絶縁体成形用の樹脂組成物を供給することが可能となる。
また、トリアリルイソシアヌレートは架橋助剤としても作用するため、架橋剤配合量を減らすことができることから、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−(4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド、上記式1で表される化合物、上記式2で表される化合物による直流破壊特性向上の効果に加え、架橋剤分解残留物による空間電荷の形成を抑制する効果が相乗し、さらに優れた電気性能を有する直流電力ケーブル、および、直流電力ケーブル接続部の絶縁体成形用の樹脂組成物を供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、常温で液体または加温により液状となる架橋剤に、トリアリルイソシアヌレートを添加し、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−(4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド、上記式1で表される化合物、または上記式2で表される化合物を、直流電力ケーブルの絶縁体層、および、直流電力ケーブル接続部の絶縁体成形用の樹脂組成物として十分な電気性能が得られる量溶解せしめた液状の樹脂添加剤としたものである。
また、本発明の別の実施形態では、直流電力ケーブルの製造、および、直流電力ケーブル接続部の絶縁体成形用の樹脂組成物を製造するに際して、絶縁体の基体となるポリオレフォン系樹脂に、前記液状の樹脂添加剤を少なくとも1回、通過孔の微細なスクリーンメッシュで濾過してから配合する製造方法である。
【0019】
液状の樹脂添加剤は、[A成分]常温で液体、または、加温により液状となる架橋剤と、[B成分]トリアリルイソシアヌレートと、[C成分]ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−(4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド、上記式1で表される化合物、および上記式2で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、からなる。上記式1中、nの平均値は1.1〜1.2であることが好ましい。また、上記式2中、nの平均値は1.2〜2.0であることが好ましい。なお、この液状の樹脂添加剤には、老化防止剤、スコーチ防止剤などの成分を、液状の樹脂添加剤に溶解する範囲で配合してもよい。
【0020】
[A成分]常温で液体、または、加温により液状となる架橋剤としては、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、1,2−bis−(t−ブチルパーオキシイソプロピルベンゼンなどが挙げられ、常温で液体、または、分解反応を生じない範囲の加温により液状となる、ポリオレフォン系樹脂に対する架橋剤であれば特に限定されるものではない。また、これら架橋剤は1種類または2種類以上のものを混合して用いることもできる。常温で液体、または、加温により液状となる架橋剤は、有機化過酸化物架橋剤であることが好ましい。
【0021】
[B成分]トリアリルイソシアヌレートは、[A成分]100質量部に対し、5〜200質量部、好ましくは20〜100質量部、さらに好ましくは40〜65質量部配合する。[B成分]が少なすぎると、[C成分]を必要量溶解する十分な効果が得られず、多すぎると、絶縁体の基体となるポリオレフォン系樹脂に、前記液状の樹脂添加剤を配合した樹脂組成物を押し出しする際、押出機内でスリップや樹脂焼けが生じてしまう。樹脂焼けが生じると、押出中に樹脂圧力が上昇し、安定した直流電力ケーブル、および、直流電力ケーブル接続部の絶縁体成形用の樹脂組成物製造ができないばかりか、電気性能も低下してしまう。
【0022】
[C成分]ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−(4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド、上記式1で表される化合物、上記式2で表される化合物は、[A成分]100質量部に対し、5〜100質量部、好ましくは5〜20質量部、さらに好ましくは10〜20質量部配合したものである。
これら[C成分]は1種類または2種類以上のものを混合して用いることもでき、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、上記式1で表される化合物は、JIS K 6910に準拠した方法で測定される200℃におけるゲル化時間が10分以上あり、押出時の樹脂焼けが発生し難いという点で好ましい。[C成分]の配合量が少なすぎると、直流電力ケーブル、および、直流電力ケーブル接続部の絶縁体成形用の樹脂組成物として十分な電気性能を得ることができない。[C成分]の配合量が多すぎると、絶縁体の基体となるポリオレフォン系樹脂に、前記液状の樹脂添加剤を配合した樹脂組成物を押し出しする際、押出機内で樹脂焼けが生じてしまう。樹脂焼けが生じると、押出中に樹脂圧力が上昇し、安定した直流電力ケーブル、および、直流電力ケーブル接続部の絶縁体成形用の樹脂組成物製造ができないばかりか、電気性能も低下してしまう。
【0023】
この液状の樹脂添加剤には、老化防止剤、スコーチ防止剤などの成分を、必要に応じ、液状の樹脂添加剤に溶解する範囲で配合することができる。老化防止剤成分としては、一般に使用される老化防止剤を適宜選択して配合することができるが、フェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系の老化防止剤が好ましい。4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノールは、押出時の樹脂組成物の架橋反応抑制効果がある点で好ましい。スコーチ防止剤成分としては、これもまた一般に使用されるスコーチ防止剤を適宜選択して配合することができる。スコーチ防止剤の例としては、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、N−シクロヘキシルチオフタルイミドなどを挙げることができる。
【0024】
本発明の液状の樹脂添加剤は、例えば、以下のように調製することができる。まず[A成分]架橋剤が常温で固体であればこれを加温して液状とする。加温は架橋剤が分解反応を生じない範囲で行う。常温で液体の架橋剤であっても、加温することにより[C成分]の溶解度を高めることができるため、分解反応を生じない範囲で加温を行うのが好ましい。加温温度は、架橋剤の種類によって適宜適切な温度選択すれば良いが、分解反応の進行、長時間加熱保管による架橋効率の低下等を考慮すると、80℃以下とするのが好ましく、50〜60℃がさらに好ましい。加温手段は特に制限は無く、任意の加温手段を用いることができる。
【0025】
続いて、液状の[A成分]に[B成分]を所定量秤量してよく混合し、この[A成分]と[B成分]の混合溶液に対して[C成分]を所定量秤量して加えて溶解する。この混合・溶解手段としては、それに制限されるものではないが、例えば温水加熱ジャケットを備えたプラネタリーミキサー等にて溶解・混合するといった手段を用いることができる。この液状の樹脂添加剤には、老化防止剤、スコーチ防止剤といった添加剤を、液状の樹脂添加剤に溶解する範囲でさらに配合することができる。
【0026】
こうしてできた[A成分][B成分][C成分]を含む液状の樹脂添加剤は、少なくとも1回、通過孔の微細なスクリーンメッシュで濾過することによって、微細な異物を容易に除去することができる。本発明において通過孔の微細なスクリーンメッシュとは、孔の大きさが、好ましくは20μm以下であり、さらに好ましくは10〜20μmである。
【0027】
直流電力ケーブルの製造、および、直流電力ケーブル接続部の絶縁体成形用の樹脂組成物を製造するにおいて、絶縁体を形成する基体樹脂としてポリオレフィン系樹脂を使用する。ポリオレフィン系樹脂とは、ポリエチレン、エチレンを主成分とした共重合体をいう。ポリエチレンの具体例としては、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどが挙げられ、共重合体としては、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレンアクリル酸エチル共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。これら基体樹脂は、単独でも2種以上の混合物であってもよい。この中で特に好ましいのは、低密度ポリエチレンである。絶縁体はこれら基体樹脂に、微細なスクリーンメッシュにより濾過処理を行った液状の樹脂添加剤を配合して形成される。
【0028】
液状の樹脂添加剤を配合する方法としては、(a)押出機内等で溶融状態にある基体樹脂に、微細なスクリーンメッシュを通過して直接注入、混練する方法、(b)微細なスクリーンメッシュを通過してから基体樹脂ペレットに添加し、その後必要に応じて溶融混練する方法、などが挙げられる。基体樹脂に添加する直前に、液状の樹脂添加剤を微細なスクリーンメッシュを通過させて供給するのが、異物混入機会が少なくなるという点で好ましい。
一般的な直流電力ケーブルは、電力ケーブルの導体の外周に内部半導電層を設け、さらにその外周に、微細なスクリーンメッシュを通過させた液状の樹脂添加剤を配合したポリオレフィン系樹脂を押出被覆し、絶縁体層を形成し、その外周に外部半導電層を設けた後、続く架橋工程において加圧下にて過熱・架橋して製造を行う。但し、直流電力ケーブルの構成・構造は、その品種・電圧階級などにより、この限りではない。
【0029】
直流電力ケーブル接続部の絶縁体成形用の樹脂組成物は、ブロック、テープまたはペレット等の供給形態が想定される。直流電力ケーブル接続部の絶縁体成形用の樹脂組成物ペレットは、基体樹脂ペレットに微細なスクリーンメッシュを通過して液状の樹脂添加剤を添加し、引き続き撹拌混合を行って製造される。ブロックまたはテープは、微細なスクリーンメッシュを通過させた液状の樹脂添加剤を配合したポリオレフィン系樹脂を押出成形して製造される。ブロック、テープまたはペレットとして供給された直流電力ケーブル接続部の絶縁体成形用の樹脂組成物は、それぞれ、ブロックモールド、テープ巻きモールド、押出モールド等の工法を経て、目的とする直流電力ケーブル接続部とすることができる。
【0030】
本発明の直流電力ケーブルまたは直流電力ケーブル接続部の絶縁体成形用の樹脂組成物の製造方法においては、上記の液状の樹脂添加剤は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し、0.6〜3.0質量部、好ましくは1.0〜2.0質量部、さらに好ましくは1.4〜1.6質量部の範囲で配合するが、[A成分][B成分][C成分]の構成比率に応じて、適宜配合量を決定することが好ましい。ポリオレフィン系樹脂に対する各A〜Cの各成分の配合量について、以下にその指標を示す。
【0031】
[A成分]
ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し、0.5〜2.0質量部となることが好ましく、0.5〜1.0質量部であることがさらに好ましい。但し、その配合量が少な過ぎると、架橋が十分に行われず、絶縁層の機械特性、耐熱性が低下し、高温での電気特性に問題が生じる。また、多過ぎると、架橋分解残留物が生成し、空間電荷の形成を増大させ、破壊電圧を低下させる。また、樹脂組成物を押出成形する際に焼けが発生し、押出特性や電気特性が低下する。
【0032】
[B成分]
ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し、0.05〜1.0質量部となることが好ましく、0.2〜0.5質量部であることがさらに好ましい。その配合量が少な過ぎると、架橋が十分に行われず、絶縁層の機械特性、耐熱性が低下し、高温での電気特性に問題が生じる。また、多過ぎると、樹脂組成物を押出成形する際に焼けが発生し、押出特性や電気特性が低下する。
【0033】
[C成分]
ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し、0.05〜0.4質量部となることが好ましく、0.05〜0.25質量部であることがさらに好ましい。その配合量が少な過ぎると、直流破壊特性を向上する十分な効果が発揮されない。また、その配合量が多過ぎると、樹脂組成物を押出成形する際に焼けが発生し、押出特性や電気特性が低下する。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
実施例1〜9、比較例1〜8
<液状の樹脂添加剤の調製>
[A成分]、[B成分]、[C成分]を表1および2に示す質量の割合で秤量し、まず[A成分]を60℃まで加温した後、これに[B成分]を加えて均一になるよう、よく撹拌混合を行った。この混合溶液にさらに[C成分]を加えて溶解させた。実施例1〜8、比較例1〜6にはこの液状の樹脂添加剤に老化防止剤 4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノールを添加して、これも溶解させて、液状の樹脂添加剤を得た。一方、実施例9にはこの液状の樹脂添加剤に、常温で液体である老化防止剤 ビス[2−メチル−4−{3−N−アルキル(炭素数12または14)チオプロピニルオキシ}−5−t−ブチルフェニル]スルファイドを添加し、これを撹拌混合により均一な液体として、液状の樹脂添加剤を得た。また、表1および2において、B,C成分のA成分100質量部に対する質量部を( )書きで示した。
【0036】
<直流電力ケーブルの製造>
[実施例1〜8、比較例1〜6、8]
低密度ポリエチレンのペレットを押出機で溶融状態とし、これに、押出機シリンダー途中に穿設した注入孔より、前記<液状の樹脂添加剤の調製>の通りに調製した液状の樹脂添加剤を注入して混練し、この溶融混練された樹脂組成物を、内部半導電層、外部半導電層用の樹脂組成物(エチレン−酢酸ビニル共重合体、架橋剤、カーボンブラック、酸化防止剤から構成される)と共に導体の外周に押出被覆して絶縁体層を形成し、引き続き、この被覆ケーブルを加熱架橋ゾーンに導き、圧力10kg/cmの窒素雰囲気中で、温度280℃の加熱下で加圧加熱を行い、配合した[A成分]を開始剤とするラジカル反応により架橋を進行させた。次いで、常法により、金属遮蔽層および防食層を設け、電力ケーブルを製造した。電力ケーブルの導体は断面積200mm、内部半導電層の厚さは1.0mm、液状の樹脂添加剤を配合した樹脂組成物からなる絶縁層は厚さ3.5mm、さらにその上の外部半導電層は厚さ0.7mmとした。
なお、押出機シリンダー途中に穿設した注入孔には、通過孔が20μmのスクリーンメッシュを装着し、液状の樹脂添加剤はこれを通過して注入した。
【0037】
[実施例9]
実施例9で用いた老化防止剤は常温で液体の老化防止剤であるため、これを液状の樹脂添加剤に配合することなく、押出機シリンダー途中に穿設したもう1つの注入孔より注入した。こちらの注入孔にも通過孔が20μmのスクリーンメッシュを装着し、老化防止剤に混入した異物の除去を行った。押出機内において、ポリエチレン、液状の樹脂添加剤、老化防止剤を溶融混練し、上例と同様に直流電力ケーブル絶縁体層として押出被覆を行った。
【0038】
[比較例7]
[A成分][B成分][C成分]とも加熱せず、従って、通過孔の微細なスクリーンメッシュを通過させることなく、ポリエチレンのペレットに各成分をそのまま所定量配合、ドライブレンドしたものを押出機に供給し、上例と同様に直流電力ケーブルを製造した。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
LDPE:宇部興産株式会社製 UBEC540
A成分
A(1);ジクミルパーオキサイド
A(2);t−ブチルクミルパーオキサイド
B成分
B(1);トリアリルイソシアヌレート
C成分
C(1);Anilix−MI(三井化学ファイン製、上記式1で表される化合物(nの平均値:1.1〜1.2))
C(2);2,2’−ビス[4−(4−ビスマレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン
C(3);N,N’−(4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド
老化防止剤
D(1);4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)
D(2);ビス[2−メチル−4−{3−n−アルキル(C12またはC14)チオプロピオニルオキシ}−5−t−ブチルフェニル]スルフィド
【0042】
<直流電力ケーブルの評価>
下記(1)〜(5)の項目について評価を行った。評価結果を表−3,4に一覧にして示す。
(1)直流破壊特性
有効長8mの電力ケーブルを用意し、導体温度が90℃になる様に通電しながら、スタート電圧を−60kVとし、−20kV/10分のステップアップで昇圧し、破壊電圧を測定した。
(2)Imp破壊特性
有効長8mの電力ケーブルを用意し、導体温度が90℃になる様に通電しながら、スタート電圧を−50kV/3回とし、−20kV/3回のステップアップで昇圧し、破壊電圧を測定した。
(3)押出特性
直流電力ケーブルを製造するに当たり、絶縁層押出機スクリュー先端に装着したメッシュ部分で押出樹脂圧力を測定し、押出開始から5時間経過した時点での樹脂圧力の上昇傾向から押出特性を評価した。評価の基準は以下の通りである。また、押出機中でスリップが生じて安定した押出ができなかったものには×を表示した。
−:樹脂圧力の上昇はほとんど認められない。
+:樹脂圧力の上昇は認められるが、長尺ケーブル製造上全く問題ない。
++:樹脂圧力の上昇は認められるが、長尺ケーブル製造が可能である。
+++:樹脂圧上昇が認められ、長尺ケーブルの製造が困難である。
(4)架橋度
直流電力ケーブル後口側における絶縁体層中層から厚さ1mmの形状の試験片約2gを採取し、JIS C 3005に準拠した試験方法にて架橋度を測定した。測定値が75%以上のものを○、75%未満のものを×として表示した。
(5)液状の樹脂添加剤 注入量の安定性
直流電力ケーブルを製造するに当たり、液状の樹脂添加剤の1分当たりの注入量を常時注入量が安定せず、直流電力ケーブルを製造できなかったものには×、注入量が安定していたものには○を表示した。
【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【0045】
表3〜4により以下のことが明らかとなった。
比較例1では、[C成分]の配合量が少ないため、十分な直流破壊特性が得られていない。
比較例2では、[C成分]の配合量が多いため、押出機内にて樹脂焼けが発生し、大きな樹脂圧力上昇が認められた他、Imp破壊特性が低下している。
比較例3では、[A成分][B成分]に対する[C成分]の溶解が不完全なため通過孔20μmのスクリーンメッシュに目詰が生じ、注入量が連続的に減少してしまい、評価に値する直流電力ケーブルを製造するに至らなかった。
比較例4では、[B成分]の配合量が多いため、押出中にスリップが発生し、安定した押出ができず、評価に値する直流電力ケーブルを製造するに至らなかった。
比較例5では、[A成分]の配合量が多いため、押出機内にて樹脂焼けが発生し、大きな樹脂圧力上昇が認められた他、Imp破壊特性が低下している。
比較例6では、[A成分]の配合量が少ないため、十分な架橋度を得ることができなかった。
比較例7では、ドライブンレドにより添加剤を配合したため、添加剤に含まれる微細な異物、混合工程における混入異物の影響により、Imp破壊特性が実施例に比べて低い結果となった。
比較例8では、液状の樹脂添加剤中の[C成分]配合量が多いため、[C成分]の溶解が不完全となり、通過孔20μmのスクリーンメッシュに目詰が生じ、注入量が連続的に減少してしまい、評価に値する直流電力ケーブルを製造するに至らなかった。
【0046】
一方、実施例1〜9においては、液状の樹脂添加剤、老化防止剤は全て通過孔20μmのスクリーンメッシュを通過して供給しており、且つ、[A成分]をポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.5〜2.0質量部、[B成分]をポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.05〜1.0質量部、[C成分]をポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.05〜0.4質量部となるよう、配合してあることから、全ての項目において優れた特性を発揮している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
[A成分]:常温で液体、または、加温により液状となる架橋剤と、
[B成分]:トリアリルイソシアヌレートと、
[C成分]:ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、2,2’−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−(4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド、下記式1で表される化合物、および下記式2で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、
からなる液状の樹脂添加剤であって、[B成分]を[A成分]100質量部に対して5〜200質量部、[C成分]を[A成分]100質量部に対して5〜100質量部を配合してなることを特徴とする液状の樹脂添加剤。
【化1】

【化2】

(式1および2中、nは1以上の整数を表す。)
【請求項2】
[A成分]がジクミルパーオキサイドまたはt−ブチルクミルパーオキサイドの単独または混合物からなり、
[B成分]がトリアリルイソシアヌレート、
[C成分]が2,2’−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパンまたは式1で表される化合物の単独または混合物からなり、
用いられる温度が50〜70℃であることを特徴とする請求項1記載の液状の樹脂添加剤。
【請求項3】
老化防止剤成分として、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノールを、[A成分]100質量部に対して5〜50質量部配合してなることを特徴とする、請求項1または2記載の液状の樹脂添加剤。
【請求項4】
直流送電用オレフィン系樹脂絶縁電力ケーブルを製造するに際して、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、請求項1、2または3記載の液状の樹脂添加剤を、少なくとも1回、通過孔の微細なスクリーンメッシュで濾過してから0.6〜3.0質量部配合し、これを直流電力ケーブル絶縁体層として押出被覆することを特徴とする、直流送電用オレフィン系樹脂絶縁電力ケーブルの製造方法。
【請求項5】
直流送電用オレフィン系樹脂絶縁電力ケーブル接続部の絶縁体成形用の樹脂組成物を製造するに際して、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、請求項1、2または3記載の液状の樹脂添加剤を、少なくとも1回、通過孔の微細なスクリーンメッシュで濾過してから0.6〜3.0質量部配合することを特徴とする、直流送電用オレフィン系樹脂絶縁電力ケーブル接続部の絶縁体成形用の樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して[A成分]が0.5〜2.0質量部、[B成分]が0.05〜1.0質量部、[C成分]が0.05〜0.4質量部となるよう配合することを特徴とする請求項4の直流送電用オレフィン系樹脂絶縁電力ケーブルの製造方法、または、請求項5記載の直流送電用オレフィン系樹脂絶縁電力ケーブル接続部の絶縁体成形用の樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2009−114267(P2009−114267A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286757(P2007−286757)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(502308387)株式会社ビスキャス (205)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】